説明

溶銑の脱燐処理方法

【課題】スピッティングやダスト発生の抑制とスロッピング発生の抑制を両立して高速送酸処理を実現しつつ、さらに高脱燐能を得ることができる転炉型溶銑予備脱燐方法を提供する。
【解決手段】上底吹き型の転炉を用い、上吹き酸素を該転炉内の溶銑へ吹き付けて溶銑を脱燐処理する方法であって、脱燐処理中には上吹き酸素の供給速度を溶銑トン当たり2.5〜4.0Nm3/minとし、かつ、スラグ生成剤として脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を該転炉内に投入した後に、サブランスより粉末状加炭剤をC質量換算で1.5〜5.5kg/t吹き付けることを特徴とする溶銑の脱燐処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉を用いて、高能率かつ高効率で溶銑を予備脱燐処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年は製鋼プロセス全体が著しく高能率・高効率化しており、溶銑脱燐処理においても、高能率かつ高脱燐能化が強く求められている。その求めに応えるためには、溶銑脱燐反応は溶銑中の燐(P)を酸化してスラグに移行させる反応であるから、燐を酸化するための酸素源およびスラグを生成して燐を吸収させるためのCaO源の供給を速くし、かつ、極力短時間でCaO源を滓化してスラグ組成を適切に調整しなければならない。しかし、短時間でCaO源を十分滓化させることは一般に困難で、脱燐不良が問題になりがちである。また、酸素供給速度を上げるとスロッピングやスピッティングなどが発生し易くなる。
【0003】
従来から、溶銑脱燐処理では溶銑温度が1300〜1400℃程度の低温で、10分間程度の酸素供給時間で脱燐率80%以上を達成するなどの効果を上げてきた。しかし、大概の場合、CaO源の滓化促進のために蛍石などの滓化促進剤を多用する必要があった。
【0004】
しかし近年では、溶銑脱燐処理後のスラグを含め、製鋼スラグの有効利用が重視されるようになってきて、その有効利用率を高めるために、スラグを土木材料や路盤材に用いる際の要請に配慮する必要がある。そのため蛍石の使用は既に実質的に出来なくなっている。それゆえ、蛍石を使用せずに処理後スラグ中の未滓化CaO(f.CaO)の含有濃度を極力低減させる技術の必要性も高くなってきている。
【0005】
そこで近年では、例えば特許文献1に記載の発明のように、CaO源を粉状化して上吹きランスから酸素と共に溶銑に吹き付ける方法が多く利用されるようになっている。さらに、脱燐処理後のスラグ中f.CaOを一層低減させるために、取鍋スラグなどのAl含有スラグを蛍石に代わる滓化促進剤として使用する方法も利用されるようになっている。
【0006】
しかし、特許文献1に記載の発明では、溶銑1t当たりの上吹き酸素流量が0.5〜2.0Nm/minで、脱燐吹錬時間は7〜10分間である。最近では、この程度の処理時間でも長過ぎて、不十分とされるようになってきた。この脱燐吹錬時間を更に短縮するには、上吹き酸素の供給流量をさらに増やし、かつ、CaO源の滓化を合わせて速めなければならない。
【0007】
その発明方法では、CaO源の滓化を促進するために、CaO源を粉状化して上吹きランスから酸素と共に溶銑に吹き付けている。しかし、一般に酸素供給速度を高めるだけでもスピッティングが増加する方向であるところ、その方法では酸素と同時に粉状CaO源の供給速度も高めることになるので、スピッティングが一層激しくなることは当然に予想される。そこで、その問題を回避するために上吹きランスから供給する粉状CaO源の比率を減少させ、別途塊状のCaO源を転炉上から投入する方法で供給することが考えられるが、そうするとその別途塊状で供給したCaO源の滓化が遅れて、脱燐不良やf.CaO増加の問題が発生してしまう。その対策として、取鍋スラグなどのAl源の供給量を増やすと、スラグがフォーミングし易くなってスロッピングが発生してしまうなどの問題が現われてくる。
【0008】
上記のように、溶銑脱燐処理の高能率かつ高脱燐能化に絡む問題は多く、相互に関係しているので、それらの問題の総合的解決は容易ではない。そこで、特許文献2に記載された発明では、先ず取鍋スラグなどを添加して溶銑上にカバースラグを生成させ、その後、上吹きランスから酸素と共に粉状CaO源を吹き付けることで、スピッティング量の低減に成功している。但し、この発明における上吹き酸素の流量は、溶銑1t当たり0.5〜2.5Nm/minが好適と説明されているので、或る程度の高能率化が達成されていることは分かるものの、この方法では本来の脱燐処理である粉体上吹き吹錬のための時間が制約を受けてしまっていて、さらに高能率化するための工夫の余地は残されているものと考えられる。
【0009】
また、特許文献2には、取鍋スラグをカバースラグ生成のために利用する方法は記載されているものの、酸素流量を高速化した場合の滓化促進やスロッピング防止と取鍋スラグの利用方法との関係については、記載も示唆もされていない。
【0010】
一方、特許文献3には、溶銑脱燐炉に溶銑を装入する前に0.05%程度の溶銑脱珪処理を行って適当量のカバースラグを予め生成させておく方法が記載されている。この方法により酸素上吹き時間を全部で9分間とし、その内で粉体CaOを伴わないカバースラグ生成処理時間を1分間に短縮した場合に、上吹き酸素流量が溶銑1t当たり1.4Nm/minでスピッティングは全く観察されなかったと説明されている。しかし、さらに酸素上吹き時間を短縮して溶銑脱燐処理を行う場合に関する課題や効果、並びにその課題の解決方法に関しては全く説明がなされてない。
【0011】
また、特許文献4には、スラグ塩基度(=質量比[%CaO/%SiO]、以下同様)を1.0以上2.5未満にしてCaO源の滓化を促進し、送酸速度を1.5〜5.0Nm/min/tにしてもスピッティングやダストの発生量増大を防ぐことができる溶銑脱燐処理方法が記載されている。その明細書では、単純にスラグ塩基度を低下させると脱燐能力が低下してしまうところ、送酸速度を高めてスラグの酸素ポテンシャルを高めることで脱燐能力を補うと説明しており、さらに粉粒状の精錬剤や固体酸素源を気体酸素と共に溶銑に吹き付けることで、脱燐反応を効率的に促進させられると説明している。つまり、この方法ではスラグの塩基度を下げる代わりにFeO濃度の上昇を図っているものと解される。
【0012】
しかしその方法では、低塩基度かつ高(T.Fe)スラグが形成されることでスラグのフォーミングを助長し、スロッピング頻度が増加する懸念がある。その上、粉状精錬剤を上吹きランスから酸素をキャリアガスとして溶銑に吹き付けて脱燐処理すると、特許文献2や3に記載されているようにスピッティングが増加する傾向があって何らかの工夫を必要とすると考えられるところ、特許文献4にはそのような工夫に関しては説明されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特許第3557910号
【特許文献2】特許第3687433号
【特許文献3】特許第4196997号
【特許文献4】特開第2008-266666号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従って本発明の目的は、以上のような従来技術の課題を解決し、スピッティングやダスト発生の抑制とスロッピング発生の抑制を両立して高速送酸処理を実現しつつ、さらに高脱燐能を得ることができる転炉型溶銑予備脱燐方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
スピッティングやダストの発生量を抑制しつつ送酸速度の増加を実現するためには、添加するCaO源の滓化を促進させるための対策が必要となってくる。
そこで本発明者らは、脱炭スラグ並びに取鍋スラグを添加しつつ、送酸速度2.5Nm/min/t以上とする試験を行って、その時添加した粉末状加炭剤と脱燐処理スラグの滓化・スピッティング・ダストの発生・スロッピング発生および脱燐結果との関係を調べ、次のように解明した。
【0016】
(1)脱燐処理時間(上吹き酸素の供給時間)中の早い段階で脱炭スラグまたは取鍋スラグを転炉内へ投入し、その後、サブランスから粉末状加炭剤を吹き付けることによって、加炭剤の燃焼熱がスラグに着熱し、早期に溶融スラグを形成する為、上吹き酸素供給中の全期間にわたって溶銑上にカバースラグを形成させることができ、スピッティングの発生を抑制することができる。
【0017】
(2)加炭剤を吹き込むことで過剰なスラグ中T.Feを還元し、T.Fe濃度を適切な範囲にコントロールする効果によって、スロッピングの発生を抑制することができる。
(3)最終的にスラグの滓化性を高位に保つことができ、そのCaO濃度とT.Fe濃度を適切な範囲にコントロールすることによって、溶銑中の燐濃度を十分低位にすることができる。
【0018】
このことから、本発明の要旨を次のように規定した。
(1)上底吹き型の転炉を用い、上吹き酸素を該転炉内の溶銑へ吹き付けて溶銑を脱燐処理する方法であって、脱燐処理中には上吹き酸素の供給速度を溶銑トン当たり2.5Nm/min以上4.0Nm/min以下とし、かつ、スラグ生成剤として脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を該転炉内に投入した後に、サブランスより粉末状加炭剤をC質量換算で1.5kg/t以上5.5kg/t以下吹き付けることを特徴とする溶銑の脱燐処理方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上吹き酸素流量2.5〜4.0Nm/min/tとすることで脱燐処理における上吹き酸素の供給時間を3.0〜5.0分と高能率化しても、スピッティングやダストの発生およびスロッピングの発生を抑制しつつ溶銑脱燐率90%以上が達成され、かつ、処理後のスラグ中未滓化CaO濃度が5質量%以下であるような、高能率かつ高効率の溶銑脱燐処理を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】上吹き酸素流量と脱燐率との関係に及ぼす、脱炭スラグと取鍋スラグ、並びに粉末状加炭剤の影響を表すグラフである。
【図2】上吹き酸素流量とスピッティングレベルとの関係に及ぼす、脱炭スラグと取鍋スラグ、並びに粉末状加炭剤の影響を表すグラフである。
【図3】上吹き酸素流量とスラグ中未滓化CaO濃度との関係に及ぼす、脱炭スラグと取鍋スラグ、並びに粉末状加炭剤の影響を表すグラフである。
【図4】調査条件Bにおける、加炭剤吹付け量とスラグ中未滓化CaO濃度との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、上吹きランスから酸素を溶銑トン当たり2.5Nm/min〜4.0Nm/minの流量で溶銑に吹き付ける。本発明では、上吹き酸素の吹付け時間を5分以下という短時間で行うことを目的としているので、粉末状の加炭剤の燃焼を考慮して、少なくとも溶銑トン当たり2.5Nm/min以上で安定して操業することができないと、この目標を達成することができないからである。しかし、それが4.0Nm/minを超えると、後述するように本発明をもってしてもスラグ生成コントロールが困難になり、脱燐率の低下やスピッティング・スロッピングの発生増大をきたして、安定操業を行うことができなくなる。
【0022】
また、本発明では、脱燐処理の早い段階で溶銑上にカバースラグを生成させ、かつ、別途供給するCaO源の溶融滓化を促進するために、スラグ生成剤として脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を投入する。
【0023】
この脱炭スラグは、溶銑脱燐処理の次工程である脱炭終了後に転炉内に残存したスラグであり、概ね表1に示す範囲の組成を有している。取鍋スラグは、連続鋳造終了後に取鍋内に残存したスラグであり、概ね表2に示す範囲の組成を有するものである。これらの表で濃度を示す%表示は全て質量%である。これらの組成の内、特にAl濃度とT.Fe濃度はスラグの融点を下げてその溶融性を高め、かつ、脱燐処理中の転炉内スラグの融点を低く維持するために重要である。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
脱炭スラグと取鍋スラグの投入目的の一つは早期に溶銑上にカバースラグを生成させることであるから、そのスラグ生成剤としての投入は、上吹き酸素の吹付け時間がその吹付け全時間の30%経過するまでに済ませることが好ましい。その投入方法は、スクラップシュートを用いて上吹き酸素の吹付けを開始する前に転炉内に一括して投入しても良いし、転炉の上に設置されたバンカーから上吹き酸素の吹付け中に転炉内に適宜分割投入しても良い。
【0027】
なお、脱炭スラグおよび取鍋スラグのサイズは、冷間スラグを破砕したものを用いてもよいが、スクラップシュートを用いて転炉内に熱間スラグを投入するのがスラグ滓化と熱ロス低減の点から好ましい。
【0028】
また、精錬用副原料として加炭剤の投入は転炉の上方に設置されたバンカーから投入する方法もあるが、加炭剤のサイズが大きく、上吹き酸素により溶銑奥深くまで攪拌されるため溶銑の炭素濃度を増加させ、熱源となる効果はあるものの、スラグに着熱し、滓化を促進する効果は得られない。そのため、加炭剤はサブランスから粉末状の加炭剤を吹き付ける必要がある。本発明における加炭の目的は添加CaO源の溶融滓化促進であるから、粉末状加炭剤を用いることはスラグ層中で極力COにまで燃焼させてスラグへの着熱効率を向上させるのに適している。そのため、加炭剤の添加位置(サブランスからの出口位置)は、溶銑浴面から1m以上離れたスラグ層内が好適である。加炭剤添加時期は、添加CaO源の滓化促進のために脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を投入した後に行う必要がある。それらのスラグの投入が添加CaO源の滓化促進を目的とすることを主として考えれば、加炭剤の添加は当該処理における脱炭スラグおよび取鍋スラグの投入完了後に行う方が、その目的達成のために一層好適といえる。
【0029】
また、加炭剤の種類は、炭素の質量濃度が85%以上のコークスや土壌黒鉛が適しており、その粒径は燃焼を速めるために1mm以下が良い。その添加量は、溶銑1t当たりC質量換算で1.5〜5.5kgとする必要がある。溶銑1t当たり1.5kg未満では炭剤が燃焼してスラグに着熱する効果が十分明らかにならず、一方、溶銑1t当たり5.5kgを超えるとその燃焼のために要する酸素量が多くなり過ぎてしまい、本発明のように短時間で脱燐処理を行う場合には適しておらず、また、スラグフォーミングやスラグの飛散による操業阻害の可能性が増大するからである。
【0030】
本発明では、上記した諸要件により、上吹き酸素の供給開始直後からカバースラグを溶銑上に生成させ、スピッティング・スロッピングの発生を抑制しつつ、3.0〜5.0分間と短い処理時間で溶銑脱燐率90%以上とし、さらに処理後スラグ中の未滓化CaO質量濃度が5%以下とする。
【0031】
そのため、スラグ組成としては、Al濃度を3〜10質量%かつT.Feを3〜15質量%とするのが望ましい。このようにスラグ組成をコントロールすることによって、CaO源の溶融滓化が容易になり、スピッティングを抑制する効果が期待できる。
【0032】
なお、上吹き酸素の吹付け終了時点の溶銑温度は、CaO源の溶融滓化を促進しスラグの反応性を高める意味では高めの方が良いが、一方、スラグの脱燐能力は低めの方が一般的に好ましいことがよく知られている。本発明では、CaO源の溶融滓化を促進しスラグの反応性を高めることを優先し、上吹き酸素の吹付け終了時点の溶銑温度を1350〜1400℃程度に制御することが好ましいといえる。
【実施例】
【0033】
本発明に係る脱炭スラグ、取鍋スラグの使用条件を、従来条件(脱炭スラグ、取鍋スラグを使用しない)、調査条件A(脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を使用)、調査条件B(脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を使用し、かつ、粉末状加炭剤として土壌黒鉛をC質量換算で0.5〜5.5kg/tサブランスより吹き付け)に大別して、上吹き酸素の流量を溶銑トン当たり1.3〜4.3Nm/minの範囲で比較し、本発明に係る発明特定要件の効果を確認した。
【0034】
この調査において共通する条件を、先にまとめて説明する。
高炉から出銑された溶銑約260tを適宜脱硫処理や脱珪処理した後、スクラップ約30tを粉状CaO供給機能を備えた上底吹き型転炉に装入し、続けてその溶銑をその転炉に装入した。その溶銑成分は、C:4.0〜4.8%、Si:0.15〜0.51%、Mn:0.20〜0.40%、P:0.090〜0.130%、S:0.003〜0.03%であった。
【0035】
溶銑を装入後に底吹きガスとしてNを溶銑トン当たり0.15〜0.25Nm/minの範囲で流しつつ転炉を正立させ、直ちに転炉内に上吹きランスを挿入して、上吹き酸素を溶銑トン当たり1.3〜4.3Nm/minの範囲で溶銑への吹付けを開始した。この酸素流量は、この調査ではそれぞれの処理中において一定とした。また、この上吹き酸素の吹付け開始と同時に、粒径0.1mm以下の粉状生石灰をその酸素と共に溶銑へ吹き付け始めた。その酸素の吹付けは、酸素流量に応じて2.6〜9.3分間で終了させ、それと同時に粉状生石灰の吹付けも終了した。
【0036】
この調査においては、脱燐処理に使用する副原料として、上記した粒径0.1mm以下の粉状生石灰並びに脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方のみを使用し、それ以外の副原料は使用しなかった。
【0037】
これらの投入量は、溶銑を含めた各使用原料の成分および使用量から、脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を使用する調査条件A,Bでは処理後のスラグ塩基度が1.5〜3.0であって、そのスラグ中Al濃度が3〜10質量%、かつ、T.Fe濃度が3〜15質量%の範囲になるように計算により決めた。一方、脱炭スラグおよび取鍋スラグのいずれをも使用しない従来条件では処理後のスラグ塩基度が1.5〜3.0であって、そのスラグ中T.Fe濃度が3〜15質量%の範囲になるように計算したが、Al濃度については調整対象から除外した。
【0038】
使用した脱炭スラグと取鍋スラグの化学組成は表1および表2に示したものと同じものを用いた。
この調査における各脱燐処理の具体的な条件とその処理結果を、表3に纏めて示す。
【0039】
【表3】

【0040】
この表に記載が無い、脱燐処理後のスラグ中Al濃度は、脱炭スラグ、取鍋スラグを使わなかった従来条件では1〜3質量%であり、脱炭スラグ、取鍋スラグを使った調査条件A,Bでは、いずれも3〜10質量%に制御されていた。また、スラグ中T.Fe濃度は3〜15質量%に、全て制御されていた。
【0041】
従来条件であるNo.1〜5では、上吹き酸素流量の増加に従って脱燐率が低下し、スピッティングが多くなり、ダスト発生量が増加していた。上吹き酸素流量の増加に従って処理後スラグの(f.CaO)が増加していたことから、CaO源の滓化が悪化していたことが分かる。また、この条件では上吹き酸素流量≧2.0Nm/min/tとなるとスロッピングが発生することが分かる。
【0042】
調査条件AであるNo.6〜10では、上吹き酸素流量1.4Nm/min/tの低い酸素流量時には脱燐率が高く、スピッティングも無く、ダスト発生量も少なかった。処理後スラグの(f.CaO)が低かったことから、CaO源の滓化が十分に進行していたことが分かる。しかし、従来条件と比べて上吹き酸素流量が同一の場合には概ね脱燐率が高く、スピッティングやダスト発生量も少ない傾向にはあったものの、酸素流量の増加により従来条件と同様な悪化傾向が確認された。特に、酸素流量が2.0Nm/min/t以上の場合にはスピッティングが激しいと共にスロッピングも発生し、操業に耐えられる状況では無かった。
【0043】
調査条件BであるNo.11〜20では、加炭剤上吹き量1.5kg/t以上5.5kg/t以下の範囲(No.13〜17)で従来条件よりも良好な成績であり、特に上吹き酸素流量が2.5Nm/min/tを超えても、それが3.9Nm/min/tまでは脱燐率、スピッティング、ダスト発生量が良好なレベルで維持されており、処理後スラグの(f.CaO)も低位に安定していた。但し、加炭剤添加量が1.5kg/t未満の場合(No.11および12)、精錬剤の溶融滓化が十分に進行せず、処理後スラグの(f.CaO)が増加し脱燐率は低位であった。また、加炭剤添加量が5.5kg/tより多い場合(No.18〜20)は、加炭量増大により必要な酸素量の増加が起こり、処理に5分以上要した。また、COガス発生量が多くなったため、処理中にスロッピングが発生し、操業の継続は困難であった(表3)。
【0044】
以上より上吹き酸素流量4.0Nm/min/t以下での溶銑脱燐処理が可能となり、上吹き酸素流量1.3Nm/min/tの場合と比べて処理時間5.0分の短縮が可能となった。
【0045】
次に、本発明に係る発明特定事項を満たしたことによる効果を、この表3に示した調査結果に基づいてグラフを併用して説明する。
【0046】
(1)脱燐率
脱燐率は次の式により表される。
脱燐率=100×(脱燐前[P]−脱燐後[P])÷脱燐前[P]
本発明は溶銑脱燐処理の高能率かつ高効率化を目的とするものであるから、処理時間が短く、かつ、脱燐率が十分に高いことが前提とも言える基本的事項である。
【0047】
溶銑脱燐処理に要する時間は、従来の知見に基づいて溶銑トン当たりの上吹き酸素流量により決まると分かっている。そこで、脱燐処理の対象とした溶銑トン当たりの上吹き酸素流量と脱燐率との関係を、上記した脱炭スラグ、取鍋スラグおよび粉末状加炭剤の調査条件のうち、従来条件と調査条件A並びに調査条件Bのうちで加炭剤吹付け量が1.5〜5.5kg/tであった調査条件B’で層別して図1に示す。
【0048】
本発明では上吹き酸素流量2.5Nm/min/t以上を目指しているところ、本発明に係る取鍋スラグ等の使用条件を全て満たしている調査条件B’において、上吹き酸素流量2.5Nm/min/t以上4.0Nm/min/t以下の範囲で、脱燐率が90%以上を維持できていたことが分かる。
【0049】
(2)スピッティング発生状況
脱燐処理時間を短縮するために上吹き酸素流量を増やすと、特に上吹き酸素と共に粉状CaO源を吹き付ける溶銑脱燐法において、スピッティングの増加が問題になり易い。本発明ではCaO源の溶融滓化を速めて短時間に脱燐し、かつ、処理後スラグに含まれる未滓化CaO濃度を低下させるために、粉状CaO源を上吹き酸素と共に溶銑に吹き付けることを基本にしているので、スピッティングの発生を抑制することが重要である。
【0050】
このスピッティングの発生状況は目視により判定できる。そこで、スピッティングにより飛散した粒鉄量を1から4の四段階(粒鉄飛散量の少ないほど数値は小さくなる。)に評価した。脱燐処理の対象とした溶銑トン当たりの上吹き酸素流量とスピッティングレベルとの関係を、上記した脱炭スラグ、取鍋スラグおよび粉末状加炭剤の調査条件で層別して図2に示す。
【0051】
本発明では上吹き酸素流量2.5Nm/min/t以上を目指しているところ、本発明に係る取鍋スラグ等の使用条件を全て満たしている調査条件B’において、上吹き酸素流量2.5Nm/min/t以上4.0Nm/min/t以下の範囲で、スピッティングレベルが1であったことが分かる。
【0052】
(3)処理後スラグ中の未滓化CaO濃度
本発明は、処理時間が短く、かつ、脱燐率が十分に高いことが基本的事項であるが、そのために必要なCaO量が増加したり、投入したCaOが処理後スラグに未反応のまま残されたりしたのでは、効率的な脱燐処理とは言えない。また、処理後スラグ中の未滓化CaO濃度が5質量%を超えると、そのスラグを土木材料などに利用しようとする際に困難が生じ、スラグ処理まで含めた脱燐処理全体としての効率が下がり、コストが上昇してしまう。
【0053】
そこで、脱燐処理の対象とした溶銑トン当たりの上吹き酸素流量と処理後スラグ中の未滓化CaO濃度との関係を、上記した脱炭スラグ、取鍋スラグおよび粉末状加炭剤の調査条件で層別して図3に示す。
【0054】
本発明では上吹き酸素流量2.5Nm/min/t以上を目指しているところ、本発明に係る取鍋スラグ等の使用条件を全て満たしている調査条件B’において、上吹き酸素流量2.5Nm/min/t以上4.0Nm/min/t以下の範囲で、未滓化CaOの質量濃度が5%以下であったことが分かる。
【0055】
(4)加炭剤の適正使用量
本発明では、脱燐処理時間中の早い段階で脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を転炉内へ投入し、その後、サブランスから粉末状加炭剤を吹き付けることによって、加炭剤の燃焼熱をスラグに着熱させ、早期に溶融スラグを形成させて、供給速度が2.5〜4.0Nm/min/溶銑tonという上吹き酸素供給中のスピッティングの発生を抑制する。
【0056】
さらに、加炭剤を吹き込むことで過剰なスラグ中T.Feを還元し、T.Fe濃度を適切な範囲にコントロールする効果によって、スロッピングの発生を抑制する。
それと同時に、最終的にスラグの滓化性を高位に保つことができ、そのCaO濃度とT.Fe濃度を適切な範囲にコントロールすることによって、溶銑中の燐濃度を十分低位にすることができるのである。
【0057】
但し、図4に示すように、加炭剤添加量が1.5kg/t未満の場合、精錬剤の溶融滓化促進効果が十分には発揮されず、処理後スラグの(f.CaO)が増加していた。このため、脱燐率は低位であった(No.11および12)。
【0058】
一方、加炭剤添加量が5.5kg/tより多い場合は、加炭量増大によりその酸化に必要な酸素供給量の増加が起こり、上吹き酸素流量2.5Nm/min/t以上4.0Nm/min/t以下の条件を満たした条件においても、脱燐処理に5分以上要した。また、COガス発生量が多くなったため、処理中にスロッピングが発生し、操業の継続は困難であった(No.18〜20)。
【0059】
したがって、本発明においては、脱燐処理時間中の早い段階で脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を所定の処理後スラグ成分を満足させるように転炉内へ投入し、その後、サブランスから粉末状加炭剤を1.5〜5.5kg/tの範囲内で吹き付けることが重要なのである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上底吹き型の転炉を用い、上吹き酸素を該転炉内の溶銑へ吹き付けて溶銑を脱燐処理する方法であって、
脱燐処理中には上吹き酸素の供給速度を溶銑トン当たり2.5Nm/min以上4.0Nm/min以下とし、
かつ、
スラグ生成剤として脱炭スラグおよび取鍋スラグの少なくとも一方を該転炉内に投入した後に、
サブランスより粉末状加炭剤をC質量換算で1.5kg/t以上5.5kg/t以下吹き付けることを特徴とする溶銑の脱燐処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−246743(P2011−246743A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−118640(P2010−118640)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】