説明

熱硬化性樹脂組成物、フレキシブル配線板の保護膜の形成方法及びフレキシブル配線板

【課題】 ハロゲン系難燃剤を含有しない場合であっても十分な難燃性を有するとともに、充填剤の分散性に優れ、配線板上に印刷して硬化膜を形成する場合であっても配線間への流れ出しが生じにくく、なおかつ硬化後の基材の反りを十分小さくできる熱硬化性樹脂組成物、それを用いたフレキシブル配線板の保護膜の形成方法及びフレキシブル配線板を提供すること。
【解決手段】 上記課題を解決する熱硬化性樹脂組成物は、(A)分子内に酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂と、(B)エポキシ樹脂と、(C)充填剤とを含有し、(C)充填剤として、硼酸亜鉛及びメラミンシアヌレートを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂組成物、フレキシブル配線板の保護膜の形成方法及びフレキシブル配線板に関する。また、本発明は、スクリーン印刷機、ディスペンサ、スピンコータなどの塗布方法に適したチキソトロピー性を有する熱硬化性樹脂組成物及びそれからなる被膜形成材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の分野においては、小型化、薄型化、高速化への対応から、耐熱性、電気特性及び耐湿性に優れる樹脂として、エポキシ樹脂に代わり、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂が使用されている。しかし、これらの樹脂は、樹脂構造が剛直であり硬化膜が柔軟性に欠けるため、薄膜基材に用いた場合、硬化後の基材が大きく反りやすく、また屈曲性に劣るなどの問題がある。
【0003】
上述の樹脂について、反り性や柔軟性を改善するために、樹脂を変性させて可撓化及び低弾性率化することがこれまでにも検討されており、種々の変性ポリアミドイミド樹脂が提案されている(例えば、特許文献1、2及び3を参照)。
【0004】
一方、近年、電気・電子機器に使用されるプリント配線板には、火災を防止し、安全性を保つという観点から、難燃性が要求されている。これまで、フレキシブル基板の難燃性を確保するためには、ハロゲン系難燃剤が用いられている(例えば、特許文献4及び5を参照)。また、フレキシブル基板の難燃性向上のためには、金属酸化物、金属水酸化物を添加することによる脱水吸熱反応や炭化皮膜生成を利用した樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献6を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62−106960号公報
【特許文献2】特開平8−12763号公報
【特許文献3】特開平7−196798号公報
【特許文献4】特開2002−249639号公報
【特許文献5】特開2003−213078号公報
【特許文献6】特開2008−133418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ハロゲン系難燃剤は、燃焼時に有害なガスを発生する可能性があり、燃焼時の環境汚染等の問題が解決しておらず、これを用いない材料の使用が望まれている。水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物は、難燃性を十分得るには樹脂組成物における配合量を高める必要がある。そのため、係る樹脂組成物を基材上に保護膜などの被膜を形成する材料として用いた場合、硬化後に基材が大きく反るという問題が生じることがある。
【0007】
他方、近年の配線間の極小化に伴い、保護膜などの被膜を形成する材料に含まれる樹脂や溶剤の配線間への流れ出し(ブリード)が問題となっている。この問題は、例えば、無機微粒子や有機微粒子等の充填剤を配合し、樹脂組成物を高固形分化することで改善される傾向にある。しかし、この場合、消泡、レベリング性などの印刷性に不具合が生じやすくなる。更に、充填剤の分散性が悪いと、印刷による塗布が難しくなるなどの問題が生じる。別の方法として、カップリング剤の使用が考えられるが、カップリング剤はアウトガスを発生させやすく、アンダーフィル材の濡れ性やACF接着性に不具合を生じさせることがあることから、このような方法のみによってブリードを解消することは望ましくない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ハロゲン系難燃剤を含有しない場合であっても十分な難燃性を有するとともに、充填剤の分散性に優れ、配線板上に印刷して硬化膜を形成する場合であっても配線間への流れ出しが生じにくく、なおかつ硬化後の基材の反りを十分小さくできる熱硬化性樹脂組成物、それを用いたフレキシブル配線板の保護膜の形成方法及びフレキシブル配線板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決する本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)分子内に酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂と、(B)エポキシ樹脂と、(C)充填剤とを含有し、(C)充填剤として、硼酸亜鉛及びメラミンシアヌレートを含むものである。
【0010】
本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、上記特定の樹脂と、充填剤として硼酸亜鉛及びメラミンシアヌレートとを含むことにより、ハロゲン系難燃剤を含有しない場合であっても十分な難燃性を有するとともに、充填剤の分散性に優れ、配線板上に印刷して硬化膜を形成する場合であっても配線間への流れ出しが生じにくく、なおかつ硬化後の基材の反りを十分小さくすることができる。
【0011】
本発明の熱硬化性樹脂組成物におけるメラミンシアヌレートの含有量は、分散性、消泡時間及び難燃性の観点から、上記(A)樹脂100質量部に対して、5〜50質量部であることが好ましい。
【0012】
また、可撓化、低弾性率化及び高耐熱性化の観点から、上記(A)樹脂が、ポリカーボネート骨格を有するものであることが好ましい。
【0013】
更に、低反り性の観点から、上記(A)樹脂が、下記一般式(1)で表される構造を有することが好ましい。
【化1】



[式(1)中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基を示し、Xは、2価の有機基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜30の整数を示し、nが2以上の場合、複数個のXは同一であっても異なっていてもよい。]
【0014】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における上記(C)成分の含有量は、上記(A)樹脂100質量部に対して、100〜200質量部であることが好ましい。この含有量が100質量部未満であると、樹脂組成物の粘度及びチキソトロピー係数が低くなりすぎて、樹脂組成物の糸引きが増加するとともに印刷後の樹脂組成物の流れ出しが大きくなり、膜厚も薄膜化する傾向がある。その結果、電気特性が低下する場合がある。一方、上記含有量が200質量部を超えると、樹脂組成物の粘度及びチキソトロピー係数が高くなりすぎて、樹脂組成物の基材への転写性が低下するとともに印刷膜中のボイド及びピンホールが増加する傾向がある。
【0015】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、消泡性、レベリング性などの印刷性、及び、樹脂成分や溶剤の配線間への流れ出し(ブリード)を抑制する観点から、γ−ブチロラクトンを更に含有することが好ましい。
【0016】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、フレキシブル配線板の保護膜を形成するために用いることができる。本発明の熱硬化性樹脂組成物を、フレキシブル配線板の配線パターン上に保護膜を形成するために用いた場合、印刷により良好な形状の塗膜を形成でき、且つ、基材の反りを十分防止しつつ、ハロゲン系難燃剤を用いずとも難燃性に優れた保護膜を形成することができる。
【0017】
本発明のフレキシブル配線板の保護膜の形成方法は、本発明の熱硬化性樹脂組成物を、配線パターンが設けられたフレキシブル配線板の配線パターン上に印刷する工程と、印刷された熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させて保護膜を形成する工程とを備える。
【0018】
本発明のフレキシブル配線板の保護膜の形成方法によれば、本発明の熱硬化性樹脂組成物を用いて上記工程を経ることにより、基材の反りを十分防止しつつ、ハロゲン系難燃剤を用いずとも難燃性に優れた保護膜を良好に形成することができる。
【0019】
本発明はまた、基材と、基材上に設けられた配線パターンと、配線パターン上に設けられ、本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる保護膜とを備えるフレキシブル配線板を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ハロゲン系難燃剤を含有しない場合であっても十分な難燃性を有するとともに、充填剤の分散性に優れ、配線板上に印刷して硬化膜を形成する場合であっても配線間への流れ出しが生じにくく、なおかつ硬化後の基材の反りを十分小さくできる熱硬化性樹脂組成物、それを用いたフレキシブル配線板の保護膜の形成方法及びフレキシブル配線板を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)分子内に酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂と、(B)エポキシ樹脂と、(C)充填剤とを含有し、(C)充填剤として、硼酸亜鉛及びメラミンシアヌレートを含むものである。
【0022】
(A)分子内に酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂としては、例えば、ブタジエン構造やシリコーン構造を有するエポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン、ポリブタジエン、水添加ポリブタジエン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリスルホン、ポリテトラフルオロ樹脂、ポリシリコーン、メラミン樹脂、ポリアミド、ポリアミドイミド、及びポリイミド、等の樹脂の主鎖及び/又は側鎖に酸無水物基及び/又はカルボキシル基を導入したものが挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。上記樹脂の末端及び又は側鎖に、酸無水物基及び/又はカルボキシル基を導入することにより、後述する(B)成分であるエポキシ樹脂との反応性が高くなるため、貼付性(接着性)を向上させることができる。酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂は、酸無水物基及びカルボキシル基を有さない樹脂と併用してもよい。
【0023】
カルボキシル基が導入された上記樹脂は、例えば、上記の樹脂の合成過程において、ラジカル重合、縮重合又はイオン重合可能なカルボキシル基を有する化合物を配合することにより得ることができる。
【0024】
酸無水物基が導入された上記樹脂は、例えば、上記樹脂が有するエポキシ残基、イソシアネート残基、水酸基残基及びカルボキシル基等と、下記一般式(2)及び/又は下記一般式(3)で表される化合物とを反応させて得ることができる。
【0025】
【化2】



[一般式(2)中、Zは、3価の有機基を表し、Wは、水酸基、イソシネート基、カルボキシル基、エポキシ基又はグリシジル基を表す。]
【0026】
【化3】



[一般式(3)中、Zは、4価の有機基を表す。]
【0027】
本発明で用いる(A)成分の樹脂は、フレキシブル基板にも対応させるために、可撓性及び低弾性率であることが好ましい。(A)成分の樹脂を可撓性及び低弾性率にするためには、樹脂の主鎖に可撓性を向上できる成分を導入することが挙げられ、そのような成分としては、例えば、ポリブタジエン骨格、シリコーン樹脂骨格、及びポリカーボネート骨格が挙げられる。これらの骨格は、2種以上導入されていてもよい。
【0028】
また、硬化膜の耐熱性、電気特性、耐湿性、耐溶剤性及び耐薬品性を向上させるためには、樹脂の主鎖中に耐熱性を向上できる成分を導入することが挙げられる。そのような成分としては、例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド若しくはポリアミド又はこれらの骨格が好ましい。中でも、可撓化、低弾性率化及び高耐熱性化の観点から、ポリカーボネート骨格及びイミド骨格が好ましい。
【0029】
本発明で用いられる(A)成分は、例えば、1,6−ヘキサンジオール系ポリカーボネートジオール等と、カルボキシル基を有する化合物、酸無水物を有する化合物及び/又はイソシアネート基を有する化合物とを反応させることで得られる。
【0030】
また、(A)成分は、例えば、(a)成分:酸無水物基を有する3価のポリカルボン酸及びその誘導体、並びに酸無水物基を有する4価のポリカルボン酸から選ばれる1種以上の化合物と、(b)成分:イソシアネート化合物又はアミン化合物とを反応させて得ることができる。
【0031】
酸無水物基を有する3価のポリカルボン酸及びその誘導体としては、例えば、下記一般式(4)及び(5):
【化4】



【化5】



[一般式(4)及び(5)中、R’は、水素、炭素数1〜10のアルキル基又はフェニル基を示し、Yは、−CH−、−CO−、−SO−、又は−O−を示す。]
で示される化合物が挙げられる。
【0032】
酸無水物基を有する3価のポリカルボン酸としては、耐熱性、コスト面等から、トリメリット酸無水物がより好ましい。
【0033】
酸無水物基を有する4価のポリカルボン酸としては、例えば、下記一般式(6):
【化6】



[一般式(6)中、Yは、下記式(7):
【化7】



で示される複数の基から選ばれる基である。]
で示されるテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
また、上記の化合物以外の酸成分として、必要に応じて、脂肪族ジカルボン酸(コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、ダイマー酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、テレフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、オキシジ安息香酸等)等を併用することができる。この場合、分子鎖中にアミド結合も形成される。
【0035】
上記(b)成分として用いられるイソシアネート化合物としては、例えば、下記一般式(8):
【化8】



[一般式(8)中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Xは、2価の有機基、好ましくは炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基、より好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜30、好ましくは1〜20の整数を示し、nが2以上の場合、複数個のXは同一であっても異なっていてもよい。]
で示されるジイソシアネート類が挙げられる(以下、化合物(b−1)と記す場合もある)。
【0036】
上記一般式(8)で示される化合物(b−1)は、下記一般式(9):
【化9】



[一般式(9)中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基であり、mは1〜30、好ましくは1〜20の整数である。]
で示されるカーボネートジオール類と、下記一般式(10):
【化10】



[一般式(10)中、Xは、二価の有機基である。]
で示されるジイソシアネート類とを反応させることにより得られる。
【0037】
上記一般式(10)中のXで示される二価の有機基としては、例えば、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基が挙げられる。アリーレン基の具体例としては、非置換若しくはメチル基等の炭素数1〜5の低級アルキル基で置換されているフェニレン基等のアリーレン基が挙げられる。ジフェニルメタン−4,4’−ジイル基、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイル基等の芳香族環を2つ有する基も好ましいものとして挙げられる。
【0038】
上記一般式(9)で示されるカーボネートジオール類としては、例えば、α,ω−ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオール、α,ω−ポリ(3−メチル−ペンタメチレンカーボネート)ジオール等が挙げられ、市販されているものとしては、ダイセル化学株式会社製の商品名「PLACCEL CD−205,205PL,205HL,210,210PL,210HL,220,220PL,220HL」、宇部興産社製の商品名「UM−CARB90(1/1)」等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0039】
また、上記一般式(10)で示されるジイソシアネート類としては、例えば、ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート;3,2’−、3,3’−、4,2’−、4,3’−、5,2’−、5,3’−、6,2’−又は6,3’−ジメチルジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート;3,2’−、3,3’−、4,2’−、4,3’−、5,2’−、5,3’−、6,2’−又は6,3’−ジエチルジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート;3,2’−、3,3’−、4,2’−、4,3’−、5,2’−、5,3’−、6,2’−又は6,3’−ジメトキシジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート;ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート;ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート;ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート;ジフェニルエーテル−4、4’−ジイソシアネート;ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート;ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート;トリレン−2,4−ジイソシアネート;トリレン−2,6−ジイソシアネート;m−キシリレンジイソシアネート;p−キシリレンジイソシアネート;ナフタレン−2,6−ジイソシアネート;4,4’−〔2,2ビス(4−フェノキシフェニル)プロパン〕ジイソシアネート、水添ジフェニルメタン−2,4’−ジイソシアネート等が挙げられる。これらのジイソシアネート類において、一般式(10)中のXが芳香族環を有する芳香族ポリイソシアネートを使用することが好ましい。これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0040】
また、一般式(10)で示されるジイソシアネート類として、本発明の目的の範囲内で、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、水添m−キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族又は脂環式イソシアネート、あるいは三官能以上のポリイソシアネートを使用することができる。
【0041】
上記一般式(10)で示されるジイソシアネート類は、経日変化を避けるために、ブロック剤で安定化したものを使用してもよい。ブロック剤としては、アルコール、フェノール、オキシム等が挙げられるが、特に制限はない。
【0042】
上記一般式(9)で示されるカーボネートジオール類と、上記一般式(10)で示されるジイソシアネート類との配合割合は、水酸基数とイソシアネート基数の比率が、イソシアネート基/水酸基=1.01以上になるようにすることが好ましい。
【0043】
上記一般式(9)で示されるカーボネートジオール類と、上記一般式(10)で示されるジイソシアネート類との反応は、無溶媒あるいは有機溶媒の存在下で行うことができる。反応温度は、60〜200℃とすることが好ましく、より好ましくは80〜180℃である。反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件等により適宜選択することができる。例えば、1〜5L(リットル)のフラスコスケールで2〜5時間とすることができる。
【0044】
上記のようにして得られる化合物(b−1)(イソシアネート化合物)の数平均分子量は、500〜10,000であることが好ましく、1,000〜9,500であることがより好ましく、1,500〜9,000であることが特に好ましい。数平均分子量が500未満であると、反り性が悪化する傾向があり、10,000を超えると、イソシアネート化合物の反応性が低下し、ポリイミド樹脂化することが困難となる傾向がある。
【0045】
なお、本明細書において、数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算した値とする。また、本発明の数平均分子量及び分散度は、以下のように定義される。
(a)数平均分子量(M):
=Σ(N)/ΣN=ΣX
[X=分子量Mの分子のモル分率=N/ΣN
(b)重量平均分子量:
=Σ(N)/ΣN=ΣW
[W=分子量Mの分子の重量分率=N/ΣN
(c)分子量分布(分散度):
分散度=M/M
【0046】
上記(b)成分のイソシアネート化合物として、化合物(b−1)以外の化合物(以下、化合物(b−2)とする)を使用することもできる。化合物(b−2)としては、化合物(b−1)以外のイソシアネート化合物であれば、特に限定されず、例えば、上記一般式(9)で示されるジイソシアネート類、3価以上のポリイソシアネート類等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用することができる。化合物(b−2)のイソシアネート化合物の数平均分子量の好ましい範囲は、上記化合物(b−1)と同様である。
【0047】
特に耐熱性の点から、化合物(b−1)と化合物(b−2)とを併用することが好ましい。なお、化合物(b−1)及び化合物(b−2)をそれぞれ単独で用いる場合は、フレキシブル配線板用の保護膜としての柔軟性、反り性の改善等の点から、化合物(b−1)を使用することが好ましい。
【0048】
化合物(b−2)としては、その総量の50〜100質量%が芳香族ポリイソシアネートであることが好ましく、耐熱性、溶解性、機械特性、コスト面等のバランスを考慮すれば、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが特に好ましい。
【0049】
化合物(b−1)と化合物(b−2)を併用する場合、化合物(b−1)/化合物(b−2)の当量比で0.1/0.9〜0.9/0.1とすることが好ましく、0.2/0.8〜0.8/0.2とすることがより好ましく、0.3/0.7〜0.7/0.3とすることが特に好ましい。当量比がこの範囲にあると、良好な低反り性、密着性と良好な耐熱性等の膜特性をともに得ることができる。
【0050】
上記(b)成分のうちアミン化合物としては、上記(b)成分のイソシアネート化合物におけるイソシアナト基をアミノ基に転換した化合物が挙げられる。イソシアナト基のアミノ基への転換は、公知の方法により行うことができる。アミン化合物の数平均分子量の好ましい範囲は、上記化合物(b−1)と同様である。
【0051】
また、(a)成分である「酸無水物基を有する3価のポリカルボン酸及びその誘導体、並びに酸無水物基を有する4価のポリカルボン酸から選ばれる1種以上の化合物」の配合割合は、(b)成分中のイソシアネート基の総数に対する(a)成分中のカルボキシル基と酸無水物基の総数の比が、0.6〜1.4となるようにすることが好ましく、0.7〜1.3となるようにすることがより好ましく、0.8〜1.2となるようにすることが特に好ましい。この比が0.6未満又は1.4を超えると、ポリイミド結合を含む樹脂の分子量を高くすることが困難となる傾向がある。
【0052】
なお、(a)成分として上記一般式(4)で示される化合物、(b)成分として化合物(b−1)を用いた場合、下記一般式(11):
【化11】



[一般式(11)中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Xは、2価の有機基、好ましくは炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基、より好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜30、好ましくは1〜20の整数を示し、nが2以上の場合、複数個のXは同一であっても異なっていてもよい。]
で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を得ることができる。
【0053】
また、(a)成分として上記一般式(5)で示される化合物、(b)成分として化合物(b−1)を用いた場合、下記一般式(12):
【化12】



[一般式(12)中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Xは、2価の有機基、好ましくは炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基、より好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜30、好ましくは1〜20の整数を示し、nが2以上の場合、複数個のXは同一であっても異なっていてもよく、Yは、−CH−、−CO−、−SO−、又は−O−である。]
で示される繰り返し単位を有するポリアミドイミド樹脂を得ることができる。
【0054】
また、(a)成分として上記一般式(6)で示される化合物、(b)成分として化合物(b−1)を用いた場合、下記一般式(13):
【化13】



[一般式(13)中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Xは、2価の有機基、好ましくは炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基、より好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜30、好ましくは1〜20の整数を示し、nが2以上の場合、複数個のXは同一であっても異なっていてもよく、Yは、上記式(7)で示される複数の基から選ばれる基である。]
で示される繰り返し単位を有するポリイミド樹脂を得ることができる。
【0055】
(a)成分:酸無水物基を有する三価のポリカルボン酸及びその誘導体、並びに酸無水物基を有する4価のポリカルボン酸から選ばれる1種以上の化合物と、(b)成分:イソシアネート化合物又はアミン化合物との反応は、有機溶媒、好ましくは非含窒素系極性溶媒の存在下に、遊離発生してくる炭酸ガスを反応系より除去しながら加熱縮合させることにより行うことができる。
【0056】
上記非含窒素系極性溶媒としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどの含硫黄系溶媒;γ−ブチロラクトン、酢酸セロソルブなどのエステル系溶媒;シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0057】
上記溶媒は、生成する樹脂を溶解する溶剤を選択して使用するのが好ましく、(A)成分の合成後、そのまま熱硬化性樹脂組成物の溶媒として好適なものを使用することが好ましい。高揮発性であって、低温硬化性を付与でき、かつ効率良く均一系で反応を行う観点から、γ−ブチロラクトンを使用するのが好ましい。
【0058】
溶媒の使用量は、生成する(A)成分樹脂の0.8〜5.0倍(質量比)とすることが好ましい。この質量比が、0.8倍未満であると、合成時の粘度が高すぎて、攪拌不能により合成が困難となる傾向があり、5.0倍を超えると、反応速度が低下する傾向がある。
【0059】
反応温度は、80〜210℃とすることが好ましく、100〜190℃とすることがより好ましく、120〜180℃とすることが特に好ましい。80℃未満では、反応時間が長くなり過ぎ、210℃を超えると、反応中に三次元化反応が生じてゲル化が起こり易くなる。反応時間は、バッチの規模、採用される反応条件により適宜選択することができる。
【0060】
(a)成分と(b)成分との反応は、必要に応じて、三級アミン類、アルカリ金属、アルカリ土類金属、スズ、亜鉛、チタニウム、コバルト等の金属又は半金属化合物等の触媒存在下で行うことができる。
【0061】
前述のように得られるポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂は、イソシアネート残基を有するものであり、イソシアネート残基に、上記一般式(2)及び/又は上記一般式(3)で示される化合物を反応させることにより、酸無水物基を有する樹脂を得ることができる。この場合、後述の(B)成分であるエポキシ樹脂との反応性が向上し、ポリイミド基材等のフレキシブル基材への貼付性を低減できる。
【0062】
また、上記一般式(2)又は上記一般式(3)で示される化合物以外に、本発明の効果を損ねない程度に、アルコール類、ラクタム類、オキシム類等のブロック剤を併用することもできる。
【0063】
上記一般式(3)で示される化合物としては、下記式(14)で示されるテトラカルボン酸二水物(無水ピロメリット酸)が好ましい。
【化14】



【0064】
上記無水ピロメリット酸の添加量は、全イソシアネート量を基準として、10〜20質量%の範囲内であることが好ましい。無水ピロメリット酸の添加量が20質量%を超えると、粘度制御が困難となり、作業性が低下する傾向がある。一方、無水ピロメリット酸の添加量が10質量%未満では、硬化後にポリイミドフィルムとの貼り付きが生じやすい。
【0065】
上述した樹脂以外の(A)成分としては、例えば、上記一般式(9)、上記一般式(10)及び下記一般式(15)を混合し、上記(b−1)を合成する時と同様の条件で反応させて得られる樹脂が挙げられる。このようにして得られる樹脂は、下記一般式(16)で表される繰り返し構造と、カルボキシル基とを有するウレタン樹脂であり、後述の(B)成分であるエポキシ樹脂との反応性が向上し、ポリイミド基材への貼付性を低減できる。また、その他のポリオール成分を用いてもよい。
【化15】



[一般式(15)中、Rは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基を示す。]
【化16】



[一般式(16)中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基、好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基を示し、Xは、2価の有機基、好ましくは炭素数1〜20のアルキレン基又はアリーレン基、より好ましくは炭素数1〜18のアルキレン基又はアリーレン基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜30、好ましくは1〜20の整数を示し、Rは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基を示し、pは1〜20の実数を示し、n又はpが2以上の場合、複数個のXは同一であっても異なっていてもよい。]
【0066】
このようにして得られた樹脂の数平均分子量は、10,000〜50,000であることが好ましく、15,000〜45,000であることがより好ましく、25,000〜40,000であることが特に好ましい。また、そのときの分散度は、1.5〜3.5が好ましく、2.0〜3.0がより好ましい。数平均分子量が10,000未満であると、硬化膜とポリイミドフィルムとの貼り付きが生じやすくなる傾向にあり、数平均分子量が50,000を超えると、樹脂の粘性が高くなり、無機充填剤(無機フィラー)及び/又は有機充填剤(有機フィラー)の混合性や、スクリーン印刷等の作業性が低下する傾向があるので、好ましくない。
【0067】
(B)成分であるエポキシ樹脂には、熱硬化性を向上させるために各種エポキシ樹脂を用いることができる。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製の商品名「エピコート828」等)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製の商品名「YDF−170」等)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製の商品名「エピコート152、154」;日本化薬株式会社製の商品名「EPPN−201」;ダウケミカル社製の商品名「DEN−438」等)、o−クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(日本化薬株式会社製の商品名「EOCN−125S,103S,104S」等)、多官能エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製の商品名「Epon1031S」;チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製の商品名「アラルダイト0163」;ナガセ化成株式会社製の商品名「デナコールEX−611,EX−614,EX−614B,EX−622,EX−512,EX−521,EX−421,EX−411,EX−321」等)、アミン型エポキシ樹脂(油化シェルエポキシ株式会社製の商品名「エピコート604」;東都化成株式会社製の商品名「YH434」;三菱ガス化学株式会社製の商品名「TETRAD−X」、「TERRAD−C」;日本化薬株式会社製の商品名「GAN」;住友化学株式会社製の商品名「ELM−120」等)、複素環含有エポキシ樹脂(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製の商品名「アラルダイトPT810」等)、脂環式エポキシ樹脂(UCC社製の「ERL4234,4299,4221,4206」等)等が挙げられる。これらは、単独で又は2種類以上組合せて使用することができる。これらのエポキシ樹脂のうち、1分子中にエポキシ基を3個以上有するアミン型エポキシ樹脂は、耐溶剤性、耐薬品性、耐湿性の向上の点で特に好ましい。本発明の熱硬化性樹脂組成物において、上記のエポキシ樹脂は硬化剤として機能することができる。
【0068】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、エポキシ樹脂として、1分子中にエポキシ基を1個だけ有するエポキシ化合物を配合することができる。このようなエポキシ化合物は、(A)成分である「酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂」全量に対して、0〜20質量%の範囲で使用することが好ましい。このようなエポキシ化合物としては、n−ブチルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等がある。また、3,4−エポキシシクロヘキシル、メチル(3,4−エポキシシクロヘキサン)カルボキシレート等の脂環式エポキシ化合物を使用することができる。
【0069】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における(B)エポキシ樹脂の含有量は、(A)成分として用いる「酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂」100質量部に対して、好ましくは1〜50質量部、より好ましくは2〜45質量部、さらに好ましくは3〜40質量部とされる。エポキシ樹脂の配合量が1質量部未満では、樹脂組成物の硬化性、耐溶剤性、耐薬品性、耐湿性が低下する傾向にあり、50質量部を超えると、耐熱性及び粘度安定性が低下する傾向にある。
【0070】
エポキシ樹脂の配合方法については、(A)成分として用いる「酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂」を溶解する有機溶剤と同一の有機溶剤にエポキシ樹脂を溶解してから添加してもよく、或いは、エポキシ樹脂を直接添加してもよい。
【0071】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(C)充填剤として、少なくとも硼酸亜鉛及びメラミンシアヌレートを含有する。
【0072】
メラミンシアヌレートは、メラミンとイソシアヌル酸からなる有機塩であり、雲母状の結晶構造を有するものが一般的である。本発明で用いるメラミンシアヌレートは、硬化皮膜の外観、及び分散性の観点から、平均粒子径が0.01〜5μmである粒子が好ましく、平均粒子径が0.1〜3μmである粒子がより好ましい。
【0073】
本発明の熱硬化性樹脂組成物におけるメラミンシアヌレートの含有量は、分散性、消泡時間及び難燃性の観点から、(A)成分である酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂100質量部に対して、5〜50質量部であることが好ましく、8〜40質量部であることがより好ましく、10〜30質量部であることが特に好ましい。
【0074】
本発明で用いる硼酸亜鉛は、硬化皮膜の外観、及び分散性の観点から、平均粒子径が0.1〜10μmである粒子が好ましく、平均粒子径が0.2〜6μmである粒子がより好ましい。
【0075】
本発明の熱硬化性樹脂組成物における硼酸亜鉛の含有量は、分散性、反り性及び難燃性の観点から、(A)成分である酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂100質量部に対して、50〜200質量部であることが好ましく、60〜150質量部であることがより好ましく、70〜120質量部であることが特に好ましい。
【0076】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、硼酸亜鉛以外の無機充填剤(無機フィラー)、及び/又は、メラミンシアヌレート以外の有機充填剤(有機フィラー)を含有させることができる。
【0077】
硼酸亜鉛以外の無機充填剤としては、例えば、シリカ(SiO)、アルミナ(Al)、チタニア(TiO)、酸化タンタル(Ta)、ジルコニア(ZrO)、窒化ケイ素(Si)、チタン酸バリウム(BaO・TiO)、炭酸バリウム(BaCO)、チタン酸鉛(PbO・TiO)、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、チタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)、酸化ガリウム(Ga)、スピネル(MgO・Al)、ムライト(3Al・2SiO)、コーディエライト(2MgO・2Al/5SiO)、タルク(3MgO・4SiO・HO)、チタン酸アルミニウム(TiO−Al)、イットリア含有ジルコニア(Y−ZrO)、ケイ酸バリウム(BaO・8SiO)、窒化ホウ素(BN)、炭酸カルシウム(CaCO)、ハイドロタルサイト、硫酸カルシウム(CaSO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸マグネシウム(MgO・TiO)、硫酸バリウム(BaSO)等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも、特に、スクリーン印刷性、電気特性が良好であり、難燃性を維持できる観点から、シリカ(SiO)、ハイドロタルサイトを配合することが好ましい。
【0078】
ハイドロタルサイト(hydrotalcite)は、下記一般式(17)で表される複水酸化物である。
【化17】



[一般式(17)中、Mは、Mg2+、Fe2+、Zn2+、Ca2+、Li2+、Ni2+、Co2+、Cu2+を示し、Mは、Al3+、Fe3+、Mn3+を示し、xは2〜5の整数を示し、nは正の整数を示す。]
【0079】
これらの中でも、下記の化学組成式で表されるマグネシウムとアルミニウムの化合物が特に好ましい。
MgAl(OH)16CO・4H
このようなハイドロタルサイトは、HT−P(堺化学株式会社製、商品名)として商業的に入手可能である。
【0080】
メラミンシアヌレート以外の有機充填剤としては、アミド結合、イミド結合、エステル結合又はエーテル結合を有する耐熱性樹脂の微粒子が好ましい。このような耐熱性樹脂としては、耐熱性と機械特性の観点から、好ましくはポリイミド樹脂若しくはその前駆体、ポリアミドイミド樹脂若しくはその前駆体、又はポリアミド樹脂の微粒子が用いられる。また、有機充填剤として、有機ベントナイト、カーボン(C)なども用いることができる。
【0081】
有機充填剤としての耐熱性樹脂は、以下のようにして製造することができる。まず、ポリイミド樹脂は、(i)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、(ii)芳香族ジアミン化合物とを反応させて得ることができる。
【0082】
(i)芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビスフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ベンゼン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、3,4,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,2’,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,6−ジクロルナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,7−ジクロルナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−テロラクロルナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、フェナンスレン−1,8,9,10−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジメチルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メチルフェニルシラン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ジフェニルシラン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェニルジメチルシリル)ベンゼン二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,3,3−テトラメチルジシクロヘキサン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス{4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル}ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス{4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル}プロパン二無水物、4,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、1,4−ビス(2−ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼンビス(トリメリテート無水物)、1,3−ビス(2−ヒドロキシヘキサフルオロイソプロピル)ベンゼンビス(トリメリテート無水物)、1,2−(エチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,3−(トリメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,4−(テトラメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,5−(ペンタメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,6−(ヘキサメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,7−(ヘプタメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,8−(オクタメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,9−(ノナメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,10−(デカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,12−(ドデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,16−(ヘキサデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)、1,18−(オクタデカメチレン)ビス(トリメリテート無水物)等が挙げられる。これらは2種以上を混合して用いてもよい。
【0083】
上記(i)芳香族テトラカルボン酸二無水物に加えて、目的に応じて芳香族テトラカルボン酸二無水物以外のテトラカルボン酸二無水物を、芳香族テトラカルボン酸二無水物の50モル%を超えない範囲で用いることができる。このようなテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、デカヒドロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、ビス{エキソービシクロ〔2,2,1〕ヘプタン−2,3−ジカルボン酸無水物}スルホン、ビシクロ−(2,2,2)−オクト(7)−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフリル)−3−メチル−3−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、テトラヒドロフラン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0084】
(ii)芳香族ジアミン化合物としては、例えば、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、4,4’−ジアミノジフェニルジフルオロメタン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルケトン、3,4’−ジアミノジフェニルケトン、4,4’−ジアミノジフェニルケトン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4’−ジアミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3,4’−ジアミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、3,3’−〔1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)〕ビスアニリン、3,4’−〔1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)〕ビスアニリン、4,4’−〔1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)〕ビスアニリン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ヘキサフルオロプロパン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン等が挙げられる。これらは2種以上を混合して用いてもよい。
【0085】
上記(ii)芳香族ジアミン化合物に加えて、目的に応じて芳香族ジアミン化合物以外のジアミン化合物を、芳香族ジアミン化合物の50モル%を超えない範囲で用いることができる。このようなジアミン化合物としては、例えば、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルジシロキサン、1,3−ビス(3−アミノプロピル)テトラメチルポリシロキサン等が挙げられる。
【0086】
上記(i)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、上記(ii)芳香族ジアミン化合物とは、ほぼ等モルで反応させることが膜特性としての点で好ましい。
【0087】
(i)芳香族テトラカルボン酸二無水物と、(ii)芳香族ジアミン化合物との反応は、有機溶媒中で行うことができる。有機溶媒としては、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ2(1H)−ピリミジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素化合物;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の硫黄化合物;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、γ−ヘプタラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類;ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコ−ルジメチル(又はジエチル、ジプロピル、ジブチル)エーテル、トリエチレングリコール(又はジエチル、ジプロピル、ジブチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はジエチル、ジプロピル、ジブチル)エーテル等のエーテル類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類;ブタノール、オクチルアルコール、エチレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコールモノメチル(又はモノエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はモノエチル)エーテル、テトラエチレングリコールモノメチル(又はモノエチル)エーテル等のアルコール類;フェノール、クレゾール、キシレノール等のフェノール類;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート等のエステル類;トルエン、キシレン、ジエチルベンゼン、シクロヘキサン等の炭化水素類;トリクロロエタン、テトタクロロエタン、モノクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類等が用いられる。これらの有機溶媒は、単独又は混合して用いられる。溶解性、低吸湿性、低温硬化性、環境安全性等を考慮するとラクトン類、エーテル類、ケトン類等を用いることが好ましい。
【0088】
反応温度は80℃以下、好ましくは0〜50℃である。反応が進行するにつれ反応液は徐々に増粘する。この場合、ポリイミド樹脂の前駆体であるポリアミド酸が生成する。このポリアミド酸を部分的にイミド化してもよく、これもポリイミド樹脂の前駆体に含まれる。
【0089】
ポリイミド樹脂は、上記反応物(ポリアミド酸)を脱水閉環して得られる。脱水閉環は、120℃〜250℃で熱処理する方法(熱イミド化)や脱水剤を用いて行う方法(化学イミド化)で行うことができる。120℃〜250℃で熱処理する方法の場合、脱水反応で生じる水を系外に除去しながら行うことが好ましい。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン等を用いて水を共沸除去してもよい。
【0090】
脱水剤を用いて脱水閉環を行う方法は、脱水剤として無水酢酸、無水プロピオン酸、無水安息香酸等の酸無水物、ジシクロヘキシルカルボジイミド等のカルボジイミド化合物等を用いるのが好ましい。このとき必要に応じて、ピリジン、イソキノリン、トリメチルアミン、アミノピリジンイミダゾール等の脱水触媒を用いてもよい。脱水剤又は脱水触媒は、芳香族テトラカルボン酸二無水物1モルに対し、それぞれ1〜8モルの範囲で用いることが好ましい。
【0091】
ポリアミドイミド樹脂又はその前駆体は、上記のポリイミド樹脂又はその前駆体の製造において、芳香族テトラカルボン酸二無水物の代わりに、トリメリット酸無水物又はトリメリット酸無水物誘導体(トリメリット酸無水物のクロライド等)等の三価のトリカルボン酸無水物又はその誘導体を使用して製造することができる。また、芳香族ジアミン化合物及びその他のジアミン化合物の代わりに、アミノ基以外の残基がそのジアミン化合物に対応するジイソシアネート化合物を使用して製造することもできる。使用できるジイソシアネート化合物としては、上記の芳香族ジアミン化合物又はその他のジアミン化合物とホスゲン又は塩化チオニルを反応させて得られるものがある。
【0092】
ポリアミド樹脂は、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、これらのジクロライド、酸無水物等の誘導体と、上記の芳香族ジアミン化合物又はこれと他のジアミン化合物とを反応させることにより製造することができる。
【0093】
エステル結合を有する耐熱性樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂が挙げられる。ポリエステル樹脂としては、上記のテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸等の芳香族ジカルボン酸、これらのジクロライド、酸無水物等の誘導体と、1,4−ジヒドロキシベンゼン、ビスフェノールF、ビスフェノールA、4,4’−ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール化合物とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0094】
また、ポリアミドイミド樹脂としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物と、イソフタル酸ジヒドラジドを必須成分として含有する芳香族ジアミン化合物とを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂が好ましく用いられる。芳香族テトラカルボン酸二無水物及び芳香族ジアミン化合物としては、前述したものが用いられる。イソフタル酸ジヒドラジドの芳香族ジアミン化合物中のモル比は1〜100モル%とすることが好ましい。1モル%未満では、変性ポリアミドイミド樹脂に対する耐溶解性が低下する傾向にあり、イソフタル酸ジヒドラジドの含有量が多いと、本発明の熱硬化性樹脂組成物によって形成される層の耐湿性が低下する傾向にあるので10〜80モル%がより好ましく、20〜70モル%が特に好ましく用いられる。このポリアミドイミド樹脂は芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミン化合物との配合比、使用有機溶媒、合成法等を上述したポリイミド樹脂の合成と同様にして得ることができる。
【0095】
トリメリット酸無水物、及び必要に応じてジカルボン酸と、ポリイソシアネートとを反応させて得られるポリアミドイミド樹脂は、加熱することにより有機溶剤に不溶性になりやすく、このポリアミドイミド樹脂からなる有機微粒子を使用することもできる。このポリアミドイミド樹脂の製造方法については、前記したポリアミドイミド樹脂の製造方法と同様にして製造することができる。
【0096】
微粒子化の方法としては、例えば、非水分散重合法(特公昭60−48531号公報、特開昭59−230018号公報)、沈殿重合法(特開昭59−108030号公報、特開昭60−221425号公報)、樹脂溶液から改修した粉末を機械粉砕する方法、樹脂溶液を貧触媒に加えながら高せん断下に微粒子化する方法、樹脂溶液の噴霧溶液を乾燥して微粒子を得る方法、洗剤又は樹脂溶液中で溶剤に対して溶解性の温度依存性を持つ樹脂を析出微粒子化する方法等が挙げられる。
【0097】
本発明の熱硬化性樹脂組成物に配合する無機微粒子及び/又は有機微粒子は、平均粒子径50μm以下、最大粒子径100μm以下の粒子径を有するものが好ましく用いられる。平均粒子径が50μmを超えると、後述するチキソトロピー係数が1.1以上のペーストが得られにくくなり、最大粒子径が100μmを超えると、塗膜の外観、密着性が不十分となる傾向がある。平均粒子径は、より好ましくは、30μm以下、さらに好ましくは10μm以下、特に好ましくは3μm以下であり、最大粒子径はより好ましくは80μm以下、さらに好ましくは60μm以下、特に好ましくは40μm以下である。粒子径の下限値は、無機微粒子及び/又は有機微粒子の製造の観点から、0.01μmが好ましい。
【0098】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、(A)成分である樹脂を有機溶剤に溶解した樹脂溶液に、(C)成分である充填剤(硼酸亜鉛を含む無機微粒子、及びメラミンシアヌレートを含む有機微粒子など)を分散させ、更に(B)成分を混合することにより製造することができる。
【0099】
(A)成分を溶解する有機溶剤としては、非含窒素系極性溶媒が挙げられる。非含窒素系極性溶媒としては、例えば、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテルなどのエーテル系溶媒;例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどの含硫黄系溶媒;例えば、γ−ブチロラクトン、酢酸セロソルブ、酢酸ブチルカルビトール、酢酸2−ブトキシエチルなどのエステル系溶媒;例えば、シクロヘキサノン、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒;例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒、等が挙げられる。これらは単独で又は2種類以上組み合わせて使用することができる。(A)成分の樹脂はその組成によって溶解性が異なるので、樹脂を溶解可能な溶剤を選択して使用する。
【0100】
上記の有機溶剤の中でも、特に消泡性、レベリング性などの印刷性とレジストや溶剤の配線間の流れ出し(ブリード)を抑制する観点から、γ-ブチロラクトンが好ましい。
【0101】
樹脂溶液に無機及び/又は有機の微粒子を分散させる方法としては、通常、塗料分野で行われているロール練り、ミキサー混合等が適用され、十分な分散が行われる方法であればよい。
【0102】
本発明の熱硬化性樹脂組成物には、塗工時の作業性及び被膜形成前後の膜特性を向上させるため、消泡剤、レベリング剤等の界面活性剤類、染料又は顔料等の着色剤類、熱安定剤、酸化防止剤、難燃剤、滑剤を添加することもできる。
【0103】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、回転型粘度計での25℃における粘度が、20Pa・s〜80Pa・sであることが好ましく、30Pa・s〜50Pa・sであることがより好ましい。係る粘度が、20Pa・s未満であると、印刷後の樹脂組成物の流れ出しが大きくなるとともに膜厚が薄膜化する傾向があり、80Pa・sを超えると、樹脂組成物の基材への転写性が低下するとともに印刷膜中のボイド及びピンホールが増加する傾向がある。
【0104】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、チキソトロピー係数が1.1以上であることが好ましい。チキソトロピー係数が1.1未満であると、樹脂組成物の糸引きが増加するとともに、印刷後の樹脂組成物の流れ出しが大きくなり、膜厚も薄膜化する傾向がある。また、成膜性の観点の観点から、チキソトロピー係数は2以下であることが好ましい。
【0105】
なお、上記樹脂組成物の粘度は、E型粘度計(東機産業社製、RE80U型)を用いて、試料量0.2ml又は0.5mlとし、回転数10rpm、25℃の条件で測定された値を指す。また、上記樹脂組成物のチキソトロピー係数(TI値)は、E型粘度計(東機産業社製、RE80U型)を用いて、試料量0.2ml又は0.5mlとし、回転数1rpm及び10rpm、25℃の条件で測定された樹脂組成物のみかけ粘度η1及びη10の比η1/η10として表される。
【0106】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、フレキシブル配線板の配線パターン上にスクリーン印刷した後、熱硬化させて硬化膜を形成し、保護膜とする用途に好適に使用できる。特に、配線パターン部の全てがメッキ処理されたフレキシブル配線板の表面の保護膜形成に適している。メッキ層としては、すず、ニッケル、金等が挙げられる。
【0107】
熱硬化の条件は、メッキ層の拡散を防ぎ、かつ保護膜として好適な反り性、柔軟性を得る観点から、好ましくは、80℃〜130℃、特に好ましくは90℃〜120℃であるが、この範囲には限定されず、例えば、50〜200℃、中でも、50〜140℃の範囲で硬化させることもできる。また、加熱時間は、メッキ層の拡散を防ぎ、かつ保護膜として好適な反り性、柔軟性を得る観点から、60〜150分、好ましくは、80〜120分であるが、この範囲には限定されず、1〜1000分、例えば、5〜300分、中でも、10〜150分の範囲で硬化させることもできる。
【0108】
本発明の熱硬化性樹脂組成物は、スクリーン印刷、ディスペンサ、スピンコートなどの塗布方法により、各種電気製品や電子部品の被膜形成材料として好適に用いられる。特に、スクリーン印刷による塗布が好ましい。
【0109】
また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、例えば、半導体素子、プリント基板分野などの電子部品用オーバーコート材、液状封止材、層間絶縁膜、表面保護膜、ソルダレジスト層、接着層などを形成するための材料として好適に用いられる。また、エナメル線用ワニス、電気絶縁用含浸ワニス、注型ワニス、マイカ、ガラスクロス等の基材と組み合わせたシート用ワニス、MCL積層板用ワニス、摩擦材料用ワニスなどにも使用できる。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、基材に対する密着性及び印刷作業性に優れることから、樹脂被膜が回路基板等から剥離することを防止することができ、信頼性の高い電子部品を得ることができる。
【0110】
本発明のフレキシブル配線板は、基材と、該基材上に設けられた配線パターンと、該配線パターン上に設けられ、上記本発明の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる保護膜とを備える。上述したように、本発明の熱硬化性樹脂組成物によれば、ハロゲン系難燃剤を含有しない場合であっても十分な難燃性を有するとともに、充填剤の分散性に優れ、配線板上に印刷して硬化膜を形成する場合であっても配線間への流れ出しが生じにくく、なおかつ硬化後の基材の反りを十分小さくすることができる。そのため、本発明のフレキシブル配線板は、難燃性に優れ、反りが十分小さく、信頼性に優れたものになり得る。
【0111】
基材としては、ポリイミドフィルム、エポキシ接着剤層付きポリイミドフィルム等が挙げられる。基材の厚みは、10〜200μmとすることができる。また、本発明の熱硬化性樹脂組成物は、基材の厚みが200μmを超えるリジッド基板にも適用することができる。
【0112】
配線パターンは、メッキ処理されていることが好ましい。メッキ処理としては、すず、ニッケル、金等が挙げられる。
【0113】
配線パターンの配線幅は、10〜100μmとすることができる。また、配線パターンの配線間隔は、10〜100μmとすることができる。
【実施例】
【0114】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
【0115】
<高分子樹脂の合成>
(合成例1)
攪拌機、油分分離機付冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた3リットルの四つ口フラスコに、γ-ブチロラクトン61.72g、プラクセルCD−220(ダイセル化学工業株式会社製、1,6−ヘキサンジオール系ポリカーボネートジオールの商品名)74.64g(0.37モル)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート125.14g(0.46モル)、及びトルエンジイソシアネート58.4g(0.34モル)を仕込み、150℃まで昇温し、150℃で4時間反応させた。
【0116】
次いで、上記反応物に、無水トリメリット酸88.4g(0.46モル)を加え、70℃で3時間反応させた。次いで、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート6.76g(0.027モル)及びトルエンジイソシアネート0.0034g(0.00002モル)を再び加え、120℃で1時間、180℃で3時間反応させた。反応後、γ−ブチロラクトンを341.6g加えて冷却し、さらに2−ブタノンオキシム(和光純薬工業株式会社製)を9.5g(0.11モル)加え、120℃で3時間反応させた。こうして、数平均分子量38,000のポリカーボネート変性ポリアミドイミド樹脂を得た。なお、樹脂の数平均分子量は、反応時間毎に反応溶液を少量採取し、ガードナー製の気泡粘度計による粘度変化率を観察することで調整した。得られた樹脂をγ−ブチロラクトンで希釈し、不揮発分50質量%のポリカーボネート変性ポリアミドイミド樹脂溶液を得た。
【0117】
<熱硬化性樹脂組成物の調製>
(実施例1)
合成例1で得られたポリカーボネート変性ポリアミドイミド樹脂溶液200質量部(樹脂分100質量部)と、消泡剤(楠本化成工業株式会社製 商品名:ディスパロン230)0.2質量部とを混合し、20℃で30分間攪拌した。この樹脂溶液中に、ハイドロタルサイト(堺化学株式会社製 商品名:HT−1−NC)40質量部、シリカ(日本アエロジル株式会社製 商品名:R−974)10質量部、硼酸亜鉛(米ボラックス社製 商品名:XB−ZF、平均粒子径:2μm)100質量部、及びメラミンシアヌレート(堺化学株式会社製 商品名:MC−5S、平均粒子径:0.5μm)10質量部を、予め一部のγ−ブチロラクトン樹脂溶液中にビーズミルで分散して得られた分散液を加え、撹拌機を用いて20℃で1時間攪拌した。更に、アミン型エポキシ樹脂(東都化成株式会社製 商品名:YH−434L)を10質量部加え、20℃で1時間攪拌して、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0118】
得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、40〜45Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.3〜1.4であった。なお、樹脂組成物の粘度は、E型粘度計(東機産業社製、RE80U型)を用いて、試料量0.2ml、回転数10rpm、25℃の条件で測定した。また、樹脂組成物のチキソトロピー係数(TI値)は、E型粘度計(東機産業社製、RE80U型)を用いて、試料量0.2ml、回転数1rpm及び10rpm、25℃の条件で樹脂組成物のみかけ粘度η1及びη10を測定し、これらη1及びη10の比η1/η10から求めた。
【0119】
(実施例2)
実施例1におけるメラミンシアヌレートの配合量を20質量部にした以外は実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を得た。得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、50〜55Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.3〜1.4であった。
【0120】
(実施例3)
実施例1におけるメラミンシアヌレートの配合量を30質量部にした以外は実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を得た。得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、65〜70Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.5〜1.6であった。
【0121】
(実施例4)
γ−ブチロラクトンに代えて酢酸ブチルカルビトールを用いた以外は実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を得た。得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、40〜45Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.3〜1.4であった。
【0122】
(比較例1)
メラミンシアヌレートを配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を得た。得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、30〜35Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.3〜1.4であった。
【0123】
(比較例2)
硼酸亜鉛に代えて硫酸バリウム(堺化学株式会社製 商品名:B−31)を100質量部配合したこと以外は実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を得た。得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、50〜55Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.3〜1.4であった。
【0124】
(比較例3)
硼酸亜鉛に代えて水酸化マグネシウム(堺化学株式会社製 商品名:MGZ−1)を100質量部配合したこと以外は実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を得た。得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、65〜70Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.5〜1.6であった。
【0125】
(比較例4)
比較例3における水酸化マグネシウムの配合量を200質量部にしたこと以外は比較例3と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を得た。得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、75〜80Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.6〜1.7であった。
【0126】
(比較例5)
実施例1におけるハイドロタルサイトの配合量を140質量部にし、硼酸亜鉛を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を得た。得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、50〜55Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.3〜1.4であった。
【0127】
(比較例6)
実施例1におけるメラミンシアヌレートの配合量を110質量部にし、硼酸亜鉛を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、熱硬化性樹脂組成物を得た。得られた熱硬化性樹脂組成物の25℃における粘度は、120〜125Pa・sであり、チキソトロピー係数(TI値)は、1.8〜1.9であった。
【0128】
<熱硬化性樹脂組成物の評価>
実施例及び比較例で得られた熱硬化性樹脂組成物について、下記の方法にしたがって分散性、反り性、ブリード及び難燃性を評価した。得られた結果を表1に示す。
【0129】
(分散性)
アミン型エポキシ樹脂を加えて20℃で1時間攪拌した後の樹脂組成物について、静止した状態で2時間経過したときの組成物中の充填剤の状態を目視で確認した。評価結果は、均一な状態である場合を「○」で、沈殿が見られる或いは組成物上に堆積が見られる場合を「×」で示した。
【0130】
(反り性)
熱硬化性樹脂組成物を、厚さ50μm、縦35mm、横20mmのポリイミドフィルム上に、硬化後の厚みが10μmとなる塗膜厚で塗布し、120℃で60分間加熱し、熱硬化させた。このフィルムを、熱硬化性樹脂組成物の塗布面を下にして定盤上に置き、定盤からフィルムの反りの頂点までの距離(mm)を測定し、これを反り高さとした。
【0131】
(ブリード)
18μmの銅箔を用いた銅回路(回路幅が30μm)上に、印刷機(ニューロング株式会社製、商品名:LS−34GX)とメッシュ版(株式会社ムラカミ製、150メッシュ)を用いて、印刷速度100mm/secで、熱硬化性樹脂組成物を30mm角に印刷した。これを3分間放置後、120℃、1時間で熱硬化した。印刷エッジ部分から銅回路際に流れ出した樹脂量(μm)を100倍率の顕微鏡で測定した。
【0132】
(難燃性)
熱硬化性樹脂組成物を、厚さ40μmのポリイミドフィルム上に、硬化後の厚みが25μmとなる塗膜厚で印刷し、150℃で90分間加熱し、熱硬化させた。このフィルムから、長さ127mm、幅12.7mmに裁断した燃焼試験用の試験片を5枚作製した。これらの試験片を用い、UL94垂直試験の規格に準じた燃焼試験を行った。なお、表中に示される5/5は5枚のうち全てV−0であることを意味し、0/5は5枚全てが燃焼したことを意味する。
【0133】
【表1】



【0134】
表1に示すように、充填剤としてメラミンシアヌレート及び硼酸亜鉛を含有し、溶剤としてγ−ブチロラクトンを含有する実施例1〜4の熱硬化性樹脂組成物は、充填剤の分散性が良好でありながらも高度の難燃性を示し、更には配線間を流れ出す樹脂や溶剤を十分少なくすることができることが確認された。このような熱硬化性樹脂組成物は、フレキシブル配線板の保護膜形成など、各種電気製品や電子部品の被膜形成用の材料として好適に用いることができ、信頼性の高い電子部品が得られるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明によれば、ハロゲン系難燃剤を含有しない場合であっても十分な難燃性を有するとともに、充填剤の分散性に優れ、配線板上に印刷して硬化膜を形成する場合であっても配線間への流れ出しが生じにくく、なおかつ硬化後の基材の反りを十分小さくできる熱硬化性樹脂組成物、それを用いたフレキシブル配線板の保護膜の形成方法及びフレキシブル配線板を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子内に酸無水物基及び/又はカルボキシル基を有する樹脂と、(B)エポキシ樹脂と、(C)充填剤と、を含有し、
前記(C)充填剤として、硼酸亜鉛及びメラミンシアヌレートを含む、熱硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
前記メラミンシアヌレートの含有量が、前記(A)樹脂100質量部に対して、5〜50質量部である、請求項1に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)樹脂が、ポリカーボネート骨格を有する、請求項1又は2に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)樹脂が、下記一般式(1)で表される構造を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【化1】



[式(1)中、複数個のRは、それぞれ独立に炭素数1〜20のアルキレン基を示し、Xは、2価の有機基を示し、m及びnは、それぞれ独立に1〜30の整数を示し、nが2以上の場合、複数個のXは同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項5】
前記(C)成分の含有量が、前記(A)樹脂100質量部に対して、100〜200質量部である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
γ−ブチロラクトンを更に含有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
フレキシブル配線板の保護膜を形成するために用いられる、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物を、配線パターンが設けられたフレキシブル配線板の前記配線パターン上に印刷する工程と、
印刷された前記熱硬化性樹脂組成物を熱硬化させて保護膜を形成する工程と、
を備える、フレキシブル配線板の保護膜の形成方法。
【請求項9】
基材と、該基材上に設けられた配線パターンと、該配線パターン上に設けられ、請求項1〜6のいずれか一項に記載の熱硬化性樹脂組成物の硬化物からなる保護膜と、を備える、フレキシブル配線板。

【公開番号】特開2010−275503(P2010−275503A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132155(P2009−132155)
【出願日】平成21年6月1日(2009.6.1)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】