説明

溶液製膜方法及びセルロースエステルフィルム

【課題】 厚み方向のレターデーションRthが低減されているフィルムを得る。
【解決手段】 セルロースアセテートプロピオネート(CAP)を原料としてドープ36を調製する。フィードブロック70が取り付けられている流延ダイ71からドープ36を流延バンド72上に流延して流延膜80を形成する。自己支持性を有する流延膜80を湿潤フィルム87として剥ぎ取る。テンタ100に湿潤フィルム87を送る。湿潤フィルム87のガラス転移温度Tg(℃)以上に膜面温度を調整し、延伸方向に80N/m以上の張力を付与してフィルム101とする。フィルム101は、面内レターデーションReが所望の大きさを有するが、厚み方向のCAP分子の配向が緩和されRthが低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液製膜方法及びセルロースエステルフィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレート、特に57.5%〜62.5%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下、TACとも称する)から形成されるTACフィルムは、その強靭性と難燃性とから写真感光材料のフィルム用支持体として利用されている。また、TACフィルムは光学等方性に優れていることから、近年市場の拡大している液晶表示装置の偏光板の保護フィルム,光学補償フィルム(例えば、視野角拡大フィルムなど)などに用いられている。
【0003】
TACフィルムは、通常溶液製膜方法により製造されている。溶液製膜方法は、溶融製膜方法などの他の製造方法と比較して、光学的性質などの物性に優れたフィルムを製造することができる。溶液製膜方法は、ポリマーなどをジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒に溶解した高分子溶液(以下、ドープと称する)を調製する。そのドープを流延ダイより支持体上に流延して流延膜を形成する。その流延膜が支持体上で自己支持性を有するものとなった後に、支持体から膜(以下、この膜を湿潤フィルムと称する)として剥ぎ取り、乾燥させた後にフィルムとして巻き取る(例えば、非特許文献1参照。)。
【0004】
また、フィルムの湿熱耐久性を高めるためにTAC以外のポリマーを用いる方法も提案されている。例えば、セルロースのアシル化に際し、アセチル基(−CO−CH3)によるアシル化と共にプロピオニル基(−CO−C25)によるアシル化を行い、セルロースアシレートプロピオネート(以下、CAPとも称する)を製造し、CAPをフィルム原料とする方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。CAPは、TACと比較して側鎖のアシル基が長いために親油性(非親水性)が高まり、一般的に有機溶媒への溶解性が向上しドープの調製が容易であるという利点がある。
【0005】
CAPを用いて製造されるフィルム(CAPフィルム)は、CAPが有するアシル基の側鎖の非親水性によりCAPフィルムの湿熱耐久性が向上する利点をも有する。さらに、CAPフィルムは、プロピオニル基を有しているため、CAP分子同士に分子間力が生じやすくCAP分子全体として配向性が生じやすい。このため、面内レターデーション(Re)や厚み方向レターデーション(Rth)が大きくなるという特徴を有している。このため、光学補償が必要なバーティカルアライメント(VA)方式の液晶表示装置の光学フィルムに好ましく用いられている。
【非特許文献1】発明協会公開技報公技番号2001−1745号
【特許文献1】特開2001−188128号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年では液晶表示装置の高速応答性を実現するため、液晶分子を挟み込むガラス基板の間隔(セルギャップ)を狭くする技術が用いられている。この場合には、面内レターデーション(Re)は大きいことで光学補償という観点から有効であるが、厚み方向レターデーション(Rth)がReと略同比率で大きくなるとセルギャップと比較して大きくなり過ぎ、液晶表示装置の光学特性の悪化を招く原因ともなる。しかしながら、前記特許文献1に記載の溶液製膜方法によれば、TAC原料のときと略同一の条件で製膜を行っているため、面内レターデーションReが大きくなると共に厚み方向レターデーションRthも大きくなり過ぎる。
【0007】
前記特許文献1に記載の方法に従えば、アシル化の置換基の炭素数を増やす方法も検討することが可能である。例えば、ブチリル基(−CO−C37),ペンタノイル基(−CO−C49)、ヘキサノイル基(−CO−C511)などが挙げられる。これら置換基は、アセチル基と比較して側鎖が長くなるためポリマー分子間に分子間力が生じやすくなることが予想される。それに伴い、これら置換基を導入したセルロースエステルを原料としてセルロースエステルフィルムを製造すると配向性が高まり、ReやRthが大きくなり位相差膜に適すると思われる。しかしながら、従来のTACフィルムと略同一条件で実験を行うと原料ポリマーの性質の相違により流延が困難となる問題が生じている。さらに、Rthが大きくなり過ぎるため、位相差膜としての使用が困難である問題も生じる。
【0008】
本発明は、厚み方向レターデーション(Rth)と面内レターデーション(Re)との比の関係が最適化され、光学フィルムに好ましく用いられるフィルムの溶液製膜方法及び前記光学フィルムに好ましく用いられるセルロースエステルフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の溶液製膜方法は、ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取りフィルムとし、前記フィルムを延伸する溶液製膜方法において、前記延伸する際に前記延伸方向に80N/m以上の張力を付与し、且つ前記フィルムの膜面温度を前記フィルムのガラス転移温度Tg(℃)以上とする工程を有する。前記ポリマーがセルロースエステルであることが好ましい。前記セルロースエステルが下記式を満たすことが好ましい。
(I)2.5≦A+B≦3.0
(II)1.25≦B≦3.0
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わしている。Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基,ブチリル基,ペンタノイル基,ヘキサノイル基の置換度の総和である。
【0010】
前記延伸により、厚み方向レターデーションRth(nm)が30nm以上500nm以下となり、面内レターデーションRe(nm)が0nm以上200nm以下となり、Rth/Reが4.0以下となることが好ましい。
【0011】
本発明のセルロースエステルフィルムは、セルロースエステルと溶媒とを含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取り延伸されて製造されるセルロースエステルフィルムにおいて、厚み方向レターデーションRth(nm)が30nm以上500nm以下であり、面内レターデーションRe(nm)が0nm以上200nm以下であり、Rth/Reが4.0以下である。前記セルロースエステルが、下記式を満たすことが好ましい。
(I)2.5≦A+B≦3.0
(II)1.25≦B≦3.0
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わしている。Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基,ブチリル基,ペンタノイル基,ヘキサノイル基の置換度の総和である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶液製膜方法によれば、ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取りフィルムとし、前記フィルムを延伸する溶液製膜方法において、前記延伸する際に前記延伸方向に80N/m以上の張力を付与し、且つ前記フィルムの膜面温度を前記フィルムのガラス転移温度Tg(℃)以上とするから、得られるフィルムは、面内レターデーション(Re)の低下は抑制されて、厚み方向レターデーション(Rth)のみが低下する。そのため、セルギャップが狭い液晶表示装置を構成する光学フィルムに好ましく用いることができる。
【0013】
また、前記ポリマーがセルロースエステルであって、前記セルロースエステルが下記式を満たすものを用いるから、セルロースエステルのアシル基の非親水性(親油性)により、セルロースエステルフィルムの耐熱湿性が向上する。そのため、前記セルロースエステルから製造される光学フィルムを用いる液晶表示装置は、温度変化による表示ムラの発生が抑制される。
(I)2.5≦A+B≦3.0
(II)1.25≦B≦3.0
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わしている。Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基,ブチリル基,ペンタノイル基,ヘキサノイル基の置換度の総和である。
【0014】
本発明の溶液製膜方法によれば、前記溶液製膜方法を行う際に前記延伸により、厚み方向レターデーションRth(nm)が30nm以上500nm以下となり、面内レターデーションRe(nm)が0nm以上200nm以下となり、Rth/Reが4.0以下となるから、セルギャップが狭い液晶表示装置に対して位相差膜として好ましく用いることができる。
【0015】
本発明のセルロースフィルムによれば、セルロースエステルと溶媒とを含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取り延伸されて製造されるセルロースエステルフィルムにおいて、厚み方向レターデーションRth(nm)が30nm以上500nm以下であり、面内レターデーションRe(nm)が0nm以上200nm以下であり、Rth/Reが4.0以下であるから、セルギャップが狭い液晶表示装置に対して位相差膜として好ましく用いることができる。
【0016】
前記セルロースエステルが、下記式を満たすから、セルロースエステルのアシル基の非親水性(親油性)により、セルロースエステルフィルムの耐熱湿性が向上する。そのため、前記セルロースエステルから製造される光学フィルムを用いる液晶表示装置は、温度変化による表示ムラの発生が抑制される。
(I)2.5≦A+B≦3.0
(II)1.25≦B≦3.0
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わしている。Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基,ブチリル基,ペンタノイル基,ヘキサノイル基の置換度の総和である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[原料]
本発明に用いられるポリマーはセルロースエステルである。さらにそのなかで下記式(I)及び(II)を満足するセルロースエステルを用いることが好ましい。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 1.25≦B≦3.0
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基に置換されているアシル基(−CO−R)の置換度を表わし、Aはアセチル基(−CO−CH3)の置換度を表わしている。またBはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基(−CO−C25),ブチリル基(−CO−C37),ペンタノイル基(−CO−C49),ヘキサノイル基(−CO−C511)の置換度である。なお、Bがプロピオニル基のものをCAP(セルロースアセテートプロピオネート)と称し、Bがブチリル基のものをCAB(セルロースアセテートブチレート)と称する。また、前記(II)式はより好ましくは1.3≦B≦2.97であり、最も好ましくは1.4≦B≦2.97とすることである。
【0018】
CAP,CABの90質量%以上が0.1mm〜4mmの粒子を用いることが好ましい。
【0019】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0020】
炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。セルロースエステルの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度など及びフィルムの光学特性などの物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2質量%〜25質量%が好ましく、5質量%〜20質量%がより好ましい。アルコールの具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール,エタノール,n−ブタノールあるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0021】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく特に酢酸メチルを用いることが好ましい。また、これらを適宜混合して用いる。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良い。
【0022】
セルロースエステルの詳細については、特願2003−319673号の[0141]段落から[0192]段落に記載されている。これらの記載は本発明にも適用できる。また、溶媒及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤,レターデーション制御剤などの添加剤、同じく特願2003−319673号の[0193]段落から[0531]段落に詳細に記載されている。
【0023】
[ドープ製造方法]
図1にドープ製造ライン10を示す。始めに溶媒タンク11からバルブ12を開き、溶媒を溶解タンク13に送る。次にホッパ14に入れられているCAPを溶解タンク13に計量しながら送り込む。なお、本発明に用いられる原料はCAPに限定されず、前記セルロースエステルを用いることができる。本発明では、CAPを用いる例を説明する・添加剤タンク15から添加剤溶液をバルブ16の開閉操作を行って必要量を溶解タンク13に送り込む。なお、添加剤は溶液として送り込む方法以外にも、例えば添加剤が常温で液体の場合には、その液体の状態で溶解タンク13に送り込むことも可能である。また、添加剤が固体の場合には、ホッパを用いて溶解タンク13に送り込むことも可能である。添加剤を複数種類添加する場合には、添加剤タンク15中に複数種類の添加剤を溶解させた溶液を入れておくこともできる。または、多数の添加剤タンクを用いてそれぞれに添加剤が溶解している溶液を入れて、それぞれ独立した配管により溶解タンク13に送り込むこともできる。
【0024】
前述した説明においては、溶解タンク13に入れる順番が、溶媒(混合溶媒の場合も含めた意味で用いる)、CAP、添加剤であったが、この順番に限定されるものではない。CAPを計量しながら溶解タンク13に送り込んだ後に、好ましい量の溶媒を送液することもできる。また、添加剤は必ずしも溶解タンク13に予め入れる必要はなく、後の工程でCAPと溶媒との混合物(以下、これらの混合物もドープと称する場合がある)に混合させることもできる。
【0025】
溶解タンク13を包み込むようにジャケット17が備えられている。モータ18により回転する第1攪拌翼19が取り付けられている。さらに、モータ20により回転する第2攪拌翼が取り付けられていることが好ましい。なお、第1攪拌翼は、アンカー翼であることが好ましく、第2攪拌翼21は、ディゾルバータイプのものを用いることが好ましい。ジャケット17に伝熱媒体を流して溶解タンク13内を−10℃〜55℃の範囲に温度調整することが好ましい。第1攪拌翼19,第2攪拌翼21を適宜選択して回転させることでCAPが溶媒中で膨潤した膨潤液22を得ることができる。
【0026】
膨潤液22をポンプ25により加熱装置26に送液する。加熱装置26は、ジャケット付き配管を用いることが好ましく、更に膨潤液22を加圧できる構成であることが好ましい。膨潤液22を加熱または加圧加熱条件下でCAPなどを溶媒に溶解させてドープを得る。なお、この場合に膨潤液22の温度は、0℃〜97℃であることが好ましい。また、膨潤液22を−10℃〜−100℃の温度に冷却する冷却溶解法を行うこともできる。加熱溶解法及び冷却溶解法を適宜選択して行うことでCAPを溶媒に十分溶解させることが可能となる。温調機27によりドープの温度を略室温とした後に、濾過装置28により濾過を行いドープ中の不純物を取り除く。濾過装置28の濾過フィルタの平均孔径が100μm以下であることが好ましい。また、濾過流量は、50L/hr以上であることが好ましい。濾過後のドープは、バルブ29を介してストックタンク30に入れられる。
【0027】
前記ドープは、後述する溶液製膜用ドープとして用いることが可能である。しかしながら、膨潤液22を調製した後にCAPを溶解させる方法は、CAPの濃度を上昇させるほど時間がかかりコストの点で問題が生じる場合がある。その場合には、目的とするCAP濃度より低濃度のドープを調製した後に目的とする濃度のドープを調製する濃縮工程を行うことが好ましい。濾過装置28で濾過されたドープをバルブ29を介してフラッシュ装置31に送液する。フラッシュ装置31内でドープ中の溶媒の一部を蒸発させる。蒸発した溶媒は、凝縮器(図示しない)により液体とした後に回収装置32で回収する。その溶媒は再生装置33によりドープ調製用の溶媒として再生を行い再利用することがコストの点から有利である。
【0028】
濃縮されたドープをフラッシュ装置31からポンプ34を用いて抜き出す。さらに、ドープ中の泡抜きを行うことが好ましい。泡抜きは、公知のいずれの方法により行っても良く、例えば超音波照射法が挙げられる。その後に濾過装置35に送液して異物の除去を行う。なお、この際にドープの温度が0℃〜200℃であることが好ましい。そして、ストックタンク30にドープを入れる。
【0029】
これらの方法により、CAP濃度が5質量%〜40質量%のドープを製造することができる。なお、製造されたドープ(以下、原料ドープと称する)36は、ストックタンク30に貯蔵される。
【0030】
セルロースエステルフィルムを得る溶液製膜法での、素材、原料、添加剤の溶解方法、濾過方法、脱泡、添加方法については、特願2003−319673号の[0514]段落から[0608]段落が詳しい。これらの記載も本発明に適用できる。
【0031】
[溶液製膜方法]
図2にフィルム製造ライン40を示す。ストックタンク30には、モータ41で回転する攪拌翼42が取り付けられている。攪拌翼42を回転させることで原料ドープ36を攪拌して常に均一にしている。ストックタンク30には、中間層用ドープ流路43,支持体面用ドープ流路44,エアー面用ドープ流路45が接続されている。原料ドープ36は、それぞれの流路43,44,45に設けられているポンプ46,47,48により送液される。フィードブロック70に送液されて合流した後に流延ダイ71から流延バンド72上に流延される。なお、流延ダイにはマルチマニホールド型共流延ダイを用いることもできる。
【0032】
中間層用ドープ流路43中の原料ドープ36にスタックタンク50に入れられている中間層用添加液51がポンプ52により送液されて混合される。その後に静止型混合器(スタティックミキサ)53により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを中間層用ドープと称する。中間層用添加液51には、例えば紫外線吸収剤,レターデーション制御剤などの添加剤が予め含まれた溶液(または分散液)が入れられている。
【0033】
支持体面用ドープ流路44中の原料ドープ36にストックタンク55に入れられている支持体面用添加液56がポンプ57により送液されて混合される。その後に静止型混合器58により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープを支持体面用ドープと称する。支持体面用添加液56には、支持体である流延バンドからの剥離を容易とする剥離促進剤(例えば、クエン酸エステルなど)、フィルムをロール状に巻き取った際にフィルム面間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)などの添加剤が予め含有されている。なお、支持体面用添加液56には、可塑剤,紫外線吸収剤などの添加剤が含まれていても良い。
【0034】
エアー面用ドープ流路45中の原料ドープ36にストックタンク60に入れられているエアー面用添加液61がポンプ62により送液されて混合される。その後に静止型混合器63により攪拌混合されて均一となる。以下、このドープをエアー面用ドープと称する。エアー面用添加液61には、フィルムをロール状に巻き取った際にフィルム面間での密着を抑制するマット剤(例えば、二酸化ケイ素など)などの添加剤が予め含有されている。なお、エアー面用添加液61には、剥離促進剤,可塑剤,紫外線吸収剤などの添加剤が含まれていても良い。
【0035】
中間層用ドープ,支持体面用ドープ,エアー面用ドープは、フィードブロック70にそれぞれ所望の流量で送液される。フィードブロック70内で各ドープが合流した後に流延ダイ71から流延バンド72上に流延される。
【0036】
流延ダイ71の材質は析出硬化型のステンレス鋼を用いることが好ましい。その熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下の素材を用いることが好ましい。また、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316と略同等の耐腐食性を有するものを用いることもできる。さらに、その素材はジクロロメタン、メタノール、水の混合液に3ヵ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有するものを用いる。さらに、鋳造後1ヶ月以上経過したものを研削加工して流延ダイ71を作製することが好ましい。これにより流延ダイ71内を流れるドープの面状が一定に保たれる。流延ダイ71及びフィードブロック70の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。スリットのクリアランスは自動調整により0.5mm〜3.5mmの範囲で調整可能なものを用いる。流延ダイ71のリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下のものを用いる。また、流延ダイ71内でのドープの剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)となるように調整されているものを用いることが好ましい。
【0037】
流延ダイ71の幅は特に限定されるものではないが、最終製品となるフィルムの幅の1.1倍〜2.0倍程度のものを用いることが好ましい。また、製膜中は、所定の温度に保持されるように温調機(例えば、ヒータ,ジャケットなど)を取り付けることが好ましい。また、流延ダイ71にはコートハンガー型のものを用いることが好ましい。さらに、厚み調整ボルト(ヒートボルト)を所定の間隔で設けてヒートボルトによる自動厚み調整機構を取り付けることがより好ましい。ヒートボルトは予め設定されるプログラムによりポンプ(高精度ギアポンプが好ましい)46〜48の送液量に応じてプロファイルを設定し製膜を行うことが好ましい。また、フィルム製造ライン40中に図示しない厚み計(例えば、赤外線厚み計)のプロファイルに基づく調整プログラムによってフィードバック制御を行っても良い。流延エッジ部を除いて任意の2点の厚み差は1μm以内に調整し、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm以下となるように調整することが好ましい。また、厚み精度は±1.5μm以下に調整されているものを用いることが好ましい。
【0038】
リップ先端に硬化膜が形成されていることがより好ましい。硬化膜の形成方法は、特に限定されるものではないが、セラミックスコーティング、ハードクロムメッキ、窒化処理方法などが挙げられる。硬化膜としてセラミックスを用いる場合には、研削でき気孔率が低く脆くなく耐腐食性が良く、かつ流延ダイ71と密着性が良く、ドープと密着性がないものが好ましい。具体的には、タングステン・カーバイド(WC),Al23,TiN,Cr23などが挙げられるが特に好ましくはWCを用いることである。WCコーティングは、溶射法で行うことができる。
【0039】
流延ダイ71のスリット端に流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために溶媒供給装置(図示しない)をスリット端に取り付けることが好ましい。ドープを可溶化する溶媒(例えば、ジクロロメタン86.5質量部,アセトン13質量部,n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒)を流延ビード端部とスリットとの気液界面に供給することが好ましい。端部の片側それぞれに0.02mL/min〜1.0mL/minの範囲で供給することが流延膜中に異物が混合することを防止できるために好ましい。なお、この液を供給するポンプの脈動率は5%以下のものを用いることが好ましい。
【0040】
流延ダイ71の下方には、回転ローラ73,74に掛け渡された流延バンド72が設けられている。流延バンド72は、図示しない駆動装置により回転ローラ73,74が回転することに伴い無端で走行する。流延バンド72の移動速度、すなわち流延速度は、10m/分〜200m/分であることが好ましい。また、流延バンド72の表面温度を所定の値にするために回転ローラ73,74に伝熱媒体循環装置75が取り付けられていることが好ましい。流延バンド72の表面温度は、−20℃〜40℃であることが好ましい。回転ローラ73,74内には伝熱媒体流路が形成されており、その中を所定の温度に保持されている伝熱媒体が通過することにより回転ローラ73,74の温度を所定の値に保持できる。
【0041】
流延バンド72の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。また、長さは20m〜200m、厚みは、0.5mm〜2.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下となるように研磨したものを用いることが好ましい。材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。また、流延バンド72の全体の厚みムラは0.5%以下のものを用いることが好ましい。
【0042】
回転ローラ73,74が駆動する際に流延バンド72に生じるテンションが1.5×104kg/mとなるように調整することが好ましい。また、流延バンド72と回転ローラ73,74との相対速度差は、0.01m/min以下となるように調整する。流延バンド72の速度変動を0.5%以下とし、流延バンド72が一回転する際に生じる幅方向の蛇行は1.5mm以下とすることが好ましい。この蛇行を制御するために流延バンド72の両端を検出する検出器(図示しない)を設け、その測定値に基づきフィードバック制御を行うことがより好ましい。さらに、流延ダイ71直下における流延バンド72表面の回転ローラ73の回転に伴う上下方向の位置変動が200μm以下となるように調整することが好ましい。
【0043】
なお、回転ローラ73,74を直接支持体として用いることも可能である。この場合には、回転ムラが0.2mm以下となるように高精度で回転させることが好ましい。また、回転ローラ73,74の表面の平均粗さを0.01μm以下とすることが好ましい。そこで、クロムメッキ処理などを行い十分な硬度と耐久性を持たせる。なお、支持体(流延バンド72や回転ローラ73,74)の表面欠陥は最小限に抑制する必要がある。具体的には、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm以上30μm未満のピンホールは
1個/m2以下であり、10μm未満のピンホールは2個/m2以下とすることが好ましい。
【0044】
流延ダイ71、流延バンド72などは流延室76に収められている。流延室76内の温度を所定の値に保つため温調設備77が取り付けられている。流延室76の温度が−10℃〜57℃であることが好ましい。また、揮発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)78が設けられている。凝縮液化した有機溶媒は、回収装置79により回収され再生させた後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0045】
流延ダイ71からドープ(エアー面用ドープ,中間層用ドープ,支持体面用ドープ)を流延ビードを形成させながら流延バンド72上に共流延して流延膜80を形成する。なお、このときのそれぞれドープの温度は、−10℃〜57℃であることが好ましい。また、流延ビードの形成を安定化させるため減圧チャンバ81が流延ビード背面に取り付けられ、所望の圧力に調整されていることが好ましい。ビード背面は、前面との圧力よりも5Pa〜1000Paの範囲で減圧することが好ましい。さらに、減圧チャンバ81の温度を所定の温度に保つため、ジャケット(図示しない)を取り付けることが好ましい。減圧チャンバ81の温度は特に限定されるものではないが、25℃〜55℃の範囲であることが好ましい。また、流延ビードの形状を所望のものにたもつため流延ダイ71のエッジ部に吸引装置(図示しない)を取り付けることが好ましい。エッジ吸引風量は、1L/min〜100L/minの範囲であることが好ましい。
【0046】
流延膜80は、流延バンド72の走行とともに移動する。このときに流延膜80中の溶媒を蒸発させるため送風ダクト82,83,84を設けることが好ましい。送風ダクトの取り付け位置は、流延バンド72の上部上流側82,下流側83,流延バンド72下部84に設けられている形態を図示しているがこれに限定されるものではない。また、形成直後の流延膜80に乾燥風が吹き付けられることによる膜面の面状変動を抑制するために遮風装置85が設けられていることが好ましい。なお、図では支持体として流延バンドを用いている例を示しているが、流延ドラムを用いることも可能である。流延ドラムの表面温度は、−20℃〜40℃であることが好ましい。
【0047】
流延膜80が自己支持性を有するものとなった後に剥取ローラ86で支持しながら湿潤フィルム87として流延バンド72から剥ぎ取る。その後に多数のローラが設けられている渡り部90を搬送させた後にテンタ100に送り込む。渡り部90では、送風機91から所望の温度の乾燥風を送風することで湿潤フィルム87の乾燥を進行させる。このとき乾燥風の温度が、20℃〜250℃であることが好ましい。なお、渡り部90では下流側のローラの回転速度を上流側のローラの回転速度より速くすることにより湿潤フィルム87に流延方向に延伸を付与させることも可能である。
【0048】
テンタ100に送られる湿潤フィルム87は、その両縁がクリップで把持され搬送されつつ乾燥される。また、テンタ100内を異なった温度ゾーンに区画して乾燥条件を調整することが好ましい。テンタ100を用いて湿潤フィルム87を幅方向に延伸及び緩和させることもできる。延伸及び緩和を行うことで、得られるフィルムの光学特性を所望のものとすることができる。また、渡り部90及び/またはテンタ100で湿潤フィルム87の流延方向と幅方向との少なくとも1方向を0.5%〜300%延伸することが好ましい。
【0049】
テンタ100で所定の残留溶媒量まで乾燥された湿潤フィルム87は、フィルム101として送り出される。フィルム101の両端を耳切装置102によりその両縁が切断される。切断されたフィルムは、図示しないカッターブロワーによりクラッシャー103に送られる。クラッシャー103によりフィルムの縁部は、粉砕されてチップとなる。このチップをドープ調製用に再利用することがコストの点から有利である。なお、このフィルムの両縁を切断する工程は、省略することもできるが、前記流延工程から前記フィルムを巻き取る工程までのいずれかで行うことが好ましい。
【0050】
テンタ100で湿潤フィルム87の延伸を行っている際に、延伸方向に80N/m以上の張力を付与し、且つ湿潤フィルム87の膜面温度をその湿潤フィルム87のガラス転移温度Tg(℃)以上とする。これにより、湿潤フィルム87の厚み方向の配向が緩和される。それに伴い、厚み方向レターデーションRth(nm)が低下する。また、延伸方向に張力が付与されるため延伸方向の配向性に対し、熱緩和による低下の影響を及ぼし難い。そのため、面内レターデーション値Re(nm)の値は延伸効果による発現量に対し、熱緩和による低下が少なく、大きく変動しない。なお、張力はより好ましくは80N/m以上5000N/m以下であり、最も好ましくは120N/m以上3000N/m以下である。さらに、湿潤フィルム87の膜面温度は、その湿潤フィルム87のガラス転移温度Tg(℃)に対して、Tg+1℃以上Tg+30℃以下であることが好ましく、最も好ましくはTg+5℃以上Tg+20℃以下である。
【0051】
具体的には、乾量基準で1重量%以上100重量%以下の残留溶媒が含有し、ポリマーがCAPの湿潤フィルム87の場合を示す。この湿潤フィルム87のテンタ100での延伸乾燥が行われる前のガラス転移温度Tg(℃)は、−130℃〜130℃である。この場合に100N/m以上500N/m以下の張力を幅方向に付与し、乾燥温度を60℃以上145℃以下で、10秒以上60秒以下延伸乾燥して、フィルム101とする。フィルム101では、ガラス転移温度Tg(℃)は、110℃〜135℃となり、厚み方向レターデーションRth(nm)は30nm〜300nmに減少する。また、面内レターデーションRe(nm)は0nm〜200nmの範囲に維持される。
【0052】
具体的には、乾量基準で5重量%以上250重量%以下の残留溶媒が含有し、ポリマーがCABの湿潤フィルム87の場合を示す。この湿潤フィルム87のテンタ100での延伸乾燥が行われる前のガラス転移温度Tg(℃)は、−135℃〜125℃である。この場合に100N/m以上500N/m以下の張力を幅方向に付与し、乾燥温度を60℃以上145℃以下で、10秒以上60秒以下延伸乾燥して、フィルム101とする。フィルム101では、ガラス転移温度Tg(℃)は、110℃〜135℃となり、厚み方向レターデーションRth(nm)は30nm〜300nmに減少する。また、面内レターデーションRe(nm)は0nm〜200nmの範囲に維持される。
【0053】
なお、本発明において用いられるセルロースエステルは、置換基にプロピオニル基,ブチリル基,ペンタノイル基,ヘキサノイル基を有しているので配向性が高まる。そのため、フィルム101の状態で厚み方向レターデーションRth(nm)が30nm以上500nm以下であり、面内レターデーションRe(nm)が0nm以上200nm以下となる。また、前記延伸乾燥によりフィルム(湿潤フィルム87の場合を含めた意味で用いる)101のレターデーションの比(以下、レターデーション比と称する。Rth/Re)が4.0以下に抑制され、より好ましくは2.0以上3.6以下となり、最も好ましくは2.5以上3.1以下となる。これにより、セルギャップが狭い液晶表示装置の光学フィルム(例えば、偏光板保護フィルム,光学補償フィルムなど)に好ましく用いることができる。
【0054】
本発明において、湿潤フィルム87,フィルム101のガラス転移温度Tg(℃)とは、以下に説明する方法で測定される値を用いる。DSC(示差走査熱量測定)の測定パンにサンプルを20mg入れる。これを窒素気流中で昇温速度を10℃/分として30℃から250℃まで昇温する(1st−run)。その後に30℃まで降温速度を−10℃/分として冷却する。さらに、この後に、再度昇温速度を10℃/分として30℃から250℃まで昇温する(2nd−run)。2nd−runで測定されるTg(℃;ベースラインから低温側に偏奇し始める温度)を本発明ではガラス転移点(ガラス転移温度)として用いる。
【0055】
フィルムのレターデーションの測定は、巻き取られているフィルムを用いて行われる。フィルム101の厚み方向レターデーションRth(nm)の測定は、フィルム101の一部を切断して試料とし、温度、湿度を調整した後に自動複屈折計を用いて行われる。また、面内レターデーションRe(nm)の測定もフィルム101の一部を切断してし良とし、温度,湿度を調整した後に自動複屈折率計を用いて行われる。これら、レターデーションの測定方法は後の実施例で詳細に説明する。
【0056】
本発明において、湿潤フィルム87,フィルム101の膜面温度の測定は、下記に示す方法により測定される値を用いる。フィルムを25℃,60%RHにて24時間調湿する。その後に自動複屈折計(KOBRA−21ADH;王子計測機器(株)製)を用いて25℃、60%RHの条件下でサンプルフィルム表面に対し垂直方向および遅相軸を回転軸としてフィルム面の法線から+50°から−50°まで10°刻みで傾斜させた方向から波長590nmにおける位相差を測定する。その測定値から面内レターデーション値(Re)と厚み方向のレターデーション値(Rth)とを算出する。
【0057】
次にフィルム101は、多数のローラ104が備えられている乾燥室105に送られる。乾燥室105内の温度は、特に限定されるものではないが、60℃〜145℃の範囲であることが好ましい。乾燥室105でフィルム101は、ローラ104に巻き掛けられながら搬送され溶媒は揮発して乾燥される。また、乾燥室105には、吸着回収装置106が取り付けられている。揮発溶媒は、吸着回収装置106により吸着回収される。溶媒成分が除去された大気は乾燥室105内に乾燥風として再度送風される。なお、乾燥室105は、乾燥温度を変えるために複数の区画に分割されていることがより好ましい。また、耳切装置102と乾燥室105との間に予備乾燥室(図示しない)を設け、フィルム101の予備乾燥を行うことがフィルム温度が急激に上昇することによるフィルムの形状変化を抑制できるためにより好ましい。
【0058】
フィルム101は、冷却室107に搬送され、略室温まで冷却される。なお、乾燥室105と冷却室107との間に調湿室(図示しない)を設けても良い。調湿室でフィルム101の所望の湿度及び温度に調整された空気を吹き付ける。これにより、フィルム101のカールの発生や巻き取る際の巻き取り不良の発生を抑制できる。
【0059】
フィルム101が搬送されている間の帯電圧が所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)となるように強制除電装置(除電バー)108を設けている。図では、冷却室107の下流側に設けられている例を図示しているがその位置に限定されるものではない。さらに、ナーリング付与ローラ109を設けて、フィルム101の両縁にエンボス加工でナーリングを付与することが好ましい。なお、ナーリングされた箇所の凹凸が、1μm〜200μmであることが好ましい。
【0060】
最後に、フィルム101を巻取室110内の巻取ローラ111で巻き取る。この際に、プレスローラ112で所望のテンションを付与しつつ巻き取ることが好ましい。なお、テンションは巻取開始時から終了時まで徐々に変化させることがより好ましい。巻き取られるフィルム101は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、幅方向が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上1800mm以下であることがより好ましい。また、1800mmより大きい場合にも効果がある。フィルムの厚みは、15μm以上100μm以下の薄いフィルムを製造する際にも適用できる。
【0061】
本発明の溶液製膜方法において、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時積層共流延又は逐次積層共流延させる。さらに両共流延を組み合わせても良い。同時積層共流延を行う際には、図2に示されているようにフィードブロック70を取り付けた流延ダイ71を用いても良いし、マルチマニホールド型流延ダイを用いても良い。共流延により多層からなるフィルムは、空気面側の層の厚さ及び/又は支持体側の層の厚さがそれぞれ全体のフィルム厚さ中で0.5%〜30%であることが好ましい。さらに、同時積層共流延を行う場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープを低粘度ドープで包み込まれることが好ましい。また、同時積層共流延を行なう場合に、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に内部のドープは、そのドープよりもアルコールの組成比が大きなドープで包み込まれることが好ましい。
【0062】
本発明において、フィルム(湿潤フィルム87を含めた意味で用いる)101を延伸乾燥する工程は、テンタ100を用いる箇所に限定されるものではない。例えば、渡り部90において下流側のローラを上流側のローラより回転速度を速めることで湿潤フィルム87の流延方向(長手方向)に張力を付与し延伸を行うことができる。このときに、その湿潤フィルム87の膜面温度をその湿潤フィルム87のガラス転移温度Tg(℃)より高くすることで延伸乾燥を行う。これにより、乾燥してフィルム101となった後に厚み方向レターデーションRth(nm)が30nm以上500nm以下となり、面内レターデーションRe(nm)が0nm以上200nm以下となる。また、レターデーション比(Rth/Re)は4.0以下となる。このフィルム101は、セルギャップが狭い液晶表示装置の光学フィルム(例えば、偏光板保護フィルム,光学補償フィルムなど)に好ましく用いられる。
【0063】
さらに、乾燥室105で延伸乾燥を行っても良い。この場合にも下流側のローラ104を上流側のローラ104より回転速度を速めることでフィルム101の流延方向(長手方向)に張力を付与し延伸を行うことができる。このときに、そのフィルム101の膜面温度をそのフィルム101のガラス転移温度Tg(℃)より高くすることで延伸乾燥を行う。これにより、フィルム101の厚み方向レターデーションRth(nm)が30nm以上500nm以下となり、面内レターデーションRe(nm)が0nm以上200nm以下となる。また、レターデーション比(Rth/Re)は4.0以下となる。このフィルム101は、セルギャップが狭い液晶表示装置の光学フィルム(例えば、偏光板保護フィルム,光学補償フィルムなど)に好ましく用いられる。
【0064】
図2に示したように3種類のドープを共流延することによりフィルム101の目的とする特性を容易に得ることができる。すなわち、フィルム101をロールとして巻き取る際に、フィルム面間での密着を防止する必要がある。そのため、ドープ中にマット剤を添加することが好ましいが、通常マット剤は光学特性の悪化(例えば、透明性の悪化など)を招く。そこで、本実施形態のようにフィルムの表裏面となる支持体面用ドープとエアー面用ドープとにマット剤を含有させ、中間層用ドープには含有させないことにより、表面密着性を低下させると共に所望の光学特性を得ることが可能となる。
【0065】
流延ダイ、減圧チャンバ、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取り方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特願2003−319673号の[0610]段落から[0842]段落に詳しく記述されている。これらの記載も本発明に適用できる。
【0066】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
巻き取られたセルロースエステルフィルムの性能及びそれらの測定法は、特願2003−319673号の[0113]段落から[0140]段落に記載されている。これらも本発明にも適用できる。
【0067】
[表面処理]
前記セルロースエステルフィルムの少なくとも一方の面が表面処理されていることが好ましい。前記表面処理が真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0068】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
前記セルロースエステルフィルムの少なくとも一方の面が下塗りされていても良い。
【0069】
さらに前記セルロースエステルフィルムをベースフィルムとして、他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。前記機能性層が帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層及び光学補償層から選択される少なくとも1層を設けることが好ましい。
【0070】
前記機能性層が、少なくとも一種の界面活性剤を0.1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。また、前記機能性層が、少なくとも一種の滑り剤を0.1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。さらに、前記機能性層が、少なくとも一種のマット剤を0.1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。さらには、前記機能性層が、少なくとも一種の帯電防止剤を1mg/m2〜1000mg/m2含有することが好ましい。セルロースエステルフィルムに、種々様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも、特願2003−319673号の[0843]段落から[1079]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されている。これらも本発明に適用できる。
【0071】
(用途)
前記セルロースエステルフィルムは、特に偏光板保護フィルムとして有用である。セルロースエステルフィルムを貼り合わせた偏光板を、通常は2枚を液晶層に貼り合わせ液晶表示装置を作製する。但し、この配置はどの位置でも良い。特願2003−319673号には、液晶表示装置として、TN型,STN型,VA型,OCB型,反射型、その他の例が詳しく記載されている。この方法は、本発明にも適用できる。また、同出願には光学的異方性層を付与した、セルロースエステルフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したセルロースエステルフィルムについての記載もある。更には適度な光学性能を付与し二軸性セルロースエステルフィルムとして光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これは、偏光板保護フィルムと兼用して使用することもできる。これらの記載は、本発明にも適用できる。特願2003−319673号の[1080]段落から[1252]段落に詳細が記載されている。
【実施例1】
【0072】
以下に実施例1を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、説明において、実験1で詳細に説明し、実験2及び実験3並びに比較例である実験4ないし実験6については、後に実験条件及び実験結果を表1にまとめて示す。
【0073】
以下に実験1を挙げるが、本発明はこれらに限定されるものではない。使用した質量部を下記に示す。
[組成]
セルロースアセテートプロピネート(アセチル置換度1.00、プロピオニル置換度B1.70、トータル置換度2.70、粘度平均重合度260、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 150mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差0.4mmである粉体) 100質量部
ジクロロメタン(第1溶媒) 320質量部
メタノール(第2溶媒) 83質量部
1−ブタノール(第3溶媒) 3質量部
可塑剤A(トリフェニルフォスフェート) 7.6質量部
可塑剤B(ジフェニルフォスフェート) 3.8質量部
【0074】
なお、ここで使用したセルロースアセテートプロピオネート(CAP)は、残存酢酸量が0.1質量%以下、残留プロピオン酸が0.1質量%以下であり、Ca含有量が60ppm、Mg含有量が10ppm、Fe含有量が0.2ppmであり、さらに硫酸基としてのイオウ量を65ppm含むものであった。また6位アセチル基の置換度は0.32、6位プロピオニル基の置換度は0.58であり、全アシル基中に占める割合は33%であった。また、メタノール抽出分は5質量%以下、重量平均分子量/数平均分子量比は2.5であった。また、イエローインデックスは1.3であり、ヘイズは0.08、透明度は92.9%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は133℃、このCAPは、広葉樹から採取したセルロースを原料として合成した。
【0075】
実験3で用いたセルロースアセテートブチレート(CAB)は、アセチル置換度1.00、ブチリル置換度1.70、トータル置換度2.70、粘度平均重合度220、含水率0.2質量%、ジクロロメタン溶液中6質量%の粘度 190mPa・s、平均粒子径1.5mmであって標準偏差が0.5mmであるものを用いた。また、CABは、残存酢酸量が0.1質量%以下、残留ブタン酸が0.1質量%以下であり、Ca含有量が80ppm、Mg含有量が22ppm、Fe含有量が0.5ppmであり、さらに硫酸基としてのイオウ量を105ppm含むものであった。また6位のアセチル基の置換度は0.33、6位ブチリル基の置換度は0.57であり、全アシル基中を占める割合は33%であった。また、メタノール抽出分は5質量%以下、重量平均分子量/数平均分子量比は2.8であった。また、イエローインデックスは1.6であり、ヘイズは0.07、透明度は92.9%であり、Tg(ガラス転移温度;DSCにより測定)は128℃であった。このCABは綿から採取したセルロースを原料として合成した。
【0076】
(1−1)ドープ仕込み
図1に示すドープ製造ライン10を用いた。攪拌羽根19,21を有する4000Lのステンレス製溶解タンク13に、前記複数の溶媒を混合して混合溶媒として攪拌・分散しつつ、CAP粉体(フレーク)をホッパ14から徐々に添加し、全体が2000kgとなるように調製した。なお、溶媒は、すべてその含水率が0.5質量%以下のものを使用した。溶解タンク13内を攪拌剪断速度が最初は5m/sec(剪断応力5×104kgf/m/sec2)の周速で攪拌するディゾルバータイプの攪拌翼21および、中心軸にアンカー翼19を有して周速1m/sec(剪断応力1×104kgf/m/sec2)で攪拌する条件下で30分間分散した。分散の開始温度は25℃であり、最終到達温度は48℃となった。分散終了後、高速攪拌は停止し、アンカー翼19の周速を0.5m/secとしてさらに100分間攪拌し、CAPフレークを膨潤させて膨潤液22を得た。膨潤終了までは窒素ガスでタンク内を0.12MPaになるように加圧した。この際のタンク内の酸素濃度は2vol%未満であり防爆上で問題のない状態を保った。またドープ中の水分量は0.3質量%であった。
【0077】
(1−2)溶解・濾過
膨潤液22を溶解タンク13からポンプ25でジャケット付配管26に送液した。ジャケット付き配管26で50℃まで加熱し、更に2MPaの加圧下で90℃まで加熱し、完全溶解させた。加熱時間は15分であった。温調機27で36℃まで温度を下げ、公称孔径8μmの濾材を有する濾過装置28を通過させて固形分濃度が19質量%のドープ(以下、濃縮前ドープと称する)を得た。この際、濾過1次圧は1.5MPa、2次圧は1.2MPaとした。なお、高温にさらされるフィルタ、ハウジング及び配管はハステロイ(登録商標)合金製で耐食性の優れたものを利用し保温加熱用の熱媒を流通させるジャケットを有するものを使用した。
【0078】
(1−3)濃縮・濾過・脱泡・添加剤
濃縮前ドープを80℃で常圧に調整されているフラッシュ装置31内でフラッシュさせて、蒸発した溶媒を凝縮器で液化して回収装置32で回収分離した。フラッシュ後のドープの固形分濃度は、21.5質量%となった。なお、回収された溶媒は、再生装置33で再利用のために調整された。フラッシュ装置31のフラッシュタンクには中心軸にアンカー翼を有しており、周速0.5m/secで攪拌して脱泡を行った。フラッシュタンク内のドープの温度は25℃であり、タンク内の平均滞留時間は50分であった。このドープを採取して25℃で測定した剪断粘度は剪断速度10(sec-1)で450Pa・sであった。
【0079】
つぎに、このドープに弱い超音波照射することで泡抜きを実施した。その後、ポンプ34を用いて1.5MPaに加圧した状態で、濾過装置35に送液した。濾過装置35では、最初公称孔径10μmの焼結繊維金属フィルタを通過させ、ついで同じく10μmの焼結繊維フィルタを通過させた。それぞれの1次圧は1.5MPa,1.2MPaであり、2次圧は1.0MPa,0.8MPaであった。濾過後のドープの温度を36℃に調整して2000Lのステンレス製ストックタンク30内に貯蔵した。以下、このドープを原料ドープ36と称する。ストックタンク30は中心軸にアンカー翼42を有して周速0.3m/secで常時攪拌された。なお、濃縮前ドープから原料ドープ36を調製する際に、各装置のドープ接液部には、腐食などの問題は全く生じなかった。また、ジクロロメタンが86.5質量部、アセトンが13質量部、n−ブタノール0.5質量部の混合溶媒37を作製した。
【0080】
(1−4)吐出・直前添加・流延・ビード減圧
図2に示すフィルム製造ライン40を用いてフィルム製膜を行った。ストックタンク30内の原料ドープ36を1次増圧用のギアポンプ46,47,48で高精度ギアポンプの1次側圧力が0.8MPaになるようにインバーターモーターによりフィードバック制御を行い送液した。高精度ギアポンプ46〜48は容積効率99.2%、吐出量の変動率0.5%以下の性能であった。また、吐出圧力は1.5MPaであった。
【0081】
流延ダイ71は、幅が1.8mであり共流延用に調整したフィードブロック70を装備して、主流のほかに両面にそれぞれ積層して3層構造のフィルムを成形できるようにした装置を用いた。以下の説明において、主流から形成される層を中間層と称し、支持体面側の層を支持体面と称し、反対側の面をエアー面と称する。なお、ドープの送液流路は、中間層用ドープ流路43、支持体面用ドープ流路44,エアー面用ドープ流路45の3流路を用いた。
【0082】
UV剤a(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール:0.7質量部),UV剤b(2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)5−クロルベンゾトリアゾール:0.3質量部)とレターデーション制御剤(N,N'−ジメタトリル−N''−p−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン:4質量部)と混合溶媒37と原料ドープ36とを混合させた中間層用添加液51をストックタンク50に入れた。中間層用添加液51をポンプ52により中間層用ドープ流路43中の原料ドープ36に送液した。そして、静止型混合器(エレメント数78個)53を介して混合させて、中間層用ドープ54とした。全固形分濃度が21.8質量%,紫外線吸収剤a,bがフィルム形態で1質量%,レターデーション制御剤がフィルム形態で4質量%となるように混合量の調整を行った。
【0083】
マット剤である二酸化ケイ素(粒径15nm モース硬度 約7)を0.05質量部と剥離促進剤であるクエン酸エステル混合物(クエン酸,クエン酸モノエチルエステル,クエン酸ジエチルエステル,クエン酸トリエチルエステル)を0.006質量部と原料ドープ36と混合溶媒37とを溶解または分散させて支持体面用添加液56とした。支持体面用添加液56をストックタンク55に入れ、ポンプ57を用いて所望の流量で支持体面用ドープ流路44中に流れている原料ドープ36に送液した。そして、静止型混合器(エレメント数78個)58で混合させて、支持体面用ドープ59を作製した。添加量は、全固形分濃度が20.5質量%、フィルム形態でマット剤濃度が0.05質量%、フィルム形態で剥離促進剤濃度が0.03質量%となるように行った。
【0084】
二酸化ケイ素0.1質量部と原料ドープ36とを混合溶媒37に分散させてエアー面用添加液61を調製しストックタンク60に入れた。エアー面用添加液61をポンプ62によりエアー面用ドープ流路45中の原料ドープ36に送液した。そして、静止型混合器(エレメント数78個)63を介して混合させて、エアー面用ドープ64を作製した。添加量は、全固形分濃度が20.5質量%、フィルム形態でマット剤濃度が0.1質量%となるように行った。
【0085】
そして、目的とするCAPフィルムの膜厚(エアー面,中間層,支持体面)がそれぞれ4μm,73μm,3μmであり、製品厚みが80μmとなるように、流延幅を1700mmとして各ドープ(中間層用ドープ,支持体面用ドープ,エアー面用ドープ)の流量を調整して流延を行った。各ドープの温度を36℃に調整するため、流延ダイ71にジャケット(図示しない)を設けてジャケット内に供給する伝熱媒体の入口温度を36℃とした。
【0086】
流延ダイ71、フィードブロック70、配管は製膜時にはすべて36℃に保温した。流延ダイ71はコートハンガータイプのものを用い、厚み調整ボルト(ヒートボルト)が20mmピッチに設けられており、ヒートボルトによる自動厚み調整機構を具備しているものを使用した。ヒートボルトは予め設定したプログラムにより高精度ギアポンプの送液量に応じたプロファイルを設定することもでき、フィルム製造ライン40内に設置した赤外線厚み計(図示しない)のプロファイルに基づいた調整プログラムによってフィードバック制御も可能な性能を有するものである。流延エッジ部20mmを除いたフィルムで50mm離れた任意の2点の厚み差は1μm以内であり、幅方向厚みの最小値で最も大きな差が3μm/m以下となるように調整した。また、各層の平均厚み精度は両外層が±2%以下、主流が±1%以下に制御され、全体厚みは±1.5%以下となるように調整した。
【0087】
流延ダイ71の1次側には減圧するための減圧チャンバ81を設置した。減圧チャンバ81の減圧度は流延ビードの前後で1Pa〜5000Paの圧力差が生じるようになっていて、流延スピードに応じて調整が可能なものである。その際に、流延ビードの長さが15mm±5mmとなるように圧力差を設定した。また、減圧チャンバ81の温度は、流延部周囲のガスの凝縮温度よりも高く設定できる機構を具備したものであった。ビード前後、後部にラビリンスパッキン(図示しない)を設けた。また、両端には開口部を設けた。さらに、そこから、流延ビードの両縁の乱れを調整するためにエッジ吸引装置(図示しない)が取り付けられているものを用いた。
【0088】
流延ダイ71の材質は析出硬化型のステンレス鋼であり、熱膨張率が2×10-5(℃-1)以下の素材であり、電解質水溶液での強制腐食試験でSUS316製と略同等の耐腐食性を有する素材を使用した。また、ジクロロメタン,メタノール,水の混合液に3ヶ月浸漬しても気液界面にピッティング(孔開き)が生じない耐腐食性を有する素材を使用した。流延ダイ71及びフィードブロック70の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下であり、スリットのクリアランスは1.0mmに調整した。ダイリップ先端の接液部の角部分について、Rはスリット全巾に亘り50μm以下になるように加工した。ダイ内部での剪断速度は1(1/sec)〜5000(1/sec)の範囲であった。また、流延ダイ71のリップ先端には、溶射法によりWCコーティングをおこない硬化膜を設けた。
【0089】
さらに流延ダイ71のスリット端には流出するドープが、局所的に乾燥固化することを防止するために、ドープを可溶化する前記混合溶媒を流延ビード端部とスリット気液界面に片側で0.5ml/minで供給した。この液を供給するポンプの脈動率は5%以下のものを用いた。また、減圧チャンバ81によりビード背面の圧力を150Pa低くした。減圧チャンバ81の温度を一定にするために、ジャケット(図示しない)を取り付けた。そのジャケット内に35℃に調整された伝熱媒体を供給した。エッジ吸引風量は、1L/min〜100L/minの範囲で調整可能なものを用い、本実施例では30L/min〜40L/minの範囲で適宜調整した。
【0090】
支持体として幅2.1mで長さが70mのステンレス製のエンドレスバンドを流延バンド72として利用した。流延バンド72の厚みは1.5mmであり、表面粗さは0.05μm以下になるように研磨した。材質はSUS316製であり、十分な耐腐食性と強度を有するものとした。流延バンド72の全体の厚みムラは0.5%以下であった。流延バンド72は、2個の回転ローラ73,74により駆動させた。その際の流延バンド72のテンションは1.5×104kg/mに調整し、流延バンド72と回転ローラ73,74との相対速度差が0.01m/min以下になるように調整した。また、流延バンド72の速度変動は0.5%以下であった。また1回転の幅方向の蛇行は1.5mm以下に制限するように流延バンド72の両端位置を検出して制御した。また、流延ダイ71直下におけるダイリップ先端と流延バンド72との上下方向の位置変動は200μm以下とした。流延バンド72は、風圧変動抑制手段(図示しない)を有した流延室76内に設置されている。この流延バンド72上に流延ダイ71から3層のドープ(エアー面,中間層,支持体面)を共流延した。
【0091】
回転ローラ73,74は、流延バンド72の温度調整を行えるように、内部に伝熱媒体を送液できるものを用いた。流延ダイ71側の回転ローラ73には5℃の伝熱媒体を流し、他方の回転ローラ74には40℃の伝熱媒体を流した。流延直前の流延バンド72中央部の表面温度は15℃であり、その両端の温度差は6℃以下であった。なお、流延バンド72は、表面欠陥がないものが好ましく、30μm以上のピンホールは皆無であり、10μm〜30μmのピンホールは1個/m2以下、10μm未満のピンホールは2個/m2以下であるものを用いた。
【0092】
流延室76の温度は、温調設備77を用いて35℃に保った。流延バンド72上に流延されたドープから形成された流延膜80は、最初に平行流の乾燥風により乾燥した。乾燥する際の乾燥風からの流延膜80への総括伝熱係数は24kcal/m2・hr・℃であった。乾燥風の温度は流延バンド72上部の上流側を135℃とし、下流側を140℃とした。また、流延バンド72下部は、65℃となるように送風ダクト82,83,84から送風した。それぞれの乾燥風の飽和温度は、いずれも−8℃付近であった。流延バンド72上の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。また、流延室76内の溶媒を凝縮回収するために、凝縮器(コンデンサ)78を設け、その出口温度は、−10℃に設定した。
【0093】
流延後5秒間は遮風装置85により乾燥風が、直接ドープ及び流延膜80に当たらないようにして流延ダイ71直近の静圧変動を±1Pa以下に抑制した。流延膜80中の溶媒比率が乾量基準で150質量%になった時点で流延バンド72から剥取ローラで支持しながら湿潤フィルム87として剥ぎ取った。剥取不良を抑制するために流延バンド72の速度に対して剥取速度(剥取ローラドロー)は、100.1%〜110%の範囲で適切に調整した。湿潤フィルム87の膜面温度を測定したところ15℃であった。流延バンド72上での乾燥速度は、平均60質量%乾量基準溶媒/minであった。乾燥して発生した溶媒ガスは、−10℃の凝縮器78で凝縮液化して回収装置79で回収した。回収された溶媒は調整がなされた後に、ドープ調製用溶媒として再利用した。その際に、溶媒に含まれる水分量を0.5%以下に調整した。溶媒が除去された乾燥風は再度加熱して乾燥風として再利用した。湿潤フィルム87を渡り部90のローラを介して搬送し、テンタ100に送った。このときに送風機91から40℃の乾燥風を湿潤フィルム87に送風した。
【0094】
テンタ100に送られた湿潤フィルム87は、クリップでその両端を固定されながらテンタ100の乾燥ゾーン内を搬送され、乾燥風により乾燥した。クリップには、20℃の伝熱媒体を供給して冷却した。また、テンタ100内の延伸方向に550N/mの張力(延伸方向テンション)を付与し、トータル延伸量を30%とした。テンタの駆動はチェーンで行い、そのスプロケットの速度変動は0.5%以下であった。また、テンタ100内を3ゾーンに分け、それぞれのゾーンの乾燥風温度を上流側から100℃,140℃,145℃とした。これにより、湿潤フィルム87の膜面温度は、その湿潤フィルム87のガラス転移温度Tg(℃)よりも10℃高くなるように設定した。なお、湿潤フィルム87のガラス転移温度Tg(℃)は、DSC(示差走査熱量測定)により測定した。乾燥風のガス組成は−10℃の飽和ガス濃度とした。テンタ100内での平均乾燥速度は120質量%(乾量基準溶媒)/minであった。テンタ100の出口ではフィルム内の残留溶媒の量が、7質量%となるように乾燥ゾーンの条件を調整した。剥取ローラ86からテンタ100入口に至る延伸率(テンタ駆動ドロー)は、102%とした。テンタ100内の延伸率はテンタ噛み込み部から10mm以上はなれた部分における実質延伸率の差異が10%以下であり、かつ20mm離れた任意の2点の延伸率の差異は5%以下であった。ベース端のうちテンタで固定している長さの比率は90%とした。テンタ100内で蒸発した溶媒は、−10℃の温度で凝縮させ液化して回収した。凝縮回収用に凝縮器(図示しない)を設け、その出口温度は−8℃に設定した。溶媒に含まれる水分量を0.5質量%以下に調整して再使用した。そして、テンタ100からフィルム101として送り出した。
【0095】
そして、テンタ100の出口から30秒以内に両端の耳切を耳切装置102で行った。NT型カッターにより両側50mmの耳をカットし、カットした耳はカッターブロワー(図示しない)によりクラッシャー103に風送して平均80mm2程度のチップに粉砕した。このチップは、再度ドープ調製用原料としてCAPフレークと共にドープ製造の際に原料として利用した。テンタ100の乾燥雰囲気における酸素濃度は5vol%に保持した。なお、酸素濃度を5vol%に保持するため空気を窒素ガスで置換した。後述する乾燥室105で高温乾燥させる前に、100℃の乾燥風が供給されている予備乾燥室(図示しない)でフィルム101を予備加熱した。
【0096】
フィルム101を乾燥室105で高温乾燥した。乾燥室105を4区画に分割して、上流側から120℃,130℃,130℃,130℃の乾燥風を送風機(図示しない)から給気した。フィルム101のローラ104による搬送テンションは100N/巾として、最終的に残留溶媒量が、0.3質量%になるまでの約10分間乾燥した。前記ローラ104のラップ角度は、90度および180度とした。前記ローラ104の材質はアルミ製もしくは炭素鋼製であり、表面にはハードクロム鍍金を施した。ローラ104の表面形状はフラットなものとブラストによりマット化加工したものとを用いた。ローラ104の回転による振れは全て50μm以下であった。また、テンション100N/巾でのローラ撓みは0.5mm以下となるように選定した。
【0097】
乾燥風に含まれる溶媒ガスは、吸着回収装置106を用いて吸着回収除去した。吸着剤は活性炭であり、脱着は乾燥窒素を用いて行った。回収した溶媒は、水分量0.3質量%以下に調整してドープ調製用溶媒として再利用した。乾燥風には溶媒ガスの他、可塑剤,UV吸収剤,その他の高沸点物が含まれるので冷却除去する冷却器およびプレアドソーバーでこれらを除去して再生循環使用した。そして、最終的に屋外排出ガス中のVOC(揮発性有機化合物)は10ppm以下となるよう、吸脱着条件を設定した。また、全蒸発溶媒のうち凝縮法で回収する溶媒量は90質量%であり、残りの大部分は吸着回収により回収した。
【0098】
乾燥されたフィルム101を第1調湿室(図示しない)に搬送した。乾燥室105と第1調湿室との間の渡り部には、110℃の乾燥風を給気した。第1調湿室には、温度50℃、露点が20℃の空気を給気した。さらに、フィルム101のカールの発生を抑制する第2調湿室(図示しない)にフィルム101を搬送した。第2調湿室では、フィルム101に直接温度90℃,湿度70%の空気をあてた。
【0099】
調湿後のフィルム101は、冷却室107で30℃以下に冷却して両端耳切りを行った。搬送中のフィルム帯電圧は、常時−3kV〜+3kVの範囲となるように強制除電装置(除電バー)108を設置した。さらにフィルム101の両端にナーリング付与ローラ109でナーリングを行った。ナーリングは片側からエンボス加工を行うことで付与し、ナーリングする幅は10mmであり、最大高さは平均厚みよりも平均12μm高くなるように押し圧を設定した。
【0100】
そして、フィルム101を巻取室110に搬送した。巻取室110は、室内温度28℃,湿度70%に保持した。さらに、フィルム帯電圧が−1.5kV〜+1.5kVになるようにイオン風除電装置(図示しない)も設置した。このようにして得られたフィルム(厚さ80μm)101の製品幅は、1475mmとなった。巻取ローラ111の径は169mmのものを用いた。巻き始めテンションは360N/巾であり、巻き終わりが250N/巾になるようなテンションパターンとした。巻き取り全長は3940mであった。巻き取りの際の周期を400mとし、オシレート幅を±5mmとした。また、巻取ローラ111にプレスローラ112を押し圧50N/巾に設定した。巻き取り時のフィルムの温度は25℃、含水量は1.4質量%、残留溶媒量は0.3質量%であった。全工程を通しても平均乾燥速度は20質量%(乾量基準溶媒)/minであった。また巻き緩み、シワもなく、10Gでの衝撃テストにおいても巻きずれが生じなかった。また、ロール外観も良好であった。
【0101】
フィルム101のフィルムロールを25℃、55%RHの貯蔵ラックに1ヶ月保管して、さらに上記と同様に検査した結果、いずれも有意な変化は認められなかった。さらにロール内においても接着も認められなかった。また、フィルム101を製膜した後に、流延バンド72上にはドープから形成された流延膜80の剥げ残りは全く見られなかった。
【0102】
(1)面内レターデーション(Re)の測定
フィルム101を70mm×100mmに切断し、温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、自動複屈折率計(KOBRA21DH 王子計測(株))にて632.8nmにおける垂直方向から測定したレターデーション値の外挿値により次式に従い算出した。
Re=|nMD−nTD|×d
nMDは、長手方向(流延方向)の屈折率,nTDは流延幅方向の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚;nm)を意味している。
【0103】
(2)厚み方向レターデーション(Rth)の測定
フィルム101を30mm×40mmに切断し、温度25℃,湿度60%RHで2時間調湿し、エリプソメーター(M150 日本分光(株))で632.8nmにより垂直方向から測定した値と、フィルム面を傾けながら同様に測定したレターデーション値の外挿値より下記式に従い算出した。
Rth={(nMD+nTD)/2−nTH}×d
nMDは、長手方向(流延方向)の屈折率,nTDは流延幅方向の屈折率,nTHはフィルム厚み方向の屈折率,dはフィルムの厚み(膜厚;nm)を意味している。
【0104】
(3)レターデーション比
前記厚み方向レターデーション値Rthと前記面内レターデーション値Reとの比Rth/Reを算出した。レターデーション比が4以下であると、面内レターデーション値Reに対して厚み方向レターデーション値Rthが小さいフィルムであると判断できる。
【0105】
(4)視野角
視野角の判断は、測定機(EZ−Contrast 160D ELDIM社製)を用いて、黒表示及び白表示の輝度測定から視野角(コントラスト比が10以上の範囲)を算出した。そして、方位角45度方向における視野角を下記の4段階で評価した。
視野角80度以上;◎極めて良好
視野角60度以上80度未満;○良好
視野角40度以上60度未満;△製品によっては使用可能
視野角40度未満;×不良
【0106】
(5)温度依存性による表示ムラ
VAモードの液晶TV(LC−20C5、シャープ(株)製)の表裏の偏光板及び位相差板を剥がし、表側と裏側とに実施例で作製したフィルムを用いて形成した位相差板と視野角補償板の無い市販の偏光板(HLC2−5618、サンリッツ(株)製)を41cm×30cmの大きさに切り出して(辺に対して偏光板の吸収軸が平行になるように切り出した)、20℃、60%RHの雰囲気下で2日以上調湿した後に、ラミネーターロールを用いて貼り付けた。このとき実施例で作製したフィルムは、パネル側に配置して貼り付けた。この際、視認側の偏光板の吸収軸をパネル水平方向に配置した。また、バックライド側の偏光板の吸収軸をパネル鉛直方向とし、粘着材面が液晶セル側となるよに配置した。
【0107】
前記方法で作製した偏光板を貼り合わせた液晶パネルを使用し、液晶TVを組み立て、バックライトを点灯させ、下記のように光漏れの評価を行った。評価には20インチの液晶パネルを使用した。
◎;4隅の光漏れがない
○;4隅のうち、どこかにうっすらと光漏れがある
△;4隅のうち、1〜3箇所に光漏れがある
×;4隅に光漏れがある
××;4隅にはっきりとした光漏れがある
【0108】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明に係る溶液製膜方法に用いられるドープを製造する製造ラインの概略図である。
【図2】本発明に係る溶液製膜方法に用いられるフィルム製造ラインの概略図である。
【符号の説明】
【0110】
40 フィルム製造ライン
80 流延膜
81 減圧チャンバ
87 湿潤フィルム
100 テンタ
101 フィルム


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーと溶媒とを含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取りフィルムとし、前記フィルムを延伸する溶液製膜方法において、
前記延伸する際に前記延伸方向に80N/m以上の張力を付与し、且つ前記フィルムの膜面温度を前記フィルムのガラス転移温度Tg(℃)以上とする工程を有することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記ポリマーがセルロースエステルであって、前記セルロースエステルが下記式を満たすことを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
(I)2.5≦A+B≦3.0
(II)1.25≦B≦3.0
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わしている。Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基,ブチリル基,ペンタノイル基,ヘキサノイル基の置換度の総和である。
【請求項3】
前記延伸により、厚み方向レターデーションRth(nm)が30nm以上500nm以下となり、
面内レターデーションRe(nm)が0nm以上200nm以下となり、
Rth/Reが4.0以下となることを特徴とする請求項1または2記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
セルロースエステルと溶媒とを含むドープを支持体上に流延して流延膜を形成し、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取り延伸されて製造されるセルロースエステルフィルムにおいて、
厚み方向レターデーションRth(nm)が30nm以上500nm以下であり、
面内レターデーションRe(nm)が0nm以上200nm以下であり、
Rth/Reが4.0以下であることを特徴とするセルロースエステルフィルム。
【請求項5】
前記セルロースエステルが、下記式を満たすことを特徴とする請求項4記載のセルロースエステルフィルム。
(I)2.5≦A+B≦3.0
(II)1.25≦B≦3.0
但し、式中A及びBは、セルロースの水酸基の水素原子に対するアシル基の置換度を表わしている。Aはセルロースの水酸基の水素原子に対するアセチル基の置換度、またBはセルロースの水酸基の水素原子に対するプロピオニル基,ブチリル基,ペンタノイル基,ヘキサノイル基の置換度の総和である。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−159464(P2006−159464A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−350704(P2004−350704)
【出願日】平成16年12月3日(2004.12.3)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】