説明

燃料電池車両の吸気装置

【課題】燃料電池車両の吸気装置について、空気取り入れ量の調整を容易にするとともに車両の前面衝突時に燃料電池を保護できる構造にする。
【解決手段】吸気ダクト19によって反応用ガスとしての空気を燃料電池ケース9に収納された燃料電池8に供給する燃料電池車両の吸気装置において、吸気ダクト19は、上下一対の上壁および底壁と、左右一対の側壁とを備え、上壁を燃料電池ケース9の前面から車両前方へ遠ざかるにつれて下方へ湾曲させ、上壁の下端部と底壁の前端部との間に車両下方に開口する空気取入口27を形成したことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は燃料電池車両の吸気装置に係り、特に、燃料電池の吸気取入量の安定と水や雪等の侵入防止を図った燃料電池車両の吸気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池車両においては、複数の燃料電池セルを積層した燃料電池スタックからなる燃料電池を駆動用エネルギ源として搭載している。水素との反応用ガスとして空気を効率良く取り入れて燃料電池に供給する燃料電池車両の吸気装置としては、燃料電池を収納した燃料電池ケースを車両前部に配置し、燃料電池の空気取入面を車両の前方に向けるとともに燃料電池ケースの前面部に吸気ダクトを取り付け、吸気ダクトに吸入した空気を反応用ガスとして燃料電池に供給するものがある。
従来の燃料電池車両の吸気装置としては、特開2009−37991号に示すように、外気を取り込む吸気ダクトの空気取入口を車両の前方に向け、吸気ダクトに取り入れた空気を反応用ガスとして燃料電池に供給するものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−37991号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前記特許文献1に記載の吸気装置は、空気取入口が車両の前方を向いているため、走行中に雨水や雪などが吸気ダクト内に浸入しやすい問題がある。また、前記特許文献1に記載の吸気装置は、走行風が車両の前方を向いている空気取入口に入りやすいため、空気取り込み量が走行速度の影響で変化する問題がある。そのため、前記特許文献1に記載の吸気装置は、空気取り込み用の送風機を設け、この送風機を制御して空気取り込み量を調整しているため、構造が複雑になっている。
さらに、前記特許文献1に記載の吸気装置は、吸気ダクトを燃料電池から直線的に車両の前方に延長し、延長前端の空気取入口を車両の前端に開口させた構造となっている。そのため、前記特許文献1に記載の吸気装置は、吸気ダクトが車両前後方向に変形し難い形状であって、車両前面からの力を受け易い形状となっているため、車両の前面衝突時に、衝撃力が吸気ダクトを介して燃料電池に直接的に作用する問題がある。
【0005】
この発明は、吸気ダクトによって反応用ガスとしての空気を燃料電池に供給する燃料電池車両の吸気装置について、空気取り入れ量の調整を容易にするとともに車両の前面衝突時に燃料電池を保護できる構造にすることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は、燃料電池を収納した燃料電池ケースを車両の前部に配置し、前記燃料電池の空気取入面を車両前方に向けるとともに前記燃料電池ケースの前面部に吸気ダクトを取り付け、前記吸気ダクトに吸入した空気を反応用ガスとして前記燃料電池に供給する燃料電池車両の吸気装置において、前記吸気ダクトは、上下一対の上壁および底壁と、左右一対の側壁とを備え、前記上壁を前記燃料電池ケースの前面から車両前方へ遠ざかるにつれて下方へ湾曲させ、前記上壁の下端部と前記底壁の前端部との間に車両下方に開口する空気取入口を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明の燃料電池車両の吸気装置は、吸気ダクトの空気取入口を車両下向きに開口させる構造としたため、吸気ダクトヘの空気吸入量が車両の走行速度によって変化することがなく、空気取り入れ量の調整を容易にすることができる。
また、この発明の燃料電池車両の吸気装置は、車両前方から吸気ダクト側に流れてくる水や雪が吸気ダクト内に侵入することを防止できる。
さらに、この発明の燃料電池車両の吸気装置は、空気取入口を車両前後方向に変形し易い形状にするとともに吸気ダクトの前端部に配置したため、車両前方からの衝撃力で吸気ダクトが潰れ易くなる。このため、前面衝突時の衝撃吸収性を高め、燃料電池を保護することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は燃料電池車両の前部の右側面図である。(実施例)
【図2】図2は燃料電池車両の吸気装置の右側面図である。(実施例)
【図3】図3は燃料電池車両の吸気装置の右前上方からの斜視図である。(実施例)
【図4】図4は燃料電池車両の吸気装置の右前下方からの斜視図である。(実施例)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0010】
図1〜図4は、この発明の実施例を示すものである。図1において、1は燃料電池車両、2はフロントバンパ、3はフロントグリルの開口部、4はフロントフード、5はフロントフード4の排気開口部、6は排気開口部5のカバー、7はフロントルームである。燃料電池車両1は、車両前部のフロントルーム7に燃料電池8を収納した燃料電池ケース9を配置している。燃料電池ケース9は、図3・図4に示すように、前面部10と後面部11と左右の側面部12・13と上面部14と下面部15とによって、前後方向に薄く、左右方向よりも上下方向に長い略四角箱形状に形成されている。燃料電池8は、複数の燃料電池セルを積層して燃料電池スタックを構成している。燃料電池8は、図2に示すように、空気取入面16を車両前方に向けるとともに空気排出面17を車両後方に向け、燃料電池ケース9内に設置している。
この燃料電池車両1の吸気装置18は、図1・図2に示すように、燃料電池ケース9の前面部10に吸気ダクト19を取り付けている。吸気装置18は、吸気ダクト19に吸入した空気を反応用ガスとして燃料電池8の空気取入面16側に供給する。また、燃料電池ケース9は、後面部11に燃料電池8の空気排出面17に対向するよう排気用ファン20を取り付け、排気用ファン20を覆って上下方向に延びる排気ダクト21を取り付けている。排気ダクト21は、上端に前記フロントフード4の排気開口部5に向かって開口する排気口22を備えている。燃料電池8からの排気は、排気ダクト21によりフロントフード4の排気開口部5からフロントルーム7外部に導かれ、フロントフード4のカバー6により車両後方に向けて排出される。
【0011】
燃料電池車両1の吸気装置18は、図2に示すように、燃料電池8を燃料電池ケース9内に車両上下方向に複数個、実施例では2個重ねて設置し、燃料電池ケース9の前面部10に吸気ダクト19を車両上下方向に複数個、実施例では2個重ねて取り付けている。吸気ダクト19は、図3・図4に示すように、上下一対の上壁23および底壁24と、左右一対の側壁25・26とを備えている。吸気ダクト19は、上壁23を燃料電池ケース9の前面部10から車両前方へ遠ざかるにつれて下方へ湾曲させ、上壁23の下端部と底壁24の前端部との間に車両下方に開口する空気取入口27を形成している。吸気装置18は、吸気ダクト19の空気取入口27から取り入れた空気を、燃料電池ケース9の前面部10の前面開口部28から燃料電池8の空気取入面16側に供給する。
この燃料電池車両1の吸気装置18は、吸気ダクト19の空気取入口27を車両下向きに開口させる構造としたため、吸気ダクト19ヘの空気吸入量が車両の走行速度によって変化することがなく、空気取り入れ量の調整を容易にすることができる。
また、この燃料電池車両1の吸気装置18は、車両前方から吸気ダクト19側に流れてくる水や雪が車両下向きに開口する空気取入口27に入り難いので、水や雪が吸気ダクト19内に侵入することを防止できる。
さらに、この燃料電池車両1の吸気装置18は、空気取入口27を車両前後方向に変形し易い形状にするとともに吸気ダクト19の前端部に配置したため、車両前方からの衝撃力で吸気ダクト19が潰れ易くなる。このため、吸気装置18は、前面衝突時の衝撃吸収性を高め、燃料電池8を保護することができる。
【0012】
燃料電池車両1の吸気装置18は、図1・図2示すように、燃料電池ケース9の前面部10に吸気ダクト19を車両上下方向に2個重ねて配置している。
これによって、吸気装置18は、車両上下方向に2個重ねて配置した燃料電池8の空気取入面16に空気を均一に供給することができる。また、吸気装置18は、車両前方から吸気ダクト19側へ流れる空気を車両上下方向で下側に配置される吸気ダクト19の上壁23に沿って上昇させ、この吸気ダクト19の上方に配置される上側の吸気ダクト19の空気取入口27へ導くことができる。このため、吸気装置18は、上下2つの吸気ダクト19に流入する空気量を均一化することができる。
さらに、燃料電池車両1の吸気装置18は、吸気ダクト19を2個に分割したことで、吸気ダクト19の車両前後方向の長さを短縮でき、吸気ダクト19前方の衝撃吸収空間Sを拡大することができる。このため、吸気装置18は、前面衝突時の衝撃吸収性を高め、燃料電池8を保護することができる。
【0013】
燃料電池車両1の吸気装置18は、図1・図2に示すように、底壁24の前端部に車両上方へ延びる仕切板29を連結している。仕切板29は、車両幅方向両端を左右一対の側壁25・26に連結し、上端を上壁23から下方に離間させて配置している。
これにより、吸気装置18は、空気取入口27に斜め前方下側から侵入する水を仕切板29に当てて落下させ、水が燃料電池ケース9内に侵入することを防止できる。
【0014】
燃料電池車両1の吸気装置18は、図3・図4に示すように、2個の吸気ダクト19を放熱器30の車両幅方向側方の空間に上下に重ねて配置し、2個の吸気ダクト19の車両幅方向で前記放熱器30側に位置する上下の側壁26同士を隔壁31によって連結している。
これにより、吸気装置18は、隔壁31によって、放熱器30を通過した熱風が空気取入口27側に回り込むことを阻止し、空気取入口27から熱風が吸気ダクト19内に侵入することを防止できる。
【産業上の利用可能性】
【0015】
この発明は、燃料電池車両の燃料電池への空気取り入れ量の調整を容易にするとともに車両の前面衝突時に燃料電池を保護できる構造であり、燃料電池車両に限らず、内燃機関を搭載した車両の前面から吸気する冷却用吸気ダクトを備えた装置に応用することができる。
【符号の説明】
【0016】
1 燃料電池車両
7 フロントルーム
8 燃料電池
9 燃料電池ケース
10 前面部
16 空気取入面
18 吸気装置
19 吸気ダクト
20 排気用ファン
21 排気ダクト
23 上壁
24 底壁
25・26 側壁
27 空気取入口
28 前面開口部
29 仕切板
30 放熱器
31 隔壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池を収納した燃料電池ケースを車両の前部に配置し、
前記燃料電池の空気取入面を車両前方に向けるとともに前記燃料電池ケースの前面部に吸気ダクトを取り付け、
前記吸気ダクトに吸入した空気を反応用ガスとして前記燃料電池に供給する燃料電池車両の吸気装置において、
前記吸気ダクトは、上下一対の上壁および底壁と、左右一対の側壁とを備え、
前記上壁を前記燃料電池ケースの前面から車両前方へ遠ざかるにつれて下方へ湾曲させ、
前記上壁の下端部と前記底壁の前端部との間に車両下方に開口する空気取入口を形成したことを特徴とする燃料電池車両の吸気装置。
【請求項2】
前記燃料電池ケースの前面部に前記吸気ダクトを車両上下方向に複数個重ねて配置したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両の吸気装置。
【請求項3】
前記底壁の前端部に車両上方へ延びる仕切板を連結したことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池車両の吸気装置。
【請求項4】
前記複数個の吸気ダクトを放熱器の車両幅方向側方の空間に上下に重ねて配置し、
前記複数個の吸気ダクトの車両幅方向で前記放熱器側に位置する側壁同士を隔壁によって連結したことを特徴とする請求項2に記載の燃料電池車両の吸気装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−183902(P2012−183902A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47887(P2011−47887)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】