説明

無線受信装置及び無線受信方法

【課題】発振信号の生成が安定する前に電力が無駄に消費されていた。
【解決手段】無線受信すべき信号を処理するための発振信号の周波数を指定する指定回路と、前記指定された周波数を有する前記発振信号を生成するPLL回路と、前記発振信号が安定しているときに行うべき第1の動作、及び、前記発振信号が安定していないときに行い得る第2の動作であって消費電力が前記第1の動作より小さい前記第2の動作に選択的に切り換わる動作切換回路と、前記PLL回路が前記発振信号の前記周波数の指定を受けたときから当該PLL回路による当該発振信号の生成が安定するまでの期間、前記動作切換回路を前記第2の動作に設定し、前記PLL回路による前記発振信号の生成が安定した後、前記動作切換回路を前記第1の動作に設定する制御回路と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、符号分割多重接続(CDMA:Code Division Multiple Access)方式を用いたスペクトラム拡散通信により基地局から送信される、現時刻を表す時刻情報を含む信号を受信する携帯電話及び携帯端末のような移動局である無線受信装置及び無線受信方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の無線受信装置では、前記基地局から受信したRF帯(Radio Frequency)の信号を当該RF帯からベースバンド帯へ周波数変換すべく、即ち、ダウンコンバートすべく、当該ダウンコンバートに用いる局部発振信号を生成するPLL(Phase Locked Loop)回路を有する。PLL回路は、無線受信装置の電源が投入されて局部発振信号の生成を開始しようとするとき、及び、現在生成している一の周波数を有する一の局部発振信号に代えて、他の周波数を有する他の局部発振信号の生成を開始しようとするとき、当該局部発振信号の生成が安定するまでに時間を要する。
【0003】
【特許文献1】特開平6−85856号公報
【特許文献2】特開2000−175238号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の無線受信装置では、ミキサ、復調回路、復号回路のような、前記局部発振信号が安定化した後に初めて本来の機能を発揮することができる回路は、上記した局部発振信号の生成が安定化した後に初めて又は改めて電源が投入されれば足りるにも拘わらず、前記局部発振信号の生成が安定化する以前に既に電源が投入されていることから、上記の特許文献1、2に記載の課題「低消費電力化」とは対照的に、その間に不要な電力が消費されるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る無線受信装置及び無線受信方法は、上記した課題を解決すべく、基本的に、
無線受信すべき信号を処理するための発振信号の周波数を指定し、
前記指定された周波数を有する前記発振信号を生成し、
前記発振信号が安定しているときに行うべき第1の動作、及び、前記発振信号が安定していないときに行い得る第2の動作であって消費電力が前記第1の動作より小さい前記第2の動作について、前記発振信号の前記周波数の指定を受けたときから当該発振信号の生成が安定するまでの期間、前記第2の動作を取り、前記発振信号の生成が安定した後、前記第1の動作を取ることを特徴とする。
【0006】
上記した本発明に係る無線受信装置及び無線受信方法によれば、前記発振信号が安定する前では、当該発振信号が安定した後に取るべき前記第1の動作より消費電力が小さい前記第2の動作を取ることにより、前記発振信号が安定する前に既に前記第1の動作を取っていた従来に比して、当該発振信号が安定する前における消費電力を低減することが可能となる。
【0007】
上記した本発明に係る無線受信装置及び無線受信方法では、
前記第1の動作は、前記無線受信された信号の処理を協働して行う、低雑音増幅、ミキシング、可変増幅、帯域濾波、A/D変換、復調、及び復号のいずれかであることを特徴とする。
【0008】
上記した本発明に係る無線受信装置及び無線受信方法では、
前記第2の動作のとき、前記消費電力が無いことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る無線受信装置の実施例について図面を参照して説明する。
【0010】
《構成》
図1は、実施例の無線受信装置の構成を示す。実施例の無線受信装置Rは、例えば、携帯電話、携帯端末、腕時計のような移動局であり、基地局(図示せず。)がスペクトラム拡散の下でCDMA方式により送信する信号、例えば、基地局及び移動局間での同期を取るためのパイロット信号PI及び現時刻を示す時刻情報を含むシンク信号SY、換言すれば、異なる拡散符号(図示せず。)による拡散によって同一の周波数帯に重畳された当該パイロット信号PI及びシンク信号SYを受信すべく、図1に示されるように、アンテナ1と、増幅回路2と、ミキサ3と、帯域濾波器4(BPF:Band Pass Filter)と、可変増幅回路5と、A/Dコンバータ6と、ベースバンド処理回路7と、制御回路8と、PLL回路9とを含む。
【0011】
アンテナ1は、例えば、逆Fアンテナのような受動素子からなり、基地局が送信するパイロット信号PI及びシンク信号SYを受信する。
【0012】
増幅回路2は、アンテナ1の後段に設けられており、例えば、電界効果トランジスタ(FET)のような能動素子からなる低雑音増幅回路であり、アンテナ1により受信されたパイロット信号PI及びシンク信号SYを、予め定められた利得(固定された利得)で増幅する。
【0013】
ミキサ3は、増幅回路2の後段に設けられており、例えば、ダイオード及びトランジスタのような能動素子からなり、前記増幅回路2から、増幅されたパイロット信号PI及びシンク信号SYの入力を受け、かつ、PLL回路9から、当該PLL回路9が生成する局部発振信号LOの入力を受け、パイロット信号PI及びシンク信号SYと局部発振信号LOとの乗算により、当該パイロット信号PI及びシンク信号SYをRF帯からベースバンド帯へ周波数変換し、即ち、ダウンコンバートする。
【0014】
帯域濾波器4は、ミキサ3の後段に設けられており、例えば、オペアンプ等を用いたアクティブフィルタであり、当該帯域濾波器4の通過帯域内にある、ベースバンド帯のパイロット信号PI及びシンク信号SYを通過させ、当該通過帯域外にある雑音を通過させず、即ち、遮断する。
【0015】
可変増幅回路5は、帯域濾波器4の後段に設けられており、上記した増幅回路2と同様に、電界効果トランジスタのような能動素子からなり、アンテナ1がパイロット信号PI及びシンク信号SYを受信したときの当該パイロット信号PI及びシンク信号SYの受信レベルに左右されることなく、当該パイロット信号PI及びシンク信号SYを、後段のA/Dコンバータ6の仕様により規定される一定のレベルに合致させるべく、前記パイロット信号PI及びシンク信号SYを、負帰還(図示せず。)の下、当該負帰還により適宜定まる利得で増幅する。
【0016】
A/Dコンバータ6は、可変増幅回路5の後段に設けられており、例えば、オペアンプ及びエンコーダICのような能動素子からなり、入力されるパイロット信号PI及びシンク信号SYにA/D変換を施し、即ち、前記両信号PI、SYをアナログ形式からデジタル形式に変換する。
【0017】
ベースバンド処理回路7は、A/Dコンバータ6の後段に設けられており、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のような集積回路からなり、当該ベースバンド処理回路7に入力されるパイロット信号PI及びシンク信号SYを、復調回路(図示せず。)により復調し、及び、復号回路(図示せず。)により復号することによって、上記したような、基地局及び移動局間における同期の確立、及び、現時刻を表す時刻情報の取り出しを行う。
【0018】
上記した増幅回路2〜ベースバンド処理回路7は、『動作切換回路』であり、前記局部発振信号LOが安定しているときには(安定した後には)、『第1の動作』として、それぞれの回路が行うべき「通常動作」(増幅、ミキシング、濾波、A/D変換、ベースバンド処理)を行い、他方で、前記局部発振信号LOが安定していないときには(安定する前には)、『第2の動作』として、前記第1の動作より消費電力が小さい「低消費電力動作」(ウェイティング動作、スタンバイ動作、第1の動作に近似する低消費電力下での動作(例えば、低利得での増幅、緩慢な帯域特性での濾波、低分解能でのA/D変換、低速でのベースバンド処理)、電力を消費しないための通常動作の完全な停止)を行うことができる。
【0019】
『指定回路』及び『制御回路』として機能する制御回路8は、ベースバンド処理回路7の後段に設けられており、例えば、CPU、ROM、RAM及びプログラム等から構成されるコンピュータ回路からなり、無線受信装置Rの全体の動作を制御し及び監視する。制御回路8は、例えば、パイロット信号PIによる同期の確立に先立ち、PLL回路9に、局部発振信号LOの周波数を指定するための分周数Nを指示し、他方で、同期の確立の後に、PLL回路9から、PLL回路9がロックした旨、即ち、局部発振信号LOの周波数が、制御回路8により指定された分周数Nにより定まる周波数に安定した旨(以下、単に「ロック」という。)を示すロック検出信号SLを受け、当該ロック検出信号SLに応答して、増幅回路2〜ベースバンド処理回路7に、当該増幅回路2〜ベースバンド処理回路7を「低消費電力動作」から「通常の動作」に切り換えるための制御信号SCを出力する。制御回路8は、他方で、ベースバンド処理回路7から受け取るシンク信号SYから現時刻を示す時刻情報を取り出し、時計回路(図示せず。)に、当該時刻情報に基づく時刻合わせを行わせる。
【0020】
『PLL回路』として機能するPLL回路9は、分周器9Aと、基準発振器9Bと、位相比較器9Cと、低域濾波器(LPF:Low Pass Filter)9Dと、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)9Eとを有する。分周器9Aは、制御回路8により指定される分周数Nに基づき、電圧制御発振器9Eが生成する局部発振信号LOを分周する。位相比較器9Cは、分周器9Aから出力される分周信号SDと、基準発振器9Bが生成する基準発振信号SRとの間で位相比較を行い、その結果として、位相差を表わす位相差信号SPを出力する。低域濾波器9Dは、当該位相差信号SPを積分(平滑化)することにより、積分された位相差信号SPである積分位相差信号SIを出力する。電圧制御発振器9Eは、当該積分位相差信号SIに対応する局部発振信号LOを生成し、当該局部発振信号LOをミキサ3及び分周器9Aに出力する。以後、上記したような、分周器9Aによる分周、位相比較器9C、低域濾波器9Dによる平滑化、電圧制御発振器9Eによる局部発振信号LOの生成が巡回的に行われる。
【0021】
《動作》
図2は、実施例の無線受信装置の動作を示すフローチャートであり、図3は、実施例の無線受信装置の動作を示すグラフである。以下、実施例の無線受信装置の動作について、図2のフローチャート及び図3のグラフを参照して説明する。
【0022】
ステップS1:図3に図示の時刻t1で、無線受信装置R全体として電源を投入されておらず、増幅回路2〜ベースバンド処理回路7が「低消費電力動作」にある無線受信装置R自身の電源が投入され、新たに周波数f1を有する局部発振信号LOの生成を開始しようとすると、または、無線受信装置R全体としては電源が投入されているものの、増幅回路2〜ベースバンド処理回路7が「低消費電力動作」にある無線受信装置Rが、既に生成していた周波数f0の局部発振信号LOの生成に代えて、改めて周波数f1の局部発振信号LOの生成を開始しようとすると、制御回路8は、局部発振信号LOの周波数を新たに又は改めて設定すべく、例えば、周波数f1を設定すべく、当該周波数f1に対応する分周数N1をPLL回路9に通知し、即ち、分周数N1を指定する。
【0023】
ステップS2:PLL回路9では、分周器9Aは、制御回路8から分周数N1を受け取ると、電圧制御発振器9Eから出力されている局部発振信号LOを分周数N1で分周することにより、前記局部発振信号LOの1/N1である分周信号SDを出力する。
【0024】
ステップS3:位相比較器9Cは、分周器9Aから出力される分周信号SD及び基準発振器9Bが生成する基準発振信号SR間で位相比較を行い、位相差を示す位相差信号SPを出力する。
【0025】
ステップS4:位相比較器9Cは、また、図3に示されるように、局部発振信号LOの周波数偏移が所定の範囲内に収束し、即ち、局部発振信号LOの周波数が安定したか否かを判断する。
【0026】
ステップS5:局部発振信号LOの生成が安定したか否かに拘わらず、低域濾波器9Dは、位相差信号SPに積分を施すことにより、積分位相差信号SIを出力する。
【0027】
ステップS6:電圧制御発振器9Eは、前記積分位相差信号SIを受けると、当該積分位相差信号SIに従って、局部発振信号LOを生成する。当該局部発振信号LOの入力を受けると、分周器9Aは、上記したステップS2と同様にして、新たに、分周信号SDを出力する。以後、PLL回路9がロックするか否かに拘わらず、ステップS2〜S6を順次行うことを繰り返し、これにより、図3に示されるように、局部発振信号LOの周波数を少しずつ安定化しようとする。
【0028】
ステップS7:局部発振信号LOの周波数が安定した、図3に図示の時刻t2になると、位相比較器9Cは、局部発振信号LOの生成が安定した旨、即ち、PLL回路9が「ロック」した旨を示すロック検出信号SLを制御回路8に出力する。
【0029】
ステップS8:「ロック」の旨を示すロック検出信号SLを受けると、制御回路8は、増幅回路2〜ベースバンド処理回路7に、「低消費電力動作」から「通常動作」への切り換えを指示する制御信号SCを出力することにより、増幅回路2〜ベースバンド処理回路7に「通常動作」を開始させる。これにより、増幅回路2〜ベースバンド処理回路7は、「低消費電力動作」(ウェイティング動作、スタンバイ動作、低消費電力下での第1の動作に近似する動作)に代えて、それぞれが行うべき「通常動作」(増幅、ミキシング、濾波、A/D変換、ベースバンド処理)を開始する。
【0030】
《効果》
上述したように、実施例の無線受信装置Rでは、制御回路8が、PLL回路9による局部発振信号LOの生成が安定する前には、当該局部発振信号LOの生成が安定した後に行うべき「通常動作」より消費電力が少ない「低消費電力動作」を行わせることから、従来の無線受信装置のような、前記局部発振信号LOの生成が安定する前にあっても、増幅回路2〜ベースバンド処理回路7に「通常動作」を行わせていたことに比して、消費電力を低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例の無線受信装置の構成を示す図。
【図2】実施例の無線受信装置の動作を示すフローチャート。
【図3】実施例の無線受信装置の動作を示すグラフ。
【符号の説明】
【0032】
R…無線受信装置、1…アンテナ、2…増幅回路、3…ミキサ、4…帯域濾波器、5…可変増幅回路、6…A/Dコンバータ、7…ベースバンド処理回路、8…制御回路、9…PLL回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線受信すべき信号を処理するための発振信号の周波数を指定する指定回路と、
前記指定された周波数を有する前記発振信号を生成するPLL回路と、
前記発振信号が安定しているときに行うべき第1の動作、及び、前記発振信号が安定していないときに行い得る第2の動作であって消費電力が前記第1の動作より小さい前記第2の動作に選択的に切り換わる動作切換回路と、
前記PLL回路が前記発振信号の前記周波数の指定を受けたときから当該PLL回路による当該発振信号の生成が安定するまでの期間、前記動作切換回路を前記第2の動作に設定し、前記PLL回路による前記発振信号の生成が安定した後、前記動作切換回路を前記第1の動作に設定する制御回路と、を含むことを特徴とする無線受信装置。
【請求項2】
前記動作切換回路は、前記無線受信された信号の処理を協働して行う、低雑音増幅回路、ミキサ、可変増幅回路、帯域濾波器、A/Dコンバータ、復調回路、及び復号回路のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の無線受信装置。
【請求項3】
前記動作切換回路は、前記第2の動作のとき、前記消費電力が無いことを特徴とする請求項1記載の無線受信装置。
【請求項4】
無線受信すべき信号を処理するための発振信号の周波数を指定する指定工程と、
前記指定された周波数を有する前記発振信号を生成する生成工程と、
前記発振信号が安定しているときに行うべき第1の動作、及び、前記発振信号が安定していないときに行い得る第2の動作であって消費電力が前記第1の動作より小さい前記第2の動作に選択的に切り換わる動作切換工程と、
前記発振信号の前記周波数の指定を受けたときから当該発振信号の生成が安定するまでの期間、前記動作切換工程を前記第2の動作に設定し、前記発振信号の生成が安定した後、前記動作切換工程を前記第1の動作に設定する制御工程と、を含むことを特徴とする無線受信方法。
【請求項5】
前記動作切換工程は、前記無線受信すべき信号の処理を協働して行う、低雑音増幅工程、ミキシング工程、可変増幅工程、帯域濾波工程、A/D変換工程、復調工程、及び復号工程のいずかれであることを特徴とする請求項4記載の無線受信方法。
【請求項6】
前記動作切換工程は、前記第2の動作のとき、前記消費電力が無いことを特徴とする請求項4記載の無線受信方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−172663(P2008−172663A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−5467(P2007−5467)
【出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】