無段変速機
一次プーリ(2)と二次プーリ(3)とを備え、その周囲に駆動ベルト(10)を配置し、駆動ベルト(10)は、一次クランプ力を持つ一次プーリ(2)の2個の円錐形プーリディスクの間と、二次クランプ力を持つ二次プーリ(3)の2個の円錐形プーリディスクの間でクランプされ、各プーリ(2;3)のプーリディスクの少なくとも一方と駆動ベルト(10)の接触角度を適合する結果、少なくとも変速機(1)の最大速度伝達比、すなわちローにおいて、一次クランプ力と二次クランプ力との間のクランプ力比は、1と最小速度伝達比、すなわちオーバドライブのクランプ力比との間の範囲の値を有することを特徴とする車両用無段変速機(1)である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段による無段変速機に関する。この種の変速機は一般に知られており、変速機の一次および二次プーリの間の機械的パワーを伝達するために使われ、変速機の速度伝達比により、偶力または回転速度を伝達し、一定範囲内で連続的に変化させることができる。周知のように、駆動ベルトは各プーリの2個のプーリディスクの間にクランプされ、ディスクは実質的に円錐台または円錐形である。本発明では、変速機の速度伝達比は二次プーリ上の駆動ベルトの有効半径方向位置と、一次プーリ上の駆動ベルトの有効半径方向位置との比率として定義され、これらの位置はそれぞれ二次走行半径および一次走行半径としても知られる。これら走行半径を、ひいては速度伝達比を可変とするため、各プーリのプーリディスクの少なくとも一方は軸方向に可動とされる。
【背景技術】
【0002】
例として、特許文献1では、2個の軸方向を向いた力で駆動ベルトがプーリのプーリディスクの間でクランプされることが知られるが、これはそれぞれ下記で一次クランプ力および二次クランプ力と呼ばれるもので、プーリと駆動ベルトとの間の摩擦力を介してプーリ間で伝達することのできるトルクの決定にとって重大な要因である一方、これらクランプ力の比率は速度伝達比の決定にとって重大な要因となる。尚、供給するトルクの伝達のために各プーリが必要とする最小クランプ力は次の式によって近似できる。
【0003】
【数1】
【0004】
この式において、Kpは、一次プーリのプーリディスクによって駆動ベルトにかかる最小クランプ力で、この一次プーリに供給される一次トルクTpを伝達せしめる。すなわち、駆動ベルトと各プーリディスクとの間に接線または周方向で実質的にスリップがなく、このプーリディスクと駆動ベルトとの間の有効接触点位置におけるプーリディスク上の接線が、半径方向で接触角度λを形成し、前記接触点がプーリの回転中心から半径方向距離Rpに位置し、この距離が前記一次走行半径に対応し、この接線方向での駆動ベルトとプーリディスクの間の有効摩擦係数μTとする。
必要最小二次クランプ力Ksは、二次トルクTsおよび二次走行半径Rsから対応する方法で計算することができる。しかしながら、トルクと走行半径との間の比率Tp/RpおよびTs/Rsはそれぞれ、ロスを無視すると、必然的に2個のプーリで同等になるため、必要最小二次クランプ力は、前記必要最小一次クランプ力と等しい。
【0005】
実際には、クランプ力比とも略称される一次および二次クランプ力の間の比率は、定義された望ましい速度伝達比を実現せしめるためには、1より有意に大きいかまたは小さい必要がある。伝達平衡状態に必要なクランプ力比、すなわち、これより平衡クランプ力比と称する一定伝達比は、ここではKpKs比とする。周知の変速機では、平衡クランプ力比は異なる速度伝達比でそれぞれ異なる値を有し、この平衡クランプ力比は一般に、少なくとも数値的に最小速度伝達比、すなわちオーバドライブでは1より大きく、少なくとも数値的に最大速度伝達比、すなわちローでは1未満である。変速機の速度伝達比と、関連する一定速度伝達比の平衡クランプ力比との関係を、以下では短くKpKs曲線と称する。変速機の非平衡状態ではそれぞれ、速度伝達比が増減し、必要なクランプ力比が前記平衡クランプ力比に対して上下し、実際に生じるクランプ力比の範囲をここでFpFs比と称するが、これが平衡クランプ力比から逸脱し、速度伝達比が変化する速度を決定する際の重要な要因となる。
【0006】
そのため、変速機の平衡状態では、一次および二次クランプ力の低い方が、トルク伝達に必要な最小レベルと少なくとも等しくなければならない一方、クランプ力の高い方は平衡クランプ力比、すなわち、KpKs比によって与えられる。そのため、KpKs比が1から逸脱すると、クランプ力の少なくとも一方は前記最小必要レベルより高いレベルを採用し、平衡状態を実現する。
【0007】
クランプ力は、好適な、一般的に周知の起動手段を利用して生じ、これは通常、油圧作動ピストン/シリンダアセンブリまたは電気駆動ネジ付きスピンドルなど、プーリの軸方向可動ディスクに作用する。各プーリのクランプ力は、各プーリディスクの間のクランプされた駆動ベルトの一部の長さ全体に渡って駆動ベルトに作用する。本発明による定義では、前記長さはプーリ1個につき、駆動ベルトの各クランプ部分によって囲まれた角度として定量化し、一次および二次ベルト角度と呼ばれる。この場合、一次ベルト角度と二次ベルト角度の合計は、当然ながら2πに等しく、すなわち、各プーリについて駆動ベルトによって表される円の円弧を合わせると常に完全な円を形成する。
【0008】
さらに、周知の変速機では、プーリの少なくとも一方について前記最小必要クランプ力は、究極的に望ましく実際に適用されるクランプ力を限定する安全係数によって増加および/または乗ぜられる。この性質の増加効果によって、式(1)からのパラメータの誤差、または、例えば供給されるトルクの過度に急激な増加によって、プッシュベルトおよびプーリに上記スリップが生じないようにする。
【0009】
実際に広く用いられ、一般に(VDT)マスタースレーブ制御として知られる制御システムでは、始点は、例えば式(1)を用いて計算した最小必要二次クランプ力Ksに安全係数Sfを乗じた、所望の二次クランプ力KsDVである。
【0010】
【数2】
他の各クランプ力、この場合、所望の一定速度伝達比を実現するために必要な所望の一次クランプ力KpDVは、所望の二次クランプ力KsDVに速度伝達比のKpKs曲線によって与えられた数値を乗じることによって求められる。すなわち、
【0011】
【数3】
約11度の接触角度で実際に広く用いられる変速機については、一般に最小値である約1.3の安全係数を用いた場合、速度伝達比にもよるが、平衡クランプ力比は一般にローの約0.9からオーバドライブの1.8の間を変化することがわかっている。変速機の速度伝達比と関連する平衡クランプ力またはKpKs比のこのような関係をKpKs曲線と呼ぶ。トルクレベルや一次アクスルの回転速度、温度等の他のパラメータもKpKs曲線に影響するが、本発明によると、これらパラメータは第1近似において、安全係数の影響に比べて無視できるものとみなす。
速度伝達比を変更するには、実際に生じる一次クランプ力Kpを、所望の値KpDVに対して増減させ、速度伝達比をオーバドライブ(Kpの増加)またはロー(Kpの減少)に向けて変化させる。このコンテキストでは、FpFs比がKpKs比から離れるほど、速度伝達比は迅速に変化する。
【0012】
式(2)および(3)から、マスタースレーブ制御においては、上記式(1)からのパラメータの誤差の可能性だけでなく、ローのKpKs曲線で与えられる1未満の数値も補償するには、安全係数が十分高くなければならないことがわかる。後者の側面は、式(2)に安全係数を用いていないこと、すなわち、係数Sfを1に等しく設定していることによって説明できる。この場合、式(2)および(3)から、前記KpKs数値が1未満の場合、所望の一次クランプ力KpDVは必要な最小二次クランプ力Ksより小さくなる。しかしながら、上述したように、供給されたトルクを伝達するのに必要な最小一次クランプ力Kpは、必要最小二次クランプ力Ksに対応するため、後者の所望一次クランプ力KpDVは不十分で、駆動ベルトは一次プーリに対しスリップする。言い換えると、所望一次クランプ力KpDVは必要な最小二次クランプ力Ksに少なくとも等しくなければならないという要件から、KpKs比が1未満の値を採ることができる場合、マスタースレーブ制御の安全係数Sfは、KpKs比が1未満の値を採ることができる場合、1を最小KpKs比、略して[KpKs]LOWで割った値に少なくとも等しくなければならない。
【0013】
さらに、マスタースレーブ制御における安全係数は、一次クランプ力Kpの最小必要レベルに加えてある種の留保を実現する役割を持つ結果、このパラメータが、供給されるトルクの伝達に必要な最小一次クランプ力Kpより小さくなることなしに、すなわち、一次プーリに対する駆動ベルトのスリップなしに、一次クランプ力Kpを下げることによって速度伝達比をローに変更することが可能になる。この力留保が大きいほど、実際に生じる比率、すなわち、FpFs比はKpKs比から大きく離れ、変速機の速度伝達比をより迅速に変更することができる。FpFs比が1未満の値を採ることができる場合、マスタースレーブ制御における安全係数Sfは、1を最小FpFs比、略して[FpFs]MINで割った値に少なくとも等しくなければならない。
この最小FpFs比は一般に、最小KpKs比より小さいため、制御は次の条件を満足しなければならない。
【0014】
【数4】
ここでCは、パラメータの誤差に関する上記補償のための安全係数Sfの成分である。
制御が変速機の平衡および非平衡状態の間を区別する場合、少なくとも平衡状態では、一般にやや厳しくない次の条件を満たさなければならない。
【0015】
【数5】
上記側面は、周知のマスタースレーブ制御、特に一次クランプ力Kpがローにある場合、比較的高い安全係数とひいては比較的高いクランプ力レベルを用いなければならないことを意味する。しかしながら、この制御では、変速機によって伝達可能なトルクが基本的に二次クランプ力レベルによって排他的に、すなわち、一次クランプ力レベルを利用した速度伝達比制御とは別に決定されるという重要な利点がある。その結果、マスタースレーブ制御はソフトウェアからでもハードウェアからでも比較的単純にセットアップすることができ、しかも伝達できるトルクまたは速度伝達比を迅速かつ正確に所望に変更できる。
【0016】
実際には、周知の変速機は特に、乗客輸送についてエンジンと車両の被駆動輪との間の、高信頼性かつ効率的な自動変速機であることが証明されている。このような用途において、駆動全体の効率と、特に変速機の効率は、車両に欠かせない特徴とは言わないまでも、重要なものと考えられる。変速機の効率は、このコンテキストでは、クランプ力の最高レベルに逆比例する。例えば、駆動ベルトとプーリとの間の摩擦損失は、前記の力レベルと共に増加し、これら構成部品、特に駆動ベルトへの摩耗も同様である。また、例えば油圧または電気的手段によって力を生成するために必要なパワーは、一般にこの力のレベルと共に増加する。
【特許文献1】欧州特許出願第EP-A-1 218 654号
【発明の開示】
【0017】
本発明は、動作中に必要な2個のクランプ力の高い方のレベルを下げることにより、特に変速機の最も重要な機能側面と性能を少なくとも有意に減じることなく、変速機の効率を改善することを目的とする。
本発明によると、この性質の改善は、請求項1による設計で実現される。本発明による変速機は、少なくとも約1.3の安全係数Sfを用いる時、ローのKpKs比が少なくとも1に等しいが、オーバドライブではKpKs比以下であることを特徴とする。
【0018】
周知の変速機より高いこのローのKpKs比は、必要な一次クランプ力の低い方のレベルをもたらすのに有利である。結局、一次走行半径はローで最小であるため、式(1)によると、車両に用いる場合等、少なくとも供給される最高トルクが他の速度伝達比全てで同一かまたは低い場合、必要な一次クランプ力は最高となる。言い換えると、ローのKpKs比は、動作中に実現するクランプ力の最高レベルを絶対的意味で決定する要因であり、それを基に変速比を計算する必要がある。この最大力レベルが低いほど、変速機の設計に機械的意味で課される要求は低くなり、変速機はより効果的かつ効率的に製造および動作できるようになる。
【0019】
これら全ては特にマスタースレーブ制御を備えた変速機に関連するが、その場合、比較的高い安全係数が式(2)で用いられるためである。さらに、少なくともマスタースレーブ制御との組み合わせで、平衡状況においては、安全係数は、クランプ力の決定における上述の誤差など、補償すべき現象にのみ一致すればよく、上述の1.3の値は一般にこの係数として十分である。
ローにおけるKpKs比1は基本的に最小となるため、一次クランプ力および二次クランプ力の両方の最適レベルとなる。しかしながら、特にマスタースレーブ制御との組み合わせでは、1より大きいローKpKs比値も、動作中のFpFs比の最小値が1未満か、最大でも1に等しい場合は有利である。ローのKpKs比の上限は、このコンテキストでは本発明に従って決定され、最大でもオーバドライブのKpKs比に等しく、変速機行動の従来のシフトが維持される。つまり、一定のFpFs比を用いる非平衡状態では、変速機の速度伝達比が変化する速度は正確に制御可能および予測可能なままであるか、少なくとも許容不可能な可能性のある値を採る傾向はない。オーバドライブのKpKs比は少なくともわずかに、例えば少なくとも10%だけローの比率より高く、変速機の安定した平衡状態を得られることが望ましく、その場合、クランプ力の一方の変動は速度伝達比のわずかな変化によって自発的に補償される。
【0020】
本発明によると、KpKs比の値はまた、オーバドライブの変速機効率にとって重要である。本発明によるこの値の削減は変速機の効率と堅牢性にとってプラスの効果を持つが、それはこの2つの側面が必要な最高クランプ力、すなわち、オーバドライブにおける一次クランプ力の減少と共に改善されるためである。例えば、駆動ベルトとプーリとの間の摩擦損失はクランプ力レベルと共に減少し、これら構成部品に対する摩耗も同様である。また、例えば油圧または電気的手段によりクランプ力を生成するために必要なパワーも、一般に、生成される力レベルと共に減少する。そのため、オーバドライブにおける変速機の効率は一次クランプ力のレベルに逆比例する。このコンテキストでは、特にオーバドライブのKpKs比の値が、変速機にとって最も重要な用途を表す車両の燃費にとって決定的な要因となるが、それはこのような用途では変速機は一般に、大半ではないとしても比較的長い時間、オーバドライブにあるか、オーバドライブに近いためである。そのため、本発明はまた、少なくとも約1.3の安全係数Sfを用いた場合、オーバドライブのKpKs比は1.8とローのKpKs比との間の範囲の値を有する変速機に関する。
【0021】
本発明による変速機は、平衡クランプ力比に関する変速機パラメータ、すなわち、変速機のKpKs曲線を活用するのが有利である。本発明が基づくこの現象の分析から、プッシュベルトタイプとして知られる駆動ベルトを備えた変速機の場合は特に、KpKs曲線が不意に、当初の明らかな近似で予測できるものから大きく逸脱することがわかっている。さらに詳しくは、本発明による分析から、接触角度の前記KpKs曲線、すなわち、一次プーリの接触角度の接線と二次プーリのそれとの間の比率と、プッシュベルトとプーリとの間の摩擦の接線係数への影響が明らかになった。本発明のより詳しい改良では、平衡クランプ力比、すなわちKpKs曲線は、少なくとも約1.3の安全係数Sfを用いる場合、変速機の速度伝達比の全範囲において1.6から1.2の範囲の数値、より望ましくは、実質的に線形プロフィールを有する。本発明の特に有利な利用法では、KpKs比は上記条件の下で実質的に一定で、ローで約1.3からオーバドライブで約1.5での値を有する。
特にこの種の変速機は、その機能に対する接触角度の絶対値の影響を考慮に入れるが、これについては以下でより詳しく説明する。この種の変速機は、最も重要な機能的側面とプッシュベルトを備えた変速機の性能を、少なくとも有意な程度には減じることなく、効率を大きく増加させることができる。この場合、各速度伝達比において変速機が一次および/または二次クランプ力の変化に対して多かれ少なかれ同じように有利に反応できるため、本発明によるKpKs曲線の線形プロフィールは有利である。この側面は、所望のクランプ力を規制する伝達制御の単純性と堅牢性にとって有利である。
本発明は前記平衡クランプ力比を有利な方法で実現する変速機の多数の例示を提供するが、その例について添付の説明図を参照しながら下記に説明する。
【0022】
(図面の簡単な説明)
図1は、先行技術による2個のプーリと駆動ベルトを備えた無段変速機の断面の略図である。
図2は、図1に示す変速機の簡易化した側面図である。
図3は、本発明による無段変速機の駆動ベルトとして有利に用いることができるプッシュベルトの断面図である。
図4は、図3に示すプッシュベルトから横断要素の側面図である。
図5は、本発明による無段変速機の図3に示すプッシュベルトと組み合わせて用いることのできるプーリディスクの特にその接触面の詳細図である。
図6は、速度伝達比の結果としての一次および二次プーリの間のクランプ力の差を図解する。
図7は、曲線駆動ベルトの一部を用いて、曲線駆動ベルトの中の引張応力と、半径方向内向きにかかる力の成分との関係を示す。
図8は、両プーリについて11度の一定の接触角度を有する周知の変速機の速度伝達比に対して理論的に近似させた平衡クランプ力比のプロット図である。
図9は、一次および二次プーリの接触角度輪郭として知られるものを、速度伝達比に対してプロットした図とこの速度伝達比に関係なく1に等しい理論的に近似させた平衡クランプ力比を示す。
図10は、プッシュベルトタイプの駆動ベルトを備えた変速機の力の遊びを示し、速度伝達比の結果としての一次プーリと二次プーリとの間のクランプ力の差を示す。
図11は、駆動ベルトとプーリの接線断面において、これらにかかる軸方向クランプ力の影響下でのこれらの接触における力の遊びを示す。
図12は、周知の最適接触角度輪郭を、プッシュベルトタイプの駆動ベルトを備えた変速機に関して速度伝達比に対して一次プーリと二次プーリについてプロットした図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、先行技術による無段変速機1の断面を略図で示す。周知の変速機1は、エンジン(図示せず)によって2つの力Tpで駆動できる一次プーリ2、2つの力Tsで負荷(図示せず)を駆動できる二次プーリ3とからなる。両プーリ2および3は、各プーリアクスル20、30に固定されるプーリディスク21、31と、前記アクスル20、30に対して軸方向に変位可能なプーリディスク22、32とを備える。駆動ベルト10、より詳しくは、プッシュベルト10は、プーリディスク21、22、31、32の間にクランプされ、摩擦の助けにより、機械的パワーを2本のアクスル20および30の間に伝達することができる。駆動ベルト10を各プーリ2、3についてその場でクランプする軸方向を向く力を、これよりそれぞれ、一次クランプKp、二次クランプ力Ksと呼ぶが、この場合、2個のプーリ2および3の各圧力室24、34における油圧の適用によって実現する。
【0024】
変速機1の速度伝達比Rs/Rpは、駆動ベルト10の二次走行半径Rsおよび一次走行半径Rpの間の比率、すなわち、各プーリ2および3のプーリディスク21、22、31および32の間のその有効半径位置によって決定される。変速機1の前記走行半径RpおよびRsと、従って本発明により定義される速度伝達比Rs/Rpは、各プーリアクスル20、30上で対向する軸方向に移動する変位可能ディスク22、32によって変化させることができる。図1において、変速機1を小さい速度伝達比Rs/Rp、すなわち、比較的大きい一次走行半径Rpと比較的小さい二次走行半径Rsを持たせて図示する。
尚、速度伝達比Rs/Rp、一次走行半径Rpと二次走行半径Rsは、互いに対して明確に定義され、幾何学的に決定された関係にあり、この関係は、特に駆動ベルト10の長さと、各プーリ2、3の回転軸の間の距離と、最大および最小走行半径RpおよびRsとによって決定され、これら変数は所望に応じて互いから計算することができる。
【0025】
図2は、周知の変速機1の側面図で、図の左側に一次アクスル20上の一次プーリ2と、図の右側に二次アクスル30の二次プーリ3を示す。図1と異なり、この図において、変速機1はここでは比較的高い速度伝達比Rs/Rpで表され、一次走行半径Rpは二次走行半径Rsより小さく、その結果、動作中、一次プーリ2は二次プーリ3より回転速度が低くなる。プッシュベルト10として知られる図示の駆動ベルト10は、単純化のためその一部のみを示す実質的に連続する一連の横要素11と、入れ子で連続的で平坦かつ薄い多数の金属リング12の少なくとも1セットとからなる。
このプッシュベルト10は、図3および図4により詳しく示すが、図3は、プッシュベルト10の断面図、図4は、そこから横要素11を見た側面図である。この断面は、横要素11の正面図を示し、これは両側に凹部を設けられ、その中にリング12のセットがある。リング12のセットと横要素11は、半径または高さ方向で互いを保持するが、横要素11はその周方向でリング12のセットに沿って移動可能である。さらに、横要素11はプッシュベルト10の周方向に、突起部13とも称する突起と、要素11の対向する主要側に配置した凹部14を備え、突起部13と凹部14は、互いに関してプッシュベルト10で一連の横要素11を安定させる。
横要素11の底部15は先細で、隣接する横要素11が互いに対して傾斜でき、プッシュベルト10は、各プーリ2および3のプーリディスク21、22、31、32の間にクランプされる場所で円弧を描けるようになっている。尚、前述の有効半径位置、すなわち、プッシュベルト10の有効走行半径Rp、Rsは実質的に横要素11の底部15の上側の半径方向位置に対応し、上側は横要素10の傾斜線17とも称し、これに沿って後者が前記円弧で互いと接触する。底部15はさらに、両側に走行面16として知られるものを備え、横要素11はこれを介してプーリディスク21、22、31、32の間にクランプされ、駆動プーリ2の回転が摩擦によりクランプされた横要素11に伝達される。これにより、横要素11の間に相当な押力が生じることがあり、その結果、これらが被駆動プーリ3の方向にリング12のセットに対して互いを前向きに押すことになる。すると、プッシュベルト10が被駆動プーリ3のディスク31および32の間にクランプされる場所で、横要素11の間に存在する押力が被駆動プーリ3へ摩擦によって実質的に完全に伝達される。最終的に、横要素11は互いを押し戻し、被駆動プーリ3から駆動プーリ2へ、比較的低い押力を発揮する。この場合のリング12のセットは、横要素11がプッシュベルト10用の経路に従い続けるようにする。
【0026】
図5は、接線方向から見たその断面を基にするプーリディスク43の詳細を示す。プーリディスク43のいわゆる接触面40は、これによって横要素11の走行面16と接触するものだが、接触面40上のポイントRにおける接線41と半径方向42との間に限定された前記半径方向で見て増加する接触角度λを有する曲率R40の任意に可変の半径の曲率を備える。そのため、接線方向断面から見た変速機1の接触面40は、局所的接触角度λと変速機1の速度伝達比Rs/Rpとの間の関係として定義できる輪郭を表す。各プーリ2,3について、前記輪郭はそれぞれ、一次接触角度輪郭λp(Rs/Rp)および二次接触角度輪郭λs(Rs/Rp)と称し、プーリ2、3の固定および可動ディスク21、22、31、および32は、同一の輪郭を備える。2個のプーリ2および3はまた、形状が同一、すなわち、互いに関して鏡面対称である接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)を備えることが望ましい。
プーリ2および3の湾曲した接触面40と最適にインタラクトできるようにするため、横要素11の走行面16は、図3に示すプッシュベルト10の断面で見て、曲率を備える。この場合、プーリ2および3の接触面40によって限定される接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)に少なくとも対応する接触角度λの範囲は、走行面16の輪郭に限定される。
【0027】
変速機1の平衡状態、すなわち一定の速度伝達比に必要なクランプ力比、KpKs比は、平衡状態を由来とし、これにより、各プーリ2,3について駆動ベルト10のベルトセット12に生じる引張力Ftは互いに等しくなければならない。この平衡状態を図6に示す。各プーリ2および3について、引張力Ftは、駆動ベルト10に半径方向で作用するそれぞれ半径方向の力のFrpおよびFrsの結果として生じ、力FrpおよびFrsは、局所的接触角度λp、λsと、各プーリ2、3についてディスク21および22、31および32の間にそれぞれかかるクランプ力Kp、Ksの結果として生じ、実質的に軸方向を向く。これを一次プーリ2から書くと、次の関係が適用される。
【0028】
【数6】
半径方向の力FrpおよびFrsは、各一次プーリ2および二次プーリ3のプーリディスク21、22、31、32の間にクランプされた駆動ベルト10の部分の長さに渡り、横要素11の走行面16に作用する。前記長さは、駆動ベルト10のクランプされた部分に囲まれた角度として各プーリ2、3について定量化することが可能で、ここではそれぞれ、一次ベルト角度αpおよび二次ベルト角度αsと指定する。平衡に必要な半径方向の力FrpおよびFrsは、すると、各ベルト角度αpおよびαsについて、ベルト角度dαの単位あたりの引張力Ftを合計することによって決定する。よって、一次プーリ2から書くと、次の関係が適用される。
【0029】
【数7】
式(3)の導出を、ベルトセット12の小部分を基に図7に図解する。
式(6)および(7)は、一定速度伝達比を前記平衡状態として二次プーリ3について対応する方法で導くことができ、これにより、生成された引張応力Ftを両プーリ2および3に適用し、次の関係が平衡クランプ力比KpKsに適用される。
【0030】
【数8】
ここで、ベルト角度αpおよびαsは、各走行半径Rp、Rsの関数として、故に速度伝達比Rs/Rpの関数として変化する。ベルト角度αpおよびαsと走行半径RsおよびRpとの間のこの性質の関係は変速機1の幾何形状によって決まり、例えば次のように比較的正確に近似することができる。
【0031】
【数9】
Rs(Rp、RpMIN、RpMAX)では次の通りである。
【0032】
【数10】
但し、RpMINは最小一次走行半径Rp、RpMAXは、最大一次走行半径Rpである。式(9)および(10)の導出において、2個のプーリ2および3は共に、例えば、図6に示す場合のように、一般に車両において所望であるよう半径方向でできるだけ近く位置するものと想定した。
接触角度λpおよびλsが一定の等しい値を持つとして、この場合は11度だが、速度伝達比Rs/Rpに対するKpKs比率の、繰り返し、あるいは数的に決定される式(8)、(9)および(10)の解を図8に示す。
上記分析から、駆動ベルト10の種類から独立し、すなわち、図2から図4に示すプッシュベルト10のみでなく、ゴム製Vベルト、金属チェーン等についても、KpKs比は、互いに異なる一次接触角度λpおよび/または二次接触角度λsの値を選択することによって影響することができると結論できる。変速機の速度伝達比Rs/Rpの関数としての接触角度λp、λsの間の比率は、KpKs曲線と称するクランプ力KpおよびKsの平衡比率が全ての速度伝達比Rs/Rpについて有利に1に等しいとして、この場合はKp/Ks=1で式(4)を満たさなければならない。
【0033】
【数11】
ちなみに、式(11)から、接触角度λp、λsは、ベルト角度αpおよびαs、したがって走行半径RpおよびRsが互いに等しい速度伝達比Rs/Rpにおいて値が等しくなければならない。
式(11)に考えられる解を図9に示すが、ここで一次プーリ2および二次プーリ3の各接触角度λp、λsを、いわゆる接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)において速度伝達比Rs/Rpに対してプロットする。そのため、理論的に近似したKpKs比はこの場合、考えられる全ての速度伝達比Rs/Rpにおいて1に等しくなる。図9に示す図は、最小一次走行半径RpMINを約30mm、最大一次走行半径RpMAXを約75mmとし、プーリ2および3の、等しく可能な限り最小の半径方向寸法と組み合わせた代表的変速機1に適用される。
【0034】
上述の分析はこれを示唆するが、上述の明らかに最適の接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)は、平衡クランプ力比KpKsに影響することによる変速機1の効率改善にとって全ての場合において最も理想的な解とは限らず、少なくともプッシュベルト10を備えた本変速機1についてはそうではない。
さらに、特にマスタースレーブ制御との組み合わせでは、上述のように、1より大きいKpKS比率を選択した方が非常に有利である。第2に、出願者は、本発明の基となるこの現象の分析により、プッシュベルト10を備えた変速機1の特定の場合では、この変速機の動作中、プッシュベルト10に独自の力の遊びが生成され、これがクランプ力KpおよびKsの平衡比に相当な影響を与えることを発見した。さらに、この点において、接触角度λpとλsを適合した結果として平衡クランプ力比KpKsに影響することにより変速機1の効率を改善するための試みでは、プッシュベルト10にかかる機械的負荷と、特にそのリング12のセットの疲労負荷が影響されるが、例えば変速機1の動的性能もまた影響されることがわかった。
この現象とそのインタラクションの複雑性から見て、分析的記述は実現不可能か、できるとしても非常に困難である。しかしながら、本発明によると、定性的分析で十分であり、それを基に改良された変速機設計が提案される。
【0035】
本発明による定性的分析は、横要素11の押力Fdと、リングの引張力Ftと、プーリ2および3上での個々の横要素11とリング12のセットとの間の半径方向の法線力Frとに基づく。このコンテキストでは、押力Fdは実質的にプーリ2および3の間のトルクの伝達を担当し、リング12のセットと横要素11は共に保持され、プーリ2および3と共に所望の経路に送り込まれる。本発明によると、次の式(ここでは一次プーリについて書く)が各プーリ2、3に適用される。
【0036】
【数12】
または、2個のプーリ2、3の間の平衡については次の通りである。
【0037】
【数13】
これらの式から、プッシュベルト10の場合、平衡クランプ力比KpKsは、接触角度λp、λsだけでなく、押力Fdとさらにはベルト角度αp、αs上のその分布にも影響されることがわかる。本発明によると、式(11)に基づき、押力Fdは各クランプ力Kp、Ksの生成する半径方向の力FrpおよびFrsを部分的に補償する。さらに、横要素11とリング12のセットは互いと摩擦接触しており、これらの速度の違いにより、リングには引張力Ftの増加または減少が生じ、プッシュベルト10の場合では、この現象がさらに平衡クランプ力比KpKsの分析的解を複雑化する。そのため本発明は定性的分析を提案する。
【0038】
定性的効果を図10に示すが、これは変速機1の動作中、トルクTpがプーリ2および3の間を伝達される時、各プーリ2、3についてベルト角度αp、αsは2個の連続する部分からなるという知識に基づくものである。クリープ角度Kとして知られるベルト角度の第1部分では、プッシュベルト10の横要素11の間の押力Fdは、プーリ2、3との摩擦接触で増加または減少する。レスト角度Rとして知られるベルト角度の第2部分では、押力Fdはほぼ一定で、少なくとも実質的に駆動プーリ、この場合は一次プーリ2上でゼロに等しく、被駆動プーリ、この場合は二次プーリ3上で最大値Fd-maxに等しい。同一条件で増加または減少が発生するクリープ角度K、すなわち、横要素11と各プーリ2、3との間の摩擦および法線力の同一係数は、ほぼ対応する長さであり、比較的高いクランプ力ではクリープ角度Kは、総ベルト角度αp、αsに対して比較的小さくなる。最小速度伝達比、すなわちオーバドライブについてこれを図10に再現するが、二重の矢印は、プッシュベルト10の隣接する横要素11間に局所的に存在する押力Fdのレベルを示すが、プッシュベルト10の長手方向を向いているため、押力Fdの方向ではない。この図はまた、プッシュベルト10の周全体のリングのセットにおける引張力Ftに考えられる曲線も示し、この例ではトルクTpの転送に対抗している。結局、引張力は、最大の押力Fd-maxが存在するプッシュベルト10の側では最大のFt-max、最小の押力Fd、特に実質的に押力のないプッシュベルト10の側では最小レベルFt-minを有する。引張力Ftの曲線は、特にトルクTpのレベルにより、正確に反対の場合もある。
【0039】
定性的には、図10から、少なくともオーバドライブではプッシュベルトの場合の平衡クランプ力比KpKsが式(8)により予測される値とは有意に異なることがわかる。結局、一次ベルト角度αp上の累積押力Fdは、二次ベルト角度αs上の累積押力Fdより有意に小さい。この結果、上記から導く最適接触角度輪郭λp(Rs/Rp)とλs(Rs/Rp)は、プッシュベルト10を備える変速機1には適用されない。
さらに、上記分析から、平衡クランプ力比KpKsが一次および二次接触角度λpおよびλsの間の比率に影響されるだけでなく、2個のプーリ2、3の少なくとも一方におけるレスト角度Rの縮小、またはクリープ角度Kの延長によりオーバドライブで減少することも可能であるのがわかる。二次プーリ3については、二次ベルト角度αs上の累積押力Fdの減少につながる一方、一次プーリ2については、この累積押力の増加は、式(12)によれば両方の場合で平衡クランプ力比KpKsの減少につながる。オーバドライブでは、二次プーリ3上の縮小されたレスト角度Rは、この場合、所望の安全係数Sfで決まり、本発明のコンテキストでは一定の境界条件とみなされるため、最も有利な選択肢ではない。一方、本発明によると、一次プーリ2上のクリープ角度Rを、少なくともオーバドライブの一次走行半径Rpについて延長することにより、KpKsに有利な影響を与えることが可能である。
【0040】
本発明によると、クリープ角度は、一次プーリ2とプッシュベルト10との間の力の伝達を、驚くべきことに少なくともより非効率にすること、例えば、これらの間の摩擦μの低い方の有効係数(式(1)も参照)を選択することにより長くすることができる。受け入れられている理論によると、本変速機に通常用いられるような潤滑摩擦接触の摩擦係数μは、プーリ2の設計により、例えば、プッシュベルト10とプーリ2との間の接触圧を、例えば一次プーリディスクに比較的大きい曲率半径R40を用いることによって下げ、またはプーリディスク21および22の表面粗さを下げることによって落とすことができる。
上述の方法は、特に速度伝達比Rs/Rpが1未満のプッシュベルト10と一次プーリ2との間の接触点、すなわち、比較的大きい一次走行半径Rp、より詳しくは、オーバドライブの速度伝達比を決定する最大一次走行半径Rpに関する。変速機1の他の位置、すなわち、例えばローの一次走行半径Rpなど、比較的小さい一次走行半径Rpと、二次プーリ3のあらゆる所望の走行半径Rsでは、これとは対照的に、上述の方法を使わず、プッシュベルト10とプーリ2、3との間の力の伝達を出来る限り効率的にすることが有利である。一方、上述の比較的小さい一次走行半径Rpと関連する比較的大きい二次走行半径Rs、すなわち、ローの速度伝達比に近いかこれに等しい速度伝達比Rs/Rpでは、平衡クランプ力比KpKsは実質的に1に等しいままで、効率の増加は比較的低く、その一方で、力の伝達の効果は、あるクランプ力KpまたはKsで伝達可能な最大トルクにとって、上述の比較的小さい一次走行半径Rpだけでなく、比較的小さい二次走行半径Rsにおいて重要なためである。
【0041】
上述の方法は、接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)の適用から独立して、あるいはこれに加えて採用することができる。しかしながら本発明によると、より詳細な分析から、クランプ力の平衡比率が常に1に等しい、伝達効率に関して原則として最適であるKpKs曲線では、変速機1の他の機能的側面を低下させる接触角度輪郭λp(Rs/Rp)とλs(Rs/Rp)を必要とすることがわかっている。より詳しくは、最小および最大接触角度λp、λsの間の必要な差の合計は、不利に大きくなる場合がある。一方、必要な最小接触角度λp、λsは、例えば小さすぎて、クランプ力Kp、Ksの半径方向成分Frが小さくなりすぎ、プッシュベルト10とプーリ2、3との間の半径方向摩擦を克服できなくなる結果、変速機1の速度伝達比を変更することが不可能になる。一方で、必要な最大接触角度λp、λsは、例えば大きすぎてリング12のセットがクランプ力Kp、Ksの半径方向成分Frに過度の負荷を与えられる。このような現象の説明は、例えば、出願者の名前によるEp-0 798 492およびオランダ特許出願第1022157号にあるが、これは本出願の優先日前には公開されていない。
【0042】
必要な最小および最大接触角度λp、λsの差が大きいことによるさらに別の不利な結果は、この性質の差を限定された寸法以内で実現できるようにするため、プーリ2および3の接触面40と、横要素11の走行面16を比較的強く湾曲させなければならないことである。その結果、これらの間の接触応力が、望ましくない、あるいは許容不可能な値を取ってしまうことがある。前述のように、変速機1のアライメントも接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)によって決まり、そのためこれは限定要因となる。
これら側面を組み込んだ本発明による実験的近似では、少なくともオーバドライブでの接触角度は、次の条件を満たさなければならない。
【0043】
【数14】
より詳しくは、ローの比率はさらに次の条件を満たす。
【0044】
【数15】
上述の分析は単に、接触角度λpとλsとの間の比率の条件を述べたもので、これらパラメータの最適値を与えるものではない。本発明によると、これら最適値は次のようにわかる。
【0045】
本発明によると、一方で、接触角度λpおよびλsの下限はできるだけ低く選択することが望ましく、その結果、半径方向の力Frp、Frs、ひいてはリング12のセットの引張力Ftも有利に低くなるためである。結局、前記引張力Ftは供給されるトルクTpの伝達にまったく貢献しないか、貢献したとしてもわずかである一方、リング12のセットは引張力Ftによる機械的負荷を受けることになる。その一方、本発明によると、速度伝達比Rs/Rpを変更するためには、あらゆる状況で、駆動ベルト10がプーリディスク21、22、31、32の間で半径方向に変位できなければならない。このため、前記半径方向の力Frpは、駆動ベルト10とプーリ2、3との間の少なくとも摩擦Fwを克服できなければならない。一次プーリ2から書くと、次の関係が適用される。
【0046】
【数16】
但し、μRは駆動ベルト10の走行面16とプーリディスク43の接触面40との間の接触の半径方向で測定した摩擦係数、Fnは、その接触における法線力である。式(16)を図11に略図で示すが、これは、前記接触においてアクティブなKp、Fw、Frp、Fnの力を示す。式(16)は、接触角度λが半径方向摩擦係数μRの逆正接より大きくなければならないという条件を生じる。変速機のプーリ2および3と駆動ベルト10との間の潤滑金属/金属接触では、一般に約0.12の最大値がμRに適用される。そのため、本発明によると、ローの一次接触角度λpとオーバドライブの二次接触角度λsは7度にほぼ等しいことが望ましい。すると、完全な接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)は式(13)を用いて反復的に近似できる。
【0047】
式(13)が必要な境界条件を解決するためのさらに別の好適な境界条件は、各プーリ2、3の接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)が、それぞれ二次プーリ3で連続して立ち上がり、一次プーリ2で連続して下がる連続的曲線である。最後に、プーリのディスク21、22、31および32の形状が同一である場合、特に生産および組立工学の観点から有利である。
【0048】
接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)で、上述の側面および要因、例えば接触角度の最大および最小許容可能値、接触面40の曲率半径R40と走行面16の曲率半径R16の最小許容可能値、並びに変速機のアライメントなどを最適KpKs曲線の決定において考慮し、約1.3の安全係数を用いる時、後者はオーバドライブの1.5からローの1.3まで多かれ少なかれ線形の曲線を有する。図12に示す図は、この最適KpKs曲線と関連する最適接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)の両方を速度伝達比Rs/Rpに対してプロットしたものである。図は、プッシュベルトタイプの駆動ベルト10を備えた変速機1の上述の全ての特徴および特性を考慮して、実験的ルートによって近似している。この図から、一次プーリλpと二次プーリλsの両方の最小接触角度が共に7度よりわずかに大きく、詳しくは約7.3度であり、最大一次接触角度λpが約10度で、最大に地接触角度λsが約9度であることがわかる。そのため、接触角度λp、λsの接線の最適比率はオーバドライブで約1.4、ローで約0.8となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】先行技術による2個のプーリと駆動ベルトを備えた無段変速機の断面の略図である。
【図2】図1に示す変速機の簡易化した側面図である。
【図3】本発明による無段変速機の駆動ベルトとして有利に用いることができるプッシュベルトの断面図である。
【図4】図3に示すプッシュベルトから横断要素の側面図である。
【図5】本発明による無段変速機の図3に示すプッシュベルトと組み合わせて用いることのできるプーリディスクの特にその接触面の詳細図である。
【図6】速度伝達比の結果としての一次および二次プーリの間のクランプ力の差を図解する。
【図7】曲線駆動ベルトの一部を用いて、曲線駆動ベルトの中の引張応力と、半径方向内向きにかかる力の成分との関係を示す。
【図8】両プーリについて11度の一定の接触角度を有する周知の変速機の速度伝達比に対して理論的に近似させた平衡クランプ力比のプロット図である。
【図9】一次および二次プーリの接触角度輪郭として知られるものを、速度伝達比に対してプロットした図とこの速度伝達比に関係なく1に等しい理論的に近似させた平衡クランプ力比を示す。
【図10】プッシュベルトタイプの駆動ベルトを備えた変速機の力の遊びを示し、速度伝達比の結果としての一次プーリと二次プーリとの間のクランプ力の差を示す。
【図11】駆動ベルトとプーリの接線断面において、これらにかかる軸方向クランプ力の影響下でのこれらの接触における力の遊びを示す。
【図12】周知の最適接触角度輪郭を、プッシュベルトタイプの駆動ベルトを備えた変速機に関して速度伝達比に対して一次プーリと二次プーリについてプロットした図を示す。
【符号の説明】
【0050】
1 変速機 2 一次プーリ 3 二次プーリ
10 駆動ベルト 11 横要素 21、31、22、32 プーリディスク
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前段による無段変速機に関する。この種の変速機は一般に知られており、変速機の一次および二次プーリの間の機械的パワーを伝達するために使われ、変速機の速度伝達比により、偶力または回転速度を伝達し、一定範囲内で連続的に変化させることができる。周知のように、駆動ベルトは各プーリの2個のプーリディスクの間にクランプされ、ディスクは実質的に円錐台または円錐形である。本発明では、変速機の速度伝達比は二次プーリ上の駆動ベルトの有効半径方向位置と、一次プーリ上の駆動ベルトの有効半径方向位置との比率として定義され、これらの位置はそれぞれ二次走行半径および一次走行半径としても知られる。これら走行半径を、ひいては速度伝達比を可変とするため、各プーリのプーリディスクの少なくとも一方は軸方向に可動とされる。
【背景技術】
【0002】
例として、特許文献1では、2個の軸方向を向いた力で駆動ベルトがプーリのプーリディスクの間でクランプされることが知られるが、これはそれぞれ下記で一次クランプ力および二次クランプ力と呼ばれるもので、プーリと駆動ベルトとの間の摩擦力を介してプーリ間で伝達することのできるトルクの決定にとって重大な要因である一方、これらクランプ力の比率は速度伝達比の決定にとって重大な要因となる。尚、供給するトルクの伝達のために各プーリが必要とする最小クランプ力は次の式によって近似できる。
【0003】
【数1】
【0004】
この式において、Kpは、一次プーリのプーリディスクによって駆動ベルトにかかる最小クランプ力で、この一次プーリに供給される一次トルクTpを伝達せしめる。すなわち、駆動ベルトと各プーリディスクとの間に接線または周方向で実質的にスリップがなく、このプーリディスクと駆動ベルトとの間の有効接触点位置におけるプーリディスク上の接線が、半径方向で接触角度λを形成し、前記接触点がプーリの回転中心から半径方向距離Rpに位置し、この距離が前記一次走行半径に対応し、この接線方向での駆動ベルトとプーリディスクの間の有効摩擦係数μTとする。
必要最小二次クランプ力Ksは、二次トルクTsおよび二次走行半径Rsから対応する方法で計算することができる。しかしながら、トルクと走行半径との間の比率Tp/RpおよびTs/Rsはそれぞれ、ロスを無視すると、必然的に2個のプーリで同等になるため、必要最小二次クランプ力は、前記必要最小一次クランプ力と等しい。
【0005】
実際には、クランプ力比とも略称される一次および二次クランプ力の間の比率は、定義された望ましい速度伝達比を実現せしめるためには、1より有意に大きいかまたは小さい必要がある。伝達平衡状態に必要なクランプ力比、すなわち、これより平衡クランプ力比と称する一定伝達比は、ここではKpKs比とする。周知の変速機では、平衡クランプ力比は異なる速度伝達比でそれぞれ異なる値を有し、この平衡クランプ力比は一般に、少なくとも数値的に最小速度伝達比、すなわちオーバドライブでは1より大きく、少なくとも数値的に最大速度伝達比、すなわちローでは1未満である。変速機の速度伝達比と、関連する一定速度伝達比の平衡クランプ力比との関係を、以下では短くKpKs曲線と称する。変速機の非平衡状態ではそれぞれ、速度伝達比が増減し、必要なクランプ力比が前記平衡クランプ力比に対して上下し、実際に生じるクランプ力比の範囲をここでFpFs比と称するが、これが平衡クランプ力比から逸脱し、速度伝達比が変化する速度を決定する際の重要な要因となる。
【0006】
そのため、変速機の平衡状態では、一次および二次クランプ力の低い方が、トルク伝達に必要な最小レベルと少なくとも等しくなければならない一方、クランプ力の高い方は平衡クランプ力比、すなわち、KpKs比によって与えられる。そのため、KpKs比が1から逸脱すると、クランプ力の少なくとも一方は前記最小必要レベルより高いレベルを採用し、平衡状態を実現する。
【0007】
クランプ力は、好適な、一般的に周知の起動手段を利用して生じ、これは通常、油圧作動ピストン/シリンダアセンブリまたは電気駆動ネジ付きスピンドルなど、プーリの軸方向可動ディスクに作用する。各プーリのクランプ力は、各プーリディスクの間のクランプされた駆動ベルトの一部の長さ全体に渡って駆動ベルトに作用する。本発明による定義では、前記長さはプーリ1個につき、駆動ベルトの各クランプ部分によって囲まれた角度として定量化し、一次および二次ベルト角度と呼ばれる。この場合、一次ベルト角度と二次ベルト角度の合計は、当然ながら2πに等しく、すなわち、各プーリについて駆動ベルトによって表される円の円弧を合わせると常に完全な円を形成する。
【0008】
さらに、周知の変速機では、プーリの少なくとも一方について前記最小必要クランプ力は、究極的に望ましく実際に適用されるクランプ力を限定する安全係数によって増加および/または乗ぜられる。この性質の増加効果によって、式(1)からのパラメータの誤差、または、例えば供給されるトルクの過度に急激な増加によって、プッシュベルトおよびプーリに上記スリップが生じないようにする。
【0009】
実際に広く用いられ、一般に(VDT)マスタースレーブ制御として知られる制御システムでは、始点は、例えば式(1)を用いて計算した最小必要二次クランプ力Ksに安全係数Sfを乗じた、所望の二次クランプ力KsDVである。
【0010】
【数2】
他の各クランプ力、この場合、所望の一定速度伝達比を実現するために必要な所望の一次クランプ力KpDVは、所望の二次クランプ力KsDVに速度伝達比のKpKs曲線によって与えられた数値を乗じることによって求められる。すなわち、
【0011】
【数3】
約11度の接触角度で実際に広く用いられる変速機については、一般に最小値である約1.3の安全係数を用いた場合、速度伝達比にもよるが、平衡クランプ力比は一般にローの約0.9からオーバドライブの1.8の間を変化することがわかっている。変速機の速度伝達比と関連する平衡クランプ力またはKpKs比のこのような関係をKpKs曲線と呼ぶ。トルクレベルや一次アクスルの回転速度、温度等の他のパラメータもKpKs曲線に影響するが、本発明によると、これらパラメータは第1近似において、安全係数の影響に比べて無視できるものとみなす。
速度伝達比を変更するには、実際に生じる一次クランプ力Kpを、所望の値KpDVに対して増減させ、速度伝達比をオーバドライブ(Kpの増加)またはロー(Kpの減少)に向けて変化させる。このコンテキストでは、FpFs比がKpKs比から離れるほど、速度伝達比は迅速に変化する。
【0012】
式(2)および(3)から、マスタースレーブ制御においては、上記式(1)からのパラメータの誤差の可能性だけでなく、ローのKpKs曲線で与えられる1未満の数値も補償するには、安全係数が十分高くなければならないことがわかる。後者の側面は、式(2)に安全係数を用いていないこと、すなわち、係数Sfを1に等しく設定していることによって説明できる。この場合、式(2)および(3)から、前記KpKs数値が1未満の場合、所望の一次クランプ力KpDVは必要な最小二次クランプ力Ksより小さくなる。しかしながら、上述したように、供給されたトルクを伝達するのに必要な最小一次クランプ力Kpは、必要最小二次クランプ力Ksに対応するため、後者の所望一次クランプ力KpDVは不十分で、駆動ベルトは一次プーリに対しスリップする。言い換えると、所望一次クランプ力KpDVは必要な最小二次クランプ力Ksに少なくとも等しくなければならないという要件から、KpKs比が1未満の値を採ることができる場合、マスタースレーブ制御の安全係数Sfは、KpKs比が1未満の値を採ることができる場合、1を最小KpKs比、略して[KpKs]LOWで割った値に少なくとも等しくなければならない。
【0013】
さらに、マスタースレーブ制御における安全係数は、一次クランプ力Kpの最小必要レベルに加えてある種の留保を実現する役割を持つ結果、このパラメータが、供給されるトルクの伝達に必要な最小一次クランプ力Kpより小さくなることなしに、すなわち、一次プーリに対する駆動ベルトのスリップなしに、一次クランプ力Kpを下げることによって速度伝達比をローに変更することが可能になる。この力留保が大きいほど、実際に生じる比率、すなわち、FpFs比はKpKs比から大きく離れ、変速機の速度伝達比をより迅速に変更することができる。FpFs比が1未満の値を採ることができる場合、マスタースレーブ制御における安全係数Sfは、1を最小FpFs比、略して[FpFs]MINで割った値に少なくとも等しくなければならない。
この最小FpFs比は一般に、最小KpKs比より小さいため、制御は次の条件を満足しなければならない。
【0014】
【数4】
ここでCは、パラメータの誤差に関する上記補償のための安全係数Sfの成分である。
制御が変速機の平衡および非平衡状態の間を区別する場合、少なくとも平衡状態では、一般にやや厳しくない次の条件を満たさなければならない。
【0015】
【数5】
上記側面は、周知のマスタースレーブ制御、特に一次クランプ力Kpがローにある場合、比較的高い安全係数とひいては比較的高いクランプ力レベルを用いなければならないことを意味する。しかしながら、この制御では、変速機によって伝達可能なトルクが基本的に二次クランプ力レベルによって排他的に、すなわち、一次クランプ力レベルを利用した速度伝達比制御とは別に決定されるという重要な利点がある。その結果、マスタースレーブ制御はソフトウェアからでもハードウェアからでも比較的単純にセットアップすることができ、しかも伝達できるトルクまたは速度伝達比を迅速かつ正確に所望に変更できる。
【0016】
実際には、周知の変速機は特に、乗客輸送についてエンジンと車両の被駆動輪との間の、高信頼性かつ効率的な自動変速機であることが証明されている。このような用途において、駆動全体の効率と、特に変速機の効率は、車両に欠かせない特徴とは言わないまでも、重要なものと考えられる。変速機の効率は、このコンテキストでは、クランプ力の最高レベルに逆比例する。例えば、駆動ベルトとプーリとの間の摩擦損失は、前記の力レベルと共に増加し、これら構成部品、特に駆動ベルトへの摩耗も同様である。また、例えば油圧または電気的手段によって力を生成するために必要なパワーは、一般にこの力のレベルと共に増加する。
【特許文献1】欧州特許出願第EP-A-1 218 654号
【発明の開示】
【0017】
本発明は、動作中に必要な2個のクランプ力の高い方のレベルを下げることにより、特に変速機の最も重要な機能側面と性能を少なくとも有意に減じることなく、変速機の効率を改善することを目的とする。
本発明によると、この性質の改善は、請求項1による設計で実現される。本発明による変速機は、少なくとも約1.3の安全係数Sfを用いる時、ローのKpKs比が少なくとも1に等しいが、オーバドライブではKpKs比以下であることを特徴とする。
【0018】
周知の変速機より高いこのローのKpKs比は、必要な一次クランプ力の低い方のレベルをもたらすのに有利である。結局、一次走行半径はローで最小であるため、式(1)によると、車両に用いる場合等、少なくとも供給される最高トルクが他の速度伝達比全てで同一かまたは低い場合、必要な一次クランプ力は最高となる。言い換えると、ローのKpKs比は、動作中に実現するクランプ力の最高レベルを絶対的意味で決定する要因であり、それを基に変速比を計算する必要がある。この最大力レベルが低いほど、変速機の設計に機械的意味で課される要求は低くなり、変速機はより効果的かつ効率的に製造および動作できるようになる。
【0019】
これら全ては特にマスタースレーブ制御を備えた変速機に関連するが、その場合、比較的高い安全係数が式(2)で用いられるためである。さらに、少なくともマスタースレーブ制御との組み合わせで、平衡状況においては、安全係数は、クランプ力の決定における上述の誤差など、補償すべき現象にのみ一致すればよく、上述の1.3の値は一般にこの係数として十分である。
ローにおけるKpKs比1は基本的に最小となるため、一次クランプ力および二次クランプ力の両方の最適レベルとなる。しかしながら、特にマスタースレーブ制御との組み合わせでは、1より大きいローKpKs比値も、動作中のFpFs比の最小値が1未満か、最大でも1に等しい場合は有利である。ローのKpKs比の上限は、このコンテキストでは本発明に従って決定され、最大でもオーバドライブのKpKs比に等しく、変速機行動の従来のシフトが維持される。つまり、一定のFpFs比を用いる非平衡状態では、変速機の速度伝達比が変化する速度は正確に制御可能および予測可能なままであるか、少なくとも許容不可能な可能性のある値を採る傾向はない。オーバドライブのKpKs比は少なくともわずかに、例えば少なくとも10%だけローの比率より高く、変速機の安定した平衡状態を得られることが望ましく、その場合、クランプ力の一方の変動は速度伝達比のわずかな変化によって自発的に補償される。
【0020】
本発明によると、KpKs比の値はまた、オーバドライブの変速機効率にとって重要である。本発明によるこの値の削減は変速機の効率と堅牢性にとってプラスの効果を持つが、それはこの2つの側面が必要な最高クランプ力、すなわち、オーバドライブにおける一次クランプ力の減少と共に改善されるためである。例えば、駆動ベルトとプーリとの間の摩擦損失はクランプ力レベルと共に減少し、これら構成部品に対する摩耗も同様である。また、例えば油圧または電気的手段によりクランプ力を生成するために必要なパワーも、一般に、生成される力レベルと共に減少する。そのため、オーバドライブにおける変速機の効率は一次クランプ力のレベルに逆比例する。このコンテキストでは、特にオーバドライブのKpKs比の値が、変速機にとって最も重要な用途を表す車両の燃費にとって決定的な要因となるが、それはこのような用途では変速機は一般に、大半ではないとしても比較的長い時間、オーバドライブにあるか、オーバドライブに近いためである。そのため、本発明はまた、少なくとも約1.3の安全係数Sfを用いた場合、オーバドライブのKpKs比は1.8とローのKpKs比との間の範囲の値を有する変速機に関する。
【0021】
本発明による変速機は、平衡クランプ力比に関する変速機パラメータ、すなわち、変速機のKpKs曲線を活用するのが有利である。本発明が基づくこの現象の分析から、プッシュベルトタイプとして知られる駆動ベルトを備えた変速機の場合は特に、KpKs曲線が不意に、当初の明らかな近似で予測できるものから大きく逸脱することがわかっている。さらに詳しくは、本発明による分析から、接触角度の前記KpKs曲線、すなわち、一次プーリの接触角度の接線と二次プーリのそれとの間の比率と、プッシュベルトとプーリとの間の摩擦の接線係数への影響が明らかになった。本発明のより詳しい改良では、平衡クランプ力比、すなわちKpKs曲線は、少なくとも約1.3の安全係数Sfを用いる場合、変速機の速度伝達比の全範囲において1.6から1.2の範囲の数値、より望ましくは、実質的に線形プロフィールを有する。本発明の特に有利な利用法では、KpKs比は上記条件の下で実質的に一定で、ローで約1.3からオーバドライブで約1.5での値を有する。
特にこの種の変速機は、その機能に対する接触角度の絶対値の影響を考慮に入れるが、これについては以下でより詳しく説明する。この種の変速機は、最も重要な機能的側面とプッシュベルトを備えた変速機の性能を、少なくとも有意な程度には減じることなく、効率を大きく増加させることができる。この場合、各速度伝達比において変速機が一次および/または二次クランプ力の変化に対して多かれ少なかれ同じように有利に反応できるため、本発明によるKpKs曲線の線形プロフィールは有利である。この側面は、所望のクランプ力を規制する伝達制御の単純性と堅牢性にとって有利である。
本発明は前記平衡クランプ力比を有利な方法で実現する変速機の多数の例示を提供するが、その例について添付の説明図を参照しながら下記に説明する。
【0022】
(図面の簡単な説明)
図1は、先行技術による2個のプーリと駆動ベルトを備えた無段変速機の断面の略図である。
図2は、図1に示す変速機の簡易化した側面図である。
図3は、本発明による無段変速機の駆動ベルトとして有利に用いることができるプッシュベルトの断面図である。
図4は、図3に示すプッシュベルトから横断要素の側面図である。
図5は、本発明による無段変速機の図3に示すプッシュベルトと組み合わせて用いることのできるプーリディスクの特にその接触面の詳細図である。
図6は、速度伝達比の結果としての一次および二次プーリの間のクランプ力の差を図解する。
図7は、曲線駆動ベルトの一部を用いて、曲線駆動ベルトの中の引張応力と、半径方向内向きにかかる力の成分との関係を示す。
図8は、両プーリについて11度の一定の接触角度を有する周知の変速機の速度伝達比に対して理論的に近似させた平衡クランプ力比のプロット図である。
図9は、一次および二次プーリの接触角度輪郭として知られるものを、速度伝達比に対してプロットした図とこの速度伝達比に関係なく1に等しい理論的に近似させた平衡クランプ力比を示す。
図10は、プッシュベルトタイプの駆動ベルトを備えた変速機の力の遊びを示し、速度伝達比の結果としての一次プーリと二次プーリとの間のクランプ力の差を示す。
図11は、駆動ベルトとプーリの接線断面において、これらにかかる軸方向クランプ力の影響下でのこれらの接触における力の遊びを示す。
図12は、周知の最適接触角度輪郭を、プッシュベルトタイプの駆動ベルトを備えた変速機に関して速度伝達比に対して一次プーリと二次プーリについてプロットした図を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、先行技術による無段変速機1の断面を略図で示す。周知の変速機1は、エンジン(図示せず)によって2つの力Tpで駆動できる一次プーリ2、2つの力Tsで負荷(図示せず)を駆動できる二次プーリ3とからなる。両プーリ2および3は、各プーリアクスル20、30に固定されるプーリディスク21、31と、前記アクスル20、30に対して軸方向に変位可能なプーリディスク22、32とを備える。駆動ベルト10、より詳しくは、プッシュベルト10は、プーリディスク21、22、31、32の間にクランプされ、摩擦の助けにより、機械的パワーを2本のアクスル20および30の間に伝達することができる。駆動ベルト10を各プーリ2、3についてその場でクランプする軸方向を向く力を、これよりそれぞれ、一次クランプKp、二次クランプ力Ksと呼ぶが、この場合、2個のプーリ2および3の各圧力室24、34における油圧の適用によって実現する。
【0024】
変速機1の速度伝達比Rs/Rpは、駆動ベルト10の二次走行半径Rsおよび一次走行半径Rpの間の比率、すなわち、各プーリ2および3のプーリディスク21、22、31および32の間のその有効半径位置によって決定される。変速機1の前記走行半径RpおよびRsと、従って本発明により定義される速度伝達比Rs/Rpは、各プーリアクスル20、30上で対向する軸方向に移動する変位可能ディスク22、32によって変化させることができる。図1において、変速機1を小さい速度伝達比Rs/Rp、すなわち、比較的大きい一次走行半径Rpと比較的小さい二次走行半径Rsを持たせて図示する。
尚、速度伝達比Rs/Rp、一次走行半径Rpと二次走行半径Rsは、互いに対して明確に定義され、幾何学的に決定された関係にあり、この関係は、特に駆動ベルト10の長さと、各プーリ2、3の回転軸の間の距離と、最大および最小走行半径RpおよびRsとによって決定され、これら変数は所望に応じて互いから計算することができる。
【0025】
図2は、周知の変速機1の側面図で、図の左側に一次アクスル20上の一次プーリ2と、図の右側に二次アクスル30の二次プーリ3を示す。図1と異なり、この図において、変速機1はここでは比較的高い速度伝達比Rs/Rpで表され、一次走行半径Rpは二次走行半径Rsより小さく、その結果、動作中、一次プーリ2は二次プーリ3より回転速度が低くなる。プッシュベルト10として知られる図示の駆動ベルト10は、単純化のためその一部のみを示す実質的に連続する一連の横要素11と、入れ子で連続的で平坦かつ薄い多数の金属リング12の少なくとも1セットとからなる。
このプッシュベルト10は、図3および図4により詳しく示すが、図3は、プッシュベルト10の断面図、図4は、そこから横要素11を見た側面図である。この断面は、横要素11の正面図を示し、これは両側に凹部を設けられ、その中にリング12のセットがある。リング12のセットと横要素11は、半径または高さ方向で互いを保持するが、横要素11はその周方向でリング12のセットに沿って移動可能である。さらに、横要素11はプッシュベルト10の周方向に、突起部13とも称する突起と、要素11の対向する主要側に配置した凹部14を備え、突起部13と凹部14は、互いに関してプッシュベルト10で一連の横要素11を安定させる。
横要素11の底部15は先細で、隣接する横要素11が互いに対して傾斜でき、プッシュベルト10は、各プーリ2および3のプーリディスク21、22、31、32の間にクランプされる場所で円弧を描けるようになっている。尚、前述の有効半径位置、すなわち、プッシュベルト10の有効走行半径Rp、Rsは実質的に横要素11の底部15の上側の半径方向位置に対応し、上側は横要素10の傾斜線17とも称し、これに沿って後者が前記円弧で互いと接触する。底部15はさらに、両側に走行面16として知られるものを備え、横要素11はこれを介してプーリディスク21、22、31、32の間にクランプされ、駆動プーリ2の回転が摩擦によりクランプされた横要素11に伝達される。これにより、横要素11の間に相当な押力が生じることがあり、その結果、これらが被駆動プーリ3の方向にリング12のセットに対して互いを前向きに押すことになる。すると、プッシュベルト10が被駆動プーリ3のディスク31および32の間にクランプされる場所で、横要素11の間に存在する押力が被駆動プーリ3へ摩擦によって実質的に完全に伝達される。最終的に、横要素11は互いを押し戻し、被駆動プーリ3から駆動プーリ2へ、比較的低い押力を発揮する。この場合のリング12のセットは、横要素11がプッシュベルト10用の経路に従い続けるようにする。
【0026】
図5は、接線方向から見たその断面を基にするプーリディスク43の詳細を示す。プーリディスク43のいわゆる接触面40は、これによって横要素11の走行面16と接触するものだが、接触面40上のポイントRにおける接線41と半径方向42との間に限定された前記半径方向で見て増加する接触角度λを有する曲率R40の任意に可変の半径の曲率を備える。そのため、接線方向断面から見た変速機1の接触面40は、局所的接触角度λと変速機1の速度伝達比Rs/Rpとの間の関係として定義できる輪郭を表す。各プーリ2,3について、前記輪郭はそれぞれ、一次接触角度輪郭λp(Rs/Rp)および二次接触角度輪郭λs(Rs/Rp)と称し、プーリ2、3の固定および可動ディスク21、22、31、および32は、同一の輪郭を備える。2個のプーリ2および3はまた、形状が同一、すなわち、互いに関して鏡面対称である接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)を備えることが望ましい。
プーリ2および3の湾曲した接触面40と最適にインタラクトできるようにするため、横要素11の走行面16は、図3に示すプッシュベルト10の断面で見て、曲率を備える。この場合、プーリ2および3の接触面40によって限定される接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)に少なくとも対応する接触角度λの範囲は、走行面16の輪郭に限定される。
【0027】
変速機1の平衡状態、すなわち一定の速度伝達比に必要なクランプ力比、KpKs比は、平衡状態を由来とし、これにより、各プーリ2,3について駆動ベルト10のベルトセット12に生じる引張力Ftは互いに等しくなければならない。この平衡状態を図6に示す。各プーリ2および3について、引張力Ftは、駆動ベルト10に半径方向で作用するそれぞれ半径方向の力のFrpおよびFrsの結果として生じ、力FrpおよびFrsは、局所的接触角度λp、λsと、各プーリ2、3についてディスク21および22、31および32の間にそれぞれかかるクランプ力Kp、Ksの結果として生じ、実質的に軸方向を向く。これを一次プーリ2から書くと、次の関係が適用される。
【0028】
【数6】
半径方向の力FrpおよびFrsは、各一次プーリ2および二次プーリ3のプーリディスク21、22、31、32の間にクランプされた駆動ベルト10の部分の長さに渡り、横要素11の走行面16に作用する。前記長さは、駆動ベルト10のクランプされた部分に囲まれた角度として各プーリ2、3について定量化することが可能で、ここではそれぞれ、一次ベルト角度αpおよび二次ベルト角度αsと指定する。平衡に必要な半径方向の力FrpおよびFrsは、すると、各ベルト角度αpおよびαsについて、ベルト角度dαの単位あたりの引張力Ftを合計することによって決定する。よって、一次プーリ2から書くと、次の関係が適用される。
【0029】
【数7】
式(3)の導出を、ベルトセット12の小部分を基に図7に図解する。
式(6)および(7)は、一定速度伝達比を前記平衡状態として二次プーリ3について対応する方法で導くことができ、これにより、生成された引張応力Ftを両プーリ2および3に適用し、次の関係が平衡クランプ力比KpKsに適用される。
【0030】
【数8】
ここで、ベルト角度αpおよびαsは、各走行半径Rp、Rsの関数として、故に速度伝達比Rs/Rpの関数として変化する。ベルト角度αpおよびαsと走行半径RsおよびRpとの間のこの性質の関係は変速機1の幾何形状によって決まり、例えば次のように比較的正確に近似することができる。
【0031】
【数9】
Rs(Rp、RpMIN、RpMAX)では次の通りである。
【0032】
【数10】
但し、RpMINは最小一次走行半径Rp、RpMAXは、最大一次走行半径Rpである。式(9)および(10)の導出において、2個のプーリ2および3は共に、例えば、図6に示す場合のように、一般に車両において所望であるよう半径方向でできるだけ近く位置するものと想定した。
接触角度λpおよびλsが一定の等しい値を持つとして、この場合は11度だが、速度伝達比Rs/Rpに対するKpKs比率の、繰り返し、あるいは数的に決定される式(8)、(9)および(10)の解を図8に示す。
上記分析から、駆動ベルト10の種類から独立し、すなわち、図2から図4に示すプッシュベルト10のみでなく、ゴム製Vベルト、金属チェーン等についても、KpKs比は、互いに異なる一次接触角度λpおよび/または二次接触角度λsの値を選択することによって影響することができると結論できる。変速機の速度伝達比Rs/Rpの関数としての接触角度λp、λsの間の比率は、KpKs曲線と称するクランプ力KpおよびKsの平衡比率が全ての速度伝達比Rs/Rpについて有利に1に等しいとして、この場合はKp/Ks=1で式(4)を満たさなければならない。
【0033】
【数11】
ちなみに、式(11)から、接触角度λp、λsは、ベルト角度αpおよびαs、したがって走行半径RpおよびRsが互いに等しい速度伝達比Rs/Rpにおいて値が等しくなければならない。
式(11)に考えられる解を図9に示すが、ここで一次プーリ2および二次プーリ3の各接触角度λp、λsを、いわゆる接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)において速度伝達比Rs/Rpに対してプロットする。そのため、理論的に近似したKpKs比はこの場合、考えられる全ての速度伝達比Rs/Rpにおいて1に等しくなる。図9に示す図は、最小一次走行半径RpMINを約30mm、最大一次走行半径RpMAXを約75mmとし、プーリ2および3の、等しく可能な限り最小の半径方向寸法と組み合わせた代表的変速機1に適用される。
【0034】
上述の分析はこれを示唆するが、上述の明らかに最適の接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)は、平衡クランプ力比KpKsに影響することによる変速機1の効率改善にとって全ての場合において最も理想的な解とは限らず、少なくともプッシュベルト10を備えた本変速機1についてはそうではない。
さらに、特にマスタースレーブ制御との組み合わせでは、上述のように、1より大きいKpKS比率を選択した方が非常に有利である。第2に、出願者は、本発明の基となるこの現象の分析により、プッシュベルト10を備えた変速機1の特定の場合では、この変速機の動作中、プッシュベルト10に独自の力の遊びが生成され、これがクランプ力KpおよびKsの平衡比に相当な影響を与えることを発見した。さらに、この点において、接触角度λpとλsを適合した結果として平衡クランプ力比KpKsに影響することにより変速機1の効率を改善するための試みでは、プッシュベルト10にかかる機械的負荷と、特にそのリング12のセットの疲労負荷が影響されるが、例えば変速機1の動的性能もまた影響されることがわかった。
この現象とそのインタラクションの複雑性から見て、分析的記述は実現不可能か、できるとしても非常に困難である。しかしながら、本発明によると、定性的分析で十分であり、それを基に改良された変速機設計が提案される。
【0035】
本発明による定性的分析は、横要素11の押力Fdと、リングの引張力Ftと、プーリ2および3上での個々の横要素11とリング12のセットとの間の半径方向の法線力Frとに基づく。このコンテキストでは、押力Fdは実質的にプーリ2および3の間のトルクの伝達を担当し、リング12のセットと横要素11は共に保持され、プーリ2および3と共に所望の経路に送り込まれる。本発明によると、次の式(ここでは一次プーリについて書く)が各プーリ2、3に適用される。
【0036】
【数12】
または、2個のプーリ2、3の間の平衡については次の通りである。
【0037】
【数13】
これらの式から、プッシュベルト10の場合、平衡クランプ力比KpKsは、接触角度λp、λsだけでなく、押力Fdとさらにはベルト角度αp、αs上のその分布にも影響されることがわかる。本発明によると、式(11)に基づき、押力Fdは各クランプ力Kp、Ksの生成する半径方向の力FrpおよびFrsを部分的に補償する。さらに、横要素11とリング12のセットは互いと摩擦接触しており、これらの速度の違いにより、リングには引張力Ftの増加または減少が生じ、プッシュベルト10の場合では、この現象がさらに平衡クランプ力比KpKsの分析的解を複雑化する。そのため本発明は定性的分析を提案する。
【0038】
定性的効果を図10に示すが、これは変速機1の動作中、トルクTpがプーリ2および3の間を伝達される時、各プーリ2、3についてベルト角度αp、αsは2個の連続する部分からなるという知識に基づくものである。クリープ角度Kとして知られるベルト角度の第1部分では、プッシュベルト10の横要素11の間の押力Fdは、プーリ2、3との摩擦接触で増加または減少する。レスト角度Rとして知られるベルト角度の第2部分では、押力Fdはほぼ一定で、少なくとも実質的に駆動プーリ、この場合は一次プーリ2上でゼロに等しく、被駆動プーリ、この場合は二次プーリ3上で最大値Fd-maxに等しい。同一条件で増加または減少が発生するクリープ角度K、すなわち、横要素11と各プーリ2、3との間の摩擦および法線力の同一係数は、ほぼ対応する長さであり、比較的高いクランプ力ではクリープ角度Kは、総ベルト角度αp、αsに対して比較的小さくなる。最小速度伝達比、すなわちオーバドライブについてこれを図10に再現するが、二重の矢印は、プッシュベルト10の隣接する横要素11間に局所的に存在する押力Fdのレベルを示すが、プッシュベルト10の長手方向を向いているため、押力Fdの方向ではない。この図はまた、プッシュベルト10の周全体のリングのセットにおける引張力Ftに考えられる曲線も示し、この例ではトルクTpの転送に対抗している。結局、引張力は、最大の押力Fd-maxが存在するプッシュベルト10の側では最大のFt-max、最小の押力Fd、特に実質的に押力のないプッシュベルト10の側では最小レベルFt-minを有する。引張力Ftの曲線は、特にトルクTpのレベルにより、正確に反対の場合もある。
【0039】
定性的には、図10から、少なくともオーバドライブではプッシュベルトの場合の平衡クランプ力比KpKsが式(8)により予測される値とは有意に異なることがわかる。結局、一次ベルト角度αp上の累積押力Fdは、二次ベルト角度αs上の累積押力Fdより有意に小さい。この結果、上記から導く最適接触角度輪郭λp(Rs/Rp)とλs(Rs/Rp)は、プッシュベルト10を備える変速機1には適用されない。
さらに、上記分析から、平衡クランプ力比KpKsが一次および二次接触角度λpおよびλsの間の比率に影響されるだけでなく、2個のプーリ2、3の少なくとも一方におけるレスト角度Rの縮小、またはクリープ角度Kの延長によりオーバドライブで減少することも可能であるのがわかる。二次プーリ3については、二次ベルト角度αs上の累積押力Fdの減少につながる一方、一次プーリ2については、この累積押力の増加は、式(12)によれば両方の場合で平衡クランプ力比KpKsの減少につながる。オーバドライブでは、二次プーリ3上の縮小されたレスト角度Rは、この場合、所望の安全係数Sfで決まり、本発明のコンテキストでは一定の境界条件とみなされるため、最も有利な選択肢ではない。一方、本発明によると、一次プーリ2上のクリープ角度Rを、少なくともオーバドライブの一次走行半径Rpについて延長することにより、KpKsに有利な影響を与えることが可能である。
【0040】
本発明によると、クリープ角度は、一次プーリ2とプッシュベルト10との間の力の伝達を、驚くべきことに少なくともより非効率にすること、例えば、これらの間の摩擦μの低い方の有効係数(式(1)も参照)を選択することにより長くすることができる。受け入れられている理論によると、本変速機に通常用いられるような潤滑摩擦接触の摩擦係数μは、プーリ2の設計により、例えば、プッシュベルト10とプーリ2との間の接触圧を、例えば一次プーリディスクに比較的大きい曲率半径R40を用いることによって下げ、またはプーリディスク21および22の表面粗さを下げることによって落とすことができる。
上述の方法は、特に速度伝達比Rs/Rpが1未満のプッシュベルト10と一次プーリ2との間の接触点、すなわち、比較的大きい一次走行半径Rp、より詳しくは、オーバドライブの速度伝達比を決定する最大一次走行半径Rpに関する。変速機1の他の位置、すなわち、例えばローの一次走行半径Rpなど、比較的小さい一次走行半径Rpと、二次プーリ3のあらゆる所望の走行半径Rsでは、これとは対照的に、上述の方法を使わず、プッシュベルト10とプーリ2、3との間の力の伝達を出来る限り効率的にすることが有利である。一方、上述の比較的小さい一次走行半径Rpと関連する比較的大きい二次走行半径Rs、すなわち、ローの速度伝達比に近いかこれに等しい速度伝達比Rs/Rpでは、平衡クランプ力比KpKsは実質的に1に等しいままで、効率の増加は比較的低く、その一方で、力の伝達の効果は、あるクランプ力KpまたはKsで伝達可能な最大トルクにとって、上述の比較的小さい一次走行半径Rpだけでなく、比較的小さい二次走行半径Rsにおいて重要なためである。
【0041】
上述の方法は、接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)の適用から独立して、あるいはこれに加えて採用することができる。しかしながら本発明によると、より詳細な分析から、クランプ力の平衡比率が常に1に等しい、伝達効率に関して原則として最適であるKpKs曲線では、変速機1の他の機能的側面を低下させる接触角度輪郭λp(Rs/Rp)とλs(Rs/Rp)を必要とすることがわかっている。より詳しくは、最小および最大接触角度λp、λsの間の必要な差の合計は、不利に大きくなる場合がある。一方、必要な最小接触角度λp、λsは、例えば小さすぎて、クランプ力Kp、Ksの半径方向成分Frが小さくなりすぎ、プッシュベルト10とプーリ2、3との間の半径方向摩擦を克服できなくなる結果、変速機1の速度伝達比を変更することが不可能になる。一方で、必要な最大接触角度λp、λsは、例えば大きすぎてリング12のセットがクランプ力Kp、Ksの半径方向成分Frに過度の負荷を与えられる。このような現象の説明は、例えば、出願者の名前によるEp-0 798 492およびオランダ特許出願第1022157号にあるが、これは本出願の優先日前には公開されていない。
【0042】
必要な最小および最大接触角度λp、λsの差が大きいことによるさらに別の不利な結果は、この性質の差を限定された寸法以内で実現できるようにするため、プーリ2および3の接触面40と、横要素11の走行面16を比較的強く湾曲させなければならないことである。その結果、これらの間の接触応力が、望ましくない、あるいは許容不可能な値を取ってしまうことがある。前述のように、変速機1のアライメントも接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)によって決まり、そのためこれは限定要因となる。
これら側面を組み込んだ本発明による実験的近似では、少なくともオーバドライブでの接触角度は、次の条件を満たさなければならない。
【0043】
【数14】
より詳しくは、ローの比率はさらに次の条件を満たす。
【0044】
【数15】
上述の分析は単に、接触角度λpとλsとの間の比率の条件を述べたもので、これらパラメータの最適値を与えるものではない。本発明によると、これら最適値は次のようにわかる。
【0045】
本発明によると、一方で、接触角度λpおよびλsの下限はできるだけ低く選択することが望ましく、その結果、半径方向の力Frp、Frs、ひいてはリング12のセットの引張力Ftも有利に低くなるためである。結局、前記引張力Ftは供給されるトルクTpの伝達にまったく貢献しないか、貢献したとしてもわずかである一方、リング12のセットは引張力Ftによる機械的負荷を受けることになる。その一方、本発明によると、速度伝達比Rs/Rpを変更するためには、あらゆる状況で、駆動ベルト10がプーリディスク21、22、31、32の間で半径方向に変位できなければならない。このため、前記半径方向の力Frpは、駆動ベルト10とプーリ2、3との間の少なくとも摩擦Fwを克服できなければならない。一次プーリ2から書くと、次の関係が適用される。
【0046】
【数16】
但し、μRは駆動ベルト10の走行面16とプーリディスク43の接触面40との間の接触の半径方向で測定した摩擦係数、Fnは、その接触における法線力である。式(16)を図11に略図で示すが、これは、前記接触においてアクティブなKp、Fw、Frp、Fnの力を示す。式(16)は、接触角度λが半径方向摩擦係数μRの逆正接より大きくなければならないという条件を生じる。変速機のプーリ2および3と駆動ベルト10との間の潤滑金属/金属接触では、一般に約0.12の最大値がμRに適用される。そのため、本発明によると、ローの一次接触角度λpとオーバドライブの二次接触角度λsは7度にほぼ等しいことが望ましい。すると、完全な接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)は式(13)を用いて反復的に近似できる。
【0047】
式(13)が必要な境界条件を解決するためのさらに別の好適な境界条件は、各プーリ2、3の接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)が、それぞれ二次プーリ3で連続して立ち上がり、一次プーリ2で連続して下がる連続的曲線である。最後に、プーリのディスク21、22、31および32の形状が同一である場合、特に生産および組立工学の観点から有利である。
【0048】
接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)で、上述の側面および要因、例えば接触角度の最大および最小許容可能値、接触面40の曲率半径R40と走行面16の曲率半径R16の最小許容可能値、並びに変速機のアライメントなどを最適KpKs曲線の決定において考慮し、約1.3の安全係数を用いる時、後者はオーバドライブの1.5からローの1.3まで多かれ少なかれ線形の曲線を有する。図12に示す図は、この最適KpKs曲線と関連する最適接触角度輪郭λp(Rs/Rp)およびλs(Rs/Rp)の両方を速度伝達比Rs/Rpに対してプロットしたものである。図は、プッシュベルトタイプの駆動ベルト10を備えた変速機1の上述の全ての特徴および特性を考慮して、実験的ルートによって近似している。この図から、一次プーリλpと二次プーリλsの両方の最小接触角度が共に7度よりわずかに大きく、詳しくは約7.3度であり、最大一次接触角度λpが約10度で、最大に地接触角度λsが約9度であることがわかる。そのため、接触角度λp、λsの接線の最適比率はオーバドライブで約1.4、ローで約0.8となる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】先行技術による2個のプーリと駆動ベルトを備えた無段変速機の断面の略図である。
【図2】図1に示す変速機の簡易化した側面図である。
【図3】本発明による無段変速機の駆動ベルトとして有利に用いることができるプッシュベルトの断面図である。
【図4】図3に示すプッシュベルトから横断要素の側面図である。
【図5】本発明による無段変速機の図3に示すプッシュベルトと組み合わせて用いることのできるプーリディスクの特にその接触面の詳細図である。
【図6】速度伝達比の結果としての一次および二次プーリの間のクランプ力の差を図解する。
【図7】曲線駆動ベルトの一部を用いて、曲線駆動ベルトの中の引張応力と、半径方向内向きにかかる力の成分との関係を示す。
【図8】両プーリについて11度の一定の接触角度を有する周知の変速機の速度伝達比に対して理論的に近似させた平衡クランプ力比のプロット図である。
【図9】一次および二次プーリの接触角度輪郭として知られるものを、速度伝達比に対してプロットした図とこの速度伝達比に関係なく1に等しい理論的に近似させた平衡クランプ力比を示す。
【図10】プッシュベルトタイプの駆動ベルトを備えた変速機の力の遊びを示し、速度伝達比の結果としての一次プーリと二次プーリとの間のクランプ力の差を示す。
【図11】駆動ベルトとプーリの接線断面において、これらにかかる軸方向クランプ力の影響下でのこれらの接触における力の遊びを示す。
【図12】周知の最適接触角度輪郭を、プッシュベルトタイプの駆動ベルトを備えた変速機に関して速度伝達比に対して一次プーリと二次プーリについてプロットした図を示す。
【符号の説明】
【0050】
1 変速機 2 一次プーリ 3 二次プーリ
10 駆動ベルト 11 横要素 21、31、22、32 プーリディスク
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次プーリ(2)と二次プーリ(3)とを備え、その周囲に駆動ベルト(10)を配置し、駆動ベルト(10)は少なくとも変速機(1)が動作中、一次クランプ力(Kp)を持つ一次プーリ(2)の2個の円錐形プーリディスク(21、22)の間と、二次クランプ力(Ks)を持つ二次プーリ(3)の2個の円錐形プーリディスク(31、32)の間で、駆動ベルト(10)の両側に配置された実質的に軸方向を向く走行面(16)を介してクランプされ、一次プーリ(2)から二次プーリ(3)へ摩擦力の支援で供給されたトルク(Tp)を伝達できるようにし、駆動ベルト(10)に対して少なくとも1個のプーリディスク(44)の接触面(40)を設け、少なくともその断面で見て接線方向に垂直に向けて曲率を持って設ける結果、前記断面において接触面(40)の接線(41)と半径方向(42)との間の接触角度(λ)が、駆動ベルト(10)の各走行面(16)と接触面(40)との間の接触点の半径方向位置(Rp、Rs)において、接触面(40)が接触面(40)の半径方向最内側位置における最小値と接触面(40)の半径方向最外側位置における最大値との間で変化し、変速機(1)の速度伝達比(Rs/Rp)は、二次プーリ(3)の半径方向位置(Rs)と一次プーリ(2)の半径方向位置(Rp)との間の商として定義され、接触角度(λ)を前記半径位置(Rp、Rs)と、少なくとも最大速度伝達比(Rs/Rp)、すなわちローに関して適合した結果、一次クランプ力(Kp)と二次クランプ力(Ks)との間のクランプ力比(KpKs)は、最小速度伝達比(Rs/Rp)、すなわちオーバドライブにおいて1とクランプ力比(KpKs)の間の範囲の値を有することを特徴とする車両用無段変速機(1)。
【請求項2】
接触角度(λ)が前記半径方向位置(Rp、Rs)に関してオーバドライブで適合された結果、クランプ力比(KpKs)が1.8とローのクランプ力比(KpKs)の間の範囲の値を有することを特徴とする請求項1記載の無段変速機(1)。
【請求項3】
接触角度(λ)が前記半径方向位置(Rp、Rs)に関して、変速機(1)の全速度伝達比(Rs/Rp)で適合された結果、クランプ力比(KpKs)が1.2と1.6の間の範囲の値、望ましくはローで1.3とオーバドライブで1.5の間の範囲の値を有することを特徴とする請求項1または2記載の無段変速機(1)。
【請求項4】
各速度伝達比(Rs/Rp)で供給されるトルク(Tp)の伝達に必要な最小一次または二次クランプ力(Kp;Ks)と所望の一次または二次クランプ力(KpDV;KsDV)との間の安全係数(Sf)が約1.3であることを特徴とする請求項1、2または3記載の無段変速機(1)。
【請求項5】
少なくとも一定の速度伝達比(Rs/Rp)について、所望の二次クランプ力(KsDV)は、供給するトルク(Tp)の伝達に必要な最小二次クランプ力(Ks)に1より大きい安全係数を乗じて決定し、所望の一次クランプ力(KpDV)は、前記所望の二次クランプ力(KsDV)に前記一定の速度伝達比(Rs/Rp)のクランプ力比(KpKs)を乗じて決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項6】
前記半径方向位置(Rp、Rs)に関する接触角度(λ)は、各プーリ(2、3)の2個のプーリディスク(21,22;31、32)について少なくとも実質的に等しいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項7】
前記半径方向位置(Rp、Rs)に関するプーリディスク(21,22;31、32)の接触角度(λ)の最小値は、2個のプーリ(2、3)のプーリディスク(21,22;31、32)について少なくとも実質的に等しいことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項8】
前記半径方向位置(Rp、Rs)に関するプーリディスクの接触角度(λ)の最大値は、一次プーリ(2)のプーリディスク(21、22)の方が、二次プーリ(3)のプーリディスク(31、32)の対応する値より大きいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項9】
駆動ベルト(10)はプッシュベルトタイプとして知られるもので、リング(12)の少なくとも1セットと、多数の横要素(11)を備え、これはその周方向でリング(12)のセットに沿って可動で、走行面(16)を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項10】
前記半径方向位置(Rp、Rs)に関する接触角度(λ)は、各プーリ(2、3)の2個のプーリディスク(21,22;31、32)について対応し、少なくとも変速機(1)の最小速度伝達比(Rs/Rp)では、一次プーリ(λp)の接触角度(λ)と二次プーリ(λs)の接触角度(λ)との比が次の条件を満足することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【数1a】
【請求項11】
少なくとも変速機(1)の最大速度伝達比(Rs/Rp)では、前記接触角度(λp、λs)の比が次の条件を満足することを特徴とする請求項1〜10に記載の無段変速機(1)。
【数1b】
【請求項12】
一次プーリ(2)と二次プーリ(3)の両方で、接触角度(λ)の最小値が約7度であることを特徴とする請求項10または11記載の無段変速機(1)。
【請求項13】
一次プーリ(2)について、接触角度(λ)の最大値は約10度で、二次プーリ(3)について、接触角度(λ)の最大値は約9度であることを特徴とする請求項10、11または12記載の無段変速機(1)。
【請求項14】
一次プーリ(2)と二次プーリ(3)とを備え、その周囲に駆動ベルト(10)が配置され、この駆動ベルト(10)は、少なくとも変速機(1)が動作中、一次クランプ力(Kp)を持つ一次プーリ(2)の2個の円錐形プーリディスク(21、22)の間と、二次クランプ力(Ks)を持つ二次プーリ(3)の2個の円錐形プーリディスク(31、32)の間で、駆動ベルト(10)の両側に配置された実質的に軸方向を向く走行面(16)を介してクランプされ、一次プーリ(2)から二次プーリ(3)へ摩擦力の支援で供給されたトルク(Tp)を伝達できるようにし、少なくとも変速機(1)が動作中、一次プーリ(2)と駆動ベルト(10)との間の接触点の半径方向位置(Rp)に関するそれらの間の摩擦係数が、前記接触点の半径方向最外側位置において最小値であることを特徴とする車両用無段変速機(1)。
【請求項15】
前記摩擦係数は、二次プーリ(2)と駆動ベルト(10)との間の接触点の半径方向最外側位置におけるそれらの間の摩擦係数より小さいことを特徴とする請求項14記載の無段変速機(1)。
【請求項16】
少なくとも接線方向断面から見て、一次プーリ(2)と駆動ベルト(10)との間の接触点の半径方向最外側位置における一次プーリディスク(21、22)は、比較的大きい曲率半径(R40)および/または比較的低い表面粗さを備えることを特徴とする請求項14記載の無段変速機(1)。
【請求項17】
各プーリ(2、3)の2個のプーリディスク(21,22;31、32)の接触角度(λ)は、対応する値を有し、一次プーリ(λp)と二次プーリ(λs)の両方について、変速機(1)の速度伝達比(Rs/Rp)に関する各接触角度(λ)は、関連する図12のこのパラメータについて示す輪郭に少なくとも実質的に対応することを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項18】
変速機(1)の速度伝達比(Rs/Rp)に関するクランプ力比(KpKs)は、少なくともほぼ一定の値を有することを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項19】
エンジンと駆動される負荷とを有し、その間に請求項1〜18のいずれか1項に記載の無段変速機(1)が組み込まれ、エンジンによって生成されるパワーは駆動ベルト(10)によって一次プーリ(2)から二次プーリ(3)へ伝達され、二次プーリ(3)によって負荷に出力されることを特徴とする車両。
【請求項1】
一次プーリ(2)と二次プーリ(3)とを備え、その周囲に駆動ベルト(10)を配置し、駆動ベルト(10)は少なくとも変速機(1)が動作中、一次クランプ力(Kp)を持つ一次プーリ(2)の2個の円錐形プーリディスク(21、22)の間と、二次クランプ力(Ks)を持つ二次プーリ(3)の2個の円錐形プーリディスク(31、32)の間で、駆動ベルト(10)の両側に配置された実質的に軸方向を向く走行面(16)を介してクランプされ、一次プーリ(2)から二次プーリ(3)へ摩擦力の支援で供給されたトルク(Tp)を伝達できるようにし、駆動ベルト(10)に対して少なくとも1個のプーリディスク(44)の接触面(40)を設け、少なくともその断面で見て接線方向に垂直に向けて曲率を持って設ける結果、前記断面において接触面(40)の接線(41)と半径方向(42)との間の接触角度(λ)が、駆動ベルト(10)の各走行面(16)と接触面(40)との間の接触点の半径方向位置(Rp、Rs)において、接触面(40)が接触面(40)の半径方向最内側位置における最小値と接触面(40)の半径方向最外側位置における最大値との間で変化し、変速機(1)の速度伝達比(Rs/Rp)は、二次プーリ(3)の半径方向位置(Rs)と一次プーリ(2)の半径方向位置(Rp)との間の商として定義され、接触角度(λ)を前記半径位置(Rp、Rs)と、少なくとも最大速度伝達比(Rs/Rp)、すなわちローに関して適合した結果、一次クランプ力(Kp)と二次クランプ力(Ks)との間のクランプ力比(KpKs)は、最小速度伝達比(Rs/Rp)、すなわちオーバドライブにおいて1とクランプ力比(KpKs)の間の範囲の値を有することを特徴とする車両用無段変速機(1)。
【請求項2】
接触角度(λ)が前記半径方向位置(Rp、Rs)に関してオーバドライブで適合された結果、クランプ力比(KpKs)が1.8とローのクランプ力比(KpKs)の間の範囲の値を有することを特徴とする請求項1記載の無段変速機(1)。
【請求項3】
接触角度(λ)が前記半径方向位置(Rp、Rs)に関して、変速機(1)の全速度伝達比(Rs/Rp)で適合された結果、クランプ力比(KpKs)が1.2と1.6の間の範囲の値、望ましくはローで1.3とオーバドライブで1.5の間の範囲の値を有することを特徴とする請求項1または2記載の無段変速機(1)。
【請求項4】
各速度伝達比(Rs/Rp)で供給されるトルク(Tp)の伝達に必要な最小一次または二次クランプ力(Kp;Ks)と所望の一次または二次クランプ力(KpDV;KsDV)との間の安全係数(Sf)が約1.3であることを特徴とする請求項1、2または3記載の無段変速機(1)。
【請求項5】
少なくとも一定の速度伝達比(Rs/Rp)について、所望の二次クランプ力(KsDV)は、供給するトルク(Tp)の伝達に必要な最小二次クランプ力(Ks)に1より大きい安全係数を乗じて決定し、所望の一次クランプ力(KpDV)は、前記所望の二次クランプ力(KsDV)に前記一定の速度伝達比(Rs/Rp)のクランプ力比(KpKs)を乗じて決定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項6】
前記半径方向位置(Rp、Rs)に関する接触角度(λ)は、各プーリ(2、3)の2個のプーリディスク(21,22;31、32)について少なくとも実質的に等しいことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項7】
前記半径方向位置(Rp、Rs)に関するプーリディスク(21,22;31、32)の接触角度(λ)の最小値は、2個のプーリ(2、3)のプーリディスク(21,22;31、32)について少なくとも実質的に等しいことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項8】
前記半径方向位置(Rp、Rs)に関するプーリディスクの接触角度(λ)の最大値は、一次プーリ(2)のプーリディスク(21、22)の方が、二次プーリ(3)のプーリディスク(31、32)の対応する値より大きいことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項9】
駆動ベルト(10)はプッシュベルトタイプとして知られるもので、リング(12)の少なくとも1セットと、多数の横要素(11)を備え、これはその周方向でリング(12)のセットに沿って可動で、走行面(16)を備えることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項10】
前記半径方向位置(Rp、Rs)に関する接触角度(λ)は、各プーリ(2、3)の2個のプーリディスク(21,22;31、32)について対応し、少なくとも変速機(1)の最小速度伝達比(Rs/Rp)では、一次プーリ(λp)の接触角度(λ)と二次プーリ(λs)の接触角度(λ)との比が次の条件を満足することを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【数1a】
【請求項11】
少なくとも変速機(1)の最大速度伝達比(Rs/Rp)では、前記接触角度(λp、λs)の比が次の条件を満足することを特徴とする請求項1〜10に記載の無段変速機(1)。
【数1b】
【請求項12】
一次プーリ(2)と二次プーリ(3)の両方で、接触角度(λ)の最小値が約7度であることを特徴とする請求項10または11記載の無段変速機(1)。
【請求項13】
一次プーリ(2)について、接触角度(λ)の最大値は約10度で、二次プーリ(3)について、接触角度(λ)の最大値は約9度であることを特徴とする請求項10、11または12記載の無段変速機(1)。
【請求項14】
一次プーリ(2)と二次プーリ(3)とを備え、その周囲に駆動ベルト(10)が配置され、この駆動ベルト(10)は、少なくとも変速機(1)が動作中、一次クランプ力(Kp)を持つ一次プーリ(2)の2個の円錐形プーリディスク(21、22)の間と、二次クランプ力(Ks)を持つ二次プーリ(3)の2個の円錐形プーリディスク(31、32)の間で、駆動ベルト(10)の両側に配置された実質的に軸方向を向く走行面(16)を介してクランプされ、一次プーリ(2)から二次プーリ(3)へ摩擦力の支援で供給されたトルク(Tp)を伝達できるようにし、少なくとも変速機(1)が動作中、一次プーリ(2)と駆動ベルト(10)との間の接触点の半径方向位置(Rp)に関するそれらの間の摩擦係数が、前記接触点の半径方向最外側位置において最小値であることを特徴とする車両用無段変速機(1)。
【請求項15】
前記摩擦係数は、二次プーリ(2)と駆動ベルト(10)との間の接触点の半径方向最外側位置におけるそれらの間の摩擦係数より小さいことを特徴とする請求項14記載の無段変速機(1)。
【請求項16】
少なくとも接線方向断面から見て、一次プーリ(2)と駆動ベルト(10)との間の接触点の半径方向最外側位置における一次プーリディスク(21、22)は、比較的大きい曲率半径(R40)および/または比較的低い表面粗さを備えることを特徴とする請求項14記載の無段変速機(1)。
【請求項17】
各プーリ(2、3)の2個のプーリディスク(21,22;31、32)の接触角度(λ)は、対応する値を有し、一次プーリ(λp)と二次プーリ(λs)の両方について、変速機(1)の速度伝達比(Rs/Rp)に関する各接触角度(λ)は、関連する図12のこのパラメータについて示す輪郭に少なくとも実質的に対応することを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項18】
変速機(1)の速度伝達比(Rs/Rp)に関するクランプ力比(KpKs)は、少なくともほぼ一定の値を有することを特徴とする請求項1〜17のいずれか1項に記載の無段変速機(1)。
【請求項19】
エンジンと駆動される負荷とを有し、その間に請求項1〜18のいずれか1項に記載の無段変速機(1)が組み込まれ、エンジンによって生成されるパワーは駆動ベルト(10)によって一次プーリ(2)から二次プーリ(3)へ伝達され、二次プーリ(3)によって負荷に出力されることを特徴とする車両。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2007−513300(P2007−513300A)
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−541063(P2006−541063)
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000821
【国際公開番号】WO2005/083304
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504226423)ロベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミト ベシュレンクテル ハフツング (40)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年11月26日(2004.11.26)
【国際出願番号】PCT/NL2004/000821
【国際公開番号】WO2005/083304
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(504226423)ロベルト ボッシュ ゲゼルシャフト ミト ベシュレンクテル ハフツング (40)
【Fターム(参考)】
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