説明

環境試験装置

【課題】 温度環境に対する電子デバイスの性能評価を行う環境試験装置において、エアーの吹き出しに基づく騒音を低減すると共に電子デバイスの性能評価の精度を向上できるようにする。
【解決手段】 載置面15aに配された電子デバイス17を覆い、前記載置面15aと共に前記電子デバイス17を含む中空の主空間S1を形成する主蓋体45と、該主蓋体45を覆い、前記載置面15aと共に前記主蓋体45を含む中空の補助空間S2を形成する補助蓋体ユニット47と、該補助蓋体ユニット47の外方側から前記主蓋体45の内側の主空間S1に所定温度のエアーを供給する配管部57とを備えることを特徴とする環境試験装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子デバイスの温度環境に対する性能評価を行う環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機やカーステレオ、デジタルカメラ、パーソナルコンピュータ等の各種電子機器は、様々な温度環境において使用することがある。このため、電子機器に搭載される電子デバイスには、この温度環境に対する耐久性が要求されている。従来では、この電子デバイスの温度環境に対する性能評価を行うために、電子デバイスの周囲を所定温度に設定して、電子デバイスの動作や電子デバイス内部の電気的な導通を確認する環境試験装置を使用している(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ところで、この種の環境試験装置には、ステージや回路基板、ウエハ等の表面に配された電子デバイスの周囲を所定温度に設定するアダプタを備えたものもある。この電子デバイスには、大規模集積回路(LSI)や半導体素子だけではなく、これを搭載した回路基板、ウエハに形成される半導体チップ、複数の半導体チップを形成したウエハ等も含まれる。
このアダプタは、ステージや回路基板、ウエハ等の表面に設けられた電子デバイスを覆い、前記表面と共に電子デバイスを含む中空の内部空間を形成するように構成されている。このアダプタの内部空間には、所定温度のエアーが供給されるようになっており、このエアーを継続的に供給することによって電子デバイスの周囲を所定温度に保持することができる。
なお、環境試験装置における電子デバイスの性能評価は、電子デバイスから出力される出力信号に基づいて行われ、出力信号は、例えば、電子デバイスに電気接続された配線によってアダプタの外方に取り出される。
【特許文献1】特開平6―53297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の環境試験装置において、アダプタの内部空間にエアーを供給する際には、アダプタとステージや回路基板、ウエハ等の表面との隙間を介して、内部空間から外方にエアーが吹き出し、このエアーの吹き出しに基づいて大きな騒音が発生するという問題がある。なお、この騒音の大きさは、内部空間に供給されるエアーの流量に比例している。すなわち、内部空間に供給されるエアーの流量を小さくすることで騒音の低減を図ることは可能である。
しかしながら、エアーの流量を小さくする場合には、内部空間を所定温度に到達させるまでの時間が長くなるため、電子デバイスの性能評価の時間的な効率が低下するという問題がある。
【0005】
また、アダプタの内部空間の温度をアダプタの外方よりも低い温度に設定する場合に、内部空間を所定温度に到達させる時間が長くなると、湿度の高い外気等が侵入して電子デバイスや電子回路基板等から出力信号を取り出すための配線に結露が発生し、配線の抵抗値等の特性が変化する。したがって、この配線の特性変化が電子デバイスからの出力信号に影響を与えて、電子デバイスの性能評価の精度が低下する虞もある。
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、エアーの吹き出しに基づく騒音を低減すると共に電子デバイスの性能評価を効率よく、かつ、この性能評価の精度を向上できる環境試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に係る発明は、載置面に配された電子デバイスを覆い、前記載置面と共に前記電子デバイスを含む中空の主空間を形成する主蓋体と、該主蓋体を覆い、前記載置面と共に前記主蓋体を含む中空の補助空間を形成する補助蓋体ユニットと、該補助蓋体ユニットの外方側から前記主蓋体の内側の主空間に所定温度のエアーを供給する配管部とを備えることを特徴とする環境試験装置を提案している。
【0007】
本発明に係る環境試験装置を用いて温度に対する電子デバイスの性能評価を行う際には、載置面に配された電子デバイスを主蓋体により覆うように、主蓋体及び補助蓋体ユニットを載置面に配する。この状態において、配管部を介して主空間に所定温度のエアーを供給し、主空間の圧力が上昇した際には、主蓋体と載置面との隙間から補助空間に向けてエアーが吹き出す。そして、主空間から吹き出されたエアーによって補助空間の圧力が上昇すると、補助蓋体ユニットと載置面との隙間から補助蓋体ユニットの外方側の空間にエアーが吹き出すことになる。
【0008】
この際、補助空間と補助蓋体ユニットの外方側の空間との圧力差は、主空間と外方側の空間との圧力差よりも小さくなるため、主空間に供給されるエアーの流量を減らすことなく、補助空間から外方側の空間に吹き出すエアーの流量を小さくすることができる。
また、主空間に供給するエアーの流量を減らす必要が無くなるため、エアーの供給を開始してから、主空間が所定温度に到達するまでの時間が長くなることを防止できる。さらに、主空間に供給されたエアーは、補助空間を介してから外方側の空間に吹き出されるため、主空間と補助空間との間の温度差を主空間と外方側の空間との間の温度差よりも小さく設定することができる。
【0009】
また、上述と同様に、補助空間と外方側の空間との間の温度差を主空間と外方側の空間との間の温度差よりも小さく設定することができる。このため、エアーによる主空間の設定温度が外方側の空間の温度よりも低い場合でも、補助空間と外方側の空間との間の温度差を小さく設定でき、補助蓋体ユニットに隣接する外方側の空間に結露が発生することを抑制できる。すなわち、電子デバイスから出力された出力信号を、例えば、配線を利用して主空間から補助空間を介して外方側の空間に取り出しても、この配線に結露が発生することを抑制して、結露に基づく電子デバイスや電子回路基板等の配線の抵抗値等の特性変化を低く抑えることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の環境試験装置において、前記補助蓋体ユニットが、複数の補助蓋体からなり、これら複数の補助蓋体が、順次内方から外方に向けて前記載置面に重ねて配され、相互に隣接する前記補助蓋体及び前記載置面によって画定される中空の隙間空間が形成されることを特徴とする環境試験装置を提案している。
【0011】
この発明に係る環境試験装置によれば、隣接する2つの補助蓋体によって挟まれた隙間空間を補助空間の外方側に形成することにより、主空間から補助空間及び隙間空間を介して補助蓋体ユニットの外方側の空間に至るまでの圧力勾配をさらに緩やかに設定することができる。したがって、隙間空間から外方側の空間に吹き出すエアーの流量をさらに低減させることができる。
また、隙間空間を追加することにより、主空間から補助空間及び隙間空間を介して外方側の空間に至るまでの温度勾配もさらに緩やかにすることができるため、主空間の温度変化をさらに小さく抑えることができる。
【0012】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の環境試験装置において、少なくとも1つの前記補助蓋体に、その内面から外面に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする環境試験装置を提案している。
この発明に係る環境試験装置によれば、主空間にエアーを吹き出すことで隙間空間の圧力が上昇した際には、補助蓋体に形成された貫通孔を通じて補助蓋体の外側に位置する隙間空間や外方側の空間にエアーを徐々に逃がすことができる。したがって、補助蓋体と載置面との隙間から多くのエアーが集中的に漏れ出ることを防止できる。
【0013】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の環境試験装置において、前記主蓋体に、その内面から外面に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする環境試験装置を提案している。
この発明に係る環境試験装置によれば、主空間にエアーを吹き出して主空間の圧力が上昇した際には、主蓋体に形成された貫通孔を通じて外側にエアーを徐々に逃がすことができる。したがって、主蓋体と載置面との隙間から多くのエアーが集中的に漏れ出ることを防止できる。
【0014】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の環境試験装置において、前記補助蓋体ユニットを覆い、前記載置面全体と共に前記補助蓋体ユニットを含む中空の内部空間を形成する外殻蓋体を備え、前記主蓋体及び補助蓋体ユニットが、前記外殻蓋体に対して移動可能となっていることを特徴とする環境試験装置を提案している。
【0015】
この発明に係る環境試験装置によれば、載置面上の内部空間の温度を、外殻蓋体の外方側に位置する外方空間の温度よりも、所定温度に近い温度に保持することができる。そして、主蓋体及び補助蓋体ユニットにより電子デバイスを覆い被せた状態から、主蓋体及び補助蓋体ユニットを載置面から離間させることで主空間と内部空間とが相互に連結されると、主空間の温度は内部空間の温度と同じとなる。すなわち、主空間の温度を外方空間の温度よりも所定温度に近い温度に保持することができる。
したがって、この状態から、これら主蓋体及び補助蓋体ユニットを再度電子デバイスに覆い被せても、電子デバイスを内包した主空間を所定温度に到達させるために要するエアーの供給量を小さく設定することができる。
【0016】
請求項6に係る発明は、請求項5に記載の環境試験装置において、前記外殻蓋体が、前記内部空間を前記外殻蓋体の外方側の空間に対して密閉するように構成されていることを特徴とする環境試験装置を提案している。
この発明に係る環境試験装置によれば、外殻蓋体により載置面全体を外方側の空間(外方空間)に対して密閉することにより、外方空間から内部空間に外気が侵入することを防止できるため、主空間から内部空間に吹き出されたエアーのみにより内部空間の空気を構成することができる。したがって、内部空間の温度が主空間や補助空間の温度よりも高くても、内部空間の露点を主空間や補助空間の露点と同じに設定することができる。この結果として、主空間にエアーを供給して主空間や補助空間の温度を低くしても、補助蓋体ユニットの外方側、すなわち、内部空間に結露が発生することを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1に係る発明によれば、補助空間から外方側の空間に吹き出すエアーの流量を小さくすることができるため、主空間に供給されるエアーの流量を減らすことなく、外方側の空間へのエアーの吹き出しに基づく騒音を低減することができる。
また、騒音を低減するために、主空間に供給するエアーの流量を減らす必要が無くなるため、エアーの供給を開始してから主空間が所定温度に到達するまでの時間が長くなることを防止して、電子デバイスの性能評価の時間的な効率の向上を図ることができる。
【0018】
さらに、主空間と補助空間との間の温度差を主空間と外方側の空間との間の温度差よりも小さく設定することができるため、主空間へのエアーの供給量が少なくても、主空間の温度変化を抑えて、容易に主空間を所定温度に保持することができる。したがって、主空間へのエアーの供給量を少なくすることにより、環境試験装置のランニングコスト削減を図ることも可能となる。
また、主空間内を外方側の空間よりも低い温度に設定しても、外方側の空間に結露が発生することを抑制できる、特に、電子デバイスの出力信号を取り出す配線に結露が発生することを抑制できる。このため、配線の結露に基づいて出力信号が変化することを抑制して、主蓋体により覆われた電子デバイスの性能評価の精度向上を図ることができる。
【0019】
また、請求項2に係る発明によれば、補助空間と補助蓋体ユニットの外方側の空間との間に隙間空間を形成することにより、隙間空間から外方側の空間に吹き出すエアーの流量をさらに低減させることができるため、このエアーの吹き出しに基づく騒音をさらに低減することができる。
さらに、主空間の温度変化をさらに小さく抑えることができるため、さらに容易に主空間を所定温度に保持することができる。
【0020】
また、請求項3及び請求項4に係る発明によれば、主蓋体や補助蓋体に貫通孔を形成しておくことにより、主蓋体や補助蓋体と載置面との隙間から多くのエアーが集中的に漏れ出ることを防止できるため、このエアーの吹き出しに伴う騒音をさらに低減することができる。
【0021】
また、請求項5に係る発明によれば、主蓋体及び補助蓋体ユニットを載置面に対して移動させても、主空間を所定温度に到達させるために要するエアーの供給量を小さく設定することができるため、主空間へのエアーの供給量を少なくして、環境試験装置のランニングコストの削減をさらに図ることができる。
【0022】
また、請求項6に係る発明によれば、外殻蓋体により載置面全体を外方空間に対して密閉することにより、外方空間から内部空間に外気が侵入することを防止して、内部空間の露点を主空間や補助空間の露点と同じに設定することができるため、補助蓋体ユニットの外方側に結露が発生することを確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1から図4は、本発明の第1の実施形態を示している。図1に示すように、この環境試験装置1は、装置本体3に、評価対象となる電子デバイスを配するためのXYステージ5と、XYステージ5の上方に配されるヘッド7とを設けて構成されている。このヘッド7には、配管9を介してコンプレッサ11、ドライヤー13及び熱交換機(不図示)が連結されている。
コンプレッサ11は、環境試験装置1のヘッド7に向けて所定温度(例えば、―80℃〜225℃)のエアーを供給するものである。ドライヤー13及び熱交換機は、コンプレッサ11から吐出された所定温度のエアーを乾燥させて、エアーの露点を低下させる役割を果たすものである。ドライヤー13及び熱交換機から吐出されたエアーは、配管9を介してヘッド7に供給される。
【0024】
環境試験装置1のXYステージ5は、略板状に形成されており、その表面5aに沿う方向(X軸方向及びY軸方向)に移動可能となるように、装置本体3に取り付けられている。このXYステージ5の表面5aには、例えば、図2に示すように、表面(載置面)15aに複数の半導体装置(電子デバイス)17〜21を搭載した回路基板15が配される。この回路基板15は、携帯電話機やカーステレオ等の各種電子機器に搭載されるものであり、各半導体装置17〜21は、電子機器の機能を発揮させる役割を果たすものである。
この回路基板15の表面15aには、半導体装置17〜21の他に、各半導体装置17〜21を相互に電気的に接続する配線部23や、これら半導体装置17〜21及び配線部23から構成される電子回路25に電気接続された電源用端子27、入力端子29及び出力端子31が設けられている。
【0025】
電源用端子27は、回路基板15の各半導体装置17〜21に電力を供給する電源33と電気接続するものである。また、入力端子29は、各半導体装置17〜21の機能を発揮させる電気信号(以下、入力信号と呼ぶ。)を入力する入力装置35と電気接続するものである。さらに、出力端子31は、各半導体装置17〜21から出力された電気信号(以下、出力信号と呼ぶ。)について、各半導体装置17〜21や電子回路25の性能評価に使用するデータを取得する出力装置37に電気接続するものである。この出力装置37としては、例えば、スピーカやオシロスコープ等が挙げられる。
これら電源33、入力装置35及び出力装置37は、装置本体3に設けられている。
【0026】
図1に示すように、ヘッド7は、ヘッド本体39と、ヘッド本体39及びXYステージ5の間に配されるアダプタ41とを備えている。
ヘッド本体39は、アダプタ41がXYステージ5の表面5aに対して近接及び離間するように、XYステージ5の表面5aに垂直な方向(Z軸方向)に移動可能となっている。このヘッド本体39には、配管9から供給されるエアーをアダプタ41まで到達させるための連結配管43が設けられている。
アダプタ41は、図3,4に示すように、いずれか1つの半導体装置17〜21を覆う第1の蓋体(主蓋体)45と、第1の蓋体45をその外方側から覆う補助蓋体ユニット47と、これら第1の蓋体45、補助蓋体ユニット47及び回路基板15の表面15a全体を覆う外殻蓋体49とを備えている。
【0027】
第1の蓋体45は、ポリ4フッ化エチレン等の耐熱性の高い樹脂により形成されており、回路基板15の表面15aに向けて開口する略直方体の箱体部51と、箱体部51の底壁部51aから外方に突出して形成された蓋体配管53とを備えている。
箱体部51は、その開口部51bを回路基板15の表面15aに配すると共に半導体装置17〜21を覆った状態において、回路基板15の表面15aと共に中空の第1の空間(主空間)S1を形成するものである。この箱体部51には、その内面51cから外面51dに貫通する貫通孔55が複数形成されている。
蓋体配管53は、ヘッド本体39の連結配管43の先端に着脱可能に連結されるものであり、連結配管43を介してドライヤー13及び熱交換機から吐出されたエアーを通す配管9の流路を第1の空間S1まで連通させるものである。この蓋体配管53は、ヘッド本体39の連結配管43と共に、コンプレッサ11、ドライヤー13及び熱交換機から第1の蓋体45の第1の空間S1に向けて所定温度のエアーを供給する配管部57を構成している。
【0028】
補助蓋体ユニット47は、第2の蓋体(補助蓋体)59及び第3の蓋体(補助蓋体)61からなり、これら第2,第3の蓋体59,61は、第1の蓋体45側から順次内方から外方に向けて重ねて配されている。第2,第3の蓋体59,61は、それぞれガラスやシリコンゴム等の薄膜状の樹脂からなり、回路基板15の表面15aに向けて開口する略有底円筒状に形成されている。
第2,第3の蓋体59,61の底面部には、配管部57を挿通させて第2,第3の蓋体59,61を配管部57に取り付けるための挿通孔63,65がそれぞれ形成されている。なお、配管部57と挿通孔63,65との間には、隙間が形成されないように、この挿通孔63,65に配管部57を挿通させることが好ましい。
【0029】
第2の蓋体59は、その開口部59bを回路基板15の表面15aに配すると共に第1の蓋体45を覆った状態において、回路基板15の表面15aと共に中空の第2の空間(補助空間)S2を形成するものである。第3の蓋体61は、その開口部61bを回路基板15の表面15aに配すると共に第2の蓋体59を覆った状態において、回路基板15の表面15aと共に中空の第3の空間(隙間空間)S3を形成するものである。
これら第2,第3の蓋体59,61には、その内面59c,61cから外面59d,61dに貫通する貫通孔67,69が複数形成されている。なお、第1,第2の蓋体45,59の貫通孔55,67は、第3の蓋体61の貫通孔69よりも小さい径とすることが好ましい。また、第1の蓋体45の貫通孔55は、第2,第3の蓋体59,61の貫通孔67,69の数よりも多く形成することが好ましい。
【0030】
外殻蓋体49は、シリコンフィルム等の薄膜状の樹脂から形成されており、回路基板15の表面15aに向けて拡径する略筒状に形成されている。この外殻蓋体49は、その一方の開口部49aにヘッド本体39を挿通させることで、ヘッド本体39に取り付けられている。なお、ヘッド本体39と一方の開口部49aとの間には、隙間が形成されないように、一方の開口部49aにヘッド本体39を挿通させることが好ましい。
また、外殻蓋体49の他方の開口部49bは、回路基板15の周縁に配されるようになっている。この状態においては、外殻蓋体49が第3の蓋体61及び回路基板15の表面15aと共に中空の第4の空間(内部空間)S4を形成することになる。すなわち、回路基板15の表面15a全体が第4の空間S4に含まれることになる。
なお、この外殻蓋体49は、柔軟性を有しており、XYステージ5とヘッド7とを相対的に移動させても、他方の開口部49bが回路基板15の周縁に密着してずれることがないように構成されている。すなわち、第4の空間S4は外殻蓋体49の外方空間に対して密閉することができる。
【0031】
また、この外殻蓋体49には、その外方空間側に延びる2本のパイプ71,73が連結されており、一方のパイプ71には、パージガスを第4の空間S4内に供給するためのコンプレッサ(不図示)が連結されている。このパージガスは、第4の空間S4内の露点を低下させて、第4の空間S4に結露が発生することを防ぐ役割を果たす。
また、他方のパイプ73には、第4の空間S4内の圧力を制御するための真空ポンプ(不図示)が連結されている。この真空ポンプは、第4の空間S4の圧力が、外殻蓋体49の外方空間と略同等となるように制御される。
【0032】
次に、以上のように構成された環境試験装置1を用いた半導体装置17〜21の性能評価方法について説明する。
この環境試験装置1により温度環境に対する半導体装置17〜21の性能を評価する際には、はじめに、半導体装置17〜21を含む電子回路25を構成した回路基板15をXYステージ5の表面5aに配し、回路基板15の電源用端子27、入力端子29及び出力端子31をそれぞれ電源33、入力装置35及び出力装置37に接続する。
【0033】
次いで、外殻蓋体49により回路基板15の表面15a全体を覆い、評価対象となる一の半導体装置17が第1の蓋体45の下方側に位置するように、XYステージ5をX軸方向及びY軸方向に適宜移動させる。その後、ヘッド7をZ軸方向に移動させて、第1の蓋体45が半導体装置17を覆うように、第1〜第3の蓋体45,59,61の開口部45b,59b,61bを回路基板15の表面15aに配する。
この状態において、他の半導体装置18〜21は、第3の蓋体61の外側に隣接して位置している、すなわち、第4の空間S4に含まれている。また、一の半導体装置17から他の半導体装置18〜21まで延びる各配線部23は、4つの空間S1〜S4にわたって配されている。
【0034】
以上のように、回路基板15及びアダプタ41を配した後には、第1の空間S1を所定温度に設定する。この際には、はじめに、一方のパイプ71から第4の空間S4にパージガスを供給し、第4の空間S4を乾燥させて外方空間の露点よりも低下させると共に、第4の空間S4の圧力が外方空間と同等となるように他方のパイプ73から第4の空間S4の空気を吸引する。
次いで、所定温度のエアーを、コンプレッサ11、ドライヤー13及び熱交換機から配管9及び配管部57を介して、第1の空間S1に供給する。この際には、第1の空間S1内の圧力が上昇し、第1の蓋体45の貫通孔55や、第1の蓋体45と回路基板15の表面15aとの隙間から、第2の空間S2に向けてエアーが吹き出ることになる。
【0035】
そして、第1の空間S1から吹き出されたエアーによって第2の空間S2内の圧力が上昇すると、第2の蓋体59の貫通孔67や、第2の蓋体59と回路基板15の表面15aとの隙間から、第3の空間S3に向けてエアーが吹き出る。さらに、このエアーの吹き出しによって第3の空間S3内の圧力が上昇すると、第3の蓋体61の貫通孔69や、第3の蓋体61と回路基板15の表面15aとの隙間から、第4の空間S4に向けてエアーが吹き出ることになる。
なお、第4の空間S4に向けてエアーが吹き出ても、第4の空間S4の圧力は、パイプ73を介して外殻蓋体49の外方空間と略同等となるように制御され、また、第4の空間S4は外方空間に対して密閉されているため、第4の空間S4から外方空間にエアーが吹き出すことはない。
【0036】
このエアーの吹き出しの際には、第1の空間S1と第2の空間S2との圧力差、第2の空間S2と第3の空間S3との圧力差、並びに、第3の空間S3と第4の空間S4との圧力差が、第1の空間S1と第4の空間S4や外方空間との圧力差よりも小さくなる。すなわち、第1の空間S1から、第2,第3の空間S2,S3を介し、第4の空間S4に至るまでの圧力勾配を緩やかに設定することができる。このため、第1の空間S1に供給されるエアーの流量を減らすことなく、第3の空間S3から第4の空間S4に吹き出すエアーの流量を小さくすることができる。
また、第1の空間S1に供給されるエアーの流量を減らす必要が無くなるため、エアーの供給を開始してから第1の空間S1内の温度が所定温度に到達するまでの時間が長くなることを防止できる。
【0037】
さらに、第1の空間S1に供給されたエアーは、第2,第3の空間S2,S3を介してから第4の空間S4に吹き出されるため、各蓋体45,59,61,49を介して相互に隣接する空間S1〜S4及び外方空間の各温度差は、第1の空間S1と外方空間との温度差よりも小さくなる。すなわち、第1の空間S1から、第2〜第4の空間S2〜S4を介し、外方空間に至るまでの温度勾配も緩やかに設定することができる。したがって、第1の空間S1の温度が所定温度に到達した後に、第1の空間S1へのエアーの供給量を減らしても、第1の空間S1の温度変化を小さく抑えることができる。
【0038】
また、エアーによる第1の空間S1の設定温度が第4の空間S4の温度より低い場合には、第4の空間S4に結露が発生することも防止できる。
すなわち、第4の空間S4は外殻蓋体49により外方空間に対して密閉されているため、外方空間から第4の空間S4に外気が侵入することがない。このため、第4の空間S4の空気は、パイプ71から流入されたパージガスや第3の空間S3から吹き出たエアーによって構成することができ、第4の空間S4の露点を低く設定することができる。また、上述したように、第1の空間S1から外方空間までの温度勾配は緩やかに設定されるため、第3の空間S3と第4の空間S4との温度差を小さく設定することができる。
以上のことから、第3の空間S3から第4の空間S4にエアーが吹き出しても、第3の蓋体61の近傍に位置する第4の空間S4、特に、配線部38や他の半導体装置18〜21に結露が発生することを防止できる。したがって、配線部38の抵抗値や他の半導体装置18〜21の特性が変化することはない。
【0039】
また、一の半導体装置17の性能評価が終了した後に、別の半導体装置18〜21の性能評価を行う場合には、はじめに、ヘッド7をZ軸方向に移動させて、第1〜第3の蓋体45,59,61を回路基板15の表面15aから離間させる。次いで、評価対象となる別の半導体装置18〜21が第1の蓋体45の下方側に位置するように、XYステージ5をX軸方向及びY軸方向に適宜移動させ、第1の蓋体45が別の半導体装置18〜21を覆うように、第1〜第3の蓋体45,59,61の開口部45b,59b,61bを回路基板15の表面15aに配する。なお、これらXYステージ5及びヘッド7の移動の際において、外殻蓋体49は回路基板15の表面15a全体を覆った状態に保持されている。
【0040】
これら第1〜第3の蓋体45,59,61の移動の際には、第1〜第4の空間S1〜S4が相互に連結されるため、別の半導体装置18〜21に第1の蓋体45を覆い被せた状態においては、第1の空間S1の温度が、第4の空間S4の温度と同じとなる。ここで、前述したように、外殻蓋体49は回路基板15の表面15a全体を覆っているため、エアーの所定温度と第4の空間S4との温度差は、エアーの所定温度と外方空間との温度差よりも小さくなる。すなわち、第1の空間S1の温度を外方空間の温度よりもエアーの所定温度に近い温度に保持しておくことができる。
したがって、別の半導体装置18〜21の性能評価を行う際には、第1の空間S1の温度を第4の空間S4と同じ温度からエアーの所定温度まで変化させればよいため、外殻蓋体49を設けない場合と比較して、第1の空間S1を再び所定温度に到達させるために要するエアーの供給量を小さく設定することができる。
【0041】
上記の環境試験装置1によれば、第3の空間S3から第4の空間S4に吹き出すエアーの流量を小さくし、また、第4の空間S4から外方空間にエアーが吹き出すこともないため、第1の空間S1に供給されるエアーの流量を減らすことなく、第4の空間S4や外方空間へのエアーの吹き出しに基づく騒音を低減することができる。
また、騒音を低減するために、第1の空間S1に供給されるエアーの流量を減らす必要が無くなるため、エアーの供給を開始してから第1の空間S1が所定温度に到達するまでの時間が長くなることを防止して、半導体装置17〜21の性能評価の時間的な効率の向上を図ることもできる。
【0042】
さらに、コンプレッサ11、ドライヤー13及び熱交換機から供給されたエアーにより、第1の空間S1の温度が所定温度に到達した後に、第1の空間S1へのエアーの供給量を減らしても、第1の空間S1の温度変化を小さく抑えることができるため、第1の空間S1へのエアーの供給量を減らして、環境試験装置1のランニングコスト削減を図ることができる。
また、第4の空間S4、特に、配線部38や他の半導体装置18〜21に結露が発生することを防止できるため、配線部38の抵抗値や他の半導体装置18〜21の特性が変化することがない。すなわち、配線部38や他の半導体装置18〜21の結露に基づいて、回路基板15の電子回路25から出力装置37に出力される出力信号が変化することを防止できるため、第1の蓋体45により覆われた半導体装置17の性能評価の精度向上を図ることができる。
【0043】
さらに、複数の半導体装置17〜21の性能評価を順番に行う際には、外殻蓋体49を回路基板15の表面15a全体に被せて配しておくことにより、第1の空間S1と第4の空間S4との温度差を、第1の空間S1と外方空間との温度差よりも小さくできるため、第1〜第3の蓋体45,59,61を回路基板15の表面15aに対して移動させても、第1の空間S1を所定温度まで到達させるために要するエアーの供給量を小さく設定することができる。したがって、第1の空間S1へのエアーの供給量を少なくして、環境試験装置1のランニングコストの削減をさらに図ることができる。
【0044】
また、第1〜第3の蓋体45,59,61に複数の貫通孔55,67,69を形成しておくことにより、第1〜第3の蓋体45,59,61と回路基板15の表面15aとの隙間から多くのエアーが集中的に吹き出すことを防止できるため、このエアーの吹き出しに伴う騒音をさらに低減することができる。
【0045】
なお、上記の実施の形態において、補助蓋体ユニット47は、2つの蓋体59,61から構成されるとしたが、これに限ることはなく、例えば、1つの蓋体から構成されるとしてもよいし、3つ以上の蓋体から構成されるとしても構わない。
この構成の場合でも、補助蓋体ユニット47を構成する各蓋体は、上記実施形態の第2,第3の蓋体59,61と同様に、ガラスやシリコンゴム等の薄膜状の樹脂から形成されることが好ましい。また、補助蓋体ユニットを3つ以上の蓋体から構成する場合には、上記実施形態と同様に、相互に隣接する補助蓋体ユニット47の蓋体と回路基板15の表面15aとによって画定される隙間空間が形成されるように、補助蓋体ユニット47の蓋体を順次内方から外方に向けて重ねて配すればよい。
【0046】
また、アダプタ41は、外殻蓋体49を備えるとしたが、これに限ることはなく、少なくとも第1の蓋体45と補助蓋体ユニット47とを備えていればよい。
この構成の場合には、回路基板15の表面15aの一部が外方空間に含まれることになるが、補助蓋体ユニット47を設けるだけでも、第1の空間S1から外方空間までの温度勾配や圧力勾配を緩やかに設定することができる。このため、エアーの吹き出しに基づく騒音を低減したり、第1の空間S1内の温度をエアーの設定温度に容易に保持したり、また、外方空間に位置する回路基板15の表面15aに結露が発生することを抑制することは十分に可能である。
【0047】
さらに、第1の蓋体45は、1つの半導体装置17〜21を覆うように構成されるとしたが、電子回路25全体の評価を行う場合には、これに限ることはなく、例えば、この電子回路25を1つの電子デバイスと見なして全ての半導体装置17〜21を覆うように構成されるとしても良い。
また、XYステージ5には、半導体装置17〜21を搭載した回路基板15が載置されるとしたが、これに限ることはなく、例えば、表面に複数の半導体チップを形成したウエハが載置されるとしてもよい。また、例えば、XYステージ5の表面(載置面)5aに、直接半導体装置や半導体チップ等の電子デバイスが載置されるとしても構わない。
【0048】
ここで、XYステージ5にウエハを配する場合には、このウエハの表面(載置面)に形成された各半導体チップを電子デバイスと見なして、第1の蓋体45により1つ又は複数の半導体チップを覆い、第1の蓋体45がウエハの表面と共に半導体チップを含む第1の空間S1を形成するように、第1の蓋体45を構成するとしても良い。なお、この構成においては、外殻蓋体49の他方の開口部49bをウエハの周縁に配すればよい。この構成では、ウエハの表面に形成された各半導体チップの性能評価を行うことができる。
また、XYステージ5にウエハを配する場合には、ウエハ全体を1つの電子デバイスと見なし、第1の蓋体45によりウエハを覆い、第1の蓋体45がXYステージ5の表面5aと共にウエハを含む第1の空間S1を形成するように、第1の蓋体45を構成するとしても良い。この構成においては、外殻蓋体49の他方の開口部49bをXYステージ5の周縁に配すればよい。この構成では、複数の半導体チップを形成したウエハ全体の性能評価を行うことができる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の一実施形態に係る環境試験装置を示す概略斜視図である。
【図2】図1の環境試験装置において、XYステージに配された回路基板の電気接続を示す概略平面図である。
【図3】図1の環境試験装置において、アダプタを示す概略斜視図である。
【図4】図1の環境試験装置において、アダプタを示す概略側断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1・・・環境試験装置、5a,15a・・・表面(載置面)、17〜21・・・半導体装置(電子デバイス)、45・・・第1の蓋体(主蓋体)、47・・・補助蓋体ユニット、49・・・外殻蓋体、51c,59c,61c・・・内面、51d,59d,61d・・・外面、55,67,69・・・貫通孔、57・・・配管部、59・・・第2の蓋体(補助蓋体)、61・・・第3の蓋体(補助蓋体)、S1・・・第1の空間(主空間)、S2・・・第2の空間(補助空間)、S3・・・第3の空間(隙間空間)、S4・・・第4の空間(内部空間)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
載置面に配された電子デバイスを覆い、前記載置面と共に前記電子デバイスを含む中空の主空間を形成する主蓋体と、
該主蓋体を覆い、前記載置面と共に前記主蓋体を含む中空の補助空間を形成する補助蓋体ユニットと、
該補助蓋体ユニットの外方側から前記主蓋体の内側の主空間に所定温度のエアーを供給する配管部とを備えることを特徴とする環境試験装置。
【請求項2】
前記補助蓋体ユニットが、複数の補助蓋体からなり、
これら複数の補助蓋体が、順次内方から外方に向けて前記載置面に重ねて配され、
相互に隣接する前記補助蓋体及び前記載置面によって画定される中空の隙間空間が形成されることを特徴とする請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項3】
少なくとも1つの前記補助蓋体に、その内面から外面に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の環境試験装置。
【請求項4】
前記主蓋体に、その内面から外面に貫通する貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の環境試験装置。
【請求項5】
前記補助蓋体ユニットを覆い、前記載置面全体と共に前記補助蓋体ユニットを含む中空の内部空間を形成する外殻蓋体を備え、
前記主蓋体及び補助蓋体ユニットが、前記外殻蓋体に対して移動可能となっていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の環境試験装置。
【請求項6】
前記外殻蓋体が、前記内部空間を前記外殻蓋体の外方側の空間に対して密閉するように構成されていることを特徴とする請求項5に記載の環境試験装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−300864(P2006−300864A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−126245(P2005−126245)
【出願日】平成17年4月25日(2005.4.25)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】