説明

無段変速機の制御装置

【課題】内燃機関への燃料供給が停止されるとき、違和感のない制動力が得られるようにした無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】所定の運転状態においてエンジン(内燃機関)への燃料供給を停止するとき(S10からS14)、無段変速機のドライブプーリとドリブンプーリのピストン室(油室)に供給される作動油の圧力を、検出された車速VELに応じて増加させ、よってエンジンによって駆動され、リザーバから作動油を汲み上げてドライブプーリとドリブンプーリのピストン室に接続される油路に圧送する油圧ポンプの仕事量を増加させ、エンジンの負荷を増大させる(S18)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は無段変速機の制御装置に関し、より具体的には減速時のエンジンブレーキによる制動力の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
減速時のエンジンブレーキによる制動力に関する無段変速機の制御装置の従来技術としては、特許文献1記載の技術を挙げることができる。特許文献1記載の技術にあっては、触媒保護のため内燃機関への燃料供給の停止(フュエルカット)が禁止される場合、ドライブプーリとドリブンプーリに作動油を供給するポンプの仕事量を増大させ、燃料供給によって生じた余分の駆動力を消費させると共に、両プーリに供給することで変速比が変わることがないように構成している。
【特許文献1】特開2004−106782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記した如く、特許文献1記載の技術にあっては、燃料供給の停止が禁止されることによる駆動力の増加をポンプの仕事量を増加させることで相殺しているが、燃料供給の停止が実行される場合、駆動力が低減することから、停止間際に変速比がローに戻ることによって急激に制動力が強くなり、そのままでは制動力を違和感なく得ることが困難となる。
【0004】
従って、この発明の目的は上記した不都合を解消し、内燃機関への燃料供給が停止されるとき、違和感のない制動力が得られるようにした無段変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1にあっては、車両に搭載される内燃機関の回転を変速するドライブプーリとドリブンプーリを有するベルト式の無段変速機の制御装置において、前記内燃機関によって駆動され、リザーバから作動油を汲み上げて前記ドライブプーリとドリブンプーリの油室に接続される油路に圧送するポンプと、前記油路に介挿され、前記油室に供給される作動油の圧力を調整する電磁バルブと、所定の運転状態において前記内燃機関への燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、前記車両の走行速度を示す車速を検出する車速センサと、前記燃料供給が停止されたとき、前記電磁バルブを介して前記油室に供給される作動油の圧力を前記検出された車速に応じて増加させ、よって前記ポンプの仕事量を増加させて前記内燃機関の負荷を増大させる機関負荷増大手段とを備える如く構成した。
【0006】
請求項2に係る無段変速機の制御装置にあっては、前記機関負荷増大手段は、前記無段変速機の入力トルクとそれに追加される余裕トルクに応じて前記油室に供給される作動油の圧力を設定すると共に、前記余裕トルクに前記車速に応じて設定される増加分を加算することで前記内燃機関の負荷を増大させる如く構成した。
【0007】
請求項3に係る無段変速機の制御装置にあっては、前記機関負荷増大手段は、前記車速が急減するとき、前記増加分の加算を中止する如く構成した。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る無段変速機の制御装置にあっては、内燃機関によって駆動され、リザーバから作動油を汲み上げてドライブプーリとドリブンプーリの油室に接続される油路に圧送するポンプと、油路に介挿され、油室に供給される作動油の圧力を調整する電磁バルブとを備えると共に、内燃機関への燃料供給が停止されたとき、電磁バルブを介して油室に供給される作動油の圧力を検出された車速に応じて増加させ、よってポンプの仕事量を増加させて内燃機関の負荷を増大させる如く構成したので、ポンプの仕事量を増加させて内燃機関の負荷を増大させることで内燃機関の制動力を増加させる、即ち、最初にポンプの仕事量を増加させて内燃機関の制動力を増加させた後、減少させる、具体的には無段変速機の変速比がローに戻ることによる制動力の急増に応じてポンプの負荷を減少させることにより制動力を徐々に増加させることが可能となる。このように燃料供給の停止時の制動力を増加側に調整することで、違和感のない制動力を得ることができる。
【0009】
請求項2に係る無段変速機の制御装置にあっては、無段変速機の入力トルクとそれに追加される余裕トルクに応じて油室に供給される作動油の圧力を設定すると共に、余裕トルクに車速に応じて設定される増加分を加算することで内燃機関の負荷を増大させる如く構成したので、上記した効果に加え、余裕トルクを増加してポンプの仕事量を増加させることで、変速比の変更を招くことがない。
【0010】
請求項3に係る無段変速機の制御装置にあっては、車速が急減するとき、増加分の加算を中止する如く構成したので、上記した効果に加え、所期の変速を実現することができる。即ち、急減速中にポンプの負荷を増大させると、変速比をローに戻す作動油の圧力が不足する恐れがあるが、急減速中は制動力の制御を中止することで変速に必要な作動油の圧力を確保でき、所期の変速比を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、添付図面に即してこの発明に係る無段変速機の制御装置を実施するための最良の形態を説明する。
【実施例】
【0012】
図1は、この発明の実施例に係る無段変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0013】
図1において、符号10は内燃機関(以下「エンジン」という)を示す。エンジン10は、車両(駆動輪Wなどで部分的に示す)14に搭載される。
【0014】
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は車両運転席に配置されるアクセルペダル(図示せず)との機械的な接続が絶たれ、電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構16が接続されて駆動される。
【0015】
スロットルバルブで調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ(燃料噴射弁)20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストン(図示せず)を駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
【0016】
エンジン10のクランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24を介して変速機26に入力される。即ち、クランクシャフト22はトルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービン・ランナ24bはメインシャフト(ミッション入力軸)MSに接続される。
【0017】
変速機26は無段変速機(Continuous Variable Transmission。以下「CVT」という)からなり、メインシャフトMSに配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフトCSに配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される金属製のベルト26cからなる。
【0018】
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSに配置された固定プーリ半体26a1と、固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSに固定された固定プーリ半体26b1と、固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
【0019】
CVT26は、前後進切換装置30に接続される。前後進切換装置30は、前進クラッチ30aと、後進ブレーキ30bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構30cからなる。
【0020】
プラネタリギヤ機構30cにおいて、サンギヤ30c1はメインシャフトMSに固定されると共に、リングギヤ30c2は前進クラッチ30aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。
【0021】
サンギヤ30c1とリングギヤ30c2の間には、ピニオン30c3が配置される。ピニオン30c3は、キャリア30c4でサンギヤ30c1に連結される。キャリア30c4は、後進ブレーキ30bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
【0022】
カウンタシャフトCSの回転は減速ギヤ34,36を介してセカンダリシャフトSSに伝えられると共に、セカンダリシャフトSSの回転はギヤ40とディファレンシャルDを介して左右の駆動輪(タイヤ。右側のみ示す)Wに伝えられる。駆動輪Wの付近にはディスクブレーキ42が配置される。
【0023】
前進クラッチ30aと後進ブレーキ30bの切換は、車両運転席に設けられた、例えばP,R,N,D,S,Lのポジションを備えるシフトレバー44を運転者が操作することによって行われる。運転者によってシフトレバー44のいずれかのポジションが選択されたとき、その選択動作はCVT26などの油圧機構(後述)のマニュアルバルブに伝えられる。
【0024】
例えばD,S,Lポジションが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキ30bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、前進クラッチ30aのピストン室に油圧が供給されて前進クラッチ30aが係合(締結)される。
【0025】
前進クラッチ30aが係合されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動される。
【0026】
他方、Rポジションが選択されると、前進クラッチ30aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキ30bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキ30bが作動する。それによってキャリア30c4が固定されてリングギヤ30c2はサンギヤ30c1とは逆方向に駆動され、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向(後進方向)に駆動される。
【0027】
また、PあるいはNポジションが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されて前進クラッチ30aと後進ブレーキ30bが共に解放され、前後進切換装置30を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10とCVT26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
【0028】
図2は上記したCVT26などの油圧機構を模式的に示す油圧回路図である。
【0029】
図示の如く、油圧機構(符号46で示す)には油圧ポンプ(ポンプ)46aが設けられる。油圧ポンプ46aはギヤポンプからなり、エンジン10によって駆動され、リザーバ(油圧供給源)46bに貯留された作動油を汲み上げてPH制御バルブ(PH REG VLV)46cに圧送する。
【0030】
PH制御バルブ46cの出力(PH圧(ライン圧))は、一方では油路46dから第1、第2のレギュレータバルブ(DR REG VLV, DN REG VLV)46e,46fを介してCVT26のドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室(DR)26a21とドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室(DN)26b21に接続されると共に、他方では油路46gを介してCRバルブ(CR VLV)46hに接続される。
【0031】
CRバルブ46hはPH圧を減圧してCR圧(制御圧)を生成し、油路46iから第1、第2、第3のリニアソレノイドバルブ(電磁バルブ)46j,46k,46l(LS-DR, LS-DN, LS-CPC)に供給する。第1、第2のリニアソレノイドバルブ46j,46kはそのソレノイドの励磁に応じて決定される出力圧を第1、第2のレギュレータバルブ46e,46fに作用させ、よって油路46dから送られるPH圧の作動油を可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室(油室)26a21,26b21に供給し、それに応じてプーリ側圧を発生させる。
【0032】
このように、油圧ポンプ46aはエンジン10によって駆動され、リザーバ46bから作動油を汲み上げてPH制御バルブ(PH REG VLV)46cを介してCVT26のドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室(DR)26a21とドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室(DN)26b21に接続される油路46dに圧送する。
【0033】
また第1、第2リニアソレノイドバルブ46j,46kは、油路46dにCRバルブ46hを介して接続される油路46iに介挿され、ピストン室(DR)26a21とピストン室(DN)26b21に供給される作動油の圧力を調整する。
【0034】
従って、図1に示す構成においては、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧が発生させられてドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化し、ベルト26cの巻掛け半径が変化する。このように、プーリの側圧を調整することで、エンジン10の出力を駆動輪Wに伝達する変速比を無段階に変化させることができる。
【0035】
図2の説明に戻ると、CRバルブ46hの出力(CR圧)はCRシフトバルブ(CR SFT VLV)46nにも接続され、そこから前記したマニュアルバルブ(MAN VLV。符号46oで示す)を介して前後進切換装置30の前進クラッチ30aのピストン室(FWD)30a1と後進ブレーキ30bのピストン室(RVS)30b1に接続される。
【0036】
マニュアルバルブ46oは図1を参照して説明した如く、運転者によって操作(選択)されたシフトレバー44の位置に応じてCRシフトバルブ46nの出力を前進クラッチ30aと後進ブレーキ30bのピストン室30a1,30b1のいずれかに接続する。
【0037】
また、PH制御バルブ46cの出力は、油路46pを介してTCレギュレータバルブ(TC REG VLV)46qに送られ、TCレギュレータバルブ46qの出力はLCコントロールバルブ(LC CTL VLV)46rを介してLCシフトバルブ(LC SFT VLV)46sに接続される。LCシフトバルブ46sの出力は一方ではトルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cのピストン室24c1に接続されると共に、他方ではその背面側の室24c2に接続される。
【0038】
CRシフトバルブ46nとLCシフトバルブ46sは第1、第2(電磁)オン・オフソレノイド(SOL-A, SOL-B)46u,46vに接続され、その励磁・非励磁によって前進クラッチ30aへの油路の切り替えとロックアップクラッチ24cの締結(オン)・開放(オフ)が制御される。
【0039】
ロックアップクラッチ24cについていえば、LCシフトバルブ46sを介して作動油がピストン室24c1に供給される一方、背面側の室24c2から排出されると、ロックアップクラッチ24cが係合(締結。オン)され、背面側の室24c2に供給される一方、ピストン室24c1から排出されると、解放(非締結。オフ)される。ロックアップクラッチ24cのスリップ量、即ち、係合と解放の間でスリップさせられるときの係合容量は、ピストン室24c1と背面側の室24c2に供給される作動油の圧力(油圧)によって決定される。
【0040】
先に述べた第3のリニアソレノイド46lは、油路46wとLCコントロールバルブ46rを介してLCシフトバルブ46sに接続され、さらに油路46xを介してCRシフトバルブ46nに接続される。即ち、前進クラッチ30aと、ロックアップクラッチ24cの係合容量(滑り量)は、第3のリニアソレノイドバルブ46lのソレノイドの励磁・非励磁によって調整(制御)される。
【0041】
図1の説明に戻ると、エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ48が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ50が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
【0042】
DBW機構16のアクチュエータにはスロットル開度センサ52が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THに比例した信号を出力すると共に、アクセルペダル付近にはアクセル開度センサ54が設けられ、運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度APに比例する信号を出力する。
【0043】
さらに、エンジン10の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ56が設けられ、エンジン冷却水温TW、換言すればエンジン10の温度に応じた出力を生じると共に、吸気系には吸気温センサ58が設けられ、エンジン10に吸入される吸気温(外気温)に応じた出力を生じる。
【0044】
上記したクランク角センサ48などの出力は、エンジンコントローラ60に送られる。エンジンコントローラ60はマイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構16の動作を制御すると共に、燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動する。
【0045】
メインシャフトMSにはNTセンサ(回転数センサ)62が設けられ、タービン・ランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数、より具体的には前進クラッチ30aの入力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
【0046】
CVT26のドライブプーリ26aの付近の適宜位置にはNDRセンサ64が設けられ、ドライブプーリ26aの回転数、換言すれば前進クラッチ30aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力すると共に、CVT26のドリブンプーリ26bの付近の適宜位置にはNDNセンサ(回転数センサ)66が設けられ、ドリブンプーリ26bの回転数を示すパルス信号を出力する。
【0047】
セカンダリシャフトSSのギヤ36の付近にはVELセンサ(回転数センサ)70が設けられ、ギヤ36の回転数を通じてCVT26の出力軸あるいは車速VELを示すパルス信号を出力する。前記したシフトレバー44の付近にはシフトレバーポジションセンサ72が設けられ、運転者によって選択されたR,N,Dなどのポジションに応じたPOS信号を出力する。
【0048】
上記したNTセンサ62などの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ74に送られる。シフトコントローラ74もマイクロコンピュータを備えると共に、エンジンコントローラ60と通信自在に構成される。
【0049】
シフトコントローラ74はそれら検出値に基づき、油圧機構46の第1、第2オン・オフソレノイド46u,46v、および第1、第2、第3のリニアソレノイドバルブ46j,46k,46lのうちのいずれかの電磁ソレノイドを励磁・非励磁して前後進切換装置30とCVT26とトルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cのロックアップの係合(締結、オン)・解放(非締結、オフ)を制御する。
【0050】
さらに、シフトコントローラ74は、減速時のエンジンブレーキによる制動力も制御する。
【0051】
図3はシフトコントローラ74のその動作を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはシフトコントローラ74によってインギヤ時に所定時間、例えば10msecごとに実行される。
【0052】
以下説明すると、S10においてAP OFF、即ち、運転者によってアクセルペダルが操作されていないか、換言すればスロットル開度が全閉か否かをアクセル開度センサ56の出力から判断し、肯定されるときはS12に進み、車両14が緩減速か(車速が急減していないか)否か判断する。これはVELセンサ70で検出された車速VELの1階差分値を算出することで判断する。
【0053】
尚、シフトコントローラ74は、アクセル開度センサ56などエンジンコントローラ60に送出されるセンサの出力をエンジンコントローラ60にアクセスして入力する。
【0054】
S12で肯定されるときはS14に進み、F/C中、即ち、所定の運転状態においてエンジン10への燃料供給が停止されているか否か判断する。
【0055】
S14で肯定されるときはS16に進み、検出されたエンジン回転数NEとF/C復帰エンジン回転数NFCTの偏差が大きいか否か判断する。即ち、F/Cから復帰した状態で油圧ポンプ46aの仕事量が増加されていると燃費悪化にもつながるため、検出されたエンジン回転数NEとF/C復帰エンジン回転数NFCTの偏差を適宜設定するしきい値と比較することで、F/Cから復帰する直前にないか否か判断する。
【0056】
S16で肯定されてF/Cから復帰する直前ではないと判断されるときはS18に進み、減速時余裕トルクを設定する。
【0057】
これについて説明すると、詳細な図示は省略するが、図示しない別のルーチンにおいて、エンジン回転数NEとエンジン負荷(例えば吸気管内絶対圧PBA)から求められる入力トルクに基づいてドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bへの供給油圧の基本値がそれぞれ算出される。
【0058】
ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bへの供給油圧の基本値には変速比(RATIO)に応じて供給油圧の加算値が算出されると共に、余裕トルクが追加される。余裕トルクはベルト26cのスリップを確実に防止するための余裕分として追加されるトルクである。
【0059】
S18においては、この余裕トルクに加算されるべき増加分を、検出された車速VELに応じ、即ち、車速VELが上昇するにつれて大きくなるように設定する。尚、増加分はドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bに等しく与えられることから、変速比が変わることはない。
【0060】
図示しない別ルーチンにおいては、これらの基本値と変速比に応じた加算値と余裕トルクの合算値に応じてドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bに供給されるべき作動油の圧力、即ち、油圧が算出され、その油圧となるように油圧ポンプ46aが駆動され、第1、第2リニアソレノイドバルブ46j,46kの通電が制御される。
【0061】
従って、S18の処理を経た場合、余裕トルクに加算されるべき増加分だけドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bに供給されるべき作動油の圧力が増える結果、その分だけ油圧ポンプ46aの仕事(駆動量)が増加させられ、油圧ポンプ46aを駆動するエンジン10の負荷が増大する。その結果、エンジン10による制動力を増加させることができ、エンジンブレーキによる制動力を違和感なく得ることができる。
【0062】
即ち、油圧ポンプ46aの仕事量を最初に増加させるように構成したことで、その後にCVT26の変速比がローに戻ることによる制動力の急増に応じて油圧ポンプ46aの負荷を減少させることにより制動力を徐々に増加させることができ、よってF/Cによって制動力が発生するときも、違和感のない制動力を得ることができる。
【0063】
他方、S10からS16のいずれかで否定された場合、例えばS12で車両14が緩減速ではない、即ち、車速が急減すると判断されるときはS20に進み、通常余裕トルクを設定する。即ち、本来の余裕トルクのみとし、余裕トルクに加算されるべき増加分をゼロとする。従って、増加分だけ油圧ポンプ46aの仕事(駆動量)が増加させられることはなく、エンジン10の負荷が増大することはない。
【0064】
尚、S12で車速が急減すると判断されるときにS20に進むのは、車速VELが急減するときに油圧ポンプ46aの負荷を増大させると、変速比をローに戻す油圧が不足するが、このように急減速中は制動力の制御を中止することで、変速に必要な作動油の圧力を確保でき、所期の変速比を実現することができる。
【0065】
また、S18においてエンジン10の負荷を増大させる場合を説明したが、エンジンブレーキによる必要な制動力が一層違和感なく得られるように、必要に応じてDBW機構16を駆動してスロットル開度を開弁側に駆動しても良い。その結果、ポンピングロスが低減することで、エンジン10の負荷が減少し、結果としてエンジンブレーキによる制動力が減少する。従って、エンジン10の負荷の増大と減少を適宜組み合わせることで、一層違和感のない制動力を得ることができる。
【0066】
上記の如く、この実施例にあっては、車両14に搭載されるエンジン(内燃機関)10の回転を変速するドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bを有するベルト式のCVT(無段変速機)26の制御装置(シフトコントローラ74)において、前記エンジン10によって駆動され、リザーバ46bから作動油を汲み上げて前記ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのピストン室(油室)26a21,26b21に接続される油路46dに圧送する油圧ポンプ(ポンプ)46aと、前記油路46dに接続される油路46iに介挿され、前記油室に供給される作動油の圧力を調整する第1、第2のリニアソレノイドバルブ(電磁バルブ)46j,46kと、所定の運転状態において前記エンジン10への燃料供給を停止する燃料供給停止手段(S10からS16)と、前記車両14の走行速度を示す車速VELを検出するVELセンサ(車速センサ)70と、前記燃料供給が停止(F/C)されたとき、前記電磁バルブを介して前記油室に供給される作動油の圧力を前記検出された車速VELに応じて増加させ、よって前記油圧ポンプ46aの仕事量を増加させて前記エンジン10の負荷を増大させる機関負荷増大手段(S18)とを備える如く構成したので、油圧ポンプ46aの仕事量を増加させてエンジン10の負荷を増大させることでエンジンブレーキを増加させる、即ち、最初に油圧ポンプ46aの仕事量を増加させてエンジンブレーキを増加させた後、減少させる、具体的にはCVT26の変速比がローに戻ることによる制動力の急増に応じて油圧ポンプ46aの負荷を減少させることにより制動力を徐々に増加させることが可能となる。このように燃料供給の停止時の制動力を増加側に調整することで、違和感のない制動力を得ることができる。
【0067】
また、前記機関負荷増大手段は、前記CVTの入力トルクとそれに追加される余裕トルクに応じて前記油室に供給される作動油の圧力を設定すると共に、前記余裕トルクに前記車速VELに応じて設定される増加分を加算することで前記内燃機関の負荷を増大させる(S18)如く構成したので、余裕トルクを増加して油圧ポンプ46aの仕事量を増加させることで、変速比の変更を招くことがない。
【0068】
また、前記機関負荷増大手段は、前記車速VELが急減するとき、前記増加分の加算を中止する如く構成したので、上記した効果に加え、所期の変速を実現することができる。
【0069】
尚、上記において無段変速機としてベルト式のCVT26を開示したが、それに限定されるものではなく、この発明は他の無段動変速機にも妥当する。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】この発明の実施例に係る無段変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す無段変速機とトルクコンバータの油圧機構を示す油圧回路図である。
【図3】図1に示す装置の動作を示すフロー・チャートである。
【符号の説明】
【0071】
10 内燃機関(エンジン)、14 車両、16 DBW機構、24 トルクコンバータ、26 無段変速機(CVT)、30 前後進切換装置、30a 前進クラッチ(クラッチ)、46 油圧機構、46a ポンプ(油圧ポンプ)46j,46k 電磁バルブ(第1、第2のリニアソレノイドバルブ)、46s 切換バルブ(LCシフトバルブ)、48 クランク角センサ、50 絶対圧センサ、54 アクセル開度センサ、60 エンジンコントローラ、70 VELセンサ、74 シフトコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される内燃機関の回転を変速するドライブプーリとドリブンプーリを有するベルト式の無段変速機の制御装置において、
a.前記内燃機関によって駆動され、リザーバから作動油を汲み上げて前記ドライブプーリとドリブンプーリの油室に接続される油路に圧送するポンプと、
b.前記油路に介挿され、前記油室に供給される作動油の圧力を調整する電磁バルブと、
c.所定の運転状態において前記内燃機関への燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、
d.前記車両の走行速度を示す車速を検出する車速センサと、
e.前記燃料供給が停止されたとき、前記電磁バルブを介して前記油室に供給される作動油の圧力を前記検出された車速に応じて増加させ、よって前記ポンプの仕事量を増加させて前記内燃機関の負荷を増大させる機関負荷増大手段と、
を備えたことを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記機関負荷増大手段は、前記無段変速機の入力トルクとそれに追加される余裕トルクに応じて前記油室に供給される作動油の圧力を設定すると共に、前記余裕トルクに前記車速に応じて設定される増加分を加算することで前記内燃機関の負荷を増大させることを特徴とする請求項1記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記機関負荷増大手段は、前記車速が急減するとき、前記増加分の加算を中止することを特徴とする請求項1または2記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−92212(P2009−92212A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−265880(P2007−265880)
【出願日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】