説明

液滴吐出装置及び画像形成装置

【課題】 キャッピング中のノズルの湿潤状態を制御して、ヘッドの維持回復動作を低減し吐出液の消費を低減した液滴吐出装置の提供。
【解決手段】 ノズルの維持回復動作が可能であり、印刷終了時に、キャップ3a,bがヘッド2a,bのノズル面を覆っていなかった時間(以下、デキャップ時間という。)が第1の所定時間を超えていたら、前記ヘッド内の吐出液をキャップ内に排出(以下、吐出液排出操作という。)し、前記デキャップ時間の測定開始時(以下、基準時という。)は、直近の印刷時における吐出液排出操作終了時とし、前記吐出液排出操作終了時に、前記基準時からの経過時間が、第2の所定時間以内であり、且つ前記経過時間中に維持回復動作で前記キャップ中に排出した吐出液の排出量が、所定量を超えていた場合は、前記基準時を前記印刷終了時とすることを特徴とする液滴吐出装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液滴吐出装置及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液滴吐出装置は、例えば、プリンタ、ファクシミリ、複写装置等のインクジェット方式の画像形成装置の画像形成部として利用されている。インクジェット方式の画像形成装置は、ヘッド(記録ヘッド)から記録紙等の記録媒体にインク滴を吐出して画像形成(印写、印字、印刷などともいう。)を行うものであり、高速で精細なカラー画像を形成することが容易で、小型で騒音が少なく、且つ、低コストであるなどの利点を有している。
【0003】
画像形成装置用の液滴吐出装置(以下、液滴吐出装置と略称する。)の吐出液(以下、吐出液の代表例としてインクで説明する。)は、インク吐出の信頼性向上のために、粘度の上昇を極力押さえる方向で検討されていた。しかし、最近の液滴吐出装置は、画像の高画質化及び高速印刷のためにインクを小滴化する傾向にあり、そのためにはヘッドのノズル径も小径化される方向にある。この場合、液滴吐出装置のヘッドからの吐出安定性が問題となる。ヘッドの吐出安定性を確保するためには高粘度のインクを使用する必要があり、粘度の高いインクで高速印刷かつ高品位な画像を確保するには、インクそのものの品質安定性を確保することが必要である。
【0004】
上述のように、粘度の安定性はインクの品質安定性のうちでも重要な要素である。ヘッドのノズル部でインクの粘度が変化すると、ノズルからのインク吐出の性能に直接影響する。一般に、ノズル部でインクから水分が蒸発することによりインクの粘度が上昇し、インク吐出が不良になることが多い。この為、印刷開始前にインクの空吐出をして、増粘したインクを排出した後に印刷を実行する液滴吐出装置が多い。
【0005】
最近の高性能の液滴吐出装置においては、印刷中のヘッドの信頼性を確保するための維持回復動作が不可欠である。維持回復動作は、ノズル孔付近で乾燥により粘度が上昇したインクを排出したり、ノズル孔周辺に付着した増粘あるいは乾燥したインクやほこり、ごみなどの異物を除去したり、ノズルの内部での気泡発生などによりエアーダンパー現象が発生するなどして、正常なインク吐出ができなくなることを防止したりする。このため、維持回復機構は、ヘッドのノズル面を密閉するキャップ、キャップ内に連通しノズルからヘッド内のインクを吸引する吸引ポンプ、ゴムなどの弾性部材を用いてノズル面をワイピングするワイパーブレード、ヘッドから空吐出したインクを受容する空吐出受けなどから構成されている。
【0006】
維持回復動作については、すでに一般化しているが、図8を参照して、液滴吐出装置の維持回復動作に注目した印刷動作を説明する。通常、液滴吐出装置のヘッドは、印刷待機状態では、すべてキャップで覆われている。そして、液滴吐出装置は、印刷命令を受ける(ステップS101)と、まず維持回復動作をする(ステップS102)。この最初の維持回復動作は、キャップ内での空吐出の場合が多い、しかし、休止期間が長い場合は、ヘッド内のインクの粘度上昇が大きいと考え吸引装置による吸引を行うこともある。吸引動作は専用の吸引キャップを備えた吸引装置で実施することが多い。また、従来の液滴吐出装置においては、印刷休止時にヘッドを覆っておくキャップと印刷中の維持回復動作のための空吐出受けとは異なっていることが多い。
【0007】
そして、本来の目的である印刷動作に入る(ステップS103)。印刷動作中に所定の維持回復条件に達する(ステップS104のY)と、印刷を中断してヘッドの維持回復動作(ステップS102)を行う。この維持回復動作においても空吐出の場合と、吸引動作の場合がある。これらの動作は専用の維持回復装置により行う。さらに、ワイパーブレードによるノズル周辺の清掃を含む場合もある。これらの維持回復動作は、ステップS104における維持回復条件の中に複数の条件が設定されていることで選択できる。なお、維持回復条件とは、例えば、前回の維持回復動作からの印刷継続時間やインク吐出量などが挙げられる。
【0008】
維持回復動作が終了したら、又印刷を続け、印刷終了に至るまで、維持回復動作を挟みながら印刷を継続する(ステップS104のN)(ステップS105のN)。
【0009】
印刷終了になったら(ステップS105のY)、ヘッドにキャッピング(保湿用のキャップでヘッドを覆っておくこと)をして(ステップS106)、液滴吐出装置は待機状態とする(ステップS107)。なお、キャッピング前に、維持回復動作をしてからキャッピングしてもよい。この場合は、ワイパーブレードによるワイピングを含む維持回復動作が好ましい。
【0010】
維持回復動作において、ヘッドのインク吐出性能を維持するために、維持回復動作をしすぎると、維持回復動作に時間を取られ印刷時間が制限されたり、インクの消費量が増加したりするという問題がある。そこで、特許文献1には、ヘッドがキャップにより覆われていない時間(デキャップ時間)に基づいて、複数の維持回復動作を状況に応じて段階的に実施し、インク消費の低減とインク吐出の信頼性を両立させるインクジェット記録装置が開示されている。
【0011】
特許文献2には、ヘッドのインク吐出性能に影響が大きいと考えられる要素、例えば、ヘッドが前回インク吐出してからの時間、前回吸引ポンプにより吸引が行われてからの時間、キャップによりノズル面が覆われてからの時間等の組合せに応じて、維持回復機構による維持回復動作を選択するインクジェット記録装置が開示されている。ヘッドのインク吐出に影響を及ぼさないようなときには、電源オン(印刷開始)に伴う維持回復動作を行なわないようにしてインクを節約し、印刷速度の低下や排出インクの増加等によるランニングコストの低減を図ったインクジェット記録装置が開示されている。
【0012】
これらのインクジェット記録装置においては、印刷中のヘッドのインク吐出性能の維持回復という面からは優れた効果を発揮できる。しかし、これらのインクジェット記録装置においては、印刷休止、すなわちヘッドがキャップで覆われている(キャッピングされている)ときの吐出性能の変化には注意が払われていない。本来、ヘッドのキャッピングはノズル面へのホコリの付着や、ノズル面やノズル部のインクの乾燥を防ぐためのものであるが、長時間キャッピングが続いたり、インクの性質によりキャッピング中に乾燥し増粘し易くなったりする液滴吐出装置もある。
【0013】
特許文献3には、所定状態にあるヘッドがキャッピングされていない状態(デキャッピング状態)の累積時間だけでなく、キャッピング状態の累積時間が、それぞれ所定時間以上になった際に維持回復動作を行うインクジェット方式の画像形成装置が開示されている。この画像形成装置は、印刷中(ヘッドのデキャッピング中)だけでなく、キャップの乾燥によるヘッドのキャッピング中における乾燥にも対応することを目的としている。特に、この画像形成装置は、キャップ内に残留し、一部乾燥しているインクが、キャッピング中のノズル内のインクの水分を吸収してノズルの吐出不良を起こすことを防止する目的を持っている。
【特許文献1】特開2004−160803号公報
【特許文献2】特許第2877971号公報
【特許文献3】特開2006−159717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載のインクジェット記録装置においては、ノズル内のインクの吐出不良は、印刷中に起こることを前提にしており、印刷開始時にノズルの維持回復動作をしておき、印刷中のインク吐出不良の要素を勘案して維持回復動作を繰り返していけば、ヘッドは順調に作動するとしている。また、特許文献2,3に記載の画像形成装置においては、キャッピング中(印刷休止中)の時間も勘案して維持回復動作を実施している。特に、特許文献3に記載の画像形成装置は、キャップ内の湿潤状態を維持するための維持回復動作も含んでいる。
【0015】
これらの装置は、ノズルの吐出状態を正常に保つという点からは、好適な液滴吐出装置を備えている。しかし、ノズルの吐出状態を正常に保ちながら、さらにインクの消費節約を考えるとき、まだ改善の余地がある。すなわち、キャップ内の湿潤状態により、キャッピングされているノズル中のインクの乾燥、増粘の程度は異なるが、特許文献3に記載の画像形成装置においても、これらの要素まで考慮していない。
【0016】
本発明の目的は、上記課題を踏まえ、キャッピング中のノズルの湿潤状態を制御して、ヘッドを正常状態に維持すると伴に、吐出液の消費を低減した液滴吐出装置、及びこれを備えた画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、ノズルから液滴を吐出するヘッドと、前記ヘッドを搭載し走査方向に移動するキャリッジと、前記ヘッドの液滴吐出動作休止時に前記ノズル面を覆うキャップ(以下、キャッピングという。)と、前記キャップを介して前記ヘッドから吐出液を吸引する吸引装置とを備えた液滴吐出装置であって、ノズルの液滴吐出状態を正常に保つために、前記ヘッド内の吐出液の前記キャップ内への排出(以下、維持回復動作という。)が可能であり、印刷終了までの間で、前記ヘッドをキャッピングしていなかった時間(以下、デキャップ時間という。)が第1の所定時間以上であったときは、印刷終了時にキャッピングすると伴に前記ヘッド内の吐出液を前記キャップ内に排出(以下、吐出液排出操作という。)し、
前記デキャップ時間の測定開始時(以下、基準時という。)は、前回の吐出液排出操作終了時とし、前記デキャップ時間が第1の所定時間未満であり、前記基準時から印刷終了時までの経過時間が第2の所定時間未満であり、且つ前記経過時間中に前記キャップ中に排出した吐出液が所定量以上であった場合は、前記基準時を前記印刷終了時とすることを特徴とする液滴吐出装置である。
【0018】
この液滴吐出装置は、前回キャップに吐出液を排出してからの印刷中のヘッドのデキャップ時間、これにキャッピング時間を含めた経過時間、印刷中のキャップへの吐出液の排出量に応じて、印刷終了時にキャップ中に吐出液を排出したり、排出しなかったり、さらに、吐出液を排出しないけれどもキャップの状態は吐出液排出と同等の状態とみなして次の印刷に備えてデキャップ時間等をリセットしたり、吐出液を排出しないけれどもキャップの状態は吐出液排出時とは異なっているのでデキャップ時間をリセットしないで待機させ、次の印刷時にはこれを加味してキャップ中への吐出液の排出の判断をすることができるようにしたりすることができる。このように印刷終了時のキャップへの吐出液排出を緻密に制御することで、印刷終了時のキャップへの吐出液排出を最小限抑えることができ、吐出液の消費を押さえながら、ヘッドの乾燥による吐出不良の防止をしている。
【0019】
好ましい本発明は、前記吐出液の所定量は、前記吐出液排出操作において、前記キャップ内に排出する吐出液の排出量と略同じであることを特徴とする前記液滴吐出装置である。
【0020】
この液滴吐出装置は、吐出液を排出しないでキャッピングする場合に、デキャップ時間をリセットするかどうかの具体的判定基準を明確にして、ヘッドの吐出不良の防止と吐出液の消費の低減を図っている。前記吐出液の所定量が、吐出液排出操作において、キャップ内に排出する吐出液の排出量と略同じであるということは、印刷中に維持回復動作によってキャップ内に、すでに吐出液排出操作によってキャップを湿潤させる量の吐出液が排出されているので、それ以上吐出液排出操作によってキャップを湿潤させる必要がないと判断できる。
【0021】
本発明は、ノズルから液滴を吐出するヘッドと、前記ヘッドを搭載し走査方向に移動するキャリッジと、前記ヘッドの液滴吐出動作休止時に前記ノズル面を覆うキャップ(以下、キャッピングという。)と、前記キャップを介して前記ヘッドから吐出液を吸引する吸引装置とを備えた液滴吐出装置であって、ノズルの液滴吐出状態を正常に保つために、前記ヘッド内の吐出液の前記キャップ内への排出(以下、維持回復動作という。)が可能であり、印刷終了までの間で、前記ヘッドをキャッピングしていなかった時間(以下、デキャップ時間という。)が第1の所定時間以上であったときは、印刷終了時にキャッピングすると伴に前記ヘッド内の吐出液を前記キャップ内に排出(以下、吐出液排出操作という。)し、
前記デキャップ時間の測定開始時(以下、基準時という。)は、前回の吐出液排出操作終了時とし、前記デキャップ時間が第1の所定時間未満であり、前記基準時から印刷終了時までの経過時間が第2の所定時間未満であり、且つ前記経過時間中に前記ヘッドから前記キャップ中に吐出液を排出した排出回数が所定回数以上であった場合は、前記基準時を前記印刷終了時とすることを特徴とする液滴吐出装置である。
【0022】
この液滴吐出装置は、維持回復動作における1回のキャップ内への吐出液の排出量が分かっていれば、維持回復動作におけるキャップ内への吐出液の排出回数(空吐出や吸引動作の回数)を計測することで、排出吐出液量に替えているので、上述の液滴吐出装置と同じ効果があるが、排出回数というより計測の簡単な構成で目的を達成できる。
【0023】
好ましい本発明は、前記キャップは、排出された吐出液を保持する吐出液保持材を備えることを特徴とする前記液滴吐出装置である。
【0024】
この液滴吐出装置は、キャップ内に吐出液保持材を備えることにより、キャップ内により多くの吐出液を保持し、長期間湿潤状態を保つことができる。
【0025】
好ましい本発明は、前記ヘッドを複数備え、それぞれのヘッドに対応してキャップを備えていることを特徴とする前記液滴吐出装置である。
【0026】
この液滴吐出装置は、インクの種類や使用頻度に対応しやすく、ヘッド毎、キャップ毎に制御が可能となる。
【0027】
好ましい本発明は、前記複数のキャップのうち、ひとつは前記吸引装置と連結していることを特徴とする前記液滴吐出装置である。
【0028】
この液滴吐出装置は、維持回復動作のうち吸引動作も吸引用専用の吸引用キャップを使用しなくてもよく、装置の小型化簡略化が可能になる。
【0029】
好ましい本発明は、前記第1の所定時間、前記第2の所定時間、並びに前記吐出液の所定量又は吐出液排出の前記所定回数は、それぞれヘッド毎に設定されることを特徴とする前記液滴吐出装置である。
【0030】
この液滴吐出装置は、一つひとつのヘッドをきめ細かく制御でき、吐出トラブルの防止と吐出液の節約が容易になる。特に、吐出液の質や使用量が異なる場合に好適である。
【0031】
好ましい本発明は、前記第1の所定時間、前記第2の所定時間、並びに前記吐出液の所定量又は吐出液排出の前記所定回数は、それぞれキャップ毎に設定されることを特徴とする前記液滴吐出装置である。
【0032】
この液滴吐出装置は、一つひとつのキャップをきめ細かく制御でき、吐出トラブルの防止と吐出液の節約が容易になる。特に、吐出液の質や使用量が異なる場合に好適である。
【0033】
好ましい本発明は、前記第2の所定時間、並びに前記吐出液の所定量又は吐出液排出の前記所定回数は、前記経過時間中の温度及び/又は湿度に応じて設定されることを特徴とする前記液滴吐出装置である。
【0034】
この液滴吐出装置は、キャップ中の吐出液の蒸発に大きく影響する温度、及び/又は湿度の影響を除去することができる。
【0035】
好ましい本発明は、前記ノズル面を清掃するワイパーブレードを備えることを特徴とする前記液滴吐出装置である。
【0036】
この液滴吐出装置は、ヘッドの維持回復に好適なワイパーブレードを備えることで、吐出トラブルの防止に寄与する。
【0037】
本発明は、前記液滴吐出装置のうちいずれかを備えたことを特徴とする画像形成装置である。
【0038】
この画像形成装置は、上述の液滴吐出装置の特徴を備えた画像形成装置である。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、キャッピング中のノズルの湿潤状態を制御して、ヘッドを正常状態に維持すると伴に、吐出液の消費を低減した液滴吐出装置、及びこれを備えた画像形成装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明の液滴吐出装置を備えた画像形成装置の例について、図1を参照して簡単に説明する。図1は、主に本発明の液滴吐出装置を表した本発明の画像形成装置の要部説明図である。図1に示すように、この画像形成装置は、記録紙等の記録媒体が搬送されるプラテンの真上に、記録媒体の搬送方向(副走査方向)に直角な水平方向に(主走査方向)に移動可能なキャリッジ2にヘッドが搭載されている。キャリッジ2は、ガイドロッドに支持されて主走査方向に移動可能で、記録媒体の幅方向である印刷領域、その外側に配置された維持回復装置3の上部領域、及び場合によっては印刷領域を挟んで反対側になる空吐出装置5の配置されている領域まで移動(走査)できる。なお、この画像形成装置においては、この空吐出装置5も維持回復装置の一部としてもよいが、キャップが空吐出装置を兼ねることができるので設置する必要はない。この画像形成装置のうち、本発明の液滴吐出装置となる部分は、キャリッジ2上のヘッド、及び維持回復装置3である。なお、廃液タンク4、及び空吐出装置5は維持回復装置3の一部である。
【0041】
図2は、2ヘッドタイプの本発明の液滴吐出装置の模式図である。図2においては、ヘッド2a,2bはキャリッジにより維持回復装置3の真上に走査されており、キャップ3a,3bがそれぞれヘッド2a,2bの下部のノズル面を覆って(キャッピングして)いる。ヘッド2a,2bのノズル面とキャップ3a,3bは密着しており、キャッピング中は、ノズル面はほとんど外気に曝されることがない。
【0042】
キャップ3a,3bの内部には、それぞれ吐出液保持材7a,7bを備えている。吐出液保持材7a,7bは、必ずしも備える必要はないが、キャップ内に排出された吐出液をできるだけ多くキャップ内に保持し、長期間キャップ内を湿潤状態に保つために有効である。吐出液保持材7a,7bは、排出された吐出液をできるだけ多く保持していることが好ましいので、キャップ3a,3bの下部全体に配置されていることが望ましい。吐出液保持材7a,7bの素材としては、スポンジのような通気性のある多孔質物質や、布、不織布、綿、紙、のように繊維質の材料で作った厚手のフィルターのような板状体、素焼きや金属粒の焼結体、吸湿性の大きい合成繊維などを用いればよい。
【0043】
キャップ3a,3bの下部には、キャップ内に排出された過剰の吐出液を廃棄する吐出液排出路8a,8bが設置されている。通常、吐出液排出路8a,8bは、可撓性のチューブで作製されている。そして、吐出液排出路8a,8bは、廃液タンク4と連通している。キャップ3a,3bは、ヘッド2a,2bと密着したり、離間したりするために、上下に移動する構造になっている。キャップ3a,3bが上下に移動しても、吐出液排出路8a,8bが可撓性のチューブで作製されていれば、廃液タンク4を移動させないで追随することができる。
【0044】
吐出液排出路8a,8bのうち、少なくとも一つ(図2においては、吐出液排出路8a)は吸引ポンプ6と連結しており、吸引ポンプ6を作動させることにより、キャップ3aと密着しているヘッド2aから吐出液を吸引することができる。この動作により、ヘッド2a内に滞留している増粘した吐出液や吐出液中に発生した粒子などを吸引することができる。なお、図示した吸引ポンプ6は、吐出液排出路8aの一部を利用した蠕動ポンプ、チューブポンプなどと呼ばれるポンプであるが、本発明においては、キャップ中の空気や吐出液を吸引できる吸引手段であればどのような形式のポンプでもよい。
【0045】
吐出液排出路8aと連結しているキャップ3aは、ヘッドの維持回復動作のうち吸引動作を受け持つが、空吐出受けとしての機能も持っている。吐出液排出路8bと連結しているキャップ3bは、ヘッドの維持回復動作のうち空吐出受けとしての機能のみを持っている。通常、印刷中のヘッドの維持回復動作は空吐出のみで十分であり、維持回復動作のうち空吐出動作の方が多い。空吐出動作の場合は、キャップに吐出された吐出液(インクということがある。)が吐出液排出路から吸引されないので、吐出液保持材に保持されやすく、吸引動作に較べキャップ内を長期間湿潤状態に保つことができる。
【0046】
この維持回復装置3には、図示していないが、ノズル面などヘッドのノズル周辺を清掃するワイパーブレードを備えていることが好ましい。ワイハーブレードは、従来から知られている形式のゴム製などのものを用いればよく、ワイピングしたインクを収容して廃液タンク4に導入するインク受けを備えていてもよい。また、このインク受けの機能をキャップ3a又は3bに持たせてもよい。
【0047】
液滴吐出装置のヘッドは、図2のヘッド2a,2bのように、複数が一組になっていることが多い。例えば、図2に示すヘッド2a,2bの場合、それぞれのヘッドに2列ずつの複数のノズルを有するノズル列が配置されており、合計4個のノズル列を備えている。通常、それぞれのノズル列は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのインクを吐出するノズルである。なお、ヘッドを4個とし、それぞれのヘッドに各色のインクを吐出するノズルを形成してもよい。この場合、ヘッド毎に対応するキャップを設けてもよいし、複数のヘッドを一つのキャップでキャッピングするキャップを設けてもよい。なお、複数のキャップがあり、そのうちの一部のキャップのみが吸引ポンプを備えている場合は、キャリッジの走査によって、すべてのヘッドが吸引ポンプ付のキャップでキャッピングし、吸引できるようにしておく。
【0048】
この液滴吐出装置は、その他にも、それぞれのヘッドやキャップのキャッピング時間やデキャッピング時間を計測する時間計測手段、それぞれのキャップへの吐出液の排出量の計測手段とその累積手段、それぞれのキャップへの吐出液の排出回数とその累積手段等を備えている。なお、キャップへの吐出液の排出量の計測手段としては、装置設計時に設定されている空吐出量や、吸引動作における吸引ポンプ駆動時間に対応するインク吸引量などから算出するものでもよいし、一度測定して、記憶装置に記憶させておいた基準量でもよい。
【0049】
(実施形態1)
図3を参照しながら、本発明の実施形態1の液滴吐出装置の動作フローを説明する。この液滴吐出装置は、待機していたヘッドが印刷命令を受けてから印刷が終了するまでの動作は、従来の液滴吐出装置の動作フローと類似している。しかし、実施形態1の液滴吐出装置では、印刷実行時間や維持回復動作における空吐出量、吸引ポンプによる吸引量などを計測している。
【0050】
動作フローを、具体的にステップを追って、図2も参照しながら説明する。液滴吐出装置のヘッドは、印刷待機状態では、すべてキャップで覆われている。そして、液滴吐出装置は、印刷命令を受ける(ステップS1)と、まず最初の維持回復動作をする(ステップS2)。この維持回復動作は、通常はキャップ3a,3b内での空吐出をすればよい。しかし、休止期間が長い場合は、ヘッド内のインクの粘度上昇が大きいので吸引装置による吸引を行ってもよい。吸引動作は専用の吸引キャップ3aを備えた吸引ポンプ6で実施する。この場合、ヘッド2a,2bを順に吸引キャップ3aによってキャッピングして吸引動作を実施する。
【0051】
最初の維持回復動作が終了したら、本来の目的である印刷動作に入る(ステップS3)。印刷動作中に所定の維持回復条件に達する(ステップS4のY)と、印刷を中断してヘッドの維持回復動作(ステップS2)を行う。この維持回復動作においても空吐出の場合と、吸引動作の場合がある。さらに、ワイパーブレードによるノズル周辺の清掃を含む場合もある。これらの維持回復動作は、ステップS4のYにおける維持回復条件の中に複数の条件が設定されていることで選択できる。なお、維持回復条件とは、例えば、前回の維持回復動作からの印刷時間やインク吐出量、インクの種類、印刷中の温度湿度のような環境条件などにより設定される。また、この維持回復条件は、ヘッド毎に設定してもよいし、ヘッド全体を一括して設定してもよい。本発明の吐出装置においては、後述するようにキャップを吐出液で湿潤させておく必要があるため、複数のキャップがあれば、それぞれのキャップに順に空吐出することが好ましい。
【0052】
維持回復動作が終了したら、又印刷に戻り(ステップS3)、印刷終了になるまで、維持回復動作を挟みながら印刷を実行する(ステップS5のN)。一連の印刷及び維持回復動作中、それぞれのキャップ3a,3bに空吐出された吐出液の量を算出して累積しておく。1回毎の空吐出量は、計測してもよいが、ヘッド毎、さらに詳しくはノズル毎に設定されているので、その設定値を利用して算出してもよい。また、印刷命令を受けてから印刷終了までの時間、すなわちそれぞれのキャップにおいてヘッドが上部に密着していなかった時間(ヘッドのデキャップ時間)も計測しておく。
【0053】
印刷終了になったら(ステップS5のY)、計測していたキャップのデキャップ時間が所定値(第1の所定時間)以上か否かを判定する(ステップS6)。この判定は、キャップ毎に行ってもよいし、キャップ全体を同一とみなして判定してもよい。また、キャップのデキャップ時間の所定値は、キャップ毎に異なっていてもよいし、同じでもよい。デキャップ時間が所定値未満であれば(ステップS6のN)、経過時間が所定値(第2の所定時間)以上かを判定する(ステップS7)。この判定も、キャップ毎に行ってもよいし、キャップ全体を同一とみなして判定してもよい。ここで、経過時間とは、原則的には、前回の印刷を実行したときに、印刷が終了しヘッドにキャッピングしたときを基準時とした経過時間である。言い換えれば、キャッピング時間とデキャッピング時間の合計時間である。この所定値(第2の所定時間)は、キャップ3aとキャップ3bとで異なっていてもよい。すなわち、キャップ3aにおいては、空吐出のほかに吸引動作が実施されており、吐出液がキャップ3a内に保持され難いので、所定値を短めにすることがある。また、印刷中の維持回復動作において、一方のキャップ、例えばキャップ3bへの吐出液の排出を少なくする調整がなされていれば、キャップ3bに対する所定値を短くすることが好ましい。
【0054】
この経過時間が所定値未満(ステップS7のN)であれば、さらに印刷中の吐出液の排出量が所定値以上か否かを判定する(ステップS8)。印刷中のそれぞれのキャップへの吐出液の排出量が所定値以上(ステップS8のY)であれば、デキャップ時間をリセットして、この時点を基準時とし、この基準時からのデキャップ時間のカウントを始める(ステップS9)。吐出液の排出量の所定値は、1回の維持回復動作における吐出液使用量と略同じとすることが好ましい。
【0055】
この時点では、ヘッドはそのままキャッピングされて待機状態となるので、実質的には、次の印刷命令を受けてからのデキャップ時間がカウントされる。吐出液の排出量の所定値は、各キャップ毎に異なっているので、それぞれのキャップ毎に判定する。また、キャップ3bにおいては、吸引動作によって吐出液が排出されることはないので、吐出液の排出量は、キャップへの空吐出量としてもよい。
【0056】
デキャップ時間のリセットと同時に、経過時間もリセットして基準時を更新し、経過時間のカウントを始める(ステップS10)。経過時間は、リセットされたときからカウントを始め、ヘッドのキャッピング、デキャッピングの状態に関係なく計測していく。
【0057】
さらに、吐出液の排出量もリセットしてこの基準時からの吐出液の排出量をカウントして累積していく(ステップS10)。これらのリセット及びカウント開始の準備ができたら、ヘッドにキャッピング(ステップS11)をして、液滴吐出装置は待機状態とする(ステップS12)。なお、ここで、最後の維持回復動作をしてからキャッピングしてもよい。この場合は、ワイパーブレードによるワイピングを含む維持回復動作が好ましい。また、この時点で維持回復動作をする場合は、デキャップ時間のリセット(ステップS9)、経過時間のリセット(ステップS10)、吐出液の排出量のリセット(ステップS11)前に実施してもよい。
【0058】
ステップ6において、キャップのデキャップ時間が所定値(第1の所定時間)以上(ステップS6のY)であった場合は、ヘッドからキャップ内への吐出液排出を行う(ステップS14)。吐出液排出は、空吐出を行えばよいが、吸引動作によってもよい。吸引動作の場合は、キャップに設置した吐出液保持部材7aから吐出液が吸引されるほど強力に吸引しない方がよい。吐出液の排出量は、インク(吐出液)の種類によって変更してもよいし、キャップのデキャップ時間によって調整してもよい。ヘッドからキャップ内への吐出液排出(ステップS14)が終了したら、デキャップ時間のリセット(ステップS9)に戻って、上述のフローに従って基準時の更新等を実行する。
【0059】
ステップS7の経過時間の判定において、経過時間が所定値(第2の所定時間)以上(ステップS7のY)であった場合、及びステップS15のヘッドからキャップへの累積の排出量の判定において、排出量が所定値未満(ステップS8のN)であった場合、デキャップ時間のリセット(ステップS9)、経過時間のリセット(ステップS10)、及び排出量のリセット(ステップS11)を実施しないで、ヘッドのキャッピング(ステップ12)に移行し、液滴吐出装置は待機状態(ステップS13)とする。
【0060】
このような印刷及び維持回復動作をすることにより、この液滴吐出装置は、前回の印刷後のキャッピングからの経過時間が短く、且つ、印刷中にキャップに排出された吐出液の排出量が所定値以上であれば、印刷終了後にキャップ中に吐出液を排出していなくても、キャップ中は吐出液により十分湿潤しているものと判断し、キャップ中に吐出液を排出したときと同じように、デキャップ時間及び経過時間のリセット(基準時の更新)、並びに排出量のリセットを実施する。これにより、次回の印刷の際に、印刷終了時の吐出液排出動作をしなくてよい場合があり、吐出液の節約につながる。なお、ヘッドの維持回復及びキャップの湿潤状態の維持については、経過時間及び排出量の判定(ステップS7,S8)によって管理されているので問題はない。また、第1の所定時間、第2の所定時間、維持回復操作中の吐出液の所定量については、キャップ毎に、且つヘッド毎に設定すれば、きめ細かい吐出液消費量の管理が可能である。
【0061】
(実施形態2)
本発明の実施形態2の液滴吐出装置の印刷動作フローについて、図4を参照にしながら説明する。なお、上述の実施形態1の液滴吐出装置の印刷動作フローと重複する部分は、適宜省略して説明する。
【0062】
この形態の液滴吐出装置の印刷動作フローは、実施形態1の液滴吐出装置の印刷動作フローのうち、印刷命令(ステップS1)から印刷終了(ステップS5のY)までのステップにおいては、維持回復動作(ステップS2)時に、ヘッドからキャップに排出した吐出液の累積量を計測する代わりに、ヘッドからキャップに空吐出や吸引動作により吐出液を排出した回数を計測している以外は、実施形態1の液滴吐出装置の印刷動作フローと同じである。なお、図4においては、図3における印刷動作フローのステップのステップ番号に20を加えて、対応するステップのステップ番号を付けている。
【0063】
実施形態2におけるデキャップ時間の判定(ステップS26)から待機(ステップS33)までも、実施形態1におけるデキャップ時間の判定(ステップS6)から待機(ステップS13)までに対応するが、吐出液の排出回数判定(ステップS28)と、吐出液の排出回数リセットカウント開始(ステップS31)の二つのステップが異なっている。実施形態1では、吐出液の排出量であったが、実施形態2においては、吐出液の排出回数に変更している。それ以外の動作は、基本的に同じ動作である。
【0064】
すでに述べたように、ヘッドからキャップに排出される吐出液は、空吐出においても、吸引動作においても、ヘッドからの1回ごとの排出量は制御されている。それ故、排出量を排出回数に変更しても、その作用効果は同じである。また、第1の所定時間、第2の所定時間、維持回復操作中の吐出液の排出の所定回数については、キャップ毎に、且つヘッド毎に設定すれば、きめ細かい吐出液消費量の管理が可能である。
【0065】
(実施形態3)
本発明の実施形態3の液滴吐出装置の印刷動作フローについて、図5を参照にしながら説明する。なお、上述の実施形態1の液滴吐出装置の印刷動作フローと重複する部分は、適宜省略して説明する。
【0066】
この形態の液滴吐出装置の印刷動作フローは、実施形態1の液滴吐出装置の印刷動作フローのうち、印刷命令(ステップS1)から印刷終了(ステップS5のY)までの印刷動作フローと同じである。なお、図5においては、図3における印刷動作フローのステップと同じステップには同じステップ番号を付けている。
【0067】
実施形態3におけるデキャップ時間の判定(ステップS6)から待機(ステップS13)までも、実施形態1におけるデキャップ時間の判定(ステップS6)から待機(ステップS13)までに対応するが、実施形態3では、ステップS6のデキャップ時間の判定とステップS7の経過時間の判定の間に、経過時間に温湿度係数を乗じるステップS15を含んでいる。すなわち、経過時間の判定(ステップS7)の前に、経過時間に温度及び/又は湿度に対応した係数を乗じて(ステップS15)、経過時間の判定結果を調整する。具体的には、基準の気温及び湿度に対して、気温が高い及び/又は湿度が低いときは、係数を1より大きくして、判定対象の経過時間を長くする。一方、基準の気温及び湿度に対して、気温が低い及び/又は湿度が高いときは、係数を1より小さくして、判定対象の経過時間を短くする。これにより、基準の気温及び湿度に対して、気温が高い及び/又は湿度が低いときは、デキャップ時間、経過時間、排出量のリセットに対する制限を厳しくして、キャップ内の吐出液の蒸発速度の増加に対処する。また、基準の気温及び湿度に対して、気温が低い及び/又は湿度が高いときは、デキャップ時間、経過時間、排出量のリセットに対する制限を緩くして、吐出液排出の回数を減らし、吐出液の消費を押さえる。気温が低い及び/又は湿度が高いときは、キャップ内の吐出液の蒸発速度の小さくなるので、このようにしても問題はない。なお、この実施形態では、ステップS15で経過時間に温度及び/又は湿度に対応した係数を乗じて、ステップS7での経過時間の判定結果を調整しているが、ステップS15で、逆に経過時間の所定値(第2の所定時間)に温度及び/又は湿度に対応した係数を乗じて、ステップS7での経過時間の判定結果を調整してもよい。この場合は、乗じる係数は、上述の経過時間に乗じる係数と反比例の関係とあることになる。
【0068】
(実施形態4)
本発明の実施形態4の液滴吐出装置の印刷動作フローについて、図6を参照にしながら説明する。なお、上述の実施形態2の液滴吐出装置の印刷動作フローと重複する部分は、適宜省略して説明する。
【0069】
この形態の液滴吐出装置の印刷動作フローは、実施形態1の液滴吐出装置の印刷動作フローのうち、印刷命令(ステップS21)から印刷終了(ステップS25のY)までの印刷動作フローと同じである。なお、図6においては、図4における印刷動作フローのステップと同じステップには同じステップ番号を付けている。
【0070】
実施形態4におけるデキャップ時間の判定(ステップS26)から待機(ステップS33)までも、実施形態2におけるデキャップ時間の判定(ステップS26)から待機(ステップS33)までに対応するが、実施形態4では、ステップS26のデキャップ時間の判定とステップS27の経過時間の判定の間に、経過時間に温湿度係数を乗じるステップS35を含んでいる。すなわち、経過時間の判定(ステップS27)の前に、経過時間に温度及び/又は湿度に対応した係数を乗じて、経過時間の判定結果を調整する。具体的には、基準の気温及び湿度に対して、気温が高い及び/又は湿度が低いときは、係数を1より大きくして、判定対象の経過時間を長くする。一方、基準の気温及び湿度に対して、気温が低い及び/又は湿度が高いときは、係数を1より小さくして、判定対象の経過時間を短くする。これにより、基準の気温及び湿度に対して、気温が高い及び/又は湿度が低いときは、デキャップ時間、経過時間、排出量のリセットに対する制限を厳しくして、キャップ内の吐出液の蒸発速度の増加に対処する。また、基準の気温及び湿度に対して、気温が低い及び/又は湿度が高いときは、デキャップ時間、経過時間、排出量のリセットに対する制限を緩くして、吐出液排出の回数を減らし、吐出液の消費を押さえる。気温が低い及び/又は湿度が高いときは、キャップ内の吐出液の蒸発速度の小さくなるので、このようにしても問題はない。なお、この実施形態では、ステップS35で経過時間に温度及び/又は湿度に対応した係数を乗じて、ステップS27での経過時間の判定結果を調整しているが、ステップS35で、逆に経過時間の所定値(第2の所定時間)に温度及び/又は湿度に対応した係数を乗じて、ステップS27での経過時間の判定結果を調整してもよい。この場合は、乗じる係数は、上述の経過時間に乗じる係数と反比例の関係とあることになる。
【0071】
(吐出液排出走査における吐出液の排出量)
印刷が終了してから吐出液をキャップ内に排出する場合(例えば図3におけるステップS14)は、ヘッドからキャップ内への空吐出が好ましい。この空吐出の吐出量は、少なすぎると、キャップ内の吐出液保持材を十分湿潤させられず、キャップ内の湿度を保つことができない。この為、この空吐出の吐出量はある程度の量が必要となる。図7に示すように、空吐出された量が、第1の所定時間に対応する印刷中の維持回復動作によってキャップ中に排出される排出量と同等の量以上であれば、十分にキャップ内の吸収体の湿度は保持することができる。図7には、左側に終了してから吐出液をキャップ内に排出する場合の排出量(空吐出量)を、右側に第1の所定時間に対応する印刷中の維持回復動作によってキャップ中に排出される排出量(吸引動作により排出される排出量と空吐出により排出される排出量の合計排出量)を表しており、左側の排出量(空吐出量)が右側の吸引量と空吐出量と同じか、これ以上であれば十分であることを示している。なお、インクの節約の観点からは、同じであることが望ましい。また、空吐出された排出量は、インク種の特性によって乾燥度合いが変わる場合もあり、インク種毎に係数を乗じて最適な排出量を算出しても良い。
【0072】
また、実施形態1、及び3の液滴吐出装置においては、ステップS8に示した吐出液の排出量の所定値は、図7における左側の排出量(空吐出量)と略等しいことが好ましい。排出量の所定値と図7における左側の排出量(空吐出量)とが等しければ、キャップ内の吐出液の保持量がほぼ等しくなり、ほぼ同じ湿潤状態が保たれる。
【0073】
(ヘッドの撥水処理)
本発明で用いることができるヘッドのノズル面は、撥水性を有する材料でコーティングされていることが好ましい。撥水性を有する材料でコーティングされていることによって、汚れの原因となる吐出液(インク)が弾かれ、インクがノズル面に付着することが抑制される。このため、汚れが固化することによって生じる粒によりノズルや吐出口が閉塞されることが防がれる。仮に付着したとしても、その結合力は弱い。
【0074】
また、インクの表面張力が低い場合、一般的なノズル面ではノズル近傍までインクが拡がってしまい、正常なメニスカスが形成されない場合がある。このような状態ではインクの吐出曲がりが生じたり、不吐出が生じたりしてしまう。しかし、ノズル面が撥水性を有する材料でコーティングされていれば、インクはノズル近傍に拡がらずにノズル内に留まるため、正常な吐出ができる。
【0075】
撥水材膜の形成は、真空下でのノズル面への蒸着であっても良いし、適当な溶媒に溶解させて塗布しても良い。前者について言えば、例えば、真空排気ポンプにて真空槽内を所定の真空度まで排気したのち、撥水性材料を400℃で気化せしめて真空槽に導入し、真空雰囲気を調整するとともに、高周波電源から放電電極に電力を供給してRFグロー放電を起こさせ、プラズマ雰囲気下に前記液体吐出ヘッドのオリフィス面を表面処理して、オリフィス面上に前記撥水膜を形成することができる。尚、材料および、真空槽内の真空度によっては、常温〜200℃程度の低温での撥水膜を形成することも可能である。また、後者について言えば、例えば、撥水性材料を有機溶剤に溶解させ、ワイヤーバーやドクターブレードなどの治具でコーティングすることができるし、スピンコーターによって回転塗布することもできるし、スプレーによって塗布することもできるし、塗工液を満たした容器に浸漬塗工(ディッピング)することもできる。
【0076】
撥水性材料としては、フッ素原子を有する有機化合物、特にフルオロアルキル基を有する有機物、ジメチルシリキサン骨格を有する有機ケイ素化合物等が使用できる。
【0077】
フッ素原子を有する有機化合物としては、フルオロアルキルシラン、フルオロアルキル基を有するアルカン、カンボン酸、アルコール、アミン等が望ましい。具体的には、フルオロアルキルシランとしては、ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラハイドロデシルトリメトキシシラン、ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラハイドロトリクロオシラン;フルオロアルキル基を有するアルカンとしては、オクタフルオロシクロブタン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−n−ヘキサン、パーフルオロ−n−ヘプタン、テトラデカフルオロ−2−メチルペンタン、パーフルオロドデカン、パーフルオロオイコサン;フルオロオアルキル基を有するカルボン酸としては、パーフルオロデカン酸、パーフルオロオクタン酸;フルオロアルキル基を有するアルコールとしては、3、3、4、4、5、5、5−ヘプタフルオロ−2−ペンタノール;フルオロアルキル基を有するアミンとしては、ヘプタデカフルオロ−1、1、2、2−テトラハイドロデシルアミン等が挙げられる。ジメチルシロキサン骨格を有する有機ケイ素化合物としては、α,w−ビス(3ーアミノプロピル)ポリジメチルシロキサン、α、w−ビス(3ーグリシドキシプロピル)ポリジメチルシロキサン、α,w−ビス(ビニル)ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。
【0078】
また、別の撥水性材料として、シリコン原子を有する有機化合物、特にアルキルシロキサン基を有する有機化合物が使用できる。アルキルシロキサン基を有する有機化合物としては、含アルキルシロキサンエポキシ樹脂組成物を構成する分子中にアルキルシロキサン基、及び環状脂肪族エポキシ基を2個以上有する含アルキルシロキサンエポキシ樹脂としては、例えば、下記一般式(a)及び(b)で表される構造単位を含む高分子化合物が挙げられる。
【0079】
【化1】

【0080】
この高分子化合物は、他の撥水性化合物と併用する際にバインダーとしての機能も果たす。つまり、撥インク性の組成物の塗布適性を高め、溶剤蒸発後の乾燥性を高める乾燥塗膜としての作業性を向上させる機能も与える。
【0081】
撥水膜の膜厚は、5μm以下が好ましく、より好ましくは2μm以下である。膜厚が5μmを超える場合、塗膜の乾燥が遅くなり生産性が悪くなったり、機械的耐久性が損なわれたりする場合があり、維持回復動作のワイピングしたときに剥がれが生じる恐れがある。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の液滴と出装置は、画像形成装置に利用されているが、例えば、その他のパターン形成画像形成においても有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の液滴吐出装置を備えた画像形成装置
【図2】本発明の液滴吐出装置
【図3】本発明の液滴吐出装置の動作のフロー図(1)
【図4】本発明の液滴吐出装置の動作のフロー図(2)
【図5】本発明の液滴吐出装置の動作のフロー図(3)
【図6】本発明の液滴吐出装置の動作のフロー図(4)
【図7】吐出液のキャップ内への排出量のイメージ
【図8】従来の液滴吐出装置の動作のフロー図
【符号の説明】
【0084】
1 :画像形成装置
2 :キャリッジ
2a,2b :ヘッド
3 :維持回復装置
3a,3b :キャップ
4 :廃液タンク
5 :空吐出受け
6 :吸引ポンプ
7a,7b :吐出液保持材
8a,8b :吐出液排出路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルから液滴を吐出するヘッドと、
前記ヘッドを搭載し走査方向に移動するキャリッジと、
前記ヘッドの液滴吐出動作休止時に前記ノズル面を覆うキャップ(以下、キャッピングという。)と、
前記キャップを介して前記ヘッドから吐出液を吸引する吸引装置と
を備えた液滴吐出装置であって、
ノズルの液滴吐出状態を正常に保つために、前記ヘッド内の吐出液の前記キャップ内への排出(以下、維持回復動作という。)が可能であり、
印刷終了までの間で、前記ヘッドをキャッピングしていなかった時間(以下、デキャップ時間という。)が第1の所定時間以上であったときは、印刷終了時にキャッピングすると伴に前記ヘッド内の吐出液を前記キャップ内に排出(以下、吐出液排出操作という。)し、
前記デキャップ時間の測定開始時(以下、基準時という。)は、前回の吐出液排出操作終了時とし、
前記デキャップ時間が第1の所定時間未満であり、前記基準時から印刷終了時までの経過時間が第2の所定時間未満であり、且つ前記経過時間中に前記キャップ中に排出した吐出液が所定量以上であった場合は、前記基準時を前記印刷終了時とすることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項2】
前記吐出液の所定量は、前記吐出液排出操作において前記キャップ内に排出する吐出液の排出量と略同じであることを特徴とする請求項1に記載の液滴吐出装置。
【請求項3】
ノズルから液滴を吐出するヘッドと、
前記ヘッドを搭載し走査方向に移動するキャリッジと、
前記ヘッドの液滴吐出動作休止時に前記ノズル面を覆うキャップ(以下、キャッピングという。)と、
前記キャップを介して前記ヘッドから吐出液を吸引する吸引装置と
を備えた液滴吐出装置であって、
ノズルの液滴吐出状態を正常に保つために、前記ヘッド内の吐出液の前記キャップ内への排出(以下、維持回復動作という。)が可能であり、
印刷終了までの間で、前記ヘッドをキャッピングしていなかった時間(以下、デキャップ時間という。)が第1の所定時間以上であったときは、印刷終了時にキャッピングすると伴に前記ヘッド内の吐出液を前記キャップ内に排出(以下、吐出液排出操作という。)し、
前記デキャップ時間の測定開始時(以下、基準時という。)は、前回の吐出液排出操作終了時とし、
前記デキャップ時間が第1の所定時間未満であり、前記基準時から印刷終了時までの経過時間が第2の所定時間未満であり、且つ前記経過時間中に前記ヘッドから前記キャップ中に吐出液を排出した排出回数が所定回数以上であった場合は、前記基準時を前記印刷終了時とすることを特徴とする液滴吐出装置。
【請求項4】
前記キャップは、排出された吐出液を保持する吐出液保持材を備えることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項5】
前記ヘッドを複数備え、それぞれのヘッドに対応してキャップを備えていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項6】
前記複数のキャップのうち、少なくともひとつは前記吸引装置と連結していることを特徴とする請求項5に記載の液滴吐出装置。
【請求項7】
前記第1の所定時間、前記第2の所定時間、並びに前記吐出液の所定量又は前記吐出液を排出する所定回数は、それぞれヘッド毎に設定されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項8】
前記第1の所定時間、前記第2の所定時間、並びに前記吐出液の所定量又は前記吐出液を排出する所定回数は、それぞれキャップ毎に設定されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項9】
前記第2の所定時間、並びに前記吐出液の所定量又は吐出液排出の前記所定回数は、前記経過時間中の温度及び/又は湿度に応じて設定されることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項10】
前記ノズル面を清掃するワイパーブレードを備えることを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の液滴吐出装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の液滴吐出装置を備えたことを特徴とする画像形成装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−76204(P2010−76204A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246061(P2008−246061)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】