説明

滑り軸受要素を製造する方法

本発明は、ガス雰囲気中におけるカソードスパッタリングにより、且つ、少なくとも1つの金属ターゲット(16)を使用することにより、摩擦的に有効な摺動層(6)を有する基材の表面(5)を被覆することによって滑り軸受要素(1)を製造する方法であって、円筒形空洞(3)を有する基材が使用され、且つ、ターゲット(16)は、空洞(3)内に少なくとも部分的に配置され、且つ、更には、ターゲット(16)をスパッタリングするための放電は、第3電極(26)によって支持又は維持される方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの金属ターゲットを使用するガス雰囲気中におけるカソードスパッタリングにより、摩擦的に有効な摺動層によって基材の表面を被覆することによって滑り軸受要素を製造する方法と、軸受要素本体を有する金属滑り軸受要素であって、軸受要素本体は、支持要素と、内部表面及び内径を有する円筒形空洞と、を有し、軸受要素本体の内部表面上には、金属摺動層が配設される、金属滑り軸受要素と、に関する。
【背景技術】
【0002】
滑り軸受の基材上におけるカソードスパッタリングによる摺動層の分離については、従来技術において既に知られている。軸受要素を製造するためのその他の方法との比較において、カソードスパッタリングは、一方においては、必要とされる装置に起因し、且つ、他方においては、長いサイクル時間に起因し、相対的に高価である。従って、カソードスパッタリングは、高負荷軸受能力を有する摺動層を生産するためにのみ使用されてきた。通常、カソードスパッタリングにおいては、基材がアノードとして接続され、且つ、ターゲットがカソードとして接続される。被覆が実施されるチャンバ内には、通常、残留ガスが存在している。電子をアノードに向かって加速させるために、アノードとカソードの間に電圧が印加される。この結果、電子は、ガス粒子と衝突し、これにより、ガス粒子をイオン化する。次いで、これらの正に帯電したイオン化ガス粒子がカソードに向かって加速され、これにより、カソードから、即ち、ターゲットから、原子が叩き出される。ターゲットの中性原子に加えて、放射電子が放出され、これらが、更なる電子をイオン化する。これにより、2つの電極間には、定常状態プラズマが結果的に得られる。ターゲットから叩き出された原子は、チャンバ内の全体に均一に拡散し、且つ、これにより、基材上に層を生成する。
【0003】
この結果、残留ガスの高い圧力に起因し、ターゲットから叩き出された中立原子のばらつきが相対的に大きくなり、これにより、結果的に、基材上に得られる堆積層の気孔率が相対的に大きくなるという欠点を有する。
【0004】
この欠点を回避するために、電界に加えて更なる磁界を印加することが従来技術に記述されており、これによれば、イオン化のための更に大きな能力を電界内の電子に獲得させ、且つ、これにより、残留ガスの圧力を更に低減することができるという結果が得られる。必要とされるマグネトロンに起因して、この種のカソードスパッタリングの空間要件は大きくなり、その結果、この方法を適用することができるのは、その内部に摺動層が配置される円筒形空洞を有する軸受要素の最小直径から、に限定されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の基本的な目的は、可能な最も小さい内径を有する高応力を印加可能な円筒形の軸受要素を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のこの目的は、冒頭に記述されている方法によって実現され、この場合には、円筒形空洞を有する基材が使用され、且つ、ターゲットは、少なくとも部分的に空洞内に配置されており、且つ、更には、ターゲットのスパッタリング用の放電は、第3電極と、且つ、第3電極とは独立的に金属滑り軸受要素と、により、支持又は維持され、この金属滑り軸受要素は、最大で70mmという軸受要素本体の内径を有し、且つ、その摺動層は、カソードスパッタリングによって製造される。
【0007】
この第3電極の配置により、ターゲットの実際のスパッタリングからのプラズマ生成の「結合解除」と、これに後続する基材上における層の形成のためのターゲット原子の堆積と、が実現される。従って、ターゲットをこの空洞内に配設することが可能であり、且つ、空洞は、最大で70mmという非常に小さな直径を有することができる。更には、この第3電極に起因し、更に大量の電子が生成され、これにより、更に大きな被覆速度及び/又は更に小さなプロセス圧力を実現可能であるという結果が得られる。この結果、この方法を使用することにより、摺動層として、非常に厚い層と、従って、非常に大きな応力を印加可能な層と、を得ることができる。空洞内におけるターゲットの配置及び基材の表面とターゲットの表面の間の短い距離に起因し、スパッタリングされた原子が基材の表面に向かう方向におけるその軌道上において経験する偏向は、わずかであり、その結果、例えば、前述の従来技術による方法における磁界などの分離のための更なる対策が不要である。ターゲットを空洞内に配設することができるため、基材自体を被覆チャンバの一部として使用することが可能であり、この理由から、装置の観点において被覆チャンバ自体を簡素に設計可能であるという更なる利点を実現することができる。
【0008】
好ましくは、グローカソード(glowing cathode)が第3電極として使用される。従って、放射される電子の量を非常に良好に制御することができるという利点が実現され、これにより、相応して好影響を層の成長に対して付与可能であるという結果が得られる。高温のカソードは、反応性のガスの影響を受け易いという欠点を有する可能性はあるが、その利点は顕著である。
【0009】
ターゲットとしては、具体的には、合金が使用され、この合金は、200℃を上回る温度において融解を開始するか、又はこの温度において融解する。これは、一方においては、ターゲット自体のスパッタリング動作の観点において有利であり、他方においては、その結果、ソフトな低温融解摩擦被覆を製造することができるという利点が実現される。これらの被覆は、特に、異質な粒子を包埋する能力の観点において有利な作用を有する。
【0010】
ターゲットは、250℃又は300℃の第1融解点を有する合金から製造することができる。
【0011】
ターゲットは、具体的には、主合金元素として、Al、Cu、Ag、Sn、Pb、Bi、Sb、Au、Mg、Znを有する群から選択された元素を含む合金から形成される。特に、このような合金は、その特徴が従来技術において十分に記述されており、且つ、滑り軸受要素の実際の製造においてその特性が十分に実証されている。
【0012】
一実施形態によれば、5mm〜55mmの範囲から選択された最大直径を有するターゲットが使用される。従って、更なる処理を必要としない摺動層を製造することが可能であり、これにより、この方法は、相応して効率的に実行可能であるという結果が得られる。ターゲットの直径は、例えば、10mm〜40mm又は15mm〜35mmの範囲から選択することができる。
【0013】
特に、基材の表面とターゲットの表面の間の最小距離が、少なくとも5mmであり、特に、少なくとも7.5mmであり、好ましくは、少なくとも10mmであることが有利である。5mmを下回る距離においては、安定したプラズマを点火できないという状況が観察されることになろう。
【0014】
又、基材の表面上に摩擦的に有効な層を製造する前に、この表面を不活性ガスを使用するインバースカソードスパッタリングによって洗浄することも有利であり、これにより、被覆手順の全体を同一の設備内において実行することが可能となり、特に、被覆設備の一部として基材を使用するという利点をこの場合にも実現することができるという結果が得られる。
【0015】
表面の洗浄の際には、洗浄効果を向上させるために、−300V〜−1400Vの電圧を基材に印加することができる。
【0016】
又、この場合に、基材に印加される電圧は、基材の表面の洗浄の際に、−400V〜−1300V又は−450V〜−1000Vであってもよい。
【0017】
一実施形態によれば、被覆の際に、−200Vの下限と−10Vの上限を有する範囲から選択されたバイアス電圧が基材に印加される。これにより、被覆チャンバ内の残留ガスの正イオンによって基材に衝撃が加えられ、その結果、不純物を除去することができるという利点が実現される。
【0018】
この場合に、このバイアス電圧は、−150Vの下限と−50Vの上限を有する範囲又は−100Vの下限と−75Vの上限を有する範囲から実現することできる。
【0019】
特に、その第1融解点が200℃である合金をターゲットとして使用する観点において、且つ、従って、結晶粒の成長又は望ましくない合金相の形成を回避するという観点において、被覆の際に基材の温度を制御及び/又は調節することも有利である。
【0020】
滑り軸受要素の一実施形態によれば、軸受要素本体は、その内径を上回る軸方向における長さを有する。
【0021】
本発明による方法を使用することにより、具体的には、滑り軸受要素を製造することが可能であり、これらの滑り軸受要素は、その軸受要素本体が、継ぎ目を有することなしに実現され、即ち、例えば、これらの滑り軸受要素には、溶接が存在しておらず、且つ、相応して70mmを上回らない小さな直径を有しており、その結果、そのような溶接に伴って生じる可能性がある応力が本発明による滑り軸受要素には存在していない。更には、完成品の滑り軸受要素を生産するための処理作業を相応して低減することができる。
【0022】
内径は、具体的には、60mmを上回らなくてもよく、或いは、50mmを上回らなくてもよく、或いは、30mmを上回らなくてもよい。内径の下限は、それぞれの場合において、使用されるターゲットの直径に、基材の表面とターゲットの表面の間の距離を、具体的には、前述の最小距離を、加えたものの結果として得られる。
【0023】
又、最後に、この方法を使用して製造される滑り軸受要素は、軸方向におけるテクスチャ(texture)をその構造が有していない摺動層を有していることも、即ち、改善された動作機能を有する滑り軸受要素を製造可能であることも、有利である。
【0024】
更に十分に理解することができるように、以下、添付図面に示されている各図に従って、本発明について更に詳細に説明することとする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明による滑り軸受要素の斜視図である。
【図2】本発明による方法を実行するための装置の一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
まず、以下に記述されている様々な実施形態においては、同一の部品が、同一の参照符号及び同一の部品名称によって表されていることに留意されたい。従って、全般的な説明に含まれている開示内容は、同一の参照符号又は同一の部品名称を有する同一の部品に対して適用可能である。説明においては、上部、下部、側部などの選択された位置決め用語が使用されているが、これらは、説明及び図示対象の図を直接的に参照するものであり、従って、位置が変更された際には、相応して新しい位置に対して適用することができる。
【0027】
説明における値の範囲に関係するすべての数字は、任意の且つすべての部分的な範囲を含むことを意味しているものと解釈することを要し、その場合に、例えば、1〜10の範囲は、1という下限から始まって10という上限までのすべての部分的な範囲、即ち、1以上という下限から始まって10以下という上限によって終了する、例えば、1〜1.7、又は3.2〜8.1、又は5.5〜10などのすべての部分的な範囲を含むものと解釈することを要する。
【0028】
図1は、本発明による滑り軸受要素1の一実施形態を示している。これは、所謂滑り軸受ブッシュの形態を有しており、即ち、これは、閉じた内部表面2を有する偏心していない回転対称の本体から形成される。換言すれば、図1による滑り軸受要素1は、管状になるように実施されている。
【0029】
又、本発明の範囲内において、図1に示されているように円筒形の空洞3を有するその他の滑り軸受要素1を本発明による方法を使用して製造することもできる。この滑り軸受要素1は、例えば、接続ロッドであってよく、この接続ロッドの目(eye)の部分には、本発明による被覆が設けられる。
【0030】
図1による最も単純な例示用の実施形態においては、滑り軸受要素1は、内部表面5を有する支持要素4を含み、摩擦的に有効な摺動層6が、内部表面5に配設されると共に支持要素4に対して接続される。必要に応じて、摺動層6と支持要素4の間には、接合層及び/又は拡散障壁層を配置することもできる。更には、支持要素4と摺動層6の間には、軸受金属被覆を配設することもできる。
【0031】
滑り軸受要素1のこの層構造については、既に従来技術において知られているという事実に起因し、不必要な反復を回避するために、これに関しては、関連する従来技術を参照されたい。
【0032】
滑り軸受要素1の機械的な強度は、基本的に、この支持要素4によって提供されているため、支持要素4は、通常、鋼から、或いは、構造的強度の観点において鋼に匹敵する特性を有する材料から、形成される。その他の材料の例は、真鍮や青銅のような様々な銅合金であるか、或いは、鉄に基づいた合金から製造された通常の鋳造材料である。
【0033】
摺動層6自体は、好ましくは、Al、Cu、Ag、Sn、Bi、Sbを有する元素の群から選択された元素を主合金元素として有するベース合金から製造される。この場合に、ベース元素は、その他の合金元素との比較において、量の観点における主要な部分を表している。
【0034】
この種の合金の例は、以下の通りである。
Alベース合金は、Al−Sn合金、Al−Sn−Cu合金、Al−Sn−Ni−Mn合金、Al−Sn−Si合金、Al−Sn−Si−Cu合金、AlBi15Mo2、AlBi11Cu0.5Ni0.5、AlBi25Cu、AlSn25Si7.5、AlSn20、AlSn20Cu、AlSn20Sb10である。
Cuベース合金は、CuBi40、CuBi20、CuAg20、CuSn8−10である。
Agベース合金は、AgSn10−40、AgCuSn、AgSn20、AgBi15、AgCu20である。
Snベース合金は、SnCu10、SnAg20、SnSb20Cu5である。
Biベース合金は、BiCu0.1−10Sn0.5−10、BiAg20、BiCu20である。
【0035】
好ましくは、製造プロセスの結果として生じる不純物を除いて、鉛を含まない合金が使用される。
【0036】
支持要素4は、70mmを上回らない、特に、60mmを上回らない、好ましくは、50mmを上回らない、或いは、40mmを上回らない内径7を有する。
【0037】
更には、支持要素4と、摺動層6と、を有する軸受要素本体9の長さ8に対するこの内径7の割合は、好ましくは、1未満である。換言すれば、滑り軸受要素1の長さ8は、内径7を上回っている。
【0038】
但し、当然のことながら、本発明の範囲内において、その内径7がその長さ8を上回る支持要素4を被覆することも可能である。
【0039】
支持要素4は、好ましくは、継ぎ目のない状態において実現され、従って、支持要素は、例えば、チューブから形成することができる。但し、本発明の範囲内において、支持要素4を金属成形によって製造し、且つ、相互に対向する支持要素4のジャケットの2つの面の表面を1つに溶接することも可能であるが、この場合には、支持要素4の少なくとも内部表面5において可能な限り均一な表面を実現するために、特定の再加工が行われることになる。更には、このような実施形態は、本発明の範囲内において、好ましくはなく、その理由は、例えば、熱伝導性などの材料の特性が、溶接された接合部へのその遷移部において相応して変化し、その結果、恐らくは、使用の際の滑り軸受要素1の観点において悪影響をもたらす可能性があるためである。
【0040】
摺動層6は、少なくとも10μmの被覆の厚さを有する。被覆の厚さは、例えば、10μmの下限と250μmの上限を有する範囲から選択することができる。被覆の厚さは、特に、80μmの下限と150μmの上限を有する範囲から選択することができる。
【0041】
この均一な被覆の厚さは、特に、滑り軸受要素1の動作特性の観点において利点を有しており、且つ、本発明によれば、この利点は、例えば、機械加工などの再加工を必要とすることなしに製造プロセス自体において既にこの均一な被覆の厚さが得られるように、実現されている。又、この場合に、この摺動層6に対して、例えば、減摩ワニスから製造された擦り合わせ層などの更なる層が設けられる場合には、その層も、可能な限り均一な被覆の厚さを提供するという利点も実現される。
【0042】
擦り合わせ層としては、例えば、重量で23%の下限と重量で36%の上限を有する範囲から選択されたポリアミドイミド樹脂の比率と、重量で40%の下限と重量で49%の上限を有する範囲から選択されたMoS2の比率と、重量で23%の下限と重量で29%の上限を有する範囲から選択された黒鉛の比率と、を有する、ポリアミドイミド樹脂、二硫化モリブデン、及び黒鉛のポリマー層を形成する減摩ワニスを使用することができる。特に好ましいのは、その分子構造の少なくとも主鎖が完全に共役した結合系を有するポリアミドイミド樹脂である。この場合には、ポリアミドイミド樹脂の比率は、重量で20%と重量で50%の間、特に、重量で30%と重量で40%の間であってよい。又、この場合には、前述の固体潤滑剤に加えて又はその代わりに、例えば、SnS、SnS2、WS2などのその他の固体潤滑剤を使用することも可能であり、前述の固体潤滑剤は、重量において最大で100%の残りの比率を形成する。
【0043】
又、摺動層6を設けた後に、従来技術に記述されているように、例えば、Snの金属擦り合わせ層を設けることも可能である。
【0044】
滑り軸受要素1は、摺動層6が、その製造方法に起因して、構造的テクスチャをまったく有していないか、或いは、特徴的な構造的テクスチャをまったく有していない、即ち、滑り軸受要素1の軸方向における微結晶の特徴的な向きを有していないという利点を有する。
【0045】
支持要素4の小さな内径7にも拘わらず、摺動層6は、カソードスパッタリング法に従って製造され、これにより、摺動層6が継ぎ目を有していない、即ち、周囲10の全体と長さ8の全体にわたって中断していない摺動層6が形成されるという結果が得られる。
【0046】
図2は、この滑り軸受要素1を製造するための装置11の可能な一実施形態を示している。
【0047】
この装置11は、真空密に閉鎖可能なハウジング12を有し、且つ、ハウジング12を貫通する必要とされるすべての貫通供給部も、相応して真空密に実施されている。
【0048】
ハウジング12は、摺動層6(図1)を堆積させるために支持要素4がその内部に配置される処理チャンバ13を規定している。この処理チャンバ13に支持要素4を挿入するために、一方においては、対応するロックがハウジング12上に存在してもよく、他方においては、例えば、図2に示されているように、底部14と、この底部から取り外し可能なフード15と、を有するなどのように、ハウジング12を分割方式で実施することも可能である。ハウジングのこれらの2つ部品の接続は、例えば、ねじ接続などによって実装することができるが、真空密の接続が生成されることを保証しなければならない。
【0049】
支持要素4とは別に、特にロッド形状の又は円筒形状のターゲット16が、少なくとも部分的に支持要素4内に、即ち、空洞3内に、突出するように、配設される。少なくとも部分的に、とは、本発明の範囲内においては、被覆、即ち、摺動層を、滑り軸受要素1の全体の長さ8(図1)にわたってではなく、その一部に対して施すことができることを意味している。但し、図1に示されているように、支持要素4の全体表面5に摺動層6を提供することが好ましい。この目的のために、ターゲット16は、少なくとも支持要素4の空洞3の略全体を貫通して突出している。
【0050】
装置11のこの実施形態によれば、ターゲット16は、電気的接触を提供するために、底部14を貫通して延在している。当然のことながら、本発明の範囲内において、ターゲット16を更に短くなるように実施し、且つ、電気接点を介して外側に延在させることもできる。ターゲット16は、例えば、滑り軸受要素1(図1)の長さ8に少なくとも略対応する長さを有することができる。
【0051】
ターゲット16及び支持要素4の軸方向において、且つ、ターゲット16とは反対の側には、第2電極17が配設されており、これにより、電気的接触を実現するために装置11のカバー表面18を通じた外向きの接続が提供されている。この場合には、電極17は、円板形状に形成されており、且つ、支持要素4の内径7に少なくとも略対応する好ましい外径を有する。
【0052】
これは、更なる電極17の好適な実施形態であるが、本発明の範囲内において、電極17は、支持要素4の、即ち、空洞3の断面積よりも面積の観点において小さな広がりを有することもできる。
【0053】
支持要素4は、処理チャンバ13内において保持装置19上に配置される。図示の実施形態によれば、その面の各表面を有する支持要素4は、保持装置19上に直立しており、且つ、保持装置19は、相応して相対的に高くなるように実施されると共に支持要素4の外側を部分的に取り囲む円周状のバー20又は側壁を提供することができる。支持要素4の更なる固定のために、例えば、対応するクランプ装置などのような、対応する固定装置を保持装置19に配設することもできる。
【0054】
電気的接触を確立するために、保持装置19は、接点21を介してエネルギーの供給源に対して接続することも可能であり、この接点は、図2による実施形態の場合には、ハウジング12の側壁を貫通して延在している。
【0055】
保持装置19の下方には、漏斗形のテーパー化された空洞23が配設されており、この空洞は、ハウジング12の底部14に向かう方向において、円筒形の側壁24により、少なくとも略限定されている。側壁24、即ち、この側壁24の漏斗形の端部と保持装置19の間には、絶縁要素25が配設されており、この絶縁要素を使用し、装置11のこれら2つのコンポーネントの電気絶縁を実現している。
【0056】
この空洞23内には、第3電極26が配置されており、これは、好ましくは、グローカソードとして実施される。この第3電極26は、例えば、タングステン、タンタル、又はLaB6から形成することができる。当然のことながら、この電極26は、ターゲット16との関係において電気的に絶縁された状態で配置される。
【0057】
更には、凹部27がハウジング12内に設けられており、これを介して、処理チャンバ13を排気又は洗浄することができる。
【0058】
被覆プロセスにおいては、電子が、第3電極26から放射され、且つ、アノードとして接続された第2電極17の方向に加速される。処理チャンバ13内には、例えば、希ガスなどの残留ガス、特に、アルゴンが存在しているため、これらの電子は、アノード、即ち、第2電極17の方向におけるその軌道上において、希ガス原子と遭遇し、且つ、これらをイオン化する。次いで、正に帯電したイオン化希ガス原子が、カソード、即ち、ターゲット16の方向に加速され、且つ、ターゲット材料から原子を叩き出し、これより、これらの原子が支持表面4の内部表面5上に堆積し、且つ、これにより、摺動層6を生成する層構造が実現するという結果が得られる。
【0059】
支持要素4は、接地電位にあってよい。更には、前述の理由から、バイアス電圧を印加することも可能であり、これは、支持要素4において、−200Vの下限と−10Vの上限を有する範囲から選択される。
【0060】
第2電極17、即ち、アノード上には、例えば、60Vなどの、30Vの下限と150Vの上限を有する範囲から選択された電圧が存在可能である。
【0061】
ターゲット16自体は、−1500Vの下限と−200Vの上限を有する範囲から選択された電圧を有することが可能であり、或いは、これは、−1000Vの下限と−500Vの上限を有する範囲から選択される。
【0062】
グローカソード、即ち、電極26上には、10Vの下限と50Vの上限を有する範囲から選択された電圧が、或いは、75Aの下限と200Aの上限を有する範囲から選択された電流が、存在可能である。例えば、15Vの電圧と、150Aの電流と、を使用することができる。
【0063】
ターゲット上に存在している電流密度は、例えば、9mA/cm2のように、5mA/cm2と15mA/cm2の間であってよい。
【0064】
グローカソードは、使用されている材料に応じて、例えば、2300Kへの加熱などのように、1700Kと2700Kの間の温度を有することができる。
【0065】
被覆は、直流を使用することによって実現される。
【0066】
ターゲットの材料は、好ましくは、摺動層6の被覆用に使用される合金から製造されている。ターゲット16は、例えば、粉末冶金によって製造することができる。原則的に、このようなターゲット16の製造については、従来技術に既に記述されており、従って、既知である。
【0067】
ターゲット16は、具体的には、前述のように、200℃の第1融解点を有する合金から製造される。
【0068】
ターゲット16の最大直径28が最大で55mmの値を有することが更に有利である。
【0069】
当然のことながら、ターゲット16を製造するための合金は、所謂、ハード相又はハード相添加剤を有することも可能であり、ハード相は、摺動層6内においてもハード相を製造するために、例えば、Cr、Fe、Co、Cu、Mn、Ni、Mo、Mg、Nb、Pt、Sc、Ag、Si、V、W、Zr、及び/又はこれらの元素のアルミナイド、カーバイド、シリサイド、ニトリド、ボライドを有する群からの少なくとも1つの元素であってよく、或いは、その元素から製造可能であり、これらのハード相は、更に大きな磨滅抵抗力を摺動層6に提供し、摺動層6は、周知のように、例えば、Sn、Bi、Sb、Pbなどのソフト相の部分をも有し、これにより、滑り軸受要素1の使用の際の磨滅における異質の粒子に対する良好な包埋性を提供する。
【0070】
この一変形においては、被覆の際に、滑り軸受要素1をターゲット16を中心として回転させることが可能であり、この目的のために、例えば、保持装置19は、対応する回転装置に接続することが可能であり、即ち、回転自在の方式によって取り付けることができる。更には、ターゲットを回転自在の状態において取り付けることも可能である。
【0071】
カソードスパッタリングのためのこの装置11の簡素化された一例においては、ハウジング12を省略することが可能であり、簡単に言えば、保持要素19に対して真空密で接続された支持要素4と、電気的に絶縁され、保持装置19の反対側において支持要素4の端面の領域に真空密で圧接すると共に、支持要素4に対して接続されたある種のカバーをこの場合に形成することができる第2電極17と、からハウジング12を形成することができる。この場合には、例えば、グローカソード、即ち、第3カソード26がその内部に配設されると共に支持要素4の下方に設けられる空洞23が凹部27を有することが可能であり、この凹部を介して、この簡素化された装置11の排気又は洗浄又は処理チャンバ内へのガスの注入が実行される。
【0072】
上述の装置11の両実施形態によれば、実際の処理の前に、即ち、摺動層6を堆積させる前に、アルゴンなどの不活性ガスを使用したインバースカソードスパッタリングによって支持要素4の表面5を洗浄することも可能である。この目的のために、−200Vと−10Vの間の電圧を、基材に対して、即ち、支持要素4に対して印加することが可能であり、これにより、電子を介してグローカソードによって生成される正のアルゴンイオンが、基材の表面に向かう方向に、即ち、支持要素4の表面5に向かう方向に加速され、その表面において、これらのアルゴンイオンが不純物を叩き出すという結果が得られる。
【0073】
当然のことながら、インバースカソードスパッタリングによる洗浄とは別に、例えば、溶剤などの通常の洗浄手順により、被覆対象の基材を(事前)洗浄することも可能である。
【0074】
装置11の更なる変形においては、被覆の際に、支持要素4の温度を、即ち、基材の温度を開ループ制御及び/又は閉ループ制御することも可能であり、この目的のために、例えば、水などの冷却液体を通すことができる冷却及び/又は加熱要素29(図2に破線によって示されているもの)を、支持要素4の外側表面上に分散した状態において、処理チャンバ13内に配設することができる。又、この場合には、これらの冷却及び/又は加熱要素29を対応する冷却ジャケット内に配設することも可能である。
【0075】
更には、本発明の範囲内において、それぞれの被覆の厚さの観点において見た場合に少なくとも1つの合金元素の濃度勾配を有することができる複数の摺動層6を堆積させることも可能である。例えば、ソフト相元素が、摺動層6に向かう方向において支持要素4に隣接した表面において始まる増大する濃度を有することが可能であり、ハード相の部分は、逆に増大することができる。これを実現するために、ターゲット16は、例えば、層状の構造を有することが可能であり、即ち、ハード相元素の観点における濃度が、ターゲット16のコアに近接した領域よりも、外側領域内において高い。
【0076】
本発明の過程において実施された試験のうちから選択された本発明のいくつかの例示用の実施形態について以下に記述する。
【0077】
1.一実施例
5cmの長さと、3cmの内径と、を有する鋼の円筒形チューブ又はブッシュを支持要素4として準備した。次いで、このチューブを試験装置の処理チャンバ3に挿入した後に、この処理チャンバを排気した。必要に応じて、チューブを挿入した後に、処理チャンバをアルゴンによって複数回にわたって洗浄し、且つ、中間において排気することも可能である。
【0078】
挿入の後に、プロセスガスとしてArを使用するインバースカソードスパッタリングにより、表面を洗浄した。この場合には、以下のパラメータを設定した。
電圧:450V
持続時間:10分
【0079】
摺動層6を堆積させるためのターゲット16として、CuSn8の合金ターゲットを使用した。この場合、以下のパラメータを設定した。
圧力:0.5Pa〜1Pa
堆積速度:0.45μm/min
ターゲットの長さ:200mm
ターゲットの外径:15mm
ターゲット上の電圧:−700V〜−1000V
アノード上の電圧:約60V
アノード上の電流:8A〜20A
ターゲット上の電流:〜1A
グローカソード上の電圧:15V〜25V
グローカソード上の電流:120A〜150A
グローカソード上の電力:2kW〜3kW
グローカソードの温度:約2000℃
この層は、最終的な組成CuSn8を有していた。
8μmという被覆の厚さを有する層が生成された。
この層の顕微鏡写真は、チューブの軸方向における構造的テクスチャを示さなかった。
【0080】
2.一実施例
粉末冶金によって製造されたAlBi15Mo1のターゲット16を使用することにより、第1の例示用の実施形態を反復した。
【0081】
以下のパラメータを設定した。
圧力:0.66Pa〜1Pa
堆積速度:0.7μm/min
ターゲットの長さ:200mm
ターゲットの外径:15mm
ターゲット上の電圧:−1000V〜−1500V
アノード上の電圧:約60V
アノード上の電流:16A〜20A
ターゲット上の電流:最大で1A
グローカソード上の電圧:15V〜25V
グローカソード上の電流:120A〜150A
グローカソード上の電力:2kW〜3kW
高温カソードの温度:約2000℃
この層は、最終的な組成AlBi15Mo1を有していた。
6〜20μmの被覆の厚さを有する層が製造された。
例示用の両実施形態の後に製造されたサンプルは、事後処理が不要であり、従って、即座に使用することができた。
【0082】
これらの例示用の実施形態は、滑り軸受要素13の可能な実施形態を示しており、且つ、本明細書に提供されているこれらの示されている実施形態に本発明の範囲を限定することを意図したものではなく、これらの実施形態自体の間における様々な組合せも存在しており、且つ、本発明に関する変更が当業者によって実施されるであろう。
【0083】
最後に、軸受要素1の構造を明瞭に理解することができるように、軸受要素1及びその構成部品は、ある程度、縮尺を度外視して、且つ/又は拡大された縮尺において、且つ/又は低減された縮尺において、図示されていることに留意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス雰囲気中におけるカソードスパッタリングにより、且つ、少なくとも1つの金属ターゲット(16)を使用することにより、摩擦的に有効な摺動層(6)が配設された基材の表面(5)を被覆することによって滑り軸受要素(1)を製造する方法であって、
円筒形空洞(3)を有する基材が使用され、且つ、ターゲット(16)は、空洞(3)内に少なくとも部分的に配置され、且つ、更には、ターゲット(16)をスパッタリングするための放電は、第3電極(26)によって支持又は維持されることを特徴とする方法。
【請求項2】
グローカソードが第3電極(26)として使用されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
200℃の温度において融解を開始するか又はこの温度において融解する合金がターゲット(16)として使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
主な合金元素としてAl、Cu、Ag、Sn、Bi、Sbを有する群から選択された元素がターゲット(16)として使用されることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
5mm〜55mmの範囲から選択された最大直径を有するターゲットが使用されることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
被覆対象である基材の表面とターゲットの表面の間の距離は、少なくとも5mmであることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
摩擦的に有効な層が基材の表面(5)上に製造される前に、不活性ガスを使用するインバースカソードスパッタリングにより、この表面(5)が洗浄されることを特徴とする請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
表面の洗浄の際に、−300Vと−1400Vの間の電圧が基材に印加されることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
被覆の際に、−200Vの下限と−10Vの上限を有する範囲から選択されたバイアス電圧が基材に印加されることを特徴とする請求項1〜8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
基材の温度は、被覆の際に、開ループ制御及び/又は閉ループ制御されることを特徴とする請求項1〜9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
内径(7)を有する円筒形空洞(3)を含む支持要素(4)を有する軸受要素本体(9)を備える金属滑り軸受要素(1)であって、内部表面(5)に金属摺動層(6)が配設される、金属滑り軸受要素(1)において、
軸受要素本体の内径は70mmを上回っておらず、且つ、摺動層(6)はカソードスパッタリングによって製造されることを特徴とする滑り軸受要素(1)。
【請求項12】
軸受要素本体(9)は、軸方向において、内径(7)を上回る長さ(8)を有することを特徴とする請求項11に記載の滑り軸受要素(1)。
【請求項13】
軸受要素本体(9)は継ぎ目のない方式によって形成されることを特徴とする請求項11又は12に記載の滑り軸受要素(1)。
【請求項14】
摺動層(6)は、主成分を形成すると共にAl、Cu、Ag、Sn、Pb、Bi、Sbを有する群から選択されるベース元素を有する合金から製造されることを特徴とする請求項11〜13の何れか一項に記載の滑り軸受要素(1)。
【請求項15】
摺動層(6)は軸方向においてテクスチャを有していない構造を備えることを特徴とする請求項11〜14の何れか一項に記載の滑り軸受要素(1)。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−509500(P2013−509500A)
【公表日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−537260(P2012−537260)
【出願日】平成22年11月5日(2010.11.5)
【国際出願番号】PCT/AT2010/000419
【国際公開番号】WO2011/054019
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(504101245)ミーバ グライトラガー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (16)
【Fターム(参考)】