説明

熱伝導性成形体及びその製造方法

【課題】熱伝導性能に優れるとともに、ハンドリング性を高めることが容易な熱伝導性成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】熱伝導性成形体11は、発熱体と放熱体との間に介在して用いられ、熱伝導性高分子組成物から成形される。熱伝導性高分子組成物は、高分子マトリックス12と、熱伝導性充填材13とを含有する。熱伝導性充填材13の少なくとも一部は、繊維状に形成されるとともに一定方向に配向される。成形体11において、前記配向の方向と交差する外面16上には、前記少なくとも一部の配向された熱伝導性充填材の端部が露出している。この端部には、前記外面16に沿って延びる突部14bが形成されている。成形体11はその使用時に、前記外面16が発熱体及び放熱体の少なくとも一方に接触するように、発熱体と放熱体との間に介在される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱体と放熱体との間に介在して用いられ、発熱体から放熱体への熱伝導を促進する熱伝導性成形体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、コンピュータのCPU(中央処理装置)を代表とする電子部品の高性能化に伴い、電子部品の消費電力及び発熱量は増大している。電子部品の処理能力は熱により低下する。よって、電子部品の性能を維持するために電子部品の蓄熱を回避する必要があり、電子部品の冷却が重要な課題となっている。そのため、発熱体である電子部品と、放熱体との間に介在して用いられる熱伝導性成形体には、優れた熱伝導性能が求められている。
【0003】
特許文献1には、繊維長が10mm以下に設定された熱伝導性繊維を含有する組成物からなる熱伝導性成形体が開示されている。特許文献2には、耐熱性高分子マトリックスと、熱伝導性繊維とを含有する組成物からなる熱伝導性成形体が開示されている。これらの熱伝導性成形体では、熱伝導性繊維を熱伝導の方向に沿って配向させることにより、熱伝導性能が高められている。
【0004】
特許文献3には、バインダーと、炭素繊維とを含有する組成物からなる熱伝導性シートが開示されている。炭素繊維は、熱伝導性シートの厚さ方向に配向されている。更に、熱伝導性シートの外面には、炭素繊維の端部が露出している。この熱伝導性シートでは、発熱体及び放熱体に挟持される際に露出した炭素繊維が発熱体及び放熱体に接触することにより、熱伝導性能が高められている。
【特許文献1】特開平4−173235号公報
【特許文献2】特開平11−46021号公報
【特許文献3】特開2001−294676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1及び2に記載の熱伝導性成形体には、その粘着性が高いことから、運搬時等の取扱い性(ハンドリング性)が低いという問題があった。熱伝導性成形体の粘着性は、熱伝導性成形体の硬度が低いほど高い。そのため、前記問題を解決する方法として、例えば硬度が高い層を熱伝導性成形体の外面に設けることによって、熱伝導性成形体の粘着性を低下させる方法が挙げられる。しかしながら、この方法では、前記層に起因して熱伝導性成形体の硬度が高くなることから、熱伝導成形体の熱伝導性能が低下し、更に熱伝導性成形体が発熱体及び放熱体に挟持される際に、熱伝導性成形体と、発熱体及び放熱体との密着性を高めるために、外方から大きな荷重を加える必要がある。そのため、この大きな荷重によって発熱体に不具合が生じるおそれがあるという問題もあった。
【0006】
一方、特許文献3に記載の熱伝導性シートでは、その熱伝導性シートと、発熱体及び放熱体との間に、露出した炭素繊維に起因して間隙が形成される。そのため、熱伝導性シートの接触熱抵抗値が高くなって熱伝導性シートの熱伝導性能が低下するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような従来技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的とするところは、熱伝導性能に優れるとともに、ハンドリング性を高めることが容易な熱伝導性成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、発熱体と放熱体との間に介在して用いられ、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物から成形される熱伝導性成形体であって、前記熱伝導性充填材の少なくとも一部が、繊維状に形成されるとともに一定方向に配向され、前記熱伝導性成形体において、前記配向の方向と交差する外面上には、前記少なくとも一部の配向された熱伝導性充填材の端部が露出しており、該端部には、前記外面に沿って延びる突部が形成されており、前記熱伝導性成形体はその使用時に、前記外面が発熱体及び放熱体の少なくとも一方に接触するように、発熱体と放熱体との間に介在されることを特徴とする熱伝導性成形体を提供する。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記少なくとも一部の配向された熱伝導性充填材が炭素繊維である請求項1に記載の熱伝導性成形体を提供する。
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性成形体の製造方法であって、前記熱伝導性高分子組成物を調製する調製工程と、前記繊維状の熱伝導性充填材を一定方向に配向させる配向工程と、前記熱伝導性充填材の配向を維持した状態で熱伝導性成形体を成形する成形工程と、前記配向された熱伝導性充填材の端部を前記外面上に露出させる露出工程と、前記熱伝導性充填材の端部に突部を形成する形成工程とを備えていることを特徴とする熱伝導性成形体の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱伝導性能に優れるとともに、ハンドリング性を高めることが容易な熱伝導性成形体が提供される。また本発明によれば、そうした熱伝導性成形体の製造方法も提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を熱伝導性成形体に具体化した一実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
本実施形態の熱伝導性成形体(以下、単に成形体という。)は、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物(以下、単に組成物という。)から成形される。この成形体は発熱体と放熱体との間に介在するようにして用いられ、発熱体から放熱体への熱伝導を促進する。
【0012】
成形体には、熱伝導性能及びハンドリング性が具備されている。熱伝導性能は発熱体から放熱体への熱伝導のし易さを表す指標であり、成形体の熱伝導率、熱抵抗値及び接触熱抵抗値に起因している。成形体の熱抵抗値は、成形体の熱伝導率が高いほど小さい。成形体の接触熱抵抗値は、成形体と発熱体及び放熱体との密着性が高いほど小さい。成形体と発熱体及び放熱体との密着性は、成形体の粘着性が高いほど高い。成形体は、熱伝導率が高いほど、且つ熱抵抗値及び接触熱抵抗値が小さいほど発熱体から放熱体への熱伝導を促進し、熱伝導性能に優れたものとなる。ハンドリング性は成形体の取扱い易さを表す指標であり、成形体の粘着性に起因している。即ち、成形体のハンドリング性は、成形体の粘着性が低いほど高められる。
【0013】
高分子マトリックスは、熱伝導性充填材を成形体内に保持する。高分子マトリックスは、成形体に要求される性能、例えば硬度等の機械的強度、耐熱性等の耐久性、又は電気的特性に応じて選択され、高分子マトリックスとして例えば熱可塑性又は熱硬化性の高分子材料が選択される。熱可塑性の高分子材料の具体例としては、熱可塑性樹脂材料及び熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0014】
熱可塑性樹脂材料の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のエチレン−αオレフィン共重合体、ポリメチルペンテン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、スチレン−アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS)樹脂、ポリフェニレン−エーテル共重合体(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、脂肪族ポリアミド類、芳香族ポリアミド類、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル等のポリメタクリル酸エステル類、ポリアクリル酸類、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルフィド、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルニトリル、ポリエーテルケトン、ポリケトン、液晶ポリマー、シリコーン樹脂、及びアイオノマーが挙げられる。
【0015】
熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン−ブタジエンブロック共重合体及びその水添ポリマー、スチレン−イソプレンブロック共重合体及びその水添ポリマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、及びポリアミド系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0016】
熱硬化性の高分子材料の具体例としては、架橋ゴム、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、及びジアリルフタレート樹脂が挙げられる。架橋ゴムの具体例としては、天然ゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合ゴム、ニトリルゴム、水添ニトリルゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレン共重合ゴム、塩素化ポリエチレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、及びシリコーンゴムが挙げられる。
【0017】
これらの中でも、成形体の耐熱性、発熱体及び放熱体への密着性、発熱体及び放熱体の表面形状への追従性、及び温度変化に対する耐久性が高いことから、シリコーン系の高分子材料が好ましく、低分子量の揮発成分の成形体からの浸み出しが防止されることから、アクリル系の高分子材料が好ましい。更に、高分子マトリックスは、前記各高分子材料から選択される複数の高分子材料からなるポリマーアロイでもよい。高分子マトリックスの常温での粘度は、1,000mPa・s以下が好ましく、500mPa・s以下がより好ましい。高分子マトリックスの粘度が1,000mPa・sを超えると、高分子マトリックスの粘度が過剰に高いことから、組成物の調製が困難になるおそれがある。高分子マトリックスの常温での粘度の下限は特に限定されない。常温とは、組成物が通常調製されるときの温度のことであり、例えば25℃である。
【0018】
熱伝導性充填材は、成形体の熱伝導率を高めることにより、成形体の熱伝導性能を高める。熱伝導性充填材の形状としては、繊維状、粒子状、板状等が挙げられるが、熱伝導性充填材の少なくとも一部は繊維状に形成されている。繊維状に形成された熱伝導性充填材の具体例、即ち繊維状充填材の具体例としては、炭素繊維、金属繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、及び有機高分子繊維が挙げられる。これらは単独で繊維状充填材を構成してもよいし、二種以上が組み合わされて繊維状充填材を構成してもよい。これらの中でも、成形体の熱伝導率が高いことから、炭素繊維が好ましい。
【0019】
炭素繊維は、溶融紡糸した繊維状ピッチを不融化処理した後、炭素化又は黒鉛化処理することにより製造される。炭素繊維の繊維長は、炭素繊維がその製造中又は製造後に粉砕されることにより、任意に調整される。炭素繊維の粉砕は、例えばハンマーミル、ボールミル、振動ボールミル、ブレードミル、ジェットミル、トルネードミル、又はミルミキサーを用いて行われる。炭素繊維の製造中又は製造後に切断機によって粉砕されることにより得られるチョップドファイバーが上記各装置を用いて更に粉砕されることにより、繊維長分布の幅が狭くて成形体に適した炭素繊維が得られるが、チョップドファイバーのままの炭素繊維が用いられてもよい。
【0020】
繊維状充填材は成形体中で一定方向に配向されており、発熱体からの熱は、繊維状充填材の配向方向に沿って成形体中を伝導される。そのため、繊維状充填材の平均繊維長は、繊維状充填材の配向方向における成形体の厚さ以上であることが好ましい。この場合、成形体の熱伝導率は、熱伝導の方向に沿って繊維状充填材が切れ目なく存在していることから容易に高められる。繊維状充填材の平均繊維長が繊維状充填材の配向方向における成形体の厚さ未満である場合、例えば配向した繊維状充填材同士が重なり合うことにより、成形体の熱伝導の方向に沿って熱伝導性繊維が切れ目なく存在していることが好ましい。
【0021】
繊維状以外の形状の熱伝導性充填材、即ち非繊維状充填材の材質は、成形体の熱伝導率が高いことから、酸化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、及び二酸化ケイ素から選ばれる少なくとも一種が好ましい。非繊維状充填材のうち、粒子状充填材の平均粒径は、熱伝導性充填材における繊維状充填材の割合、及び繊維状充填材の平均繊維長によって適宜設定されるが、0.1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましい。粒子状充填材の平均粒径が0.1μm未満の場合、組成物中に含有される熱伝導性充填材の比表面積が過剰に大きくなることから、組成物の粘度が高くなるおそれがある。粒子状充填材の平均粒径が100μmを超えると、成形体が薄いシート状に形成される場合、粒子状充填材に起因する凹凸が成形体の外面に形成されて成形体の外面の平坦性が悪化するおそれがある。粒子状充填材の形状は、組成物中での熱伝導性充填材の二次凝集が抑制されることから、球状が好ましい。
【0022】
組成物中の熱伝導性充填材の含有量は、90質量%以下が好ましい。熱伝導性充填材の含有量が90質量%を超えると、成形体の形状が例えばシート状である場合、成形体の柔軟性が低いことから、成形体が脆くなるとともに、成形体の発熱体及び放熱体の表面形状への追従性が低下するおそれがある。熱伝導性充填材は繊維状充填材のみによって構成されてもよいが、熱伝導性充填材の全量における繊維状充填材の割合は7質量%以上35質量%未満が好ましい。
【0023】
繊維状充填材の割合が7質量%未満の場合、成形体中の繊維状充填材の含有量が過剰に低くなることから、成形体の熱伝導率が低下するおそれがある。繊維状充填材の割合が35質量%以上の場合、繊維状充填材が導電性を有する際に、例えば繊維状充填材が炭素繊維である際に、成形体の導電性が高くなることから、成形体が導電性を発揮しないことが好ましい場合に成形体を使用することができなくなるおそれがある。そのため、成形体が導電性を有する必要がある場合、熱伝導性充填材は、繊維状充填材、例えば炭素繊維のみで構成されてもよい。組成物は、前記各成分以外にも、例えば成形体の硬度を調整するための可塑剤、及び耐久性を高めるための安定剤を含有してもよい。
【0024】
図1(a)及び(b)に示すように、成形体11は、高分子マトリックス12と、熱伝導性充填材13とを備えている。図1(a)及び(b)に示す成形体11はシート状に形成されており、熱伝導性充填材13は、繊維状充填材14と、粒子状充填材15とを有している。この成形体11の形状は特に限定されず、立方体状でもよいし、球状、円柱状、板状、フィルム状、又はチューブ状でもよい。繊維状充填材14は成形体11中で一定方向に配向されている。例えば、図1(a)及び(b)に示す成形体11においては、繊維状充填材14は成形体11の厚さ方向に沿って配向されている。そのため、成形体11において、厚さ方向の熱伝導率の値は、幅方向の熱伝導率の値に2〜数百を乗じた値と等しい。
【0025】
成形体11において、繊維状充填材14の配向方向と交差する外面上には、繊維状充填材14が露出している。即ち、図1(a)及び(b)に示す成形体11における繊維状充填材14は、成形体11の幅方向に沿って延びるとともに対向する一対の外面16上に露出している。成形体11の外面16上に露出している繊維状充填材14において、外面16に交差した状態で露出している繊維状充填材14の割合は、50〜100%が好ましい。外面16に交差した状態で露出している繊維状充填材14の割合が50%未満の場合、即ち、外面16と平行に延びた状態で露出している繊維状充填材14の割合が50%を超えると、繊維状充填材14の配向が不十分であることから、繊維状充填材14の配向方向における成形体11の熱伝導率が低下するおそれがある。そのため、外面16に交差した状態で露出している繊維状充填材14の割合が50%を超えることにより、繊維状充填材14の配向方向における成形体11の熱伝導率は、20W/m・k以上を達成することができ、外面16に交差した状態で露出している繊維状充填材14の割合が高くなるに伴って、例えば50W/m・k以上を達成することができる。
【0026】
成形体11の外面16に交差した状態で露出している繊維状充填材14は、配向方向に沿って延びる軸部14aと、外面から露出している端部とを有している。繊維状充填材14の端部には、外面16に沿って延びる突部14bが形成されている。突部14bを有する端部において、繊維状充填材14の繊維軸方向(配向方向)に直交する断面は、突部14bに起因して、繊維状充填材14の軸部14aにおける繊維軸方向に直交する断面に比べて大きく、例えば該断面の2倍以上である。
【0027】
繊維状充填材14の露出長、即ち成形体11の外面16と、該外面16に交差した状態で露出している繊維状充填材14の先端との距離は、50μm以下が好ましい。繊維状充填材14の露出長が50μmを超えると、成形体11から繊維状充填材14が脱落するおそれがある。
【0028】
成形体11は、組成物を調製する調製工程、繊維状充填材14を一定方向に配向させる配向工程、成形体11を成形する成形工程、繊維状充填材14を露出させる露出工程、及び突部14bを形成する形成工程を経て製造される。
【0029】
調製工程では、前記各成分が適宜に混合されて組成物が調製される。配向工程では、例えば組成物が金型内に充填された後、繊維状充填材14が一定方向に配向される。繊維状充填材14を配向させる方法としては、磁場発生装置を用いて組成物に磁場を印加する方法、及び振動装置を用いて組成物に振動を印加する方法が挙げられるが、繊維状充填材14が容易に配向されることから、磁場及び振動の両方を組成物に印加する方法が好ましい。このとき、磁場及び振動は、組成物を介して繊維状充填材14に印加される。
【0030】
磁場発生装置としては、永久磁石、電磁石、及び超伝導磁石が挙げられるが、長い繊維長を有する繊維状充填材14が容易に配向されることから、超伝導磁石が好ましい。組成物に印加される磁場の方向は、組成物中の繊維状充填材14に応じて適宜設定される。例えば、磁場発生装置の一対の磁極が金型を挟んで対向するように配設される。繊維状充填材14が反磁性体である場合、組成物に磁場が印加されることにより、繊維状充填材14は、磁場の方向と反対方向に磁化されて磁力線に沿って配向される。また、繊維状充填材14の結晶構造の結晶方位に依存して繊維状充填材14の磁化率が異方性を持つ場合、繊維状充填材14は、磁化率の異方性に従って配向される。
【0031】
振動装置としては、超音波振動装置、電磁式振動装置、モータ振動装置、及びエアシリンダを用いた打鍵振動装置が挙げられるが、長い繊維長を有する繊維状充填材14が容易に配向されることから、エアシリンダを用いた打鍵振動装置が好ましい。組成物中の熱伝導性充填材13の含有量が高い場合、組成物の粘度は一般に高い。そのため、組成物に印加される振動の周波数は、組成物の固有振動数よりも低いことが好ましく、0.1〜100Hzがより好ましく、1〜100Hzが最も好ましい。この場合、組成物の全体に振動が容易に伝わることから、組成物の流動性が促進され、その結果、組成物の見かけ上の粘度が低下する。そのため、組成物中で絡まっている繊維状充填材14は、容易に解れて配向され易くなる。
【0032】
組成物に印加される振動の周波数が過剰に低い場合、組成物に振動を十分に印加するのに時間を要することから、成形体11の製造効率が低下するおそれがある。更に、繊維状充填材14が十分に配向されないおそれがある。組成物に印加する振動の周波数が過剰に高い場合、組成物に加わる振動は微振動となることから、組成物の全体にわたって振動が伝わることが困難となる。更に、組成物に加わる振動の周波数は組成物の固有振動数から大きく離れることから、組成物の見かけ上の粘度は低下しない。そのため、組成物の粘度が高い状態で繊維状充填材14が配向されることから、繊維状充填材14の配向が不十分となるおそれがある。よって、組成物に加える振動の周波数を0.1〜100Hzに設定することにより、好ましくは1〜100Hzに設定することにより、成形体11の製造効率を高めるとともに、繊維状充填材14を十分に配向させることができる。
【0033】
組成物に印加される振動の振幅は、0.1〜20mmが好ましく、1〜20mmがより好ましい。振動の振幅が0.1mm未満では、組成物の全体にわたって振動が伝わることが困難となることから、繊維状充填材14の配向が不十分となるおそれがある。振動の振幅が20mmを超えると、組成物に振動を十分に印加するのに時間を要することから、成形体11の製造効率が低下するおそれがある。
【0034】
成形工程では、金型内において、繊維状充填材14の配向を維持した状態で高分子マトリックス12を硬化又は固化させることにより、図2に示すように、所定の形状を有する成形体11が成形される。成形工程後の成形体11中の繊維状充填材14は、外面16から露出していない。
【0035】
露出工程では、成形体11が高分子マトリックス12として熱可塑性の高分子材料を有する場合、該高分子材料を溶解可能な溶媒を用いて成形体11の外面16から高分子マトリックス12を除去することにより、図3(a)及び(b)に示すように、外面16上に繊維状充填材14が露出される。また、メッシュ状の刃を成形体11の外面16に押し当てた後、それらを外面16に沿って摺動させることにより、外面16から高分子マトリックス12が除去されて外面16上に繊維状充填材14が露出される。この場合、高分子マトリックス12は均一の厚みで除去される。また、研磨紙等を用いた研磨によって、外面16から高分子マトリックス12が除去されて外面16上に繊維状充填材14が露出される。露出工程後において、外面16から露出している繊維状充填材14の端部には、突部14bが形成されていない。
【0036】
露出工程後における成形体11の外面16において、露出した繊維状充填材14が占める割合は、該外面16の投影図における面積に換算して例えば5〜10%である。露出した繊維状充填材14が占める割合が5%未満の場合、繊維状充填材14の配向が不十分であることから、繊維状充填材14の配向方向における成形体11の熱伝導率が低下するおそれがある。露出した繊維状充填材14が占める割合が10%を超えると、成形体11の熱伝導率を高めることができるものの、成形体11の柔軟性が低下するおそれがある。
【0037】
形成工程では、露出工程において用いられる研磨紙に比べてきめが細かい研磨紙、例えば研磨粒子の粒径が5〜20μmである研磨紙を用いて、成形体11の外面16が研磨される。このとき、外面16から露出している繊維状充填材14の前端は、外面16に沿って潰れたり磨り減ったりすることにより、外面16に沿って拡がる。このことにより、繊維状充填材14の端部に突部14bが形成される。また、成形体11の外面16に対して圧力が瞬間的に加えられることにより、繊維状充填材14の先端が外面16に向かって押圧される。このとき、外面16から露出している繊維状充填材14の先端が外面16に沿って潰れたり折れ曲がったりすることにより、繊維状充填材14の端部に突部14bが形成される。形成工程後の成形体11の外面16において、露出した繊維状充填材14が占める割合は、突部14bに起因して、露出工程後かつ形成工程前における繊維状充填材14が占める割合に比べて増加しており、前記面積に換算して例えば10%以上である。
【0038】
成形体11を発熱体及び放熱体に取付ける際には、図4(a)に示すように、例えば基板17上に配設された発熱体18(例えば電子部品)上に成形体11及び放熱体19を順に載置する。発熱体18の下部は絶縁層20で覆われており、基板17と絶縁層20との間には、発熱体18を基板17上の図示しない電気回路に接続するための端子21が配設されている。成形体11は、一対の外面16が発熱体18及び放熱体19に接触するように載置される。次いで、成形体11が発熱体18及び放熱体19に密着するように、放熱体19から発熱体18に向かって荷重を加え、発熱体18及び放熱体19によって成形体11を挟持する。
【0039】
このとき、図4(b)に示すように、成形体11の外面16から露出している繊維状充填材14の突部14bは、前記荷重によって成形体11内に圧入される。更に、高分子マトリックス12は、前記荷重によって、露出した繊維状充填材14の間に浸み出す。そのため、繊維状充填材14は、成形体11内において高分子マトリックス12に対して相対的に没入する。そして、突部14bにおいて発熱体18又は放熱体19に対向する表面が、成形体11の外面16上に位置する。その結果、浸み出した高分子マトリックス12に起因して成形体11の粘着性が高まるとともに、成形体11は、発熱体18及び放熱体19との間に間隙を形成することなく発熱体18及び放熱体19に密着する。放熱体19に加えられる荷重の値は、例えば4.9Nである。
【0040】
前記の実施形態によって発揮される効果について、以下に記載する。
・ 本実施形態の繊維状充填材14は、成形体11の使用前では該成形体11の外面16から露出している。外面16から露出している繊維状充填材14の端部には、外面16に沿って延びる突部14bが形成されている。成形体11の外面16において、露出した繊維状充填材14が占める割合は、突部14bに起因して、該突部14bが形成されていない場合に比べて増加している。
【0041】
そのため、成形体11が接触対象物と接触する際、成形体11の外面16において、成形体11を構成する高分子マトリックス12と接触対象物との接触は、露出している繊維状充填材14によって抑制されており、突部14bによって、より確実に抑制されている。ここで、高分子マトリックス12の硬度は通常、繊維状充填材14に比べて低い。そのため、成形体11は、硬度が低い高分子マトリックス12と接触対象物との接触が抑制されることから、粘着性を低下させてハンドリング性を高めることが容易である。硬度が高い層を成形体の外面に設けることによって成形体のハンドリング性を高める場合、前記層に起因して成形体の硬度が高くなることから、成形体の柔軟性は低下する。これに対して、本実施形態の成形体11は、その硬度を低下させることなくハンドリング性を高めることから、柔軟性を維持することができる。
【0042】
更に、成形体11は、その使用時には外面16が発熱体18及び放熱体19に接触するように発熱体18と放熱体19との間に介在され、繊維状充填材14は、成形体11内において高分子マトリックス12に対して相対的に没入する。そのため、成形体11の外面16において、硬度が低い高分子マトリックス12は、発熱体18及び放熱体19に容易に接触することができる。よって、成形体11は、その密着性を高めることができ、その結果、発熱体18及び放熱体19と密着することができる。
【0043】
加えて、成形体11内に没入した繊維状充填材14は、図4(b)に示すように、高分子マトリックス12を介することなく発熱体18及び放熱体19に接触することができ、その結果、発熱体18からの熱を放熱体19に容易に伝導することができる。そのため、成形体11は優れた熱伝導性能を発揮することができる。更に、突部14bは外面16に沿って延びていることから、成形体11が発熱体18及び放熱体19に挟持される際に、繊維状充填材14と発熱体18及び放熱体19との接触面積は、突部14bが形成されていない場合の接触面積に比べて大きくなる。そのため、突部14bが形成されていない場合に比べて、成形体11の熱伝導性能を高めることができる。
【0044】
・ 繊維状充填材14の突部14bを有する端部において、繊維状充填材14の繊維軸方向に直交する断面は、突部14bに起因して、繊維状充填材14の軸部14aにおける繊維軸方向に直交する断面に比べて大きい。そのため、突部14bを有する繊維状充填材14は、突部14bが形成されていない場合に比べて、成形体11における熱伝導性充填材13の含有量を増加させることなく、繊維状充填材14が成形体11の外面16に占める割合を容易に増加させることができる。その結果、成形体11の熱伝導性能の向上と、熱伝導性充填材13の含有量の増加に起因する成形体11の柔軟性の低下の抑制とを同時に達成することができる。
【0045】
なお、本実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・ 前記高分子マトリックス12と熱伝導性充填材13との密着性を高めるために、例えばシランカップリング剤、又はチタネートカップリング剤を用いた表面処理が熱伝導性充填材13に施されてもよい。また、熱伝導性充填材13に絶縁性を付与するために、絶縁材料を用いた表面処理が熱伝導性充填材13に施されてもよい。
【0046】
・ 前記繊維状充填材14は、一対の外面16の内の一方の外面16上のみに露出してもよい。この場合、成形体11の一対の外面16において、一方の外面16の粘着性のみを低下させることができる。
【0047】
・ 前記配向工程において、繊維状充填材14を一定方向に沿って配列した後、各繊維状充填材14の間に高分子マトリックス12を充填してもよい。
・ 前記配向工程及び成形工程において、基材フィルム上に組成物を塗布した後、基材フィルム上で繊維状充填材14を配向させて成形体11を成形してもよい。この場合、露出工程において、成形体11の基材フィルムに接触していない外面16を、例えば回転式円板カッターを用いて削ることにより、高分子マトリックス12を除去してもよい。
【0048】
・ 前記成形体11がシート状に形成される場合、前記成形工程において、ブロック状をなす成形体11を形成した後、剪断刃を用いて成形体11をシート状に切断してもよい。このとき、高分子マトリックス12の硬度は繊維状充填材14に比べて低いことから、高分子マトリックス12が繊維状充填材14に比べて積極的に切断され、その結果、図5(a)及び(b)に示すように、成形体11の切断面(外面16)上には、繊維状充填材14が露出する。そのため、この成形工程では、露出工程が同時に行われる。図5(a)及び(b)に示す成形体11において、切断面に交差した状態で露出している繊維状充填材14の割合は約90%である。さらに、露出した繊維状充填材14の先端面は、繊維状充填材14の繊維軸に対して傾斜している。
【0049】
・ 前記調製工程、又は配向工程において、組成物の脱泡を行ってもよい。
・ きめが細かい研磨紙を用いて、露出工程と形成工程とを同時に行ってもよい。
【実施例】
【0050】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。
(実施例1〜5、並びに比較例1及び2)
実施例1においては、調製工程として、高分子マトリックス12としての付加型の液状シリコーンゲルに、繊維状充填材14としての炭素繊維と、粒子状充填材15としての球状酸化アルミニウム(以下、アルミナという)とを混合して成形体11用の組成物を調製した。各成分の配合量を表1に示す。表1において、各成分の配合量の数値は重量部を示す。液状シリコーンゲルの25℃における粘度は400mPa・sであり、液状シリコーンゲルの比重は1.0であった。炭素繊維の平均繊維径は10μmであり、炭素繊維の平均繊維長は160μmであった。アルミナの平均粒径は3.2μmであった。次に、炭素繊維及び球状アルミナが均一に分散されるまで組成物を攪拌した後、組成物の脱泡を行った。
【0051】
続いて、配向工程として、回転粘度計を用いて組成物の25℃における粘度を測定した後、金型内に組成物を充填した。粘度の測定結果を表1に示す。次に、超伝導磁石を用いて、100,000ガウスの磁束密度を有する磁場を組成物に印加するとともに、圧縮空気を用いて、3.0Hzの周波数及び10mmの振幅を有する振動を金型を介して組成物に印加して、炭素繊維を成形体11の厚さ方向に沿って配向させた。
【0052】
次いで、成形工程として、組成物を120℃で90分加熱することにより、液状シリコーンゲルを硬化させてブロック状の成形体11を得た。そして、露出工程として、せん断刃を用いて、ブロック状の成形体11を厚さが0.2mmであるシート状に切断することにより、炭素繊維を露出させた。露出工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、図5(a)及び(b)に示すように、炭素繊維の露出を確認することができ、露出した炭素繊維において、外面16に交差した状態で露出している炭素繊維の割合は約90%であった。
【0053】
続いて、形成工程として、研磨粒子の粒径が10μmである研磨紙を用いて成形体11の外面16を研磨することにより、外面16から露出している炭素繊維の端部に突部14bを形成してシート状の成形体11を得た。形成工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、図6(a)〜図7に示すように、突部14bの形成を確認することができた。更に、露出工程後かつ形成工程前における成形体11の外面16に比べて、露出した炭素繊維が外面16に占める割合が増加していることを確認することができた。
【0054】
次に、実施例2では、各工程の条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして成形体11を得た。調製工程では、実施例1の炭素繊維の平均繊維長を100μmに変更した。配向工程では、磁場のみを組成物に印加した。成形工程では、組成物を120℃で90分加熱することにより、液状シリコーンゲルを硬化させてシート状の成形体11を得た。露出工程では、金属製のメッシュを用いた研磨によって、成形体11の外面16から硬化したシリコーンを5μmの厚さで除去することにより、炭素繊維を露出させた。露出工程後の成形体11の厚さは0.2mmであった。露出工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、炭素繊維の露出を確認することができ、露出した炭素繊維において、外面16に交差した状態で露出している炭素繊維の割合は約50%であった。形成工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、突部14bの形成を確認することができた。更に、露出工程後かつ形成工程前における成形体11の外面16に比べて、露出した炭素繊維が外面16に占める割合が増加していることを確認することができた。
【0055】
実施例3では、各工程の条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして成形体11を得た。調整工程では、繊維状充填材14としてポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール前駆体炭素繊維(PBO炭素繊維)を用いるとともに、各成分の配合量を表1に示すように変更した。PBO炭素繊維の平均繊維長は6000μmであった。成形工程では、組成物を120℃で90分加熱することにより、液状シリコーンゲルを硬化させてシート状の成形体11を得た。露出工程では、回転式カッターを用いて成形体11の外面16から硬化したシリコーンを除去することにより、PBO炭素繊維を露出させた。露出工程後の成形体11の厚さは0.2mmであった。
【0056】
露出工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、PBO炭素繊維の露出を確認することができ、露出したPBO炭素繊維において、外面16に交差した状態で露出しているPBO炭素繊維の割合は約70%であった。形成工程では、成形体11の外面16に対して、圧力を均一かつ瞬間的に加えることにより、外面16から露出しているPBO炭素繊維の端部に突部14bを形成してシート状の成形体11を得た。形成工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、図8及び図9に示すように、突部14bの形成を確認することができた。更に、露出工程後かつ形成工程前における成形体11の外面16に比べて、露出した炭素繊維が外面16に占める割合が増加していることを確認することができた。加えて、図6(b)及び図8に示すように、実施例3の突部14bは、実施例1の突部14bに比べて外面16から浮き上がっていた。
【0057】
実施例4では、炭素繊維の平均繊維長を100μmに変更するとともに、各成分の配合量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして調製工程および配向工程を行った。次いで、実施例2と同様にして成形工程を行って、シート状の成形体11を得た。露出工程では、研磨粒子の粒径が50μmである研磨紙を用いた研磨によって、成形体11の外面16から硬化したシリコーンを除去することにより、炭素繊維を露出させた。そして、実施例1と同様の成形工程を行って成形体11を得た。露出工程後の成形体11の厚さは0.2mmであった。露出工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、炭素繊維の露出を確認することができ、露出した炭素繊維において、外面16に交差した状態で露出している炭素繊維の割合は約70%であった。形成工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、突部14bの形成を確認することができた。更に、露出工程後かつ形成工程前における成形体11の外面16に比べて、露出した炭素繊維が外面16に占める割合が増加していることを確認することができた。
【0058】
実施例5では、調整工程の条件を以下のように変更した以外は、実施例1と同様にして成形体11を得た。調整工程では、繊維状充填材14としてPBO炭素繊維を用いるとともに、各成分の配合量を表1に示すように変更した。露出工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、PBO炭素繊維の露出を確認することができ、露出したPBO炭素繊維において、外面16に交差した状態で露出しているPBO炭素繊維の割合は約100%であった。形成工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、突部14bの形成を確認することができた。更に、露出工程後かつ形成工程前における成形体11の外面16に比べて、露出したPBO炭素繊維が外面16に占める割合が増加していることを確認することができた。
【0059】
比較例1では、露出工程および形成工程を省略した以外は、実施例5と同様にして成形体11を得た。比較例2では、露出工程および形成工程を省略した以外は、実施例2と同様にして成形体11を得た。比較例1及び2において、成形工程後の成形体11の外面16を電子顕微鏡で観察したところ、繊維状充填材14は外面16から露出していなかった。そして、各例の成形体11について、下記の各項目に関し、測定及び評価を行った。その結果を表1に示す。表1において、“繊維状充填材の割合(%)”欄は、外面16に交差した状態で露出している各繊維の割合を示す。
【0060】
<ハンドリング性>
各例の成形体11について、それらの粘着性に基づいてハンドリング性を評価した。表1中のハンドリング性について、「○」とは、成形体11の粘着性が適度に低く、成形体11の取扱いが容易であったことを示す。また、「×」とは、成形体11の粘着性が過剰に高く、成形体11の取扱いが困難であったことを示す。
【0061】
<熱伝導率>
各例の成形体11から円板状の試験片(直径:1.0mm、厚さ:0.5mm)を得た後、レーザーフラッシュ法により試験片の熱伝導率を測定した。
【0062】
<熱抵抗値>
各例の成形体11から試験片(縦および横:10mm、厚さ:0.2mm)を得た後、該試験片を発熱量が25Wである発熱体18及び放熱体19で挟持した。そして、試験片に、その厚さ方向に50N/cmの荷重を加えた状態における試験片の熱抵抗値を測定した。熱抵抗値の測定は、露出工程後、及び形成工程後の各成形体11について行った。また、試験片の代わりに市販の熱伝導性グリスを用いた以外は上記と同様にして熱抵抗値を測定した結果を表2に示す。表2において、“参考例1”欄は、熱伝導性グリスとして信越化学工業株式会社製の熱伝導性グリス(放熱用オイルコンパウンド)G−750を用いた場合の測定結果を示し、“参考例2”欄は、熱伝導性グリスとして信越化学工業株式会社製の熱伝導性グリス(放熱用オイルコンパウンド)G−751を用いた場合の測定結果を示す。
【0063】
【表1】

【0064】
【表2】

表1に示すように、実施例1〜5においては、各項目について優れた評価及び結果となった。そのため、各実施例の成形体11は、熱伝導性能に優れるとともにハンドリング性を高めることができた。更に、熱抵抗値を測定した成形体11を発熱体18及び放熱体19から取外した後、成形体11の外面16を観察したところ、露出していた各繊維が成形体11内に没入していた。更に、各繊維の突部14bが、成形体11の外面16上にほぼ位置していた。
【0065】
加えて、実施例1〜5においては、露出工程後の成形体11の熱抵抗値に比べて、形成工程後の熱抵抗値が低かった。この結果は、形成工程によって得られる突部14bに起因すると考えられる。実施例5の成形体11は、熱伝導性グリスと同等の熱抵抗値を有していた。熱伝導性グリスは一般に、非常に低い熱抵抗値を有しており、優れた熱伝導性能を発揮する。しかしながら、熱伝導性グリスには、再利用性の問題、粘度の変化等による管理及び取り扱い上の問題、並びに使用時における空気混入、はみ出し、揮発などの信頼性上の問題がある。これに対して、本発明の成形体11は、熱伝導性グリスにおける上述の問題を生じることなく、熱伝導性グリスと同等の熱抵抗値を得ることができる。
【0066】
一方、比較例1及び2においては、ハンドリング性に関する評価、及び熱抵抗値に関する結果が各実施例に比べて劣っていた。そのため、各比較例の成形体11は、各実施例に比べて熱伝導性能及びハンドリング性の両方が劣っていた。
【0067】
次に、前記実施形態から把握できる技術的思想について以下に記載する。
・ 前記繊維状充填材の突部を有する端部において、繊維状充填材の繊維軸方向に直交する断面は、繊維状充填材の軸部における繊維軸方向に直交する断面に比べて大きい請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性成形体。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】(a)は本実施形態の成形体を示す断面図、(b)は成形体を示す拡大断面図。
【図2】成形工程後の成形体を示す断面図。
【図3】(a)は露出工程後の成形体を示す断面図、(b)は成形体を示す拡大断面図。
【図4】(a)は発熱体及び放熱体に挟持された成形体を示す断面図、(b)は成形体を示す拡大断面図。
【図5】(a)は実施例1の露出工程後の成形体の外面を該外面の上方から撮影した電子顕微鏡写真を示す図であり、(b)は実施例1の露出工程後の成形体の外面を該外面の斜め上方から撮影した電子顕微鏡写真を示す図である。
【図6】(a)は実施例1の形成工程後の成形体の外面を該外面の上方から撮影した電子顕微鏡写真を示す図であり、(b)は実施例1の形成工程後の成形体の外面を該外面の斜め上方から撮影した電子顕微鏡写真を示す図である。
【図7】実施例1の形成工程後の成形体の断面を撮影した電子顕微鏡写真を示す図である。
【図8】実施例3の形成工程後の成形体の外面を該外面の斜め上方から撮影した電子顕微鏡写真を示す図である。
【図9】実施例3の形成工程後の成形体の外面を該外面の上方から撮影した電子顕微鏡写真を示す図である。
【符号の説明】
【0069】
11…成形体、12…高分子マトリックス、13…熱伝導性充填材、14…繊維状の熱伝導性充填材としての繊維状充填材、14b…突部、16…外面、18…発熱体、19…放熱体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発熱体と放熱体との間に介在して用いられ、高分子マトリックスと、熱伝導性充填材とを含有する熱伝導性高分子組成物から成形される熱伝導性成形体であって、
前記熱伝導性充填材の少なくとも一部が、繊維状に形成されるとともに一定方向に配向され、
前記熱伝導性成形体において、前記配向の方向と交差する外面上には、前記少なくとも一部の配向された熱伝導性充填材の端部が露出しており、該端部には、前記外面に沿って延びる突部が形成されており、
前記熱伝導性成形体はその使用時に、前記外面が発熱体及び放熱体の少なくとも一方に接触するように、発熱体と放熱体との間に介在されることを特徴とする熱伝導性成形体。
【請求項2】
前記少なくとも一部の配向された熱伝導性充填材が炭素繊維である請求項1に記載の熱伝導性成形体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の熱伝導性成形体の製造方法であって、
前記熱伝導性高分子組成物を調製する調製工程と、
前記繊維状の熱伝導性充填材を一定方向に配向させる配向工程と、
前記熱伝導性充填材の配向を維持した状態で熱伝導性成形体を成形する成形工程と、
前記配向された熱伝導性充填材の端部を前記外面上に露出させる露出工程と、
前記熱伝導性充填材の端部に突部を形成する形成工程とを備えていることを特徴とする熱伝導性成形体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−326976(P2007−326976A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−160019(P2006−160019)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(000237020)ポリマテック株式会社 (234)
【Fターム(参考)】