説明

溶射方法

【課題】被加工物の筒状部の内周面に溶射被膜を形成する溶射方法であって、該溶射被膜の品質向上を図るべく、該溶射被膜中に形成される突起物をなくし、該溶射被膜中に陥没穴が形成されるのを防いだ溶射方法を提供することを課題とする。
【解決手段】溶射ガン3は、ワイヤー粗材50・50の先端部を中心として回転可能に構成され、回転するとともに、圧縮空気が噴出される状態の溶射ガン3においてアーク放電を開始し、アーク放電開始後の溶射ガン3を被加工物100の筒状部100A内に挿入することで、筒状部100Aの内周面100aに溶射を行い、前記アーク放電開始時における溶射ガン3の回転速度を、前記アーク放電開始後における溶射ガン3の回転速度に比べて遅くする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばアーク溶射によって、筒状部の内周面に溶射被膜を形成する溶射方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、エンジンのシリンダブロックに形成されるシリンダボアなどのような、筒状部を有する被加工物において、該筒状部の内周面に耐摩耗性をもたらすための手段として、アーク溶射が用いられている。
前記アーク溶射は、二本のワイヤー粗材に高電圧を印加しつつ、互いの先端部を近接させてアーク放電を発生させ、該アーク放電によるジュール熱によって前記先端部を溶融して溶射粒子を生成し、該溶射粒子を前記内周面に吹き付けて溶射被膜を形成する溶射方法である。
そして、前記アーク溶射においては、溶射被膜を形成する際に、均一で高い密着性を有しつつ、該溶射被膜中に欠陥を発生させないために、従来から、筒状部の内周面に表面加工を施したり(例えば、「特許文献1」を参照。)、或いは、マスキング部材の形状を工夫したり(例えば、「特許文献2」を参照。)するなどの対策が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−75096号公報
【特許文献2】特開平5−214505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
溶射皮膜中に発生する欠陥の要因の一つとして、該溶射被膜中に形成される突起物が挙げられる。
前記突起物は、被加工物の筒状部の内周面に溶射被膜を形成する際、該溶射被膜中に不意に形成される。
そして、アーク溶射の終了後、形成された溶射被膜に機械加工を施すと、突起物は切削刃によって欠除され、溶射被膜より脱落する。
その結果、溶射被膜中にはミリ単位の陥没穴が形成され、「溶射被膜の欠陥」として残存するのである。
【0005】
このような「溶射被膜の欠陥」が残存すると、例えば、エンジンのシリンダブロックを被加工物とする場合には、完成品となったエンジンのオイル消費が増大したり、或いはシリンダボアの内周面に形成された陥没穴より溶射被膜の剥離を引き起こしたりするなど、多くの問題が懸念される。
よって、たとえ一箇所でもこのような陥没穴が溶射被膜中に形成されると、そのシリンダブロックは、もはや製品として成立せず、前記陥没穴による「溶射被膜の欠陥」が、被加工物に与える影響は極めて大きい。
しかし、前記「特許文献1」および前記「特許文献2」に示されるような対策によっては、このような溶射被膜中に発生する突起物により引き起こされる、「溶射被膜の欠陥」を十分に防ぐまでには至らなかった。
【0006】
本発明は、以上に示した現状の問題点を鑑みてなされたものであり、被加工物の筒状部の内周面に溶射被膜を形成する溶射方法であって、該溶射被膜の品質向上を図るべく、該溶射被膜中に形成される突起物をなくし、該溶射被膜中に陥没穴が形成されるのを防いだ溶射方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0008】
即ち、請求項1においては、先端同士が近接するように繰出される複数のワイヤー粗材に高電圧を印加して、前記複数のワイヤー粗材の先端部付近にアーク放電を発生させることにより、前記ワイヤー粗材を溶融させ、前記溶融したワイヤー粗材に圧縮空気を噴出することにより、溶融したワイヤー粗材を溶射粒子として被溶射体に溶射する溶射ガンを用いて、被溶射体となる被加工物の筒状部の内周面に溶射被膜を形成する溶射方法であって、前記溶射ガンは、前記ワイヤー粗材の先端部を中心として回転可能に構成され、回転するとともに、圧縮空気が噴出される状態の溶射ガンにおいてアーク放電を開始し、アーク放電開始後の溶射ガンを前記被加工物の筒状部内に挿入することで、前記筒状部の内周面に溶射を行い、前記アーク放電開始時における溶射ガンの回転速度を、前記アーク放電開始後における溶射ガンの回転速度に比べて遅くするものである。
【0009】
請求項2においては、請求項1に記載の溶射方法であって、前記アーク放電開始時における溶射ガンの回転速度は、前記アーク放電開始後における溶射ガンの回転速度に比べて1/10以下であるものである。
【0010】
請求項3においては、請求項1または請求項2に記載の溶射方法であって、前記アーク放電開始直時における前記ワイヤー粗材の繰出し速度を、前記アーク放電開始後における前記ワイヤー粗材の繰出し速度に比べて遅くするものである。
【0011】
請求項4においては、請求項3に記載の溶射方法であって、前記アーク放電開始時における前記ワイヤー粗材の繰出し速度は、前記アーク放電開始後における前記ワイヤー粗材の繰出し速度に比べて1/2以下であるものである。
【0012】
請求項5においては、請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の溶射方法であって、前記溶射ガンにおいて、前記ワイヤー粗材の先端部近傍には、前記溶射ガンへの前記溶射粒子の付着を防ぐカバー部材が配設され、前記カバー部材の表面部は鏡面仕上げされるとともに、前記表面部には前記溶射粒子に対する濡れ性を抑制するための表面処理が施されるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
即ち、本発明における溶射方法によれば、被加工物の筒状部の内周面に溶射被膜を形成する際において、該溶射被膜中に形成される突起物をなくして、該溶射被膜中に陥没穴が形成されるのを防ぐことが可能となり、該溶射被膜の品質向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る溶射方法を具現化する溶射装置において、溶射ガンのエアノズル近傍を示した正面図。
【図2】同じく側面図。
【図3】従来の溶射方法によって溶射されたシリンダボアの内周面に形成された突起物の拡大図。
【図4】同じく、シリンダボアの内周面に形成された突起物の断面拡大図。
【図5】同じく突起物の中央部近傍を示した断面拡大図。
【図6】ノズルカバーに付着する付着物の断面を示した断面図。
【図7】溶射直後の電流地および電圧値の変化を経時的に示した図であって、(a)は経過時間にともなってワイヤー素材に流れる電流値の変化を示した線図、(b)は経過時間にともなってワイヤー素材に印加される電圧値の変化を示した線図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、発明の実施の形態を説明する。
【0016】
[経緯]
先ず、図3乃至図7を用いて、本発明の溶射方法を具現化する実施例を構築するに至った経緯について説明する。
本実施例における溶射方法は、例えば、エンジンのシリンダブロックに形成されるシリンダボアなどのような、筒状部を有する被加工物において、該筒状部の内周面にアーク溶射を施す際の溶射方法であって、前記内周面に形成される「溶射被膜の欠陥」を防止し、該溶射被膜の品質向上を図るものである。
【0017】
即ち、前記「溶射被膜の欠陥」は、主に溶射被膜中に形成される小さな突起物によって引き起こされる。
より具体的には、図3に示すように、被加工物100の筒状部100Aの内周面100aにアーク溶射を施す際、形成される溶射被膜101中に、直径約1〜2mm程度の突起物102が発生する場合がある。
【0018】
このような突起物102を有した溶射被膜101に対して、筒状部100Aの内径寸法を規定の寸法値に仕上げるために切削加工のような機械加工を施せば、突起物102は切削刃によって欠除され、溶射被膜101より脱落する。
その結果、溶射被膜101において、突起物102の発生箇所には陥没穴が形成され、「溶射被膜の欠陥」として残存するのである。
【0019】
そこで、本発明者は、鋭意探求を行った結果、以下に示すように、突起物102の形成メカニズムを解明することで、溶射被膜101中における突起物102の発生を防止し、溶射被膜101の品質向上を図った溶射方法を確立するに至った。
【0020】
本発明者は、突起物102の形成メカニズムを解明するために、先ず突起物102の断面組織を詳細に調査した。その結果、図4に示すように、突起物102が、主に核となる中核部102Aと、該中核部102Aを覆う被膜部102Bとにより形成されていることを突き止めた。
【0021】
前記中核部102Aは、溶射被膜101を形成する粒子(以下、「溶射粒子」と記す)の大きさに比べて粗大な塊となって形成され、筒状部100Aの内周面100a上に直接付着される。
また、被膜部102Bは、溶射粒子51(図2を参照)と同じ粒子によって形成されるとともに、中核部102Aを全体的に覆うようにして、該中核部102Aの露出された表面上に堆積される。
【0022】
そして、これら中核部102Aおよび被膜部102Bより形成される突起物102は、該突起物102の周囲にて内周面100a上に正常に溶着された溶射被膜101内に埋設されるとともに、被膜部102Bが、多少の隙間103を有しつつ前記溶射被膜101と結合することで、突起物102は溶射被膜101中に固着されるのである。
【0023】
次に、本発明者は、中核部102Aの断面組織について、さらに詳細に調査した。その結果、図5に示すように、中核部102Aが、核となるA組織部102aと、該A組織部102aを覆うB組織部102bとにより形成されていることを突き止めた。
【0024】
前記A組織部102aは、後述するワイヤー粗材50(図1を参照。本実施例においては、鉄(Fe))と同等の材質からなり、約数十[μm]の大きさの溶射粒子51に比べて、10倍以上もの大きさを有する粗大粒子として形成され、筒状部100Aの内周面100a上に直接付着される。
また、B組織部102bは、酸化鉄(FeO)によって形成されるとともに、A組織部102aを全体的に覆うようにして、該A組織部102aの露出された表面上に堆積される。
【0025】
そして、A組織部102aと内周面100aとの間には、隙間104が存在しており、これらA組織部102aと内周面100aとの密着度合いは不完全となっている。
【0026】
このようなことから、突起物102は、ほとんど被膜部102Bのみを介して、該突起物102の周囲の溶射被膜101と固着されており、外部からの衝撃によって、容易に脱落し得る状態であることが判明した。
【0027】
次に、本発明者は、突起物102の形成メカニズムを解明するために、後述する溶射装置1のノズルカバー34(図1を参照)に付着した固形物110に着目し、該固形物110の断面組織を詳細に調査した。
【0028】
すると、図6に示すように、固形物110は、ワイヤー粗材50と同等の材質(本実施例においては、鉄(Fe))からなるC組織部110aと、酸化鉄(FeO)からなり該C組織部110aの表面上に付着するD組織部110bとにより形成されることが判明した。
つまり、固形物110と、前述した突起物102の中核部102Aとの断面組織を比較した場合、各断面組織の形態(それぞれの組織部に関する大きさや形状、あるいは付着の態様など)については、多少の差異があるものの、固形物110のC組織部110aと、中核部102AのA組織部102aとは同じ材質からなり、固形物110のD組織部110bと、中核部102AのB組織部10bとは同じ材質からなることが判明した。
【0029】
これらのことから、本発明者は、突起物102の形成メカニズムとして、以下に示す仮説を打ち出した。
即ち、先ず「何らかの原因」によって固形物110が形成され、形成された固形物110が溶射装置1のノズルカバー34に付着する。
次に、このような状態からなる溶射装置1を用いて、被加工物100の筒状部100Aの内周面100aにアーク溶射を施すと、固形物110は溶射中にノズルカバー34より脱落し、その後内周面100aに向かって吹き飛ばされて、溶射被膜101中に巻き込まれる。
その後、さらにアーク溶射が継続されると、固形物110の表面上に溶射被膜101が堆積される。その結果、固形物110は中核部102Aに変貌し、また固形物110の上に堆積された溶射被膜101は被膜部102Bとなることで、突起物102が形成されるのである。
【0030】
そこで、本発明者は、溶射被膜101の品質向上を図るために、ノズルカバー34への固形物110の付着を防止して、前記溶射被膜101中に形成される突起物102をなくすことを目的として、本発明の溶射方法を具現化する実施例(後述するノズルカバー34の構成、および第一実施例における溶射ガン3の回転速度の制御方法)を構築するに至ったのである。
【0031】
一方、前述した突起物102の形成メカニズムに関する仮説によれば、固形物110が形成されるための「何らかの原因」を取り除くことによっても、溶射被膜101中に形成される突起物102をなくすことが可能になり、該溶射被膜101の品質向上を図ることができる。
【0032】
そこで、本発明者は固形物110の発生する原因調査を行った結果、ワイヤー粗材50にアーク放電を発生させる際において、該ワイヤー粗材50に通電される電流の値(以下、「電流値」と記す)、或いは該ワイヤー粗材50に印加される電圧の値(以下、「電圧値」と記す)が、アーク放電開始直後に大きく変動することを突き止めた。
【0033】
即ち、図7(a)は、縦軸にワイヤー粗材50に通電される電流値を表し、横軸に経過時間を表すこととして、これら両者の関係を曲線によって表したものである。また、図7(b)は、縦軸にワイヤー粗材50に印加される電圧値を表し、横軸に経過時間を表すこととして、これら両者の関係を曲線によって表したものである。
【0034】
これら図7(a)および図7(b)に示されるように、経過時刻(T0)において、ワイヤー粗材50への電流の通電を開始し、或いは電圧の印加を開始し、該ワイヤー粗材50の先端部においてアーク放電を開始すると、該ワイヤー粗材50の電流値、或いは電圧値は、その直後より所定の振幅でもって振動しながら、その値が変動する。
【0035】
その後、前記電流値、或いは前記電圧値は、経過時刻(T0)から一定時間経過後の経過時刻(T1)に到達するまでは大きく変動するが、該経過時刻(T1)の後は略一定となる。つまり、ワイヤー粗材50への電流の通電を開始して、経過時刻(T0)から一定時間が経過して所定の経過時刻(T1)となった後には、ワイヤー粗材50の電流値および電圧値が安定することとなる。
なお、経過時刻(T0)から経過時刻(T1)に至るまでの時間(以下、「アーク放電着火時間」と記す)は、現実的には非常に短い時間であり、およそ1秒以内の時間であることが確認されている。また、アーク放電の開始から前記「アーク放電着火時間」が経過するまでの間はアーク放電開始時であり、前記「アーク放電着火時間」が経過した後はアーク放電開始後となってワイヤー粗材50の電流値および電圧値が安定する期間となる。
【0036】
またその一方で、固形物110は「アーク放電着火時間」内に成形されていることが確認されている。
【0037】
このようなことから、固形物110の形成は、「アーク放電着火時間」におけるワイヤー粗材50の電流値、或いは電圧値の不安定さが一つの要因になっているものと考えられる。
即ち、ワイヤー粗材50に通電される電流値、或いは印加される電圧値が大きく変動することで、前記ワイヤー粗材50の一部(より具体的には、ワイヤー粗材50の先端部)が、アーク放電のジュール熱によって溶融される以前に塊となって爆砕され、固形物110のC組織部110aとなってノズルカバー34に付着する。
【0038】
その後、現実的には非常に短い時間であるが、このようなC組織部110aが連続してノズルカバー34に付着することで、既に該ノズルカバー34に付着していたC組織部110aが、該ノズルカバー34の熱によって酸化されてD組織部110bとなり、固形物110が発生するのである。
【0039】
このようなことから、本発明者は、溶射被膜101の品質向上を図るために、「アーク放電着火時間」におけるワイヤー粗材50の電流値および電圧値の変動量を小さくして固形物110の形成を抑え、前記溶射被膜101中に形成される突起物102をなくすことを目的として、本発明の溶射方法を具現化する実施例(後述する第二実施例における、ワイヤー粗材50の繰出し速度の制御方法)を構築するに至ったのである。
【0040】
[溶射装置1]
次に、本発明の溶射方法を具現化する溶射装置1の構成について、図1および図2を用いて説明する。
なお、以下の説明に関しては、便宜上、図2における矢印Aの方向を前方と規定して説明する。また、図1および図2においては、図面上の上下方向を溶射装置1の上下方向と規定して説明する。
【0041】
図1に示すように、溶射装置1は、主に供給装置2や、溶射ガン3や、該溶射装置1全体の運転を制御する制御装置4などを有して構成される。
前記供給装置2は、後述する溶射ガン3にワイヤー粗材50を適宜供給するための装置である。
【0042】
供給装置2は、互いに並設される二組の繰出し部21・21を有して構成される。
前記繰出し部21は、軸心方向を水平方向とする複数の繰出しローラー21a・21a・・・を有して構成される。そして、これら繰出しローラー21a・21a・・・は、ワイヤー粗材50を両側方から挟持した状態で回転駆動されることにより、ワイヤー粗材50を下方へ繰り出すように構成されている。
また、各ローラー21a・21a・・・は、制御装置4により制御される第二駆動手段22により回転駆動される。
【0043】
なお、供給装置2の上方には、図示せぬ貯蔵部が配設される。また、該貯蔵部にはコイル状に巻回された二組のワイヤー粗材50・50が内装される。
そして、これらワイヤー粗材50・50の先端部は、前記貯蔵部より下方に向かって各々繰出され、供給装置2に供給される。
こうして、供給装置2に供給されたワイヤー粗材50・50の先端部は、複数の繰出しローラー21a・21a・・・によって挟持されつつ、下方に向かって繰出されて、溶射ガン3に供給される。
【0044】
このように、本実施例における溶射装置1においては、溶射ガン3に供給されるワイヤー粗材50の送り速度(繰出し速度)を自由に変更することが可能な構成となっている。
即ち、制御装置4による出力信号に基づいて第二駆動手段22により駆動される複数の繰出しローラー21a・21a・・・の回転速度をそれぞれ変更することで、ワイヤー粗材50の送り速度(繰出し速度)は、自由に変更されるのである。
【0045】
次に、溶射ガン3について説明する。
図2に示すように、溶射ガン3は被加工物100の筒状部100A内に挿入され、該筒状部100Aの内周面100aに向かって溶射粒子51を噴出させる部位である。
ここで、図1に示すように、溶射ガン3は、本体部31やコンタクトチップ32やエアノズル33やノズルカバー34などにより構成される。
【0046】
本体部31は、溶射ガン3の基部となる部位であり、供給装置2の下方において、上下方向に延出するようにして設けられる。
【0047】
本体部31の内部には、上方より供給される二本のワイヤー粗材50・50を、下方に向かって案内する複数のガイドローラー31a・31a・・・が、回転可能に支持されている。
また、本体部31の下面には、後述する二本のコンタクトチップ32・32が、下方に向かって延出するようにして配設される。
【0048】
そして、供給装置2より供給された二本のワイヤー粗材50・50の先端部は、本体部31の内部において、ガイドローラー31a・31a・・・によって下方へと導かれ、コンタクトチップ32・32へと繰出される。
【0049】
コンタクトチップ32は、ワイヤー粗材50にアーク放電を発生させるための電力を供給する部位である。
コンタクトチップ32は中空部材から形成され、その内径寸法は、ワイヤー粗材50の外径寸法と略同程度に形成される。
【0050】
また、本体部31の下面中央部において、このような形状からなる二本のコンタクトチップ32・32は、上端部に形成される雄螺子部32a・32aを介して本体部31に螺着され、且つ下方に向かって延出するようにして、側面視において互いに略平行に配設される。
また、二本のコンタクトチップ32・32は、正面視において、互いにその下端部が、本体部31の軸心Gに向かって近接するようにして、やや傾倒させて配設される。つまり、二本のコンタクトチップ32・32は、下方へ向かうにつれて互いに近接するように傾斜して配置されている。
【0051】
そして、本体部31より繰出された二本のワイヤー粗材50・50の先端部は、各々コンタクトチップ32・32に導かれ、該コンタクトチップ32・32の内部を通過してさらに下方へと繰出され、該コンタクトチップ32・32の下方、且つ本体部31の軸心G近傍において、互いに近接するのである。
【0052】
また、これらコンタクトチップ32・32には電圧電源35が接続されており、該電圧電源35は、制御装置4と電気的に連結される。
そして、制御装置4より送信される出力信号に基づいて、電圧電源35はコンタクトチップ32・32にそれぞれ高電圧を印加する。
すると、コンタクトチップ32・32を介して、ワイヤー粗材50・50にも高電圧が印加され、互いに近接するこれらワイヤー粗材50・50の先端部の間隙にアーク放電が発生する。
その結果、前記アーク放電によるジュール熱によって、ワイヤー粗材50・50の先端部は溶融され、溶射粒子51となって該ワイヤー粗材50・50より脱落するのである。
【0053】
エアノズル33は、ワイヤー粗材50・50より生成された溶射粒子51を、筒状部100Aの内周面100aに向かって噴出させる部位である。
エアノズル33は箱形状の部材からなり、下方に向かって延出するようにして、本体部31の下面に吊設される。
【0054】
即ち、図2に示すように、エアノズル33は、本体部31の下面において、コンタクトチップ32・32に対して水平方向に離間しつつ、該コンタクトチップ32・32側の側面が該コンタクトチップ32・32と対向するようにして配設される。
なお、エアノズル33の上面部は略全面を開口されており、該上面部を介して、エアノズル33の内部は本体部31の内部と連通される。
【0055】
また、図1に示すように、エアノズル33において、コンタクトチップ32・32と対向する側面(以下、「対向面33a」と記載する)には、切欠部33bと複数の貫通孔33c・33c・・・とが形成される。
【0056】
前記切欠部33bは、対向面33aの下部において、左右方向に延出するようにして形成される。
また、複数の貫通孔33c・33c・・・は、対向面33aの上下方向中央部、即ち正面視にて、コンタクトチップ32・32によって導かれたワイヤー粗材50・50の先端部の位置と、切欠部33bとの間において、上下方向に二列に分かれて配設されるようにして形成される。
【0057】
一方、本体部31には、図示せぬコンプレッサーが配管部材などを介して連結されており、該コンプレッサーによって、前記本体部31の内部に圧縮空気が供給される。
そして、図2に示すように、本体部31の内部に供給された圧縮空気は、気流52となってエアノズル33の内部へと導かれ、その後、前述した切欠部33bおよび複数の貫通孔33c・33c・・・を介して、前記エアノズル33の外部へと噴出される。
【0058】
このように、コンタクトチップ32・32の下方において、前記圧縮空気が気流52となって略水平方向に勢いよく噴出されることで、ワイヤー粗材50より生成された溶射粒子51は、前記気流52によって、筒状部100Aの内周面100aに向かって噴きつけられるのである。
【0059】
ノズルカバー34は、本体部31の下方において、コンタクトチップ32・32などへの溶射粒子34の付着を防止するための部位である。
ノズルカバー34は略逆台形状の箱状部材から形成され、本体部31の下面中央部において、二本のコンタクトチップ32・32を覆うようにして、前記本体部31に吊設される。
【0060】
また、ノズルカバー34の上面、および後側面(コンタクトチップ32・32に対して、エアノズル33側の側面)の一部は開口されるとともに、本体部31の下面、およびエアノズル33の対向面33aによって、それぞれ閉塞されている。
つまり、コンタクトチップ32・32は、ノズルカバー34によって、その前方(コンタクトチップ32・32に対して、エアノズル33と対向側の方向)、左右方向、および下方を覆設されるとともに、上方および後方は、本体部31の下面、およびエアノズル33の対向面33aによってそれぞれ覆設される。
【0061】
そして、ノズルカバー34の下面中央部には、小さな開口部が形成されており、該開口部を介して、コンタクトチップ32・32より下方に向かって延出される二本のワイヤー粗材50・50の先端部が、前記ノズルカバー34の下方に向かって突出される。
【0062】
ここで、本実施例の溶射装置1においては、ノズルカバー34の表面部全体に機械加工を施して、該表面部の表面粗さを低減して鏡面仕上げにするとともに、該表面部全体に、例えばPTFEコーティングやDLC(Diamond Like Carbon)コーティングやミクロデント処理などの表面処理を施すこととしている。
【0063】
このように、ノズルカバー34の表面部全体を鏡面仕上げにすることで、固形物110に対する該ノズルカバー34の耐付着性は向上し、また、ノズルカバー34の表面部全体に前記表面処理を施すことで、固形物110(溶射粒子51)に対する該ノズルカバー34の濡れ性が抑制される。
その結果、前述した固形物110のノズルカバー34への付着は、効果的に防止されるのである。
【0064】
以上のような構成からなる供給装置2および溶射ガン3には、これら構成部位2・3を全体的に駆動回転させる第一駆動手段5や、該構成部位2・3を上下方向に移動させる移動手段6などが備えられる。
【0065】
第一駆動手段5は、制御装置4と電気的に連結され、該制御装置4より送信される出力信号に基づいて、これら供給装置2および溶射ガン3を、本体部31の軸心Gを中心にして回転駆動させる。
そして、第一駆動手段5による、これら供給装置2および溶射ガン3の回転速度は、制御装置4による出力信号に基づいて、自由に可変可能な構成となっている。
【0066】
また、移動手段6は、制御装置4と電気的に連結され、該制御装置4より送信される出力信号に基づいて、これら供給装置2および溶射ガン3を、全体的に上下方向に移動させる。
【0067】
次に、制御装置4について説明する。
制御装置4は、記憶部や演算部を備えた、溶射装置1全体の運転を制御するための装置であり、供給装置2に備えられる第二駆動手段22や、溶射ガン3のコンタクトチップ32・32に接続される電圧電源35や、これら供給装置2および溶射ガン3全体に備えられる第一駆動手段5および移動手段6などの動作を制御することにより、溶射装置1全体の運転の制御を行うように構成されている。
【0068】
[溶射方法(第一実施例)]
次に、溶射装置1を用いた溶射方法(第一実施例)について、図1および図2を用いて説明する。
第一実施例の溶射方法においては、溶射被膜101の品質向上を図るために、第一駆動手段5による供給装置2および溶射ガン3の回転駆動の回転速度を、アーク放電の開始直後の一定時間、低速の回転速度とすることで、ノズルカバー34への固形物110(図6を参照)の付着を防止し、前記溶射被膜101中に形成される突起物102をなくすこととしている。
【0069】
第一実施例の溶射方法について、具体的に説明する。
先ず、供給装置2および溶射ガン3の回転駆動が停止しており、コンタクトチップ32・32に高電圧が印加されていない状態において、溶射装置1(より詳しくは、供給装置2および溶射ガン3)は、被加工物100の筒状部100Aの上方であって、該筒状部100Aと同軸上の位置(以下、「上限位置」と記す)に配設される。
【0070】
なお、この際、圧縮空気は本体部31内に未だ供給されておらず、また、二本のワイヤー粗材50・50については、各先端部がコンタクトチップ32・32より所定の位置にまで到達していない。
【0071】
制御装置4に、筒状部100Aの内周面100aへのアーク溶射の開始指令が入力されると、該制御装置4は第一駆動手段5に出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した第一駆動手段5は、供給装置2および溶射ガン3の回転駆動を開始する。
【0072】
なお、第一駆動手段5による、これら供給装置2および溶射ガン3の開始直後の回転駆動は、後述するように、定常時の回転速度(後述する「定常時回転速度(R2)」)に比べて低速の回転速度(後述する「初期回転速度(R1)」)によって行われる。つまり、溶射ガン3の回転駆動は、「初期回転速度(R1)」にて開始される。
【0073】
一方、前記開始指令によって、本体部31の内部には圧縮空気が供給され、エアノズル33の対向面33aから該圧縮空気が噴出されるとともに、制御装置4は移動手段6に出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した移動手段6は、供給装置2および溶射ガン3の下降(下方への移動)を開始する。
【0074】
供給装置2および溶射ガン3の回転駆動が開始すると、制御装置4は、電圧電源35に出力信号を送信し、該出力信号を受信した電圧電源35は、二本のコンタクトチップ32・32に高電圧を印加する。
その後、制御装置4は、第二駆動手段22に出力信号を送信し、該出力信号を受信した第二駆動手段22は、繰出しローラー21aを駆動回転させて、二本のワイヤー粗材50・50の繰出しを開始する。
【0075】
ここで、制御装置4には、各ワイヤー粗材50・50の先端部の位置が、所定の位置に各々到達するような繰出し量(以下、「設定繰出し量」と記す)が、予め設定されている。
そして、第二駆動手段22は、ワイヤー粗材50・50の繰出しを開始した後、該ワイヤー粗材50・50の繰出し量が、前記「設定繰出し量」に到達すると、繰出しローラー21aの駆動回転を停止する。
なお、前記「設定繰出し量」は、ワイヤー粗材50・50の先端部が、それぞれアーク放電が発生する位置にまで繰り出される繰り出し量である。
【0076】
ワイヤー粗材50・50の先端部の位置が所定の位置に到達すると、アーク放電が発生する。
その結果、ワイヤー粗材50・50の先端部は溶融され、溶射粒子51となって該ワイヤー粗材50・50より脱落するため、該先端部の位置は徐々に上方に移動する。
すると、再び制御装置4は、第二駆動手段22に出力信号を送信し、該出力信号を受信した第二駆動手段22は、繰出しローラー21aを駆動回転させて、ワイヤー粗材50・50の先端部の位置が所定の位置となるように、該ワイヤー粗材50・50を繰出す。
その結果、ワイヤー粗材50・50の先端部の位置は、遂次所定の位置に到達し、アーク放電が継続される。
【0077】
こうして、第二駆動手段22は、制御装置4の出力信号に基づいて、繰出しローラー21aの駆動回転の開始と停止を順次繰り返しつつ、ワイヤー粗材50・50の先端部を適宜所定の位置にまで移動させる。
そして、ワイヤー粗材50・50の先端部においては、アーク放電が継続され、ワイヤー粗材50・50が連続的に溶融されるとともに、溶融したワイヤー粗材50・50がエアノズル33の対向面33aより噴出される圧縮空気の気流52によって、溶射粒子51となって順次水平方向に噴きつけられる。
このように、回転するとともに、エアノズル33から圧縮空気が噴出される状態の溶射ガン3においてアーク放電が開始されるが、アーク放電の開始は、溶射ガン3が筒状部100A内に挿入される前に行われる。
そして、アーク放電開始後の溶射ガン3が筒状部100A内に挿入されることで、前記筒状部100Aの内周面100aへの溶射が開始される。
【0078】
一方、第一駆動手段5による供給装置2および溶射ガン3の回転駆動において、該回転駆動の開始から一定時間が経過すると、該回転駆動の回転速度は、低速の回転速度から、定常時の回転速度に切り替わる。
【0079】
即ち、制御装置4には、第一駆動手段5の回転駆動に関する回転速度の情報として、該回転駆動の開始直後となるアーク放電開始時において用いられる「初期回転速度(R1)」と、アーク放電開始後の被加工物100へのアーク溶射の作業時において用いられる「定常時回転速度(R2)」との2種類の情報が、予め格納されている。
また、これら2種類の情報に加えて、制御装置4には、「初期回転速度(R1)」と「定常時回転速度(R2)」との切り替えに関するタイミングの情報として、アーク放電を開始したタイミングからカウントとされる「切り替え経過時間(Ta)」が予め格納されている。
【0080】
前記「定常時回転速度(R2)」は、被加工物100の筒状部100Aの内周面100aに形成される、溶射被膜101の品質(例えば、溶射粒子51の密度など)を維持するために、従来から作業条件として予め規定された回転速度に設定される。
また、「初期回転速度(R1)」は、「定常時回転速度(R2)」の1/10以下の数値となる低速の回転速度に設定される。
【0081】
一方、「切り替え経過時間(Ta)」は、前述した「アーク放電着火時間」(図7における、経過時刻(T0)から経過時刻(T1)に至るまでの時間)と略同等の時間に設定される。
即ち、「切り替え経過時間(Ta)」は、第一駆動手段5による供給装置2および溶射ガン3の回転駆動が開始された後の、アーク放電が開始されるタイミング(つまり「アーク放電着火時間」の開始時刻)である経過時刻(T0)から、「アーク放電着火時間」の終了時刻となる経過時刻(T1)までの時間に設定される。
【0082】
そして、第一駆動手段5は、制御装置4の出力信号に基づいて、先ず、「初期回転速度(R1)」による低速の回転速度によって、供給装置2および溶射ガン3の駆動回転を開始し、その後、「切り替え経過時間(Ta)」の経過後、該回転駆動の回転速度を「定常時回転速度(R2)」による定常時の回転速度に切り替えて、該回転駆動を継続するのである。
【0083】
このように、本実施例(第一実施例)の溶射方法においては、第一駆動手段5の回転駆動に関する回転速度を、アーク放電の開始直後の一定時間(即ち、「アーク放電着火時間」)が経過するまで、低速の回転速度(即ち、「初期回転速度(R1)」)とすることで、ノズルカバー34への固形物110の付着の防止を図っている。
【0084】
即ち、「定常時回転速度(R2)」における定常時の回転速度によって、供給装置2および溶射ガン3を勢いよく回転駆動させると、溶射ガン3より噴出される圧縮空気の気流52は、平面視にて渦状に長く棚引くこととなる。
【0085】
ここで、従来の溶射方法のように、第一駆動手段5の回転駆動の開始直後から、該回転駆動の回転数を「定常時回転速度(R2)」とするような制御方法にすると、前述したような、アーク放電の発生直後に形成される多くのC組織部110a(図6を参照)が、棚引かれた圧縮空気の気流52に流され、前記回転駆動の方向(図1および図2において、矢印Bの方向)と逆の方向側(図1および図2において、矢印Cの方向)に向かって、ノズルカバー34の側面に付着することとなる。
そして、図1および図2に示すように、ノズルカバー34の側面部に付着したC組織部110aは、そのまま徐々に量を増やして堆積されていき、固形物110となるのである。
【0086】
そこで、本実施例(第一実施例)の溶射方法においては、第一駆動手段5の回転駆動を開始してからアーク放電の開始後となるまでの間は、該回転駆動の回転数を、「初期回転速度(R1)」による低速の回転速度とする制御を行っている。
つまり、本実施例(第一実施例)の溶射方法においては、「アーク放電着火時間」におけるワイヤー粗材50に印加された電圧値が大きく変動する間(前記電圧値が安定するまでの間)は、前記回転駆動の回転数を、「初期回転速度(R1)」による低速の回転速度とする制御を行っている。
【0087】
これによって、前記回転駆動の開始直後における、圧縮空気の気流52の棚引きが極力抑えられることとなり、例えアーク放電の発生直後に多くのC組織部110aが形成されたとしても、ノズルカバー34への付着を極力低減することができる。
【0088】
よって、ノズルカバー34への固形物110の付着を極力低減することができ、被加工物100の筒状部100Aの内周面100aに形成される溶射被膜101に対して、該溶射被膜101中に発生する突起物102を低減することができる。
その結果、溶射被膜101の品質向上を図ることができるのである。
【0089】
なお、「切り替え経過時間(Ta)」の経過後においては、第一駆動手段5による駆動回転の回転速度を、「定常時回転速度(R2)」に切り替えることとしているが、「アーク放電着火時間」の経過後であれば、例えワイヤー粗材50より正常に生成された溶射粒子51が、エアノズル33より棚引かれた圧縮空気の気流52に流されて、ノズルカバー34に付着しても、前記溶射粒子51は、その後固形物110に発展しないことが確認されている。
【0090】
第一駆動手段5による供給装置2および溶射ガン3の回転駆動において、該回転駆動の回転速度が「初期回転速度(R1)」から「定常時回転速度(R2)」に切り替わった後も、繰出しローラー21aによるワイヤー粗材50・50の繰出しは遂次繰り返され、該ワイヤー粗材50・50の先端部におけるアーク放電は継続される。
また、移動手段6による、これら供給装置2および溶射ガン3の下降(下方への移動)についても引き続き継続される。
【0091】
やがて、これら供給装置2および溶射ガン3は、「定常時回転速度(R2)」による回転速度によって回転駆動されつつ、被加工物100の筒状部100Aと同軸上に、該筒状部100Aの内部に挿入される。
つまり、溶射ガン3は、筒状部100Aの軸心周りに回転しつつ、該軸心方向に沿って、前記筒状部100A内に挿入される。
【0092】
その後、移動手段6によって、これら供給装置2および溶射ガン3が、さらに下降されることで、ワイヤー粗材50より生成された溶射粒子51は、エアノズル33より噴出される圧縮空気の気流52によって、筒状部100Aの内周面100aに吹き付けられ、溶射被膜101が該内周面100aの上方から下方に向かって徐々に形成されていく。
【0093】
エアノズル33の位置が内周面100aの下端部に到達し、該内周面100aの全面に溶射被膜101が形成されると、制御装置4は、第二駆動手段22に出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した第二駆動手段22は、前記出力信号に基づいて、ワイヤー粗材50の繰出しを停止する。
【0094】
また、制御装置4は、第二駆動手段22とともに、電圧電源35にも出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した電圧電源35は、前記出力信号に基づいて、二本のコンタクトチップ32・32への高電圧の印加を停止する。
このように、第二駆動手段22によるワイヤー粗材50の繰出しと、電圧電源35によるコンタクトチップ32への高電圧の印加の停止により、前記ワイヤー粗材50の先端部におけるアーク放電が停止され、溶射粒子51の生成が停止する。
【0095】
溶射粒子51の生成が停止すると、制御装置4は移動手段6に出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した移動手段6は、前記出力信号に基づいて、これら供給装置2および溶射ガン3の下降を停止した後、該供給装置2および溶射ガン3の上昇(上方への移動)を開始する。
【0096】
また、これら供給装置2および溶射ガン3の上昇が開始すると、制御装置4は、第一駆動手段5に出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した第一駆動手段5は、前記出力信号に基づいて、これら供給装置2および溶射ガン3の回転駆動を停止する。
【0097】
そして、これら供給装置2および溶射ガン3が、筒状部100Aの内部より完全に離脱され、「上限位置」に到達すると、制御装置4は移動手段6に出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した移動手段6は、前記出力信号に基づいて、これら供給装置2および溶射ガン3の上昇を停止し、本実施例の溶射方法(第一実施例)は終了するのである。
【0098】
[溶射方法(第二実施例)]
次に、溶射装置1を用いた溶射方法(第二実施例)について、図1、図2及び図7を用いて説明する。
第二実施例の溶射方法においては、溶射被膜101の品質向上を図るために、供給装置2の繰出しローラー21aによるワイヤー粗材50の送り速度(繰出し速度)を、アーク放電の開始直後の一定時間、低速の送り速度とすることで、固形物110のもととなるC組織部110a(図6を参照)の形成を防ぎ、前記溶射被膜101中に形成される突起物102をなくすこととしている。
【0099】
第二実施例の溶射方法は、前述した第一実施例の溶射方法とほぼ同じ構成からなり、第一駆動手段5による供給装置2および溶射ガン3の回転駆動方法、および繰出しローラー21aによるワイヤー粗材50の繰出し方法に関して相異点を有する。
なお、以下の説明においては、第一実施例の溶射方法と相異する点について主に詳述し、同等な点については、説明を省略する。
【0100】
制御装置4に、筒状部100Aの内周面100aへのアーク溶射の開始指令が入力されると、該制御装置4は第一駆動手段5に出力信号を送信する。
そして、前記出力信号を受信した第一駆動手段5は、供給装置2および溶射ガン3の回転駆動を開始する。
【0101】
一方、前記開始指令によって、本体部31の内部には圧縮空気が供給され、エアノズル33の対向面33aから該圧縮空気が噴出されるとともに、移動手段6は、供給装置2および溶射ガン3の下降(下方への移動)を開始する。
【0102】
ここで、本実施例(第二実施例)において、第一駆動手段5による、これら供給装置2および溶射ガン3の回転駆動は、該回転駆動の開始直後より、定常時の回転速度(即ち、「定常時回転速度(R2)」)によって行われる。
【0103】
なお、前記回転駆動の回転速度に関する制御方法については、これに限定されるものではなく、前述の第一実施例に示したように、アーク放電の開始直後の一定時間(即ち、「アーク放電着火時間」)、低速の回転速度(即ち、「初期回転速度(R1)」)とするようにしてもよい。
即ち、溶射ガン3によって発現されるアーク現象は、二本のワイヤー粗材50・50の先端部における接触状態に大きく関わりを持ち、例えば、前記先端部の反り具合のバラツキや、これらワイヤー粗材50・50をガイドするコンタクトチップ32・32の摩耗状態などによって、大きく影響を受けるため、所定の効果を発揮するよう制御することが難しい。
そこで、本実施例(第二実施例)における溶射方法において、前述の第一実施例に示したような、前記回転駆動の回転速度に関する制御方法を加えることとすれば、たとえアーク放電の開始直後にC組織部110aが形成されたとしても、ノズルカバー34への固形物110の付着が防止されるように万全を期すことができるのである。
【0104】
供給装置2および溶射ガン3の回転駆動が開始すると、制御装置4は、電圧電源35に出力信号を送信し、該出力信号を受信した電圧電源35は、二本のコンタクトチップ32・32に高電圧を印加する。
その後、制御装置4は、第二駆動手段22に出力信号を送信し、該出力信号を受信した第二駆動手段22は、繰出しローラー21aを駆動回転させて、二本のワイヤー粗材50・50の繰出しを開始する。
【0105】
ここで、制御装置4には、前述した「設定繰出し量」に関する情報の他に、繰出しローラー21aによるワイヤー粗材50の送り速度(繰出し速度)の情報として、該ワイヤー粗材50の繰出し開始直後において用いられる「初期送り速度(V1)」と、被加工物100へのアーク溶射の作業時において用いられる「定常時送り速度(V2)」との2種類の情報が、予め格納されている。
また、これら2種類の情報に加えて、制御装置4には、「初期送り速度(V1)」と「定常時送り速度(V2)」との切り替えに関するタイミングの情報として、繰出しローラー21aによる、アーク放電開始タイミング(経過時刻T0)からカウントされる「切り替え経過時間(Tb)」が予め格納されている。
【0106】
前記「定常時送り速度(V2)」は、被加工物100の筒状部100Aの内周面100aにおいて、溶射粒子51の密度の均一性を保ちつつ、溶射被膜101の形成時間を短縮するために、従来から作業条件として予め規定された送り速度(繰出し速度)に設定される。
また、「初期送り速度(V1)」は、前記「定常時送り速度(V2)」の1/2以下の数値となる低速の送り速度(繰出し速度)に設定される。
【0107】
一方、「切り替え経過時間(Tb)」は、前述した「アーク放電着火時間」(図7における、経過時刻(T0)から経過時刻(T1)に至るまでの時間)略同等の時間に設定される。
即ち、「切り替え経過時間(Ta)」は、アーク放電開始タイミング(経過時刻(T0))から、該ワイヤー粗材50における「アーク放電着火時間」の終了時(経過時刻(T1))までにかかる時間によって設定される。
【0108】
そして、第二駆動手段22は、制御装置4の出力信号に基づいて、先ず、「初期送り速度(V1)」による低速の送り速度(繰出し速度)によって、ワイヤー粗材50の繰出しを断続的に開始する。その後、「切り替え経過時間(Tb)」が経過すれば、ワイヤー粗材50の送り速度(繰出し速度)を「定常時送り速度(V2)」による定常時の送り速度に切り替えて、ワイヤー粗材50の繰出しを断続的に行うのである。
【0109】
このように、本実施例(第二実施例)の溶射方法においては、第二駆動手段22によるワイヤー粗材50の送り速度(繰出し速度)を、アーク放電の開始直後の一定時間(即ち、「アーク放電着火時間」)、低速の送り速度(繰出し速度)(即ち、「初期送り速度(V1)」)とすることで、固形物110のもととなるC組織部110aの形成の防止を図っている。
【0110】
即ち、従来の溶射方法のように、ワイヤー粗材50の繰出し開始直後から、「定常時送り速度(V2)」による定常時の送り速度(繰出し速度)によって、該ワイヤー粗材50を勢いよく繰出すような制御方法にすると、該ワイヤー粗材50の先端部において、アーク放電によるジュール熱によって溶融される量も多くなり、該ワイヤー粗材50に印加される電圧値としては、大きな電圧値が必要となる。
【0111】
その結果、前述したように、「アーク放電着火時」において、ワイヤー粗材50に印加される電圧値は、大きく変動することとなり、ワイヤー粗材50の先端部は、アーク放電のジュール熱によって溶融される以前に塊となって爆砕され、固形物110のC組織部110aが成形されることとなる。
【0112】
そこで、本実施例(第二実施例)の溶射方法においては、第二駆動手段22によるワイヤー粗材50の繰出し直後は、該繰出し時の送り速度(繰出し速度)を、「初期送り速度(V1)」による低速の送り速度とする制御を行っている。
つまり、本実施例(第二実施例)の溶射方法においては、「アーク放電着火時間」におけるワイヤー粗材50に印加された電圧値が、大きく変動する可能性がある間(即ち、安定するまでの間)は、ワイヤー粗材50の繰出し時の送り速度(繰出し速度)を、「初期送り速度(V1)」による低速の送り速度とする制御を行っている。
【0113】
これによって、ワイヤー粗材50の先端部において、アーク放電によるジュール熱によって溶融される量も少なくなり、該ワイヤー粗材50に印加される電圧値も、より小さな電圧値で足りることとなる。
【0114】
よって、「アーク放電着火時間」におけるワイヤー粗材50に印加される電圧値が大きく変動することもなく、アーク放電のジュール熱によって溶融される以前に塊となって爆砕され、固形物110のC組織部110aが成形されることもなくなる。
その結果、被加工物100の筒状部100Aの内周面100aに形成される溶射被膜101に対して、該溶射被膜101中に発生する突起物102を低減することができ、溶射被膜101の品質向上を図ることができるのである。
【0115】
繰出しローラー21aによるワイヤー粗材50の送り速度(繰出し速度)が、「初期送り速度(V1)」から「定常時送り速度(V2)」に切り替わった後も、ワイヤー粗材50・50の繰出しは遂次繰り返され、該ワイヤー粗材50・50の先端部におけるアーク放電は継続される。
また、移動手段6による、これら供給装置2および溶射ガン3の下降(下方への移動)についても引き続き継続される。
【0116】
その後、前述した第一実施例における溶射方法と同様に、供給装置2および溶射ガン3は、回転駆動されつつ、被加工物100の筒状部100Aと同軸上に、該筒状部100Aの内部に挿入される。
つまり、溶射ガン3は、筒状部100Aの軸心周りに回転しつつ、該軸心方向に沿って、前記筒状部100A内に挿入される。
【0117】
そして、筒状部100Aの内周面100aには、上方から下方に向かって溶射被膜101が徐々に形成されていく。
【0118】
その後、エアノズル33の位置が内周面100aの下端部に到達し、該内周面100aの全面に溶射被膜101が形成されると、ワイヤー粗材50の繰出しと、電圧電源35によるコンタクトチップ32への高電圧の印加とが停止し、溶射粒子51の生成が停止する。
【0119】
一方、溶射粒子51の生成が停止すると、移動手段6は供給装置2および溶射ガン3の下降を停止した後、該供給装置2および溶射ガン3の上昇(上方への移動)を開始する。
また、これら供給装置2および溶射ガン3の上昇が開始すると、第一駆動手段5は、該供給装置2および溶射ガン3の回転駆動を停止する。
【0120】
そして、これら供給装置2および溶射ガン3が、筒状部100Aの内部より完全に離脱され、「上限位置」に到達すると、移動手段6は前記供給装置2および溶射ガン3の上昇を停止し、本実施例の溶射方法(第二実施例)は終了するのである。
【0121】
以上のように、本実施例(第一実施例)における溶射方法は、先端同士が近接するように繰出される複数(本実施例においては2本)のワイヤー粗材50・50に高電圧を印加して、前記複数のワイヤー粗材50・50の先端部付近にアーク放電を発生させることにより、前記ワイヤー粗材50・50を溶融させ、前記溶融したワイヤー粗材50・50に圧縮空気を噴出することにより、溶融したワイヤー粗材50・50を溶射粒子51として被溶射体に溶射する溶射ガン3を用いて、被溶射体となる被加工物100の筒状部100Aの内周面100aに溶射被膜101を形成する溶射方法であって、前記溶射ガン3は、前記ワイヤー粗材50・50の先端部を中心として回転可能に構成され、回転するとともに、圧縮空気が噴出される状態の溶射ガン3においてアーク放電を開始し、アーク放電開始後の溶射ガン3を前記被加工物100の筒状部100A内に挿入することで、前記筒状部100Aの内周面100aに溶射を行い、前記アーク放電開始時における溶射ガン3の回転速度を、前記アーク放電開始後における溶射ガン3の回転速度に比べて遅くすることとしている。
【0122】
より具体的には、前記アーク放電開始時における溶射ガン3の回転速度、即ち「初期回転速度(R1)」は、前記アーク放電開始後における溶射ガン3の回転速度、即ち「定常時回転速度(R2)」に比べて1/10以下であることとしている。
【0123】
このような溶射方法によってアーク溶射を行うことで、被加工物100の筒状部100Aの内周面100aに溶射被膜101を形成する際において、該溶射被膜中101に形成される突起物102をなくして、該溶射被膜101中に陥没穴が形成されるのを防ぐことが可能となり、該溶射被膜101の品質向上を図ることができる。
【0124】
即ち、本実施例(第一実施例)の溶射方法においては、第一駆動手段5による溶射ガン3の回転駆動に関する回転速度を、アーク放電の開始直後の一定時間(即ち、「アーク放電着火時間」)、低速の回転速度(即ち、「初期回転速度(R1)」)とすることで、ノズルカバー34への固形物110の付着の防止を図っている。
よって、前記固形物110より形成される突起物102もなくなり、溶射被膜101中に陥没穴が形成されるのを効果的に防げることから、該溶射被膜101の品質向上を図ることができるのである。
【0125】
また、本実施例(第二実施例)における溶射方法として、前記アーク放電開始時における前記ワイヤー粗材50・50の送り速度(繰出し速度)、即ち「初期送り速度(V1)」を、前記アーク放電開始後における前記ワイヤー粗材50・50の送り速度(繰出し速度)、即ち「定常時送り速度(V2)」に比べて遅くすることとしている。
【0126】
より具体的には、前記アーク放電開始時における前記ワイヤー粗材50・50の送り速度(繰出し速度)、即ち「初期送り速度(V1)」は、前記アーク放電開始後における前記ワイヤー粗材50・50の送り速度(繰出し速度)、即ち、「定常時送り速度(V2)」に比べて1/2以下であることとしている。
【0127】
このように、本実施例(第二実施例)の溶射方法においては、第二駆動手段22によるワイヤー粗材50の送り速度(繰出し速度)を、アーク放電の開始直後の一定時間、(即ち、「アーク放電着火時間」)、低速の送り速度(繰出し速度)(即ち、「初期送り速度(V1)」)とすることで、固形物110のもととなるC組織部110aが形成されるのを防ぎ、該固形物110の発生を効果的に防止することとしている。
よって、前記固形物110より形成される突起物102もなくなり、溶射被膜101中に陥没穴が形成されるのを効果的に防げることから、該溶射被膜101の品質向上を図ることができるのである。
【0128】
また、本実施例(第一実施例および第二実施例)における溶射方法として、前記溶射ガン3において、前記ワイヤー粗材50・50の先端部近傍には、前記溶射ガン3への前記溶射粒子51の付着を防ぐノズルカバー(カバー部材)34が配設され、前記ノズルカバー(カバー部材)34の表面部は鏡面仕上げされるとともに、前記表面部には前記溶射粒子51に対する濡れ性を抑制するための表面処理が施されることとしている。
【0129】
このように、ノズルカバー34の表面部全体を鏡面仕上げにすることで、固形物110に対する該ノズルカバー34の耐付着性は向上し、また、ノズルカバー34の表面部全体に前記表面処理を施すことで、固形物110に対する該ノズルカバー34の濡れ性が抑制される。
その結果、前述した固形物110のノズルカバー34への付着は、効果的に防止されるのである。
【符号の説明】
【0130】
3 溶射ガン
33 エアノズル(圧縮空気噴出手段)
34 ノズルカバー(カバー部材)
50 ワイヤー粗材
51 溶射粒子
100 被加工物
100A 筒状部
100a 内周面
101 溶射被膜
R1 初期回転速度
R2 定常時回転速度
V1 初期送り速度
V2 定常時送り速度


【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端同士が近接するように繰出される複数のワイヤー粗材に高電圧を印加して、前記複数のワイヤー粗材の先端部付近にアーク放電を発生させることにより、前記ワイヤー粗材を溶融させ、前記溶融したワイヤー粗材に圧縮空気を噴出することにより、溶融したワイヤー粗材を溶射粒子として被溶射体に溶射する溶射ガンを用いて、被溶射体となる被加工物の筒状部の内周面に溶射被膜を形成する溶射方法であって、
前記溶射ガンは、前記ワイヤー粗材の先端部を中心として回転可能に構成され、
回転するとともに、圧縮空気が噴出される状態の溶射ガンにおいてアーク放電を開始し、アーク放電開始後の溶射ガンを前記被加工物の筒状部内に挿入することで、前記筒状部の内周面に溶射を行い、
前記アーク放電開始時における溶射ガンの回転速度を、
前記アーク放電開始後における溶射ガンの回転速度に比べて遅くする、
ことを特徴とする溶射方法。
【請求項2】
前記アーク放電開始時における溶射ガンの回転速度は、
前記アーク放電開始後における溶射ガンの回転速度に比べて1/10以下である、
ことを特徴とする、請求項1に記載の溶射方法。
【請求項3】
前記アーク放電開始直時における前記ワイヤー粗材の繰出し速度を、
前記アーク放電開始後における前記ワイヤー粗材の繰出し速度に比べて遅くする、
ことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶射方法。
【請求項4】
前記アーク放電開始時における前記ワイヤー粗材の繰出し速度は、
前記アーク放電開始後における前記ワイヤー粗材の繰出し速度に比べて1/2以下である、
ことを特徴とする、請求項3に記載の溶射方法。
【請求項5】
前記溶射ガンにおいて、
前記ワイヤー粗材の先端部近傍には、前記溶射ガンへの前記溶射粒子の付着を防ぐカバー部材が配設され、
前記カバー部材の表面部は鏡面仕上げされるとともに、
前記表面部には前記溶射粒子に対する濡れ性を抑制するための表面処理が施される、
ことを特徴とする、請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の溶射方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−62535(P2012−62535A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208225(P2010−208225)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】