説明

無段変速機

【課題】ベルトの滑りを抑制する無段変速機を提供する。
【解決手段】無段変速機3であって、溝幅を油圧によって変化させる入力側のプライマリプーリ10と、溝幅を油圧によって変化させる出力側のセカンダリプーリ11と、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ11とに巻き掛けられた動力伝達部材12とを有するバリエータ5と、プライマリプーリ10またはセカンダリプーリ11に油を給排する第1油圧制御手段6と、締結することによって駆動輪へ駆動源1の動力を伝達し、解放することによって駆動輪への駆動源1の動力の伝達を遮断する第1クラッチ機構4と、第1油圧制御手段6によって給排する油の一部が導入され、導入される油による圧力が小さくなるほど第1クラッチ機構4の締結力を小さくする第2油圧制御手段7とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無段変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ベルト式の無段変速機において、プーリに供給する油圧を制御するソレノイドが故障した場合に、ライン圧を高くし、プーリ間に掛け渡したベルトの滑りを抑制するものが特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−207664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、プーリに供給する油圧がドレーンされるような場合、例えばソレノイドなどのアクチュエータに故障が発生した場合には、上記の発明では油圧の低下したプーリにトルクが伝達されて、ベルトに滑りが生じ、プーリおよびベルトが劣化するといった問題点がある。
【0005】
本発明はこのような問題点を解決するために発明されたもので、油圧の低下したプーリにトルクが伝達されてベルトに滑りが発生することを抑制し、プーリおよびベルトが劣化することを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様に係る無段変速機は、溝幅を油圧によって変化させる入力側のプライマリプーリと、溝幅を油圧によって変化させる出力側のセカンダリプーリと、プライマリプーリとセカンダリプーリとに巻き掛けられた動力伝達部材とを有するバリエータと、プライマリプーリまたはセカンダリプーリに油を給排する第1油圧制御手段と、締結することによって駆動輪へ駆動源の動力を伝達し、解放することによって駆動輪への駆動源の動力の伝達を遮断する第1クラッチ機構と、第1油圧制御手段によって給排する油の一部が導入され、導入される油による圧力が小さくなるほど第1クラッチ機構の締結力を小さくする第2油圧制御手段とを備える。
【発明の効果】
【0007】
この態様によると、プーリの油が排出され、プーリ圧が低下した場合に、プーリ圧の低下に連動して、第1クラッチ機構の締結力が小さくなるので、油圧が低下したプーリにトルクが伝達されることを抑制し、ベルトに滑りが発生することを抑制し、プーリまたはベルトの劣化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の第1実施形態の無段変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図2】第1実施形態における変速比と、プライマリプーリ圧と、セカンダリプーリ圧との関係を示す図である。
【図3】第1実施形態において、アクセルペダルが踏み込まれた場合のトルク変化などを示すタイムチャートである。
【図4】第1実施形態において、ブレーキペダルが踏み込まれた場合のトルク変化などを示すタイムチャートである。
【図5】本発明の第2実施形態の無段変速機を備えた車両の概略構成図である。
【図6】第2実施形態において、ブレーキペダルが踏み込まれた場合のトルク変化などを示すタイムチャートである。
【図7】本発明の第3実施形態の無段変速機を備えた車両の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。
【0010】
本発明の第1実施形態における無段変速機を備えた車両について図1を用いて説明する。図1は本実施形態の無段変速機を有する車両の概略構成図である。
【0011】
車両は、エンジン1と、トルクコンバータ2と、無段変速機3とを備える。
【0012】
エンジン1は、車両を前後進させる駆動源であり、エンジン1によって発生した回転が、トルクコンバータ2、無段変速機3、駆動輪(図示せず)の順に伝達される。
【0013】
無段変速機3は、前後進切換機構4と、バリエータ5と、第1バルブ6と、第2バルブ7と、ソレノイド8とを備える。
【0014】
前後進切換機構4は、前進クラッチ4aと、後進ブレーキ4bとを備え、トルクコンバータ2とバリエータ5との間に設けられる。前進クラッチ4aおよび後進ブレーキ4bに給排される油が制御されることで、前後進切換機構4は、前進クラッチ4aおよび後進ブレーキ4bの締結、解放状態を切り替える。
【0015】
前進クラッチ4aが締結し、後進ブレーキ4bが解放している場合には、トルクコンバータ2を経由して入力した回転は回転方向が逆転することなくバリエータ5に伝達される。一方、前進クラッチ4aが解放し、後進ブレーキ4bが締結している場合には、入力した回転は回転方向が逆転されてバリエータ5に伝達される。前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bに給排される油は、詳しくは後述する第2バルブ7によって制御されており、第2バルブ7によって前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bから油が排出されると、前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bは解放状態となる。そのため、エンジン1からバリエータ5への回転の伝達が遮断される。
【0016】
なお、前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bは第2バルブと前後進切換機構4との間に配置される他のバルブ(図示せず)によっても油の給排が行われ、第2バルブ7によって油が供給されている場合でも、他のバルブによって締結、解放状態が切り替えられる。
【0017】
バリエータ5は、プライマリプーリ10と、セカンダリプーリ11と、ベルト12とを備える。
【0018】
プライマリプーリ10は、固定円錐板10aと、可動円錐板10bとを備える。可動円錐板10bは、ライン圧を元圧として調圧された油がプライマリプーリ室10cに給排されることで軸線方向に沿って移動する。これによって固定円錐板10aと可動円錐板10bとによって形成されるV溝幅が変更される。プライマリプーリ10には、前後進切換機構4を介してエンジン1によって発生した回転が伝達される。
【0019】
セカンダリプーリ11は、固定円錐板11aと、可動円錐板11bとを備える。可動円錐板11bは、ライン圧を元圧として、第1バルブ6によって調圧された油がセカンダリプーリ室11cに給排されることで軸線方向に沿って移動する。これによってプライマリプーリ10と同様に固定円錐板11aと可動円錐板11bとのV溝幅が変更される。セカンダリプーリ11には、ベルト12を介してプライマリプーリ10の回転が伝達される。セカンダリプーリ11の回転は駆動輪に伝達され、車両が前後進する。本実施形態においては、セカンダリプーリ11の受圧面積は、プライマリプーリ10の受圧面積よりも小さい。
【0020】
ベルト12は、プライマリプーリ10のV溝とセカンダリプーリ11のV溝とに掛け回され、プライマリプーリ10の固定円錐板10aおよび可動円錐板10bと、セカンダリプーリ11の固定円錐板11aおよび可動円錐板11bとに摩擦係合する。ベルト12は、プライマリプーリ10に伝達された回転をセカンダリプーリ11に伝達する。
【0021】
アクセルペダルの踏み込み量、車速などの運転状態に基づいてプライマリプーリ圧およびセカンダリ圧が制御され、プライマリプーリ10およびセカンダリプーリ11に対するベルト12の巻き掛け円弧径を連続的に変化させることで、バリエータ5における変速は実行される。
【0022】
第1バルブ6は、バネの付勢力と、ソレノイド8によって制御される油による押圧との差に基づいて移動するスプール(図示せず)を備え、セカンダリプーリ室11cに油を給排する。第1バルブ6は、セカンダリプーリ室11cに連通する第1出口ポート6aと、ライン圧の油が供給される第1入口ポート6bまたはセカンダリプーリ室11cの油を排出する第1排出ポート6cとをスプールの動きに応じて連通する。バネは、第1出口ポート6aと第1排出ポート6cとが連通するようにスプールの一方の端部を付勢している。スプールのもう一方の端部側には、ソレノイド8を介して油が供給されており、供給される油をソレノイド8によって制御することで、スプールが移動する。
【0023】
具体的には、バネの付勢力よりもソレノイド8によって制御される油の押圧が大きい場合には、スプールは、第1入口ポート6bと第1出口ポート6aとを連通させ、セカンダリプーリ室11cに油が供給される。バネの付勢力がソレノイド8によって制御される油の押圧よりも大きい場合には、スプールは、第1出口ポート6aと第1排出ポート6cとを連通させ、セカンダリプーリ室11cの油が第1排出ポート6cを通って排出される。
【0024】
第2バルブ7は、バネの付勢力と、第1バルブ6によって調圧された油、つまりセカンダリプーリ室11cに給排される油の一部による押圧との差に基づいて移動するスプール(図示せず)を備え、前後進切換機構4に油を給排する。第2バルブ7は、前後進切換機構4に連通する第2出口ポート7aと、ライン圧の油が供給される第2入口ポート7bまたは前後進切換機構4の油を排出する第2排出ポート7cとをスプールの動きに応じて連通する。バネは、第2出口ポート7aと第2排出ポート7cとが連通するようにスプールの一方の端部を付勢している。スプールのもう一方の端部側には、セカンダリプーリ室11cと連通し、セカンダリプーリ室11cに給排される油の一部が流入する。そのため、スプールは、セカンダリプーリ室11cの油圧に応じて移動する。
【0025】
具体的には、バネの付勢力よりもセカンダリプーリ室11cと連通する端部側に供給される油の押圧が大きい場合には、スプールは、第2出口ポート7aと第2入口ポート7bとを連通させ、前後進切換機構4の前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bに油が供給される。バネの付勢力がセカンダリプーリ室11cと連通する端部側に供給される油の押圧よりも大きい場合には、スプールは、第2出口ポート7aと第2排出ポート7cとを連通させ、前後進切換機構4の前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bに供給されていた油が第2排出ポート7cを通って排出される。
【0026】
例えばコンタミによるバルブスティックや、ソレノイド8の故障など(以下、アクチュエータの故障と言う。)によってセカンダリプーリ室11cの油が排出され、セカンダリプーリ11でベルト12の滑りが発生するおそれがある油圧までセカンダリプーリ圧が低下すると、バネの付勢力が第2バルブ7のセカンダリプーリ室11cと連通する端部側に供給される油の押圧よりも大きくなる。これによって第2バルブのスプールは第2出口ポート7aと第2排出ポート7cとを連通し、締結状態にあった前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bの油が排出され、締結状態にあった前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bは解放される。
【0027】
本実施形態においては、セカンダリプーリ圧が低下した場合に、セカンダリプーリ圧の低下に連動させて、第2バルブ7によって前後進切換機構4の前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bを解放するようにしている。
【0028】
本実施形態では、セカンダリプーリ11の受圧面積がプライマリプーリ10の受圧面積よりも小さいので、バリエータ5の変速比を実現するための油圧は、図2に示すような関係になる。図2は、変速比と、プライマリプーリ圧と、セカンダリプーリ圧との関係を示す図である。図2においては、変速比は、プライマリプーリ10の回転速度をセカンダリの回転速度で割った値であり、変速比が小さくなるとHigh側となり、変速比が大きくなるとLow側となる。
【0029】
図2に示すように変速比を実現するための油圧は、セカンダリプーリ圧がプライマリプーリ圧よりも高い領域が大きい。つまり油圧が低下した場合に、ベルト12の滑りは、プライマリプーリ10よりもセカンダリプーリ11で発生し易い。そのため、本実施形態では、第2バルブ7による前後進切換機構4の前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bの解放を、セカンダリプーリ圧の低下に連動させて行っている。
【0030】
次に、アクチュエータが故障し、セカンダリプーリ室11cの油が排出された場合のトルクの変化などについて図3、4のタイムチャートを用いて説明する。図3、図4において本実施形態を用いた場合のトルクの変化などを実線で示し、本実施形態を用いない場合のトルクの変化などを破線で示す。また、ここでは前後進切換機構4の前進クラッチ4aが締結し、後進ブレーキ4bを解放しているものとする。
【0031】
まず、アクセルペダルが踏み込まれた場合について図3を用いて説明する。
【0032】
時間t0において、アクチュエータに故障が生じ、第1バルブ6において第1出口ポート6aと第1排出ポート6cとが連通し、セカンダリプーリ室11cの油が排出され、セカンダリプーリ圧が低下する。セカンダリプーリ圧が低下すると、第2バルブ7では、セカンダリプーリ室11cと連通するスプールの端部側の押圧も低下する。その後、第2バルブ7のバネの付勢力が押圧よりも大きくなると、第2バルブ7のスプールは、第2出口ポート7aと第2排出ポート7cとを連通させる。これにより、前後進切換機構4の前進クラッチ4aの油が排出されるので、前進クラッチ4aが解放され、バリエータ5にエンジン1から回転が伝達されなくなり、バリエータ5に伝達されるトルクが低下する。
【0033】
時間t1において、アクセルペダルが運転者によって踏み込まれた場合には、本実施形態では、前後進切換機構4の前進クラッチ4aは解放されているので、エンジン1からバリエータ5にトルクは伝達されない。前後進切換機構4の前進クラッチ4aは解放されているので、エンジントルクは微増する。
【0034】
一方、本実施形態を用いない場合には、エンジントルクがアクセルペダルの踏み込みによって増加する。また前後進切換機構4の前進クラッチ4aは締結されており、エンジン1からバリエータ5にトルクが伝達されるので、油圧の低下によってベルト12の挟持力が小さくなったセカンダリプーリ11においてベルト12の滑りが発生する。
【0035】
次にブレーキペダルが踏み込まれた場合について図4を用いて説明する。
【0036】
時間t0において、アクチュエータに故障が生じると、図3と同様に、セカンダリプーリ圧が低下し、その後前後進切換機構4の前進クラッチ4aが解放される。
【0037】
時間t1において、ブレーキペダルが踏み込まれると、セカンダリプーリ11には負のトルクがかかる。本実施形態を用いない場合には、前後進切換機構4の前進クラッチ4aが締結しているのでエンジン1のイナーシャトルクによりセカンダリプーリ11にかかる負のトルクが大きくなる。さらにセカンダリプーリ11においてベルト12の挟持力が小さくなっているので、セカンダリプーリ11でベルト12の滑りが発生し易くなる。
【0038】
本実施形態では、前後進切換機構4の前進クラッチ4aが解放されており、エンジン1のイナーシャトルクがバリエータ5にかからないので、セカンダリプーリ11にかかる負のトルクは本実施形態を用いない場合と比較して小さくなり、ベルト12の滑りを抑制することができる。
【0039】
本発明の第1実施形態の効果について説明する。
【0040】
アクチュエータが故障してセカンダリプーリ室の油が排出されると、セカンダリプーリ圧が低下し、ベルトとセカンダリプーリとの間で滑りが生じ、セカンダリプーリまたはベルトが劣化するおそれがある。
【0041】
ベルトの滑りが発生しないように、アクチュエータの故障を検知し、前後進切換機構の前進クラッチおよび後進ブレーキを解放することで、セカンダリプーリにトルクが伝達することを防止することも可能である。
【0042】
しかし、アクチュエータの故障を検知するための装置が別途必要となり、コストが高くなり、制御が複雑になる。
【0043】
また、セカンダリプーリの指示圧と実圧に基づいてアクチュエータの故障を検知することもできる。この場合には、例えばセカンダリプーリの指示圧と実圧との差圧が故障判定可能なしきい値よりも大きい時間が所定時間経過した場合にアクチュエータが故障していると判定する。しかし、所定時間の間、前進クラッチは締結状態にあるために、所定時間の間にセカンダリプーリにエンジンなどからトルクが伝達されて、ベルトの滑りが発生するおそれがある。
【0044】
これに対して、本実施形態では、アクチュエータが故障し、セカンダリプーリ室11cの油が排出されてセカンダリプーリ圧が低下すると、第2バルブ7によって油圧低下に連動させて前後進切換機構4の前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bの油圧を低下させて、前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bを解放させる。これにより、バリエータ5に伝達されるトルクを低減させて、セカンダリプーリ11におけるベルト12の滑りを抑制することができ、セカンダリプーリ11およびベルト12の劣化を抑制することができる(請求項1に対応する効果)。
【0045】
前後進切換機構4をエンジン1とバリエータ5との間に配置することで、アクチュエータが故障し、セカンダリプーリ圧が低下した場合に、前後進切換機構4の前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bを解放する。これにより、エンジン1から伝達される回転を遮断することができる。また、駆動輪側から負のトルクがバリエータ5に伝達された場合でも、バリエータ5とエンジン1との回転の伝達が遮断されるので、エンジン1のイナーシャトルクがバリエータ5にかからず、セカンダリプーリ11にかかる負のトルクを小さくすることができる。よって、セカンダリプーリ11におけるベルト12の滑りを抑制することができ、セカンダリプーリ11およびベルト12の劣化を抑制することができる(請求項2に対応する効果)。
【0046】
プライマリプーリ10よりも受圧面積が小さいセカンダリプーリ11の油圧に連動させて、前後進切換機構4の前進クラッチ4aまたは後進ブレーキ4bを解放することで、バリエータ5におけるベルト12の滑りを抑制することができ、バリエータ5およびベルト12の劣化を抑制することができる(請求項5に対応する効果)。
【0047】
次に本発明の第2実施形態について図5を用いて説明する。
【0048】
図5は、本実施形態の無段変速機20を備えた車両の概略構成図である。第2実施形態については第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0049】
前後進切換機構21は、前進クラッチ21aと後進ブレーキ21bとを備え、バリエータ5と駆動輪との間に設けられる。前後進切換機構21は、バリエータ5を経由して入力した回転を駆動輪に伝達する。
【0050】
前後進切換機構21の前進クラッチ21aまたは後進ブレーキ21bに給排される油は、第3バルブ22によって制御されており、第3バルブ22によって前進クラッチ21aまたは後進ブレーキ21bから油が排出されると、前進クラッチ21aまたは後進ブレーキ21bは解放される。
【0051】
第3バルブ22の構成は、第1実施形態の第2バルブ7と同じ構成である。第3バルブ22は、第3出口ポート22aと第3入口ポート22bとを連通することで前後進切換機構21の前進クラッチ21aまたは後進ブレーキ21bに油を供給する。また、第3バルブ22は、第3出口ポートと第3排出ポート22cとを連通することで前後進切換機構21の前進クラッチ21aまたは後進ブレーキ21bから油を排出する。
【0052】
第3バルブ22は、アクチュエータが故障し、セカンダリプーリ室11cの油が排出され、セカンダリプーリ圧が低下すると、これに連動して締結状態にあった前後進切換機構21の前進クラッチ21aまたは後進ブレーキ21bを解放する。
【0053】
次にアクチュエータが故障し、セカンダリプーリ室11cの油が排出され、ブレーキペダルが踏み込まれた場合のトルクの変化などについて図6のタイムチャートを用いて説明する。
【0054】
時間t0において、アクチュエータに故障が生じ、第1バルブ6において第1出口ポート6aと第1排出ポート6cとが連通し、セカンダリプーリ室11cの油が排出される。セカンダリプーリ圧が低下すると、セカンダリプーリ圧の低下に連動して、前進クラッチ21aが解放され、セカンダリプーリ11のトルクは低下する。
【0055】
時間t1において、ブレーキペダルが踏み込まれると、本実施形態を用いていない場合には、前後進切換機構21の前進クラッチ21aが締結されているので、セカンダリプーリ11に負のトルクがかかる。
【0056】
本実施形態を用いた場合には、前後進切換機構21の前進クラッチ21aが解放されているので、セカンダリプーリ11に負のトルクはかからない。
【0057】
本発明の第2実施形態の効果について説明する。
【0058】
前後進切換機構21をエンジン1とバリエータ5との間に配置する。そして、アクチュエータが故障し、セカンダリプーリ圧が低下した場合に、前後進切換機構21の前進クラッチ21aまたは後進ブレーキ21bを解放する。これにより、駆動輪側から負のトルクがバリエータ5に伝達された場合に、セカンダリプーリ11に負のトルクがかかることを防ぐことができる。そのため、セカンダリプーリ11におけるベルト12の滑りを抑制することができ、セカンダリプーリ11およびベルト12の劣化を抑制することができる(請求項3に対応する効果)。
【0059】
次に本発明の第3実施形態について図7を用いて説明する。
【0060】
図7は、本実施形態の無段変速機30を備えた車両の概略構成図である。第3実施形態については、第1実施形態と異なる部分を中心に説明する。
【0061】
無段変速機30は、さらに副変速機構31と、第4バルブ32とを備える。
【0062】
副変速機構31は、バリエータ5と駆動輪との間に設けられる。副変速機構31は、副変速段を変更するクラッチ31a、31bを備える。クラッチ31a、クラッチ31bは、第4バルブ32を介して油が給排されることで締結、解放状態が変更される。
【0063】
第4バルブ32の構成は、第1実施形態の第2バルブ7と同じ構成である。第4バルブ32は、第4出口ポート32aと第4入口ポート32bとを連通することで副変速機構31のクラッチ31aまたはクラッチ31bに油を供給する。また、第4バルブ32は、第4出口ポート32aと第4排出ポート32cとを連通することで副変速機構31のクラッチ31aまたはクラッチ31bから油を排出する。
【0064】
アクチュエータが故障し、セカンダリプーリ室11cの油が排出され、セカンダリプーリ圧が低下すると、第4バルブ32は、セカンダリプーリ圧の低下に連動して副変速機構31のクラッチ31aまたはクラッチ31bを解放する。
【0065】
本発明の第3実施形態の効果について説明する。
【0066】
エンジン1とバリエータ5との間に前後進切換機構21を配置し、さらにバリエータ5と駆動輪との間に副変速機構31を配置する。アクチュエータが故障し、セカンダリプーリ圧が低下した場合に、セカンダリプーリ圧の低下に連動して、前後進切換機構21の前進クラッチ21aまたは後進ブレーキ21bと、副変速機構31のクラッチ31aまたはクラッチ31bを解放する。これによりエンジン1からバリエータ5にトルクが伝達されることを前後進切換機構21によって抑制することができ、かつ駆動輪側からバリエータ5にトルクが伝達されることを副変速機構31によって抑制することができる。そのため、セカンダリプーリ11におけるベルト12の滑りを抑制することができ、セカンダリプーリ11およびベルト12の劣化を抑制することができる(請求項4に対応する効果)。
【0067】
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内でなしうるさまざまな変更、改良が含まれることは言うまでもない。
【0068】
第2実施形態の前後進切換機構21の代わりに、前後進切換機能を有する副変速機構を用いてもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、セカンダリプーリ11の油圧の低下に連動させて、例えば第2バルブ7によって前後進切換機構4などのクラッチ機構を解放させたが、これに限られることはない。プライマリプーリ10の受圧面積がセカンダリプーリ11の受圧面積よりも小さい場合には、プライマリプーリ10の油圧の低下に連動させて、例えば第2バルブ7によって前後進切換機構4などのクラッチ機構を解放してもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、駆動源としてエンジン1を用いた場合について説明したが、エンジン1に限られず、モータを用いた電動車両またはハイブリッド車両に適用してもよい。電動車両の場合には、例えばモータと無段変速機3との間に前後進切換機構などのクラッチ機構を配置する。また、ハイブリッド車両の場合には、例えばエンジン1とモータとの間にクラッチ機構を配置する。
【0071】
また、上記実施形態では、セカンダリプーリ圧の低下に連動させて、第2バルブなどによって前後進切換機構などのクラッチ機構を解放したが、完全に解放せずに、セカンダリプーリ圧が小さくなるほどクラッチ機構の締結力を小さくしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、ベルト12をプライマリプーリ10とセカンダリプーリ11とに巻き回した動力伝達部材として説明したが、これに限られることはなく、複数のリンクをピンで連結したチェーンであってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 エンジン(駆動源)
3、20、30 無段変速機
4、21 前後進切換機構(第1クラッチ機構)
5 バリエータ
6 第1バルブ(第1油圧制御手段)
7 第2バルブ(第2油圧制御手段)
10 プライマリプーリ
11 セカンダリプーリ
12 ベルト(動力伝達部材)
22 第3バルブ(第2油圧制御手段)
31 副変速機構(第2クラッチ機構)
32 第4バルブ(第3油圧制御手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝幅を油圧によって変化させる入力側のプライマリプーリと、溝幅を油圧によって変化させる出力側のセカンダリプーリと、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとに巻き掛けられた動力伝達部材とを有するバリエータと、
前記プライマリプーリまたは前記セカンダリプーリに油を給排する第1油圧制御手段と、
締結することによって駆動輪へ駆動源の動力を伝達し、解放することによって前記駆動輪への前記駆動源の動力の伝達を遮断する第1クラッチ機構と、
前記第1油圧制御手段によって給排する油の一部が導入され、導入される油による圧力が小さくなるほど前記第1クラッチ機構の締結力を小さくする第2油圧制御手段とを備える無段変速機。
【請求項2】
前記第1クラッチ機構は、前記駆動源と前記バリエータとの間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
前記第1クラッチ機構は、前記バリエータと前記駆動輪との間に配置されることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項4】
前記バリエータと前記駆動輪との間に配置され、締結することで前記バリエータと前記駆動輪との間で回転を伝達し、解放することで前記バリエータと前記駆動輪と間の回転伝達を遮断する第2クラッチ機構と、
前記第1油圧制御手段によって給排する油の一部が導入され、導入される油による圧力が小さくなるほど前記第2クラッチ機構の締結力を小さくする第3油圧制御手段とを備えることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項5】
前記第1油圧制御手段は、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとのうち、受圧面積が小さい方のプーリに油を給排することを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の無段変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−197913(P2012−197913A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−63895(P2011−63895)
【出願日】平成23年3月23日(2011.3.23)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】