説明

熱回収装置

【課題】ロータリーキルンの外周側の熱を回収するための熱回収装置において、ロータリーキルンを構成する外筒部の温度が耐熱温度以上となるのを適切に防止することが可能な熱回収装置を提供する。
【解決手段】ロータリーキルン2の外周側の熱を回収するための熱回収装置1は、所定の隙間を介して外筒部(鉄皮)4の外周面4cを覆うカバー部材8を備えている。カバー部材8には、空気の流入口と、流入口から流入し外筒部4の外周面4cとカバー部材8との間の隙間を通過した空気が排出される排気口とが形成され、外筒部4の長手方向におけるカバー部材8の長さは、外筒部4の、カバー部材8の内側に配置される部分の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まるように設定されている。この熱回収装置1では、カバー部材8ごとに、外筒部4の外周面4cとカバー部材8との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリーキルンの外周側の熱を回収するための熱回収装置に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントや生石灰等を焼成するロータリーキルンとして、円筒状に形成される鋼鉄製の外筒部(鉄皮)と、外筒部に内張りされる耐火物とを備えるロータリーキルンが広く利用されている。ロータリーキルンの外筒部の温度は、400℃を超す温度となる。そこで、従来、ロータリーキルンの外周側の熱を回収して有効利用するための熱回収装置が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1記載の熱回収装置は、ロータリーキルンの外筒部の全体を被覆するジャケットカバーを備えている。このジャケットカバーには、空気の導入口と排気口とが形成されている。導入口には、ロータリーキルンの外筒部とジャケットカバーとの間に空気を送り込む送風機が接続され、排気口には、ロータリーキルンの外筒部とジャケットカバーとの間から空気を吸い出す排風機が接続されている。この熱回収装置では、排気口から排出された高温の空気が、ロータリーキルンのバーナーに送り込まれ、バーナーの燃焼用空気として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−29667号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、ロータリーキルンの外筒部の温度は、高温の炉内から耐火物を介して伝導される熱と、外筒部の外周面から外部へ放散される熱とによって決定される。また、耐火物の仕様は、炉内温度、耐火物の厚みおよび耐火物の熱伝達率等を考慮して、大気中に配置される外筒部の温度が耐熱温度以下になるように決定されている。そのため、ロータリーキルンの外筒部がジャケットカバーで被覆されていると、ロータリーキルンの外筒部とジャケットカバーとの間を通過する空気の流量によっては、外筒部の外周面から外部へ放散される熱量が減少し、外筒部の温度が上昇して耐熱温度以上となるおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、ロータリーキルンの外周側の熱を回収するための熱回収装置において、ロータリーキルンを構成する外筒部の温度が耐熱温度以上となるのを適切に防止することが可能な熱回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の熱回収装置は、円筒状に形成される鋼鉄製の外筒部と、外筒部に内張りされる耐火物とを有するロータリーキルンの外周側の熱を回収するための熱回収装置において、所定の隙間を介して外筒部の外周面を覆う少なくとも1個のカバー部材を備え、カバー部材には、空気の流入口と、流入口から流入し外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過した空気が排出される排気口とが形成され、外筒部の長手方向におけるカバー部材の長さは、外筒部の、カバー部材の内側に配置される部分の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まるように設定され、カバー部材ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっていることを特徴とする。
【0008】
一般に、ロータリーキルンでは、外筒部の長手方向の一端側に燃焼用のバーナーが配置され、外筒部の長手方向の他端側に原料の投入口が配置されており、外筒部の長手方向において、外筒部の温度は変動する。本発明では、外筒部の長手方向におけるカバー部材の長さは、外筒部の、カバー部材の内側に配置される部分の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まるように設定され、カバー部材ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっているため、外筒部の、カバー部材の内側に配置される部分の温度に応じた適切な流量の空気が外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を流れるように、カバー部材ごとに空気の流量を調整することが可能になる。したがって、本発明では、外筒部の外周面を覆うようにカバー部材が配置されていても、外筒部の長手方向で変動する外筒部の温度の上昇を適切に抑制して、外筒部の温度が耐熱温度以上となるのを適切に防止することが可能になる。
【0009】
また、本願発明者の検討によると、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が増えると、外筒部の温度上昇を抑制することはできるが、外筒部の外周側の熱の回収効率が低下する。本発明では、カバー部材ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっているため、外筒部の、温度がそれほど高くならない部分では、外筒部の温度が耐熱温度以上とならない範囲で、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量を減らすことが可能になる。したがって、外筒部の、温度がそれほど高くならない部分では、外筒部の温度が耐熱温度以上となるのを防止しつつ、外筒部の外周側の熱の回収効率を高めることが可能になる。
【0010】
また、本発明では、外筒部の長手方向におけるカバー部材の長さが、外筒部の、複数のカバー部材のそれぞれの内側に配置される部分の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まるように設定されているため、カバー部材の内側での外筒部の温度の変動量を小さくすることが可能になる。したがって、本発明では、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量調整を容易に行うことが可能になる。
【0011】
本発明において、熱回収装置は、外筒部の長手方向で分割された複数のカバー部材を備えることが好ましい。このように構成すると、外筒部の長手方向におけるカバー部材の長さが、外筒部の、複数のカバー部材のそれぞれの内側に配置される部分の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まるように設定されている場合であっても、ロータリーキルンの外周側からより多くの熱を回収することが可能になる。なお、本発明では、複数のカバー部材ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっているため、外筒部の、複数のカバー部材のそれぞれの内側に配置される部分の温度に応じた適切な流量の空気が外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を流れるように、カバー部材ごとに空気の流量を調整することが可能である。また、複数のカバー部材ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっているため、外筒部の、温度がそれほど高くならない部分では、外筒部の温度が耐熱温度以上とならない範囲で、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量を減らすことが可能である。
【0012】
本発明において、熱回収装置は、複数のカバー部材の排気口に個別に接続される複数の空気吸引手段を備え、空気吸引手段の吸引流量を調整することで、カバー部材ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整されることが好ましい。このように構成すると、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量を比較的容易に制御することが可能になる。
【0013】
本発明では、外筒部の、カバー部材の内側に配置される部分の温度の測定結果に基づいて、カバー部材ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整されることが好ましい。このように構成すると、外筒部の温度が耐熱温度以上となるのを確実に防止することが可能になる。また、このように構成すると、測定された温度が耐熱温度に達していない場合には、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量を減らすことが可能になるため、ロータリーキルンの外周側の熱の回収効率を効果的に高めることが可能になる。
【0014】
本発明において、カバー部材には、たとえば、外筒部の、カバー部材の内側に配置される部分の温度を測定するための温度測定用窓が形成されている。この場合には、たとえば、放射温度計を利用して、外筒部の、カバー部材の内側に配置される部分の温度を測定することが可能になる。
【0015】
本発明において、カバー部材は、外筒部の、カバー部材の内側に配置される部分の外周面が露出するように移動可能となっていることが好ましい。このように構成すると、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間の空気の流れが停止した場合や、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が必要以上に低下した場合であっても、カバー部材を移動させて、外筒部の外周面を露出させることで、外筒部の温度が耐熱温度以上となるのを防止することが可能になる。
【0016】
本発明において、カバー部材には、外筒部の、カバー部材の内側に配置される部分の外周面を目視で確認するための覗き窓が形成されていることが好ましい。外筒部に内張りされた耐火物が落下すると、耐火物が落下した箇所では外筒部の温度が急上昇して、外筒部の外周面が赤くなるため、このように構成すると、外筒部の外周面を覆うカバー部材が配置されている場合であっても、外筒部の内周面からの耐火物の落下を目視で発見することが可能になる。
【0017】
また、上記の課題を解決するため、本発明の熱回収装置は、円筒状に形成される鋼鉄製の外筒部と、外筒部に内張りされる耐火物とを有するロータリーキルンの外周側の熱を回収するための熱回収装置において、所定の隙間を介して外筒部の外周面を覆うとともに外筒部の長手方向で分割された複数のカバー部材を備え、カバー部材には、空気の流入口と、流入口から流入し外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過した空気が排出される排気口とが形成され、外筒部の長手方向における所定の領域であって、外筒部の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まる複数の領域のそれぞれに少なくとも1個のカバー部材が配置され、この領域ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっていることを特徴とする。
【0018】
本発明では、外筒部の長手方向における所定の領域であって、外筒部の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まる領域ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっている。そのため、各領域における外筒部の温度に応じた適切な流量の空気が外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を流れるように、領域ごとに空気の流量を調整することが可能になる。したがって、本発明では、外筒部の外周面を覆うようにカバー部材が配置されていても、外筒部の長手方向で変動する外筒部の温度の上昇を適切に抑制して、外筒部の温度が耐熱温度以上となるのを適切に防止することが可能になる。また、本発明では、上述の領域ごとに、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっているため、外筒部の温度がそれほど高くならない領域では、外筒部の温度が耐熱温度以上とならない範囲で、外筒部の外周面とカバー部材との間の隙間を通過する空気の流量を減らすことが可能になる。したがって、外筒部の温度がそれほど高くならない領域では、外筒部の温度が耐熱温度以上となるのを防止しつつ、外筒部の外周側の熱の回収効率を高めることが可能になる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明の熱回収装置では、ロータリーキルンを構成する外筒部の温度が耐熱温度以上となるのを適切に防止することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態にかかる熱回収装置の構成を説明するための側面図である。
【図2】図1のE部の拡大図である。
【図3】図2のF−F断面の断面図である。
【図4】図3に示すカバー部材を移動させて外筒部の外周面を露出させた状態の断面図である。
【図5】熱回収装置が設置されていないときの外筒部の温度分布の一例を示すグラフである。
【図6】吸引ファンの吸引流量と外筒部の温度との関係、および、吸引ファンの吸引流量と吸引ファンから排出される加熱空気の温度との関係の一例を示すグラフである。
【図7】吸引ファンの吸引流量の設定例とその設定例に基づく外筒部の温度等の測定結果を示す一覧表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
(ロータリーキルンおよび熱回収装置の構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる熱回収装置1の構成を説明するための側面図である。図2は、図1のE部の拡大図である。図3は、図2のF−F断面の断面図である。図4は、図3に示すカバー部材8を移動させて外筒部4の外周面4cを露出させた状態の断面図である。図5は、熱回収装置1が設置されていないときの外筒部4の温度分布の一例を示すグラフである。
【0023】
本形態の熱回収装置1は、ロータリーキルン2の外周側の熱を回収するための装置である。ロータリーキルン2は、セメント、生石灰あるいはセラミックス等の被焼成物3(図3参照)を焼成するための回転式の炉である。
【0024】
ロータリーキルン2は、長尺の円筒状に形成される鋼鉄製の外筒部(鉄皮)4と、外筒部4に内張りされた耐火レンガ等の耐火物5とを備えている。外筒部4の一端4a側には、被焼成物3の原料が投入される原料投入部6が取り付けられている。外筒部4の他端4b側には、被焼成物3の排出口が形成されるとともに、焼成用のバーナー(図示省略)が取り付けられている。バーナーは、外筒部4の一端4a側に向かって燃料を噴射する。
【0025】
外筒部4の外周面4cには、外筒部4の長手方向を回転軸の方向として外筒部4を回転させる回転駆動機構(図示省略)が連結されている。また、外筒部4の外周面4cには、図示を省略する複数のドラムタイヤが所定のピッチで取り付けられており、このドラムタイヤは、図示を省略するローラによって回転可能に支持されている。外筒部4は、一端4aが他端4bよりもわずかに高くなるように傾斜した状態でローラに支持されている。
【0026】
ロータリーキルン2では、原料投入部6から投入された原料は、外筒部4の回転動作に伴って外筒部4内で回転しながら、外筒部4の一端4aから他端4bまで送られる。また、外筒部4の他端4bまで送られる過程で、原料は焼成されて被焼成物3となり、被焼成物3は、外筒部4の他端4bに形成される排出口から排出される。
【0027】
上述のように、ロータリーキルン2では、外筒部4の一端4a側に原料投入部6が取り付けられ、外筒部4の他端4b側にバーナーが取り付けられているため、外筒部4の長手方向において、外筒部4の温度は変動する。たとえば、外筒部4の長さL1(図1参照)が55(m)であり、外筒部4の外径D(図2参照)が3.25(m)である場合に、外筒部4の一端4aからの距離と外筒部4の温度との関係を測定すると、図5のようになる。すなわち、ロータリーキルン2では、バーナーが配置される外筒部4の他端4b側の温度が高くなり、原料が投入される外筒部4の一端4a側の温度が低くなっている。
【0028】
熱回収装置1は、外筒部4の長手方向で分割された複数のカバー部材8を備えている。カバー部材8は、鋼鉄と断熱材料とで形成されている。また、カバー部材8は、略円筒状に形成されており、図3に示すように、所定の隙間Sを介して外筒部4の外周面4cを覆っている。すなわち、外筒部4の外周面4cとカバー部材8の内周面との間には、円筒状の隙間Sが形成されている。複数のカバー部材8は、図1に示すように、互いに所定の間隔をあけた状態で、外筒部4の長手方向に沿って配置されている。なお、複数のカバー部材8の間には、上述の回転駆動機構を構成するギアやドラムタイヤ等が配置されている。
【0029】
外筒部4の長手方向におけるカバー部材8の長さL2(図2参照)は、外筒部4の長さL1よりも短くなっている。具体的には、カバー部材8の長さL2は、外筒部4の、複数のカバー部材8のそれぞれの内周側に配置される部分の最大温度と最小温度の差が所定範囲内に収まるように設定されている。たとえば、外筒部4の温度分布が図5に示す温度分布となるロータリーキルン2の場合には、矢印V1〜V5で示す5箇所にカバー部材8が配置されており、外筒部4の、5個のカバー部材8のそれぞれの内周側に配置される部分の最大温度と最小温度の差(たとえば、外筒部4の、矢印V1で示す箇所に設置されるカバー部材8の内周側に配置される部分の最大温度と最小温度の差)が50(℃)以内となるように、カバー部材8の長さL2は、外筒部4の外径Dの2.5倍以内に設定されている。具体的には、たとえば、カバー部材8の長さL2は、5(m)に設定されている。なお、全てのカバー部材8の長さL2が同じであっても良いし、長さL2が他のカバー部材8と異なるカバー部材8があっても良い。
【0030】
カバー部材8は、水平方向に分割可能な略半円筒状の2個のカバー半体9、10によって構成されている。カバー半体9とカバー半体10との境界部分には、図3に示すように、空気の流入口8aと、空気の排気口8bとが形成されている。具体的には、カバー部材8の下端に配置されるカバー半体9とカバー半体10との境界部分に流入口8aが形成され、カバー部材8の上端に配置されるカバー半体9とカバー半体10との境界部分に排気口8bが形成されている。
【0031】
カバー部材8の上端側には、ダクト11の一部が取り付けられている。具体的には、ダクト11の内部が排気口8bに連通するように、カバー部材8の上端側にダクト11の一部が取り付けられている。ダクト11には、空気吸引手段としての吸引ファン12の吸入側が接続されている。すなわち、排気口8bには、ダクト11を介して吸引ファン12が接続されている。
【0032】
吸引ファン12が駆動すると、流入口8aから空気(大気)が流入する。流入口8aから流入した空気は、隙間Sを通過しながら、外筒部4から放散される熱を吸収して加熱空気となり、排気口8bから排出される。排気口8bから排出され、ダクト11を通過した加熱空気は、加熱空気の利用先に向かって吸引ファン12から排出される。
【0033】
カバー半体9の下端側には、外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の温度を測定するための温度測定用窓9aが形成されている。温度測定用窓9aは、図2に示すように、外筒部4の長手方向に細長いスリット状に形成されるとともに、外筒部4の長手方向におけるカバー半体9の略全域に形成されている。本形態では、放射温度計によって、外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の温度が測定される。
【0034】
カバー半体10には、外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の外周面4cを目視で確認するための覗き窓10aが形成されている。覗き窓10aは、温度測定用窓9aと同様に、外筒部4の長手方向に細長いスリット状に形成されるとともに、外筒部4の長手方向におけるカバー半体10の略全域に形成されている。
【0035】
カバー半体9、10は、支持部材13に支持されている。また、支持部材13の下端は、台車14に固定されている。図4に示すように、本形態では、外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の外周面4cが露出するように、カバー半体9、10は、水平方向へ移動可能となっている。具体的には、外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の外周面4cが露出するように、台車14と一緒にカバー半体9、10が互いに離れる方向へ移動可能となっている。
【0036】
上述のように、カバー部材8ごとにダクト11を介して吸引ファン12が接続されているため、本形態では、個々の吸引ファン12の吸引流量を調整することで、カバー部材8ごとに、排気口8bからの空気の排出量を調整することが可能である。すなわち、本形態では、個々の吸引ファン12の吸引流量を調整することで、カバー部材8ごとに、隙間Sを通過する空気の流量を調整することが可能である。また、本形態では、温度測定用窓9aから測定される外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の温度に基づいて、個々の吸引ファン12の吸引流量が調整されて、カバー部材8ごとに隙間Sを通過する空気の流量が調整される。
【0037】
(吸引ファンの吸引流量の設定例)
図6は、吸引ファン12の吸引流量と外筒部4の温度との関係、および、吸引ファン12の吸引流量と吸引ファン12から排出される加熱空気の温度との関係の一例を示すグラフである。図7は、吸引ファン12の吸引流量の設定例とその設定例に基づく外筒部4の温度等の測定結果を示す一覧表である。
【0038】
たとえば、外筒部4の外径Dが3.25(m)である場合に、長さL2が5(m)であり、かつ、内径が3.4(m)である(すなわち、外筒部4の外周面4cとカバー部材8の内周面との距離が75(mm)である)カバー部材8を外筒部4の外周側に設置して、吸引ファン12の吸引流量を変化させたときの、吸引ファン12の吸引流量と外筒部4の温度との関係、および、吸引ファン12の吸引流量と吸引ファン12から排出される加熱空気の温度との関係を計算で求めると、図6のようになる。
【0039】
図6に示すように、吸引ファン12の吸引流量を増やしていくと、カバー部材8の内周側に配置される外筒部4の温度は低くなっていき、また、吸引ファン12から排出される加熱空気の温度も低くなっていく。すなわち、吸引ファン12の吸引流量を減らしていくと、カバー部材8の内周側に配置される外筒部4の温度および吸引ファン12から排出される加熱空気の温度は高くなっていく。なお、この計算では、カバー部材8が設置されていないときの外筒部4の温度を420(℃)、外気の温度を25(℃)としており、カバー部材8が設置されたときのカバー部材8の内周側の外筒部4の温度を420(℃)で維持するために必要な吸引ファン12の吸引流量は、13000mN/hとなる。
【0040】
以下、長さL1が55(m)、外径Dが3.25(m)であり、かつ、外筒部4の温度分布が図5に示す温度分布となるロータリーキルン2に熱回収装置1を設置したときの、吸引ファン12の吸引流量の設定例と、その設定例に基づく外筒部4の温度等の測定結果を図7を参照しながら説明する。この測定では、矢印V1〜V5で示す5箇所にカバー部材8を設置した。また、この測定で用いた外筒部4の耐熱温度は、450℃程度である。
【0041】
なお、図7における「熱回収前外筒部温度」とは、熱回収装置1が設置されていないときのカバー部材8の各設置予定位置における外筒部4の温度である。また、図7における「熱回収後外筒部温度」とは、熱回収装置1を設置して吸引ファン12を駆動したときのカバー部材8の各設置位置における外筒部4の温度であり、「熱回収後加熱空気温度」とは、各設置位置に設置されたカバー部材8のそれぞれに接続された吸引ファン12から排出される加熱空気の温度である。
【0042】
熱回収前外筒部温度が耐熱温度に近い矢印V2で示す位置に設置されたカバー部材8に接続される吸引ファン12では、外筒部4の温度上昇を抑制するため、その吸引流量を増やす必要がある。そのため、図7に示すように、この吸引ファン12の吸引流量は高く設定されており、その結果、この設置位置では、外筒部4の温度上昇を抑制して、外筒部4の温度を耐熱温度以下に抑えることはできたが、吸引ファン12から排出される加熱空気の温度は低下した。
【0043】
これに対して、熱回収前外筒部温度が矢印V2で示す位置よりも低い矢印V1、V3で示す位置に設置されたカバー部材8に接続される吸引ファン12では、外筒部4の温度が耐熱温度以上にならない程度まで、その吸引流量を減らすことができる。そのため、この設置位置では、外筒部4の温度を耐熱温度以下に抑えつつ、吸引ファン12から排出される加熱空気の温度を高めることができた。
【0044】
また、熱回収前外筒部温度がさらに低い矢印V4、V5で示す位置に設置されたカバー部材8に接続される吸引ファン12では、その吸引流量を大幅に減らすことができる。そのため、この設置位置では、熱回収前外筒部温度が低いにもかかわらず、吸引ファン12から排出される加熱空気の温度を高めることができた。
【0045】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、カバー部材8ごとにダクト11を介して吸引ファン12が接続されており、個々の吸引ファン12の吸引流量を調整することで、カバー部材8ごとに、排気口8bからの空気の排出量を調整することが可能となっている。そのため、たとえば、図5に示すように、外筒部4の温度はその長手方向において変動するが、各カバー部材8の内周側に配置される外筒部4の温度に応じた適切な流量の空気が隙間Sを流れるように、カバー部材8ごとに空気の流量を調整することが可能になる。したがって、本形態では、外筒部4の外周面4cを覆うようにカバー部材8が配置されていても、外筒部4の長手方向で変動する外筒部4の温度の上昇を適切に抑制して、外筒部4の温度が耐熱温度以上となるのを適切に防止することが可能になる。
【0046】
また、本形態では、カバー部材8ごとに隙間Sを流れる空気の流量を調整することが可能となっているため、外筒部4の、温度がそれほど高くならない部分では、外筒部4の温度が耐熱温度以上とならない範囲で、隙間Sを通過する空気の流量を減らすことが可能になる。したがって、外筒部4の、温度がそれほど高くならない部分では、吸引ファン12の吸引流量を減らすことで、たとえば、図6に示すように、吸引ファン12から排出される加熱空気の温度を高めることができ、その結果、外筒部4の温度が耐熱温度以上となるのを防止しつつ、外筒部4の外周側の熱の回収効率を高めることが可能になる。たとえば、図7に示すように、矢印V1、V3〜V5で示すカバー部材8の設置位置では、外筒部4の温度が耐熱温度以上となるのを防止しつつ、外筒部4の外周側の熱の回収効率を高めることができる。
【0047】
本形態では、カバー部材8の長さL2は、外筒部4の、複数のカバー部材8のそれぞれの内周側に配置される部分の最大温度と最小温度の差が所定範囲内に収まるように設定されている。そのため、本形態では、それぞれのカバー部材8の内周側での外筒部4の温度の変動量を小さくすることが可能になり、その結果、隙間Sを通過する空気の流量調整を容易に行うことが可能になる。なお、外筒部4の、複数のカバー部材8のそれぞれの内周側に配置される部分の最大温度と最小温度の差は、吸引ファン12の吸引流量の調整によって、外筒部4の温度が耐熱温度以上となるのを防止しつつ、外筒部4の外周側の熱の回収効率を効果的に高めることが可能となるような範囲に収められていることが好ましい。
【0048】
本形態では、熱回収装置1は、外筒部4の長手方向で分割された複数のカバー部材8を備えている。そのため、カバー部材8の長さL2が、外筒部4のカバー部材8の内周側に配置される部分の最大温度と最小温度の差が所定範囲内に収まるように設定されていても、ロータリーキルン2の外周側からより多くの熱を回収することが可能になる。
【0049】
本形態では、温度測定用窓9aから測定される外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の温度に基づいて、個々の吸引ファン12の吸引流量が調整されて、カバー部材8ごとに隙間Sを通過する空気の流量が調整されている。そのため、カバー部材8ごとに隙間Sを通過する空気の流量をより適切に調整して、外筒部4の温度が耐熱温度以上となるのを確実に防止することが可能になる。また、測定された温度が耐熱温度に達していない場合には、隙間Sを通過する空気の流量を減らすことができるため、外筒部4の外周側の熱の回収効率を効果的に高めることが可能になる。
【0050】
本形態では、外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の外周面4cが露出するように、カバー半体9、10が水平方向へ移動可能となっている。そのため、たとえば、隙間Sの空気の流れが停止した場合や隙間Sを通過する空気の流量が必要以上に低下した場合であっても、カバー半体9、10を移動させて、外筒部4の外周面4cを露出させることで、外筒部4の温度が耐熱温度以上となるのを防止することが可能になる。
【0051】
本形態では、外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の外周面4cを目視で確認するための覗き窓10aがカバー半体10に形成されている。外筒部4に内張りされた耐火物5が落下すると、耐火物5が落下した箇所では外筒部4の温度が急上昇して外周面4cが赤くなるため、本形態では、外筒部4の外周面4cの一部を覆うカバー部材8が配置されている場合であっても、外筒部4の内周面からの耐火物5の落下を目視で発見することが可能になる。
【0052】
(他の実施の形態)
上述した形態では、熱回収装置1は、複数のカバー部材8を備えているが、熱回収装置1が備えるカバー部材8の数は、1個であっても良い。この場合であっても、上述した形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
上述した形態では、台車14に載置されたカバー半体9、10が互いに離れる方向へ水平移動すると、外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の外周面4cが露出するが、たとえば、蝶番によって繋がれたカバー半体9とカバー半体10とがこの蝶番を中心に回動すると、外筒部4の、カバー部材8の内周側に配置される部分の外周面4cが露出するように、カバー部材8等が構成されても良い。
【0054】
上述した形態では、複数のカバー部材8の排気口8bに個別に吸引ファン12が接続されており、個々の吸引ファン12の吸引流量を調整することで、カバー部材8ごとに、排気口8bからの空気の排出量が調整されている。この他にもたとえば、複数のカバー部材8の排気口8bに共通の吸引ファン12が接続されるとともに、複数のカバー部材8の排気口8bのそれぞれと吸引ファン12との間に流量調整弁等の流量調整手段が配置され、この流量調整手段での流量調整によって、カバー部材8ごとに、排気口8bからの空気の排出量が調整されても良い。
【0055】
上述した形態では、カバー部材8ごとに、隙間Sを通過する空気の流量が調整されているが、カバー部材8ごとに、隙間Sを通過する空気の流量が調整されなくても良い。たとえば、外筒部4の長手方向における所定の領域であって、外筒部4の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まる複数の領域のそれぞれに2個以上のカバー部材8が配置される場合には、それぞれの領域に配置される2個以上のカバー部材8に共通の吸引ファン12が接続され、この共通の吸引ファン12によって、領域ごとに、隙間Sを通過する空気の流量がセットで調整されても良い。すなわち、たとえば、外筒部4の温度分布が図5に示す温度分布となるロータリーキルン2の場合に、矢印V1〜V5で示す箇所を含む5個の領域のそれぞれに長さL2が2(m)程度であるカバー部材8が2個ずつ配置されるとともに、各領域に配置される2個のカバー部材8に共通の吸引ファン12が接続され、共通の吸引ファン12によって、各領域に形成される2箇所の隙間Sを通過する空気の流量がセットで調整されても良い。
【符号の説明】
【0056】
1 熱回収装置
2 ロータリーキルン
4 外筒部
4c 外周面
5 耐火物
8 カバー部材
8a 流入口
8b 排気口
9a 温度測定用窓
10a 覗き窓
12 吸引ファン(空気吸引手段)
L2 カバー部材の長さ
S 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成される鋼鉄製の外筒部と、前記外筒部に内張りされる耐火物とを有するロータリーキルンの外周側の熱を回収するための熱回収装置において、
所定の隙間を介して前記外筒部の外周面を覆う少なくとも1個のカバー部材を備え、
前記カバー部材には、空気の流入口と、前記流入口から流入し前記外筒部の外周面と前記カバー部材との間の隙間を通過した空気が排出される排気口とが形成され、
前記外筒部の長手方向における前記カバー部材の長さは、前記外筒部の、前記カバー部材の内側に配置される部分の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まるように設定され、
前記カバー部材ごとに、前記外筒部の外周面と前記カバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっていることを特徴とする熱回収装置。
【請求項2】
前記外筒部の長手方向で分割された複数のカバー部材を備えることを特徴とする請求項1記載の熱回収装置。
【請求項3】
複数の前記カバー部材の前記排気口に個別に接続される複数の空気吸引手段を備え、
前記空気吸引手段の吸引流量を調整することで、前記カバー部材ごとに、前記外筒部の外周面と前記カバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整されることを特徴とする請求項2記載の熱回収装置。
【請求項4】
前記外筒部の、前記カバー部材の内側に配置される部分の温度の測定結果に基づいて、前記カバー部材ごとに、前記外筒部の外周面と前記カバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の熱回収装置。
【請求項5】
前記カバー部材には、前記外筒部の、前記カバー部材の内側に配置される部分の温度を測定するための温度測定用窓が形成されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の熱回収装置。
【請求項6】
前記カバー部材は、前記外筒部の、前記カバー部材の内側に配置される部分の外周面が露出するように移動可能となっていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の熱回収装置。
【請求項7】
前記カバー部材には、前記外筒部の、前記カバー部材の内側に配置される部分の外周面を目視で確認するための覗き窓が形成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の熱回収装置。
【請求項8】
円筒状に形成される鋼鉄製の外筒部と、前記外筒部に内張りされる耐火物とを有するロータリーキルンの外周側の熱を回収するための熱回収装置において、
所定の隙間を介して前記外筒部の外周面を覆うとともに前記外筒部の長手方向で分割された複数のカバー部材を備え、
前記カバー部材には、空気の流入口と、前記流入口から流入し前記外筒部の外周面と前記カバー部材との間の隙間を通過した空気が排出される排気口とが形成され、
前記外筒部の長手方向における所定の領域であって、前記外筒部の最大温度と最小温度との差が所定範囲内に収まる複数の領域のそれぞれに少なくとも1個の前記カバー部材が配置され、
前記領域ごとに、前記外筒部の外周面と前記カバー部材との間の隙間を通過する空気の流量が調整可能となっていることを特徴とする熱回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−137197(P2012−137197A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−287766(P2010−287766)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(501120122)スチールプランテック株式会社 (49)
【出願人】(000160407)吉澤石灰工業株式会社 (38)
【Fターム(参考)】