説明

液体噴射装置

【課題】テーブルの温調を行う加熱機構と冷却機構として安価な装置を備えることにより、テーブルの温度が目標温度に集束する時間を短縮することのできる液体噴射装置を提供する。
【解決手段】液体噴射装置は、支持体上に液体を吐出する液滴吐出ヘッドと、液滴吐出ヘッドの近傍に対向配置され支持体を支持するテーブル19と、テーブルに接続された加熱装置および冷却装置18を有し、テーブルの温度調整を行うテーブル温調機構6と、液滴吐出ヘッドおよびテーブル温調機構に駆動信号を供給する制御装置8と、を備え、制御装置は、テーブルの温度が設定温度に対して相対的に高い場合には冷却装置を駆動させ、テーブルの温度が設定温度に対して相対的に低い場合には加熱装置を駆動させることにより、テーブルの温度が設定温度になるよう温度調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、普通紙を代表とする様々な記録媒体に対して印刷可能な記録装置として、インクジェット記録装置(液滴吐出装置)が知られている。インクジェット記録装置は、記録ヘッド(吐出ヘッド)の記録媒体に対向する面に設けられた吐出口(ノズル)から、色材であるカラーインクや、アンダーコート、オーバーコートを行うためのクリアインクを直接記録媒体に対して吐出し、記録媒体上に着弾させて浸透もしくは定着させることにより、記録媒体上に画像等を形成する装置である。
【0003】
このようなインクジェット記録装置を用い、インク吸収性を有さない樹脂や金属等の材料からなる記録媒体に対して、画像等の記録を行う場合がある。その場合、このような記録媒体に対してインクを定着させるため、例えば紫外線照射によって硬化する光硬化型インクが用いられる。この光硬化型インクを用いるインクジェット記録装置では、インクを硬化させるための紫外線照射装置を備えており、記録媒体に画像を記録する際、インクを記録媒体に着弾させた直後に、インクの硬化が可能な条件で紫外線照射装置から紫外線を照射し、インクを硬化定着させるようにしている。
【0004】
このような光硬化型インクで記録媒体に記録を行う記録装置では、印刷物の形成精度や印刷速度の向上等を図るべく、被記録媒体を支持するテーブル等に加熱装置を設けたものが提案されている。
また、加熱装置によりテーブルを加熱することで、その近傍に対向配置された液滴吐出ヘッド内の光硬化型インクの温度が低下するのを防止している。これにより、光硬化型インクの粘度の上昇が抑えられるとともにその流動性が高められ、液滴吐出ヘッドからの吐出性が良好になるように調整される。
【0005】
加熱装置に連結された温調コントローラーは、テーブルの温度を設定温度に昇温させる際、設定温度付近まで昇温させた後、この設定温度付近でオーバーシュートしながら設定温度へ徐々に近づける制御を行う。つまり、テーブルを設定温度以上に昇温させた後に自然冷却させ、その後再び昇温させるという制御を繰り返しながら、徐々に設定温度に近づけていく。特に熱容量の大きなテーブルを加熱する場合にこのような制御が行われる。熱容量の大きなテーブルは、一旦、設定温度以上に昇温されてしまうと自然冷却に時間がかかってしまう。
【0006】
そこで、ワークを支持するテーブルを加熱する加熱装置と、オーバーシュートにより設定温度以上まで昇温されたテーブルの自然冷却を補足する冷却装置とを備えて技術がいくつか提案されている(例えば、特許文献1〜3)。
特許文献1,2には、加熱用ペルチェ素子と、冷却用ペルチェ素子とを用いた構成が開示されている。特許文献3には、冷却媒体として冷却ガスを用いて任意の温度勾配が得られるよう制御する方式が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−288427号公報
【特許文献2】特開2006−108456号公報
【特許文献3】特開平10−144655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1,2の構成の場合は大型ワークへの対応が難しい。また、特許文献3の構成の場合は、冷却機構のコストが大幅に増加してしまうという問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み成されたものであって、テーブルの温調を行う加熱機構と冷却機構として安価な装置を備えることにより、テーブルの温度が目標温度に集束する時間を短縮することのできる液体噴射装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の液体噴射装置は、支持体上に液体を吐出する液滴吐出ヘッドと、前記液滴吐出ヘッドに対向配置され前記支持体を支持するテーブルと、前記テーブルに接続された加熱装置および冷却装置を有し、前記テーブルの温度調整を行うテーブル温調機構と、前記液滴吐出ヘッドおよび前記テーブル温調機構に駆動信号を供給する制御装置と、を備え、前記制御装置は、前記テーブルの温度が設定温度に対して相対的に高い場合には前記冷却装置を駆動させ、前記テーブルの温度が設定温度に対して相対的に低い場合には前記加熱装置を駆動させることにより、前記テーブルの温度が設定温度になるよう調整することを特徴とする。
【0011】
これによれば、加熱装置により設定温度よりも高く加熱されたテーブルを冷却装置によって強制的に冷却させることができるので、テーブルの温調時間を短縮することができる。このように、自然冷却させるのではなく冷却を補足することで生産効率を高めることができる。
【0012】
また、前記冷却装置が、ファン機構あるいはエアーブロー機構である構成としてもよい。
これによれば、ファン機構あるいはエアーブロー機構を用いることで安価に冷却装置を設置することができ、コスト増加を最小限に抑えることができる。
【0013】
また、前記加熱装置が、前記テーブルの裏面側を覆うフィルムヒーターである構成としてもよい。
これによれば、フィルムヒーターを用いることにより、テーブル全域を均一に加熱することができ、温度ムラが生じるのを抑制することができる。
【0014】
また、前記冷却装置が、前記支持体を支持する支持面から裏面側に貫通する複数の吸引孔を介して前記支持面上に配置された前記支持体を吸引する機能を有する構成としてもよい。
これによれば、冷却装置により吸引孔を介して支持面上の空気を吸引することによってテーブル上に載置された支持体を支持面に吸着保持させることができる。これにより、支持体に対して安定して描画処理を行うことができる。また、支持面上に支持体が載置されていない状態で冷却装置を駆動させることにより、冷却装置からの冷気を吸引孔を介して外部へ逃がすようにしてテーブルを冷却させることができる。
【0015】
また、前記テーブルが、前記支持体を支持する支持面を天面とする複数の空間部と、前記複数の空間部を区画する隔壁とによるハニカム構造をなしており、前記隔壁に形成された連通孔を介して前記複数の空間部どうしが連通し、前記複数の空間部の少なくとも一部が外部に連通している構成としてもよい。
これによれば、テーブルがハニカム構造を有しているので、空間部に導入された冷気によってテーブルを効率よく冷却させることができる。
【0016】
また、前記複数の空間部の少なくとも一部と外部とを連通させる開閉バルブが設けられている構成としてもよい。
これによれば、開閉バルブを開いた状態で冷却装置を駆動させることにより、複数の空間部に外気が導入されるので、テーブルの支持面上に支持体が載置された状態であってもテーブルを冷却させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明にかかる液体噴射装置の概略構成を示す斜視図。
【図2】液滴吐出ヘッドの概略構成図、(a)は液滴吐出ヘッド9をワークステージ6側から見た平面図、(b)は液滴吐出ヘッド9の部分斜視図、(c)は液滴吐出ヘッド9の1ノズル分の部分断面図。
【図3】ワークステージおよびステージ移動機構の概略構成を示す図。
【図4】テーブルの支持状態を示す平面図。
【図5】テーブルの概略構成を示す断面図。
【図6】プラテンの概略構成を示す平面図。
【図7】圧力室形成部のハニカム構造を示す図。
【図8】冷却吸引機構を駆動した際の作用を示す断面図。
【図9】テーブルの温度変化を示すグラフであって、(a)は冷却機構なしの場合、(b)は冷却機構ありの場合をそれぞれ示す。
【図10】軸流ファンの数を増加した場合の模式図。
【図11】液体噴射装置によって製造される印刷物の一例を示す斜視図。
【図12】(a)は、変形例1におけるテーブルおよび冷却吸引機構の概略構成を示す図。
【図13】変形例2におけるテーブルおよび冷却吸引機構の概略構成を示す図。
【図14】変形例3におけるテーブルおよび冷却吸引機構の概略構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態につき、図面を参照して説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0019】
図1は、本発明にかかる液体噴射装置の概略構成を示す斜視図である。
液体噴射装置1は、支持体(被支持媒体)P上に光硬化型インクを吐出し、吐出した光硬化型インクに光照射を行って該光硬化型インクを硬化させ、支持体P上に文字・数字や各種の絵柄などを描画するものである。
【0020】
この液体噴射装置1は、基台2と、基台2上の支持体Pを図1中のX方向に搬送する搬送装置3と、光硬化型インクを吐出する液滴吐出ヘッド(図示せず)と、該液滴吐出ヘッドを複数備えてなるキャリッジ4と、このキャリッジ4をX方向と直交するY方向に移動させる送り装置5と、を具備して構成されている。なお、本実施形態では、搬送装置3及び送り装置5により、支持体Pとキャリッジ4とを、第1方向(X方向)及び該第1方向に直交する第2方向(Y方向)にそれぞれ相対移動させる移動装置が構成されている。
【0021】
図2は、液滴吐出ヘッド9の概略構成図である。図2(a)は液滴吐出ヘッド9をワークステージ6側から見た平面図、図2(b)は液滴吐出ヘッド9の部分斜視図、図2(c)は液滴吐出ヘッド9の1ノズル分の部分断面図である。
【0022】
図2(a)に示すように、液滴吐出ヘッド9は、複数(例えば180個)のノズルNをY方向(第2方向)と交差する方向、本実施形態ではX方向(第1方向)に配列しており、これら複数のノズルNによってノズル列NAを形成している。なお、図では1列分のノズルを示したが、液滴吐出ヘッド9に設けるノズル数及びノズル列数は任意に変更可能であり、例えばX方向に配列したノズル列NAをY方向に複数列設けてもよい。
【0023】
また、図2(b)に示すように、チューブ10と連結される材料供給孔20aが設けられた振動板20と、ノズルNが設けられたノズルプレート21と、振動板20とノズルプレート21との間に設けられたリザーバー(液溜まり)22と、複数の隔壁23と、複数のキャビティー(液室)24とを備えて構成されている。ノズルプレート21の表面(底面)は、複数のノズルNを形成したノズル面21aとなっている。振動板20上には、各ノズルNに対応して圧電素子(駆動素子)PZが配置されている。圧電素子PZは、例えばピエゾ素子からなっている。
【0024】
リザーバー22には、材料供給孔20aを介して供給される光硬化型インクが充填されるようになっている。キャビティー24は、振動板20と、ノズルプレート21と、1対の隔壁23とによって囲まれるようにして形成されおり、各ノズルNに対して1対1に対応して設けられている。また、各キャビティー24には、一対の隔壁23の間に設けられた供給口24aを介して、リザーバー22から光硬化型インクが導入されるようになっている。
【0025】
また、図2(c)に示すように、圧電素子PZは、圧電材料25を一対の電極26で挟持したもので、一対の電極26に駆動信号が印加されることにより、圧電材料25が収縮するように構成されたものである。したがって、このような圧電素子PZが配置されている振動板20は、圧電素子PZと一体になって同時に外側(キャビティー24の反対側)へ撓曲するようになっており、これによってキャビティー24の容積が増大するようになっている。
【0026】
よって、キャビティー24内に増大した容積分に相当する光硬化型インクが、液溜まり22から供給口24aを介して流入する。また、このような状態から圧電素子PZへの駆動信号の印加が停止すると、圧電素子PZと振動板20とは共に元の形状に戻り、キャビティー24も元の容積に戻る。これにより、キャビティー24内の光硬化型インクの圧力が上昇し、ノズルNから支持体Pに向けて光硬化型インクの液滴Lが吐出されるようになっている。
【0027】
図3は、ワークステージおよびステージ移動機構の概略構成を示す図である。図4は、テーブルの支持状態を示す平面図である。
図3および図4に示すように、搬送装置3は、基台2上に設けられたワークステージ(テーブル温調機構)6及びステージ移動機構7を備えて構成されたものである。
ワークステージ6は、支持体Pが載置されるテーブル19と、テーブル19上に支持体Pを吸着保持させる冷却吸引機構(冷却装置)18と、ステージ移動機構7上でテーブルを支持する支持機構11とを備え、ステージ移動機構7によって基台2上をX方向に移動可能に設けられたものである。
【0028】
支持機構11は、テーブル19の略中央に配置され、テーブル19の裏面側に配置された支持部12と、ステージ移動機構7に連結される連結部13との間に配置された回転軸14によって、テーブル19をXY平面内において回転可能に支持している。
なお、本実施形態においては、テーブル19が回転軸14上の支持板15に立設された複数(4つ)の支持軸に16よって支持されているが、支持部12の構成はこれに限られない。
【0029】
ステージ移動機構7は、ボールネジまたはリニアガイド等の軸受け機構を備え、制御装置8から入力されるワークステージ6のX座標を示すステージ位置制御信号に基づいて、ワークステージ6をX方向に移動させるよう構成されている。
【0030】
冷却吸引機構18は、テーブル19の裏面19b側であってワークステージ6とは干渉しない位置に設置され、製造工程において液体噴射装置1の上流側に設置された媒体搬送装置(図示せず)から搬送される支持体PをXY平面(テーブル19の表面19a)上に吸着保持させるものである。本実施形態の冷却吸引機構18は軸流ファン18Aを有して構成され、その数や設置位置は適宜設定される。
【0031】
図5は、テーブルの概略構成を示す断面図である。図6は、プラテンの概略構成を示す平面図である。図7は、圧力室形成部のハニカム構造を示す図である。
図5および図6に示すように、テーブル19は、支持体Pをその裏面から支持するもので、支持体Pを支持するプラテン35と、プラテン35の裏面側に配置された圧力室形成部27と、フィルムヒーター(加熱装置)31とを備えている。
【0032】
プラテン35は、熱伝導率が比較的大きい材料を用いて構成され、相対的な熱量が大きくなるよう構成されている。ここでは、厚さ15〜20mmのアルミニウム板によって構成され、平面視における大きさが縦1000mm×横1100mmとされている。プラテン35には、支持面25aに開口するとともにその厚さ方向を貫通する、内径数mm程度の多数の貫通孔からなる吸引孔36が略全面に亘って形成されている。具体的には、内径2〜3mmの吸引孔36がX方向およびY方向のそれぞれ列状に配列形成されている。
【0033】
圧力室形成部27は、プラテン35を天面とする密閉空間を形成するものであって、複数の圧力室(空間部)28を有している。圧力室形成部27は、例えばハニカム構造とされており(図7)、各圧力室28が隔壁29に形成された複数の連通孔30を介して連通している。このため、圧力室形成部27の底面または側面に連結された冷却吸引機構18の作用により、複数の連通孔30を介して各圧力室28内の空気が吸引されて負圧とされる。これにより、プラテン35に形成された多数の吸引孔36を介して外気が吸引されて、プラテン35上に載置された支持体Pを支持面25aに吸着保持させることができる。
【0034】
なお、本実施形態では、隣り合う全ての圧力室28(周囲の6つの圧力室28)に連通するように、1つの圧力室28ごとに6つの連通孔30を設けたがこれに限られることはなく、少なくとも隣り合う2つの圧力室28に連通するように連通孔30を設けるようにする。
【0035】
フィルムヒーター31は、圧力室形成部27の裏面側であって、冷却吸引機構18および図5においては不図示のワークステージ6(図3)の設置領域を除いた露出部分を埋めるようにして設けられている。このフィルムヒーター31は、テーブル19を所定の温度に加熱するとともに当該温度(設定温度)に保持すべく、テーブル19に接続された温度センサー32の検出結果に基づいて制御装置8(図1)によりその駆動が制御される。フィルムヒーター31によってプラテン35全域を略均一に加熱することができ、局部的な温度上昇による加熱ムラが抑えられた構成となっている。本実施形態におけるテーブル19の目標設定温度は40℃である。
【0036】
制御装置8は、フィルムヒーター31からの温度データに基づいてフィルムヒーター31の出力制御をリアルタイムで行う。または、フィルムヒーター31の駆動を停止して冷却吸引機構18の駆動を開始する。このようにしてテーブル19全域の温度を調整する。
【0037】
上述したように、本実施形態の冷却吸引機構18は、軸流ファン18Aの回転方向を正転させることによって圧力室28内の空間を減圧させることが可能であり、テーブル19上に支持体Pが載置されている場合には、当該支持体Pをプラテン35の支持面35aに吸着させることができる。一方、軸流ファン18Aの回転方向を逆転させることによって、圧力室28内に外気を供給することが可能であり、この結果、フィルムヒーター31によって昇温されたプラテン35を冷却させることができる。
【0038】
次に、テーブルの温調方法について述べる。
図8は、冷却吸引機構を駆動した際の作用を示す断面図である。
図9は、テーブルの温度変化を示すグラフであって、(a)は冷却機構なしの場合、(b)は冷却機構ありの場合をそれぞれ示す。
図8に示すように、テーブル19を上記した設定温度にするためには、まず、フィルムヒーター31によって圧力室形成部27を加熱してプラテン35全体を昇温させる。アルミニウムによって構成された圧力室形成部27およびプラテン35は熱容量が小さく熱伝導率が高い。このため、フィルムヒーター31が駆動されるとテーブル19は直ぐに昇温される。テーブル19の温度変動は温度センサー32を利用して常時監視され、テーブル19の温度が設定温度を越えると、制御装置8は、フィルムヒーター31の駆動を停止して、冷却吸引機構18の駆動を開始する。軸流ファン18Aの送風作用によって外気が圧力室形成部27内に送り込まれる。圧力室形成部27内に送り込まれた冷気は、隔壁29に形成された連通孔30を介して各圧力室28内に流入し、その後、各圧力室28に連通する複数の吸引孔36を介してプラテン35の外側へと流出することになる。各圧力室28内に導入された冷気によって隔壁29全体が冷却され、さらにプラテン35全体がその裏面側から冷却されて、テーブル19全体の温度が急速に低下する。
【0039】
そして、テーブル19の温度が設定温度以下になると、制御装置8は、冷却吸引機構18に駆動を停止して、再びフィルムヒーター31を始動させることでテーブル19の加熱を行う。このように、設定温度付近でオーバーシュートさせながら目標温度まで徐々に近づけるように、フィルムヒーター31および冷却吸引機構18の駆動制御をそれぞれ行う。そして、テーブル19の温度を設定温度に保持する。
【0040】
従来は、図9(a)に示すように、テーブルを自然冷却させていたためテーブルの温度低下が緩やかで、一旦設定温度以上に昇温されたテーブルが設定温度以下に冷却するまでに時間がかかってしまっていた。そのため、冷却時間に要する時間を短縮して、如何に早くテーブルの温度を目的の温度にすることができるかが課題となっていた。
【0041】
上記した本実施形態の温調方法によれば、冷却吸引機構18によって強制的にテーブル19の温度を低下させているので冷却時間を短縮することができ、直ぐにまた昇温動作へと移行することができる。つまり、テーブル19の冷却時間が短縮されたことで、テーブル19の温度が設定温度にまで集束する時間が早まり(図9(b))、この結果、自然冷却させていた従来のときよりもテーブル19の温調制御の応答性を高めることができる。これにより、支持体Pに対する描画処理効率が向上する。
また、高い冷却精度を必要としないため、大型の支持体Pの場合でも比較的、低コストで対応することが可能である。
【0042】
また、液滴吐出ヘッド9内には、顔料インク、UVインク、メタルインク等が充填されており、このようなインクは温度が低下すると粘度が高まってノズルにおける吐出不良の原因となる。しかし、液滴吐出ヘッド9は所定温度に加熱保持されたテーブル19の近傍に対向配置されているため、内部のインク温度の低下が抑制されて吐出不良の発生を防止することができる。
【0043】
また、支持体Pに対する描画条件によってはテーブル19を加熱する必要が出てくる。異なる描画条件の複数の支持体Pに対して連続して描画処理を実施する場合に、次の支持体Pに対する描画処理を開始するまでにテーブル19を加熱するときにも、本実施形態によれば短時間で設定温度にすることが可能である。
【0044】
なお、図10に示すように、冷却吸引機構における軸流ファン18Aの数を増加させても良い。これら複数の軸流ファン18Aは、テーブル19の裏面におけるワークステージ6への取り付け領域の周囲に並べて配置され、制御装置8によって同期して制御される。軸流ファン18Aの数を増やすことによってテーブル19全体を効率よく冷却することが可能となり、冷却時間をさらに短縮できる。
【0045】
また、本実施形態では、冷却吸引機構18の軸流ファン18Aの回転方向を制御することによって、冷却作用と吸引作用とが得られるようになっているが、テーブル19上に支持体Pが載置されていない状態でテーブル19上の外気を吸引するように軸流ファン18Aを回転させ、テーブル19の内部に外気を導入することによって冷却するようにしてもよい。これによれば、冷却作用と吸引作用とで軸流ファン18Aの回転方向を切り替える必要がなくなるので制御が容易になるとともに、描画処理動作から冷却処理動作へとスムーズに移行できるようになる。
【0046】
図11は、液体噴射装置によって製造される印刷物の一例を示す斜視図である。
図11に示すように、実施形態の液体噴射装置によって形成される印刷物100は、支持体Pの表面に絵柄が印刷されている。ここでは、例として木目調の絵柄が印刷された印刷物100を示す。詳しくは、光透過性を有する支持体Pの表面全体に木目調の絵柄を表示する画像層102が形成されており、さらに、画像層102を覆って裏地層103が形成されている。
【0047】
支持体Pは、例えば光透過性を有する樹脂材料を形成材料とし、可撓性を有するフィルムを用いることができる。形成材料としては、例えばPC(ポリカーボネート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)など、通常知られた材料を例示することができる。
【0048】
下地層101は、印刷物100の表面の凹凸を表現している層であり、支持体Pの表面のうち、所定の箇所に選択的に配置されている。下地層101の形成材料は、透明な光硬化性インクを用いる。光硬化性インクとしては、紫外線硬化性インクを好適に用いることができる。例えば、通常知られたウレタン系のモノマー、オリゴマーと、紫外線に反応する重合開始剤とを混合した組成物を、透明な紫外線硬化性インクとして用いることができる。
【0049】
画像層102は、印刷物100の絵柄を表現している層であり、下地層101の上面や側面を覆って、支持体Pの表面全面に形成されている。画像層102の形成材料は、上述の透明な光硬化性インク(ベースインク)に、例えばC(シアン)M(マゼンダ)Y(イエロー)K(黒)の顔料を混合した組成物を用いることができる。下地層101と画像層102とのベースインクには、同種のモノマーやオリゴマーを含む物を用いると、下地層101と画像層102との界面の密着性が高くなり好ましい。同じベースインクを用いると簡便である。
【0050】
このようなインクが有色透明である場合、または有色不透明であっても画像層102が薄く、画像層を介して裏が透けて見えるような場合、画像層102に描かれた画像の視認性を高めるため、不透明な裏地層103を設けることが好ましい。裏地層103が白色に着色している場合、画像層102の発色を助け、良好な画質の画像を表現することができる。裏地層103は、例えば白色の光硬化性インクを塗布して設けられている。白色インクは、例えば上述のベースインクに、白色顔料を混合したものを用いることができる。
【0051】
このような印刷物100は、支持体Pを介して画像層102に描かれた画像を観察する構成となっている。印刷物100においては、支持体Pの視認側表面から、画像が描かれた画像層102までの距離が、透明な下地層101によって形成されている凹凸に応じて異なっており、画像層102に描かれた画像が立体的に表現されている。ここでは、画像層102に描かれた木目模様のうち、濃い色で描かれた木目部分に対応する箇所が凹部として表現されており、薄い色で描かれた部分が凸部として表現されている。
【0052】
以下に、テーブルおよび冷却吸引機構の変形例についていくつか述べる。
(変形例1)
図12(a)は、変形例1におけるテーブルおよび冷却吸引機構の概略構成を示す図である。(b)は、変形例1における冷却吸引機構の作用を説明する図である。
本実施形態の冷却吸引機構は、図12(a),(b)に示すように、テーブル19の圧力室形成部27に接続された複数のチューブ41を有してなるエアーブロー構造となっている。これら複数のチューブ41を介して圧力室形成部27の内部に冷気を供給することによって、各圧力室28内に導入された冷気によって隔壁29およびプラテン35の全体がそれぞれ冷却される。これによれば、テーブル19に冷気を吹き付けながら迅速に冷却させることができる。
【0053】
(変形例2)
図13は、変形例2におけるテーブルおよび冷却吸引機構の概略構成を示す図である。
図13に示すように、変形例2では、テーブル19の圧力室形成部27の側壁に冷却吸引機構38が接続されている。圧力室形成部27の側壁には冷却吸引機構38の軸流ファン38Aに対応する開口27Aが形成されており、この開口27Aは1つまたは複数の圧力室28に亘る大きさを有している。
【0054】
本例において用いられる冷却吸引機構38は、テーブル19内の空気を吸引する機能を有するものであれば、軸流ファンに限らず吸引ポンプを用いることもできる。そして、テーブル19上に支持体Pが載置されていない状態で冷却吸引機構38を駆動させて軸流ファン18Aを回転させると、隔壁29における連通孔30を介して全ての圧力室28内が減圧され、プラテン35に形成された複数の吸引孔36を介してプラテン35上の空気(外気)が吸引される。このようにしてテーブル19内に導入された外気(冷気)によって、テーブル19全体が冷却されることになる。
【0055】
本実施形態によれば、圧力室形成部27の底面ではなく側壁に冷却吸引機構38を設けたため、フィルムヒーター31を設ける領域を広げることができる。これにより、テーブル19に対する加熱および冷却を効果的に行うことができ、より短時間でテーブルを目的温度にすることができる。
【0056】
なお、本例の構成において、軸流ファン18Aを逆回転させて圧力室形成部27内に冷気を送り込むようにしても良い。開口27Aを介して軸流ファン18Aから圧力室形成部27内に供給された冷気は、隔壁29に形成された連通孔30を介して全ての圧力室28へ流入し、プラテン35の複数の吸引孔36から外部に流出する。このようにして、隔壁29およびプラテン35を冷却するようにしても良い。
【0057】
(変形例3)
図14は、変形例2におけるテーブルおよび冷却吸引機構の概略構成を示す図である。
上記した変形例2の構成の場合、テーブル19上に支持体Pが載置されている状態でテーブル19を冷却することはできなかったが、本例では、支持体Pがテーブル19上に載置された状態であっても、テーブル19の冷却を可能とするものである。
図14に示すように、テーブル19の圧力室形成部27には冷却吸引機構18が接続されているが、本例においてはこの冷却吸引機構18が接続された壁部とは異なる壁部に開閉バルブ39が接続されている。開閉バルブ39は、非通電状態のときに閉弁状態となり、通電状態のときに開弁状態となる空気圧用電磁弁である。この開閉バルブ39が開弁状態のときに冷却吸引機構18の軸流ファン18Aを回転させることにより、外気が圧力室形成部27内に吸引されてテーブル19の冷却を行うことができる。
【0058】
本例では、プラテン35に形成された吸引孔36を介して外気が吸引されない構成のため、プラテン35の支持面35a上に支持体Pが載置されている状態であっても、テーブル19の冷却を行うことができる。これにより、テーブル19を冷却している間に上流側からプラテン35上に支持体Pを載置させておくことができるため、テーブル19が設定温度になったのと同時に描画処理を行うことができて作業効率がより向上する。
【0059】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0060】
また、上述の実施形態においては、記録装置として、インク等の液体を噴射する液体噴射装置を例にして説明したが、インク以外の他の液体を噴射したり吐出したりする液体噴射装置に適用することができる。液体噴射装置が噴射可能な液体は、機能材料の粒子が分散又は溶解されている液状体、ジェル状の流状体を含む。
【0061】
また、上述した実施形態において、記録装置(液体噴射装置)から噴射される液体としては、インクのみならず、特定の用途に対応する液体を適用可能である。液体噴射装置に、その特定の用途に対応する液体を噴射可能な噴射ヘッドを設け、その噴射ヘッドから特定の用途に対応する液体を噴射して、その液体を所定の物体に付着させることによって、所定のデバイスを製造可能である。例えば、液体噴射装置は、液晶ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ、及び面発光ディスプレイ(FED)の製造等に用いられる電極材、色材等の材料を所定の分散媒(溶媒)に分散(溶解)した液体(液状体)を噴射する液体噴射装置に適用可能である。
【0062】
また、流体噴射装置としては、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を噴射する液体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置であってもよい。
さらに、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置であってもよい。そして、これらのうちいずれか一種の液体噴射装置に本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1…液体噴射装置、6…ワークステージ(テーブル温調機構)、8…制御装置、9…液滴吐出ヘッド、L…液滴、P…支持体、18…冷却吸引機構(冷却装置)、19…テーブル、19b…裏面、23,29…隔壁、25a,35a…支持面、28…圧力室(空間部)、30…連通孔、31…フィルムヒーター、31…フィルムヒーター(加熱装置)、36…吸引孔、39…開閉バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に液体を吐出する液滴吐出ヘッドと、
前記液滴吐出ヘッドに対向配置され前記支持体を支持するテーブルと、
前記テーブルに接続された加熱装置および冷却装置を有し、前記テーブルの温度調整を行うテーブル温調機構と、
前記液滴吐出ヘッドおよび前記テーブル温調機構に駆動信号を供給する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、前記テーブルの温度が設定温度に対して相対的に高い場合には前記冷却装置を駆動させ、前記テーブルの温度が設定温度に対して相対的に低い場合には前記加熱装置を駆動させることにより、前記テーブルの温度が設定温度になるよう調整する
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記冷却装置が、ファン機構あるいはエアーブロー機構である
ことを特徴とする請求項1に記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記加熱装置が、前記テーブルの裏面側を覆うフィルムヒーターである
ことを特徴とする請求項1または2に記載の液体噴射装置。
【請求項4】
前記冷却装置が、前記支持体を支持する支持面から裏面側に貫通する複数の吸引孔を介して前記支持面上に配置された前記支持体を吸引する機能を有する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記テーブルが、前記支持体を支持する支持面を天面とする複数の空間部と、前記複数の空間部を区画する隔壁とによるハニカム構造をなしており、
前記隔壁に形成された連通孔を介して前記複数の空間部どうしが連通しているとともに、これら複数の空間部の少なくとも一部が外部に連通している
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の液体噴射装置。
【請求項6】
前記複数の空間部の少なくとも一部と外部とを連通させる開閉バルブを備えており、
前記制御装置は、前記開閉バルブを開いた状態で前記冷却装置を駆動させることにより前記テーブルを冷却する
ことを特徴とする請求項5に記載の液体噴射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−206475(P2012−206475A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75806(P2011−75806)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】