説明

溶銑の脱燐処理方法

【課題】 バーナ機能により脱燐精錬剤を加熱しつつ溶銑に吹付けて溶銑を脱燐処理するにあたり、添加した冷鉄源を所定の脱燐処理時間の期間で溶解する。
【解決手段】 底吹き羽口7から攪拌用ガス28を吹込んで溶銑26を攪拌しながら、上吹きランス3の中心孔から不活性ガスと共に石灰系脱燐精錬剤29を溶銑に吹付けると同時に、中心孔の周囲に配置した燃料噴射孔から燃料を供給し且つ燃料噴射孔の周囲に配置した燃料燃焼用酸素ガス噴射孔から酸素ガスを供給して火炎を形成し、該火炎によって脱燐精錬剤を加熱すると共に、燃料燃焼用酸素ガス噴射孔の外側に配置した3孔以上の周囲孔から酸素ガスを溶銑に供給して、5〜30質量%の配合比率の冷鉄源が装入された溶銑を脱燐する脱燐処理方法であって、攪拌用ガスの流量Qを冷鉄源の配合比率Xに応じて(1)式を用いて求め、求めたガス流量以上の攪拌用ガスを吹込んで脱燐する。
Q=0.02×(X−5)+0.10…(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上吹きランスから酸素ガス及び石灰系脱燐精錬剤を溶銑に吹き付けて転炉内の溶銑を予備脱燐処理する方法に関し、詳しくは、上吹きランス先端に設置したバーナーによって前記脱燐精錬剤を加熱し、加熱した脱燐精錬剤及びバーナー火炎により溶銑に熱を供給し、供給した熱によって鉄源として溶銑に添加された冷鉄源を溶解しながら溶銑を予備脱燐処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高純度鋼のニーズの上昇、及び、製鋼スラグの発生量低減の観点から、溶銑の予備脱燐処理が広く行われている。溶銑の予備脱燐処理は、一般的に、溶銑に酸素ガスや鉄鉱石などの酸素源を供給し、酸素源中の酸素によって溶銑中の燐を酸化してP25とし、このP25を、滓化した石灰系脱燐精錬剤によって生成されるスラグ中に吸収させることで行われている。また、鉄鋼製造プロセスにおけるCO2排出量削減の観点から、還元工程を必要としない冷鉄源の使用量増加が求められており、溶銑の脱燐工程及び転炉での溶銑の脱炭精錬工程においては、冷鉄源の使用比率向上が指向されている。
【0003】
しかし一方では、溶銑の予備脱燐処理及び脱炭精錬などの精錬工程における生産性の維持または向上が求められており、これに対処するべく、冷鉄源を添加した上で予備脱燐処理を迅速に行う方法が幾つか提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、上下吹き機能を有する転炉に装入した溶銑に石灰系の脱燐精錬剤を添加し、底吹きガス攪拌を行いつつ酸素ガスを上吹きして予備脱燐を行うにあたり、先ず前記脱燐精錬剤の一部と鉄スクラップ及び炭材とを溶銑に添加して酸素ガスを上吹きし、鉄スクラップを溶解(鉄スクラップ溶解期)し、その後、残部の脱燐精錬剤を添加して脱燐精錬期に移行する、溶銑の脱燐方法が提案されている。
【0005】
特許文献2には、溶銑に対して配合比率15質量%以下の冷鉄源の完全溶解を目的とする冷鉄源溶解装置を用い、冷鉄源溶解期においては、底吹きガス流量0.2Nm3/(min・溶銑t)以上の冷鉄源溶解のための強撹拌下で、底吹き羽口或いは浸漬ランスから、脱珪反応及び脱燐反応を進行させるために必要十分な量の固体酸素源を溶銑中に供給し、脱珪反応完了後の溶銑表面に生成するスラグの塩基度が1.5〜2.5になるように調整した石灰系脱燐精錬剤を、脱珪反応が完了するまでに添加し、上吹き酸素ガスは、冷鉄源の溶解と固体酸素源の分解反応による吸熱とを保障しつつ、冷鉄源溶解期中の鉄浴温度が1300〜1350℃になるために必要な量だけ供給され、冷鉄源の溶解が完了した後、脱燐反応が完了するまでの期間中は、上吹き酸素ガスの供給量を、スラグ中のT.Feが5質量%以下にならないために必要な量まで低下し、脱燐処理中の脱炭量を最少限度に抑えることを特徴とする、冷鉄源溶解処理時における同時脱燐処理方法が提案されている。
【0006】
特許文献3には、上吹きランスと底吹き羽口を有する転炉形式の酸素精錬設備を用い、前記上吹きランスから酸素ガスを供給するとともに、前記底吹き羽口からの吹き込みガスにより溶銑のガス撹拌を行うことによって冷鉄源を溶解しながら溶銑の脱燐処理を行う予備精錬方法であって、前記底吹き羽口から供給するガス流量を0.1〜0.3Nm3/(min・溶銑t)として溶銑を撹拌するとともに、予備精錬の初期から中期にかけては、「0.20≦L/L0≦0.30(L:酸素ジェットによる鉄浴表面のへこみ深さ(m)、L0:酸素ガス供給前の鉄浴深さ(m))」なる式を満足するように、前記上吹きランスから鉄浴表面に酸素ガスを供給することを特徴とする予備精錬方法が提案されている。特許文献3においては、溶銑に対する冷鉄源の配合比率は15質量%を上限とすることが望ましいとしている。
【0007】
また、特許文献4には、脱燐処理時に冷鉄源を溶解することは規定していないが、石灰系脱燐精錬剤の滓化を促進させることによって脱燐反応を促進させる方法として、塩基度(CaO/SiO2)が1.5〜5.0の範囲である粉粒状の脱燐精錬剤を、上吹きランスの中心孔から酸素含有ガスを搬送用ガスとして溶銑に吹き付けると同時に、前記中心孔の周囲に配置した第1の周囲孔から炭化水素系のガス燃料または液体燃料の何れか1種類以上を供給して火炎を形成し、該火炎によって前記脱燐精錬剤を加熱・溶融するとともに、前記第1の周囲孔の外側に配置した第2の周囲孔から酸素含有ガスを溶銑に吹き付けて溶銑を脱燐する方法が提案されている。また、特許文献4の実施例には、転炉炉底部の底吹き羽口から窒素ガスを0.05〜0.15Nm3/(min・溶銑t)の供給量で吹き込んで溶銑を攪拌しながら、脱燐処理すること、つまり、上底吹き機能を有する転炉容器において、上吹きから精練用酸素の他に燃料ガス、燃料燃焼用酸素ガス、粉状脱燐剤を供給することにより、精練剤の溶融を促進し、更にスラグ組成を制御することで溶銑脱燐反応を促進させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−316409号公報
【特許文献2】特開平7−188722号公報
【特許文献3】特開平8−104912号公報
【特許文献4】特開2007−92158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
溶銑の脱燐処理時に冷鉄源を溶解しつつ効率的な脱燐処理を行うことを目的とした観点から上記従来技術を検証すれば、上記従来技術には以下の問題点がある。
【0010】
即ち、特許文献1は、処理工程を、冷鉄源を溶解する冷鉄源溶解工程と脱燐精錬を行う脱燐精錬工程とに分け、冷鉄源溶解工程を経た後に脱燐精錬工程に移行しており、全体の精錬時間が長くなり、生産性の低下を招くという問題点がある。また、冷鉄源溶解用の熱源として、特許文献1は、炭材の燃焼熱を利用しているが、炭材が溶銑中に溶解するためには顕熱と浸炭熱とが必要であり、炭材を熱源とする場合には、二次燃焼までを含めた燃料としての利用率は30%程度と低く、冷鉄源の溶解速度は速いとはいえない。
【0011】
特許文献2は、特許文献1と同様に、処理工程を、冷鉄源を溶解する冷鉄源溶解工程と脱燐精錬を行う脱燐精錬工程とに分け、冷鉄源溶解工程を経た後に脱燐精錬工程に移行しており、全体の精錬時間が長くなるという問題点がある。また、特許文献2では、冷鉄源溶解用の熱源として、脱珪反応及び脱炭反応の酸化反応熱を利用しており、冷鉄源溶解用の熱の供給が十分とはいえず、冷鉄源の溶解速度は速いとはいえない。この場合、冷鉄源溶解のために脱炭反応を過剰に発生させると、溶銑の熱余裕度が低くなって次工程の転炉脱炭精錬工程が損なわれるという問題も発生する。
【0012】
特許文献3は、冷鉄源を溶解しつつ溶銑の脱燐処理を実施しており、特許文献1及び特許文献2に比較すると効率的であるが、冷鉄源溶解用の熱源として、脱珪反応及び脱炭反応の酸化反応熱を利用しており、特許文献2と同様の問題点がある。
【0013】
また、特許文献1〜3は、底吹きガス攪拌を行うことによって冷鉄源の溶解を促進させているが、底吹き攪拌用ガス流量を、特許文献1は0.03〜0.3Nm3/(min・溶銑t)とし、特許文献2は0.2Nm3/(min・溶銑t)以上とし、特許文献3は0.1〜0.3Nm3/(min・溶銑t)としており、攪拌用の底吹きガスとしてどの程度の流量が適切であるかは記載していない。更に、冷鉄源の装入量に応じて底吹きガス流量を変更することが必要か否かも記載していない。
【0014】
特許文献4は、鉄源として鉄スクラップを配合可能と記載しているが、冷鉄源の溶解を前提にしておらず、積極的に冷鉄源を溶解する技術ではなく、また、上吹きランス先端のバーナー火炎によって脱燐精錬剤を加熱するが、脱燐精錬剤を加熱することで、鉄スクラップの溶解が促進されるなどということは記載していない。また、攪拌用の底吹きガス流量を0.05〜0.15Nm3/(min・溶銑t)としており、特許文献1〜3と同様に、攪拌用の底吹きガスとしてどの程度の流量が適切であるかは記載していない。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、バーナー機能を有する上吹きランスを用い、バーナー機能により石灰系脱燐精錬剤を加熱しながら溶銑浴面に向けて吹き付け添加するとともに、酸素ガスを溶銑浴面に向けて吹き付けて脱燐処理するにあたり、鉄源として添加した冷鉄源を所定の脱燐処理時間の期間に溶解することのできる、溶銑の脱燐処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明に係る溶銑の脱燐処理方法は、転炉底部の底吹き羽口から攪拌用ガスを吹き込んで転炉内の溶銑を攪拌しながら、上吹きランスの軸心部に配置した中心孔から不活性ガスを搬送用ガスとして石灰系脱燐精錬剤を前記溶銑に吹き付けると同時に、中心孔の周囲に配置した円環状に開口する燃料噴射孔からガス燃料または液体燃料の何れか1種類以上の燃料を供給し且つ燃料噴射孔の周囲に配置した円環状に開口する燃料燃焼用酸素ガス噴射孔から酸素ガスを供給し、該酸素ガスで前記燃料を燃焼させて火炎を形成して該火炎によって前記脱燐精錬剤を加熱するとともに、燃料燃焼用酸素ガス噴射孔の外側に配置した3孔以上の周囲孔から酸素ガスを溶銑に吹き付けて、全装入鉄源に対して5〜30質量%の配合比率の冷鉄源が装入された溶銑を脱燐する、溶銑の脱燐処理方法であって、前記攪拌用ガスの流量を冷鉄源の全装入鉄源に対する配合比率に応じて下記の(1)式を用いて求め、求めたガス流量以上の攪拌用ガスを吹き込んで脱燐処理することを特徴とする。
Q=0.02×(X−5)+0.10…(1)
但し、(1)式において、Qは、底吹き羽口から吹き込む攪拌用ガスの流量(Nm3/(min・溶銑t))、Xは、冷鉄源の全装入鉄源に対する配合比率(質量%)である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、全装入鉄源に対して5〜30質量%の配合比率の冷鉄源を配合した溶銑を脱燐処理するにあたり、冷鉄源の配合比率に応じて底吹き攪拌用ガスの流量を求め、求めた流量以上の攪拌用ガスを吹き込んで脱燐処理するので、脱燐処理時間を延長することなく、脱燐処理時間内に装入した冷鉄源を溶解することが可能となり、大幅な生産性の向上が達成されるのみならず、CO2排出量削減にも貢献し、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る溶銑の脱燐処理方法を実施する際に用いる転炉設備の1例を示す概略断面図である。
【図2】図1に示す上吹きランスの概略拡大断面図である。
【図3】冷鉄源の溶解状況に及ぼす冷鉄源配合比率と底吹き攪拌用ガス流量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0020】
本発明に係る脱燐処理で用いる溶銑は、高炉などの溶銑製造設備で製造された溶銑であり、溶銑製造設備で製造された溶銑を、溶銑鍋、トピードカーなどの溶銑搬送容器で受銑し、この溶銑を、予備脱燐処理を実施する転炉設備に搬送する。少ない石灰系脱燐精錬剤の使用量で効率的に脱燐処理するために、脱燐処理前に溶銑中の珪素を予め除去(「溶銑の脱珪処理」という)することが好ましい。脱珪処理を行う場合には、溶銑の珪素含有量を0.20質量%以下、望ましくは0.10質量%以下まで低減させることが好ましい。溶銑の珪素含有量をこの範囲まで下げる手段としては、溶銑に酸素ガスまたは酸化鉄などの酸素源を供給し、これらの酸素源によって溶銑中の珪素を酸化させ、珪素を酸化物として強制的に除去する方法を用いることができる。脱珪処理を実施した場合には、脱珪処理時に生成したスラグを脱燐処理の前までに排滓する。
【0021】
このようにして得た溶銑に対して転炉設備を用いて本発明による脱燐処理を施す。脱燐処理は、溶銑鍋またはトピードカーなどの溶銑搬送容器内で行うこともできるが、これらの溶銑搬送容器に比べてフリーボードが大きく、溶銑を強攪拌することが可能であり、冷鉄源の溶解能力が高いのみならず、少ない脱燐精錬剤の使用量で迅速に脱燐処理を行うことができることから、本発明においては、転炉設備を使用して予備脱燐処理を実施する。図1は、本発明に係る溶銑の脱燐処理方法を実施する際に用いる転炉設備の1例を示す概略断面図、図2は、図1に示す上吹きランスの概略拡大断面図である。
【0022】
図1に示すように、本発明で用いる転炉設備1は、その外殻を鉄皮4で構成され、鉄皮4の内側に耐火物5が施行された炉本体2と、この炉本体2の内部に挿入され、上下方向に移動可能な上吹きランス3とを備えている。炉本体2の上部には、脱燐処理終了後の溶銑26を出湯するための出湯口6が設けられ、また、炉本体2の炉底部には、撹拌用ガス28を吹き込むための複数の底吹き羽口7が設けられている。この底吹き羽口7はガス導入管8と接続されている。
【0023】
上吹きランス3には、窒素ガス、Arガスなどの不活性ガスとともに石灰系の脱燐精錬剤29を供給するための脱燐精錬剤供給管9と、プロパンガス、天然ガス、コークス炉ガスなどのガス燃料、或いは、重油、灯油などの炭化水素系の液体燃料を供給するための燃料供給管10と、供給した燃料を燃焼する酸素ガスを供給するための燃料燃焼用酸素ガス供給管11と、脱燐精錬用の酸素ガスを供給するための精錬用酸素ガス供給管12と、上吹きランス3を冷却するための冷却水を供給・排出するための冷却水給排水管(図示せず)とが、接続されている。
【0024】
脱燐精錬剤供給管9の他端は、石灰系の脱燐精錬剤29を収容したディスペンサー13に接続され、また、ディスペンサー13は精錬剤搬送用ガス供給管9Aに接続されており、精錬剤搬送用ガス供給管9Aを通ってディスペンサー13に供給された不活性ガスが、ディスペンサー13に収容された脱燐精錬剤29の搬送用ガスとして機能し、ディスペンサー13に収容された脱燐精錬剤29は脱燐精錬剤供給管9を通って上吹きランス3に供給され、上吹きランス3の先端から溶銑26に向けて吹き付けることができるようになっている。図1では、脱燐精錬剤29の搬送用ガスとして窒素ガスの例を示している。
【0025】
上吹きランス3は、図2に示すように、円筒状のランス本体14と、このランス本体14の下端に溶接などにより接続された銅製のランスチップ15とで構成されており、ランス本体14は、最内管20、仕切り管21、内管22、中管23、外管24、最外管25の同心円状の6種の鋼管、即ち六重管で構成されている。脱燐精錬剤供給管9は最内管20に連通し、燃料供給管10は仕切り管21に連通し、燃料燃焼用酸素ガス供給管11は内管22に連通し、精錬用酸素ガス供給管12は中管23に連通し、冷却水給排水管は外管24及び最外管25に連通しており、従って、脱燐精錬剤29が搬送用ガスとともに最内管20の内部を通り、プロパンガスや重油などの燃料が最内管20と仕切り管21との間隙を通り、燃料燃焼用酸素ガスが仕切り管21と内管22との間隙を通り、精錬用酸素ガスが内管22と中管23との間隙を通り、中管23と外管24との間隙及び外管24と最外管25との間隙は、冷却水の給排水流路となっている。
【0026】
最内管20の内部は、ランスチップ15のほぼ軸心位置に配置された中心孔16と連通し、最内管20と仕切り管21との間隙は、中心孔16の周囲に円環状に開口する燃料噴射孔17と連通し、仕切り管21と内管22との間隙は、燃料噴射孔17の周囲に円環状に開口する燃料燃焼用酸素ガス噴射孔18と連通し、内管22と中管23との間隙は、燃料燃焼用酸素ガス噴射孔18の周辺に複数個設置された周囲孔19と連通している。中心孔16は、脱燐精錬剤29を搬送用ガスとともに吹き付けるためのノズル、燃料噴射孔17は、燃料を噴射するためのノズル、燃料燃焼用酸素ガス噴射孔18は、燃料を燃焼する酸素ガスを噴射するためのノズル、周囲孔19は、脱燐精錬用の酸素ガスを吹き付けるためのノズルである。尚、図2において、中心孔16はストレート形状を採っているが、その断面が縮小する部分と拡大する部分の2つの円錐体で構成されるラバールノズルの形状としてもよい。その逆に、周囲孔19はラバールノズルの形状を採っているが、ストレート形状であってもよい。燃料噴射孔17及び燃料燃焼用酸素ガス噴射孔18は円環のスリット状に開口するストレート型のノズルである。
【0027】
このような構成の転炉設備1を用い、溶銑26に対して以下に示すようにして本発明に係る脱燐処理を実施する。
【0028】
先ず、炉本体2の内部へ冷鉄源を装入する。使用する冷鉄源としては、冷銑、還元鉄、製鉄所で発生する鋳片及び鋼板のクロップ屑や市中屑、更には、磁力選別によってスラグから回収した地金などを使用することができる。冷鉄源の配合比率は、装入する全鉄源に対して5〜30質量%の範囲内とする(冷鉄源の配合比率(質量%)=[冷鉄源配合量/(溶銑配合量+冷鉄源配合量)]×100)。冷鉄源の配合比率が5質量%未満では、生産性向上の効果が少なく、一方、冷鉄源の配合比率が30質量%を超えると脱燐処理時間内では冷鉄源を溶解できない場合が発生する、つまり生産性が低下するからである。
【0029】
そして、冷鉄源の配合比率に応じて、下記の(1)式を用いて底吹き羽口7から吹き込む攪拌用ガス28の流量を算出し、冷鉄源の装入が完了したならば、算出したガス流量値またはそれ以上の流量で、攪拌用ガス28の底吹き羽口7からの吹き込みを開始する。
Q=0.02×(X−5)+0.10…(1)
但し、(1)式において、Qは、底吹き羽口7から吹き込む攪拌用ガス28の流量(Nm3/(min・溶銑t))、Xは、冷鉄源の全装入鉄源に対する配合比率(質量%)である。攪拌用ガス28としては、窒素ガスやArガスを使用することができる。
【0030】
所定量の冷鉄源を装入し、攪拌用ガス28の流量が所定量になったなら、その状態を維持しつつ、炉本体2の内部へ溶銑26を装入する。用いる溶銑26としてはどのような組成であっても処理することができ、脱燐処理の前に脱硫処理や脱珪処理が施されていてもよい。因みに、脱燐処理前の溶銑26の主な化学成分は、炭素:3.8〜5.0質量%、珪素:0.3質量%以下、燐:0.08〜0.2質量%、硫黄:0.05質量%以下程度である。但し、脱燐処理時に炉本体2で生成されるスラグ27の量が多くなると脱燐効率が低下するので、前述したように、炉内のスラグ量を少なくして脱燐効率を高めるために、脱珪処理により、溶銑中の珪素濃度を予め低減しておくことが好ましい。また、溶銑温度は1200〜1350℃の範囲であれば問題なく脱燐処理することができる。
【0031】
次いで、ディスペンサー13に不活性ガスを供給し、脱燐精錬剤29を上吹きランス3の中心孔16から不活性ガスを搬送用ガスとして溶銑26の浴面に向けて吹き付ける。脱燐精錬剤29の吹き付けと同時に、上吹きランス3の燃料噴射孔17から燃料を供給するとともに燃料燃焼用酸素ガス噴射孔18から酸素ガスを供給し、供給する燃料を燃料燃焼用酸素ガス噴射孔18から供給する酸素ガスによって燃焼させて上吹きランス3の先端部に火炎を形成する。脱燐精錬剤29は、形成される火炎の熱を受けて加熱・溶融し、加熱・溶融した状態で溶銑26の浴面に吹き付けられる。その際に、上吹きランス3の周囲孔19からは脱燐精錬用の酸素ガスを溶銑26の浴面に向けて吹き付ける。
【0032】
溶銑浴面に吹き付けられた脱燐精錬剤29は直ちに滓化してスラグ27を形成し、また、供給された脱燐精錬用の酸素ガスと溶銑中の燐とが反応してP25が形成される。攪拌用ガスによって溶銑26とスラグ27とが強攪拌されることも相まって、形成したP25が滓化したスラグ27に迅速に吸収されて、溶銑26の脱燐反応が速やかに進行する。また、脱燐精錬剤29は加熱・溶融しており、その熱が溶銑26に伝達し、更には、溶銑26の上方に存在する、上吹きランス先端の火炎の燃焼熱が溶銑26に伝達することから、溶銑26が激しく攪拌されることも相まって、溶銑中の冷鉄源の溶解が促進される。即ち、脱燐処理の期間中に装入した冷鉄源の溶解が終了する。
【0033】
その後、溶銑26の燐濃度が目的とする値かそれ以下になったなら、上吹きランス3からの全ての供給を停止して、脱燐処理を終了する。
【0034】
使用する石灰系の脱燐精錬剤29としては、生石灰(CaO)単独、或いは、生石灰にアルミナや蛍石を添加したものを使用することができるが、本発明においてはバーナー火炎による加熱・溶融によって石灰(CaO)の滓化性を十分確保できるため、アルミナや蛍石を混合する必要はない。また、酸素源である酸化鉄(鉄鉱石、ミルスケール、鉄鉱石の焼結鉱粉など)を生石灰に混合することも可能である。酸化鉄は溶銑中の燐を酸化するのみならず、石灰と反応して脱燐に最適な化合物(スラグ)を形成する。また更に、溶銑の脱炭吹錬工程で生成する転炉スラグ(CaO−SiO2系スラグ)を脱燐精錬剤29の全部または一部として使用することもできる。
【0035】
脱燐処理時の酸素源が気体の酸素ガスのみでは溶銑温度が上昇し過ぎて脱燐反応が阻害される場合もあるので、必要に応じてミルスケールや鉄鉱石などの固体の酸化鉄を添加してもよい。これらの添加量は、溶銑中の珪素濃度、燐濃度、炭素濃度などに応じて適宜変更することができる。
【0036】
以上説明したように、本発明によれば、全装入鉄源に対して5〜30質量%の配合比率の冷鉄源を配合した溶銑26を脱燐処理するにあたり、冷鉄源の配合比率に応じて攪拌用ガス28の流量を求め、求めた流量以上の攪拌用ガス28を吹き込んで脱燐処理するので、脱燐処理時間を延長することなく、脱燐処理時間内に装入した冷鉄源を溶解することが可能となり、大幅な生産性の向上が達成される。
【実施例1】
【0037】
溶銑の脱燐処理において、冷鉄源の溶解と溶銑の脱燐処理とを同時に行うことのできる条件を明確にするために、図1に示す転炉設備を用いて、冷鉄源の配合比率及び底吹き羽口から吹き込む攪拌用ガスの流量を変化させ、冷鉄源の溶解状況及び溶銑の脱燐反応状況を調査する試験を行った。脱燐処理時間は全ての試験で10分間とした。
【0038】
上吹きランス先端に形成するバーナー火炎の燃料としてプロパンガスを使用し、プロパンガスの供給原単位は、冷鉄源の配合比率に応じて変化させた。即ち、バーナー火炎を形成するためのプロパンガスの供給原単位は、冷鉄源の配合比率が10質量%未満の場合は1.0Nm3/溶銑tの一定とし、冷鉄源の配合比率が10〜30質量%の範囲は、下記の(2)式で算出される値とした。
プロパン供給原単位(Nm3/溶銑t)=(X/5)−1.0…(2)
但し、(2)式において、Xは、冷鉄源の全装入鉄源に対する配合比率(質量%)である。
【0039】
通常、溶銑の脱燐吹錬中に生じる、脱炭、脱珪、脱燐反応の酸化熱により冷鉄源配合率5質量%程度分の熱補償が可能である。プロパンガスを使用した場合には、プロパンガスの発熱量は24,000Kcal/Nm3であり、1.0Nm3/溶銑tの使用により冷鉄源約4〜5質量%分の熱補償ができる。但し、冷鉄源溶解に必要な熱供給を有効に作用させるために、底吹きガスによる攪拌が重要となる。
【0040】
プロパンガス燃焼用の酸素ガスは、プロパンガスを完全に燃焼させるべく、プロパンガス流量の5倍の流量とした。表1に、その他の脱燐処理条件を示す。
【0041】
【表1】

【0042】
先ず、冷鉄源の配合比率が5質量%のときに未溶解の冷鉄源が発生しない条件を調査した結果、攪拌用ガスの流量を0.10Nm3/(min・溶銑t)以上確保する必要のあることが分った。
【0043】
この条件を基準とし、冷鉄源の配合比率を5〜30質量%、底吹きの攪拌用ガス流量を0.05〜0.65Nm3/(min・溶銑t)として試験した結果、図3に示すように、未溶解の冷鉄源が発生しない条件として、底吹きの攪拌用ガス流量を、冷鉄源の配合比率に応じて、前述した(1)式で算出される値以上にする必要のあることが分った。尚、図3は、冷鉄源の溶解状況に及ぼす冷鉄源配合比率と底吹き攪拌用ガス流量との関係を示す図である。
【0044】
即ち、冷鉄源の未溶解を防止するためには、冷鉄源の配合比率に応じて(1)式で算出される値以上のガス流量で溶銑を底吹き攪拌する必要のあることが分った。尚、冷鉄源の未溶解が発生しない条件下においては、脱燐処理後の溶銑中燐濃度は0.015質量%以下に安定して低下していた。
【実施例2】
【0045】
図1に示す転炉設備を用い、表2に示す6水準の条件でそれぞれ100チャージ、溶銑の脱燐処理を実施した。脱燐処理のその他の条件は実施例1に準じた。脱燐処理後、溶銑の燐濃度を化学分析によって調査するとともに、溶銑の転炉からの出湯時に、冷鉄源の未溶解が発生しているか否かを全ての試験で調査した。表2に調査結果を併せて示す。尚、表2に示す処理後の溶銑中燐濃度は、100チャージの平均値を示している。
【0046】
【表2】

【0047】
表2に示すように、水準4〜6の本発明例においては、冷鉄源の未溶解は発生せず、処理後の溶銑中燐濃度(平均値)は0.015質量%以下であった。これに対して底吹きの攪拌用ガス流量が本発明の範囲未満である水準1〜3の比較例では、半数以上のチャージで冷鉄源の未溶解が発生し、処理後の溶銑中燐濃度(平均値)は0.020質量%以上であった。
【符号の説明】
【0048】
1 転炉設備
2 炉本体
3 上吹きランス
4 鉄皮
5 耐火物
6 出湯口
7 底吹き羽口
8 ガス導入管
9 脱燐精錬剤供給管
10 燃料供給管
11 燃料燃焼用酸素ガス供給管
12 精錬用酸素ガス供給管
13 ディスペンサー
14 ランス本体
15 ランスチップ
16 中心孔
17 燃料噴射孔
18 燃料燃焼用酸素ガス噴射孔
19 周囲孔
20 最内管
21 仕切り管
22 内管
23 中管
24 外管
25 最外管
26 溶銑
27 スラグ
28 撹拌用ガス
29 脱燐精錬剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
転炉底部の底吹き羽口から攪拌用ガスを吹き込んで転炉内の溶銑を攪拌しながら、上吹きランスの軸心部に配置した中心孔から不活性ガスを搬送用ガスとして石灰系脱燐精錬剤を前記溶銑に吹き付けると同時に、中心孔の周囲に配置した円環状に開口する燃料噴射孔からガス燃料または液体燃料の何れか1種類以上の燃料を供給し且つ燃料噴射孔の周囲に配置した円環状に開口する燃料燃焼用酸素ガス噴射孔から酸素ガスを供給し、該酸素ガスで前記燃料を燃焼させて火炎を形成して該火炎によって前記脱燐精錬剤を加熱するとともに、燃料燃焼用酸素ガス噴射孔の外側に配置した3孔以上の周囲孔から酸素ガスを溶銑に吹き付けて、全装入鉄源に対して5〜30質量%の配合比率の冷鉄源が装入された溶銑を脱燐する、溶銑の脱燐処理方法であって、前記攪拌用ガスの流量を冷鉄源の全装入鉄源に対する配合比率に応じて下記の(1)式を用いて求め、求めたガス流量以上の攪拌用ガスを吹き込んで脱燐処理することを特徴とする、溶銑の脱燐処理方法。
Q=0.02×(X−5)+0.10…(1)
但し、(1)式において、Qは、底吹き羽口から吹き込む攪拌用ガスの流量(Nm3/(min・溶銑t))、Xは、冷鉄源の全装入鉄源に対する配合比率(質量%)である。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−31452(P2012−31452A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170300(P2010−170300)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】