説明

減衰力調整式シリンダ装置

【課題】 異常を検出するときの誤検出を減らすことができる減衰力調整式シリンダ装置を提供する。
【解決手段】 減衰力可変ダンパ6は、台車3と車体2との間に連結される。減衰力可変ダンパ6には、減衰力特性を調整するアクチュエータ7が搭載されると共に、減衰力可変ダンパ6から車体2に作用する力を検出する力センサ12が内蔵されている。加速度センサ13は、車体2に設けられ、上,下方向の車体加速度を検出する。制御装置14は、正常状態と判定したときは、力センサ12と加速度センサ13の検出信号を用いて減衰力可変ダンパ6の減衰力特性を制御する。一方、制御装置14は、センサ故障状態と判定したときは、力センサ12からの検出信号を用いずに、加速度センサ13の検出信号を用いて減衰力可変ダンパ6の減衰力特性を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば鉄道車両、自動車等に用いられる減衰力調整式シリンダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、鉄道車両には車体(ばね上)と台車(ばね下)との間に減衰力調整式緩衝器等のシリンダ装置が設けられ、制御信号(指令電流)に応じて該シリンダ装置による減衰力特性を可変に制御する構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。この種のシリンダ装置では、例えば車体の左,右方向の振動をばね上速度、またはばね上加速度として検出し、この検出したばね上速度等に応じて、車体振動を低減させる減衰力を発生させるように、シリンダ装置のアクチュエータに対して制御信号を出力する構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−24844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、シリンダ装置の異常を検出する方法として、例えば車体に加わる加速度から振動レベルを求め、この振動レベルの増加によって異常を検出する方法が考えられる。しかし、天候や軌道の状態、あるいは乗客数等によって車両の振動状態が刻々と変化するため、車体加速度からシリンダ装置の異常を検出する方法では、異常か否かを正確に判定することが難しく、誤検出の回避に課題があった。
【0005】
本発明は、上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、異常を検出するときの誤検出を減らすことができる減衰力調整式シリンダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するため、本発明は、被取付側と路面との間に配置され、作動流体が封入され、内部に摺動可能なピストンが設けられたシリンダと、前記ピストンに連結されると共に前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、前記ピストンの摺動によって生じる作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰力調整機構と、該減衰力調整機構を制御する制御手段と、該制御手段の故障を検出する故障検出手段と、を備えた減衰力調整式シリンダ装置であって、前記制御手段は、被取付側に取付けられ、被取付側に加わる力を検出する検出手段により実減衰力を検出する減衰力検出手段と、被取付側に取付けられる加速度検出手段により減衰力指令値を求める減衰力算出手段と、前記減衰力検出手段と前記減衰力算出手段の出力値から、実減衰力指令値を算出する実減衰力指令値算出手段と、を有し、前記故障検出手段は、前記減衰力検出手段の出力値と前記減衰力算出手段の出力値の差分が所定値を越えたときに故障と判断し、前記減衰力検出手段の出力値を用いずに前記実減衰力指令値を算出することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、異常を検出するときの誤検出を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1および第2の実施の形態による減衰力調整式シリンダ装置が適用された鉄道車両を示す正面図である。
【図2】図1中の減衰力可変ダンパを示す正面図である。
【図3】第1の実施の形態においてフィードバック制御を行う場合の制御ブロック図である。
【図4】第1の実施の形態においてフィードフォワード制御を行う場合の制御ブロック図である。
【図5】第1の実施の形態におけるシステムの状態遷移図である。
【図6】第1の実施の形態におけるシステムの状態と制御状態の関係を示す説明図である。
【図7】第1の実施の形態において減衰力可変ダンパの制御用のプログラムを示す流れ図である。
【図8】第1の実施の形態においてフィードバック制御のプログラムを示す流れ図である。
【図9】第1の実施の形態においてフィードフォワード制御のプログラムを示す流れ図である。
【図10】第2の実施の形態においてフィードフォワード制御を行う場合の制御ブロック図である。
【図11】第2の実施の形態において減衰力可変ダンパの制御用のプログラムを示す流れ図である。
【図12】第2の実施の形態においてフィードフォワード制御のプログラムを示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態による減衰力調整式シリンダ装置を、鉄道車両に搭載した場合を例に挙げ、添付図面に従って詳細に説明する。
【0010】
まず、本発明の第1の実施の形態として、例えば流量制御バルブを搭載するセミアクティブダンパを用いた場合について説明する。図1ないし図9は本発明の第1の実施の形態を示している。図1において、鉄道車両1は、例えば乗客、乗員等が乗車する車体2と、車体2の下側に設けられた台車3とを備えている。台車3は、車体2の前,後方向の両側にそれぞれ取付けられ、各台車3には、2つの輪軸4が取付けられている。
【0011】
台車3は、車体2に対して、鉛直軸回りに回動可能であり、また、上,下方向および左,右方向に一定の変位が可能なように連結されており、各台車3の左,右に設けられた一対のコイルバネ5によって車体2を弾性的に支持している。なお、コイルバネ5の代りに空気バネ等の他のバネ手段を用いて車体2を支持してもよい。
【0012】
各台車3と車体2との間には、減衰力可変ダンパ6が連結されている。減衰力可変ダンパ6は、各台車3の左,右に配置され、車体2の前後左右(第1軸から第4軸という)の合計4箇所に配置されている。また、各輪軸4は、台車3に対して上,下方向に移動可能に設けられ、これらの間には、軸バネ8および油圧ダンパ9が装着されて台車3を弾性的に支持している。なお、本実施の形態では軸バネ8と並列に油圧ダンパ9を配する例を示したが、油圧ダンパ9を省略してもよい。
【0013】
各台車3と車体2とを横方向(左,右方向)に対して弾性的に支持するバネおよびダンパ手段(図示せず)が設けられている。なお、台車の方式によっては、ダンパ手段を省略してもよい。さらに、これらの油圧ダンパ9およびダンパ手段は、減衰力可変ダンパ6と同様、減衰力特性を調整可能な減衰可変ダンパとしてもよい。ここでは、説明の簡素化のため、横方向のダンパがない車体において、減衰力可変ダンパ6の減衰力特性のみを制御する場合について説明する。
【0014】
減衰力可変ダンパ6は、発生する力(減衰力)が調整可能なシリンダ装置、例えばセミアクティブダンパと呼ばれる減衰力調整式の油圧緩衝器を用いて構成されている。このため、減衰力可変ダンパ6は、台車3に対する車体2の上,下方向の振動に対して振動を低減させるような減衰力を発生することにより、車体2の上,下方向の振動を低減するものである。
【0015】
図2に示すように、減衰力可変ダンパ6は、被取付側となる車体2と路面側となる台車3との間に配置され、作動流体(作動油)が封入された筒状のシリンダ6Aと、シリンダ6Aの内部に摺動変位可能に設けられたピストン6Bと、一端側(図2の上端側)がシリンダ6Aの一端から外部に延出されると共に他端側(図2の下端側)がピストン6Bに連結されたピストンロッド6Cと、ピストンロッド6Cの周囲を覆うカバー6Dと、ピストン6Bを含むシリンダ6A内に設けられ作動流体の流れを抑制して減衰力を発生させる減衰力発生機構(図示せず)とにより大略構成されている。
【0016】
また、減衰力可変ダンパ6には、減衰力発生機構の調整を外部から行うアクチュエータ7が搭載されている。このアクチュエータ7は、ピストン6Bの摺動によって生じる作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰力調整機構を構成する。
【0017】
アクチュエータ7は、例えば流量制御バルブを構成し、発生減衰力の特性(減衰力特性)をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)に連続的に調整する。具体的には、アクチュエータ7は、例えば電流制御型の比例ソレノイドバルブ等によって構成される。そして、減衰力可変ダンパ6は、アクチュエータ7に流れる電流値に応じて減衰力特性を調節可能としている。なお、減衰力調整用のアクチュエータ7は、減衰力特性を連続的でなくとも、2段階または複数段階に調整可能なものであってもよい。
【0018】
ピストンロッド6Cの突出端には取付ピン10Aが設けられると共に、取付ピン10Aはボルト11Aを用いて車体2に取付けられている。一方、シリンダ6Aの他端には取付ピン10Bが設けられると共に、取付ピン10Bはボルト11Bを用いて台車3に取付けられている。
【0019】
また、減衰力可変ダンパ6には、検出手段としての力センサ12が内蔵されている。力センサ12は、被取付側となる車体2に加わる力を検出し、その検出信号を後述の制御装置14に出力する。具体的には、力センサ12は、例えば取付ピン10Aの歪を検出する歪センサを用いて構成される。この場合、歪センサは、取付ピン10Aの歪を測定することにより、取付ピン10Aが取付けられた被取付側へ伝達する力、即ち、減衰力可変ダンパ6から車体2に作用する力(実減衰力)を直接検出(測定)することができる。
【0020】
この歪センサとしては、従来から知られているCu−Ni系合金やNi−Cr系合金の金属薄膜の配線パターンを用いた歪ゲージを用いてもよく、シリコン等の半導体に不純物をドープして形成した半導体ピエゾ抵抗を利用した半導体歪ゲージを用いてもよい。なお、力センサ12は、歪センサに限らず、例えばピストンロッド6Cの軸方向に作用する圧力を検出する圧電センサ等でもよい。
【0021】
車体2には、車体加速度として車体2の上,下方向の振動加速度を検出する加速度センサ13が設けられている。加速度センサ13は、各減衰力可変ダンパ6に対応した位置で車体加速度を検出し、その検出信号を後述の制御装置14に出力する。このため、加速度センサ13は、例えば車体2の下部、即ち、車体2の下面側で各減衰力可変ダンパ6の直上近傍となる位置に取付けられている。なお、加速度センサ13は、車両の前,後方向両側に設けられた各減衰力可変ダンパ6に対応してそれぞれ設けられているため、一車両当たり(一車体当たり)、合計4個の加速度センサ13を有する構成となっている。
【0022】
次に、減衰力可変ダンパ6の発生減衰力の調整(制御)を行う制御手段としての制御装置14について説明する。
【0023】
制御装置14は、例えばマイクロコンピュータ等により構成され、車体2の上,下方向の振動を低減すべく、サンプリング時間毎に例えばスカイフック理論(スカイフック制御則)に基づいて減衰力可変ダンパ6を制御するものである。なお、制御側はLQG制御則、あるいはH∞制御則等によっても構わない。ここで、制御装置14は、その入力側が力センサ12、加速度センサ13等に接続され、出力側が減衰力可変ダンパ6のアクチュエータ7等に接続されている。
【0024】
また、制御装置14は、ROM、RAM等からなる記憶部14Aを有している。そして、この記憶部14Aには、図7ないし図9に示す減衰力可変ダンパ6の制御用のプログラム等が格納されている。そして、制御装置14は、後述するフィードバック制御、またはフィードフォワード制御による電流指令値に応じた電流を減衰力可変ダンパ6のアクチュエータ7に出力する。これにより、減衰力可変ダンパ6は、車体2の上,下方向の振動を低減するものである。
【0025】
図3に、減衰力可変ダンパ6の発生する減衰力をフィードバック制御する場合における制御ブロック図の構成例を示す。
【0026】
車体加速度取得部21は、加速度センサ13からの検出信号が入力され、この検出信号を用いて車体2の上,下方向に作用する車体加速度を求める。このため、加速度センサ13および車体加速度取得部21は、加速度検出手段を構成している。
【0027】
振動制御演算実行部22は、減衰力指令値を求める減衰力算出手段を構成する。即ち、振動制御演算実行部22は、車体加速度取得部21からの車体2の上,下方向の加速度に基づいて、減衰力可変ダンパ6に発生される目標減衰力を減衰力指令値として計算する。具体的には、振動制御演算実行部22は、車体加速度取得部21からの車体加速度に従って、スカイフック理論による目標減衰力(スカイフック制御量)を求める。換言すれば、振動制御演算実行部22は、減衰力可変ダンパ6が発生すべき目標減衰力である、計算上の必要減衰力を算出し、該計算上の必要減衰力の値に応じた減衰力指令の信号を後述のフィードバック制御演算実行部24に出力する。なお、振動制御演算実行部22での制御演算は、スカイフック制御に限らず、LQG制御、H∞制御等でもよい。
【0028】
ダンパ発生力取得部23は、力センサ12からの検出信号が入力され、この検出信号を用いて減衰力可変ダンパ6が実際に発生したダンパ発生力を実減衰力として求める。このため、ダンパ発生力取得部23は減衰力検出手段を構成している。
【0029】
フィードバック制御演算実行部24は、振動制御演算実行部22およびダンパ発生力取得部23からの出力値から実減衰力指令値を算出する実減衰力指令値算出手段を構成する。即ち、フィードバック制御演算実行部24は、振動制御演算実行部22およびダンパ発生力取得部23からの出力値に基づいて、制御上最適な電流指令を実減衰力指令値として計算する。
【0030】
ここで、フィードバック制御演算実行部24は、振動制御演算実行部22による減衰力指令とダンパ発生力取得部23によるダンパ発生力の差分Uを演算する差分演算部25と、差分演算部25の出力に対してPI制御を実行して電流指令を出力するPI制御器26とを備えている。必要に応じて、PI制御器26に代えてPID制御器を用いてもよい。
【0031】
電流駆動部27は、フィードバック制御演算実行部24のPI制御器26からの信号(電流指令)が入力されると、アクチュエータ7に対して制御信号を出力する。より具体的には、電流駆動部27は、フィードバック制御演算実行部24から出力される電流指令値に応じて、例えばパルス波のDUTY比を変化させるPWM制御(パルス幅変調制御)を行なうことで、アクチュエータ7に電流を出力する。
【0032】
図4に、減衰力可変ダンパ6の発生する減衰力をフィードフォワード制御する場合における制御ブロック図の構成例を示す。
【0033】
この場合、車体加速度取得部21から車体2の上,下方向の加速度が入力されると、車体加速度取得部21からの車体加速度に基づいて、振動制御演算実行部22は、減衰力可変ダンパ6に発生させる目標減衰係数を減衰係数指令値として計算する。
【0034】
フィードフォワード制御演算実行部28は、振動制御演算実行部22からの減衰係数指令に対してある一定の比例ゲインを乗じて電流指令を生成する比例制御器29を備える。即ち、フィードフォワード制御演算実行部28は、減衰係数指令を電流指令に変換し、電流駆動部27に向けて出力する。比例制御器29からの信号(電流指令)が入力されると、電流駆動部27は、アクチュエータ7に対して制御信号を出力する。
【0035】
ここで、振動制御演算実行部22での制御演算は、フィードバック制御と同様に、スカイフック制御、LQG制御、H∞制御等でよい。ここで、これらの制御演算の出力が減衰係数指令となるように最適なパラメータを選定することが望ましい。制御演算の出力が減衰力指令となるようなパラメータを使用し、「減衰力指令≒減衰係数」として使用してもよい。また、比例制御器29は、電流値と減衰係数の関係を示したマップを用いる構成としてもよい。
【0036】
以上のフィードバック制御とフィードフォワード制御は、減衰力可変ダンパ6、力センサ12、加速度センサ13等を含めたシリンダ装置の状態、即ちシステムの状態に応じて切換えられる。そこで、次にシステムの状態と制御状態の関係について図5および図6を参照しつつ説明する。
【0037】
図5および図6において、システムは電源遮断状態(STATE1)、正常状態(STATE2)、センサ故障状態(STATE3)、ダンパ異常状態(STATE4)の4つの状態をとる。ここで、センサ故障状態とは、力センサ12の故障であることを指す。
【0038】
制御装置14の電源投入時、システムは電源遮断状態(STATE1)から正常状態(STATE2)に遷移することで起動し、振動制御演算実行部22およびダンパ発生力取得部23からの出力値を用いて、減衰力可変ダンパ6の減衰力をフィードバック制御する。
【0039】
フィードバック制御の実行中において、フィードバック制御が正常に機能する場合は正常状態(STATE2)を継続し、フィードバック制御に異常がある場合はセンサ故障状態(STATE3)に遷移する。
【0040】
センサ故障状態(STATE3)では、振動制御演算実行部22からの出力値を用いて、減衰力可変ダンパ6の減衰力をフィードフォワード制御する。フィードフォワード制御の実行中は、ダンパ異常検出ロジックによって、車体2の上,下方向の加速度である車体加速度の健全性を判定し、車体加速度が正常と判定される間はセンサ故障状態(STATE3)を継続し、車体加速度が異常と判定される場合はダンパ異常状態(STATE4)に遷移する。
【0041】
ダンパ異常状態(STATE4)では、振動制御演算を停止し、フィードフォワード制御とダンパ異常検出ロジックを停止し、電流出力を遮断する。これにより、減衰力可変ダンパ6をパッシブ状態にする。
【0042】
他状態への遷移は、“電源遮断状態(STATE1)から正常状態(STATE2)”、“正常状態(STATE2)からセンサ故障状態(STATE3)”、“センサ故障状態(STATE3)からダンパ異常状態(STATE4)”、“正常状態(STATE2)から電源遮断状態(STATE1)”、“センサ故障状態(STATE3)から電源遮断状態(STATE1)”、“ダンパ異常状態(STATE4)から電源遮断状態(STATE1)”の6通りのみであり、正常状態(STATE2)からダンパ異常状態(STATE4)に直接遷移することはない。
【0043】
次に、制御装置14が制御周期毎に実行する減衰力可変ダンパ6の制御用のプログラムについて図7を用いて説明する。
【0044】
まず、制御装置14は、ステップ1で、力センサ12の検出信号を用いてダンパ発生力を取得し、ステップ2で、加速度センサ13の検出信号を用いて車体2の上下並進、ピッチング、ローリング方向の加速度として、車体加速度を取得する。
【0045】
続いて、ステップ3では、現在のシステムの状態フラグが正常状態であるか否かを判定する。ステップ3で、状態フラグの値が正常状態であると判定したときには、ステップ4に移行して、減衰力指令用のパラメータを設定し、ステップ5では、ステップ4で設定したパラメータとステップ2で取得した車体加速度とに基づいて、車体加速度を低減させるための減衰力指令を算出する。そして、ステップ6では、フィードバック制御演算処理として、ステップ5で算出した減衰力指令とステップ1で取得したダンパ発生力との差を零とするように電流指令値を演算する。
【0046】
一方、ステップ3で、状態フラグが正常状態以外であると判定したときには、ステップ8で状態フラグがダンパ異常であるか否かを判定する。ステップ8で、ダンパ異常状態と判定したときには、アクチュエータ7に出力する電流出力を停止して減衰力可変ダンパ6をパッシブ状態にするために、ステップ9に移行して、電流指令を零に設定する。
【0047】
一方、ステップ8でダンパ異常状態以外、即ちセンサ故障状態と判定したときには、ステップ10に移行して、ダンパ異常か否かを検出するためのダンパ異常検出処理を実行する。ステップ10で、減衰力可変ダンパ6やアクチュエータ7に異常が生じたダンパ異常を検出したときには、システムの状態フラグをダンパ異常状態の値に設定する。一方、ステップ10でダンパ異常状態以外と判定したときには、システムの状態フラグをセンサ故障状態の値に設定する。
【0048】
続くステップ11では、減衰係数指令用のパラメータを設定し、ステップ12では、ステップ11で設定したパラメータとステップ2で取得した車体加速度とに基づいて、車体加速度を低減させるための減衰係数指令を算出する。そして、ステップ13では、フィードフォワード制御演算処理として、ステップ12で算出した減衰係数指令に比例した電流指令値を演算する。
【0049】
最後に、ステップ7では、ステップ6,9,13で算出された電流指令値通りの電流値を減衰力可変ダンパ6のアクチュエータ7に出力する。
【0050】
なお、ステップ10のダンパ異常検出処理は、車体加速度の絶対値や車体加速度のパワー、車体加速度から求められる車両のピッチング運動やロール運動等の増加を、速度や地点によって変化し得る閾値によって判定するものである。ステップ10のダンパ異常検出処理は、ステップ3とステップ8との間に実行してもよく、ステップ2とステップ3との間に実行してもよい。ステップ8以前にダンパ異常検出処理を実行した場合には、ダンパ異常の検知に必要な判断時間を短縮することができる。
【0051】
次に、図7中のステップ6に示すフィードバック制御演算処理について図8を用いて説明する。
【0052】
まず、ステップ21では、ステップ5で算出した減衰力指令とステップ1で取得したダンパ発生力との差分Uを演算する。続くステップ22では、差分Uに対して比例ゲインを乗じた比例値Pを演算し、ステップ23では、差分Uに積分ゲインを乗じたものを毎周期積算した積分値Iを演算する。
【0053】
続いて、ステップ24ではカウンタKが100以上か否かを判定する。ステップ24でカウンタKが100以上(K≧100)であると判定したときには、ステップ25でカウンタKの値を零にリセットし(K=0)、ステップ26に移行する。
【0054】
一方、ステップ24でカウンタKが100よりも小さい(K<100)と判定したときには、ステップ26に移行して、このときの積分値Iの絶対値をカウンタKにおける乖離値H(K)として記憶部14Aに格納する。続くステップ27では、記憶部14Aに格納されたカウンタKが零(K=0)から99(K=99)までの乖離値H(K)を積算する。即ち、ステップ27では、過去100周期分の乖離値H(K)を積算し、積算乖離値SUMを算出する。その後、ステップ28でカウンタKの値を1つ増加させ、ステップ29に移行する。
【0055】
ステップ29では、積算乖離値SUMが予め決められた閾値以上か否かを判定する。ステップ29で積算乖離値SUMが閾値以上であると判定したときには、ステップ30に移行して、システムの状態フラグをセンサ故障状態の値に設定する。一方、ステップ29で積算乖離値SUMが閾値よりも小さいと判定したときには、ステップ31に移行して、システムの状態フラグを正常状態の値に設定する。
【0056】
ステップ30,31が終了すると、ステップ32に移行して、電流指令を比例値Pと積分値Iとの加算値に設定する。
【0057】
なお、ステップ24〜31がフィードバック制御の健全性を確認するロジックである。このロジックは、ダンパ発生力と減衰力指令の乖離が一定時間以上連続して続く場合に、フィードバック制御の異常と判定するロジックである。ダンパ発生力と減衰力指令の乖離が判定できるのであれば、ステップ24〜31以外の判定方法を採用することも可能である。
【0058】
また、ステップ24〜31では、100周期分の乖離値H(K)に基づいて、フィードバック制御の異常か否かを判定する構成としたが、判定に必要な周期数は100周期以下でもよく、100周期以上でもよく、判定精度等を考慮して適宜設定される。例えばダンパ発生力や減衰力指令を高精度に求めることができるのであれば、判定に必要な周期数は1周期でもよい。
【0059】
次に、図7中のステップ13に示すフィードフォワード制御演算処理について図9を用いて説明する。
【0060】
ステップ41では、ステップ12で算出した減衰係数指令に比例ゲインを乗じて電流指令値を求める。なお、ステップ22で用いられる比例ゲインとステップ41で用いられる比例ゲインは別のパラメータである。
【0061】
以上のように、本実施の形態によれば、制御装置14は正常状態(STATE2)においては車体加速度から異常検出を行なわないことから、正常状態において車体加速度取得部21による車体加速度から異常を検出する場合に比べて、天候や軌道等の影響を低減することができ、誤検出を減らすことができる。
【0062】
また、制御装置14がセンサ故障状態と判断したときには、フィードフォワード制御を実行し、ダンパ発生力取得部23によるダンパ発生力を用いずに実減衰力指令値としての電流指令を算出する。具体的には、力センサ12の故障を検出した後は、ダンパ発生力取得部23によるダンパ発生力を用いずに、車体加速度取得部21による車体加速度を用いて電流指令を算出する。このため、例えば力センサ12に異常が生じたときでも、力センサ12を用いることなく、車体加速度取得部21による車体加速度を用いたフィードフォワード制御によって、減衰力可変ダンパ6の減衰力特性を制御することができる。この結果、例えば力センサ12の異常時に減衰力可変ダンパ6をパッシブ状態にする場合に比べて、乗り心地の低下を最小限に抑えることができる。
【0063】
また、制御装置14は車体加速度取得部21による車体加速度に基づいて力センサ12の故障を検知するから、力センサ12の異常と減衰力可変ダンパ6等の異常を判別することができる。このため、異常検出の精度が向上すると共に、それぞれの異常状態に応じて減衰力特性の制御を行うことができる。
【0064】
これに加え、例えば減衰力可変ダンパ6の異常では、車両の減衰力可変ダンパ6を取外して検査、交換する作業が伴うが、力センサ12の異常では、減衰力可変ダンパ6を取外す必要がない。このため、センサ故障状態かダンパ異常状態かを判別することによって、列車運用や整備性を向上することができる。
【0065】
次に、図10ないし図12は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、例えば圧力制御バルブを搭載するセミアクティブダンパを用いる構成としたことにある。なお、本実施の形態では、上述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0066】
第2の実施の形態では、減衰力可変ダンパ6のアクチュエータ31は、圧力制御バルブを構成する点で、第1の実施の形態によるアクチュエータ7とは異なる。また、第2の実施の形態による制御装置14では、フィードフォワード制御における振動制御演算実行部32が減衰力可変ダンパ6に発生させる減衰力を計算する。これに伴い、フィードフォワード制御演算実行部28の比例制御器33は、減衰力指令を電流指令に変換し、電流駆動部27に向けて出力する。この点で、第1の実施の形態による振動制御演算実行部22や比例制御器29とは異なる。その他の構成は、図1ないし図4に示す第1の実施の形態と同一である。
【0067】
次に、制御装置14が制御周期毎に実行する減衰力可変ダンパ6の制御用のプログラムについて図11を用いて説明する。
【0068】
圧力制御バルブを搭載した減衰力可変ダンパ6を用いた場合、第1の実施の形態では、減衰係数に比例した電流指令を生成するために行っていた処理(ステップ11〜13)が、減衰力に比例した電流指令を生成するための処理(ステップ51〜53)に入れ替わる。その他の構成は、図7に示す第1の実施の形態と同一である。
【0069】
また、図11中のステップ53のフィードフォワード制御演算処理について図12を用いて説明する。圧力制御バルブを搭載した減衰力可変ダンパ6を用いた場合、ステップ61で、ステップ52で算出した減衰力指令に比例ゲインを乗じて電流指令値を求める。
【0070】
かくして、第2の実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。
【0071】
なお、前記各実施の形態では、図7、図11中のステップ3〜13、および図8中のステップ21〜31が故障検出手段の具体例を示し、図7、図11中のステップ8,10が原因判断手段の具体例を示している。
【0072】
また、前記各実施の形態では、減衰力可変ダンパ6により車体2の上,下方向の振動を低減するように構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、ダンパにより車体の左,右方向の振動を低減するように構成してもよい。
【0073】
さらに、前記各実施の形態では、減衰力調整式シリンダ装置を鉄道車両1に適用した場合を例に挙げて説明したが、自動車等の他の車両に適用してもよい。
【0074】
次に、前記各実施の形態に含まれる発明について記載する。本発明によれば、制御手段は、被取付側に取付けられ、被取付側に加わる力を検出する検出手段により実減衰力を検出する減衰力検出手段と、被取付側に取付けられる加速度検出手段により減衰力指令値を求める減衰力算出手段と、前記減衰力検出手段と前記減衰力算出手段の出力値から、実減衰力指令値を算出する実減衰力指令値算出手段と、を有し、故障検出手段は、前記減衰力検出手段の出力値と前記減衰力算出手段の出力値の差分が所定値を越えたときに故障と判断し、前記減衰力検出手段の出力値を用いずに前記実減衰力指令値を算出する構成とした。これにより、正常状態においては、減衰力検出手段の出力値と減衰力算出手段の出力値の差分による故障判定のみを実行し、車体加速度から異常検出を実行しないことから、正常状態においても加速度検出手段による車体加速度から異常を検出する場合に比べて、天候や軌道等の影響を低減することができ、誤検出を減らすことができる。
【0075】
また、故障検出手段が故障と判断したときには、減衰力検出手段の出力値を用いずに実減衰力指令値を算出するから、例えば検出手段に異常が生じたときでも、検出手段および減衰力検出手段を用いずに実減衰力指令値を算出して減衰力を調整することができる。
【0076】
また、本発明によれば、故障検出手段は、故障原因を判断する原因判断手段を備え、前記原因判断手段は、前記加速度検出手段による検出値により前記検出手段の故障を検知する構成とした。これにより、原因判断手段は加速度検出手段による出力値により検出手段の故障を検知するから、検出手段の異常とシリンダ等の異常を判別することができる。このため、異常検出の精度が向上すると共に、それぞれの異常状態に応じて減衰力特性の制御を行うことができる。
【0077】
また、本発明によれば、前記検出手段の故障を検出した後は、前記減衰力検出手段の出力値を用いずに前記加速度検出手段による検出値を用いて前記実減衰力指令値を算出する構成とした。このため、検出手段に異常が生じたときでも、検出手段を用いることなく、加速度検出手段による検出値を用いたフィードフォワード制御によって減衰力特性の制御を行うことができ、乗り心地の低下を最小限に抑えることができる。
【符号の説明】
【0078】
1 鉄道車両
2 車体(被取付側)
6 減衰力可変ダンパ
6A シリンダ
6B ピストン
6C ピストンロッド
7,31 アクチュエータ(減衰力調整機構)
12 力センサ(検出手段)
13 加速度センサ
14 制御装置(制御手段)
21 車体加速度取得部(加速度検出手段)
22,32 振動制御演算実行部(減衰力算出手段)
23 ダンパ発生力取得部(減衰力検出手段)
24 フィードバック制御演算実行部(実減衰力指令値算出手段)
28 フィードフォワード制御演算実行部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被取付側と路面との間に配置され、作動流体が封入され、内部に摺動可能なピストンが設けられたシリンダと、
前記ピストンに連結されると共に前記シリンダの外部に延出されたピストンロッドと、
前記ピストンの摺動によって生じる作動流体の流れを制御して減衰力を発生させる減衰力調整機構と、
該減衰力調整機構を制御する制御手段と、
該制御手段の故障を検出する故障検出手段と、を備えた減衰力調整式シリンダ装置であって、
前記制御手段は、
被取付側に取付けられ、被取付側に加わる力を検出する検出手段により実減衰力を検出する減衰力検出手段と、
被取付側に取付けられる加速度検出手段により減衰力指令値を求める減衰力算出手段と、
前記減衰力検出手段と前記減衰力算出手段の出力値から、実減衰力指令値を算出する実減衰力指令値算出手段と、を有し、
前記故障検出手段は、前記減衰力検出手段の出力値と前記減衰力算出手段の出力値の差分が所定値を越えたときに故障と判断し、前記減衰力検出手段の出力値を用いずに前記実減衰力指令値を算出することを特徴とする減衰力調整式シリンダ装置。
【請求項2】
前記故障検出手段は、故障原因を判断する原因判断手段を備え、
前記原因判断手段は、前記加速度検出手段による検出値により前記検出手段の故障を検知することを特徴とする請求項1に記載の減衰力調整式シリンダ装置。
【請求項3】
前記検出手段の故障を検出した後は、前記減衰力検出手段の出力値を用いずに前記加速度検出手段による検出値を用いて前記実減衰力指令値を算出することを特徴とする請求項1または2に記載の減衰力調整式シリンダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−112313(P2013−112313A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262983(P2011−262983)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】