説明

温度制御方法、その温度制御方法を実行させるためのプログラムを記録した記録媒体、温度制御システム及び熱処理装置

【課題】温度制御用の温度検出素子が故障しても、被加熱物の温度をほとんど変動させることなく、継続して温度制御可能な温度制御方法を提供する。
【解決手段】各々が互いに異なる位置に設けられた複数の温度検出素子Ai1〜Ai10が温度を検出した検出値に基づいて、各々が互いに異なる位置に設けられた複数の発熱素子63−1〜63−10を含み、被加熱物を加熱する加熱部63における発熱素子63−1〜63−10の発熱量を制御することによって、被加熱物の温度を制御する温度制御方法において、複数の温度検出素子Ai1〜Ai10のいずれかが故障したときに、故障した温度検出素子以外の温度検出素子が検出した検出値に基づいて、複数の温度検出素子Ai1〜Ai10の各々の温度を推定する第1の推定アルゴリズムにより、複数の温度検出素子Ai1〜Ai10の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、被加熱物の温度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度制御方法、その温度制御方法を実行させるためのプログラムを記録した記録媒体、温度制御システム及び熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造においては、例えば半導体ウェハ等の基板に、酸化、拡散、CVD(Chemical Vapor Deposition)などの処理を施すために、各種の処理装置が用いられている。そして、その一つとして、一度に多数枚の被処理基板の熱処理が可能な縦型の熱処理装置が知られている。
【0003】
熱処理装置には、処理容器と、ボートと、昇降機構と、移載機構とを備えているものがある。ボートは、複数の基板を上下方向に所定の間隔で保持して処理容器に搬入搬出される基板保持部である。昇降機構は、処理容器の下方に形成されたローディングエリアに設けられており、処理容器の開口を閉塞する蓋体の上部にボートを載置した状態で蓋体を上昇下降させて処理容器とローディングエリアとの間でボートを昇降させる。移載機構は、ローディングエリアに搬出されたボートと複数枚の基板を収容する収納容器との間で基板の移載を行う。
【0004】
また、熱処理装置として、処理容器が縦方向に複数のゾーンに分けられ、ヒータも複数のゾーンに分けられるとともに、各ゾーンに、1つまたは複数の、例えば熱電対よりなる温度検出素子が設けられているものがある。例えば、各ゾーンであって処理容器の内部に、インナー温度検出素子が設けられており、また、各ゾーンであって処理容器の外部に、アウター温度検出素子が設けられているものがある(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−164648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような熱処理装置では、以下のような問題がある。
【0007】
熱処理装置による熱処理工程において、あるゾーン(単位領域)の温度検出素子が故障したときは、故障した温度検出素子の検出値を、実際のサンプリング測定値から動的モデルに基づいて計算される計算値に切り替えて、温度制御が行われる。しかし、特許文献1に示す例では、動的モデルは、単位領域ごとに導出されるため、ある単位領域の温度に及ぼす他の単位領域の温度の影響が考慮されておらず、故障した温度検出素子の温度を精度良く計算することができない。
【0008】
あるいは、各ゾーンのインナー温度検出素子及びアウター温度検出素子のいずれか一方が故障したときに、温度制御用の温度検出素子を、その一方の温度検出素子から他方の温度検出素子に切り替えることも考えられる。しかし、温度制御用の温度検出素子を、インナー温度検出素子及びアウター温度検出素子のいずれか一方から他方に切り替えると、切り替えた時に基板の温度が変動するおそれがある。特に、基板の温度を上昇又は下降させている時に、温度制御用の温度検出素子を、インナー温度検出素子及びアウター温度検出素子のいずれか一方から他方に切り替えると、切り替えた時に基板の温度が大きく変動するおそれがある。
【0009】
また、上記した課題は、基板を上下方向に沿って保持する場合に限られず、任意の方向に沿って所定の間隔で保持する場合にも共通する課題である。更に、上記した課題は、基板を熱処理する場合に限られず、基板以外の各種の被加熱物を加熱する場合にも共通する課題である。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、温度制御用の温度検出素子が故障しても、被加熱物の温度をほとんど変動させることなく、継続して温度制御可能な温度制御方法、温度制御システム及び熱処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために本発明では、次に述べる各手段を講じたことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の一実施例によれば、各々が互いに異なる位置に設けられた複数の温度検出素子が温度を検出した検出値に基づいて、各々が互いに異なる位置に設けられた複数の発熱素子を含み、被加熱物を加熱する加熱部における前記発熱素子の発熱量を制御することによって、前記被加熱物の温度を制御する温度制御方法において、前記複数の温度検出素子のいずれかが故障したときに、故障した温度検出素子以外の温度検出素子が検出した検出値に基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定する第1の推定アルゴリズムにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、前記被加熱物の温度を制御する、温度制御方法が提供される。
【0013】
また、本発明の他の一実施例によれば、各々が互いに異なる位置に設けられた複数の温度検出素子と、各々が互いに異なる位置に設けられた複数の発熱素子を含み、被加熱物を加熱する加熱部と、前記複数の温度検出素子が温度を検出した検出値に基づいて、前記加熱部における前記発熱素子の発熱量を制御することによって、前記被加熱物の温度を制御する制御部とを有し、前記制御部は、前記複数の温度検出素子のいずれかが故障したときに、故障した温度検出素子以外の温度検出素子が検出した検出値に基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定する第1の推定アルゴリズムにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、前記被加熱物の温度を制御する、温度制御装置が提供される。
【0014】
また、本発明の他の一実施例によれば、基板を熱処理する熱処理装置において、処理容器と、前記処理容器内で、一の方向に沿って基板を所定の間隔で複数保持可能な基板保持部と、前記一の方向に沿って各々が互いに異なる位置に設けられた複数の発熱素子を含み、前記処理容器内で保持されている基板を加熱する加熱部と、前記一の方向に沿って各々が互いに異なる位置に設けられた複数の温度検出素子と、前記複数の温度検出素子が温度を検出した検出値に基づいて、前記加熱部における前記発熱素子の発熱量を制御することによって、前記基板の温度を制御する制御部とを有し、前記制御部は、前記複数の温度検出素子のいずれかが故障したときに、故障した温度検出素子以外の温度検出素子が検出した検出値に基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定する第1の推定アルゴリズムにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、前記基板の温度を制御する、熱処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、温度制御用の温度検出素子が故障しても、被加熱物の温度をほとんど変動させることなく、継続して温度制御可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施の形態に係る熱処理装置を概略的に示す縦断面図である。
【図2】ローディングエリアを概略的に示す斜視図である。
【図3】ボートの一例を概略的に示す斜視図である。
【図4】熱処理炉の構成の概略を示す断面図である。
【図5】演算処理部の構成の概略を模式的に示す図である。
【図6】単位領域の数を少なくして簡略化した、熱処理装置の模式的な断面図である。
【図7】予測部の構成を模式的に示すブロック線図である。
【図8】実施の形態に係る熱処理装置を用いた熱処理方法における各工程の手順を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態について図面と共に説明する。
【0018】
最初に、本発明の実施の形態に係る熱処理装置について説明する。熱処理装置10は、後述する縦型の熱処理炉60を備えており、ウェハWをボートに縦方向に沿って所定の間隔で保持、一度に多数枚収容し、収容したウェハWに対して酸化、拡散、減圧CVD等の各種の熱処理を施すことができる。以下では、例えば水蒸気よりなる処理ガスを、後述する処理容器65内に設置されている基板に供給することによって、基板の表面を酸化処理する熱処理装置に適用した例について説明する。
【0019】
図1は、本実施の形態に係る熱処理装置10を概略的に示す縦断面図である。図2は、ローディングエリア40を概略的に示す斜視図である。図3は、ボート44の一例を概略的に示す斜視図である。
【0020】
熱処理装置10は、載置台(ロードポート)20、筐体30、及び制御部100を有する。
【0021】
載置台(ロードポート)20は、筐体30の前部に設けられている。筐体30は、ローディングエリア(作業領域)40及び熱処理炉60を有する。ローディングエリア40は、筐体30内の下方に設けられており、熱処理炉60は、筐体30内であってローディングエリア40の上方に設けられている。また、ローディングエリア40と熱処理炉60との間には、ベースプレート31が設けられている。
【0022】
載置台(ロードポート)20は、筐体30内へのウェハWの搬入搬出を行うためのものである。載置台(ロードポート)20には、収納容器21、22が載置されている。収納容器21、22は、前面に図示しない蓋を着脱可能に備えた、複数枚例えば50枚程度のウェハWを所定の間隔で収納可能な密閉型収納容器(フープ)である。
【0023】
また、載置台20の下方には、後述する移載機構47により移載されたウェハWの外周に設けられた切欠部(例えばノッチ)を一方向に揃えるための整列装置(アライナ)23が設けられていてもよい。
【0024】
ローディングエリア(作業領域)40は、収納容器21、22と後述するボート44との間でウェハWの移載を行い、ボート44を処理容器65内に搬入(ロード)し、ボート44を処理容器65から搬出(アンロード)するためのものである。ローディングエリア40には、ドア機構41、シャッター機構42、蓋体43、ボート44、基台45a、45b、昇降機構46、及び移載機構47が設けられている。
【0025】
なお、蓋体43及びボート44は、本発明における基板保持部に相当する。
【0026】
ドア機構41は、収納容器21、22の蓋を取外して収納容器21、22内をローディングエリア40内に連通開放するためのものである。
【0027】
シャッター機構42は、ローディングエリア40の上方に設けられている。シャッター機構42は、蓋体43を開けているときに、後述する炉口68aから高温の炉内の熱がローディングエリア40に放出されるのを抑制ないし防止するために炉口68aを覆う(又は塞ぐ)ように設けられている。
【0028】
蓋体43は、保温筒48及び回転機構49を有する。保温筒48は、蓋体43上に設けられている。保温筒48は、ボート44が蓋体43側との伝熱により冷却されることを防止し、ボート44を保温するためのものである。回転機構49は、蓋体43の下部に取り付けられている。回転機構49は、ボート44を回転するためのものである。回転機構49の回転軸は蓋体43を気密に貫通し、蓋体43上に配置された図示しない回転テーブルを回転するように設けられている。
【0029】
昇降機構46は、ボート44のローディングエリア40から処理容器65に対する搬入、搬出に際し、蓋体43を昇降駆動する。そして、昇降機構46により上昇させられた蓋体43が処理容器65内に搬入されているときに、蓋体43は、後述する炉口68aに当接して炉口68aを密閉するように設けられている。そして、蓋体43に載置されているボート44は、処理容器65内でウェハWを水平面内で回転可能に保持することができる。
【0030】
なお、熱処理装置10は、ボート44を複数有していてもよい。以下、本実施の形態では、図2を参照し、ボート44を2つ有する例について説明する。
【0031】
ローディングエリア40には、ボート44a、44bが設けられている。そして、ローディングエリア40には、基台45a、45b及びボート搬送機構45cが設けられている。基台45a、45bは、それぞれボート44a、44bが蓋体43から移載される載置台である。ボート搬送機構45cは、ボート44a、44bを、蓋体43から基台45a、45bに移載するためのものである。
【0032】
ボート44a、44bは、例えば石英製であり、大口径例えば直径300mmのウェハWを水平状態で上下方向に所定の間隔(ピッチ幅)で搭載するようになっている。ボート44a、44bは、例えば図3に示すように、天板50と底板51の間に複数本例えば3本の支柱52を介設してなる。支柱52には、ウェハWを保持するための爪部53が設けられている。また、支柱52と共に補助柱54が適宜設けられていてもよい。
【0033】
移載機構47は、収納容器21、22とボート44a、44bの間でウェハWの移載を行うためのものである。移載機構47は、基台57、昇降アーム58、及び、複数のフォーク(移載板)59を有する。基台57は、昇降及び旋回可能に設けられている。昇降アーム58は、ボールネジ等により上下方向に移動可能(昇降可能)に設けられ、基台57は、昇降アーム58に水平旋回可能に設けられている。
【0034】
図4は、熱処理炉60の構成の概略を示す断面図である。
【0035】
熱処理炉60は、例えば、複数枚の被処理基板例えば薄板円板状のウェハWを収容して所定の熱処理を施すための縦型炉とすることができる。
【0036】
熱処理炉60は、ジャケット62、ヒータ63、空間64、処理容器65を備えている。
【0037】
処理容器65は、ボート44に保持されたウェハWを収納して熱処理するためのものである。処理容器65は、例えば石英製であり、縦長の形状を有している。
【0038】
処理容器65は、下部のマニホールド68を介してベースプレート66に支持されている。また、マニホールド68から処理容器65へは、インジェクタ71を通して処理ガスが供給される。インジェクタ71は、ガス供給源72と接続されている。また、処理容器65に供給された処理ガスやパージガスは、排気ポート73を通して減圧制御が可能な真空ポンプを備えた排気系74に接続されている。
【0039】
前述したように、蓋体43は、ボート44が処理容器65内に搬入されているときに、マニホールド68下部の炉口68aを閉塞する。前述したように、蓋体43は、昇降機構46により昇降移動可能に設けられており、蓋体43の上部には保温筒48が載置されており、保温筒48の上部には、ウェハWを多数枚上下方向に所定の間隔で搭載するボート44が設けられている。
【0040】
ジャケット62は、処理容器65の周囲を覆うように設けられているとともに、処理容器65の周囲に空間64を画成している。処理容器65が円筒形状を有しているため、ジャケット62も、円筒形状を有している。ジャケット62は、ベースプレート66に支持されている。ジャケット62の内側であって、空間64の外側には、例えばグラスウールよりなる断熱材62aが設けられていてもよい。
【0041】
ヒータ63は、処理容器65の周囲を覆うように設けられており、処理容器65を加熱するとともに、ボート44に保持されたウェハW、すなわち処理容器65内の被加熱物を加熱するためのものである。ヒータ63は、ジャケット62の内側であって空間64の外側に設けられている。ヒータ63は、例えばカーボンワイヤ等の発熱抵抗体よりなり、空間64の内部を流れる気体の温度を制御するとともに、処理容器65内を所定の温度例えば50〜1200℃に加熱制御可能である。ヒータ63は、処理容器65及びウェハWを加熱する加熱部として機能する。
【0042】
空間64及び処理容器65内の空間は、縦方向に沿って複数の単位領域、例えば10の単位領域A1、A2、A3、A4、A5、A6、A7、A8、A9、A10に分割されている。そして、ヒータ63も、上下方向に沿って単位領域と1対1に対応するように、63−1、63−2、63−3、63−4、63−5、63−6、63−7、63−8、63−9、63−10に分割されている。ヒータ63−1〜63−10の各々は、例えばサイリスタよりなるヒータ出力部86により、単位領域A1〜A10の各々に対応して独立に出力を制御できるように構成されている。ヒータ63−1〜63−10は、本発明における発熱素子に相当する。
【0043】
なお、本実施の形態では、空間64及び処理容器65内の空間を上下方向に沿って10の単位領域に分割した例について説明するが、単位領域の分割数は10に限られず、空間64は10以外の数により分割されてもよい。また、本実施の形態では均等に分割しているが、これに限らず、温度変化の大きい炉口68a付近を細かい領域に分割しても良い。
【0044】
また、ヒータ63は、縦方向に沿って各々が互いに異なる位置に設けられていればよい。従って、ヒータ63は、単位領域A1〜A10の各々に1対1に対応して設けられていなくてもよい。
【0045】
空間64には、単位領域A1〜A10の各々に対応して温度を検出するためのヒータ温度センサAo1〜Ao10が設けられている。また、処理容器65内の空間にも、単位領域A1〜A10の各々に対応して温度を検出するための処理容器内温度センサAi1〜Ai10が設けられている。ヒータ温度センサAo1〜Ao10及び処理容器内温度センサAi1〜Ai10は、縦方向に沿った温度分布を検出するために温度を検出する。
【0046】
ヒータ温度センサAo1〜Ao10からの検出信号、及び、処理容器内温度センサAi1〜Ai10からの検出信号は、それぞれライン81、82を通して制御部100に導入される。検出信号が導入された制御部100では、ヒータ出力部86の設定値を計算し、計算した設定値をヒータ出力部86に入力する。そして、設定値が入力されたヒータ出力部86は、入力された設定値をヒータ出力ライン87及びヒータ端子88を介してヒータ63−1〜63−10の各々へ出力する。例えばPID制御によりヒータ出力部86の設定値を計算することによって、制御部100は、ヒータ出力部86のヒータ63−1〜63−10の各々への出力、すなわちヒータ63−1〜63−10の各々の発熱量を制御する。
【0047】
なお、制御部100におけるヒータ出力部86の設定値の計算方法、すなわち温度制御方法については、図5及び図6を用いて後述する。
【0048】
なお、ヒータ温度センサAo及び処理容器内温度センサAiは、処理容器65内の縦方向に沿った温度分布を検出するために、縦方向に沿って各々が互いに異なる位置に設けられていればよい。従って、ヒータ温度センサAo及び処理容器内温度センサAiは、単位領域A1〜A10の各々に1対1に対応して設けられていなくてもよい。
【0049】
また、図4に示すように、ウェハWとともにロード・アンロードされる可動温度センサAp1〜Ap10が設けられていてもよく、可動温度センサAp1〜Ap10からの検出信号が、ライン83を通して制御部100に導入されるようにしてもよい。
【0050】
また、熱処理炉60は、処理容器65を冷却するための冷却機構90を備えていてもよい。冷却機構90は、例えば、送風機(ブロワ)91、送風管92及び排気管94を有するものとすることができる。
【0051】
送風機(ブロワ)91は、ヒータ63が設けられている空間64内に、例えば空気よりなる冷却ガスを送風して処理容器65を冷却するためのものである。送風管92は、送風機91からの冷却ガスをヒータ63に送るためのものである。送風管92は、噴出孔92a−1〜92a−10の各々に接続されている。すなわち、冷却ガスは、噴出孔92a−1〜92a−10の各々を介して空間64に供給される。図4に示す例では、噴出孔92a−1〜92a−10は、縦方向に沿って設けられている。
【0052】
排気管94は、空間64内の空気を排出するためのものである。空間64には、冷却ガスを空間64から排気するための排気口94aが設けられており、排気管94は、一端が排気口94aに接続されている。
【0053】
また、図4に示すように、排気管94の途中に熱交換器95を設けるとともに、排気管94の他端を送風機91の吸引側に接続してもよい。そして、排気管94により排気した冷却ガスを工場排気系に排出せずに、熱交換器95で熱交換した後、送風機91に戻し、循環使用するようにしてもよい。また、その場合、図示しないエアフィルタを介して循環させてもよい。あるいは、空間64から排出された冷却ガスは、排気管94から熱交換器95を介して工場排気系に排出されるようになってもよい。
【0054】
また、送風機(ブロワ)91は、制御部100からの出力信号により、例えばインバータよりなる電力供給部91aから供給される電力を制御することによって、送風機91の風量を制御できるように構成されていてもよい。
【0055】
制御部100は、例えば、演算処理部100a、及び、図示しない演算処理部、記憶部及び表示部を有する。演算処理部100aは、例えばCPU(Central Processing Unit)を有するコンピュータである。記憶部は、演算処理部100aに、各種の処理を実行させるためのプログラムを記録した、例えばハードディスクにより構成されるコンピュータ読み取り可能な記録媒体である。表示部は、例えばコンピュータの画面よりなる。演算処理部100aは、記憶部に記録されたプログラムを読み取り、そのプログラムに従って、熱処理装置を構成する各部に制御信号を送り、後述するような熱処理を実行する。
【0056】
そして、制御部100には、処理容器65内の被加熱物であるウェハWの温度が効率よく設定温度(所定温度)に収束するように、ヒータ63に供給する電力を制御するためのプログラム(シーケンス)が組み込まれている。
【0057】
本実施の形態では、制御部100は、複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、ウェハWの温度を制御する。そして、いずれの温度検出素子も故障していないときに、正常時のカルマンフィルタにより、複数の温度検出素子の各々の温度を予測し、一部の温度検出素子が故障したときに、異常時のカルマンフィルタにより、複数の温度検出素子の各々の温度を推定する。正常時のカルマンフィルタは、いずれの温度検出素子も故障していないときに、複数の温度検出素子の各々の温度が温度を検出した検出値に基づいて、準備されたものである。異常時のカルマンフィルタは、いずれの温度検出素子も故障していないときに、前記一の温度検出素子以外の温度検出素子の各々が温度を検出した検出値に基づいて、準備されたものである。
【0058】
次に、演算処理部100aの構成及び本実施の形態に係る温度制御方法の詳細について説明する。
【0059】
本実施の形態に係る温度制御方法は、制御対象の状態変数である温度についてフィードバック制御を行う場合において、一部の温度が検出できなくなったときに、例えばカルマンフィルタを用いた推定アルゴリズムにより、検出できない温度の推定値を復元するものである。
【0060】
なお、以下では、ヒータ温度センサAo及び処理容器内温度センサAiを代表して、処理容器内温度センサAiのいずれかが故障したときに、正常時のカルマンフィルタから異常時のカルマンフィルタに切り替える例について説明する。また、説明を容易にするために、単位領域がA1〜A5の5つに分かれている場合について説明する。すなわち、Ai1〜Ai5の5つの処理容器内温度センサが設けられており、63−1〜63−5の5つのヒータが設けられている例について説明する。
【0061】
図5は、演算処理部100aの構成の概略を模式的に示す図である。
【0062】
図5に示すように、演算処理部100aは、故障検知部101、予測部102、演算部103を有する。
【0063】
故障検知部101は、例えば処理容器内温度センサAi1〜Ai5と演算処理部100aの予測部102とを接続するライン82とは別に、図示しないラインにより処理容器内温度センサAi1〜Ai5と接続されている。そして、故障検知部101は、例えば電気的な方法により、処理容器内温度センサAi1〜Ai5のいずれかが断線しているか否かを検知する。
【0064】
演算部103は、予測部102が予測した予測値に基づいて、ヒータ63に出力する出力値を演算する。
【0065】
予測部102は、カルマンフィルタにより、Ai1〜Ai5の5つの処理容器内温度センサの温度を予測する。
【0066】
次に、カルマンフィルタを準備する方法、及び、準備されたカルマンフィルタにより、予測部102が、いずれかの処理容器内温度センサAi1〜Ai5の温度を予測する方法について説明する。
【0067】
初めに、いずれの処理容器内温度センサも故障していないときに用いる正常時のカルマンフィルタを準備する方法について説明する。なお、正常時のカルマンフィルタは、本発明における第2のカルマンフィルタに相当する。
【0068】
推定対象とする線形システムを下記式(1)に示すように、
【0069】
【数1】

とする。式(1)において、xはn行×1列の状態ベクトルであり、uはr行×1列の入力ベクトルであり、yはm行×1列の出力ベクトルであり、Aはn行×n列の状態行列であり、Bはn行×r列の入力行列であり、Cはm行×n列の出力行列である。ここで、yのうち、観測できる変数をyとして、下記式(2)に示すように、
【0070】
【数2】

とする。式(2)において、yはo行×1列の観測ベクトルであり、Cはo行×m列の観測値選択行列である。w、vは平均値0のガウス白色雑音ベクトルであり、wはn行×1列のプロセスノイズベクトルであり、vはo行×1行の観測ノイズベクトルである。そして、w、vの共分散行列Rが、下記式(3)及び下記式(4)に示すように、
【0071】
【数3】

であり、
【0072】
【数4】

であると仮定する(E{ }は期待値を表す。)。式(3)及び式(4)において、Rはo行×o列のベクトルである。
【0073】
すると、状態推定問題は、時刻k+hにおける状態x(k+h)の最小分散推定値を求めること、すなわち、下記式(5)に示すように、評価関数
【0074】
【数5】

を最小にする下記式(6)
【0075】
【数6】

を与えるフィルタを設計することである。
【0076】
そして、推定誤差の共分散行列を、下記式(7)に示すように、
【0077】
【数7】

と定義する。式(7)において、Pはn行×n列の推定誤差の共分散行列である。また、(k|k)は時間と観測の更新を示すパラメータである。
【0078】
すると、制御入力を受ける場合のカルマンフィルタは、下記式(8)から下記式(12)に示すようになる。
【0079】
【数8】

式(8)から式(12)において、Cはo行×m列の観測値選択行列であり、Qはn行×n列のプロセスノイズの共分散行列であり、Kはn行×o列のカルマンゲインである。
【0080】
フィルタ方程式の観測更新の式(式(9))を、フィルタ方程式の時間更新の式(式(8))に代入すると、下記式(13)に示すように、
【0081】
【数9】

となり、下記式(14)に示すように、
【0082】
【数10】

と書ける。
【0083】
共分散行列が定常の場合、カルマンゲインKは、下記式(15)に示すように、
【0084】
【数11】

と定常になる。式(15)において、Rはo行×o列の観測ノイズの共分散行列である。
【0085】
また、共分散方程式の観測更新の式(式(11))を、共分散方程式の時間更新の式(式(10))に代入すると、下記式(16)に示すように、
【0086】
【数12】

となり、共分散行列を定常とすると、下記式(17)に示すように、
【0087】
【数13】

となる。更に、式(17)に式(15)に示すKを代入すると、下記式(18)に示すような代数リカッチ方程式が導かれる。
【0088】
【数14】

そして、式(18)に示される代数リカッチ方程式を解くことによって、Pを求めることができ、Pを求めることができれば、式(15)により、定常カルマンゲインKが求められる。
【0089】
次に、ある処理容器内温度センサ(以下、単に「温度センサ」という。)が故障したときに用いる異常時のカルマンフィルタを準備する方法について説明する。なお、異常時のカルマンフィルタは、本発明における第1のカルマンフィルタに相当する。
【0090】
以下では、1番目の温度センサが故障した場合を想定してカルマンフィルタを設計する。
【0091】
観測できる変数yから1番目の温度センサからの出力を除いたものをyとすると、正常時のカルマンフィルタについての式(2)に相当する式は、下記式(19)に示すように、
【0092】
【数15】

となる。式(19)において、yは(o−1)行×1列の観測ベクトルであり、Cは(o−1)行×m列の出力行列であり、vは(o−1)行×1行の観測ノイズベクトルである。その他、式(2)と共通する行列については、説明を省略する(以下の式においても同様。)。
【0093】
上記システムに対して温度センサの定常時と同様にカルマンフィルタを設計する。
【0094】
カルマンフィルタのフィルタ方程式は、下記式(20)に示す通りである。
【0095】
【数16】

このとき、カルマンゲインは、下記式(21)のように求められる。
【0096】
【数17】

式(21)において、Kはn行×(o−1)列のカルマンゲインであり、Rは(o−1)行×(o−1)列の観測ノイズの共分散行列である。
【0097】
そして、代数リカッチ方程式は、下記式(22)に示すように、
【0098】
【数18】

となる。
【0099】
同様にして、i番目の温度センサが故障した場合のフィルタ方程式を求めると、下記式(23)に示すように、
【0100】
【数19】

となり、それぞれのカルマンゲインは、下記式(24)に示すように、
【0101】
【数20】

となる。式(23)及び式(24)において、Cは(o−1)行×m列の出力行列であり、Kはn行×(o−1)列のカルマンゲインであり、Rは(o−1)行×(o−1列のベクトルである。
【0102】
それぞれの代数リカッチ方程式は、下記式(25)に示すように、
【0103】
【数21】

となる。
【0104】
次に、正常時及び異常時のカルマンフィルタの準備の方法について説明する。図6は、単位領域の数を少なくして簡略化した、熱処理装置の模式的な断面図である。図7は、予測部102の構成を模式的に示すブロック線図である。
【0105】
図6に示すように、例えば、熱処理装置が5つの単位領域A1〜A5に分割されているものとする。そして、5つの単位領域A1〜A5の各々に対応して63−1〜63−5の5つのヒータが設けられており、5つの単位領域A1〜A5の各々に対応してAi1〜Ai5の5つの処理容器内温度センサが設けられているものとする。そして、5つの単位領域A1〜A5の各々に対応して、ボート44に保持されているウェハWの中心に相当する位置に、5つの中心用温度センサAc1〜Ac5が設けられているものとする。また、5つの単位領域A1〜A5の各々に対応して、ボート44に保持されているウェハWの周縁に相当する位置に、5つの周縁用温度センサAe1〜Ae5が設けられているものとする。すると、前述した次元数n等は、
次元数n=20
出力数m=15
入力数r=5
観測数o=5
となる。なお、中心用温度センサAc1〜Ac5は、ボート44に設けられていてもよく、カルマンフィルタを準備するときに、中心部に熱電対が付けられたウェハWを保持することによって設けてもよい。また、周縁用温度センサAe1〜Ae5は、ボート44に設けられていてもよく、カルマンフィルタを準備するときに、周縁部に熱電対が付けられたウェハWを保持することによって設けてもよい。
【0106】
このとき、n行×1列の状態ベクトルxは、下記式(26)に示すように、20行×1列の
【0107】
【数22】

となり、r行×1列の入力ベクトルuは、下記式(27)に示すように、5行×1列の
【0108】
【数23】

となる。u1〜u5の各々は、ヒータ63−1〜63−5の出力に相当する。
【0109】
また、m行×1列の出力ベクトルyは、下記式(28)に示すように、15行×1列の
【0110】
【数24】

となる。式(28)において、yinner、1〜yinner、5の各々は、処理容器内温度センサAi1〜Ai5の各々の温度に相当する。また、ycenter、1〜ycenter、5の各々は、中心用温度センサAc1〜Ac5の各々の温度に相当する。また、yedge、1〜yedge、5の各々は、周縁用温度センサAe1〜Ae5の各々の温度に相当する。
【0111】
また、o行×1列の観測ベクトルyは、下記式(29)に示すように、5行×1列の
【0112】
【数25】

となる。
【0113】
また、(o−1)行×1列の観測ベクトルy、y、y、y、yは、下記式(30)〜式(34)に示すように、4行×1列の
【0114】
【数26】

となる。yからyの各々は、処理容器内温度センサAi1〜Ai5の各々が故障したときの観測ベクトルである。
【0115】
また、n行×n列の状態行列Aは、下記式(35)に示すように、20行×20列の
【0116】
【数27】

となり、n行×r列の入力行列Bは、下記式(36)に示すように、20行×5列の
【0117】
【数28】

となり、m行×n列の出力行列Cは、下記式(37)に示すように、15行×20列の
【0118】
【数29】

となり、o行×m列の観測値選択行列Cは、下記式(38)に示すように、5行×15列の
【0119】
【数30】

となる。
【0120】
また、(o−1)行×m列の観測値選択行列C、C、C、C、Cは、下記式(39)〜式(43)に示すように、4行×15列の
【0121】
【数31】

となる。CからCの各々は、処理容器内温度センサAi1〜Ai5の各々が故障したときの観測値選択行列である。
【0122】
また、n行×o列の正常時のカルマンゲインKは、下記式(44)に示すように、20行×5列の
【0123】
【数32】

となり、n行×(o−1)列の異常時のカルマンゲインKは、下記式(45)に示すように、20行×4列の
【0124】
【数33】

となり、n行×n列のプロセスノイズの共分散行列Qは、下記式(46)に示すように、20行×20列の
【0125】
【数34】

となり、o行×o列の定常時の観測ノイズの共分散行列Rは、下記式(47)に示すように、5行×5列の
【0126】
【数35】

となり、(o−1)行×(o−1)列の観測ノイズの共分散行列Rは、下記式(48)に示すように、4行×4列の
【0127】
【数36】

となる。
【0128】
図7に示すように、予測部102は、伝達要素Tm1〜Tm21、加え合わせ点Ad1〜Ad7、マルチポートスイッチMps、入力点Ip1〜Ip3、出力点Op1により構成される。
【0129】
処理容器内温度センサAi1〜Ai5からの温度の検出信号yinner,1〜yinner,5よりなるyは、入力点Ip1から入力される。入力点Ip1から入力されたyは、直接加え合わせ点Ad1に入力されるか、5つの引き出し点Wd1〜Wd5で引き出される。
【0130】
直接加え合わせ点Ad1に入力されたyは、加え合わせ点Ad1において伝達要素Tm1から入力された、時刻kにおける信号と加減算された後、伝達要素Tm2で正常時のカルマンフィルタが乗算され、マルチポートスイッチMpsに入力される。
【0131】
一方、引き出し点Wd1〜Wd5で引き出されたyは、伝達要素Tm3〜Tm7を介して、加え合わせ点Ad2〜Ad6に入力される。伝達要素Tm3〜Tm7では、yの5つの検出信号yinner,1〜yinner,5から、いずれか1つを除いた4つの検出信号を選択し、4つの検出信号よりなる式(30)〜式(34)に示すy〜yとして、加え合わせ点Ad2〜Ad6に出力する。加え合わせ点Ad2〜Ad6に入力されたy〜yは、加え合わせ点Ad2〜Ad6において伝達要素Tm8〜Tm12から入力された、時刻kにおける信号と加減算される。そして、その後、伝達要素Tm13〜Tm17で、それぞれ異常時のカルマンフィルタK〜Kが乗算され、マルチポートスイッチMpsに入力される。
【0132】
マルチポートスイッチMpsには故障検知部101からの検出信号が入力点Ip2を介して入力されている。いずれの処理容器内温度センサAiも故障していないときは、マルチポートスイッチMpsには、いずれの処理容器内温度センサAiも故障していない旨の信号が入力される。このとき、マルチポートスイッチMpsは、伝達要素Tm2から入力された信号を出力側に出力する。
【0133】
マルチポートスイッチMpsから出力された信号は、加え合わせ点Ad7に入力される。また、加え合わせ点Ad7には、入力点Ip3から入力されたヒータ出力部86の出力u1〜u5よりなる、式(27)に示す入力ベクトルuに、伝達要素Tm18において式(36)に示す入力行列Bが乗算されてなる信号が入力される。また、加え合わせ点Ad7には、加え合わせ点Ad7から出力された信号が伝達要素Tm19において、1単位時間遅延された後、伝達要素Tm20において、式(35)に示す状態行列Aが乗算されてなる信号が入力される。
【0134】
加え合わせ点Ad7においてこれら3つの信号が加減算されてなる信号は、加え合わせ点Ad7から出力され、伝達要素Tm19を介した後、伝達要素Tm21において、式(37)に示す出力行列Cが乗算される。出力行列Cが乗算された信号は、出力ベクトルyとして出力点Op1から出力される。なお、出力ベクトルyは、時刻k+1における信号として、伝達要素Tm2、Tm8〜Tm12にも入力され、時刻k+1における出力ベクトルyの予測に用いられる。
【0135】
なお、いずれの処理容器内温度センサAiも故障していないときに、正常時のカルマンフィルタを用いて出力ベクトルyを予測する推定アルゴリズムは、本発明における第2の推定アルゴリズムに相当する。
【0136】
一方、いずれかの処理容器内温度センサAiが故障したときは、故障検知部101は,故障した処理容器内温度センサAiがAi1〜Ai5のいずれの温度センサであるかをマルチポートスイッチMpsに伝える。そして、故障検知部101からの検出信号に基づいて、マルチポートスイッチMpsは、故障した温度センサ以外の4つの検出信号よりなるy〜yのいずれかをマルチポートスイッチMpsから出力する。そして、いずれの処理容器内温度センサAiも故障していないときと同様に、出力ベクトルyとして出力点Op1から出力される。
【0137】
なお、いずれかの処理容器内温度センサAiが故障したときに、異常時のカルマンフィルタを用いて出力ベクトルyを予測する推定アルゴリズムは、本発明における第1の推定アルゴリズムに相当する。
【0138】
本実施の形態では、いずれかの処理容器内温度センサAiが故障したときに、故障した処理容器内温度センサAi以外の処理容器内温度センサAiの各々が温度を検出した検出値に基づいて、異常時のカルマンフィルタにより、複数の処理容器内温度センサAiの各々の温度を推定する。すなわち、予め、処理容器内温度センサAiのいずれも故障していないときに、処理容器内温度センサAiのうち、選択された処理容器内温度センサAi以外の処理容器内温度センサAiの各々が温度を検出した検出値に基づいて、異常時のカルマンフィルタを準備しておく。そして、選択された処理容器内温度センサAiが故障したときに、準備した異常時のカルマンフィルタにより、処理容器内温度センサAiの各々の温度を推定する。従って、いずれかの処理容器内温度センサAiが故障しても、ウェハの温度をほとんど変動させることなく、継続して温度制御することができる。
【0139】
また、いずれの処理容器内温度センサAiも故障していないときにも、信号yに基づいて、正常時のカルマンフィルタにより、出力ベクトルyを予測する。正常時も異常時も同一の状態空間モデルを用いるため、状態変数xが共通しており、継続して計算できる。従って、異常時に出力ベクトルyを予測する方法を切り替えても、ウェハの温度をほとんど変動させることなく、継続して温度制御することができる。
【0140】
また、定常時と異常時とで同一のオブザーバ(観測器)を用いるため、異常時のオブザーバとして新たなオブザーバを作成する必要がない。異常時の状態予測モデルと作成する際に、例えばK〜Kのカルマンゲインが増える程度であるので、モデルサイズが増加することを抑制することができる。
【0141】
なお、オブザーバとして、カルマンフィルタの他、最小次元オブザーバ、VSSオブザーバ等を用いてもよい。
【0142】
なお、本実施の形態では、いずれの処理容器内温度センサAiも故障していないときに、信号yに基づいて、出力ベクトルyを予測する例について説明した。しかし、図5の点線iで示すように、いずれかの処理容器内温度センサAiが故障していないときには、カルマンフィルタにより出力ベクトルyを予測せず、信号y0を直接用いて、演算部103により、ヒータ出力部86における設定値を設定してもよい。
【0143】
次に、本実施の形態に係る熱処理装置を用いた熱処理方法について説明する。
【0144】
図8は、本実施の形態に係る熱処理装置を用いた熱処理方法における各工程の手順を説明するためのフローチャートである。
【0145】
実施の形態(実施例)では、処理開始後、ステップS11として、処理容器65内にウェハWを搬入する(搬入工程)。図1に示した熱処理装置10の例では、例えばローディングエリア40において、移載機構47により収納容器21からボート44aへウェハWを搭載し、ウェハWを搭載したボート44aをボート搬送機構45cにより蓋体43に載置することができる。そして、ボート44aを載置した蓋体43を昇降機構46により上昇させて処理容器65内に挿入することにより、ウェハWを搬入することができる。
【0146】
次に、ステップS12では、処理容器65の内部を減圧する(減圧工程)。排気系74の排気能力又は排気系74と排気ポート73との間に設けられている図示しない流量調整バルブを調整することにより、排気ポート73を介して処理容器65を排気する排気量を増大させる。そして、処理容器65の内部を所定圧力に減圧する。
【0147】
次に、ステップS13では、ウェハWの温度を、ウェハWを熱処理するときの所定温度(熱処理温度)まで上昇させる(リカバリ工程)。
【0148】
ボート44aを処理容器65の内部に搬入した直後は、処理容器65に設けられた温度、すなわち例えば可動温度センサAp1〜Ap10の温度は、室温近くまで下がっている。そのため、ヒータ63に電力を供給することによって、ボート44aに搭載されているウェハWの温度を熱処理温度まで上昇させる。
【0149】
また、ヒータ63の発熱量と冷却機構90の冷却量とをバランスさせることにより、ウェハWの温度が熱処理温度に収束するように、制御してもよい。
【0150】
次に、ステップS14では、ヒータ63により加熱することによって、ボート44に保持されているウェハWを熱処理する(熱処理工程)。
【0151】
ボート44により、縦方向に沿ってウェハWを所定の間隔で複数保持し、ヒータ63により処理容器65を加熱することによって、ウェハWの温度を所定温度に保持する。この状態で、ガス供給源72からインジェクタ71を介して処理ガスを処理容器65内に供給し、ウェハW表面を熱処理する。例えば水蒸気ガスよりなる処理ガスを供給してウェハWの表面を酸化する。また、ウェハWの熱処理としては、酸化処理に限られず、拡散、減圧CVD等の各種の熱処理を行ってもよい。
【0152】
次に、ステップS15では、冷却機構90により、複数の噴出孔92a−1〜92a−10の各々を介して空間64に冷却ガスを供給することによって、処理容器65を冷却し、ウェハWの温度を熱処理温度から下降させる(冷却工程)。このとき、送風機91により供給される冷却ガスが、空間64に供給されることによって、熱処理したウェハWを冷却する。
【0153】
次に、ステップS16では、処理容器65の内部を大気圧に復圧する(復圧工程)。排気系74の排気能力又は排気系74と排気ポート73との間に設けられている図示しない流量調整バルブを調整することにより、処理容器65を排気する排気量を減少させ、例えば窒素(N)パージガスを導入して処理容器65の内部を大気圧に復圧する。
【0154】
次に、ステップS17では、処理容器65からウェハWを搬出する(搬出工程)。図1に示した熱処理装置10の例では、例えばボート44aを載置した蓋体43を昇降機構46により下降させて処理容器65内からローディングエリア40に搬出することができる。そして、移載機構47により、搬出した蓋体43に載置されているボート44aから収納容器21へウェハWを移載することによって、ウェハWを処理容器65から搬出することができる。そして、ウェハWを処理容器65から搬出することによって、熱処理作業は終了する。
【0155】
なお、複数のバッチについて連続して熱処理作業を行うときは、更に、ローディングエリア40において、移載機構47により収納容器21からウェハWをボート44へ移載し、再びステップS11に戻り、次のバッチの熱処理作業を行う。
【0156】
以上の熱処理方法においても、いずれかの処理容器内温度センサAiが故障したときに、その処理容器内温度センサAi以外の処理容器内温度センサAiの各々が温度を検出した検出値に基づいて、異常時のカルマンフィルタにより、複数の処理容器内温度センサAiの各々の温度を推定する。従って、いずれかの処理容器内温度センサAiが故障しても、ウェハの温度をほとんど変動させることなく、継続して温度制御することができる。
【0157】
以上、本発明の好ましい実施の形態について記述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0158】
なお、実施の形態では、基板を上下方向に沿って保持する場合について説明した。しかし、基板を保持する方向は上下方向に限定されず、任意の方向に沿って所定の間隔で保持する場合にも適用可能である。また、本実施の形態に係る温度制御方法を行う温度制御システムは、基板を処理容器内で保持して熱処理する場合に限られず、基板以外の各種の被加熱物を加熱する場合にも適用可能である。そして、各々が異なる位置に設けられた温度センサ(温度検出素子)のうち、いずれかの温度センサが故障したときに、その温度センサ以外の温度センサの各々が温度を検出した検出値に基づいて、異常時のカルマンフィルタにより、複数の温度センサの各々の温度を推定してもよい。そして、推定した推定値に基づいて、被加熱物の温度を温度制御してもよい。
【符号の説明】
【0159】
10 熱処理装置
44 ボート
60 熱処理炉
63、63−1〜63−10 ヒータ
65 処理容器
86 ヒータ出力部
100 制御部
101 故障検知部
102 予測部
103 演算部
Ai1〜Ai10 処理容器内温度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
各々が互いに異なる位置に設けられた複数の温度検出素子が温度を検出した検出値に基づいて、各々が互いに異なる位置に設けられた複数の発熱素子を含み、被加熱物を加熱する加熱部における前記発熱素子の発熱量を制御することによって、前記被加熱物の温度を制御する温度制御方法において、
前記複数の温度検出素子のいずれかが故障したときに、故障した温度検出素子以外の温度検出素子が検出した検出値に基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定する第1の推定アルゴリズムにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、前記被加熱物の温度を制御する、温度制御方法。
【請求項2】
前記第1の推定アルゴリズムは、第1のカルマンフィルタを用いて前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項1に記載の温度制御方法。
【請求項3】
前記複数の温度検出素子のいずれかが故障したときに、前記検出値と、各々が前記複数の温度検出素子の各々に対応して設けられた前記複数の発熱素子の各々の発熱量とに基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項2に記載の温度制御方法。
【請求項4】
予め、前記複数の温度検出素子のいずれも故障していないときに、前記複数の温度検出素子のうち、選択された温度検出素子以外の温度検出素子が検出した検出値に基づいて、前記第1のカルマンフィルタを準備しておき、選択された前記温度検出素子が故障したときに、準備した前記第1のカルマンフィルタにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項2又は請求項3に記載の温度制御方法。
【請求項5】
前記複数の温度検出素子のいずれも故障していないときに、前記複数の温度検出素子の各々が検出した検出値に基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定する第2の推定アルゴリズムにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、前記被加熱物の温度を制御する、請求項1から請求項4のいずれかに記載の温度制御方法。
【請求項6】
前記第2の推定アルゴリズムは、第2のカルマンフィルタを用いて前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項5に記載の温度制御方法。
【請求項7】
前記複数の温度検出素子のいずれも故障していないときに、前記検出値と、各々が前記複数の温度検出素子の各々に対応して設けられた前記複数の発熱素子の各々の発熱量とに基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項6に記載の温度制御方法。
【請求項8】
コンピュータに請求項1から請求項7のいずれかに記載の温度制御方法を実行させるためのプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【請求項9】
各々が互いに異なる位置に設けられた複数の温度検出素子と、
各々が互いに異なる位置に設けられた複数の発熱素子を含み、被加熱物を加熱する加熱部と、
前記複数の温度検出素子が温度を検出した検出値に基づいて、前記加熱部における前記発熱素子の発熱量を制御することによって、前記被加熱物の温度を制御する制御部と
を有し、
前記制御部は、前記複数の温度検出素子のいずれかが故障したときに、故障した温度検出素子以外の温度検出素子が検出した検出値に基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定する第1の推定アルゴリズムにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、前記被加熱物の温度を制御する、温度制御装置。
【請求項10】
前記第1の推定アルゴリズムは、第1のカルマンフィルタを用いて前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項9に記載の温度制御装置。
【請求項11】
前記複数の温度検出素子のいずれかが故障したときに、前記検出値と、各々が前記複数の温度検出素子の各々に対応して設けられた前記複数の発熱素子の各々の発熱量とに基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項10に記載の温度制御装置。
【請求項12】
前記複数の温度検出素子のいずれも故障していないときに、前記複数の温度検出素子の各々が検出した検出値に基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定する第2の推定アルゴリズムにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、前記被加熱物の温度を制御する、請求項9から請求項11のいずれかに記載の温度制御装置。
【請求項13】
前記第2の推定アルゴリズムは、第2のカルマンフィルタを用いて前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項12に記載の温度制御装置。
【請求項14】
前記複数の温度検出素子のいずれも故障していないときに、前記検出値と、各々が前記複数の温度検出素子の各々に対応して設けられた前記複数の発熱素子の各々の発熱量とに基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項13に記載の温度制御装置。
【請求項15】
基板を熱処理する熱処理装置において、
処理容器と、
前記処理容器内で、一の方向に沿って基板を所定の間隔で複数保持可能な基板保持部と、
前記一の方向に沿って各々が互いに異なる位置に設けられた複数の発熱素子を含み、前記処理容器内で保持されている基板を加熱する加熱部と、
前記一の方向に沿って各々が互いに異なる位置に設けられた複数の温度検出素子と、
前記複数の温度検出素子が温度を検出した検出値に基づいて、前記加熱部における前記発熱素子の発熱量を制御することによって、前記基板の温度を制御する制御部と
を有し、
前記制御部は、前記複数の温度検出素子のいずれかが故障したときに、故障した温度検出素子以外の温度検出素子が検出した検出値に基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定する第1の推定アルゴリズムにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、前記基板の温度を制御する、熱処理装置。
【請求項16】
前記第1の推定アルゴリズムは、第1のカルマンフィルタを用いて前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項15に記載の熱処理装置。
【請求項17】
前記制御部は、前記複数の温度検出素子のいずれかが故障したときに、前記検出値と、各々が前記複数の温度検出素子の各々に対応して設けられた前記複数の発熱素子の各々の発熱量とに基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項16に記載の熱処理装置。
【請求項18】
前記制御部は、前記複数の温度検出素子のいずれも故障していないときに、前記複数の温度検出素子の各々が検出した検出値に基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定する第2の推定アルゴリズムにより、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定し、推定した推定値に基づいて、前記基板の温度を制御する、請求項15から請求項17のいずれかに記載の熱処理装置。
【請求項19】
前記第2の推定アルゴリズムは、第2のカルマンフィルタを用いて前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項18に記載の熱処理装置。
【請求項20】
前記制御部は、前記複数の温度検出素子のいずれも故障していないときに、前記検出値と、各々が前記複数の温度検出素子の各々に対応して設けられた前記複数の発熱素子の各々の発熱量とに基づいて、前記複数の温度検出素子の各々の温度を推定するものである、請求項19に記載の熱処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2013−37627(P2013−37627A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175175(P2011−175175)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】