説明

測位装置

【課題】高精度GPS受信機において自装置位置を測位演算する場合に、擬似距離1msec.以下の項だけで自装置位置を正確に求めることができる測位装置を実現する。
【解決手段】測位装置10の初期値算出部141は、ドップラー周波数を用いて、自装置位置を未知数とする航法方程式をたて、それを最小自乗法で解く。そして、初期値算出部141は、その解を真位置推定部142に与える。測位装置10の真位置推定部142は、この初期値を用いて擬似距離の1msec.以下の項による観測方程式を設定し、当該観測方程式から測位装置10の高精度な位置を推定演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、測位衛星からの信号を受信して自装置の測位を行う測位装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
GPSを含むGNSSを用いた測位システムでは、観測値から受信機位置(自装置位置)を算出する方法として、非特許文献1に記載されているように、観測方程式を用いる。この観測方程式を解くには最小自乗法やカルマンフィルタを適用する。最小自乗法やカルマンフィルタを用いる方法では、自装置位置に対して、真の位置に近い初期値を設定しなければならない。この初期値が真の位置に対してあまりにもかけ離れていると、正確な自装置位置を算出することができない。
【非特許文献1】佐田 達典著,「GPS測量技術」,オーム社,平成15年10月20日,p.24−33
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の観測方程式では既知数として、測位衛星と受信機との擬似距離が必要となる。
【0004】
しかしながら、現在の高感度の受信機では、擬似距離の1msec.以下の項を取得することはできるが、航法メッセージを取得することができない衛星でも測位に使用する。すなわち、擬似距離そのものに対して1msec.の不確定性(ambiguity)を有した擬似距離を測位に使用するので、その不確定性(ambiguity)の推定を誤ると正確な自装置位置を算出できなくなる可能性を有する。
【0005】
したがって、本発明の目的は、自装置位置を測位演算する場合に、擬似距離1msec.以下の項のみで正確な自装置位置を求められる程度に正確な初期位置を1msec.以上の擬似距離を必要とせずに得られる測位装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の測位装置は、ドップラー周波数算出手段、測位衛星位置速度取得手段、初期値算出手段、および真位置推定手段を備える。測位衛星位置取得手段は、ドップラー周波数を観測した時刻での測位衛星の位置速度情報を取得する。初期値算出手段は、ドップラー周波数と複数時刻での測位衛星の位置速度情報に基づいて航法方程式を設定し、該航法方程式を解くことで初期自装置位置を算出する。真位置推定手段は、初期自装置位置を用いて、1msec.以下の項の擬似距離に関する航法方程式を解くことで、真の自装置位置を推定演算する。
【0007】
この構成では、初期位置の計算にドップラー周波数を用いることで、擬似距離1msec.のオーダーの不確定性を考える必要がない。
【0008】
この初期値の精度は、真値に対して±150kmであればよい。この初期値が得られた後は、1msec.以下の擬似距離に対する航法方程式を解くことで、受信機の位置が求められる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、測位装置の位置推定に対して、擬似距離の1msec.単位の不確定性を排除し、航法メッセージが収集できないような弱い信号しか受信できない場合に、バックアップ値が無い、あるいは間違っていた場合であっても、正確な位置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の実施形態に係る測位装置について、図を参照して説明する。なお、本実施形態の構成は、GPSを含む全てのGNSSへ適用することができる。
図1、図2は本実施形態に係る測位装置の測位に関する概念を示す図である。
図3は本実施形態に係る測位装置の主要構成を示すブロック図である。
測位装置10は、図1に示すように、地表面300に設置されており、複数の測位衛星101〜103からの測位用信号を受信する。なお、本実施形態の説明では、3個の測位衛星の測位用信号を受信した場合を示したが、通常、衛星数は4個以上である。
測位装置10は、図2に示すように、受信アンテナ11、受信部12、情報解析部13、測位演算部14を備える。
受信アンテナ11は、各測位衛星100からの測位用信号を受信して、受信部12へ与える。受信部12は、測位用信号を復調して情報解析部13へ与える。
【0011】
情報解析部13は、復調後の測位用信号を解析し、受信した測位用信号の送信元情報等に基づいて、当該受信時点で観測可能となっている測位衛星101〜103を抽出するとともに、各測位衛星101〜103の位置速度情報を計算する。測位に使用するのは、観測可能な全衛星で少なくとも3個、通常は4個以上である。
【0012】
情報解析部13は、擬似距離の1msec.以下の項とともに、ドップラー周波数も所得する。
【0013】
測位演算部14の初期位置算出部141は、このドップラー周波数を用いて自装置(受信機)の位置を算出する。この際、ドップラー周波数を用いた航法方程式をたてると式(1)のようになる。なお、衛星インデックスi(i=1〜N(N:衛星数))とする。
【0014】
【数1】

【0015】
ここで、δPri(t)/δtは、衛星番号iのドップラー周波数に「−1」を乗算したものとする。また、(xi(t),yi(t),zi(t))は、時刻tでの衛星番号iの衛星位置である。また、(xr(t),yr(t),zr(t))は、時刻tでの受信機位置である。
【0016】
上述の式において、受信機の速度が衛星の速度に比べて十分に小さいときには、
【0017】
【数2】

【0018】
とすることができる。
【0019】
さらに、衛星のクロックバイアスの変化分δti(t)/δt、受信機のクロックバイアスの変化分δtr(t)/δtは、ともに小さいものとして、「0」としてよい。
【0020】
これにより、式(1)は式(2)に置き換えることができる。
【0021】
【数3】

【0022】
ここで、未知数は、(xr(t),yr(t),zr(t))である。
【0023】
式(2)は、非線形の方程式であるので、一般解を解くのは難しい。そこで、まず、Ri(t)=77msec.×C(光速)として、式(2)に代入する。これにより、各測位衛星に対する式(2)は線形方程式群になるので、容易に解くことができる。
【0024】
そして、このようにして解いた解の(xr(t),yr(t),zr(t))をRi(t)に代入することで、Ri(t)を前回よりも精度良く算出することができる。さらに、このRi(t)を再び式(2)の方程式群に代入して、前回よりも精度良く、(xr(t),yr(t),zr(t))を算出することができる。
【0025】
このように、Ri(t),(xr(t),yr(t),zr(t))を収束させていくことで、必要な精度で、(xr(t),yr(t),zr(t))を算出することができる。
【0026】
この式(2)の航法方程式で算出される(xr(t),yr(t),zr(t))は、その後、擬似距離の1msec.以下の項を用いた観測方程式の初期値として使用するので、数kmの誤差で算出されればよい。
【0027】
そして、初期位置算出部141は、測位装置位置の算出精度が閾値以下であることを検出すると、その時点での測位結果(xr(t1),yr(t1),zr(t1))として、真位置推定部142へ出力する。
【0028】
真位置推定部142は、初期位置算出部141から与えられた測位装置位置を初期値として擬似距離の1msec.に関する観測方程式を設定し、当該観測方程式を最小二乗法により真の位置を計算する。すなわち、真位置推定部142は、初期位置算出部141からの初期値に基づいて、測位装置位置をより高精度に推定演算する。
【0029】
このように、初期位置算出部141で擬似距離1msec.の不確定性を排除できる精度を持つ初期値を算出しておくことで、高精度に測位装置位置を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明に係る測位装置の測位に関する概念を示す図である。
【図2】本発明に係る測位装置の測位に関する概念を示す図である。
【図3】本発明に係る測位装置の主要構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0031】
10−測位装置、11−受信アンテナ、12−受信部、13−情報解析部、14−測位演算部、141−初期位置算出部、142−真位置推定部、101〜104−測位衛星、300−地表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
擬似距離の時間変化量であるドップラー周波数を算出するドップラー周波数算出手段と、
前記ドップラー周波数に対応する複数時刻での測位衛星の位置速度情報を取得する測位衛星位置速度取得手段と、
前記ドップラー周波数と前記複数時刻での測位衛星の位置速度情報に基づいて航法方程式を設定し、該航法方程式を解くことで初期自装置位置を算出する初期値算出手段と、
該初期自装置位置を用いて、位置推定アルゴリズムから真の自装置位置を推定演算する真位置推定手段と、を備えた測位装置。
【請求項2】
前記初期位置算出手段は、前記航法方程式で得られた初期自装置位置の誤差が予め設定された閾値内になるまで、先に得られた初期自装置位置を用いて初期自装置位置の算出を繰り返し、前記閾値内となった時点で算出された初期自装置位置を前記真位置推定手段へ出力する、請求項1に記載の測位装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−91407(P2010−91407A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−261596(P2008−261596)
【出願日】平成20年10月8日(2008.10.8)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】