説明

狭い表面弾性波特性分布のニオブ酸リチウムウェハ

ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を成長させる方法を提供する。1又はそれ以上の結晶試料の組成を測定する。結晶組成の一致状態からの偏差を求める。初期溶融物組成及び原料物質組成の偏差に対する補正を決定する。この組成の補正を使用して結晶を成長させ、表面弾性基板製造のための再現性のある材料を生み出す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に結晶を作製する方法に関し、より詳細には、表面弾性波デバイス(「SAW」)の高度な再現性能を実現する結晶の成長及び規格に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、ニオブ酸リチウム(LN)の供給者は、LNを光学用途のためのものと表面弾性波(SAW)用途のためのものとで区別している。通常、光学用途に使用する結晶には、より良好な均一性及びより低い光学的損失が必要であるため、通常、光学的LN結晶には、より高純度の出発原料、より短い結晶長、成長実行ごとに結晶体積に対する溶融物体積の固化率がより低い、及びより厳しい成長したままの(アズグロウン)結晶の検査が用いられる。この光学材料の低い効率により、完成した光学ウェハの方がSAWウェハと比較した場合コストが高くなる。
【0003】
LN基板から製造されるSAWフィルタは、例えばTV受信機及び移動体通信基地局などの多くの用途で利用される。一般に、このようなフィルタの目的は、通過帯域の信号周波数を通過させ、阻止帯域の信号周波数を著しく減衰させることである。高性能フィルタは、ある周波数を通過帯域周波数に比べて−65dB未満にまで減衰させるという要件を有することが多い。
【0004】
基板のSAW速度の変化はフィルタの周波数応答を変化させるので、フィルタの製造量に影響が生じる。従って、SAWウェハの顧客は、ウェハ内のみならず、ウェハからウェハへの及び異なる結晶から切り取ったウェハからの長時間にわたる良好な速度均一性も求める。一方で、SAW基板は、電子機器の価格の低下という消費者の期待に対処するために、非常にコスト効率が良いことを必要とする。このため、LN結晶を溶融物から成長させる結晶生産者にとっては、最大量の溶融物を有用な結晶材料に変換させると同時に、SAW速度を狭い範囲内で制御することが必要となる。LNのSAW速度の変化における主な要因は、組成の一致状態からの偏差であることが示されている(K.Yamada,H.Tekemura、Y.Inoue、T.Omi及びS.Matsumuraによる、「128°Χ−Y LiNbO3ウェハのSAW速度におけるLi/Nb比の効果」、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス 26−2(付録 26−2)、219〜222頁(1987年))。一般に使用されるLN128°ウェハの場合、組成変異に起因するSAW速度の中心値からの偏差は、酸化リチウムでモル%当たり10900ppmである。その他の配向のニオブ酸リチウム、又は一致状態に近い溶融物から成長できる結晶も、組成変異に伴うSAW速度の変化を示すと思われる。
【0005】
一致組成から均一な結晶を成長させて、溶融物の組成と同じ組成の結晶を作製することができる。LN成長に関する初期研究により、一致組成はχc=[Li]/([Li]+[Nb])=48.6%であると決められた(J.R.Carruther、G.E.Peterson、M.Grasso、及びP.M.Bridenbaughによる、「ニオブ酸リチウムの不定比性及び結晶成長」、J.Appl.Phys.第42巻、1846〜1851頁(1971年))。この値は、その後まずAbrahamsによって48.45%に、そして最終的にBorduiによって48.38%に精密化された(S.C.Abrahams及びP.Marshによる、「ニオブ酸リチウム中の組成に対する欠陥構造依存」、Acta Crystallogr.,Sect.B:Struct.Sci.第42巻,61頁(1986年)、及びP.F.Bordui,R.G.Norwood、及びJ.L.Nightingaleによる、「均一なニオブ酸リチウム結晶の成長のための組成」、米国特許第5,310,448号(1994年))。
【0006】
LN基板のユーザは、ウェハ間の変動性が小幅内に含まれることを好むと思われる。結晶組成を特定するための認められている方法の1つは、Bordui他によって記載されるように(P.F.Bordui、R.G.Norwood、D.H.Jundt、M.M.Fejer、J.Appl.Phys.1992年、第71巻(2)、875〜879頁)、組成とキュリー温度との相関を使用してキュリー温度の範囲を特定することによるものである。光学グレードのLNの場合、大手供給者は、キュリー温度に関する非常に厳しい規格に従っている。例えば、Crystal Tecnology社は、光学ウェハは「0.02モル%の範囲内で一致」し、これはキュリー温度についての±0.7℃の規格許容範囲に等しいと述べている。SAES Getters社(イタリア、ミラノ)もまた、中心値がわずかに異なるものの(Crystal Technology社の1142.3℃に対して1140℃)±0.7℃の規格範囲を提示している。
【0007】
通常、その他の光学的LNの供給者の規格はそれほど厳しくはない。例えば、Isowave社(ニュージャージー州ドーバー)は、0.02モル%の組成均一性(ウェハ内)を挙げているが、ウェハ間の再現性については示していない。吸音材、又はSAWグレードの材料にとっては、ウェハ価格が一番の関心事であり、ウェハ製造者は、高い溶融物の固化率を達成することにより光学的成長と比較してコストを下げる。SAWグレードの材料では、このような値が60%を超えて通常は80%よりも高く(P.F.Bordui他、米国特許第5,310,448号(1994年))、該特許は引用により本明細書に組み込み入れられる。この高い固化率に起因して、組成制御、及びキュリー温度に関する規格を緩和する必要がある。ほとんどの供給者の、SAWウェハのキュリー規格は±2℃〜±3℃の幅を有する(Yamaju Ceramics社:1132±2℃、J&S Crystal Tecnology社:1142±3℃,Crystal Technology社:1142.3±1.9℃)。これらの規格幅を見た場合、これらをどのように解釈すべきかに気付く必要がある。提示される数字の相違は、測定方法又は絶対温度校正の系統的差異が大きいことを示すものではあるが、たとえそうであっても全ての大手供給者が絶対温度を提示しているという事実は、ウェハ間(及び結晶間)の変動性が絶対値範囲内に制御されることを示すものである。
【0008】
規格に追加情報が与えられなければ、この規格は、キュリー範囲が中心値から±3℃以内であると規定する関連するIEC規格(IEC62276、表面弾性波(SAW)デバイス用途のための単一結晶ウェハ−規格及び測定方法の現行規格)に基づいて解釈すべきであり、列挙された欠陥群に関してまとめて2.5%のAQL(合格品質水準)が想定される。厚み規定、研磨品質及び清浄度は、何らかの不良にもつながり得る品質クラスであり、結晶グロアは、キュリー温度がウェハの約1%以内の限界を超えるように組成を制御する必要があるということが予想される。
【0009】
計量手順を制御してLNの出発溶融物を調製することに関する最初の報告がO’Bryanにより行われている(H.M.O’Bryan、P.K.Gallagher、及びC.D.Brandieによる、「LiNbO3の一致組成及びLiに富む界面」、J.Am.Ceram.Soc.第68巻、493〜496頁(1985年))。この著者らは、99.999%の純粋な粉末を500℃で12〜14時間乾燥させ、その後各々を4×10-5の反応LNとの相対精度で計量した。組成の決定は、乾燥粉末が残留水分又はLi2Oが存在しない純粋化合物であるとの前提に基づくものであった。Bordui(P.F.Bordui他による、J.Crystal Growth 第113巻、61〜68頁(1991年))も乾燥を利用して水分を無くし、熱イオン化質量分析を付加的に行ってリチウムの原子量を求めた。
【0010】
その後、計量処方に補正を適用して、±0.01モル%の範囲内の正確であると推定される分量を作製した。米国特許第5,320,448号には、同じ著者らが、粉末試料を取り出す前に空気中で500℃で10分間乾燥し、さらに10分経過したのちにこれを計量する乾燥方法を記載している。炭酸塩で1.0058の及び五酸化物で1.0002の水分補正率が確立された。従って、先行技術は、いくつかの考えられる必要な補正を考慮に入れ、粉末に試験を行って必要な補正を推定する。
【0011】
しかしながら、これらの補正が全ての考えられる汚染物質/又は粉末劣化を考慮したものであるかは不明である。水によっては500℃の温度でより強固に結合し、遊離しない可能性がある。粉末内に有機汚染物質が存在する可能性がある。通常、これらの汚染物質は純度分析では試験されず、99.999%の純度の粉末であっても数十ppmの量で存在し得る。かなりの割合の炭酸リチウムがLiO2及びCO2に分解され、粉末乾燥試験中にこれらの生成物の一方又は両方が揮発する可能性がある。
【0012】
その他の材料には、例えばランガサイト(La3Ga5SiO14)及び同様の化合物のような、一致溶融するものの、揮発を補償するために、最初の成分の1つ(通常はGa23)が過剰となった状態で成長する必要があるものもある。この無視できない揮発により、大きな溶融変換率では均質な結晶が成長しにくくなる。この材料では、大きな非均一性が観察されてきた(S.Uda、A.Bungo、及びC.Jianによる、「3インチランガサイト単一結晶の成長及び表面弾性波フィルタ用基板への応用」、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス、第38巻(第1部、第9B号)、5516頁(1999年))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第5,310,448号公報
【特許文献2】米国特許第5,320,448号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】K.Yamada,H.Tekemura、Y.Inoue、T.Omi及びS.Matsumuraによる、「128°Χ−Y LiNbO3ウェハのSAW速度におけるLi/Nb比の効果」、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス 26−2(付録 26−2)、219〜222頁(1987年)
【非特許文献2】J.R.Carruther、G.E.Peterson、M.Grasso、及びP.M.Bridenbaughによる、「ニオブ酸リチウムの不定比性及び結晶成長」、J.Appl.Phys.第42巻、1846〜1851頁(1971年)
【非特許文献3】S.C.Abrahams及びP.Marshによる、「ニオブ酸リチウム中の組成に対する欠陥構造依存」、Acta Crystallogr.,Sect.B:Struct.Sci.第42巻,61頁(1986年
【非特許文献4】P.F.Bordui、R.G.Norwood、D.H.Jundt、M.M.Fejer、J.Appl.Phys.1992年、第71巻(2)、875〜879頁
【非特許文献5】IEC62276、表面弾性波(SAW)デバイス用途のための単一結晶ウェハ−規格及び測定方法の現行規格
【非特許文献6】H.M.O’Bryan、P.K.Gallagher、及びC.D.Brandieによる、「LiNbO3の一致組成及びLiに富む界面」、J.Am.Ceram.Soc.第68巻、493〜496頁(1985年)
【非特許文献7】P.F.Bordui他による、J.Crystal Growth 第113巻、61〜68頁(1991年)
【非特許文献8】S.Uda、A.Bungo、及びC.Jianによる、「3インチランガサイト単一結晶の成長及び表面弾性波フィルタ用基板への応用」、ジャパニーズ・ジャーナル・オブ・アプライド・フィジクス、第38巻(第1部、第9B号)、5516頁(1999年)
【非特許文献9】D.H.Jundt及びM.C.C.Kajiyamaによる、「ほぼ一致した溶融物からのニオブ酸リチウム結晶成長における化学量論的軸方向変化」、J.Crystal Growth 第310巻、4280〜4285頁(2008年)
【非特許文献10】J.R.Carruthers、G.E.Peterson、M.Grasso、P.M.Brindenbaugh、J.Appl.Phys. 1971年、第42巻、1846〜1851頁
【非特許文献11】A.A.Wheeler、Journal of Crystal Growth、1989年、第97巻(1)、64〜75頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を形成する改善された方法を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、出発溶融物組成に基づいて基板のSAW特性を予測できるようにする、ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を形成する改善された方法を提供することである。
【0017】
本発明のさらなる目的は、1又はそれ以上のテスト成長実行に対して行われる測定を標準にした改善された原料計量処方を計算する、ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を形成する改善された方法を提供することである。
【0018】
本発明のさらに別の目的は、SAW特性を以前可能であったものよりも狭い範囲に限定するSAW基板の安定製造を確実にする、ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を形成する改善された方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらなる別の目的は、SAWの顧客が高い生産収率を達成できるようにする、ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を形成する改善された方法を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、最終的なSAWデバイスの試験要件を緩和する、ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を形成する改善された方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらなる目的は、高い成長効率と共にSAW特性の改善された一貫性を生み出す、ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を形成する改善された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のこれらの及びその他の目的は、ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を成長させる方法において達成される。1又はそれ以上の結晶試料の組成を測定する。結晶組成の一致状態からの偏差を求める。初期溶融物組成及び原料物質組成の偏差に対する補正を決定する。この組成の補正を使用して結晶を成長させ、表面弾性基板製造のための再現性のある材料を生み出す。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】狭い範囲のSAW特性を有する表面弾性波基板を生産する方法を示す概略フロー図である。
【図2】6個のLN結晶に関する実験データポイントをシミュレーション結果と共に示すグラフである。
【図3】LN結晶組成を出発溶融物組成及び固化溶融量の関数として示すグラフである。
【図4】LN結晶組成を選択範囲内の溶融物組成の関数として示すグラフであり、シミュレーション結果と比較した3つの異なる成長速度に関する結果を示す。
【図5】100個を超える試験結晶から計算した補正処方の頻度及び範囲を示すヒストグラムである。
【図6】2つの実施構成又は先行技術に関する所定の範囲のキュリー温度におけるウェハ生産の確率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、一致組成からわずかに偏差する溶融物の成長中に結晶組成がどのように発展するかを予測する正確なモデル(D.H.Jundt及びM.C.C.Kajiyamaによる、「ほぼ一致した溶融物からのニオブ酸リチウム結晶成長における化学量論的軸方向変化」、J.Crystal Growth 第310巻、4280〜4285頁(2008年))を提供し、該文献は引用により本明細書に組み入れられる。このモデルは、LNの工業結晶成長に関する典型的な成長条件に適合し、出発溶融物組成に基づいて基板のSAW特性を予測できるようにする。このモデル、又は結晶成長中の組成発展のための代替の近似モデルを利用して、1又はそれ以上のテスト成長実行に対して行われる測定を標準にした改善された原料計量処方を計算する方法について説明する。本発明は、SAW特性を以前可能であったものよりも狭い範囲に限定するSAW基板の安定製造を確実にする。この結果、SAWの顧客が高い生産収率を達成できるようになるとともに、最終的デバイスに関する試験要件を緩和することもできる。高い成長効率と共にSAW特性の改善された一貫性により、SAW基板のユーザが、高性能SAWデバイスを従来可能であったものよりも低コストで設計及び製造できるようになる。
【0025】
本発明は、1.84度の一致温度範囲内のキュリー温度を有する再現性の高い結晶特性を伴うウェハの集団を作製する方法について説明する。出発粉末の新たなロットごとに、初期原料物質の初期計量処方を使用して1又はそれ以上の試験結晶が成長する。例示として、及び限定的な意味ではなく、この結晶はニオブ酸リチウム(LN)であり、初期材料はLi2CO3及びNb25であることができる。1つの実施形態では、(単複の)試験結晶が、結晶重量/当初の溶融物重量の少なくとも80%、例えば結晶に変換される溶融物の量が80%以上という高い固化溶融量で選択的に成長する。別の実施形態では、結晶に変換される溶融物の量が85%以上である。
【0026】
定められた固化溶融量の試料を試験結晶から切り取り、誘電法又は同等の方法により結晶組成を測定する。組成測定の不確実性にもよるが、様々な固化溶融量から採取した数多くの試料を分析する必要があり得る。結晶組成の測定値を使用して計量処方の補正を推定する。この補正された計量処方を使用し、粉末ロットの残りを使用して、十分に制御された出発溶融物組成で結晶を成長させる。これが、SAW特性を以前可能であったものよりも狭い範囲に抑えたウェハの製造につながる。ウェハの1%が規格幅を外れていてもよいという一般的な規格の解釈に関して、本発明は、この幅を±1.9K〜±1.65K未満に狭めることを可能とする。この方法を使用し、かなり正確な測定方法で試験試料の組成を決定して製造した場合、±1.84の幅を外れるものは、生産したウェハの1000ppm、又は0.1%未満となる。1%のAQLの場合、対応するSAW速度変動率は中心値から±460ppmであり、1000ppm又は0.1%のウェハ欠陥率の場合、中心値から±515ppmとなる。
【0027】
図1は、表面弾性波(SAW)速度を中心値から±515以内の狭い範囲内に制御したSAW基板を生産する方法100の1つの実施形態を示す図である。適当なSAWデバイスとして、以下に限定されるわけではないが、フィルタ、オシレータ、遅延ラインなどが挙げられる。1つの実施形態では、以下に限定されるわけではないが、LN、BSO(Bi12SiO20)、BGO(Bi12GeO20)などのごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から作製した結晶を成長させる方法を提供する。本明細書を通じて、LNについての説明を他の化合物又は結晶にも適用できることが理解されよう。
【0028】
1つの実施形態では、(単複の)試験結晶が、高い固化溶融量、すなわち当初の溶融物重量の比率としての結晶重量が80%以上で成長する。別の実施形態では、結晶に変換される溶融物の量が85%以上である。
【0029】
新たな組み合わせの粉末ロットが結晶成長に使用され、粉末重量の補正が必要となりそうな場合には常に本発明の方法が適用される。LNを使用するほとんどの場合、炭酸リチウム(Li2CO3、「LCarb」)又は五酸化ニオブ(Nb25、「NP」)のいずれかによってロット番号が変更されるときにこれが一致する。本発明では、検討する材料が、ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から形成される。適当な結晶として、以下に限定されるわけではないが、LN、BSO(Bi12SiO20)、BGO(Bi12GeO20)が挙げられる。結晶を成長させるために使用する計量処方が溶融物組成を決定し、結果として結晶の組成及び均一性を決定する。粉末計量処方を定めるための様々な方法が考えられるが、これらは全て、粉末を混合して反応させる前に量り分けた粉末重量の比として定義される、ζとして示す単一の代表値に帰着させることができる。計量処方比は、ζ=(LCarb粉末の重量)/(NP粉末の重量)として定義される。本発明を、前処理した粉末にも使用できることが理解されよう。このような処理ステップは、大量のLCarb及びLN粉末を乾燥させること、又は安定してはいるものの正確には判明していない組成のLN粉末に予備反応させることさえも含むことができる。
【0030】
正確な計量処方を決定する(ステップ150)理由は、溶融物組成が一致状態から逸脱し、結果的としてSAW速度などのウェハ特性が変化する機会を最小限に抑えるためである。その他の場合、特にLCarbに関して起こり得るが、保存状態によって水分が吸収され、計量処方の再校正が必要となることが理由として考えられる。この場合、処理ステップ110で方法を開始するのは供給者ロットの変更ではなく、ロットが計量処方の補正を必要とする量まで水分を吸収した可能性のある経過時間である。粉末供給者が使用する乾燥方法に応じて水分量は変化し得る。LCarb粉末のための非常に高い乾燥温度がLCarbをCO2及びLi2Oに解離する可能性もあり、これにより、結晶を成長させるために量り分けた分量内のLiのモル量を過小評価してしまうという逆効果が及ぼされる。方法100の結果として、ζcorという値によって表される補正計量処方が得られる。比率がこの補正計量処方の値ζcorになることを満たすLCarb粉末の質量及びNP粉末の質量を使用して、継続的成長実行のための粉末(ステップ160)が計量される。この絶対重量は、ロットサイズ、個々の結晶を成長させるための分量サイズ、及び粉末を計量して混合する(及び/又は反応させる)のに使用する計量及び混合設備によって異なる。何十もの結晶のための非常に大量の混合粉末を示して、静電気分離、表面効果、混合効率などの影響を最小限に抑えることができる。
【0031】
予備反応粉末を使用する実施形態では、ステップ120、150及び160が次のように修正される。反応粉末から1又は複数の試験結晶が成長する。比率ζ0は分かっていなくてもよい。モデル155を使用して試験結晶を分析し、初期溶融物組成の推定値を後述するように求める。この結果、これらの粉末の初期溶融物組成の一致状態からの偏差が判明する。Li含量を増やす必要がある場合には、既知の組成のLiに富むLN粉末を大きな粉末ロットに追加して完全に混合することができ、Nb含量を増やす必要がある場合には、NP粉末の追加が最も直接的な方法である。この結果、追加して十分に混合された粉末が成長のための原料の役割を果たして、十分に制御された特性のSAW材料を生じる。
【0032】
処理ステップ120及び130において、補正した計量処方を必要とする粉末から1又は複数の試験結晶が成長する。1つの実施形態では、同じ供給元からの粉末に関して決定された以前の処方が出発ポイントとして使用される。或いは、(乾燥酸素雰囲気において粉末を500℃で数時間焼き付けるような)乾燥試験を行って吸収した水分量を推定し、LCarb及びNP粉末の真の重量に到達することができる。
【0033】
すでに指摘したように(P.F.Bordui、米国特許第5,310,448号(1994))、リチウムの同位体補正及び不純物含量を考慮することもできる。代替の実施構成では、供給者が提供する水分含量を使用して、粉末重量をどれだけにすべきかを計算する。これらの選択肢をいずれも利用できない場合、粉末が純化合物のみで構成されていると仮定することができる。粉末は、LCarbのNPに対する所定の質量比ζ0で計量される。純化合物の場合、天然のLi同位体比を前提に、発明者らがLCarbに73.8932g/モルの、及びNPに265.8098g/モルのモル質量比を使用した結果、48.38モル%Li2Oの仮定一致溶融組成物ではζ0=0.26054になる。量り分けられ混合される量は、目標成長プロセスを代表する結晶を成長させるのに十分大きなものでなければならない。この段階で大量の粉末を混合し、試験結晶に少量の混合物のみを使用する一方で混合分量の残りを別にして置くことが可能である。ζcorの補正値が求められると(ステップ150)、大量の粉末に対して(ζをζ0を超えて増加させるために)LCarb又は(ζを減少させるために)NPをさらに増加させて、所望の補正重量比を達成するようにすることができる。ほとんどの場合、1つの試験結晶を成長させれば十分である。通常、計量誤差における不確実性は、ステップ140における測定誤差と比較すれば小さなものである。しかしながら、計量又は混合プロセスにより、所与の粉末ロット及び計量処方のために生産された溶融物組成のばらつきが大きい場合には、結晶成長がいくつか必要となる場合がある。これは、例示として、及び限定的な意味ではなく、オペレータの誤り(使用する粉末、風袋の誤り、計算又はキーボード入力の誤り)、設備の誤作動などによって生じることがある。
【0034】
ステップ158で示すように、計量処方の補正を計算すればこのような誤りが明らかになる。例えば、統計的プロセス制御(SPC)チャートにより、このような誤りが生じた疑いが引き起こされることがあり、この結果、成長する1又はそれ以上の試験結晶によって、計算した大きな補正が正しいことを確認するか、或いは第1の試験結晶の誤った結果を示し、この場合この結果を無視するかのいずれかを行う。試験結晶が成長したら、一致した結晶に対する結晶組成を測定する必要がある。高度に正確な方法が強く望まれる。示差熱分析(DTA)、誘電率測定、又はボンド法を使用したΧ線による格子定数測定のいずれかによるキュリー温度測定を使用することができる。あらゆるSAW材料に一般に適用できる代替方法は、試験結晶から取り出したいくつかの試験ウェハ上にSAWデバイスを作製し、デバイスの何らかの周波数特性を特徴付けることである。この方法は、エンドユーザに直接関連するとともに良好な試験構造のSAW設計であれば高度に正確であるという利点を有するが、これには他の方法よりも手間がかかり、このため他の方法の方が好まれる場合がある。測定する試料の数、及びこれらの試料を結晶から取り出す大凡の位置は、組成測定における測定の不確実性及び固化率推定における不確実性によって異なる。
【0035】
方法のステップ155は、試料の固化溶融量の入力及びステップ140で測定された組成を使用して、1又は複数の試験結晶が成長する出発溶融物組成を推定する役に立つ。このモデルは、後述するような結晶成長の完全なシミュレーションであってもよく、或いは以前に成長した結晶の実験から導き出される単純相関であってもよい。溶融物が十分に小さく、すなわち揮発がごくわずかであるならば、計量処方補正は非常に正確であり、結果として狭いSAW速度分布の結晶を生じる。本発明の1つの実施構成では、試験結晶試料が一致状態から所定の閾値よりも逸脱している場合、方法は、ステップ155において、初期計量因子に対する補正のみを必要とすることができる。いずれの方法であっても、結晶試料の測定値の方が一致した試料よりも酸化リチウムに富んでいれば、出発溶融物組成の推定値も酸化リチウムに富んだものとなる。方法は、様々な測定誤差を考慮に入れて、推定出発溶融物組成に対するこれらの誤差の影響(感度)を求めることができる。ステップ140において複数の試料を評価した場合、結果として得られる(試料ごとに1つの)溶融物組成の推定値を、推定値の各々ごとの不確実性に逆依存する加重関数で平均化して、出発溶融物組成χl(0)の最良の推定値に到達する必要がある。溶融物を推定される組成χl(0)で形成するために使用する処方比ζ0から、補正した計量処方比ζcorが後述するように計算される。
【0036】
結晶組成を予測するためのモデル
本発明の1つの実施形態では、ステップ155のモデルが、広範囲にわたる固化溶融量及び出発溶融物組成の結晶組成の正確な計算を可能にする。通常、LNの組成はLi2Oのモル分率χによって記述され、

となり、
この場合、A及びBはそれぞれ、Li2O及びNb25の試験容量内のモル数である。組成χl>χCのリチウムに富む溶融物は、こちらも一致状態よりもリチウムに富む結晶を成長させる。固化が進行するにつれ、成長する結晶はLi2Oを排除して、溶融物及び結果として得られる結晶内のLi2O含量を徐々に増加させる。状態図には平衡状態を記載しているが、LN結晶は毎時数ミリメートルの速度で成長し、境界混合層の動特性を考慮する必要がある。所与の成長システムでは、通常、引抜き速度、対流速度、軸方向及び径方向の温度勾配などの成長条件が一定に保持されるので、溶融物組成χlを現在成長中の結晶組成χSに関連付ける有効分配係数を定義することが慣習となっており、

となる。
【0037】
この有効分配係数は、一致した組成では成長速度又は結晶化方向にかかわらず1に等しいが、その他の組成ではこの値から偏差する。成長中の組成変化のモデリングを容易化するために、一致点を中心とするテイラー級数の形で関数keff(χl)を展開する。

【0038】
この方程式は、成長中の結晶組成を出発溶融物組成の関数として計算するための基礎を形成する。実験的な見知から、結晶中の原子数をカウントするよりも重量を測定する方が容易である。方程式(1)及び(2)の重量分率当量は、



のように定義され、
この場合、mはそれぞれの酸化物化合物の分子量を示す。分子量mNb2O5=265.8098及びmLi2O=29.8834を使用して、方程式(4)は、結晶又は溶融物組成の質量分率の記述とモル分率の記述との間で変換を行うための手段を提供する。ここで、組成χl(0)を有する質量Mの溶融物から出発して成長する結晶について検討してみる。固化率gは、成長結晶質量をMで除算したものとして定義される。成長が進むにつれて、gとともに溶融物及び結晶組成が変化するであろう。揮発がごくわずかであり、固相内に拡散が存在せず、及び液相内で完全に混合が行われていると仮定し、液体内の濃度が均一であるとした場合、結晶質量と残りの溶融物との和はLi2Oの総重量含量のように一定である。このLi2Oの質量の保存は、

のように表すことができる。
【0039】
方程式(6)の左辺は、固化結晶内のLi2Oの重量分率と、組成χl(g)の残りの溶融物内に含まれるLi2Oとの和である。右辺は、方程式(4)に溶融物組成を挿入することにより計算される当初の溶融物のLi2Oの重量分率である。方程式(6)は、結晶(又は溶融物)組成の、固化率g及び出発溶融物組成の関数としての間接的表現である。質量分配係数κが一定である場合、この方程式は、

のように単純化され、解は、

となる。
【0040】
この結果は、周知のScheil‐Pfannの式である。しかしながら、本明細書で検討するシステムでは、κが濃度に依存しており、方程式(6)を数値的に解くべきである。
【0041】
モデリング例1‐非一致的成長
表1に示す47.46%〜49.30%の範囲の出発溶融物組成から11個の結晶を成長させた。出発粉末を計量し、混合し、反応処理した後で、るつぼ内に7kgの反応材料を装填した。炭酸塩粉末内の水分含量、粉末純度、及びLi2O含量のばらつきは、分子量から計算した所望の組成からの偏差につながる可能性がある。これを解決するために、重量補正因子を使用して、計算した48.380%の組成から均一な組成の結晶を生み出す混合物が生じるようにした。実験結晶に使用したものと同じ粉末ロットを使用して、LCarb粉末に水分試験を行い、試験結晶を成長させ、またキュリー温度測定によって試験結晶の均一性を確認することにより、正確な補正因子を決定した。上部試料と下部試料との間でキュリー温度に差異が測定された場合、これに応じて補正因子を調整し、さらなる試験結晶を成長させた。典型的な補正因子は、1.0022〜1.0029の範囲に及んだ。この手順を使用すると、出発溶融物組成値が、約0.01%にまで一致した組成に対して正確なものとなる。
【0042】
SAW界では128°RY方向としても知られている(10,4)方向に沿って配向されたシードを使用して成長を開始させた。直径を105〜108mmにまで円錐状に拡げた後、成長速度を一定に保持して、直径を制御するように加熱電力を調整した。固化率に対する良好な制御を保持するために、平坦な境界面を生成するように引抜き速度及び回転速度を調整した。結晶を溶融物から分離することにより成長を終わらせ、その後アニーリングステップ、クールダウン及びハーベスティングを行った。表1に示す最初の9個の結晶の成長速度は約5mm/hであった。keffの凝固速度依存性を調べるために、2つのさらなる結晶を、他の結晶に使用した速度の2倍及び3倍の速度で成長させた。
【0043】
表I:出発溶融物組成及び結果として得られた結晶特性

【0044】
モデリング例2‐組成測定
成長した結晶を計量し、その後スライスした。ダイアモンドソー上で複数の切断を行い、個々の結晶ごとに、より厚いスラブによって分離した1.0〜1.5mmの厚みの8〜10個のスライスを得た。切断面を底面に揃えて、個々のスライスが明確に定義された固化率gを表すことを確実にした。全てのスライス及びスラブを計量し、切り溝の損失重量を推定し、個々のスライスごとの平均固化率値を求めた。試料の正確な固化率の推定における主な不確実性は、固化時における切断面の成長界面からの偏り、非平面成長界面又はソーカット時の不均衡に由来する。これらを組み合わせた影響によりもたらされる誤差は、±2%以下であると推定される。最も極端な溶融物組成の2つの結晶、並びに成長速度を高めた結晶は、セル成長が観察される底部に向かう部分を示し、これらは恐らく構成上の過冷却に起因するものである。
【0045】
これらの領域からは試料を切り出さず、これらの結晶の固化率を評価する範囲を限定した。表皮効果を避けるために、スライスの各々から約15×15×1.5mm3を測定した試料を結晶の中心領域から切り出し、その後上述したキュリー温度測定装置を使用して評価した。試料に接する上面及び底面の白金電極に2つのS字型熱電対を各々接触させて静電容量を測定した。測定は、1.6K/分のランプ速度の2つの加熱及び冷却サイクルからなるものであった。静電容量がピークになる熱電対の温度を記録し、全ての記録した温度測定値を平均してキュリー温度測定値を得た。熱電対の較正は行っていないので、絶対精度は4K未満である。しかしながら、実行間の再現性は約±0.4Kである。
【0046】
進行中の結晶成長の品質管理において同じ装置を使用し、(上部から底部まで均一な)一致した結晶のキュリー温度が1142.3℃を示すようにオフセットを調整することにより、これらの装置を較正する。約0.3Kの顕著な偏差が存在するときには常に、或いは1又は全ての熱電対を交換する場合にはこの較正を行う。一致キュリー温度の付近では、装置がこの温度に対して良好に較正され、優れた再現性を与えた。一致組成から著しく逸脱した試料では、装置が最適な範囲からさらに離れて動作し、その測定値は精度が低くなる。データ分析では、キュリー温度測定における不確実性が、

により概算される。
【0047】
データ分析及びモデルパラメータについての考察
方程式(6)を数値的に解くために、これを積分できる形に変換する。固体組成及び液体組成は両方ともgの関数である。g及び挿入(5)に関する偏導関数が取られ、

が得られる。
【0048】
有効分配係数κは溶融物組成に依存し、(2)〜(5)を使用してこれを計算することができる。項を再編成した後、

が導出される。
【0049】
方程式(11)は一階偏微分方程式を表し、これをルンゲクッタのアルゴリズムを使用して溶融物組成の展開に関して容易に積分することができる。
【0050】
実験的なキュリー温度測定値を結晶組成に変換するために、先に導出した関係を使用する。

【0051】
本発明では、この実験データを使用して、結晶組成の展開を最も忠実に記述する方程式(3)のための係数を導出する。積分アルゴリズムを使用して、結果として得られる結晶のパラメータを、所定の係数セット、a、b、c、χCについて計算することができる。これらのパラメータの値を最適化するために、数値計算した導関数を用いた非線形レーベンバーグ・マルカート・ルーチンを使用する。このフィッティング法は、フィット内に含まれるN個のデータポイント全てに関する、次式のように定義される平均二乗誤差を最小化するためにフィットパラメータの値を最適化する。

【0052】
個々のデータポイントiごとの測定不確実性を使用して、精度の低いデータポイントが他よりも小さな重みを保持することを確実にする。方程式(9)における装置の限界に起因する測定温度の不確実性を推定し、固化率推定における不確実性及び出発溶融物組成の推定における誤差を考慮した。わずかに変化したg及びχl(0)の値を使用して成長シミュレーションを行うことにより、結果として得られるキュリー温度に対する両不確定要素の影響を推定した。これらの感度計算は、全ての反復後に行った。フィット係数の値が明確に定義されていないフィッティングの初期段階では、推定される不確実性に誤りがある場合もあるが、フィットが収束するにつれて誤差推定値も収束する。従って、方程式(9)に2つの項を加え、個々のデータポイントごとに数値的に計算された導関数を挿入することにより、方程式(13)に関するキュリー温度の不確実性が得られる。

(14)
【0053】
方程式(13)のmseにフィットパラメータ共分散要素を乗じ、その後平方根をとることにより、フィット結果における不確実性を推定した。実験を忠実に記述するフィットモデルからは、1前後のmseが得られることになる。フィッティング手順の目的は、観測されたデータをできるだけ少ないパラメータで正確に記述することである。表IIは、フィッティング実行の結果を示している。最初の3つのフィッティング実行A〜Cは、最初の9個の結晶から集めた81個のデータポイントを使用して行ったものである。不確実性を示すパラメータをフィットし、そうでなければ一定に保持した。フィッティング実行Aでは、方程式(3)内の線形パラメータaのみを調整し、その他はゼロに設定し又は一定に保持した。呼応は、mse=1.17でかなり良好であり、パラメータは3つの有効数字に良好に収束した。フィット実行Bでは、このプログラムによって二次項bも調整され、状態図内の境界線のより複雑な形状を可能にし、mseをわずかに減少させた。方程式(3)内のより高次の項は、一致状態から最も離れた2つの組成の高固化率データポイントによって最も強く影響を受ける。これらのポイントの不確実性が、主に体系的影響、温度測定誤差及び初期溶融物組成誤差から生じることを考慮すれば、実行Bの結果から、パラメータbがゼロから著しく異なると主張することはできない。フィット内に三次項cを含めることによりmseがさらに改善されることはなく、推定パラメータの不確実性がこの値を上回る。従って、フィット実行Aにおいて仮定される線形モデルは、実験誤差を前提としたデータを記述するのに十分正確なものである。フィット実行Cでは、パラメータaに加えて一致組成を調整した。mseが著しく改善されることはなく、最適化された一致組成は、48.380の仮定される一致状態に良好に一致する。この値は一致組成を絶対的に決定するものではなく、LCarb重量補正因子の設定に使用した手順が、一致組成の均一な結晶をもたらす再現性のある溶融物組成を与えるというその目的を達成することを確認するものである点に留意されたい。
【0054】
表II:方程式(3)及び(15)のパラメータに関するフィット結果

【0055】
図2は、9個の結晶のうちの6個に関して測定したキュリー温度データを、実行Aのフィット結果を使用した計算結果と共に示している。曲線には、出発溶融物組成を示すラベルを付けている。残りの3つの結晶に関するデータは、実行Aのデータセットには含まれているが、プロットの過密を避けるために除外している。予想通りに、Li2Oに富む溶融物は、一致組成の結晶に対応する1142.3℃の値を越えるキュリー温度を有するこれもLi2Oに富む結晶を成長させるであろう。一致状態からの偏差は、固化率が上がるにつれて大きくなる。シミュレートした結果と実験データとは十分に一致する。図3は、調査した組成範囲を含む溶融物から成長した9個の結晶から取り出した全ての試料の結晶組成を示している。円は、キュリー温度測定値から計算した(方程式(12))結晶組成を、出発溶融物組成、固化率、及びフィッティング実行Aのパラメータに基づいて推定される溶融物組成の関数として示している。45.1%〜51.7%の範囲の溶融物組成から、47.3%〜49.2%の範囲の結晶組成が得られる。実験結果の近くを辿る実線曲線は、フィッティング実行Aの結果を使用して方程式(2)から計算したものである。有効分配係数は溶融物組成に線形に依存するが、成長した結晶組成は分配係数と溶融物組成との積であり、従って放物線アークセグメントによって記述される。参考文献(J.R.Carruthers、G.E.Peterson、M.Grasso、P.M.Brindenbaugh、J.Appl.Phys. 1971年、第42巻、1846〜1851頁)の図5における同等の曲線が、仮定される一致状態におけるオフセットを除き、この結果と良好に一致する。これらの研究の中の3.8mm/h〜10mm/hの範囲の引抜き速度、及び20mm〜100mmの範囲の結晶直径における大きな変動を考慮すれば、この良好な一致は、全ての成長条件が、有効分配係数と平衡分配係数との間の差異がごくわずかとなる平衡に近いことを示している。実際の成長条件がほぼ平衡にどれほど近いかを調査するために、高めた速度で成長した2つのさらなる結晶から得た試料を分析した。BPS(A.A.Wheeler、Journal of Crystal Growth、1989年、第97巻(1)、64〜75頁)によって概説される処理に従えば、有効分配係数を、平衡分配係数k0、境界層厚みδ、溶質(Li2O)拡散率D、及び結晶成長速度νgの関数として、

のように表すことができる。
【0056】
所定の成長システムで一定と考えることができる追加のフィットパラメータδ/Dを導入して、11個の結晶成長実行から得られる89個のデータポイントを全てフィットすることができる。
【0057】
フィッティング実行Dは、k0の溶融物組成への線形依存を仮定し、パラメータδ/Dをゼロとする。この条件は、全ての成長条件の有効分配係数を平衡係数と等しくなるように設定する。mseをフィッティング実行Aのmseよりも低下させ、8つの追加データポイントのランダム誤差がフィッティング実行Aに使用したランダム誤差よりも低いことを示す良好な一致が達成される。これは、全ての成長した結晶が、平衡状態に近い境界層動特性を有することも示唆する。定量的結果を得るために、フィッティング実行Eがパラメータa及びδ/Dの両方を調整できるようにした。フィットは、表IIに示す結果に良好に収束した。境界層動特性パラメータは、δ/D=0.0037±0.002と推定される。この値はゼロに近く、フィッティング実行Dがかなり良好な一致を与えた理由を説明している。パラメータa、b、c、Xcが結晶材料のみに依存すると予想されるのに対し、パラメータδ/Dは成長炉の構成の変化とともに変化すると予想される点に留意されたい。例えば、より高い回転速度は対流速度を増加させ、境界層の厚みδを減少させるであろう。図4は、異なる成長速度で測定した結晶試料を使用した固体対液体組成領域の拡大部を示している。小さな黒丸は、公称成長速度のためのものであり、図3の成長速度と同一のものである。追加のデータポイントは、2倍の速度(大きな黒丸)及び3倍の速度(白丸)のためのものである。実線曲線は、最低成長速度を挿入するフィッティング実行Eの結果から計算され、これをフィッティング実行Aの結果から計算した曲線と区別することはできない。最も速く成長した結晶試料は、エラーバーで示している。y軸誤差は、方程式(12)及び(14)から計算した温度測定誤差に対応する。実験ポイントに関する溶融物組成はシミュレーションに基づくものであるためフィットに依存し、x軸エラーバーはフィッティング実行D又はEパラメータを使用するときの変動を示している。破線及び鎖線は、それぞれ2倍及び3倍の成長速度の場合のフィッティング実行Eの結果を示している。平衡状態からの偏差は実験誤差と同程度であるが、フィッティング実行Dのmseに対するmseの減少によって立証されるように全体的モデル精度は改善されている。
【0058】
結晶組成を予測するためのモデルに関する結果の要約
一致組成から偏差する溶融物から11個のLN結晶を成長させた。試料組成を決定するために、様々な固化率で結晶から切り出した試料に関してキュリー温度を測定した。成長中の軸方向組成変異を予測するためのモデルを開発し、このデータを使用して、有効分配係数を溶融物組成及び成長速度の関数として推定した。溶融物組成と平衡分配係数との間の線形関係:k0=1−1.511×[(χl−χC)/100%]を仮定することにより、45.1%〜51.7%Li2Oの範囲の溶融物組成に対応する測定した結晶試料の組成を良好に予測することができた。調査した成長条件では、BPSモデルを使用して計算した有効分配係数の平衡分配係数からのシフトは0.1%未満であった。調査した組成の全範囲にわたって得られた一致は、仮定、すなわちごくわずかな揮発、完全な溶融物混合及びごくわずかな固体拡散の妥当性を裏付けるものである。結晶成長実行の初期溶融物組成及び固化溶融量を知ることにより、結晶から切り出したウェハの結晶組成及び結果として得られる物理的特性の計算が可能となる。特定の成長条件セット(5〜15mm/hの成長速度及び7kgの初期溶融物重量における108mmの直径の結晶の成長)に関して、keff(χl,νg)の関数フォームを導出した。フィッティング実行Aのパラメータを使用すること、ひいては平衡からの偏差を無視することにより、かなり正確な予測が可能ではあるが、モデル化すべき成長システムに関して実験的パラメータδ/Dの推定値を最初に得た場合、モデルの予測性が向上する。少なくとも2つの離れた組成の結晶を様々な速度で成長させて分析することにより、これを行うことができる。発明者らの成長システムは、最小のクラッキングによる大きな溶融物分率変換での大直径結晶の成長のために最適化されている。大型の工業品質結晶を生産するその他の結晶成長炉は、ほぼ同様の成長パラメータを有し、平衡に近い条件を満たすであろう。組成の有用範囲の境界における組成を有する、例えばキュリー温度が+5Kの結晶について検討する。このような結晶は、平衡成長条件を仮定すれば溶融物組成xl=48.87%を必要とし、或いは約20mm/hの非常に速い成長下ではxl=48.78%を必要とするであろう。対応する有効分配係数は、計算した平衡値から0.2%未満しか異ならないと思われる。LN結晶のユーザは、ウェハ直径を150mm及びそれ以上に増加させているので、必要な結晶成長システムを改良することにより、歪み誘起によるクラッキングを避けるためにプロセスを平衡状態に近づけて動かすことが予想される。フィッティング実行Eの結果を使用して本明細書で提供するモデルは、達成可能な結晶均一性の理論的モデリングを可能とするであろう。成長速度を無視し、図IIに示すフィッティング実行Aの結果を使用することによっても良好な一致が達成される。
【0059】
補正計量処方因子の計算
(単複の)試験結晶から切り出した試料の固化溶融量及びこれらの試料の測定した組成値は、ステップ140において測定されたと見なされる。以下の比較例に示すように、これらの組成値内の不確実性を考慮して、試験結晶を成長させるために使用する出発溶融物組成χl(0)を推定する。発明者らはこの推定値をχestで示す。上述したような計量処方比ζ0を使用して試験結晶溶融物を生産した。目的は、出発溶融物組成がχl=48.38%を満たすようにこの比率を調整することである。補正処方比は、

のように計算される。
【0060】
比較のために、2つの粉末のための乾燥補正因子を考慮することにより補正計量処方を求める先行技術のアプローチでは、先行技術の公開物の1つに示されるように、理論分子量、及びLCarbでは1.0058及び1.0002とされる2つの水分補正因子から補正因子が計算され、得られる計量処方は、

となる。
【実施例1】
【0061】
2つの異なるNP供給元及び4つの異なるLCarb供給元からの粉末を複数年にわたって評価した。その期間中100個を越える試験結晶を様々な供給者ロットの組合せに対して成長させ、ステップ150に基づいて補正計量処方を設定した。通常、1つは結晶の頂部から1つは底部からの、個々の試験結晶から得た2つの試料を評価し、必要に応じて、これらの結果の平均を使用して補正計量処方因子ζcorを推定した。試料は、成長及びアニーリングステップ中の外方拡散メカニズムにより一部のLi2Oを欠いている可能性のある、結晶表面に非常に近い材料を測定することを避けるために結晶のバルクから切り出した。補正は、平均試料キュリー温度の1142.3℃からの偏差に比例する補正を与える大まかな線形規則に基づいた。Li2Oの偏析の影響を予測するこのモデルは、頂部又は底部のいずれの変動する固化率も考慮に入れていない。それにもかかわらず、このモデルは、特に最初の推測処方因子ζ0からの小さな補正のみが必要な場合には、必要な補正にかなりの近似を与える。
【0062】
本発明の代替の実施構成では、試験結晶試料における一致状態からの組成偏差が所定の閾値を超える場合にのみ補正処方因子が計算される。大きな補正が必要な場合には、補正処方を使用して第2の試験結晶を成長させ、プロセスの第2の反復を使用して最終的な補正計量処方因子ζcorを得た。
【0063】
図5は、計量処方因子のヒストグラムであり、良好な均一性及び狭い範囲のSAW特性を有する結晶を成長させるのに必要であった最終的な処方因子の範囲及び頻度を示している。値が固まっていることが分かり、これは、様々な原料の供給元が使用する異なる製造方法が、粉末のグラム当たりの粉末内のリチウム又はニオブのモル数に大きな影響を与えることを示している。理論値からの補正の大きさは0.68%ほどである。この研究中、粉末に対して行った乾燥試験では必要な補正が正確に予測されないであろうことが判明し、乾燥試験が解離及び/又は不完全な水分除去に十分に対応しないという疑いが支持された。
【実施例2】
【0064】
上記で開発したモデルをどのように使用して出発溶融物組成を推定できるかを示すために、測定したデータセットを上述の研究の一部として使用した。ほとんどの場合、試験結晶あたり同じ数だけの試料(本例では48.50%の溶融物組成の場合9個)を測定する必要はないが、発明者らは、本明細書ではこれらを全て使用して、出発溶融物組成の最も良好な全体的推測に到達するために感度推定をどのように使用して計量ファクターを導出できるかを示す。表IIIは、試料に関して測定したデータを推定される部分溶融物変換値とともに再現している。この結晶は、90.4%の最大部分溶融物変換率により5mm/hrで成長した。試験試料を切断する際の形状の不揃い及びダイシングカーフ損失に起因して、部分溶融物変換率gの推定には若干の不確実性が存在する。発明者らは、これを全ての試料に関して±2%であると推定した。キュリー温度測定では、発明者らは試料ごとに±0.4Kのランダム誤差を仮定する。測定方法を若干改善することにより、これらの誤差を減少させて、結果的に出発溶融物組成及び計量処方因子補正の推定を改善することができる。
【0065】
表III:測定したキュリーデータ及び出発溶融物組成の推定

χl(0)の全体的な最良の推定値 48.52%
【0066】
キュリー温度測定における不確実性を低減させるための代替方法は、所定の場所、従って同じ組成を有する場所からいくつかの試料を切り出し、これらの試料を連続して測定することである。この場合のn個の測定値の標準誤差は、nの平方根による一回の測定を通じて低減される。4つの測定値があれば、標準誤差は半分に削減されるであろう。
【0067】
RK法を使用する上記のアルゴリズムにより、フィット結果パラメータEを使用して部分溶融物値、出発溶融物組成、及び成長速度から結晶組成、従ってキュリー温度を計算できるようになる。(数値微分を使用するニュートン・ラフソン法などの)ルートファインダルーチンにより、試料ごとに推定される出発溶融物組成χlを計算する所望の逆関数が与えられ、入力部分溶融物値、成長速度、及びキュリー温度が得られる。表には結果も示している。推定される溶融物値の変化を入力パラメータの変化における関数として計算することも容易である。これらの感度を、表IIIの3列目及び4列目に示している。

に基づく二乗誤差の平方根に反比例する正規化した重み関数を使用して、出発溶融物組成χl(0)の全体として最良の推定値を、重みと個々の推定値χlを掛け合わせたものの和として計算することができる。仮定される測定値の不確実性に関しては、g=77.1%における測定値が最も大きく重み付けされていることが分かる。成長の初期段階の試料は、キュリーポイントの測定から得られる不確実性がより大きく、部分溶融物変換率がより高いものは、試料の部分変換率推定の不確実性から生じる不確実性がより大きくなる。さらに、無相関誤差の形をとる基本的誤差伝播により、

に基づいて、表III内の重みと各個々の溶融物推定値χlごとの不確実性からχl(0)の推定値が判明する。
【0068】
表IIIの値を方程式(18)に挿入することで、χl(0)の推定値における±0.0075%の推定不確実性が得られる。これらの結果から、部分変換率推定又はキュリー温度測定のいずれかの不確実性を変化させる試料試験の変化により、最終結果に最も重要な試料の位置が変わるということが明らかである。結晶の底部から切り出した試料の部分変換不確実性推定を改善することは特に有益となり得る。試料厚を最小にして、わずかに凸型の成長界面を有する結晶の中心から試料を採取することにより、これを行うことができる。試料調製、誘電法キュリー炉内の試料配置、及び炉のランプ制御における最近の改善により、キュリー温度測定において再現性が改善され、約ΔTc=0.1Kが得られた。
【実施例3】
【0069】
この例示的な実施例では、本発明により補正された様々な処方から成長した数多くの結晶に関してSAW特性の期待分布が計算される。試料組成測定の精度は測定法の詳細によって異なり、本明細書ではSAW基板の組成の分布に与えられる対応する影響とともにいくつかの場合について検討する。組成を推定するための最も一般的な測定方法は、誘電法又はDTAのいずれかによるキュリー温度である。上記の詳細な説明で説明したように、使用する装置は±0.4Kの推定不確実性(1σ値)を有していた。正確な組成測定の重要性を評価するために、一致状態偏差の測定に関して±0.8Kという精度のより低いキュリー温度測定装置についても計算を行った。初期溶融物組成を推定するためのモデルは、試料の組成推定値のみならず、試料の部分溶融物変換率の推定値にも依存する。本明細書では、発明者らはこの推定値を±2%の精度と仮定した。測定不確実性をより慎重に制御することにより本発明がどれほど改善を行えるかを検討するために、±0.2Kの仮定されるキュリー温度の不確実性及び1%の部分溶融物変換の不確実性という、測定装置の慎重なメンテナンス及び較正によって到達可能な値についてもシミュレーションを行った。この実施例のために行った本発明のシミュレーションでは、試料のキュリー温度及び部分溶融物変換推定の不確実性は、分布制御パラメータとされる不確実性による、真の値を中心とするガウス分布(正規分布ともよばれる)によって特徴付けられると仮定された。試験結晶について1つのみの試料を切り取ることは可能であるが、本実施例では、発明者らは、ζ0によって特徴付けられる初期計量処方から成長した個々の試験結晶から2つの試料を切り出すと仮定した。限定的な意味ではないが、試験結晶から結晶試験試料を切り取る場合、発明者らは、本実施例のために、部分溶融物変換率が7%及び80%の2つの結晶試料を切り取るべきであると仮定した。結晶が完全な直径に達していない非常に低い部分溶融物変換率の試料は、この成長段階中の小さな結晶直径では溶融物の完全な混合が確実でないため避けたほうがよい。実際には、結晶をクロップ及びスライスした後に試料を採取することができ、最上部及び最底部のスライス又はこれらの間のいずれかの試料を使用する。発明者らは、初期計量処方因子を、図5に示す範囲の約半分程度の数で補正する必要があると予想する。シミュレーションプロセスでは、発明者らは、新たな処方ごとに必要な補正は、−0.001及び+0.001の範囲の均一な分布を有すると仮定する。測定誤差がなければ、これらの限界は、約±4Kの80%固化率試料のキュリー温度の変化と同じである。いずれかの試料が、真の一致試料に対して予測される値から本実施例では±4Kと仮定される閾値を越える場合、ステップ158において提供されるSPC手順は試験結晶の反復を必要とする。このSPC規則違反に対しては2つの影響が寄与し得る。まず、粉末計量比に必要な補正が予定限界に近づき、公称測定誤差が加わってSPC限界を超過する場合がある。その後、反復成長が同様の結果をもたらし、かなり大きな補正が必要であることが確認される。SPC違反に対するもう1つの寄与は、場合によってはいくつか標準偏差の可能性がある測定誤差である。この場合の反復成長及び分析からは、より小さな処方変化が必要であることが判明する。このSPC手順全体としては、測定誤差のガウス分布におけるウイングを減少させるための効果を有する。
【0070】
本発明の性能は、上述のような分布を使用するモンテカルロ法によりシミュレートされ、また概説したようなSPC手順も処理した。10,000件の処方補正イベントをシミュレートした。個々の処方シミュレーションごとに次のステップを行った。a)粉末原料が、一致溶融物を生成するための試験処方からのζ補正が−0.001〜+0.001の間に均一に分布するように仮定される組成を有するようにした。b)試験処方から得たシミュレートした結晶成長が、図6の説明文に示すようにガウス偏差σ=2%、又はσ=1%を有する7%及び80%の部分溶融物値で切断した試料を有するようにし、対応するTc値を計算した。c)図6の説明文に示すように±0.2K〜±0.8Kの範囲のσを有するガウス誤差をステップb)の結果に加えることにより、キュリー温度測定をシミュレートした。d)測定値のいずれかが、1142.3℃を中心とする±4Kの幅であると仮定されるSPC幅の外側にあった場合、この結果を破棄し、同じ粉末組成に対してではあるが、g及びTcの誤差に新しい値を仮定して第2のシミュレートしたキュリー温度測定を行った。結晶成長及び材料特性の当業者には、Tc及びgの測定に関して仮定されるSPC幅及び不確実性が、使用する測定システムの詳細に依存することが明らかであろう。例えば、粉末供給の変動性が狭ければ、SPC違反に起因して余分な結晶を成長させる必要なく、この幅をより狭くすることができる。
【0071】
SPC違反が生じて第2の結晶を評価した場合、結果に関係なくこの第2の結果が使用される。g=7%の場合には26%、及びg=80%の場合には74%の相対的重みを使用する2つの個々の推定値の加重平均を使用して、出発溶融物組成の最良な推定値で方程式(16a)に基づいて補正を計算した。方程式(17)で説明したように、これらの重みは、一致状態からの典型的な溶融物偏差及び誤差伝播分析に基づいて推定される。これらの重みを一定に保つのではなく、より高度なモデルにより、測定結果に依存する個々の組成測定値ごとに最良の推定重みを計算することができる。或いは、より単純なモデルにより、個々の測定値ごとに等しい重みを使用することもできる。d)その後、補正処方を使用して、各々がg=6.8%〜85%の間に均等に分布する93個のウェハを「もたらす」10個の結晶を成長させた。σ=10〜5の変動を仮定する比率ζcorを中心とするガウス計量誤差を仮定することにより、これらの10個の結晶の各々の出発溶融物組成を変化させた。これらの詳細な値は、図6に示す曲線を生じるシミュレーションを行うように選択したものであるが、当業者には、SAW基板を生産するための部分固化溶融物変換の範囲が、結晶形状、粉末純度及び使用する結晶成長装置により変化し得ることが明らかであろう。最も低い代表的な値は5%〜15%であり、SAW基板成長における最も高い固化溶融物変換率の代表的な値は80%〜90%以上の範囲である。
【0072】
合計930万個のウェハとなる全てのシミュレートした処方補正及び成長実行のキュリー温度測定値の分布を計算し、±0.4K及び±2%というキュリー測定値及び固化溶融物変換率推定値の仮定される不確実性に関して図6に実線で示す。10,000個の計量補正のシミュレーション中、±4KのSPC規則に合計67回の違反があったがこれは許容可能な低いレベルである。比較に関する破線曲線は、ウェハのキュリー温度値におけるガウス分布(σ=0.777K)を仮定したものであり、これはウェハの1%が±2Kの規定幅を外れていることと同じである。
【0073】
点線曲線は実線曲線に類似したシミュレーションではあるが、キュリー温度測定の精度(σ=0.2K)及び試料の部分溶融物推定の精度(σ=1%)の両方において改善を仮定したものである。依然として±4Kと仮定されるこのシミュレーション実行のためのSPC規則の違反は1回のみであり、ほとんどのSPC違反の原因がキュリー測定の変動性にあることを示している。
【0074】
10,000個の計量処方補正の第3のシミュレーションを行ったが、今回はσ=0.8の標準偏差によって特徴付けられる、より精度の低いキュリー温度測定システムを使用した。対応する曲線を図6に二点鎖線として示しており、他の2つのシミュレート結果よりも幅広であるが、規格幅内の1%のAQLの正規分布よりも狭いピークを有する。SPC規則の違反は321回であり、まだ許容可能ではあるものの、より良好なキュリー測定制御によるものよりも明らかに頻度が高い。図6の結果から、本発明を使用することにより、ウェハ分布のキュリー温度値が劇的に狭くなることが分かり、結果として、これらのウェハから製造したSAWデバイスの中心周波数をより良好に制御できるようになる。LN SAWウェハの先行技術の±2Kの規格幅では、通常の規格解釈によれば、1%のウェハのキュリー測定値がこの幅を外れていることが見込まれる。図6の縦軸は対数目盛で示しており、ピークから離れた確率分布に注意を引いている。この表示では、正規分布が予想通りに放物線のように見える。シミュレーション結果における底部は直線のように示されており、ラプラス確率分布を連想させる。方程式(12)を使用すれば、±2Kの幅は、±0.051モル%の結晶組成範囲、又はSAW速度の中心値からのばらつきである±560ppmnに等しい。その一方で、実線曲線はこの幅から外れたウェハを78個しか有しておらず、これはこの幅内におけるたった8.2ppmの欠陥率に等しく、試験結晶試料のより良好な実験的組成測定の精度から得られる破線曲線は、この幅から外れたウェハを生じなかった。二点鎖線曲線は、規格幅を外れたウェハを0.36%有するが、それでもなお正規分布よりも良好である。このシミュレーションにより、発明者らは、全ウェハの99%が入る組成幅を狭めることによって評価されるような、先行技術を上回る改善を予測できるようになる。実線曲線ではこの幅が±0.86Kであり、破線曲線ではこの幅がたった±0.44Kであり、二点鎖線曲線ではこの幅が±1.65Kである。方程式(12)を使用すれば、これはそれぞれ±0.022モル%、±0.011モル%、及び±0.042モル%の結晶組成範囲に、或いはSAW速度の中心値からの偏差では、それぞれ±240ppm、±125ppm、及び±460ppmに等しい。不合格となるウェハが10ppm未満の範囲は、実線曲線では±1.9K、破線曲線では±1Kである。二点鎖線の場合も、±1.9Kの規格幅を外れるウェハは、生産されたウェハの0.5%又は5000ppm未満である。
【0075】
本発明により提供される改善について説明する他の方法に、ほんのわずかなウェハしか不合格にならない組成範囲がある。ウェハのユーザが、規格幅を外れるウェハが0.1%又は1000ppm未満であることを求めていると想定されたい。破線曲線で示す正規分布の場合、±2.34Kの幅にウェハの99.9%が含まれ、これは±0.06モル%の組成範囲、又はSAW速度の128RY LNの中心値からの±655ppmの偏差に等しい。しかしながら、Li2Oの成長偏析を考えると、正規分布は底部ウェハの影響を過小評価するので、これは非常に正確なモデルというわけではない。二点鎖線曲線は、たとえ中心ピークは狭くても、全ウェハの99.9%を含むためには事実上±2.42Kのより大きな幅を必要とするであろう。異常値を削除することが重要な場合、組成決定の測定をより良好に制御することが必要となる。ここでσ(Tc)=0.6K及びσ(g)=1%と仮定する別のシミュレーションを行った(図6には曲線を示していない)。この場合の1000ppmの欠陥率要件は±1.84Kのキュリー温度幅と解釈され、これは±0.047モル%の組成範囲又はSAW速度の中心値からの±515ppmの偏差に等しい。
【0076】
成長中の組成偏析をシミュレートするための本明細書に開示する方法を使用しなければ、このような欠陥率の推定は不可能である。高固化溶融量における偏析が分布の「底部」の増大を加速させるので、正規分布は適切なモデルではない。キュリー温度測定に関する±0.6Kの適度な実験精度(又は類似の組成測定精度を与える同等の方法)及び±2%の部分溶融物推定の精度を容易に達成できる精度により、本発明は、±2K又は±1.9Kの典型的な規格幅において欠陥率が0.1%又は1000ppm未満であることを保障されたSAW特性パラメータ分布を有するSAWウェハ基板の製造を可能とする。或いは、試験結晶組成の測定精度にもよるが、所定の規格幅内の欠陥率を1%〜0.36%まで劇的に低減することができる。
【0077】
当業者には、本明細書の検討及び本明細書に開示した本発明の実施から本発明のその他の実施形態が明らかになるであろう。明細書及び実施例は例示としてのみ見なされることが意図されており、本発明の真の範囲及び思想は添付の特許請求の範囲により示される。
【符号の説明】
【0078】
110 開始‐Nb25及びLi2CO3粉末の新たなロット
120 粉末重量比ζ0を有する初期計量処方にとって最良の推量を使用
130 反応した粉末から1又はそれ以上の結晶を成長
140 結晶試料を決められた固化率で切り出し組成を測定
150 補正が過大か?
155 溶融物組成の関数としての結晶組成のモデル
160 粉末重量比ζcorを有する補正計量処方を使用して粉末から結晶を成長
170 終了‐狭い組成範囲の、従って狭い弾性波特性分布のウェハ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ごくわずかな揮発で一致溶融する化合物から結晶を成長させる方法であって、
1又はそれ以上の結晶試料の組成を測定して結晶組成の一致状態からの偏差を求めるステップと、
初期溶融物組成及び原料物質組成の前記偏差に対する補正を決定するステップと、
前記組成の補正を使用して結晶を成長させ、表面弾性基板製造のための再現性のある材料を生み出すステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記結晶が、LN、Bi12SiO20、及びBi12GeO20の少なくとも1つから選択される、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記結晶がLNであり、前記一致溶融する化合物がNb25及びLi2CO3から反応される、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
Nb25及びLi2CO3の反応粉末から1又はそれ以上の試験結晶を成長させるステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
粉末重量比又はモル分率を有する原料物質の初期計量処方を決定するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
試験結晶を1又はそれ以上の固化率で切断するステップと、
前記試験結晶の組成を測定するステップと、
をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
組成推定値を使用して計量処方補正を計算するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
中心値から±515ppm以内で偏差する弾性波速度値の分布に対応する組成値の範囲内でウェハを作製するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
中心値から±515ppmを超えて偏差する速度値を有するウェハが0.1%未満である弾性波速度値の分布に対応する組成値の範囲内でウェハを製造するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
中心値から±460ppm以内で偏差する弾性波速度の分布に対応する組成値の範囲内でウェハを製造するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
中心値から±460ppmを超えて偏差する速度値を有するウェハが1%未満である弾性波速度値の分布に対応する組成値の範囲内でウェハを製造するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
中心値から±240ppm以内で偏差する弾性波速度の分布に対応する組成値の範囲内でウェハを製造するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
中心値から±240ppmを超えて偏差する速度値を有するウェハが1%未満である弾性波速度値の分布に対応する組成値の範囲内でウェハを製造するステップをさらに含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
一致溶融化合物から製造され、中心値から±515ppmの幅内に含まれる速度分布の基板を含む、
ことを特徴とする基板。
【請求項15】
前記化合物が、LN、Bi12SiO20、及びBi12GeO20の少なくとも1つから選択される、
ことを特徴とする請求項14に記載の基板。
【請求項16】
前記化合物がLNであり、原料物質Nb25及びLi2CO3を反応させることにより作製される、
ことを特徴とする請求項14に記載の基板。
【請求項17】
キュリー温度が中心値から±1.84度の幅内に含まれる、
ことを特徴とする請求項14に記載の基板。
【請求項18】
キュリー温度が、99.9%を超える基板に関して中心値から±1.84度の幅内に含まれる、
ことを特徴とする請求項14に記載の基板。
【請求項19】
±1.84度の幅から外れたキュリー温度を有する基板のパーセンテージが0.1%以下である、
ことを特徴とする請求項14に記載の基板。
【請求項20】
キュリー温度が中心値から±1.65度の幅内に含まれる、
ことを特徴とする請求項14に記載の基板。
【請求項21】
前記結晶が、0.86度の一致温度の範囲内のキュリー温度を有する、
ことを特徴とする請求項14に記載の結晶。
【請求項22】
結晶に変換される溶融物の量が80%以上の試験結晶が成長する、
ことを特徴とする請求項14に記載の基板。
【請求項23】
結晶に変換される溶融物の量が85%以上の試験結晶が成長する、
ことを特徴とする請求項14に記載の基板。
【請求項24】
結晶組成範囲が、中心値から±515ppmの幅内に含まれる速度分布を提供する、
ことを特徴とする請求項14に記載の基板。
【請求項25】
±0.042モル%以内の特定組成範囲を有する、
ことを特徴とするLN基板。
【請求項26】
±0.022モル%以内の特定組成範囲を有する、
ことを特徴とするLN基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−515320(P2011−515320A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500995(P2011−500995)
【出願日】平成21年3月20日(2009.3.20)
【国際出願番号】PCT/US2009/037869
【国際公開番号】WO2009/117697
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(598098386)クリスタル テクノロジー インコーポレイテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】Crystal Technology, Inc.
【住所又は居所原語表記】1040 East Meadow Circle, Palo Alto, California 94303, USA
【Fターム(参考)】