説明

熱可塑性ポリウレタンベルト及びその製造方法

【課題】ポリウレタン樹脂への滑剤添加によって表面の摩擦係数を低下させるとともに、搬送面への滑剤の流出を防止することができる、熱可塑性ポリウレタンベルト及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】熱可塑性ポリウレタンベルト1は、ベルト本体層2と、このベルト本体層2に埋設された心線3とを有し、ベルト本体層2の内面側にはガイド部4が形成されている。また、ベルト本体層2は、ガイド部4が設けられた内面層5と外面層6の2つの層を有し、内面層5は、少なくとも滑剤を含んだ熱可塑性ポリウレタンからなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性ポリウレタンベルト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、搬送ベルトとして、プーリに巻き掛けられるベルト内面(ベルト駆動面)に、ベルト長手方向に延在する突状又は溝状の蛇行防止部を有するものが知られている。このような搬送ベルトにおいては、蛇行防止部が、プーリの外周面に形成された凸部又は溝部に嵌合しながら走行することによって、走行時の蛇行が防止されるようになっている。
【0003】
その中でも、特許文献1に記載の搬送ベルトは、ベルト本体層と、このベルト本体層の片面に形成され、ベルト長手方向に延在するV形のガイド部(蛇行防止部)とを有し、ベルト本体層とガイド部はともに熱可塑性ポリウレタン樹脂等により形成されている。ここで、ガイド部の両側面部の硬度は、それらの内側に位置する残余部の硬度よりも高くなっている。これにより、ガイド部の両側面部の耐摩耗性が高められてベルトの寿命が延びるとともに、ガイド部の屈曲性も向上している。さらに、ガイド部の両側面部の摩擦係数を低下させるために、両側面部には所定量のワックスが添加されている。
【0004】
【特許文献1】特開平10−35845号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、搬送ベルトの走行中には、そのベルト内面がプーリと摩擦接触することによって異音が発生するが、この異音の発生を抑制して走行中の静粛性を確保するにはベルト内面の摩擦係数を小さくすることが有効である。しかし、特許文献1の搬送ベルトにおいては、ガイド部の両側面部に滑剤としてのワックスが添加されて摩擦係数が局部的に低下しているものの、このガイド部の両側面部はプーリと接触するベルト内面のほんの一部であることから、この対策だけで異音の抑制効果が十分に得られるとは言い難い。
【0006】
その一方で、ポリウレタン樹脂からなるベルト本体層の全体にワックスを添加すると、ベルト外面(搬送面)にワックスがにじみ出てしまう虞がある。そして、特に、搬送物が金属製である場合には、搬送面に流出したワックスが搬送物に付着する、あるいは、搬送物に被膜が発生するといった問題が生じやすい。
【0007】
本発明の目的は、ポリウレタン樹脂への滑剤添加によって表面の摩擦係数を低下させるとともに、搬送面への滑剤の流出を防止することができる、熱可塑性ポリウレタンベルト及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
【0008】
第1の発明の熱可塑性ポリウレタンベルトは、ベルト本体層の一方の面において、ベルト長手方向に沿って延在する蛇行防止部を有するベルトであって、前記ベルト本体層は、前記一方の面側の第1の層と、他方の面側の第2の層の、少なくとも2つの層を有し、前記第1の層が、少なくとも滑剤を含んだ熱可塑性ポリウレタンからなることを特徴とするものである。
【0009】
この構成によれば、ベルト本体層の2つの層のうち、一方の面側(蛇行防止部側)の第1の層のみが滑剤を含んだ熱可塑性ポリウレタンで形成されている。つまり、プーリ等に接触する第1の層に滑剤が配合される一方で、他方の面側の第2の層には滑剤が配合されていない。そのため、プーリ等との接触面の摩擦係数が低下して走行中の異音発生が抑制されるとともに、他方の面(搬送面)へ滑剤が流出して、この面に載置される搬送物等に付着することがない。
【0010】
尚、前記第1の発明において、前記滑剤がワックスであることが好ましい。このように第1の層にワックスが配合されることによって、第1の層のプーリとの接触面の摩擦係数が確実に低下し、走行中の静粛性が確保される。
【0011】
第3の発明の熱可塑性ポリウレタンベルトの製造方法は、ベルト本体層の一方の面において、ベルト長手方向に沿って延在する蛇行防止部を有する熱可塑性ポリウレタンベルトの製造方法であって、
周方向に延在する凹部又は凸部を有する円筒金型の外周面に、滑剤を配合した熱可塑性ポリウレタン樹脂を注入して冷却固化し、前記凹部又は凸部に対応した形状を有する前記蛇行防止部を含む第1の層を形成する第1層形成工程と、前記第1の層に心線を積層する心線積層工程と、前記心線が積層された前記第1の層の外面に、滑剤を配合していない熱可塑性ポリウレタン樹脂を注入して冷却固化して、第2の層を形成する第2層形成工程とを備えていることを特徴とするものである。
【0012】
この製造方法によれば、第1層形成工程において形成される、内側の第1の層には滑剤が配合される一方で、第2層形成工程において形成される、外側の第2の層には滑剤が配合されない。そのため、プーリ等との接触面の摩擦係数が低下して走行中の異音発生が抑制されるとともに、外側の面(搬送面)へ滑剤が流出して、この面に載置される搬送物等に付着することがない。
【0013】
第4の発明の熱可塑性ポリウレタンベルトの製造方法は、前記第3の発明において、前記第2層形成工程において、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂に配合する滑剤がワックスであることを特徴とするものである。このように第1の層にワックスが配合されることによって、第1の層のプーリ等との接触面の摩擦係数が確実に低下し、走行中の静粛性が確保される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態について説明する。図1は、プーリ10に巻き掛けられた状態における、本実施形態の熱可塑性ポリウレタンベルト1の断面図である。図1に示すように、熱可塑性ポリウレタンベルト1(以下、単にベルト1と称する)は、ベルト本体層2と、このベルト本体層2に埋設された心線3とを有する。さらに、ベルト本体層2の内面(プーリ10と接触する面:図1の下面)側には、断面略V字状に突出するガイド部4(蛇行防止部)が形成されている。
【0015】
ベルト本体層2は、熱可塑性ポリウレタン樹脂で形成されている。この熱可塑性ポリウレタン樹脂を生成するためのイソシアネート化合物としては、トルエンジイソシアネートやメチレンジイソシアネート等が使用される。また、ポリオールとしてはポリテトラメチレングリコール、アジペート系ポリオール、ポリカプロラクトン系ポリオール等が使用される。
【0016】
また、ベルト本体層2は、内面層5(第1の層)と外面層6(第2の層)の2層に分かれている。これら2つの層はともに熱可塑性ポリウレタン樹脂からなる層であるが、内面層5には、内面の摩擦係数を低下させるための滑剤が、例えば、0.5〜5.0質量部程度の割合で配合されている。この滑剤としては、エチレンビスアミドワックス等のアミド系ワックスが好適に用いられる。一方、外面層6には、このような滑剤は配合されていない。
【0017】
ガイド部4はベルト本体層2の幅方向中央部の内側部分から突出しており、さらに、ベルトの長手方向(図1の紙面垂直方向)に沿って延在している。そして、このガイド部4がプーリ10に形成された溝部10aと嵌合することにより、走行中のベルト1の蛇行が防止されるようになっている。また、ガイド部4は、ベルト本体層2の内面層5と同じく、滑剤が配合された熱可塑性ポリウレタン樹脂からなり、ガイド部4はこの内面層5と一体成形されている。
【0018】
心線3は、ポリアリレート繊維、ガラス繊維、ポリエステル繊維、アラミド繊維等からなる。そして、この心線3は、ベルト本体層2の内部(ベルト本体層2の内面層5と外面層6の間)に埋設されるとともに、ベルト1の長手方向(図1の紙面垂直方向)に沿って延在している。
【0019】
次に、ベルト1の製造方法について説明する。図2(a)、(b)に示すように、まず、周方向に沿って延在する溝状の凹部22を有する円筒金型(内型20)と、内型20よりも径の大きい円筒金型(外型21)とを準備し、内型20を外型21の内部に同心状となるように配置する。この状態で、凹部22が形成された内型20の外周面(内型20と外型21との間に形成される空間内)に、滑剤を配合した温度195〜215℃の熱可塑性ポリウレタン樹脂を流し込み、これを冷却固化して、凹部22に対応した凸形状を有するガイド部4を含む内面層5を形成する(第1層形成工程)。
【0020】
次に、図3に示すように、内型20を外型21から一旦外した後に、内型20の外周部に形成された内面層5の外面に心線3を巻き付けて積層する(心線積層工程)。
【0021】
そして、図4に示すように、再び内型20を外型21内に設置し、心線3が積層された内面層5と外型21との間の空間に、滑剤を配合していない、温度195〜215℃の熱可塑性ポリウレタン樹脂を流し込み、これを冷却固化して外面層6を形成する(第2層形成工程)。そして、以上の工程によって作製された、内面層5、心線3、及び、外面層6を有するスリーブ30を内型20と外型21から外し、切断機にて所定幅で切断することによって、ベルト1を得る。
【0022】
以上説明した本実施形態のベルト1は、ベルト本体層2を構成する2つの層のうち、ガイド部4を含む内面層5のみが滑剤を含んだ熱可塑性ポリウレタンで形成されている。つまり、プーリ10に接触する内面層5に滑剤が配合される一方で、外面層6には滑剤が配合されていない。そのため、プーリ10と接触するベルト内面の摩擦係数が低下して異音発生が抑制され、走行中の静粛性が確保される。その一方で、外面層6の表面(搬送面)へ滑剤が流出することもない。そのため、搬送面に載置された搬送物等にワックスが付着する、あるいは、搬送物等に被膜が発生するといった問題が生じない。
【0023】
次に、実施例として、前述したベルト製造方法によって試料を製造し、この実施例の試料の摩擦係数を、滑剤が配合されていない試料(比較例)の摩擦係数と比較して、効果を検証した。
【0024】
(測定試料)
実施例及び比較例の両方とも、熱可塑性ポリウレタン樹脂を生成するためのイソシアネートとして、メチレンジイソシアネートを使用し、また、ポリオールとしてポリカプロラクトンを使用して試料を作製した。また、実施例の試料は2層構造とし、一方の層(内面層5に相当)には、滑剤として、エチレンビスアミドワックスを5.0質量部添加し、他方の層(外面層6に相当)には滑剤を添加しなかった。さらに、比較例の試料は滑剤が添加されていない1層のみからなる構造とした。
【0025】
(測定方法)
これらの測定試料を、速度100mm/分で、鏡面加工が施されたアルミニウム板に接触させながら平行に引張り、摩擦係数測定機を用いてそれぞれの静摩擦係数を測定した。
【0026】
以上のようにして測定された実施例の試料と比較例の試料の静摩擦係数を図5に示す。この図5に示すように、滑剤が添加されている実施例の試料の静摩擦係数は、滑剤が添加されていない比較例の試料の静摩擦係数の半分の値となっており、滑剤添加によって摩擦係数が大きく低下し、異音抑制に効果があることが実証された。
【0027】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明を適用可能な形態は、このような実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で適宜変更することが可能である。例えば、ガイド部(蛇行防止部)の形状は、断面V字形に突出した形状に限られず、断面が正方形形、長方形形、半円形等の種々の形状を採用することができる。また、図6に示すように、内面層5Aのガイド部4Aが凹状に形成されてもよい。尚、この場合、内面層5Aを形成するために用いられる内型20Aの外周面には、凹状のガイド部4Aを形成するための凸部22Aが設けられることになる。さらに、ベルトに設けられるガイド部の数は1つである必要は必ずしもなく、長手方向に延在する2以上の複数のガイド部がベルト幅方向に並列的に設けられてもよい。
【0028】
前記実施形態ではベルト本体層が2層に分かれているが、ベルト本体層が3層以上に分かれていてもよい。この場合には、少なくとも最も内側に位置する層に滑剤が添加され、最も外側に位置する層には滑剤が添加されない。尚、それらの間の中間層への滑剤添加は、ベルト厚み等の種々の条件を考慮して、必要に応じて適宜行うようにすればよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係る熱可塑性ポリウレタンベルトの断面図である。
【図2】第1層形成工程を説明するための図であり、(a)は、内型の外周面に内層面が形成された状態を示す断面図、(b)は(a)のB−B線における拡大断面図である。
【図3】心線積層工程において内層面の表面に心線が巻き付けられた状態を示す拡大断面図である。
【図4】第2層形成工程において内層面の外側に外層面が形成された状態を示す拡大断面図である。
【図5】実施例と比較例の静摩擦係数測定結果を示すグラフである。
【図6】変更形態の、内型の外周面に内層面が形成された状態を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 熱可塑性ポリウレタンベルト
2 ベルト本体層
3 心線
4,4A ガイド部
5,5A 内面層(第1の層)
6 外面層(第2の層)
20,20A 内型
22 凹部
22A 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベルト本体層の一方の面において、ベルト長手方向に沿って延在する蛇行防止部を有するベルトであって、
前記ベルト本体層は、前記一方の面側の第1の層と、他方の面側の第2の層の、少なくとも2つの層を有し、
前記第1の層が、少なくとも滑剤を含んだ熱可塑性ポリウレタンからなることを特徴とする熱可塑性ポリウレタンベルト。
【請求項2】
前記滑剤がワックスであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性ポリウレタンベルト。
【請求項3】
ベルト本体層の一方の面において、ベルト長手方向に沿って延在する蛇行防止部を有する熱可塑性ポリウレタンベルトの製造方法であって、
周方向に延在する凹部又は凸部を有する円筒金型の外周面に、滑剤を配合した熱可塑性ポリウレタン樹脂を注入して冷却固化し、前記凹部又は凸部に対応した形状を有する前記蛇行防止部を含む第1の層を形成する第1層形成工程と、
前記第1の層に心線を積層する心線積層工程と、
前記心線が積層された前記第1の層の外面に、滑剤を配合していない熱可塑性ポリウレタン樹脂を注入して冷却固化して、第2の層を形成する第2層形成工程と、
を備えていることを特徴とする熱可塑性ポリウレタンベルトの製造方法。
【請求項4】
前記第2層形成工程において、前記熱可塑性ポリウレタン樹脂に配合する滑剤がワックスであることを特徴とする請求項3に記載の熱可塑性ポリウレタンベルトの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−127156(P2008−127156A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−314094(P2006−314094)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】