説明

炭化珪素単結晶の製造装置および製造方法

【課題】ガイドに多結晶が付着することを抑制することができるSiC単結晶の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】反応容器9には、中空部9bを構成する側部9dに当該反応容器9の中心軸に沿った導入通路9cを形成する。ガイド10には、内部が空洞とされて空洞部10cを構成すると共に空洞部10cを導入通路9cと連通する連通孔10dを形成し、筒部10aの内周壁面に空洞部10cと中空部9bとを連通する第1出口孔10eを形成する。そして、導入通路9cおよび空洞部10cを介して第1出口孔10eから不活性ガス16またはエッチングガスを中空部9bに導入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーMOSFET等の素材に利用することができる炭化珪素(以下、SiCという)単結晶の製造装置および製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、原料ガスを種結晶に供給することで当該種結晶上にSiC単結晶を成長させるSiC単結晶の製造装置として、次のものが提案されている(例えば、特許文献1および2参照)。すなわち、SiC単結晶の製造装置は、種結晶が貼り付けられる台座と、中空部を有し、当該中空部に台座が配置される筒状の反応容器と、当該台座を反応容器の中心軸に沿って移動させるシャフトと、SiC単結晶が成長する空間(SiC単結晶の側面)を取り囲む筒状の筒部を有するガイドとを備えている。
【0003】
これによれば、SiC単結の側面がガイドで囲まれているため、SiC単結晶の側面に多結晶が付着することを抑制することができ、SiC単結晶を安定的に長尺成長させることができる。また、シャフトによって台座を反応容器の中心軸に沿って移動させることができるため、SiC単結晶の成長表面を一定位置に維持することができ、SiC単結晶の成長速度および品質を一定に維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−226197号公報
【特許文献2】特開2006−89365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記SiC単結晶の製造装置では、筒部の内周壁面とSiC単結晶の側面との間に隙間が形成される。このため、当該隙間にSiC単結晶の成長に寄与しなかった原料ガス(以下では、単に未反応原料ガスという)が導入されてガイドの側面に多結晶が付着してしまうことがある。この場合、当該多結晶が障害物となって台座を移動させることができなくなることがあり、SiC単結晶の長尺成長を行うことができなくなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、ガイドに多結晶が付着することを抑制することができるSiC単結晶の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、中空部(9b)を有する筒状の反応容器(9)の中空部(9b)に配置される台座(11)に対してSiC単結晶基板にて構成された種結晶(5)を配置し、当該種結晶(5)の表面にSiCの原料ガス(3)を反応容器(9)の一端部側から他端部側に供給することにより、台座(11)を引き上げ手段(14)によって反応容器(9)の中心軸に沿って引き上げながら種結晶(5)上にSiC単結晶(6)を成長させるSiC単結晶の製造装置において、以下の点を特徴としている。
【0008】
すなわち、SiC単結晶(6)が成長する空間を取り囲む筒状の筒部(10a)を有し、反応容器(9)に固定されるガイド(10)を備え、反応容器(9)には、中空部(9b)を構成する側部(9d)に当該反応容器(9)の中心軸に沿った導入通路(9c)が形成されており、ガイド(10)は、内部が空洞とされて空洞部(10c)が構成され、かつ空洞部(10c)と導入通路(9c)とを連通する連通孔(10d)が形成されていると共に空洞部(10c)と中空部(9b)とを連通する第1出口孔(10e)が筒部(10a)の内周壁面に形成されており、導入通路(9c)および空洞部(10c)を介して第1出口孔(10e)から不活性ガス(16)またはエッチングガスを中空部(9b)に導入することを特徴としている。
【0009】
このようなSiC単結晶の製造装置では、筒部(10a)の内周壁面に形成された第1出口孔(10e)から反応容器(9)の中空部(9b)に不活性ガス(16)またはエッチングガスを導入している。すなわち、筒部(10a)の内周壁面とSiC単結晶(6)との間の隙間に、第1出口孔(10e)から不活性ガス(16)またはエッチングガスを導入している。このため、筒部(10a)の内周壁面とSiC単結晶(6)との間の隙間に存在する未反応原料ガスは、不活性ガス(16)またはエッチングガスによって希釈される。したがって、筒部(10a)の内周壁面に多結晶が付着することを抑制することができる。
【0010】
さらに、未反応原料ガスは不活性ガス(16)またはエッチングガスによって希釈されるため、SiC単結晶(6)の側面に多結晶が付着することも抑制することができる。また、筒部(10a)の内周壁面とSiC単結晶(6)との間の隙間に不活性ガス(16)またはエッチングガスを導入しているため、筒部(10a)の内周壁面とSiC単結晶(6)の側面との間に未反応原料ガスが導入されること自体も抑制することができる。したがって、SiC単結晶(6)の成長に伴って引き上げ手段(14)によって台座(11)を反応容器(9)の中心軸に沿って移動させることができ、SiC単結晶(6)を連続、長尺成長させることができる。
【0011】
例えば、請求項2に記載の発明のように、筒部(10a)のうちSiC単結晶(6)の成長表面側の先端部に、空洞部(10c)と中空部(9b)とを連通する第2出口孔(10i)を形成することができる。
【0012】
これによれば、筒部(10a)の先端部近傍の未反応原料ガスを不活性ガス(16)またはエッチングガスによって希釈することができ、筒部(10a)の先端部に多結晶が付着することを抑制することができる。したがって、筒部(10a)の温度分布が変化することを抑制することができ、SiC単結晶(6)を安定して成長させることができる。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明のように、筒部(10a)の外周壁面に空洞部(10c)と中空部(9b)とを連通する第3出口孔(10j)を形成することができる。
【0014】
これによれば、筒部(10a)の外周壁面と当該外周壁面に対応する反応容器(9)の内周壁面との間の隙間に存在する未反応原料ガスを不活性ガス(16)またはエッチングガスによって希釈することができ、筒部(10a)の外周壁面や当該外周壁面に対応する反応容器(9)の内周壁面に多結晶が付着することを抑制することができる。したがって、筒部(10a)や反応容器(9)の温度分布が変化することを抑制することができ、SiC単結晶(6)を安定して成長させることができる。
【0015】
また、請求項4および請求項7に記載の発明のように、反応容器(9)における他端部側の外周に配置される上部加熱手段(15a)と、反応容器(9)における一端部側の外周に配置される下部加熱手段(15b)と、を有し、反応容器(9)を所定温度に制御する加熱手段(15)を備えることができる。そして、空洞部(10c)に断熱材(17)を配置することができる。また、加熱手段(15)は、反応容器(9)の他端部側の温度が一端部側の温度より高くなるように制御されるものとすることができる。
【0016】
これによれば、空洞部(10c)に断熱材(17)を配置しているため、SiC単結晶(6)の成長表面の温度は下部加熱手段(15b)によって制御される。また、加熱手段(15)は、反応容器(9)の他端部側の温度が一端部側の温度より高くなるように制御される。このため、SiC単結晶(6)の成長表面の温度を所定温度に制御しつつ、筒部(10a)の温度を高くすることができ、筒部(10a)に多結晶が付着することを抑制することができる。
【0017】
また、請求項5および請求項8に記載の発明のように、空洞部(10c)に筒部(10a)を加熱する加熱手段(18)を備えることができる。
【0018】
これによれば、加熱手段(18)によって筒部(10a)の温度を高くすることができるため、筒部(10a)に多結晶が付着することを抑制することができる。また、加熱手段(18)によって筒部(10a)を加熱することにより、SiC単結晶(6)の側面も筒部(10a)の内周壁面からの輻射熱によって加熱されることになる。このため、SiC単結晶(6)の成長表面の温度と、SiC単結晶(6)の種結晶(5)側の温度との温度差を小さくすることができる。したがって、SiC単結晶(6)の内部応力を低減することができ、良好なSiC単結晶(6)を得ることができる。
【0019】
さらに、請求項6および請求項9に記載の発明のように、空洞部(10c)に筒部(10a)を1800℃以下に冷却する冷却手段(19)を備えることができる。
【0020】
ここで、SiCの原料ガス(3)は、一般的に1800℃以下の温度では、粉状(パーティクル)となって多結晶として付着しないことが知られている。このため、冷却手段(19)によって筒部(10a)を1800℃以下に冷却することにより、筒部(10a)に多結晶が付着することを抑制することができる。
【0021】
請求項10ないし請求項13に記載の発明は、請求項1ないし6の製造装置を用いたSiC単結晶の製造方法である。
【0022】
すなわち、請求項10に記載の発明では、SiC単結晶(6)が成長する空間を取り囲む状態で反応容器(9)に固定される筒状の筒部(10a)を有するガイド(10)を備え、反応容器(9)の中空部(9b)を構成する側部(9d)に当該反応容器(9)の中心軸に沿った導入通路(9c)を形成し、ガイド(10)に、内部を空洞として空洞部(10c)を構成し、かつ空洞部(10c)と導入通路(9c)とを連通する連通孔(10d)を形成すると共に空洞部(10c)と中空部(9b)とを連通する第1出口孔(10e)を筒部(10a)の内周壁面に形成し、導入通路(9c)および空洞部(10c)を介して第1出口孔(10e)から不活性ガス(16)またはエッチングガスを中空部(9b)に導入することを特徴としている。
【0023】
このような製造方法では、請求項1に記載の発明と同様に、筒部(10a)の内周壁面とSiC単結晶(6)との間の隙間に存在する未反応原料ガスは、不活性ガス(16)またはエッチングガスによって希釈されるため、筒部(10a)の内周壁面やSiC単結晶の側面に多結晶が付着することを抑制することができる。また、筒部(10a)の内周壁面とSiC単結晶(6)の側面との間に未反応原料ガスが導入されること自体も抑制することができる。したがって、SiC単結晶(6)の成長に伴って引き上げ手段(14)によって台座(11)を反応容器(9)の中心軸に沿って移動させることができ、SiC単結晶(6)を連続、長尺成長させることができる。
【0024】
また、請求項11に記載の発明のように、反応容器(9)における他端部側の外周に配置される上部加熱手段(15a)と、反応容器(9)における一端部側の外周に配置される下部加熱手段(15b)と、を有し、反応容器(9)を所定温度に制御する加熱手段(15)を備え、空洞部(10c)に断熱材(17)を配置し、反応容器(9)の他端部側の温度が一端部側の温度より高くなるように加熱手段(15)を制御することができる。
【0025】
これによれば、請求項4および請求項7に記載の発明と同様に、SiC単結晶(6)の成長表面の温度を所定温度に制御しつつ、筒部(10a)の温度を高くすることができるため、筒部(10a)に多結晶が付着することを抑制することができる。
【0026】
そして、請求項12に記載の発明のように、空洞部(10c)に当該筒部(10a)を加熱する加熱手段(18)を備え、加熱手段(18)によって筒部(10a)を加熱しつつ、SiC単結晶(6)を成長させることができる。
【0027】
これによれば、請求項5および請求項8に記載の発明と同様に、加熱手段(18)によって筒部(10a)の温度を高くすることができるため、筒部(10a)に多結晶が付着することを抑制することができる。また、SiC単結晶(6)の成長表面の温度と、SiC単結晶(6)の種結晶(5)側の温度との温度差を小さくすることができるため、SiC単結晶(6)の内部応力を低減することができ、良好なSiC単結晶(6)を得ることができる。
【0028】
さらに、請求項13に記載の発明のように、空洞部(10c)に当該筒部(10a)を冷却する冷却手段(19)を備え、冷却手段(19)によって筒部(10a)を1800℃以下に冷却しつつ、SiC単結晶(6)を成長させるができる。
【0029】
これによれば、請求項6および請求項9に記載の発明と同様に、筒部(10a)に多結晶が付着することを抑制することができる。
【0030】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態における結晶成長装置の断面図である。
【図2】図1に示す領域Aの拡大図である。
【図3】(a)は図2のB−B断面図、(b)は図2のC−C断面図、(c)は図2のD−D断面図である。
【図4】結晶成長装置内における原料ガスおよび不活性ガスの供給経路を示す図である。
【図5】ガイド内における不活性ガスの供給経路を示す図である。
【図6】本発明の第2実施形態における結晶成長装置の部分拡大図である。
【図7】本発明の第3実施形態における結晶成長装置の部分拡大図である。
【図8】本発明の第4実施形態における結晶成長装置の部分拡大図である。
【図9】(a)は図8に示す結晶成長装置の温度分布をシミュレーションにより調べた結果を示す図、(b)は従来の結晶成長装置の温度分布をシミュレーションにより調べた結果を示す図である。
【図10】本発明の第5実施形態における結晶成長装置の部分拡大図である。
【図11】図10に示すRFコイルの概略斜視図である。
【図12】本発明の第6実施形態における結晶成長装置の部分拡大図である
【発明を実施するための形態】
【0032】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は、本実施形態におけるSiC単結晶の結晶成長装置(製造装置)の断面構成を示す図、図2は図1に示す領域Aの拡大図、図3(a)は図2のB−B断面図、図3(b)は図2のC−C断面図、図3(c)は図2のD−D断面図である。
【0033】
図1に示される結晶成長装置(製造装置)1は、底部に備えられた流入口2aを通じてSiおよびCを含有するSiCの原料ガス3を供給し、上部に備えられた流出口4を通じて排出することで、結晶成長装置1内に配置したSiC単結晶基板からなる種結晶5上にSiC単結晶6を結晶成長させるものである。
【0034】
このような結晶成長装置1は、真空容器7、第1断熱材8、反応容器9、ガイド10、台座11、第2断熱材12、X線装置13、シャフト14、加熱装置15を備えて構成されている。
【0035】
真空容器7は、中空円筒状をなしており、アルゴンガス(Ar)等を導入することができ、かつ、結晶成長装置1の他の構成要素を収容すると共に、その収容している内部空間の圧力を真空引きすることにより減圧できる構造とされている。そして、この真空容器7には、底部に原料ガス3の流入口2aが設けられると共に流入口2bが設けられており、上部(具体的には側壁の上方位置)に原料ガス3の流出口4が設けられている。また、真空容器7の上面には、貫通孔7aが形成されている。
【0036】
第1断熱材8は、円筒等の筒形状とされており、例えば黒鉛や表面をTaC(炭化タンタル)にてコーティングした黒鉛等で構成されている。また、第1断熱材8は、第1断熱材8を貫通すると共に流入口2aと繋げられた原料ガス導入孔8aと、第1断熱材8を貫通すると共に当該原料ガス導入孔8aに平行に形成された貫通孔8bとを有している。そして、貫通孔8bには、黒鉛等で構成される配管8cが備えられている。この配管8cは、一端側が真空容器7の底部に備えられた流入口2b内に引き出されている。
【0037】
配管8cは、後述するように不活性ガスの通路となるものであり、不活性ガスが第1断熱材8に染み出すことを防止するものである。なお、原料ガス導入孔8aに黒鉛等で構成される配管8cが備えられないのは、配管8cを備えると原料ガス3が配管8c内で再結晶化して詰まる可能性があるためである。
【0038】
反応容器9は、図1に示されるように、原料ガス3が流れる空間を構成しており、中空部9bを有する有底円筒状とされている。本実施形態では、この反応容器9は、底面が第1断熱材8と同径とされており、例えば、黒鉛や表面をTaC(炭化タンタル)にてコーティングした黒鉛等で構成されている。そして、反応容器9の底面の中央位置には、原料ガス導入孔8aと対応する貫通孔9aが形成されており、底面が第1断熱材8に接触させられることにより原料ガス導入孔8aと貫通孔9aとが連通されている。すなわち、貫通孔9aを介して原料ガス導入孔8aから原料ガス3が反応容器9内に導入されるようになっている。なお、本実施形態では、反応容器9の底面側が本発明の一端部側に相当し、反応容器9の開口部側が本発明の他端部側に相当している。
【0039】
また、反応容器9は、図1、図2および図3(a)に示されるように、反応容器9の中心軸に沿って延びる導入通路9cを中空部9bを構成する側部9dに備えている。この導入通路9cは、一端部が反応容器9の底面まで達して上記配管8cと連通されており、他端部が反応容器9の開口部の端面まで達している。また、図2では、第2断熱材12は省略して示してある。
【0040】
ガイド10は、図1に示されるように、種結晶5よりも径が大きく、反応容器9よりも径が小さくされている円筒状とされた筒部10aを有している。また、ガイド10は、筒部10aの一端部側に反応容器9と同径とされ、筒部10aと一体化されている円板状の蓋部10bを有している。そして、蓋部10bは、筒部10aがSiC単結晶6が成長する空間(SiC単結晶6の側面)を取り囲む状態で筒部10aのうち蓋部10bが備えられる一端部と反対側の他端部(以下では、先端部という)が反応容器9の中空部9b内に配置されるように、反応容器9の開口部の端面に備えられている。
【0041】
また、ガイド10は、図2に示されるように、内部が空洞とされて空洞部10cが構成されている。そして、図2および図3(b)に示されるように、蓋部10bのうち導入通路9cと対応する部分に、空洞部10cと導入通路9cとを連通する連通孔10dが形成されている。さらに、図2および図3(c)に示されるように、筒部10aのうち内周壁面には、空洞部10cと中空部9bとを連通する第1出口孔10eが複数形成されている。本実施形態では、これら複数の第1出口孔10eは、筒部10aの中心軸に沿って一定間隔で形成されていると共に筒部10aの周方向に沿って一定間隔で形成されており、それぞれ円形状とされている。
【0042】
以上説明したように、上記配管8c、導入通路9c、連通孔10d、空洞部10c、第1出口孔10eによって外部と反応容器9の中空部9bとを繋ぐ通路が構成されており、後述するように、当該通路を介して中空部9bに不活性ガスが導入されるようになっている。
【0043】
また、蓋部10bには、図2および図3(b)に示されるように、中央位置に貫通孔10fが形成されている。さらに、蓋部10bのうち反応容器9と対向する部分と筒部10aと一体化されている部分との間には、周方向に沿って一定間隔で複数の貫通孔10gが形成されている。そして、各貫通孔10gに配管が備えられて原料ガス出口通路10hが構成されている。この原料ガス出口通路10hは、反応容器9の中空部9bと当該反応容器9の外部とを連通するものであり、未反応原料ガスの出口となる部分である。なお、この原料ガス出口通路10hは、空洞部10cとは連通されていない。
【0044】
台座11は、図1および図2に示されるように、一面に種結晶5を配置するために用いられる円柱形状の部材であって黒鉛等で構成されており、反応容器9の中空部9b内に配置されている。そして、台座11の一面(図1中下側の面)には種結晶5が取り付けられている。この種結晶5は台座11と同径、もしくは台座11よりやや大きくされている。なお、台座11の形状や寸法は、取り付けられる種結晶5のサイズ等により適宜変更可能である。
【0045】
第2断熱材12は、図1に示されるように、真空容器7の側壁面に沿って配置され、中空筒状をなしている。この第2断熱材12により、ほぼ第1断熱材8や反応容器9等が囲まれている。第2断熱材12は、例えばフェルトカーボン等で構成されている。
【0046】
X線装置13は、種結晶5上に成長させるSiC単結晶6の成長量を計測するものであり、真空容器7の外側に配置されている。
【0047】
シャフト14は、台座11を支持すると共に、SiC単結晶6の成長に合わせて台座11を反応容器9の中心軸に沿って引き上げるものであり、X線装置13の測定結果に基づいて引き上げ量が適宜調整される。このシャフト14は円筒等の筒形状とされており、蓋部10bに形成されている貫通孔10fよりわずかに径が小さくされている。そして、一端部が貫通孔10fを介して台座11のうち種結晶5が配置されている一面と反対の他面(図1中上側の面)に備えられている。また、他端部は、真空容器7に形成された貫通孔7aを介して外部から引き出されている。なお、本実施形態では、シャフト14が本発明の引き上げ手段に相当している。
【0048】
加熱装置15は、真空容器7を介して反応容器9の開口部側の外周に配置される上部誘導加熱用コイル15a、真空容器7を介して反応容器9の底面側の外周に配置される下部誘導加熱用コイル15bおよびヒータ等で構成されている。この加熱装置15は、通電されることにより上部誘導加熱用コイル15aおよび下部誘導加熱用コイル15bを加熱してヒータを誘導加熱し、輻射熱により反応容器9を加熱するものである。そして、上部誘導加熱用コイル15aおよび下部誘導加熱用コイル15bに対する通電量等が適宜調整されることにより、反応容器9内の温度を所定温度に制御することができるようになっている。以上が本実施形態にかかる結晶成長装置1の全体構成である。
【0049】
次に、上記の結晶成長装置1を用いたSiC単結晶6の製造方法について、図4および図5を参照して説明する。図4は、結晶成長装置1内における原料ガス3および不活性ガスの供給経路を示す図であり、図5は、ガイド10内における不活性ガスの供給経路を示す図である。
【0050】
まず、図4に示されるように、台座11に種結晶5を貼り付け、シャフト14を介して台座11を反応容器9の中空部9bに配置する。続いて、図示しない排気機構を用いて真空容器7の真空引きを行うことで、真空容器7内を真空にする。そして、加熱装置15の上部誘導加熱用コイル15aおよび下部誘導加熱用コイル15bに通電することでヒータを誘導加熱し、その輻射熱によって真空容器7の内部を加熱する。具体的には、SiC単結晶6の成長表面の温度が1800〜2300℃程度になるように通電量を調整して加熱する。
【0051】
その後、キャリアガスに原料ガス3を含ませて真空容器7の流入口2aから真空容器7の内部に原料ガス3を導入する。これにより、図4に示されるように、原料ガス3は第1断熱材8の原料ガス導入孔8aおよび反応容器9の貫通孔9aを介して反応容器9の中空部9bに導入される。このため、原料ガス3が種結晶5に供給され、種結晶5上にSiC単結晶6が成長していく。
【0052】
また、SiC単結晶6の成長に合わせて、反応容器9の中心軸を中心としてシャフト14によって台座11を回転させながら引き上げる。この場合、X線装置13によってSiC単結晶6の成長量を確認しつつ、SiC単結晶6の成長表面と筒部10aの先端部とがほぼ一致するようにシャフト14によって台座11を引き上げる。
【0053】
なお、SiC単結晶6の成長表面と筒部10aの先端部とをほぼ一致するようにするのは、以下の理由のためである。すなわち、SiC単結晶6の成長表面が筒部10aの先端部より大きく突出すると、SiC単結晶6が径方向に拡大することになり、拡大した部分が筒部10aに引っ掛かって台座11(SiC単結晶6)をシャフト14により引き上げることができなくなるためである。また、SiC単結晶6の成長表面が筒部10aの先端部に対して大きく内側に存在すると、つまりSiC単結晶6の成長表面が筒部10aの先端部に対して大きく埋もれていると、SiC単結晶6の表面に原料ガス3が接触しにくくなり、成長速度が遅くなるためである。
【0054】
また、本実施形態では、図4および図5に示されるように、反応容器9の中空部9bに原料ガス3を導入する際、配管8cに不活性ガス16を導入し、導入通路9c、連通孔10d、空洞部10cを介して複数の第1出口孔10eから反応容器9の中空部9bに不活性ガス16を導入する。より詳しくは、筒部10aの内周壁面と、SiC単結晶6、種結晶5、台座11との間の隙間に不活性ガス16を導入する。
【0055】
これにより、筒部10aの内周壁面と、SiC単結晶6、種結晶5、台座11との間の隙間に存在する未反応原料ガスを不活性ガス16によって希釈することができ、筒部10aの内周壁面に多結晶が付着することを抑制することができる。また、当該隙間に存在する未反応原料ガスを不活性ガス16によって希釈することができるため、SiC単結晶6、種結晶5、台座11の側面に多結晶が付着することも抑制することができる。さらに、筒部10aの内周壁面と、SiC単結晶6、種結晶5、台座11との間の隙間に不活性ガスを導入することにより、当該隙間に未反応原料ガスが導入されること自体も抑制することができる。なお、不活性ガス16は、特に限定されるものではないが、窒素はドーパントになる可能性があるため、アルゴン、ヘリウム等を用いることが好ましい。特に、アルゴンは、Si等の原料ガス3より分子量が大きく、筒部10aの内周壁面と、SiC単結晶6、種結晶5、台座11との間の隙間に未反応原料ガスが導入されることを抑制する効果が大きいため好ましい。
【0056】
そして、未反応原料ガスは、筒部10aの外周壁面と反応容器9の内周壁面との間の隙間を通過して蓋部10bに形成された原料ガス出口通路10hを介して反応容器9外に排出され、その後流出口4から排出される。
【0057】
以上説明したように、実施本形態では、筒部10aの内周壁面と、SiC単結晶6、種結晶5、台座11との間の隙間に、第1出口孔10eから不活性ガス16を導入している。このため、筒部10aの内周壁面と、SiC単結晶6、種結晶5、台座11との間の隙間に存在する未反応原料ガスは、不活性ガス16によって希釈されるため、筒部10aの内周壁面やSiC単結晶6、種結晶5、台座11の側面に多結晶が付着することを抑制することができる。さらに、筒部10aの内周壁面と、SiC単結晶6、種結晶5、台座11との間の隙間に、第1出口孔10eから不活性ガス16を導入しているため、筒部10aの内周壁面とSiC単結晶6の側面との間に未反応原料ガスが導入されること自体も抑制することができる。したがって、SiC単結晶6の成長に伴って台座11を移動させることができ、SiC単結晶6を連続、長尺成長させることができる。
【0058】
さらに、台座11を引き上げるに際し、反応容器9の中心軸を中心として台座11を回転させているので、筒部10aの内周壁面とSiC単結晶6、種結晶5、台座11との間の隙間の一箇所に不活性ガス16が集中して供給されないようにすることができる。すなわち、不活性ガス16は、連通孔10dに近い第1出口孔10eから導入される流量が連通孔10dに遠い第1出口孔10eから導入される流量より多くなるが、台座11を回転させながら引き上げることにより、筒部10aの中心軸の周方向に不活性ガス16を均一に供給することができ、筒部10aの内周壁面において全体的に多結晶が付着することを抑制することができる。
【0059】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、ガイド10の形状を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。図6は、本実施形態における結晶成長装置1の部分拡大図である。なお、図6は、図1に示す領域Aに相当しており、本実施形態における結晶成長装置1の他の構成要素に関しては図1と同様である。
【0060】
図6に示されるように、本実施形態では、筒部10aの先端部は、内周壁面の先端より外壁面の先端の方が筒部10aの一端部(蓋部10b)からの距離が短いテーパ形状とされている。
【0061】
これによれば、筒部10aは、先端部を上記のようなテーパ形状にしているため、先端部が反応容器9からの輻射熱を得やすくなる。すなわち、筒部10aの先端部の温度を高くすることができ、これに伴って筒部10a全体の温度を高くすることができる。このため、筒部10aの内周壁面に多結晶が付着されることを抑制することができる。
【0062】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、ガイド10の形状を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。図7は、本実施形態における結晶成長装置1の部分拡大図である。なお、図7は、図1に示す領域Aに相当しており、本実施形態における結晶成長装置1の他の構成要素に関しては図1と同様である。
【0063】
図7に示されるように、本実施形態では、筒部10aには、先端部に空洞部10cと中空部9bとを連通する複数の第2出口孔10iが形成されていると共に外周壁面に空洞部10cと中空部9bとを連通する複数の第3出口孔10jが形成されている。具体的には、第2出口孔10iは、筒部10aの先端部において、周方向に一定間隔で形成されている。また、第3出口孔10jは、第1出口孔10eと同様に、筒部10aの中心軸に沿って一定間隔で形成されていると共に筒部10aの周方向に沿って一定間隔で形成されている。特に限定されるものではないが、本実施形態では、これら第2、第3出口孔10i、10jは、第1出口孔10eと同様に、円形状とされている。
【0064】
これによれば、不活性ガス16は、筒部10aの先端部から第2出口孔10iを介して中空部9bに導入される。このため、筒部10aの先端部近傍の未反応原料ガスを希釈することができ、筒部10aの先端部に多結晶が付着することを抑制することができる。また、不活性ガス16は、筒部10aの外周壁面から第3出口孔10jを介しても中空部9b、具体的には、筒部10aの外周壁面と当該外周壁面と対応する反応容器9の内周壁面との間に構成される隙間(通路)に導入される。このため、この隙間に存在する未反応原料ガスを希釈することができ、筒部10aの外周壁面や当該外周壁面に対応する反応容器9の内周壁面に多結晶が付着することを抑制することができる。したがって、SiC単結晶6の成長を妨げることなく反応容器9や筒部10aの温度分布が変化することを抑制することができ、SiC単結晶6を安定して成長させることができる。
【0065】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、空洞部10cに断熱材を配置したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。図8は、本実施形態における結晶成長装置1の部分拡大図である。なお、図8は、図1に示す領域Aに相当しており、本実施形態における結晶成長装置1の他の構成要素に関しては図1と同様である。
【0066】
図8に示されるように、本実施形態では、筒部10aの空洞部10cに多孔質性のボーラスカーボン等で構成される断熱材17が配置されている。断熱材17は、筒部10aに設けられている空洞部10cと同径のリング状とされており、筒部10aの空洞部10cにおける先端部側に配置されている。
【0067】
また、特に図示しないが、図1における流入口2aの下方には、サーモビューアが配置されており、サーモビューアによってSiC単結晶6の成長表面の温度や筒部10aの先端部の温度を測定できるようになっている。
【0068】
次に、本実施形態の結晶成長装置1を用いたSiC単結晶6の製造方法について説明する。まず、上記第1実施形態と同様に、反応容器9の中空部9bに種結晶5を配置し、加熱装置15によって真空容器7の内部を加熱する。このとき、反応容器9のうち開口部側、つまり、反応容器9のうち筒部10aを囲む部分が底面側より高温になるように、上部誘導加熱用コイル15aの通電量を下部誘導加熱用コイル15bの通電量より大きくする。その後、キャリアガスに原料ガス3を含ませて真空容器7の流入口2aから真空容器7の内部に原料ガス3を導入し、種結晶5にSiC単結晶6を成長させる。
【0069】
なお、断熱材17は多孔質性とされているため、不活性ガス16は断熱材17を介して第1出口孔10eから中空部9bに導入される。また、SiC単結晶6の成長表面の温度は、SiC単結晶6が空洞部10cに断熱材17を備えた筒部10aに囲まれているため、反応容器9の底面側からの輻射熱によって制御される。すなわち、SiC単結晶6の成長表面の温度は、下部誘導加熱用コイル15bの通電量によって制御される。そして、SiC単結晶6の成長中は、サーモビューアによってSiC単結晶6の成長表面の温度分布を観察しつつ、上部誘導加熱用コイル15aおよび下部誘導加熱用コイル15bの通電量を適宜調整している。また、本実施形態では、上部誘導加熱用コイル15aが本発明の上部加熱手段に相当し、下部誘導加熱用コイル15bが本発明の下部加熱手段に相当している。
【0070】
これによれば、筒部10aにおける空洞部10cに断熱材17を配置しているため、SiC単結晶6の成長表面の温度は下部誘導加熱用コイル15bによって制御される。また、上部誘導加熱用コイル15aの通電量を下部誘導加熱用コイル15bの通電量より大きくしているため、筒部10aの温度を高くすることができる。すなわち、SiC単結晶6の成長表面の温度を第1実施形態と同じにしつつ、筒部10aの温度を高くすることができる。
【0071】
図9は、本実施形態の結晶成長装置1と従来の結晶成長装置の温度分布をシミュレーションにより調べた結果を示す図であり、(a)は本実施形態における結晶成長装置1のシミュレーション結果、(b)は従来の結晶成長装置のシミュレーション結果である。なお、従来の結晶成長装置とは、筒部10aに空洞部10cが設けられていないものである。また、図9では、上部誘導加熱用コイル15aの通電量を10kWとし、下部誘導加熱用コイル15bの通電量を50kWとしたときのものである。
【0072】
図9に示されるように、本実施形態の結晶成長装置1では、従来の結晶成長装置と比較して、SiC単結晶6の成長表面の温度をほぼ同じにしつつ、従来の結晶成長装置における筒部の所定位置と同じ高さの筒部10aの温度を高くすることができる。このため、筒部10aに多結晶が付着することを抑制することができる。
【0073】
(第5実施形態)
本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して、空洞部10cに加熱手段を配置したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。図10は、本実施形態における結晶成長装置1の部分拡大図である。なお、図10は、図1に示す領域Aに相当しており、本実施形態における結晶成長装置1の他の構成要素に関しては図1と同様である。
【0074】
図10に示されるように、本実施形態では、筒部10aの空洞部10cに加熱手段としてのRFコイル18が配置されている。図11は、RFコイルの概略斜視図である。図10および図11に示されるように、RFコイル18は、通電されることにより筒部10aを誘導加熱するものであり、銅等で構成される導電部18aと、導電部18aの内部が空洞とされて当該空洞にて構成される冷却通路18bとを備えて構成されている。冷却通路18bは、水が流されることによって導電部18a自体の温度が上昇しすぎることを抑制する部分である。そして、このRFコイルは空洞部10cの壁面に沿って螺旋状に配置されている。
【0075】
また、蓋部10bには、筒部10aが備えられる側と反対側の一面に2つの貫通孔10k、10mが形成されている。そして、RFコイル18の一端部および他端部は、それぞれ貫通孔10k、10mを介してガイド10の外側に引き出されて真空容器7の外側まで引き出されている。なお、特に図示しないが、図1における真空容器7にもRFコイル18の一端部および他端部を貫通させる貫通孔が形成されている。
【0076】
なお、このように空洞部10cにRFコイル18を備えるには、例えば、次のようにすればよい。すなわち、まず、ガイド10のうち、蓋部10bにおける筒部10a側と反対側の一面を除いた第1部材を形成する。そして、空洞部10cに螺旋状にRFコイル18を配置する。その後、貫通孔10k、10mが形成された円板状の第2部材を用意し、当該第2部材を第1部材に貫通孔10k、10mからRFコイル18の一端部および他端部が突出するように接合する。これにより、空洞部10cにRFコイル18を配置することができる。
【0077】
次に、本実施形態の結晶成長装置1を用いたSiC単結晶6の製造方法について説明する。まず、上記第1実施形態と同様に、反応容器9の中空部9bに種結晶5を配置し、加熱装置15によって真空容器7の内部を加熱する。また、RFコイル18に通電することによって筒部10aを誘導加熱する。このとき、RFコイル18の冷却通路18bに水を流すことにより、導電部18a自体の温度が上昇しすぎて破壊されることを防止する。その後、キャリアガスに原料ガス3を含ませて真空容器7の流入口2aから真空容器7の内部に原料ガス3を導入し、種結晶5にSiC単結晶6を成長させる。
【0078】
なお、不活性ガス16は、RFコイル18と空洞部10cの壁面との間の隙間を介して第1出口孔10eから中空部9bに導入される。
【0079】
これによれば、RFコイル18によって筒部10aを加熱しており、筒部10aの温度を高くすることができるため、筒部10aに多結晶が付着することを抑制することができる。
【0080】
また、RFコイル18によって筒部10aを加熱することにより、SiC単結晶6の側面も筒部10aの内周壁面からの輻射熱によって加熱されることになる。このため、SiC単結晶6の成長表面の温度と、SiC単結晶6の種結晶5側の温度との温度差を小さくすることができる。したがって、SiC単結晶6の内部応力を低減することができ、良好なSiC単結晶6を得ることができる。
【0081】
(第6実施形態)
本発明の第6実施形態について説明する。本実施形態は、第5実施形態に対して、空洞部10cに冷却手段を配置したものであり、その他に関しては第5実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。図12は、本実施形態における結晶成長装置1の部分拡大図である。なお、図12は、図1に示す領域Aに相当しており、本実施形態における結晶成長装置1の他の構成要素に関しては図1と同様である。
【0082】
図12に示されるように、本実施形態では、筒部10aの空洞部10cに冷却手段としての水冷管19が配置されている。この水冷管19は、上記RFコイル18とほぼ同じものであり、冷却通路(空洞)を構成する壁面に電流を長さないものである。そして、上記RFコイル18と同様に、空洞部10cの壁面に沿って螺旋状に配置されており、一端部および他端部が蓋部10bに形成された貫通孔10k、10mを介してガイド10の外側に引き出されている。
【0083】
次に、本実施形態の結晶成長装置1を用いたSiC単結晶6の製造方法について説明する。まず、上記第1実施形態と同様に、反応容器9の中空部9bに種結晶5を配置し、加熱装置15によって真空容器7の内部を加熱する。また、水冷管19に水を流すことにより、筒部10aを冷却する。このとき、原料ガス3は、一般的に1800℃以下の温度では、粉状(パーティクル)となって付着しないことが知られているため、筒部10aの温度が1800℃以下の温度となるように水温を調整する。その後、キャリアガスに原料ガス3を含ませて真空容器7の流入口2aから真空容器7の内部に原料ガス3を導入し、種結晶5にSiC単結晶6を成長させる。
【0084】
なお、不活性ガス16は、水冷管19と空洞部10cの壁面との間の隙間を介して第1出口孔10eから中空部9bに導入される。
【0085】
これによれば、水冷管19によって筒部10aを1800℃以下に冷却するため、筒部10aに多結晶が付着することを抑制することができる。
【0086】
(他の実施形態)
上記各実施形態では、第1出口孔10eが円形状とされているものを説明したが、例えば、第1出口孔10eは正方形状とされていてもよいし、多角形状とされていてもよい。また、楕円や矩形状等のいわゆるスリット状とされていてもよい。さらに、上記第3実施形態において、第2、第3出口孔10i、10jも同様であり、正方形状や多角形状とされていてもよいし、スリット状とされていてもよい。
【0087】
また、上記各実施形態では、第1出口孔10eは筒部10aの中心軸に沿って一定間隔で形成されている例について説明したが、例えば、第1出口孔10eは、蓋部10b側において密集して形成されると共に先端部側においてまばらに形成されていてもよい。このように第1出口孔10eを形成することにより、SiC単結晶6の成長表面近傍の原料ガス3が希釈されることを抑制することができ、SiC単結晶6の成長が不活性ガスによって阻害されることを抑制することができる。
【0088】
さらに、上記各実施形態では、第1出口孔10eは複数形成されている例について説明したが、第1出口孔10eは1つだけ形成されていてもよい。このように、第1出口孔10eが1つだけであるとしても、シャフト14によって台座11が回転されるため、不活性ガス16が一箇所に集中することを抑制することができる。
【0089】
また、上記各実施形態では、筒部10aの内周壁面とSiC単結晶6、種結晶5、台座11との間に不活性ガス16を供給する例について説明したが、例えば、筒部10aの内周壁面とSiC単結晶6、種結晶5、台座11との間にHClやCl等のエッチングガスを導入してもよい。このように、エッチングガスを導入するようにしても、当該エッチングガスによって未反応原料ガスを希釈することができるため、同様の効果を得ることができる。
【0090】
さらに、上記各実施形態において、導入通路9cを反応容器9の中心軸に沿って形成すると共に反応容器9の周方向に沿って形成することもできる。また、連通孔10dを蓋部10bの周方向に一定間隔で離間して複数形成し、導入通路9cと空洞部10cとを各連通孔10dを介して連通させることができる。これによれば、不活性ガス16は反応容器9の周方向に拡散しながら導入通路9cを通過し、その後に各連通孔10dを介して空洞部10cに導入される。このため、周方向に離間している各第1出口孔10eから中空部9bに導入される不活性ガス16の流量がばらつくことを抑制することができ、筒部10aの内周壁面とSiC単結晶6、種結晶5、台座11との間により均一に不活性ガス16を導入することができる。
【0091】
また、上記各実施形態では、流入口2aから原料ガス3を導入してSiC単結晶6を成長させるガス成長法に本発明を適用した例について説明したが、反応容器9の底面に原料粉末を配置し、当該原料粉末を昇華させてSiC単結晶6を成長させる昇華成長法に本発明を適用することも可能である。すなわち、本発明の原料ガスとは、原料粉末を昇華させた昇華ガスを含むものである。
【0092】
そして、上記各実施形態に示された結晶成長装置1の具体的な構造は、単なる一例であり、形状や材質などについて適宜変更することができる。例えば、反応容器9として有底円筒状のものを例に挙げて説明したが、例えば、中空筒状のものであってもよい。また、筒部10aとして円筒状のものを例に挙げて説明したが、筒部10aは多角形筒状のものであってももちろんよい。
【0093】
さらに、上記各実施形態を適宜組み合わせることができる。すなわち、第2実施形態を各実施形態に組み合わせて筒部10aの先端部をテ−パ形状としてもよい。また、第3実施形態を各実施形態に組みあわて、筒部10aに第2、第3出口孔10i、10jを形成してもよい。さらに、上記第4実施形態にて説明したように、各実施形態において、サーモビューアにてSiC単結晶6の成長表面および筒部10aの先端部の温度を測定しながらSiC単結晶6を成長させるようにしてもよい。
【0094】
また、上記第2実施形態では、筒部10aの先端部がテ−パ形状とされている例について説明したが、例えば、筒部10aの先端部が曲率を有する曲面とされていてもよい。これによれば、筒部10aの先端部が筒部10aの中心軸と垂直となる平面とされている場合と比較して、筒部10aの先端部に多結晶が付着することを抑制することができ、SiC単結晶6の成長を妨げることなく筒部10aの温度分布が変化することを抑制することができる。
【0095】
そして、上記第3実施形態では、筒部10aに第2、第3出口孔10i、10jが形成されている例について説明したが、いずれか一方のみが形成されていてもよい。
【0096】
さらに、上記第5実施形態では、加熱手段としてRFコイル18を用いる例について説明したが、例えば、抵抗加熱を用いて筒部10aを加熱するようにしてもよい。
【0097】
そして、上記第6実施形態では、冷却手段として水冷管19に水を流す例について説明したが、例えば、配管に冷風を流すことによって筒部10aを冷却するようにしてもよい。
【0098】
また、上記第4〜第6実施形態において、第1出口孔10eから中空部9bに不活性ガスを導入しないようにしてもよい。すなわち、筒部10aに第1出口孔10eおよび連通孔10dを形成せず、また反応容器9に導入通路9cを形成せず、さらに第1断熱材8に配管8cを備えなくてもよい。このようにしても、上記第4、第5実施形態では、筒部10aの温度を高くするため、筒部10aに多結晶が付着することを抑制することができる。また、上記第6実施形態では、筒部10aを1800℃以下に冷却するため、筒部10aに多結晶が付着することを抑制することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 結晶成長装置
3 原料ガス
6 SiC単結晶
9 反応容器
9c 導入通路
10 ガイド
10a 筒部
10b 蓋部
10c 空洞部
10d 連通孔
10e 第1出口孔
11 台座
16 不活性ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部(9b)を有する筒状の反応容器(9)の前記中空部(9b)に配置される台座(11)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(5)を配置し、該種結晶(5)の表面に炭化珪素の原料ガス(3)を前記反応容器(9)の一端部側から他端部側に供給することにより、前記台座(11)を引き上げ手段(14)によって前記反応容器(9)の中心軸に沿って引き上げながら前記種結晶(5)上に炭化珪素単結晶(6)を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記炭化珪素単結晶(6)が成長する空間を取り囲む筒状の筒部(10a)を有し、前記反応容器(9)に固定されるガイド(10)を備え、
前記反応容器(9)には、前記中空部(9b)を構成する側部(9d)に当該反応容器(9)の中心軸に沿った導入通路(9c)が形成されており、
前記ガイド(10)は、内部が空洞とされて空洞部(10c)が構成され、かつ前記空洞部(10c)と前記導入通路(9c)とを連通する連通孔(10d)が形成されていると共に前記空洞部(10c)と前記中空部(9b)とを連通する第1出口孔(10e)が前記筒部(10a)の内周壁面に形成されており、
前記導入通路(9c)および前記空洞部(10c)を介して前記第1出口孔(10e)から不活性ガス(16)またはエッチングガスを前記中空部(9b)に導入することを特徴とする炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項2】
前記筒部(10a)には、前記炭化珪素単結晶(6)の成長表面側の先端部に、前記空洞部(10c)と前記中空部(9b)とを連通する第2出口孔(10i)が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項3】
前記筒部(10a)には、外周壁面に前記空洞部(10c)と前記中空部(9b)とを連通する第3出口孔(10j)が形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項4】
前記反応容器(9)における前記他端部側の外周に配置される上部加熱手段(15a)と、前記反応容器(9)における前記一端部側の外周に配置される下部加熱手段(15b)と、を有し、前記反応容器(9)を所定温度に制御する加熱手段(15)を備え、
前記筒部(10a)には、前記空洞部(10c)に断熱材(17)が配置されており、
前記加熱手段(15)は、前記反応容器(9)の前記他端部側の温度が前記一端部側の温度より高くなるように制御されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項5】
前記空洞部(10c)には、前記筒部(10a)を加熱する加熱手段(18)が備えられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項6】
前記空洞部(10c)には、前記筒部(10a)を1800℃以下に冷却する冷却手段(19)が備えられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項7】
中空部(9b)を有する筒状の反応容器(9)の前記中空部(9b)に配置される台座(11)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(5)を配置し、該種結晶(5)の表面に炭化珪素の原料ガス(3)を前記反応容器(9)の一端部側から他端部側に供給することにより、前記台座(11)を引き上げ手段(14)によって前記反応容器(9)の中心軸に沿って引き上げながら前記種結晶(5)上に炭化珪素単結晶(6)を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記反応容器(9)における前記他端部側の外周に配置される上部加熱手段(15a)と、前記反応容器(9)における前記一端部側の外周に配置される下部加熱手段(15b)と、を有し、前記反応容器(9)を所定温度に制御する加熱手段(15)と、
前記炭化珪素単結晶(6)が成長する空間を取り囲む状態で前記反応容器(9)に固定され、内部が空洞とされて空洞部(10c)が構成された筒状の筒部(10a)を有するガイド(10)と、
前記空洞部(10c)に配置される断熱材(17)と、を備え、
前記加熱手段(15)は、前記反応容器(9)の前記他端部側の温度が前記一端部側の温度より高くなるように制御されることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項8】
中空部(9b)を有する筒状の反応容器(9)の前記中空部(9b)に配置される台座(11)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(5)を配置し、該種結晶(5)の表面に炭化珪素の原料ガス(3)を前記反応容器(9)の一端部側から他端部側に供給することにより、前記台座(11)を引き上げ手段(14)によって前記反応容器(9)の中心軸に沿って引き上げながら前記種結晶(5)上に炭化珪素単結晶(6)を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記炭化珪素単結晶(6)が成長する空間を取り囲む状態で前記反応容器(9)に固定され、内部が空洞とされて空洞部(10c)が構成された筒状の筒部(10a)を有するガイド(10)と、
前記空洞部(10c)に配置されて前記筒部(10a)を加熱する加熱手段(18)と、を備えていることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項9】
中空部(9b)を有する筒状の反応容器(9)の前記中空部(9b)に配置される台座(11)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(5)を配置し、該種結晶(5)の表面に炭化珪素の原料ガス(3)を前記反応容器(9)の一端部側から他端部側に供給することにより、前記台座(11)を引き上げ手段(14)によって前記反応容器(9)の中心軸に沿って引き上げながら前記種結晶(5)上に炭化珪素単結晶(6)を成長させる炭化珪素単結晶の製造装置において、
前記炭化珪素単結晶(6)が成長する空間を取り囲む状態で前記反応容器(9)に固定され、内部が空洞とされて空洞部(10c)が構成された筒状の筒部(10a)を有するガイド(10)と、
前記空洞部(10c)に配置されて前記筒部(10a)を1800℃以下に冷却する冷却手段(19)と、を備えていることを特徴とする炭化珪素単結晶の製造装置。
【請求項10】
中空部(9b)を有する筒状の反応容器(9)の前記中空部(9b)に配置される台座(11)に対して炭化珪素単結晶基板にて構成された種結晶(5)を配置し、該種結晶(5)の表面に炭化珪素の原料ガス(3)を前記反応容器(9)の一端部側から他端部側に供給することにより、前記台座(11)を引き上げ手段(14)によって前記反応容器(9)の中心軸に沿って引き上げながら前記種結晶(5)上に炭化珪素単結晶(6)を成長させる炭化珪素単結晶の製造方法において、
前記炭化珪素単結晶(6)が成長する空間を取り囲む状態で前記反応容器(9)に固定される筒状の筒部(10a)を有するガイド(10)を備え、
前記反応容器(9)の前記中空部(9b)を構成する側部(9d)に当該反応容器(9)の中心軸に沿った導入通路(9c)を形成し、
前記ガイド(10)に、内部を空洞として空洞部(10c)を構成し、かつ前記空洞部(10c)と前記導入通路(9c)とを連通する連通孔(10d)を形成すると共に前記空洞部(10c)と前記中空部(9b)とを連通する第1出口孔(10e)を前記筒部(10a)の内周壁面に形成し、
前記導入通路(9c)および前記空洞部(10c)を介して前記第1出口孔(10e)から不活性ガス(16)またはエッチングガスを前記中空部(9b)に導入することを特徴とする炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項11】
前記反応容器(9)における前記他端部側の外周に配置される上部加熱手段(15a)と、前記反応容器(9)における前記一端部側の外周に配置される下部加熱手段(15b)と、を有し、前記反応容器(9)を所定温度に制御する加熱手段(15)を備え、
前記空洞部(10c)に断熱材(17)を配置し、
前記反応容器(9)の前記他端部側の温度が前記一端部側の温度より高くなるように前記加熱手段(15)を制御することを特徴とする請求項10に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項12】
前記空洞部(10c)に前記筒部(10a)を加熱する加熱手段(18)を備え、
前記加熱手段(18)によって前記筒部(10a)を加熱しつつ、前記炭化珪素単結晶(6)を成長させることを特徴とする請求項10に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。
【請求項13】
前記空洞部(10c)に前記筒部(10a)を冷却する冷却手段(19)を備え、
前記冷却手段(19)によって前記筒部(10a)を1800℃以下に冷却しつつ、前記炭化珪素単結晶(6)を成長させることを特徴とする請求項10に記載の炭化珪素単結晶の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−1618(P2013−1618A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−136438(P2011−136438)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】