環状成形体の製造方法及び環状成形体
【課題】同一の素材からなり、部分的に特性の異なる環状成形体を製出することが可能な環状成形体の製造方法、この製造方法によって製造された環状成形体を提供する。
【解決手段】貫通孔を有する環状素体20にリング圧延を施すことによって成形される環状成形体の製造方法であって、前記リング圧延においては、環状素体20の内周側に配置されるマンドレルロール50と、環状素体20の外周側に配置されるメインロール40と、によって圧延を行う構成とされており、マンドレルロール50と環状素体20との接触部又はメインロール40と環状素体20との接触部の少なくとも一部に、マンドレルロール50又はメインロール40からの押圧力を軽減する押圧力軽減部を形成し、前記押圧力軽減部に相当する部分の結晶粒を他の部分の結晶粒よりも粗大にすることを特徴とする。
【解決手段】貫通孔を有する環状素体20にリング圧延を施すことによって成形される環状成形体の製造方法であって、前記リング圧延においては、環状素体20の内周側に配置されるマンドレルロール50と、環状素体20の外周側に配置されるメインロール40と、によって圧延を行う構成とされており、マンドレルロール50と環状素体20との接触部又はメインロール40と環状素体20との接触部の少なくとも一部に、マンドレルロール50又はメインロール40からの押圧力を軽減する押圧力軽減部を形成し、前記押圧力軽減部に相当する部分の結晶粒を他の部分の結晶粒よりも粗大にすることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば航空機のタービンエンジン等のガスタービンに用いられるタービンディスク等、貫通孔を有する環状製品を製造する際に加工素材として使用される環状成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前述したガスタービン等に用いられるタービンディスクは、環状をなす部材であり、外周側に複数のタービン翼が配設され、このタービン翼とともに回転される構成とされている。このタービンディスクは、例えば特許文献1,2に記載されているように、耐熱性に優れたNi基超合金からなる素材に対して鍛造加工を行い、得られた環状の鍛造体に対して切削加工を施すことによって製出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−138719号公報
【特許文献2】特開昭62−211333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、航空機の大型化等に伴って、ガスタービンの高効率化、高出力化が求められており、ガスタービン内における燃焼温度の上昇、回転数の増加が図られている。
ここで、ガスタービン内においては、その外周部分を高温ガスが通過することになるため、前述のタービンディスクの外周部分が高温に曝されることになる。一方、タービンディスクの回転数の増加に伴って高速回転による遠心力が負荷されることになり、タービンディスクの外周側においては、高温での使用及び遠心力に耐え得るように、クリープ強度等の耐熱特性が重要となる。一方、タービンディスクの内周側においては、比較的中温域での引張強度、疲労強度が重要となる。
【0005】
すなわち、前述のタービンディスクにおいては、その内周部分と外周部分とで、要求される特性が異なっているのである。
このように、部分的に特性の異なる環状成形体を製出するためには、異なる材質からなる部材を接合することも考えられるが、接合部分において剥離が生じたり、接合後の加工によって形状が変化するおそれがあるため、高い信頼性が要求される部材に適用することはできない。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、同一の素材からなり、部分的に特性の異なる環状成形体を製出することが可能な環状成形体の製造方法、この製造方法によって製造された環状成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の環状成形体の製造方法は、貫通孔を有する環状素体にリング圧延を施すことによって成形される環状成形体の製造方法であって、前記リング圧延においては、前記環状素体の内周側に配置されるマンドレルロールと、前記環状素体の外周側に配置されるメインロールと、によって圧延を行う構成とされており、前記マンドレルロールと前記環状素体との接触部又は前記メインロールと前記環状素体との接触部の少なくとも一部に、前記マンドレルロール又は前記メインロールからの押圧力を軽減する押圧力軽減部を形成し、前記押圧力軽減部に相当する部分の結晶粒を他の部分の結晶粒よりも粗大にすることを特徴としている。
【0008】
このような構成とされた本発明の環状成形体の製造方法においては、環状素体に対して、マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延を行うことによって環状成形体を形成しているので、これらマンドレルロールとメインロールによる押圧力によって、環状成形体にひずみが負荷されることになる。ここで、環状成形体に対して負荷されたひずみ量が多い場合には結晶粒が微細になり、ひずみ量が少ない場合には結晶粒が粗大になることが知られている。
【0009】
ここで、本発明の環状成形体の製造方法においては、前記マンドレルロールと前記環状素体との接触部又は前記メインロールと前記環状素体との接触部の一部に、前記マンドレルロール又は前記メインロールからの押圧力を軽減する押圧力軽減部を形成しているので、この押圧力軽減部に相当する部分では、負荷されるひずみ量が低減されることになる。すると、この押圧力軽減部に相当する部分では、結晶粒が他の部分に比較して粗大化することになる。
【0010】
そして、結晶粒が小さい(ASTM結晶粒度番号が大きい)場合には、引張強度や疲労強度が向上することになる。一方、結晶粒が大きい(ASTM結晶粒度番号が小さい)場合には、結晶粒界密度が少なくなり、クリープ強度が向上することになる。
したがって、部分的に結晶粒の大きさが異なる部分を形成することによって、機械的特性が部分的に異なる環状成形体を製出することが可能となるのである。
【0011】
また、同一の素材に対してリング圧延を行う際の押圧力を部分的に軽減することによって、結晶粒の大きさの異なる部分を形成し、この結晶粒の大きさの違いによって特性を変化させているので、特性が異なる部分同士が剥離するおそれがなく、この環状成形体を信頼性の高い部材に適用することができる。
【0012】
ここで、前記環状素体の内周部又は前記環状素体の外周部に、前記押圧力軽減部が形成されており、前記環状成形体の内周側部分の結晶粒の大きさと、前記環状成形体の外周側部分の結晶粒の大きさとを、互いに異なるように形成する構成としてもよい。
この場合、環状素体の内周部又は外周部に、前記押圧力軽減部が形成されていて、前記環状成形体の内周側部分の結晶粒の大きさと、前記環状成形体の外周側部分の結晶粒の大きさとを、互いに異なるように形成されているので、内周側部分と外周側部分とで、機械的特性を互いに異なるように構成された環状成形体を製出することができる。
【0013】
また、前記環状素体の一部には、前記マンドレルロール又は前記メインロールに対向する部分に、これら前記マンドレルロール又は前記メインロールから離間するように切り欠けられた肉欠部が設けられており、この肉欠部によって、前記押圧力軽減部が形成されている構成としてもよい。
この場合、環状素体の一部に、前記マンドレルロール又は前記メインロールに対向する部分に、これら前記マンドレルロール又は前記メインロールから離間するように切り欠けられた肉欠部が設けられているので、この肉欠部が設けられた部分においては、マンドレルロール又はメインロールとの接触が抑制されることになり、マンドレルロール又はメインロールからの押圧力を軽減することができ、前記押圧力軽減部が形成されることになる。よって、この肉欠部が形成された部分の結晶粒を粗大化させることが可能となる。
【0014】
前記マンドレルロール又は前記メインロールの一部において、前記環状素体に対向する面に切欠部が設けられており、この切欠部によって、前記押圧力軽減部が形成されている構成としてもよい。
この場合、前記マンドレルロール又は前記メインロールの一部において、前記環状素体に対向する面に切欠部が設けられているので、この切欠部が設けられた部分においては、環状素体との接触が抑制されることになり、マンドレルロール又はメインロールから環状素体に与えられる押圧力を軽減することができ、前記押圧力軽減部が形成されることになる。よって、環状成形体のうち、この切欠部に対応する部分の結晶粒を粗大化させることが可能となる。
【0015】
本発明の環状成形体は、前述の環状成形体の製造方法によって製造された環状成形体であって、結晶粒が、他の部分よりも粗大化された結晶粒粗大部を備えていることを特徴としている。
この構成の環状成形体においては、結晶粒が、他の部分よりも粗大化された結晶粒粗大部を備えているので、この結晶粒粗大部における機械的特性が他の部分と異なることになる。よって、同一の素材からなり、部分的に特性が異なった環状成形体となり、タービンディスク等の部材の加工素材として適したものとなる。
【0016】
ここで、内周側部分の少なくとも一部又は外周側部分の少なくとも一部に、前記結晶粒粗大部が形成されており、前記内周側部分の結晶粒の大きさと前記外周側部分の結晶粒の大きさとが、互いに異なる構成とされていることが好ましい。
この場合、環状成形体の内周側部分の少なくとも一部又は外周側部分の少なくとも一部に、前記結晶粒粗大部が形成されていて、環状成形体の内周側部分の結晶粒の大きさと、外周側部分の結晶粒の大きさとが互いに異なるように形成されているので、環状成形体の内周側部分と外周側部分とで、機械的特性を互いに異なるように構成することができる。
【0017】
さらに、前記内周側部分の少なくとも一部の結晶粒と前記外周側部分の少なくとも一部の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上であることが好ましい。
この場合、前記内周側部分の少なくとも一部の結晶粒と前記外周側部分の少なくとも一部の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上と比較的大きく設定されているので、内周側部分と外周側部分とで、機械的特性が大きく異なる環状成形体を得ることができる。
なお、ASTM結晶粒度番号とは、American Society of Testing and Materials(米国材料試験協会)のASTM規格E122に規定する基準によって決定されるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、同一の素材からなり、部分的に特性の異なる環状成形体を製出することが可能な環状成形体の製造方法、この製造方法によって製造された環状成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態である環状成形体の上面図である。
【図2】図1におけるX−X断面矢視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態である環状成形体及びタービンディスクの製造方法を示すフロー図である。
【図4】図3に示す製造方法において用いられる環状素体の一部断面説明図である。
【図5】図3に示す製造方法において用いられるリング圧延の説明図である。
【図6】マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。
【図7】マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態である環状成形体及びタービンディスクの製造方法を示すフロー図である。
【図9】図8に示す製造方法において用いられる環状素体の一部断面説明図である。
【図10】マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。
【図11】マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本発明の第1の実施形態である環状成形体及び環状成形体の製造方法について、図1から図7を参照して説明する。
本実施形態である環状成形体10は、航空機のエンジン等のガスタービンのタービンディスクを成形する加工素材として使用されるものである。
【0021】
環状成形体10は、図1及び図2に示すように、貫通孔を有するとともに、軸線Oを中心とする円環状をなしており、本体部11と、本体部11から径方向内方に向けて突出した内側凸条部12と、本体部11から径方向外方に向けて突出した外側凸条部13と、を備えている。
また、環状成形体10は、耐熱性に優れたNi基超合金で構成されており、本実施形態では、Ni基合金alloy718で構成されている。
【0022】
なお、Ni基合金alloy718の合金組成は、Ni;50.00〜55.00質量%、Cr;17.0〜21.0質量%、Nb;4.75〜5.60質量%、Mo;2.8〜3.3質量%、Ti;0.65〜1.15質量%、Al;0.20〜0.80質量%、C;0.01〜0.08質量%、残部がFe及び不可避不純物とされている。
【0023】
そして、この環状成形体10においては、外側凸条部13における結晶粒が、本体部11及び内側凸条部12における結晶粒よりも粗大となるように構成されている。つまり、この外側凸条部13が、他の部分よりも結晶粒が大きな結晶粒粗大部とされているのである。
具体的には、外側凸条部13における結晶粒と、本体部11及び内側凸条部12における結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上とされている。
すなわち、この環状成形体10を加工して得られるタービンディスクにおいて、その内周側部分(ボア部)の結晶粒が小さく(ASTM結晶粒度番号が大きく)、外周側部分(リム部)の結晶粒が大きく(ASTM結晶粒度番号が小さく)なるように構成されているのである。
【0024】
次に、この環状成形体10の製造方法及びタービンディスクの製造方法について、図3から図7を参照して説明する。
【0025】
(溶解鋳造工程S1)
まず、Ni基合金alloy718の溶湯を溶製する。ここで、前述したNi基合金alloy718の成分範囲になるように、溶解原料を調製し、真空誘導加熱溶解(VIM:Vacuum Induction Melting)を行って、インゴットを製出する。次に、このインゴットをエレクトロスラグ再溶解(ESR:Electro Slag Remelting)して、再度インゴットを製出する。さらに、このインゴットを、真空アーク再溶解(VAR:Vacuum Arc Remelting)した後、熱間鍛造を行い、直径7inch〜12inchのビレットを製出する。
このように、3回の溶解(三重溶解)を行うことによって、介在物が極めて少ない高清浄度のビレットが製出されることになる。
【0026】
(鍛造工程S2)
次に、得られたビレットに対して、ビレットの軸線方向に押圧するように鍛造加工を行い、円板状の鍛造体を成形する。なお、このときの鍛造体の厚さは、60mm〜500mm程度に調整される。
【0027】
(穿孔加工+中間リング圧延工程S3)
得られた円板状の鍛造体の中央部に、ウォーターカッターによって貫通孔を形成する。さらに、貫通孔形成後に必要に応じて中間リング圧延を行う。この穿孔加工+中間リング圧延工程S3によって、環状素体20が製出されることになる。
ここで、本実施形態では、環状素体20は、図4に示すように、周方向に直交する断面が概略六角形状をなしており、軸線Oに対して略直交する方向に延びる上面及び下面を有する素体本体21と、この素体本体21から径方向内方に向けて突出した内側凸部22と、素体本体21から径方向外方に向けて突出した外側凸部23と、を備えている。
なお、この環状素体20(素体本体21)の厚さtmは、tm=60mm〜500mmの範囲内に設定されており、軸線Oから素体本体21の内周端までの距離Rmiが、Rmi=50mm〜350mmの範囲内に、軸線Oから素体本体21の外周端までの距離Rmoが、Rmo=300mm〜600mmの範囲内に設定されている。
【0028】
(リング圧延工程S4)
次に、この環状素体20に対してリング圧延を行う。なお、リング圧延の温度は、例えば900℃〜1050℃の範囲内とされている。
ここで、リング圧延装置30は、図5に示すように、環状素体20の外周側に配設されるメインロール40と、環状素体20の内周側に配設されるマンドレルロール50と、環状素体20の軸線O方向端面(本実施形態では、素体本体21の上面および下面)に当接される一対のアキシャルロール31,32と、を備えている。
【0029】
メインロール40とマンドレルロール50とは、その回転軸が互いに平行となるように配置され、環状素体20を内周側及び外周側から挟持して押圧し、環状素体20を周方向に回転させつつ圧延する構成とされている。また、一対のアキシャルロール31,32は、軸線O方向において環状素体20を挟持して押圧する構成とされており、環状素体20の厚さ寸法を制御するものである。
このように、リング圧延を行うことによって、環状素体20は周方向に延びるように塑性変形していき、その内径及び外径が拡大されるのである。
【0030】
ここで、図6に示すように、メインロール40の外周部には、環状素体20の一部が収容可能な収容凹部41が設けられており、本実施形態では、環状素体20の外側凸部23、素体本体21及び内側凸部22の外周部分が収容可能な深さとされている。
また、この収容凹部41の底部41Aには、外側凸条部13を成形するための第1成形溝42が、メインロール40における径方向内方(図6において右方)に向けて凹むように形成されている。そして、本実施形態では、この第1成形溝42には、さらにメインロール40における径方向内方に向けて凹むように掘り込まれた切欠部45が形成されているのである。この切欠部45と第1成形溝42とにより、収容凹部41の底部41Aには、成形される外側凸条部13の長さより深くされた凹溝が画成されることになる。
【0031】
一方、マンドレルロール50の外周部には、メインロール40の収容凹部41内に嵌入可能な構成とされた嵌入部51が設けられており、この嵌入部51の外周面には、内側凸条部12を成形するための第2成形溝52が、マンドレルロール50における径方向内方(図6において左方)に向けて凹むように形成されている。なお、この第2成形溝52は、成形される内側凸条部12の長さと同一の深さとされている。
【0032】
このような構成とされたメインロール40とマンドレルロール50とが、互いに近接するように作動することにより、環状素体20は、メインロール40とマンドレルロール50とに挟持されて押圧され、メインロール40の収容凹部41及び第1成形溝42、マンドレルロール50の第2成形溝52内に充填されるように塑性変形し、環状成形体10が成形されることになる。
【0033】
このとき、内側凸条部12の内周端は、第2成形溝52の底部に強く当接されることになる。一方、外側凸条部13の外周端は、切欠部45が形成されていることから、第1成形溝42に強く当接されることがないのである。なお、実質的に結晶組織の形成が完了した後では、外側凸条部13の外周端部分が切欠部45に充満するように構成してもよい。
ここで、製出された環状成形体10の軸線Oから本体部11の内周端までの距離Rfiは、Rfi=160mm〜600mmの範囲内に、軸線Oから本体部11の外周端までの距離Rfoは、Rfo=450mm〜750mmの範囲内に設定されている。
【0034】
(熱処理工程S5/切削加工工程S6)
前述のようにして製出された環状成形体10は、熱処理によって特性が調整されるとともに、切削加工によって最終形状に成形され、ガスタービン用のタービンディスクとされる。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態である環状成形体10及び環状成形体の製造方法によれば、環状素体20に対して、メインロール40とマンドレルロール50とを用いたリング圧延を行うことによって環状成形体10を形成しているので、これらメインロール40とマンドレルロール50とによる押圧力によって、環状成形体10にひずみが負荷されることになる。
【0036】
そして、メインロール40に設けられた第1成形溝42の底部に、メインロール40における径方向内方に凹んだ切欠部45が形成されているので、リング圧延時において、環状素体20の外側凸部23が塑性変形して得られた環状成形体10の外側凸条部13の外周端がメインロール40に当接することが抑制されることになる。すなわち、この切欠部45によって、環状素体20(環状成形体10)の外周部への押圧力が軽減された押圧力軽減部が形成されることになる。
【0037】
このように押圧力が軽減された部分においては、負荷されるひずみ量が低減され、結晶粒が他の部分に比較して粗大化することになる。よって、環状成形体10の外側凸条部13の部分の結晶粒が、本体部11及び内側凸条部12の部分の結晶粒よりも粗大となるのである。具体的には、外側凸条部13における結晶粒と、本体部11及び内側凸条部12における結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上とされている。
【0038】
ここで、結晶粒が小さい(ASTM結晶粒度番号が大きい)場合には、引張強度や疲労強度が向上することになる。一方、結晶粒が大きい(ASTM結晶粒度番号が小さい)場合には、結晶粒界密度が少なくなり、クリープ強度が向上することになる。
したがって、本実施形態である環状成形体10においては、本体部11及び内側凸条部12の部分は、引張強度及び疲労強度が比較的高くなり、外側凸条部13の部分は、クリープ強度が比較的高くなるのである。よって、この環状成形体10を加工して得られるタービンディスクは、その内周側部分(ボア部)の引張強度及び疲労強度が高く、かつ、外周側部分(リム部)のクリープ強度が高くなり、ガスタービンの高温化、高速回転化に対応可能となる。
【0039】
また、Ni基合金alloy718からなる環状素体20に対して、リング圧延を行う際の押圧力を部分的に制御することで、結晶粒の大きさが異なる部分を形成し、この結晶粒の大きさの違いによって特性を変化させたものであるので、特性が異なる部分同士が剥離することがなく、信頼性に優れた環状成形体10を製出することができる。
さらに、本実施形態では、外側凸条部13における結晶粒と、本体部11及び内側凸条部12における結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上と比較的大きく設定されているので、外側凸条部13と本体部11及び内側凸条部12とで、機械的特性が大きく異なる環状成形体10を得ることができる。
【0040】
次に、本発明の第2の実施形態である環状成形体及び環状成形体の製造方法について、図8から図11を参照して説明する。
本実施形態である環状成形体110は、航空機のエンジン等のガスタービンのタービンディスクを成形する加工素材として使用されるものである。
【0041】
環状成形体110は、第1の実施形態と同様に、貫通孔を有し、軸線Oを中心とする円環状をなしており、図11に示すように、本体部111と、本体部111から径方向内方に向けて突出した内側凸条部112と、本体部111から径方向外方に向けて突出した外側凸条部113と、を備えている。
また、環状成形体110は、耐熱性に優れたNi基超合金で構成されており、本実施形態では、Ni基合金alloy718で構成されている。
【0042】
そして、この環状成形体110においては、外側凸条部113における結晶粒が、本体部111及び内側凸条部112における結晶粒よりも粗大となるように構成されている。つまり、この外側凸条部113が、他の部分よりも結晶粒が大きな結晶粒粗大部とされているのである。具体的には、外側凸条部113における結晶粒と、本体部111及び内側凸条部112における結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上とされている。
【0043】
次に、この環状成形体110の製造方法及びタービンディスクの製造方法について、図8のフロー図を参照して説明する。
【0044】
(溶解鋳造工程S11)
第1の実施形態と同様に、三重溶解(VIM/ESR/VAR)を行った後、熱間鍛造を行い、直径7inch〜12inchのビレットを製出する。
(鍛造工程S12)
次に、得られたビレットに対して、ビレットの軸線方向に押圧するように鍛造加工を行い、円板状の鍛造体を成形する。なお、このときの鍛造体の厚さは、60mm〜500mm程度に調整される。
【0045】
(穿孔加工+中間リング圧延工程S13)
得られた円板状の鍛造体の中央部に、ウォーターカッターによって貫通孔を形成する。さらに、貫通孔形成後に必要に応じて中間リング圧延を行う。この穿孔加工+中間リング圧延工程S13によって、環状素体120が製出されることになる。
ここで、本実施形態では、環状素体120は、図9に示すように、周方向に直交する断面が概略六角形状をなしており、軸線Oに対して略直交する方向に延びる上面及び下面を有する素体本体121と、この素体本体121から径方向内方に向けて突出した内側凸部122と、素体本体121から径方向外方に向けて突出した外側凸部123と、を備えている。
【0046】
(肉欠部形成工程S14)
さらに、本実施形態では、外側凸部123の外周端部分を切り落とすことによって、肉欠部125が形成されることになる。すなわち、環状素体120のうち、メインロール140に対向する部分に、メインロール140から離間するように切り落とされることによって、肉欠部125が形成されているのである。
【0047】
なお、この環状素体120(素体本体121)の厚さtmは、tm=60mm〜500mmの範囲内に設定されており、軸線Oから素体本体121の内周端までの距離Rmiが、Rmi=50mm〜350mmの範囲内に、軸線Oから素体本体121の外周端までの距離Rmoが、Rmo=300mm〜600mmの範囲内に設定されている。
【0048】
(リング圧延工程S15)
次に、肉欠部125が形成された環状素体120に対してリング圧延を行う。なお、リング圧延の温度は、例えば900℃〜1050℃の範囲内とされている。
ここで、リング圧延装置130は、図10及び図11に示すように、環状素体120の外周側に配設されるメインロール140と、環状素体120の内周側に配設されるマンドレルロール150と、を備えている。
【0049】
メインロール140とマンドレルロール150とは、その回転軸が互いに平行となるように配置され、環状素体120を内周側及び外周側から挟持して押圧し、環状素体120を周方向に回転させつつ圧延する構成とされている。このように、リング圧延を行うことによって、環状素体120は周方向に延びるように塑性変形していき、その内径及び外径が拡大されるのである。
【0050】
ここで、図10に示すように、メインロール140の外周部には、環状素体120の一部が収容可能な収容凹部141が設けられており、本実施形態では、環状素体120の外側凸部123、素体本体121及び内側凸部122の外周部分が収容可能な深さとされている。また、この収容凹部141の底部141Aには、外側凸条部113を成形するための第1成形溝142が、メインロール140における径方向内方(図10において右方)に向けて凹むように形成されている。
【0051】
一方、マンドレルロール150の外周部には、メインロール140の収容凹部141内に嵌入可能な構成とされた嵌入部151が設けられており、この嵌入部151の外周面には、内側凸条部112を成形するための第2成形溝152が、マンドレルロール150における径方向内方(図10において左方)に向けて凹むように形成されている。なお、この第2成形溝152は、成形される内側凸条部112の長さと同一の深さとされている。
【0052】
このような構成とされたメインロール140とマンドレルロール150とが、互いに近接するように作動することにより、環状素体120は、メインロール140とマンドレルロール150とに挟持されて押圧され、メインロール140の収容凹部141及び第1成形溝142、マンドレルロール150の第2成形溝152内に充填されるように塑性変形し、環状成形体110が成形されることになる。
【0053】
このとき、内側凸条部112の内周端は、第2成形溝152の底部に強く当接されることになる。一方、外側凸条部113の外周端は、環状素体120の外側凸部123に肉欠部125が形成されていることから、第1成形溝142に強く当接されることがない。なお、実質的に結晶組織の形成が完了した後では、環状素体120が第1成形溝142内に充満するように構成してもよい。
なお、製出された環状成形体110の軸線Oから本体部111の内周端までの距離Rfiは、Rfi=160mm〜600mmの範囲内に、軸線Oから本体部111の外周端までの距離Rfoは、Rfo=450mm〜750mmの範囲内に設定されている。
【0054】
(熱処理工程S16/切削加工工程S17)
前述のようにして製出された環状成形体110は、熱処理によって特性が調整されるとともに、切削加工によって最終形状に成形され、ガスタービン用のタービンディスクとされることになる。
【0055】
以上のような構成とされた本実施形態である環状成形体110及び環状成形体の製造方法によれば、環状素体120に対して、メインロール140とマンドレルロール150とを用いたリング圧延を行うことによって環状成形体110を形成しているので、これらメインロール140とマンドレルロール150とによる押圧力によって、環状成形体110にひずみが負荷されることになる。
【0056】
そして、環状素体120の外側凸部123に肉欠部125が形成されているので、リング圧延時において、環状素体120の外側凸部123が塑性変形して得られた環状成形体110の外側凸条部113の外周端がメインロール140に当接することが抑制されることになる。すなわち、この肉欠部125によって、環状素体120(環状成形体110)の外周部への押圧力が軽減された押圧力軽減部が形成されていることになる。
【0057】
このように押圧力が軽減された部分においては、負荷されるひずみ量が低減され、結晶粒が他の部分に比較して粗大化することになる。よって、環状成形体110の外側凸条部113の部分の結晶粒が、本体部111及び内側凸条部112の部分の結晶粒よりも粗大となるのである。
したがって、本実施形態である環状成形体110においては、本体部111及び内側凸条部112の部分は、引張強度及び疲労強度が比較的高くなり、外側凸条部113の部分は、クリープ強度が比較的高くなるのである。よって、この環状成形体110を加工して得られるタービンディスクは、その内周側部分(ボア部)の引張強度及び疲労強度が高く、かつ、外周側部分(リム部)のクリープ強度が高くなり、ガスタービンの高温化、高速回転化に対応可能となる。
【実施例1】
【0058】
本発明の作用効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
まず、第1の実施形態である環状成形体の製造方法により、環状成形体を製出し、その結晶粒の大きさを評価した。
Ni基合金alloy718からなる環状素体20に対して、図4から図6に示すように、リング圧延を行った。リング圧延の温度は、900℃〜1050℃とした。リング圧延終了後に、AMS5663に従って熱処理(溶体化処理及び時効処理)を行った。なお、AMS5663とは、SAE internationalが発行している「Aerospace Material Specification(航空材料規格)」の規格番号である。
得られた環状成形体10の内側凸条部12及び外側凸条部13のASTM結晶粒度番号を測定した。試料の測定部位の軸方向断面及び径方向断面を研磨し、酸性液でエッチング処理後、光学顕微鏡観察により測定し、ASTM結晶粒度番号を判定した。
【実施例2】
【0059】
次に、第2の実施形態である環状成形体の製造方法により、環状成形体を製出し、その結晶粒の大きさを評価した。
Ni基合金alloy718からなる環状素体120に対して、図9から図11に示すように、リング圧延を行った。リング圧延の温度は、900℃〜1050℃とした。リング圧延終了後に、AMS5663に従って熱処理(溶体化処理及び時効処理)を行った。
得られた環状成形体110の内側凸条部112及び外側凸条部113のASTM結晶粒度番号を測定した。試料の測定部位の軸方向断面及び径方向断面を研磨し、酸性液でエッチング処理後、光学顕微鏡観察により測定し、ASTM結晶粒度番号を判定した。
【0060】
実施例1,2の評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
メインロール40に切欠部45を設けて押圧力軽減部を形成した実施例1においては、内側凸条部12のASTM結晶粒度番号が10.5、外側凸条部13のASTM結晶粒度番号が8.0とされており、外側凸条部13の結晶粒が内側凸条部12に比べて粗大化していることが確認される。また、内側凸条部12の結晶粒と外側凸条部13の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上となっていることが確認される。
【0063】
また、環状素体120に肉欠部125を設けて押圧力軽減部を形成した実施例2においても、内側凸条部112のASTM結晶粒度番号が11.0、外側凸条部113のASTM結晶粒度番号が9.0とされており、外側凸条部113の結晶粒が内側凸条部112に比べて粗大化していることが確認される。また、内側凸条部112の結晶粒と外側凸条部113の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上となっていることが確認される。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、環状成形体の外周側部分(外側凸条部)の結晶粒を粗大化するものとして説明したが、これに限定されることはなく、環状成形体の内周側部分(内側凸条部)の結晶粒を粗大化させてもよい。
【0065】
また、環状成形体及び環状素体の形状は、本実施形態に限定されることはなく、製出するタービンディスク等の形状を考慮して適宜設計変更することが可能である。
さらに、環状成形体及び環状素体がNi基合金alloy718で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、その他の材質で構成されたものであってもよい。
【0066】
また、Ni基合金alloy718の溶湯を溶製し、鋳造によってビレットを製出するものとして説明したが、これに限定されることはなく、粉末成形法によってビレットを製出し、このビレットにリング圧延を行う構成としてもよい。
さらに、リング圧延において、環状成形体の表面を押圧することによって、結晶粒を粗大化した部分の結晶粒の大きさの調整を行ってもよい。すなわち、結晶粒が粗大すぎた場合には、超音波探傷特性の劣化や引張強度の低下が起こることがあるため、適度にひずみを与えて結晶粒の大きさを調整してもよい。
【0067】
また、本実施形態では、円板状の鍛造体の中央部にウォーターカッターによって貫通孔を形成する穿孔工程を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ウォーターカッター以外の手法で貫通孔を形成してもよい。あるいは、鍛造の時点で貫通孔を形成しておき、穿孔工程自体を省略してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10,110 環状成形体
20、120 環状素体
40、140 メインロール
45 切欠部
50、150 マンドレルロール
125 肉欠部
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば航空機のタービンエンジン等のガスタービンに用いられるタービンディスク等、貫通孔を有する環状製品を製造する際に加工素材として使用される環状成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前述したガスタービン等に用いられるタービンディスクは、環状をなす部材であり、外周側に複数のタービン翼が配設され、このタービン翼とともに回転される構成とされている。このタービンディスクは、例えば特許文献1,2に記載されているように、耐熱性に優れたNi基超合金からなる素材に対して鍛造加工を行い、得られた環状の鍛造体に対して切削加工を施すことによって製出されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−138719号公報
【特許文献2】特開昭62−211333号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年では、航空機の大型化等に伴って、ガスタービンの高効率化、高出力化が求められており、ガスタービン内における燃焼温度の上昇、回転数の増加が図られている。
ここで、ガスタービン内においては、その外周部分を高温ガスが通過することになるため、前述のタービンディスクの外周部分が高温に曝されることになる。一方、タービンディスクの回転数の増加に伴って高速回転による遠心力が負荷されることになり、タービンディスクの外周側においては、高温での使用及び遠心力に耐え得るように、クリープ強度等の耐熱特性が重要となる。一方、タービンディスクの内周側においては、比較的中温域での引張強度、疲労強度が重要となる。
【0005】
すなわち、前述のタービンディスクにおいては、その内周部分と外周部分とで、要求される特性が異なっているのである。
このように、部分的に特性の異なる環状成形体を製出するためには、異なる材質からなる部材を接合することも考えられるが、接合部分において剥離が生じたり、接合後の加工によって形状が変化するおそれがあるため、高い信頼性が要求される部材に適用することはできない。
【0006】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、同一の素材からなり、部分的に特性の異なる環状成形体を製出することが可能な環状成形体の製造方法、この製造方法によって製造された環状成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明の環状成形体の製造方法は、貫通孔を有する環状素体にリング圧延を施すことによって成形される環状成形体の製造方法であって、前記リング圧延においては、前記環状素体の内周側に配置されるマンドレルロールと、前記環状素体の外周側に配置されるメインロールと、によって圧延を行う構成とされており、前記マンドレルロールと前記環状素体との接触部又は前記メインロールと前記環状素体との接触部の少なくとも一部に、前記マンドレルロール又は前記メインロールからの押圧力を軽減する押圧力軽減部を形成し、前記押圧力軽減部に相当する部分の結晶粒を他の部分の結晶粒よりも粗大にすることを特徴としている。
【0008】
このような構成とされた本発明の環状成形体の製造方法においては、環状素体に対して、マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延を行うことによって環状成形体を形成しているので、これらマンドレルロールとメインロールによる押圧力によって、環状成形体にひずみが負荷されることになる。ここで、環状成形体に対して負荷されたひずみ量が多い場合には結晶粒が微細になり、ひずみ量が少ない場合には結晶粒が粗大になることが知られている。
【0009】
ここで、本発明の環状成形体の製造方法においては、前記マンドレルロールと前記環状素体との接触部又は前記メインロールと前記環状素体との接触部の一部に、前記マンドレルロール又は前記メインロールからの押圧力を軽減する押圧力軽減部を形成しているので、この押圧力軽減部に相当する部分では、負荷されるひずみ量が低減されることになる。すると、この押圧力軽減部に相当する部分では、結晶粒が他の部分に比較して粗大化することになる。
【0010】
そして、結晶粒が小さい(ASTM結晶粒度番号が大きい)場合には、引張強度や疲労強度が向上することになる。一方、結晶粒が大きい(ASTM結晶粒度番号が小さい)場合には、結晶粒界密度が少なくなり、クリープ強度が向上することになる。
したがって、部分的に結晶粒の大きさが異なる部分を形成することによって、機械的特性が部分的に異なる環状成形体を製出することが可能となるのである。
【0011】
また、同一の素材に対してリング圧延を行う際の押圧力を部分的に軽減することによって、結晶粒の大きさの異なる部分を形成し、この結晶粒の大きさの違いによって特性を変化させているので、特性が異なる部分同士が剥離するおそれがなく、この環状成形体を信頼性の高い部材に適用することができる。
【0012】
ここで、前記環状素体の内周部又は前記環状素体の外周部に、前記押圧力軽減部が形成されており、前記環状成形体の内周側部分の結晶粒の大きさと、前記環状成形体の外周側部分の結晶粒の大きさとを、互いに異なるように形成する構成としてもよい。
この場合、環状素体の内周部又は外周部に、前記押圧力軽減部が形成されていて、前記環状成形体の内周側部分の結晶粒の大きさと、前記環状成形体の外周側部分の結晶粒の大きさとを、互いに異なるように形成されているので、内周側部分と外周側部分とで、機械的特性を互いに異なるように構成された環状成形体を製出することができる。
【0013】
また、前記環状素体の一部には、前記マンドレルロール又は前記メインロールに対向する部分に、これら前記マンドレルロール又は前記メインロールから離間するように切り欠けられた肉欠部が設けられており、この肉欠部によって、前記押圧力軽減部が形成されている構成としてもよい。
この場合、環状素体の一部に、前記マンドレルロール又は前記メインロールに対向する部分に、これら前記マンドレルロール又は前記メインロールから離間するように切り欠けられた肉欠部が設けられているので、この肉欠部が設けられた部分においては、マンドレルロール又はメインロールとの接触が抑制されることになり、マンドレルロール又はメインロールからの押圧力を軽減することができ、前記押圧力軽減部が形成されることになる。よって、この肉欠部が形成された部分の結晶粒を粗大化させることが可能となる。
【0014】
前記マンドレルロール又は前記メインロールの一部において、前記環状素体に対向する面に切欠部が設けられており、この切欠部によって、前記押圧力軽減部が形成されている構成としてもよい。
この場合、前記マンドレルロール又は前記メインロールの一部において、前記環状素体に対向する面に切欠部が設けられているので、この切欠部が設けられた部分においては、環状素体との接触が抑制されることになり、マンドレルロール又はメインロールから環状素体に与えられる押圧力を軽減することができ、前記押圧力軽減部が形成されることになる。よって、環状成形体のうち、この切欠部に対応する部分の結晶粒を粗大化させることが可能となる。
【0015】
本発明の環状成形体は、前述の環状成形体の製造方法によって製造された環状成形体であって、結晶粒が、他の部分よりも粗大化された結晶粒粗大部を備えていることを特徴としている。
この構成の環状成形体においては、結晶粒が、他の部分よりも粗大化された結晶粒粗大部を備えているので、この結晶粒粗大部における機械的特性が他の部分と異なることになる。よって、同一の素材からなり、部分的に特性が異なった環状成形体となり、タービンディスク等の部材の加工素材として適したものとなる。
【0016】
ここで、内周側部分の少なくとも一部又は外周側部分の少なくとも一部に、前記結晶粒粗大部が形成されており、前記内周側部分の結晶粒の大きさと前記外周側部分の結晶粒の大きさとが、互いに異なる構成とされていることが好ましい。
この場合、環状成形体の内周側部分の少なくとも一部又は外周側部分の少なくとも一部に、前記結晶粒粗大部が形成されていて、環状成形体の内周側部分の結晶粒の大きさと、外周側部分の結晶粒の大きさとが互いに異なるように形成されているので、環状成形体の内周側部分と外周側部分とで、機械的特性を互いに異なるように構成することができる。
【0017】
さらに、前記内周側部分の少なくとも一部の結晶粒と前記外周側部分の少なくとも一部の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上であることが好ましい。
この場合、前記内周側部分の少なくとも一部の結晶粒と前記外周側部分の少なくとも一部の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上と比較的大きく設定されているので、内周側部分と外周側部分とで、機械的特性が大きく異なる環状成形体を得ることができる。
なお、ASTM結晶粒度番号とは、American Society of Testing and Materials(米国材料試験協会)のASTM規格E122に規定する基準によって決定されるものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、同一の素材からなり、部分的に特性の異なる環状成形体を製出することが可能な環状成形体の製造方法、この製造方法によって製造された環状成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態である環状成形体の上面図である。
【図2】図1におけるX−X断面矢視図である。
【図3】本発明の第1の実施形態である環状成形体及びタービンディスクの製造方法を示すフロー図である。
【図4】図3に示す製造方法において用いられる環状素体の一部断面説明図である。
【図5】図3に示す製造方法において用いられるリング圧延の説明図である。
【図6】マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。
【図7】マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。
【図8】本発明の第2の実施形態である環状成形体及びタービンディスクの製造方法を示すフロー図である。
【図9】図8に示す製造方法において用いられる環状素体の一部断面説明図である。
【図10】マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。
【図11】マンドレルロールとメインロールとを用いたリング圧延工程の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照して説明する。
まず、本発明の第1の実施形態である環状成形体及び環状成形体の製造方法について、図1から図7を参照して説明する。
本実施形態である環状成形体10は、航空機のエンジン等のガスタービンのタービンディスクを成形する加工素材として使用されるものである。
【0021】
環状成形体10は、図1及び図2に示すように、貫通孔を有するとともに、軸線Oを中心とする円環状をなしており、本体部11と、本体部11から径方向内方に向けて突出した内側凸条部12と、本体部11から径方向外方に向けて突出した外側凸条部13と、を備えている。
また、環状成形体10は、耐熱性に優れたNi基超合金で構成されており、本実施形態では、Ni基合金alloy718で構成されている。
【0022】
なお、Ni基合金alloy718の合金組成は、Ni;50.00〜55.00質量%、Cr;17.0〜21.0質量%、Nb;4.75〜5.60質量%、Mo;2.8〜3.3質量%、Ti;0.65〜1.15質量%、Al;0.20〜0.80質量%、C;0.01〜0.08質量%、残部がFe及び不可避不純物とされている。
【0023】
そして、この環状成形体10においては、外側凸条部13における結晶粒が、本体部11及び内側凸条部12における結晶粒よりも粗大となるように構成されている。つまり、この外側凸条部13が、他の部分よりも結晶粒が大きな結晶粒粗大部とされているのである。
具体的には、外側凸条部13における結晶粒と、本体部11及び内側凸条部12における結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上とされている。
すなわち、この環状成形体10を加工して得られるタービンディスクにおいて、その内周側部分(ボア部)の結晶粒が小さく(ASTM結晶粒度番号が大きく)、外周側部分(リム部)の結晶粒が大きく(ASTM結晶粒度番号が小さく)なるように構成されているのである。
【0024】
次に、この環状成形体10の製造方法及びタービンディスクの製造方法について、図3から図7を参照して説明する。
【0025】
(溶解鋳造工程S1)
まず、Ni基合金alloy718の溶湯を溶製する。ここで、前述したNi基合金alloy718の成分範囲になるように、溶解原料を調製し、真空誘導加熱溶解(VIM:Vacuum Induction Melting)を行って、インゴットを製出する。次に、このインゴットをエレクトロスラグ再溶解(ESR:Electro Slag Remelting)して、再度インゴットを製出する。さらに、このインゴットを、真空アーク再溶解(VAR:Vacuum Arc Remelting)した後、熱間鍛造を行い、直径7inch〜12inchのビレットを製出する。
このように、3回の溶解(三重溶解)を行うことによって、介在物が極めて少ない高清浄度のビレットが製出されることになる。
【0026】
(鍛造工程S2)
次に、得られたビレットに対して、ビレットの軸線方向に押圧するように鍛造加工を行い、円板状の鍛造体を成形する。なお、このときの鍛造体の厚さは、60mm〜500mm程度に調整される。
【0027】
(穿孔加工+中間リング圧延工程S3)
得られた円板状の鍛造体の中央部に、ウォーターカッターによって貫通孔を形成する。さらに、貫通孔形成後に必要に応じて中間リング圧延を行う。この穿孔加工+中間リング圧延工程S3によって、環状素体20が製出されることになる。
ここで、本実施形態では、環状素体20は、図4に示すように、周方向に直交する断面が概略六角形状をなしており、軸線Oに対して略直交する方向に延びる上面及び下面を有する素体本体21と、この素体本体21から径方向内方に向けて突出した内側凸部22と、素体本体21から径方向外方に向けて突出した外側凸部23と、を備えている。
なお、この環状素体20(素体本体21)の厚さtmは、tm=60mm〜500mmの範囲内に設定されており、軸線Oから素体本体21の内周端までの距離Rmiが、Rmi=50mm〜350mmの範囲内に、軸線Oから素体本体21の外周端までの距離Rmoが、Rmo=300mm〜600mmの範囲内に設定されている。
【0028】
(リング圧延工程S4)
次に、この環状素体20に対してリング圧延を行う。なお、リング圧延の温度は、例えば900℃〜1050℃の範囲内とされている。
ここで、リング圧延装置30は、図5に示すように、環状素体20の外周側に配設されるメインロール40と、環状素体20の内周側に配設されるマンドレルロール50と、環状素体20の軸線O方向端面(本実施形態では、素体本体21の上面および下面)に当接される一対のアキシャルロール31,32と、を備えている。
【0029】
メインロール40とマンドレルロール50とは、その回転軸が互いに平行となるように配置され、環状素体20を内周側及び外周側から挟持して押圧し、環状素体20を周方向に回転させつつ圧延する構成とされている。また、一対のアキシャルロール31,32は、軸線O方向において環状素体20を挟持して押圧する構成とされており、環状素体20の厚さ寸法を制御するものである。
このように、リング圧延を行うことによって、環状素体20は周方向に延びるように塑性変形していき、その内径及び外径が拡大されるのである。
【0030】
ここで、図6に示すように、メインロール40の外周部には、環状素体20の一部が収容可能な収容凹部41が設けられており、本実施形態では、環状素体20の外側凸部23、素体本体21及び内側凸部22の外周部分が収容可能な深さとされている。
また、この収容凹部41の底部41Aには、外側凸条部13を成形するための第1成形溝42が、メインロール40における径方向内方(図6において右方)に向けて凹むように形成されている。そして、本実施形態では、この第1成形溝42には、さらにメインロール40における径方向内方に向けて凹むように掘り込まれた切欠部45が形成されているのである。この切欠部45と第1成形溝42とにより、収容凹部41の底部41Aには、成形される外側凸条部13の長さより深くされた凹溝が画成されることになる。
【0031】
一方、マンドレルロール50の外周部には、メインロール40の収容凹部41内に嵌入可能な構成とされた嵌入部51が設けられており、この嵌入部51の外周面には、内側凸条部12を成形するための第2成形溝52が、マンドレルロール50における径方向内方(図6において左方)に向けて凹むように形成されている。なお、この第2成形溝52は、成形される内側凸条部12の長さと同一の深さとされている。
【0032】
このような構成とされたメインロール40とマンドレルロール50とが、互いに近接するように作動することにより、環状素体20は、メインロール40とマンドレルロール50とに挟持されて押圧され、メインロール40の収容凹部41及び第1成形溝42、マンドレルロール50の第2成形溝52内に充填されるように塑性変形し、環状成形体10が成形されることになる。
【0033】
このとき、内側凸条部12の内周端は、第2成形溝52の底部に強く当接されることになる。一方、外側凸条部13の外周端は、切欠部45が形成されていることから、第1成形溝42に強く当接されることがないのである。なお、実質的に結晶組織の形成が完了した後では、外側凸条部13の外周端部分が切欠部45に充満するように構成してもよい。
ここで、製出された環状成形体10の軸線Oから本体部11の内周端までの距離Rfiは、Rfi=160mm〜600mmの範囲内に、軸線Oから本体部11の外周端までの距離Rfoは、Rfo=450mm〜750mmの範囲内に設定されている。
【0034】
(熱処理工程S5/切削加工工程S6)
前述のようにして製出された環状成形体10は、熱処理によって特性が調整されるとともに、切削加工によって最終形状に成形され、ガスタービン用のタービンディスクとされる。
【0035】
以上のような構成とされた本実施形態である環状成形体10及び環状成形体の製造方法によれば、環状素体20に対して、メインロール40とマンドレルロール50とを用いたリング圧延を行うことによって環状成形体10を形成しているので、これらメインロール40とマンドレルロール50とによる押圧力によって、環状成形体10にひずみが負荷されることになる。
【0036】
そして、メインロール40に設けられた第1成形溝42の底部に、メインロール40における径方向内方に凹んだ切欠部45が形成されているので、リング圧延時において、環状素体20の外側凸部23が塑性変形して得られた環状成形体10の外側凸条部13の外周端がメインロール40に当接することが抑制されることになる。すなわち、この切欠部45によって、環状素体20(環状成形体10)の外周部への押圧力が軽減された押圧力軽減部が形成されることになる。
【0037】
このように押圧力が軽減された部分においては、負荷されるひずみ量が低減され、結晶粒が他の部分に比較して粗大化することになる。よって、環状成形体10の外側凸条部13の部分の結晶粒が、本体部11及び内側凸条部12の部分の結晶粒よりも粗大となるのである。具体的には、外側凸条部13における結晶粒と、本体部11及び内側凸条部12における結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上とされている。
【0038】
ここで、結晶粒が小さい(ASTM結晶粒度番号が大きい)場合には、引張強度や疲労強度が向上することになる。一方、結晶粒が大きい(ASTM結晶粒度番号が小さい)場合には、結晶粒界密度が少なくなり、クリープ強度が向上することになる。
したがって、本実施形態である環状成形体10においては、本体部11及び内側凸条部12の部分は、引張強度及び疲労強度が比較的高くなり、外側凸条部13の部分は、クリープ強度が比較的高くなるのである。よって、この環状成形体10を加工して得られるタービンディスクは、その内周側部分(ボア部)の引張強度及び疲労強度が高く、かつ、外周側部分(リム部)のクリープ強度が高くなり、ガスタービンの高温化、高速回転化に対応可能となる。
【0039】
また、Ni基合金alloy718からなる環状素体20に対して、リング圧延を行う際の押圧力を部分的に制御することで、結晶粒の大きさが異なる部分を形成し、この結晶粒の大きさの違いによって特性を変化させたものであるので、特性が異なる部分同士が剥離することがなく、信頼性に優れた環状成形体10を製出することができる。
さらに、本実施形態では、外側凸条部13における結晶粒と、本体部11及び内側凸条部12における結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上と比較的大きく設定されているので、外側凸条部13と本体部11及び内側凸条部12とで、機械的特性が大きく異なる環状成形体10を得ることができる。
【0040】
次に、本発明の第2の実施形態である環状成形体及び環状成形体の製造方法について、図8から図11を参照して説明する。
本実施形態である環状成形体110は、航空機のエンジン等のガスタービンのタービンディスクを成形する加工素材として使用されるものである。
【0041】
環状成形体110は、第1の実施形態と同様に、貫通孔を有し、軸線Oを中心とする円環状をなしており、図11に示すように、本体部111と、本体部111から径方向内方に向けて突出した内側凸条部112と、本体部111から径方向外方に向けて突出した外側凸条部113と、を備えている。
また、環状成形体110は、耐熱性に優れたNi基超合金で構成されており、本実施形態では、Ni基合金alloy718で構成されている。
【0042】
そして、この環状成形体110においては、外側凸条部113における結晶粒が、本体部111及び内側凸条部112における結晶粒よりも粗大となるように構成されている。つまり、この外側凸条部113が、他の部分よりも結晶粒が大きな結晶粒粗大部とされているのである。具体的には、外側凸条部113における結晶粒と、本体部111及び内側凸条部112における結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上とされている。
【0043】
次に、この環状成形体110の製造方法及びタービンディスクの製造方法について、図8のフロー図を参照して説明する。
【0044】
(溶解鋳造工程S11)
第1の実施形態と同様に、三重溶解(VIM/ESR/VAR)を行った後、熱間鍛造を行い、直径7inch〜12inchのビレットを製出する。
(鍛造工程S12)
次に、得られたビレットに対して、ビレットの軸線方向に押圧するように鍛造加工を行い、円板状の鍛造体を成形する。なお、このときの鍛造体の厚さは、60mm〜500mm程度に調整される。
【0045】
(穿孔加工+中間リング圧延工程S13)
得られた円板状の鍛造体の中央部に、ウォーターカッターによって貫通孔を形成する。さらに、貫通孔形成後に必要に応じて中間リング圧延を行う。この穿孔加工+中間リング圧延工程S13によって、環状素体120が製出されることになる。
ここで、本実施形態では、環状素体120は、図9に示すように、周方向に直交する断面が概略六角形状をなしており、軸線Oに対して略直交する方向に延びる上面及び下面を有する素体本体121と、この素体本体121から径方向内方に向けて突出した内側凸部122と、素体本体121から径方向外方に向けて突出した外側凸部123と、を備えている。
【0046】
(肉欠部形成工程S14)
さらに、本実施形態では、外側凸部123の外周端部分を切り落とすことによって、肉欠部125が形成されることになる。すなわち、環状素体120のうち、メインロール140に対向する部分に、メインロール140から離間するように切り落とされることによって、肉欠部125が形成されているのである。
【0047】
なお、この環状素体120(素体本体121)の厚さtmは、tm=60mm〜500mmの範囲内に設定されており、軸線Oから素体本体121の内周端までの距離Rmiが、Rmi=50mm〜350mmの範囲内に、軸線Oから素体本体121の外周端までの距離Rmoが、Rmo=300mm〜600mmの範囲内に設定されている。
【0048】
(リング圧延工程S15)
次に、肉欠部125が形成された環状素体120に対してリング圧延を行う。なお、リング圧延の温度は、例えば900℃〜1050℃の範囲内とされている。
ここで、リング圧延装置130は、図10及び図11に示すように、環状素体120の外周側に配設されるメインロール140と、環状素体120の内周側に配設されるマンドレルロール150と、を備えている。
【0049】
メインロール140とマンドレルロール150とは、その回転軸が互いに平行となるように配置され、環状素体120を内周側及び外周側から挟持して押圧し、環状素体120を周方向に回転させつつ圧延する構成とされている。このように、リング圧延を行うことによって、環状素体120は周方向に延びるように塑性変形していき、その内径及び外径が拡大されるのである。
【0050】
ここで、図10に示すように、メインロール140の外周部には、環状素体120の一部が収容可能な収容凹部141が設けられており、本実施形態では、環状素体120の外側凸部123、素体本体121及び内側凸部122の外周部分が収容可能な深さとされている。また、この収容凹部141の底部141Aには、外側凸条部113を成形するための第1成形溝142が、メインロール140における径方向内方(図10において右方)に向けて凹むように形成されている。
【0051】
一方、マンドレルロール150の外周部には、メインロール140の収容凹部141内に嵌入可能な構成とされた嵌入部151が設けられており、この嵌入部151の外周面には、内側凸条部112を成形するための第2成形溝152が、マンドレルロール150における径方向内方(図10において左方)に向けて凹むように形成されている。なお、この第2成形溝152は、成形される内側凸条部112の長さと同一の深さとされている。
【0052】
このような構成とされたメインロール140とマンドレルロール150とが、互いに近接するように作動することにより、環状素体120は、メインロール140とマンドレルロール150とに挟持されて押圧され、メインロール140の収容凹部141及び第1成形溝142、マンドレルロール150の第2成形溝152内に充填されるように塑性変形し、環状成形体110が成形されることになる。
【0053】
このとき、内側凸条部112の内周端は、第2成形溝152の底部に強く当接されることになる。一方、外側凸条部113の外周端は、環状素体120の外側凸部123に肉欠部125が形成されていることから、第1成形溝142に強く当接されることがない。なお、実質的に結晶組織の形成が完了した後では、環状素体120が第1成形溝142内に充満するように構成してもよい。
なお、製出された環状成形体110の軸線Oから本体部111の内周端までの距離Rfiは、Rfi=160mm〜600mmの範囲内に、軸線Oから本体部111の外周端までの距離Rfoは、Rfo=450mm〜750mmの範囲内に設定されている。
【0054】
(熱処理工程S16/切削加工工程S17)
前述のようにして製出された環状成形体110は、熱処理によって特性が調整されるとともに、切削加工によって最終形状に成形され、ガスタービン用のタービンディスクとされることになる。
【0055】
以上のような構成とされた本実施形態である環状成形体110及び環状成形体の製造方法によれば、環状素体120に対して、メインロール140とマンドレルロール150とを用いたリング圧延を行うことによって環状成形体110を形成しているので、これらメインロール140とマンドレルロール150とによる押圧力によって、環状成形体110にひずみが負荷されることになる。
【0056】
そして、環状素体120の外側凸部123に肉欠部125が形成されているので、リング圧延時において、環状素体120の外側凸部123が塑性変形して得られた環状成形体110の外側凸条部113の外周端がメインロール140に当接することが抑制されることになる。すなわち、この肉欠部125によって、環状素体120(環状成形体110)の外周部への押圧力が軽減された押圧力軽減部が形成されていることになる。
【0057】
このように押圧力が軽減された部分においては、負荷されるひずみ量が低減され、結晶粒が他の部分に比較して粗大化することになる。よって、環状成形体110の外側凸条部113の部分の結晶粒が、本体部111及び内側凸条部112の部分の結晶粒よりも粗大となるのである。
したがって、本実施形態である環状成形体110においては、本体部111及び内側凸条部112の部分は、引張強度及び疲労強度が比較的高くなり、外側凸条部113の部分は、クリープ強度が比較的高くなるのである。よって、この環状成形体110を加工して得られるタービンディスクは、その内周側部分(ボア部)の引張強度及び疲労強度が高く、かつ、外周側部分(リム部)のクリープ強度が高くなり、ガスタービンの高温化、高速回転化に対応可能となる。
【実施例1】
【0058】
本発明の作用効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
まず、第1の実施形態である環状成形体の製造方法により、環状成形体を製出し、その結晶粒の大きさを評価した。
Ni基合金alloy718からなる環状素体20に対して、図4から図6に示すように、リング圧延を行った。リング圧延の温度は、900℃〜1050℃とした。リング圧延終了後に、AMS5663に従って熱処理(溶体化処理及び時効処理)を行った。なお、AMS5663とは、SAE internationalが発行している「Aerospace Material Specification(航空材料規格)」の規格番号である。
得られた環状成形体10の内側凸条部12及び外側凸条部13のASTM結晶粒度番号を測定した。試料の測定部位の軸方向断面及び径方向断面を研磨し、酸性液でエッチング処理後、光学顕微鏡観察により測定し、ASTM結晶粒度番号を判定した。
【実施例2】
【0059】
次に、第2の実施形態である環状成形体の製造方法により、環状成形体を製出し、その結晶粒の大きさを評価した。
Ni基合金alloy718からなる環状素体120に対して、図9から図11に示すように、リング圧延を行った。リング圧延の温度は、900℃〜1050℃とした。リング圧延終了後に、AMS5663に従って熱処理(溶体化処理及び時効処理)を行った。
得られた環状成形体110の内側凸条部112及び外側凸条部113のASTM結晶粒度番号を測定した。試料の測定部位の軸方向断面及び径方向断面を研磨し、酸性液でエッチング処理後、光学顕微鏡観察により測定し、ASTM結晶粒度番号を判定した。
【0060】
実施例1,2の評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
メインロール40に切欠部45を設けて押圧力軽減部を形成した実施例1においては、内側凸条部12のASTM結晶粒度番号が10.5、外側凸条部13のASTM結晶粒度番号が8.0とされており、外側凸条部13の結晶粒が内側凸条部12に比べて粗大化していることが確認される。また、内側凸条部12の結晶粒と外側凸条部13の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上となっていることが確認される。
【0063】
また、環状素体120に肉欠部125を設けて押圧力軽減部を形成した実施例2においても、内側凸条部112のASTM結晶粒度番号が11.0、外側凸条部113のASTM結晶粒度番号が9.0とされており、外側凸条部113の結晶粒が内側凸条部112に比べて粗大化していることが確認される。また、内側凸条部112の結晶粒と外側凸条部113の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上となっていることが確認される。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、本実施形態では、環状成形体の外周側部分(外側凸条部)の結晶粒を粗大化するものとして説明したが、これに限定されることはなく、環状成形体の内周側部分(内側凸条部)の結晶粒を粗大化させてもよい。
【0065】
また、環状成形体及び環状素体の形状は、本実施形態に限定されることはなく、製出するタービンディスク等の形状を考慮して適宜設計変更することが可能である。
さらに、環状成形体及び環状素体がNi基合金alloy718で構成されたものとして説明したが、これに限定されることはなく、その他の材質で構成されたものであってもよい。
【0066】
また、Ni基合金alloy718の溶湯を溶製し、鋳造によってビレットを製出するものとして説明したが、これに限定されることはなく、粉末成形法によってビレットを製出し、このビレットにリング圧延を行う構成としてもよい。
さらに、リング圧延において、環状成形体の表面を押圧することによって、結晶粒を粗大化した部分の結晶粒の大きさの調整を行ってもよい。すなわち、結晶粒が粗大すぎた場合には、超音波探傷特性の劣化や引張強度の低下が起こることがあるため、適度にひずみを与えて結晶粒の大きさを調整してもよい。
【0067】
また、本実施形態では、円板状の鍛造体の中央部にウォーターカッターによって貫通孔を形成する穿孔工程を有するものとして説明したが、これに限定されることはなく、ウォーターカッター以外の手法で貫通孔を形成してもよい。あるいは、鍛造の時点で貫通孔を形成しておき、穿孔工程自体を省略してもよい。
【符号の説明】
【0068】
10,110 環状成形体
20、120 環状素体
40、140 メインロール
45 切欠部
50、150 マンドレルロール
125 肉欠部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔を有する環状素体にリング圧延を施すことによって成形される環状成形体の製造方法であって、
前記リング圧延においては、前記環状素体の内周側に配置されるマンドレルロールと、前記環状素体の外周側に配置されるメインロールと、によって圧延を行う構成とされており、
前記マンドレルロールと前記環状素体との接触部又は前記メインロールと前記環状素体との接触部の少なくとも一部に、前記マンドレルロール又は前記メインロールからの押圧力を軽減する押圧力軽減部を形成し、
前記押圧力軽減部に相当する部分の結晶粒を他の部分の結晶粒よりも粗大にすることを特徴とする環状成形体の製造方法。
【請求項2】
前記環状素体の内周部又は前記環状素体の外周部に、前記押圧力軽減部が形成されており、
前記環状成形体の内周側部分の結晶粒の大きさと、前記環状成形体の外周側部分の結晶粒の大きさとを、互いに異なるように形成することを特徴とする請求項1に記載の環状成形体の製造方法。
【請求項3】
前記環状素体の一部には、前記マンドレルロール又は前記メインロールに対向する部分に、これら前記マンドレルロール又は前記メインロールから離間するように切り欠けられた肉欠部が設けられており、この肉欠部によって、前記押圧力軽減部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の環状成形体の製造方法。
【請求項4】
前記マンドレルロール又は前記メインロールの一部において、前記環状素体に対向する面に切欠部が設けられており、この切欠部によって、前記押圧力軽減部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の環状成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の環状成形体の製造方法によって製造された環状成形体であって、
結晶粒が、他の部分よりも大きく設定された結晶粒粗大部を備えていることを特徴とする環状成形体。
【請求項6】
内周側部分の少なくとも一部又は外周側部分の少なくとも一部に、前記結晶粒粗大部が形成されており、
前記内周側部分の結晶粒の大きさと前記外周側部分の結晶粒の大きさとが、互いに異なる構成とされていることを特徴とする請求項5に記載の環状成形体。
【請求項7】
前記内周側部分の少なくとも一部の結晶粒と前記外周側部分の少なくとも一部の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上であることを特徴とする請求項6に記載の環状成形体。
【請求項1】
貫通孔を有する環状素体にリング圧延を施すことによって成形される環状成形体の製造方法であって、
前記リング圧延においては、前記環状素体の内周側に配置されるマンドレルロールと、前記環状素体の外周側に配置されるメインロールと、によって圧延を行う構成とされており、
前記マンドレルロールと前記環状素体との接触部又は前記メインロールと前記環状素体との接触部の少なくとも一部に、前記マンドレルロール又は前記メインロールからの押圧力を軽減する押圧力軽減部を形成し、
前記押圧力軽減部に相当する部分の結晶粒を他の部分の結晶粒よりも粗大にすることを特徴とする環状成形体の製造方法。
【請求項2】
前記環状素体の内周部又は前記環状素体の外周部に、前記押圧力軽減部が形成されており、
前記環状成形体の内周側部分の結晶粒の大きさと、前記環状成形体の外周側部分の結晶粒の大きさとを、互いに異なるように形成することを特徴とする請求項1に記載の環状成形体の製造方法。
【請求項3】
前記環状素体の一部には、前記マンドレルロール又は前記メインロールに対向する部分に、これら前記マンドレルロール又は前記メインロールから離間するように切り欠けられた肉欠部が設けられており、この肉欠部によって、前記押圧力軽減部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の環状成形体の製造方法。
【請求項4】
前記マンドレルロール又は前記メインロールの一部において、前記環状素体に対向する面に切欠部が設けられており、この切欠部によって、前記押圧力軽減部が形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の環状成形体の製造方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の環状成形体の製造方法によって製造された環状成形体であって、
結晶粒が、他の部分よりも大きく設定された結晶粒粗大部を備えていることを特徴とする環状成形体。
【請求項6】
内周側部分の少なくとも一部又は外周側部分の少なくとも一部に、前記結晶粒粗大部が形成されており、
前記内周側部分の結晶粒の大きさと前記外周側部分の結晶粒の大きさとが、互いに異なる構成とされていることを特徴とする請求項5に記載の環状成形体。
【請求項7】
前記内周側部分の少なくとも一部の結晶粒と前記外周側部分の少なくとも一部の結晶粒とのASTM結晶粒度番号差が2以上であることを特徴とする請求項6に記載の環状成形体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−79043(P2011−79043A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235505(P2009−235505)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】
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