説明

熱処理導電性組成物、並びにそれを有してなる導電性塗料、導電性繊維材料、及び面状発熱体

【課題】 適度な電気抵抗値と導電性とを有し、しかも面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率が小さい導電性繊維材料、及びそれを有する面状発熱体を提供すること。
【解決手段】 ポリウレタン(A)100重量部及び導電性物質(B)70〜180重量部からなる導電性組成物を、前記ポリウレタン(A)の軟化点より5〜30℃低い温度にて熱処理してなる熱処理導電性組成物、その熱処理導電性組成物を繊維材料に被覆してなる導電性繊維材料、及びこの導電性繊維材料を有することを特徴とする面状発熱体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱処理導電性組成物、それを溶媒に溶解又は分散させてなる導電性塗料、熱処理導電性組成物を繊維材料に被覆してなる導電性繊維材料、及び導電性繊維材料を有してなる面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性繊維材料は、合成繊維や天然繊維などの繊維材料を基材として導電性塗料を塗布し、この繊維材料に導電性を付与することにより一般に製造されている。
前記導電性塗料は、通常、ポリウレタンなどのベースポリマーを溶媒に溶解又は分散させ、これに例えばステンレス、スズ、銅、アルミニウム等の金属粉末;酸化亜鉛等の金属酸化物;二酸化チタンコーティングマイカ、シリコン、硫化コバルト等の導電性フィラー;などの導電性物質とを混合分散したものが知られている。
【0003】
しかしながら、一般に知られているポリウレタンなどのベースポリマーと、前記金属粉末を導電性繊維材料等の導電性発熱素子等に使用すると、電気抵抗値が過度に低くなり過ぎるという問題がある。また、導電性物質として金属酸化物を用いると、形成される塗膜の電気抵抗値が過度に高くなり過ぎ、導電性発熱素子等に使用すると導電性が不足するという問題がある。
【0004】
一方、導電性カーボンブラックや鱗片状グラファイトカーボン等の炭素質導電性物質も導電性を付与できることが知られている。例えば、特定割合の導電性カーボンブラックと鱗片状グラファイトカーボンとを配合してなる導電性塗料は貯蔵安定性に優れ、導電性に優れた塗膜を形成できることが提案されている(特許文献1)。しかし、そこに報告されているような導電性塗料を、導電性繊維材料の導電性発熱素子等に適用するにあたっては、発熱素子への付加電圧が制限されるという問題があり、更なる改良が求められている。特に、前記導電性繊維材料を面状発熱体などに用いる場合に、面状発熱体の発熱層を製造した後、出荷までの間に時間と共に前記導電性繊維材料の電気抵抗値が変化してしまい、出力が安定しにくいという問題がある。
【0005】
【特許文献1】特開2001−64565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、適度な電気抵抗値と導電性とを有し、しかも面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率の小さい導電性組成物、及びそれを有してなる導電性繊維材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するためにバインダー樹脂の種類及び導電性繊維材料に対する後処理等について鋭意検討を重ねた結果、ポリウレタン及び導電性物質からなる導電性組成物を、ある範囲の温度で熱処理することにより、熱処理導電性組成物を繊維材料に被覆してなる導電性繊維材料が、適度な電気抵抗値と導電性を有し、かつ面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率が小さいことを見出して、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は、
1.ポリウレタン(A)100重量部及び導電性物質(B)70〜180重量部からなる導電性組成物を、前記ポリウレタン(A)の軟化点より5〜30℃低い温度にて熱処理してなる熱処理導電性組成物;
2.ポリウレタン(A)が、
炭素数8〜22の芳香族多官能イソシアネート(a1)10〜40重量%、及び炭素数5〜9のオキシカルボニルオキシポリメチレン繰り返し単位を有する、ポリカーボネートポリオール(a2)90〜60重量%を、共重合してなるポリカーボネートポリウレタン(A’)、
及び/又は、
炭素数8〜22の芳香族多官能イソシアネート(a1)33〜53重量%、及び炭素数3〜6のオキシポリメチレン繰り返し単位を有する、ポリエーテルポリオール(a3)67〜47重量%を、共重合してなるポリエーテルポリウレタン(A’’)、
である、1に記載の熱処理導電性組成物;
3.導電性物質(B)がカーボンブラック(B’)である、1又は2に記載の熱処理導電性組成物;
4.ポリウレタン(A)100重量部、ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以下のカーボンブラック(B’’)70〜120重量部、及びジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上のカーボンブラック(B’’’)1〜30重量部からなる導電性組成物を、前記ポリウレタン(A)の軟化点より5〜30℃低い温度にて熱処理してなる、1又は3に記載の熱処理導電性組成物;
5.1〜4のいずれかに記載の熱処理導電性組成物が、前記熱処理導電性組成物中のポリウレタン(A)100重量部に対して500〜1500重量部の溶媒(D)中に溶解及び/又は分散してなる導電性塗料;
6.1〜4のいずれかに記載の熱処理導電性組成物を、繊維材料に被覆してなる導電性繊維材料;
7.6に記載の導電性繊維材料を有してなる面状発熱体;
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
繊維材料に、それぞれ特定割合のポリウレタン及び導電性物質からなる導電性組成物を前記ポリウレタン(A)の軟化点より5〜30℃低い温度にて熱処理してなる熱処理導電性組成物を被覆してなる本発明の導電性繊維材料は、適度な電気抵抗値と導電性とを有するため、面状発熱体に適用すると過不足のない適度な発熱性を示す。また、本発明の導電性繊維材料は、面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率が小さいため、面状発熱体等の発熱体の発熱素子として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の熱処理導電性組成物は、ポリウレタン(A)100重量部及び導電性物質(B)70〜180重量部からなる導電性組成物を、前記ポリウレタン(A)の軟化点より5〜30℃低い温度にて熱処理してなる。
【0011】
前記ポリウレタン(A)は特に限定されないが、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーには、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系などがあり、市販又は公知の方法で調製したものを1種又は2種以上併用して用いることができる。中でも、炭素数8〜22の芳香族多官能イソシアネート(a1)10〜40重量%、及び炭素数5〜9のオキシカルボニルオキシポリメチレン繰り返し単位を有する、ポリカーボネートポリオール(a2)90〜60重量%を、共重合してなるポリカーボネートポリウレタン(A’)、並びに、炭素数8〜22の芳香族多官能イソシアネート(a1)33〜53重量%、及び炭素数3〜6のオキシポリメチレン繰り返し単位を有する、ポリエーテルポリオール(a3)67〜47重量%を共重合してなるポリエーテルポリウレタン(A’’)、がより好ましく用いられる。特に好ましくは、ポリカーボネートポリウレタン(A’)である。
【0012】
前記ポリカーボネートポリウレタン(A’)の共重合成分である炭素数8〜22の芳香族多官能イソシアネート(a1)の例としては、1,4−ベンゼンジイソシアネート(以下、BDIと略記することがある)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、MDIと略記することがある)、水添BDI、水添MDI等が挙げられる。また、その使用量は、ポリカーボネートポリウレタン(A’)に用いる全共重合成分の、10〜40重量%、好ましくは12〜35重量%である。使用量が前記範囲にあることにより、生成するポリカーボネートポリウレタンの収率が高くなり、また分子量が高くなるため導電性組成物の機械的強度に優れる。
【0013】
ポリカーボネートポリウレタン(A’)は、前記芳香族多官能イソシアネート(a1)と共に、炭素数5〜9のオキシカルボルニルオキシポリメチレン鎖を有する、ポリカーボネートポリオール(a2)を共重合成分とする。該ポリカーボネートポリオール(a2)の具体例としては、(ポリ(オキシカルボニルオキシテトラメチレン))ジオール、(ポリ(オキシカルボニルオキシヘキサメチレン))ジオール、(ポリ(オキシカルボニルオキシオクタメチレン))ジオール、などが挙げられる。また、その使用量は、ポリカーボネートポリウレタン(A’)に用いる全共重合成分の、90〜60重量%、好ましくは88〜65重量%である。使用量が前記範囲にあることにより、生成するポリカーボネートポリウレタン(A’)の収率が高くなり、また分子量が高くなるため導電性組成物の機械的強度に優れる。
【0014】
ポリカーボネートポリウレタン(A’)には、前記芳香族多官能イソシアネート(a1)及びポリカーボネートポリオール(a2)と共に、前記芳香族多官能イソシアネート(a1)と共重合可能な、前記ポリカーボネートポリオール(a2)以外のポリオール(a4)を共重合させることができる。この例としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。この場合、ポリオール(a4)の使用量は、ポリカーボネートポリウレタン(A’)に用いる全共重合成分の30重量%以下である。
【0015】
また、これらの成分の共重合には、公知の触媒を用いることができる。
【0016】
前記ポリエーテルポリウレタン(A’’)の共重合成分である炭素数8〜22の芳香族多官能イソシアネート(a1)としては、前述のものが挙げられる。また、その使用量は、ポリエーテルポリウレタン(A’’)に用いる全共重合成分の、33〜53重量%、好ましくは38〜48重量%である。使用量が前記範囲にあることにより、生成するポリエーテルポリウレタン(A’’)の収率が高くなり、また分子量が高くなるため導電性組成物の機械的強度に優れる。
【0017】
ポリエーテルポリウレタン(A’’)は、前記芳香族多官能イソシアネート(a1)と共に、炭素数3〜6のオキシポリメチレン鎖を有する、ポリエーテルポリオール(a3)を共重合成分とする。該ポリエーテルポリオール(a3)の具体例としては、(ポリ(オキシトリメチレン))ジオール、(ポリ(オキシテトラメチレン))ジオール、(ポリ(オキシヘキサメチレン))ジオールなどが挙げられる。また、その使用量は、ポリエーテル系ポリウレタン(A’’)に用いる全共重合成分の、67〜47重量%、好ましくは62〜52重量%である。使用量が前記範囲にあることにより、生成するポリエーテルポリウレタン(A’’)の収率が高くなり、また分子量が高くなるため導電性組成物の機械的強度に優れる。
【0018】
ポリエーテルポリウレタン(A’’)には、前記芳香族多官能イソシアネート(a1)及びポリエーテルポリオール(a3)と共に、前記芳香族多官能イソシアネート(a1)と共重合可能な、前記ポリエーテルポリオール(a3)以外のポリオール(a5)を共重合させることができる。この例としては、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどが挙げられる。この場合、その使用量は、ポリエーテルポリウレタン(A’’)に用いる全共重合成分の20重量%以下である。
【0019】
また、これらの成分の共重合には、公知の触媒を用いることができる。
【0020】
前記ポリエーテルポリウレタン(A’’)の形態は特に限定されるものではなく、可溶性ポリウレタン、熱可塑性ポリウレタン、一液型又は二液型の溶液状ポリウレタン、ワンショット法又はプレポリマー法ポリウレタンのいずれも用いることができる。
【0021】
本発明の熱処理導電性組成物に用いる導電性物質(B)は、無機導電性物質と有機導電性物質とに大別される。無機導電性物質としては、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウムなどの金属紛;酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化タングステンなどの金属酸化物;鱗片状グラファイトカーボン、カーボンブラック、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブなどの炭素質導電性物質;などが挙げられる。また、有機導電性物質としては、ポリアニリン、ポリピロールなどの導電性高分子;鉄フタロシアニン、フェロセンなどに代表される有機金属錯体;などが挙げられる。その中でもカーボンブラック(B’)が好ましい。これらは単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0022】
前記導電性物質(B)の使用量は、前記ポリウレタン(A)100重量部に対して、70〜180重量部、好ましくは80〜150重量部、より好ましくは90〜120重量部である。導電性物質(B)の使用量が70重量部未満では、導電性繊維材料の電気抵抗率が高くなり過ぎ、一定電圧下においては導電性に劣ると共に、面状発熱体用として使用する際に発熱量が小さくなる傾向にある。他方、180重量部を超えると、導電性繊維材料の電気抵抗率が低くなり過ぎ、所定の抵抗値の導電性繊維材料が得られないとともに、機械的な強度が低下し、基材からの剥離や脱落が起きやすくなる。
【0023】
前記カーボンブラック(B’)の種類及び使用量について好ましくは、ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以下のカーボンブラック(B’’)をポリウレタン(A)100重量部に対して70〜120重量部、及びジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上のカーボンブラック(B’’’)をポリウレタン(A)100重量部に対して1〜30重量部併用することである。
【0024】
ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以下のカーボンブラック(B’’)の具体例(商品例)としては、例えば三菱カーボンブラック#5、三菱カーボンブラック#25、三菱カーボンブラック#45、三菱カーボンブラック#45L、三菱カーボンブラック#85(以上、三菱化学(株)社製)、トーカブラック#7550、トーカブラック#8300(以上、東海カーボン(株)社製)等を挙げることができる。70ml/100g以下のカーボンブラックを用いることが特に好ましい。
【0025】
一方、ジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上のカーボンブラック(B’’’)の具体例(商品例)としては、例えばケッチェンブラックEC(ライオン(株)社製)、三菱カーボンブラック#3050B、三菱カーボンブラック#3350B(以上、三菱化学(株)社製)、トーカブラック#4500、トーカブラック#5500(以上、東海カーボン(株)社製)等を挙げることができる。200ml/100g以上のカーボンブラックを用いることが特に好ましい。
【0026】
前記ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以下のカーボンブラック(B’’)については、ポリウレタン(A)100重量部に対して80〜110重量部を用いるのがより好ましく、85〜105重量部を用いるのが更に好ましい。また、ジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上のカーボンブラック(B’’’)については、ポリウレタン(A)100重量部に対して2〜20重量部を用いるのがより好ましく、3〜15重量部を用いるのが更に好ましい。
【0027】
前記カーボンブラック(B’)の粒子径については特に制限はないが、10〜80nmの範囲のものを用いるのが好ましい。この範囲とすることにより、導電性塗料の取り扱い性に優れる。
【0028】
本発明の熱処理導電性組成物は、前述の導電性組成物を、前記ポリウレタン(A)の軟化点より5〜30℃低い温度にて熱処理してなる。前記ポリウレタン(A)の軟化点より10〜25℃低い温度にて熱処理するのが好ましい。前記の熱処理を行うことにより、熱処理導電性組成物を繊維材料に被覆してなる導電性繊維材料が、適度な電気抵抗値と導電性を有し、かつ面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率を小さくすることができる。
熱処理温度が前記ポリウレタン(A)の軟化点より30℃を超えて低い場合は、熱処理の効果がなく、一方、熱処理温度が前記ポリウレタン(A)の軟化点より5℃低い温度よりも高い場合は、熱処理導電性組成物が脆くなったり、強度が落ちてしまう可能性があるため、好ましくない。
【0029】
熱処理方法には特に制限はないが、オーブン中などでの、加熱空気による処理が好ましい。
【0030】
熱処理時間には特に制限はないが、1時間〜200時間が好ましく、20時間〜100時間がより好ましい。前記範囲内での熱処理により、面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率を小さくすることをより効果的に行うことができる。
【0031】
本発明の導電性塗料は、本発明の熱処理導電性組成物が、前記熱処理導電性組成物中のポリウレタン(A)100重量部に対して500〜1500重量部の溶媒(D)中に溶解及び/又は分散してなる。
【0032】
本発明の導電性塗料に用いる溶媒(D)としては、前記ポリウレタン(A)を溶解又は分散できるものであれば特に制限はないが、好ましい例としては以下の極性有機溶媒が挙げられる。すなわち、テトラヒドロフラン(以下、THFと略記することがある)、フラン、テトラヒドロピラン、ピラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、トリオキサンなどの環状エーテル化合物;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのジアルキルケトアミド化合物;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのジアルキルスルホキシド化合物;アセトン、メチルエチルケトン(以下、MEKと略記することがある)、ジエチルケトンなどのケトン化合物;エタノール、2−プロパノール、1−ブタノールなどのアルコール化合物;ジクロロエチレン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素化合物;などを挙げることができる。中でも環状エーテル化合物、ケトン化合物がより好ましく、更に好ましくはテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、メチルエチルケトンが挙げられる。これらは1種又は2種以上を併用して用いることができる。
【0033】
前記溶媒(D)の使用量は、前記ポリウレタン(A)100重量部に対して、通常、500〜1500重量部、好ましくは700〜1300重量部、より好ましくは800〜1200重量部である。溶媒量が500重量部未満では、導電性塗料の粘度が高くなり過ぎて取り扱いが困難になり、他方、1500重量部を超えると、導電性塗料の粘度が低くなり過ぎて基材である繊維材料に熱処理導電性組成物が被覆されにくくなる。
【0034】
本発明の導電性塗料には、所望により可塑剤、分散剤、塗面調整剤、流動調整剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、架橋反応促進剤、架橋反応抑制剤など公知の各種添加剤を、本発明の効果を損なわない程度に配合することができる。
【0035】
本発明の導電性繊維材料は、本発明の熱処理導電性組成物を、繊維材料に被覆してなる。
【0036】
ここで「被覆」とは、単に繊維材料の外表面を覆うことのみならず、単繊維を撚ってなる糸などの場合は、その糸の中に熱処理導電性組成物が含浸し、糸を構成する単繊維を1本毎に被覆することをも意味する。
【0037】
本発明の導電性繊維材料の基材となる繊維材料の形状、材質、形態などは特に限定されない。例えば、短繊維、長繊維、単繊維糸、短繊維又は長繊維の集合体である糸、糸の集合体である布帛、などを用いることができる。また、繊維材料の材質は、合成繊維であっても、天然繊維であってもよい。これらの中でも、ポリエステル、ナイロン又は綿からなる糸を用いることが好ましい。ポリエステルとしてはアルキル系ポリエステル、アリール系ポリエステルなど任意のもの選択して使用することができる。ナイロンとしては、ナイロン−6、ナイロン−6,6など任意のものを使用することができる。繊維材料としての糸の形態は特に限定されないが、複数本撚り合わせて500〜1500デニールの範囲であることが好ましい。
【0038】
本発明の熱処理導電性組成物を繊維材料に被覆する方法は特に限定されず、熱処理導電性組成物を溶媒(D)に溶解及び/又は分散させてなる本発明の導電性塗料を繊維材料に塗布し、溶媒を除去する方法;熱処理導電性組成物を熱により融解し繊維材料に塗布する方法;熱処理導電性組成物を先ずシート状に成形し、それを繊維材料に巻きつけた後に熱により融解して被覆する方法;前述した導電性組成物(熱処理していないもの)を、溶媒(D)に溶解及び/又は分散させてなる導電性塗料を、繊維材料に塗布し、溶媒を除去した後、前述の熱処理を行う方法;熱処理していない導電性組成物を熱により融解し繊維材料に塗布した後、前述の熱処理を行う方法;熱処理していない導電性組成物を先ずシート状に成形し、それを繊維材料に巻きつけた後に熱により融解して被覆し、その後前述の熱処理を行う方法;などが挙げられる。これらの被覆方法の中でも、熱処理導電性組成物を溶媒(D)に溶解及び/又は分散させてなる本発明の導電性塗料を繊維材料に塗布し、溶媒を除去する方法、並びに、前述した導電性組成物(熱処理していないもの)を、溶媒(D)に溶解及び/又は分散させてなる導電性塗料を、繊維材料に塗布し、溶媒を除去した後、前述の熱処理を行う方法が好ましい。
【0039】
導電性塗料を繊維材料に塗布する方法は特に限定されず、従来行われている塗装方法によって塗布することができる。すなわち、導電性塗料を、浸漬塗装、エアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、各種静電塗装、ロール塗装、刷毛塗り等の手段により繊維材料に塗布し、含浸させることができる。
【0040】
本発明の面状発熱体は、前述した本発明の導電性繊維材料を有してなる。かかる面状発熱体は、例えば、導電性繊維材料のうち糸状のものを、2つの電極間に延びる導電性緯糸とし、電極と略平行に延びる非導電性経糸と織布を形成させてこれを発熱層とし、発熱層及び電極の表裏面に絶縁シートからなる絶縁層を積層させることにより製造することができる。また、本発明の面状発熱体は、熱処理を行っていない導電性組成物及び/又は熱処理を行っていない導電性繊維材料を用いて製造した面状発熱体の完成後、該面状発熱体に前述の熱処理を行うことによっても得ることができる。
【0041】
以下、本発明の面状発熱体を図面に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態に係る面状発熱体の概略斜視図、図2は図1に示すII−II線に沿う要部断面図である。
【0042】
図1及び図2に示すように、本発明に係る面状発熱体2は、面状の発熱層4と、この発熱層4の両面に積層された絶縁層6とを有する。発熱層4の両側には、長手方向に沿って細長い電極8,8が形成してある。
【0043】
発熱層4としては、本実施形態では、電極8,8間に延びる、本発明の導電性繊維材料からなる導電性緯糸と、電極8,8と略平行に延びる非導電性経糸との織布が用いられる。非導電性経糸としては、例えばポリエステル繊維を樹脂溶液に浸漬し、乾燥して得られる糸などが用いられる。
【0044】
発熱層4の両側に配置される電極8,8は、特に限定されないが、本実施形態では、発熱層4を構成する導電性緯糸に接続するように編み込まれる可撓性金属線で構成される。電極8の厚みは、発熱層4と同程度であり、0.8〜1.4mm程度である。
【0045】
絶縁層6,6は、発熱層4及び電極8,8を全て被覆するように表裏面に積層される。絶縁シートの両側端10,10は、相互に熱融着される。絶縁層6の厚みは、本実施形態では、0.2〜0.5mmであり、カレンダー法などで成形される。
【0046】
なお、本発明の面状発熱体は、前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の形態をとることができる。
【0047】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。実施例、比較例中の「部」及び「%」は重量基準である。試験及び評価は以下の方法により実施した。
【0048】
〔測定法1〕カーボンブラックのジブチルフタレート(以下、DBPと略記することがある)吸油量
カーボンブラックのDBP吸油量は下記の試験方法で測定した値である。
カーボンブラックの乾燥試料1.00±0.01gを平滑なガラス板上に置く。粒状の場合は、へらで適度の圧力をかけ粒を砕く。ビュレットから必要なDBP量の約1/2をガラス板上に静かに注ぎ加え、DBPを円状に均等に広げてから前記試料を少しずつDBPの上に移して分散させ、へらで小円形を描く操作で練る。へらに付着した試料は、他のへらで取り除き、更にDBP約1/3〜1/4を加え、同一操作を繰り返して混合物が均一になるようにする。終点に近くなったら1滴ずつ加えて、更に終点近くなったら1/2滴ずつ加え、全体が一つの締まった塊状となった点を終点とする。この操作は、10〜15分で終わるようにする。操作終了後3分経過してからビュレット中のDBP滴下量を読み、次式によって吸油量を算出する。
OA=(V/W)×100
(OA:DBP吸油量(ml/100g)、V:終点までに用いたDBPの使用量(ml)、W:乾燥試料の重さ(g))
【0049】
〔測定法2〕面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率
面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率は下記の試験方法で測定した値である。
製造直後の面状発熱体の2つの電極間にテスターを接続し、両電極間の電気抵抗値をテスターにて読み取り、それをRとする。1週間後、同様に両電極間の電気抵抗値を測定し、Rとする。前記R及びRとから、面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率x(%)を下記式により求める。
x=100×(R−R)/R (%)
【実施例1】
【0050】
ポリプロピレン製容器中で軟化点が82℃のポリカーボネートポリウレタン(炭素数7のオキシカルボニルオキシポリメチレン繰り返し単位を有する、ヘキサメチレングリコールとホスゲンとの等モル反応物(塩酸は脱離して分離除去した)であるポリカーボネートポリオール77.3重量%、並びに、炭素数15の芳香族系多官能イソシアネートである、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)22.7重量%を共重合したポリカーボネートポリウレタン)100重量部をテトラヒドロフラン900重量部に溶解させた。その後、その溶液中に、ジブチルフタレート吸油量が53ml/100gのカーボンブラックである三菱カーボンブラック#45L(三菱化学(株)社製)90重量部を加え、更にジブチルフタレート吸油量が360ml/100gのカーボンブラックであるケッチェンブラックEC(ライオン(株)社製)10重量部を加え、更に顔料分散及び混合用としてジルコニアビーズ1000重量部を入れ、顔料分散機((株)東洋精機製作所製)で2時間振とうさせた。その後デカンテーションでジルコニアビーズを取り除き、導電性塗料を得た。
繊維材料としてポリエステル製のマルチフィラメントの糸(1000デニール)を基糸として用い、その糸を、前記の方法で得た導電性塗料を塗布した後、乾燥し、基糸1mあたり0.04gの導電性組成物で被覆された糸を作製し、この糸に対して、オーブン中にて、70℃×90時間の、加熱空気による熱処理を行い、導電性繊維材料を得た。
作製した導電性繊維材料を緯糸、前記基糸を経糸及び緯糸として用い、長さ200mm、直径0.8mmのステンレス線を20本用意し、はじめに前記ステンレス線10本からなる経糸と、導電性繊維材料からなる緯糸及び前記基糸からなる緯糸とを用いて織り布(電極)を作製した。なお、導電性繊維材料同士は接触しないようにし、その間を10mm空け、その間は基糸を緯糸に用いることで隙間がないようにした。その後、引き続き、前記ステンレス線の代わりに前記基糸を経糸として幅200mmに渡って織り、その後、経糸として前記ステンレス線10本を用い、同様に織り、幅8mmの電極2本が両端に略平行にある発熱層を作製した。発熱体は、2本の電極間に、幅200mm、長さ200mmに渡って存在する。この発熱層には、長さ200mmの前記導電性繊維材料20本が、略平行に2つの電極を結んでいる。2つの電極からそれぞれ導電線(銅製)を引き、発熱層及び電極を、塩化ビニル樹脂製シート(絶縁層:長さ250mm、幅250mm、厚み0.4mm)2枚を用いて発熱層がほぼ真ん中にくるように、かつ3つの層(3つの層とも略矩形)の四辺がそれぞれ略平行になるように挟み、2枚の塩化ビニルシートの周囲を幅15mmに渡って熱融着し、面状発熱体を作製した。この面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率(製造直後の電気抵抗値に対する製造後1週間後の電気抵抗値の変化率)を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
〔比較例1〕
導電性組成物で被覆された糸に対して熱処理を行わなかった他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性繊維材料及び面状発熱体を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【実施例2】
【0052】
軟化点が82℃のポリカーボネートポリウレタン100重量部の代わりに、軟化点が80℃のポリエーテルポリウレタン(トリメチレングリコール42.2重量%及びテトラメチレングリコール15.3重量%とを縮重合したポリエーテルポリオール、並びに、炭素数15の芳香族系多官能イソシアネートである、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)42.5重量%を共重合したポリエーテルポリウレタン)100重量部を用いた他は、実施例1と同様の操作を行い、導電性繊維材料及び面状発熱体を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0053】
〔比較例2〕
導電性組成物で被覆された糸に対して熱処理を行わなかった他は、実施例2と同様の操作を行い、導電性繊維材料及び面状発熱体を得、実施例1と同様に評価した。評価結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1の結果から、熱処理を行っていない導電性繊維材料を用いて作製された面状発熱体(比較例1及び比較例2)では、面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率(製造直後の電気抵抗値に対する製造後1週間後の電気抵抗値の変化率)が大きくなった。これに対して、前述の熱処理がなされている本発明の導電性繊維材料を用いて作製された面状発熱体(実施例1及び実施例2)では、面状発熱体の発熱層を製造した後の経時による電気抵抗値の変化率が小さくなった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の導電性組成物を有してなる本発明の導電性繊維材料は、導電性発熱素子等に使用するのに好適であり、本発明の面状発熱体は、電気温布団、育苗用土壌加熱体、融雪・融氷用道路加熱体等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】図1は本発明の一実施形態に係る面状発熱体の概略斜視図である。
【図2】図2は図1に示すII−II線に沿う要部断面図である。
【符号の説明】
【0058】
2… 面状発熱体
4… 発熱層
6… 絶縁層
8… 電極
10… 側端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリウレタン(A)100重量部及び導電性物質(B)70〜180重量部からなる導電性組成物を、前記ポリウレタン(A)の軟化点より5〜30℃低い温度にて熱処理してなる熱処理導電性組成物。
【請求項2】
ポリウレタン(A)が、
炭素数8〜22の芳香族多官能イソシアネート(a1)10〜40重量%、及び炭素数5〜9のオキシカルボニルオキシポリメチレン繰り返し単位を有する、ポリカーボネートポリオール(a2)90〜60重量%を、共重合してなるポリカーボネートポリウレタン(A’)、
及び/又は、
炭素数8〜22の芳香族多官能イソシアネート(a1)33〜53重量%、及び炭素数3〜6のオキシポリメチレン繰り返し単位を有する、ポリエーテルポリオール(a3)67〜47重量%を、共重合してなるポリエーテルポリウレタン(A’’)、
である、請求項1に記載の熱処理導電性組成物。
【請求項3】
導電性物質(B)がカーボンブラック(B’)である、請求項1又は2に記載の熱処理導電性組成物。
【請求項4】
ポリウレタン(A)100重量部、ジブチルフタレート吸油量が100ml/100g以下のカーボンブラック(B’’)70〜120重量部、及びジブチルフタレート吸油量が150ml/100g以上のカーボンブラック(B’’’)1〜30重量部からなる導電性組成物を、前記ポリウレタン(A)の軟化点より5〜30℃低い温度にて熱処理してなる、請求項1又は3に記載の熱処理導電性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱処理導電性組成物が、前記熱処理導電性組成物中のポリウレタン(A)100重量部に対して500〜1500重量部の溶媒(D)中に溶解及び/又は分散してなる導電性塗料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の熱処理導電性組成物を、繊維材料に被覆してなる導電性繊維材料。
【請求項7】
請求項6に記載の導電性繊維材料を有してなる面状発熱体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−206706(P2006−206706A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19281(P2005−19281)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】