説明

環境試験装置

【課題】試験運転中に停電しても、停電によって試料が損傷することのない改善された環境試験装置を実現し、提供する。
【解決手段】商用電源13を用いて、試料Mの雰囲気状態を試験用環境に設定するとともにその設定された高温高湿の試験用環境にて試料Mの環境試験を行うよう構成された環境試験装置において、停電が生じたことを検出する停電検出手段と、バックアップ電源15と、バックアップ電源15を用いて試料Mの雰囲気状態を制御する保護制御手段23とを有し、前記停電検出手段による停電の検出に伴って、前記保護制御手段23が作動する制御装置18を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境試験装置に関し、詳しくは、電子部品や半導体集積回路等の試験対象物の高温高湿環境下における耐久性を調べる高温高湿環境試験などを行うための環境試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の環境試験装置においては、所定の試験用環境(一定の温湿度等)を維持する手段として、蒸発圧縮式冷凍機等の大電力を要する機器を有するため、大電力が容易に得られる商用電源を用いて稼動させる手段が一般的に用いられる。このような環境試験装置としては、例えば特許文献1において開示されたものが知られている。
【0003】
ところで、商用電源のみを用いる場合には、落雷や地震、或いは電源設備の故障等による瞬停や停電が生じると試験装置が止まってしまうため、試験の継続ができなくなるという問題があった。このような場合には後に再試験を行う必要があり、面倒であるとともに試験能率も下がる。また、高温高湿環境試験装置においては、停電になると急激な温度や湿度の変化が生じ試験対象物の表面に結露が発生する場合があり、試験対象物によってはその結露によって損傷するという問題もあった。
【0004】
そこで停電対策が施された環境試験装置としては、特許文献2や特許文献3において開示されたものが知られている。特許文献2のバーンイン試験システムにおいては、試験条件と試験経過状況とを常時外部記憶装置に記録させておき、停電から復帰(停電復帰)すると、停電時(又は停電直前)の試験状態を読み出してその試験状態にリセットし、試験を継続させることができる技術を開示している。
【0005】
特許文献3の半導体試験装置においては、パターンメモリ回路の電源電圧供給にバックアップ電源を利用することにより、停電時には、バックアップ電源によって試験条件の記録部を保護し、テストパターンの再ロード時間を不要にするという技術を開示している。
【特許文献1】特開平10−078387号公報
【特許文献2】特開平11−183561号公報
【特許文献3】特開2004−219141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、試験対象物の中には電子部品や半導体材料等のように、環境変化によって壊れ易いものがあるが、このような脆い試験対象物を扱う環境試験装置において停電が発生すると、例えば、試験室内の温度が急激に下がることで試験対象物に結露が生じ、それによって試験対象物自体が損傷する、といった不都合の起きることが考えられる。このような不都合が予測される場合に、前述の特許文献2や特許文献3に示される停電対策技術を適用しても、例えば、試験室(試験槽)自体の温湿度調節の継続や、試験対象物の保護等は行えないので、依然として試験対象物が停電によって損傷するおそれが残る。
【0007】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、試験運転中に停電があると、試験対象物を保護する機能が発揮されるようにし、脆い試験対象物を用いて試験を行う場合でも、後の試験再開が可能なように、停電によって試験対象物が損傷することのないように改善された環境試験装置を実現し、提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、商用電源を用いることにより、試験対象物の雰囲気状態を試験用環境に設定するとともに、その設定された試験用環境にて前記試験対象物の環境試験を行うように構成されている環境試験装置であって、停電が生じたことを検出する停電検出手段と、バックアップ電源と、前記バックアップ電源を用いて前記試験対象物の雰囲気状態を制御する保護制御手段を有し、前記停電検出手段による停電の検出によって前記保護制御手段が作動することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の環境試験装置において、前記保護制御手段による前記試験対象物の雰囲気状態の制御は、前記試験対象物の雰囲気状態を試験環境に維持させる制御、又は前記試験対象物の雰囲気状態を所定の待機用環境へ移行させる制御であることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の環境試験装置において、前記バックアップ電源の状態を検出する電源状態検出手段と、試験対象物の雰囲気状態を検出する雰囲気検出手段とを設け、バックアップ電源によって試験用環境を維持する制御が可能な状態であると前記保護制御手段が判断した場合には前記バックアップ電源を用いて環境試験を継続し、試験用環境を維持する制御が不可能な状態と判断した場合には前記環境試験を中止し、かつ所定の待機用環境へ移行させる制御を開始するとともに、前記雰囲気状態の前記所定の待機環境への移行が完了すると前記試験対象物の雰囲気状態を待機環境に維持させるか、又は装置の運転を停止させることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項2又は3に記載の環境試験装置において、前記保護制御手段による前記所定の待機用環境へ移行させる制御は、湿度を下げてから温度を下げる時差制御に設定されることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項2〜4に記載の環境試験装置において、前記保護制御手段は、前記所定の待機用環境へ移行させる制御時に、乾燥した気体を試験対象物付近へ導入する手段を含むことを特徴とするものである。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項2〜5に記載の環境試験装置において、前記雰囲気中へ大気を導入する大気導入手段を設け、前記保護制御手段の動作によって前記所定の待機用環境へ移行させるに伴って前記雰囲気中に大気が導入されることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6に記載の環境試験装置において、停電から復帰したことを検出する停電復帰検出手段を設け、停電後に停電復帰検出がなされた場合、前記保護制御手段の動作から前記商用電源を用いて試験対象物の環境試験を行う通常運転状態に戻す復帰制御手段が装備されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、次のような効果がある。環境試験中に停電が生じると、湿度が急激に上がる、あるいは温度が急激に下がるといった雰囲気状態の急激な変化が生じる場合があり、停電によるこのような急激な試験環境の変化によって試験対象物が損傷するおそれがあるので、これを回避できるようにしておくことが望まれる。そこで、この発明では、保護制御手段の機能により、環境試験中に停電が生じると、バックアップ電源によって試験対象物の雰囲気状態が制御され、停電によって試験用環境が変化することによる試験対象物の損傷が防止されるようになる。その結果、試験中に停電が生じても、試験対象物を保護する機能が発揮されるようになるので、脆い試験対象物を用いて試験を行う場合でも、後の試験再開が可能になる等、停電による試験対象物の損傷や破損が回避されるようになる。
【0016】
請求項2の発明によれば、停電時における保護制御手段の機能により、試験対象物の雰囲気状態を試験用環境に維持、又は所定の待機用環境へ移行させるように制御されるので、雰囲気状態の緩やかな変化はあっても、急激な変化は起きないようになり、従って停電による試験対象物の損傷が回避されるようになる。これにより、試験対象物が再使用可能となり、環境試験が継続可能になる等の利点を得ることができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、容量に限度のあるバックアップ電源の場合、放電によって次第に電圧低下、即ち電力低下するので、試験継続には限度があるが、バックアップ電源の電圧が所定値以下に降下するに伴って、電力のかかる環境試験を中止し、電力のかからない所定の待機用環境に向けて試験環境を移行させることにより、試験環境の急変による試験対象物の損傷を回避しながら、バックアップ電源による環境試験をできるだけ継続させることができるようになる。これにより、停電復帰までの間の停電時間を有効利用でき、試験効率の低下を極力抑制できる。またバックアップ電源として二次電池を用いると、電気代の割安な夜間に蓄電し、昼間に夜間に蓄えた電気を装置に使用することで、電気料金の大幅な削減と電気の有効利用も可能となる。
【0018】
請求項4の発明によれば、環境試験条件が高温高湿であれば、停電時における試験対象物の雰囲気状態を、湿度及び温度を徐々に下げて待機状態へ移行させるように制御することで、雰囲気状態の急変による試験対象物表面の結露が防止できるとともに、それによって試験対象物の損傷を回避させることができる。そして、この待機状態への移行時には、温湿度を同時に下げて行くより、先ず湿度下げそれから温度を下げる時差制御を行うようにすれば、結露を確実に防止することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、乾燥した空気を試験対象物付近に導入することにより、雰囲気状態の急変による試験対象物表面の結露が防止できるとともに、結露による試験対象物の損傷を回避させることができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、試験用環境が待機用環境又はほぼ待機用環境になるに伴って雰囲気中へ大気を導入させるので、電力を用いることなく試験対象物の雰囲気を大気状態に安定維持させることができ、長期に亘る停電時においても試験対象物の保護を図ることができる。
【0021】
請求項7の発明によれば、復帰制御手段の機能により、停電復帰されるに伴って保護制御手段による制御状態から、商用電源によって環境試験を行う通常運転状態に自動的に復帰されるようになる。例えば、バックアップ電源による環境試験の継続状態のときに停電復帰されれば、そのまま通常運転状態に戻るだけ(電源が変わるだけ)であり、停電があっても環境試験は中断されること無く予定通り継続される。これにより、一瞬等の極短時間の停電(瞬停)時には、そのまま環境試験が継続されるとともに、再試験の無駄が省かれ、試験効率の向上、並びに時間の節約が図れるようになる。また、電圧降下したバックアップ電源によって試験用環境から待機用環境に移行されているとき、及び大気が導入されて雰囲気状態が大気状態にあるときに停電復帰すると、直ちに商用電源による試験用環境への復帰が開始され、元通りの試験用環境に戻った後、環境試験が再開されるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明による環境試験装置の実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は環境試験装置の概略構成を示す系統図、図2は商用電源による通常運転状態を示すフローチャート、図3は制御の全体の概要を示すフローチャート、図4は商用電源、バッテリー、試料電圧、試験槽温度、試験槽湿度の変化を対比して示すタイムチャート、図5は停電処理設定画面の一例、図6は停電情報表示画面の一例を示す図である。尚、試験環境は低温低湿等様々な場合があるが,以下の説明は試験対象物の破損が発生し易い一般的な高温高湿の場合について述べる。
【実施例1】
【0023】
実施例1による環境試験装置は、一例として図1に示すように、試験部1、電源部2、制御部3を有し構成される。試験部1は、試料Mを載置するための載置台4、送風機5、加熱器6、冷却器7、加湿器8、及び温度と湿度との検出が可能な温湿度センサ(温湿度検出手段)9を試験槽10内に配備するとともに、試験槽10の一部を開閉自在な大気導入用のダンパ11と、このダンパ11を開閉する開閉機構12とを設けて構成される。即ち、ダンパ11と開閉機構12とで大気導入手段tが構成される。試料Mの一例として、環境変化に弱いものとしては電子材料や半導体素子等が考えられる。冷却器7としては蒸発圧縮式冷凍機をはじめ、ペルチェ素子、スターリング冷却器、ヒートパイプ、ヒートレーン等が考えられる。
【0024】
電源部2は、家庭用100V電源や工場用200V電源等の商用電源13に接続されるものであり、商用電源の電圧を検出する第1電圧計14、ニッケル水素電池等のバッテリー(バックアップ電源の一例)15、これを充電するための充電器16、バッテリー15の電圧を検出する第2電圧計17、及びインバータ20等で構成される。充電器16は、バッテリー15が常にフル充電状態となるように適宜に作動される。第2電圧計17は、バッテリー15の電圧が設定・表示手段26によって予め制御装置18において設定される所定値以下に下がったことを検出する手段である。
【0025】
制御部3は、温湿度センサ9から実測値,設定・表示手段26から設定値等が入力され,電源部2からの電力により試験部1を駆動及び制御すると共に、通信回線19により外部に必要な情報を発信伝送することができる。また制御部3の内部を構成する制御装置18は、複合制御手段24を有する。複合制御手段24は、停電の検出及び通常運転手段33による制御と保護制御手段23による制御の切り換えを行う。また制御装置18は、前記運転または制御に共通的に使用される一般的な設定値追従型の雰囲気制御手段29を含む。なお制御装置18に接続される設定・表示手段26は各種設定値の入力や試験条件等の設定、各制御手段の入力状況や稼動中の制御手段等の表示を行うためのものである。
【0026】
保護制御手段23は、停電によって試験用環境が変化することによる試料Mの損傷を防止すべく、バッテリー15およびインバータ20を用いて試料Mの雰囲気状態を制御するものである。即ち、試料Mへの通電用電力、送風機5、加熱器6、冷却器7、加湿器8、温湿度センサ9、及び開閉機構12(以後、通電用電力を除きこれらを総称して「運転用機構群」とする)をバッテリー15のみで運転及び制御するものである。
【0027】
通常運転手段33は商用電源13が正常な(停電でない)場合の試験環境制御を行う制御手段であり、一方保護制御手段23は停電が発生した場合の各種制御を行う制御手段である。停電が発生した時に、保護制御手段23は停電前の通常運転手段33による試験環境制御がバックアップ電源のみで継続可能と判断される場合はバックアップ電源により試験環境を維持する制御を行い、バックアップ電源の電圧低下等によりこの継続が不可能と判断される場合は、待機環境制御手段22による制御に切り換え、試験を停止して試料Mを損傷から防止できる状態を維持できるよう制御する。この待機環境制御手段22は、待機環境へ温度及び湿度を徐々に移行させる移行制御手段31、または湿度を先に移行させその後に温度を移行させる時差制御手段32を含む。
【0028】
復帰制御手段25は停電復帰検出がなされるに伴って保護制御手段23の作動を停止し、且つ商用電源13を用いて試料Mの環境試験を行う通常運転状態に戻す制御手段である。
【0029】
次に、実施例1による環境試験装置Aの作動状況について説明する。通常は商用電源13による通常運転が行われており、停電時には直ちにバッテリー15による保護制御に切換えられ、停電復帰したときには、バッテリー15による保護制御から商用電源13による通常運転に切換えられる。
【0030】
〔通常運転〕
基本的な通常運転の例として、高温高湿環境試験の運転状況を、図2に示すフローチャートを参照して説明する。この高温高湿環境試験では、試験槽10内の雰囲気が高温高湿(試験用環境)に制御されるとともに、試料Mには試験用の通電が行われる。まず、設定・表示手段26を操作して、試験槽10内の雰囲気を高温高湿環境試験に適した試験用環境に設定する試験条件や、停電時の対応方法等の入力が行われる。停電と判断する制御の一例としては、制御装置18の機能により、第1電圧計14の検出値が、商用電源13の定格電圧値(定格電圧範囲)を下回ると停電とみなすことが挙げられる。
【0031】
次に、常温の状態である程度の時間(1時間〜24時間の範囲で適宜に設定される)、試料Mを試験槽10内において安定放置させる前処理(常温安定処理)が行われる。なお、ここにおいては、開閉機構12を駆動させてダンパ11を開き、試験槽10内に大気を導入するようにしてもよい。前処理が終わると、試料Mへの通電及び運転用機構群への電力供給が開始され、高温高湿環境試験が開始される。この試験中は、常に第1電圧計14による停電監視が行われる。試験中は、その試験状況が絶えず設定・表示手段26に表示されるとともに、制御装置18の記憶部(図示省略)に記憶及び蓄積される。
【0032】
設定された試験時間が経過すると、試料Mへの通電及び運転用機構群への電力供給を停止するが、この際、電力供給停止に伴って常温状態に戻ってから(又は電力供給停止時から)、ある程度の時間(1時間〜24時間の範囲で適宜に設定される)安定放置させる後処理(常温安定処理)が行われる。ここにおいては、ダンパ11を開いて試験槽10内に大気を導入してもよい。後処理が終わると、高温高湿環境試験が終了する。次に、試験中に停電が生じた場合の運転状況(停電処理ルーチン)について説明する。
【0033】
〔保護制御〕
高温高湿環境試験中に停電が生じた場合の環境試験装置の運転状況を、図3に示すフローチャート、及び図4に示すタイミングチャートを参照して説明する。高温高湿環境試験中に、第1電圧計14によって停電が検出されると、直ちに商用電源13からの電力供給による通常運転状態から、バッテリー15のみの電力供給によって試料Mへの通電及び運転用機構群への電力供給が行われる保護制御状態へ切換えられる。即ち、停電検出手段たる第1電圧計14による停電検出に伴って保護制御手段23が作動する。バックアップ電源により試験を維持することができる場合には、試験維持制御手段30によるバックアップ処理が行われる。
【0034】
バックアップ処理による維持制御(バッテリー15のみによる環境試験の継続運転)中はバッテリー15の電圧が次第に降下して行く。停電状態の継続に伴って第2電圧計17による検出値が、予め設定されている所定値Vsを下回ると、バックアップ電源によっては試験維持ができないと判断され、直ちにバッテリー15からの試料Mへの通電及び運転用機構群への電力供給が一部停止され、保護制御手段23による維持制御が停止される試験中断処理が行われる。なお、停電検出時にバックアップ電源による試験維持ができないと判断された時には直ちに試験中断処理を行う。
【0035】
試験中断処理が終了してもまだ停電状態が継続されている場合には、試験槽10内雰囲気の温度及び湿度を徐々に下げる待機環境移行制御が行われる。具体的には、試験槽10内の湿度を常湿又はほぼ常湿(湿度50%以下)にまで徐々に降下させ、同時に(または湿度が降下してから)、試験槽10内の温度を常温又はほぼ常温(40℃以下)にまで徐々に降下させる移行制御(または時差制御)が行われる。高温高湿環境試験中に停電になった場合には、先ず湿度を低下させ、次いで温度を低下させる時差制御を適用することにより、試料Mの表面への結露を防止するとともに、結露による試料Mの損傷を防止する保護機能が確実に行われる。湿度を徐々に降下させる手段としては、例えば、バッテリー15の残存電力によって冷却器7を除湿作用状態で駆動させることが考えられるが、それ以外の手段でもよい。また、温度を徐々に降下させる手段としては、バッテリー15の残存電力によって冷却器7を駆動させるか、或いは運転用機構群を全停止させることで自然に温度が常温に下がるようにする自然冷却を用いることができるが、それ以外の方法でも良い。また、乾燥したガス(常温付近で露点温度が極端に低いガス、例えば−70℃)を別途用意しておき、試験対象物付近に導入する手段を備えていてもよい。待機用環境に移行させるときに乾燥したガスを導入することにより、雰囲気状態の急変により生じる試験対象物表面の結露を防止することが可能となる。
【0036】
そして、温湿度センサ9の検出情報から、試験槽10内が常湿常温の状態、又はほぼ常湿常温の状態に移行すると、開閉機構12によってダンパ11を閉じ位置(図1の実線の位置)から開き位置(図1の仮想線の位置)に揺動させ、試験槽10内に大気が導入されるように試験槽10を開放する大気導入処理が行われ、その大気開放状態で待機するようにしてもよい。
【0037】
待機用環境での待機中に停電復帰が検出されると、復帰制御手段25が作動し保護制御状態を通常運転状態に切換える復帰制御処理が行われる。但し、この時点では試料Mへの通電はまだ実行されない。この復帰制御処理においては、ダンパ11が開いていれば、開閉機構12によってダンパ11を閉じる操作(大気導入口の閉鎖)が行われるとともに、加湿器8と加熱器6とを駆動させ、温度と湿度とをこの記載順に上昇させ、試験槽10内の雰囲気を高温高湿の試験用環境の状態に戻す。
【0038】
温湿度センサ9により、試験槽10内の雰囲気状態が元の高温高湿状態に復帰したことが検出されると、試料Mへの通電が再開され、実質的に高温高湿環境試験が再開される。その後、停電情報を設定・表示手段26に表示するとともに、通信回線19を用いて各所(パソコン、実験司令棟等)へ送信し、それによって保護制御が終了する。尚、停電か否かの検出は常時行われており、バックアップ処理後の停電復帰検出や、試験中断処理後の停電復帰検出において停電復帰が検出されると、直ちに復帰制御手段25が作動し、商用電源13による通常運転状態に復帰される。
【0039】
図4には、保護制御による商用電源13の電圧、バッテリー15の電圧、試料Mへの通電電圧、試験槽10内の温度と湿度の5項目の状況の推移を表したタイムチャートが示される。図4における仮想線の部分は、電源供給が途絶えている状態を示す。商用電源13の停電検出に伴ってバックアップ電源(バッテリー15)による保護制御が開始され、バッテリー15の電圧が所定値Vsに下がるまでは高温高湿環境試験がそのまま継続される。バッテリー15の電圧が所定値Vs以下に降下すると、バッテリー15による環境試験の中止、即ち試験中断処理が行われ、試料Mへの試験用通電及び運転用機構群への電力供給の大部分が停止される。ここで、冷却器7のみに電力供給するなどにより湿度(試験槽10内雰囲気の湿度)を迅速に下げるとともに、温度(試験槽10内雰囲気の温度)を緩やかに下げる。
【0040】
移行制御手段31又は時差制御手段32によって試験槽10内の雰囲気湿度及び温度を大気状態(所定の待機用環境)にまで下げ、試料Mを損傷しないように保護する。バッテリー15は、試験が継続される維持制御中は比較的急激に電圧が降下し、一部の機械だけが駆動されるか、或いは電力不要となる試験中断処理後(〜停電復帰検出まで)は、自然放電(又はこれに近い放電)によって緩やかに電圧が降下する。また、温度は湿度が大気状態(常湿)にまで下がる間は緩やかに下げられるが、湿度が大気状態(常湿)にまで下がった後は大気状態(常温)まで迅速に下げられる。この際、大気を導入すべくダンパ11が開かれてもよい。
【0041】
待機用環境(常温常湿)下において停電復帰検出がされると、直ちに充電器16によってバッテリー15の充電が開始され電圧降下状態から電圧上昇状態に切換るとともに、加熱器6が作動して試験槽10内雰囲気の温度を迅速に上昇させる。温度が上がるにつれ、加湿器8を作動させ、温度を試験用の高温度に維持させながら試験槽10内雰囲気の湿度を迅速に上昇させる。試験槽10内の雰囲気状態が高温高湿の試験用環境に復帰すると、試料Mへの試験用通電が再開され、それによって実質的に環境試験が再開される。
【0042】
図5には、設定・表示手段26の液晶画面に表示される停電時の条件設定(停電処理設定)表示の一例が示される。「試料電圧停止」は、試料Mには試験時に通電を要するものと要しないものとがあるので、維持制御状態で通電停止をするかしないかの選択を行う項目である。「停電時待機温度」は、停電時の待機用環境をダンパ11を開いた常温にするか、或いは電力供給を停止したままの状態に放置にするかの選択を行う項目である。「温度降下、復帰時間」は、試験中断による試験槽10内の雰囲気温度の所定の待機状態までの降下時間や、停電復帰による復帰時間を設定する項目である。
【0043】
「停電時待機湿度」は、停電時の待機用環境をダンパ11を開いた常湿にするか、或いは電力供給を停止したままの状態に放置するかの選択を行う項目である。「湿度降下、復帰時間」は、試験中断による試験槽10内の雰囲気湿度の所定の待機状態までの降下時間や、停電復帰による復帰時間を設定する項目である。「停電検出値」は、商用電源13の電圧がどの程度低下したら停電とみなすかを設定する項目である。「電池電圧検出値」は、バッテリー15の電圧がどの程度低下したら試験中断するかを設定する項目である。
【0044】
図6には、設定・表示手段26の液晶画面に表示される停電時における停電情報表示の一例が示される。液晶画面には、停電及びその後の状況表示や、停電発生年月日、停電発生時刻、試験中断時間等の項目が表示されるようになっている。
【0045】
〔別実施例〕
所定の待機用環境とは、実施例1に記載した大気状態(又はほぼ大気状態)のほか、大気状態よりも若干低温(低湿)の状態や、若干高温(高湿)の状態でもよく、試料Mを損傷しないように保てる雰囲気状態であれば良い。
【0046】
バッテリー15の電圧降下に伴う試験槽10内の雰囲気温度湿度の移行形態としては、湿度が上昇しない範囲で温度と湿度とを同時に下げる手段も可能である(移行制御)。バックアップ電源としては、鉛蓄電池等が用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】実施例1による環境試験装置の概略構成を示す系統図
【図2】商用電源による通常運転状態を示すフローチャート
【図3】制御状態の全体の概要を示すフローチャート
【図4】試験部、電源部の制御状態を示すタイムチャート
【図5】停電処理設定を表示する液晶画面の一例を示す図
【図6】停電情報を表示する液晶画面の一例を示す図
【符号の説明】
【0048】
1 試験部
2 電源部
3 制御部
4 載置台
5 送風機
6 加熱器
7 冷却器
8 加湿器
9 温湿度センサ
10 試験槽
11 ダンパ
12 開閉機構
13 商用電源
14 第1電圧計
15 バッテリー
16 充電器
17 第2電圧計
18 制御装置
19 通信回線
20 インバータ
23 保護制御手段
24 複合制御手段
25 復帰制御手段
26 設定・表示手段
29 雰囲気制御手段
30 試験維持制御手段
31 移行制御手段
32 時差制御手段
33 通常運転手段
A 環境試験装置
M 試料
t 大気導入手段



【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用電源を用いることにより、試験対象物の雰囲気状態を試験用環境に設定すると共にその設定された試験用環境にて前記試験対象物の環境試験を行うように構成されている環境試験装置であって、停電が生じたことを検出する停電検出手段と、バックアップ電源と、前記バックアップ電源を用いて前記試験対象物の雰囲気状態を制御する保護制御手段を有し、前記停電検出手段による停電の検出によって前記保護制御手段が作動することを特徴とする環境試験装置。
【請求項2】
前記保護制御手段による前記試験対象物の雰囲気状態の制御は、前記試験対象物の雰囲気状態を試験環境に維持させる制御、又は前記試験対象物の雰囲気状態を所定の待機用環境へ移行させる制御であることを特徴とする請求項1に記載の環境試験装置。
【請求項3】
前記バックアップ電源の状態を検出する電源状態検出手段と、試験対象物の雰囲気状態を検出する雰囲気検出手段とを設け、バックアップ電源によって試験用環境を維持する制御が可能な状態であると前記保護制御手段が判断した場合には前記バックアップ電源を用いて環境試験を継続し、試験用環境を維持する制御が不可能な状態と判断した場合には前記環境試験を中止し、かつ所定の待機用環境へ移行させる制御を開始するとともに、前記雰囲気状態の前記所定の待機用環境への移行が完了すると前記試験対象物の雰囲気状態を待機用環境に維持させるか、又は装置の運転を停止させることを特徴とする請求項2に記載の環境試験装置。
【請求項4】
前記保護制御手段による前記所定の待機用環境へ移行させる制御は、湿度を下げてから温度を下げる時差制御に設定されることを特徴とする請求項2又は3に記載の環境試験装置。
【請求項5】
前記保護制御手段は、前記所定の待機用環境へ移行させる制御時に、乾燥した気体を試験対象物付近へ導入する手段を含むことを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の環境試験装置。
【請求項6】
前記雰囲気中へ大気を導入する大気導入手段を設け、前記保護制御手段の動作によって前記所定の待機用環境へ移行させるに伴って前記雰囲気中に大気が導入されることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の環境試験装置。
【請求項7】
停電から復帰したことを検出する停電復帰検出手段を設け、停電後に停電復帰検出がなされた場合、前記保護制御手段の動作から前記商用電源を用いて試験対象物の環境試験を行う通常運転状態に戻す復帰制御手段が装備されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の環境試験装置。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−240331(P2007−240331A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−63262(P2006−63262)
【出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000108797)エスペック株式会社 (282)
【Fターム(参考)】