説明

溶接鋼管の製造方法

【課題】大掛かりな設備改造を行なうことなくスパイラル鋼管の製造に簡単に適用でき、その能率を大幅に向上させることができる溶接鋼管の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の溶接鋼管の製造方法では、スパイラル状に曲げられた熱延鋼帯の幅方向突合せ部を、まず、内面溶接機により内面溶接位置P1において内面側でサブマージアーク(SAW)溶接を実施した後、鋼管を溶接線に沿って約1周半した下流側に位置する高周波加熱コイル30に通電して外面溶接前の鋼帯突合せ部の予熱を行ない、しかる後、外面溶接機により外面溶接位置P2で外面側のSAW溶接を実施する。この場合、SAW溶接前の鋼板の幅方向端面突合せ部の表面温度は400℃以上にすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速でかつ健全な溶接部が得られる溶接鋼管の製造方法に係り、特に、スパイラル鋼管の製造に適した方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接鋼管は、電縫鋼管、鍛接鋼管、サブマージアーク溶接鋼管に大別される。サブマージアーク溶接鋼管は、通常、大径鋼管であり、スパイラル鋼管はUOE鋼管と共にサブマージアーク溶接鋼管の代表とされている。
【0003】
スパイラル鋼管の製造は、例えば図8に示すように、鋼帯(鋼板)2をスパイラル状に形成し、鋼帯(鋼板)の側縁突合せ部を内面溶接機4および外面溶接機6により内面側および外面側からそれぞれサブマージアーク溶接(以下、適宜、SAW溶接ともいう。)することにより行なわれる。なお、図中、8はアンコイラ、10はコイルエンドレベラ、12はクロスウェルダ、14はレベラ、16はトリマチョッパ、18はエッジシェーバ、20はメインピンチロール、22はエッジベンダ、24は成形機、26は超音波探傷機、28は走行切断機である。
【0004】
サブマージアーク溶接鋼管の製造速度は、他の溶接鋼管の製造速度よりも遅く、スパイラル鋼管の製造では、内外面側の各電極を多電極化し、内外1パスで溶接を行なうことにより、能率向上を図っている。
【0005】
しかしながら、板厚が厚くなると急激に溶接速度が低下し、鋼管杭に使われるような厚肉のスパイラル鋼管の製造では、ライン速度の低下を余儀なくされ、ライン能力をフルに使うことができないのが現状である。これは、板厚が厚くなると溶接入熱が増加し、プールが増してその凝固に時間がかかるようになるため、高速でラインを動かすと未凝固のままで溶接部が回転することによりプールが流動して溶接部形状の悪化を招くからである。
【0006】
この問題を解決するため、サブマージアーク溶接以外の溶接を併用したスパイラル鋼管の製造方法が考えられている。サブマージアーク溶接以外の溶接を併用すると、サブマージアーク溶接の負担が軽減され、板厚が厚くなってもサブマージアーク溶接における溶接入熱が小さく抑えられ、そのプールが増加しない。したがって、溶接速度を速くできる。
【0007】
このような考えを実現するものとして、電気抵抗溶接を併用したスパイラル鋼管の製造方法が特許文献1に開示されている。
また、特許文献2には、鋼帯(鋼板)をスパイラル状に成形して、その突合せ部に内面側から第1のサブマージアーク溶接を行ない、その溶接部が150℃以上の温度を保有している状態で、外面側から炭酸ガスアーク溶接を行ない、その後さらに、第2のサブマージアーク溶接を行なう方法が開示されている。この方法によれば、炭酸ガスアーク溶接により第1および第2のサブマージアーク溶接の負担が軽減され、高速溶接が可能であるとされている。
【0008】
【特許文献1】特開昭60−21180号公報
【特許文献2】特開平6−23553号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示されているように電縫溶接を併用するスパイラル鋼管の製造方法では、スパイラル製管ラインで電縫溶接を行なうための設備に関して技術的な問題がある上、ライン速度と適正溶接速度とが合致しないことによる溶接品質上の問題もある。すなわち、現状のスパイラル製管ラインは様々な制約から最大ライン速度が5〜6m/minに抑えられているのに対し、電気抵抗溶接の適正溶接速度はこれより格段に速く、現状のスパイラル製管ラインで電気抵抗溶接を行なうためには、その速度をライン速度まで低下させなければならず、これによる溶接性の低下を余儀なくされるのである。したがって、現状では設備技術の問題に加えてこの溶接品質の問題も解決しなければならず、実施が非常に難しい。
【0010】
一方、特許文献2の溶接方法についても、炭酸ガスアーク溶接の速度とサブマージアーク溶接の速度とを同調させるのが困難である上、従来の外面側および内面側サブマージアーク溶接設備に加えて、炭酸ガスアーク溶接設備が必要になるといった問題点がある。
【0011】
本発明は、前記事情に鑑みて為されたもので、大掛かりな設備改造を行なうことなくスパイラル鋼管の製造に簡単に適用でき、その能率を大幅に向上させることができる溶接鋼管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、スパイラル鋼管のサブマージアーク溶接の際に予め鋼帯(鋼板)の突合せ部を適切な温度条件になるように予熱しておくことで溶接ビード部の幅や溶込み深さ、ならびに溶金量が増加することを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明者らは、スパイラル鋼管のサブマージアーク溶接の前に、様々な板厚の鋼帯(鋼板)の突合せ部を様々な温度条件で予熱した後、種々の溶接条件(溶接入熱、溶接速度)で溶接後のビード部の形状を観察し、以下の(1)〜(5)の知見を見出した。
なお、鋼帯(鋼板)2の突合せ部(幅方向両端部)については、予め図8に示されるエッジシェーバ18等により所定の開先形状に内面および外面ともに加工しておき、内面溶接機4により図1に示すように内面溶接位置P1で内面側のSAW溶接を実施した後、鋼管を溶接線に沿って約1周半した下流側に位置する高周波加熱コイル30に通電して外面溶接前の鋼帯(鋼板)突合せ部の予熱を行ない、しかる後、外面溶接機6により内面溶接位置P2で外面側のSAW溶接を実施した。
また、高周波加熱コイルに通電した電流の周波数は50kHzであり、最高出力は75kWであった。
さらに、内外面のSAW溶接についてはいずれも2電極を用い、先行電極には最大2000Aの直流を通電し、後行電極には最大1500Aの交流を通電した。
【0013】
(1)高周波加熱コイル30により、外面SAW溶接前の鋼帯(鋼板)突合せ部の表面温度は400℃以上に昇熱された。高周波加熱無しの場合、同じく外面SAW溶接前の鋼帯(鋼板)突合せ部の表面温度は200℃〜250℃であった。
【0014】
(2)溶接条件を一定にした場合の予熱による溶金量の増加率(△S/S0(%))は、図2に示すように各種板厚平均で11.4%であった。ここでいう溶金量Sとは、図3に示すように溶接材料の母材40への溶込み量を表し、溶金増加量△Sとは、同じく図3に示すように予熱前後の溶金量の変化量(S−S)を表す。
【0015】
(3)図3に模式的に示すように、SAW溶接時に母材40を予熱しておくことにより、予熱をしない場合に比べて、図3の(b)に示すように表面ビード42の高さ(盛上がり)Hや溶材の母材40への溶込み深さDは余り変化しない状態で幅方向Wに溶金量が増加し、結果的に、溶金増加量(増加率)が著しく向上する。また、図4は従来の溶接法でのビード幅変動(予熱なし)を示す図であり、図5は本発明の溶接法でのビード幅変動(予熱あり)を示す図であるが、これらの図に示すように、SAW溶接時に予熱を施すことにより、ビード幅変動についても予熱をしない場合に比べて抑制されることが分かった。ここで、図4および図5に示すビード幅変動は、ビード長10mmピッチで測定した値であり、横軸の数字はその個数である。幅変動のプラスマイナスは、測定した値の平均値を0とし、その値と比較したものである。
【0016】
(4)一方、SAW溶接時の入熱量を増加させた場合には、図3の(a)に示すように、表面ビード42の高さ(盛上がり)Hが高くなる方向に、またビード42の幅dについては狭くなる方向に変化するほか、溶材の母材40への溶込み深さDが深くなる方向に変化する。この結果、入熱量を増加させても、溶金量の増加は予熱を行なった場合に比べて顕著でない反面、ビード42の盛上がり部と母材40との境界部にオーバーラップと呼ばれる疵が発生しやすい他、ビード42の内部に高温割れ(縦割れ)が発生する危険性がある。
【0017】
(5)予熱をした状態で溶接速度を徐々に上げていった場合の溶金量の増加率(△S/S(%))の変化を調査した結果、図6(製管後の鋼管寸法:600Φ×16t)および図7(製管後の鋼管寸法:800Φ×10t)に示すように、溶金量の倍増率を予熱無しのレベルに維持することを前提とすれば、溶金速度を2.6m/分から3.0m/分へ、また、3.9m/分から4.2m/分にそれぞれ高めることができることが分かった。
【0018】
以上のような知見のもとに為された本発明は、以下の通りである。
すなわち、請求項1に記載の溶接鋼管の製造方法は、鋼帯(鋼板)を管状に成形し、この管状に成形した鋼帯(鋼板)の内面および外面の少なくとも一方の幅方向端面突合せ部を加熱した後、当該突合せ部のサブマージアーク溶接を行なうことを特徴とする。
【0019】
この請求項1に記載の発明においては、管状に成形した鋼帯(鋼板)の内面および外面の少なくとも一方の幅方向端面突合せ部を加熱(予熱)した後、当該突合せ部のサブマージアーク溶接を行なうようにしているので、後述する実験データ(表1参照)からも分かるように、溶接ビード形状を改善でき、製品品質を向上させることができる他、溶接速度の増加を実現することができ、製管能率の向上を図ることができる。すなわち、大掛かりな設備改造を行なうことなく、スパイラル鋼管の製造に簡単に適用でき、その能率を大幅に向上させることができるものである。
【0020】
また、請求項2に記載の溶接鋼管の製造方法は、請求項1に記載の発明において、サブマージアーク溶接前の鋼帯(鋼板)の幅方向端面突合せ部の表面温度が400℃以上になるように加熱することを特徴とする。
【0021】
この請求項2に記載の発明においては、鋼帯(鋼板)を必要以上に加熱しなくても、請求項1に記載した良好な作用効果を得ることができる。なお、ここでいう「鋼帯の幅方向端面突合せ部の表面温度」とは、開先加工を施さない鋼帯(鋼板)どうしの突合せの場合は、突合せ面上およびその近傍の表面温度のことであり、開先加工を施した鋼帯(鋼板)突合せの場合には、突合せ面上の表面温度及び開先面の表面温度のことである。
【0022】
また、請求項3に記載の溶接鋼管の製造方法は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記突合せ部の加熱を、高周波誘導加熱またはバーナー加熱によって行なうことを特徴とする。
【0023】
この請求項3に記載の発明においては、既存の設備で且つ簡単な構成により突合せ部の加熱を行なうことができ、有益である。
【発明の効果】
【0024】
本発明の溶接鋼管の製造方法によれば、溶接ビード形状を改善でき、製品品質の向上を図ることができる。また、溶接速度の増加を実現することができるため、製管能率の向上を図ることができる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明の実施例について説明する。
図1は、本発明に係る溶接鋼管の製造方法の概略説明図である。前述したように、図1では、例えば図8に示されるような成形機24を用いてスパイラル状に曲げられた熱延鋼帯(鋼板)の幅方向突合せ部を、まず、内面溶接機4により内面溶接位置P1において内面側でSAW溶接を実施した後、鋼管を溶接線に沿って約1周半した下流側に位置する高周波加熱コイル30に通電して外面溶接前の鋼帯(鋼板)突合せ部の予熱を行ない、しかる後、外面溶接機6により外面溶接位置P2で外面側のSAW溶接を実施した。
【0026】
高周波加熱コイル30によって鋼帯(鋼板)突合せ部の表面温度を400℃〜500℃の範囲で予熱した実験結果を表1に示す。なお、スパイラル鋼管の素材として用いた鋼帯(鋼板)は、市販の熱間圧延鋼板であり、鋼材規格はSS400である。また、高周波加熱コイルに通電した電流の周波数は50kHzであり、表中のSAW入熱とは2電極(先行電極および後行電極)によるトータルの入熱を表す。
【0027】
【表1】

【0028】
表1から分かるように、本発明の溶接鋼管の製造方法によれば、様々な寸法の鋼管や高周波加熱条件、溶接条件について、高周波加熱(予熱)をしない比較例に比べ、表面性状に優れたビードを確保でき、また溶接速度の向上を図ることができる。
【0029】
なお、前述の実施例は、外面側の直前(上流側)に高周波加熱コイル30を設置し、鋼帯(鋼板)突合せの加熱(溶接前の予熱)を行なう方法について例示しているが、内面溶接前に同様に高周波加熱コイル30による予熱を行なっても良い。ただし、内面溶接前の鋼帯(鋼板)の予熱を行なう場合、鋼帯(鋼板)突合せ部を常温から加熱することになるため、内部溶接の余熱を利用可能な外面溶接前の予熱に比べて大容量の高周波加熱設備が必要となる。また、高周波加熱による方法以外に、バーナーによる加熱を行なっても良い。さらに、高周波加熱を行う際の高周波加熱コイルに通電する高周波電流の周波数や電力量(電圧×電流)は、後述するようにSAW溶接前の鋼帯(鋼板)の突合せ部の表面温度が所定温度になりさえすればどのような設定であってもよい。
【0030】
また、図1では、内外面SAW溶接前の鋼帯(鋼板)の幅方向両端突合せ部については開先加工がなされているが、開先形状がどのような形状であっても、本発明は実施可能であり、たとえ開先加工が無くても本発明の実施において何ら問題は生じない。SAW溶接について言えば、表1の実施例では2電極による方法を採ったが、2電極を超える多電極を採用しても良い。さらに、鋼帯(鋼板)の板厚や鋼種については、スパイラル鋼管に用いられる鋼帯(鋼板)であれば、本発明の実施にあたり特に限定が必要とされるものではない。
【0031】
また、SAW溶接前の鋼帯(鋼板)突合せ部の表面温度は400℃以上に保つ必要があるが、必要以上に高温に加熱しても本発明の効果に差は無いため、望ましくは400℃〜550℃の範囲であれば良い。なお、ここでいう鋼帯(鋼板)突合せ部の表面温度とは、開先加工を施さない鋼帯(鋼板)どうしの突合せの場合は、突合せ面上およびその近傍の表面温度を指すが、開先加工を施した鋼帯(鋼板)突合せの場合には、突合せ面上の表面温度及び開先面の表面温度を指す。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、スパイラル鋼管をはじめとする様々な鋼管の溶接に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の溶接鋼管の製造プロセスの概略図である。
【図2】本発明の溶接鋼管の製造方法における予熱の溶金量増加率に及ぼす影響を示す図である。
【図3】予熱による溶金量増加のメカニズムの説明図である。
【図4】従来の溶接法でのビード幅変動(予熱なし)を示す図である。
【図5】本発明の溶接法でのビード幅変動(予熱あり)を示す図である。
【図6】本発明の溶接鋼管の製造方法における溶接速度と溶金量増加率との関係を示す図(製管後の鋼管寸法:600Φ×16t)である。
【図7】本発明の溶接鋼管の製造方法における溶接速度と溶金量増加率との関係を示す図(製管後の鋼管寸法:800Φ×10t)である。
【図8】スパイラル鋼管の製造工程の一例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
2 鋼帯(鋼板;鋼管)
4 内面溶接機
6 外面溶接機
30 高周波加熱コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯を管状に成形し、この管状に成形した鋼帯の内面および外面の少なくとも一方の幅方向端面突合せ部を加熱した後、当該突合せ部のサブマージアーク溶接を行なうことを特徴とする溶接鋼管の製造方法。
【請求項2】
サブマージアーク溶接前の鋼帯の幅方向端面突合せ部の表面温度が400℃以上になるように加熱することを特徴とする請求項1に記載の溶接鋼管の製造方法。
【請求項3】
前記突合せ部の加熱を、高周波誘導加熱またはバーナー加熱によって行なうことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶接鋼管の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−281313(P2006−281313A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−290560(P2005−290560)
【出願日】平成17年10月3日(2005.10.3)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【出願人】(000182982)住金大径鋼管株式会社 (12)
【Fターム(参考)】