説明

環状同芯撚りビードコード、その製造方法、及び車両用タイヤ

【課題】強度を確保しつつ軽量化を図ることのできる環状同芯撚りビードコード、その製造方法、及び車両用タイヤを提供する。
【解決手段】コア材21の回りに複数本の側線12を螺旋状のくせ付けを施した後、撚り合わせた原コード22が解撚され、環状に形成された環状コアに、解撚された側線12の内の1本の側線12が螺旋状に複数周回巻き付けられてシース層とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤのビード部分に埋め込まれる環状同芯撚りビードコード、その製造方法、及び車両用タイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、環状金属コードを製造する方法として、例えば特許文献1,2に記載されているように、ワイヤーロープを構成する線材の半分を解撚または切除して取り除いた後に、残った線材を一部環状にしつつその周囲に巻き付けてエンドレス加工することが知られている。
【0003】
特許文献1に記載されたワイヤーロープの簡易エンドレス加工法は、まず、設計寸法リングの内周長の2倍強の長さをもった6本の素線が撚り合されて構成されたワイヤーロープを用意する。これを3本の素線の撚り合せ線2本に解き別けて内周長と当該内周長より少し長いより代とを有する基糸を形成する。次に、当該3本素線撚り合せ線からなる基糸の一方を用いて、まず設計寸法の基本となるリング部とその組み合わせ部から延出するストランド部を形成する。そのうえ、当該延出するストランド部をリング部に撚り合せながら巻き付けて2本の基糸(6本の素線)が撚り合された状態のエンドレス加工を行う。その後、基糸の撚り合せ端部をロック止めもしくは半かご差しまたは半かご差しとロック止めの組み合わせ処理の何れかの端部処理をする。
【0004】
特許文献2に記載されたエンドレススリングは、次のようにして製造されている。まず、所定長さのワイヤーロープの全長にわたって、全本数の1/2のストランドを切除し、ワイヤーロープの全長の1/2の心綱を切除する。残った心綱の両端部を同心に突き合わせたうえ、心綱を切除した側のストランドを、心綱を切除しない側のストランドの切除部に巻き付けて同心状のエンドレスとする。その後、心綱及びストランドの両端部にまたがってスリーブを圧縮加工する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3069796号公報
【特許文献2】特開平5−132881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1,2に記載の環状金属コードは、何れも玉掛け用吊り具であり、所定の曲げや張力などの負荷を繰り返し受けるような使用状況は想定されていないものである。これらの環状金属コードは、ワイヤーロープを横断面でみて円周上の線材の本数を一旦半分にして、残った線材の余長を空いている残り半分のスペースに再巻き付けしているものであるため、隣り合う線材同士の接触抵抗が弱い。そのため、例えば、自動車用タイヤのビード部位(リムとの密着部)の補強に使用すると、剛性が小さいため、リムとの密着性が弱く、空気漏れが起こり易い。
【0007】
また、ワイヤーロープのストランドの半分を使用するため、端部が複数存在することとなり、各ストランド毎にあるいは各ストランドをまとめてスリーブを用いて接続すると、強度を要するタイヤ補強材料には適していない。特に、各ストランドをスリーブにて接続する場合は、作業時間が増大し、生産性が悪い。また、重量の増加や増径を招くため、複数層に積層する積層型のビードコードとしては不向きである。
ここで、各ストランド毎の接続による強度低下を補うために素線径を太くした場合も、重量の増加を招き、軽量化に逆行することとなる。
【0008】
そこで、本発明の目的は、強度を確保しつつ軽量化を図ることのできる環状同芯撚りビードコード、その製造方法、及び車両用タイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決することのできる本発明の環状同芯撚りビードコードは、コア材の回りに複数本の単素線を撚り合わせた原コードが解撚され、環状に形成された環状コアに、解撚された単素線の内の1本の単素線が螺旋状に複数周回巻き付けられてシース層とされていることを特徴とする。
このように、コア材の周りに撚り合わされる際に、予めくせ付けされた単素線の内1本のみが側線として環状コアに巻き付けられて、螺旋波形状が均一なシース層とされている。そのため、特に環状方向に引張り力が付加された時に、環状コアと側線同士及び側線同士間の横方向の接触応力すなわち剪断応力が軽減されるため、破断強度を向上することができる。つまり、その分材料の使用量を減らすことができ、強度を確保しつつ軽量化を図ることができる。そして、自動車用タイヤのビード部位の補強に使用することにより、リムとの密着性が強く、空気漏れなどの不具合なく、ビード部位を良好に補強することができる。
【0010】
また、前記環状コアが複数の金属素線を撚り合わせた撚線からなり、前記単素線は、前記環状コアの金属素線の撚り合わせ方向と逆方向に巻き付けられていることが好ましい。
これにより、環状コアを構成する金属素線の撚り目への落ち込みなく単素線が巻き付けられるので、外周の凹凸を極力抑えることができる。また、外周にさらに単素線を巻き付ける場合に、単素線を良好に巻き付けることができる。また、環状コアの金属素線の撚り目への単素線の落ち込みによる単素線の巻き付け長さの変動を抑え、均一な巻き付け力にて単素線を巻き付けることができる。
【0011】
また、環状コアの回りに単素線を螺旋状に巻き付けて1層または複数層のシース層を有してなるコードと同一径のコア材の回りに複数本の単素線を撚り合わせた原コードが解撚され、1層または複数層のシース層を有する環状の金属コードに、解撚された単素線の内の1本の単素線が螺旋状に複数周回巻き付けられてシース層とされていることが好ましい。
これにより、コア材の周りに撚り合わされる際に、予めくせ付けされた単素線の内1本のみが側線として、1層または複数層の螺旋波形状が均一なシース層とされているので、自動車用タイヤのビード部位の補強に使用することにより、リムとの密着性が強く、空気漏れなどの不具合なく、ビード部位を良好に補強することができる。
【0012】
また、前記シース層が形成された後の環状同芯撚りビードコードにおける前記単素線の直径型付率が20%以上108%以下であることが好ましい。
このように、環状コアに巻き付けられた単素線の直径型付率が20%以上108%以下であるため、単素線の強度利用率を向上させることができる。これにより、タイヤの補強材として使用する際に過大な安全率を見込む必要がなくなり、環状コア及び単素線の径を細くしても強度を確保することができ、軽量化を図ることができる。直径型付率が100%を超えても、環状コアと側線の隙間にゴムが侵入するため、直径型付率が108%以下であれば環状コアと単素線の強度利用率が大きく低下することはない。
より好ましい前記単素線の直径型付率は、64%以上102%以下である。
なお、直径型付率は、環状同芯撚りビードコードの直径(環状コア+シース層の断面直径(線径))をDとし、型付けされた単素線の波高さ(自己径含む)をHとすると、「直径型付率(%)=H/D×100」で表される。
【0013】
また、径方向に隣接するシース層は、前記単素線の巻き付け方向が逆方向とされていることが好ましい。
これにより、径方向に隣接するシース層における単素線の巻き付け方向が逆方向とされているので、表層における凹凸を極力抑えることができ、また、単素線同士の間に他のシース層の単素線が入り込んで層が崩れるような不具合をなくすことができる。
【0014】
また、前記環状コアは、0.08質量%以上0.27質量%以下の炭素(C)、0.30質量%以上2.00質量%以下のケイ素(Si)、0.50質量%以上2.00質量%以下のマンガン(Mn)及び0.20質量%以上2.00質量%以下のクロム(Cr)を含み、かつ、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)及びバナジウム(V)がそれぞれ0.001質量%以上0.10質量%以下の範囲で少なくとも1種以上含有し、残部が鉄(Fe)及び不可避的に混入してくる不純物からなる合金鋼から形成されていることが好ましい。
これにより、環状とする際の両端の溶接部における延性低下抑制効果を得ることができる。
【0015】
また、前記環状コアは、0.28質量%以上0.56質量%以下の炭素(C)を含む炭素鋼から形成されていることが好ましい。
これにより、接合部の溶接性が高くなるため、環状コアとして必要とされる強度を確保することができる。
【0016】
また、上記課題を解決することのできる本発明の環状同芯撚りビードコードの製造方法は、コア材の回りに複数本の単素線を撚り合わせた原コードを解撚し、環状に形成された環状コアに、解撚した単素線の内の1本の単素線を螺旋状に複数周回巻き付けてシース層を形成することを特徴とする。
このように、コア材の周りに撚り合わされる際に、予めくせ付けした単素線の内1本のみを側線として環状コアに巻き付けて、螺旋波形状が均一なシース層とする。そのため、特に環状方向に引張り力が付加された時に、環状コアと側線同士及び側線同士間の横方向の接触応力すなわち剪断応力が軽減されるため、破断強度を向上することができる。つまり、その分材料の使用量を減らすことができ、強度を確保しつつ軽量化を図ることができる。そして、自動車用タイヤのビード部位の補強に使用することにより、リムとの密着性が強く、空気漏れなどの不具合なく、ビード部位を良好に補強することができる。また、単素線の接続箇所を1箇所にすることができる。
【0017】
また、前記単素線を前記環状コアの周りに複数周回巻き付けてシース層を形成する際に、形成する環状コアの中心径の0.55倍以上2.0倍以下の径に湾曲させておくことが好ましい。この湾曲加工は、原コードを解撚する前に施すのが効率的である。
これにより、環状同芯撚りビードコードの環状の均一形成の容易化を図ることができ、生産性を高めることができる。
【0018】
また、前記環状コアとして複数の金属素線を撚り合わせた撚線を用い、前記単素線を、前記環状コアの金属素線の撚り合わせ方向と逆方向に巻き付けることが好ましい。
これにより、環状コアを構成する金属素線の撚り目への落ち込みなく単素線を巻き付けることができ、外周の凹凸を極力抑えることができる。さらに、外周に単素線を巻き付ける場合に、単素線を良好に巻き付けることができる。また、環状コアの金属素線の撚り目への単素線の落ち込みによる単素線の巻き付け長さの変動を抑え、均一な巻き付け力にて単素線を巻き付けることができる。
【0019】
また、環状コアの回りに単素線を螺旋状に巻き付けて1層または複数層のシース層を有してなるコードと同一径のコア材の回りに複数本の単素線を撚り合わせた原コードを解撚し、1層または複数層のシース層を有する環状の金属コードに、解撚した単素線の内の1本の単素線を螺旋状に複数周回巻き付けてシース層を形成することが好ましい。
これにより、コア材の周りに撚り合わされる際に、予めくせ付けした単素線の内1本のみを側線として1層または複数層のシース層を有する環状の金属コードに巻き付けて、螺旋波形状が均一なシース層を形成する。そのため、特に環状方向に引張り力が付加された時に、環状コアと側線同士及び側線同士間の横方向の接触応力すなわち剪断応力が軽減されるため、破断強度を向上することができる。つまり、その分材料の使用量を減らすことができ、強度を確保しつつ軽量化を図ることができる。そして、自動車用タイヤのビード部位の補強に使用することにより、リムとの密着性が強く、空気漏れなどの不具合なく、ビード部位を良好に補強することができる。
【0020】
また、径方向に隣接するシース層における前記単素線の巻き付け方向を逆方向とすることが好ましい。
これにより、径方向に隣接するシース層における単素線の巻き付け方向を逆方向とするので、表層における凹凸を極力抑えることができ、また、単素線同士の間に他のシース層の単素線が入り込んで層が崩れるような不具合をなくすことができる。
【0021】
また、本発明の車両用タイヤは、上記の環状同芯撚りビードコードが埋め込まれていることを特徴とする。
このように、良好な製造性、取り扱い性を確保しつつ軽量化が図られた環状同芯撚りビードコードを用いるので、製造性に優れ、しかも軽量化されたエコタイヤを実現することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、強度を確保しつつ軽量化を図ることのできる環状同芯撚りビードコード、その製造方法、及び車両用タイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】車両用タイヤの断面図である。
【図2】(a)はビードコードの全体図、(b)はビードコードの部分を示す斜視図である。
【図3】側線のくせ付け処理を説明する金属コードの斜視図である。
【図4】(a)はワイヤを環状にする際のくせ付け装置の側面図であり、(b)はその正面図である。
【図5】環状コアに側線を巻き付け始めた状態を示す平面図である。
【図6】環状コアに側線を1周巻き付けた状態を示す巻き付け途中の状態を示す平面図である。
【図7】撚り線からなる環状コアを有する環状同芯撚りビードコードの斜視図である。
【図8】複数層のシース層を有する環状同芯撚りビードコードの斜視図である。
【図9】複数層のシース層を有する環状同芯撚りビードコードの製造方法を説明する金属コードの斜視図である。
【図10】環状ビードコードの引張り試験に用いる治具を示す図であり、(a)はその側面図、(b)はその断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る環状同芯撚りビードコード及びそれを使用した車両用タイヤの実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、車両用タイヤの断面図、図2(a)はビードコードの全体図、図2(b)はビードコードの部分を示す斜視図である。
【0025】
図1に示すように、車両用タイヤ1は、乗用車用の空気入りタイヤであって、ビードコード(環状同芯撚りビードコード)2が通る両側のビード部3と各ビード部3からタイヤ半径方向外向きにのびるサイドウォール部4と、その上端間を継ぐトレッド部5とを備える。
また、ビード部3間にカーカス6が架け渡されるとともに、このカーカス6の外側かつトレッド部5の内方にはベルト層7が周方向に巻装されている。
【0026】
上記の車両用タイヤ1のビード部3に通されたビードコード2は、図2(a),(b)に示すように、予め螺旋状にくせ付けされた1本の側線(単素線)12を用意し、この側線12を、環状コア11の周囲に、複数周回(本例では6周)巻き付けてシース層13を構成している。側線12は、環状コア11の輪の外側から輪の中へ通され、再び輪の外側から輪の中へ通されることにより、環状コア11に所定の巻き付けピッチにて螺旋状に巻き付けられている。なお、本例では、1層のシース層13を有する場合を例示している。
【0027】
環状コア11は、予め湾曲された1本のワイヤを環状に形成し、その両端面同士を溶接により接合したものである。この場合、環状コア11のワイヤ同士の接合部分の増径を生じさせることなく、簡単に接合させることができる。
【0028】
環状コア11は、合金鋼ワイヤからなるもので、その材質は、0.08〜0.27質量%の炭素(C)、0.30〜2.00質量%のケイ素(Si)、0.50〜2.00質量%のマンガン(Mn)及び0.20〜2.00質量%のクロム(Cr)を含み、かつ、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)及びバナジウム(V)がそれぞれ0.001〜0.100質量%の範囲で少なくとも1種以上含有し、残部が鉄(Fe)及び不可避的に混入してくる不純物からなる合金鋼である。このような組成であれば、合金鋼ワイヤを環状に形成して環状コア11とする際の両端の溶接部における延性低下抑制効果を得ることができる。
【0029】
また、環状コア11は、炭素(C)を0.28〜0.56質量%含む中炭素鋼ワイヤで形成されていてもよい。このような材質のワイヤを用いても、接合部の溶接性が高くなるため、環状コア11として必要とされる強度を確保することができる。また、環状コア11の表面には、銅合金(例えば、真鍮)または亜鉛のめっき処理が施されていてもよい。
【0030】
側線12は、例えば、炭素(C)を0.7質量%以上含む高炭素鋼ワイヤからなるものである。また、側線12の表面には、銅合金(例えば、真鍮)または亜鉛のめっき処理が施されていてもよい。
【0031】
環状コア11を構成するワイヤの直径(線径)は、側線12のワイヤの直径(線径)以上であることが好ましく、例えば、環状コア11のワイヤの直径は1.5mmであり、側線12のワイヤの直径は、1.4mmである。
【0032】
次に、上記の環状同芯撚りビードコードを製造する方法について説明する。
(前処理工程)
まず、前処理工程として、側線12のくせ付け処理及び環状コア11のコイル化処理を行う。
【0033】
(1)側線のくせ付け処理
図3に示すように、環状コア11と同一径のコア材21に、複数本(本例では6本)の側線12を撚り合わせて原コード22を形成する。そして、原コード22を形成したら、原コード22を解撚して、側線12を分離させる。なお、側線12は、コア材21への撚り合わせ前に、くせ付けピン等を通過させて適正な型付け(直径型付け率で93±5%)を施しておくのが良い。
【0034】
(2)環状コアのコイル化処理
図4(a)はワイヤを環状にする際のくせ付け装置の側面図であり、(b)はその正面図である。図4(a)及び(b)に示すように、このくせ付け装置30は、基台31上に所定間隔で回転自在に設けられた第1のローラである一対のフリーローラ32a,32bと、この一対のフリーローラ32a,32bに対して接近及び離反(図4中矢印A方向)自在の1個の第2のローラである駆動ローラ33と、を有している。駆動ローラ33は、一対のフリーローラ32a,32bの中心を結ぶ線分の垂直二等分線L上に位置しており、移動手段34によって一対のフリーローラ32a,32bとの間隔が調整されている。また、駆動ローラ33は駆動手段(図示省略)により回転駆動される。
【0035】
図4(b)に示すように、各ローラ32a,32b,33には、環状コア11となるワイヤ11aの外径に対応した断面部分円弧状の溝35が設けられている。また、各ローラ32a,32b,33に送り込まれるワイヤ11aを支持して案内するフリーローラ36を設けることが望ましい。
【0036】
上記のくせ付け装置30によってワイヤ11aをコイル化するには、まず、駆動ローラ33を一対のフリーローラ32a,32bから離して、駆動ローラ33と一対のフリーローラ32a,32bとの間に、ワイヤ11aを挿入し、駆動ローラ33を一対のフリーローラ32a,32b側に押し付けて駆動ローラ33とフリーローラ32a,32b間にワイヤ11aの先端部分を挟む。そして、駆動ローラ33の回転駆動によりワイヤ11aを通過させて円弧状に湾曲させていく。これにより、環状コア11とする前のワイヤ11aを湾曲させておく。
また、原コード22を、解撚する前に上記のくせ付け装置30によってコイル化処理することもできる。原コード22をコイル化することにより、側線12を、環状コア11の中心径の0.55倍以上2.0倍以下の径に湾曲させておくとよい。ここで、環状コア11の中心径とは、環状の中心から環状コア11を構成するワイヤ11aの中心軸までの径である。
【0037】
(3)接合処理
上記のようにくせ付けしたワイヤ11aの両端面同士を突き合わせて溶接により接合し、環状コア11とする。このとき、ワイヤ11aは湾曲させてあるので、両端面同士を容易に突き合わせて溶接することができる。
【0038】
(巻き付け工程)
次に、環状コア11に側線12を巻き付けて環状同芯撚りビードコードを製造する場合について説明する。
図5は環状コア11に側線12を巻き付け始めた状態を示す平面図、図6は環状コア11に側線12を1周巻き付けた状態を示す巻き付け途中の状態を示す平面図である。
まず、図5に示すように、前述したくせ付け処理にて、原コード22を解撚して得られた1本の側線12の始端12aを、車両用タイヤ1のゴムと同材質の未加硫のゴムシートによって、環状コア11に仮止めする。このとき、側線12は、原コード22形成前に施された型付けによって施された螺旋波形状と、原コード22がコイル化処理されたことによる湾曲形状とを、ともに有している。
【0039】
そして、例えば手巻きにて、側線12の螺旋波形状の内側に環状コア11を入れるように、環状コア11の周囲に側線12を巻き付けていく。このとき、側線12は環状コア11の中心径の0.55倍以上2.0倍以下の径に湾曲されているため、環状コア11の環状方向に沿った巻き付け作業を円滑に行なうことができる。そのため、環状同芯撚りビードコードの環状の均一形成の容易化を図ることができ、生産性を高めることができる。
環状コア11の周囲に側線12を1周分だけ巻き付けた状態が図6であり、さらに引き続き側線12を環状コア11の周囲に5周巻き付ける。そして、連続して所定回数(本実施形態では6周)巻き付けたら、環状コア11に仮止めしていた始端を外し、始端と終端とを金属製スリーブによって連結固定する。
【0040】
このようにすると、環状コア11の周囲に、側線12が螺旋状に巻き付けられたシース層13を有するビードコード2が得られる。
なお、始端と終端とは、例えば、真鍮製または軽量素材製(プラスチック、フッ素樹脂等)のスリーブによって連結固定しても良い。
【0041】
このように、本実施形態のビードコード2は、コア材21の周りに撚り合わされる際に、予めくせ付けされた側線12の内1本のみが環状コア11に巻き付けられて、螺旋波形状が均一なシース層13とされている。そのため、特にビードコード2の環状方向に引張り力が付加された時に、環状コア11と側線12同士及び側線12同士間の横方向の接触応力すなわち剪断応力が軽減されるため、破断強度を向上することができる。つまり、その分材料の使用量を減らすことができ、強度を確保しつつ軽量化を図ることができる。そして、自動車用タイヤのビード部位の補強に使用することにより、リムとの密着性が強く、空気漏れなどの不具合なく、ビード部位を良好に補強することができる。また、側線12の接続箇所を1箇所にすることができる。
【0042】
また、側線12を、形成する環状コア11の中心径の0.55倍以上2.0倍以下の径に予め湾曲させておくので、ビードコード2の環状の形成の容易化を図ることができ、生産性を高めることができる。
【0043】
また、図7に示すように、環状コア11としては、複数の金属素線11bを撚り合わせた撚線を用いても良く、この場合、この環状コア11に巻き付ける側線12は、環状コア11の金属素線11bの撚り合わせ方向と逆方向に巻き付けることが好ましい。
このようにすると、環状コア11を構成する金属素線11bの撚り目への落ち込みなく側線12が巻き付けられるので、外周の凹凸を極力抑えることができる。また、外周にさらに側線12を巻き付ける場合に、側線12を良好に巻き付けることができる。また、環状コア11の金属素線11bの撚り目への側線12の落ち込みによる側線12の巻き付け長さの変動を抑え、均一な巻き付け力にて側線12を巻き付けることができる。
【0044】
なお、上記実施形態では、環状コア11を構成するワイヤ11aと異なるコア材21を用いて側線12のくせ付け処理を行ったが、コア材21として環状コア11を構成するワイヤ11aを用いても良い。
【0045】
このようなビードコード2を車両用タイヤ1に埋め込む際には、加硫促進剤を添加したゴムシートをビードコード2に貼り付けて、ゴム付きビードコードとする。そして、車両用タイヤ1のビード部3にゴム付きビードコードを組み込み、タイヤ形状とした未加硫ゴム複合体としてタイヤ成形機に入れる。この後、この成形金型を加圧・加硫してタイヤが完成する。側線12がめっきされている場合、ゴムシートに含まれる硫黄成分が側線12のめっきと反応して接着する。
【0046】
また、ゴムシートに加硫促進剤を添加せず、金属とゴムとの接着に適した金属ゴム用接着剤によってビードコード2とゴムシートとを接着させても良く、この場合、側線12におけるめっきが施されていない場合に有効であり、側線12へゴムシートを確実に固着させることができる。例えば、金属ゴム用接着剤として、ケムロック(登録商標、ロード・ファー・イースト・インコーポレイテッド製)を使用できる。
【0047】
このように製造された車両用タイヤ1は、強度を確保しつつ軽量化が図られた上記のビードコード2を用いているため、製造が容易で、軽量化が可能になり環境に優しいエコタイヤとすることができる。
【0048】
なお、上記実施形態では、環状コア11の周囲に、1層のシース層13を設けたが、シース層13を複数層設けても良い。
そして、2層以上のシース層13を有する環状同芯撚りビードコード2では、径方向に隣接するシース層13における側線12の巻き付け方向を逆方向とする。
【0049】
図8に示すものは、2層のシース層13を有する環状同芯撚りビードコード2であり、これは、1層目のシース層13を有する環状の金属コード61に、側線12が螺旋状に複数周回(本例では12回)巻き付けられて2層目のシース層13とされている。この2層目のシース層13を構成する側線12は、1層のシース層13を有するコードに巻き付けられてくせ付けされた複数の側線12の内の1本が用いられている。
【0050】
複数層のシース層13を有する環状同芯撚りビードコード2を製造する場合は、図9に示すように、環状コア11の回りに側線12を螺旋状に巻き付けて1層または複数層のシース層13を有してなる金属コードと同一径のコア材21の回りに複数本の側線12を撚り合わせた原コード22を形成する。そして、この原コード22を解撚し、1層または複数層のシース層13を有する環状金属コード61に、解撚した側線12の内の1本の側線12を螺旋状に複数周回巻き付けてシース層13を形成する。また、このとき、径方向に隣接するシース層13における側線12の巻き付け方向を逆方向とする。
【0051】
このように、コア材21の周りに撚り合わされる際に、予めくせ付けされた側線12の内1本のみが、1層または複数層のシース層13を有する環状の環状金属コード61に巻き付けられて、螺旋波形状が均一なシース層13とされている。そのため、特にビードコード2の環状方向に引張り力が付加された時に、環状コア11と側線12同士及び側線12同士間の横方向の接触応力すなわち剪断応力が軽減されるため、破断強度を向上することができる。つまり、その分材料の使用量を減らすことができ、強度を確保しつつ軽量化を図ることができる。そして、自動車用タイヤのビード部位の補強に使用することにより、リムとの密着性が強く、空気漏れなどの不具合なく、ビード部位を良好に補強することができる。
【0052】
また、径方向に隣接するシース層13における側線12の巻き付け方向が逆方向とされているので、表層における凹凸を極力抑えることができ、また、側線12同士の間に他のシース層13の側線12が入り込んで層が崩れるような不具合をなくすことができる。
【0053】
また、上記の1層のシース層13を有するビードコード2、及び複数層のシース層13を有するビードコード2の何れにおいても、ビードコード2における側線12の直径型付率が20%以上108%以下とされていることが好ましい。
シース層13となった側線12の直径型付率が108%を超えると、環状コア11との間で互いに剪断応力が大きく生じるため、強度利用率の低下を招いてしまう。また、シース層13となった側線12の直径型付率が20%未満であると、環状コア11とシース層13との間で伸びの差が大きくなって均等な負荷配分が崩れ、強度利用率の低下を招いてしまう。
【0054】
側線12の直径型付率を20%以上108%以下とすることで、側線12の強度利用率を向上させることができる。これにより、タイヤの補強材として使用する際に過大な安全率を見込む必要がなくなり、環状コア11及び側線12の径を細くしても強度を確保することができ、軽量化を図ることができる。直径型付率が100%を超えても、環状コア11と側線12の隙間にゴムが侵入するため、直径型付率が108%以下であれば環状コア11と側線12の強度利用率が大きく低下することはない。
また、さらに好ましい側線12の直径型付率は、64%以上102%以下である。
【実施例】
【0055】
(第1実施例)
種々の条件で1層のシース層を有するビードコードを作製し、そのときの側線の直径型付率、ビードコードの強度利用率、軽量化率、及び側線の螺旋巻き付け性の評価を行った。
【0056】
(1)使用する原金属コード(1×1.8+(7)×1.4の金属コード)
(1−1)コア材の作製
0.51質量%の炭素(C)を含有する直径5.5mmの硬鋼線材を酸洗し、伸線工程を経て直径1.8mmまで伸線加工してコア材を作製する。そして、このコア材を、撚線機へ供給するため、必要量だけリールに巻き取る。
(1−2)側線の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径4.5mmの硬鋼線材を酸洗し、銅及び亜鉛めっきを施し、拡散によって真鍮めっき中間線を作製する。その後、伸線工程を経て直径1.4mmの側線を作製する。側線は、撚線機へ供給するため、必要量だけ7リールに巻き取る。
(1−3)金属コードの作製
コア材を含まないで7本撚りができるプレフォーム付きのチューブラー型撚線機を用いて、153.8mmの撚りピッチでコア材の周りに7本の側線をS撚りにて撚り合わせ、1+7構造の金属コードを作製する。
なお、撚線機の回転数は、600(rpm)、側線の直径型付け率は平均93%で調整し、撚り合わせ後のコイル径調整は、0.75D1(D1:作製するビードコードの層心径)で調整する。
(1−4)金属コードの解撚
端末分(α)も含めて作製するビードコードの環状径(層心径:D1)の約23倍((D1)π×7+α)の金属コードを準備し、全長にわたって解撚し、コア材及び7本の側線に分離する。
【0057】
(2)作製する環状同芯撚りビードコード
金属コードから分離したコア材を、層心径D1=440.7mmとなるように環状とし、両端末を突き合わせて溶接し、環状コアを作製する。
この環状コアの周りに、金属コードから分離した7本の側線のうちの1本を使用し、巻き付けピッチ153.8mmにて7周回螺旋状に巻き付けて第1層のシース層を形成する。側線の始端及び終端は、余長部を切断し、真鍮製のスリーブに挿入して接続する。
【0058】
(3)評価試験
表1にその結果を示す。
【0059】
【表1】

【0060】
なお、表1の評価項目は次の方法によって評価を行った。
【0061】
(3−1)側線の直径型付率(%)
環状同芯撚りビードコードから15cmの長さのサンプルを切り出して作成する。その際、環状のビードコードから何の処理もせずに切断すると側線が解撚してばらけ易いため、予め切断箇所の近傍をバインド線等で結束した後、切断する。切断したサンプルの湾曲(ビードコードの環状の湾曲)を直線状になるように若干矯正した後、その真直部においてコード径測定用専用マイクロメータにて直径Dを測定する。
【0062】
同じ切断サンプルを用いて、結束したバインド線を取り除き、側線6本を無負荷の状態で環状コアから取り外す。6本の側線について、必要により3ピッチ分の波の高さを測定できる長さに切り出し、万能投影器により、1本の側線において試料数n=3(すなわち3ピッチの各波の高さ)で測定し、その平均値をその1本の側線の波高さとする。残りの5本の側線についても同様に測定し、6本の側線の波高さの平均値をそのビードコードにおける側線の波高さHとする。
このようにして求められた直径Dと波高さHを用いて、「直径型付率(%)=H/D×100」の式により直径型付率を算出する。
【0063】
(3−2)ビードコードの強度利用率(%)
計14例に使用する環状コア及び側線について、予め引張り試験機を用いて、試料数n=3で引張り試験を行い、平均切断荷重を算出する。算出式は、「素線での切断荷重W(kN)=環状コアの素線の平均切断荷重+側線の平均切断荷重×6」である。
環状のビードコードについて、予め図10に示す環状ビードコード用の治具60を用いて、試料数n=2で引張り試験を行い、ビードコードでの平均切断荷重W(kN)を算出する。
【0064】
ここで、図10に示す環状ビードコード用の治具60を使用した引張り試験方法について説明する。環状ビードコード用の治具60は、ビードコード2を一対の溝付き半円盤形状の保持部材61に保持させ、各保持部材61に対してそれぞれボルト64を介して接続したそれぞれの牽引部材62を、それぞれチャック63により把持して離反する方向(図10の上下方向)に引っ張るものである。例えば、下側のチャック63の位置を固定し、上側のチャック63を上方へ引っ張る。チャック63の引張り荷重を測定することで、ビードコード2の切断荷重を測定することができる。
上記のように求めた切断荷重W,Wから、式「強度利用率η(%)=W/W×100」により強度利用率η(%)を算出する。
【0065】
(3−3)ビードコードの軽量化率(%)
直径型付け率を4%として撚り合わせた比較例1の強度利用率ηを基準にして、各例の強度利用率ηの上昇分だけ線径の細径化が図れるため、式「軽量化率(%)=(各例の強度利用率η−比較例1の強度利用率η)/比較例1の強度利用率η×100」により算出する。なお、基準となる比較例1では、上式より、軽量化率は0%となる。
【0066】
(3−4)側線の表面状態
直径型付け率の違いによる側線の螺旋巻き付け性の変化を観察する。
なお、表1における螺旋巻き付け性の評価○,△,×は以下のことを示す。
○:環状コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、自然に巻き付けられる状態。
△:環状コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、環状コアへの側線の押し付けが必要な状態。
×:環状コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、環状コアへの側線の押し付けなどの工夫をしても短時間に巻き付けることができない状態。
【0067】
表1から解るように、比較例1では、側線の直径型付け率が4%と小さく、このため、ビードコードの強度利用率が76.0%であった。また、比較例2は、比較例1のビードコードを、車両用タイヤのビードコードとして埋め込む際のゴムの加硫温度(150℃)に加熱したものであり、この比較例2の場合も、側線の直径型付け率が10%と小さく、このため、ビードコードの強度利用率が77.2%であった。このため、比較例1,2では、螺旋巻き付け性は、環状コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、環状コアへの側線の押し付けなどの工夫をしても短時間に巻き付けることができない状態(評価×)であった。
【0068】
これに対して、比較例1,2以外の実施例1〜11では、直径型付け率が20%以上と高いため、それに伴い強度利用率も上昇している。このため、実施例1〜11では、螺旋巻き付け性は、環状コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、環状コアへの側線の押し付けが必要な状態(評価△)、あるいは環状コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、自然に巻き付けられる状態(評価○)であった。ただし、直径型付け率が105%を超える108%である実施例11では、巻き付け性は良好であるが、シース層の外周が凸凹となった。なお、ビードコードの強度利用率は78.5%と低いが、これはコード単体での結果であり、実用的なゴム被覆した状態で測定すれば、強度利用率は確実に向上すると考えられる。
【0069】
(第2実施例)
種々の条件で2層のシース層を有するビードコードを作製し、そのときの側線の直径型付率、ビードコードの強度利用率、軽量化率、及び側線の螺旋巻き付け性の評価を行った。
【0070】
(1)使用する原金属コード(1×1.8+(7+13)×1.4の金属コード)
(1−1)コア材の作製
第1実施例にて作製したビードコードを仮コア材とする。
(1−2)側線の作製
0.82質量%の炭素(C)を含有する直径4.5mmの硬鋼線材を酸洗し、銅及び亜鉛めっきを施し、拡散によって真鍮めっき中間線を作製する。その後、伸線工程を経て直径1.4mmの側線を作製する。側線は、撚線機へ供給するため、必要量だけ13リールに巻き取る。
(1−3)金属コードの作製
仮コア材を含まないで13本撚りができるプレフォーム付きのチューブラー型撚線機を用いて、173.1mmの撚りピッチで仮コア材の周りに13本の側線をZ撚りにて撚り合わせ、1+7+13構造の金属コードを作製する。
なお、撚線機の回転数は、600(rpm)、側線の直径型付け率は平均93%で調整し、撚り合わせ後のコイル径調整は、0.75D1(D1:作製するビードコードの層心径)で調整する。
(1−4)金属コードの解撚
端末分(α)も含めて作製するビードコードの環状径(層心径:D1)の約42倍((D1)π×13+α)の金属コードを準備し、全長にわたって解撚し、1本のコア材、7本の側線及び13本の側線に分離する。
【0071】
(2)作製する環状同芯撚りビードコード
金属コードから分離したコア材を、層心径D1=440.7mmとなるように環状とし、両端末を突き合わせて溶接し、環状コアを作製する。
この環状コアの周りに、金属コードから分離した7本の側線のうちの1本を使用し、巻き付けピッチ153.8mmにて7周回螺旋状に巻き付けて第1層のシース層を形成する。側線の始端及び終端は、余長部を切断し、黄銅製のスリーブに挿入して接続する。
続いて、この第1層の周りに、金属コードから分離した13本の側線のうちの1本を使用し、巻き付けピッチ173.1mmにて13周回螺旋状に巻き付けて第2層のシース層を形成する。側線の始端及び終端は、余長部を切断し、黄銅製のスリーブに挿入して接続する。
【0072】
(3)評価試験
表2にその結果を示す。
【0073】
【表2】

【0074】
なお、表2の評価項目は次の方法によって評価を行った。
【0075】
(3−1)側線の直径型付率(%)
環状同芯撚りビードコードから15cmの長さのサンプルを切り出して作成する。その際、環状のビードコードから何の処理もせずに切断すると側線が解撚してばらけ易いため、予め切断箇所の近傍をバインド線等で結束した後、切断する。切断したサンプルの湾曲(ビードコードの環状の湾曲)を直線状になるように若干矯正した後、その真直部においてコード径測定用専用マイクロメータにて直径Dを測定する。
【0076】
同じ切断サンプルを用いて、結束したバインド線を取り除き、側線6本を無負荷の状態で環状コアから取り外す。6本の側線について、必要により3ピッチ分の波の高さを測定できる長さに切り出し、万能投影器により、1本の側線において試料数n=3(すなわち3ピッチの各波の高さ)で測定し、その平均値をその1本の側線の波高さとする。残りの5本の側線についても同様に測定し、6本の側線の波高さの平均値をそのビードコードにおける側線の波高さHとする。
このようにして求められた直径Dと波高さHを用いて、「直径型付率(%)=H/D×100」の式により直径型付率を算出する。
【0077】
(3−2)ビードコードの強度利用率(%)
計14例に使用する環状コア及び側線について、予め引張り試験機を用いて、試料数n=3で引張り試験を行い、平均切断荷重を算出する。算出式は、「素線での切断荷重W(kN)=環状コアの素線の平均切断荷重+側線の平均切断荷重×6」である。
各例のビードコードに生ゴムを巻き付けて加圧加硫したものについて、前述した治具60を用いてn=2で引張り試験を行い、ゴム付きのビードコードでの平均切断荷重W(kN)を算出する。
上記のように求めた切断荷重W,Wから、式「強度利用率η(%)=W/W×100」により強度利用率η(%)を算出する。
【0078】
(3−3)ビードコードの軽量化率(%)
直径型付け率を3%として撚り合わせた比較例3の強度利用率ηを基準にして、各例の強度利用率ηの上昇分だけ線径の細径化が図れるため、式「軽量化率(%)=(各例の強度利用率η−比較例3の強度利用率η)/比較例3の強度利用率η×100」により算出する。なお、基準となる比較例3では、上式より、軽量化率は0%となる。
【0079】
(3−4)側線の表面状態
直径型付け率の違いによる1層のシース層を有する環状仮コアに対する側線の螺旋巻き付け性の変化を観察する。
なお、表2における螺旋巻き付け性の評価○,△,×は、以下のことを示す。
○:環状仮コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、自然に巻き付けられる状態。
△:環状仮コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、環状コアへの側線の押し付けが必要な状態。
×:環状仮コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、環状コアへの側線の押し付けなどの工夫をしても短時間に巻き付けることができない状態。
【0080】
表2から解るように、比較例3では、側線の直径型付け率が3%と小さく、このため、ビードコードの強度利用率が76.4%であった。また、比較例4は、比較例3のビードコードを、車両用タイヤのビードコードとして埋め込む際のゴムの加硫温度(150℃)に加熱したものであり、この比較例4の場合も、側線の直径型付け率が10%と小さく、このため、ビードコードの強度利用率が77.6%であった。このため、比較例3,4では、螺旋巻き付け性は、1層のシース層を有する環状仮コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、環状仮コアへの側線の押し付けなどの工夫をしても短時間に巻き付けることができない状態(評価×)であった。
【0081】
これに対して、比較例3,4以外の実施例12〜19では、直径型付け率が26%以上と高いため、それに伴い強度利用率も上昇している。このため、実施例12〜19では、螺旋巻き付け性は、環状仮コアに対して第2層の側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、側線の押し付けが必要な状態(評価△)、あるいは環状仮コアに対して側線を螺旋ピッチに沿って巻き付ける際、自然に巻き付けられる状態(評価○)であった。ただし、直径型付け率が105%を超える107%である実施例19では、巻き付け性は良好であるが、第2層の外周が凸凹となった。なお、ビードコードの強度利用率は79.5%と低いが、これはコード単体での結果であり、実用的なゴム被覆した状態で測定すれば、強度利用率は確実に向上すると考えられる。
【0082】
上記実施例1及び実施例2の結果、各シース層を構成する側線の型付け率は、90〜100%にて、最も高い強度利用率となることが分かった。
つまり、このように、強度利用率の高い環状同芯撚りビードコードを、破断強度が一定となるように車両用タイヤに使用すれば、十分な強度を確保しつつタイヤの質量を軽減することができ、エコロジーに優れたタイヤとすることができる。
【符号の説明】
【0083】
1…車両用タイヤ、2…ビードコード(環状同芯撚りビードコード)、11…環状コア、11b…金属素線、12…側線、13…シース層、21…コア材、22…原コード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア材の回りに複数本の単素線を撚り合わせた原コードが解撚され、環状に形成された環状コアに、解撚された単素線の内の1本の単素線が螺旋状に複数周回巻き付けられてシース層とされていることを特徴とする環状同芯撚りビードコード。
【請求項2】
請求項1に記載の環状同芯撚りビードコードであって、
前記環状コアが複数の金属素線を撚り合わせた撚線からなり、前記単素線は、前記環状コアの金属素線の撚り合わせ方向と逆方向に巻き付けられていることを特徴とする環状同芯撚りビードコード。
【請求項3】
請求項1または2に記載の環状同芯撚りビードコードであって、
環状コアの回りに単素線を螺旋状に巻き付けて1層または複数層のシース層を有してなるコードと同一径のコア材の回りに複数本の単素線を撚り合わせた原コードが解撚され、1層または複数層のシース層を有する環状の金属コードに、解撚された単素線の内の1本の単素線が螺旋状に複数周回巻き付けられてシース層とされていることを特徴とする環状同芯撚りビードコード。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の環状同芯撚りビードコードであって、
前記シース層が形成された後の環状同芯撚りビードコードにおける前記単素線の直径型付率が20%以上108%以下であることを特徴とする環状同芯撚りビードコード。
【請求項5】
請求項4に記載の環状同芯撚りビードコードであって、
径方向に隣接するシース層は、前記単素線の巻き付け方向が逆方向とされていることを特徴とする環状同芯撚りビードコード。
【請求項6】
請求項1から5の何れか一項に記載の環状同芯撚りビードコードであって、
前記環状コアは、0.08質量%以上0.27質量%以下の炭素(C)、0.30質量%以上2.00質量%以下のケイ素(Si)、0.50質量%以上2.00質量%以下のマンガン(Mn)及び0.20質量%以上2.00質量%以下のクロム(Cr)を含み、かつ、アルミニウム(Al)、ニオブ(Nb)、チタン(Ti)及びバナジウム(V)がそれぞれ0.001質量%以上0.10質量%以下の範囲で少なくとも1種以上含有し、残部が鉄(Fe)及び不可避的に混入してくる不純物からなる合金鋼から形成されていることを特徴とする環状同芯撚りビードコード。
【請求項7】
請求項1から5の何れか一項に記載の環状同芯撚りビードコードであって、
前記環状コアは、0.28質量%以上0.56質量%以下の炭素(C)を含む炭素鋼から形成されていることを特徴とする環状同芯撚りビードコード。
【請求項8】
コア材の回りに複数本の単素線を撚り合わせた原コードを解撚し、環状に形成された環状コアに、解撚した単素線の内の1本の単素線を螺旋状に複数周回巻き付けてシース層を形成することを特徴とする環状同芯撚りビードコードの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の環状同芯撚りビードコードの製造方法であって、
前記単素線を前記環状コアの周りに複数周回巻き付けてシース層を形成する際に、形成する環状コアの中心径の0.55倍以上2.0倍以下の径に湾曲させておくことを特徴とする環状同芯撚りビードコードの製造方法。
【請求項10】
請求項8または9に記載の環状同芯撚りビードコードの製造方法であって、
前記環状コアとして複数の金属素線を撚り合わせた撚線を用い、前記単素線を、前記環状コアの金属素線の撚り合わせ方向と逆方向に巻き付けることを特徴とする環状同芯撚りビードコードの製造方法。
【請求項11】
請求項8から10の何れか一項に記載の環状同芯撚りビードコードの製造方法であって、
環状コアの回りに単素線を螺旋状に巻き付けて1層または複数層のシース層を有してなるコードと同一径のコア材の回りに複数本の単素線を撚り合わせた原コードを解撚し、1層または複数層のシース層を有する環状の金属コードに、解撚した単素線の内の1本の単素線を螺旋状に複数周回巻き付けてシース層を形成することを特徴とする環状同芯撚りビードコードの製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の環状同芯撚りビードコードの製造方法であって、
径方向に隣接するシース層における前記単素線の巻き付け方向を逆方向とすることを特徴とする特徴とする環状同芯撚りビードコードの製造方法。
【請求項13】
請求項1から7の何れか一項に記載の環状同芯撚りビードコード、または請求項8から12の何れか一項に記載の環状同芯撚りビードコードの製造方法により製造した環状同芯撚りビードコードが埋め込まれていることを特徴とする車両用タイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−242279(P2010−242279A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227523(P2009−227523)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(302061613)住友電工スチールワイヤー株式会社 (163)
【出願人】(504211429)栃木住友電工株式会社 (50)
【Fターム(参考)】