説明

熱処理用ヒータおよびその製造方法

【課題】製造工程が簡素でコストが安価であり、剛性が高い熱処理用ヒータを提供する。
【解決手段】本発明による熱処理用ヒータ1は、炭化ケイ素の多孔体を仮焼した仮焼体3と、仮焼体3の外表面を被覆した、絶縁材料からなる被覆材5とを備えている。従って、剛性が低い多孔体の仮焼体3を絶縁材からなる被覆材5で被覆することによって、耐久性および輻射効率が高く、製造工程がシンプルで低コストの熱処理用ヒータ1を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱処理用ヒータおよびその製造方法に関し、特に、半導体ウエハ及び産業用途での熱処理を施す炭化ケイ素焼結体からなる熱処理用ヒータとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化ケイ素からなる仮焼体に溶融した金属ケイ素を浸透させて、毛細管現象によって仮焼体に溶融金属ケイ素を吸い上げることによって、この吸い上げた金属ケイ素と仮焼体中の炭素とを反応させて炭化ケイ素を得るヒータ用炭化ケイ素焼結体の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−151719号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1に記載されたヒータでは、製造工程が複雑でかつコストが高いという問題があった。一方、溶融金属ケイ素を浸透させないで得られるヒータでは、剛性が低いという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、製造工程が簡素でコストが安価であり、剛性が高い熱処理用ヒータおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴は、炭化ケイ素の多孔体を仮焼した仮焼体(仮焼体3)と、前記仮焼体の外表面を被覆した、絶縁材料からなる被覆材(被覆材5)とを備えたことを要旨とする。
【0007】
従って、剛性が低い多孔体の仮焼体を絶縁材からなる被覆材で被覆することによって、耐久性および輻射効率が高く、製造工程がシンプルで低コストの熱処理用ヒータを得ることができる。
【0008】
その他の特徴では、前記被覆材(被覆材5)は、シリカからなることを要旨とする。
【0009】
その他の特徴では、前記炭化ケイ素仮焼体(仮焼体3)に石英ガラス板(石英ガラス板7,9)を接合したことを要旨とする。
【0010】
その他の特徴では、本発明に係る熱処理用ヒータの製造方法は、炭化ケイ素粉末を溶媒中に分散させることにより、前記炭化ケイ素粉末を含む混合体からなるスラリーを作製する工程と、前記スラリーを成型し、乾燥させたグリーン体を仮焼して仮焼体(仮焼体3)を作製する工程と、前記仮焼体の外表面を絶縁材である被覆材(被覆材5)で被覆する工程と、を有することを要旨とする。
【0011】
その他の特徴では、前記被覆材(被覆材5)は、シリカからなることを要旨とする。
【0012】
その他の特徴では、前記仮焼体(仮焼体3)を絶縁材で被覆したのち、前記仮焼体に石英ガラス板(石英ガラス板7,9)を接合することを要旨とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る熱処理用ヒータおよびその製造方法によれば、耐久性および輻射効率が高く、製造工程がシンプルで低コストの熱処理用ヒータを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態による熱処理用ヒータの断面図である。
【図2】本発明の第2実施形態による熱処理用ヒータの断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態による熱処理用ヒータの断面図である。
【図4】本発明の第4実施形態による熱処理用ヒータの製造工程を示すフロー図である。
【図5】実施例における各ヒータに電流を流す時間と抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【図6】実施例における比較例1のヒータに電流を流す時間と抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【図7】実施例における比較例2のヒータに電流を流す時間と抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【図8】実施例における本発明例のヒータに電流を流す時間と抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【図9】実施例におけるヒータの被覆材について、面粗さによる輻射率変化を示すグラフである。
【図10】実施例におけるヒータについて、体積抵抗の温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る熱処理用ヒータの詳細を図面に基づいて説明する。ただし、図面は模式的なものであり、各材料層の厚みやその比率などは現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
【0016】
[第1実施形態]
まず、本発明の第1実施形態に係る熱処理用ヒータを説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1実施形態による熱処理用ヒータの断面図である。図1に示すように、本実施形態による熱処理用ヒータ1は、仮焼体3と、該仮焼体3の外表面を被覆する被覆材5とから構成されている。
【0018】
前記仮焼体3は、炭化ケイ素粉体と炭素粉体とを用いて、鋳込成型、プレス成形、押出成型等の方法によって成形した多孔体を乾燥及び仮焼することで作製することができる。また、炭化ケイ素粉末、分散材、バインダー、可塑剤などを分散させることにより、これらの混合体からなるスラリーを作製し、前記スラリーを鋳込成型し、乾燥させたグリーン体を仮焼して仮焼体を作製することもできる。また、前記スラリーから造粒粉を作製し、前記造粒粉をプレス成型し、乾燥させたグリーン体を仮焼して、仮焼体を作製することもできる。
【0019】
仮焼体3の気孔率は、25%以上が好ましく、特に30%〜40%が好ましい。前記被覆材5は、シリカなどの絶縁材料であることが好ましい。
【0020】
以下に、本発明の実施形態による作用効果を説明する。
【0021】
(1)本実施形態による熱処理用ヒータ1は、炭化ケイ素の多孔体を仮焼した仮焼体3と、該仮焼体3の外表面を被覆した絶縁材料からなる被覆材5と、を備えている。従って、剛性が低い多孔体の仮焼体3を絶縁材からなる被覆材5で被覆することによって、耐久性および輻射効率が高く、製造工程がシンプルで低コストの熱処理用ヒータ1を得ることができる。
【0022】
(2)前記被覆材5は、光透過率の高いシリカからなるため、輻射率が高い熱処理用ヒータ1を得ることができる。
【0023】
[第2実施形態]
次いで、本発明の第2実施形態に係る熱処理用ヒータを説明する。ただし、前述した第1実施形態と同一構成部位には、同一符号を付して、説明を省略する。
【0024】
図2は、本発明の第2実施形態による熱処理用ヒータの断面図である。
【0025】
熱処理用ヒータ11は、外表面をシリカからなる被覆材5で被覆した仮焼体3と、該仮焼体3に被覆材5を介して接合した石英ガラス板7と、から構成されている。なお、石英ガラス板7は、石英ガラス以外に、熱処理時において耐熱性と透過性とを有するガラスであれば適用できる。
【0026】
以下に、本発明の実施形態による作用効果を説明する。
【0027】
(1)前記炭化ケイ素仮焼体3に、光透過率の高い石英ガラス板7を接合しているため、輻射率の高さを維持しつつ耐久性が更に向上する。
【0028】
[第3実施形態]
次いで、本発明の第3実施形態に係る熱処理用ヒータを説明する。ただし、前述した第1および第2実施形態と同一構成部位には、同一符号を付して、説明を省略する。
【0029】
図3は、本発明の第3実施形態による熱処理用ヒータの断面図である。
【0030】
熱処理用ヒータ21は、仮焼体3と、該仮焼体3の上面の上に載置された石英ガラス板7と、該仮焼体3の下面の下に配置された石英ガラス板9と、仮焼体の外周面の外側に設けられた融着剤10と、から構成されている。即ち、仮焼体3は上下から一対の石英ガラス板7,9で挟持されており、かつ、融着剤10によって覆っている。
【0031】
以下に、本発明の実施形態による作用効果を説明する。
【0032】
(1)前記炭化ケイ素仮焼体3に、光透過率の高い石英ガラス板7,9を接合しているため、輻射率の高さを維持しつつ耐久性が更に向上する。
【0033】
[第4実施形態]
次いで、本発明の第4実施形態に係る熱処理用ヒータの製造方法を説明する。ただし、前述した第1〜第3実施形態と同一構成部位には、同一符号を付して、説明を省略する。
【0034】
図4は、本実施形態による熱処理用ヒータの製造工程を示すフロー図である。図4に示すように、本実施形態による熱処理用ヒータの製造方法は、炭化ケイ素粉末を溶媒中に分散させることにより、炭化ケイ素粉末を含む混合体からなるスラリーを作製する工程と、前記スラリーを成型し、乾燥させたグリーン体を仮焼して仮焼体3を作製する工程と、該仮焼体3の外表面を絶縁材である被覆材5で被覆する工程と、を少なくとも有する。この方法によって製造された熱処理用ヒータ1は、図1に示す構造をしている。以下、鋳込成型を用いた製造方法を説明するが、成型方法は、これに限らず、プレス成形、押出成型等でも可能である。
【0035】
(1)混合体のスラリーを作製する工程
まず、炭化ケイ素粉末を溶媒中に分散させて、炭化ケイ素粉末を含む混合体からなるスラリーを作製する。具体的には、スラリーは、炭化ケイ素粉末、分散材、バインダー、可塑剤などを分散させることにより、これらの混合体から作製する。
【0036】
次に、ミキサー、遊星ボールミルなどの攪拌混合手段を用いて、6時間〜48時間、特に12時間〜24時間に渡って攪拌混合を行う。攪拌混合が十分に行われていないと、グリーン体中に気孔が均一分散されなくなるからである。
【0037】
(2)グリーン体を得る工程
得られたスラリーを鋳込み成形用型に流し込む。その後、放置、脱型した後、40℃〜60℃の温度条件下で加熱乾燥又は自然乾燥して溶媒を除去する。このようにして規定寸法のグリーン体、即ちスラリーから溶媒を除去して均一な気孔が内在する炭化ケイ素成形体が得られる。
【0038】
(3)仮焼工程
得られたグリーン体を真空雰囲気下1500℃〜1950℃まで12〜18時間程度かけて昇温する。加熱温度が1500℃未満だと脱脂が不十分になる。昇温速度は、配合物中のバインダーの急激な熱分解による爆裂を防止するため100℃/1hr以下とする。そして、一定の温度に達した後、真空雰囲気下その温度条件に30分間保持することで仮焼体3が得られる。
(4)被覆工程
前記仮焼体3の外表面を、例えばスラリー状にした絶縁材である被覆材5で被覆することによって仮焼体3の外表面を被覆材5で被覆することができる。
【0039】
以下に、本発明の実施形態による作用効果を説明する。
【0040】
(1)本実施形態による熱処理用ヒータの製造方法は、炭化ケイ素粉末を溶媒中に分散させることにより、これらの混合体からなるスラリーを作製する工程と、前記スラリーを成型し、乾燥させたグリーン体を仮焼して仮焼体3を作製する工程と、該仮焼体3の外表面を絶縁材である被覆材5で被覆する工程と、を有する。従って、剛性が低い多孔体の仮焼体3を絶縁材からなる被覆材5で被覆することによって、耐久性および輻射効率が高く、製造工程がシンプルで低コストの熱処理用ヒータを得ることができる。
【0041】
(2)前記被覆材5は、光透過率の高いシリカからなるため、輻射率が高い熱処理用ヒータ1を得ることができる。
【0042】
[第5実施形態]
次いで、本発明の第4実施形態に係る熱処理用ヒータの製造方法を説明する。ただし、前述した第1〜第4実施形態と同一構成部位には、同一符号を付して、説明を省略する。
【0043】
本実施形態では、第4実施形態に係る熱処理用ヒータに対して石英ガラス板を接合している。
【0044】
即ち、第4実施形態では、仮焼体3の外表面を絶縁材である被覆材5で被覆したが、図2に示すように、この仮焼体3の上側および下側の少なくとも一方側に石英ガラス板7を接合する工程を追加する。なお、石英ガラス板7は、石英ガラス以外に、熱処理時において耐熱性と透過性とを有するガラスであれば適用できる。
【0045】
以下に、本発明の実施形態による作用効果を説明する。
【0046】
(1)前記炭化ケイ素仮焼体3に、光透過率の高い石英ガラス板7を接合するため、輻射率の高さを維持しつつ耐久性が更に向上する。
【0047】
なお、前述した実施の形態の開示の一部をなす論述および図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0048】
例えば、前記第3実施形態では、仮焼体3の周囲を融着剤10によって被覆したが、石英ガラス板によって被覆しても良い。
【実施例】
【0049】
次いで、本発明を実施例を通して更に具体的に説明する。
【0050】
図5は、実施例における各ヒータに電流を流す時間と抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【0051】
図5において、実線Aは本発明例によるヒータを示し、一点鎖線Bは従来の仮焼体にSi溶浸させて、シリカコーティングを施したヒータを示し、破線Cは従来の仮焼体にSiを含浸させたヒータを示す。この図5のグラフに示すように、実線Aの本発明例によるヒータが最も長時間経過後に抵抗増加が少ないことが判明した。
【0052】
図6は実施例における比較例1のヒータに電流を流す時間と抵抗増加率との関係を示すグラフ、図7は実施例における比較例2のヒータに電流を流す時間と抵抗増加率との関係を示すグラフ、および、図8は実施例における本発明例のヒータに電流を流す時間と抵抗増加率との関係を示すグラフである。
【0053】
これらのグラフからも、本発明例によるヒータが長時間経過した後も、抵抗値は、上昇傾向を示すが、抵抗率変化は少ないことが判明した。
【0054】
図9は、実施例におけるヒータの被覆材について、面粗さによる輻射率変化を示すグラフである。
【0055】
太い実線で示すXはRaが1.5であり、一点鎖線で示すYはRaが1.0であり、点線で示すZはRaが0.2であり、細い実線で示すWはRaが0.025であった。このグラフに示すように、面粗さが大きくなるほど輻射率が高くなることが判明した。
【0056】
図10は、実施例におけるヒータについて、体積抵抗の温度依存性を示すグラフである。このグラフに示すように、温度を高くするほど体積抵抗率が低くなることが判明した。
【符号の説明】
【0057】
1,11,21 熱処理用ヒータ
3 仮焼体
5 被覆材
7,9 石英ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ケイ素の多孔体を仮焼した仮焼体と、
前記仮焼体の外表面を被覆した絶縁材料からなる被覆材と
を備えたことを特徴とする熱処理用ヒータ。
【請求項2】
前記被覆材は、シリカからなることを特徴とする請求項1に記載の熱処理用ヒータ。
【請求項3】
前記仮焼体に石英ガラス板を接合したことを特徴とする請求項1または2に記載の熱処理用ヒータ。
【請求項4】
炭化ケイ素粉末を溶媒中に分散させることにより、前記炭化ケイ素粉末を含む混合体からなるスラリーを作製する工程と、
前記スラリーを成型し、乾燥させたグリーン体を仮焼して仮焼体を作製する工程と、
前記仮焼体の外表面を絶縁材である被覆材で被覆する工程と
を有することを特徴とする熱処理用ヒータの製造方法。
【請求項5】
前記被覆材は、シリカからなることを特徴とする請求項4に記載の熱処理用ヒータの製造方法。
【請求項6】
前記仮焼体を絶縁材で被覆したのち、前記仮焼体に石英ガラス板を接合することを特徴とする請求項4または5に記載の熱処理用ヒータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−277917(P2010−277917A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130836(P2009−130836)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】