説明

狭域通信受信装置

【課題】通信処理におけるソフトウェアによる処理の負担を軽減できる無線受信装置を提供する。
【解決手段】ASK復調部4は受信信号をASK変調方式に対応して復調する。π/4シフトQPSK復調部5は受信信号をπ/4シフトQPSK変調方式に対応して復調する。フレームメッセージ解析部7は、ASK復調部4で復調後の信号とπ/4シフトQPSK復調部5で復調後の信号とを同時並行的に解析する。変調方式判定部8は、フレームメッセージ解析部7の解析結果に基づいて受信信号の変調方式を判定し、切替部10を制御して、ASK復調部4又はπ/4シフトQPSK復調部5から選択的に信号を出力する。変調方式判定部8は、FCMCのCI信号に含まれる信号伝送速度識別子DRIにより、変調方式、通信速度を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、狭域通信受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高速道路交通システム(ITS)においては、狭域通信(DSRC:Dedicated Short Range Communication)により、路側に設置された路側機と車側に設置された車載器との間で通信を行なう。
【0003】
そして、ETC(Electronic Toll Collection)と次世代ITSに対応するITS車載器においては、ASK(Amplitude Shift Keying)と、π/4シフトQPSK(Quadrature
Phase Shift Keying)の両変調方式に対応している。すなわち、各路側機はこの何れかの変調方式を用いており、また、1つの通信にASK変調方式を用いた送受信データと、π/4シフトQPSK変調方式を用いた送受信データとが混在している場合もあり、ITS車載器はこのような路側機に対応している。そこで、ITS車載器では、ダウンリンク、アップリンクの信号がASK変調方式であるのかπ/4シフトQPSK変調方式であるのかを判断しなければならない。
【0004】
この点について、特許文献1に開示の技術では、受信信号に含まれるユニークワード(UW)により、受信信号がASK変調方式を用いているかπ/4シフトQPSK変調方式を用いているかを判断している。
【特許文献1】特開2005‐5935号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、狭域通信における1フレーム中に含まれる各スロットにおいては、ダウンリンクのスロットにはユニークワードが含まれているものの、アップリンクのスロットは、ITS車載器側から路側機に送信するものであるため、その変調方式を判断するためには、1フレームの先頭に位置しているFCMC(フレーム・コントロール・メッセージ・チャンネル)を解析しなければならない。
【0006】
また、狭域通信における1フレーム中に含まれる各スロットの信号速度はスロットごとに異なる場合があり、これら各スロットの通信速度はユニークワードにより判断することはできず、当該通信速度を判断するためにはFCMCを解析しなければならない。
【0007】
これらの理由により、特許文献1に開示の技術では、通信処理におけるソフトウェアによる処理の負荷が重くなり、特にアップリンクの際の負担が大きくなってしまう。
【0008】
本発明の目的は、通信処理におけるソフトウェアによる処理の負荷を軽減できる無線受信装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、狭域通信の信号を受信する受信手段と、前記受信手段で受信した信号を第1の変調方式を復調するための第1の復調方式で復調する第1の復調手段と、第1の復調手段による復調と並行して前記受信手段で受信した信号を第2の変調方式を復調するための第2の復調方式で復調する第2の復調手段と、第1の復調手段で復調後の第1の受信信号と第2の復調手段で復調後の第2の受信信号とを並行してそれぞれ解析する解析手段と、前記解析手段による解析の結果から前記受信手段で受信した信号の変調方式が前記第1の変調方式で変調されているか前記第2の変調方式で変調されているかを判定する変調方式判定手段と、前記変調方式判定手段により判定された変調方式で変調されていた前記第1の受信信号又は前記第2の受信信号を選択的に出力する選択出力手段と、前記選択出力手段で選択的に出力された前記第1の受信信号又は前記第2の受信信号に基づいて所定の処理を行う処理手段と、を備え、前記変調方式判定手段は、通信速度の情報を示していて前記第1の受信信号又は前記第2の受信信号に含まれている信号伝送速度識別子により前記判定を行なう、狭域通信受信装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、信号伝送速度識別子の解析により、ダウンリンクのデータのみならず、アップリンクすべきデータが第1の変調方式によるべきものか第2の変調方式によるべきものかを容易に判断することができる。また、信号伝送速度識別子の解析により通信速度の情報も同時に得ることができる。よって、信号伝送速度識別子の解析をハードウェアで行うことが可能となり、当該処理をソフトウェアに基づいて行うことに比べてソフトウェアによる処理の負荷を軽減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1は、ITS車載器に用いられる狭域通信受信装置の機能ブロック図である。この狭域通信受信装置1は、ITS車載器の受信装置である。路側に設置された路側機(図示せず)からは狭域通信(DSRC:Dedicated Short Range Communication)により、無線信号が送信され、この無線信号をASK受信部2と、π/4シフトQPSK受信部3とで同時に並行して受信する。ASK受信部2は、ASK(Amplitude Shift Keying)変調方式で変調された信号を受信し、π/4シフトQPSK受信部3は、π/4シフトQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)変調方式で変調された信号を受信する。
【0013】
そして、ASK受信部2で受信した信号はASK復調部4でASK変調方式に対応した復調方式で復調される。また、π/4シフトQPSK受信部3で受信した信号はπ/4シフトQPSK復調部5でπ/4シフトQPSK変調方式に対応した復調方式で復調される。ASK復調部4における復調とπ/4シフトQPSK復調部5における復調とは同時並行的に行なわれる。
【0014】
UW検出部6は、ASK復調部4で復調後の信号、π/4シフトQPSK復調部5で復調後の信号からそれぞれユニークワード(UW)を検出する。ユニークワードUWは、各チャンネルの同期をとるためのデータである。
【0015】
フレームメッセージ解析部7は、ASK復調部4で復調後の信号、π/4シフトQPSK復調部5で復調後の信号のそれぞれについてフレームメッセージを解析する。
【0016】
変調方式判定部8は、フレームメッセージ解析部7の解析結果に基づいて、狭域通信受信装置1で受信した信号の変調方式がASK変調方式かπ/4シフトQPSK変調方式かを判断する。
【0017】
タイミング制御部9は、変調方式判定部8の判定結果に基づいて、路側機からの信号の受信にかかるASK受信部2、π/4シフトQPSK受信部3、ASK復調部4及びπ/4シフトQPSK復調部5と、路側機への信号の送信にかかる変調部、送信部(何れも図示せず)の動作のタイミングを制御する。
【0018】
切替部10は、変調方式判定部8の判定結果により、路側機からの信号がASK変調されているときはASK復調部4が出力するASK復調後の信号に切り替え、π/4シフトQPSK変調されているときはπ/4シフトQPSK復調部5が出力するπ/4シフトQPSK復調後の信号に切り替える。このように、切替部10は、受信信号の変調方式の判定の結果に応じて、ASK復調後の信号又はπ/4シフトQPSK復調後の信号を選択的に処理部11に出力する。
【0019】
処理部11は、切替部10から出力された信号に基づいて所定の処理を行い、必要な情報をディスプレイ12に表示し、あるいは音声メッセージをスピーカ13から出音する。また、図示はしていないが、LEDを点滅させたり、ブザーを鳴らしたりしてもよい。
【0020】
次に、フレームメッセージ解析部7が実行する処理について詳細に説明する。ここで説明する路側機とITS車載器との間の通信は、狭域通信(DSRC)システムにおける“ARIB STD−T75”の規格に基づくものである。これは、スロッテッドアロハ通信方式により、路側機がスロットを区切りながら当該路側機側の主導で通信を行うものである。
【0021】
図2は、ITS車載器に路側機からダウンリンクされ、ITS車載器から路側機へアップリンクされる無線信号の1フレームのデータ構成の一例を示す説明図である。1フレームのデータの冒頭にはFCMC(フレーム・コントロール・メッセージ・チャンネル)21が設けられ、符号22は各スロットを示している。この例では、ITS車載器と路側機との通信は全二重方式で行なわれ、1フレーム中にはダウンリンク(D/L)が4スロット分(図2の上段)、アップリンク(U/L)が4スロット分(図2の下段)含まれる。すなわち、同一時間帯にダウンリンクのスロット22とアップリンクのスロット22が存在している。FCMC21では、ある車のITS車載器に対するダウンリンクがどのスロット22であるのかが指定され、また、ある車のITS車載器に対してアップリンクをどのスロット22で行なえという指定がされる。FCMC21は、ダウンリンクのデータのみに含まれている。図2において図示していないが、ダウンリンクの各スロット22の先頭部分にはいずれもプリアンブル信号(PR)と、ユニークワード信号(UW)とが設けられている。
【0022】
図3は、FCMC21のFCMS(フレーム・コントロール・メッセージ・スロット)フォーマットを説明する説明図である。(a)はASK変調方式の場合のFCMSフォーマットを示し、(b)はπ/4シフトQPSK変調方式の場合のFCMSフォーマットを示している。
【0023】
FCMC21には、何番目のスロット22に対しどのITS車載器が何を応答せよという情報が含まれている。また、その応答の際に使用する変調方式を指定する情報(ASK変調方式かπ/4シフトQPSK変調方式か)も含まれている。ITS車載器は、これらの情報を解析し、その情報に対応したタイミングで、その指定されているスロット22においてデータをアップリンクする。
【0024】
FCMC21には、2オクテッド(ASK変調方式の場合)又は16オクテッド(π/4シフトQPSK変調方式の場合)のプリアンブル信号(PR)と、4オクテッドのユニークワード信号(UW1)と、2オクテッドの誤り検査信号(CRC)が付加され、その前後にはガードタイムt0,t2が設定されている。また、π/4シフトQPSK変調方式の場合は、プリアンブル信号PRの前に1オクテッド長(4シンボル)のランプビット(R)が付加されている。
【0025】
また、SCI(1)からSCI(8)までのSCI信号を含み、各SCI信号はCI信号(CI(1)からCI(8)まで)とLID信号(LID(1)からLID(8)まで)とからなる。
【0026】
図4は、CI信号のフォーマットを説明する説明図である。CI信号は、8ビットのデータからなり、bit番号1,2はスロット識別子(SI)である。スロット識別子SIはスロット22の属性を示すデータである。スロット識別子SIにより、スロット22をMDSとして割り付けるのか、ACTSとして割り付けるのか、あるいは、WCNSとして割り付けるのかがわかる。
【0027】
bit番号5〜7にはMDCの内容を示すデータである信号種別識別子(ST)が格納されうる。
【0028】
また、bit番号3,4にはMDC,WCNCのデータ伝送速度を識別する信号伝送速度識別子(DRI)が格納される。
【0029】
図5は、信号伝送速度識別子DRIの内容について説明する説明図である。bit番号3,4(b3,b4)は、ASK変調方式で信号伝送速度が1024kbpsのときには「00」であり、π/4シフトQPSK変調方式で信号伝送速度が4096kbpsのときには「11」である。また、「その他」の場合はシステム拡張のための予約である。
【0030】
よって、信号伝送速度識別子DRIの値を判定することにより、各スロット22がASK変調方式なのかπ/4シフトQPSK変調方式なのかを判断することができる。また、その通信速度も判断することができる。
【0031】
前述のフレームメッセージ解析部7は、FCMC21のCI信号に含まれている信号伝送速度識別子DRIを解析することにより、各スロット22がASK変調方式なのかπ/4シフトQPSK変調方式なのかを判断し、かつ、各スロット22の通信速度も判断することができる。
【0032】
図6は、図1を参照して説明した狭域通信受信装置1に対する比較例となる狭域通信受信装置101の電気的な説明のブロック図である。図6において、図1と同一符号の構成要素は図1を参照して前述した狭域通信受信装置1と同様である。
【0033】
狭域通信受信装置101が狭域通信受信装置1と異なるのは、まず、切替部10の切り替えによりASK復調部4とπ/4シフトQPSK復調部5とを交互に切り替えて、ASK復調部4からの信号とπ/4シフトQPSK復調部5からの信号とを交互に変調方式判定部8に入力している点にある。これにより、変調方式判定部8は、ASK復調部4からの信号とπ/4シフトQPSK復調部5からの信号とのうち、例えばASK復調部4からの信号を判定して当該信号がASK変調か否かを判断し、これによりASK変調でなかったときはπ/4シフトQPSK復調部5からの信号を判定して当該信号がπ/4シフトQPSK変調か否かを判断する。こうして変調方式がわかると、切替部10により、その変調方式から復調された信号(ASK変調ならASK復調部4からの信号、π/4シフトQPSK変調ならπ/4シフトQPSK復調部5からの信号)に切り替えて、当該信号を処理部11に出力するようにする。
【0034】
この狭域通信受信装置101では、狭域通信受信装置1のようにASK復調部4からの信号とπ/4シフトQPSK復調部5からの信号との変調方式を同時並行的に特定するものではなく、切替部10によりASK復調部4からの信号とπ/4シフトQPSK復調部5からの信号とを切り替えて、ASK復調部4からの信号とπ/4シフトQPSK復調部5からの信号とを交互に判断して変調方式を特定するものである。
【0035】
よって、変調方式を特定するためには多くの時間を要してしまう。そして、本システムの狭域通信は移動中の車と路側機との間で行なわれるものであるため、変調方式を特定するために長時間を要することにより通信エリアが見かけ上狭くなってしまうという不具合がある。
【0036】
これに対して、狭域通信受信装置1は、ASK復調部4からの信号とπ/4シフトQPSK復調部5からの信号とを同時並行的に判断して変調方式を特定するので、変調方式を特定するために短時間しか要しないため、通信エリアを見かけ上拡大することができる。
【0037】
また、前述のとおり、ダウンリンクの各スロット22の冒頭部分にはユニークワード(UW)が設けられている。図7は、ASK変調方式、π/4シフトQPSK変調方式それぞれの場合のユニークワードUWについて説明する説明図である。ユニークワードUW2はASK変調方式の場合にダウンリンクのスロット22に用いられ、ユニークワードUW2A,UW2Bはπ/4シフトQPSK変調方式の場合にダウンリンクのスロット22に用いられる。そして、ダウンリンクの各スロット22のユニークワードUWを解析することにより、ダウンリンクで使用されている変調方式がASK変調方式なのか、π/4シフトQPSK変調方式なのかを判定することができる。
【0038】
しかしながら、アップリンクの場合は、FCMC21を解析して当該スロット22でどのようなデータをアップリンクするかを判断しなければならない。
【0039】
これらの理由により、ユニークワードUWの検出とFCMC21の解析をソフトウェアに基づく処理によって行なって変調方式を判定しようとすると、通信処理におけるソフトウェアによる処理の負担が重くなってしまう。
【0040】
これに対し、狭域通信受信装置1は、FCMC21に含まれる信号伝送速度識別子DRIを解析することにより、アップリンク、ダウンリンクすべてのスロット22においてハードウェアにより高速に変調方式を判定することができ、また、各スロット22の通信速度を判断することものできるので、通信処理におけるソフトウェアに基づく処理の負荷を軽くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施の形態であるITS車載器に用いられる狭域通信受信装置の機能ブロック図である。
【図2】ITS車載器に路側機からダウンリンクされ、ITS車載器から路側機へアップリンクされる無線信号の1フレームのデータ構成を示す説明図である。
【図3】FCMCのFCMSフォーマットを説明する説明図である。
【図4】CI信号のフォーマットを説明する説明図である。
【図5】信号伝送速度識別子の内容について説明する説明図である。
【図6】比較例となる狭域通信受信装置の電気的な説明のブロック図である。
【図7】ASK変調方式、π/4シフトQPSK変調方式それぞれの場合のユニークワードについて説明する説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1 狭域通信受信装置
2 ASK受信部
3 π/4シフトQPSK受信部
4 ASK復調部
5 π/4シフトQPSK復調部
6 UW検出部
7 フレームメッセージ解析部
8 変調方式判定部
9 タイミング制御部
10 切替部
11 処理部
12 ディスプレイ
13 スピーカ
21 FCMC
22 スロット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
狭域通信の信号を受信する受信手段と、
前記受信手段で受信した信号を第1の変調方式を復調するための第1の復調方式で復調する第1の復調手段と、
第1の復調手段による復調と並行して前記受信手段で受信した信号を第2の変調方式を復調するための第2の復調方式で復調する第2の復調手段と、
第1の復調手段で復調後の第1の受信信号と第2の復調手段で復調後の第2の受信信号とを並行してそれぞれ解析する解析手段と、
前記解析手段による解析の結果から前記受信手段で受信した信号の変調方式が前記第1の変調方式で変調されているか前記第2の変調方式で変調されているかを判定する変調方式判定手段と、
前記変調方式判定手段により判定された変調方式で変調されていた前記第1の受信信号又は前記第2の受信信号を選択的に出力する選択出力手段と、
前記選択出力手段で選択的に出力された前記第1の受信信号又は前記第2の受信信号に基づいて所定の処理を行う処理手段と、
を備え、
前記変調方式判定手段は、通信速度の情報を示していて前記第1の受信信号又は前記第2の受信信号に含まれている信号伝送速度識別子により前記判定を行なう、
狭域通信受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−267945(P2009−267945A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−117397(P2008−117397)
【出願日】平成20年4月28日(2008.4.28)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】