湿式多板クラッチのフリクションプレート

【課題】空転時の引き摺りトルクが小さく、しかもクラッチ係合初期の食い付きが防止されるような、湿式多板クラッチのフリクションプレートを得る。
【解決手段】フリクションプレート４０のコアプレート４１に、内径側に開口する第１の油溝５１と、外径側に開口する第２の油溝６１とを有する摩擦材のセグメントピース４２が間隔を持って接着されている。そしてセグメントピース４２の相対向する側面４４に凹部７１が設けられている。凹部の形状は、図示の例では円弧であるが、摩擦面積や摩擦特性、供給油量などに合わせて適切な形状とする。又油溝は端部５２、６２から開口部に向けての幅が広がるように形成し、さらに端部は摩擦材の径方向の中央部を越えた位置とすれば、一層高い効果を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【０００１】
この発明は自動変速機のクラッチやブレーキに使用される湿式多板クラッチのフリクションプレートに関する。
【背景技術】
【０００２】
図１は湿式多板クラッチ１０の基本構成を示す断面図であって、２１はクラッチケース、２２は回転を伝える相手側のハブ、２３はクラッチケースのスプライン溝、２４はハブのスプライン溝、２５はセパレータプレート３０とフリクションプレート４０をバッキングプレート２６に押圧するピストン、２７はバッキングプレートを支持するスナップリング、２８はピストンの封止リングをそれぞれ示している。セパレータプレート３０はスプライン溝２３と、フリクションプレート４０はスプライン溝２４と嵌合している。
【０００３】
近年自動車の低燃費の要求はますます増大しており、自動変速機においても、クラッチの空転時におけるフリクションプレートとセパレータプレート間の引き摺りトルクの低減が一層求められている。
【０００４】
従来のクラッチでは空転時のフリクションプレートとセパレータプレートの離間のために端面の閉じた油溝と、クラッチの係合時における摩擦面への潤滑油の供給による焼き付き防止のための油供給用の内外径方向に貫通した油通路とがあるフリクションプレートが使用されている。
【特許文献１】特開平１１−１４１５７０号公報
【特許文献２】特開２００５−７６７５９号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【０００５】
しかし昨今、燃費向上と同時に動力性能向上をねらいとしての変速応答性向上が求められ、フリクションプレートとセパレータプレートとの間のクリアランスは従来に比較して小さくなっており、空転時において、介在する油膜による引き摺りトルクも大きくなる傾向にある。
【０００６】
従来のフリクションプレートでは、摩擦面における油の排出が十分にされないことにより、引き摺りトルクをさらに低減させるという要求に満足に答えられなかった。特に低域の回転時においては、フリクションプレートとセパレータプレートとの間に介在する油の排出が十分でなく、引き摺りトルクを小さくすることはできなかった。
【０００７】
そこで摩擦材面に外径側に向かって開口する油溝を設けると、油通路から摩擦面に引き込まれた油がスムースに外径側に排出され、空転時において、引き摺りトルクの低減が可能となる。特に低回転時においては、引き摺りトルク低減の効果は大きい。又引き込まれた油がスムースに排除されるため、係合時に生ずる摩擦熱も、油と一緒にスムースに排除され、摩擦材の耐熱性が向上する。
【０００８】
さらに内径部に開口して端部が閉じている油溝を設けると、フリクションプレートとセパレータプレートとを引き離す作用による空転時の両プレートの間のクリアランスを均一にする効果があり、クラッチが解除されるときにスムースにクラッチの開放ができ、空転トルク低減に効果がある。
【０００９】
また摩擦材はコアプレート面上に全面に接着するのではなく、セグメントピースとして形成し、円周方向に間隔を持って接着すれば、セグメントピース間に内外径を貫通する油通路が形成され、余分の油は速やかに排出され、空転ドラッグには効果が大きい。
【００１０】
しかしクラッチの係合初期において、摩擦面に存在する油が、これらの溝及び油通路によって摩擦面から急激に排除されるため、油のクッション効果が低減され、係合初期においてクラッチの急激な食い付きが生じ、自動変速機のクラッチとかブレーキなどに使用された場合においては、変速機の変速時においてショックを発生するという問題が生ずるのでこれを防止しなければならない。
【課題を解決するための手段】
【００１１】
この発明は前記の課題を解決するために、「内径側に開口し、摩擦材の途中に端部を有する第１の油溝と、外径側に開口し、摩擦材の途中に端部を有する第２の油溝とを持った摩擦材のセグメントピースが円周方向に間隔を持ってコアプレートに接着されている湿式多板クラッチのフリクションプレートにおいて、各セグメントピースの相対向する側面の中間部に円周方向に延びる凹部を設けたことを特徴とするフリクションプレート。」を得たものである。
【発明の効果】
【００１２】
この発明のフリクションプレートは上記の構成により、クラッチの係合時に凹部の油がセグメントピースの間の油通路に排出されるときに、両側のセグメントピースからの排出油がぶつかることによりクッション効果を生じ、クラッチの係合初期の食い付きが防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【００１３】
外径部に開口している油溝は外径側に向かって横幅が大きくなる形状とすると油排除性は増加する。また内径部に開口している油溝は開口部から端部に向けて横幅を狭くすると、両プレートを引き離す効果が増大する。
油溝の形状は、摩擦面積や摩擦特性、供給油量などに合わせて適切に決定すればよい。
【実施例】
【００１４】
図２ないし図７はこの発明の各種の実施例の正面図を示すもので、各図において、４０はフリクションプレート、４１はコアプレート、４２は摩擦材のセグメントピース、４３はハブ２２のスプラインと勘合するスプライン歯、４４はセグメントピースの相対向する側面をそれぞれ示すことは共通している。
【００１５】
図２は第１実施例の正面図、図３は図２の要部拡大図である。この実施例では相対向する側面４４に設けられた凹部は円弧状の凹部７１として形成されている。内径側に開口する第１の油溝（以下第１の油溝と称する。）５１、ならびに外径側に開口する第２の油溝（以下第２の油溝と称する。）６１は、それぞれ端部５２及び６２から開口部に向かって幅が広くなるＶ字状の形状をしている。かつ端部５２、６２は摩擦材の径方向の中央部を越えた位置にある。
【００１６】
図４は第２の実施例を示し、相対向する側面４４に設けられた凹部は純粋な円弧ではなく、円弧に類似した形状の凹部７２とする。（図示の例では長円状に形成されている。）第１の油溝と第２の油溝については第１実施例と同様である。図５は第３の実施例であって、側面４４に設けられた凹部は矩形状の凹部７３として形成されている。
【００１７】
図６は第４の実施例を示し、側面４４に設けられる凹部は、油の排出に支障のない限り、任意の異形７４を採りうることを示している。
図７は第５の実施例を示し、凹部７５は側面４４の所の開口部７６において狭くなっている。
なお第１の油溝５１と第２の油溝６１の形状及び端部５２、６２の位置は図４ないし図７において図３と全く同様である。
【００１８】
図８はこの発明の効果を表す線図であって、たて軸にトルクＴ、よこ軸に時間ｔをとったもので、破線Ｂは従来のものの場合、実線Ａはこの発明のものを示す。
従来のものはクラッチの係合初期に食い付きが発生しているが、この発明では全体として均一となることが示されている。
【産業上の利用可能性】
【００１９】
この発明により、湿式多板クラッチにおいて、フリクションプレートとセパレータプレートの間のクリアランスを小さくし、かつ多くの潤滑油が供給される潤滑環境においても、空転持の引き摺りトルクを小さく保ちながらクラッチの係合初期の食い付きが防止できるフリクッションプレートを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【００２０】
【図１】湿式多板クラッチの基本構成を示す断面図
【図２】第１実施例の正面図
【図３】図２の要部拡大図
【図４】第２実施例の図３と同様な図
【図５】第３実施例の図３と同様な図
【図６】第４実施例の図３と同様な図
【図７】第５実施例の図３と同様な図
【図８】この発明の効果を示す線図
【符号の説明】
【００２１】
１０湿式多板クラッチ
２１クラッチケース
２２ハブ
２３スプライン溝
２４スプライン溝
２５ピストン
２６バッキングプレート
２７スナップリング
２８封止リング
３０セパレータプレート
４０フリクションプレート
４１コアプレート
４２セグメントピース
４３スプライン歯
４４側面
５１第１の油溝
５２端部
６１第２の油溝
６２端部
７１凹部
７２凹部
７３凹部
７４凹部
７５凹部
７６開口部

【特許請求の範囲】
【請求項１】
内径側に開口し、摩擦材の途中に端部を有する第１の油溝（以下第１の油溝と称する。）と、外径側に開口し、摩擦材の途中に端部を有する第２の油溝（以下第２の油溝と称する。）とを持った摩擦材のセグメントピースが円周方向に間隔を持ってコアプレートに接着されている湿式多板クラッチのフリクションプレートにおいて、
各セグメントピースの相対向する側面の中間部に円周方向に延びる凹部を設けたことを特徴とするフリクションプレート。
【請求項２】
セグメントピースの相対向する側面の中間部に設けられた前記の円周方向に延びる凹部は円弧又は円弧に類似した形状であることを特徴とする請求項１記載のフリクションプレート。
【請求項３】
セグメントピースの相対向する側面の中間部に設けられた前記の円周方向に延びる凹部は矩形形状であることを特徴とする請求項１記載のフリクションプレート。
【請求項４】
セグメントピースの相対向する側面の中間部に設けられた前記の円周方向に延びる凹部は側面の開口部を狭くしたことを特徴とする請求項１記載のフリクションプレート。
【請求項５】
第１の油溝は開口部より端部に向かって幅が狭くなっていることを特徴とする請求項１ないし請求項４の何れか１項に記載の記載のフリクションプレート。
【請求項６】
第２の油溝は端部より開口部に向かって幅が広くなっていることを特徴とする請求項１ないし請求項５の何れか１項に記載のフリクションプレート。
【請求項７】
第１の油溝及び第２の油溝の前記の端部は、セグメントピースの径方向の中央部を越えていることを特徴とする請求項１ないし請求項６の何れか１項に記載の記載のフリクションプレート。

【図１】