説明

滑り軸受およびあそびのない滑り軸受配置

本発明は、軸受ハウジング(1)と、軸受ハウジング(1)内に挿入された軸受スリーブ(2)とを有し、その場合に軸受スリーブ(2)が軸方向に開放されている、滑り軸受に関する。本発明に基づく滑り軸受は、軸受ハウジング(1)が、軸方向に開放されていることを、特徴としている。さらに、本発明は、上述した滑り軸受を使用し、かつ軸(3)を有する滑り軸受配置に関するものであり、その場合に軸受スリーブ(2)と軸受ハウジング(1)が拡幅するように、軸(3)が軸受スリーブ(2)内へ過剰寸法で挿入されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受ハウジングと軸受ハウジング内へ挿入された軸受スリーブとを有し、その場合に軸受スリーブが軸方向に開放されている、滑り軸受に関する。さらに、本発明は、定義されて調節されたトルクを有するあそびのない滑り軸受配置に関する。
【背景技術】
【0002】
スリットを形成された滑り軸受スリーブを有する、あそびのない滑り軸受配置は、従来技術に基づいてずっと以前から知られており、種々の工業的適用において、たとえば継手において、使用される。その場合に通常、定義されて調節されたトルクをもって、特に極めて小さいトルクをもって、滑り軸受内に構成部品をあそびなしで軸承することは、最高の技術的手間によってしか達成できず、特に多くの場合には、そもそも達成できないことが、欠点として明らかにされている。
【0003】
すべり軸受の寿命にわたる押圧力およびそれと結びついたトルクは、個々のコンポーネントの製造誤差、滑り軸受が駆動中にさらされる磨耗および駆動中の温度変動に依存する。最後のものにおいては、特に、使用される材料の様々な熱膨張係数が認められる。上述したファクターの影響の補償は、それぞれ与えられた温度、製造誤差および磨耗を有する駆動状況のためだけに、高い技術的手間のもとで可能である。駆動条件の変化は、必然的に押圧力のコントロールされない変化とそれに伴って変化されたトルクをもたらす。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の課題は、滑り軸受とあそびのない滑り軸受配置を提供することであって、その場合に滑り軸受ないし滑り軸受配置は、変化する駆動条件のもとでも、かつ寿命全体にわたって、定義されたトルクで駆動することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この課題は、本発明によれば、特許請求項1の前文に記載の滑り軸受により、軸受ハウジングが軸方向に開放されていることによって、解決される。
【0006】
本発明によれば、軸受スリーブも軸受ハウジングも、軸方向に開放されている。本発明の主旨における軸方向の開放というのは、軸受スリーブないし軸受ハウジングを通って軸方向に延び、従って該当する構成部分の、もはや閉成されていない周面をもたらす、各任意の開放である。好ましくは軸方向の開放は、軸受スリーブの場合も、軸受ハウジングの場合も、軸方向のスリットとして形成されている。
【0007】
本発明に基づく滑り軸受は、広い負荷領域内で使用するのに適している。すなわち、0.1〜100+(100より大きい)MPaの間の固有の軸受負荷p’および0.001〜最大約2m/sの間の軸受速度において、広い領域内で永続的に使用することが可能である。
【0008】
本発明に基づく滑り軸受によって実現すべき滑り軸受配置のトルクは、実際には、ハウジングの剛性の選択を介して任意に調節することができる。その場合に滑り軸受ハウジングの剛性は、ハウジング材料の特性、材料厚およびそれぞれ選択されたハウジング幾何学配置に、決定的に依存している。極めて小さいトルクのためには、軸受ハウジングは、好ましくはプラスチックから、特に射出成形方法で加工可能な、わずかな材厚を有するプラスチックから、形成されている。その場合に、好ましくは、このプラスチックは、ハウジングを形成するために、軸受スリーブの回りに射出形成される。さらに、ハウジングは、トルクが極めて小さい場合には、好ましくはわずかな材厚を有している。
【0009】
高いトルクを得ようとする場合には、ハウジングは、好ましくは特に硬い材料から、典型的に金属材料から、なる。それは、鋳造材料、特に鋼またはアルミニウム合金とすることができる。特に好ましいのは、記憶合金(形状記憶合金とも称される)の使用である。この合金は、材料固有のクリティカルな温度の上方でその以前の、「記憶されている」形状を再びとる、という特性を有している。この特性を特別な程度において示す合金は、ニッケル−チタン−合金である。
【0010】
軸方向に開放された軸受スリーブは、種々の材料からなることができる。好ましくは、その軸受スリーブは、滑り材料としてプラスチック、好ましくは高温プラスチック、特に好ましくはフッ素プラスチック、特にポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、フッ化ポリビニリデン、過フルオロアルコキシコポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、特に超高分子ポリエチレンあるいはその組合せを含んでいる。
【0011】
本発明の他の好ましい形態によれば、軸受スリーブは、補強材料を有している。この補強材料は、金属、特に銅、特殊鋼、クロム、ニッケル、亜鉛、−亜鉛−鉄−合金、鉄、青銅および/またはアルミニウムまたはその合金からなることができる。好ましくは、この補強材料は、開放した構造を有しており、特に織物として、特にワイヤ織物、伸張金属、フリースとして、特に金属フリースとして、および/または穴あき薄板として形成されている。
【0012】
さらに、本発明に基づく滑り軸受の軸受スリーブにおいて、軸受スリーブの滑り材料が後ろ側において支持体と結合されているようにすることができる。この支持体が軸受スリーブに、特別な剛性を与え、さらにその成形特性を改良する。ここでも、支持体は、好ましくは金属、好ましくは鋼、特殊鋼、銅、チタン、青銅、アルミニウムまたはその合金からなる。
【0013】
軸方向に開放した軸受スリーブは、種々の方法で形成することができる。簡単に実現されるために、巻かれた軸受スリーブとしての形態が、特に効果的である。巻かれた軸受スリーブは、エンドレス材料、たとえば積層されて、切断されたPTFE箔から、それに続く成形ステップによって、形成される。
【0014】
好ましくは、軸受スリーブは、少なくとも1つの軸方向カラーを有しており、その軸方向カラーが、特に、軸受ハウジングからの軸受スリーブの抜落ちを防止する。
【0015】
冒頭で挙げた課題は、さらに、請求項18の前文に記載のあそびのない滑り軸受配置において、軸受スリーブと軸受ハウジングが拡幅するように、軸が軸受スリーブ内へ過剰寸法で挿入されることによって、解決される。
【0016】
本発明に基づく滑り軸受配置においては、軸方向に開放され、かつ過剰寸法で軸受スリーブ内へ挿入された軸によって拡幅されたハウジングが、軸へ一定の締付け作用をもたらし、従って永続的なあそびのなさをもたらすことが、利用される。
【0017】
時間と共に、滑り軸受ないし滑り軸受配置の個別コンポーネントの寸法が、温度変動および/または磨耗によって変化した場合に、それは、軸方向に開放されたハウジングの一定の締付け作用によって、滑り軸受の定義された押圧力およびそれと結びついた、定義されたトルクが維持されるように、補償される。本発明に基づく滑り軸受配置は、付加的に、第2のカラーによって軸方向に固定することができる。
【0018】
滑り軸受配置の締付け力およびそれに伴ってトルクは、ハウジングの剛性によって、特に使用される材料とハウジング材厚によって、極めて正確に調節することができる。さらに、所望の剛性は、補強リブなどを有する、それに応じたハウジング幾何学配置によっても、得ることができる。
【0019】
滑り軸受配置内で使用される軸は、好ましくは、前側にアールまたは斜面を有している。これが、本発明に基づいて過剰寸法で形成された軸を滑り軸受内へ挿入することを、容易にする。
【0020】
さらに、軸は、乾燥して回転する滑り軸受に適した、高い表面品質を持たなければならない。その場合に、軸の表面粗度は、好ましくは0.02〜1μm、好ましくは0.05〜0.8μm、特に好ましくは0.1〜0.4μmである。
【0021】
本発明に基づく滑り軸受および滑り軸受配置の使用可能性は、極めて多様である。特に、駆動条件(温度)が変化する場合に、定義され、かつ時間的に一定のトルクにおける長い寿命が重要となる、自動車における使用が、効果的である。ここでは、特に、変位可能なヘッドライトサスペンション(「コーナリングライト」)における使用が効果的である。というのは、その場合には、時間と共に減少するあそびのなさとそれに伴って生じる、投光器の振動が、特にわずらわしく認められるからである。他の好ましい使用可能性は、ノートブック継手、ドア継手、プリンタヘッドまたは角度センサにおいて得られる。
【0022】
以下、実施例を示す図面を用いて、本発明を詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1に示す、本発明に基づくあそびのない滑り軸受配置は、軸受ハウジング1、軸受ハウジング内へ挿入された軸受スリーブ2および軸受スリーブ2内へ挿入された、軸受スリーブの軸受パートナーとしての軸3を有している。軸受スリーブ2は、その両方の端部にそれぞれ軸方向カラー2bを有しており、その軸方向カラーによって、軸受スリーブ2がハウジング1内に、不用意な抜落ちに対して保護されて、固定的に取り付けられている。図2にも明らかなように、軸受ハウジング1も軸受スリーブ2も、軸方向に開放されており、その場合にハウジング1とスリーブ2の軸方向の開放は、それぞれ軸方向のスリット1a、2aとして形成されている。
【0024】
本発明に基づく滑り軸受配置において、軸受スリーブ2と軸受ハウジング1が拡幅するように、軸3が軸受スリーブ2内に過剰寸法で挿入されている。軸3は、少なくともその一方の端部に、軸受スリーブ2および軸受ハウジング1に対して過剰寸法で形成されている軸3の挿入を容易にする、アール3aを有している。
【0025】
拡幅されたハウジング1の締付けおよびばね作用によって、あそびのない滑り軸受配置が滑り軸受の寿命全体にわたって、駆動条件が変化した場合でも、一定のトルクを有することが、保証される。その場合にトルクは、軸受ハウジング1の材料特性、使用される材料厚みおよびハウジング幾何学配置によって影響を受ける。
【0026】
図4には、図1に示す軸受配置の軸受スリーブ2の材料が、横断面で示されている。材料は、軸受スリーブ2の軸受パートナーに向いた側に、滑り材料、好ましくはPTFE複合材料からなる層5を有している。層5の内部に、補強材料が設けられており、その補強材料は、ここではワイヤ織物6として形成されており、銅、特殊鋼、クロム、ニッケル、亜鉛、亜鉛−鉄−合金、鉄、青銅および/またはアルミニウムあるいはその合金からなることができる。滑り材料層5は、後ろ側において中実に形成された支持体7と結合されている。この支持体は、ここでは金属、好ましくは鋼、特殊鋼、銅、チタン、青銅、アルミニウムまたはその合金からなる。
【0027】
図1から3に示す滑り軸受配置は、たとえば、自動車の調節可能な投光器配置において使用され、その場合に軸受ハウジングは、ボディと固定的に結合されたフレームの一部であって、軸自体は、水平および/または垂直に変位可能なヘッドライトユニットの収容部と結合されている。時間と共に温度変動および/または磨耗によって滑り軸受ないし滑り軸受配置の個別コンポーネントの寸法が変化した場合に、それが、軸方向に開放したハウジングの一定の締付け作用によって、定義された押圧力およびそれと結びついた、滑り軸受の定義されたトルクが維持されるように、補償される。
【0028】
本発明に基づく滑り軸受配置は、軸方向に開放した軸受スリーブを使用する場合でも、定義されて調節されたトルクを有する、あそびのない軸承を可能にする;従って、ニードル軸受または玉軸受のような滑り軸受もあそびなしで形成することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】可動軸受として形成された、本発明に基づく滑り軸受配置を示す側断面図である。
【図2】図1に示す滑り軸受配置をII−II線に沿って示す正面図である。
【図3】固定軸受として形成された、本発明に基づく滑り軸受配置を示す側断面図である。
【図4】図1に基づく滑り軸受配置の軸受スリーブの材料を断面で示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸受ハウジング(1)と、軸受ハウジング(1)内に挿入された軸受スリーブ(2)を有し、軸受スリーブ(2)が軸方向に開放されている、滑り軸受において、
軸受ハウジング(1)が、軸方向に開放されている、ことを特徴とする滑り軸受。
【請求項2】
軸受スリーブ(2)の軸方向の開放が、軸方向のスリット(2a)として形成されている、ことを特徴とする請求項1に記載の滑り軸受。
【請求項3】
軸受ハウジング(1)の軸方向の開放が、軸方向のスリット(1a)として形成されている、ことを特徴とする請求項1または2に記載の滑り軸受。
【請求項4】
ハウジング(1)が、プラスチックからなる、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の滑り軸受。
【請求項5】
プラスチックが、射出成形で加工可能なプラスチックである、ことを特徴とする請求項4に記載の滑り軸受。
【請求項6】
射出成形で加工可能なプラスチックが、軸受スリーブ(2)の回りに射出形成されている、ことを特徴とする請求項5に記載の滑り軸受。
【請求項7】
ハウジング(1)が、金属材料からなる、ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の滑り軸受。
【請求項8】
金属材料が、鋳造材料、特に鋼またはアルミニウム合金である、ことを特徴とする請求項7に記載の滑り軸受。
【請求項9】
金属材料が、形状記憶合金である、ことを特徴とする請求項7または8に記載の滑り軸受。
【請求項10】
軸受スリーブ(2)が、滑り材料(5)として、プラスチック、好ましくは高温プラスチック、特に好ましくはフッ素プラスチック、特にポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリアミドイミド、フッ化ポリビニリデン、過フルオロアルコキシコポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレン、特に超高分子ポリエチレンまたはその組合せを有している、ことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の滑り軸受。
【請求項11】
軸受スリーブ(2)が、補強材料(6)を含んでいる、ことを特徴とする請求項10に記載の滑り軸受。
【請求項12】
補強材料(6)が、金属、特に銅、特殊鋼、クロム、ニッケル、亜鉛、亜鉛−鉄−合金、鉄、青銅および/またはアルミニウムまたはその合金からなる、ことを特徴とする請求項11に記載の滑り軸受。
【請求項13】
補強材料(6)が、開放した構造を有し、特に織物として、特にワイヤ織物(6)として、伸張金属、フリース、特に金属フリースとして、および/または穴あき薄板として形成されている、ことを特徴とする請求項11または12に記載の滑り軸受。
【請求項14】
滑り材料が、後ろ側において支持体(7)と結合されている、ことを特徴とする請求項10から13のいずれか1項に記載の滑り軸受。
【請求項15】
支持体(7)が、金属、好ましくは鋼、特殊鋼、銅、チタン、青銅、アルミニウムまたはその合金からなる、ことを特徴とする請求項14に記載の滑り軸受。
【請求項16】
軸受スリーブ(2)が、巻かれた軸受スリーブである、ことを特徴とする請求項1から15のいずれか1項に記載の滑り軸受。
【請求項17】
軸受スリーブ(2)が、少なくとも1つの軸方向カラー(2b)を有している、ことを特徴とする請求項1から16のいずれか1項に記載の滑り軸受。
【請求項18】
請求項1から17のいずれか1項に記載の滑り軸受と、軸受スリーブ(2)の軸受パートナーとしての軸(3)とを有する、定義されて調節されたトルクを有するあそびのない滑り軸受配置において、
軸受スリーブ(2)と軸受ハウジング(1)が拡幅するように、軸(3)が軸受スリーブ(2)内へ過剰寸法で挿入されている、ことを特徴とする滑り軸受配置。
【請求項19】
トルクが、ハウジング(1)の剛性によって、特に使用される材料とハウジング壁厚とによって、調節されている、ことを特徴とする請求項18に記載の滑り軸受配置。
【請求項20】
軸(3)が、前側にアール(3a)または斜角面を有している、ことを特徴とする請求項18または19に記載の滑り軸受配置。
【請求項21】
軸(3)の表面の粗度Raが、0.02〜1μm、好ましくは0.05〜0.8μm、特に好ましくは0.1〜0.4μmである、ことを特徴とする請求項18から20のいずれか1項に記載の滑り軸受配置。
【請求項22】
軸(3)が、角度センサの軸である、ことを特徴とする請求項18から21のいずれか1項に記載の滑り軸受配置。
【請求項23】
軸(3)が、ドアヒンジの軸である、ことを特徴とする請求項18から21のいずれか1項に記載の滑り軸受配置。
【請求項24】
軸(3)が、プリンタヘッドの軸である、ことを特徴とする請求項18から21のいずれか1項に記載の滑り軸受配置。
【請求項25】
軸(3)が、ノートブック継手の軸である、ことを特徴とする請求項18から21のいずれか1項に記載の滑り軸受配置。
【請求項26】
軸(3)が、調節可能なヘッドライトのスペンションの軸である、ことを特徴とする請求項18から21のいずれか1項に記載の滑り軸受配置。
【請求項27】
自動車における請求項1から17のいずれか1項に記載の滑り軸受の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−532644(P2009−532644A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503528(P2009−503528)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国際出願番号】PCT/EP2007/052860
【国際公開番号】WO2007/113157
【国際公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(508298237)サン−ゴバン パフォーマンス プラスチックス パンプス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (7)
【Fターム(参考)】