説明

潤滑油組成物

【課題】“リング粘着”試験要件等の要件を満足させるための、従来とは異なる、特定のベースストック混合物を提供することによるアプローチを提供すること。
【解決手段】多量の(A)と、少量の、(B)〜(E)を含む潤滑剤添加剤成分とを含む又は混合することにより製造されるクランクケース潤滑油組成物:
(A)潤滑粘度を有し、多量のグループIIIベースストック及び少量のエステル形態のグループVベースストックを含むベースストック;
(B)分散剤、例えば無灰分散剤;
(C)金属清浄剤;
(D)抗酸化剤、抗摩耗剤及び摩擦改良剤からなる群より選ばれる1又はそれより多くの他の潤滑剤添加剤成分;及び
(E)粘度改良剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特には、ディーゼルエンジンのピストン清浄性及びピストンリング粘着試験における性能を強化するマルチグレード潤滑剤等の潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃エンジンのクランクケース用潤滑油組成物(又は潤滑剤)はよく知られており、それらは、また、それらの特性及び性能を強化するための添加剤(又は添加剤成分)を含むことが知られている。
次第に、他社製品販売会社(original equipment manufacturers: OEM's)の性能基準を満たすことへの要求は、潤滑剤の性能へと向けられている。そのような性能基準の1つは、圧縮点火(ディーゼル)内燃エンジンの作動間のピストンリングの粘着に関する。これは、通常、簡単に、“リング粘着”と称され;VWTDi試験(CEC L−78−T−99)により測定することができる。この試験において測定される第2の性能基準は、ピストン清浄性である。
他の興味深い性能基準としては、潤滑剤の揮発性、潤滑剤の燃料経済性、及び潤滑剤の塩素分が挙げられる。
種々の基準は、明らかに、使用可能な添加剤の成分及び量及びベースストックの点で潤滑剤の配合者を制約する。
EP-A-1 087 008には、ある添加剤成分の供給により“リング粘着”試験要件を満足させる方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明により、上記要件を満足させるための、異なるアプローチ、即ち、特定のベースストック混合物を提供することによるアプローチが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1態様においては、本発明は、多量の(A)と、少量の、(B)〜(E)を含む潤滑剤添加剤成分とを含む又は混合することにより製造され、好ましくは圧縮点火エンジン用の、特には乗用車圧縮点火エンジン用のクランクケース潤滑油組成物である:
(A)潤滑粘度を有し、多量のグループIIIベースストック及び少量のエステル形態のグループVベースストックを含むベースストック;
(B)分散剤、例えば無灰分散剤;
(C)金属清浄剤;
(D)抗酸化剤、抗摩耗剤及び摩擦改良剤からなる群より選ばれる1又はそれより多くの他の潤滑剤添加剤成分;及び
(E)粘度改良剤。
【0005】
本件明細書に記載するデータは、ベースストック混合物(A)の使用が、予期せぬことに、TDi試験における潤滑油組成物の性能を改善することを証明する。
第2態様においては、本発明は、圧縮点火内燃エンジンを潤滑化する方法であって、該エンジンを作動させること及び該エンジンを本発明の第1態様の潤滑油組成物を用いて潤滑化することを含む該方法である。
第3態様においては、本発明は、リング粘着傾向を低減し、かつ、圧縮点火内燃エンジンのピストン清浄性を改善する方法であって、該エンジンに、本発明の第1態様の潤滑油組成物を添加することを含む該方法である。
第4態様においては、本発明は、圧縮点火内燃エンジンのクランクケースと該クランクケースを潤滑化するための本発明の第1態様の潤滑油組成物との組み合せである。
第5態様においては、本発明は、潤滑粘度を有し、多量のグループIIIベースストック及び少量のエステル形態のグループVベースストックを含むベースストックの、潤滑油組成物中における、リング粘着傾向の低減及び圧縮点火内燃エンジンのピストン清浄性の改善のための使用である。
【0006】
本件明細書においては、用語“含む”は用いられる場合、記載の特徴、整数、工程又は成分の存在を明らかにするものであるが、1又はそれより多くの他の特徴、整数、工程、成分又はそれの組み合せの存在又は付加を排除しない。
用語“本質的にからなる”又は同族語は用いられる場合、記載の特徴、整数、工程又は成分の存在を明らかにするものであるが、1又はそれより多くの他の特徴、整数、工程、成分又はそれらの組み合せの存在又は付加を含んでいてもよく、但し、それらの包含が実質的に本発明に影響を及ぼさないことを条件とする。
用語“からなる”又はその同族語は用いられる場合、記載の特徴、整数、工程又は成分の存在を明らかにするものであるが、1又はそれより多くの他の特徴、整数、工程、成分又はそれらの組み合せの存在又は付加を排除し;従って、用語“含む”又はその同族語を用いる場合には、好ましい態様が“本質的にからなる”又はその同族語であるものとし、従って、用語“からなる”又はその同族語は、用語“本質的にからなる”又はその同族語の好ましい態様であるものとする。
“多量”は、組成物の50質量%を超えることを意味する。
“少量”は、添加剤の活性成分として計算される、組成物中に存在する全添加剤の全質量%に関し及び記載の添加剤に関し両方について、組成物の50質量%未満であることを意味する。
【0007】
本件明細書において使用する“油溶性”又は“油分散性”は、必然的に、その化合物又は添加剤が油中に全割合で可溶性(soluble)、溶解性(dissolvable)、混和性、又は懸濁可能であることを示す訳ではない。しかしながら、これらは、それらが、例えば、油が使用される環境においてそれらの所定の機能を発揮するのに十分な程度まで油中に可溶性又は安定分散性であることを意味する。更に、他の添加剤の更なる導入が、必要であるなら、特定の添加剤の高レベルでの導入を許容し得る。
頭字語SAEは、自動車エンジニア協会を意味する。
また、記載する全割合は、特に記載のない限り、活性成分基準での、即ち、キャリヤ又は希釈油に関わらない、質量%である。
本発明は、また、組成物又は濃縮物の種々の添加剤成分、本質的なもの並びに慣例のもの及び任意のものとの間の、配合、貯蔵又は使用の状況下での反応の結果として得られる又は得ることが可能な製品を提供する。
本発明の特徴を、以下により詳細に説明する。
【0008】
マルチグレード潤滑剤
通常“マルチグレード(multigrades)”と称される“マルチ粘性グレードオイル(multiviscosity grade oils)”は、幅広い温度範囲にわたって機能することが意図されており、SAE 10W-30又はSAE 5W-30等の記述により特定される。それらの特性は、自動車エンジニア協会の文献SAE J300において定義されている。この文献には、2つの基準の点でのマルチグレード:最大低温クランキング及びポンピング粘度並びに最大及び最低動粘度(100℃)及び最低高剪断粘度(150℃及び108-1)が定義されている。
低温特性により、いずれの“W”グレードが潤滑剤に割り当てられるかが定められ、また、高温特性により、名称の“非W”部分が定められる。
【0009】
SAE J300により、最低温度での作業に対する要求を表すSAE 0Wを有する一連のWグレードが定められる。また、SAE 5W、10W、15W、20W及び25Wが定められる:
これらのグレードは、進行的により高い最低作業温度に適するものである。
非Wグレードもまた、数値表示が割り当てられ、それは、高温粘性のスケールに相当する。このスケールは、SAE 20に始まり、SAE 30、40及び50と続き、最大粘性グレードはSAE 60である。
自動車のクランクケース潤滑剤のこの粘性分類システムは、ビヒクル及び潤滑剤製造産業界で世界に共通してみられる。
好ましい態様においては、本発明の潤滑油組成物は、SAE 15W-X、SAE 10W-X、SAE 5W-X又は0W-X組成物(ここで、Xは20、30又は40のいずれかを表す)の形態のマルチグレード潤滑油組成物である。好ましくは、油組成物は、SAE 5W-X又は0W-Xの形態にある。有利には、Xは20又は30のいずれかであり、特には20である。
【0010】
(A)ベースストック
ベースストック(時々“ベースオイル”と称される)は、潤滑粘度を有する油であり、潤滑剤の主要液体成分であり、それに添加剤及び場合により他の油がブレンドされて最終潤滑剤が製造される。
米国石油協会(API)1509“Engine Oil Licensing and Certification System”, 第4版(1996年12月)には、全ベースストックが5つの一般的分類に分けられている:
a)グループIベースストックは、90%未満の飽和及び/又は0.03%より高い硫黄を含み、かつ、80に等しいか又はそれより高く、120未満の粘度指数を有し;
b)グループIIベースストックは、90%に等しいか又はそれより高い飽和及び0.03%に等しいか又はそれ未満の硫黄を含み、かつ、80に等しいか又はそれより高く、120未満の粘度指数を有し;
c)グループIIIベースストックは、90%に等しいか又はそれより高い飽和及び0.03%に等しいか又はそれ未満の硫黄を含み、かつ、120に等しいか又はそれより高い粘度指数を有し;
d)グループIVベースストックは、ポリαオレフィン(PAO)であり;
e)グループVは、グループI、II、III又はIVに含まれない他の全てのベースストックを含む。
【0011】
上記グループを定めるのに用いられる試験方法は、飽和についてはASTM D2007であり;粘度指数についてはASTM D2270であり;かつ、硫黄についてはASTM D2622、4294、4927又は3120のいずれかである。
記載したとおり、本発明におけるベースストック(A)は、多量のグループIIIベースストック及び少量のエステル形態のグループVベースストックを含む。エステル形態のグループVベースストックの量は、全ベースストックの質量をベースとして、好ましくは最大15質量%、例えば0.5〜15質量%、より好ましくは1又は2〜15質量%、特には3〜15質量%、より特には3〜10質量%、有利には3〜8質量%、例えば5〜8質量%である。
好ましくは、ベースストック(A)は、本質的に、グループIIIベースストック及びエステル形態のグループVベースストックからなるが、全ベースストックの質量をベースとして、少量の、例えば最大25質量%、例えば最大20質量%、好ましくは最大10質量%、有利には最大5質量%の他のベースストック、例えばグループI、グループII又はグループIVベースストック又はそれらの混合物を含んでいてもよい。グループI、グループII又はグループIVベース
ストック又はそれらの混合物は、本発明の油組成物を製造する際に使用する添加剤成分のための希釈剤又はキャリヤ流体として使用することができる。
グループIIIベースストックは、商業的に入手可能である。
【0012】
エステル形態のグループVベースストックもまた、商業的に入手可能である。例としては、ポリオールエステル、例えばペンタエリスリトールエステル、トリメチロールプロパンエステル及びネオペンチルグリコールエステル;ジエステル;C36ダイマー酸エステル;トリメリット酸エステル、即ち、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸エステル;及びフタル酸エステル、即ち、1,2-ベンゼンジカルボン酸エステルが挙げられる。そのエステルが製造される酸は、好ましくは、式RCO2H(式中、Rは分枝、直鎖又は混合アルキル基を表す)のモノカルボン酸である。そのような酸は、例えば、6〜18個の炭素原子を含んでいてもよい。ポリオールエステルが好ましく、例えば、トリメチロールプロパンと一塩基性酸とのエステルである。
【0013】
(B)分散剤
分散剤、例えば無灰分散剤、即ち、燃焼の際に実質的に灰分を形成しない非金属性有機材料は、固体及び液体混入物を懸濁液中に保持し、油溶性を与えるような長鎖炭化水素を含み、それは、分散される粒子と結合可能な極性ヘッドを有する。注目すべき基は、炭化水素置換スクシンイミドである。
“実質的に灰分…ない”とは、分散剤が、燃焼の際に極微量の灰を生じてもよいが、その量が、分散剤の性能に実質的又は有意な影響をもたらさないものであることを意味する。
【0014】
(C)金属清浄剤
清浄剤は、エンジン中において、ピストン堆積物、例えば、高温ワニス及びラッカー堆積物の形成を低減する添加剤であり;それは、通常、酸中和特性を有し、かつ、微粒子固体を懸濁状態で保持することが可能である。大抵の清浄剤は、金属“セッケン”をベースとしており、それは、金属界面活性剤又は酸性有機化合物の塩である。有機酸の例としては、スルホン酸、フェノール及びその硫化誘導体、及び芳香族カルボン酸、例えばサリチル酸を含むカルボン酸が挙げられる。
清浄剤は、一般に、長い疎水性尾を有する極性ヘッドを含み、極性ヘッドは、酸性有機化合物の金属塩を含む。その塩は、実質的な化学量論量の金属を含んでいてもよく、そのケースにおいては、それらは、通常、正塩又は中性塩として記載され、かつ、典型的には、0〜80の全塩基価又はTBN(ASTM D2896により測定され得る)有するであろう。多量の金属塩基が、過剰な金属化合物、例えば酸化物又は水酸化物を酸性ガス、例えば二酸化炭素と反応させることにより含まれていてもよい。得られる過塩基化清浄剤は、金属塩基(例えばカーボネート)ミセルの外層として中和清浄剤を含む。そのような過塩基化清浄剤は、150又はそれより高い、及び典型的には250〜450又はそれより高いTBNを有していてもよい。
【0015】
使用することができる清浄剤としては、油溶性の中性及び過塩基化スルホネート、フェナート、硫化フェナート、チオホスホネート、サリチレート及びナフテネートが挙げられる。特に好適な清浄剤は、20〜450のTBNを有する中和及び過塩基化スルホン酸カルシウム、及び50〜450のTBNを有する中和及び過塩基化リン酸カルシウム及び硫化フェナートである。
本発明の清浄剤は、1つのタイプの有機酸の塩又は1つより多くのタイプの有機酸の塩、例えば、雑種複合体清浄剤(hybrid complex detergent)であってもよい。
ある態様においては、清浄剤は、1つのタイプの有機酸の金属塩を含む。
雑種複合体清浄剤は、清浄剤内の塩基性材料が1つより多くの有機酸の金属塩により安定化されている清浄剤である。単一タイプの有機酸が同一タイプの有機酸の混合物を含んでいてもよいことを当業者は理解するであろう。例えば、スルホン酸は、変動分子量を有するスルホン酸の混合物を含んでいてもよい。そのような有機酸組成物は、1つのタイプとして考えられる。従って、複合体清浄剤は、2又はそれより多くの別の、場合により過塩基化されている清浄剤の混合物とは区別され、そのような混合物の例は、過塩基化サリチル酸カルシウム清浄剤と過塩基化リン酸カルシウム清浄剤の混合物である。
【0016】
当業界では、過塩基化複合体清浄剤の例が報告されている。例えば、国際特許出願9746643/4/5/6及び7(それは、雑種複合体清浄剤の記載及び定義に関し、本件明細書に含まれるものとする)には、1より多くの酸性有機化合物の混合物を塩基性金属化合物で中和し、次いで該混合物を過塩基化することにより製造される雑種複合体が記載されている。清浄剤の個々の塩基性ミセルは、従って、複数の有機酸タイプにより安定化される。雑種複合体清浄剤の例としては、カルシウムのフェナート-サリチレート-スルホネート清浄剤、カルシウムのフェナート-スルホネート清浄剤及びカルシウムのフェナート-サリチレート清浄剤が挙げられる。
EP-A-0 750 659には、リン酸カルシウムをカルボキシル化し、次いで、サリチル酸カルシウムとリン酸カルシウムの混合物を硫化及び過塩基化することにより製造されるカルシウムのサリチレート-フェナート複合体が記載されている。そのような複合体は“フェナレート”と称されるかもしれない。
好ましい複合体清浄剤は、サリチレートベースの清浄剤、例えば、カルシウムのフェナート-サリチレート清浄剤及び“フェナレート(phenalate)”である。
【0017】
(D)他の潤滑剤添加剤
(i)抗酸化剤は、組成物の酸化に対する抵抗性を上昇させ、また、過酸化物と組み合せかつ過酸化物を変性させてそれらを無害化させること、過酸化物を分解すること又は酸化触媒を不活性化させることで機能し得る。それらは、ラジカルスカベンジャー(例えば立体ヒンダードフェノール、第2芳香族アミン、及び有機-銅塩);ヒドロペルオキシド分解剤(例えば有機-硫黄及び有機リン添加剤);及び多機能性物質として分類され得る。本発明のプラクティスにおいては、ある抗酸化剤の使用又は別の方法によりある利益が与えられる。例えば、ある態様においては、潤滑油組成物が第2芳香族アミン抗酸化剤を含まないことが好ましいことであり得る。他の態様においては、潤滑油組成物中において、1又はそれより多くの第2芳香族アミン抗酸化剤(例えば組成物の0.1〜0.7質量%、好ましくは0.2〜0.5質量%の範囲)と1又はそれより多くの立体ヒンダードフェノール抗酸化剤(例えば組成物の0.1〜2質量%、好ましくは0.5〜1.5質量%)の組み合せを使用するのが好ましいことであり得;そのような組成物は、例えば、1又はそれより多くのモリブデン含有添加剤を、組成物中においてモリブデン元素が50又は100〜500又は700質量ppm提供される量で含んでいてもよい。
【0018】
(ii)抗摩耗剤は、摩擦及び過剰であり得る(excessible)摩耗を低減し、かつ、通常、硫黄又はリン又は双方を含む化合物をベースとする。注目すべきは、ジヒドロカルビルジチオリン酸金属塩、例えば、ジアルキルジチオリン酸亜鉛(ZDDP)である。好ましくは、アルキル基は、本質的に、第2アルキル基である。
(iii)摩擦改良剤は、摩擦係数を低減させ、従って、燃料経済を改善する境界(boundary)添加剤を含む。例は、多価アルコールのエステル、例えば高級脂肪酸のグリセロールモノエステル、例えばグリセロールモノオレエート;長鎖ポリカルボン酸のジオールとのエステル、例えば二量体化不飽和脂肪酸のブタンジオールエステル;オキサゾリン化合物;及びアルコキシル化アルキル置換モノアミン、及びアルキルエーテルアミン、例えばエトキシル化牛脂アミン(ethoxylated tallow amine)及びエトキシル化牛脂エーテルアミンである。好ましくは、本発明のプラクティスにおいては、成分(D)は、多価アルコールのエステルから及びアルコキシル化アミンから選ばれる1又はそれより多くの摩擦改良剤を含む。
モリブデン化合物、例えば二核及び三核ジチオカルバメート及びジチオホスフェートがまた、摩擦改良剤の例である。
【0019】
(E)粘度改良剤
粘度改良剤(又は粘度指数改良剤)は、高温及び低温作業性を潤滑油へ付与する。分散剤としても機能する粘度改良剤が、また、知られており、無灰分散剤について上述したとおり製造することができる。一般に、これらの、いわゆる分散剤粘度改良剤は、官能化ポリマー(例えば無水マレイン酸等の活性モノマーとポストグラフトされたエチレン-プロピレンの共重合体)であり、それは、その後、例えばアルコール又はアミンを用いて誘導体化される。
粘度改良剤として用いるための適切な化合物は、一般には、高分子量炭化水素ポリマーであり、ポリエステルを含む。油溶性粘度改良ポリマーは、一般に、10,000〜1,000,000、好ましくは20,000〜500,000の重量平均分子量を有し、それは、ゲル透過クロマトグラフィーにより又は光散乱により測定することができる。
【0020】
適切な粘度改良剤の代表例は、ポリイソブチレン、エチレン及びプロピレン及び高αオレフィンのコポリマー、ポリメタクリレート、ポリアルキルメタクリレート、メタクリレートコポリマー、不飽和ジカルボン酸及びビニル化合物のコポリマー、スチレン及びアクリル酸エステルの共重合体、及びスチレン、イソプレン、スチレン/ブタジエン及びイソプレン/ブタジエンの部分水素化コポリマー、及びブタジエン及びイソプレン及びイソプレン/ジビニルベンゼンの部分水素化ホモポリマーである。
本発明において定めるものとは異なる、他の知られている添加剤を、本発明の潤滑油組成物に導入してもよい。それらは、例えば、他の清浄剤、さび止め剤、腐食抑制剤、流動点降下剤、消泡剤及び界面活性剤を含んでいてもよい。それらは、当該技術分野において知られている割合で組み合せてもよい。
当該技術分野において知られているとおり、数種の添加剤により、効果の多様性が提供され得;従って、例えば、単一の添加剤が分散剤及び抗酸化剤の両方として作用してもよい。
【0021】
濃縮物
潤滑油組成物の製造においては、添加剤濃縮物の形態にある添加剤を、適切な油性の、典型的には炭化水素、キャリヤ流体、例えば鉱物潤滑油、又は他の適切な溶剤中に導入するのが通常のプラクティスである。上述した潤滑粘度を有する油、及び脂肪族、ナフテン系及び芳香族炭化水素は、濃縮物用の適切なキャリヤ流体の例である。
濃縮物は、添加剤を使用前に取り扱う、及び潤滑油組成物中への添加剤の溶解又は分散を促進するのに好都合な手段である。1より多くのタイプの添加剤を含む潤滑油組成物を製造する際、各添加剤は、別々に、それぞれ、濃縮物の形態で導入することができる。しかしながら、多くの場合、単一濃縮物中に2又はそれより多くの添加剤を含むいわゆる添加剤“パッケージ”(また“アドパック(adpack)”とも称される)を提供するのが好都合である。
濃縮物は、添加剤の活性成分1〜90質量%、例えば10〜80質量%、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは20〜70質量%を含んでいてもよい。
【0022】
油組成物の製造
潤滑油組成物は、潤滑粘度を有する油に、有効な少量の少なくとも1種の添加剤、必要であるなら、本件明細書に記載する1又はそれより多くの共添加剤の混合物を添加することにより製造することができる。この製造は、添加剤を、油に直接添加することにより、又はその濃縮物形態にある添加剤を添加して添加剤を分散又は溶解させることにより達成することができる。添加剤は、当該技術分野における当業者に知られている任意の方法により、他の添加剤の添加の前、同時又はその後のいずれかで油に添加することができる。
典型的には、潤滑油組成物は、清浄剤抑制添加剤、例えば抗摩耗剤、分散剤、抗酸化剤、清浄剤及び摩擦改良添加剤を含む濃縮物、及び粘度改良添加剤を含む別の濃縮物をベースストックへ添加することにより製造される。
従って、1又はそれより多くの添加剤成分及び1又はそれより多くの濃縮物は、グループI、グループII又はグループIV又はそれらの混合物であってもよいベースストックを潤滑油組成物へ与え得る。従って、ベースストック(A)は、潤滑油組成物中に存在する全ベースストックを意味する。
【0023】
潤滑油組成物を使用して、潤滑油を機械エンジン構成部、特には内燃、例えば圧縮点火エンジンへ添加することにより、それらを潤滑化することができる。圧縮点火エンジンの具体例は、近年開発されたものであり、そこでは、トップリンググルーブ温度(top ring groove temperature)が、略5kW/リットル又はそれより高く、例えば25kW/リットル又はそれより高く、好ましくは少なくとも30kW/リットル、特には40kW/リットル又はそれより高くへの比出力の上昇のために、150℃を超えていてもよく、好ましくは250℃を超えていてもよい。好ましくは、最大比出力は、略60kW/リットルである。これらのエンジンは、それらの操作におけるリング粘着問題がより一層深刻なものとなる傾向にある。
潤滑油組成物が1又はそれより多くの添加剤を含む場合、各添加剤は、典型的には、添加剤が所望の機能を提供することを可能にする量でベースオイル中にブレンドされる。そのような添加剤の代表的な有効量(活性成分ベース)は、クランクケース潤滑剤において使用する場合について、次のとおりである:
【0024】

最終潤滑油組成物は、5〜25質量%、好ましくは5〜18質量%、典型的には10〜15質量%の濃縮物(任意のキャリヤ流体を含む)を含んでいてもよく、残部は、潤滑粘度を有する油である。
【実施例】
【0025】
実施例
本発明を以下の単なる例により具体的に記載することにする。
潤滑油組成物の製造
2種の潤滑油組成物(又は油)を、当該技術分野において知られている方法により、添加剤パッケージ、ベースストック混合物及び粘度改良剤をブレンドすることにより製造した。2種の油においては、添加剤パッケージ及び粘度改良剤が同一であり、同一割合(質量%)で存在していた。ベースストック混合物は、油の1つ(油A)が比較油であり、他の油(油1)が本発明の油であるように異なるものとした。
油A及び1の配合は、次のとおりであり、ここで、全ての数値は、油の全質量をベースとする質量%による:

【0026】
試験及び結果
各油A及び1のサンプルを、具体的にはVWTDi CEC-L-78-T-99試験をベースとし、PV1452試験としても知られる、堆積物形成を研究するために使用されるエンジン試験に付した。その試験は、潤滑剤性能の深刻な評価として及び工業規格として認められている。
試験では、4気筒、1.9リットル、81kWの乗用車ディーゼルエンジンを使用した。それは、直接噴射エンジンであり、その中においては、ターボチャージャーシステムを用いて、そのユニットの出力を上昇させる。工業試験手順は、熱及び冷ランニング条件の繰り返しサイクル-いわゆるPKサイクルからなる。これは、荷重なしでの休止期間30分と、その後の全荷重で4150rpmでの180分を含む。全サイクルは、その後、全体で54時間繰り返す。この54時間のうち、4.5リットルの試験潤滑剤の初期油充填物には、つぎ足し(top up)をしない。
【0027】
54時間の試験の終了時に、エンジンを取りだし、エンジンを分解し、そのピストンの堆積物及びピストンリング粘着について評価した。これにより得られた結果を、工業リファレンスオイル(RL206)に関して評価して、通過及び失敗性能を明らかにした。
ピストンを、DIN評価システム(DIN rating system)として知られるものについて評価した。3つのピストンリンググルーブ及びグルーブ間に位置する2つのピストンランドを、当該技術分野における当業者に知られている方法により、堆積物のメリットスケールについて評価し、100より離れたスコア(score out of 100)が得られた。要するに、その数値が高くなればなる程、その性能が良好なものとなり:100は、全体的に清浄であることを示し、0は、全体的に堆積物で覆われていることを示す。5つのスコアを平均して、全体的ピストン清浄性メリット評価を得た。4つのピストンのそれぞれについてのスコアを、その後、平均して、その試験の全体的ピストン清浄性を与えた。
【0028】
リングを、また、リング粘着について評価し、それは、グルーブ中に蓄積された過剰堆積物により生じ得る。これは、全ピストンにおけるリングにわたる平均として、及び4つのピストンを越えて観察される最大リング粘着として報告される。
示したとおり、これらの結果は、通過性能を明らかにする工業リファレンスオイル(RL206)に関して判断される。
この研究でのその試験においては、中間ピストン評価を得るために、エンジンをそれぞれ12時間停止し、取り出し、ストリップし、評価し、かつ、再評価し;原試験オイルをエンジンへ戻し、その後エンジンを再始動させた。
得られた結果を次の表に記載した:
平均ピストン清浄性(メリット)

結果は、オイル1がオイルAより優れた性能を示すことを証明する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多量の(A)と、少量の、(B)〜(E)を含む潤滑剤添加剤成分とを含む又は混合することにより製造されるクランクケース潤滑油組成物:
(A)潤滑粘度を有し、多量のグループIIIベースストック及び少量のエステル形態のグループVベースストックを含むベースストック;
(B)分散剤、例えば無灰分散剤;
(C)金属清浄剤;
(D)抗酸化剤、抗摩耗剤及び摩擦改良剤からなる群より選ばれる1又はそれより多くの他の潤滑剤添加剤成分;及び
(E)粘度改良剤。
【請求項2】
エステルがポリオールエステルである請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
ベースストック(A)が、本質的に、グループIIIベースストック及びグループVベースストックからなる請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
圧縮点火内燃エンジンを潤滑化する方法であって、該エンジンを作動させること及び該エンジンを請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物を用いて潤滑化することを含む該方法。
【請求項5】
リング粘着傾向を低減し、かつ、圧縮点火内燃エンジンのピストン清浄性を改善する方法であって、該エンジンに、請求項1〜3のいずれか
1項に記載の潤滑油組成物を添加することを含む該方法。
【請求項6】
好ましくは25kW/リットル又はそれより高い比出力を有する圧縮点火内燃エンジンのクランクケースと請求項1〜3のいずれか1項に記載の潤滑油組成物との組み合せ。
【請求項7】
潤滑粘度を有し、多量のグループIIIベースストック及び少量のエステル形態のグループVベースストックを含むベースストックの、潤滑油組成物中における、リング粘着傾向の低減及び圧縮点火内燃エンジンのピストン清浄性の改善のための使用。

【公開番号】特開2010−163628(P2010−163628A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105283(P2010−105283)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【分割の表示】特願2002−173929(P2002−173929)の分割
【原出願日】平成14年6月14日(2002.6.14)
【出願人】(500010875)インフィニューム インターナショナル リミテッド (132)
【Fターム(参考)】