説明

熱伝導性シート及びその製造方法

【課題】切断面の表面粗さが小さいので界面での熱抵抗が低くなり、厚み方向の熱伝導性が高いので、各種熱源と放熱部材との間に挟持させて好適に用いられる熱導電性シート及び熱伝導性シートの製造方法の提供。
【解決手段】ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出すことにより、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、前記押出成形物を硬化させて硬化物を得る硬化工程と、前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する切断工程と、を少なくとも含む熱伝導性シートの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の更なる高性能化に伴って、半導体素子の高密度化、及び高実装化が進んでいる。これに伴い、電子機器を構成する電子部品から発熱する熱を更に効率よく放熱することが重要となっている。半導体は効率よく放熱させるために、熱伝導性シートを介して放熱フィン、放熱板等のヒートシンクに取り付けられている。熱伝導性シートとしては、シリコーンに無機物フィラー等の充填剤(熱伝導性フィラー)を分散含有させたものが広く使用されている。
【0003】
このような放熱部材においては、更なる熱伝導性の向上が要求されており、一般的には高熱伝導性を目的としてマトリックス内に配合されている無機物フィラーの充填率を高めることにより対応している。しかし、無機物フィラーの充填率を高めると柔軟性が損なわれたり、無機物フィラーの充填率が高いことから粉落ちが発生するおそれがあるため、無機物フィラーの充填率を高める方法には限界がある。
【0004】
前記無機物フィラーとしては、例えばアルミナ、窒化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられる。更に高熱伝導率を目的として窒化ホウ素(BN)、黒鉛等の鱗片状粒子、炭素繊維などをマトリックス内に充填させる場合がある。これは、鱗片状粒子などの有する熱伝導率の異方性によるものである。例えば、炭素繊維の場合、繊維方向には約600W/m・K〜1,200W/m・Kの熱伝導率を有している。窒化ホウ素の場合には、面方向では約110W/m・K、面方向に対して垂直な方向では約2W/m・K程度であり、異方性を有することが知られている。
【0005】
このように、炭素繊維、鱗片状粒子の面方向を熱の伝達方向であるシートの厚み方向と同じにする。即ち、炭素繊維、鱗片状粒子をシートの厚み方向に配向させることによって、熱伝導性を飛躍的に向上させることができる。しかし、成形後、硬化させた硬化物を所望の厚みにスライスする際に、柔軟性のある硬化物を変形させながらスライスするため、シート表面の凹凸部が大きくなり、該凹凸部にエアーを巻き込んでしまい、優れた熱伝導性が活かされないという課題があった。
前記課題を解決するため、例えば特許文献1には、シートの縦方向に対して垂直な方向に等間隔に並べた刃によって打ち抜き、スライスしてなる熱伝導性ゴムシートについて提案されている。また、特許文献2には、塗布と硬化を繰り返して積層させてなる積層体を、円形回転刃を有する切断装置でスライスすることにより、所定の厚さの熱伝導性シートが得られることが提案されている。また、特許文献3には、異方性黒鉛粒子を含む黒鉛層を2層以上積層した積層体を、メタルソーを用いて、膨張黒鉛シートが得られるシートの厚み方向に対して0°で配向するように(積層された面に対して90°の角度で)切断することが提案されている。
しかしながら、これらの提案の切断方法では、切断面の表面粗さが大きくなってしまい、界面での熱抵抗が大きくなり、厚み方向の熱伝導性が低下してしまうという問題がある。
【0006】
したがって、切断面の表面粗さが小さいので界面での熱抵抗が低くなり、厚み方向の熱伝導性が高く、各種熱源(例えばCPU、トランジスタ、LED等の各種デバイス)と放熱部材との間に挟持させて好適に用いられる熱導電性シート及び熱伝導性シートの製造方法の提供が望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−56299号公報
【特許文献2】特開2010−50240号公報
【特許文献3】特開2009−55021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、切断面の表面粗さが小さいので界面での熱抵抗が低くなり、厚み方向の熱伝導性が高いので、各種熱源と放熱部材との間に挟持させて好適に用いられる熱導電性シート及び熱伝導性シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。即ち、異方性熱伝導性フィラー及び充填剤を含有してなる熱伝導性組成物を、複数のスリットを通過させることで熱伝導性組成物内に配合された異方性熱伝導性フィラーを熱伝導性シートの厚み方向に配向させ、異方性熱伝導性フィラーの配向状態を乱すことなく成形させた後、型出口よりブロック体として押出し成形する。そして、得られた成形体を硬化させた後、硬化物を押出し方向に対し垂直方向に超音波カッターで所定の厚みに切断することにより、切断面の表面粗さが小さいので界面での熱抵抗が低くなり、厚み方向の熱伝導性が高くなり、各種熱源(例えばCPU、トランジスタ、LED等の各種デバイス)と放熱部材との間に挟持させて好適に用いられる熱伝導性シートが得られることを知見した。
また、前記熱伝導性組成物の硬化物を超音波カッターで所定の厚みに切断する際に、前記超音波カッターで切断される前記硬化物(熱伝導性シート)の厚み方向に対して前記異方性熱伝導性フィラーが5°〜45°の角度に配向するように前記硬化物を配置して切断することで、半導体素子とヒートシンクの間に貼り付けて荷重を加えた時に、角度を付けたことによって異方性熱伝導性フィラーが倒れ易くなり(熱伝導性シート内で異方性熱伝導性フィラーがスライドし易くなり)、熱抵抗の上昇を抑えながら圧縮率の向上を図れることを知見した。
【0010】
本発明は、本発明者による前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、
前記押出成形物を硬化させて硬化物とする硬化工程と、
前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する切断工程と、を少なくとも含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法である。
<2> ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、
前記押出成形物を硬化させて硬化物とする硬化工程と、
前記硬化物を超音波カッターで所定の厚みに切断する際に、前記超音波カッターで切断される前記硬化物の厚み方向に対して前記異方性熱伝導性フィラーが5°〜45°の角度に配向するように前記硬化物を配置して切断する切断工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法である。
<3> 異方性熱伝導性フィラーの平均繊維長が100μm以上である前記<1>から<2>のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法である。
<4> 異方性熱伝導性フィラーが、炭素繊維である前記<1>から<3>のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法である。
<5> 異方性熱伝導性フィラーの熱伝導性組成物中の含有量が、16体積%〜25体積%である前記<1>から<4>のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法である。
<6> 充填剤の平均粒子径が1μm〜40μmである前記<1>から<5>のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法である。
<7> 充填剤が、球形状のアルミナ粒子である前記<1>から<6>のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法である。
<8> ポリマーがシリコーン樹脂である前記<1>から<7>のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法である。
<9> 前記<1>から<8>のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法により製造されたことを特徴とする熱伝導性シートである。
<10> 熱伝導性シートにおける外周部の微粘着性が、熱伝導性シートにおける内部の微粘着性よりも高い前記<9>に記載の熱伝導性シートである。
<11> 熱伝導性シートの切断面の表面粗さRaが9.9μm以下である前記<9>から<10>のいずれかに記載の熱伝導性シートである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、切断面の表面粗さが小さいので界面での熱抵抗が低くなり、厚み方向の熱伝導性が高く、各種熱源と放熱部材との間に挟持させて好適に用いられる熱導電性シート及び熱伝導性シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の熱伝導性シートの製造方法の流れ示す模式図である。
【図2】図2は、押出成形工程における異方性熱伝導性フィラーの配向状態を説明するための説明図である。
【図3】図3は、実施例1のシリコーン硬化物を超音波カッターで切断した状態を示す写真である。
【図4A】図4Aは、実施例1の熱伝導性シートを超音波カッターで切断した切断面における表面の電子顕微鏡写真である。
【図4B】図4Bは、実施例1の熱伝導性シートを超音波カッターで切断した切断面の電子顕微鏡写真である。
【図4C】図4Cは、実施例1の熱伝導性シートを超音波カッターで切断した切断面における三次元グラフィック図である。
【図5A】図5Aは、比較例1の熱伝導性シートを市販のカッターナイフで切断した切断面における表面の電子顕微鏡写真である。
【図5B】図5Bは、比較例1の熱伝導性シートを市販のカッターナイフで切断した切断面の電子顕微鏡写真である。
【図5C】図5Cは、比較例1の熱伝導性シートを市販のカッターナイフで切断した切断面における三次元グラフィック図である。
【図6】図6は、市販のカッターナイフと超音波カッターで厚みを変えて切断した時の熱抵抗との関係を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例1の熱伝導性シートの厚み方向の断面写真である。
【図8】図8は、特開2003−200437号公報に記載の実施例1に準拠した熱伝導性シートの厚み方向の断面写真である。
【図9】図9は、硬化物の押出し方向(長さ方向)と超音波カッターの刃とのなす角度を説明するための図である。
【図10】図10は、実施例16における荷重1kgf/cmでの熱伝導性シートの厚み方向に対する炭素繊維の角度と熱抵抗及び圧縮率との関係を示すグラフである。
【図11】図11は、実施例16における荷重2kgf/cmでの熱伝導性シートの厚み方向に対する炭素繊維の角度と熱抵抗及び圧縮率との関係を示すグラフである。
【図12】図12は、実施例16における荷重3kgf/cmでの熱伝導性シートの厚み方向に対する炭素繊維の角度と熱抵抗及び圧縮率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(熱伝導性シート及び熱伝導性シートの製造方法)
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、押出成形工程と、硬化工程と、切断工程とを少なくとも含み、更に必要に応じてその他の工程を含んでなる。
本発明の熱伝導性シートは、本発明の前記熱伝導性シートの製造方法により製造される。
以下、本発明の熱伝導性シートの製造方法の説明を通じて、本発明の熱伝導性シートの詳細についても明らかにする。
【0014】
ここで、本発明の熱伝導性シートの製造方法は、図1に示すように、押出し、成形、硬化、切断(スライス)などの一連の工程を経て製造される。
図1に示すように、まず、ポリマー、異方性熱伝導性フィラー及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を調製する。次に、調製した熱伝導性組成物を押し出し成形する際に、複数のスリットを通過させることで熱伝導性組成物中に配合された異方性熱伝導性フィラーを熱伝導性シートの厚み方向に配向させる。次に、得られた成形体を硬化させた後、硬化物を前記押出し方向に対し垂直方向に超音波カッターで所定の厚みに切断することにより、切断面の表面粗さが小さいので界面での熱抵抗が低くなり、シートの厚み方向の熱伝導性が高い熱伝導性シートが作製できる。
また、得られた成形体を硬化させた硬化物を、図9に示すように、前記硬化物の押出し方向が超音波カッターの刃に対して所定の角度となるように配置(図9では0°、45°、90°に配置)し、所定の厚みに切断することにより、半導体素子とヒートシンクの間に貼り付けて荷重を加えた時に、角度を付けたことで異方性熱伝導性フィラーが倒れ易くなり(熱伝導性シート内で異方性熱伝導性フィラーがスライドし易くなり)、熱抵抗の上昇を抑えながら圧縮率が向上した熱伝導性シートが作製できる。なお、硬化物の押出し方向(長さ方向)と超音波カッターの刃とのなす角度は、熱伝導性シートの厚み方向に対する異方性熱伝導性フィラーの配向角度と同じになる。
【0015】
<押出成形工程>
前記押出成形工程は、ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する工程である。
【0016】
−ポリマー−
前記ポリマーとしては、特に制限はなく、熱伝導性シートに要求される性能に応じて適宜選択することができ、例えば熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーが挙げられる。
【0017】
前記熱可塑性ポリマーとしては、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、又はこれらのポリマーアロイなどが挙げられる。
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−α−オレフィン共重合体;ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸又はそのエステル、ポリアクリル酸又はそのエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、アイオノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
前記熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体又はその水添ポリマー、スチレン−イソプレンブロック共重合体又はその水添ポリマー等のスチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0019】
前記熱硬化性ポリマーとしては、例えば架橋ゴム、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン、ポリイミドシリコーン、熱硬化型ポリフェニレンエーテル、熱硬化型変性ポリフェニレンエーテルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記架橋ゴムとしては、例えば天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレンプロピレンゴム、塩素化ポリエチレン、クロロスルホン化ポリエチレン、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、ポリイソブチレンゴム、シリコーンゴムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0021】
これらの中でも、成形加工性、耐候性に優れると共に、電子部品に対する密着性及び追従性の点から、シリコーン樹脂が特に好ましい。
【0022】
前記シリコーン樹脂としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば付加反応型液状シリコーンゴム、過酸化物を加硫に用いる熱加硫型ミラブルタイプのシリコーンゴムなどが挙げられる。これらの中でも、電子機器の放熱部材としては、電子部品の発熱面とヒートシンク面との密着性が要求されるため、付加反応型液状シリコーンゴムが特に好ましい。
【0023】
−異方性熱伝導性フィラー−
前記異方性熱伝導性フィラーの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば鱗片状、板状、円柱状、角柱状、楕円状、扁平形状などが挙げられる。これらの中でも、異方性熱伝導性の点で扁平形状が特に好ましい。
前記異方性を有するフィラーとしては、例えば窒化ホウ素(BN)粉末、黒鉛、炭素繊維などが挙げられる。これらの中でも、異方性熱伝導性の点で炭素繊維が特に好ましい。
前記炭素繊維としては、例えばピッチ系、PAN系、アーク放電法、レーザー蒸発法、CVD法(化学気相成長法)、CCVD法(触媒化学気相成長法)等で合成されたものを用いることができる。これらの中でも、熱伝導性の点からピッチ系炭素繊維が特に好ましい。
前記炭素繊維は、必要に応じて、その一部又は全部を表面処理して用いることができる。前記表面処理としては、例えば、酸化処理、窒化処理、ニトロ化、スルホン化、あるいはこれらの処理によって表面に導入された官能基若しくは炭素繊維の表面に、金属、金属化合物、有機化合物等を付着あるいは結合させる処理などが挙げられる。前記官能基としては、例えば水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基などが挙げられる。
【0024】
前記炭素繊維の平均長軸長さ(平均繊維長)は100μm以上が好ましく、120μm〜6mmがより好ましい。前記平均長軸長さが、100μm未満であると、異方性熱伝導性が十分に得られないことがあり、熱抵抗が高くなってしまうことがある。
前記炭素繊維の平均短軸長さは、6μm〜15μmが好ましく、8μm〜13μmがより好ましい。
前記炭素繊維は、アスペクト比(平均長軸長さ/平均短軸長さ)が8以上が好ましく、12〜30がより好ましい。前記アスペクト比が、8未満であると、炭素繊維の繊維長(長軸長さ)が短いため、熱伝導率が低下してしまうことがある。
ここで、前記炭素繊維の平均長軸長さ、及び平均短軸長さは、例えばマイクロスコープ、走査型電子顕微鏡(SEM)などにより測定することができる。
【0025】
前記異方性熱伝導性フィラーの前記熱伝導性組成物中の含有量は、15体積%〜26体積%が好ましい。前記含有量が、15体積%未満であると、成形体に十分な熱伝導性を付与することができないことがあり、26体積%を超えると、成形性及び配向性に影響を与えてしまうことがある。
【0026】
−充填剤−
前記充填剤としては、その形状、材質、平均粒径などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。前記形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば球状、楕円球状、塊状、粒状、扁平状、針状などが挙げられる。これらの中でも、球状、楕円形状が充填性の点から好ましく、球状が特に好ましい。
前記充填剤の材質としては、例えば窒化アルミニウム、シリカ、アルミナ、窒化ホウ素、チタニア、ガラス、酸化亜鉛、炭化ケイ素、ケイ素(シリコン)、酸化珪素、酸化アルミニウム、金属粒子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化亜鉛、シリカが好ましく、熱伝導率の点からアルミナ、窒化アルミニウムが特に好ましい。
なお、前記充填剤は、表面処理を施してもよい。前記表面処理としてカップリング剤で処理すると分散性が向上し、熱伝導性シートの柔軟性が向上する。また、スライスにより得られた表面粗さをより小さくできる。
前記充填剤の平均粒子径は、1μm〜40μmが好ましく、1μm〜20μmがより好ましい。前記平均粒子径が、1μm未満であると、硬化不良の原因となることがあり、40μmを超えると、炭素繊維の配向を阻害して硬化物の熱伝導率が低くなる場合がある。
前記充填剤の平均粒子径は、例えば粒度分布計、走査型電子顕微鏡(SEM)により測定することができる。
【0027】
前記充填剤の前記熱伝導性組成物中の含有量は、40体積%〜60体積%が好ましい。
【0028】
前記熱伝導性組成物には、更に必要に応じて、例えば溶剤、チキソトロピー性付与剤、分散剤、硬化剤、硬化促進剤、遅延剤、微粘着付与剤、可塑剤、難燃剤、酸化防止剤、安定剤、着色剤等のその他の成分を配合することができる。
【0029】
前記熱伝導性組成物は、前記ポリマー、前記異方性熱伝導性フィラー、及び前記充填剤、更に必要に応じて前記その他の成分を、ミキサー等を用いて混合することにより調製することができる。
【0030】
次に、前記熱伝導性組成物をポンプ、押出機等を用いて、型内に押出し成形する。押出機の押出口には複数のスリットが設けられており、これにより、異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に配向される。
前記スリットの形状、大きさとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記スリットの形状としては、例えば平板状、格子状、ハニカム状などが挙げられる。前記スリットの大きさ(幅)としては、0.5mm〜10mmが好ましい。
前記熱伝導性組成物の押出し速度は、0.001L/min以上が好ましい。
前記型としては、形状、大きさ、材質などについては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、前記形状としては、中空円柱状、中空角柱状などが挙げられる。前記大きさとしては、作製する熱伝導性シートの大きさに応じて適宜選定することができる。前記材質としては、例えばステンレスなどが挙げられる。
【0031】
前記熱伝導性組成物が押出機等を通過する過程において、異方性熱伝導性フィラー、充填剤などは熱伝導性組成物の中心方向に集められ、表面及び中心とでは異方性熱伝導性フィラー、充填剤の密度が異なる。即ち、押出機を通過した熱伝導性組成物(成形体)の表面には、熱伝導性フィラー、異方性熱伝導性フィラーが表面に突出していないので、熱伝導性組成物(成形体)を硬化した硬化物の表面部(熱伝導性シートにおける外周部)が良好な微粘着性を備え、被着体(半導体装置等)への接着性が良好となる。一方、熱源又は放熱側と接する面は、異方性熱伝導性フィラーが突出しているので微粘着性が低下する。
また、図2に示すように、異方性熱伝導性フィラー、及び球状の充填剤を含む熱伝導性組成物を押出し成形することで、繊維状の異方性熱伝導性フィラーを押出し方向に配向させることができる。
ここで、前記微粘着性とは、経時及び湿熱による接着力上昇が少ない再剥離性を持ち、被着体に貼った場合に簡単に位置がずれない程度の粘着性を有することを意味する。
【0032】
<硬化工程>
前記硬化工程は、前記押出成形物を硬化させて硬化物とする工程である。
前記押出成形工程で成形された成形体は、用いる樹脂に応じて適切な硬化反応により完成された硬化物を得ることができる。
前記押出成形物の硬化方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリマーとしてシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂を用いた場合には、加熱により硬化させることが好ましい。
前記加熱に用いる装置としては、例えば遠赤外炉、熱風炉などが挙げられる。
前記加熱温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば40℃〜150℃で行うことが好ましい
前記シリコーン樹脂が硬化したシリコーン硬化物の柔軟性は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えばシリコーンの架橋密度、熱伝導性フィラーの充填量などによって調整することができる。
【0033】
<切断工程>
前記切断工程は、第1の形態では、前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する工程である。
前記切断工程は、第2の形態では、前記硬化物を超音波カッターで所定の厚みに切断する際に、前記超音波カッターで切断される前記硬化物の厚み方向に対して前記異方性熱伝導性フィラーが5°〜45°の角度に配向するように前記硬化物を配置して切断する工程である。
なお、超音波カッターは固定されており、超音波カッターの刃の位置は不変である。
【0034】
前記超音波カッターによって所定の厚みに切断される硬化物(熱伝導性シート)の厚み方向と異方性熱伝導性フィラーとのなす角度は、5°〜45°であり、5°〜30°が好ましい。前記なす角度が、5°未満であると、圧縮率が0°の場合と変わらず、45°を超えると、熱抵抗値が上昇することがある。
前記なす角度は、例えば電子顕微鏡により、測定することができる。
【0035】
前記切断は、超音波カッターを用いて行われる。前記超音波カッターでは、発信周波数と振幅を調節することができ、発信周波数は10kHz〜100kHz、振幅は10μm〜100μmの範囲で調節することが好ましい。前記切断を超音波カッターではなく、カッターナイフ、ミートスライサー(回転刃)で行うと、切断面の表面粗さRaが大きくなり、熱抵抗が大きくなってしまう。
【0036】
前記第1の形態の切断工程によると、硬化反応が完了した硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断することにより、異方性熱導電性フィラー(例えば炭素繊維、鱗片状粒子)が熱伝導性シートの厚み方向に配向(垂直配向)した熱伝導性シートを得ることができる。
前記第2の形態の切断工程によると、前記硬化物を超音波カッターで所定の厚みに切断する際に、前記超音波カッターで切断される前記硬化物(熱伝導性シート)の厚み方向に対して前記異方性熱伝導性フィラーが5°〜45°の角度に配向するように前記硬化物を配置して切断することにより、熱伝導性シート内の異方性熱伝導性フィラーが倒れ易くなり(熱伝導性シート内で異方性熱伝導性フィラーがスライドし易くなり)、熱抵抗の上昇を抑えながら圧縮率の向上が図れる。
【0037】
前記熱伝導性シートの厚みは、0.1mm以上が好ましい。前記厚みが、0.1mm未満であると、硬化物の硬さによってはスライス時に形状を維持できなくなることがある。厚みが厚いシートに磁場をかけて異方性熱導電性フィラーを配向させることには限界があるが、本発明の熱伝導性シートの製造方法ではシート厚みに制限がないという利点がある。
本発明の熱伝導性シートは、前記異方性熱導電性フィラー(例えば炭素繊維、鱗片状粒子)の前記熱伝導性シートの厚み方向に対する配向角度は、0°〜45°が好ましく、0°〜30°がより好ましい。
前記炭素繊維の配向角度は、例えば熱伝導性シートの断面をマイクロスコープにより観察することで測定することができる。
【0038】
本発明の熱伝導性シートの製造方法により製造された熱伝導性シートは、切断後の切断面の表面粗さRaは9.9μm以下が好ましく、9.5μm以下がより好ましい。前記表面粗さRaが、9.9μmを超えると、表面粗さが増して熱抵抗が大きくなることがある。
前記表面粗さRaは、例えばレーザー顕微鏡により測定することができる。
【0039】
本発明の熱伝導性シートは、各種熱源(例えばCPU、トランジスタ、LED等の各種デバイス)と放熱部材との間に挟持させて用いられるので、安全上難燃性を有していることが好ましく、UL−94規格で「V−0」以上の難燃性を有することが好ましい。
【0040】
−用途−
本発明の熱伝導性シートは、切断面の表面粗さが小さく、界面での熱抵抗が低くなり、厚み方向の熱伝導性が高いので、各種熱源(例えばCPU、トランジスタ、LED等の各種デバイス)と放熱部材との間に挟持させて好適に用いられ、例えば温度によって素子動作の効率、寿命等に悪影響が出るCPU、MPU、パワートランジスタ、LED、レーザーダイオード、各種電池(リチウムイオン電池等の各種二次電池、各種燃料電池、キャパシタ、アモルファスシリコン、結晶シリコン、化合物半導体、湿式太陽電池等の各種太陽電池など)等の各種の電気デバイス周り、熱の有効利用が求められる暖房機器の熱源周り、熱交換器、床暖房装置の熱配管周りなどに好適に用いられる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、アルミナ粒子及び窒化アルミニウムの平均粒子径は粒度分布計により測定した値である。また、ピッチ系炭素繊維の平均長軸長さ及び平均短軸長さは、マイクロスコープ(HiROX Co Ltd製、KH7700)で測定した値である。
【0042】
(実施例1)
−熱伝導性シートの作製−
シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)18.8体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)18.8体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)42.3体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)20.1体積%とを分散させて、シリコーン樹脂組成物を調製した。
得られたシリコーン樹脂組成物を押出機で型(中空円柱状)の中に押出成形し、シリコーン成形体を作製した。押出機の押出口にはスリット(吐出口形状:平板)が形成されている。
得られたシリコーン成形体をオーブンにて100℃で1時間加熱して、シリコーン硬化物とした。
得られたシリコーン硬化物を、厚みが0.5mmとなるように超音波カッターでスライス切断した(図3参照、発信周波数20.5kHz、振幅50〜70μm)。以上により、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例1の熱伝導性シートを作製した。
得られた熱伝導性シートは、その断面をマイクロスコープ(HiROX Co Ltd製、KH7700)で観察したところ、ピッチ系炭素繊維が熱伝導性シートの厚み方向に対し0度〜5度に配向していた。
【0043】
(実施例2)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)を、アルミナ粒子(平均粒子径5μm、アルミナDAW05、球状、電気化学工業株式会社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例2の熱伝導性シートを作製した。
【0044】
(実施例3)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)を、アルミナ粒子(平均粒子径10μm、アルミナDAW10、球状、電気化学工業株式会社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例3の熱伝導性シートを作製した。
【0045】
(実施例4)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)17.8体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)17.8体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)41.0体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)23.4体積%とを分散して、シリコーン樹脂組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例4の熱伝導性シートを作製した。
【0046】
(実施例5)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)17.6体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)17.6体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、電気化学工業株式会社製)40.5体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)24.3体積%とを分散して、シリコーン樹脂組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例5の熱伝導性シートを作製した。
【0047】
(実施例6)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)19.5体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)19.5体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)45.0体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)16.0体積%とを分散して、シリコーン樹脂組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例6の熱伝導性シートを作製した。
【0048】
(実施例7)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)18.9体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)18.9体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)43.6体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)18.6体積%とを分散して、シリコーン樹脂組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例7の熱伝導性シートを作製した。
【0049】
(実施例8)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、作製した熱伝導性シートの外周部を市販のカッターナイフによりカットした以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦14mm、横14mmの正方形状の実施例8の熱伝導性シートを作製した。
【0050】
(実施例9)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)を、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ100μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A401、帝人株式会社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例9の熱伝導性シートを作製した。
【0051】
(実施例10)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)を、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ50μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A201、帝人株式会社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例10の熱伝導性シートを作製した。
【0052】
(実施例11)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、シリコーンA液(ビニル基を有するオルガノポリシロキサン)17.3体積%と、シリコーンB液(H−Si基を有するオルガノポリシロキサン)17.3体積%とを混合した二液性の付加反応型液状シリコーン樹脂に、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)39.9体積%と、ピッチ系炭素繊維(平均長軸長さ150μm、平均短軸長さ8μm、ラヒーマR−A301、帝人株式会社製)25.5体積%とを分散して、シリコーン樹脂組成物を調製した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例11の熱伝導性シートを作製した。
【0053】
(実施例12)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)を、アルミナ粒子(平均粒子径45μm、アルミナDAW45、球状、電気化学工業株式会社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例12の熱伝導性シートを作製した。
【0054】
(実施例13)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)42.3質量部を、アルミナ粒子(平均粒子径3μm、アルミナDAW03、球状、電気化学工業株式会社製)25質量部と、窒化アルミニウム(トクヤマ社製、平均粒子径1μm)17.3質量部に変えた以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の実施例13の熱伝導性シートを作製した。
【0055】
(比較例1)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、作製したシリコーン硬化物を、厚みが0.5mmとなるように市販のカッターナイフでスライス切断した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の比較例1の熱伝導性シートを作製した。
【0056】
ここで、実施例1の熱伝導性シートの切断面の表面の電子顕微鏡写真を図4A、断面の電子顕微鏡写真を図4B、三次元グラフィック図を図4Cにそれぞれ示す。
また、比較例1の熱伝導性シートの切断面の表面の電子顕微鏡写真を図5A、断面の電子顕微鏡写真を図5B、三次元グラフィック図を図5Cにそれぞれ示す。
実施例1のように超音波カッターでスライス切断すると、比較例1のように市販のカッターナイフでスライス切断した場合よりも、表面粗さが小さくなり、熱抵抗が小さくなることが分かった。
【0057】
(比較例2)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、作製したシリコーン硬化物を、厚みが0.5mmとなるようにミートスライサー(回転刃)(レマコム電動式スライサーRSL−A19)でスライス切断した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の比較例2の熱伝導性シートを作製した。
【0058】
(比較例3)
−熱伝導性シートの作製−
実施例1において、得られたシリコーン樹脂組成物を積層塗布して、シリコーン積層物を作製し、このシリコーン積層物をオーブンにて100℃で1時間加熱して、シリコーン硬化物を作製し、得られたシリコーン硬化物を、厚みが0.5mmとなるように超音波カッターでスライス切断した以外は、実施例1と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の比較例3の熱伝導性シートを作製した。
【0059】
(比較例4)
−熱伝導性シートの作製−
比較例3において、得られたシリコーン積層物を、超音波カッターの代わりに市販のカッターナイフを用いてスライス切断した以外は、比較例3と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の比較例4の熱伝導性シートを作製した。
【0060】
(比較例5)
−熱伝導性シートの作製−
比較例3において、得られたシリコーン積層物を、超音波カッターの代わりにミートスライサー(回転刃)(レマコム電動式スライサーRSL−A19)を用いてスライス切断した以外は、比較例3と同様にして、厚み0.5mm、縦15mm、横15mmの正方形状の比較例5の熱伝導性シートを作製した。
【0061】
次に、実施例1〜13及び比較例1〜5の熱伝導性シートについて、以下のようにして、諸特性を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
<難燃性>
各熱伝導性シートについて、UL−94規格に準拠した難燃試験を行い、難燃性を評価した。
即ち、UL94で示される試験片を作製し、得られた試験片について、UL94Vの垂直燃焼試験方法に基づき、燃焼試験を行った。なお、燃焼時間は2回着火の和で、試験片5片の平均である。得られた結果を、以下の基準に従って、UL94 「V−0」、「V−1」、及び「V−2」のいずれかの等級に評価した。なお、これらのいずれも満たさないものは、「不合格」とした。
得られた試験片について、UL94Vの垂直燃焼試験方法に基づき、燃焼試験を行った。なお、燃焼時間は2回着火の和で、試験片5片の平均である。得られた結果を、以下の基準に従って、UL94 「V−0」、「V−1」、及び「V−2」のいずれかの等級に評価した。なお、これらのいずれも満たさないものは、「不合格」とした。
〔評価基準〕
「V−0」:点火炎を取り除いた後の平均燃焼時間が10秒間以下、かつ全試料とも脱脂綿に着火する微粒炎を落下しない。
「V−1」:点火炎を取り除いた後の平均燃焼時間が30秒間以下、かつ全試料とも脱脂綿に着火する微粒炎を落下しない。
「V−2」:点火炎を取り除いた後の平均燃焼時間が30秒間以下、かつ脱脂綿に着火する微粒炎を落下する。
【0063】
<表面粗さRa>
各熱伝導性シートの表面粗さRaをレーザー顕微鏡にて測定した。
【0064】
<外周部の微粘着性>
プラスチック板上に炭素繊維の配向方向と垂直に各熱伝導性シートを置き、外周部の微粘着性を確認した。
【0065】
<初期の厚み(切断直後の厚み)>
各熱伝導性シートの初期の厚みは、熱伝導測定装置(ソニー株式会社製)を用いて測定した。
【0066】
<熱抵抗>
各熱伝導性シートの熱抵抗は、ASTM D 5470に準拠して、熱伝導率測定装置(ソニー株式会社製)を用い、荷重1kgf/cmをかけて測定した。
【0067】
<スリット間又は積層面での剥離>
各熱伝導性シートについて、スリット間又は積層面での剥離の有無を目視により確認した。
【0068】
【表1−1】

【表1−2】

【表1−3】

【表1−4】

【0069】
表1の結果から、実施例1〜13のように超音波カッターを用いてスライス切断した場合には、比較例1のように市販のカッターナイフを用いてスライス切断した場合に比べて熱抵抗が低くなり、良好な熱伝導性を示すことが分かった。
実施例9は、実施例1に比べて、ピッチ系炭素繊維の繊維長が短いので熱抵抗がやや大きくなった。
実施例10は、実施例1に比べて、ピッチ系炭素繊維の繊維長が短いので熱抵抗がやや大きくなった。
実施例11は、実施例1に比べて、ピッチ系炭素繊維の充填量が多く、ピッチ系炭素繊維の分散がやや悪いためスリット通過後も界面がやや剥離したままであった。
実施例12は、実施例1に比べて、アルミナの平均粒子径が大きく、ピッチ系炭素繊維の配向が乱れたため、熱抵抗がやや大きくなった。
比較例1は、実施例1に比べて、市販のカッターナイフでスライス切断したため、表面の凹凸が大きくなり熱抵抗が大きくなった。
比較例2は、実施例1に比べて、ミートスライサー(回転刃)でスライス切断したため、表面の凹凸が大きくなり熱抵抗が大きくなった。
比較例3は、実施例1に比べて、積層塗布物であったため荷重をかけた際に界面での剥離が起こった。また、積層塗布物は型に押出さないので外周は微粘着性を有しなかった。
比較例4は、実施例1に比べて、積層塗布物であったため荷重をかけた際に界面での剥離が起こった。また、積層塗布物は型に押出さないので外周は微粘着性を有しなかった。更に、市販のカッターナイフでスライス切断したため、表面の凹凸が大きくなり熱抵抗が大きくなった。
比較例5は、実施例1に比べて、積層塗布物であったため荷重をかけた際に界面での剥離が起こった。また、積層塗布物は型に押出さないので外周は微粘着性を有しなかった。更に、ミートスライサー(回転刃)でスライス切断したため、表面の凹凸が大きくなり熱抵抗が大きくなった。
【0070】
(実施例14)
実施例1において、シリコーン硬化物を、厚みが1.0mmとなるように超音波カッターでスライス切断した以外は、実施例1と同様にして、実施例14の熱伝導性シートを作製した。
得られた熱伝導性シートに荷重1kgf/cmをかけて測定した時の厚みは0.9mmとなった。
【0071】
(実施例15)
実施例1において、シリコーン硬化物を、厚みが1.5mmとなるように超音波カッターでスライス切断した以外は、実施例1と同様にして、実施例15の熱伝導性シートを作製した。
得られた熱伝導性シートに荷重1kgf/cmをかけて測定した時の厚みは1.4mmとなった。
【0072】
(比較例6)
比較例1において、シリコーン硬化物を、厚みが1.0mmとなるように市販のカッターナイフでスライス切断した以外は、比較例1と同様にして、比較例6の熱伝導性シートを作製した。
得られた熱伝導性シートに荷重1kgf/cmをかけて測定した時の厚みは0.9mmとなった。
【0073】
(比較例7)
比較例1において、シリコーン硬化物を、厚みが1.5mmとなるように市販のカッターナイフでスライス切断した以外は、比較例1と同様にして、比較例7の熱伝導性シートを作製した。
得られた熱伝導性シートに荷重1kgf/cmをかけて測定した時の厚みは1.4mmとなった。
【0074】
次に、実施例1、実施例14〜15、比較例1、及び比較例6〜7について、荷重1kgf/cmをかけて、実施例1及び比較例1と同様にして、熱伝導性シートの熱抵抗を測定した。なお、実施例1及び比較例1の熱伝導性シート(切断直後の厚み0.5mm)に荷重1kgf/cmをかけて測定した時の厚みは0.4mmとなった。結果を図6に示す。
図6の結果から、超音波カッターを使用した実施例1、実施例14〜15は、市販のカッターナイフを使用した比較例1、比較例6〜7に比べて、シートの厚みにかかわらず熱抵抗が低くなり、良好な熱伝導性を示すことが分かった。
【0075】
(比較例8)
特開2003−200437号公報に記載の実施例1と同様にして、常温で磁場を印加して、シランカップリング剤で表面処理を施した黒鉛化炭素繊維を一定方向に磁場配向させた後、熱硬化して厚み2mmの比較例8の熱伝導性シートを作製した。
【0076】
得られた比較例8の熱伝導性シートの厚み方向の断面の顕微鏡写真(200倍)を図8に示す。また、実施例1の熱伝導性シートの厚み方向の断面の顕微鏡写真(200倍)を図7に示す。
図7及び図8の結果から、比較例8では、図8に示すように、炭素繊維がすべてシートの厚み方向(垂直方向)に配向しているので、シートを曲げると折れやすい(割れやすい)という問題があった。これに対し、実施例1では、図7に示すように、押出し法でシートを製造すると、炭素繊維がシートの厚み方向(垂直方向)に配向していない部分もあるので、シートを曲げても折れにくかった(割れにくかった)。
【0077】
(実施例16)
実施例1と同じシリコーン樹脂組成物で作製したシリコーン硬化物を、厚みが0.8mmとなるように超音波カッターでスライス(発信周波数20.5kHz、振幅50〜70μm)して、熱伝導性シートを作製した。このとき、表2に示すように、超音波カッターによって切断されたシリコーン硬化物(熱伝導性シート)の厚み方向と異方性熱伝導性フィラー(炭素繊維)とのなす角度を0°〜90°まで段階的に変えてシリコーン硬化物を配置して、超音波スライスし、試料No.1〜No.9の熱伝導性シートを作製した。
得られた試料No.1〜No.9の熱伝導性シートについて、荷重1kgf/cm、荷重2kgf/cm、及び荷重3kgf/cmを加えたときの諸特性をそれぞれ測定した。結果を表2及び図10〜図12に示す。
熱抵抗は、上記実施例と同様にして測定した。また、圧縮率については、以下のようにして測定した。また、その他の物性については、上記実施例と同様にして測定した。
【0078】
<圧縮率>
圧縮率とは、荷重をかけた時の熱伝導性シートの厚みが、測定前の熱伝導性シートの厚みに対してどれだけ圧縮されたのかを示す値(%)である。
【0079】
【表2−1】

【表2−2】

【0080】
表2及び図10〜図12の結果から、熱伝導性シートの厚み方向と異方性熱伝導性フィラー(炭素繊維)とのなす角度が45°までは荷重に応じて圧縮率が増加するが、熱伝導性シートの厚み方向と炭素繊維とのなす角度が45°を超えると、逆に下がる傾向が認められた。また、熱抵抗値も熱伝導性シートの厚み方向と炭素繊維とのなす角度が45°を超えると急激に悪化することが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の熱伝導性シートの製造方法により製造された熱伝導性シートは、例えば、温度によって素子動作の効率、寿命等に悪影響が出るCPU、MPU、パワートランジスタ、LED、レーザーダイオード、各種電池(リチウムイオン電池等の各種二次次電池、各種燃料電池、キャパシタ、アモルファスシリコン、結晶シリコン、化合物半導体、湿式太陽電池等の各種太陽電池など)等の各種の電気デバイス周り、熱の有効利用が求められる暖房機器の熱源周り、熱交換器、床暖房装置の熱配管周りなどに好適に用いられる。
【符号の説明】
【0082】
1 異方性熱伝導性フィラー
2 充填剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、
前記押出成形物を硬化させて硬化物とする硬化工程と、
前記硬化物を、超音波カッターを用いて前記押出し方向に対し垂直方向に所定の厚みに切断する切断工程と、を少なくとも含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。
【請求項2】
ポリマー、異方性熱伝導性フィラー、及び充填剤を含有する熱伝導性組成物を押出機で押出して、前記異方性熱伝導性フィラーが押出し方向に沿って配向した押出成形物を成形する押出成形工程と、
前記押出成形物を硬化させて硬化物とする硬化工程と、
前記硬化物を超音波カッターで所定の厚みに切断する際に、前記超音波カッターで切断される前記硬化物の厚み方向に対して前記異方性熱伝導性フィラーが5°〜45°の角度に配向するように前記硬化物を配置して切断する切断工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする熱伝導性シートの製造方法。
【請求項3】
異方性熱伝導性フィラーの平均繊維長が100μm以上である請求項1から2のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項4】
異方性熱伝導性フィラーが、炭素繊維である請求項1から3のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項5】
異方性熱伝導性フィラーの熱伝導性組成物中の含有量が、16体積%〜25体積%である請求項1から4のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項6】
充填剤の平均粒子径が1μm〜40μmである請求項1から5のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項7】
充填剤が、球形状のアルミナ粒子である請求項1から6のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項8】
ポリマーがシリコーン樹脂である請求項1から7のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の熱伝導性シートの製造方法により製造されたことを特徴とする熱伝導性シート。
【請求項10】
熱伝導性シートにおける外周部の微粘着性が、熱伝導性シートにおける内部の微粘着性よりも高い請求項9に記載の熱伝導性シート。
【請求項11】
熱伝導性シートの切断面の表面粗さRaが9.9μm以下である請求項9から10のいずれかに記載の熱伝導性シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−23335(P2012−23335A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79976(P2011−79976)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000108410)ソニーケミカル&インフォメーションデバイス株式会社 (595)
【Fターム(参考)】