説明

無段変速機の制御装置

【課題】目標減速度を発電機の発電負荷とエンジン負荷とにより実現しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制してドライバに違和感を与えることを抑制することができる無段変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されると、エンジンを無段変速機に従動させた状態において無段変速機の変速比をLOW側へ移行させる無段変速機の制御装置は、目標減速度を発電機の発電負荷とエンジン負荷とにより実現するエンジン回転数になるように無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、エンジン回転数が車速に応じて設定されたエンジン回転数の上限値以下に維持されるようにエンジン回転数を補正するエンジン回転数補正手段と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載される無段変速機の制御装置に関し、特にアクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたコースト走行時における無段変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される無段変速機として、エンジンとの間で動力伝達を接断するクラッチ手段と、有効径が可変とされる一対のプーリ及びこれらプーリ間に巻き掛けられたベルトによって構成される無段変速機構とを備えたベルト式無段変速機が一般に知られている。
【0003】
かかるベルト式無段変速機では、プーリが回転している状態でなければ無段変速機構の変速比を変化させることができないため、車両の停止時には完全に停車するまでに変速比がLOW側に、具体的には最減速比状態になるように無段変速機構の変速比を制御することが行われている。
【0004】
また、例えば特許文献1には、ベルト式無段変速機において、アクセル全閉状態での走行時に車速に応じてエンジンブレーキを効果的に作動させることを企図して、アクセル全閉状態での走行時における目標減速度を車速に応じて設定し、アクセル全閉状態での走行時における実際の車両の減速度が設定された目標減速度になるように変速比を可変制御するようにしたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平03−103655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、自動車等の車両においては、エンジンにより駆動される発電機が備えられており、近年では、車両の減速時に発電機の作動を制御して回生発電を行い、発電した電力を電気負荷やバッテリに供給することで燃費を向上させるようにしたものが知られている。
【0007】
このような発電機を備えた無段変速機を搭載した車両において、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたコースト走行後に停車する場合、発電機によって回生発電を行いつつ、発電機の発電負荷によりドライバの要求に応じた減速度で減速することが望まれる。
【0008】
しかしながら、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたときの車速、あるいは電気負荷やバッテリの状態に応じた車両の発電要求によっては、要求減速度を発電機の発電負荷により実現することができない場合がある。
【0009】
かかる場合に、エンジンブレーキによって減速することで、発電機によって効果的に回生発電を行いつつ発電機の発電負荷とエンジン負荷とによって目標減速度で減速することができると考えられるが、エンジン負荷によって減速させるためにLOW側へ変速比を制御すると、エンジン回転数が過剰に上昇することがあり、ドライバに新たな違和感を与える畏れがある。
【0010】
そこで、本発明は、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたコースト走行時に、目標減速度を発電機の発電負荷とエンジン負荷とにより実現しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制してドライバに違和感を与えることを抑制することができる無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このため、本願の請求項1に係る発明は、エンジンと、該エンジンにより駆動される発電機と、該エンジンとの間で動力伝達を接断するクラッチ手段を備えた無段変速機と、アクセル操作状態を検出するアクセル操作状態検出手段と、該アクセル操作状態検出手段によってアクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されると、前記エンジンを前記無段変速機に従動させた状態において前記無段変速機の変速比をLOW側へ移行させるように前記無段変速機の作動を制御する無段変速機の制御装置であって、前記アクセル操作状態検出手段によってアクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたときに、車速に基づいて目標減速度を算出する目標減速度算出手段と、該目標減速度算出手段によって算出された前記目標減速度を車両の発電要求に応じた前記発電機の発電負荷により実現することができるか否かを判定する判定手段と、該判定手段によって前記発電機の発電負荷により前記目標減速度を実現することができないと判定されたときに、前記目標減速度を前記発電機の発電負荷とエンジン負荷とにより実現するエンジン回転数になるように前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、車速に応じたエンジン回転数の上限値を設定する上限値設定手段と、前記変速比制御手段によって前記無段変速機の変速比の制御が行われているときに、エンジン回転数が前記上限値設定手段によって設定された前記上限値以下に維持されるようにエンジン回転数を補正するエンジン回転数補正手段と、を備えていることを特徴とする。
【0012】
また、本願の請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記エンジン回転数補正手段は、該エンジン回転数補正手段による前記エンジン回転数の補正を行わない場合に比して前記無段変速機の変速比をHIGH側に補正することにより前記エンジン回転数を補正する、ことを特徴とする。
【0013】
更に、本願の請求項3に係る発明は、請求項1又は請求項2に係る発明において、前記無段変速機は、ベルト式無段変速機であり、車両の停止時に前記無段変速機の変速比が最減速比状態になるように車速に応じた前記無段変速機の変速機構の入力側の回転数の下限値を設定する下限値設定手段と、前記変速比制御手段によって前記無段変速機の変速比の制御が行われているときに、前記変速機構の入力側の回転数が前記下限値設定手段によって設定された前記下限値以上に維持されるように前記変速機構の入力側の回転数を補正する変速機構入力回転数補正手段と、をさらに備えている、ことを特徴とする。
【0014】
また更に、本願の請求項4に係る発明は、請求項3に係る発明において、前記無段変速機のクラッチ手段は、スリップ制御可能に構成され、前記変速機構入力回転数補正手段は、前記クラッチ手段をスリップ制御するとともに前記無段変速比の変速比を補正することにより前記変速機構の入力側の回転数を補正する、ことを特徴とする。
【0015】
また更に、本願の請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記無段変速機のクラッチ手段は、スリップ制御可能に構成され、前記エンジン回転数補正手段は、前記クラッチ手段をスリップ制御することにより前記エンジン回転数を補正する、ことを特徴とする。
【0016】
また更に、本願の請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5の何れか1項に係る発明において、前記上限値設定手段は、低車速時におけるエンジン回転数の上限値が高車速時におけるエンジン回転数の上限値に比して低くなるようにエンジン回転数の上限値を設定する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本願の請求項1に係る無段変速機の制御装置によれば、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたときに、車速に基づいて算出された目標減速度を発電機の発電負荷により実現することができないと判定されたときに、目標減速度を発電機の発電負荷とエンジン負荷とにより実現するエンジン回転数になるように無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、該変速比制御手段によって無段変速機の変速比の制御が行われているときに、エンジン回転数が車速に応じて設定されたエンジン回転数の上限値以下に維持されるようにエンジン回転数を補正するエンジン回転数補正手段と、を備えている。
【0018】
これにより、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行時に、目標減速度を発電機の発電負荷とエンジン負荷とにより実現しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制してドライバに違和感を与えることを抑制することができる。
【0019】
また、本願の請求項2に係る発明によれば、エンジン回転数補正手段は、該エンジン回転数補正手段によるエンジン回転数の補正を行わない場合に比して無段変速機の変速比をHIGH側に補正してエンジン回転数を補正することにより、前記効果を具体的に実現することができる。
【0020】
更に、本願の請求項3に係る発明によれば、変速比制御手段によって無段変速機の変速比の制御が行われているときに、変速機構の入力側の回転数が、車両の停止時に無段変速機の変速比が最減速比状態になるように車速に応じて設定された下限値以上に維持されるように、変速機構の入力側の回転数を補正する変速機構入力回転数補正手段をさらに備えていることにより、車両の停止時に無段変速機の変速比を最減速比状態にすることができ、発進時の加速性が低下することを抑制することができる。
【0021】
また更に、本願の請求項4に係る発明によれば、変速機構入力回転数補正手段は、クラッチ手段をスリップ制御するとともに無段変速機の変速比を補正することにより変速機構の入力側の回転数を補正することにより、変速機構の入力側の回転数を下限値以上に維持しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0022】
また更に、本願の請求項5に係る発明によれば、エンジン回転数補正手段は、クラッチ手段をスリップ制御することによりエンジン回転数を補正することにより、目標減速度を発電機の発電負荷とエンジン負荷により実現しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制することができ、前記効果をより有効に奏することができる。
【0023】
また更に、本願の請求項6に係る発明によれば、低車速時におけるエンジン回転数の上限値が高車速時におけるエンジン回転数の上限値に比して低くなるようにエンジン回転数の上限値を設定することにより、NVH(ノイズ・バイブレーション・ハーシュネス)の性能を有効に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係る無段変速機の骨子図である。
【図2】前記無段変速機の制御システム図である。
【図3】車速と目標減速度との関係を示す図である。
【図4】車速と目標減速度を実現するエンジン回転数との関係を示す図である。
【図5】車速とNVH限界値との関係を示す図である。
【図6】車速とLOW戻り限界値との関係を示す図である。
【図7】前記無段変速機を備えた車両のコースト走行時における無段変速機の第1の制御を示す図である。
【図8】本発明の実施形態に係る無段変速機の第1の制御を示すフローチャートである。
【図9】勾配角と目標減速度との関係を示す図である。
【図10】ブレーキ圧と目標減速度との関係を示す図である。
【図11】前記無段変速機を備えた車両のコースト走行時における無段変速機の第2の制御を示す図である。
【図12】本発明の実施形態に係る無段変速機の第2の制御を示すフローチャートである。
【図13】本発明の実施形態に係る無段変速機の第2の制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明の実施形態に係る無段変速機の骨子図であって、この無段変速機1は、エンジン2の出力軸3に連結されたトルクコンバータ10と、トルクコンバータ10の出力側に配置された前進後退切換機構20と、前進後退切換機構20の出力側に配置されたベルト式無段変速機構30と、ベルト式無段変速機構30の出力側に配置された終減速機40及び差動装置50とで構成されている。
【0027】
トルクコンバータ10は、エンジン出力軸3に連結されたケース11と、ケース11内に固設されてエンジン出力軸3と一体回転するポンプ12と、ポンプ12によりケース11内の作動油を介して駆動されるタービン13と、タービン13とポンプ12との間に介設されてトルク増大作用を行うステータ14と、ケース11とタービン13とを結合してタービン13をエンジン出力軸3に直結させるとともにスリップ制御可能に構成されるロックアップクラッチ15と、を有し、タービン13に連結されたタービンシャフト16が前進後退切換機構20の入力軸として前進後退切換機構20側に延びている。
【0028】
前進後退切換機構20は、タービンシャフト16と一体回転するキャリア21に、外側のリングギヤ22に噛合する第1ピニオンギヤ23と、内側のサンギヤ24に噛合する第2ピニオンギヤ25とが設けられ、リングギヤ22と内側のキャリア21との間に両者を接断する油圧多板式の前進用クラッチ26が配設され、リングギヤ22と外側のミッションケース壁19との間に両者を接断する油圧多板式の後退用ブレーキ27が配設されている。なお、サンギヤ24に無段変速機構30側への出力軸28が連結されている。
【0029】
このように構成された前進後退切換機構20では、後退用ブレーキ27を解放し、且つ前進用クラッチ26を締結した状態では、リングギヤ22とキャリア21とが一体化されるとともにリングギヤ22がミッションケース壁19に対して相対回転可能となるため、タービンシャフト16の回転が同方向回転状態、すなわち前進状態でサンギヤ24を介して無段変速機構30側への出力軸28に出力されることとなる。
【0030】
一方、後退用ブレーキ27を締結し、且つ前進用クラッチ26を解放した状態では、リングギヤ22がミッションケース壁19に固定されるとともにリングギヤ22に対してキャリア21が相対回転自在となるため、タービンシャフト16の回転が第1ピニオンギヤ23及び第2ピニオンギヤ25を介して反転した状態、すなわち後進状態で無段変速機構30側への出力軸28に出力されることとなる。
【0031】
無段変速機構30は、入力軸(前進後退切換機構20の出力軸)28上に配置されたプライマリプーリ31と、入力軸28に平行な出力軸32上に配置されたセカンダリプーリ33と、両プーリ31、33間に巻き掛けられたVベルト34とで構成されている。プライマリプーリ31及びセカンダリプーリ33はそれぞれ、入力軸28、出力軸32に固定された固定ディスク31a、33aと、これらの軸28、32上にスライド可能に支持されて固定ディスク31a、33aに対向する可動ディスク31b、33bとで構成されている。
【0032】
可動ディスク31b、33bの背後にはシリンダ31c、33cが設けられ、これらのシリンダ31c、33cに対する作動油圧の給排制御により、両プーリ31、33におけるVベルト34の挟持位置の半径、すなわちこれらのプーリ31、33の有効半径が変化し、これにより無段変速機1、具体的には無段変速機構30の変速比が制御されるようになっている。
【0033】
そして、無段変速機構30の出力が出力軸32及び一対の伝動ギヤ35、36を介して、小径の第1ギヤ41と大径の第2ギヤ42とでなる終減速機40に伝達されるとともに、さらに差動装置50に入力され、差動装置50によって分割されて、左右の車輪の駆動軸51、52に出力されるようになっている。
【0034】
また、無段変速機1に連結されるエンジン2には、該エンジン2のクランクシャフト4にベルト5を介して連結されるオルタネータなどの発電機6が備えられ、このエンジン2により駆動される発電機6は、車両の電気負荷や車両に備えられたバッテリの状態に基づく車両の発電要求に応じて発電した電力を電気負荷やバッテリに供給することができるようになっているとともに、車両の減速時には回生発電を行うことができるようになっている。
【0035】
このようにして構成される無段変速機1にはまた、トルクコンバータ10のロックアップクラッチ15及び無段変速機構30の作動等、無段変速機1に関係する構成を総合的に制御するコントロールユニット100が設けられている。なお、コントロールユニット100は、マイクロコンピュータを主要部として構成されている。
【0036】
図2は、前記無段変速機の制御システム図である。図2に示すように、コントロールユニット100には、無段変速機1を搭載した車両の速度を検出する車速センサ101からの信号、アクセル操作状態を検出するアクセル操作状態検出手段としてアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ102からの信号、ブレーキペダルの踏み込み圧を検出するブレーキ圧センサ103からの信号、車両が走行する路面の勾配を検出する勾配角センサ104からの信号、車両の電気負荷やバッテリの状態に基づいて車両の発電要求を算出する発電制御装置105からの信号が入力されるようになっている。
【0037】
このコントロールユニット100は、車速とアクセル開度とに基づき、選択されているレンジに応じた無段変速機1の変速比の制御を行うと共に、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されると、エンジン2を無段変速機1に従動させた状態において無段変速機1の変速比をLOW側へ移行させるように無段変速機1の作動を制御する。
【0038】
コントロールユニット100はまた、後述するように、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行後に停車する場合、コントロールユニット100への入力信号に基づいて、発電機6によって回生発電を行いつつ、車両の停車時に無段変速機構30の変速比がLOW側、具体的には最減速比状態となるように無段変速機1、具体的には無段変速機構30の変速比の制御やロックアップクラッチ15の制御を行う。
【0039】
図3は、車速と目標減速度との関係を示す図であり、本実施形態では、この図3に示すような、車速に応じて予め設定された目標減速度を示すラインL1がマップとしてコントロールユニット100に記憶されている。目標減速度ラインL1は、車速が低下するにつれて目標減速度が低下するように設定され、ドライバに違和感を与えることを抑制しつつ発電機6によって回生発電を効率的に行うことができるように設定されている。
【0040】
また、図4は、車速と目標減速度を実現するエンジン回転数との関係を示す図であり、図4では、図3に示す目標減速度をエンジン負荷のみで実現するエンジン回転数を目標減速度ラインL2として実線で示し、図3に示す目標減速度を現在実現できる発電機6の発電負荷を最大とした上で発電機6の発電負荷とエンジン負荷とにより実現し、減速度と燃費とを考慮したエンジン回転数を減速度・燃費目標ラインL3として一点鎖線で示している。
【0041】
本実施形態では、コースト走行時に、車速に基づいて目標減速度を算出し、算出された目標減速度を発電機6の発電負荷により実現することができるか判定し、目標減速度を発電機6の発電負荷により実現できないとき、目標減速度を発電機6の発電負荷とエンジン負荷とにより実現するエンジン回転数になるように無段変速機1の変速比を制御し、図4に示す減速度・燃費目標ラインL3のように、車速に基づいて算出された目標減速度をエンジン負荷のみで実現するエンジン回転数から発電機6の発電負荷により実現できる減速度をエンジン回転数に換算して算出したエンジン回転数を引いたエンジン回転数(目標エンジン回転数)となるように無段変速機1の変速比をLOW側へ制御する。
【0042】
なお、発電機6の発電負荷により実現できる減速度は、電気負荷が大きいほど、またバッテリの残容量が少ないほど、車両の発電要求が大きくなるので大きくなるように設定され、図4に示す減速度・燃費目標ラインL3は、電気負荷が大きいほど、またバッテリの残容量が少ないほど低回転数側に設定される。
【0043】
コースト走行時には、ロックアップクラッチ15を締結した状態でエンジン回転数を目標エンジン回転数になるように無段変速機1の変速比をLOW側へ制御することで、燃費を向上させつつドライバに違和感を与えることを抑制した減速度を発電機6の発電負荷とエンジン負荷とによって実現することができるが、前述したように、LOW側へ変速比を制御すると、エンジン回転数が過剰に上昇してドライバに新たな違和感を与える畏れがあるので、本実施形態では、車速に応じたエンジン回転数の上限値を設定することで、かかる問題を回避する。
【0044】
図5は、車速とNVH限界値との関係を示す図である。本実施形態では、NVHを低減するために、この図5に示すような、車速に応じてエンジン回転数の上限値(NVH限界値)を予め設定し、このNVH限界値を示すラインL4がマップとしてコントロールユニット100に記憶されている。NVH限界値ラインL4は、NVH性能を考慮して低車速時におけるエンジン回転数の上限値が高車速時におけるエンジン回転数の上限値に比して低くなるように設定されている。
【0045】
また、本実施形態では、コースト走行後に停車する場合、完全に停車するまでに無段変速機1の変速比が最減速比状態になるように制御することが必要であることから、車両の停止時に無段変速機1の変速比が最減速比状態になるように車速に応じた無段変速機1の変速機構30の入力側の回転数の下限値を設定する。
【0046】
図6は、車速とLOW戻り限界値との関係を示す図である。車両の停止時に無段変速機1の変速比をLOW側に、具体的には最減速比状態に戻すために、本実施形態では、この図6に示すような、車速に応じた無段変速機1の変速機構30の入力側の回転数の下限値(LOW戻り限界値)を予め設定し、このLOW戻り限界値を示すラインL5がマップとしてコントロールユニット100に記憶されている。
【0047】
LOW戻り限界値ラインL5は、低車速時における変速機構30の入力側、すなわち変速機構30の入力軸28の回転数の下限値が高車速時における変速機構30の入力側の回転数の下限値に比して低くなるように設定されている。なお、コースト走行時に無段変速機1のロックアップクラッチ15を締結した状態においては、エンジン回転数は変速機構30の入力側の回転数と同じ回転数になり、エンジン回転数もまたLOW戻り限界値の回転数以上に維持される。
【0048】
前述したように、本実施形態では、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されると、エンジン2を無段変速機1に従動させた状態において無段変速機1の変速比をLOW側へ移行させるように無段変速機1の作動を制御するが、そのとき、車速に基づいて算出された目標減速度を発電機6の発電負荷により実現することができないときは、その目標減速度を現在実現できる発電機6の発電負荷を最大とした上で発電機6の発電負荷とエンジン負荷とにより実現するエンジン回転数になるようにロックアップクラッチ15を締結した状態で無段変速機1の変速比を制御する。
【0049】
そして、無段変速機1の変速比の制御が行われているときに、エンジン回転数が車速に応じて設定されたNVH限界値以下に維持されるようにエンジン回転数を補正する。このエンジン回転数の補正は、該エンジン回転数の補正を行わない場合に比して無段変速機1の変速比をHIGH側に補正することにより行う。
【0050】
また、無段変速機1の変速比の制御が行われているときに、変速機構30の入力側の回転数が変速機構30の入力側の回転数の下限値以上に維持されるように無段変速機1の変速比を補正することにより変速機構30の入力側の回転数を補正する。
【0051】
ロックアップクラッチ15を締結した状態では、目標エンジン回転数及びNVH限界値のうち小さい回転数がLOW戻り限界値より小さい場合にはエンジン回転数がLOW戻り限界値になるように変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数を補正し、このエンジン回転数の補正は、該エンジン回転数の補正を行わない場合に比して無段変速機1の変速比をLOW側に補正することにより行う。なお、これらの制御は、コントロールユニット100によって制御される。
【0052】
図7は、前記無段変速機を備えた車両のコースト走行時における無段変速機の第1の制御を示す図であり、図7では、図4〜図6に示す減速度・燃費目標ラインL3、NVH限界値ラインL4及びLOW戻り限界値ラインL5を重ね合わせて示している。前述したように、コントロールユニット100は、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行時に、ロックアップクラッチ15を締結させた状態において、変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数が図7において実線で示す回転数になるように無段変速機1の変速比を制御する。
【0053】
図7に示すように、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたときに、車速がV0である場合、目標エンジン回転数を示す減速度・燃費目標ラインL3は、NVH限界値ラインL4より低くLOW戻り限界値ラインL5よりも回転数が高いので、変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数が減速度・燃費目標ラインL3の回転数になるように無段変速機1の変速比を制御する。
【0054】
そして、車速がV1より低下して減速度・燃費目標ラインL3がNVH限界値ラインL4より大きくなると、エンジン回転数がNVH限界値ラインの回転数になるように変速比をHIGH側に補正してエンジン回転数を補正する。このように、エンジン回転数がNVH限界値以下に維持されるようにエンジン回転数を補正することにより、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制してドライバに違和感を与えることを抑制することができる。
【0055】
車速がV2より低下し、LOW戻り限界値ラインL5がNVH限界値ラインL4より高くなると、変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値になるように変速比をLOW側に補正して変速機構30の入力側の回転数を補正する。このように、変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値になるように補正することにより、車両の停止時に無段変速機1の変速比を最減速比状態にすることができ、発進時の加速性が低下することを抑制することができる。
【0056】
なお、図7では、車速V0がV1より高い速度で示しているが、これに限定するものでなく、アクセル非操作状態への移行が検出されたときの車速V0がV1より小さい場合においても、車速に応じて実線で示す回転数になるように変速機構30の変速比が制御される。また、図7では、減速度・燃費目標ラインL3、NVH限界値ラインL4及びLOW戻り限界値ラインL5の一例を示しているが、減速度・燃費目標ラインL3、NVH限界値ラインL4及びLOW戻り限界値ラインL5が異なる場合においても、以下の図8に示すフローチャートに従って無段変速機1の作動が制御される。
【0057】
図8は、本発明の実施形態に係る無段変速機の第1の制御を示すフローチャートである。この制御では、先ず、無段変速機1に関係する構成により検出される信号、すなわち、アクセル開度、車速、ブレーキ圧、勾配角、発電制御装置105からの車両の発電要求などの各種信号が読み込まれる(ステップS1)。なお、この制御は、無段変速機1のロックアップクラッチ15を締結した状態で行う。
【0058】
次に、ステップS2において、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたアクセル全閉状態であるか否かが判定される。ステップS2での判定結果がノー(NO)の場合、すなわちアクセル全閉状態でない場合、ステップS1及びS2が繰り返されるが、ステップS2での判定結果がイエス(YES)の場合、すなわちアクセル全閉状態であるコースト走行の場合、車速が所定車速以上などの燃料カット条件が成立しているか否かが判定される(ステップS3)。
【0059】
ステップS3での判定結果がノーの場合、すなわち燃料カット条件が成立していない場合、ステップS1〜S3が繰り返されるが、ステップS3での判定結果がイエスの場合、すなわち燃料カット条件が成立している場合、車速に基づいて算出された目標減速度を車両の発電要求に応じた発電機6の発電負荷により実現することができるか否かが判定される(ステップS4)。
【0060】
具体的には、ステップS4において、車速に基づいて算出された目標減速度を実現する発電機6の発電負荷が、車両の発電要求に応じて設定される現在実現できる発電機6の最大発電負荷より大きいか否かが判定される。そして、ステップS4での判定結果がノーの場合、すなわち目標減速度を実現する発電機6の発電負荷が現在実現できる発電機6の最大発電負荷以下である場合、目標減速度が発電機6の発電負荷のみにより実現される。
【0061】
一方、ステップS4での判定結果がイエスの場合、すなわち目標減速度を実現する発電機6の発電負荷が現在実現できる発電機6の最大発電負荷より大きい場合、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたときに、車速に基づいて算出された目標減速度をエンジン負荷のみで実現できるエンジン回転数R1が算出され(ステップS5)、発電制御装置105からの発電要求信号に応じて発電機6の発電負荷により実現できる減速度をエンジン回転数に換算したエンジン回転数R2が算出され(ステップS6)、目標エンジン回転数(R1−R2)が算出される(ステップS7)。
【0062】
次に、車速に応じたエンジン回転数の上限値であるNVH限界値R3が算出され(ステップS8)、車速に応じた変速機構30の入力側の回転数の下限値であるLOW戻り限界値R4が算出される(ステップS9)。そして、目標エンジン回転数(R1−R2)がNVH限界値R3より小さいか否かが判定される(ステップS10)。
【0063】
ステップS10での判定結果がイエスの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がNVH限界値R3より小さい場合、次に、目標エンジン回転数(R1−R2)がLOW戻り限界値R4より大きいか否かが判定される(ステップS11)。そして、ステップS12での判定結果がイエスの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がLOW戻り限界値R4より大きい場合、変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数が目標エンジン回転数(R1−R2)になるように無段変速機1の変速比が制御される(ステップS12)。
【0064】
一方、ステップS11での判定結果がノーの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がLOW戻り限界値R4以下である場合、変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数がLOW戻り限界値R4になるように無段変速機1の変速比が制御され(ステップS13)、目標減速度を実現する目標エンジン回転数(R1−R2)になるように制御される無段変速機1の変速比が、変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値R4になるようにLOW側に補正される。
【0065】
また、ステップS10での判定結果がノーの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がNVH限界値R3以上である場合、次に、NVH限界値R3がLOW戻り限界値R4より大きいか否かが判定される(ステップS14)。そして、ステップS14での判定結果がイエスの場合、すなわちNVH限界値R3がLOW戻り限界値R4より大きい場合、変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数がNVH限界値R3になるように無段変速機1の変速比が制御され(ステップS15)、目標減速度を実現する目標エンジン回転数(R1−R2)になるように制御される無段変速機1の変速比が、エンジン回転数がNVH限界値R3になるようにHIGH側に補正される。
【0066】
一方、ステップS14での判定結果がノーの場合、すなわちNVH限界値R3がLOW戻り限界値R4以下である場合、変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数がLOW戻り限界値R4になるように無段変速機1の変速比が制御され(ステップS13)、目標減速度を実現する目標エンジン回転数(R1−R2)になるように制御される無段変速機1の変速比が、変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値R4になるようにLOW側に補正される。
【0067】
以上のように、本実施形態では、コントロールユニット100は、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたときに、車速に基づいて目標減速度を算出し、算出された目標減速度を車両の発電要求に応じた発電機6の発電負荷により実現することができるか否かを判定し、発電機6の発電負荷により目標減速度を実現することができないと判定されたときに、目標減速度を発電機6の発電負荷とエンジン負荷とにより実現するエンジン回転数になるように無段変速機1の変速比をLOW側へ制御し、車速に応じたエンジン回転数の上限値を設定し、無段変速機1の変速比のLOW側への制御が行われているときに、エンジン回転数が前記上限値以下に維持されるようにエンジン回転数を補正する。
【0068】
これにより、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行時に、目標減速度を発電機6の発電負荷とエンジン負荷とにより実現することができるとともに、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制してドライバに違和感を与えることを抑制することができる。
【0069】
また、無段変速機1は、ベルト式無段変速機であり、コントロールユニット100は、車両の停止時に無段変速機1の変速比が最減速比状態になるように車速に応じて無段変速機1の変速機構30の入力側の回転数の下限値を設定し、無段変速機1の変速比のLOW側への制御が行われているときに、変速機構30の入力側の回転数が前記下限値以上に維持されるように変速機構30の入力側の回転数を補正する。これにより、車両の停止時に無段変速機1の変速比を最減速比状態にすることができ、発進時の加速性が低下することを抑制することができる。
【0070】
さらに、低車速時におけるエンジン回転数の上限値が高車速時におけるエンジン回転数の上限値に比して低くなるようにエンジン回転数の上限値を設定することにより、エンジン回転数の上限値を好適に設定することができ、NVHの性能を有効に得ることができる。
【0071】
前述した実施形態では、車両が走行する路面の勾配角やブレーキ圧を考慮することなく車速に応じた目標減速度が予め設定されているが、勾配角及びブレーキ圧に応じて目標減速度を補正するようにしてもよく、かかる場合には、目標減速度をより好適に設定することができる。
【0072】
図9は、勾配角と目標減速度との関係を示す図であり、図9では、目標減速度を破線で示し、勾配角によって補正した目標減速度を実線で示している。図9に示すように、勾配角センサ104によって検出された勾配角に応じて、下り勾配角が大きくなるにつれて目標減速度が高くなるように、また上り勾配角が大きくなるにつれて目標減速度が低くなるように目標減速度を補正するようにしてもよい。
【0073】
また、図10は、ブレーキ圧と目標減速度との関係を示す図であり、図10では、目標減速度を破線で示し、ブレーキ圧によって補正した目標減速度を実線で示している。図10に示すように、ブレーキ圧センサ103によって検出されたブレーキ圧に応じて、ブレーキ圧が高くなるにつれて目標減速度を高くなるように目標減速度を補正するようにしてもよい。
【0074】
また、前述した実施形態では、ロックアップクラッチ15を締結した状態において無段変速機1の変速比の制御を行い、変速機構30の入力側の回転数とエンジン回転数とが同じ回転数となるように制御されているが、コースト走行時にロックアップクラッチ15をスリップ状態にして変速機構30の入力側の回転数とエンジン回転数とが異なる回転数となるように制御することも可能である。
【0075】
図11は、前記無段変速機を備えた車両のコースト走行時における無段変速機の第2の制御を示す図であり、図11では、図7では、図4〜図6に示す減速度・燃費目標ラインL3、NVH限界値ラインL4及びLOW戻り限界値ラインL5を重ね合わせて示している。この制御では、コントロールユニット100は、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行時に、図11において実線で示す変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数になるように無段変速機1の作動、具体的にはロックアップクラッチ15の作動及び変速機構30の変速比を制御する。なお、車速がV1より低いときは変速機構30の入力側の回転数が上側の実線L11で示す回転数になるように制御するとともにエンジン回転数が下側の実線L12で示す回転数になるように無段変速機1の作動を制御する。
【0076】
図11に示すように、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出された時の車速がV0である場合、目標エンジン回転数を示す減速度・燃費目標ラインL3は、NVH限界値ラインL4より低くLOW戻り限界値ラインL5よりも回転数が高いので、変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数が減速度・燃費目標ラインL3の回転数になるようにロックアップクラッチ15を締結制御するとともに無段変速機1の変速比を制御する。
【0077】
そして、車速がV1より低下して減速度・燃費目標ラインL3がNVH限界値ラインL4より高くなると、変速機構30の入力側の回転数が減速度・燃費目標ラインL3の回転数になるように無段変速機1の変速比を制御するとともにエンジン回転数がNVH限界値ラインL4の回転数になるように減速度・燃費目標ラインL3の回転数とNVH限界値ラインL4の回転数との回転数差に応じてロックアップクラッチ15をスリップ制御し、エンジン回転数を補正する。
【0078】
このように、ロックアップクラッチ15をスリップ制御して、エンジン回転数をNVH限界値以下に維持されるように補正することにより、目標減速度を発電機の発電負荷とエンジン負荷とにより実現しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制してドライバに違和感を与えることを抑制することができる。
【0079】
車速がV3より低下し、LOW戻り限界値ラインL5が減速度・燃費目標ラインL3より高くなると、変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値ラインL5の回転数になるように無段変速機1の変速比を補正するとともにエンジン回転数がNVH限界値ラインL4の回転数になるようにLOW戻り限界値ラインL5の回転数とNVH限界値ラインL4の回転数との回転数差に応じてロックアップクラッチ15をスリップ制御する。
【0080】
このように、ロックアップクラッチ15をスリップ制御するとともに、変速機構30の入力側の回転数をLOW戻り限界値以上に維持されるように無段変速機1の変速比を補正することにより、発進時の加速性が低下することを抑制しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制することができる。
【0081】
車速がV4より低下し、減速度・燃費目標ラインL3がNVH限界値ラインL4より低くなると、変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値になるように無段変速機1の変速比を制御するとともに、エンジン回転数が減速度・燃費目標ラインL3の回転数になるようにLOW戻り限界値ラインL5の回転数と減速度・燃費目標ラインL3の回転数との回転数差に応じてロックアップクラッチ15をスリップ制御する。
【0082】
この場合においても、ロックアップクラッチ15をスリップ制御するとともに、変速機構30の入力側の回転数をLOW戻り限界値以上に維持されるように無段変速機1の変速比を補正することにより、発進時の加速性が低下することを抑制しつつ、エンジン回転数が上昇することを抑制することができる。
【0083】
なお、図11では、車速V0がV1より高い速度で示しているが、これに限定するものでなく、アクセル非操作状態への移行が検出されたときの車速V0がV1より低い場合においても、車速に応じて変速機構30の入力側の回転数及びエンジン回転数が図11に示す回転数になるように制御される。また、図11では、減速度・燃費目標ラインL3、NVH限界値ラインL4及びLOW戻り限界値ラインL5の一例を示しているが、減速度・燃費目標ラインL3、NVH限界値ラインL4及びLOW戻り限界値ラインL5が異なる場合においても、以下の図12及び図13に示すフローチャートに従って無段変速機1の作動が制御される。
【0084】
図12及び図13は、本発明の実施形態に係る無段変速機の第2の制御を示すフローチャートである。この制御においても、先ず、無段変速機1に関係する構成により検出される信号、すなわち、アクセル開度、車速、ブレーキ圧、勾配角、発電制御装置105からの車両の発電要求などの各種信号が読み込まれる(ステップS21)。
【0085】
次に、ステップS22において、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたアクセル全閉状態であるか否かが判定される。ステップS22での判定結果がノーの場合、ステップS1及びS2が繰り返されるが、ステップS2での判定結果がイエスの場合、車速が所定車速以上などの燃料カット条件が成立しているか否かが判定される(ステップS23)。
【0086】
ステップS23での判定結果がノーの場合、ステップS21〜S23が繰り返されるが、ステップS23での判定結果がイエスの場合、車速に基づいて算出された目標減速度を実現する発電機6の発電負荷が、車両の発電要求に応じて設定される現在実現できる発電機6の最大発電負荷より大きいか否かが判定される(ステップS24)。そして、ステップS24での判定結果がノーの場合、目標減速度が発電機6の発電負荷のみにより実現される。
【0087】
一方、ステップS24での判定結果がイエスの場合、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたときに、車速に基づいて算出された目標減速度をエンジン負荷のみで実現できるエンジン回転数R1が算出され(ステップS25)、発電制御装置105からの発電要求信号に応じて発電機6の発電負荷により実現できる減速度をエンジン回転数に換算したエンジン回転数R2が算出され(ステップS26)、目標エンジン回転数(R1−R2)が算出され(ステップS27)、車速に応じたNVH限界値R3が算出され(ステップS28)、車速に応じたLOW戻り限界値R4が算出される(ステップS29)。そして、目標エンジン回転数(R1−R2)がNVH限界値R3より小さいか否かが判定される(ステップS30)。
【0088】
ステップS30での判定結果がイエスの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がNVH限界値R3より小さい場合、次に、目標エンジン回転数(R1−R2)がLOW戻り限界値R4より大きいか否かが判定される(ステップS31)。そして、ステップS31での判定結果がイエスの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がLOW戻り限界値R4より大きい場合、変速機構30の入力側の回転数が目標エンジン回転数(R1−R2)になるように無段変速機1の変速比が制御され(ステップS32)、エンジン回転数が目標エンジン回転数(R1−R2)になるようにロックアップクラッチ15が締結制御される(ステップS33)。
【0089】
一方、ステップS31での判定結果がノーの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がLOW戻り限界値R4以下である場合、変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値R4になるように無段変速機1の変速比が制御され(ステップS34)、エンジン回転数が目標エンジン回転数(R1−R2)になるようにLOW戻り限界値R4と目標エンジン回転数(R1−R2)との回転数差{R4−(R1−R2)}に応じてロックアップクラッチ15がスリップ制御され(ステップS35)、目標減速度を実現する目標エンジン回転数(R1−R2)になるように制御される無段変速機1の変速比が、ロックアップクラッチ15をスリップ制御した状態において変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値R4になるようにLOW側に補正される。
【0090】
また、ステップS30での判定結果がノーの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がNVH限界値R3以上である場合、次に、NVH限界値R3がLOW戻り限界値R4より大きいか否かが判定される(ステップS36)。ステップS36での判定結果がイエスの場合、すなわちNVH限界値R3がLOW戻り限界値R4より大きい場合、変速機構30の入力側の回転数が目標エンジン回転数(R1−R2)になるように無段変速機1の変速比が制御され(ステップS37)、エンジン回転数がNVH限界値R3になるように目標エンジン回転数(R1−R2)とNVH限界値R3との回転数差{(R1−R2)−R3}に応じてロックアップクラッチ15がスリップ制御され(ステップS38)、目標減速度を実現する目標エンジン回転数(R1−R2)になるように無段変速機1の変速比の制御が行われた状態において、ロックアップクラッチ15がスリップ制御され、エンジン回転数が補正される。
【0091】
ステップS36での判定結果がノーの場合、すなわちNVH限界値R3がLOW戻り限界値R4以下である場合、次に、目標エンジン回転数(R1−R2)がLOW戻り限界値R4より大きいか否かが判定される(ステップS39)。ステップS39での判定結果がイエスの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がLOW戻り限界値R4より大きい場合、変速機構30の入力側の回転数が目標エンジン回転数(R1−R2)になるように無段変速機1の変速比が制御され(ステップS40)、エンジン回転数がNVH限界値R3になるように目標エンジン回転数(R1−R2)とNVH限界値R3との回転数差{(R1−R2)−R3}に応じてロックアップクラッチ15がスリップ制御され(ステップS41)、目標減速度を実現する目標エンジン回転数(R1−R2)になるように無段変速機1の変速比の制御が行われた状態において、ロックアップクラッチ15がスリップ制御され、エンジン回転数が補正される。
【0092】
一方、ステップS39での判定結果がノーの場合、すなわち目標エンジン回転数(R1−R2)がLOW戻り限界値R4以下である場合、変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値R4になるように無段変速機1の変速比が制御され(ステップS42)、エンジン回転数がNVH限界値R3になるようにLOW戻り限界値R4とNVH限界値R3との回転数差(R4−R3)に応じてロックアップクラッチ15がスリップ制御され(ステップS43)、目標減速度を実現する目標エンジン回転数(R1−R2)になるように制御される無段変速機1の変速比が、変速機構30の入力側の回転数がLOW戻り限界値R4になるようにLOW側に補正されるとともに、ロックアップクラッチ15がスリップ制御されてエンジン回転数が補正される。
【0093】
以上のように、本実施形態においても、コントロールユニット100は、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたときに、車速に基づいて目標減速度を算出し、算出された目標減速度を車両の発電要求に応じた発電機6の発電負荷により実現することができるか否かを判定し、発電機6の発電負荷により目標減速度を実現することができないと判定されたときに、目標減速度を発電機6の発電負荷とエンジン負荷とにより実現するエンジン回転数になるように無段変速機1の変速比をLOW側へ制御し、車速に応じたエンジン回転数の上限値を設定し、無段変速機1の変速比のLOW側への制御が行われているときに、エンジン回転数が前記上限値以下に維持されるようにエンジン回転数を補正する。
【0094】
これにより、アクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたコースト走行時に、目標減速度を発電機6の発電負荷とエンジン負荷とにより実現することができるとともに、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制してドライバに違和感を与えることを抑制することができる。
【0095】
また、無段変速機1は、ベルト式無段変速機であり、コントロールユニット100は、車両の停止時に無段変速機の変速比が最減速比状態になるように車速に応じた無段変速機1の変速機構30の入力側の回転数の下限値を設定し、無段変速機1の変速比のLOW側への制御が行われているときに、変速機構30の入力側の回転数が下限値以上に維持されるように変速機構30の入力側の回転数を補正する。これにより、車両の停止時に無段変速機1の変速比を最減速比状態にすることができ、発進時の加速性が低下することを抑制することができる。
【0096】
更に、ロックアップクラッチ15をスリップ制御するとともに無段変速機1の変速比を補正することにより変速機構30の入力側の回転数を車速に応じて設定された下限値以上に維持されるように補正することにより、変速機構30の入力側の回転数を下限値以上に維持しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制することができる。
【0097】
また更に、ロックアップクラッチ15をスリップ制御することによりエンジン回転数を車速に応じて設定された上限値以下に維持されるように補正することにより、目標減速度を発電機6の発電負荷とエンジン負荷とにより実現しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制することができる。
【0098】
本実施形態では、エンジン2との間の動力伝達を接断するロックアップクラッチ15を備えた無段変速機1について記載しているが、エンジン2との間で動力伝達を接断するその他のクラッチ手段を用いることも可能である。また、本実施形態では、アクセル操作状態からアクセル非操作状態へ移行されたコースト走行時に、燃料カット条件が成立した場合に無段変速機1の作動を制御しているが、燃料カット条件に関わらず無段変速機1の作動を制御するようにしてもよい。
【0099】
なお、本発明は、例示された実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計上の変更が可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のように、本発明によれば、発電機を備えた無段変速機が搭載された車両において、目標減速度を発電機の発電負荷とエンジン負荷とにより実現しつつ、エンジン回転数が過剰に上昇することを抑制してドライバに違和感を与えることを抑制することが可能となるから、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0101】
1 無段変速機
2 エンジン
6 発電機
10 トルクコンバータ
15 ロックアップクラッチ
30 無段変速機構
100 コントロールユニット
101 車速センサ
102 アクセル開度センサ
105 発電制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、該エンジンにより駆動される発電機と、該エンジンとの間で動力伝達を接断するクラッチ手段を備えた無段変速機と、アクセル操作状態を検出するアクセル操作状態検出手段と、該アクセル操作状態検出手段によってアクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されると、前記エンジンを前記無段変速機に従動させた状態において前記無段変速機の変速比をLOW側へ移行させるように前記無段変速機の作動を制御する無段変速機の制御装置であって、
前記アクセル操作状態検出手段によってアクセル操作状態からアクセル非操作状態への移行が検出されたときに、車速に基づいて目標減速度を算出する目標減速度算出手段と、
該目標減速度算出手段によって算出された前記目標減速度を車両の発電要求に応じた前記発電機の発電負荷により実現することができるか否かを判定する判定手段と、
該判定手段によって前記発電機の発電負荷により前記目標減速度を実現することができないと判定されたときに、前記目標減速度を前記発電機の発電負荷とエンジン負荷とにより実現するエンジン回転数になるように前記無段変速機の変速比を制御する変速比制御手段と、
車速に応じたエンジン回転数の上限値を設定する上限値設定手段と、
前記変速比制御手段によって前記無段変速機の変速比の制御が行われているときに、エンジン回転数が前記上限値設定手段によって設定された前記上限値以下に維持されるようにエンジン回転数を補正するエンジン回転数補正手段と、
を備えていることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【請求項2】
前記エンジン回転数補正手段は、該エンジン回転数補正手段による前記エンジン回転数の補正を行わない場合に比して前記無段変速機の変速比をHIGH側に補正することにより前記エンジン回転数を補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項3】
前記無段変速機は、ベルト式無段変速機であり、
車両の停止時に前記無段変速機の変速比が最減速比状態になるように車速に基づいて前記無段変速機の変速機構の入力側の回転数の下限値を設定する下限値設定手段と、
前記変速比制御手段によって前記無段変速機の変速比の制御が行われているときに、前記変速機構の入力側の回転数が前記下限値設定手段によって設定された前記下限値以上に維持されるように前記変速機構の入力側の回転数を補正する変速機構入力回転数補正手段と、
をさらに備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項4】
前記無段変速機のクラッチ手段は、スリップ制御可能に構成され、
前記変速機構入力回転数補正手段は、前記クラッチ手段をスリップ制御するとともに前記無段変速機1の変速比を補正することにより前記変速機構の入力側の回転数を補正する、
ことを特徴とする請求項3に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項5】
前記無段変速機のクラッチ手段は、スリップ制御可能に構成され、
前記エンジン回転数補正手段は、前記クラッチ手段をスリップ制御することにより前記エンジン回転数を補正する、
ことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
【請求項6】
前記上限値設定手段は、低車速時におけるエンジン回転数の上限値が高車速時におけるエンジン回転数の上限値に比して低くなるようにエンジン回転数の上限値を設定する、
ことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の無段変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−207772(P2012−207772A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76042(P2011−76042)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】