説明

燃料噴射制御装置

【課題】内燃機関の回転変動量に基づいて高精度に燃料圧力を推定し、推定した燃料圧力に基づいて圧力センサの異常を判定する燃料噴射制御装置を提供する。
【解決手段】燃料噴射制御装置は、噴射運転状態であり(S400:Yes)、エンジン回転数が所定回転数を超えている場合(S402:Yes)、エンジン回転速度の加速度を積算する検出範囲の終了時期を早め(S404)、設定した検出範囲で加速度を積算する(S406)。燃料噴射制御装置は、吸入空気量、EGRガス量等のエンジン運転環境に基づいて補正した加速度積算値から噴射量を推定し(S408、S410)、推定噴射量から燃料圧力を推定する(S422)。燃料噴射制御装置は、燃料圧力の推定圧力と圧力センサによる検出圧力との圧力差が異常判定値を超えている気筒がある場合(S426:Yes)、圧力センサの仮異常であると判定する(S428)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料圧力を検出する圧力センサの異常を判定する燃料噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧力センサにより燃料噴射弁から噴射する燃料の圧力を検出し、検出した燃料圧力に基づいて燃料噴射弁からの燃料噴射を制御する燃料噴射制御装置が知られている。
このような燃料噴射制御装置において、圧力センサが異常になって正確な燃料圧力を検出できなくなると、燃料噴射を適切に制御できなくなるという問題がある。
【0003】
圧力センサが複数設置されている場合には、複数の圧力センサの検出信号を比較することにより、異常が生じている圧力センサを特定し、正常な圧力センサが検出する燃料圧力により燃料噴射を制御できる。
【0004】
しかし、圧力センサを複数設置すると製造コストが上昇するという問題がある。一方、圧力センサを1個にすると、断線等による圧力センサの出力異常は検出できるが、ゲインずれ、オフセットずれ等の圧力センサの特性異常を検出することはできない。
【0005】
この問題に対し、特許文献1では、内燃機関の回転速度の変動量から噴射量を推定し、噴射量から燃料圧力を推定することにより、推定した燃料圧力と圧力センサが検出する燃料圧力とのずれ量に基づいて、圧力センサの特性異常を判定しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−40113号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
内燃機関の回転速度の変動量は、同じ噴射量であっても変動量を検出する範囲および内燃機関の運転状態によって異なる。
しかしながら、特許文献1では、回転速度の変動量と噴射量との対応関係に基づいて回転速度の変動量から噴射量を推定しているものの、回転速度の変動量を検出する範囲に関する記載がないため、検出範囲によっては回転速度の変動量が小さくなることがある。その結果、回転速度の変動量に基づいて噴射量を推定する場合に、噴射量の推定精度が低下し、噴射量から推定する燃料圧力の推定精度が低下する恐れがある。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、内燃機関の回転変動量に基づいて高精度に燃料圧力を推定し、推定した燃料圧力に基づいて圧力センサの異常を判定する燃料噴射制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1から7に記載の発明によると、変動量検出手段は、内燃機関の回転変動量を検出し、範囲設定手段は、変動量検出手段が検出する回転変動量の検出範囲を内燃機関の運転状態に基づいて可変に設定する。尚、内燃機関の回転変動量として、噴射量に応じて変動する回転状態を表わすものであれば、どのような値を採用してもよい。
【0010】
この構成によれば、噴射量を推定するための回転変動量の検出範囲を、内燃機関の運転状態に応じて適切に設定できる。これにより、噴射量推定手段は、検出した回転変動量に基づいて噴射量を高精度に推定し、圧力推定手段は、噴射量推定手段が推定した噴射量に基づいて燃料圧力を高精度に推定できる。
【0011】
このように、回転変動量に基づいて燃料圧力を高精度に推定できるので、圧力センサが1個の場合であっても、推定した燃料圧力と圧力センサが検出する燃料圧力との圧力差に基づいて、圧力センサの異常を高精度に判定できる。これにより、圧力センサの異常判定のために複数の圧力センサを設置する必要がないので、製造コストが低下する。
【0012】
また、燃料圧力を高精度に推定できるので、圧力センサに異常が発生しても、推定した燃料圧力に基づいて、オープン制御するよりも高精度に燃料圧力を制御できる。これにより、推定した燃料圧力に基づいて高精度に燃料噴射制御を実行できるので、アクセル開度の制限により速度制限はするものの退避走行を容易に行うことができる。
【0013】
さらに、オープン制御するよりも高精度に燃料圧力を制御できるので、燃料圧力が異常高圧になると開弁して燃料圧力を低下させるプレッシャリミッタを省略できる。ただし、プレッシャリミッタを省略する場合には、燃料噴射制御装置により開閉駆動して燃料圧力を低下させる減圧弁を設置することが望ましい。
【0014】
請求項2に記載の発明によると、範囲設定手段は、内燃機関の運転状態に基づいて、回転変動量の検出開始時期と検出終了時期と検出期間の長さとの少なくともいずれか一つを可変に設定する。
【0015】
この構成によれば、噴射量を高精度に推定するための回転変動量の検出範囲を、内燃機関の運転状態に基づいて適切に設定できる。
ここで、内燃機関の各気筒において、一般に、燃焼により回転速度が上昇する燃焼行程前半に対し回転速度が低下する燃焼行程後半では、燃焼による回転変動よりも慣性力による回転変動が支配的になる。したがって、回転変動量の検出範囲によっては、回転変動に対する噴射量の影響が殆ど現れなくなる。
【0016】
特に、回転数が高回転になると、内燃機関が回転する慣性力による影響、あるいはピストンとシリンダとの摺動抵抗等の機械損失による影響が大きくなるので、回転変動量に対する噴射量の影響は小さくなる。その結果、回転速度が上昇する燃焼行程前半に対し回転速度が低下する燃焼行程後半では、回転変動量に基づいて噴射量を推定する感度が低下し、推定した噴射量に基づく燃料圧力の推定感度が低下する。
【0017】
また、内燃機関の運転負荷が高くなることにより燃料圧力が高圧になると、ハードウェア自体の耐圧限界に対する余裕代が低下するため、回転変動量に基づく噴射量の推定にはより高い推定感度が必要になる。
【0018】
そこで、請求項3に記載の発明によると、内燃機関の運転状態として、回転数が所定回転数を超える高回転状態、ならびに内燃機関の運転負荷が所定負荷を超える高負荷状態の少なくともいずれかの場合、範囲設定手段は、各気筒における燃焼により回転速度が上昇する範囲内で検出範囲を設定する。
【0019】
この構成によれば、燃料圧力の推定感度が低下する高回転状態および高負荷状態の少なくともいずれかの場合、回転変動量に対する噴射量の影響が回転速度が低下しているときよりも顕著に現れる回転速度が上昇している範囲内で回転変動量を検出するので、検出した回転変動量に基づいて高精度に燃料圧力を推定できる。
【0020】
請求項4に記載の発明によると、補正手段は、同じ噴射量および同じ前記検出範囲において前記回転変動量が変化する要因となる内燃機関の運転環境に基づいて、変動量検出手段が検出する回転変動量を補正する。運転環境として、吸入空気温、吸入空気量、水温、過給圧、EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガス量等が考えられる。
【0021】
このように、検出した回転変動量を運転環境に基づいて補正することにより、内燃機関の運転環境の変化により回転変動量が異なっても、補正した回転変動量に基づいて高精度に燃料圧力を推定できる。
【0022】
これにより、例えばアクセルを踏み込んで加速運転を行う過渡運転状態において運転環境として吸入空気量がばらつく場合にも、吸入空気量に基づいて回転変動量を補正することにより、定常運転状態と同様に高精度に燃料圧力を推定できる。その結果、運転環境に関わらず、回転変動量に基づいて高精度に燃料圧力を推定できる。
【0023】
請求項5に記載の発明によると、変動量検出手段は、検出範囲において回転変動量として回転速度の加速度の積算値を検出する。
このように、回転速度の変動量、あるいは回転速度の瞬時の変化量である加速度よりも、検出範囲における加速度の積算値を回転変動量として検出することにより、回転速度の検出誤差が回転変動量の検出誤差に与える影響を極力低減できる。
【0024】
請求項6に記載の発明によると、噴射指令手段は内燃機関の無噴射減速運転時に学習用噴射を指令し、回転変動量検出段は、無噴射減速運転時には、噴射指令手段が指令する学習用噴射により生じた内燃機関の回転速度の変動量を検出し、噴射量推定手段は、無噴射減速運転時には、学習用噴射により生じた回転速度の変動量に基づいて噴射量を推定する。
【0025】
これにより、燃料を噴射する噴射運転時、および無噴射減速運転時のいずれにおいても、回転変動量に基づいて燃料圧力を推定できる。
ところで、回転変動量に基づいて推定した燃料圧力と圧力センサが検出する燃料圧力との圧力差が所定値を超える原因として、圧力センサの異常だけでなく、燃料噴射弁の経年変化による噴射量異常も考えられる。この場合には、燃料噴射弁が噴射量異常となっている気筒だけで圧力差が所定値を超える。一方、圧力センサが異常になると、全気筒において推定圧力と検出圧力との圧力差が所定値を超える。
【0026】
そこで、請求項7に記載の発明によると、判定手段は、噴射量推定手段が推定する気筒毎の噴射量に基づいて圧力推定手段が気筒毎に推定する燃料圧力と圧力センサが検出する燃料圧力との圧力差が、全気筒において所定値を超える場合は圧力センサの異常と判定し、全気筒のうち少なくとも1気筒において圧力差が所定値以下の場合は圧力センサの異常と判定しない。
【0027】
この構成によれば、全気筒において、推定圧力と検出圧力との圧力差を気筒毎に比較するので、推定圧力と検出圧力との圧力差が所定値を超える原因が、圧力センサの異常か否かを判定できる。
【0028】
尚、本発明に備わる複数の手段の各機能は、構成自体で機能が特定されるハードウェア資源、プログラムにより機能が特定されるハードウェア資源、またはそれらの組み合わせにより実現される。また、これら複数の手段の各機能は、各々が物理的に互いに独立したハードウェア資源で実現されるものに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施形態による燃料噴射システムを示すブロック図。
【図2】燃焼行程における回転速度および加速度の変化を示す特性図。
【図3】(A)は加速度を積算する検出範囲と感度との関係を示す特性図、(B)はエンジン回転数の高低による噴射量と加速度積算値との関係を示す特性図。
【図4】(A)は空気量と加速度積算値との関係を示す特性図、(B)は噴射量と加速度積算値との関係を示す特性図、(C)は燃料圧力と噴射量との関係を示す特性図。
【図5】圧力センサの異常判定処理を示すフローチャート。
【図6】圧力センサの異常判定処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
本実施形態による燃料噴射システムを図1に示す。
(燃料噴射システム10)
燃料噴射システム10は、例えば、自動車用の4気筒のディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」ともいう。)2に燃料を噴射するためのものである。燃料噴射システム10は、燃料供給ポンプ14と、コモンレール20と、燃料噴射弁30と、電子制御装置(Electronic Control Unit:ECU)40とを備えている。
【0031】
燃料供給ポンプ14は、燃料タンク12から燃料を汲み上げるフィードポンプを内蔵している。燃料供給ポンプ14は、カムシャフトのカムの回転に伴いプランジャが往復移動することにより、フィードポンプから加圧室に吸入した燃料を加圧する公知のポンプである。
【0032】
調量弁16は、燃料供給ポンプ14の吸入側に設置されており、電流制御されることにより燃料供給ポンプ14の各プランジャが吸入行程で吸入する燃料吸入量を調量する。燃料吸入量が調量されることにより、燃料供給ポンプ14の各プランジャからの燃料吐出量が調量される。燃料供給ポンプ14の吐出側に設置される調量弁により、燃料供給ポンプ14の各プランジャからの燃料吐出量を調量してもよい。
【0033】
コモンレール20は、燃料供給ポンプ14から吐出される燃料を蓄圧する中空の部材である。コモンレール20には、内部の燃料圧力(コモンレール圧)を検出する圧力センサ22、および、開弁することによりコモンレール20内の燃料を排出してコモンレール圧を低下させる減圧弁24が設けられている。
【0034】
エンジン2には、運転状態を検出するセンサとして、クランクシャフトの回転角度を検出するクランク角センサ32が設置されている。クランク角センサ32は、エンジン2のクランク軸と同期して回転する図示しないパルサの周囲に配置され、パルサが1回転する間に、パルサの外周部に設けられた歯部の数に相当する複数のパルス信号(クランク角信号)を出力する。クランク角センサ32から出力されるクランク角(CA)信号に基づいて、エンジン回転数、エンジン回転速度が検出される。
【0035】
本実施形態において、エンジン回転数は、所定期間(例えば1分)におけるエンジン2の回転数の平均を表わし、エンジン回転速度は、瞬時におけるエンジン2の回転数を表わすものとする。したがって、エンジン回転数とエンジン回転速度とにおいて用語の意味は異なるものの、単位は同じ[rpm]である。
【0036】
さらに、エンジン2の運転状態を検出する他のセンサとして、運転者によるアクセルペダルの操作量であるアクセル開度を検出するアクセルセンサ、冷却水の温度(水温)および吸入空気の温度(吸入空気温)をそれぞれ検出する温度センサ、吸入空気量を検出するエアフロメータ、過給機の下流側の吸気通路に設置された吸気圧センサ、などが燃料噴射システム10に設けられている。
【0037】
燃料噴射弁30は、エンジン2の各気筒に設置されており、コモンレール20で蓄圧された燃料を気筒内に噴射する。燃料噴射弁30は、例えば、噴孔を開閉するノズルニードルのリフトを制御室の圧力で制御する公知の電磁弁である。燃料噴射弁30の噴射量は、ECU40から指令される噴射指令信号のパルス幅によって制御される。噴射指令信号のパルス幅が長くなると噴射量が増加する。
【0038】
ECU40は、CPU、RAM、ROM、フラッシュメモリ等を中心とするマイクロコンピュータにて主に構成されている。ECU40は、ROMまたはフラッシュメモリに記憶されている制御プログラムをCPUが実行することにより、圧力センサ22、クランク角センサ32を含む各種センサから取り込んだ出力信号と、吸気圧センサの出力信号に基づいて検出した過給機による過給圧と、図示しないEGR弁の開度を制御する指令信号に基づいて検出したEGRガス量等に基づき、燃料噴射システム10の各種制御を実行する。
【0039】
例えば、ECU40は、圧力センサ22が検出するコモンレール圧が目標圧力になるように調量弁16への通電量を制御し、燃料供給ポンプ14の吐出量を調量する。ECU40は、調量弁16を制御する電流値と吐出量との相関を表す特性マップに基づいて、調量弁16を制御する電流値を設定する。
【0040】
また、ECU40は、燃料噴射弁30の燃料噴射量、燃料噴射時期、およびメイン噴射の前後にパイロット噴射、ポスト噴射等を実施する多段噴射のパターンを制御する。
ECU40は、燃料噴射弁30に噴射を指令する噴射指令信号のパルス幅と噴射量との相関を示す噴射特性マップを、コモンレール圧に応じてROMまたはフラッシュメモリに記憶している。そして、ECU40は、エンジン回転速度およびアクセル開度に基づいて燃料噴射弁30の噴射量が決定すると、圧力センサ22が検出したコモンレール圧に応じて該当する噴射特性マップを参照し、決定された噴射量を燃料噴射弁30に指令する噴射指令信号のパルス幅を噴射特性マップから取得する。
【0041】
(噴射量推定)
ECU40は、クランク角センサ32が出力するクランク角信号に基づいて、エンジン回転速度(rpm)を検出する。本実施形態のエンジン2は4気筒であるから、吸入行程、圧縮行程、燃焼行程、排気行程の4行程からなる1燃焼サイクルにおいて、燃焼行程は180°CA周期で発生する。
【0042】
図2に示すように、一般的には各気筒の燃焼行程において、符号200に示すエンジン回転速度は、燃焼行程の上死点から90°CAまでは上昇し、90°CA〜180°CAの間は低下する。もちろん、エンジン運転状態や、エンジンに対する噴射量、噴射時期および噴射間インターバルの適合によっては、燃焼行程に対する回転速度の最大値は、燃焼行程の上死点90°CAの前あるいは後になることもあり得る。
【0043】
図2において符号202はエンジン回転速度の加速度(rpm/s)を示している。ECU40は、回転速度を微分して加速度を算出する。加速度202は、燃焼行程の上死点から90°CAまでは正の値であり、90°CA〜180°CAの間は負の値になる。したがって、各気筒において、燃焼行程における加速度の積算値は概ね0になる。
【0044】
本実施形態では、各気筒において燃焼行程における加速度を積算し、気筒間での加速度積算値のばらつきなくすように燃料噴射弁30の噴射量を補正する噴射量学習が行われている。
【0045】
加速度積算値は、各気筒において燃焼により発生する仕事量(トルク)を表わしている。同じエンジン回転速度において、噴射量と仕事量とは対応関係にあるので、仕事量である加速度積算値を検出することにより、噴射量と加速度積算値との特性マップから、各気筒における噴射量を推定することができる。
【0046】
(推定感度)
ここで、図3の(A)に示すように、燃焼行程の上死点からの加速度の積算期間によって、噴射量に対する加速度積算値の感度(rpm/mm3)、すなわち、加速度積算値から噴射量を推定する場合の推定感度は変化する。
【0047】
燃焼行程の上死点〜90°CAの間は、噴射した燃料が燃焼し回転速度が上昇するので(図2参照)、加速度積算値は上昇し感度も上昇している。90°CA〜180°CAの間は回転速度が低下するので(図2参照)、加速度積算値は減少し感度も減少している。したがって、検出した加速度積算値から噴射量を推定する場合、各気筒における燃焼によりエンジン回転速度が上昇する期間、つまり燃焼行程の上死点から90°CAの間を加速度の積算期間とすることが望ましい。
【0048】
ただし、噴射開始時期、エンジン回転数、エンジン負荷等のエンジン運転状態によって、噴射量に対する加速度積算値の感度は符号210、212に示すように異なるので、エンジン運転状態に基づいて最適な積算期間を設定することが望ましい。
【0049】
例えば、図3の(B)に示すように、エンジン回転数が高くなるほど、噴射量に対する加速度積算値の変化率は低下する。これは、エンジン回転数が高くなるほど、エンジン2が回転する慣性力の影響、あるいはピストンとシリンダとの摺動抵抗等の機械損失の影響が大きくなるので、噴射量の変化に応じたエンジン回転速度の変化が小さくなるからである。
【0050】
したがって、エンジン回転数が所定回転数を超える高回転状態の場合、異なる噴射量によりエンジン回転速度の変化、つまり加速度積算値の変化が大きく影響を受ける範囲、つまり燃焼行程において、燃焼によりエンジン回転速度が上昇している範囲内で適切に加速度積算値の検出範囲を設定することにより、加速度積算値から噴射量を推定する推定感度を極力上昇させることが望ましい。
【0051】
例えば、エンジン運転状態によっては、上死点から60°〜70°CAの間を加速度の検出範囲とすることが望ましい。
また、エンジンの運転負荷が大きくなると、ECU40は調量弁16を制御してコモンレール圧を上昇させる。コモンレール圧が上昇すると、ハードウェア自体の耐圧限界に対する余裕代が低下するため、より高い推定感度が必要になる。したがって、エンジン運転負荷が所定負荷を超える高負荷状態の場合も、燃焼によるエンジン回転速度への影響がより顕著に現れるエンジン回転数が上昇している範囲内で適切に加速度積算値の検出範囲を設定することが望ましい。
【0052】
(加速度積算値補正)
また、加速度積算値と噴射量との特性マップは、エンジン運転環境である吸入空気温、吸入空気量、水温、過給圧、EGRガス量等の基準値において設定されている。そして、同じ噴射量および同じ加速度積算値の検出範囲であっても、前述したエンジン運転環境が変化すると、加速度積算値は変化する。
【0053】
そこで、運転環境の基準値と実運転時の運転環境の値との差に基づいて、実運転時の運転環境で検出した加速度積算値を補正する必要がある。例えば、図4の(A)に示すように、吸入空気量の基準値と実運転時において検出した吸入空気量との差に基づいて、実運転時の吸入空気量において検出した加速度積算値を補正する。吸入空気量だけでなく、他のエンジン運転環境のパラメータについても、基準値と実際の値との差に基づいて、加速度積算値を補正する。
【0054】
このように、同じ噴射量および同じ加速度積算値の検出範囲において加速度積算値が変化する要因となるエンジン運転環境に基づいて回転変動量である加速度積算値を補正することにより、エンジン運転環境の変化により加速度積算値が異なっても、補正した加速度積算値に基づいて、後述するように高精度に燃料圧力を推定できる。
【0055】
これにより、例えばアクセルを踏み込んで加速運転を行う過渡運転状態において運転環境として吸入空気量がばらつく場合にも、吸入空気量に基づいて加速度積算値を補正することにより、定常運転状態と同様に高精度に燃料圧力を推定できる。その結果、運転環境に関わらず、加速度積算値に基づいて高精度に燃料圧力を推定できる。
【0056】
(噴射量推定)
仕事量である加速度積算値は噴射量と相関関係にあるので、エンジン回転数に応じて設定された図4の(B)に示すマップに基づき、加速度積算値から噴射量を推定できる。
【0057】
(燃料圧力推定)
前述したように、ECU40は、燃料噴射弁30に噴射を指令する噴射指令信号のパルス幅と噴射量との相関を示す噴射特性マップを、燃料圧力であるコモンレール圧に応じて記憶装置に記憶している。つまり、噴射指令信号のパルス幅と噴射量との相関関係はコモンレール圧に応じて変化する。
【0058】
したがって、各気筒の燃料噴射弁30に指令する噴射指令信号のパルス幅に応じて、加速度積算値から推定した噴射量から、図4の(C)に示すように燃料圧力(コモンレール圧)を推定できる。
【0059】
以上説明した、加速度積算値から噴射量および燃料圧力を推定する処理は、燃料噴射弁30から燃料を噴射する噴射運転状態において行うものである。
(無噴射減速運転時の燃料圧力推定)
これに対し、アクセルペダルをオフして減速し、燃料噴射弁30からの燃料噴射を停止する無噴射減速運転時において所定の学習条件が成立すると、ECU40は、各気筒の燃料噴射弁30の噴射量を補正するために、噴射量学習用の燃料噴射を燃料噴射弁30に指令する。この場合、ECU40は、学習用噴射により生じたエンジン回転速度の変動量に基づいてエンジントルクを算出し、エンジントルクから噴射量を算出する。そして、噴射量と学習用の噴射指令信号のパルス幅とに基づいて、コモンレール圧を推定する。
【0060】
(圧力センサ22の異常判定)
ECU40は、噴射運転時または無噴射減速運転時において推定したコモンレール圧と、圧力センサ22が検出するコモンレール圧との圧力差が所定値以上の場合、圧力センサ22が異常であると判定する。
【0061】
このように、加速度積算値から推定した燃料圧力に基づいて圧力センサ22の異常を判定できるので、圧力センサ22を1個設置する燃料噴射システム10の構成であっても、圧力センサ22の異常を判定できる。これにより、複数の圧力センサ22の検出圧力を比較して圧力センサ22の異常を判定する必要がないので、燃料噴射システム10の製造コストを低減できる。
【0062】
また、加速度積算値から推定したコモンレール圧に基づいて燃料供給ポンプ14の吐出量を調量し、コモンレール圧をフィードバック制御できるので、エンジン運転状態に基づいてコモンレール圧をオープン制御するよりも、高精度にコモンレール圧を調圧できる。また、減圧弁24を開弁することにより、コモンレール圧を適宜減圧できるので、コモンレール圧が過度に上昇することを防止できる。
【0063】
そして、加速度積算値から推定したコモンレール圧に基づいて、オープン制御するよりも高精度に燃料噴射弁30の噴射量を制御できるので、アクセル開度を制限して速度制限はするものの、車両の走行を継続し、退避走行を容易に行うことができる。
【0064】
(異常判定処理)
図5および図6に、圧力センサ22の異常判定処理を行うフローチャートを示す。図5の異常判定処理は、例えば各気筒の燃焼行程が終了したときに実行され、図6の異常判定処理は、図5の異常判定処理が終了すると実行される。図5および図6において、「S」はステップを表している。
【0065】
図5のS400においてECU40は、燃料噴射弁30から燃料を噴射する噴射運転状態か否かを判定する。噴射運転状態の場合(S400:Yes)、ECU40は、エンジン運転状態として、エンジン回転数が所定回転数を超えている高回転状態か否かを判定する(S402)。
【0066】
エンジン回転数が所定回転数以下の場合(S402:No)、ECU40は予め設定している「燃焼行程の上死点から90°CA」の間を加速度積算値の検出範囲とし、S406に処理を移行する。
【0067】
エンジン回転数が所定回転数を超えている場合(S402:Yes)、ECU40は、エンジン回転数が所定回転数以下の場合の「燃焼行程の上死点から90°CA」よりも積算終了時期の早い検出範囲、例えば「燃焼行程の上死点から60°〜70°CA」の間に加速度積算値の検出範囲を変更する(S404)。これにより、積算期間が短くなり加速度積算値におけるエンジン回転速度の検出誤差の影響は大きくなるもの、噴射量の推定感度の高い検出範囲で加速度を積算できる。
【0068】
尚、加速度積算値の検出範囲を変更する場合、S404では予め設定している検出範囲の検出終了時期を早めたが、噴射量の推定感度の特性によっては、検出終了時期を遅くしてもよいし、検出開始時期を変更してもよいし、検出期間である積算期間の長さを変えずにずらしてもよい。
【0069】
また、S402で判定するエンジン運転状態として、エンジン回転数だけでなく、エンジン運転負荷が所定負荷を超えているか否かを判定してもよい。エンジン回転数が所定回転数以下であり、かつエンジン運転負荷が所定負荷以下の場合には、加速度積算値の検出範囲を「燃焼行程の上死点から90°CA」の間に設定する。これに対し、エンジン回転数が所定回転数を超えているか、あるいはエンジン運転負荷が所定負荷を超えている場合には、加速度積算値の検出範囲を「燃焼行程の上死点から60°〜70°CA」の間に設定する。
【0070】
S406においてECU40は、設定された検出範囲において、気筒毎に加速度を積算する。そして、ECU40は、基準となるエンジン運転環境と加速度積算値との特性マップに対し、各種センサから検出した実際のエンジン運転環境に基づいて加速度積算値を補正する(S408)。エンジン運転環境としては、前述したように、吸入空気量、吸入空気温、水温、過給圧、EGRガス量等が考えられる。
【0071】
ECU40は、補正された加速度積算値に基づいて噴射量を推定し(S410)、S422に処理を移行する。
S400の判定において、噴射運転状態ではなく、燃料噴射弁30から燃料を噴射しない無噴射減速運転状態の場合(S400:No)、ECU40は、マニュアルトランスミッション(MT)であればクラッチが断状態、オートマチックトランスミッション(AT)であればロックアップクラッチが解除状態、などの微少噴射量の学習条件が成立しているか否かを判定する(S412)。学習条件が成立していない場合(S412:No)、ECU40は本処理を終了する。
【0072】
学習条件が成立している場合(S412:Yes)、ECU40は、噴射量学習用の単発噴射を燃料噴射弁30に指令し(S414)、そのときのエンジン回転速度の変動量をクランク角センサ32の出力から検出する(S416)。ECU40は、加速度積算値と同様に、基準となるエンジン運転環境と検出した回転変動量との特性マップに対し、各種センサから検出した実際のエンジン運転環境に基づいて、S416で検出した回転変動量を補正する(S418)。
【0073】
ECU40は、補正した回転変動量からエンジントルクを算出し、算出したエンジントルクから噴射量を推定し(S420)、S422に処理を移行する。
ECU40は、S410またはS420で推定した噴射量と噴射指令信号のパルス幅とから燃料圧力を推定し(S422)、燃料圧力の推定圧力と圧力センサ22により検出したコモンレール20の検出圧力との圧力差を算出し(S424)、算出した圧力差が所定値として設定した異常判定値を超えているか否かを判定する(S426)。圧力差が異常判定値以下の場合(S426:No)、ECU40は本処理を終了する。
【0074】
圧力差が異常判定値を超えている場合(S426:Yes)、ECU40は、圧力センサ22が異常であると仮判定し(S428)、本処理を終了する。
次に、図6のS430においてECU40は、全気筒において図5の異常判定処理が終了したか否かを判定する。全気筒の異常判定処理が終了していない場合(S430:No)、ECU40は本処理を終了する。
【0075】
全気筒の異常判定処理が終了している場合(S430:Yes)、ECU40は、全気筒にてセンサ仮異常と判定されているか否かを判定する(S432)。
全気筒にてセンサ仮異常と判定されている場合(S432:Yes)、ECU40は圧力センサ22が異常であると判定し(S434)、本処理を終了する。
【0076】
少なくとも1気筒にてセンサ仮異常と判定されていない場合(S432:No)、ECU40は、一部の気筒でセンサ仮異常と判定されている場合の原因は圧力センサ22以外の異常、例えば燃料噴射弁30の噴射量異常が原因であると判断する。そして、ECU40は、全気筒のセンサ仮異常判定をクリアし(S436)、本処理を終了する。
【0077】
本実施形態では、ECU40が本発明の燃料噴射制御装置に相当し、エンジン2が本発明の内燃機関に相当する。そして、ECU40は、変動量検出手段、範囲設定手段、噴射量推定手段、圧力推定手段、異常判定手段、補正手段および噴射指令手段として機能する。
【0078】
また、図5において、S402およびS404の処理が本発明の範囲設定手段が実行する機能に相当し、S406およびS416の処理が本発明の変動量検出手段が実行する機能に相当し、S408およびS418の処理が本発明の補正手段が実行する機能に相当し、S410およびS420の処理が本発明の噴射量推定手段が実行する機能に相当し、S414の処理が本発明の噴射指令手段が実行する機能に相当し、S422の処理が本発明の圧力推定手段が実行する機能に相当する。そして、図5のS426およびS428と、図6のS430〜S436の処理が本発明の異常判定手段が実行する機能に相当する。
【0079】
以上説明した上記実施形態では、燃料噴射弁30から噴射される噴射量に応じて生じるエンジン2の回転変動量として加速度を、エンジン運転状態に基づいて可変に設定した検出範囲で積算した。これにより、加速度積算値から噴射量を推定する場合の推定感度が最適になるように、加速度を積算する検出範囲を設定できる。その結果、高精度に推定した噴射量から高精度に燃料圧力を推定できる。したがって、推定した燃料圧力と圧力センサ22が検出した燃料圧力との圧力差に基づいて、圧力センサ22が異常であるか否かを高精度に判定できる。
【0080】
[他の実施形態]
上記実施形態では、エンジン2の回転変動量として加速度を積算した。これ以外にも、内燃機関の運転状態に基づいて設定した検出範囲において、燃料噴射弁30の噴射量に応じて変化するエンジン2の回転変動量として、回転速度の積算値、回転速度の差分、加速度の差分等を検出してもよい。
【0081】
また、エンジン運転環境に基づいて検出した回転変動量を補正する処理は実行することが望ましいが、必須ではない。
また、各気筒において燃料圧力を推定するのではなく、特定の1気筒において推定した燃料圧力と圧力センサ22で検出した燃料圧力との圧力差に基づいて、圧力センサ22の異常を判定してもよい。
【0082】
上記実施形態では、変動量検出手段、範囲設定手段、噴射量推定手段、圧力推定手段、異常判定手段、補正手段および噴射指令手段の機能を制御プログラムにより機能が特定されるECU40により実現している。これに対し、上記手段の機能の少なくとも一部を、回路構成自体で機能が特定されるハードウェアで実現してもよい。
【0083】
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
2:ディーゼルエンジン(内燃機関)、10:燃料噴射システム、30:燃料噴射弁、40:ECU(燃料噴射制御装置、変動量検出手段、範囲設定手段、噴射量推定手段、圧力推定手段、異常判定手段、補正手段、噴射指令手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の回転変動量を検出する変動量検出手段と、
前記変動量検出手段が検出する前記回転変動量の検出範囲を前記内燃機関の運転状態に基づいて可変に設定する範囲設定手段と、
前記範囲設定手段が設定した前記検出範囲において前記変動量検出手段が検出する前記回転変動量に基づいて噴射量を推定する噴射量推定手段と、
前記噴射量推定手段が推定する噴射量に基づいて燃料圧力を推定する圧力推定手段と、
前記圧力推定手段が推定する燃料圧力と、圧力センサが検出する燃料圧力との圧力差が所定値を超える場合、前記圧力センサの異常と判定する異常判定手段と、
を備えることを特徴とする燃料噴射制御装置。
【請求項2】
前記範囲設定手段は、前記内燃機関の運転状態に基づいて、前記回転変動量の検出開始時期と検出終了時期と検出期間の長さとの少なくともいずれか一つを可変に設定することを特徴とする請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項3】
前記範囲設定手段は、前記内燃機関の運転状態として、前記内燃機関の回転数が所定回転数を超える高回転状態、ならびに前記内燃機関の運転負荷が所定負荷を超える高負荷状態の少なくともいずれかの場合、各気筒における燃焼により前記内燃機関の回転速度が上昇する範囲内で前記検出範囲を設定することを特徴とする請求項2に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項4】
同じ噴射量および同じ前記検出範囲において前記回転変動量が変化する要因となる前記内燃機関の運転環境に基づいて、前記変動量検出手段が検出する前記回転変動量を補正する補正手段を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項5】
前記変動量検出手段は、前記検出範囲において前記回転変動量として前記内燃機関の回転速度の加速度の積算値を検出することを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項6】
前記内燃機関の無噴射減速運転時に学習用噴射を指令する噴射指令手段を備え、
前記変動量検出手段は、前記無噴射減速運転時には、前記噴射指令手段が指令する学習用噴射により生じた前記内燃機関の回転速度の変動量を検出し、
前記噴射量推定手段は、前記無噴射減速運転時には、前記学習用噴射により生じた前記回転速度の変動量に基づいて噴射量を推定する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。
【請求項7】
前記異常判定手段は、前記噴射量推定手段が推定する気筒毎の噴射量に基づいて前記圧力推定手段が気筒毎に推定する燃料圧力と前記圧力センサが検出する燃料圧力との前記圧力差が、全気筒において前記所定値を超える場合は前記圧力センサの異常と判定し、全気筒のうち少なくとも1気筒において前記圧力差が前記所定値以下の場合は前記圧力センサの異常と判定しないことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の燃料噴射制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−159009(P2012−159009A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18103(P2011−18103)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】