説明

無指向性アンテナ

【課題】周期構造体と少数の励振素子で、広い周波数帯域にわたり狭ビーム・高利得が得られる無指向性アンテナを提供する。
【解決手段】少なくとも1個の励振素子と、前記少なくとも1個の励振素子の周囲を取り囲む周期構造体とを備え、前記周期構造体は、展開した状態において、複数の導電体パターンがマトリクス状に配置されている。前記周期構造体は、前記周期構造体の延長方向で切断した断面形状が円形であり、前記周期構造体の導電体パターンは、矩形形状である。前記励振素子は、半波長ダイポール素子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無指向性アンテナに係わり、特に、周期構造体と少数の励振素子で、狭ビーム・高利得を実現でき、ビームチルトも容易に実現可能な水平面内無指向性アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイポールアンテナは、大地に垂直に配置することにより、水平面内において、無指向性アンテナとして使用可能である。
このような無指向性アンテナにおいて、利得を増大させるには、複数の素子を垂直方向にアレー化するのが一般的であり(下記、非特許文献1参照)、図8に示すように、多数の放射素子11に直列に給電を行うシリーズ給電方式と、図9に示すように、分岐合成回路を用いて多数のダイポールアンテナ素子10に給電を行うトーナメント給電方式とが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献1】後藤尚久著;「アンテナ工学入門講座」,電波新聞社発行 P271〜P273,5.5.4 N素子アレーアンテナの利得
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、放射素子数を増大させると、回路の損失が増大し実行利得が低下するばかりか、放射素子を増大させると、必然的に各放射素子に給電するための給電回路が複雑になり、無指向性アンテナのコストが上昇するという問題点があった。
本発明は、前記従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、周期構造体と少数の励振素子で、狭ビーム・高利得が得られる無指向性アンテナを提供することにある。
本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述及び添付図面によって明らかにする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、下記の通りである。
(1)無指向性アンテナであって、少なくとも1個の励振素子と、前記少なくとも1個の励振素子の周囲を取り囲む周期構造体とを備え、前記周期構造体は、展開した状態において、複数の導電体パターンがマトリクス状に配置されている。
(2)(1)において、2個の励振素子を有し、λoを使用周波数foの自由空間波長とするとき、前記2個の励振素子の間隔は、1,3λo以上である。
(3)(2)において、前記2個の励振素子には、それぞれ位相の異なる励振電力が供給される。
(4)(1)ないし(3)の何れかにおいて、前記周期構造体は、前記励振素子の延長方向で切断した断面形状が円形であり、前記周期構造体の導電体パターンは、矩形形状である。
(5)(1)ないし(4)の何れかにおいて、前記励振素子は、半波長ダイポール素子である。
【発明の効果】
【0006】
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば、下記の通りである。
本発明によれば、周期構造板と少数の励振素子で、狭ビーム・高利得が得られる無指向性アンテナを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例1の無指向性アンテナを説明するための図である。
【図2】展開した状態の、図1(b)に示す周期構造体を示す図である。
【図3】本発明の実施例1の無指向性アンテナの水平面内の指向特性(図1(b)に示すX−Y面)の一例を示すグラフである。
【図4】図1(a)に示す半波長ダイポールアンテナ素子の水平面内の指向特性(図1(b)に示すX−Y面)の一例を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2の無指向性アンテナを説明するための図である。
【図6】本発明の実施例2の無指向性アンテナの水平面内の指向特性(図5(b)に示すX−Y面)の一例を示すグラフである。
【図7】図5(a)に示す半波長ダイポールアンテナ素子の水平面内の指向特性(図5(b)に示すX−Y面)の一例を示すグラフである。
【図8】従来の無指向性アンテナにおいて、利得を増大させるためのシリーズ給電方式の概要を示す図である。
【図9】従来の無指向性アンテナにおいて、利得を増大させるためのトーナメント給電方式の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
なお、実施例を説明するための全図において、同一機能を有するものは同一符号を付け、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施例は、本発明の特許請求の範囲の解釈を限定するためのものではない。
[実施例1]
図1は、本発明の実施例1の無指向性アンテナを説明するための図であり、図1(a)は励振素子2の配置を示す図であり、図1(b)は、図1(a)に周期構造体3を配置した本発明の実施例1の無指向性アンテナの構成を示す斜視図である。
図1(a)、(b)に示すように、本実施例の無指向性アンテナは、励振素子2(本実施例では、半波長ダイポールアンテナ素子)と、励振素子2の周囲を覆う円筒状の周期構造体3とを有する。
図2は、展開した状態の、図1に示す周期構造体3を示す図である。図2に示すように、周期構造体3は、19×8のマトリクス状に配置された複数の導電体パターン5で構成され、励振素子2は、円筒状の周期構造体3の中心に配置される。ここで、19×8のマトリクス状に配置された複数の導電体パターン5は、例えば、合成樹脂上に印刷された複数の導電体パターンで構成される。
また、円筒状の周期構造体3の直径(図1のLT)は、0.75λo〜1.0λo(λoは、使用周波数foの自由空間波長)とされる。即ち、励振素子2と周期構造体3との間隔は、0.375λo〜0.5λoとされる。
さらに、図2に示すように、導電体パターン5は、一辺(図2のLH)が、0.2λo〜0.3λoの矩形形状とされる。
【0009】
なお、前述の説明では、周期構造体3は、19×8のマトリクス状に配置された複数の導電体パターン5で構成されているが、この数値に限定されるものではなく、要求される指向特性によってマトリックスの数値を増減することができる。
本実施例において、励振素子2で励振・放射された電波は、周期構造体3の間で反射を繰り返すが、周期構造体3の直径が、約4×nλo/5(nは整数)の場合、間隙から放射された電波は同相で放射される。
周期構造体3は、核となる導電体パターン5のインダクタンスと、隣接する導電体パターン5との間でキャパシタンスを形成するため、固有のインピーダンス面を作り出す。そして、周期構造体3の導電体パターン5の大きさと間隔を適切に選ぶことにより適切なインピーダンス面を実現し、大きな利得を得ることができる。
従って、核となる導電体パターン5のパターンが小さい場合には、隣接する導電体パターン5との間隔を狭め、核となる導電体パターン5のパターンが大きい場合には、隣接する導電体パターン5との間隔を広げる必要がある。
【0010】
本実施例1のパラメータの一例を以下に示す。
(1)周期構造体3の直径が、0.83λo
(2)導電体パターン5の一辺(図2のLH)が、0.26λo
(3)中心周波数は5.6GHz
図3は、本発明の実施例1において、上記パラメータの条件下の水平面内の指向特性(図1に示すX−Y面)の一例を示すグラフである。また、図4は、図1(a)に示す半波長ダイポールアンテナ素子の水平面内の指向特性(図1に示すX−Y面)の一例を示すグラフである。
図3に示すグラフにおいて、中心は、−20dB、外側の円は、10dBであり、図4に示すグラフにおいて、中心は、−25dB、外側の円は、5dBである。
図4に示すグラフにおいて、最大利得は約2.53dBであるのに対して、図3に示すグラフでは、最大利得は約10.28dBである。このように、本実施例の無指向性アンテナは、図1(b)に示す半波長ダイポールアンテナ素子よりも、利得が大幅に向上していることが分かる。
さらに、図3と、図4のグラフを比較することにより、本実施例の無指向性アンテナは、図1(b)に示す半波長ダイポールアンテナ素子よりも、狭ビーム化されていることが分かる。
【0011】
[実施例2]
図5は、本発明の実施例2の無指向性アンテナを説明するための図であり、図5(a)は2個の励振素子(2,2)の配置を示す図であり、図5(b)は、図5(a)に周期構造体3を配置した本発明の実施例2の無指向性アンテナの構成を示す斜視図である。
図5(a)、(b)に示すように、本実施例の無指向性アンテナは、2個の励振素子(2,2)(本実施例では、ダイポールアンテナ素子)と、2個の励振素子(2,2)の周囲を覆う円筒状の周期構造体3とを有する。
本実施例でも、前述の図2に示すように、周期構造体3は、19×8のマトリクス状に配置された複数の導電体パターン5で構成され、励振素子2は、円筒状の周期構造体3の中心に配置される。ここで、19×8のマトリクス状に配置された複数の導電体パターン5は、例えば、合成樹脂上に印刷された複数の導電体パターンで構成される。
また、前述の実施例1と同様、円筒状の周期構造体3の直径(図1のLT)は、0.75λo〜1.0λo(λoは、使用周波数foの自由空間波長)とされる。即ち、励振素子2と周期構造体3との間隔は、0.375λo〜0.5λoとされる。また、導電体パターン5は、一辺(図2のLH)が、0.2λo〜0.3λoの矩形形状とされる。
本実施例では、2と、2の2個の励振素子の間隔(図5(B)のSd)は、1.3λo〜2.0λo(λoは、使用周波数foの自由空間波長)とされる。
【0012】
前述の説明では、周期構造体3は、19×8のマトリクス状に配置された複数の導電体パターン5で構成されているが、この数値に限定されるものではなく、要求される指向特性によってマトリックスの数値を増減することができる。
本実施例において、励振素子(2,2)で励振・放射された電波は、周期構造体3の間で反射を繰り返すが、周期構造体3の直径が、約4×nλo/5(nは整数)の場合、間隙から放射された電波は同相で放射される。
周期構造体3は、核となる導電体パターン5のインダクタンスと、隣接する導電体パターン5との間でキャパシタンスを形成するため、固有のインピーダンス面を作り出す。そして、周期構造体3の導電体パターン5の大きさと間隔を適切に選ぶことにより適切なインピーダンス面を実現し、大きな利得を得ることができる。
従って、核となる導電体パターン5のパターンが小さい場合には、隣接する導電体パターン5との間隔を狭め、核となる導電体パターン5のパターンが大きい場合には、隣接する導電体パターン5との間隔を広げる必要がある。
【0013】
本実施例1のパラメータの一例を以下に示す。
(1)周期構造体3の直径が、0.83λo
(2)導電体パターン5の一辺(図2のLH)が、0.26λo
(3)2と2の2個の励振素子の間隔(図5(B)のSd)が、1.73λo
(4)中心周波数は5.6GHz
図6は、本発明の実施例2において、上記パラメータの条件下の水平面内の指向特性(図5に示すX−Y面)の一例を示すグラフである。また、図7は、図5(b)に示す2と2の2個の励振素子の水平面内の指向特性(図1に示すX−Y面)の一例を示すグラフである。
図6に示すグラフにおいて、中心は、−25dB、外側の円は、15dBであり、図7に示すグラフにおいて、中心は、−20dB、外側の円は、10dBである。
図7に示すグラフにおいて、最大利得は約5.46dBであるのに対して、図6に示すグラフでは、最大利得は約9.54dBである。このように、本実施例の無指向性アンテナは、図5(a)に示す半波長ダイポールアンテナ素子よりも、利得が大幅に向上していることが分かる。
さらに、図6と、図4のグラフを比較することにより、本実施例の無指向性アンテナは、図5(a)に示す半波長ダイポールアンテナ素子よりも、狭ビーム化されていることが分かる。
その上、図5(b)に示すように、励振素子2と、励振素子2とに、それぞれ60°位相が異なる励振電力(2の励振素子に、0°の励振電力、2の励振素子に、60°の励振電力)を供給することにより、ビームがチルトされていることが分かる。
【0014】
例えば、従来の6素子コーナーレフレクタアンテナにおいて、サイドローブの顕著な劣化を招くことなしにビームチルトを実現するには、各放射素子の励振位相を順番に変えてやる必要があるため、電気長の異なる給電線路を放射素子の数だけ用意し、さらにそれらを分岐させるための分岐端子も用意したり、チルト角可変の場合は、最低3個の差動型移相器とそれに付随する給電線路や分岐端子を用意したりする必要がある。
それに対し、本実施例では、2つの励振素子(2,2)の間に励振位相差を持たせるだけでよいので、電気長の異なる2本の給電線路と分岐端子1個を用意するだけ、あるいはチルト角可変の場合は、可変移相器1個と給電線路2本と分岐端子1個を用意するだけでよく、ビームチルトの実現は極めて容易である。
なお、前述の各実施例の無指向性アンテナにおいて、周期構造体3を構成する導電体パターン5の形状は正方形に限らず、円形でも、三角形でも、長方形でも、多角形でもよく、さらに板状でなくループ状であってもよい。
また、前述の各実施例の無指向性アンテナにおいて、周期構造体3は、円筒状に限らず、励振素子2の延長方向で切断した断面形状が、6角形、8角形などの多角形形状であってもよい。
さらに、前述の各実施例の無指向性アンテナにおいて、励振素子は、ダイポールアンテナ素子に限定されるものではなく、パッチ素子等も使用可能である。
以上、本発明者によってなされた発明を、前記実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0015】
2,2,2 励振素子
3 周期構造体
5 導電体パターン
10 ダイポールアンテナ素子
11 放射素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1個の励振素子と、
前記少なくとも1個の励振素子の周囲を取り囲む周期構造体とを備え、
前記周期構造体は、展開した状態において、複数の導電体パターンがマトリクス状に配置されていることを特徴とする無指向性アンテナ。
【請求項2】
2個の励振素子を有し、
λoを使用周波数foの自由空間波長とするとき、前記2個の励振素子の間隔は、1,3λo以上であることを特徴とする請求項1に記載の無指向性アンテナ。
【請求項3】
前記2個の励振素子には、それぞれ位相の異なる励振電力が供給されることを特徴とする請求項2に記載の無指向性アンテナ。
【請求項4】
前記周期構造体は、前記周期構造体子の延長方向で切断した断面形状が円形であり、
前記周期構造体の導電体パターンは、矩形形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の無指向性アンテナ。
【請求項5】
前記励振素子は、半波長ダイポール素子であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の無指向性アンテナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−222772(P2012−222772A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89908(P2011−89908)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000232287)日本電業工作株式会社 (71)
【Fターム(参考)】