説明

温調機構、プラズマ処理装置及び温調制御方法

【課題】複数の伸縮可能な部材を用いて温調制御の対象物との接触圧力を可変に制御する。
【解決手段】少なくとも一部が温調制御の対象物に接触する、伸縮可能な縦ベローズ215と、縦ベローズ215に連結され、伸縮可能な横ベローズ220と、縦ベローズ215及び横ベローズ220の内部空間に流す液体を制御する制御部310と、を備えることを特徴とする温調機構200が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温調機構、プラズマ処理装置及び温調制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空中は大気中より熱伝達率が悪い。よって、真空中では大気中よりも熱伝達が接触圧力に大きく依存する。これを考慮して、真空容器中では、冷却水を通した金属製のプレート等を対象物に接触させて冷却する方法が広く用いられている。例えば、特許文献1には、ベローズ内部に冷媒を流して物体を冷却する温調機構が提案されている。また、特許文献2には、プラズマ処理装置の蓋部及び壁部に加熱/冷却ブロックを設けて、プラズマ処理装置の表面温度を制御する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭和64−2450号公報
【特許文献2】特表2003−514390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、冷媒対象である物体に当接するベローズは単一であって、ベローズとベローズとを繋ぐ中継ベローズがない。よって、特許文献1では、冷却対象物の広いエリアを精度よく温調することは難しかった。
【0005】
また、特許文献2では、冷却対象物と接触して対象物を冷却するための加熱/冷却ブロックに伸縮性がない。このため、対象物の熱膨張や加工精度に追従して加熱/冷却ブロックを変形させることができず、対象物との接触状態が悪くなっていた。このため、熱伝達率が低下し、温調効果を高めることは難しかった。
【0006】
特に、前述したように真空中は大気中より熱伝達率が悪い。そのため、対象物との接触圧力のコントロールは温調機構の性能を高めるために非常に重要である。例えば、温調機構を対象物に押し付ける力をネジ等の固定力で発生させると、冷却対象物の熱膨張や加工精度に追従して接触圧力をコントロールすることができず、対象物の熱変形や寸法誤差に対して温調機構の対象物に対する接触圧力を適切な値に保つことができない。
【0007】
上記課題に対して、本発明の目的とするところは、複数の伸縮可能な部材を用いて温調制御の対象物との接触圧力を可変に制御することが可能な、温調機構、プラズマ処理装置及び温調制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、少なくとも一部が温調制御の対象物に接触する、伸縮可能な第1の部材と、前記第1の部材に連結され、伸縮可能な第2の部材と、前記第1の部材及び前記第2の部材の内部空間に流す液体を制御する制御部と、を備えることを特徴とする温調機構が提供される。
【0009】
前記第1の部材は、前記対象物に対して伸縮可能に複数配置され、
前記第2の部材は、複数の前記第1の部材を伸縮可能に連結するように複数配置されてもよい。
【0010】
前記第1の部材は、前記対象物に対して長手方向が垂直に配置された複数の伸縮性配管であり、前記第2の部材は、前記対象物に対して長手方向が水平に配置された複数の伸縮性配管であり、前記制御部は、前記第1の部材及び前記第2の部材の伸縮性配管内に流す液体の圧力を制御してもよい。
【0011】
前記第1の部材は、前記対象物に対して長手方向が垂直に配置された複数の伸縮可能な棒状部材であり、前記第2の部材は、前記対象物に対して長手方向が水平に配置された複数の伸縮性配管であり、前記制御部は、前記第2の部材の伸縮性配管内に流す液体の圧力を制御してもよい。
【0012】
前記第1の部材の先端部は、前記対象物に向かって凸状に湾曲した形状又は球面状であってもよい。
【0013】
前記第1の部材の先端部は、薄膜により形成されていてもよい。
【0014】
前記制御部は、前記伸縮性配管内の液体の圧力を制御し、前記第1の部材と前記対象物との接触圧力を可変に制御してもよい。
【0015】
前記制御部は、前記液体の流量と前記伸縮性配管に連結された絞り弁とを調整することにより、前記伸縮性配管内の液体の圧力を制御してもよい。
【0016】
前記温調機構は、複数系統から構成され、前記制御部は、各系統の温調機構に流す液体を独立して別々に制御してもよい。
【0017】
前記液体は、冷媒又は温媒であってもよい。
【0018】
前記対象物は、プラズマ処理装置に設けられた上部電極、デポシールド又はサセプタの少なくともいずれかであってもよい。
【0019】
前記温調機構は、少なくとも前記第1の部材及び前記第2の部材を内蔵し、固定部材を介して前記第1の部材を固定するハウジングを更に有し、前記ハウジングの内部は、所定の真空状態に保たれてもよい。
【0020】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、少なくとも一部が温調制御の対象物としてのプラズマ処理装置のパーツに接触する、伸縮可能な第1の部材と、前記第1の部材に連結され、伸縮可能な第2の部材と、前記第1の部材及び前記第2の部材の内部空間に流す液体を制御する制御部と、を有する温調機構を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置が提供される。
【0021】
前記制御部は、前記プラズマ処理装置にて行われるプロセスのレシピに基づき、前記内部空間に流す液体を可変に制御してもよい。
【0022】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、少なくとも一部が対象物に接触された、伸縮可能な第1の部材と、前記第1の部材に連結された、伸縮可能な第2の部材と、を備えた温調機構の前記第1の部材及び前記第2の部材の内部空間に流す液体の圧力を制御することにより、前記第1の部材と前記対象物との接触圧力を可変に制御することを特徴とする温調制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、複数の伸縮可能な部材を用いて、温調制御の対象物との接触圧力を可変に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】第1実施形態に係る温調機構を含むプラズマ処理装置の縦断面図である。
【図2】第1実施形態に係る温調機構の所定部分の拡大図である。
【図3】第1実施形態に係る温調制御の対象物への接触圧力を説明するための図である。
【図4】接触する物体間の押圧力と熱伝達率との関係を示した図である。
【図5】第2実施形態に係る温調機構の斜視図である。
【図6】第2実施形態に係る温調機構の複数系統のゾーン制御を示した図である。
【図7】第2実施形態に係る複数系統のゾーン毎の温調例を示した図である。
【図8】変形例に係る温調機構を含むプラズマ処理装置の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0026】
なお、本発明は、第1実施形態、第2実施形態、変形例の順に以下の内容で説明される。
<第1実施形態>
[温調機構を含むプラズマ処理装置のハードウエア構成]
(温調機構)
(押圧力と熱伝達率)
<第2実施形態>
[複数系統の温調制御]
<変形例>
[温調機構を含むプラズマ処理装置のハードウエア構成]
【0027】
<第1実施形態>
[温調機構を含むプラズマ処理装置のハードウエア構成]
まず、本発明の第1実施形態に係る温調機構を含むプラズマ処理装置の全体構成について、プラズマ処理装置の縦断面を示した図1を参照しながら説明する。ここでは、プラズマ処理装置の一例として、エッチング装置10を例に挙げて説明する。
【0028】
エッチング装置10は、内部にてウエハWをプラズマ処理するための処理容器100を有する。処理容器100は円筒状で、たとえばアルミニウム等の金属から形成され、接地されている。
【0029】
処理容器100の底部側には、下部電極110が天板115に対向して配設されている。下部電極110には、ウエハWを載置するサセプタ120が設けられている。サセプタ120は、アルミニウム等の金属から形成されていて、絶縁体125を介して処理容器100の底部に設置されている。これにより、下部電極110は電気的に浮いた状態になっている。
【0030】
下部電極110には、高周波電源130が接続されている。高周波電源130は、例えば60MHzのプラズマ励起用の高周波電力を出力する。なお、本実施形態では、高周波電力を下部電極110に印加したが、上部電極としても機能する天板115に印加してもよい。
【0031】
ガス供給源135は、処理容器100の天板115の上部に配置された温調機構200に連結されている。ガス供給源135から供給されたガスは、温調機構200の内部を通って、天板115に設けられた複数のガス穴115aから処理容器100の内部に導入される。導入されたガスは、高周波電源130から出力された高周波のパワーにより励起され、これにより、プラズマが生成される。ウエハWは、生成されたプラズマにより所望の形状にエッチングされる。
【0032】
処理容器100の底部には排気口140が設けられ、排気口140と連通する排気装置145により処理容器100の内部が排気される。これにより、処理容器内は所望の真空状態となる。また、複数のガス穴115aを通して連通する温調機構200の内部も所望の減圧状態となる。
【0033】
(温調機構)
温調機構200は、処理容器100の外部の天板上に設置されている。温調機構200は、ハウジング210、縦ベローズ215、横ベローズ220、固定部材230、及び連結部材235を有する。本実施形態は、温調機構200の温度調整を制御する制御装置300も含めて温調機構200と称呼する。ハウジング210は、温調機構200全体を覆う筐体である。つまり、縦ベローズ215、横ベローズ220、固定部材230、及び連結部材235は、ハウジング210の内部に設けられている。一方、制御装置300はハウジング210の外部に設けられている。
【0034】
ハウジング210の上部は、図1で示したように湾曲していてもよいし、平らであってもよい。温調機構200は、ハウジング210の上部内壁に支持され、固定される。ハウジング210は、ステンレス、アルミニウム等、水圧に耐えられる程度の剛性を有していれば、いずれの部材を用いてもよい。
【0035】
縦ベローズ215は、少なくとも一部が温調制御の対象物に接触する、伸縮可能な部材から構成されている。ここでは、温調制御の対象物は、処理容器100の天板115である。縦ベローズ215は、天板115に対してその長手方向が垂直に配置された伸縮性配管である。ここでは、複数の縦ベローズ215が均等に配置されているが、縦ベローズ215は均等に配置されていなくてもよい。
【0036】
図2の左図「A」は、図1のA部分の拡大図である。図2の「A」に示したように、縦ベローズ215の先端は、横ベローズ220と連結する連結部分215aになっている。連結部分215aは、縦ベローズ215と横ベローズ220とを固定する配管として剛性の高い物質が用いられる。また、連結部分215aの先端部215a1は、天板115との接触部分であり、熱伝達率を向上させるために天板115に対して球面状になっている。先端部215a1は、球面状でなくても天板115に対して凸状に湾曲した形状となっていてもよい。先端部215a1の接触面積は、天板115を80℃前後に冷却できる大きさであってもよい。先端部215a1を球面状等、凸状に湾曲した形状にすることにより、天板115や各ベローズのたわみや形状の加工精度に影響されずに冷却対象物との接触面積を所定以上に確保することができる。
【0037】
連結部分215a及びその先端部215a1は、同じ材質であってもよく異なる材質であってもよい。ただし、先端部215a1は、密着性が重要なため対象物の変形に追従できるように、柔軟性の高い素材が好ましい。先端部215a1は、薄膜により形成されていてもよい。薄膜は柔軟性が高いためである。連結部分215a及びその先端部215a1が剛体であってもよいが、その場合には縦ベローズ215の伸縮性が重要になる。つまり、縦ベローズ215に冷却水を通すことによる水圧で、縦ベローズ215が伸縮し、これにより水圧を対象物に伝え、対象物と先端部215a1との密着性を高めることができる。
【0038】
横ベローズ220は、天板115に対してその長手方向が水平に配置された伸縮性配管である。ここでは、横ベローズ220は、その両端部で隣接する縦ベローズ215と連結することにより、縦ベローズ215を支持する。すなわち、横ベローズ220は縦ベローズ215の間に設けられ、隣り合う縦ベローズ215の上側、下側と順に端部近傍で各縦ベローズ215を伸縮可能に繋ぐ。
【0039】
縦ベローズ215及び横ベローズ220は、熱伝達がよい金属、例えば、ステンレス、銅、アルミニウム形成されていることが好ましいが、樹脂等で形成することもできる。縦ベローズ215及び横ベローズ220は、ベローズでなくてもよく、熱伝達性のあるホースやゴム膜、内圧を掛けると伸縮する金属の薄肉の管等で形成されてもよい。
【0040】
縦ベローズ215及び横ベローズ220は、内部に液体を通すことが可能で、水圧を対象物に圧力として伝えることができ、対象物の変形に追従できる柔軟性をもった環状部材であればよい。本実施形態に係る温調機構200によれば、縦ベローズ215と横ベローズ220とを組み合わせて冷却水の通り道を形成する。これにより、縦ベローズ215の伸縮や変形に横ベローズ220を追従させることができる。特に、横ベローズ220は、縦ベローズ215と天板115との寸法誤差を吸収する。よって、横ベローズ220を、縦ベローズ215の伸縮や変形に追従できない完全な固定管で形成することは好ましくない。また、本実施形態に係る温調機構200では、横ベローズ220を、縦ベローズ215の上端部近傍のみで連結するのは、各ベローズ内を流れる水がよどむ原因となり、スムーズに水が流れないため好ましくない。
【0041】
なお、縦ベローズ215は、少なくとも一部が温調制御の対象物に接触する、伸縮可能な第1の部材の一例である。横ベローズ220は、第1の部材に連結され、伸縮可能な第2の部材の一例である。横ベローズ220は、縦ベローズ215を中継する中継ベローズとして機能する。
【0042】
固定部材230は、連結部材235を介して縦ベローズ215と連結している。これにより、縦ベローズ215は、固定部材230を介してハウジング210に固定される。図2の右図「B」は、図1のB部分の拡大図である。図2の「B」に示したように、固定部材230の先端は、ハウジング210の突起部分210aと嵌合することにより縦ベローズ215をハウジングに位置決めし、固定する。ただし、固定方法はこれに限られず、ネジ構造や溶接により固定してもよい。
【0043】
再び図1に戻ると、ハウジング210の外部には、チラー240が設置されている。チラー240は、冷却水を循環させる冷却管245と連結されている。連結部材235は、冷却管245と連結されている。これにより、チラー240から供給された冷却水は、冷却管245を通り、連結部材235、複数の縦ベローズ215及び複数の横ベローズ220を順に流れ、冷却管245を経由してチラー240に戻る。
【0044】
本実施形態に係る制御装置300は、縦ベローズ215及び横ベローズ220という伸縮性のある配管内に流す液体の圧力を制御する。その制御は制御装置300により実行される。制御装置300は、制御部310及び記憶部315を有している。制御部310は、記憶部315に記憶されたレシピ315aに従い、冷却水の流量や冷却水の温度を制御するために所望の制御信号をチラー240に送る。チラー240は、制御信号に基づき所定流量及び所定の温度の冷却水を供給する。
【0045】
以上のように、本実施形態では冷却水が循環するが、縦ベローズ215及び横ベローズ220を流れる液体の例としては、ガルデンのような絶縁性流体、エチレングリコール、シリコンオイル等が挙げられる。また、温調機構200を流れる液体は、冷媒であってもよく、温媒であってもよい。液体の替わりにガスを用いてもよい。
【0046】
かかる構成を有する温調機構200によれば、制御部310による水圧の調整により、縦ベローズ215の先端部215a1の対象物に対する押し付け圧力の調整が可能となる。
【0047】
(押圧力と熱伝達率)
ハウジング210の内部は所定の真空状態にあるため、大気中より熱伝達率が悪い。よって、真空中では大気中よりも熱伝達性が接触圧力に大きく依存する。このため、対象物との接触圧力のコントロールは、温調機構の性能を高めるために特に重要となる。
【0048】
ところが、温調機構を対象物に押し付ける力をネジ等の固定力にすると、冷却対象物の熱膨張や加工精度に追従して接触圧力をコントロールすることができず、対象物の熱変形や寸法誤差に対して温調機構の対象物に対する接触圧力を適切な値に保つことができない。
【0049】
これに対して、本実施形態に係る温調機構200によれば、制御部310によりベローズ内を流れる冷却水の圧力が制御される。これにより、各ベローズの収縮度合いを制御することができ、縦ベローズ215の先端部215a1の天板115への押し付け圧力を可変に調整することができる。例えば、図3に示したように、縦ベローズ215の先端部215a1が薄膜等の柔軟性があるものであれば、薄膜自体が天板115の変形に追従して変形し、横ベローズ220を中継して縦ベローズ215内部を流れる水圧を天板115に伝えることができる。また、縦ベローズ215の水圧による変形を天板115側に効率よく伝えるために、縦ベローズ215の上端はハウジング210で固定されている。
【0050】
例えば、図4の左側には、押し付け力(N/mm)と接触熱伝達率(w/m・k)との関係が示されている。このグラフは、図4の右側に示した検体を用いた接触熱伝達率の実験結果である。検体は、部品a,bを互いに接触させたものであり、部品aの上端を冷却管に連結させ、冷却管内部に冷却水を流す。部品a,bは固定ネジ部により固定されている。また、部品a,bは真空中に設けられている。部品bの端部はヒータと接触している。この検体に取り付けられたヒータの入熱量(w)と各温度センサTCでの温度と位置、部品a,bの形状寸法とから部品a、b間の接触熱伝達率を算出する。また、部品a,bの固定トルクと接触面の寸法から、接触面の押し付け力を算出する。
【0051】
これによれば、ネジによる固定トルクによって生じる軸力を押し付け力として、この押し付け力の大きさにより部品a,bの接触部分の密着性が変わる。グラフによれば、押し付け力が高くなればなるほど、接触熱伝達率が高くなることがわかる。
【0052】
本実施形態に係る温調機構200の構成によれば、ベローズという伸縮可能な部材を冷却管に使う。これにより、縦ベローズ215を天板115に押し当てる力をベローズ内部に通す水圧で調整することができる。よって、ベローズ内部に通す水圧で熱伝達率を制御することができる。つまり、水圧を高くして強く押し付けるほど熱伝達率がよくなる。このようにして、冷却水の流量と温度により天板115の温度調整を制御することができる。
【0053】
ただし、先端部215a1の天板115に対する押し付け圧力は、縦ベローズ215のベローズ肉厚やバネ係数やベローズ長、縦ベローズ215の内部を流れる冷却水の流量、及び配管後段に設けられた図示しない絞り弁(図7の調整弁V5,V6参照)によって変わる。よって、押し付け圧力の最適化を図るためには、縦ベローズ215のベローズ肉厚やバネ係数やベローズ長の設定、絞り弁の状態によって、適切な流量の冷却水を流すことが必要である。
【0054】
また、制御部310は、記憶部315に記憶したレシピ315aに設定された条件に応じて、冷却水の流量と温度とを変化させる制御信号を出力する。これにより、天板115の温度調整をプロセスに応じて変化させることができる。
【0055】
以上に説明したように、本実施形態に係る温調機構200によれば、縦べローズ215及び横ベローズ220を互いに連結させた構成を有し、ベローズ内部に流す冷却水の水圧を制御する。これにより、縦ベローズ215の先端部215a1と天板115との接触圧力を可変にコントロールすることができる。これによれば、例えばプロセス中の加熱による天板115の形状変化や形状の加工精度によらず、適正な接触圧力を安定して天板115に付勢することができる。これにより、大気中より熱伝達率が低い真空中であっても、冷却対象物を効率的に冷却することができる。
【0056】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る温調機構200について、図5〜図7を参照しながら説明する。図5は、天板115を対象物として温調制御する温調機構200の縦ベローズ215及び横ベローズ220の配置位置及び形状を主に示した図である。本実施形態においても、複数の縦ベローズ215が天板115の上面に伸縮可能に接触した状態で均等な間隔に配置され、複数の横ベローズ220が縦ベローズ215の間に設けられ、隣り合う縦ベローズ215の上側、下側と順に端部近傍で縦ベローズ215を繋ぐ。冷却水は、温調機構200に連結された一方の冷却管245から供給され、連結する縦ベローズ215及び横ベローズ220を順に通って他方の冷却管245から排出され、図1のチラー240に戻る。
【0057】
[複数系統の温調制御]
かかる構成によれば、縦ベローズ215及び横ベローズ220の組み合わせにより、天板115の温度をゾーン毎に可変に制御することができる。その具体例を、図6及び図7を参照しながら説明する。
【0058】
図6の上部は、先端部215a1と天板115との接触位置とゾーンとの関係を示した図である。温調機構200は内周側ゾーン、外周側ゾーン(1)及び外周側ゾーン(2)の3つのゾーンに分けて温度調節される。内周側ゾーンには2つの接触部分があり、外周側ゾーン(1)及び外周側ゾーン(2)にはそれぞれ3つの接触部分がある。また、図7に示したように、温調機構200には、10つの弁V1〜V10が内蔵されている。
【0059】
図6の下部の表に示したように、図7のケース1〜ケース4では、外周側ゾーン(1)(2)及び内周側ゾーンの温度が、高温、中温、低温のいずれかに調整される。図7のケース1〜ケース4のいずれの場合にも、弁V1〜V10の配置位置は変わらない。また、いずれのケースも、制御部310が、弁V1〜V10の開度の調整や、全開又は全閉の制御を行う。調整弁V5、V6に関しては、その弁体の開度が調整され、遮断弁V1〜V4及び遮断弁V7〜V10に関しては、その弁体の全開又は全閉の状態が制御される。これにより、各系統の温調機構に流す液体を独立して別々に制御することができる。
【0060】
(ケース1)
図7のケース1では、遮断弁V1は開き、遮断弁V3は閉じている。このため、流入した高温の冷却水は、遮断弁V1を経由して外周側ゾーン(1)(2)に流れる。これにより、外周側ゾーン(1)(2)が高温の冷却水で温度調節される。一方、遮断弁V4は開き、遮断弁V3は閉じている。このため、流入した低温の冷却水は、遮断弁V4を経由して内周側ゾーンに流れる。これにより、内周側ゾーンが低温の冷却水で温度調節される。
【0061】
外周側ゾーン(1)(2)に流れた高温の冷却水は、遮断弁V7が開き、遮断弁V9が閉じているため、調整弁V5及び遮断弁V7を通って冷却管245からチラー240に戻される。一方、内周側ゾーンに流れた低温の冷却水は、遮断弁V10が開き、遮断弁V8が閉じているため、調整弁V6及び遮断弁V10を通って冷却管245からチラー240に戻される。このようにして、天板115の外周側と内周側とを分けて、例えば、外周側を高温(50℃)、内周側を低温(10℃)に温度調整することができる。なお、調整弁V5、V6は、ベローズに連結された絞り弁である。制御部310は、この調整弁V5、V6の開度と冷却水の流量とを制御することにより、縦ベローズ215内の液体の圧力を制御し、これにより、縦ベローズ215と天板115との接触圧力を可変に制御する。特に、制御部310が、調整弁V5、V6の弁体の開度を調整することによって、冷却水の流量を変えずに管内の内圧を制御することができる。これにより、例えば、低い流量でも高い内圧を実現し、縦ベローズ215と天板115との接触圧力をより容易に制御することができる。
【0062】
(ケース2)
ケース2では、遮断弁V1〜V4の開閉がケース1の場合と逆になっている。つまり、遮断弁V1は閉じ、遮断弁V3は開いている。また、遮断弁V4は閉じ、遮断弁V3は開いている。その他の弁の状態はケース1の場合と同じである。これにより、外周側ゾーン(1)(2)が低温、内周側ゾーンが高温に調整される。
【0063】
(ケース3)
ケース3では、遮断弁V2の開閉のみケース1の場合と異なっていて、開いている。その他の弁の状態はケース1の場合と同じである。これにより、外周側ゾーン(1)(2)には高温の冷却水と低温の冷却水とが流れ、中温の冷却水で温度調整される。一方、遮断弁V3は閉じているため、内周側ゾーンには高温の冷却水は流れず、低温の冷却水で温度調整される。
【0064】
(ケース4)
ケース4では、遮断弁V4が開いている点で閉じていたケース2と異なる。その他の弁の状態はケース2の場合と同じである。これにより、外周側ゾーン(1)(2)には低温の冷却水が流れ、低温の冷却水で温度調整される。一方、内周側ゾーンには高温の冷却水及び低温の冷却水が流れ、中温の冷却水で温度調整される。
【0065】
以上に説明したように、本実施形態に係る温調機構200によれば、弁体の制御により温調機構200を複数の系統に分離して各系統で独立して制御することができる。これにより、温調制御の対象物をゾーン化して、対象物をゾーン毎に異なる温度に制御することができる。特に、本実施形態に係る温調機構200をエッチング装置10に利用した場合、制御部310が、プロセス条件を設定したレシピに応じて弁体の開閉や開度、冷却水の流量を制御する。これにより、レシピの設定内容によって、水が各ベローズ内を流れる順番を組み替えることができ、ゾーン毎の温度を可変に制御することができる。このようにして、本実施形態に係る温調機構200によれば、対象物の温度コントロールのバリエーションを広げることができる。例えば、中心側のプラズマ密度は、外側の密度より高くなる傾向がある。この場合、プラズマ処理中に発生する熱により、天板115の中心側が外側より高温になる。よって、そのようなプロセスにおいては、ケース1のように内周側を低温の冷却水で温度調節し、外周側を高温の冷却水で温度調節することが好ましい。これにより、天板115をより均一に温度調整することができる。
【0066】
<変形例>
[温調機構を含むプラズマ処理装置のハードウエア構成]
次に、図8を参照しながら、変形例にかかる温調機構400を有するエッチング装置10について説明する。本変形例では、温調機構400の構造が第1実施形態と異なる。よって、この点を中心に本変形例について説明する。
【0067】
本変形例にかかる温調機構400は、ハウジング410、縦ベローズ415、横ベローズ420、固定部材430、連結部材435及び棒状部材440を有する。
【0068】
ハウジング410及び固定部材430の構成は第1実施形態と同じであり、固定部材430は第1実施形態と同様の方法でハウジング410の所定位置に位置決めされ、固定されている。本変形例では、縦ベローズ415と横ベローズ420とが、連結部材435にて連結されている。図8の右上に縦ベローズ415と棒状部材440の拡大断面図を示したように、棒状部材440は上端に凸部を有するT字型であり、縦方向に伸縮可能である。棒状部材440は、その凸部が縦ベローズ415に係合することにより、縦ベローズ415に固定されている。固定方法は、ネジでもよく、接着でもよい。ここでは、縦方向に伸びた複数の縦ベローズ415にカーボンなどの熱伝達性の高い棒状部材を連結させる。棒状部材440は、天板115に対して長手方向が垂直になるように等間隔に配置されている。棒状部材440は、対象物に対して長手方向が垂直に配置された複数の棒状部材である第1の部材の一例である。
【0069】
複数の横ベローズ420は、対象物に対して長手方向が水平になるように直線状に連結されている。横ベローズ420は、対象物に対して長手方向が水平に配置された複数の伸縮性配管である第2の部材の一例である。
【0070】
冷却水は、温調機構400に連結された一方の冷却管245から入り、連結する複数の横ベローズ420を通って他方の冷却管245から排出され、チラー240に戻る。その際、横ベローズ420を流れる冷却水の圧力は、縦ベローズ415を介して棒状部材440の上端部を下に押し下げる力として棒状部材440に加わる。よって、本変形例によっても、制御部310が、横ベローズ420を流れる冷却水の圧力を制御することにより、棒状部材440と天板115との接触圧力を可変に制御することができる。
【0071】
以上に説明したように、本変形例に係る温調機構400によれば、縦ベローズ415の内部にて棒状部材440を縦ベローズ415に連結させた構成を有し、横ベローズ420内に流す冷却水の水圧を制御することにより、縦ベローズ415に連結された棒状部材440の先端部と天板115との接触圧力を可変に制御する。これによれば、例えばプロセス中の加熱による天板115の形状変化や形状の加工精度によらず、適正な接触圧力を安定して天板115に不勢することができる。これにより、大気中より熱伝達率が低い真空中であっても、冷却対象物を効率的に冷却することができる。
【0072】
以上、上記実施形態及びその変形例に係る温調機構によれば、冷却水を通す配管にベローズを用い、ベローズに流す冷却水の水圧を変化させることにより、対象物との接触圧力を自由にコントロールすることができる。また、対象物の形状変化に追従して効率よく対象物を温度調整することができる。これにより、大気中より熱伝達率が低い真空中であっても、安定した温調効果が得られる。
【0073】
上記実施形態及びその変形例において、各部の動作は互いに関連しており、互いの関連を考慮しながら、一連の動作及び一連の処理として置き換えることができる。これにより、温調機構の実施形態を、温調制御方法の実施形態とすることができる。また、温調機構の実施形態をプラズマ処理装置に利用することにより温調機構の実施形態からプラズマ処理装置の実施形態を実現することができる。
【0074】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0075】
例えば、上記実施形態及び変形例に係る温調機構では、上部電極として機能する天板115を冷却したが、本発明に係る温調機構により制御される対象物はかかる例に限定されない。例えば、図8に示したように、本発明に係る温調機構500をサセプタ120の下部に設け、制御部310が、温調機構500により処理容器100の底板部分の温度調整を制御してもよい。
【0076】
また、例えば、図8に示したように、本発明に係る温調機構500を処理容器100の側壁に取り付けたデポシールド150と側壁との間に設け、制御部310が、温調機構500により処理容器100の側壁部分の温度調整を制御してもよい。
【0077】
また、本発明に係る温調機構の制御の対象物の温調機構との接触部分は、平らでなくてもよく、例えば、湾曲していてもよい。
【0078】
また、本発明に係る温調機構の出入り口では、当然のことながら冷却水の温度は異なる。よって、温調機構の入り口では冷水を供給し、出口では温水を排出するというように冷却水の出入り口の位置で温度勾配をつけるように制御してもよい。
【0079】
また、本発明に係る温調機構では、冷媒だけでなく温媒を流すことにより、対象物を冷やす場合だけでなく温める場合にも利用できる。
【0080】
本発明に係るプラズマ処理装置は、エッチングに限られず、成膜、アッシング等のいかなるプラズマ処理も実行することができる。また、本発明に係る温調機構は、平行平板型(容量結合型)プラズマ処理装置、誘導結合型プラズマ処理装置、マイクロ波プラズマ処理装置、RLSAプラズマ処理装置、その他のいかなるプラズマ処理装置にも使用することができる。また、本発明に係る温調機構は、プラズマ処理装置だけでなく、蒸着装置等の真空状態で温調制御するいかなる装置にも使用することができる。
【0081】
なお、本発明にかかる制御装置への指令は、専用の制御デバイスあるいはプログラムを実行するCPU(図示せず)により実行される。プロセス条件を設定したレシピは、ROMや不揮発性メモリ(ともに図示せず)に予め記憶されていて、CPUが、これらのメモリからレシピの条件を読み出し実行する。これにより、本発明に係る温調機構を利用した温調制御(ゾーン毎の温調制御を含む)が実現される。
【符号の説明】
【0082】
10 エッチング装置
100 処理容器
110 下部電極
115 天板
115a ガス穴
120 サセプタ
200 温調機構
210 ハウジング
215 縦ベローズ
215a 連結部分
215a1 先端部
220 横ベローズ
230 固定部材
235 連結部材
240 チラー
245 冷却管
300 制御装置
310 制御部
315 記憶部
315a レシピ
400 温調機構
410 ハウジング
420 横ベローズ
430 固定部材
435 連結部材
440 棒状部材
500 温調機構
600 温調機構


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部が温調制御の対象物に接触する、伸縮可能な第1の部材と、
前記第1の部材に連結され、伸縮可能な第2の部材と、
前記第1の部材及び前記第2の部材の内部空間に流す液体を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする温調機構。
【請求項2】
前記第1の部材は、前記対象物に対して伸縮可能に複数配置され、
前記第2の部材は、複数の前記第1の部材を伸縮可能に連結するように複数配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載の温調機構。
【請求項3】
前記第1の部材は、前記対象物に対して長手方向が垂直に配置された複数の伸縮性配管であり、
前記第2の部材は、前記対象物に対して長手方向が水平に配置された複数の伸縮性配管であり、
前記制御部は、前記第1の部材及び前記第2の部材の伸縮性配管内に流す液体の圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の温調機構。
【請求項4】
前記第1の部材は、前記対象物に対して長手方向が垂直に配置された複数の伸縮可能な棒状部材であり、
前記第2の部材は、前記対象物に対して長手方向が水平に配置された複数の伸縮性配管であり、
前記制御部は、前記第2の部材の伸縮性配管内に流す液体の圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項2に記載の温調機構。
【請求項5】
前記第1の部材の先端部は、前記対象物に向かって凸状に湾曲した形状又は球面状である、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の温調機構。
【請求項6】
前記第1の部材の先端部は、薄膜により形成されている、
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の温調機構。
【請求項7】
前記制御部は、前記伸縮性配管内の液体の圧力を制御し、前記第1の部材と前記対象物との接触圧力を可変に制御する、
ことを特徴とする請求項3又は4に記載の温調機構。
【請求項8】
前記制御部は、前記液体の流量と前記伸縮性配管に連結された絞り弁とを調整することにより、前記伸縮性配管内の液体の圧力を制御する、
ことを特徴とする請求項7に記載の温調機構。
【請求項9】
前記温調機構は、複数系統から構成され、
前記制御部は、各系統の温調機構に流す液体を独立して別々に制御する、
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の温調機構。
【請求項10】
前記液体は、冷媒又は温媒である、
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一項に記載の温調機構。
【請求項11】
前記対象物は、プラズマ処理装置に設けられた上部電極、デポシールド又はサセプタの少なくともいずれかである請求項1〜10のいずれか一項に記載の温調機構。
【請求項12】
前記温調機構は、少なくとも前記第1の部材及び前記第2の部材を内蔵し、固定部材を介して前記第1の部材を固定するハウジングを更に有し、
前記ハウジングの内部は、所定の真空状態に保たれる請求項1〜〜11のいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
少なくとも一部が温調制御の対象物としてのプラズマ処理装置のパーツに接触する、伸縮可能な第1の部材と、
前記第1の部材に連結され、伸縮可能な第2の部材と、
前記第1の部材及び前記第2の部材の内部空間に流す液体を制御する制御部と、
を有する温調機構を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項14】
前記制御部は、前記プラズマ処理装置にて行われるプロセスのレシピに基づき、前記内部空間に流す液体を可変に制御する請求項13に記載のプラズマ処理装置。
【請求項15】
少なくとも一部が対象物に接触された、伸縮可能な第1の部材と、前記第1の部材に連結された、伸縮可能な第2の部材と、を備えた温調機構の前記第1の部材及び前記第2の部材の内部空間に流す液体の圧力を制御することにより、前記第1の部材と前記対象物との接触圧力を可変に制御することを特徴とする温調制御方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−204737(P2012−204737A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−69721(P2011−69721)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000219967)東京エレクトロン株式会社 (5,184)
【Fターム(参考)】