説明

液体成分の担体物質としてのアルファ化デンプン

本発明は、薄片形状のデンプン粒子からなるアルファ化された非顆粒状デンプン材料からなる固体担体物質と、1種以上の液体成分とを含む液体担持デンプン材料であって、このデンプン粒子が、デンプン粒子の少なくとも50重量%の粒度が100〜375μmとなる粒度分布を有し、かつBET比表面積が0.5m/g以下である、液体担持デンプン材料を提供する。また、食品、動物飼料製品、医薬品、栄養補助食品、農薬、および化粧品またはパーソナルケア製品における使用も提供する。さらに本発明は、前記液体担持デンプン粉末材料の調製方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片形状のデンプン粒子からなるアルファ化された非顆粒状デンプン材料からなる固体担体物質と、前記固体担体物質の内部および/または表面に吸収された1種以上の液体成分とを含む、液体を担持したデンプン粉末材料に関連する。さらに本発明は、前記液体担持デンプン粉末材料を調製するための方法に関する。さらに本発明は、前記液体担持デンプン粉末材料の、食品、動物飼料製品、医薬品、栄養補助食品、農薬、および化粧品またはパーソナルケア製品における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
デンプンは、ほとんどの植物細胞内において顆粒の形で生成する多糖類である。このようなデンプン顆粒は非常に規則正しい結晶領域およびそれよりも不規則な非晶質領域からなる。デンプンがこの顆粒状態で存在する場合は「天然デンプン」と称される。異なる植物原料に由来する天然デンプンは構造および組成が幅広く異なっているが、どの顆粒も2種類の多糖類であるアミロース(通常は20〜30%)およびアミロペクチン(通常は70〜80%)からなる顆粒であり、これらは両方ともα−D−グルコースの重合体である。しかし、デンプンには固有の欠点があり、そのために適合しないであろう用途が数多くある。そのため、これらの望ましくない性質を望ましいものに変える化学的および物理的変性方法が開発されてきた。
【0003】
幅広く用いられている物理変性はデンプンのアルファ化であり、これは、デンプン顆粒内部の分子配列を崩壊させるすなわち乱すことであり、これは、顆粒の膨潤(水が侵入し、その結果として顆粒構造の不規則性が増す)、天然の微結晶の融解(水の侵入により、デンプン顆粒の結晶領域が減少する)、複屈折性の喪失、デンプンの可溶化など、性状の不可逆変化として現れる。このようなアルファ化デンプンは、加熱処理(cooking)を施さなくても冷水中に実質的に可溶(膨潤性)であり、天然デンプンと違って即座に粘性が発現する(即席デンプン)。
【0004】
アルファ化デンプンは、典型的には、熱的、化学的、または機械的方法によって調製される。採用される具体的な方法によって、アルファ化デンプンの物理的性質、特に、冷水中における湿潤性、分散性、およびピーク粘度が大きく影響される。熱処理は、熱によって結晶領域が非晶質領域に変換され、それによって水の侵入および顆粒の膨潤が促進されることから幅広く用いられている。糊化を起こさせる典型的な熱処理としては、噴霧乾燥、ロール乾燥またはドラム乾燥、押出し、および他の加熱/乾燥法が挙げられる。
【0005】
用いた方法および採用した具体的な工程条件に応じて、生成したアルファ化デンプンはその顆粒構造を失っている場合もあるし維持している場合もある。非顆粒状アルファ化デンプン(典型的には、ロール乾燥、ドラム乾燥、押出し、場合によっては噴霧乾燥によって調製される)は、様々な技術分野において幅広く用いられている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。一方、顆粒構造が損なわれていない場合は触感が改善されるなどの特定の性質が付与されることから、顆粒状アルファ化デンプンが優先的に使用される用途もある。このような顆粒状アルファ化デンプンは、例えば、特殊な噴霧乾燥法(顆粒形状の破壊を阻止しながら膨潤およびアルファ化させる)によるかまたはアルコール−水混合物等の水性有機溶媒中で加熱した後に乾燥することによって調製してもよい(特許文献3および特許文献4参照)。
【0006】
アルファ化デンプンは、様々な技術分野において、所与の製品の粘性または触感を、加熱を必要とすることなく変えることを目的として幅広く使用されている。例えば、こうした理由から、多くの食品がアルファ化デンプンを含んでいる。他の重要な応用分野は医薬品産業であり、アルファ化デンプンは、従来から、結合剤、増量剤(filler)、または崩壊剤として、薬剤の安定性の向上および送達制御された(modified−delivery)投与形態の徐放速度の向上を目的として使用されている。
【0007】
最近では、アルファ化デンプンが揮発性の芳香化合物を保持および保護する担体として作用する可能性が報告されている(非特許文献1)。Boutboulらは、アルファ化デンプンを含む様々なデンプンの物理的性質(粒度、比表面積、および粒子形状)について研究し、これらの物理的性質と、デンプン粒子が揮発性芳香化合物を保持する能力との相関関係を示した。この研究には2種類の異なるアルファ化デンプンである標準的なアルファ化コーンスターチおよびアルファ化(低アミロース)ワキシーコーンスターチ(いずれもそれぞれの天然デンプンからドラム乾燥によって製造)が使用されており、これらは非顆粒状の不均質な形状を有し、粒度はそれぞれ11〜69μmおよび10〜64μmであり、比表面積は0.51m/gおよび0.54m/gであった。Boutboulらは、芳香の保持に影響する主要因子は、デンプン粒子の形状および大きさに依存する比表面積であり、保持能力は比表面積(specific surface)が増大するにつれて高くなることを見出した。
【0008】
特許文献5は、冷水膨潤性のアルファ化された豆類デンプン成分に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第3,607,394号明細書
【特許文献2】米国特許第5,131,953号明細書
【特許文献3】米国特許第4,465,702号明細書
【特許文献4】米国特許第5,037,929号明細書
【特許文献5】米国特許第4,810,517号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Boutboulら、Carbohydrate Polymers 47(2002):73〜82
【非特許文献2】Bruauner、EmmettおよびTeller、J.Am.Chem.Soc.60:309〜319(1938)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
当該技術分野においては、液体、固体、および揮発性物質用の担体または被包材として使用される様々なデンプンベースの材料が利用可能であるが、当該産業においては、簡素で費用効果の高い方法で調製することができる、液体成分の担持能力が高いさらなるデンプン材料が依然として求められている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、薄片形状のデンプン粒子からなるアルファ化された非顆粒状デンプン材料からなる固体担体物質を含む、液体を担持したデンプン粉末材料であって、デンプン粒子の少なくとも50重量%、好ましくは80重量%が100μm〜375μmの範囲、好ましくは125μm〜350μmの範囲にある粒度分布(size distribution)を有し、BET比表面積が0.5m/g以下、好ましくは0.4m/g以下であり、1種以上の液体成分が前記固体担体の内部および/または表面に吸収されている、デンプン材料を提供する。
【0013】
液体担持デンプン粉末材料は、液体成分を非顆粒状アルファ化デンプン材料に担持することにより調製され、担持は、デンプン材料を撹拌しながら1種以上の液体成分を適用、特に噴霧することにより実施される。
【0014】
さらに本発明は、本明細書に定義した液体担持デンプン粉末材料の、食品、動物飼料製品、医薬品、栄養補助食品、農薬、化粧品、パーソナルケア製品における使用に関する。
【0015】
ここで、以下に示す本発明および実施例の詳細な説明を参照しながら本発明をさらに説明する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、少なくとも50重量%の粒度が100μm〜375μmである薄片形状のデンプン粒子からなるアルファ化された非顆粒状デンプン材料が、新規な優れた機能性、すなわち、従来の噴霧乾燥されたアルファ化デンプンと比較して極めて優れた液体成分の担持能力を有しつつ、依然として粉体状の液体担持デンプン材料を提供するという予期せぬ発見に基づいている。粒度が小さいことおよび/または粒子形状が不揃いであることが高い比表面積を有することと相関関係にあり、このことが今度は高い担持能力と相関関係にあることは周知である。こうした理由により、高い比表面積を有する小さい粒子は、揮発性または液体物質の捕捉または被包を目的として通常および優先的に使用されている。薄片形状のデンプン粒子は比較的大きな粒子であり、比表面積は0.5m/g以下と低く、または0.4m/g以下であるか、または0.3m/g未満でさえある。したがって、本非顆粒状アルファ化デンプン材料が油のような液体成分に対する高い担持能力を示し、かつ粉体状の液体担持デンプン材料を提供することは驚くべき発見であった。
【0017】
本明細書において用いられる「アルファ化デンプン」という用語は、結晶領域の数および大きさを低減させるとともに全体的な構造の不規則性を増大させるために、水の存在下において化学的および/または機械的および/または熱的に処理され、その後に乾燥されたデンプンを意味する。典型的には、糊化によって誘発されるこの構造変化は、偏光に対する複屈折性および/またはマルテーゼクロスの消失によって現れる。アルファ化デンプンは顆粒構造を失っていても失っていなくてもよく、加熱処理を施さなくても実質的に冷水に可溶である。本発明によれば、「アルファ化デンプン」は、流動性や疎水性等の所望の性質が付与されるように化学変性もされていてもよい。好ましくは、本発明に使用されるアルファ化デンプンは化学変性されていない。さらに、「アルファ化デンプン」という用語には、可溶(糊化した)および不溶な部分を含む部分アルファ化デンプン(PPS)も包含される。好ましくは、本発明において使用されるアルファ化デンプンは、完全にまたは大部分がアルファ化されている、すなわち結晶領域が10重量%未満、好ましくは5重量%未満、特に2重量%未満、または1重量%である。
【0018】
本発明によれば、「化学変性された」または「化学変性」という用語には、架橋デンプン、老化を防ぐためのブロック基で変性されたデンプン、親油性基を付加することによって変性されたデンプン、アセチル化デンプン、ヒドロキシエチル化およびヒドロキシプロピル化デンプン、無機エステル化デンプン、カチオン性、アニオン性、および酸化デンプン、両イオン性デンプン、酵素変性デンプン、ならびにこれらの組合せが包含されるが、これらに限定されるものではない。
【0019】
本明細書において使用するのに好適なアルファ化デンプンは任意の天然の供給源に由来するものであってもよく、ここで天然とは、前記デンプンが自然界に見られるものであることに関連する。デンプンの典型的な供給源は、穀類、塊茎類、根菜類、豆類、果実デンプン、および交配種(hybrid)のデンプンである。好適な供給源としては、これらに限定されるものではないが、トウモロコシ、エンドウマメ、バレイショ、カンショ、ソルガム、バナナ、オオムギ、コムギ、コメ、サゴヤシ、アマランサス、タピオカ、クズウコン、カンナ、およびその低アミロース(アミロースを約10重量%以下、好ましくは5重量%以下含む)または高アミロース(アミロースを少なくとも約40重量%含む)種が挙げられる。遺伝子組換えデンプン作物由来のデンプンも同様に好適である。本明細書に使用するのに好ましいデンプンは、アミロース含有量が1%未満のワキシーコーンスターチ等の、アミロース含有量が40%未満のものである。特に好ましいデンプンとしては、コメ、コムギ、タピオカ、トウモロコシ、およびバレイショデンプン、特にトウモロコシ(メイズ)デンプンが挙げられる。
【0020】
本明細書において用いられる「非顆粒状デンプン材料」とは、顆粒形状を有しない粒子からなるデンプン材料を指す。「顆粒形状」とは、略回転楕円体または略楕円体形状を意味することを意図しており、その1つ以上の部分に凹みを有する球状粒子(従来の噴霧乾燥法により製造される球状デンプン粒子等)も包含される。本明細書において使用される「薄片形状」のデンプン粒子とは、その顆粒構造を失った、不揃いな平坦または厚みのある板またはシート形態にある不均一な形状の粒子である。典型的には、このような薄片形状のデンプン粒子は、ロール乾燥またはドラム乾燥法によって生成する。
【0021】
このアルファ化された非顆粒状デンプン材料は、デンプン粒子の少なくとも50重量%の粒度が100μm〜375μm(篩分け法により測定)となるような粒度分布(size distribution)を有する薄片形状のデンプン粒子であることを特徴とする。好ましくは、デンプン粒子の少なくとも80重量%、より好ましくは少なくとも90重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、最も好ましくは100重量%の粒度が100μm〜375μmである。さらに好ましくは、デンプン粒子の少なくとも80重量%、90重量%、95重量%、または100重量%の粒度が125μm〜350μm、より好ましくは125μm〜325μm、最も好ましくは125μm〜300μmの範囲にある。
【0022】
アルファ化された非顆粒状デンプン材料のBET比表面積は、典型的には0.5m/g以下、好ましくは0.4m/g以下、より好ましくは0.3m/g以下である。特に好ましい非顆粒状アルファ化デンプン材料は、デンプン粒子の少なくとも50重量%、好ましくは80重量%の粒度が100μm〜375μmであり、かつBET比表面積が0.5m/g以下、好ましくは0.4m/g以下のものである。
【0023】
本発明によれば、非顆粒状アルファ化デンプン材料は、1種以上の添加剤を、少量、好ましくはデンプン粒子の総重量を基準として、総量が10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、最も好ましくは0%〜1重量%で含んでいてもよい。
【0024】
場合により存在するこれらの添加剤は、本発明の非顆粒状アルファ化デンプン材料の調製に使用される出発デンプンスラリーまたはペーストに添加される。添加剤の例としては、これらに限定されるものではないが、加工助剤(気泡の形成を促進する試剤、界面活性剤、乳化剤等)および他の成分(塩類、糖類、脂肪、ゴム、親水コロイド等)が挙げられる。好ましいわけではないが、非顆粒状アルファ化デンプン材料に含まれる添加剤は、既に形成された非顆粒状アルファ化デンプン材料に所望の性質を付与するために添加された物質であってもよい。その例としては、デンプンの吸収特性を変化させて、例えば、油脂等の疎水性成分の吸収を改善するための表面改質剤が挙げられる。
【0025】
好ましくは、上に記載した薄片形状のデンプン粒子からなるアルファ化された非顆粒状デンプン材料は、ロール乾燥またはドラム乾燥法により製造される。ドラム乾燥と同じく、ロール乾燥にも、水性デンプンスラリーまたはペーストを加熱することによりデンプンを糊化させて即座に水分を除去することが含まれる。水性デンプンスラリーまたはペーストは、まず最初に加熱し、続いて乾燥させてもよいし、より好ましくは、市販のドラム乾燥装置またはロール乾燥装置を用いて、加熱によるデンプンの糊化および乾燥を同時に行ってもよい。本明細書において用いられる「ロール乾燥」という用語は、水性デンプンスラリーまたはペーストを加熱処理または一部加熱処理し、加熱された乾燥用のロール(「ドラム」と称される場合もある)上を通過させる方法または(好ましくは)水性デンプンスラリーまたはペーストの加熱処理および乾燥を加熱されたロール上で同時に行う方法を指す。本明細書において用いられる「ドラム乾燥」という用語は、加熱されたドラム上により厚みのあるデンプンスラリーまたはペーストが塗布されることを除いて、ロール乾燥法と非常に類似した方法を指す。
【0026】
本明細書において上述した非顆粒状アルファ化デンプン材料を調製するための好ましい方法は、デンプン(通常はデンプン粉末形態)および水を混合することによって特定の固形分含量を有する水性デンプンスラリーまたはペーストを調製することから開始される。「デンプンスラリーまたはペースト」には、湿潤した濾過ケーク等の高粘度デンプン調製物も包含され得る。好適なデンプンは上述した通りである。デンプン含有量は、典型的には20〜45重量%、特に25〜40重量%、とりわけ32〜40重量%の範囲にある。
【0027】
次いで、こうして調製された水性デンプンスラリーまたはケークは、ロール乾燥機またはドラム乾燥機の加熱された回転するロールまたはドラムに、好都合にはアプリケータードラム(application drum)または供給ロールを用いることによって塗布され、水性デンプンスラリーまたはペーストの糊化および乾燥が同時に行われる。1回転した後、得られた乾燥デンプンの薄膜をナイフブレード等の掻き取り機構によりロールまたはドラムから除去することによってデンプン材料が得られ、次いでこれが、例えば、ロータービーターミルまたはカッティングミルで粉砕(grinding)または微粉砕(milling)される。最後に、微粉砕されたデンプン材料を、当該技術分野において周知のように1種またはメッシュサイズの異なる数種の篩で篩別することにより、非顆粒状アルファ化デンプン材料の所望の篩別された画分が得られる。
【0028】
本発明の非顆粒状アルファ化デンプン材料の調製に好適なロール乾燥機およびドラム乾燥機は、例えば、GMF−Gouda(オランダ)から市販されている。これらは、典型的には、間接加熱型乾燥機として設計されており、これは、加圧蒸気によって(金属)ドラム内壁に熱が伝導され、今度は壁の反対側にある水性デンプンスラリーまたはペーストに熱が伝わるというものである。基本的な構成は比較的単純であるが、多くの構成のものが市販されており、これらはドラムおよび供給ロールの配置および数、掻き取り機構の形態等が異なっている。
【0029】
水性スラリーまたはペーストの組成、ロールまたはドラムの温度、ドラムまたはロールの速度(滞留時間を定める)等の要素は、最終的な非顆粒状アルファ化デンプン材料の物理的および化学的性質に影響を及ぼすであろう。ロール乾燥またはドラム乾燥の当業者はこれらのパラメータについて熟知しており、所望の性質を有するアルファ化デンプン材料を得るためにこれらのパラメータを設定および調節する方法は周知である。例えば、異なる種類のデンプンは様々な糊化温度を有することが周知であり、したがって、満足な結果を得るために上のパラメータの1つ以上を調節および最適化してもよい。このような最適化は、ドラム乾燥またはロール乾燥されたアルファ化デンプンの当業者の通常の能力の範囲で十分に行われる。
【0030】
ロールまたはドラムは、典型的には、表面温度が120〜200℃の範囲、特に140〜190℃の範囲、とりわけ150〜180℃の範囲になるように加熱される。ロールまたはドラムは、通常は5〜18rpm、好ましくは5〜15rpm、より好ましくは8〜13rpmの速度または回転速度で運転される。
【0031】
1種以上のさらなる構成成分(添加剤)を水性デンプンスラリーまたはペーストに混合してもよく、これらに限定されるものではないが、加工助剤(気泡形成剤、界面活性剤、乳化剤等)および特定の性質を改善するための他の物質(塩類、糖類、脂肪、ゴム、親水コロイド等)が挙げられる。例えば、加熱されたロールまたはドラムに塗布されたデンプンスラリーまたはペーストは、様々な量の気泡を含む溶融したデンプンの連続相に変換される。吸収性が増大したアルファ化デンプン材料を得ることを目的として、例えば、特定の加工助剤を水性デンプンスラリーまたはペーストに添加して気泡の形成を増大させることによって、嵩密度が比較的低くなるような条件を選択してもよい。
【0032】
さらなる構成成分が存在する場合は、少量で、通常は、このさらなる構成成分が、ロール乾燥またはドラム乾燥された最終デンプン粒子の総重量の10重量%以下、好ましくは5重量%以下、より好ましくは1重量%以下を構成するような量で添加される。本発明の他の実施形態においては、これらのさらなる成分の添加量は0%であり、したがって、水性デンプンスラリーまたはペーストは、デンプンおよび水のみからなる。
【0033】
さらに、特に好ましいというわけではないが、こうして得られたロール乾燥またはドラム乾燥された非顆粒状アルファ化デンプン材料を、デンプンの吸収特性を変えるために表面改質剤でさらに処理することも本発明の範囲に包含される。疎水性剤は、例えば、油脂等の疎水性液体成分に対する吸収性をさらに改善するであろう。
【0034】
液体担持デンプン粉末材料は、上に定義した固体担体物質以外に、1種以上の液体成分を含む。1種以上の液体成分は、液体成分の基材となる担体物質内部に埋め込まれているか、その上に担持されているか、それによって捕捉されているか、それに結合しているか、ならびに/またはその内部および/もしくはその表面上に吸収されている。本明細書において用いられる「含む(comprise)」という用語には、「含む(include)」、「含有する(contain)」または「含む(comprehend)」という意味だけでなく「(のみ)からなる(consisting(exclusively)of)」という意味も包含されることを意味することが理解されるであろう。
【0035】
本明細書において用いられる「液体成分」とは、液体形態で存在する任意の物質を指し、例えば、異なる液体の混合物および1種以上の物質の溶液または懸濁液が包含される。担持され得る液体成分としては、これらに限定されるものではないが、フレーバー化合物、芳香物質、香水、植物抽出物、乳化剤、着色剤、油脂(特に、オメガ−3に富む油、サラダ油および魚油、精油、レシチン等の、食品成分または添加剤として使用することができる油脂)、他の栄養成分(カロテノイド、ビタミンAおよびE等のビタミン類、有機酸抗酸化剤等)、および医薬活性成分に加えて、含油樹脂、血液、アルコール飲料、昆虫忌避剤、殺虫剤、および除草剤が挙げられる。さらに、特定の物質または成分(微生物や酵素等の生理活性化合物等)の溶液も本明細書において使用するのに好適であり、その溶媒は、所望により、乾燥工程により担持を行った後に除去してもよい。好ましい液体成分は、アルコール類、アセトン類、ケトン類、アルデヒド類、油脂類である。本明細書において使用するのに特に好適なのは、疎水性液体、特に任意の種類の油脂、精油、含油樹脂、植物抽出物、フレーバー物質および香水を担体溶媒(アルコール、プロピレングリコール、水、植物油等)中でブレンドしたもの、レシチン、ならびに多価不飽和脂肪酸である。
【0036】
本発明の好ましい実施形態において、液体担持デンプン粉末材料は、1種以上の液体成分を、液体担持デンプン粒子の総重量を基準として20重量%以上含む。より好ましくは、液体成分は、液体担持デンプン粉末粒子の少なくとも25重量%または30重量%、より好ましくは少なくとも35重量%、最も好ましくは少なくとも40重量%を占める。
【0037】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に上述した液体担持デンプン粉末材料の調製方法であって、本明細書において上述した薄片形状のデンプン粒子からなる非顆粒状アルファ化デンプン材料を撹拌しながら1種以上の液体成分を適用することによる方法に関する。
【0038】
アルファ化非顆粒状デンプン材料に1種以上の液体成分を担持するためには、デンプン材料を、機械的混合を支持し、好ましくは密閉することが可能な槽に装入してもよい。好適な混合装置は、例えば、パドルミキサー、リボンブレンダー、V−ブレンダー、または鋤型混合機(plough blade mixer)である。次いで、1種以上の液体成分が、例えば、流し込むか、ポンプ注入するか、または(好ましくは)ノズルで噴霧することによって槽に供給され、撹拌されたデンプン材料上に適用される。ノズルを用いることによって形成される小滴は担体物質であるデンプンにより容易に吸収されることから、ノズルによる噴霧が有利に使用される。気相からまたは超臨界条件下における担持も可能である。混合は、液体材料が固体担体内部および/または表面上に均一に分布するまで継続される。噴霧またはポンプ注入に要する時間は、液体成分をアルファ化デンプン材料に添加する量と、吸収を確実に完了させて流動性粉体を形成させるのに必要な時間とに依存する。
【0039】
1種以上の液体成分を非顆粒状アルファ化デンプン材料に担持するための他の好適な方法は、流動床担持法(fluidized−bed loading process)であろう。このような方法においては、担体すなわち非顆粒状アルファ化デンプン材料は、デンプン粒子床内に上方に向けて強制的に送風される空気または他の気体によって流動化される。次いで、流動化されたデンプン粒子上に液体成分をノズルで噴霧することによって、液体がデンプン粒子上に均一に担持されたデンプン材料が得られる。
【0040】
本明細書に用いるのに好適なさらなる担持方法は、担体物質である非顆粒状アルファ化デンプンを液体成分中に懸濁させた後、液体を担持したデンプン粉末材料を液体成分から濾過や遠心分離等の従来の分離方法により分離する工程を含むものである。
【0041】
担持される液体成分の種類に応じて、液体成分を加熱または冷却してもよい。粘性の高い液体成分の場合は、例えば、液体成分を加熱することにより粘度を低下させて担持過程を促進することが好ましいであろう。熱に敏感な医薬活性物質の溶液などの温度に敏感な液体成分の場合は、冷却が望ましいかまたは必要であろう。冷却または加熱ブレンダー等の冷却または加熱を実施する手段は当業者に周知である。
【0042】
本発明によれば、担体として使用される非顆粒状アルファ化デンプン材料は、担持を行う前に、例えば酸素を除去するために不活性ガスによる前処理を行ってもよい。吸収性を高めることを目的として、担持を行う前に真空引き処理を行ってもよい。さらに、変質しやすい液体を担持する際は、酸化による品質の低下を防ぐために、担持操作を不活性ガス雰囲気中、例えば、窒素雰囲気中で実施してもよい。
【0043】
場合により、非顆粒状アルファ化デンプン材料に1種以上の液体成分を担持した後にさらなる処理工程を実施してもよい。例えば、流動性を向上させることを目的として、リン酸三カルシウム、シリカ、ケイ酸塩、および/またはステアリン酸塩等の流動化剤またはケーキング防止剤を液体担持デンプン材料に添加してもよい。本発明の液体担持デンプン粉末材料は、当該技術分野において周知のマルトデキストリン、デンプン、化工デンプン、デキストリン、油、脂肪、ワックス、親水コロイド、タンパク質等の任意の好適な被包またはコーティング材でコーティングおよび/またはさらに被包してもよい。
【0044】
薄片形状デンプン粒子である非顆粒状アルファ化デンプン材料は、液体成分の保護、貯蔵、安定化、および/または放出性の制御を行うための担体物質として使用される。さらに、液体成分を担体物質であるデンプンに結合させると、取扱い、貯蔵、および配合がより容易になる。
【0045】
本発明の液体担持デンプン粉末材料は、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、トローチ剤、パスタ剤、ゲル剤、クリーム剤、膏薬剤(salve)、軟膏剤、ローション剤等の非常に多くの異なる製剤に添加することができる。本発明の液体担持デンプン粉末材料の好ましい最終用途としては、これらに限定されるものではないが、食品、動物飼料製品、医薬品、栄養補助食品、農薬(除草剤、殺虫剤、肥料等)、ならびに化粧品およびパーソナルケア製品(ドライヘアケア製品、シャンプー、コンディショナー、制汗剤、防臭剤、洗口剤、石鹸、化粧クリーム等)が挙げられる。
【0046】
本発明の好ましい実施形態においては、本発明の液体担持デンプン粉末材料は、乾燥スープミックス(dry soup mix)、即席飲料およびスープ、ケーキおよび乾燥デザートミックス、香辛料、調味料、トッピング、ころも用生地、乳代用品、植物性クリーム、すりおろしまたは粉チーズ、フレーバーティー等(ただし、これらに限定されるものではない)の食品中に使用される。
【0047】
ここで以下に示す実施例を参照しながら本発明をさらに例示および説明する。実施例において提供される非顆粒状アルファ化デンプン材料の物理的性質を評価した方法は以下の通りである。
【実施例】
【0048】
(1)粒度分布
デンプン試料の粒度分布は、目開きの異なる篩を使用した篩分け法により測定した。それぞれの篩上に留まった画分を秤量し、デンプン試料の総重量で割って、各篩で篩別された百分率を得た。
【0049】
(2)粒子形状
デンプン試料の粒子形状を、当該技術分野において周知のように、走査型電子顕微鏡を用いて100〜750倍の倍率で観察した。
【0050】
(3)BET比表面積
デンプン試料の比表面積を、Gemini II 2370 Surface Area Analyzer(Micromeritrics NV/SA、Brussels、Belgium)を用いて、窒素吸収により測定した。多点(従来的には11点)BET法非特許文献2を用いて総有効表面積(BET比表面積)(m/g)を測定した。
【0051】
(4)吸油性
吸油性の測定は、所与の量のデンプン試料を含む油分散液を遠心分離にかけ、デンプンに結合しなかった油を除去し、ここで残留した、油を担持しているデンプン試料を高遠心力にかけ、デンプン試料に結合したままであった油の量を測定(遠心分離によって得られたデンプンを評価)することによって実施した。
【0052】
ヒマワリ油の吸収
デンプン試料25g(W)を秤量し、ここにヒマワリ油25g(Vandemoortele、Belgium)を加えて2分間スプーンで十分に混合することにより油−デンプン混合物を得た。粘度が高過ぎる場合は油を追加した。750mlの丸型バケット用遠沈管(round bucket centrifuge bottle)に天然バレイショデンプン約360gを充填し、折った濾紙(直径150mm、Machery−Nagel MN614)を広げてバレイショデンプンの上に(その後に行われる遠心分離の間、濾紙が確実に定位置に留まるような小さい穴の中に)載置した。次いで、上で調製した油−デンプン混合物を濾紙に注いだ後、Heraeus Multifuge 3S遠心分離機を用いて、10分間、3434×gで遠心分離を行った。遠心分離完了後、濾紙をデンプン−油試料と一緒に遠沈管から取り出し、濾紙上に残ったデンプン−油試料を丁寧に取り除き、重量Wを測定した。試料に吸収された油をW−Wとして求め、吸油性(%)を(W−W)/W×100%として表す。
【0053】
オレンジフレーバーの吸収
試料を214.66×gで3分間遠心したことを除いて、ヒマワリ油に関し上述したものと同じ手順を用いた。使用したオレンジ油は、Cargill Flavour Systemsより入手したUden(CAS 8028−48−6)である。
【0054】
実施例1
ロール乾燥した一般的なコーンスターチ(C12001、Cargillより入手可能)を125μmおよび315μmの篩で篩別し、上に定めた測定法を用いて、粒度が125μm〜315μmの画分についてヒマワリ油の吸収性を測定した。さらに、この画分のBET比表面積を上述したBET法で測定した。ヒマワリ油に対する吸油性は25%であり、BET比表面積は0.24m/gであった(表1)。
【0055】
実施例2
ロール乾燥したPOCl架橋コーンスターチ(C12930、Cargillより入手可能)をRETSCH SR300ロータービーターミルで微粉砕した後に篩別し、100μm未満のより小さい粒子を除去した。結果として得られた材料は、この材料の51重量%の粒度が100μm〜375μmの範囲にあることを特徴とする。ヒマワリ油およびオレンジフレーバーに対する吸油性を上述した方法を用いて測定した。さらに、上述したBET法を用いてBET比表面積を測定した。ヒマワリ油およびオレンジフレーバーの吸油性はそれぞれ21%および28%であり、BET比表面積は0.26m/gであった(表1)。
【0056】
実施例3
一般的なコーンスターチ(C03401、Cargillより入手可能)を20ボーメの濃度で水中にスラリー化させた。このスラリーを、GMF Goudaからの試験的なロール乾燥器であるType E 5/5(500×500mmのローラー(ドラム)を備え、11rpm、蒸気圧7barで運転される)を用いてロール乾燥した。ドラムの最高表面温度は165℃であった。間隙は1.6mm(室温で測定)であった。試料を125μmおよび350μmの篩で篩別し、上述した測定方法を用いて粒度が125μm〜350μmの画分についてヒマワリ油の吸収を測定した。さらに、この画分のBET比表面積を上述したBET法を用いて測定した。ヒマワリ油に対する吸油性は31%であり、BET比表面積は0.26m/gであった(表1)。
【0057】
実施例4
ドラム速度を13rpm、蒸気圧を8.5bar、最高ドラム温度を173℃としたことを除いて、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム(C06369、Cargillより入手可能)を実施例3に上述したようにロール乾燥した。ドラムからデンプンの薄膜を取り除き、微粉砕および篩別した。粒度が125μm〜325μmの篩別画分を用いて、ヒマワリ油に対する吸収性の測定および上述した測定方法を用いたBET比表面積測定を行った。ヒマワリ油に対する吸油性は37%であり、BET比表面積は0.23m/gであった(表1)。
【0058】
比較例5
ロール乾燥された一般的なコーンスターチ(C12001、Cargillより入手可能)を50μmの篩で篩別し、粒度が50μm未満の画分について、ヒマワリ油の吸収性を上述した方法を用いて測定した。さらに、この画分のBET比表面積を上述したBET法を用いて測定した。ヒマワリ油に対する吸油性は15%であり、BET比表面積は0.52m/gであった(表1)。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄片形状のデンプン粒子からなる非顆粒状アルファ化デンプン材料からなる固体担体物質を含む液体担持デンプン粉末材料であって、前記デンプン粒子が、前記デンプン粒子の少なくとも50重量%の粒度が100μm〜375μmとなるような粒度分布を有し、かつBET比表面積が0.5m/g以下であり、1種以上の液体成分が前記固体担体物質の内部および/または表面に吸収されている、液体担持デンプン粉末材料。
【請求項2】
前記デンプン粒子の少なくとも80重量%の粒度が100μm〜375μmである、請求項1に記載の液体担持デンプン粉末材料。
【請求項3】
前記固体担体物質の内部および/または表面に吸収された前記1種以上の液体成分が、前記液体担持デンプン粒子の総重量の少なくとも20重量%を構成する、請求項1または2に記載の液体担持デンプン材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体担持デンプン粉末材料の調製方法であって、
(1)薄片形状のデンプン粒子からなる非顆粒状アルファ化デンプン材料を提供する工程と、
(2)工程(1)で提供された前記デンプン材料を撹拌しながら1種以上の液体成分を適用することによって、前記デンプン材料の内部および/または表面に1種以上の液体成分を担持する工程と
を含む、方法。
【請求項5】
前記薄片形状のデンプン粒子からなる非顆粒状アルファ化デンプン材料が、
a)デンプンおよび水を混合することにより水性デンプンスラリーまたはペーストを調製する工程と、
b)前記水性デンプンスラリーまたはペーストを加熱された回転ロールまたはドラム上に適用することにより前記水性デンプンスラリーまたはペーストを同時に糊化および乾燥させることによって乾燥したデンプン薄膜を得る工程と、
c)前記乾燥したデンプン薄膜を前記ロールまたはドラムから取り除く工程と、
d)前記取り除かれた乾燥デンプン薄膜を粉砕することによって粉砕されたデンプン材料を得る工程と、
e)前記粉砕されたデンプン材料を篩別することによって、前記薄片形状のデンプン粒子からなる非顆粒状アルファ化デンプン材料を得る工程と
によって提供される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記液体担持デンプン粒子に流動化剤および/またはケーキング防止剤が添加される、請求項4または5に記載の方法。
【請求項7】
食品、動物飼料製品、医薬品、栄養補助食品、農薬、および化粧品またはパーソナルケア製品中に使用するための、請求項1〜3のいずれか一項に記載の液体担持デンプン粉末材料の使用。

【公表番号】特表2011−514919(P2011−514919A)
【公表日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−547101(P2010−547101)
【出願日】平成21年2月18日(2009.2.18)
【国際出願番号】PCT/EP2009/001160
【国際公開番号】WO2009/103514
【国際公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(397058666)カーギル インコーポレイテッド (60)
【Fターム(参考)】