説明

炉内壁減肉量測定装置

【課題】つぼ型の焼却炉に対し、炉内壁の経年劣化にともなう炉壁の減肉量を簡便に測定することを可能とする炉内壁減肉量測定装置を提供する。
【解決手段】レーザ距離計112に関して、炉内壁1wまでの距離、移動深さ、および、回転角度のパラメータに基づき、設計寸法と炉内壁までの距離とが比較されることにより、容易に炉内壁1wの減肉量を測定することができる。また、レーザ距離計112を保持するやぐら部材100も、移動深さD、および、回転角度θのパラメータを測定することのみで良いため、その構造も簡便なものとすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、焼却炉等の炉内壁の経年劣化にともなう炉内壁の減肉量を測定するための炉内壁減肉量測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却炉などは経年劣化により炉内壁が減肉することが知られている。炉の寿命を予測するためには、定期的に炉内壁の減肉量を測定することは重要である。下記特許文献1および非特許文献1には、炉内壁の減肉をCCDカメラ、レーザ距離計等を具備する炉壁診断装置が提案されている。
【0003】
しかし、下記特許文献1および非特許文献1に開示される方法は、画面による目視を前提としていることから、つぼ型の焼却炉に対して用いるには、測定装置自体が大掛かりなものであるため、簡便に取り扱うことができない課題がある。
【特許文献1】特開2002−226861号公報
【非特許文献1】境田道隆、外7名、「コークス炉炭化室炉壁診断・補修装置の開発」、新日鉄技報、第384号(2006)、p.63−68
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明が解決しようとする課題は、背景技術における炉壁診断装置を、つぼ型の焼却炉に対して用いるには、測定装置自体が大掛かりなものであるため、簡便に取り扱うことができない点である。したがって、本発明の目的は、つぼ型の焼却炉に対し、炉内壁の経年劣化にともなう炉壁の減肉量を簡便に測定することを可能とする炉内壁減肉量測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に基づいた炉内壁減肉量測定装置においては、燃焼炉上部開口を有するつぼ型の燃焼炉の炉内壁の測定位置における減肉量を測定するための、炉内壁減肉量測定装置であって、上記燃焼炉の上端部に設けられる燃焼炉上部開口に固定されるやぐら部材と、上記やぐら部材に上下方向に摺動可能に保持される軸と、上記軸の下端部に支持され、燃焼炉の炉内壁までの水平方向距離を測定するためのレーザ距離計と、上記レーザ距離計で測定された燃焼炉の炉内壁までの水平方向距離が入力される演算部と、を備えている。
【0006】
また、上記やぐら部材と上記軸との間には、上記やぐら部材の下端部からの上記レーザ距離計の移動深さを測定するための移動深さ測定領域と、上記レーザ距離計の基準位置からの回転角度を測定するための回転角度測定領域とが設けられている。
【0007】
また、上記演算部には、上記レーザ距離計で測定された燃焼炉の炉内壁までの距離に対応して、移動深さ測定領域で測定された移動深さと、上記回転角度測定領域で測定された回転角度とが入力され、上記演算部において、炉内壁までの距離、移動深さ、および、回転角度のパラメータに基づき、予め保存された測定位置までの距離と、炉内壁までの距離とが比較されて測定位置での炉内壁の減肉量が測定される。
【発明の効果】
【0008】
この発明に基づいた炉内壁減肉量測定装置によれば、レーザ距離計に関して、炉内壁までの距離、移動深さ、および、回転角度のパラメータに基づき、設計寸法と炉内壁までの距離とが比較されることにより、容易に炉内壁の減肉量を測定することができる。また、レーザ距離計を保持するやぐら部材も、移動深さ、および、回転角度のパラメータを測定することのみで良いため、その構造も簡便なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明に基づいた実施の形態における炉内壁減肉量測定装置について図を参照しながら説明する。なお、実施の形態の説明において、同一または相当部分については、同一の参照番号を付し、重複する説明は繰り返さない場合がある。
【0010】
まず、図1から図6を参照して、本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置の構成について説明する。なお、図1は、本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置1000の概略構成を示す模式図であり、図2は、本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置1000の構成を示す正面図であり、図3は、本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置1000の構成を示す平面図である。また、図4は、本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置1000に採用されるレーザ距離計112の移動状態を示す図であり、図5は、本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置1000の移動深さ測定領域105aを示す図であり、図6は、本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置1000の回転角度測定領域105bを示す図である。
【0011】
まず、図1を参照して、本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置1000は、燃焼炉上部開口1hを有するつぼ型の燃焼炉1の炉内壁1wの測定位置における減肉量を測定するためのものである。炉内壁減肉量測定装置1000は、燃焼炉上部開口1hに固定され、レーザ距離計112で測定された燃焼炉1の炉内壁1wまでの水平方向距離(R:半径)に対応して、レーザ距離計112の移動深さDと、回転角度θとが、パーソナルコンピュータ200の演算部に入力される。
【0012】
移動深さDと回転角度θとのパーソナルコンピュータ200の演算部への入力は、本実施の形態ではキーボード201から入力される。レーザ距離計112で測定された燃焼炉1の炉内壁1wまでの距離は、レーザ距離計112からパーソナルコンピュータ200の演算部へ直接入力される。
【0013】
次に、図2および図3を参照して、この炉内壁減肉量測定装置1000は、燃焼炉1の上端部に設けられる燃焼炉上部開口1hに固定されるやぐら部材100と、このやぐら部材100に上下方向に摺動可能に保持される軸105とを有している。この軸105の下端部には、燃焼炉1の炉内壁1wまでの水平方向距離(R:半径)を測定するためのレーザ距離計112が保持されている。
【0014】
やぐら部材100は、燃焼炉上部開口1hに固定され軸105を通過させるための開口部101hを有するベースプレート101と、このベースプレート101の上方に配置され、軸105を通過させるための開口部103h、角度指示盤106および軸受け108を有するトッププレート103と、ベースプレート101とトッププレート103との間において、対向配置される支柱102,102とを備えている。ベースプレート101とトッププレート103との中間位置には、ミドルプレート104および軸105を支持する軸受け109が設けられている。
【0015】
軸105下端部には、枢軸115を介してレーザ距離計112が回動可能に固定されている。また、レーザ距離計112には、枢軸114を介して上方に延びる姿勢調整軸111が連結されている。この姿勢調整軸111は、軸105に設けられたブラケット109に対して摺動可能に保持され、また、姿勢調整軸111の位置を固定するためのストッパ110が設けられている。姿勢調整軸111を上下に移動させることで、レーザ距離計112は、枢軸115を中心として上下に傾動可能となり、レーザ距離計112の水平方向における測定方向の位置決めを行なうことができる。
【0016】
なお、レーザ距離計112を燃焼炉上部開口1hから、燃焼炉1の炉内に挿入する場合には、図4に示すように、姿勢調整軸111を下げてレーザ距離計112を下向きの状態とする。これにより、レーザ距離計112が水平のままでは、燃焼炉上部開口1hの開口径が、レーザ距離計112の長さよりも小さい場合に、レーザ距離計112が水平状態のままでは、燃焼炉上部開口1hに干渉して挿入できない場合であっても、レーザ距離計112を燃焼炉上部開口1hから燃焼炉1の炉内にレーザ距離計112を容易に挿入することができる。
【0017】
次に、図5を参照して、やぐら部材100と軸105との間に設けられる、やぐら部材100の下端部からのレーザ距離計112の移動深さを測定するための移動深さ測定領域105aについて説明する。やぐら部材100側には、矢印103cが明記されたプレート103bが設けられている。軸105には、軸目盛1と軸目盛2とが明記されている。本実施の形態では、レーザ距離計112の挿入深さ600(mm)を基準とし、この位置よりも深い位置における炉内壁1wまでの距離を測定する。したがって、軸目盛2が主となる寸法である。一方、レーザ距離計112の挿入深さ600(mm)までの挿入深さも把握しておく必要があるため、燃焼炉上部開口1hからのレーザ距離計112の挿入概略寸法は、目盛1を用いて測定する。
【0018】
次に、図6を参照して、やぐら部材100と軸105との間に設けられる、レーザ距離計112の基準位置からの回転角度を測定するための回転角度測定領域105について説明する。やぐら部材100側には、360°の角度表示が明記されている。軸105には、軸105とともに回転する角度指示盤106が設けられ、この角度指示盤106の外周面には半径方向に突出する角度指示矢印108aが取り付けられている。角度指示矢印108aの示す方向と、レーザ距離計112の測定方向とは一致している。
【0019】
また、図2に示すように、角度指示盤106には、軸105および角度指示盤106を回転させるとともに、回転位置を固定するための、ロックレバー107が取り付けられている。
【0020】
次に、図7から図12を参照して、上記構成からなる炉内壁減肉量測定装置1000を用いた、つぼ型の燃焼炉1の炉内壁の減肉量の測定について説明する。なお、図7は、今回の測定対象である燃焼炉1の断面構造を示す図であり、図8は炉内壁までの測定距離を示す図であり、図9から図12は、測定深さ位置に対応した炉内壁までの測定距離結果をグラフに示した図である。
【0021】
まず、つぼ型の燃焼炉1は、図7に示すように、高さ6230mmを有し、炉内壁面には、厚さが230mmの耐火レンガが敷き詰められている。上部の開口部1hから750mm深さまでの領域は燃焼室1aと呼ばれ、深さ750mmから1510mm(750mm+760mm)深さまでの領域は上部コニカル部1bと呼ばれ、深さ1510mmから5070mm(1510mm+3560mm)深さまでの領域は直胴部1cと呼ばれている。
【0022】
炉内壁までの水平方向距離(R:半径)の測定深さは、開口部1hから600mm(A:ウンドボックス下)、1000mm(B:コニカル上)、1400mm(C:コニカル下)、2510mm(D:直胴部下)の4箇所を測定する。測定角度は、360°を30°ピッチで、合計12方向測定した。測定距離は半径であるが、この測定データを元にして直径も算出した。測定時間は約5秒、測定回数は2回であり、平均値も算出した。
【0023】
上記測定条件で測定した結果を示したものが、図8である。しかしながら、図8から炉内壁の測定位置における減肉量を一見して把握することは困難である。そこで、パーソナルコンピュータ200の演算部に入力された、レーザ距離計112で測定された燃焼炉の炉内壁までの距離、移動深さ、回転角度のパラメータに基づき、プロットしたものが図9から図12に示すグラフである。なお、本実施の形態では、回転角度0°を北の方角としている。
【0024】
図9は、開口部1hから600mmの位置での測定結果である。図10は、開口部1hから1000mmの位置での測定結果である。図11は、開口部1hから1400mmの位置での測定結果である。図12は、開口部1hから2510mmの位置での測定結果である。このグラフから、炉内壁の測定位置における減肉が生じていることが分かるとともに、均一に減肉が生じているのではなく、減肉量に偏った傾向があることが理解できる。
【0025】
また、図8に示される数値を詳細に検討した結果、開口部1hから600mmの位置では、内径(直径)設計値775mmに対して、2回測定の直径平均として、774mm〜789mmのデータが得られ、平均約−7mmの減肉傾向があることが確認できた。また、開口部1hから2510mmの位置では、内径(直径)設計値1700mmに対して、2回測定の直径平均として、1702mm〜1743mmのデータが得られ、平均約−13.5mmの減肉傾向があることが確認できた。
【0026】
以上、本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置1000によれば、レーザ距離計112に関して、炉内壁1wまでの距離、移動深さ、および、回転角度のパラメータに基づき、設計寸法と炉内壁までの距離とが比較されることにより、容易に炉内壁1wの減肉量を測定することができる。また、レーザ距離計112を保持するやぐら部材100も、移動深さD、および、回転角度θのパラメータを測定することのみで良いため、その構造も簡便なものとすることができる。
【0027】
以上、本発明に基づく実施の形態について説明したが、今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置の構成を示す正面図である。
【図3】本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置の構成を示す平面図である。
【図4】本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置に採用されるレーザ距離計の移動状態を示す図である。
【図5】本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置の移動深さ測定領域を示す図である。
【図6】本実施の形態における炉内壁減肉量測定装置の回転角度測定領域を示す図である。
【図7】測定対象である燃焼炉の断面構造を示す図である。
【図8】炉内壁までの測定距離を示す図である。
【図9】測定深さ位置に対応した炉内壁までの測定距離結果をグラフに示した第1図である。
【図10】測定深さ位置に対応した炉内壁までの測定距離結果をグラフに示した第2図である。
【図11】測定深さ位置に対応した炉内壁までの測定距離結果をグラフに示した第3図である。
【図12】測定深さ位置に対応した炉内壁までの測定距離結果をグラフに示した第4図である。
【符号の説明】
【0029】
1 燃焼炉、1a 燃焼室、1b 上部コニカル部、1c 直胴部、1h 燃焼炉上部開口、1w 炉内壁、105a 移動深さ測定領域、105b 回転角度測定領域、100 やぐら部材、101 ベースプレート、101h,103h 開口部、102,102 支柱、103 トッププレート、103b プレート、103c 矢印、104 ミドルプレート、105 軸、106 角度指示盤、107 ロックレバー、108,109 軸受け、108a 角度指示矢印、109 ブラケット、110 ストッパ、111 姿勢調整軸、112 レーザ距離計、114,115 枢軸、200 パーソナルコンピュータ、201 キーボード、1000 炉内壁減肉量測定装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼炉上部開口を有するつぼ型の燃焼炉の炉内壁の減肉量を測定するための、炉内壁減肉量測定装置であって、
前記燃焼炉の上端部に設けられる燃焼炉上部開口に固定されるやぐら部材と、
前記やぐら部材に上下方向に摺動可能に保持される軸と、
前記軸の下端部に支持され、燃焼炉の炉内壁までの水平方向距離を測定するためのレーザ距離計と、
前記レーザ距離計で測定された燃焼炉の炉内壁までの水平方向距離が入力される演算部と、を備え、
前記やぐら部材と前記軸との間には、
前記やぐら部材の下端部からの前記レーザ距離計の移動深さを測定するための移動深さ測定領域と、
前記レーザ距離計の基準位置からの回転角度を測定するための回転角度測定領域とが設けられ、
前記演算部には、前記レーザ距離計で測定された燃焼炉の炉内壁までの距離に対応して、移動深さ測定領域で測定された移動深さと、前記回転角度測定領域で測定された回転角度とが入力され、前記演算部において、炉内壁までの距離、移動深さ、および、回転角度のパラメータに基づき、測定位置での炉内壁の減肉量が測定される、炉内壁減肉量測定装置。
【請求項2】
前記やぐら部材は、
前記燃焼炉上部開口に固定され、前記軸を通過させるための開口部を有するベースプレートと、
前記ベースプレートの上方に配置され、前記軸を通過させるための開口部を有するトッププレートと、
前記ベースプレートと前記トッププレートとの間に配置される支柱と、を備え、
前記ベースプレートの上方に突出する前記軸に、前記移動深さ測定領域が設けられ、
前記軸が突出する前記ベースプレートの上面に、前記回転角度測定領域が設けられる、請求項1に記載の炉内壁減肉量測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−210537(P2009−210537A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56596(P2008−56596)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】