説明

測定方法、及び、バイオセンサー

【課題】 被解析分子とある物質とが相互作用されている状態において、この相互作用状態と他の反応液中の物質との相互作用の測定を可能にする。
【解決手段】 ステップS30で、ヘッド78Bで、測定中の液体流路45へ反応液Aを供給し、その後、ステップS32で、所定の反応時間T1が経過するまで待機する。反応時間T1中も、測定処理は実行されている。反応時間T1の経過後、ステップS36で、反応液Bの供給指示信号をヘッド78Bへ出力し、ヘッド78Bで、反応液Aの供給されている測定中の液体流路45へ反応液Bを供給する。反応液Bの供給により、被解析分子Mと物質Aとが相互作用されている状態と、物質Bとの相互作用を観察することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜層上に固定された被解析分子と相互作用する物質を検出、測定するバイオセンサー、及び、このバイオセンサーでの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エバネッセント波を利用した測定装置の1つとして、表面プラズモンセンサーが知られている(特許文献1参照)。一般的に、表面プラズモンセンサーは、プリズムと、このプリズムの一面に配置され被解析分子が固定される金属膜と、光ビームを発生させる光源と、光ビームをプリズムに対して、プリズムと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、界面で全反射した光ビームの強度を検出する光検出手段と、を備え、光検出手段の検出結果に基づいて、被解析分子についての解析を行なうものである。
【0003】
この表面プラズモンセンサーによる測定では、金属膜の上に固定化された被解析分子に対して反応液を供給すると共に、金属膜の反応液が供給されている側と逆側の面へ光ビームを入射し、その反射光から得られる屈折率の情報に基づいて、被解析分子と反応液中の物質との、相互作用が測定される。
【0004】
特許文献1に記載の技術では、反応液を送液するための流路部材が装置に取り付けられ、この流路部材とは別体で金属膜の形成された測定セルが測定装置に取り付けられている。そして、金属膜は流路部材に形成された液体流路に露出するように配置され、測定中は被解析分子上では、常に反応液が送液されている。ところで、特許文献1に記載の装置では、ある反応液H1からこの反応液と異なる反応液H2へ送液する反応液を切換える場合には、切換の間に緩衝液の送液が行なわれるように制御されている。すなわち、ある反応液H1の送液終了後、次の反応液H2の送液前に、必ず緩衝液の送液が行なわれる。
【0005】
しかしながら、ある反応液H1の送液後に緩衝液を送液すると、緩衝液により反応液H1中の物質Jと被解析分子との相互作用が解消されてしまうことがあり、被解析分子と反応液H1中の物質Jとの完全な相互作用状態を保ったまま次の反応液H2を供給しつつ、反応状態を測定することができない。
【特許文献1】特許第3294605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記事実を考慮してなされたものであり、被解析分子とある物質とを相互作用可能な状態として、この相互作用状態下での被解析分子及び前記ある物質と他の反応液中の物質との相互作用を測定することの可能なバイオセンサー、及び、このバイオセンサーを用いて測定する測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の測定方法は、被解析分子の固定された薄膜層上に送液可能とされた液体流路へ、前記被解析分子との相互作用を検査する反応液を供給すると共に、前記薄膜層の前記液体流路と逆側の面へ光ビームを入射させて、その反射光から得られる屈折率変化の情報に基づいて前記被解析分子と前記反応液中の物質との相互作用を測定するバイオセンサー、での測定方法であって、前記液体流路へ第1反応液を供給すると共に、前記被解析分子と前記第1反応液中の物質との相互作用を測定する第1測定ステップと、前記第1反応液の供給されている前記液体流路へ前記第1反応液と異なる第2反応液を供給して前記第1反応液を前記第2反応液で置換すると共に、前記被解析分子と前記第2反応液中の物質との相互作用を測定する第2測定ステップと、を備えている。
【0008】
また、請求項6に記載のバイオセンサーは、被解析分子の固定された薄膜層上に送液可能とされた液体流路へ、前記被解析分子との相互作用を検査する反応液を供給すると共に、前記薄膜層の前記液体流路と逆側の面へ光ビームを入射させて、その反射光から得られる屈折率変化の情報に基づいて前記被解析分子と前記反応液中の物質との相互作用を測定するバイオセンサーであって、前記液体流路へ第1反応液を供給する第1反応液供給手段と、前記第1反応液が供給されている状態で前記被解析分子と前記第1反応液中の物質との相互作用を測定する第1測定手段と、前記第1反応液の供給されている前記液体流路へ前記第1反応液と異なる第2反応液を供給して前記第1反応液を前記第2反応液で置換する第2反応液供給手段と、前記第2反応液が供給されている状態で前記被解析分子液と前記第2反応液中の物質との相互作用を測定する第2測定手段と、を含んで構成されている。
【0009】
請求項1の測定方法、及び、請求項6のバイオセンサーでは、まず、液体流路へ第1反応液が供給され、被解析分子と第1反応液中の物質との相互作用が測定される。そして、緩衝液の供給を間に挟むことなく、第1反応液の供給されている液体流路へ第1反応液と異なる第2反応液が供給され第1反応液が第2反応液で置換される。第1反応液中の物質が被解析分子と相互作用するものであれば、相互作用した状態が保たれたまま、第2反応液が供給される。したがって、相互作用した状態と第2反応液中の物質との相互作用を測定することができる。
【0010】
また、請求項1の測定方法、及び、請求項6のバイオセンサーでは、反応液を供給しながら測定することができるので、反応の初期からの相互作用を正確に測定することができる。
【0011】
請求項2に記載の測定方法は、請求項1に記載の測定方法において、前記第1測定ステップ、及び、前記第2測定ステップ、の少なくとも一方での前記測定が、供給した液体の流れを停止させた状態でも実施されること、を特徴とするものである。
【0012】
また、請求項7に記載のバイオセンサーは、請求項6に記載のバイオセンサーにおいて、前記第1測定手段及び前記第2測定手段の少なくとも一方での前記測定が、供給された液体の流れを停止させた状態でも実施されること、を特徴とするものである。
【0013】
請求項2の測定方法、及び、請求項7のバイオセンサーによれば、供給した反応液の流れを停止させた状態でも測定できるので、反応液を流し続けて測定する場合と比較して、使用する反応液の量を少なくすることができる。また、反応液の流れによるノイズも減少させることができる。
【0014】
請求項3に記載の測定方法は、請求項1または請求項2に記載の測定方法において、前記薄膜層が、光ビームを透過可能とされた透明体の平坦面に形成され、前記液体流路が、前記透明体に取り付けられた流路部材と前記薄膜層との間に構成され、前記薄膜層、前記透明体、及び前記流路部材が、前記バイオセンサーとは別体の測定セルを構成していること、を特徴とするものである。
【0015】
また、請求項8に記載のバイオセンサーは、測定方法は、請求項6または請求項7に記載のバイオセンサーにおいて、前記薄膜層が、光ビームを透過可能とされた透明体の平坦面に形成され、前記液体流路が、前記透明体に取り付けられた流路部材と前記薄膜層との間に構成され、前記薄膜層、前記透明体、及び前記流路部材が、前記バイオセンサーとは別体の測定セルを構成していること、を特徴とするものである。
【0016】
請求項3の測定方法、及び、請求項8のバイオセンサーでは、薄膜層の形成された透明体、及び流路部材で、バイオセンサーとは別体の測定セルに液体流路が構成されているので、バイオセンサー側に液体を供給するための流路を設ける必要がなく、バイオセンサーを簡易な構成とすることができる。
【0017】
なお、請求項4に記載の測定方法、及び、請求項9に記載のバイオセンサーの透明体は、前記薄膜層の形成された平坦面の他に互いに並行でない2面を有するプリズムで構成されていること、を特徴とすることもできる。
【0018】
このように、プリズム自体に薄膜層を形成することにより、プリズムと薄膜層との間に他の部材が介在されず、光学的に有利である。
【0019】
請求項5に記載の測定方法は、請求項3または請求項4に記載の測定方法において、前記液体流路を構成する流路部材には、液体を供給可能な供給口及び供給された液体を排出可能な排出口が形成され、前記第1反応液の前記液体流路への供給は、前記供給口から前記第1反応液の充填されたピペットを用いて行なわれ、前記第2反応液の前記液体流路への供給は、前記供給口から前記第2反応液の充填されたピペットを用いて行なわれること、を特徴とするものである。
【0020】
また、請求項10に記載のバイオセンサーは、請求項8または請求項9に記載のバイオセンサーにおいて、前記第1反応液及び前記第2反応液を各々貯留可能な貯留部をさらに備え、前記液体流路を構成する流路部材には、液体を供給可能な供給口及び供給された液体を排出可能な排出口が形成され、前記第1反応液供給手段、及び前記第2反応液供給手段は、前記貯留部で前記第1反応液または前記第2反応液を吸引すると共に、吸引した第1反応液または前記第2反応液を前記液体流路へ供給する供給ヘッドを含んで構成されていること、を特徴とするものである。
【0021】
請求項5の測定方法、及び、請求項10のバイオセンサーでは、供給ヘッドにより流路部材の供給口から液体を供給するので、反応液の貯留されている場所から測定位置までの長い流路が不要となり、バイオセンサーを簡易な構成とすることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上記構成としたので、被解析分子とある物質とを相互作用可能な状態として、この相互作用状態下での被解析分子及び前記ある物質と他の反応液中の物質との相互作用を測定することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0024】
本実施形態のバイオセンサー70は、金属膜の表面に発生する表面プラズモンを利用して、被解析分子Mの特性を測定する、いわゆる表面プラズモンセンサーである。バイオセンサー70では、被解析分子Mに、各種の反応液を供給して、被解析分子Mと反応液中の物質との結合の有無、結合速度、結合量、等を測定する。被解析分子Mとしては、蛋白質、核酸、脂肪酸などの生理活性物質を解析対象とすることができる。
【0025】
図1及び図2に示すように、バイオセンサー70は、トレイ保持部72、搬送部74、反応液プレート保持部76、液体供給部78、光学測定部80、及び、制御部90を備えている。
【0026】
トレイ保持部72は、載置台72A、及び、ベルト72Bを含んで構成されている。載置台72Aは、矢印I方向に架け渡されたベルト73に取り付けられており、ベルト72Bの回転により矢印I方向に移動可能とされている。載置台72A上には、トレイ30が2枚、位置決めして載置される。トレイ30には、センサースティック40が8本収納されている。センサースティック40は、測定対象となる被解析分子Mの固定されるチップであり、詳細については後述する。載置台72Aの下には、センサースティック40を後述するスティック保持部材74Cの位置まで押し上げる、押上機構72Dが配置されている。
【0027】
センサースティック40は、被解析分子Mが固定されるものである。図3及び図4に示すように、センサースティック40は、誘電体ブロック42、流路部材44、保持部材46、接着部材48、及び、蒸発防止部材49、で構成されている。
【0028】
誘電体ブロック42は、光ビームに対して透明な透明樹脂等で構成されており、断面が台形の棒状とされたプリズム部42A、及び、プリズム部42Aの両端部にプリズム部42Aと一体的に形成された被保持部42Bを備ている。プリズム部42Aの互いに平行な2面の内の広い側の上面には、図5にも示すように金属膜50が形成されている。この金属膜50上に、バイオセンサー70で解析する解析分子が固定される。誘電体ブロック42は、いわゆるプリズムとしても機能し、バイオセンサー70での測定の際には、プリズム部42Aの対向する互いに平行でない2つの側面の内の一方から光ビームが入射され、他方から金属膜50との界面で全反射された光ビームが出射される。
【0029】
金属膜50の表面の一部で、後述する液体流路45に露出された部分の下流側に位置する測定領域E1には、図6にも示すように、被解析分子Mを固定するための固定化担体50Aが配置されている。固定化担体50Aの反応基との共有結合により、被解析分子Mがこの部分に固定される。固定化担体50Aとしては、デキストラン、カルボキシメチル基、NTAなどを用いることができ、被解析分子Mに応じて選択される。
【0030】
金属膜50上の液体流路45に露出された部分の上流側に位置する領域は、参照領域E2とされている。参照領域E2は、被解析分子Mの固定された測定領域E1から得られる光の屈折率データを補正するために設けられた領域であり、この参照領域E2にも、光ビームが入射される。なお、参照領域E2は、各種のアナライトとの結合が阻止されるように、例えばアルキルチオール、アミノアルコール、アミノエーテル等で処理しておくことが好ましい。
【0031】
プリズム部42Aの両側面には、上側の端辺に沿って保持部材52と係合される係合凸部42Cが、下側の端辺に沿ってプリズム部42Aの上面と垂直な仮想面の延長上に構成される垂直凸部42Dが、各々7箇所に形成されている。また、誘電体ブロック42の下面の長手方向に沿った中央部には、係合溝42Eが形成されている。
【0032】
流路部材44は、誘電体ブロック42のプリズム部42Aと略同じ長さの棒状とされ、図5に示すように、誘電体ブロック42の金属膜50との間に、液体流路45を構成する。液体流路45は、流路部材44の流路壁44Aと金属膜50とで囲まれて構成されており、供給された液体を金属膜50上で貯留可能とされている。流路部材44には、液体流路45と連通された供給口45A及び排出口45Bが形成されている。液体流路45は、流路部材44の長手方向に6個並んで配置されている。したがって、1本のセンサースティック40には、独立した6個の液体流路45が構成される。流路部材44の側壁には、保持部材46の内側の図示しない凹部に圧入されて保持部材46との密着性を確保するための凸部44Bが形成されている。
【0033】
なお、液体流路45には、蛋白質を含む液体が供給されることが想定されるので、流路壁44Aへの蛋白質の固着を防止するため、流路部材44の材料としては、蛋白質に対する非特異吸着性を有しないことが好ましい。また、流路部材44は、金属膜50との密着性を確保して液漏れを防止するため、弾性を有することが好ましい。具体的にはシリコン、ポリプロピレン等を用いることができる。
【0034】
保持部材46は、長尺とされ、上面板46A及び2枚の側面板46Bで構成されている。側面板46Bには、誘電体ブロック42の係合凸部42Cと係合される係合孔46Cが形成されている。保持部材46は、流路部材44を間に挟んで係合孔46Cと係合凸部42Cとが係合されて、誘電体ブロック42に取り付けられる。これにより、流路部材44は、誘電体ブロック42に取り付けられる。上面板46Aには、流路部材44の供給口45A及び排出口45Bと対向する位置に、流路部材44に向けて狭くなるテーパー状のピペット挿入孔46Dが形成されている。また、隣り合うピペット挿入孔46Dとピペット挿入孔46Dとの間には、位置決め用のボス46Eが形成されている。
【0035】
保持部材46の上面には、蒸発防止部材49が接着部材48を介して接着されている。接着部材48のピペット挿入孔46Dと対向する位置にはピペット挿入用の孔48Dが形成され、ボス46Eと対向する位置には位置決め用の孔48Eが形成されている。また、蒸発防止部材49のピペット挿入孔46Dと対向する位置には十字状の切り込みであるスリット49Dが形成され、ボス46Eと対向する位置には位置決め用の孔49Eが形成されている。ボス46Eを孔48E及び49Eに挿通させて、蒸発防止部材49を保持部材52の上面に接着することにより、蒸発防止部材49のスリット49Dと流路部材44の供給口45A及び排出口45Bとが対向するように構成される。ピペットチップCPの非挿入時には、スリット49D部分が供給口45Bを覆い、液体流路45に供給されている液体の蒸発が防止される。
【0036】
なお、この蒸発防止部材54も、スリット49DからピペットチップCPを挿入できるように、弾性を有する材料で構成されることが好ましく、具体的にはシリコンまたはポリプロピレン等を用いることができる。
【0037】
図1及び図2に示すように、バイオセンサー70の搬送部74は、上部ガイドレール74A、下部ガイドレール74B、及び、スティック保持部材74C、を含んで構成されている。上部ガイドレール74A及び下部ガイドレール74Bは、トレイ保持部72及び光学測定部80の上部で、矢印I方向と直交する矢印J方向に水平に配置されている。上部ガイドレール74Aには、スティック保持部材74Cが取り付けられている。スティック保持部材74Cは、センサースティック40の両端部の被保持部42Bを保持可能とされていると共に、上部ガイドレール74Aに沿って移動可能とされている。スティック保持部材74Cに保持されたセンサースティック40の係合溝42Eと下部ガイドレール74Bとが係合され、スティック保持部材74Cが矢印J方向に移動することにより、図2に示すように、センサースティック40が光学測定部80上の測定部82に搬送される。この測定部82で、センサースティック40に固定された被解析分子Mの測定が行われる。測定部82では、下部ガイドレール74Bが測定のために一部離間されている
反応液プレート保持部76は、載置台76A、及び、ガイドレール76Bを含んで構成されている。ガイドレール76Bは、矢印J方向に沿って配置されている。載置台76Aは、ガイドレール76Bに取り付けられ、反応液がセットされた反応液プレート77を載置可能とされている。載置台76Aは、ガイドレール76Bに沿って移動可能とされている。
【0038】
液体供給部78は、上部ガイドレール74A、及び、ガイドレール76Bよりも上方で、矢印I方向に架け渡された横断レール78A、及び、ヘッド78Bを含んで構成されている。ヘッド78Bは、横断レール78Aに取り付けられ、図2に示すように、測定部82と反応液プレート77との間を移動可能とされている。また、ヘッド78Bは、図示しない駆動機構により、鉛直方向(矢印Z方向)にも移動可能とされている。ヘッド78Bは、先端部に交換可能なピペットチップCPが取り付けられ、いわゆるピペットとしての機能を有している。
【0039】
光学測定部80は、図7に示すように、光源80A、第1光学系80B、第2光学系80C、受光部80D、信号処理部80E、を含んで構成されている。光源80Aからは、光ビームLが出射される。光ビームLは、第1光学系80Bを介して、2本の光ビームL1、L2となり、測定部82に配置された誘電体ブロック42の測定領域E1と参照領域E2に入射される。測定領域E1及び参照領域E2において、光ビームL1、L2は、金属膜50と誘電体ブロック42との界面に対して種々の入射角成分を含んで、かつ全反射角以上の角度で入射される。光ビームL1、L2は、誘電体ブロック42と金属膜50との界面で全反射される。全反射された光ビームL1、L2も、種々の反射角成分をもって反射される。この全反射された光ビームL1、L2は、第2光学系80Cを経て受光部80Dで受光されて、各々光電変換され、光検出信号が信号処理部80Eへ出力される。信号処理部80Eでは、入力された光検出信号に基づいて所定の処理が行なわれ、測定領域E1及び参照領域E2の全反射減衰角が屈折率データとして求められる。この屈折率データが制御部90へ出力される。
【0040】
制御部90は、バイオセンサー70の全体を制御する機能を有し、図7に示すように、光源80A、信号処理部80E、及び、バイオセンサー70の図示しない駆動系と接続されている。制御部90は、図8に示すように、バスBを介して互いに接続される、CPU90A、ROM90B、RAM90C、メモリ90D、及び、インターフェースI/F90E、を有し、各種の情報を表示する表示部92、各種の指示、情報を入力するための入力部94と接続されている。
【0041】
メモリ90Dには、バイオセンサー70を制御するための各種プログラムや、各種データが記録されている。
【0042】
次に、バイオセンサー70での、被解析分子Mの測定手順について説明する。ここでは、まず、被解析分子Mと物質Aとの相互作用を測定し、続いて、被解析分子Mと物質Aとが相互作用している状態が、物質Bとの間でどのような相互作用が示されるかについて測定する。
【0043】
まず、バイオセンサー70の載置台72Aに被解析分子Mの固定化されたセンサースティック40入りのトレイ30をセットする。また、載置台76Aに反応液の入った反応液プレート77をセットする。反応液プレート77には、物質Aを含む反応液Aと、物質A及びBを含む反応液Bが貯留されている。
【0044】
測定時には、押上機構72Dにより、プレート30にセットされた1のセンサースティック40がスティック保持部材74Cの位置まで押し上げられ、スティック保持部材74Cにより保持される。そして、スティック保持部材74Cは、センサースティック40を保持したまま下部ガイドレール74Bに沿って移動して、センサースティック40を測定部82へ搬送する。
【0045】
測定部82では、センサースティック40の測定は、1つの液体流路45ずつ順に行なわれる。測定対象となる液体流路45が測定位置に配置されると、制御部90では、図9に示す測定処理が実行される。
【0046】
まず、ステップS12で、光源80Aへ光ビームLの出射指示信号を出力する。これにより、光源80Aから光ビームLが出射される。出射された光ビームLは、第1光学系80Bで2本の光ビームL1、L2となり、液体流路45の測定領域E1、参照領域E2へ各々入射される。また、ステップS14で、受光部80D及び信号処理部80Eへ、作動指示信号を出力する。これにより、測定領域E1、参照領域E2で全反射され第2光学系80Cを経た光ビームL1、L2は、受光部80Dで受光され、受光された光は、測定領域E1、参照領域E2毎に光電変換されて光検出信号が信号処理部80Eへ出力される。信号処理部80Eでは、光検出信号に所定の処理が加えられ、屈折率データが生成され、屈折率データが継続して制御部90へ出力される。
【0047】
制御部90では、ステップS16で、所定時間経過したかどうかを判断し、所定時間の経過後、ステップS18で、入力された屈折率データをメモリ90Dへ記憶する。そして、ステップS20で、測定領域E1からの光検出信号により得られる屈折率データを、参照領域E2からの光検出信号により得られる屈折率データで補正するなどして、被解析分子Mと反応液中の物質との結合状態を示す結合状態データを生成する。そして、ステップS22で、結合状態データを表示部92へ出力する。これにより、所定時間毎の結合状態データがメモリ90Dへ記憶されると共に、表示部92へ表示される。表示部92へは、図10に示すように、時間毎の結合状態データがグラフ化されて出力される。この測定処理は、測定処理終了信号を受けるまで継続される。
【0048】
一方、上記の測定処理中に、液体流路45へ反応液の供給が行なわれる。制御部90は、測定処理中の所定のタイミングで、図11に示す供給処理を実行する。
【0049】
まず、ステップS30で、反応液Aの供給指示信号をヘッド78Bへ出力する。これにより、ヘッド78Bで、測定中の液体流路45へ反応液Aが供給される。反応液Aの供給は、具体的には以下のように行なわれる。まず、ヘッド78Bが反応液Aのセットされた反応液プレート77の上部に移動すると共に下降して、ヘッド78Bに取り付けられているピペットチップCPの先端を反応液Aが貯留されたセルへ挿入し、ピペットチップCP内に反応液Aを吸引する。次に、ヘッド78Bを上昇させて測定部82の上部に移動すると共に下降して、ピペットチップCPの先端を液体流路45の供給口45Aへ挿入する。そして、液体流路45へ、吸引していた反応液Aを注入する(図12(A)参照)。これにより、被解析分子Mへ物質Aが供給され、相互作用を観察することができる。被解析分子Mと物質Aとが結合する場合には、反応液Aの注入後、図10に示すように、時間の経過と共に結合が進む。
【0050】
反応液Aの注入が完了すると、ステップS32で、ピペットチップCPの交換指示信号をヘッド78Bへ出力する。これにより、ヘッド78Bが図示しないピペットチップストッカの上部に移動して装着されているピペットチップCPを取り外すと共に、新しいピペットチップCPを装着する。
【0051】
その後、ステップS34で、所定の反応時間T1が経過するまで待機する。この反応時間T1は、反応液Aに含まれる物質Aと被解析分子Mとの相互作用が飽和状態となるのに十分な時間であり、予めメモリ90Dへ記録しておいてもよいし、前述の結合状態データに基づいて相互作用が飽和状態かどうかを判断してもよい。反応時間T1中も、測定処理は実行されている。このとき、液体流路45では、供給された反応液Aの流れが停止された状態(反応液Aの送液がない状態)で測定処理は行なわれている。
【0052】
反応時間T1の経過後、ステップS36で、反応液Bの供給指示信号をヘッド78Bへ出力する。これにより、ヘッド78Bで、反応液Aの供給されている測定中の液体流路45へ反応液Bが供給される。反応液Bの供給は、反応液Aと同様にして行なわれる。反応液Bの供給により、被解析分子Mと物質Aとが相互作用されている状態と、物質Bとの相互作用を観察することができる。例えば、反応液B中の物質Bが被解析分子Mと結合した状態の物質Aと結合する場合には、図10に示すように、反応液Bの注入後、時間の経過と共に結合が進む。
【0053】
ここで、供給口45Aから液体流路45へ反応液Bが注入されると、液体流路45に供給されていた反応液Aは、図12(B)に示すように、排出口45Bから排出される。すなわち、液体流路45内の液体は、反応液Aから反応液Bへ置換される。注入する反応液Bは、充分に反応液Aとの置換が行なわれるように、液体流路45の容積よりも充分多く設定されている。排出された反応液Aは、センサースティック40の上面に溢れる。
【0054】
次に、ステップS38で、排出された反応液Aの回収指示信号がヘッド78Bへ出力される。これにより、ヘッド78BのピペットチップCPにより、センサースティック40の上面に溢れている反応液Aを含む排出液が吸引され(図12(C)参照)、吸入された排出液が図示しない廃液セルへ廃棄される。
【0055】
その後、ステップS40で、所定の反応時間T2が経過するまで待機する。この反応時間T2は、被解析分子Mと物質Aとの相互作用状態に対し、反応液Bに含まれる物質Bがどのような相互作用を示すのかを測定するのに十分な時間であり、予めメモリ90Dへ記録しておいてもよいし、結合状態データに基づいて、相互作用が飽和状態に達したかどうかを判断してもよい。反応時間T2中も、測定処理は実行されている。このとき、液体流路45では、供給された反応液Bの流れが停止された状態(反応液Bの送液がない状態)で測定処理は行なわれている。
【0056】
反応時間T2の経過後、ステップS42で、測定終了指示信号を出力し、供給処理を終了する。
【0057】
一方、測定処理も、測定終了指示信号を受けて終了される。
【0058】
本実施形態によれば、液体流路45に反応液Aを供給して、物質Aと被解析分子Mとを相互作用させ、その後、液体流路45へ緩衝液を供給せずに、反応液Bを供給する。したがって、被解析分子Mと物質Aとの相互作用状態が保たれたまま、反応液Bを供給することにより、物質Aと被解析分子Mとの相互作用状態に対して反応液Bがどのように相互作用するのかを測定することができる。
【0059】
また、本実施形態では、測定処理をしながら反応液の供給を行なうことができるので、反応の初期からの相互作用を正確に測定することができる。
【0060】
また、本実施形態では、反応液の供給後、供給した反応液の流れを停止させた状態でも測定できるので、反応液を流し続けて測定する場合と比較して、使用する反応液の量を少なくすることができる。また、反応液の流れによる測定ノイズも減少させることができる。
【0061】
また、本実施形態では、バイオセンサー70とは別体のセンサースティック40に液体流路45が構成されているので、バイオセンサー70側に液体を供給するための流路を設ける必要がなく、バイオセンサー70を簡易な構成とすることができる。
【0062】
また、本実施形態では、反応液の供給は、交換可能なピペットチップCPを用いて行なわれるので、1つのニードルを使い回して反応液の供給を行なう場合と比較して、反応液の洗浄が不十分であることに起因するトラブルを回避することができる。
【0063】
なお、本実施形態では、液体流路45から排出された液体を、液体を供給したピペットチップCPを排出口45Bまで移動させて吸引することにより回収したが、排出された液体の回収は他の方法で行なうこともできる。例えば、図13に示すように、供給口45Aから1つのピペットチップCPを挿入して液体を供給すると共に、排出口45Bへ他のピペットチップCPを挿入して液体を吸引することにより、液体流路45内の液置換を行なうことができる。
【0064】
なお、本実施形態では、バイオセンサーとして、表面プラズモンセンサーを一例として説明したが、バイオセンサーとしては、表面プラズモンセンサーに限定されるものではない。その他の例えば、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した光学的測定技術など、あらゆるバイオセンサーでの測定の際の反応液の供給及び測定の手順に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本実施形態のバイオセンサーの全体斜視図である。
【図2】本実施形態のバイオセンサーの全体斜視図において、ヘッドが測定部付近に位置している状態を示す図である。
【図3】本実施形態のセンサースティックの斜視図である。
【図4】本実施形態のセンサースティックの分解斜視図である。
【図5】本実施形態のセンサースティックの1の液体流路部分の断面図である。
【図6】本実施形態のセンサースティックの測定領域及び参照領域へ光ビームが入射している状態を示す図である。
【図7】本実施形態のバイオセンサーの光学測定部付近の概略図である。
【図8】本実施形態の制御部とその周辺の概略ブロック図である。
【図9】本実施形態の測定処理のフローチャートである。
【図10】本実施形態での測定結果の一例を示すグラフである。
【図11】本実施形態の供給処理のフローチャートである。
【図12】本実施形態での液体流路の反応液供給手順を説明する図である。
【図13】液置換の他の方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
40 センサースティック
42 誘電体ブロック
44 流路部材
45 液体流路
70 バイオセンサー
77 反応液プレート
78 液体供給部
78B ヘッド
80 光学測定部
80A 光源
80D 受光部
80E 信号処理部
82 測定部
90D メモリ
90 制御部
M 被解析分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被解析分子の固定された薄膜層上に送液可能とされた液体流路へ、前記被解析分子との相互作用を検査するための反応液を供給すると共に、前記薄膜層の前記液体流路と逆側の面へ光ビームを入射させて、その反射光から得られる屈折率変化の情報に基づいて前記被解析分子と前記反応液中の物質との相互作用を測定するバイオセンサー、での測定方法であって、
前記液体流路へ第1反応液を供給すると共に、前記被解析分子と前記第1反応液中の物質との相互作用を測定する第1測定ステップと、
前記第1反応液の供給されている前記液体流路へ前記第1反応液と異なる第2反応液を供給して前記第1反応液を前記第2反応液で置換すると共に、前記被解析分子と前記第2反応液中の物質との相互作用を測定する第2測定ステップと、
を備えた測定方法。
【請求項2】
前記第1測定ステップ、及び、前記第2測定ステップ、の少なくとも一方での前記測定は、供給した液体の流れを停止させた状態でも実施されること、を特徴とする請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
前記薄膜層は、光ビームを透過可能とされた透明体の平坦面に形成され、
前記液体流路は、前記透明体に取り付けられた流路部材と前記薄膜層との間に構成され、
前記薄膜層、前記透明体、及び前記流路部材は、前記バイオセンサーとは別体の測定セルを構成していること、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の測定方法。
【請求項4】
前記透明体は、前記薄膜層の形成された平坦面の他に互いに並行でない2面を有するプリズムで構成されていること、を特徴とする請求項3に記載の測定方法。
【請求項5】
前記液体流路を構成する流路部材には、液体を供給可能な供給口及び供給された液体を排出可能な排出口が形成され、
前記第1反応液の前記液体流路への供給は、前記供給口から前記第1反応液の充填されたピペットを用いて行なわれ、前記第2反応液の前記液体流路への供給は、前記供給口から前記第2反応液の充填されたピペットを用いて行なわれること、を特徴とする請求項3または請求項4に記載の測定方法。
【請求項6】
被解析分子の固定された薄膜層上に送液可能とされた液体流路へ、前記被解析分子との相互作用を検査する反応液を供給すると共に、前記薄膜層の前記液体流路と逆側の面へ光ビームを入射させて、その反射光から得られる屈折率変化の情報に基づいて前記被解析分子と前記反応液中の物質との相互作用を測定するバイオセンサーであって、
前記液体流路へ第1反応液を供給する第1反応液供給手段と、
前記第1反応液が供給されている状態で前記被解析分子と前記第1反応液中の物質との相互作用を測定する第1測定手段と、
前記第1反応液の供給されている前記液体流路へ前記第1反応液と異なる第2反応液を供給して前記第1反応液を前記第2反応液で置換する第2反応液供給手段と、
前記第2反応液が供給されている状態で前記被解析分子液と前記第2反応液中の物質との相互作用を測定する第2測定手段と、
を備えたバイオセンサー。
【請求項7】
前記第1測定手段及び前記第2測定手段の少なくとも一方での前記測定は、供給された液体の流れを停止させた状態でも実施されること、を特徴とする請求項6に記載のバイオセンサー。
【請求項8】
前記薄膜層は、光ビームを透過可能とされた透明体の平坦面に形成され、
前記液体流路は、前記透明体に取り付けられた流路部材と前記薄膜層との間に構成され、
前記薄膜層、前記透明体、及び前記流路部材は、前記バイオセンサーとは別体の測定セルを構成していること、を特徴とする請求項6または請求項7に記載のバイオセンサー。
【請求項9】
前記透明体は、前記薄膜層の形成された平坦面の他に互いに並行でない2面を有するプリズムで構成されていること、を特徴とする請求項8に記載のバイオセンサー。
【請求項10】
前記第1反応液及び前記第2反応液を各々貯留可能な貯留部をさらに備え、
前記液体流路を構成する流路部材には、液体を供給可能な供給口及び供給された液体を排出可能な排出口が形成され、
前記第1反応液供給手段、及び前記第2反応液供給手段は、前記貯留部で前記第1反応液または前記第2反応液を吸引すると共に、吸引した第1反応液または前記第2反応液を前記液体流路へ供給する供給ヘッドを含んで構成されていること、を特徴とする請求項8または請求項9に記載のバイオセンサー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−266850(P2006−266850A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84992(P2005−84992)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】