説明

測位システム、測位装置、通信基地局の制御方法、その制御プログラム及び記録媒体

【課題】マルチパスを判断し、マルチパスの場合には通信基地局におけるコードフェーズを使用するよりも精度よく測位することができる測位システム等を提供すること。
【解決手段】通信基地局40は、測位装置20の初期位置を算出する初期位置算出手段と、通信基地局40における衛星信号のコードフェーズと初期位置における衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出手段と、衛星信号に基づいて算出したコードフェーズと推定差分に基づいて、初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出手段等を有し、測位装置20は、推定コードフェーズと衛星信号を受信して算出した端末コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出するコードフェーズ差分算出手段と、コードフェーズ差分に応じて、推定コードフェーズ又は端末コードフェーズを使用して測位を行う測位手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SPS(Satellite Positioning System)を利用して測位する測位システム、測位装置、通信基地局の制御方法、その制御プログラム及び記録媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、人工衛星を利用した衛星航法システムであるSPSを利用して測位装置の現在位置を測位する測位システムが実用化されている(特開平10−339772号公報等参照)。
ところが、測位装置は、衛星からの電波が建築物等に反射した間接波(以後、マルチパスと呼ぶ)が直接波に干渉した状態の電波を受信する場合がある。マルチパスは建築物等に反射する分、測位装置への到達が遅くなる。このマルチパスが直接波に干渉する結果として相関ピーク値がずれて、測位演算に大きな誤差が発生するという問題がある。なお、本明細書において、マルチパスが発生し易い環境をマルチパス環境と呼ぶ。
これに関連して、携帯電話機と一体になった測位装置について、通信基地局の位置が衛星電波を使用して算出した位置よりも精度が高いと判断した場合に、通信基地局の位置を利用する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
また、通信基地局で算出したC/A(Coarse/Acquisition)コードのコードフェーズを、測位装置のコードフェーズとして使用することも考えられる。
【特許文献1】特開2006−109355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、通信基地局の位置は固定であるから、携帯電話と一体となった測位装置が移動中においては、特許文献1の技術によって出力される位置は不都合な場合がある。
また、通信基地局で算出したC/Aコードのコードフェーズは、測位装置の位置における真のコードフェーズとは異なるはずであるから、通信基地局におけるコードフェーズを測位装置におけるコードフェーズとして使用すると、測位位置の精度が劣化する場合があるという問題がある。
【0004】
そこで、本発明は、マルチパスを判断し、マルチパスが存在する場合には通信基地局におけるコードフェーズを使用するよりも精度よく測位することができる測位システム、測位装置、通信基地局の制御方法、その制御プログラム及び記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的は、第1の発明によれば、複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置と、前記測位装置と通信可能な通信基地局を有する測位システムであって、前記通信基地局は、前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出手段と、前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出手段と、前記衛星信号に基づいて算出したコードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出手段と、前記測位装置に対して、前記初期位置と前記推定コードフェーズを送信する補助情報送信手段と、を有し、前記測位装置は、前記衛星信号に基づいて端末コードフェーズを算出する端末コードフェーズ算出手段と、前記推定コードフェーズと前記端末コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出するコードフェーズ差分算出手段と、前記コードフェーズ差分に応じて、前記推定コードフェーズ又は前記端末コードフェーズを使用して測位を行う測位手段と、を有することを特徴とする測位システムにより達成される。
【0006】
第1の発明の構成によれば、前記通信基地局は、前記測位装置の初期位置を算出することができる。
そして、前記通信基地局は、前記推定差分を算出することができる。
さらに、前記通信基地局は、前記衛星信号を受信して算出したコードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出することができる。
一方、前記測位装置は、前記推定コードフェーズと前記端末コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出することができる。ここで、前記測位装置は、前記初期位置を使用して前記衛星信号を乗せたキャリアのドップラー偏移を予想することができるから、効率的に前記衛星信号を受信することができ、迅速に前記端末コードフェーズを算出することができる。
そして、前記測位装置は、前記コードフェーズ差分に応じて、前記推定コードフェーズ又は前記端末コードフェーズを使用して測位を行うことができる。
例えば、前記測位装置は、前記コードフェーズ差分がマルチパスを示すほど大きい場合には、前記推定コードフェーズを使用して測位を行うことができる。前記推定コードフェーズは、前記通信基地局におけるコードフェーズではなくて、前記測位装置の前記初期位置におけるコードフェーズであると推定されたコードフェーズである。このため、前記通信基地局におけるコードフェーズよりも、前記測位装置の真のコードフェーズに近い。
これにより、前記測位システムによれば、マルチパスを判断し、マルチパスの場合には通信基地局におけるコードフェーズを使用するよりも精度よく測位することができる。
【0007】
第2の発明は、第1の発明の構成において、前記通信基地局の前記初期位置算出手段は、
前記通信基地局の位置と、前記測位装置との間を通信電波が伝播する伝播時間と、前記通信電波の送信方向とに基づいて、前記測位装置の初期位置を算出する構成となっていることを特徴とする測位システムである。
【0008】
前記目的は、第3の発明によれば、複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置であって、前記測位装置と通信可能な通信基地局から前記通信基地局の位置を示す基地局位置情報を取得する基地局位置情報取得手段と、前記通信基地局から前記測位装置に送信している通信電波の送信方向を示す送信方向情報を取得する送信方向情報取得手段と、前記通信基地局が前記衛星信号に基づいて算出した基地局コードフェーズを取得する基地局コードフェーズ取得手段と、前記通信基地局との間を通信電波が伝播する伝播時間を算出する伝播時間算出手段と、前記通信基地局の位置と、前記送信方向と、前記伝播時間とに基づいて、前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出手段と、前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出手段と、前記基地局コードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出手段と、前記衛星信号に基づいて端末コードフェーズを算出する端末コードフェーズ算出手段と、前記推定コードフェーズと前記端末コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出するコードフェーズ差分算出手段と、前記コードフェーズ差分に応じて、前記推定コードフェーズ又は前記端末コードフェーズを使用して測位を行う測位手段と、を有することを特徴とする測位装置によって達成される。
【0009】
第3の発明の構成によれば、前記測位装置は前記初期位置を算出することができる。
このため、前記初期位置を使用して前記衛星信号を乗せたキャリアのドップラー偏移を予想することができるから、効率的に前記衛星信号を受信することができる。
また、前記測位装置は、前記推定差分を算出することができる。
また、前記測位装置は、前記推定コードフェーズを算出することができる。
また、測位装置は、前記推定コードフェーズと前記端末コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出することができる。
そして、前記測位装置は、前記コードフェーズ差分に応じて、前記推定コードフェーズ又は前記端末コードフェーズを使用して測位を行うことができる。
例えば、前記測位装置は、前記コードフェーズ差分がマルチパスを示すほど大きい場合には、前記推定コードフェーズを使用して測位を行うことができる。前記推定コードフェーズは、前記通信基地局におけるコードフェーズではなくて、前記測位装置の前記初期位置におけるコードフェーズであると推定されたコードフェーズである。このため、前記通信基地局におけるコードフェーズよりも、前記測位装置の真のコードフェーズに近い。
これにより、前記測位装置によれば、マルチパスを判断し、マルチパスの場合には通信基地局におけるコードフェーズを使用するよりも精度よく測位することができる。
【0010】
前記目的は、第4の発明によれば、複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置であって、前記測位装置と通信可能な通信基地局から前記通信基地局の位置を示す基地局位置情報を取得する基地局位置情報取得手段と、前記測位装置と通信可能な通信基地局が前記衛星信号に基づいて算出した基地局コードフェーズを取得する基地局コードフェーズ取得手段と、複数の前記通信基地局からの通信電波を利用して初期位置を算出する初期位置算出手段と、前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出手段と、前記基地局コードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出手段と、前記衛星信号に基づいて端末コードフェーズを算出する端末コードフェーズ算出手段と、前記推定コードフェーズと前記端末コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出するコードフェーズ差分算出手段と、前記コードフェーズ差分に応じて、前記推定コードフェーズ又は前記端末コードフェーズを使用して測位を行う測位手段と、を有することを特徴とする測位装置によって達成される。
【0011】
第4の発明の構成によれば、前記測位装置は、複数の前記通信基地局からの通信電波を利用して前記初期位置を算出することができ、第3の発明の構成と同様に、マルチパスを判断し、マルチパスの場合には通信基地局におけるコードフェーズを使用するよりも精度よく測位することができる。
【0012】
前記目的は、第5の発明によれば、複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置と通信可能な通信基地局が、前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出ステップと、前記通信基地局が、前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出ステップと、前記通信基地局が、前記衛星信号に基づいて算出したコードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出ステップと、前記通信基地局が、前記測位装置に対して、前記初期位置と前記推定コードフェーズを送信する補助情報送信ステップと、を有することを特徴とする通信基地局の制御方法によって達成される。
【0013】
第5の発明の構成によれば、前記通信基地局は、前記測位装置に対して、前記初期位置と前記推定コードフェーズを送信することができる。
このため、前記測位装置は、前記衛星信号を受信して算出した端末コードフェーズと、前記推定コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出し、そのコードフェーズ差分に応じて、前記推定コードフェーズ又は端末コードフェーズを使用して測位を行うことができる。
これにより、マルチパスを判断し、マルチパスの場合には通信基地局におけるコードフェーズを使用するよりも精度よく測位することができる。
【0014】
前記目的は、第6の発明によれば、コンピュータに、複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置と通信可能な通信基地局が、前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出ステップと、前記通信基地局が、前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出ステップと、前記通信基地局が、前記衛星信号に基づいて算出したコードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出ステップと、前記通信基地局が、前記測位装置に対して、前記初期位置と前記推定コードフェーズを送信する補助情報送信ステップと、を実行させることを特徴とする通信基地局の制御プログラムによって達成される。
【0015】
前記目的は、第7の発明によれば、コンピュータに、複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置と通信可能な通信基地局が、前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出ステップと、前記通信基地局が、前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出ステップと、前記通信基地局が、前記衛星信号に基づいて算出したコードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出ステップと、前記通信基地局が、前記測位装置に対して、前記初期位置と前記推定コードフェーズを送信する補助情報送信ステップと、を実行させることを特徴とする通信基地局の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体によって達成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の好適な実施の形態を添付図面等を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態の測位システム10を示す概略図である。
図1に示すように、測位システム10は、GPS(Global Positioning System)衛星12a,12b,12c,12d,12e及び12fを有する。GPS衛星12a等は、それぞれ電波S1,S2,S3,S4,S5及びS6を送信することができる。GPS衛星12a等は測位衛星の一例である。
なお、測位衛星は、GPS衛星に限らず、広くSPSにおいて使用される衛星であってもよい。SPSは、GPSの他に、例えば、Galileo、準天頂衛星等を含む。
電波S1等には各種のコード(符号)が乗せられている。そのうちの一つがC/Aコードである。このC/Aコードは、1.023Mbpsのビット率、1,023bit(=1msec)のビット長の信号である。C/Aコードは、1,023チップ(chip)で構成されている。C/Aコードは、衛星信号の一例である。
【0018】
測位システム10は、また、端末20A及び端末20Bを有する。端末20A及び端末20Bを総称して、端末20と呼ぶ。
端末20は、測位機能を有する携帯電話機であり、C/Aコードを使用して現在位置を測位することができる。端末20は、測位装置の一例である。
【0019】
端末20は、例えば、3個以上の異なるGPS衛星12a等からのC/Aコードのコードフェーズ(位相)を特定して、各GPS衛星12a等と端末20との擬似距離を算出し、その擬似距離を使用して現在位置を測位することができるようになっている。
【0020】
図2は、測位方法の一例を示す概念図である。
図2に示すように、例えば、GPS衛星12aと端末20との間には、C/Aコードが連続的に並んでいると観念することができる。そして、GPS衛星12aと端末20との間の距離は、C/Aコードの長さ(約300キロメートル(km))の整数倍とは限らないから、コード端数部C/Aaが存在する。つまり、GPS衛星12aと端末20との間には、C/Aコードの整数倍の部分と、端数部分が存在する。C/Aコードの整数倍の部分と端数部分の合計の長さが擬似距離である。端末20は、3個以上のGPS衛星12a等についての擬似距離を使用して測位を行う。
本明細書において、C/Aコードの端数部C/Aaをコードフェーズ(位相)と呼ぶ。コードフェーズは、例えば、C/Aコードの1,023あるチップの何番目かで示すこともできるし、距離に換算して示すこともできる。
【0021】
GPS衛星12aの軌道上の位置はエフェメリスを使用して算出可能である。エフェメリスは、各GPS衛星12a等の精密な軌道を示す情報である。そして、例えば、GPS衛星12aの軌道上の位置と初期位置Q0(図示せず)との距離を算出すれば、C/Aコードの整数倍の部分を特定することができる。なお、C/Aコードの長さが約300キロメートル(km)であるから、初期位置Q0の位置誤差は、150キロメートル(km)以内である必要がある。
【0022】
端末20は、コヒーレント処理及びインコヒーレント処理で構成される相関処理を行う。
端末20は、コヒーレント処理において、コヒーレント時間が5msecであれば、5msecの時間において同期積算したC/AコードとレプリカC/Aコードとの相関値等を算出する。コヒーレント処理の結果、相関をとったときのコードフェーズと、相関値が出力される。
端末20は、インコヒーレント処理において、コヒーレント結果の相関値を積算することによって、相関積算値(インコヒーレント値)を算出する。
相関積算値が最大になったコードフェーズがコード端数C/Aaである。
【0023】
測位システム10は、また、基地局40を有する。基地局40は、端末20と通信可能である。基地局40は、携帯電話システムにおける通信基地局であって、固定位置に位置する。この固定位置の座標は既知である。基地局40が位置する固定位置は、周辺に障害物がないオープンスカイの環境である。このため、基地局40は、例えば、GPS衛星12cから、直接波r1として電波S3を受信することができる。基地局40は、通信基地局の一例である。
基地局40は、専用回線65を介して端末20と他の端末の通信の仲介を行うことができる。
基地局40は、GPS受信機42を有し、GPS衛星12a等から電波S1等を受信することができる。
そして、基地局40は、C/Aコードのコードフェーズを算出することができる。基地局40は、通信電波を、例えば、4つのアンテナ54a,54b,54c及び54dを使用して送受信している。4つのアンテナ54a等は、例えば、それぞれ東西南北という4つの異なる方向に通信電波を送信し、端末20からの通信電波を受信する。なお、通信電波の送信方向を、セルセクタとも呼ぶ。
そして、基地局40は、通信中の端末20に対して、どの方向の基地局40のアンテナからの通信電波を送信しているかについて、認識できるように構成されている。
【0024】
ここで、端末20Aの位置のように周辺に障害物がない場合には、例えば、電波S3は、端末20Aに直接波r2として到達する。
これに対して、端末20Bの位置のように周辺にビル13A及び13Bのような障害物がある場合には、例えば、電波S3は、ビル13Bに反射して、間接波(マルチパス)r3として端末20Bに到達する。
マルチパスr3の場合、直接波よりも伝播経路が長いから、端末20Bはコードフェーズを直接波の場合よりも長く算出する。この結果、測位位置の精度が劣化する。
【0025】
(基地局40の主なハードウエア構成について)
図3は基地局40の主なハードウエア構成を示す概略図である。
図3に示すように、基地局40は、バス42を有する。
【0026】
このバス42には、CPU(Central Processing Unit)44、記憶装置46、外部記憶装置48等が接続されている。記憶装置46は例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等である。外部記憶装置48は例えば、HDD(Hard Disk Drive)等である。
また、このバス42には、各種情報等を入力するための入力装置50、電源装置52、通信装置54、GPS装置56、表示装置58及び時計60が接続されている。
基地局40は、時計60によって、RTT(Round Trip Time)(図1参照)を計測することができる。RTTは、通信電波が基地局40と端末20との間を往復するために必要な時間である。そして、RTTの2分の1の時間が、基地局40と端末20との間を通信電波が伝播する伝播時間である。
【0027】
(端末20の主なハードウエア構成について)
図4は端末20の主なハードウエア構成を示す概略図である。
図4に示すように、端末20は、バス22を有する。
【0028】
このバス22には、CPU24、記憶装置26等が接続されている。
また、このバス22には、各種情報等を入力するための入力装置28、電源装置30、通信装置32、GPS装置34が接続されている。端末20は、GPS装置34によって、電波S1等を受信することができる。
また、このバス22には、各種情報を表示するための表示装置36が接続されている。
【0029】
(基地局40の主なソフトウエア構成について)
図5は、基地局40の主なソフトウエア構成を示す概略図である。
図5に示すように、基地局40は、各部を制御する制御部200、図3の通信装置54に対応する通信部202、GPS装置56に対応するGPS部204、表示装置58に対応する表示部206、時計60に対応する計時部208等を有する。
基地局40は、また、各種プログラムを格納する第1記憶部210、各種情報を格納する第2記憶部250を有する。
【0030】
図5に示すように、基地局40は、第2記憶部250に、衛星軌道情報252を格納している。衛星軌道情報252は、アルマナック252a及びエフェメリス252bを含む。アルマナック252aは、すべてのGPS衛星12a等(図1参照)の概略の軌道を示す情報である。アルマナック252aは、いずれのGPS衛星12a等の電波S1等に乗せられた信号からも、デコードして取得することができる。
エフェメリス252bは、各GPS衛星12a等(図1参照)の精密な軌道を示す情報である。例えば、GPS衛星12aのエフェメリス152bを取得するためには、GPS衛星12aからの電波S1を受信し、デコードして取得する必要がある。
【0031】
図5に示すように、基地局40は、第2記憶部250に、基地局位置情報254を格納している。基地局位置情報254は、固定位置に位置する基地局40の位置を緯度、経度及び高度で示す情報である。
【0032】
図5に示すように、基地局40は、第1記憶部210に、RTT算出プログラム212を格納している。RTT算出プログラム212は、制御部200が、通信電波が基地局40と端末20との間を伝播する伝播時間RTTを算出するためのプログラムである。RTT算出プログラム212と制御部200は、伝播時間算出手段の一例である。
具体的には、制御部200は、端末20に対して特定のフレーム(基地局フレームと呼ぶ)を送信し、その基地局フレームに対応して端末20が送信したフレーム(端末フレームと呼ぶ)を受信する。そして、特定の基地局フレームの送信時刻と、その基地局フレームに対応する端末フレームの受信時刻を計時部208によって計測することで、RTTを算出する。
このように、制御部200は、通信電波が基地局40と端末20との間を往復する往復時間(RTT)を算出する構成となっている。
制御部200は、算出したRTTを示すRTT情報256を第2記憶部250に格納する。
【0033】
図5に示すように、基地局40は、第1記憶部210に、送信方向情報取得プログラム214を格納している。送信方向情報取得プログラム214は、制御部200が、通信中の端末20へ送信している通信電波の送信方向を示す情報を取得するためのプログラムである。
具体的には、制御部200は、端末20へ通信電波を送信するために使用しているアンテナ54a等がいずれかを特定することによって、送信方向を特定する。送信方向は、北を0度として、東が90度、南が180度、西が270度として示されている。
制御部200は、送信方向を示す送信方向情報258を第2記憶部250に格納する。
【0034】
図5に示すように、基地局40は、第1記憶部210に、衛星信号受信プログラム216を格納している。衛星信号受信プログラム216は、制御部200が、GPS衛星12a等から電波S1等を受信するためのプログラムである。
具体的には、制御部200は、アルマナック252aを参照して、現在時刻において観測可能なGPS衛星12a等を判断し、観測可能なGPS衛星12a等からの電波S1等を受信する。このとき、基準となる自己位置は、基地局位置Pbを使用する。
【0035】
図5に示すように、基地局40は、第1記憶部210に、コードフェーズ算出プログラム218を格納している。コードフェーズ算出プログラム218は、制御部200が、GPS衛星12a等ごとのC/Aコードのコードフェーズを算出するためのプログラムである。
制御部200は、例えば、GPS衛星12aについてのコードフェーズCPb1、GPS衛星12bについてのコードフェーズCPb2、GPS衛星12cについてのコードフェーズCPb3、GPS衛星12dについてのコードフェーズCPb4を算出する。
ここで、基地局40の電波S1等の受信環境は、オープンスカイであり、電波S1等の受信状態は良好であるから、コードフェーズCPb1等は、マルチパスの影響を受けておらず、極めて精度が高い。なお、コードフェーズCPb1等を総称してコードフェーズCPbと呼ぶ。
制御部200は、コードフェーズCPb1等を示すコードフェーズ情報260を第2記憶部250に格納する。
【0036】
図5に示すように、基地局40は、第1記憶部210に、初期位置算出プログラム220を格納している。初期位置算出プログラム220は、制御部200が、端末20の初期位置Pipを算出するためのプログラムである。初期位置算出プログラム220と制御部200は、初期位置算出手段の一例である。
初期位置Pipは、端末20が測位における初期推定位置として使用するための位置である。端末20は、初期位置Pipを、観測可能なGPS衛星12a等を算出したり、GPS衛星12a等からの電波S1等のドップラー偏移を算出するため等に使用する。
【0037】
図6は、初期位置算出プログラム220の説明図である。
制御部100は、まず、図6の式1によって、端末20との距離dを算出する。通信電波が基地局40から端末20へ伝播するまでの伝播時間は、RTTの2分の1であるから、RTTの2分の1の時間に通信電波の伝播速度(光速)を乗じることによって、距離dを算出することができる。
【0038】
そして、制御部100は、基地局位置Pbを基点として、送信方向θへ距離dだけ離れた位置を初期位置Pipとして算出する。送信方向θは2次元であるから、初期位置Pipの高度は高度は基地局位置Pbの高度Zbとする。
制御部200は、算出した初期位置Pip(Xip,Yip,Zip)を示す初期位置情報262を第2記憶部250に格納する。上述のように、高度Zipは基地局位置Pbの高度Zbに等しい。
【0039】
図5に示すように、基地局40は、第1記憶部210に、推定差分算出プログラム222を格納している。推定差分算出プログラム222は、制御部200が、基地局40における特定のGPS衛星のコードフェーズと、端末20の初期位置Pipにおけるコードフェーズとの推定差分CPdifを算出するためのプログラムである。推定差分算出プログラム222と制御部200は、推定差分算出手段の一例である。
【0040】
図7は、推定差分算出プログラム222の説明図である。
制御部200は、図7の式2によって、遅延時間の予想差であるTimedifを算出する。制御部200は、エフェメリス252bを参照して現在時刻における例えば、GPS衛星12aの軌道上の衛星位置Ps(Xs,Ys,Zs)を算出する。そして、衛星位置Psと基地局位置Pbとの距離と、衛星位置Psと端末20の初期位置Pipとの距離との距離差分を算出する。その距離差分を電波S1等の伝播速度(光速)で除することによって、遅延時間の予想差Timedifを算出する。予想差Timedifの単位は、ミリ秒(msec)とする。
【0041】
上述のように、C/Aコードは、1.023Mbpsのビット率、1,023bit(=1msec)のビット長の信号である。このため、Timedifに1,023を乗じることによって、推定差分CPdifを算出することができる。
制御部200は、算出した推定差分CPdifを示す推定差分情報264を第2記憶部250に格納する。
【0042】
図5に示すように、基地局40は、第1記憶部210に、推定コードフェーズ算出プログラム224を格納している。推定コードフェーズ算出プログラム224は、制御部200が、電波S1等を受信して算出した基地局コードフェーズCPb等と推定差分CPdifに基づいて、推定コードフェーズCPipを算出するためのプログラムである。推定コードフェーズCPipは、推定コードフェーズの一例である。
【0043】
図8は、推定コードフェーズ算出プログラム224の説明図である。
制御部100は、特定のGPS衛星について、基地局位置Pbにおける仰角ELVbが初期位置Pipにおける仰角ELVipよりも大きい場合には、基地局コードフェーズCPbに推定差分CPdifを加算する式4Aを使用して、推定コードフェーズCPipを算出する。仰角ELVbが仰角ELVipよりも大きいということは、特定の衛星と基地局40との距離は、その衛星と端末20との距離よりも短いことを意味する。このため、推定差分CPdifの符号は正になるのである。
【0044】
これに対して、制御部100は、特定のGPS衛星について、基地局位置Pbにおける仰角ELVbが初期位置Pipにおける仰角ELVipよりも小さい場合には、基地局コードフェーズCPbから推定差分CPdifを減じる式4Bを使用して、推定コードフェーズCPipを算出する。仰角ELVbが仰角ELvipよりも小さいということは、特定の衛星と基地局40との距離は、その衛星と端末20との距離よりも長いことを意味する。このため、推定差分CPdifの符号は負になるのである。
制御部200は、算出した推定コードフェーズCPipを第2記憶部250に格納する。
なお、本実施の形態とは異なり、推定差分CPdifの符号は、図7の式2の計算過程において判断してもよい。すなわち、図7の式2の計算過程においては、特定のGPS衛星と基地局位置Pbとの距離と、そのGPS衛星と端末20との距離との差分を算出するから、双方の距離を比較することができる。そして、特定のGPS衛星と基地局位置Pbとの距離が、そのGPS衛星と端末20との距離よりも長い場合には、推定差分CPdifの符号は負になる。逆に、特定のGPS衛星と基地局位置Pbとの距離が、そのGPS衛星と端末20との距離よりも短い場合には、推定差分CPdifの符号は正になる。
【0045】
図5に示すように、基地局40は、第1記憶部210に、補助情報送信プログラム226を格納している。補助情報送信プログラム226は、制御部200が、端末20に対して、初期位置情報262と推定コードフェーズ情報266を送信するためのプログラムである。補助情報送信プログラム226と制御部200は、補助情報送信手段の一例である。
以上が、基地局40の主なソフトウエア構成である。
続いて、端末20の主なソフトウエア構成について説明する。
【0046】
(端末20の主なソフトウエア構成について)
図9は、端末20の主なソフトウエア構成を示す概略図である。
図9に示すように、端末20は、各部を制御する端末制御部100、図4の通信装置32に対応する通信部102、GPS装置34に対応するGPS部104、表示装置36に対応する表示部106等を有する。
端末20は、また、各種プログラムを格納する第1記憶部110、各種情報を格納する第2記憶部150を有する。
【0047】
図9に示すように、端末20は、第2記憶部150に、衛星軌道情報152を格納している。衛星軌道情報152は、アルマナック152a及びエフェメリス152bを含む。
端末20は、衛星軌道情報152を、測位のために使用する。
【0048】
図9に示すように、端末20は、第1記憶部110に、衛星信号受信プログラム112を格納している。衛星信号受信プログラム112は、制御部100が、GPS衛星12a等から、電波S1等を受信するためのプログラムである。
衛星信号受信プログラム112の内容は、上述の基地局40の衛星信号受信プログラム216と同様であるが、制御部100は、電波S1等を受信するための初期位置として、初期位置Pipを使用する。すなわち、観測可能なGPS衛星12a等を算出するための基準位置として初期位置Pipを使用し、さらに、GPS衛星12a等からの受信周波数を算出するためにも初期位置Pipを使用するように構成されている。この受信周波数には、ドップラー偏移を含む。
【0049】
図9に示すように、端末20は、第1記憶部110に、コードフェーズ算出プログラム114を格納している。コードフェーズ算出プログラム114は、端末制御部100が、電波S1等を受信してGPS衛星12a等ごとのC/Aコードのコードフェーズを算出するためのプログラムである。コードフェーズ算出プログラム114と端末制御部100は、端末コードフェーズ算出手段の一例である。
端末制御部100は、例えば、GPS衛星12aについてのコードフェーズCPm1、GPS衛星12bについてのコードフェーズCPm2、GPS衛星12cについてのコードフェーズCPm3、GPS衛星12dについてのコードフェーズCPm4を算出する。
端末制御部100は、コードフェーズCPm1等を示すコードフェーズ情報154を第2記憶部150に格納する。なお、コードフェーズCPm1等を総称して端末コードフェーズCPmと呼ぶ。
【0050】
図9に示すように、端末20は、第1記憶部110に、補助情報受信プログラム116を格納している。補助情報受信プログラム116は、端末制御部100が、基地局40から初期位置情報262(図5参照)と推定コードフェーズ情報266(図5参照)を受信するためのプログラムである。
端末制御部100は、受信した初期位置情報262を初期位置情報156として第2記憶部150に格納する。また、端末制御部100は、受信した推定コードフェーズ情報266を推定コードフェーズ情報158として第2記憶部150に格納する。
【0051】
図9に示すように、端末20は、第1記憶部110に、コードフェーズ差分算出プログラム118を格納している。コードフェーズ差分算出プログラム118は、端末制御部200が、推定コードフェーズCPipと端末コードフェーズCPmとのコードフェーズ差分CPerを算出するためのプログラムである。コードフェーズ差分CPerは、コードフェーズ差分の一例である。コードフェーズ差分算出プログラム118と端末制御部200は、コードフェーズ差分算出手段の一例である。
【0052】
図10は、コードフェーズ差分算出プログラム118の説明図である。
端末制御部100は、図10(a)に示すように、推定コードフェーズCPipと端末コードフェーズCPmの差分を算出して、その絶対値をとる式5によって、コードフェーズ差分CPerを算出する。
端末制御部100は、図10(b)に示すように、各GPS衛星12a等ごとに、コードフェーズ差分CPerを算出する。例えば、GPS衛星12aについてのコードフェーズ差分Cperaはc1チップであり、GPS衛星12bについてのコードフェーズ差分Cperaはc2チップである。
端末制御部100は、算出したコードフェーズ差分CPerを示すコードフェーズ差分情報160を第2記憶部150に格納する。
【0053】
図9に示すように、端末20は、第1記憶部110に、測位プログラム120を格納している。測位プログラム120は、端末制御部100が、コードフェーズ差分CPerに応じて、推定コードフェーズCPip又は端末コードフェーズCPmを使用して測位を行うためのプログラムである。測位プログラム120と端末制御部100は、測位手段の一例である。
【0054】
図11は、測位プログラム120の説明図である。
図11(a)に示すように、端末制御部100は、コードフェーズ差分Cperが閾値α未満の衛星については、端末コードフェーズCPmを使用する。コードフェーズ差分Cperが閾値α未満であれば、そのGPS衛星からの電波S1等はマルチパスではないと考えられるから、制御部100は、実際に信号S1等を受信して算出した端末コードフェーズCPmを使用するのである。閾値αは、初期位置Pipの精度に応じて、マルチパスを判定することができるような値として規定されている。
本実施の形態の閾値αは、例えば、2チップ(chip)である。C/Aコードは1,023チップで構成されるが、推定コードフェーズCPipと端末コードフェーズCPmが2チップ以上ずれた場合には、端末コードフェーズCPmがマルチパスの信号によって算出されたと判断するのである。
なお、閾値αは、初期位置Pipの精度が高いほど、小さく設定することができる。そして、初期位置PipはRTTと通信電波の送信方向によって規定されるから、例えば、送信方向が詳細にわかっているほど、初期位置Pipの精度は高くなる。このため、本実施の形態とは異なり、送信方向が8方向(北、北東、東、南東、南、南西、西、北西)であれば閾値αを1.5チップとし、送信方向が16方向であれば閾値αを1チップととすることができる。初期位置Pipの精度が高く、閾値αを小さく設定するほど、端末コードフェーズCPmがマルチパスの影響を受けているか否かを精度よく判断することができる。
【0055】
これに対して、端末制御部100は、コードフェーズ差分CPerが閾値α以上の衛星については、端末コードフェーズCPmを使用する。コードフェーズ差分Cperが閾値α以上であれば、そのGPS衛星からの電波S1等はマルチパスであると考えられるから、制御部100は、推定コードフェーズCPipを使用するのである。
【0056】
例えば、制御部100は、GPS衛星12a,12b,12c及び12dを使用して測位する場合であって、GPS衛星12cに対応するコードフェーズ差分CPerだけが閾値α以上である場合には、図11(b)に示すように、端末コードフェーズCPma,CPmb,CPmd及び推定コードフェーズCPipcを使用して測位を行う。
端末制御部100は、算出した測位位置P1を示す測位位置情報162を第2記憶部150に格納する。
【0057】
図9に示すように、端末20は、第1記憶部110に、測位位置出力プログラム122を格納している。測位位置出力プログラム122は、端末制御部100が、測位位置P1を表示装置36(図4参照)に表示するためのプログラムである。
【0058】
測位システム10は、上述のように構成されている。
上述のように、基地局40は、端末20の初期位置Pipを算出することができる。
そして、基地局40は、推定差分CPdifを算出することができる。
さらに、基地局40は、電波S1等に基づいて算出したコードフェーズCPbと推定差分CPdifに基づいて、端末20の初期位置Pipにおける推定コードフェーズCPipを算出することができる。
一方、端末20は、推定コードフェーズCPipと端末コードフェーズCPmとのコードフェーズ差分CPerを算出することができる。ここで、端末20は、初期位置Pipを使用してC/Aコードを乗せた電波S1等のドップラー偏移を予想することができるから、効率的にC/Aコードを受信することができ、迅速に端末コードフェーズCPmを算出することができる。
そして、端末20は、コードフェーズ差分CPerに応じて、推定コードフェーズCPip又は端末コードフェーズCPmを使用して測位を行うことができる。
例えば、端末20は、コードフェーズ差分CPerがマルチパスを示すほど大きい場合には、推定コードフェーズCPipを使用して測位を行うことができる。推定コードフェーズCPipは、基地局40におけるコードフェーズではなくて、端末20の初期位置Pipにおけるコードフェーズであると推定されたコードフェーズである。すなわち、初期位置Pipは、基地局40の位置よりも、端末20の真の位置に近い。
このため、推定コードフェーズCPipは、基地局コードフェーズCPbよりも、端末20の真のコードフェーズに近い。
これにより、測位システム20によれば、マルチパスを判断し、マルチパスの場合には通信基地局におけるコードフェーズを使用するよりも精度よく測位することができる。
さらに、初期位置Pipは、基地局40の位置よりも端末20の真の位置に近いから、測位演算の過程で計算結果の収束が早くなる。すなわち、TTFF(Time To First Fix)が短くなる。
【0059】
以上が本実施の形態に係る測位システム10の構成であるが、以下、その動作例を主に図12及び図13を使用して説明する。
図12及び図13は測位システム10の動作例を示す概略フローチャートである。
まず、基地局40が、端末20との間のRTTを算出する(図12のステップST1)続いて、基地局40が、送信方向情報を取得する(ステップST2)。
【0060】
続いて、基地局40は、電波S1等を受信し、コードフェーズCPbを算出する(ステップST3)。
続いて、基地局40は、基地局位置Pb、RTT及び送信方向に基づいて、端末20の初期位置Pipを算出する(ステップST4)。このステップST4は、初期位置算出ステップの一例である。
【0061】
続いて、基地局40は、基地局位置Pbにおけるコードフェーズと初期位置Pipにおけるコードフェーズの推定差分CPdifを算出する(ステップST5)。このステップST5は、推定差分算出ステップの一例である。
続いて、基地局40は、基地局コードフェーズCPbと推定差分CPdifに基づいて、初期位置Pipにおける推定コードフェーズCPipを算出する(ステップST6)。このステップST6は、推定コードフェーズ算出ステップの一例である。
【0062】
続いて、基地局40は、端末20に対して、初期位置情報262(図5参照)と推定コードフェーズ情報266(図5参照)を送信する(ステップST7)。このステップST7は、補助情報送信ステップの一例である。
【0063】
一方、端末20は、基地局40から初期位置情報262と推定コードフェーズ情報266を受信する(図13のステップST8)。端末20は、初期位置情報262を初期位置情報156として、推定コードフェーズ情報266を推定コードフェーズ情報158として第2記憶部150に格納する。
【0064】
続いて、端末20は、初期位置Pipを使用して、電波S1等に乗せられたC/Aコードを受信する(ステップST9)。
続いて、端末20は、端末コードフェーズCPmを算出する(ステップST10)。
【0065】
続いて、端末20は、推定コードフェーズCPipと端末コードフェーズCPmとのコードフェーズ差分CPerを算出する(ステップST11)。
続いて、端末20は、コードフェーズ差分CPerが閾値α以上の衛星については推定コードフェーズCPipを使用し、コードフェーズ差分CPerが閾値α未満の衛星については端末コードフェーズCPmを使用して測位を行う(ステップST12)。
続いて、端末20は、測位位置P1を出力する(ステップST13)。
以上のステップによって、マルチパスを判断し、マルチパスの場合には通信基地局におけるコードフェーズを使用するよりも精度よく測位することができる。
【0066】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施の形態について、説明する。
第2の実施の形態における端末20X及び基地局40Xの構成は、それぞれ上記第1の実施の形態の端末20及び基地局40と多くの構成が共通するため共通する部分は同一の符号等とし、説明を省略し、以下、相違点を中心に説明する。
第2の実施形態においては、第1の実施形態の基地局40が有する多くの機能を端末20Xが有する。これにより、通信基地局に大幅な改変を加えることなく、マルチパスを判断し、マルチパスの場合には通信基地局におけるコードフェーズを使用するよりも精度よく測位することができる。
【0067】
図14は、基地局40Xの主なソフトウエア構成を示す概略図である。
図14に示すように、基地局40Xは、第1の実施形態の基地局40(図5参照)と異なり、RTT算出プログラム212、初期位置算出プログラム220、推定差分算出プログラム222、推定コードフェーズ算出プログラム224及び補助情報送信プログラム226を有さない。
そして、基地局40Xは、第1記憶部150に、基礎情報送信プログラム228を格納している。基礎情報送信プログラム228は、制御部200が、端末20Xに対して、基地局位置情報254、送信方向情報258及びコードフェーズ情報260を送信するためのプログラムである。
【0068】
図15は、端末20Xの主なソフトウエア構成を示す概略図である。
図15に示すように、端末20Xは、第2の実施形態の端末20(図9参照)と異なり、補助情報受信プログラム116を有さない。
そして、端末20Xは、第1記憶部150に、基礎情報受信プログラム124を格納している。基礎情報受信プログラム124は、端末制御部100が、基地局40Xから基地局位置情報254、送信方向情報258及びコードフェーズ情報260を受信するためのプログラムである。基礎情報受信プログラム124と端末制御部100は、基地局位置情報取得手段の一例であり、送信方向取得手段の一例であり、基地局コードフェーズ取得手段の一例でもある。
端末制御部200は、基地局位置情報254に含まれる基地局位置Pb、送信方向情報258に含まれる送信方向、及びコードフェーズ情報260に含まれる基地局コードフェーズCPbを基礎情報164として第2記憶部150に格納する。
【0069】
図15に示すように、端末20Xは、第1記憶部150に、RTT算出プログラム126を格納している。RTT算出プログラム126の内容は、基地局40のRTT算出プログラム212(図5参照)と同様である。RTT算出プログラム126と端末制御部100は、伝播時間算出手段の一例である。
具体的には、端末制御部100は、基地局40Xに対して特定のフレーム(端末フレームと呼ぶ)を送信し、その端末フレームに対応して基地局40Xが送信したフレーム(基地局フレームと呼ぶ)を受信する。そして、特定の端末フレームの送信時刻と、その端末フレームに対応する基地局フレームの受信時刻を計測することで、RTTを算出する。
【0070】
図15に示すように、端末20Xは、第1記憶部150に、初期位置算出プログラム128を格納している。初期位置算出プログラム128の内容は、基地局40の初期位置算出プログラム220(図5参照)と同様である。初期位置算出プログラム128と端末制御部100は、初期位置算出手段の一例である。
端末制御部100は、算出した初期位置Pipを示す初期位置情報166を第2記憶部150に格納する。
なお、本実施の形態とは異なり、制御部100は、複数の基地局40Xから信号を受信して、その信号に基づいて、初期位置Pipを算出するようにしてもよい。
【0071】
図15に示すように、端末20Xは、第1記憶部150に、推定差分算出プログラム130を格納している。推定差分算出プログラム130の内容は、基地局40の推定差分算出プログラム222(図5参照)と同様である。推定差分算出プログラム130と端末制御部100は、推定差分算出手段の一例である。
端末制御部100は、算出した推定差分CPdifを示す推定差分情報168を第2記憶部150に格納する。
【0072】
図15に示すように、端末20Xは、第1記憶部150に、推定コードフェーズ算出プログラム132を格納している。推定コードフェーズ算出プログラム132の内容は、基地局40の推定コードフェーズ算出プログラム224(図5参照)と同様である。推定コードフェーズ算出プログラム132と端末制御部100は、推定コードフェーズ算出手段の一例である。
端末制御部100は、算出した推定コードフェーズCPipを示す推定コードフェーズ情報170を第2記憶部150に格納する。
このように、第2の実施形態においては、端末20Xが、初期位置Pip及び推定コードフェーズCPipを算出するようになっている。
【0073】
(プログラム及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体等について)
コンピュータに上述の動作例の初期位置算出ステップと、推定差分算出ステップと、推定コードフェーズ算出ステップと、補助情報送信ステップ等を実行させるための通信基地局の制御プログラムとすることができる。
また、このような通信基地局の制御プログラム等を記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体等とすることもできる。
【0074】
これら通信基地局の制御プログラム等をコンピュータにインストールし、コンピュータによって実行可能な状態とするために用いられるプログラム格納媒体は、例えばフロッピー(登録商標)のようなフレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disc Read Only Memory)、CD−R(Compact Disc−Recordable)、CD−RW(Compact Disc−Rewritable)、DVD(Digital Versatile Disc)などのパッケージメディアのみならず、プログラムが一時的若しくは永続的に格納される半導体メモリ、磁気ディスクあるいは光磁気ディスクなどで実現することができる。
【0075】
本発明は、上述の実施の形態に限定されない。さらに、上述の各実施の形態は、相互に組み合わせて構成するようにしてもよい。
例えば、第1の実施形態とは異なり、基地局40が端末20から端末コードフェーズCPmを受信してコードフェーズ差分CPerを算出し、さらに、そのコードフェーズ差分CPerを閾値αと比較してもよい。そして、端末20に対して、測位に使用する端末コードフェーズCPm又は推定コードフェーズCPipを送信するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の実施の形態の測位システムを示す概略図である。
【図2】測位方法を示す概念図である。
【図3】基地局の主なハードウエア構成を示す概略図である。
【図4】端末の主なハードウエア構成を示す概略図である。
【図5】基地局の主なソフトウエア構成を示す概略図である。
【図6】初期位置算出プログラムの説明図である。
【図7】推定差分算出プログラムの説明図である。
【図8】推定コードフェーズ算出プログラムの説明図である。
【図9】端末の主なソフトウエア構成を示す概略図である。
【図10】コードフェーズ差分算出プログラムの説明図である。
【図11】測位プログラムの説明図である。
【図12】測位システムの動作例を示す概略フローチャートである。
【図13】測位システムの動作例を示す概略フローチャートである。
【図14】基地局の主なソフトウエア構成を示す概略図である。
【図15】端末の主なソフトウエア構成を示す概略図である。
【符号の説明】
【0077】
12a,12b,12c,12d,12e,12f・・・GPS衛星、20,20A,20B,20X・・・端末、40,40X・・・基地局、112・・・衛星信号受信プログラム、114・・・コードフェーズ算出プログラム、116・・・補助情報受信プログラム、118・・・コードフェーズ差分算出プログラム、120・・・測位プログラム、122・・・測位位置出力プログラム、212・・・RTT算出プログラム、214・・・送信方向情報取得プログラム、216・・・衛星信号受信プログラム、218・・・コードフェーズ算出プログラム、220・・・初期位置算出プログラム、222・・・推定差分算出プログラム、224・・・推定コードフェーズ算出プログラム、226・・・補助情報送信プログラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置と、前記測位装置と通信可能な通信基地局を有する測位システムであって、
前記通信基地局は、
前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出手段と、
前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出手段と、
前記衛星信号に基づいて算出したコードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出手段と、
前記測位装置に対して、前記初期位置と前記推定コードフェーズを送信する補助情報送信手段と、
を有し、
前記測位装置は、
前記衛星信号に基づいて端末コードフェーズを算出する端末コードフェーズ算出手段と、
前記推定コードフェーズと前記端末コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出するコードフェーズ差分算出手段と、
前記コードフェーズ差分に応じて、前記推定コードフェーズ又は前記端末コードフェーズを使用して測位を行う測位手段と、
を有することを特徴とする測位システム。
【請求項2】
前記通信基地局の前記初期位置算出手段は、
前記通信基地局の位置と、前記測位装置との間を通信電波が伝播する伝播時間と、前記通信電波の送信方向とに基づいて、前記測位装置の初期位置を算出する構成となっていることを特徴とする請求項1に記載の測位システム。
【請求項3】
複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置であって、
前記測位装置と通信可能な通信基地局から前記通信基地局の位置を示す基地局位置情報を取得する基地局位置情報取得手段と、
前記通信基地局から前記測位装置に送信している通信電波の送信方向を示す送信方向情報を取得する送信方向情報取得手段と、
前記通信基地局が前記衛星信号に基づいて算出した基地局コードフェーズを取得する基地局コードフェーズ取得手段と、
前記通信基地局との間を通信電波が伝播する伝播時間を算出する伝播時間算出手段と、
前記通信基地局の位置と、前記送信方向と、前記伝播時間とに基づいて、前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出手段と、
前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出手段と、
前記基地局コードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出手段と、
前記衛星信号に基づいて端末コードフェーズを算出する端末コードフェーズ算出手段と、
前記推定コードフェーズと前記端末コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出するコードフェーズ差分算出手段と、
前記コードフェーズ差分に応じて、前記推定コードフェーズ又は前記端末コードフェーズを使用して測位を行う測位手段と、
を有することを特徴とする測位装置。
【請求項4】
複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置であって、
前記測位装置と通信可能な通信基地局から前記通信基地局の位置を示す基地局位置情報を取得する基地局位置情報取得手段と、
前記測位装置と通信可能な通信基地局が前記衛星信号に基づいて算出した基地局コードフェーズを取得する基地局コードフェーズ取得手段と、
複数の前記通信基地局からの通信電波を利用して初期位置を算出する初期位置算出手段と、
前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出手段と、
前記基地局コードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出手段と、
前記衛星信号に基づいて端末コードフェーズを算出する端末コードフェーズ算出手段と、
前記推定コードフェーズと前記端末コードフェーズとのコードフェーズ差分を算出するコードフェーズ差分算出手段と、
前記コードフェーズ差分に応じて、前記推定コードフェーズ又は前記端末コードフェーズを使用して測位を行う測位手段と、
を有することを特徴とする測位装置。
【請求項5】
複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置と通信可能な通信基地局が、前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出ステップと、
前記通信基地局が、前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出ステップと、
前記通信基地局が、前記衛星信号に基づいて算出したコードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出ステップと、
前記通信基地局が、前記測位装置に対して、前記初期位置と前記推定コードフェーズを送信する補助情報送信ステップと、
を有することを特徴とする通信基地局の制御方法。
【請求項6】
コンピュータに、
複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置と通信可能な通信基地局が、前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出ステップと、
前記通信基地局が、前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出ステップと、
前記通信基地局が、前記衛星信号に基づいて算出したコードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出ステップと、
前記通信基地局が、前記測位装置に対して、前記初期位置と前記推定コードフェーズを送信する補助情報送信ステップと、
を実行させることを特徴とする通信基地局の制御プログラム。
【請求項7】
コンピュータに、
複数の測位衛星からの衛星信号を使用して測位する測位装置と通信可能な通信基地局が、前記測位装置の初期位置を算出する初期位置算出ステップと、
前記通信基地局が、前記通信基地局における前記衛星信号のコードフェーズと、前記初期位置における前記衛星信号のコードフェーズとの推定差分を算出する推定差分算出ステップと、
前記通信基地局が、前記衛星信号に基づいて算出したコードフェーズと前記推定差分に基づいて、前記初期位置における推定コードフェーズを算出する推定コードフェーズ算出ステップと、
前記通信基地局が、前記測位装置に対して、前記初期位置と前記推定コードフェーズを送信する補助情報送信ステップと、
を実行させることを特徴とする通信基地局の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2008−26143(P2008−26143A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198921(P2006−198921)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】