説明

熱可塑性樹脂組成物の製造方法

【課題】多量の植物繊維を含有させることができ、且つ射出成形等に用いたときに、十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂(ポリプロピレン系樹脂、特にポリプロピレン系樹脂と酸変性ポリプロピレン系樹脂との併用等)及び植物繊維(ケナフ繊維等)を含有し、合計を100質量%とした場合に、植物繊維が50〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、原料繊維を裁断する裁断工程と、熱可塑性樹脂と裁断繊維とを混練し、混合する混合工程と、を備え、裁断繊維は、裁断装置が有する目開き0.5〜2mmのスクリーンを通過し、且つ真直状である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、熱可塑性樹脂に多量の植物繊維を含有させることができ、且つ射出成形等に用いたときに、十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ケナフ等の、成長が早く、且つ二酸化炭素吸収量が多い植物材料は、二酸化炭素排出量削減及び二酸化炭素固定化等の観点から注目され、樹脂と混合した複合材料の用途で期待されている。このケナフ等と樹脂との混合には、ニーダー、スーパーミキサ、ヘンシェルミキサ等の混合機が用いられるが、特に多量の植物材料を樹脂に混合することは困難であり、多量に混合しようとするときは、数度に分けて投入、混合を繰り返す等の手間と時間とを要する。また、ケナフ等が混合された複合材料を用いて射出成形等の方法により成形することは容易ではない。これは、複合材料に、従来の樹脂と同様の装置、条件で成形することができる程度に十分な流動性を付与することが難しいためであると考えられる(例えば、特許文献1、2参照。)。更に、多量の植物材料を熱可塑性樹脂に均一に分散させ、配合させることは容易ではないため、植物材料を予めペレット化し、樹脂との嵩密度の差を小さくして、植物材料と樹脂とが相互に均一に分散した複合材料とし、この複合材料を用いて成形体を製造することが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−105245号公報
【特許文献2】特開2000−219812号公報
【特許文献3】特開2008−93956号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ケナフ繊維を含有させる生分解性樹脂がポリ乳酸である場合に最も精密な射出成形ができるが、ケナフ繊維の含有量が50質量%を超えると、繊維が樹脂に均一に分散せず、成形機内で樹脂組成物が詰まる等の問題が発生すると説明されている。また、特許文献2には、樹脂にロジン及び可塑剤を配合せず、植物繊維のみを配合した場合は、植物繊維が均一に分散され難く、樹脂と植物繊維との間の親和性もよくないため、強度等に劣り、品質が均一でなく、実用性に乏しい成形品になってしまうと説明されている。このように、特許文献1、2には、50質量%を超える多量の植物材料を含有する場合、射出成形等により実用性の観点で問題のない成形品とすることは困難であることが記載されている。更に、特許文献3に記載された製造方法では、植物材料と樹脂とを均一に分散させることができるが、工程が増え、コスト面では不利である。
【0005】
本発明は、上記の従来の状況に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂に多量の植物繊維を含有させることができ、且つ射出成形等に用いたときに、十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.熱可塑性樹脂及び植物繊維を含有し、該熱可塑性樹脂と該植物繊維との合計を100質量%とした場合に、該植物繊維は50〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、原料繊維を裁断して裁断繊維とする裁断工程と、前記熱可塑性樹脂と該裁断繊維とを混練し、混合する混合工程と、を備え、前記裁断繊維は、裁断装置が有する目開き0.5〜2mmのスクリーンを通過し、且つ真直状であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
2.前記原料繊維は、ケナフ繊維である前記1.に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
3.前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂及び酸変性ポリプロピレン系樹脂である前記1.又は2.に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
4.前記ポリプロピレン系樹脂と前記酸変性ポリプロピレン系樹脂との合計を100質量%とした場合に、該酸変性ポリプロピレン系樹脂は1〜30質量%である前記3.に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
5.前記混合工程において得られた樹脂繊維混合物を粉砕して粉砕混合物とする粉砕工程を備える前記1.乃至4.のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
6.前記粉砕混合物を押し固めてペレット化するペレット化工程を備える前記5.に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
7.前記混練、混合に用いる混合装置は、前記混合がなされる混合室及び該混合室内に配設された混合羽根を備え、前記混合室内で、前記混合羽根の回転により昇温して溶融した前記熱可塑性樹脂と、前記裁断繊維とが混練され、混合される前記1.乃至6.のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法によれば、原料繊維が裁断された裁断繊維の繊維長が短く、真直状であって、嵩張らないため、50〜95質量%と多量の植物繊維を容易に含有させることができ、且つ射出成形等の方法により成形するときに、十分な流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができる。そのため、この熱可塑性樹脂組成物を用いた場合、優れた曲げ弾性率等を有し、実用性の観点で好ましい熱可塑性樹脂成形体(以下、「成形体」と略記する。)とすることができる。
また、原料繊維が、ケナフ繊維である場合は、成長速度が極めて大きい一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有するケナフを用いることにより、大気中の二酸化炭素量の削減、及び植物資源の有効利用等に貢献することができる。
更に、熱可塑性樹脂が、ポリプロピレン系樹脂及び酸変性ポリプロピレン系樹脂である場合は、より高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができ、且つ優れた機械的特性を有する成形体とすることができる。
また、ポリプロピレン系樹脂と酸変性ポリプロピレン系樹脂との合計を100質量%とした場合に、酸変性ポリプロピレン系樹脂が1〜30質量%である場合は、酸変性樹脂を併用することによる作用効果が十分に奏され、特に高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができ、且つ優れた機械的特性を有する成形体とすることができる。
更に、混合工程において得られた樹脂繊維混合物を粉砕して粉砕混合物とする粉砕工程を備える場合は、射出成形等の原料として粉砕混合物をそのまま、又はペレット化して用いることができ、いずれにしても塊状の樹脂繊維混合物と比べて取り扱い易く、成形体を容易に製造することができる。
また、粉砕混合物を押し固めてペレット化するペレット化工程を備える場合は、加熱せずにペレット化することができるため、熱可塑性樹脂の熱劣化が抑えられ、ペレットであるため取り扱い易く、射出成形機等に、より容易に、且つより均一に供給することができ、成形体の機械的特性をより向上させることができる。
更に、混練、混合に用いる混合装置は、混合がなされる混合室及び混合室内に配設された混合羽根を備え、混合室内で、混合羽根の回転により昇温して溶融した熱可塑性樹脂と、裁断繊維とが混練され、混合される場合は、外部からの加熱を必要とすることなく短時間で効率よく混合することができ、コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】裁断装置を正面からみた断面の模式的な説明図である。
【図2】裁断装置を側方からみた断面の模式的な説明図である。
【図3】真直状の裁断繊維を顕微鏡により観察し、撮影した電子データに基づく説明図である。
【図4】屈曲部を有する裁断繊維を顕微鏡により観察し、撮影した電子データに基づく説明図である。
【図5】混合装置の一例の模式的な断面図である。
【図6】混合装置に配設された混合羽根の一例の模式的な側面図である。
【図7】ローラーディスクダイ式ペレタイザの一例の要部の模式的な斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を図を参照しながら詳しく説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物の製造方法
熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂及び植物繊維を含有し、熱可塑性樹脂と植物繊維との合計を100質量%とした場合に、植物繊維が50〜95質量%であり、原料繊維を裁断して裁断繊維とする裁断工程と、熱可塑性樹脂と裁断繊維とを混練し、混合する混合工程と、を備える方法により製造することができ、裁断繊維は、裁断装置が有する目開き0.5〜2mmのスクリーンを通過し、且つ真直状である。
【0010】
(1)原材料
(a)熱可塑性樹脂
前記「熱可塑性樹脂」は、混合工程で裁断繊維と混合される樹脂である。この熱可塑性樹脂は特に限定されず、各種の熱可塑性樹脂を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン、ポリエステル樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール及びABS樹脂等が挙げられる。また、熱可塑性樹脂としては、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン及びポリブチレンサクシネート等を用いることもできる。これらのうちでは、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィンが好ましく、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、特にエチレン−プロピレンブロック共重合体がより好ましい。熱可塑性樹脂は2種以上を併用してもよいが、1種のみ用いられることが多い。
【0011】
また、特に熱可塑性樹脂としてポリオレフィンを用いる場合、酸変性ポリオレフィンを併用することが好ましい。酸変性ポリオレフィンを用いることによって、熱可塑性樹脂組成物の流動性をより向上させることができ、この熱可塑性樹脂組成物を用いて成形した成形体の機械的特性をより向上させることができる。酸変性ポリオレフィンのベース樹脂としては、前記の各種のポリオレフィンを用いることができる。更に、熱可塑性樹脂組成物に含有される非変性ポリオレフィンと、酸変性に用いるベース樹脂とは同種の樹脂であることが好ましい。また、同種の樹脂である場合、各々の樹脂の平均分子量、密度等の差が小さいことがより好ましく、共重合体であるときは、各々の単量体単位の割合の差が小さいことがより好ましい。
【0012】
ポリオレフィンに酸基を導入する方法も特に限定されないが、通常、ポリオレフィンに酸基を有する化合物を反応させて導入する、所謂、グラフト重合により導入することができる。酸基を有する化合物も特に限定されず、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、アクリル酸及びメタクリル酸等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、酸無水物が用いられることが多く、特に無水マレイン酸及び無水イタコン酸が多用される。
【0013】
酸変性ポリオレフィンにおける酸基の導入量は特に限定されないが、酸価が5以上となる導入量であることが好ましい。酸変性ポリオレフィンの酸価が5以上となる導入量であれば、酸変性ポリオレフィンを多量に配合することなく、成形体の機械的特性を十分に向上させることができる。この酸価は、10〜80、特に15〜70、更に20〜60であることがより好ましい。
尚、酸価はJIS K0070により測定することができる。
【0014】
更に、酸変性ポリオレフィンの平均分子量も特に限定されないが、重量平均分子量が10000〜200000であることが好ましい。即ち、比較的低分子量の酸変性ポリオレフィンであることが好ましい。このような酸変性ポリオレフィンを用いることにより、熱可塑性樹脂組成物の流動性を十分に向上させることができ、且つ優れた機械的特性を有する成形体とすることができる。この重量平均分子量は、15000〜150000、特に25000〜120000、更に35000〜100000であることがより好ましい。
尚、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィにより測定することができる。
【0015】
また、酸変性ポリオレフィンを併用する場合、熱可塑性樹脂全体を100質量%としたときに、酸変性ポリオレフィンは1〜30質量%であることが好ましく、1〜25質量%、特に1〜20質量%、更に1.5〜10質量%であることがより好ましい。酸変性ポリオレフィンの配合量が1〜30質量%であれば、射出成形等の成形時の熱可塑性樹脂組成物の流動性を飛躍的に向上させることができるとともに、成形体の機械的特性を向上させることができる。更に、熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン系樹脂、例えば、ポリプロピレン及び/又はエチレン−プロピレン共重合体、特にエチレン−プロピレンブロック共重合体と、これらを酸変性した樹脂とを併用することがより好ましい。これによって、射出成形等の成形時の熱可塑性樹脂組成物の流動性、及び成形体の機械的特性を十分に向上させることができる。
【0016】
(b)原料繊維
前記「原料繊維」は、植物に由来する繊維である。この原料繊維としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、針葉樹(杉、檜等)、広葉樹及び綿花などの各種の植物が有する繊維が挙げられる。この原料繊維は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有し、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献することができるケナフが有する繊維が好ましい。また、植物のうちの用いる部位は特に限定されず、非木質部、木質部、葉部、茎部及び根部等の植物を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよいし、2箇所以上の異なる部位を併用してもよい。
【0017】
ケナフは木質茎を有する早育性の一年草であり、アオイ科に分類される植物である。このケナフとしては、学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等、並びに通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が挙げられる。原料繊維としてケナフが有する繊維を用いる場合、強靱な繊維を有する靭皮と称される外層部分を用いることができる。
【0018】
原料繊維の繊維長及び繊維径は特に限定されないが、繊維長(L)と繊維径(t)との比(L/t)が5〜20000であることが好ましい。また、原料繊維の繊維長は、通常、10〜300mmであり、繊維径は、通常、10〜100μmである。この繊維長は、JIS L1015における直接法と同様にして1本の原料繊維を伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で測定した値である。一方、繊維径は、繊維長を測定した原料繊維について、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて測定した値である。
【0019】
更に、原料繊維の平均繊維長及び平均繊維径も特に限定されないが、平均繊維長は100mm以下(通常、20mm以上)であることが好ましい。平均繊維長が100mm以下の原料繊維を用いることにより、容易に所定長の裁断繊維とすることができる。この平均繊維長は、JIS L1015に準拠する直接法により、単繊維を無作為に1本ずつ取り出し、伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。また、平均繊維径は100μm以下(通常、15μm以上)であることが好ましい。この平均繊維径は、無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて実測し、合計200本について測定した平均値である。
【0020】
熱可塑性樹脂組成物には、熱可塑性樹脂及び植物繊維を除く他の成分を含有させることができる。この他の成分は特に限定されないが、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、着色剤等の各種の添加剤が挙げられる。これらの添加剤は各々1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの他の成分を配合する工程は特に限定されないが、通常、混合工程において配合し、含有させる。
【0021】
(2)工程
本発明の熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、原料繊維を裁断装置により裁断して裁断繊維とする裁断工程と、この裁断繊維と熱可塑性樹脂とを、混合装置により混練し、混合する混合工程とを備える。また、混合工程において得られた樹脂繊維混合物は塊状であるため、粉砕工程において粉砕し、粉砕混合物として用いることが好ましい。更に、この粉砕混合物は、そのまま成形体の原料として用いてもよいが、ペレット化装置により所定の形状及び寸法を有するペレットとし、このペレットを成形体の原料として用いてもよい。
【0022】
(a)裁断工程
前記「裁断工程」は、原料繊維を裁断して所定長さの裁断繊維とする工程である。
裁断工程において用いられる装置は特に限定されず、原料繊維を所定長さに効率よく裁断することができればよい。この裁断装置としては、例えば、図1、2に記載された裁断装置を用いることができる。
【0023】
図1、2に記載された裁断装置30は、シャフト31に同芯状に取り付けられ、固定された回転歯32と、この回転歯32に対向して配設された固定歯33とを備え、ホッパー34から投入された原料繊維は、回転歯32により押圧されながら固定歯33まで移動し、ここで回転歯32と固定歯33とが噛み合い、原料繊維が裁断される。回転歯32と固定歯33とは各々の歯先面が長さ方向において、僅かに、例えば、1〜5°、特に2〜4°の角度をなすように固定されている。これにより、原料繊維は、押圧され、粉砕されるのではなく、特に長さ方向に効率よく裁断され、所定長さの裁断繊維とすることができる。また、裁断繊維は、ケーシングの少なくとも下方側に配設されたスクリーンSの網目を通過して下方に落下し、回収される。
【0024】
更に、この裁断装置30では、回転歯32の回転方向において近接する複数の固定歯33が配設されており、先の固定歯33と回転歯32との間で裁断されなかった原料繊維が、後の固定歯33と回転歯32との間で裁断される。そのため、先の固定歯33の位置で裁断されなかった原料繊維がケーシング内に滞留し、再度回転するようなことがなく、繊維長に大差のない、より均質な裁断繊維とすることができる。また、ケーシングの側板35と面一に、シャフト31及び回転歯32とともに回転する回転板36が設けられているため、シャフト31と回転歯32との間に裁断繊維が入り込んで擦り合わされるようなことがない。更に、側板35と回転板36との間に隙間が設けられており、側板35と回転板36との境界周辺の裁断繊維は隙間から外部へ排出されるため、この境界周辺において裁断繊維が擦り合われたり、滞留して劣化したりすることもない。
【0025】
前記「裁断繊維」は、裁断装置が有する目開き0.5〜2mmのスクリーンを通過し、且つ真直状である。目開き0.5〜2mmのスクリーンを通過した裁断繊維であれば、混合工程において熱可塑性樹脂と容易に混練することができ、且つより均一に混合することができる。また、目開き0.5〜2mmのスクリーンを通過した裁断繊維の繊維長は、0.1〜3mm、特に0.5〜2mmとすることができる。スクリーンの目開きは0.5〜1.5mm、特に0.5〜1mmとより小さいことが好ましく、これによって、より繊維長の短い裁断繊維とすることができ、より優れた流動性を有する熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。更に、裁断繊維の繊維径も特に限定されないが、前記の繊維径を有する原料繊維を裁断することにより、裁断繊維の繊維径は、通常、10〜100μm、特に50〜90μmとすることができる。この裁断繊維の繊維長及び繊維径は、前記の原料繊維の繊維長及び繊維径の場合と同様の方法により測定することができる。
【0026】
更に、裁断繊維は真直状であるため、ペレット又は粉末の形態で用いられる熱可塑性樹脂との嵩密度の差が小さく、混練が容易であり、且つより多量の裁断繊維をより均一に混合することができる。この「真直状」とは、裁断繊維が90°以下の角度で折れ曲がった屈曲部を有していないことを意味し(図3参照)、90°以下の角度で折れ曲がった屈曲部を一箇所でも有している場合は、真直状ではないとする(図4参照)。また、真直状であることは、裁断繊維を光学顕微鏡により倍率50倍で明視野観察したときに、視野内に屈曲部を有する裁断繊維が観察されないことにより確認することができる。更に、植物性材料は、一般に嵩密度が大きいため、混合装置に一度に投入できる量が限られ、生産効率は高くないが、目開き0.5〜2mmのスクリーンを通過し、且つ屈曲部を有さない真直状の裁断繊維であれば、投入量を多くすることができ、熱可塑性樹脂組成物をより効率よく製造することができる。
【0027】
また、裁断繊維は、予めペレット化することなく、混合工程において熱可塑性樹脂と混練し、混合してもよく、予めペレット化し、このペレットを熱可塑性樹脂と混練し、混合してもよい。裁断繊維は繊維長が十分に小さく、且つ真直状であるため、このままで熱可塑性樹脂と十分に均一に混合させることができ、ペレット化せずに用いることによって、ペレット化したときと比べてより優れた流動性を有する熱可塑性樹脂組成物とすることができる。
尚、裁断繊維をペレット化する場合、その方法は特に限定されず、後記の熱可塑性樹脂組成物のペレット化と同様にして実施することができ、同様に、ローラーディスクダイ式成形機を用いることが特に好ましい。
【0028】
(b)混合工程
前記「混合工程」は、熱可塑性樹脂と裁断繊維とを混練し、混合する工程である。
この混合工程では、押出タイプの混練、混合機を除いた混合装置が用いられる。この混合装置は特に限定されないが、熱可塑性樹脂に多量の裁断繊維を混合させることができればよく、例えば、図5、6に記載された混合装置を用いることができる。この特定の混合装置を用いた場合、より高い流動性を有する熱可塑性樹脂組成物をより容易に製造することができる。
【0029】
この混合装置[以下、図5(図5は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレットの図1を引用)及び図6(図6は、特許庁の特許電子図書館から取得した国際公開04/076044号パンフレットの図2を引用)参照]としては、国際公開04/076044号パンフレットに記載の混合装置1が好ましい。即ち、混合装置1は、材料供給室13と、材料供給室13に連設された混合室3と、材料供給室13と混合室3とを貫通して回転自在に設けられた回転軸5と、材料供給室13内の回転軸5に配設され、且つ材料供給室13に供給された熱可塑性樹脂と裁断繊維との混合材料を混合室3へ搬送するためのスクリュー羽根12と、混合室3内の回転軸5に配設され、且つ混合材料を混合する混合羽根10a〜10fと、を備える混合装置が好ましい。
【0030】
混合装置1を使用し、熱可塑性樹脂と裁断繊維とを材料供給室13に投入し、スクリュー羽根12により混合室3へ搬送し、混合羽根10a〜10fを回転させることで、熱可塑性樹脂及び裁断繊維がともに、混合室3の内壁へ向かって押し付けられ、内壁を打撃し、且つ混合羽根10a〜10fの回転方向に押し進められ、材料同士の衝突により発生する熱により短時間で熱可塑性樹脂が軟化し、溶融して、裁断繊維と混練され、混合される。このようにして製造される混合物(熱可塑性樹脂組成物)には、例えば、射出成形が可能な優れた流動性が付与される。
【0031】
混合羽根10a〜10fは、回転軸5の周方向に一定の角度で間隔をおいた位置において軸方向に対向するとともに、回転方向において互いの対向間隔が狭くなるような取付角で回転軸5に配設され、少なくとも2枚の混合羽根(10a〜10f)によって構成される。混合羽根10a〜10fの回転軸5に対する取付角は、回転軸5に取り付けられる混合羽根10a〜10fの根元部から径方向外方の先端部まで同一であることが好ましい。また、混合羽根10a〜10fの平面形状は矩形であることが好ましい。更に、混合室3は、その構成壁に冷却媒体を循環させることができる混合室冷却手段を備えることがより好ましい。このような構成とすることにより、混合室内が過度に昇温することを抑えることができ、熱可塑性樹脂の熱劣化を防止、又は少なくとも抑えることができる。
【0032】
混合工程における各種条件は特に限定されないが、例えば、混合時の温度は、混合室の外壁面の温度を200℃以下、特に150℃以下、更に120℃以下に制御することが好ましく、且つ50℃以上、特に60℃以上、更に80℃以上に制御することがより好ましい。また、この温度に到達させる時間は、10分以内、特に5分以内であることが好ましい。短時間で所定温度に到達させることで、急激に水分を蒸散させるとともに、混合することができ、熱可塑性樹脂の劣化をより効果的に抑えることができる。更に、前記の温度範囲を維持する時間も、15分以内、特に10分以内とすることが好ましい。また、この温度は、混合装置の混合羽根の回転速度により制御することが好ましい。より具体的には、混合羽根の先端の周速度を5〜50m/秒となるように制御することが好ましい。この範囲の周速度に制御することにより、熱可塑性樹脂を効率よく軟化させ、溶融させつつ、裁断繊維とより均一に混合することができる。
【0033】
更に、この混合の終点は特に限定されないが、回転軸に負荷されるトルクの変化により決定することができる。即ち、回転軸に負荷されるトルクを測定し、そのトルクが最大値となった後に混合を停止することが好ましい。これにより、熱可塑性樹脂と裁断繊維とを相互に十分に分散させ、混合させることができる。また、トルクが最大値となった後、低下し始めてから混合を停止させることがより好ましい。更に、最大トルクに対して40%以上、特に50〜80%のトルク範囲となった時点で混合を停止することが特に好ましい。これにより、熱可塑性樹脂と裁断繊維とを相互により十分に分散させることができるとともに、混合室内から混合物(熱可塑性樹脂組成物)を160℃以上の温度で取り出すことができ、混合室内に熱可塑性樹脂組成物が付着して残存されることをより確実に防止することができる。
【0034】
また、前記「植物繊維」(裁断繊維が熱可塑性樹脂と混練され、混合されてなる熱可塑性樹脂組成物に含有されている繊維であり、熱可塑性樹脂と混練、混合されるため、裁断繊維とは異なった形態の繊維になる。また、粉砕工程及びペレット化工程を備える場合は、これらの工程において更に異なった形態の繊維になる。)の含有量は、熱可塑性樹脂と植物繊維との合計を100質量%とした場合に、50〜95質量%である。この含有量は、通常、熱可塑性樹脂組成物の製造時に熱可塑性樹脂に配合する裁断繊維の配合量と同量である。即ち、熱可塑性樹脂及び裁断繊維の各々の配合量の合計を100質量%としたときに、裁断繊維の配合量は50〜95質量%である。この植物繊維の含有量(裁断繊維の配合量)は55〜65質量%であることが好ましい。植物繊維の含有量(裁断繊維の配合量)が50〜95質量%であれば、優れた曲げ弾性率等を有し、実用性の観点で好ましい成形体とすることができる。
【0035】
(c)粉砕工程
粉砕工程を備える場合、粉砕装置は特に限定されず、塊状の樹脂繊維混合物を効率よく粉砕することができればよい。このような装置としては、樹脂組成物の粉砕に一般に用いられる粉砕装置を使用することができる。例えば、株式会社ホーライ製の粉砕効率が高いZシリーズの粉砕機等を用いることができる。また、粉砕混合物の粒子の形状及び粒径も特に限定されず、整粒等の操作は特に必要とすることなく、成形体の原料として用いることができる。粒径(最大寸法)は1〜10mm、特に3〜8mmであることが好ましく、粒径が1〜10mmであれば、取り扱い易く、射出成形機等の成形機への供給も容易である。
【0036】
(d)ペレット化工程
ペレット化工程を備える場合、混合工程で製造され、粉砕されてなる粉砕混合物をペレット化装置に供給してペレット化する。これは、本発明の方法により製造された熱可塑性樹脂組成物は、その後、射出形成等の成形に供することができるが、その際、熱可塑性樹脂組成物がペレット化されていることにより成形が容易になり好ましいためである。このペレット化に用いる装置は特に限定されず、粉砕混合物を効率よくペレット化することができればよい。このような装置としては、樹脂組成物のペレット化に一般に用いられるペレット化装置を使用することができる。また、粉砕混合物を押出機等に供給し、溶融混練し、押し出してペレット化することもできる。
【0037】
更に、粉砕混合物は、加熱せず、押し固めてペレット化することが好ましい。このように、加熱せず、押し固めてペレット化することにより、例えば、粉砕混合物を押出機等に供給し、溶融混練し、押し出してペレット化するときに比べて、粉砕混合物への熱履歴を低減することができ、この粉砕混合物を用いて成形される成形体の機械的特性をより向上させることができる。
【0038】
この加熱せず、押し固めてペレット化する工程では、どのような装置及び手段を用いてもよいが、各種圧縮成形法によるペレット化であることが特に好ましい。この圧縮成形法としては、例えば、ローラー式成形法及びエクストルーダ式成形法等が挙げられる。これらのうち、ローラー式成形法は、ローラー式成形機を用いる方法であり、ダイに接して回転するローラーにより混合物がダイ内に圧入され、その後、ダイから押し出されてペレット化される。ローラー式成形機としては、ディスクダイ式(ローラーディスクダイ式成形機)と、リングダイ式(ローラーリングダイ式成形機)とが挙げられ、これらはダイの形状が異なる。一方、エクストルーダ式成形法は、エクストルーダ式成形機を用いる方法であり、スクリューオーガの回転により混合物がダイ内に圧入され、その後、ダイから押し出されてペレット化される。これらの圧縮成形法のうちでは、圧縮効率が高いローラーディスクダイ式成形機を用いた方法がより好ましい。
【0039】
また、ペレット化には、下記の特定のローラーディスクダイ式成形機(要部を記載した図7参照)を用いることが特に好ましい。即ち、複数の貫通孔411が穿設されたディスクダイ41と、ディスクダイ41上で転動し、貫通孔411内に非圧縮物(粉砕混合物)を押し込むプレスローラ42と、プレスローラ42を駆動する主回転軸43とを備えるローラーディスクダイ式成形機40を用いることが特に好ましい。この成形機では、ディスクダイ41は、貫通孔411と同方向に貫通する主回転軸挿通孔412を有し、主回転軸43は、主回転軸挿通孔412に挿通され、且つ主回転軸43に垂直に設けられたプレスローラ固定軸44を有する。また、プレスローラ42は、プレスローラ固定軸44に回転可能に軸支され、主回転軸43の回転に伴ってディスクダイ41上を転動する。
このローラーディスクダイ式成形機40では、上記の構成に加え、プレスローラ42の表面に凹凸421が設けられていることがより好ましい。また、主回転軸43の回転に伴って回転する切断用ブレード45を備えていることがより好ましい。
【0040】
ローラーディスクダイ式成形機40では、例えば、図7において、主回転軸43の上方から投入された粉砕混合物をプレスローラ42が備える凹凸421が捉えて貫通孔411内に押し込み、ディスクダイ41の裏面側から紐状の粉砕混合物が押し出される。この紐状の粉砕混合物は、回転する切断用ブレード45により適宜の長さに切断されてペレット化され、下方に落下して回収される。また、ペレットの形状及び寸法は特に限定されないが、円柱状等の柱状形状であることが好ましい。更に、その最大寸法は1mm以上(通常、20mm以下)であることが好ましく、1〜10mm、特に2〜7mmであることがより好ましい。
【0041】
[2]成形体の製造方法
本発明の方法により製造された熱可塑性樹脂組成物(混合後の塊状のままでは使用し難いため、通常、粉砕され、又は粉砕され、且つペレット化されて用いられる。)は、射出成形、押出成形、圧縮成形等の各種の成形方法により成形体とすることができる。この熱可塑性樹脂組成物は、多量の植物繊維を含有しているにもかかわらず、優れた流動性を有するため、特に十分な流動性を必要とする射出成形に用いることもできる。また、この射出成形時、熱可塑性樹脂組成物がペレット化されておれば、計量時間及び射出時間等を短縮することができ、その結果、成形サイクルが短縮されて成形効率を向上させることができる。更に、射出成形等の各種の成形に用いる装置及び成形条件等は特に限定されず、熱可塑性樹脂の種類、及び成形体の形状、用途等により適宜選択し、設定すればよい。
【0042】
成形体の形状及び寸法等も特に限定されず、その用途も特に限定されない。この成形体としては、例えば、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。これらのうち、自動車用途としては、内装材、インストルメントパネル、外装材等が挙げられ、具体的には、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、ドアトリム、シート構造材、シートバックボード、天井材、コンソールボックス、ダッシュボード、インストルメントパネル、デッキトリム、バンパ、スポイラ及びカウリング等が挙げられる。更に、前記の自動車等を除く他の用途としては、例えば、建築物及び家具等の内装材、外装材及び構造材等が挙げられる。例えば、建築物のドア表装材、ドア構造材、机、椅子、棚、箪笥等の各種家具の表装材、構造材等が挙げられる。更に他の例として、包装体、トレイ等の収容体、保護用部材及びパーティション部材等が挙げられる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
[1]熱可塑性樹脂組成物の製造
実施例1
(1)裁断繊維の作製
原料繊維であるケナフ繊維(インドネシア産、ロープ状)を裁断装置(有限会社吉工製、型式「RC250」)により裁断し、目開き2mmのスクリーンを通過させ、繊維長1〜2mmの裁断繊維として回収した。この裁断繊維は屈曲部を有さず、真直状であった。
【0044】
(2)熱可塑性樹脂組成物の製造
前記(1)で作製した裁断繊維360gと、ポリプロピレン(日本ポリプロ社製、商品名「ノバテックNBC03HR」)225gと、酸変性ポリプロピレン(三菱化学社製、商品名「P908」、無水マレイン酸変性ポリプロピレン)15g[裁断繊維、ポリプロピレン及び酸変性ポリプロピレンの質量割合(合計量を100質量%とする。)は、裁断繊維が60質量%、ポリプロピレンが37.5質量%、酸変性ポリプロピレンが2.5質量%になる。]と、を図5の混合装置1(WO2004−076044号に記載された装置)の材料供給室13に投入し、その後、容量5リットルの混合室3に移送し、混合羽根(図6の10a〜10f)を回転数1750rpmで回転させ、混練し、混合した。そして、混合羽根にかかる負荷(トルク)が上昇し、最大値に達して4秒経過後を終点として混合を停止し、混合物(粉砕及びペレット化前の熱可塑性樹脂組成物)を混合装置1から排出させた。
【0045】
(3)粉砕及びペレット化
前記(2)で製造した塊状の熱可塑性樹脂組成物を、粉砕機(ホーライ社製、形式「Z10−420」)により最大寸法5mm程度に粉砕し、その後、粉砕物を、ローラーディスクダイ式成形機[菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径4.2mm、厚さ25mmのダイを使用]に、フィーダー周波数20Hzで投入し、直径約4mm、且つ長さ約5mmの円柱状のペレットとし、次いで、このペレットをオーブンにて100℃で24時間乾燥させ、熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0046】
実施例2
目開き1mmのスクリーンを備える裁断装置を用いた他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。裁断繊維の繊維長は0.5〜1mmであった。この裁断繊維は屈曲部を有さず、真直状であった。
実施例3
目開き0.5mmのスクリーンを備える裁断装置を用いた他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。裁断繊維の繊維長は0.2〜0.5mmであった。この裁断繊維は屈曲部を有さず、真直状であった。
【0047】
実施例4
実施例1において得られた裁断繊維を、ローラーディスクダイ式成形機[菊川鉄工所製、形式「KP280」、貫通孔径6.2mm、厚さ28mmのダイを使用]に、フィーダー周波数40Hzで投入し、予め、直径約6mm、且つ長さ約10mmの円柱状のペレットとし、その後、熱可塑性樹脂と混練、混合した他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
実施例5
実施例2において得られた裁断繊維を、実施例4と同様にしてペレット化した他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
実施例6
実施例3において得られた裁断繊維を、実施例4と同様にしてペレット化した他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
【0048】
比較例1
裁断機(有限会社吉工製、型式「RC250」)に代えて粉砕機(株式会社ホーライ製、型式「Z10−420」)を使用して原料繊維を粉砕し、目開き6mmのスクリーンを通過させ、粉砕繊維(繊維長は4〜6mmであり、屈曲部を有し、真直状ではない。)として回収し、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造しようとしたが、繊維の嵩が大きいため、混練、混合することができず、熱可塑性樹脂組成物を製造することができなかった。
比較例2
比較例1と同様にして得られた粉砕繊維を、実施例4と同様にしてペレット化した他は、実施例1と同様にして熱可塑性樹脂組成物を製造し、ペレット化した。
以上、実施例1〜6及び比較例1〜2における裁断繊維(粉砕繊維)の製造に用いた裁断装置(粉砕装置)が有するスクリーンの目開き、裁断繊維の形態、裁断繊維のペレット化の有無、及びトルク値がピークに到達してから排出するまでの時間(比較例1は除く。)を表1に記載する。
【0049】
【表1】

【0050】
[2]熱可塑性樹脂組成物の特性評価
前記[1]で得られた実施例1〜6及び比較例2の熱可塑性樹脂組成物のペレットを、オーブンにて100℃で5時間乾燥させ、その後、射出成形機(住友重機械工業社製、型式「SE100DU」)により、シリンダー温度190℃、型温度40℃の条件で射出成形し、長さ110mm、幅10mm、厚さ4mmの試験片を作製し、次いで、ISO178に準拠して曲げ試験を実施し、曲げ弾性率を求めた。また、バーフロー金型を用いて同様にして射出成形し、流動長(バーフロー長)を評価した。これらの結果を表1に併記する。
【0051】
表1の結果によれば、所定の目開きのスクリーンを通過し、且つ真直状の裁断繊維と、ポリプロピレンと、酸変性ポリプロピレンとを、それぞれ所定量配合した実施例1〜6では、スクリーンの目開きによらず、即ち、裁断繊維の繊維長によらず、十分な曲げ特性を有し、バーフロー長を指標とする流動性も優れている。また、スクリーンの目開きが実施例1、2より小さい、即ち、裁断繊維の繊維長がより小さい実施例3では、バーフロー長がより長く、より優れた流動性を有していることが分かる。更に、裁断繊維をそのまま用いた実施例1〜3と、裁断繊維をペレット化して用いた実施例4〜6とを比べた場合、曲げ特性は同等であるが、流動性は、裁断繊維をそのまま用いた実施例1〜3がより優れている。一方、比較例1の粉砕繊維をペレット化して用いた比較例2では、熱可塑性樹脂組成物を製造することはできたものの、流動性が大きく低下していることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の熱可塑性組成物の製造方法は、自動車関連分野及び建築関連分野等の広範な用途おいて利用することができ、自動車、鉄道車両、船舶及び飛行機等の内装材、外装材及び構造材等の技術分野でより有用であり、特に、自動車用内装材、自動車用インストルメントパネル、自動車用外装材等の自動車関連の製品分野で好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0053】
1;撹拌機、3;混合室、5;回転軸、10及び10a〜10f;混合羽根、12;らせん状羽根、13;材料供給室、30;裁断装置、32;回転歯32、33;固定歯、40;ローラーディスクダイ式成形機、41;ディスクダイ、411;貫通孔、412;主回転軸挿通孔、42;プレスローラ、421;凹凸部、43;主回転軸、44;プレスローラ固定軸、45;切断用ブレード。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂及び植物繊維を含有し、該熱可塑性樹脂と該植物繊維との合計を100質量%とした場合に、該植物繊維は50〜95質量%である熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
原料繊維を裁断して裁断繊維とする裁断工程と、前記熱可塑性樹脂と該裁断繊維とを混練し、混合する混合工程と、を備え、
前記裁断繊維は、裁断装置が有する目開き0.5〜2mmのスクリーンを通過し、且つ真直状であることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
前記原料繊維は、ケナフ繊維である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン系樹脂及び酸変性ポリプロピレン系樹脂である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記ポリプロピレン系樹脂と前記酸変性ポリプロピレン系樹脂との合計を100質量%とした場合に、該酸変性ポリプロピレン系樹脂は1〜30質量%である請求項3に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程において得られた樹脂繊維混合物を粉砕して粉砕混合物とする粉砕工程を備える請求項1乃至4のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
前記粉砕混合物を押し固めてペレット化するペレット化工程を備える請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
前記混練、混合に用いる混合装置は、前記混合がなされる混合室及び該混合室内に配設された混合羽根を備え、
前記混合室内で、前記混合羽根の回転により昇温して溶融した前記熱可塑性樹脂と、前記裁断繊維とが混練され、混合される請求項1乃至6のうちのいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−275400(P2010−275400A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128243(P2009−128243)
【出願日】平成21年5月27日(2009.5.27)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】