説明

燃料電池システム用転がり軸受

【課題】
ウレア化合物を含有するグリースを封入した軸受において、高速・高温条件下でもシール部材である密封板の弾性体の劣化が小さく、良好な密封性を長く維持し、信頼性や耐久性に優れた燃料電池システム用転がり軸受を提供する。
【解決手段】燃料電池システム用転がり軸受1であって、内輪2および外輪3と、この内輪2および外輪3間に介在する複数の転動体4とを備え、上記転動体4の周囲に封入されるウレア化合物を含有するグリース7と、上記内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bに設けられ、グリース7を封止するシール部材6とを備えてなり、上記シール部材6は、少なくとも前記グリースに接触するゴム成形体を有し、該ゴム成形体がテトラフルオロエチレンと、プロピレンと、水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭素数 2〜4 の不飽和炭化水素からなる架橋用単量体とを含む加硫可能なフッ素ゴム組成物の成形体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム用転がり軸受に関し、特に燃料電池システム内の各種流体を圧送する圧送機に用いられる燃料電池システム用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の新しい動力源または分散型発電装置として燃料電池システムが注目されている。燃料電池は、出力密度が高く、低温で作動し、電池構成材料の劣化が少なく、起動が容易である固体高分子電解質型燃料電池が、自動車等の輸送体の動力源として有効とされている。
燃料電池システムでは燃料電池セルに、燃料である水素、水素リッチ改質ガス、および酸化剤としての空気を圧送する必要があり、スーパーチャージャ、インペラ型圧送機、スクロール型圧送機、斜板型圧送機、スクリュー型圧送機などの各種圧送機が使用されている。
また、固体高分子電解質型燃料電池では、発電のための化学反応により水が発生することや、フッ素樹脂系の高分子膜が固体電解質として機能できるように加湿器により加湿され、常に水分を含んだ状態に維持されるので、圧送機が圧送する気体には水分が混入している。さらに、燃料電池システムでは水素燃料を循環させて再利用するため、電解質から酸性物質が遊離する。
このように、圧送機に組み込まれている転がり軸受が、水分や酸性物質と接触するため、燃料電池システムに用いられる転がり軸受には優れた防錆性能を有することが要求される。
また、発電量の増加の要望に対応して圧送機はより高速化、高性能化が求められており、転がり軸受も高速、高荷重下で回転するため軸受部が 180℃程度の高温になる場合があることから、耐熱性に優れることも要求される。
また、燃料である水素、水素リッチ改質ガスが、転がり軸受内に侵入すると軸受転走面において、水素脆性に伴なう金属剥離が発生することから、軸受転走面を水素に接触しないようにシールするシール性能を有することも要求される。
また、長期にわたって確実に作動することが求められることから、転がり軸受も長寿命であることが要求される。
【0003】
従来、上記転がり軸受の潤滑には主としてウレア系グリースが使用されており、さらに温度条件が厳しい場合はフッ素グリースが使用されている。また、フッ素グリースはきわめて高価である、または添加できる防錆剤などが限定されるため、フッ素グリースと、フッ素グリース以外の他のグリースとの混合グリースを用いたもの(特許文献1参照)なども使用されている。
【0004】
一方、このような温度条件などが厳しい用途では転がり軸受用シール部材にも耐熱性が求められる。シール部材の弾性体として従来はアクリルゴムが使用されていたが、アクリルゴムでは耐熱性が十分でないためにフッ素ゴムを使用するケースが増えてきている。
従来使用されているフッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンの2元共重合体(VDF−HFP)や、これにテトラフルオロエチレンを加えた3元共重合体(VDF−HFP−TFE)、いわゆるFKMが一般的である。これらのフッ素ゴムはフッ素グリースを組み合わせて使用すると十分な耐久性が得られる。
しかし、フッ素ゴムとウレア系グリースとの組み合わせでは、ウレア化合物によりフッ素ゴムの架橋が進行し硬化するという問題がある。
これに対し、フッ素ゴムとしてフッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−プロピレンの3元共重合体、またはテトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体を採用することにより、ウレア系グリースとの組み合わせにおいて、転がり軸受の耐久性を向上させる方法が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、上記のフッ素ゴムを使用しても、燃料電池システム用転がり軸受に要求されている高温・高速条件下においては、フッ素ゴムの経時劣化を抑えることが困難であるという問題がある。
シール部材に用いられているゴム弾性体が硬化するとシール性が悪化するため、グリースの漏洩が発生し、軸受寿命が短くなる問題を生ずる。また、シール面での接触圧力が高くなり、軸受の回転トルクが大きくなったり、それにより摩擦発熱し、グリースの劣化がいっそう進むことになる。
【特許文献1】特開2003−239997号公報
【特許文献2】特開2001−65578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたもので、ウレア化合物を含有するグリースを封入した軸受において、燃料電池システムでの使用において要求される高速・高温条件下でもシール部材である密封板の弾性体の劣化が小さく、良好な密封性を長く維持し、信頼性、防錆性および耐久性に優れた燃料電池システム用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の燃料電池システム用転がり軸受は、燃料電池システムに用いられる流体を圧送するための圧送機に設けられる回転部位を回転自在に支持する燃料電池システム用転がり軸受であって、
上記転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを備え、上記転動体の周囲に封入されるウレア化合物を含有するグリースと、上記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられ、上記グリースを封止するシール部材とを備えてなり、
上記シール部材は、少なくとも上記グリースに接触するゴム成形体を有し、該ゴム成形体がテトラフルオロエチレンと、プロピレンと、水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭素数 2〜4 の不飽和炭化水素からなる架橋用単量体とを含む加硫可能なフッ素ゴム組成物の成形体であることを特徴とする。
上記架橋用単量体がトリフルオロエチレン、3,3,3−トリフルオロプロペン−1、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロピレン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンから選ばれた少なくとも一つの単量体であることを特徴とする。
上記フッ素ゴム組成物がフッ化ビニリデンを含むことを特徴とする。
上記ウレア化合物を含有するグリースがフッ素グリースとウレアグリースとの混合グリースであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の燃料電池システム用転がり軸受は、テトラフルオロエチレンと、プロピレンと、水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭素数 2〜4 の不飽和炭化水素からなる架橋用単量体とを含む加硫可能なフッ素ゴム組成物の成形体によりシール部材を形成するので、ウレア化合物を含有するグリースに浸漬されても物性劣化が少なく、またグリースの漏洩を効果的に防止することができる。
このため、該燃料電池システム用転がり軸受を圧送機用転がり軸受として用いる場合において、その使用条件が 180℃以上の高温で、回転数 10000 rpm 以上の高速回転であっても該軸受の耐久性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の燃料電池システム用転がり軸受の一例を図1に示す。図1はグリースが封入された深溝玉軸受の断面図である。
深溝玉軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この複数個の転動体4を保持する保持器5および外輪3等に固定されるシール部材6が内輪2および外輪3の軸方向両端開口8(8a、8b)にそれぞれ設けられている。少なくとも転動体4の周囲にグリース7が封入される。
なお、転がり軸受としては、コンパクト化が可能、角振れ(角すきま)が小さい、軸受の組立て作業性が良いことなどから、密封形複列アンギュラ玉軸受を使用することもできる。
【0010】
本発明の燃料電池システム用転がり軸受が用いられる圧送機の一例を図3に示す。図3は燃料電池車に使用されるインペラ型圧送機の断面図である。図3において、点線で示す矢印は気体の流れる方向を表わす。図3に示すように、インペラ型圧送機は、インペラ9が固定された回転軸10を、軸方向に間隔をおいて配置した複数個の転がり軸受1によりケーシング11に支承して構成されている。モータなどの動力を受けて回転する回転軸10が高速回転するとインペラ9も高速回転し、気体吸込み口12から吸込まれた気体がインペラ9の遠心力によって加圧され、ケーシング11とバックプレート13とで形成された加圧ボリュート14を経て気体吐出口15から圧送される。
加圧ボリュート14から転がり軸受1へ気体が漏洩しないように、バックプレート13と回転軸10とは、その間に配設されたシールリング17によって、シールされている。しかし、このインペラ型圧送機では、回転軸10の高速回転に伴ってシールリング17のシール性が低下してくると、気体は、インペラ9の背面の背面空間16から回転軸10とシールリング17との間隙18を通って転がり軸受1に達してしまう。これを防ぐために、メカニカルシール19が配設されている。メカニカルシール19のシール性については、メカニカルシール19と回転軸10との摺動面は気体中に含まれる水蒸気による水潤滑状態であるので、このままだと水蒸気等が漏れて軸受1側に浸入してしまい、水蒸気等が軸受1内部に浸入して軸受1が劣化してしまうおそれがある。
このため本発明の燃料電池システム用転がり軸受においては、インペラ9側からの水蒸気の浸入を防止すると共に、軸受1内部に封入したグリース7(図1参照)の漏洩を防止する目的で、軸受1に耐水素脆性を有するシール部材6(図1、図2参照)が設けられている。
【0011】
シール部材6はゴム成形体単独でもよく、あるいはゴム成形体と金属板、プラスチック板、セラミック板等との複合体であってもよい。耐久性、固着の容易さからゴム成形体と金属板との複合体が好ましい。
ゴム成形体と金属板との複合体からなるシール部材6の一例を図2に示す。シール部材6は鋼板などの金属板6aにフッ素ゴム成形体6bを固着して得られる。固着方法としては、機械的固着、化学的固着のいずれの方法であってもよい。好ましい固着方法としては、フッ素ゴム成形体を加硫時に、加硫型内に金属板を配置し、成形および加硫を同時に行ない固着する方法が挙げられる。
【0012】
シール部材6の装着方法としては、(1)シール部材6の一端6cを外輪3に固定し、他端6dは内輪2のシール面のV溝に沿ってラビリンス隙間を形成する、(2)シール部材6の一端6cを外輪3に固定し、他端6dは内輪2のシール面のV溝側面に接触させる、(3)シール部材6の一端6cを外輪3に固定し、他端6dは内輪2のシール面のV溝側面に接触させるが、接触するリップ部に吸着防止のスリットなどを設けて低トルク構造とするなどがある。
上記いずれの装着方法においても、封入グリース7がシール部材6を構成するゴム成形体6bと接触する。ゴム成形体6bは少なくとも封入グリース7と接触する部分が後述するフッ素ゴム成形体で形成される。例えばゴム成形体6bを後述する単体のフッ素ゴム成形体としてもよく、グリース7と接触する部分に上述したフッ素ゴム成形体を背面に従来のゴム成形体を積層した積層体としてもよい。
【0013】
本発明で使用できるフッ素ゴム組成物は、テトラフルオロエチレンと、プロピレンと、水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭素数 2〜4 の不飽和炭化水素からなる架橋用単量体とを含む共重合体からなる加硫可能なフッ素ゴム組成物である。
水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭素数 2〜4 の不飽和炭化水素からなる架橋用単量体としては、トリフルオロエチレン、3,3,3−トリフルオロプロペン−1、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,1,3,3,3−ぺンタフルオロプロピレン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンが挙げられる。好ましい架橋用単量体は3,3,3−トリフルオロプロペン−1である。
【0014】
本発明で使用できる共重合体に第4成分として、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロ(アルキルビニル)エーテル、パーフルオロ(アルコキシビニル)エーテル、ペルフルオロ(アルコキシアルキルビニル)エーテル、パーフルオロアルキルアルケニルエーテル、パーフルオロアルコキシアルケニルエーテル等を配合できる。
【0015】
フッ素ゴム組成物を構成する成分は、フッ素ゴム全体に対して、テトラフルオロエチレンが 45〜80 重量%、好ましくは 50〜78 重量%、より好ましくは 65〜78 重量%であり、プロピレンが 10〜40 重量%、好ましくは 12〜30 重量%、より好ましくは 15〜25 重量%であり、架橋用単量体が 0.1〜15 重量%、好ましくは 2〜10 重量%、より好ましくは 3〜6 重量%である。
また、フッ化ビニリデンを共重合させる場合は、フッ化ビニリデンが 2〜20 重量%、好ましくは 10〜20 重量%である。20 重量%をこえるとウレア化合物ヘの耐性が低下する。
【0016】
このフッ素ゴムの製造方法は、例えば国際公開番号WO02/092683号公報に開示されており、乳化重合法または懸濁重合法によって製造される。
これらのフッ素ゴムを加硫可能とするため、ポリヒドロキシ(ポリオール)加硫剤、第4アンモニウム塩、第4ホスホニウム塩、第3スルホニウム塩などから選ばれる加硫促進剤、水酸化カルシウムや酸化マグネシウム等の受酸剤、カーボンブラック、クレー、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、珪酸マグネシウムなどの充填剤、オクタデシルアミン、ワックスなどの加工助剤、熱老化防止剤、顔料などが配合できる。例えば、それぞれの配合量は、フッ素ゴムを 100 重量部として、加硫剤が 0.1〜20 重量部、好ましくは 0.5〜3 重量部、加硫促進剤が 0.1〜20 重量部、好ましくは 0.5〜3 重量部、受酸剤が 1〜30 重量部、好ましくは 1〜7 重量部、充填剤が 5〜100 重量部、加工助剤が 0.1〜20 重量部である。
【0017】
また、これらに追加して有機パーオキサイド化合物などの第2の加硫剤を 0.7〜7 重量部、好ましくは 1〜3 重量部添加して使用することもできる。さらに、ウレア化合物への耐性やシール性を損なわない範囲で、一般のゴム組成物に配合されるような充填剤、添加剤を適宜使用することができる。
これらの組成物を混合、または成形する方法は一般のゴム加工に用いるプロセスを採用することができ、オープンロール、バンバリーミキサー、ニーダ、各種密封式ミキサーなどにより混練した後、プレス成形(プレス加硫)、押し出し成形、射出成形などに供すればよい。また、特性を向上させるため、成形後には2次加硫を行なうことが好ましく、これはオーブン中で十分加熱(例えば 200℃、24 時間)することにより行なう。
【0018】
上記転がり軸受には、ウレア化合物を含有するウレア系グリースが封入される。
ウレア系グリースの基油には、パラフィン系鉱油やナフテン系鉱油等の鉱油類、ポリ−α−オレフィン(以下、PAOという)油などの合成炭化水素油類、ジアルキルジフェニルエーテル油、アルキルトリフェニルエーテル油、アルキルテトラフェニルエーテル油等のエーテル油類、ジエステル油、ポリオールエステル油またはこれらの、コンプレックスエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油等のエステル油類等を単独で、あるいは相互に混合して使用できる。
これらの中で、高温、高速での潤滑性能並びに潤滑寿命を考慮すると、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、PAO油等が好ましい。
【0019】
増ちょう剤として配合されるウレア化合物は分子中にウレア結合(−NHCONH−)を含むものでありジウレア、トリウレア、テトラウレア、ウレアウレタン等が挙げられる。好ましいウレア化合物はウレア結合を分子内に 2 個有するジウレアであり、以下の化1で示される。
【化1】

ここで、R1 およびR3 は、1 価の脂肪族基、脂環族基または芳香族基をそれぞれ表す。特に、R1 およびR3 が脂肪族基である脂肪族ジウレアを増ちょう剤とするウレア系グリースがフッ素グリースとの混合には容易に混合するので好ましい。
また、R2 は炭素数 6〜15 の 2 価の芳香族炭化水素基であり、具体的には以下の化2で示される。
【化2】

なお、ウレア化合物の製造方法の一例としては、ジイソシアナート化合物にイソシアナート基当量のアミン化合物を反応させて得られる。
【0020】
ウレア系グリースは、該グリース全体量に対して、基油を 95〜70 重量%、ウレア化合物を 5〜30 重量%配合することが好ましい。この範囲の配合とすることにより、軸受封入グリースとしてグリース漏れが少なく、長時間潤滑性の良好なちょう度に調整できる。
【0021】
また、使用温度条件が厳しい場合には、上記のウレア化合物を増ちょう剤とするグリースにフッ素グリースを配合して用いることができる。
フッ素グリースは、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEという)を増ちょう剤とし、パーフルオロポリエーテル(以下、PFPEという)を基油としたものが好ましい例である。
フッ素グリースは、該グリース全体量に対して、PFPEを 50〜90 重量%、フッ素樹脂粒子を 50〜10 重量%配合することが好ましい。この範囲の配合とすることにより、軸受封入グリースとして洩れが少なく、長時間トルクを下げられる好ましいちょう度に調整できる。
【0022】
ウレアグリースとフッ素グリースとの混合グリースにおける混合比(重量比)は、ウレア系グリース:フッ素グリースが 30:70〜75:25 の範囲が好ましい。フッ素グリースと組み合わせる場合の、ウレア系グリースのもっとも好ましい成分は、増ちょう剤が脂肪族ジウレア、基油がエステル油、フッ素グリースは増ちょう剤がPTFE、基油がPFPEのものである。
【実施例】
【0023】
本発明の燃料電池システム用転がり軸受の実施例、比較例および該軸受のシール部材例の作製において用いたウレア系グリースおよび混合グリースを以下に示す。
(1)ウレア系グリース1
クリューバ社製:アソニックHQ72−102(増ちょう剤:脂肪族ジウレア、基油:芳香族ポリエステル油、40℃における動粘度 100 mm2/s )
(2)ウレア系グリース2
PAO油(新日鉄化学社製商品名、シンフルード601)とアルキルジフェニルエーテル油(松村石油社製商品名、LB100)の混成油からなる基油を 20:80 重量%の配合割合で調製した。この基油を2液に分割し、その半量に4、4'−ジフェニルメタンジイソシアナートを溶解し、残りの半量の基油に4、4'−ジフェニルメタンジイソシアナートの2倍当量となるp−トルイジンを溶解した。なお、芳香族ジウレア化合物としてグリース全量の 20 重量%となるように4、4'−ジフェニルメタンジイソシアナートを溶解した。該溶液を攪拌しながらp−トルイジン溶液を加えた後、100〜120℃で 30 分間攪拌を続けて反応させて芳香族ジウレア化合物を基油に析出させた。これに、グリース全量 100 重量部に対して、ソルビタントリオレエート 1 重量部、セバシン酸ナトリウム 1 重量部および酸化防止剤であるアルキルジフェニルアミン 2 重量部を加えてさらに 100〜120℃で 10 分間攪拌した。その後冷却し三本ロールで均質化しグリースを得た。
(3)混合グリース
グリース全体に対して、パーフルオロポリエーテル油(デュポン社製商品名、クライトックス143AC) 67 重量%に、フッ素樹脂粉(デュポン社製商品名、バイダックス) 33 重量%を加え撹拌した後、ロールミルに通し、「増ちょう剤にPTFE粉、基油にPFPEを用いたグリース」である半固形状のフッ素グリースを得た。
次にグリース全体に対して、芳香族エステル油(旭電化工業社製商品名、プルーバーT90) 88 重量%の半量に 1 モルのジイソシアネートを溶かし、残りの半量に 2 モルのモノアミンを溶かして上記半量の基油に撹拌しながら加えた後、100〜120 ℃で 30 分間撹拌を続けて反応させ、ウレア化合物(化1において、R1 およびR3 が脂肪族基、R2 がジフェニルメタン基である脂肪族ジウレア) 12 重量%を基油に析出した。その後、ロールミルに通し「増ちょう剤にウレア化合物、基油に合成油を用いたグリース」である半固形状のウレア系グリースを得た。
上記フッ素グリースを 40 重量%、ウレア系グリースを 59 重量%、鉱油をベースにしたアミン系防錆添加剤を 1 重量%混合撹袢し、フッ素グリースとウレア系グリースの混合グリースを得た。
【0024】
各シール部材例および実施例、比較例に用いたゴム組成物を以下に示す。
表1に示す配合組成でロール温度 50℃にてオープンロールを用いて混練することにより、未加硫ゴム組成物を得た。表1に用いた各材料を以下に示す。
(1)フッ素ゴム1:デュポン・ダウ・エラストマー社製;VTR8802(加硫剤配合済)
(2)フッ素ゴム2:旭硝子社製;アフラス150
(3)フッ素ゴム3:デュポン・ダウ・エラストマー社製;A32J
(4)アクリルゴム:日本ゼオン社製;AR71
(5)酸化マグネシウム:協和化学工業社製;キョウワマグ150
(6)水酸化カルシウム:近江化学工業社製;カルビット
(7)カーボン1:エンジニアード社製;N990
(8)共架橋剤:日本化成社製;TAIC
(9)加硫剤:化薬アクゾ社製;パーカドックス14
(10)カーボン2:東海カーボン社製;シースト3
(11)硫黄:鶴見化学工業社製;サルファックスPMC
(12)老化防止剤:大内新興化学社製;ノクラックCD
(13)ステアリン酸ナトリウム:花王社製;NSソープ
(14)ステアリン酸カリウム:日本油脂社製;ノンサールSK−1
フッ素ゴム1は、テトラフルオロエチレンと、プロピレンと、水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭素数 2〜4 の不飽和炭化水素からなる架橋用単量体とを含む共重合体からなる加硫可能なフッ素ゴムであり、フッ素ゴム2はテトラフルオロエチレン−プロピレン系のゴムであり、フッ素ゴム3はフッ化ビニリデンゴムである。
【表1】

【0025】
シール部材例1〜シール部材例5、比較シール部材例1〜比較シール部材例9
上記未加硫ゴム組成物を用いて加硫プレス機にて加硫成形物を得た。金型実温度は 170℃、加硫時間は1次加硫として 170℃で 12 分間で加硫した。次いで恒温槽内で2次加硫を行なった。2次加硫条件は、配合例1〜配合例3が 200℃で 24 時間、配合例4が 170 ℃で 4 時間である。
得られた加硫成形物をJIS K 6251 3号試験片の形状に打ち抜き試験片を作製した。試験片を上記ウレア系グリース1、ウレア系グリース2および上記混合グリースに( 170 ℃または 200 ℃)×1000 時間の条件で埋め込み浸漬して、浸漬前後の物性値を測定した。測定した物性値は硬度、引張り強度、引張り伸び、体積を測定し、浸漬前の物性値に対する硬度変化、引張り強度変化率、引張り伸び変化率、体積変化率をそれぞれ評価した。測定条件は硬度をJIS K 6253に、引張り強度および引張り伸びをJIS K 6251に、浸漬前後の体積をJIS K 6258に、それぞれ準じた。結果を表2〜表4に示す。なお、表3および表4において*印は測定不能を表す。
【表2】

【表3】

【表4】

シール部材例1〜シール部材例5は、高温条件下、長時間の浸漬でも劣化が軽微であり、ウレア系グリースおよび混合グリースに対して優れた耐性を有していた。
【0026】
実施例1
配合例1の未加硫ゴム組成物を鉄板製心金に成形し、6204軸受(内径:20 mm、外径:47 mm、幅:14 mm )用の非接触型ゴムシール(図2)を得た。これを石油ベンジンでよく洗浄した軸受に組み込むとともに、軸受内部に全空間容積の 38%の混合グリースを封入して試験用の燃料電池システム用転がり軸受を作製した。得られた転がり軸受を高温耐久試験1にて評価した。結果を表5に示す。
高温耐久試験1:
高温耐久試験1は、ラジアル荷重 67 N 、スラスト荷重 67 N 、回転数 10000 rpm 、雰囲気温度 220℃にて軸受を回転させ、過負荷によりモータが停止するまでの時間を測定した。なお、試験時間は 1000 時間を上限とした。
【0027】
実施例2
実施例1と同じ非接触型ゴムシールを、石油ベンジンでよく洗浄した軸受に組み込むとともに、軸受内部に全空間容積の 38%のウレア系グリース2を封入して試験用の燃料電池システム用転がり軸受を作製した。得られた転がり軸受を高温耐久試験2にて評価した。結果を表5に示す。
高温耐久試験2:
高温耐久試験2は、ラジアル荷重 67 N 、スラスト荷重 67 N 、回転数 10000 rpm 、雰囲気温度 180 ℃にて軸受を回転させ、過負荷によりモータが停止するまでの時間を測定した。なお、試験時間は 500 時間を上限とした。
【0028】
比較例1および比較例2
配合例2および配合例3を使用して、実施例1と同じように比較例1および比較例2の試験用の燃料電池システム用転がり軸受を作製した。実施例1と同様の高温耐久試験1を実施し、結果を表5に示す。
【0029】
比較例3および比較例4
配合例2および配合例3を使用して、実施例2と同じように比較例3および比較例4の試験用の燃料電池システム用転がり軸受を作製した。実施例2と同様の高温耐久試験2を実施し、結果を表5に示す。
【表5】

実施例1および実施例2では 500 時間以上の運転が可能であり、試験後のシールも目視でクラックはみられなかった。
一方、比較例1および比較例2は実施例1に比べて、比較例3および比較例4は実施例2に比べて短時間で焼きつきが生じた。運転中のグリースの漏洩が短寿命の主な原因と思われる。なお、比較例2および比較例4の試験後のシールの接触部には多数のクラックがみられた。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の転がり軸受は、優れた耐ウレア系グリース性を有するので、高速・高温下で使用される燃料電池システム用、特に各種流体を圧送する圧送機用転がり軸受として好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の転がり軸受の断面図である。
【図2】転がり軸受のシール部材の断面図である。
【図3】インペラ型圧送機の断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 深溝玉軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース
8 開口部
9 インペラ
10 回転軸
11 ケーシング
12 気体吸込み口
13 バックプレート
14 加圧ボリュート
15 気体吐出口
16 背面空間
17 シールリング
18 間隙
19 メカニカルシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムに用いられる流体を圧送するための圧送機に設けられる回転部位を回転自在に支持する燃料電池システム用転がり軸受であって、
前記転がり軸受は、内輪および外輪と、この内輪および外輪間に介在する複数の転動体とを備え、前記転動体の周囲に封入されるウレア化合物を含有するグリースと、前記内輪および外輪の軸方向両端開口部に設けられ、前記グリースを封止するシール部材とを備えてなり、
前記シール部材は、少なくとも前記グリースに接触するゴム成形体を有し、該ゴム成形体がテトラフルオロエチレンと、プロピレンと、水素原子の一部がフッ素原子で置換された炭素数 2〜4 の不飽和炭化水素からなる架橋用単量体とを含む加硫可能なフッ素ゴム組成物の成形体であることを特徴とする燃料電池システム用転がり軸受。
【請求項2】
前記架橋用単量体がトリフルオロエチレン、3,3,3−トリフルオロプロペン−1、1,2,3,3,3−ペンタフルオロプロペン、1,1,3,3,3−ペンタフルオロプロピレン、2,3,3,3−テトラフルオロプロペンから選ばれた少なくとも一つの単量体であることを特徴とする請求項1記載の燃料電池システム用転がり軸受。
【請求項3】
前記フッ素ゴム組成物がフッ化ビニリデンを含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の燃料電池システム用転がり軸受。
【請求項4】
前記ウレア化合物を含有するグリースがフッ素グリースとウレアグリースとの混合グリースであることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項記載の燃料電池システム用転がり軸受。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−258288(P2006−258288A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13097(P2006−13097)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】