説明

燃料供給制御装置およびそれを用いた燃料供給システム

【課題】リリーフ弁および逆止弁が開弁固着しているか否かを判定する燃料供給制御装置およびそれを用いた燃料供給システムを提供する。
【解決手段】燃料供給制御装置は、フィードポンプの回転数Npがアイドル回転数Npiよりも高く(S400:Yes)、フィードポンプのフィード圧の検出値Psoutが推定値Fpから公差Ptを減算した値(Fp−Pt)よりも低く(S402:Yes)、検出値Psoutが、リリーフ弁が正常な状態で、フィードポンプをバイパスするバイパス通路に設置された逆止弁が全開しているときのフィード圧の推定値Fcfo以上であれば(S404:Yes)、リリーフ弁は正常であるが、逆止弁は開弁固着している異常であると判定する(S406)。Fcfo>Psoutであれば(S402:Yes、S404:No)、燃料供給制御装置は、リリーフ弁および逆止弁の両方が開弁固着していると判定する(S408)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の気筒に燃料噴射弁が噴射する燃料をフィードポンプから供給し、フィードポンプのフィード圧が所定圧を超えるとリリーフ弁が開弁してフィード圧を減圧し、フィードポンプをバイパスするバイパス通路に逆止弁を設置し、バイパス通路を通ってフィードポンプの下流側から上流側へ燃料が流れることを禁止する燃料供給システムに用いられる燃料供給制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、燃料供給システムにおいて、フィードポンプのフィード圧が所定圧を超えるとリリーフ弁が開弁してフィードポンプのフィード圧を減圧するものが知られている。これにより、フィードポンプの下流側に設置された部品が過大なフィード圧のために損傷することを防止できる。
【0003】
例えば、特許文献1においては、フィードポンプから供給される燃料中の異物が、下流側の高圧ポンプまたは燃料噴射弁の摺動部、あるいは燃料噴射弁の弁部等に噛み込むことを防止するために、フィードポンプの下流側に設置された燃料フィルタにより燃料中の異物を除去している。そして、フィードポンプのフィード圧が所定圧を超えるとリリーフ弁が開弁してフィードポンプのフィード圧を減圧することにより、過大な燃料圧力が加わって燃料フィルタが破損することを防止している。
【0004】
また、特許文献1では、フィードポンプをバイパスしてフィードポンプの上流側から下流側に燃料を供給できるバイパス通路に逆止弁を設置している。バイパス通路に設置された逆止弁は、フィードポンプの上流側から下流側への燃料流れを許可し、フィードポンプの下流側から上流側への燃料流れを禁止するものである。
【0005】
これにより、例えば、燃料供給システムを組み付けた後、または燃料フィルタの交換後、または燃料タンクの燃料切れ等により燃料通路に空気が入り込んでいる場合に、フィードポンプをバイパスしてプライミングポンプからフィードポンプの下流側にバイパス通路を通って燃料が流れることを逆止弁が許可し、燃料通路に入り込んだ空気を抜くことができる。一方、内燃機関(エンジンとも言う。)の運転中には、フィードポンプから圧送される燃料がフィードポンプの下流側から上流側にバイパス通路を通って戻ることを逆止弁が禁止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−207499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、リリーフ弁とバイパス通路に設置された逆止弁とにおいて、摺動部または弁部に異物が噛み込むと、リリーフ弁および逆止弁が常時開弁する開弁固着が発生するおそれがある。
【0008】
リリーフ弁または逆止弁が開弁固着すると、フィードポンプのフィード圧が十分に上昇しないので、エンジンの始動不良が生じるおそれがある。
また、エンジンの通常運転中には、フィードポンプのフィード圧が十分に上昇しないことにより、例えば燃料噴射圧が低下し、内燃機関の出力不足、またはエミッションの悪化を招く恐れがある。
【0009】
そこで、燃料供給システムにおいて、リリーフ弁および逆止弁の開弁固着を検出し、適切な処置を実施することが望まれる。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、リリーフ弁および逆止弁が開弁固着しているか否かを判定する燃料供給制御装置およびそれを用いた燃料供給システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1から6に記載の発明によると、圧力センサの検出信号に基づいてフィードポンプのフィード圧をフィード圧検出手段が検出し、フィードポンプの運転状態に基づいてフィード圧推定手段がフィード圧を推定し、異常判定手段は、フィード圧検出手段が検出するフィード圧の検出値と、フィード圧推定手段が推定するフィード圧の推定値とに基づいてリリーフ弁および逆止弁が開弁固着しているか否かを判定する。
【0011】
リリーフ弁は、フィードポンプのフィード圧が所定圧を超えると開弁してフィード圧を減圧するので、開弁固着しているとフィード圧に応じて正しく開弁または閉弁しない。その結果、圧力センサの検出信号に基づいて検出されるフィード圧の検出値と、フィードポンプの運転状態に基づいて推定されるフィード圧の推定値との間にずれが生じる。
【0012】
また、フィードポンプをバイパスするバイパス通路に設置された逆止弁が開弁固着していると、フィードポンプから圧送される燃料が逆止弁を通ってフィードポンプの下流側から上流側に戻るので、フィード圧の検出値とフィード圧の推定値との間にずれが生じる。
【0013】
これにより、フィード圧の検出値と推定値とに基づいて、リリーフ弁および逆止弁が開弁固着しているか否かを判定できる。その結果、リリーフ弁および逆止弁の開弁固着を検出し、適切な処置を実施することができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によると、異常判定手段は、内燃機関の運転中に逆止弁が開弁固着していると判定していない場合、内燃機関の運転が停止したときに、フィード圧の推定値の低下量とフィード圧の検出値の低下量とに基づいて、リリーフ弁が開弁固着しているか否かを判定する。
【0015】
内燃機関の運転が停止するとフィードポンプの運転も停止するので、燃料が徐々に低圧側にリークすることにより、圧力センサが検出するフィードポンプの下流側の残圧は低下する。そして、リリーフ弁および逆止弁が開弁固着しておらず正常であれば、内燃機関が停止したときに、フィード圧の検出値はフィード圧の推定値とほぼ同じ割合で低下する。一方、逆止弁は正常であるがリリーフ弁が開弁固着している場合、内燃機関が停止したときに、フィード圧の検出値の低下量はフィード圧の推定値の低下量よりも大きくなる筈である
したがって、内燃機関の運転中に逆止弁が開弁固着していると判定されていない場合、内燃機関が停止したときにフィード圧の検出値の低下量とフィード圧の推定値の低下量とに基づいて、リリーフ弁の異常を判定できる。
【0016】
請求項3に記載の発明によると、異常判定手段は、内燃機関の運転中において、フィード圧の検出値が推定値よりも所定範囲を超えて低い場合、リリーフ弁および逆止弁の少なくともいずれか一方が開弁固着していると判定する。
【0017】
リリーフ弁および逆止弁の少なくともいずれか一方が開弁固着していると、フィード圧の検出値は、フィード圧の推定値よりも公差等を考慮した所定範囲を超えて低くなる。したがって、フィード圧の検出値が推定値よりも所定範囲を超えて低い場合、リリーフ弁および逆止弁の少なくともいずれか一方が開弁固着していると判定できる。
【0018】
請求項4に記載の発明によると、異常判定手段は、内燃機関の運転中において、フィード圧の検出値が推定値よりも所定範囲を超えて低く、かつフィード圧の検出値がリリーフ弁が正常なときの逆止弁の全開時におけるフィード圧の推定値以上である場合、逆止弁が開弁固着していると判定する。
【0019】
リリーフ弁がフィード圧に応じて正常に作動している場合に逆止弁が開弁固着していると、フィード圧の検出値は、逆止弁が全開しているときのフィード圧の推定値以上になるはずである。したがって、内燃機関の運転中において、フィード圧の検出値が推定値よりも所定範囲を超えて低く、かつフィード圧の検出値がリリーフ弁が正常なときの逆止弁の全開時におけるフィード圧の推定値以上である場合、逆止弁が開弁固着していると判定できる。
【0020】
請求項5に記載の発明によると、フィード圧推定手段はフィードポンプの回転数に基づいてフィード圧を推定する。
フィードポンプのフィード圧はフィードポンプの回転数に応じて変化するので、フィードポンプの回転数に基づいてフィードポンプのフィード圧を高精度に推定できる。
【0021】
尚、本発明に備わる複数の手段の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の手段の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本実施形態による燃料供給システムを示すブロック図。
【図2】(A)はフィードポンプの回転数とフィード圧との関係を示す特性図、(B)はエンジン停止後の時間経過と残圧との関係を示す特性図。
【図3】エンジン運転中の異常判定ルーチンを示すフローチャート。
【図4】エンジンが停止したときの異常判定ルーチンを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
本発明の一実施形態による燃料供給システムを図1に示す。
(燃料供給システム10)
本実施形態の蓄圧式の燃料供給システム10は、例えば図示しない4気筒のディーゼルエンジンの気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁80に燃料供給ポンプ30が加圧した燃料を供給する。
【0024】
燃料供給ポンプ30は、フィードポンプ32、調量弁42および高圧ポンプ50等で構成されており、フィードポンプ32が燃料タンク12から吸い上げて圧送する燃料を高圧ポンプ50で加圧する。
【0025】
フィルタ14、34は、フィードポンプ32が燃料タンク12から燃料を吸い上げる燃料通路200に設置されており、フィードポンプ32内に燃料が吸入される前に燃料中の異物を除去する。図1において、フィルタ14、34および後述するフィルタ40は、金属メッシュ等の比較的目の粗いフィルタである。
【0026】
プライミングポンプ16は、車両の組立時などにおいて、バイパス通路202を介してフィードポンプ32をバイパスしてフィードポンプ32の下流側に燃料を供給する。バイパス通路202は、フィードポンプ32をバイパスし、フィードポンプ32の上流側とフィードポンプ32の下流側である燃料フィルタ20とフィードポンプ32との間を接続している。
【0027】
燃料フィルタ20はフィードポンプ32の下流側に設置されている。このため、燃料フィルタ20にはフィードポンプ32のフィード圧が加わる。これにより、フィードポンプ32の燃料吸入側でありフィードポンプ32の上流側に設置されるフィルタ14、34に比べ、燃料フィルタ20は目詰まりを起こしにくい。その結果、燃料フィルタ20にはフィルタ14、34よりも目が細かいフィルタエレメントを使用できるので、燃料フィルタ20の濾過性能はフィルタ14、34よりも高い。
【0028】
フィードポンプ32と燃料フィルタ20との間には、圧力センサ22が設置されている。圧力センサ22は、フィードポンプ32と燃料フィルタ20との間の燃料圧力、つまりフィードポンプ32のフィード圧に対応する検出信号を出力する。
【0029】
リリーフ弁24は、燃料フィルタ20に加わる燃料圧力が所定圧を超えると開弁し、逃がし通路204から余剰燃料を燃料タンク12に排出する。
フィードポンプ32は、公知のトロコイドポンプまたはベーンポンプである。フィードポンプ32は、高圧ポンプ50と同様にカムシャフト52により回転駆動される。カムシャフト52はエンジンのクランクシャフトにより回転駆動される。図2の(A)の実線300に示すように、フィードポンプ32のフィード圧Fpは、フィードポンプの回転数Npが上昇すると上昇する。ただし、フィードポンプの回転数NpがNp0を超えて上昇し、フィード圧がリリーフ弁36の開弁圧である所定圧を超えるとリリーフ弁36が開弁するので、フィードポンプの回転数NpがNp0を超えるとフィード圧の上昇率は低下する。
【0030】
リリーフ弁36は、フィードポンプ32のフィード圧がリリーフ弁36の開弁圧である所定圧を超えると開弁する。これにより、フィードポンプ32の下流側の燃料がリリーフ弁36からフィードポンプ32の上流側に戻されるので、フィードポンプ32のフィード圧は減圧される。
【0031】
逆止弁38は、バイパス通路202に設置されている。逆止弁38は、フィードポンプ32の下流側からフィードポンプ32の上流側への燃料流れを禁止し、フィードポンプ32の上流側からフィードポンプ32の下流側への燃料流れを許可する。図1では、逆止弁38は燃料供給ポンプ30の内部に設置されているが、燃料供給ポンプ30の外部に設置されていてもよい。
【0032】
例えば、燃料供給システム10を組み立てた後にプライミングポンプ16を作動させると、逆止弁38が開弁し、フィードポンプ32をバイパスしてバイパス通路202を通り、燃料フィルタ20から高圧ポンプ50に燃料が供給される。これにより、フィードポンプ32から高圧ポンプ50に燃料を供給する燃料通路に入り込んでいる空気を排除できる。
【0033】
燃料フィルタ20で異物を除去された燃料は、燃料通路210を通り調量弁42に供給される。フィルタ40は調量弁42の上流側に設置されており、調量弁42に供給される燃料中の異物を除去する。
【0034】
調量弁42は、エンジン運転状態に基づいて開度が制御される電磁弁である。調量弁42の開度が制御されると、高圧ポンプ50に吸入される燃料吸入量が調整され、高圧ポンプ50が吐出する燃料吐出量が調整される。
【0035】
燃料通路212は、調量弁42の閉弁時に調量弁42から漏れる燃料をフィードポンプ32の上流側に戻す。また、燃料通路214は、フィードポンプ32から供給される燃料の一部を、高圧ポンプ50のカム室に潤滑油として供給する。
【0036】
高圧ポンプ50のプランジャ56は、カムシャフト52とともにカム54が回転することにより往復運動し、加圧室に吸入した燃料を加圧する。プランジャ56は、カムシャフト52を挟んで径方向反対側に2個設置されている。
【0037】
吸入弁60は、調量弁42から加圧室に燃料が吸入されるときに開弁し、加圧室から燃料が吐出されるときに閉弁する。一方、吐出弁62は、調量弁42から加圧室に燃料が吸入されるときに閉弁し、加圧室から燃料が吐出されるときに開弁する。
【0038】
高圧ポンプ50から吐出された燃料は、燃料通路216を通りコモンレール70に供給される。コモンレール70は、高圧ポンプ50から供給された燃料を蓄圧する。プレッシャリミッタ72はコモンレール70内の燃料圧力(以下、コモンレール圧とも言う。)が所定圧を超えると開弁し、コモンレール圧を減圧する。プレッシャリミッタ72が開弁すると、コモンレール70内の燃料が燃料通路220から燃料タンク12に排出される。燃料通路220には、高圧ポンプ50および燃料噴射弁80から漏れ出た燃料も排出される。
【0039】
コモンレール70で蓄圧された燃料は、燃料噴射弁80からディーゼルエンジンの気筒内に噴射される。
電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)90は、CPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ等を中心とするマイクロコンピュータにて構成されている。そして、ECU90は、圧力センサ22、アクセル開度(Accp)センサ、エンジン回転数(NE)センサを含む各種センサから検出信号を取り込み、エンジン運転状態を制御する。
【0040】
例えば、ECU90は、調量弁42への通電量を制御して高圧ポンプ50の燃料吸入量を調整することにより高圧ポンプ50の燃料吐出量を調量する。また、ECU90は、燃料噴射弁80の燃料噴射量、燃料噴射時期、およびメイン噴射の前後にパイロット噴射、ポスト噴射等を実施する多段噴射のパターンを制御する。
【0041】
ECU90は、ROMまたはフラッシュメモリに記憶された制御プログラムにより、以下の各手段として機能する。
(フィード圧検出手段)
ECU90は、フィードポンプ32と燃料フィルタ20との間に設置された圧力センサ22の検出信号に基づき、フィードポンプ32のフィード圧を検出する。
【0042】
(フィード圧推定手段)
フィードポンプ32のフィード圧はフィードポンプ32の吐出量により決定され、フィードポンプ32の吐出量はフィードポンプ32の回転数により決定される。前述したように、フィードポンプ32はカムシャフト52により回転駆動されるので、フィードポンプ32の回転数は、エンジン回転数(NE)により決定される。ECU90は、フィードポンプ32の回転数Npとフィード圧Fpとの関係を、図2の(A)の実線300に示す特性としてマップ等に記憶している。これにより、ECU90は、フィードポンプ32の回転数Npに基づいてフィード圧Fpを高精度に推定できる。
【0043】
(異常判定手段)
ECU90は、フィード圧検出手段が圧力センサ22の検出信号に基づいて検出したフィードポンプ32のフィード圧の検出値Psoutと、フィード圧推定手段がフィードポンプ32の回転数Npに基づいて推定したフィード圧の推定値Fpとの差に基づいて、リリーフ弁36および逆止弁38が開弁固着しているか否かを判定する。
【0044】
(エンジン運転中の開弁固着判定)
(1)エンジン運転中において、リリーフ弁36および逆止弁38が開弁固着しておらず正常であれば、フィードポンプ32の回転数Npとフィード圧Fpとの関係は、フィード圧の検出値Psoutの公差Ptの範囲を含め、図2の(A)の実線300に示す特性になる。
【0045】
尚、フィードポンプ32の回転数Npがアイドル回転数Npiよりも低い場合は、回転数Npが不安定になるので、フィード圧の検出値Psoutと推定値Fpとに基づいてリリーフ弁36および逆止弁38が開弁固着しているか否かを判定することが困難な場合がある。したがって、フィードポンプ32の回転数Npがアイドル回転数Npi以上の範囲で、リリーフ弁36および逆止弁38が開弁固着しているか否かを判定することが望ましい。
【0046】
フィードポンプ32の回転数Npが所定回転数としてアイドル回転数Npi以上の範囲において、圧力センサ22の検出信号から検出するフィード圧の検出値Psoutが、実線300から推定されるフィード圧の推定値Fpから公差Ptを減算した値よりも低くなる、つまりフィード圧の検出値Psoutが推定値Fpよりも所定範囲を超えて低い場合、リリーフ弁36および逆止弁38の少なくともいずれか一方が開弁固着しているためにフィード圧が低下していると判定できる。
【0047】
ここで、リリーフ弁36は正常であるが、逆止弁38が開弁固着している場合、推定値Fpは、逆止弁38が全開しているときの圧力以上になる。図2の(A)において、実線302は、リリーフ弁36の正常時に逆止弁38が全開しているときの推定値Fpを示している。
【0048】
したがって、実線300が示すフィード圧の推定値Fpから公差Ptを減算した値よりも点線304が示すフィード圧の検出値Psoutが低く、かつ実線302が示す値以上である場合には、リリーフ弁36は正常であるが、逆止弁38が開弁固着していると判定する。
(2)フィード圧の検出値Psoutが実線302よりも低い場合には、リリーフ弁36および逆止弁38の両方が開弁固着していると判定する。
(3)逆止弁38は正常であり開弁固着していないが、リリーフ弁36が開弁固着していることをエンジン運転中に判定することは困難である。元々、リリーフ弁36はフィードポンプ32の回転数Npが上昇しフィード圧が上昇すると開弁してフィード圧を減圧するので、リリーフ弁36が開弁固着していても、フィードポンプ32の回転数Npが上昇して検出値Psoutが上昇すると、検出値Psoutと推定値Fpとのずれが小さくなる。したがって、検出値Psoutと推定値Fpとに基づいて、リリーフ弁36が開弁固着しているか否かを判定することは困難である。
【0049】
(エンジンが停止したときの開弁固着判定)
エンジンが停止すると、フィードポンプ32と燃料フィルタ20との間において圧力センサ22が検出する残圧の検出値は、図2の(B)において実線310が示すように緩やかに低下する。
【0050】
しかし、逆止弁38が開弁固着しておらず、リリーフ弁36が開弁固着していると、図2の(B)において点線312が示すように、フィードポンプ32と燃料フィルタ20との間の残圧は、リリーフ弁36が正常時に大気圧まで低下するときに要する所定時間よりも早期に大気圧まで低下する。ECU90は、エンジンが停止したときに、フィードポンプ32と燃料フィルタ20との間の残圧の検出値、つまり圧力センサ22の検出信号に基づいて検出するフィード圧の検出値の低下量がフィード圧の推定値の低下量よりも大きいときに、リリーフ弁36が開弁固着していると判定する。
【0051】
(異常判定ルーチン)
次に、リリーフ弁36および逆止弁38が開弁固着しているか否かを判定する異常判定ルーチンについて、図3および図4に示すフローチャートに基づいて説明する。図3はエンジン運転中の異常判定ルーチンであり、図4はエンジンが停止したときの異常判定ルーチンである。図3のルーチンは常時実行される。図4のルーチンは、図3のルーチンで逆止弁38が開弁固着していると判定されていない場合に実行される。図3および図4において「S」はステップを表している。
【0052】
(エンジン運転中の異常判定ルーチン)
図3のS400においてECU90は、フィードポンプ32の回転数Npが所定回転数としてアイドル回転数Npiよりも高いか否かを判定する。フィードポンプ32の回転数Npがアイドル回転数Npi以下の場合(S400:No)、ECU90は本ルーチンを終了する。
【0053】
エンジンが運転中であり、フィードポンプ32の回転数Npがアイドル回転数Npiよりも高い場合(S400:Yes)、S402においてECU90は、フィード圧の検出値Psoutがフィード圧の推定値Fpから公差Ptを減算した値(Fp−Pt)よりも低いか否かを判定する。Psout≧Fp−Ptであれば(S402:No)、ECU90は本ルーチンを終了する。
【0054】
Psout<Fp−Ptであれば(S402:Yes)、S404においてECU90は、フィード圧の検出値Psoutが、リリーフ弁36が開弁固着しておらず正常な状態で逆止弁38が全開しているときのフィード圧の推定値Fcfo以上であるか否かを判定する。
【0055】
Fcfo≦Psoutであれば(S404:Yes)、ECU90は、リリーフ弁36は開弁固着しておらず正常であるが、逆止弁38は開弁固着していると判定する(S406)。逆止弁38が開弁固着している場合、ECU90は、警告灯等により逆止弁38の異常を運転者に報知することが望ましい。これにより、逆止弁38を交換する等の適切な処置を速やかに実施できる。
【0056】
Fcfo>Psoutであれば(S404:No)、ECU90は、リリーフ弁36および逆止弁38の両方が開弁固着していると判定する(S408)。この場合も、ECU90は、警告灯等によりリリーフ弁36および逆止弁38の異常を運転者に報知することが望ましい。これにより、リリーフ弁36および逆止弁38を交換する等の適切な処置を速やかに実施できる。
【0057】
(エンジンが停止したときの異常判定ルーチン)
図4のS420においてECU90は、エンジンが停止し、フィードポンプ32の回転数Npが0になったかを判定する。Np=0でなければ(S420:No)、エンジンは停止していないと判断し、ECU90は本ルーチンを終了する。
【0058】
Np=0であれば(S420:Yes)、ECU90は、エンジンは停止したと判断し、エンジン停止後の経過時間をカウントする(S422)。所定時間経過すると(S424:Yes)、S426においてECU90は、フィードポンプ32と燃料フィルタ20との間の残圧の検出値が大気圧に相当する0になるまでに要した検出経過時間T(図2の(B)参照。)が、リリーフ弁36および逆止弁38の正常時にフィードポンプ32と燃料フィルタ20との間の残圧が0になると推定される推定経過時間tよりも短いか否か、つまりフィード圧の検出値がフィード圧の推定値に対して所定時間よりも早期に低下するか否かを判定する。言い換えれば、フィード圧の検出値の低下量がフィード圧の推定値の低下量よりも大きいか否かを判定する。
【0059】
t>Tの場合(S426:Yes)、エンジン運転中には逆止弁38が開弁固着していると判定されていないでの、ECU90は、リリーフ弁36が開弁固着していると判定する。
【0060】
リリーフ弁36が開弁固着している場合、前述したように、ECU90は、警告灯等によりリリーフ弁36の異常を運転者に報知することが望ましい。これにより、リリーフ弁36を交換する等の適切な処置を速やかに実施できる。
【0061】
t≦Tの場合(S426:No)、ECU90は、リリーフ弁36は開弁固着していないと判定し、本ルーチンを終了する。
本実施形態では、リリーフ弁36が特許請求の範囲に記載したリリーフ弁に相当する。また、本実施形態では、S402およびS404でフィードポンプ32の検出値Psoutを参照している機能がフィード圧検出手段の機能に相当し、S402でフィードポンプ32の推定値Fpを参照している機能がフィード圧推定手段の機能に相当する。また、S402およびS404でフィードポンプ32の検出値Psoutと推定値Fpとに基づいてリリーフ弁36および逆止弁38の開弁固着を判定している機能が異常判定手段の機能に相当する。
【0062】
以上説明した本実施形態では、エンジン運転中には、フィードポンプ32の検出値Psoutと推定値Fpとに基づいて、逆止弁38が開弁固着しているか否か、あるいはリリーフ弁36および逆止弁38の両方が開弁固着しているか否かを判定している。
【0063】
また、エンジンが停止したときには、エンジン運転中に逆止弁38が開弁固着していないと判定している場合に、フィードポンプ32の検出値Psoutの低下量と、推定値Fpの低下量とに基づいて、リリーフ弁36が開弁固着しているか否かを判定している。
【0064】
これにより、リリーフ弁36および逆止弁38の少なくともいずれか一方が開弁固着しているときに、異常を報知し、リリーフ弁36および逆止弁38の少なくともいずれか一方を交換する等の適切な処置を速やかに実施することができる。
【0065】
[他の実施形態]
上記実施形態では、フィードポンプ32が供給する燃料を高圧ポンプ50で加圧し、コモンレール70で蓄圧するコモンレール式のディーゼルエンジンの燃料供給システムに本発明を適用した例について説明した。これに対し、フィードポンプのフィード圧が所定圧を超えるとリリーフ弁が開弁してフィード圧を減圧し、フィードポンプをバイパスするバイパス通路に逆止弁が設置され、フィードポンプの下流側から上流側への燃料流れを逆止弁が禁止し、フィードポンプの上流側から下流側への燃料流れを逆止弁が許可する構成であれば、コモンレール式またはディーゼルエンジンに限らず、どのような内燃機関用の燃料供給システムに本発明を適用してもよい。
【0066】
また、リリーフ弁は燃料フィルタ保護用に限らず他の用途に使用されてもよく、フィードポンプをバイパスするバイパス通路に設置された逆止弁はプライミング用に限らず、他の用途に使用されてもよい。
【0067】
上記実施形態では、フィード圧検出手段、フィード圧推定手段および異常判定手段の機能を制御プログラムにより機能が特定されるECU90により実現している。これに対し、上記手段の機能の少なくとも一部を、回路構成自体で機能が特定されるハードウェアで実現してもよい。
【0068】
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0069】
10:燃料供給システム、16:プライミングポンプ、20:燃料フィルタ、22:圧力センサ、30:燃料供給ポンプ、32:フィードポンプ、36:リリーフ弁、38:逆止弁、50高圧ポンプ、70:コモンレール、80:燃料噴射弁、90:ECU(燃料供給制御装置、フィード圧検出手段、フィード圧推定手段、異常判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁が内燃機関の気筒に噴射する燃料を供給するフィードポンプと、
前記フィードポンプのフィード圧が所定圧を超えると開弁して前記フィード圧を減圧するリリーフ弁と、
前記フィードポンプをバイパスするバイパス通路に設置され、前記フィードポンプの下流側から前記フィードポンプの上流側への燃料流れを禁止し、前記フィードポンプの上流側から前記フィードポンプの下流側への燃料流れを許可する逆止弁と、
を備える燃料供給システムに用いられる燃料供給制御装置において、
前記フィードポンプの下流側に設置された圧力センサの検出信号に基づいて前記フィードポンプのフィード圧を検出するフィード圧検出手段と、
前記フィードポンプの運転状態に基づいて前記フィード圧を推定するフィード圧推定手段と、
前記フィード圧検出手段が検出する前記フィード圧の検出値と、前記フィード圧推定手段が推定する前記フィード圧の推定値とに基づいて前記リリーフ弁および前記逆止弁が開弁固着しているか否かを判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とする燃料供給制御装置。
【請求項2】
前記異常判定手段は、前記内燃機関の運転中に前記逆止弁が開弁固着していると判定していない場合、前記内燃機関の運転が停止したときに、前記推定値の低下量と前記検出値の低下量とに基づいて、前記リリーフ弁が開弁固着しているか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の燃料供給制御装置。
【請求項3】
前記異常判定手段は、前記内燃機関の運転中において、前記検出値が前記推定値よりも所定範囲を超えて低い場合、前記リリーフ弁および前記逆止弁の少なくともいずれか一方が開弁固着していると判定することを特徴とする請求項1または2に記載の燃料供給制御装置。
【請求項4】
前記異常判定手段は、前記内燃機関の運転中において、前記検出値が前記推定値よりも所定範囲を超えて低く、かつ前記検出値が前記リリーフ弁が正常なときの前記逆止弁の全開時における前記推定値以上である場合、前記逆止弁が開弁固着していると判定することを特徴とする請求項3に記載の燃料供給制御装置。
【請求項5】
前記フィード圧推定手段は前記フィードポンプの回転数に基づいて前記フィード圧を推定することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の燃料供給制御装置。
【請求項6】
内燃機関の気筒内に燃料を噴射する燃料噴射弁に蓄圧した燃料を供給するコモンレールと、
加圧した燃料を前記コモンレールに供給する高圧ポンプと、
燃料タンクから吸い上げた燃料を前記高圧ポンプに圧送するフィードポンプと、
前記フィードポンプの下流側に設置され前記フィードポンプから供給される燃料中の異物を除去する燃料フィルタと、
プライミング時に前記フィードポンプをバイパスするバイパス通路に燃料を供給するプライミングポンプと、
前記フィードポンプのフィード圧が所定圧を超えると開弁して前記フィード圧を減圧するリリーフ弁と、
前記バイパス通路に設置され、前記フィードポンプの下流側から前記フィードポンプの上流側への燃料流れを禁止し、前記プライミングポンプによるプライミング時に前記フィードポンプの上流側から前記フィードポンプの下流側への燃料流れを許可する逆止弁と、
請求項1から5のいずれか一項に記載の燃料供給制御装置と、
を備えることを特徴とする燃料供給システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−248973(P2010−248973A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−98119(P2009−98119)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】