説明

熱加工装置

【課題】ハンダごて等の熱加工装置において熱源としての液化ガスを触媒反応により燃焼させて熱加工部材を加熱する際に、触媒反応を確実に生起させることのできる具体的な構成を提供する。
【解決手段】液化ガスタンク3と、液化ガスタンク3から噴出されるガスの流量を制御する流量制御弁4と、流量制御弁4により制御された量のガスの流速によって外部から空気を吸引してガスと混合し、触媒反応に最適な空/燃比を有する混合ガスを生成するエゼクタ5と、混合ガスを触媒燃焼反応により無炎燃焼させる触媒10と、触媒10の燃焼により加熱されワークを加工する熱加工部11とを有する熱加工装置1において、エゼクタ5から触媒10に到る混合ガスの流路13に、通電により発熱し混合ガスを触媒燃焼反応の反応開始温度以上の温度に連続的に加熱するセラミック被覆を有するヒータ線12からなる予備加熱域18を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液化ガスを燃焼させて被加工物を熱加工するハンダごてやホットブロー等の熱加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プロパン、ブタン等の炭化水素の液化ガスを熱源とし、これを触媒酸化反応により無炎燃焼させるガス加熱方式のハンダごて等の熱加工装置は広く知られている。この種の熱加工装置ではたとえばガスハンダごての場合のように、ガスタンクからの液化ガスをエゼクタによりガス及び空気の混合気とし、これに着火して一旦有炎燃焼させ、燃焼炎の高温により燃焼触媒を触媒燃焼反応の開始温度以上に加熱し、以降燃焼触媒の特性である無炎完全燃焼に移行し、高温の燃焼熱をチップに伝達してハンダ付けなどの所定の熱加工を行なう技術が従来から慣用されている(特公昭55−46783号:特許文献1)。
【0003】
ここで触媒による無炎完全燃焼への移行後には予備加熱に用いられた混合ガスの炎は不要であると共に作業環境における引火防止等のために必ず消炎することが望ましく、このために本発明者等はガス流路の予備加熱域に点火口を兼ねて形成された二次空気の導入口を着炎/消炎時に閉開するシャッタ機構を備えた液化ガスによる熱加工装置を提案した(特許第1545050号:特許文献2)。
【0004】
熱加工装置における混合ガスは、エゼクタからの外気の取入れにより触媒燃焼反応に最適な空/燃比となるように設定されるが、前記予備加熱のための炎の生成、維持にはこれよりも高い空/燃比を必要とする。特許文献2では着炎時にはシャッタの開放操作により前記予備加熱域の点火口(二次空気の導入口)から吸引される外部空気によって空/燃比を所期の設定値よりも増加させ炎を確実に点火させる。
この高温の炎によってガス流路の下流側の触媒が燃焼反応の開始温度に達すると、シャッターを移動させて導入口を閉じる。このときの混合ガスの空/燃比では有炎燃焼は維持されなくなり炎は消炎される。一方触媒はエゼクタから供給される所定の空/燃比の混合ガスを酸化して熱加工のための所定の高温無炎燃焼を継続する。
【0005】
このシャッタ方式でも初期段階では着炎は開口部を通してライター等の外部点火具を用いて行われていたので、少なくとも予備燃焼のための点火時から触媒燃焼への移行の間には引火の危険のある炎が存在することになり、作業環境について厳重な安全規制が設けられている用途では使用が制限される。
このため本発明者等は外部点火に代えてこて内部の混合ガスの流路の一部である予備加熱域に圧電素子の放電プラグを設け、混合ガスへの着火時にこれらプラグの間に放電火花を生成させて混合ガスを有炎燃焼させる内部点火方式を提案した(たとえば、特許第1608413号:特許文献3)。
【0006】
圧電点火方式ではピエゾ素子に対する圧電操作による高い電圧でプラグ間に瞬時の高温のスパークが生じそれによって混合ガスに点火する。この方式では着火の際に引火のおそれのある外部の点火器具を用いることがないので、作業環境に対する安全性を著しく向上させることができる。
前記特許文献2および3のシャッター機構と圧電点火方式とを組合わせた液化ガスの熱加工装置構成は現在においても基本的にはそのまま実用化されて踏襲されており、現行の液化ガスによる熱加工装置の主流となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭55−46783号
【特許文献2】特許第1545050号
【特許文献3】特許第1608413号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
その後、この種の熱加工装置が小型化、効率化の点で改善されるにつれてその一般的な普及には尚幾つかの課題が生じている。
課題の一つは圧電方式による着火が必ずしも確実でないことであり、実際の熱加工作業においても場合によって数回の操作を試みて初めて着火に到ることもある。これは点火時の炎の形成自体が、ガスの流量および流速、空/燃比、温度等の条件によって左右されやすいことによる。たとえば標高が高く気圧が低い場所や高温の地域等での圧電着火はタンク内のガス圧が高く外気圧との差が大きくなると吐出スピードが速くなり着火しにくくなる。また圧電スパークが瞬時的であって混合ガス中に生じた火花がその周辺の混合気を着火させる前に消失することがあるためであり、また液化ガスの気化時に混合ガスが冷却されるので点火域での種火の周囲への効果的な伝搬が妨げられることによるものと思われる。特に小型化が要請されるハンダこて等で混合ガス流径が3〜5mm程度になる場合にはこの傾向が著しい。
また圧電着火による内部着火方式についても少なくとも予備加熱工程では有炎燃焼が行われているので、引火の惧れののある炎を使用しているイメージが避けられず、液化ガスによるハンダごての一般的な普及への妨げになっている。
【0009】
本発明者等は液化ガスの熱加工装置の前記課題を解決するため、圧電着火に代わるより確実な触媒の予備加熱方式の開発を意図し、触媒を反応開始温度に加熱するために混合ガスを一旦点火して炎を形成するという従来の基本的な概念を見直した新たな方式について検討した。
前記触媒の予備加熱には、電源からの定常的な電流を供給されるヒータ線を用いることも考えられ、ヒータ線による触媒の予備加熱はガスハンダごての開発初期に本願発明者等によって提案されていた。この方式では内壁面に触媒層を有するハニカム状の多数のガス流路を円筒状のセラミック基体の内部に形成した触媒が用いられ、このセラミック基体の外周面にニクロム線を巻回して直接触媒を加熱する。しかしこの方式では触媒酸化反応の開始後こて使用中にその高温によってニクロム線が焼損するおそれがある。特に現行の板状基板の表面に白金系触媒層を担持した触媒についてはニクロム線と導電性の触媒層との間に短絡を生じるおそれがある。
【0010】
液化ガスによる熱加工装置の白金系触媒としては燃焼反応の開始温度が約185℃程度のものが多く使われており、ガス流路の混合ガスを触媒がこの開始温度以上になるように加熱すればあえて高温の有炎燃焼を用いなくても触媒燃焼反応が生起するものと考えられる。この予備加熱を継続的に行なうことができれば触媒燃焼反応が確実に得られ、またそれによって有炎燃焼の過程が省略できればシャッタ機構の省略が可能になって構造が小型化、簡略化されると共に、操作中に炎が存在するイメージがなくなってガスハンダごての普及範囲がより拡大されるものと考えられた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明においては、液化ガスタンクと、前記液化ガスタンクから噴出されるガスの流量を制御する流量制御弁と、前記流量制御弁により制御された量のガスの流速によって外部から空気を吸引してガスと混合し、触媒反応に最適な空/燃比を有する混合ガスを生成するエゼクタと、前記エゼクタからの流路中の混合ガスの予備加熱域と、前記流路中の予備加熱域の下流側に設けられ、前記加熱された混合ガスにより触媒燃焼の反応開始温度に加熱されて混合ガスを無炎燃焼させる触媒を収容した触媒室と、前記触媒の燃焼により加熱され被加工物を加工する熱加工部材と、を有する熱加工装置において、前記エゼクタから前記触媒に到る混合ガスの流路における前記予備加熱域に、電源からの通電により発熱し通電の間流路中の混合ガスを触媒燃焼反応の反応開始温度以上の温度に連続的に加熱するヒータ線を設ける。
【0012】
本発明の一実施態様では、前記ヒータ線が蓄熱性および電気絶縁性のセラミック被覆を有する。
【0013】
本発明の一実施態様では、前記ヒータ線は混合ガスの流路方向に沿って螺旋状に巻回されたヒータ線からなり、ヒータ線の螺旋体が電気絶縁性および蓄熱性をセラミック材により全体的に被覆されている。
【0014】
本発明の一実施態様では、前記触媒は板状の支持基材の両面に形成された白金微粒子の塗工層を触媒の燃焼反応域とする。
【0015】
また本発明の一実施態様では、前記支持基材は、この支持基材を収容した触媒室の流路方向に対する断面が波形に形成されこれら各波形の対向壁の間に流路方向に延出する分割された触媒燃焼域を有する
【0016】
また本発明の一実施態様では、前記電源が混合ガスの流路内のヒータ線に接続される外部電源である。
【0017】
また本発明の一実施態様では、前記電源が混合ガスの流路内のヒータ線とON−OFFスイッチを介して接続される内蔵電池である。
【0018】
また本発明の一実施態様では、前記熱加工部材が半田ごてのチップとして構成されている。
【0019】
また本発明の一実施態様では、前記熱加工部がホットブローの吹き出し口として構成されている。
【0020】
また本発明の一実施態様では、前記熱加工部材がヒートシーラの熱融着部として構成されている。
【発明の効果】
【0021】
本発明では従来のガスハンダごてにおいて触媒を反応開始温度に加熱するための圧電着火による有炎燃焼に代えてヒータ線によって混合ガスを前記温度以上に加熱する方式をとる。したがって、瞬間的な放電スパークによる圧電着火とは異なってヒータ線の加熱による混合ガスの加熱はヒータ線に通電している限り連続的に行われ、それによって触媒が必ず反応開始温度にまで加熱されるので触媒反応が確実に開始される。本発明の混合ガスの予備加熱では触媒をその反応開始温度以上まで加熱すればよく、あえて高温の有炎燃焼をもちいる必要はないので、従来におけるシャッタ機構が省略できるので、全体の構造が著しく簡略化される。またその動作行程で炎が存在することはないので引火の惧れは全くなくて安全を重視するユーザに対しても、ガスハンダごての使用に対する危惧を取り除くことができる。
尚混合ガスは気化の際の気化熱により著しく低温化されるが、ヒータ線を蓄熱性および電気絶縁性を有するセラミックで被覆した場合、ヒータ線の発熱がセラミック被覆層の内部に蓄熱されるので、短時間の中に触媒を反応開始温度以上に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る熱加工装置の断面図である。
【図2】図1における予備加熱域の拡大断面図である。
【図3】図2におけるA−A断面図である。
【図4】熱加工装置の他の第1実施例の断面図である。
【図5】熱加工装置の他の第2実施例の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明ではすでに述べたように、従来のガスハンダごてにおける触媒反応の前段としての予備加熱において圧電着火による有炎燃焼に代えてヒータ線による混合ガスの加熱方式をとる。
ヒータ線による混合ガスの加熱はヒータ線に通電している限り連続的に確実に行われ、それによって触媒が必ず反応開始温度にまで加熱されるので触媒反応が確実に開始される。また、圧電着火方式の場合の瞬間的な高電圧放電スパークは電磁波の発生により加工中の電子部品や周囲の電子機器等に大きな障害をもたらすが、定常的な電流によりヒータ線を加熱する本発明の方式ではこのような電磁波による障害の惧れは解消される。
本発明では予備加熱段階では混合ガスの有炎燃焼は生じないため、従来のようなシャッタ機構を必要とせず、また使用者に対して引火の危惧を抱かせることもない。
【0024】
また、予備加熱域のヒータ線が、蓄熱性および電気絶縁性のセラミック被覆を有する場合、特に全体的にセラミック被覆した螺旋状のヒータ線からなる場合、セラミック被覆の内部の蓄熱効率が高まる。したがって、触媒の触媒反応がより迅速に確実に開始される。
【0025】
触媒は、板状の支持基材の両面に形成された白金微粒子の塗布層を触媒反応域とする。白金又は白金合金は無炎燃焼触媒として汎用性があり、これを支持基板の両面に塗工・焼付けにより担持することで触媒反応効率に優れたものとなる。
【0026】
特に支持基材を、この支持基材を収容する触媒室の流路方向から見た断面形状が波形に形成されている場合、触媒反応面積の増加および混合ガスの通路が細分化されることによる混合ガスと触媒との接触が均一化して効率が向上する。
【0027】
「実施例」
以下本発明の実施例として熱加工装置であるハンダごてを一例として図1ないし図3を参照して説明する。
【0028】
図1において、熱加工装置1は両端が開口形成された筒状のケーシング2を備える。ケーシング2は合成樹脂等の絶縁性材料により形成される。液化ガスタンク3は、図中右側に示すケーシング2の後部側の開口に内嵌する態様で取り付けられる。
本実施例に用いる液化ガスタンク3はブタン/プロパン(90:10)組成の液化ガスを加圧下に収容した15cc(60mm×25mmf)程度の容量のものであり、後述する熱加工部材としてのチップをたとえば450℃に加熱する為に必要な流量のガスを約90分にわたって供給することができる。液化ガスタンク3の後端部にはガス補充用の注入弁3Aが設けられる。
【0029】
流量制御弁4は、ケーシング2の内部において液化ガスタンク3の先端部側に設けられる。流量制御弁4は、ケーシング2の内周面に設けられる制御部材23により作動して液化ガスタンク3から供給されるガスの流量を制御する。前記制御部材23は例えばケーシング2の一部に形成された凹所2Aに対して流量制御弁4と結合して回動する調節部材からなる。本実施例では目盛り付きの凹所2Aに対して液化ガスタンク3を回動させる構成としている。
【0030】
流量制御弁4の下流側には混合ガス生成装置としてのエゼクタ5が設けられる。エゼクタ5は、流量制御弁4により制御された量の吐出ガスの流速による負圧によって、吸引口5Aから外気を吸引してガスと混合し、触媒反応に最適な空/燃比(31:1モル比)を有する混合ガスを生成して図中左側に示す前端部から噴出する。エゼクタ5はその筐体となるエゼクタカバー5Bの後部がケーシング2の前部側の開口に内嵌する態様で取り付けられる。エゼクタカバー5Bの前部にはキャップ24がスナップ係合やねじ係合等により着脱自在に取り付けられている。
【0031】
キャップ24の前端には筒状のカバー6が取り付けられる。具体的には、キャップ24の前端面には開口24Aが形成され、この開口24A内を挿通するように連結部材7がキャップ24に対してこのキャップ24の内側から取り付けられており、カバー6はその基端が連結部材7の前端に取り付けられた状態でキャップ24の前端から前方に延設される。連結部材7の中央には連通孔7Aが形成され、エゼクタ5から噴出する混合ガスは、キャップ24の内部から連通孔7Aを通ってカバー6内に供給される。カバー6は例えばステンレス材により構成される。
【0032】
カバー6の内部には、ガス導管9がその後端寄りの位置でセラミック絶縁管8を介してカバー6と同心状に固定されている。具体的には、ガス導管9は長尺の小径部9Aとこの小径部9Aの前端に形成される大径部9Bとを有した形状の金属管からなり、小径部9Aは後端寄りの位置でセラミック絶縁管8を介してカバー6と同心状に固定される。カバー6の前部側の開口はセラミック絶縁管8により閉塞される。小径部9Aの後端は連結部材7の連通孔7Aの手前付近に位置する。
【0033】
ガス導管9には、混合ガスを触媒燃焼反応により無炎燃焼させる触媒10と、触媒10の燃焼により加熱され被加工物を加工する熱加工部材11と、通電により発熱し混合ガスを触媒燃焼反応の反応開始温度以上の温度に加熱するセラミック被覆されたヒータ線12が設けられる。セラミック被覆は通常の窒化ケイ素系、アルミナ系等の電気絶縁性および蓄熱性を有するセラミック材料からなる。また本実施例では熱加工部材11はハンダごての加熱チップである。
【0034】
ガス導管9の内部はエゼクタ5から触媒10に到る混合ガスの流路13を構成し、この流路13にヒータ線12が収容されている。ヒータ線12の一端は、後記するようにガス導管9に内嵌してこのガス導管9と導通する触媒支持管21にスポット溶接されている。ヒータ線12の他端は、カバー6にスポット溶接されたリード線15にステンレス管等からなるジョイント管16を介して接続されている。前記カバー6に形成されたプラグ差込口14に例えば直流電圧6Vの外部電源の着火プラグ17を差し込むと、着火プラグ17の+極がガス導管9に接し、−極がカバー6に接することによりヒータ線12に直流電流が供給されヒータ線12が発熱する。
実験に用いた本実施例では電源はハンダごてに対して組み合わされる外部電源を用いているがこての内部に電池を組み込んでもよい。
【0035】
ヒータ線12としては、混合ガスとの接触面積を増大させるため線径φ0.21mmのヒータ線を流路の方向に沿って螺旋径1.46mmで捲回した螺旋体とし、図2に示される予備加熱域18とする形状が好ましい。予備加熱域18は、図2に一点鎖線にて示すように前記螺旋体を例えばセラミック被覆のコーティング液によりディップコートし、150℃で2時間焼成して螺旋体の内外をセラミック被膜18Aで覆ったものとして構成される。したがって、この場合の予備加熱域18は略円柱形状となり、ガス導管9の小径部9Aの前寄り辺りにおいてガス導管9の内部に同心状に位置する。流路13を流れる混合ガスは予備加熱域18とガス導管9の内周面との間の環状の流路を通り、このときに予備加熱域18により加熱されて触媒10に供給される。ヒータ線12は例えば鉄クロム線である。
【0036】
流路13における予備加熱域18の下流近傍には触媒10を収容する触媒室19が形成される。具体的には、ハンダごてのチップからなる熱加工部材11の後部周りは後端が開口形成された中空の筒部として形成されており、この筒部がガス導管9の大径部9Bに内嵌されることにより、筒部内の空間が流路13に連通した触媒室19を構成する。符号20は前記筒部に形成されたガスの排気孔であり、また触媒の反応開始状態(赤熱状態)を外部から確認するためのモニタ孔となる。
【0037】
ガス導管9の小径部9Aの前端には触媒支持管21が内嵌されている。触媒10はその後端周りの一部が図3に示すように触媒支持管21の内周面に圧入嵌合等により支持固定され、前端周りは図1に示すように触媒室19内に位置する。触媒支持管21は金属管であり、前記したようにヒータ線12の一端がスポット溶接されている。触媒10としてはステンレスシートの支持基材22の両面に触媒反応域として白金微粒子を塗工・焼成して担持したものが用いられ、その燃焼開始温度は約185℃、熱加工時の燃焼温度は700〜900℃である。支持基材22は箔状のシートであり、限られた容積の触媒質9の内部で触媒反応面積を増加させかつ混合ガスの通路を細分化して混合ガスと触媒10との接触効率を上げるために、触媒室19の流路方向(流路13の流路方向と同じ)に対する断面形状が図3に示すように波形(M型)に形成されている。波形はN型その他の形状でもよく対向する壁面の間に分割された燃焼流路13A、13A、……が形成されるものであればよい。支持基材22を波形に形成することにより、流路13の各部における混合ガスと反応領域との距離をより均等化しかつ触媒反応域への混合ガスの接触効率を高めることができる。
【0038】
「作用」
液化ガスタンク3からの液化ガスは流量制御弁で流量を調整され、エゼクタ5で外気と混合されて触媒反応に最適な空/燃比を有する混合ガスとなって流路13としてのガス導管9を通して触媒室19に供給される。カバー6のプラグ差込口に外部電源(6V)のプラグ17を差し込むと、セラミック被覆層からなる被膜18Aの介在により、ヒータ線12に電流が供給されると、それによる発熱が混合ガスを加熱するとともにセラミック被膜18A内に蓄熱を生じ、この加熱された混合ガスが流路下流の触媒質9の燃焼流路13(13A、13A)を通過する。それらによって触媒10が反応開始温度以上に加熱された時点で触媒反応が開始される。前記直流電圧6Vの電源を用い約0.21cc/minで供給される混合ガスを図2に示す形状のヒータ線12で加熱する場合、約3秒で触媒10の触媒反応が開始される。
前記のように現行の白金触媒の反応開始温度は185℃であり、一方ブタンガスの着火温度は300℃以上であり、空気との混合気の場合でも少なくとも前記185℃以上であるから、加熱の際には全く着炎を生じることなく使用者に引火の懸念を与えることがない。
【0039】
鉄クロム線などのヒータ線12をセラミック被覆せずに用いた場合、流路13を流れる気化熱で冷却された混合ガスにより熱を奪われ、開始までの時間が著しく長くなり、容易に触媒が反応開始温度に達しないこともある。これに対してヒータ線12にセラミック被膜18Aを形成することにより被膜18A内に蓄熱が生じ、これにより混合ガスを迅速に触媒10の反応開始温度〈185℃)以上に加熱させることができる。ヒータ線12を備えた予備加熱域18の温度は混合ガスが有炎燃焼する温度よりも低く設定されている。したがって、混合ガスの有炎燃焼を生じることなく触媒10が触媒反応を開始する。以降触媒10は触媒反応による発熱で約700℃以上の温度で触媒反応を持続し、熱加工部材11のチップを約450℃以上〈チップ温度)に加熱する。触媒基材が波形に形成される場合には触媒反応域と流路中の各部分での混合ガスとの距離がより均等化されるので燃焼効率が向上し燃焼温度が約30〜50℃上昇する。
【0040】
「他の実施例」
図4は本発明をホットブローに適用した例を示す。図4において、熱加工装置は、熱加工部11がホットブローの吹き出し口として構成されている。流路13を流れる混合ガスは触媒10の燃焼により触媒室19で高温となったうえで吹き出し口から図示しない被加工体に向けてブロー加工のために吹出されるれる。
図5は本発明をヒートシーラに適用した例を示す。図5において、熱加工装置1は、熱加工部11がヒートシーラの熱融着部として構成されている。熱融着部は支軸回りに回動可能な一対の略半円形部材として構成され、各内部には触媒室19の開口端が臨む空間11Aが形成されるとともに互いの対向辺にはポリウレタン等の熱可塑性樹脂の被覆体等の被加工体の端部同志を融着する半円形の凹部11Bが形成されている。流路13を流れる混合ガスは触媒10の燃焼により触媒室19で高温となったうえで空間11Aにブローされ、それによって加熱され高温となった凹部11Bにより被加工体の端部同志が融着結合される。
【符号の説明】
【0041】
1 熱加工装置
2 ケーシング
3 液化ガスタンク
4 流量制御弁
5 エゼクタ
9 ガス導管
10 触媒
11 熱加工部
12 ヒータ線
13 (混合ガスの)流路
13A 燃焼流路
18 予備加熱域
19 触媒室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液化ガスタンクと、
前記液化ガスタンクから噴出されるガスの流量を制御する流量制御弁と、
前記流量制御弁により制御された量のガスの流速によって外部から空気を吸引してガスと混合し、触媒反応に最適な空/燃比を有する混合ガスを生成するエゼクタと、
前記エゼクタからの流路中の混合ガスを加熱する予備加熱域と、
前記流路中の予備加熱域の下流側に設けられ、前記加熱された混合ガスにより触媒燃焼の反応開始温度に加熱されて混合ガスを無炎燃焼させる触媒を収容した触媒室と、
前記触媒の燃焼により加熱され被加工物を加工する熱加工部材と、
を有する熱加工装置において、
前記エゼクタから前記触媒に到る混合ガスの流路における前記予備加熱に、電源からの通電により発熱し通電の間流路中の混合ガスを触媒燃焼反応の反応開始温度以上の温度に連続的に加熱するヒータ線を設けたことを特徴とする熱加工装置。
【請求項2】
前記ヒータ線が蓄熱性および電気絶縁性のセラミック被覆を有することを特徴とする請求項1に記載の熱加工装置。
【請求項3】
前記ヒータ線は混合ガスの流路方向に沿って螺旋状に巻回されたヒータ線からなり、ヒータ線の螺旋体が電気絶縁性および蓄熱性のセラミックにより全体的に被覆されていることを特徴とする請求項2に記載の熱加工装置。
【請求項4】
前記触媒は板状の支持基材の両面に形成された白金微粒子の塗工層を触媒の燃焼反応域とすることを特徴とする請求項1に記載の熱加工装置。
【請求項5】
前記支持基材は、この支持基材を収容した触媒室の流路方向に対する断面が波形に形成されこれら各波形の対向壁の間に流路方向に延出する分割された触媒燃焼域を有することを特徴とする請求項1に記載の熱加工装置。
【請求項6】
前記電源が混合ガスの流路内のヒータ線に接続される外部電源であることを特徴とする請求項1に記載の熱加工装置。
【請求項7】
前記電源が混合ガスの流路内のヒータ線とON−OFFスイッチを介して接続される内蔵電池であることを特徴とする請求項1に記載の熱加工装置。
【請求項8】
前記熱加工部が半田ごてのチップとして構成されている請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の熱加工装置。
【請求項9】
前記熱加工部がホットブローの吹き出し口として構成されている請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の熱加工装置。
【請求項10】
前記熱加工部がヒートシーラの熱融着部として構成されている請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の熱加工装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−250243(P2012−250243A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−122619(P2011−122619)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(591068665)中島銅工株式会社 (3)
【Fターム(参考)】