説明

炭素ドープシリコン単結晶の製造方法

【課題】炭素ドープシリコン単結晶の引き上げ時の有転位化を効果的に抑制して、歩留まりを向上させることができる炭素ドープシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】炭素を添加したシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる炭素ドープシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン単結晶の引き上げにおいて、シリコンの融点から1400℃の間の引き上げ軸方向の結晶温度勾配の平均値をG[℃/mm]で表した時、少なくとも固化率が20%までは、Gの値が1.0〜3.5[℃/mm]で、かつ、前記シリコン単結晶の成長中の固液界面の径方向面内中心部のSrcs値(von Mises相当応力[Pa]を、結晶温度1400℃におけるCRSS(Critical Resolved Shear Stress)[Pa]で割った値)が0.9以下になるようにシリコン単結晶を引き上げる炭素ドープシリコン単結晶の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メモリーやCPUなどの半導体デバイス基板として用いられるシリコンウェーハを切り出すシリコン単結晶の製造方法に関するものであり、特に最先端分野で用いられている炭素をドープして結晶欠陥及び不純物ゲッタリングのための酸素析出量やBMD密度を制御したシリコン単結晶の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メモリーやCPUなど半導体デバイスの基板として用いられるシリコンウェーハを切り出すシリコン単結晶は、主にチョクラルスキー(CZ)法により製造されている。CZ法により作製されたシリコン単結晶中には酸素原子が含まれており、該シリコン単結晶から切り出されるシリコンウェーハを用いてデバイス製造する際、シリコン原子と酸素原子とが結合し、酸素析出物やBMDが形成される。これらは、ウェーハ内部の重金属などの汚染原子を捕獲することでデバイス特性を向上させるIG能力を有することが知られ、ウェーハのバルク部での酸素析出量やBMD密度が高くなるほど高性能かつ信頼性の高いデバイスを得ることができる。
【0003】
近年では、シリコンウェーハ中の結晶欠陥を制御しつつ十分なIG能力を付与するために、炭素や窒素を意図的にドープしてシリコン単結晶を製造することが行われている。シリコン単結晶に炭素をドープする方法に関しては、ガスドープ、高純度炭素粉末、炭素塊などが提案されている。
しかしながらこれらの方法は、ガスドープでは結晶が有転位化した場合の再溶融が不可能であり、高純度炭素粉末では原料溶融時に導入ガス等によって高純度粉末が飛散する、炭素塊の投入では炭素が溶けにくいうえに育成中の結晶が有転位化するという問題があった。
【0004】
これらの問題を解決できる手段として、炭素粉末を入れたシリコン多結晶製容器、炭素を気相成膜したシリコンウェーハ、炭素粒子を含む有機溶剤を塗布してベーキングしたシリコンウェーハ、あるいは炭素を所定量含有させた多結晶シリコンをルツボ内に投入する等により、シリコン単結晶に炭素をドープする方法が提案されている。これらの方法を用いれば前述のような問題を解決することが可能であるが、いずれも多結晶シリコンの加工やウェーハの熱処理などを伴い、炭素ドープ剤の準備が容易ではない上、ドープ剤を調整するための加工やウェーハ熱処理において不純物の汚染を受ける可能性もあった。
【0005】
そこで、これらの問題を解決すべく、特許文献1に記載されている炭素ドープ単結晶の製造方法が提案されている。
一方、特許文献2−7には、シリコン単結晶の引き上げ時の割れ、転位等の発生を抑制する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−221062号公報
【特許文献2】特開2002−137988号公報
【特許文献3】特開2003−165791号公報
【特許文献4】特開2006−213582号公報
【特許文献5】特開2009−292702号公報
【特許文献6】特開2010−24129号公報
【特許文献7】特開2006−306640号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1−7の方法でも、育成中のシリコン単結晶の固液界面から炭素原子がシリコン単結晶のバルク中に取り込まれる際に起きる内部応力起因の有転位化の問題が解決されていなかった。特に近年のシリコン単結晶の大口径化に伴いそのような問題が顕在化し、炭素ドープのシリコン単結晶の無転位化を困難にしている背景がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、炭素ドープシリコン単結晶の引き上げ時の有転位化を効果的に抑制して、歩留まりを向上させることができる炭素ドープシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、炭素を添加したシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる炭素ドープシリコン単結晶の製造方法であって、前記シリコン単結晶の引き上げにおいて、シリコンの融点から1400℃の間の引き上げ軸方向の結晶温度勾配の平均値をG[℃/mm]で表した時、少なくとも固化率が20%までは、Gの値が1.0〜3.5[℃/mm]で、かつ、前記シリコン単結晶の成長中の固液界面の径方向面内中心部のSrcs値(von Mises相当応力[Pa]を、結晶温度1400℃におけるCRSS(Critical Resolved Shear Stress)[Pa]で割った値)が0.9以下になるようにシリコン単結晶を引き上げることを特徴とする炭素ドープシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【0010】
このように炭素ドープシリコン単結晶を引き上げることで、転位の発生を防止しながら、効率的に引き上げることができる。このため、高品質の炭素ドープシリコン単結晶を歩留まり良く製造することができる。
【0011】
このとき、前記シリコン単結晶の引き上げにおいて、引上機炉内におけるシリコン融点から1300℃までの温度帯での前記シリコン単結晶の通過時間を40分以上220分以下とすることが好ましい。
このように引き上げることで、本発明の条件での引き上げを容易にでき、さらに、極端な冷却を防いで安定的に無転位で結晶を引き上げることができる。
【0012】
このとき、前記引き上げるシリコン単結晶の炭素濃度を、1×1016〜5×1017atoms/cm(NEW ASTM)とすることが好ましい。
このように1×1016atoms/cm(NEW ASTM)、特には5×1016atoms/cm(NEW ASTM)を超えるような高濃度の炭素濃度であっても容易に引き上げることができ、本発明であれば、有転位化を効果的に抑制しながら生産性良く製造できる。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明によれば、有転位化を効果的に抑制しながら炭素ドープシリコン単結晶を製造することができ、従って、十分なIG能力のウェーハを生産性良く作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の炭素ドープシリコン単結晶の製造方法を実施する際に用いることができる単結晶引上機の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の炭素ドープシリコン単結晶の製造方法を実施する際に用いることができる単結晶引上機の他の例を示す概略図である。
【図3】炭素ドープシリコン単結晶の引き上げにおいて、原料に炭素を添加する方法の説明図である。
【図4】比較例1−4において用いた単結晶引上機を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
従来、炭素ドープシリコン単結晶の引き上げの際に転位が生じて、歩留まりが悪化する問題があった。
これに対して本発明者らは、特に炭素ドープシリコン単結晶の引き上げ特有の問題である内部応力起因の有転位化に着目して、鋭意検討し、以下のことを見出した。
【0016】
本発明者らは、炭素ドープシリコン単結晶成長の際の熱応力の大きさを示す指標として、成長方向の結晶温度変化による熱応力変化を数値的に表現できるSrcs値を用いることに想到した。ここで、Srcs値は、von Mises相当応力(以下、単に「相当応力」とも呼ぶ)をCRSS(Critical Resolved Shear Stress:臨界分解剪断応力)で割った値である。
【0017】
さらに、炭素ドープシリコン単結晶の有転位発生の抑制には、成長中の熱応力の緩和とともに、応力を更に助長する結晶冷却過程における体積収縮応力の緩和が重要である。本発明者らは、その制御パラメーターとして、シリコン融点から1400℃の間の引き上げ軸方向の結晶温度勾配の平均値G(℃/mm)に注目した。炭素ドープシリコン単結晶の場合、結晶冷却過程における収縮応力が炭素をドープしない結晶と比べて大きい。すなわち、直径300mm、特には450mm以上の大口径の炭素ドープシリコン単結晶の場合、結晶冷却過程において急冷し過ぎないことが重要であり、Gの大きさがその指標となる。
【0018】
そして、本発明者らは、上記Srcs値は0.9以下、Gは1.0〜3.5という最適な条件を見出し、これらの条件を同時に満たすことで炭素ドープシリコン単結晶の引き上げ時の有転位化を効果的に抑制できることを見出した。さらに、成長初期の固化率20%までは有転位化が生じやすいため、少なくとも当該成長初期において、上記条件で引き上げを行うことで、効率的に無転位での引き上げを行うことができることを見出して、本発明を完成させた。
【0019】
ここで、育成するシリコン単結晶の内部応力起因の転位の発生を誘起しているのは、1400℃付近の結晶温度帯に働く熱応力である。シリコン単結晶の固液界面近傍の熱応力の増加が大きい場合には、引き上げるシリコン単結晶の割れの発生起因となり、その解決方法として、特許文献2−6に開示されている方法がある。
【0020】
ただし、これらの方法、特に特許文献3、特許文献4に記載されているような引き上げ結晶の強制冷却のための冷却体は、本発明の方法では設備に付加しない。特に大口径の炭素ドープシリコン単結晶の場合、強制冷却体設備による冷却効果を排除する方が引き上げ時の有転位を助長せず、本発明の方法により直胴部全域にわたって無転位結晶を引上げることができるという良好な結果が得られる。
また、特許文献2には、育成するシリコン単結晶の内部応力と結晶成長界面形状の関係に関する記述がある。確かに結晶成長界面の凸形状の適正な制御は重要であるが、炭素ドープシリコン単結晶成長の場合、界面形状の制御だけでは根本的解決には至らず、やはり熱応力の緩和が重要である。
【0021】
特許文献4−6には、引き上げ中の結晶割れに影響を及ぼす熱応力(von Mises相当応力)の大きさに関する具体的な記述がある。しかし、本発明で制御する、炭素ドープシリコン単結晶の引き上げ時の有転位を発生させる熱応力は、結晶割れの熱応力より小規模で、1400℃付近の結晶温度帯において2MPa以下の大きさの熱応力(von Mises相当応力)である。本発明者らは、炭素ドープシリコン単結晶成長の場合、特に直胴部成長工程の前半部分において、結晶割れに至らない極めて小規模な熱応力でさえ有転位化を高い確率で生じさせる現象を確認している。
有転位(スリップ)発生のメカニズムについては、特許文献7に具体的に記載されているが、炭素ドープシリコン単結晶の有転位化は、Vリッチ結晶、Iリッチ結晶、Nv結晶、Ni結晶の領域に係わらず発生する傾向があり、特許文献7に記載の発生メカニズムとは本質的に異なる。
【0022】
以下、本発明について、実施態様の一例として、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明は、炭素を添加したシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる炭素ドープシリコン単結晶の製造方法であって、シリコン単結晶の引き上げにおいて、シリコンの融点から1400℃の間の引き上げ軸方向の結晶温度勾配の平均値をG[℃/mm]で表した時、少なくとも固化率が20%までは、Gの値が1.0〜3.5[℃/mm]で、かつ、前記シリコン単結晶の成長中の固液界面の径方向面内中心部のSrcs値(von Mises相当応力[Pa]を、結晶温度1400℃におけるCRSS(Critical Resolved Shear Stress)[Pa]で割った値)が0.9以下になるようにシリコン単結晶を引き上げる。
【0023】
炭素ドープシリコン単結晶の製造において、上記Gの値が1.0℃/mmを下回るような制御は、結晶成長速度の高速化が困難であり、非効率な生産を強いられることになる。また、Gの値が3.5℃/mmを上回るような制御は、炭素ドープのシリコン単結晶が育成中に有転位化しやすく無転位での結晶引き上げが困難である。したがって、Gの値が1.0℃/mm以上3.5℃/mm以下の条件となるように引き上げ条件を制御することが必要であり、更に好ましくは、Gの値が2.0℃/mm以上3.5℃/mm以下の条件となるように制御することで、引き上げ速度を速くでき、より効率的に単結晶の引き上げを実施できる。
【0024】
また、これと同時に、シリコン単結晶成長中の固液界面の径方向面内中心部のSrcs値が0.9以下となるようにする必要があり、さらには0.7以下とすることが好ましい。このような固液界面の中心部の1400℃の結晶温度におけるSrcs値が、シリコン単結晶成長中に0.9を超えるような場合、固液界面の径方向面内中心部に働く内部応力集中が炭素ドープのシリコン単結晶の無転位化を阻害する。このため、無転位での結晶引き上げが困難である。
なお、CRSSは、以下の式で求めることができ、1400℃(1673.15K)をTに代入することで本発明で用いる結晶温度1400℃におけるCRSSを求めることができる。
CRSS[Pa]=0.1×10^(4406.08/T+4.58)
T:絶対温度
【0025】
このような本発明のGとSrcs値の制御を、炭素ドープしたシリコン単結晶の結晶成長固化率が、原料の全チャージ量に対し20%までの成長工程で少なくとも行う。
炭素をドープしたシリコン単結晶は、20%以下の低固化率(単結晶成長の初期段階)の成長工程の育成中に有転位化し易い特徴があるため、当該成長初期に上記本発明の制御を行う。
【0026】
なお、上記本発明のGとSrcs値の制御は、固化率20%を超えてからも継続して行っても良いが、固化率20%を超えてからは、Gを3.5℃/mmより大きくなるように制御することで、結晶成長後半は成長速度の高速化を容易にでき、効率的である。この場合も、Srcs値は0.9以下になるように維持することが好ましい。
【0027】
また、引上機炉内におけるシリコン融点から1300℃までの温度帯でのシリコン単結晶の通過時間を40分以上220分以下とすることが好ましい。
このように、本発明において炭素ドープのシリコン単結晶の冷却速度の制御も重要であり、上記通過時間40分以上となるように引き上げ速度を制御することで、炭素ドープのシリコン単結晶にとっても急冷却とはならず、有転位化をより効果的に抑制できる。また単結晶通過時間が220分以下であれば、過剰な徐冷却とはならず、グローイン欠陥の成長を抑制し、結晶成長速度の高速化も達成可能である。従って、極端な熱の流出を防ぎ、さらに安定的に無転位化が達成できるため生産性が良い。
【0028】
次に、本発明の炭素ドープシリコン単結晶の製造方法を実施する際に用いることができる図1、2の単結晶引上機を以下説明する。
【0029】
図1の単結晶引上機10は、メインチャンバー11及びプルチャンバー29で炉を構成している。メインチャンバー11の内部には溶融されたシリコン融液13を収容するための石英ルツボ15と石英ルツボ15を支持する黒鉛ルツボ16が設けられている。
これらのルツボ15,16は、ペデスタルと呼ばれる支持軸14の上の受け皿30を介して支持されている。ルツボ15,16の周りにはメインヒーター12が設置され、さらにその外側に断熱材17がメインチャンバー11の内壁に沿って設置されている。ルツボ15,16の上方には、下端部に断熱カラー31を取り付けた円筒形状の黒鉛材からなるガス整流筒18が設置されている。また、種結晶19下端にシリコン単結晶22を成長させながら引き上げるための引き上げ軸20(ワイヤー等)が設けられている。
【0030】
本発明において、G、Srcs及びシリコン融点〜1300℃の単結晶通過時間tを本発明の範囲内に制御するために好ましい装置とするために、以下のように炉内上部の断熱性(徐冷効果)を向上させることが好ましい。
例えば、図1に示すように、メインチャンバー11内壁の側方の冷却部や上部からの除熱量を抑えるため、シリコン融液13より上の位置、すなわちホットゾーン上部を断熱部材21で覆うことができる。
【0031】
また、図2(a)に示すように、メインチャンバーの上方からの除熱を抑えてさらに徐冷効果を高めるために、メインチャンバー上方のプルチャンバーの引き上げる単結晶の通路部の内壁を、断熱部材23で覆った引上機10’とすることができる。
また、図2(b)に示すように、単結晶の強制冷却のための水冷ジャケット(冷却筒)24が付帯設備である引上機10’’の場合は、水冷ジャケット24の内壁を断熱部材25で覆うことができる。
あるいは、シリコン融液より上方のガス整流筒の設置部分に加熱手段を設ける、ガス整流筒の下端からシリコン融液の融液面までの距離を広げる、メインヒーターの発熱部分(スリット)の延伸若しくは発熱中心の上方移動などの方法により、さらに徐冷効果を高めることができる。
【0032】
上記のような引上機、例えば図1の引上機10を用いて、チョクラルスキー(CZ)法、特には磁場印加チョクラルスキー(MCZ)法により、本発明の方法で炭素ドープシリコン単結晶を以下のように製造することができる。
例えば、まず石英ルツボ15内に炭素ドープ剤及び多結晶シリコンを充填する。このとき、基板の抵抗率を決定するリンやホウ素等の抵抗率制御用のドーパントも添加する。本発明において用いる炭素ドープ剤、ドープ方法は、特許第4507690号、特開2008−297139号公報等に記載の方法で添加することができる。例えば図3に示すように、石英ルツボ15内に多結晶シリコン26とともに、ケミカルエッチドウェーハ27で挟んだ炭素粉末28を添加することができる。
【0033】
次に、真空ポンプを稼動させて、メインチャンバー11の不図示のガス流出口から排気しながらプルチャンバー29の不図示のガス導入口からArガスを流入させ、炉内をAr雰囲気に置換する。次に、黒鉛ルツボ16を囲繞するように配置されたメインヒーター12で加熱し、多結晶シリコン等の原料を溶融させてシリコン融液13を得る。原料溶融後、種結晶19をシリコン融液13に浸漬させ、引き上げ軸20により種結晶19を回転させながら引き上げて、棒状のシリコン単結晶22を育成する。こうして所望濃度の炭素がドープされたシリコン単結晶22を製造することができる。
【0034】
このような本発明の製造において、図1,2に示すようなメインチャンバー内に装備するホットゾーンの最適構造や融液面、発熱中心の位置関係などの最適条件は熱数値解析シュミレーションソフトFEMAGの計算により算出して設定することができる。
さらに、FEMAGによる熱数値解析結果から、von Mises相当応力[Pa]及びCRSS値[Pa]を算出してSrcsの推定を行い、これを指標として引き上げ速度、ヒーターパワー等の引き上げ条件を設定して、シリコン単結晶の引き上げを行うことができる。すなわち、FEMAGによる熱数値解析結果により、Gの値が1.0〜3.5[℃/mm]の範囲内、かつ、シリコン単結晶成長中の固液界面の中心部のSrcs値が0.9以下となるような条件、さらに好ましくは、引上機炉内におけるシリコン融点から1300℃までの高温領域の温度帯の引き上げ単結晶通過時間が40〜220分の範囲内となるような条件を適用して、シリコン単結晶を引き上げることができる。
【0035】
また、上記した固化率20%を超えてから単結晶育成中にGを大きくする制御方法としては、例えば、ルツボの上方駆動の変速制御によってガス整流筒の下端からシリコン融液の融液面までの距離を縮めたり、メインヒーターの駆動によって発熱中心を下方へ移動させるなどの方法によって実施できる。
【0036】
以上のような本発明であれば、例えば5×1016atom/cc(New ASTM)以上の高濃度の炭素ドープのシリコン単結晶の製造に有効であり、有転位化を効果的に抑制しながら歩留まり良く炭素ドープシリコン単結晶を引き上げることができる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1、2)
実施例1では図2(a)の引上機、実施例2では図1の引上機のメインチャンバー内に設置された口径32インチ(800mm)の石英ルツボ内に、シリコン多結晶原料360kgと、ケミカルエッチドウェーハで挟んだ高純度炭素粉末を充填した(図3参照)。このとき、引き上げる単結晶の直胴140cmでシリコン中の炭素濃度が6×1016atoms/cm(New ASTM)となるように計算して炭素粉末量を調整した。さらに、抵抗調整用のボロンドーパントも充填し、ヒーターを用いて加熱し原料を溶融した。
そして、MCZ(Magnetic field applied czochralski)法を用い、中心磁場強度3000Gの水平磁場を印加しながら、直径300mm、直胴長さ140cmのP型の炭素ドープシリコン単結晶を育成した。
【0038】
上記条件により、シリコン単結晶を10本ずつ育成した。熱数値解析シュミレーションソフトFEMAGによる計算結果を基に、シリコンの融点から1400℃の間の引き上げ軸方向の結晶温度勾配の平均値G、シリコン単結晶の成長中の固液界面の径方向面内中心部の(結晶温度1400℃における)Srcs値、シリコン融点から1300℃までの温度帯での単結晶通過時間tを表1のように制御した。
実施例1,2において引き上げた無転位結晶の本数と無転位成功率を表1に示す。
また、引き上げた単結晶について、直胴140cmの位置でウェーハ状のサンプルを採取し炭素濃度を測定したところ、炭素濃度は6×1016atoms/cm(New ASTM)となっていることを確認した。
【0039】
(比較例1−4)
比較例1では図4(c)の引上機、比較例2では図4(d)の引上機、比較例3では図4(b)の引上機、比較例4では図4(a)の引上機を用いた。この引上機のメインチャンバー内に設置された口径32インチ(800mm)の石英ルツボ内に、シリコン多結晶原料360kgと、ケミカルエッチドウェーハで挟んだ高純度炭素粉末を充填した(図3参照)。このとき、引き上げる単結晶の直胴140cmでシリコン中の炭素濃度が6×1016atoms/cm(New ASTM)となるように計算して炭素粉末量を調整した。さらに、抵抗調整用のボロンドーパントも充填し、ヒーターを用いて加熱し原料を溶融した。
そして、MCZ(Magnetic field applied czochralski)法を用い、中心磁場強度3000Gの水平磁場を印加しながら、直径300mm、直胴長さ140cmのP型の炭素ドープシリコン単結晶を上記条件で10本ずつ育成した。引き上げ速度、ルツボ回転、結晶回転等の引き上げ条件は実施例1と同様に設定した。
【0040】
熱数値解析シュミレーションソフトFEMAGによる各製造条件での計算結果を確認したところ、表1に示す結果となった。また、無転位で引き上げることのできた単結晶について、直胴140cmの位置でウェーハ状のサンプルを採取し炭素濃度を測定したところ、炭素濃度は6×1016atoms/cc(New ASTM)となっていることを確認した。
比較例1−4において引き上げた無転位結晶の本数と無転位成功率を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
表1から分かるように、実施例1,2では無転位の結晶を100%の成功率で引上げることができた。一方比較例1−4では、有転位が生じた場合に再溶融を繰り返したが結局無転位で引き上げることができない場合があり、成功率は20〜80%と100%にはならなかった。
また、比較例1、3では、Gは3.5以下であったがSrcsは0.9を超えており、無転位結晶引上げの成功率は80%以下となった。
【0043】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0044】
10、10’、10’’…単結晶引上機、 11…メインチャンバー、
12…メインヒーター、 13…シリコン融液、 14…支持軸、
15…石英ルツボ、 16…黒鉛ルツボ、 17…断熱材、 18…ガス整流筒、
19…種結晶、 20…引き上げ軸、 21、23、25…断熱部材、
22…シリコン単結晶、 24…水冷ジャケット、 26…多結晶シリコン、
27…ケミカルエッチドウェーハ、 28…炭素粉末、 29…プルチャンバー、
30…受け皿、 31…断熱カラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素を添加したシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる炭素ドープシリコン単結晶の製造方法であって、
前記シリコン単結晶の引き上げにおいて、シリコンの融点から1400℃の間の引き上げ軸方向の結晶温度勾配の平均値をG[℃/mm]で表した時、少なくとも固化率が20%までは、Gの値が1.0〜3.5[℃/mm]で、かつ、前記シリコン単結晶の成長中の固液界面の径方向面内中心部のSrcs値(von Mises相当応力[Pa]を、結晶温度1400℃におけるCRSS(Critical Resolved Shear Stress)[Pa]で割った値)が0.9以下になるようにシリコン単結晶を引き上げることを特徴とする炭素ドープシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記シリコン単結晶の引き上げにおいて、引上機炉内におけるシリコン融点から1300℃までの温度帯での前記シリコン単結晶の通過時間を40分以上220分以下とすることを特徴とする請求項1に記載の炭素ドープシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記引き上げるシリコン単結晶の炭素濃度を、1×1016〜5×1017atoms/cm(NEW ASTM)とすることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の炭素ドープシリコン単結晶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−43809(P2013−43809A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183445(P2011−183445)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000190149)信越半導体株式会社 (867)
【Fターム(参考)】