説明

生理活性ポリペプチドとその抗体及びそれらの用途

哺乳類の皮膚細胞におけるゼラチナーゼ発現及び/又は造血細胞の増殖を効果的に調節する手段を提供することを課題とし、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列を有するポリペプチドか、又は配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列において、哺乳類の皮膚細胞におけるゼラチナーゼ発現増強作用若しくは造血細胞の増殖促進作用などの生物作用を実質的に失わない範囲でアミノ酸の1個又は2個以上が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドとその抗体及びそれらの用途を提供することによって上記課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は生理活性ポリペプチドとその抗体及びそれらの用途に関するものである。
【背景技術】
ヒトに代表される多細胞生物は、体組織が傷を負ったり、火傷などの皮膚細胞の炎症が起こった際にその創傷を自ら治癒し、体組織を修復する能力を有している。このような能力を何らかの手段で増強することができれば、傷の早期修復、治療が可能となり、その手段は医療をはじめとする幅広い分野において有用なものとなり得る。
細胞の発生分化、組織形成や形態変化あるいは創傷治癒や組織修復にはマトリックスメタロプロテアーゼ(matrixmetalloprotease(MMP))が極めて重要な役割を果たしていることが知られている(例えば、岡本竜哉、『マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の活性化機構』、生化学、1999年、第71巻、第12号、1387乃至1401頁などを参照)。MMPは中性pH環境下で細胞外マトリックス構成蛋白質を加水分解する亜鉛要求性蛋白質分解酵素の総称であって、結合組織細胞(線維芽細胞)、上皮細胞、炎症細胞及び転移癌細胞などにより産生され、現在までに26種以上の酵素が報告されている。MMPの1種であるゼラチナーゼA(MMP−2)は、ゼラチンや上皮細胞層と結合組織の間に存在する基底膜の主要成分であるIV型コラーゲン、V型コラーゲン及びエラスチンを分解する作用を有している。ゼラチナーゼAは線維芽細胞や単球系細胞において微量ながら継続的に発現されており、表皮細胞の伸張や癌組織での血管新生を抑制する生理作用を有している。ゼラチナーゼAをはじめとするゼラチナーゼの発現を効果的に増強できる因子は創傷治癒や組織再構築においてその有用性が期待できるものの、このような因子は従来知られていなかった。
一方、近年、白血病や再生不良性貧血などの血液疾患を治療する目的で、健常者の骨髄細胞を患者へ移植し、新しい、新鮮な血液を作り出す骨髄移植が頻繁に行われるようになった。周知のとおり、骨髄移植は、患者と骨髄提供者における組織適合抗原の型が一致しなければならないことから、欧米においては、骨髄を提供する意志がある健常者の氏名と、その組織適合抗原の型をあらかじめ登録しておく「骨髄バンク」の組織作りが早くから始まり、我が国においても、1990年、「骨髄バンク連絡協議会」が発足し、全国的なネットワーク作りが始まった。しかしながら、骨髄移植は、骨髄提供者に対して、心身両面で少なからぬ負担を強いることから、骨髄提供の意志を事前に表明していた健常者であっても、実際に骨髄提供を要請されると、提供を躊躇したり、断ったりするケースが多々あり、その結果として、医療の現場においては、必要なときに必要な骨髄を入手できない状況にあると言われている。
骨髄移植におけるこの問題を解決するために、健常な骨髄細胞を一旦生体から取り出し、これを生体外で増殖させた後、患者へ移植する方法が鋭意検討されている。この方法が実用化すれば、骨髄の確保が容易になるというだけではなく、骨髄提供者から取り出す骨髄の量を大幅に少なくすることができることから、骨髄提供者における心身の負担を軽減したり、骨髄提供そのものの安全性を著しく改善できるものと期待される。
現在、斯界においては、幹細胞因子、Flk2/Flt3リガンド、インターロイキン6、トロンボポエチン、インターロイキン3などのサイトカイン類を用いる造血細胞の増殖が鋭意試みられているけれども、これらのサイトカインはいずれも造血細胞の増殖のみならず、造血幹細胞の分化を誘導する性質をも具備することから、未だこの方法によって所望量の造血細胞を獲得できるにはいたらない状況にある(例えば、『造血幹細胞をめぐる研究の新展開‘99−2000幹細胞発生・分化の新事実と治療への応用』、実験医学(増刊)、1999年、羊土社、第17巻、第5号、149乃至150頁などを参照)。
【発明の開示】
斯かる状況に鑑み、本発明の目的は、哺乳類の皮膚細胞におけるゼラチナーゼ発現を効果的に増強又は調節する手段を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、哺乳類の造血細胞の増殖を効果的に促進又は調節する手段を提供することにある。
本発明者が哺乳類皮膚細胞又は胎盤細胞に由来するDNAに着目し、そのDNAがコードする生理活性ポリペプチドについて鋭意研究したところ、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列を有するポリペプチドは、生体外で哺乳類の皮膚細胞へ作用させると、ゼラチナーゼの発現を顕著に増強することを見出し、さらに、生体の皮膚の創傷部に塗布すると、細胞におけるゼラチナーゼの発現を増強し、また、創傷の治癒を促進することを見出した。一方、当該ポリペプチドを生体外で哺乳類由来の造血細胞へ作用させると、その増殖を著明に促進することを見出した。さらに、本発明者は、斯かるポリペプチドをコードするDNAの解明、ポリペプチドの製造方法、さらには、斯かるポリペプチドに対する抗体を確立し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列を有するポリペプチドか、又は配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列において、前記した所期の生物作用を実質的に失わない範囲でアミノ酸の1個又は2個以上が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを提供することによって上記課題を解決するものである。
さらに、本発明は、斯かるポリペプチドをコードするDNAを提供することによって前記課題を解決するものである。
さらに、本発明は、斯かるポリペプチドを産生し得る細胞又は微生物を培養する工程と、産生したポリペプチドを培養物から採取する工程とを含んでなるポリペプチドの製造方法を提供することによって前記課題を解決するものである。
さらに、本発明は、斯かるポリペプチドに対する抗体を提供することによって前記課題を解決するものである。
さらに、本発明は、配列表における配列番号4乃至10のいずれかで示されるアミノ酸配列における連続する10個以上のアミノ酸残基からなるペプチド断片を提供することによって前記課題を解決するものである。
本発明は、哺乳類の皮膚細胞のゼラチナーゼ発現を増強するか、及び/又は、造血細胞の増殖を促進するポリペプチドの発見に基づくものである。本発明のポリペプチドは、皮膚細胞において顕著なゼラチナーゼ発現増強能を発揮するので、皮膚における創傷の早期修復・治療及び再生医療において有用である。また、本発明のポリペプチドは、ヒトをはじめとする哺乳類の造血細胞の増殖を効果的に促進するので、研究用途をはじめ、医薬品の分野で化学療法・放射線療法による癌治療時、骨随移植時、生体外での造血細胞の増幅時の造血細胞増殖促進剤などとして有用である。さらに、本発明の抗体は上記ポリペプチドの精製、検出はもとより、本発明のポリペプチドが有する生物作用の調節、抑制に有用である。
【図面の簡単な説明】
第1図は発現ベクターpcD−hAgK114aFLの構造を示す図である。
第2図は発現ベクターpVL1393−hAgK114aFLの構造を示す図である。
第3図は発現ベクターpcD−hAgK114bFLの構造を示す図である。
第4図は発現ベクターpRER−hamAgK114d2FLの構造を示す図である。
第5図は発現ベクターpRER−smAgK114FLの構造を示す図である。
第6図は発現ベクターpRER−mAgK114bの構造を示す図である。
【符号の説明】
hAgK114−1a cDNA:配列表における配列番号4で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
hAgK114−1b cDNA:配列表における配列番号5で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
FLAG:FLAGペプチドをコードするDNA
SV40 intron/pA:シミアンウィルス40(SV40)スプライス、ポリA付加シグナル
Polyoma ori:ポリオーマウィルスDNA複製起点とエンハンサー
SV40 ori:SV40DNA複製起点(エンハンサーを含まない)
ColE1:コリシンE1
M13 ori:M13ファージDNA複製起点
SupF:アンバーサプレッサー遺伝子
PCMV:サイトメガロウィルスプロモーター
hamAgK114−1d2 DNA:配列表における配列番号7で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
mAgK114−1 DNA:配列表における配列番号9で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
mAgK114−1b DNA:配列表における配列番号10で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNA
polyA:ポリA付加シグナル
Amp:アンピシリン耐性遺伝子
Neo:ネオマイシン耐性遺伝子
EF−1α promoter:延長因子1αプロモーター
dhfr:デヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子
Ppolyhedrin:ポリヘドリンプロモーター
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列を有するポリペプチドか、又は配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列において、生物作用を実質的に失わない範囲で、アミノ酸の1個又は2個以上が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドに関するものである。本発明でいうポリペプチドは、それが上記した部分アミノ酸配列を有し、且つ、生体において皮膚細胞のゼラチナーゼ発現増強作用若しくは造血細胞の増殖促進作用を発揮するものであるかぎり、その純度、由来、調製方法は問わない。なお、本発明において皮膚細胞とは上皮細胞、線維芽細胞、間葉系細胞などの皮膚細胞を意味し、造血細胞とは造血幹細胞や造血系前駆細胞を含む細胞を意味する。より具体的なポリペプチドとしては、例えば、配列表における配列番号4乃至10のいずれかに示すアミノ酸配列を有するものが挙げられ、斯かるアミノ酸配列を有するポリペプチドはいずれも生体において皮膚細胞のゼラチナーゼ発現増強作用若しくは造血細胞の増殖促進作用が顕著であり、この発明において極めて有用である。なお、配列表における配列番号1、2及び3に示されるアミノ酸配列はそれぞれ配列表における配列番号4及び5、配列番号6及び7、及び、配列番号8乃至10で示されるアミノ酸配列に共通する部分アミノ酸配列であり、配列表における配列番号4及び5、配列番号6及び7、配列番号8乃至10のアミノ酸配列を有するポリペプチドがそれぞれ所期の生物作用を有することから、これらに共通する部分アミノ酸配列である配列表における配列番号1乃至3は所期の生物活性の発現に深く関与しているものと考えられる。配列表における配列番号4乃至10のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するこれらのポリペプチドは単なる例であって、本発明でいうポリペプチドは決してこれらに限定されてはならず、例えば、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列を有するポリペプチドにおいて、ゼラチナーゼ発現増強作用若しくは造血細胞増殖促進作用を実質的に失わない範囲でその構成するアミノ酸の1個又は2個以上が欠失するか、他のアミノ酸で置換されるか、さらには、アミノ酸の1個又は2個以上が付加された変異体であってもよい。このような変異体としては、生物作用を実質的に失わない範囲で、例えば、アラニンなどを1個乃至10個欠失させるか、あるいは斯かるアラニンなどの一部又は全部を、例えばグリシンなどの他のアミノ酸で置換してなるアミノ酸配列、さらには、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示されるアミノ酸配列におけるN末端、C末端又は内部に、1乃至60個のアミノ酸が付加してなるアミノ酸配列を有するものが挙げられ、部位特異的変異やランダム変異などのプロテインエンジニアリングの手法を用いて得ることができる。なお、哺乳類の皮膚細胞のゼラチナーゼ発現を増強する作用の有無は、例えば、ヒト新生児由来の線維芽細胞(NHDF)、ハムスター由来線維芽細胞、若しくはマウス由来間葉系細胞を対象ポリペプチドの存在下又は非存在下で培養した後、それぞれの培養物上清中におけるゼラチナーゼの発現量を酵素活性測定や免疫学的測定方法などによって判定することができる。また、哺乳類の造血細胞の増殖を促進する作用の有無は、例えば、骨髄由来の造血細胞を対象ポリペプチドの存在下又は非存在下で培養した後、それぞれの培養物における造血細胞の個数を比較するなどの方法によって判定することができる。
本発明のポリペプチドは、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列を有するか、又は配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列において、生物作用を実質的に失わない範囲で、アミノ酸の1個又は2個以上が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有しており、哺乳類の皮膚細胞のゼラチナーゼ発現を増強するか若しくは造血細胞の増殖を促進する限り、いかなるポリペプチドであろうと包含され、例えば、組換えDNA技術により創製されたポリペプチド、天然の給源由来のポリペプチド、又は化学的に合成されたポリペプチドなどのいずれであってもよく、さらには、当該ポリペプチドを、例えば、平均分子量5,000乃至10,000のデキストラン、プルラン、ポリエチレングリコール(PEG)などの水溶性の天然高分子若しくは合成高分子を結合させるなどして人為的に化学修飾したものであってもよい。
本発明のポリペプチドの内、配列表における配列番号1で示される部分アミノ酸配列を有するポリペプチドは本来、ヒト由来のポリペプチドであり、また、配列表における配列番号2及び3に示される部分アミノ酸配列を有するポリペプチドはそれぞれハムスター由来及びマウス由来のポリペプチドである。これらの部分アミノ酸配列を有するポリペプチドは、それぞれをコードするDNAを用い、組換えDNA技術により斯かるポリペプチドの産生能を有する形質転換細胞や形質転換微生物を作製し、培養して細胞又は菌体内外に当該ポリペプチドを産生させ、製造することができる。本発明におけるDNAとは、前記本発明のポリペプチドをコードしているDNAを意味する。本発明のDNAの一例としては、配列表における配列番号4乃至10のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードする配列を含む配列表における配列番号11乃至17のいずれかで表される塩基配列か、コードするアミノ酸配列を変えない範囲で配列表における配列番号11乃至17のいずれかで表される塩基配列の1個又は2個以上の塩基が他の塩基で置換された塩基配列、あるいはそれらに相補的な塩基配列を有するDNAが挙げられる。上記の本発明のポリペプチドの変異体をコードするDNAも勿論含まれる。
本発明のDNAは、それが天然に由来するものか人為的に合成されたものであるかは問わない。本発明のDNAの、天然の給源としては、例えば、ヒトの胎盤細胞、ハムスターの皮膚細胞、及びマウスの皮膚細胞が挙げられ、それらの細胞からは本発明のDNAを含む遺伝子が得られる。すなわち、例えば、ヒトの胎盤細胞を破砕後、蔗糖密度勾配超遠心分離などにより分画して全RNAを調製し、この全RNAをオリゴ(dT)セルロース、オリゴ(dT)ラテックスなどで処理してmRNAを単離する。このmRNAを鋳型に逆転写酵素とDNAポリメラーゼを作用させて二重鎖cDNAとし、cDNAライブラリーを作製する。これを自律複製可能な適宜のクローニングベクターに挿入し、得られた組換えクローニングベクターを大腸菌などの適宜の宿主に導入して形質転換体とする。この形質転換体を栄養培地で培養し、培養物にコロニーハイブリダイゼーション法を適用して本発明のポリペプチドをコードするDNAを含む形質転換体を採取する。斯くして得られた形質転換体を通常一般の方法により処理すれば、本発明のDNAを得ることができる。現在では各種細胞由来のcDNAライブラリーが市販されており、このような市販のライブラリーを利用することもできる。一方、本発明のDNAを人為的に合成するには、例えば、配列表における配列番号11乃至17のいずれかで示される塩基配列に基づいて化学合成するか、配列表における配列番号4乃至10のいずれかで示されるアミノ酸配列をコードするDNAを自律複製可能な適宜ベクターに挿入して組換えベクターとし、これを適宜宿主に導入して得られる形質転換体を培養し、培養物から菌体を分離し、その菌体から当該DNAを含むベクターを採取すればよい。
斯かるDNAは、通常、斯かるDNAを含んでなる発現ベクターの形態で宿主に導入される。発現ベクターは、通常、DNAと自律複製可能なベクターを含んでなり、DNAが入手できれば、通常一般の組換えDNA技術により比較的容易に調製することができる。斯かるベクターの例としては、例えば、pKK223−3、pGEX−2T、pRL−λ、pBTrp2、pUB110、YEp13、Tiプラスミド、Riプラスミド、pBl121、pCDM8、pRc/CMVなどのプラスミドベクターが挙げられ、このうち、本発明のDNAを大腸菌、枯草菌、酵母などの微生物で発現させるにはpKK223−3、pGEX−2T、pRL−138、pBTrp2、pUB110、YEp13が、また、動植物由来の細胞で発現させるにはTiプラスミド、Riプラスミド、pBl121、pCDM8、pRc/CMVが好適である。
斯かるベクターに本発明のDNAを挿入するには、斯界において通常一般の方法が採用される。具体的には、先ず、本発明のDNAを含む遺伝子とベクターとを制限酵素及び/又は超音波により切断し、次に、生成したDNA断片とベクター断片とを連結する。遺伝子及びベクターの切断にヌクレオチドに特異的に作用する制限酵素、とりわけ、II型の制限酵素、詳細には、Sau 3AI、Eco RI、Eco RV、Hin dIII、Bam HI、Sal I、Xba I、Sac I、Pst Iなどを使用すれば、DNA断片とベクター断片を連結するのが容易となる。DNA断片とベクター断片を連結するには、必要に応じて、両者をアニーリングした後、生体内又は生体外でDNAリガーゼを作用させればよい。斯くして得られた本発明に用いる発現ベクターは、適宜宿主に導入して形質転換体とし、これを培養することにより無限に複製可能である。
上記のような本発明のDNAを導入する宿主細胞としては、形質転換体の作製に斯界で慣用される、大腸菌、枯草菌、酵母、黴などの適宜の微生物や、さらには、昆虫などの無脊椎動物、植物、脊椎動物などの細胞のいずれも用いることができる。形質転換体を得るためには、宿主が大腸菌や枯草菌の場合には、宿主を発現ベクターとカルシウムイオンの存在下で培養するか、コンピテントセル法やプロトプラスト法を適用すればよい。一方、宿主が動物細胞の場合には、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、ウィルス感染法、更には必要に応じてDEAE−デキストラン法、リポフェクション法、マイクロインジェクション法などを適宜適用すればよい。斯くして生成される形質転換体から目的とするクローンを選択するには、導入されたDNAの有無や本発明のポリペプチドの産生能を指標として試験すればよい。なお、以上述べたベクター及び形質転換体に関しては、ジェイ・サムブルック等、『モレキュラー・クローニング、ア・ラボラトリー・マニュアル』、第3版(2001年、コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー発行)などに慣用の材料及び方法が種々詳述されている。
形質転換体の培養に用いる培地には、宿主細胞やベクターの種類にもよるけれども、通常、炭素源、窒素源、ミネラル、さらには、必要に応じて、アミノ酸やビタミンなどの微量栄養素を補足した通常一般の培地を使用することができる。個々の炭素源としては、例えば、澱粉、澱粉加水分解物、グルコース、果糖、蔗糖、トレハロースなどの糖源が、又、窒素源としては、例えば、アンモニア乃至アンモニア塩、尿素、硝酸塩、ペプトン、酵母エキス、脱脂大豆、コーンスティープリカー、肉エキスなどの含窒素無機乃至有機物が挙げられる。宿主細胞やベクターの種類にもよるけれども、通常、20乃至60℃、pH2乃至10に保ちつつ、約1乃至6日間培養すれば、本発明のポリペプチドを含む培養物が得られる。
本発明のポリペプチドを天然の給源を用いて製造するには、例えば、本発明のポリペプチドを産生し得る細胞を培養し、培養物から目的とするポリペプチドを採取すればよい。個々の細胞としては、ヒト由来の細胞である、例えば、子宮頚部癌由来の株化細胞であるHeLa(ATCC CCL−2)細胞、前立腺癌由来の株化細胞であるPC−3(ATCC CRL−1435)細胞、胆管由来の株化細胞であるHuCCT1(JCRB 0425)細胞、肺癌由来の株化細胞であるCalu−3(ATCC HTB−55)細胞、口腔内類表皮癌由来の株化細胞であるKB(ATCC CCL−17)細胞などが、ハムスター由来の細胞である、例えば、卵巣由来上皮細胞であるCHO−K1(ATCC CCL−61)細胞、腎臓由来線維芽細胞であるBHK−21(ATCC CCL−10)細胞などが、及び、マウスの細胞である、例えば、NIH−3T3(ATCC CRL−1658)細胞などが挙げられる。
上記の細胞は、動物細胞の培養に斯界で一般に用いられる固相培養法、液体培養法により増幅することができる。また、本出願人と同じ出願人による特開昭54−98307号公報に開示されているインビボ(in vivo)細胞増殖法によりヒト以外の温血動物の体内で増幅することができる。
前記インビボ細胞増殖法を用いて本発明のポリペプチド産生能を有する哺乳類由来の細胞を増幅する場合、使用する温血動物は、哺乳類由来の細胞が増殖しうるものであればよく、例えば、ニワトリ、ハトなどの鳥類、イヌ、ネコ、サル、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、ウサギ、モルモット、ラット、ハムスター、普通マウス、ヌードマウスなどの哺乳類などが使用できる。増殖させた哺乳類由来の細胞は、例えば、腹腔内の腹水に浮遊して増殖した細胞を採取し、又は、皮下で増殖した腫瘤を摘出し、分散させた後、採取し、必要に応じて増強剤などの存在下で培養して本発明のポリペプチドを産生させればよい。
また、本発明のポリペプチドは、配列表における配列番号1乃至3若しくは配列番号4乃至10のいずれかに示されるアミノ酸配列に従い化学的に合成することにより調製することもできる。ペプチド合成法としては斯界で一般に用いられるペプチド自動合成装置を用いて全合成する方法か、又は、予めペプチド断片をいくつかのブロックに分けて合成しておき、酵素的に縮合させて目的とするポリペプチドを得る方法のいずれもが、必要に応じて、有利に実施できる。
組換えDNA技術による調製、天然の給源からの調製、又はペプチド合成法による調製のいずれかによって得られる本発明のポリペプチドの粗調製品は哺乳類の皮膚細胞のゼラチナーゼ発現増強剤若しくは造血細胞増殖促進剤としてそのまま使用可能ではあるものの、通常は使用に先立ち、必要に応じて、精製して用いる。本発明のポリペプチドの精製には、細胞又は菌体破砕物を除去した培養物に、例えば、濃縮、塩析、透析、分別沈澱、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、ゲル電気泳動、等電点電気泳動などの生理活性ポリペプチドを精製するための斯界における通常一般の方法が採用でき、必要に応じて、これら方法を適宜組合せればよい。そして、最終使用形態に応じて、精製したポリペプチドを濃縮・凍結乾燥して液状若しくは固状にすればよい。
また、本発明のポリペプチドを用いて、本発明のポリペプチドに対する抗体を調製することができる。本発明の抗体は上記本発明のポリペプチドに対するイムノグロブリン全般を包含し、特定の起源・クラス・形態(ポリクローナル及びモノクローナル)に限定されるものではない。本発明の抗体は該ポリペプチド配列の一部又は全部を含むポリペプチドで免疫感作した温血動物あるいはその培養細胞から得ることができる。本発明でいう、温血動物あるいはその培養細胞から得ることができる、とは、本発明の抗体が、所望のポリペプチドで免疫感作した温血動物から得られた抗体そのものと、調製方法に関わらず、該温血動物から得られた抗体と免疫反応性(後述)において同等の性質を有するイムノグロブリンを包含することを意味する。さらに、本発明の抗体は蛋白質工学によって得られた、例えば、ヒト化抗体、キメラ抗体、さらにはイムノグロブリン遺伝子をヒト由来のものに置き換えたジェノマウスなどを用いたヒト抗体などの抗体も包含する。ここでいう免疫反応とは、抗体と該抗体によって認識され得る物質との間の結合反応、すなわち、通常、抗原抗体反応とも呼ばれる反応を意味し、免疫反応性とは、斯かる免疫反応の強度を意味する。
免疫感作は慣用の方法によればよく、例えば、本発明のポリペプチド又はその断片を抗原として単独か、あるいは適宜アジュバントとともに温血動物の静脈、皮内、皮下又は腹腔内に注射接種し、その後一定期間飼育する。免疫感作の対象とする温血動物に特に制限はなく、所期の抗体を産生し得るかぎり、温血動物の種類、雌雄などにかかわりなく本発明の抗体の調製に利用できる。通常、例えばマウス、ラット、ハムスター、ウサギ、モルモットなどの齧歯類、ヤギ、ヒツジなどの偶蹄類を含む哺乳物や、ニワトリ、ウズラなどのキジ類を含む鳥類などが用いられ、用いる抗原の起源や調製する抗体の形態・用途などを勘案して最適のものを選択すれば良い。齧歯類を免疫感作する場合、通常、抗原の総接種量を約5乃至500μg/匹とし、これを約1乃至4週間の間隔をおいて2乃至20回に分けて接種する(一般に、初回の接種は「初回免疫」、2回目以降の接種は「追加免疫」、最後の接種は「最終免疫」と呼ばれる。)。そして、通常、免疫感作の期間中及び/又は終了後に、免疫感作に用いたのと同じ抗原を使用して酵素抗体法など慣用の方法により免疫感作動物における抗体価の上昇を確認する。
本発明の抗体の一形態であるポリクローナル抗体(抗血清)を得るには、上記のような免疫感作の後、通常、1乃至4週間程度経過した免疫感作動物から、その動物の種に応じて選択される適宜の部位より血清(抗血清)を採取すればよい。斯くして得られる抗血清を、さらに必要に応じて、イムノグロブリンを精製するための慣用の方法に供すれば、IgG、IgA、IgMなどの所望のクラスにまで分離された抗体を得ることもできる。
本発明の抗体は、斯かる抗体を産生し得る単離された細胞からも得ることができる。ここでいう単離された細胞とは、生体から単離された形態にある細胞を意味し、具体的には、この発明の抗体を産生し得る、ハイブリドーマ、生体から単離された脾細胞やリンパ球、形質転換体細胞などが挙げられる。これらの単離された細胞はいずれも本発明の抗体の製造に用いることができ、ハイブリドーマとしての斯かる細胞は、本発明の抗体の一形態であるモノクローナル抗体の製造にとりわけ有用である。斯かるハイブリドーマを得るには、先ず、上記のような免疫感作の後、通常、3乃至5日程度経過後、免疫感作動物から脾臓を摘出し、分散して、脾細胞を抗体産生細胞として得る。脾細胞は、必要に応じて生体外でさらに免疫感作することもできる。斯くして得られる脾細胞を、次に温血動物起源の無限増殖可能な細胞と融合させる。無限増殖可能な細胞としては、例えば、SP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL−1581)、Y3−Ag1.2.3(ATCC CRL−1631)、P3/NSI/1−Ag4−1細胞(ATCC TIB−18)及びP3×63Ag8細胞(ATCC TIB−9)などのマウス又はラット骨髄腫由来の細胞株ないしはその変異株が挙げられ、上記脾細胞との適合性などを勘案して、より適したものが選択される。細胞の融合には、例えば、ポリエチレングリコールやセンダイウイルスを始めとする融合促進剤や電気パルスによる慣用の方法が適宜採用される。次に、細胞融合産物を、常法にしたがってHAT培地などの選択培地中で培養し、融合した細胞すなわちハイブリドーマを選択的に増殖させる。増殖したハイブリドーマを慣用の方法にしたがって、その培養上清を用いて、本発明のポリペプチドに対する免疫反応性の有無を試験し、所期の免疫反応性を示したものを選択すれば、本発明によるハイブリドーマが得られる。選択されたハイブリドーマに限界希釈法など慣用の方法を適用すれば、目的とするハイブリドーマのクローンが得られる。斯くしてクローンとして得られるハイブリドーマを生体内又は生体外で培養し、必要に応じて、その体液又は培養物に、目的とするイムノグロブリンを採取・精製するための慣用の方法を適用すれば、所望のレベルにまで精製された本発明によるモノクローナル抗体が得られる。
前述の通り、本発明のモノクローナル抗体は、通常、蛋白質工学の手法によって調製される、いわゆる「ヒト化抗体」をも包含する。ヒト化抗体を調製するには、例えば上述のようにして得た哺乳動物由来のハイブリドーマからmRNAを採取し、逆転写酵素を作用させてcDNAとし、PCR反応により増幅した後、クローニングして、本発明のモノクローナル抗体における重鎖及び軽鎖の塩基配列、とりわけ、重鎖及び軽鎖における可変領域の塩基配列をそれぞれ決定する。次いで、それらの可変領域とヒト抗体の定常領域を融合させたポリペプチドをコードするキメラ遺伝子を作製する。このキメラ遺伝子は適宜宿主中で発現させると、元のモノクローナル抗体と同様の結合特異性を示しつつ、ヒトに対する抗原性が顕著に低下したモノクローナル抗体を産生する。なお、哺乳動物由来の抗体をヒト化する方法自体は公知であり、例えば、エス・ポール監修『メソッズ・イン・モレキュラー・バイオロジー』、第51巻、1995年、ヒューマナ・プレス発行には関連する種々の技法が記載されている。
上記で説明した、ポリクローナル抗体及びモノクローナル抗体としての形態を含む本発明の抗体は、抗体一般を精製するための斯界における慣用の精製方法により、所望のレベルにまで精製された標品として得ることができる。個々の精製方法としては、例えば、塩析、透析、濾過、濃縮、遠心分離、分別沈澱、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、ゲル電気泳動及び等電点電気泳動が挙げられ、これらは必要に応じて適宜組合せて用いられる。精製した抗体は、その後用途に応じて濃縮・乾燥し、液状又は固状とする。
本発明でいうペプチド断片とは、本発明のポリペプチドの一部であり、例えば、配列表における配列番号4乃至10又のいずれかで示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド、好ましくは配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列を有するポリペプチド若しくはその変異体において、抗原決定基として抗体に認識される上で充分と言われている、通常、10残基以上、好ましくは20残基以上の連続した部分アミノ酸配列を有するペプチド断片を意味する。本発明のペプチド断片は、天然又は組換えDNA技術によって人為的に発現させたポリペプチドを、酸又は各種プロテアーゼなどのポリペプチド分解酵素などで部分分解したものであっても、ペプチド合成によって人為的に合成したものであっても、さらには組換えDNA技術によって人為的に発現させて調製したものであっても良い。このようにして得られるペプチド断片は、実質的にヒトを含む哺乳類の皮膚細胞においてゼラチナーゼの発現を増強するか、又は造血細胞の増殖を促進する限り本発明のポリペプチドと同様に用いることができる。また、ペプチド断片が所期の生物作用を有していない場合においても本発明のポリペプチドに対する抗体を作製するための抗原として利用することができる。
本発明のポリペプチドは哺乳類の皮膚細胞におけるゼラチナーゼ発現増強作用を有していることから、医薬品の分野においては、皮膚における創傷の治療時、炎症の治療時の治癒促進剤として、また、再生医療における組織再構築の際に有用である。さらには、美容整形においてもケロイド状となる傷跡の軽減に用いることができる。本発明のポリペプチドの効果が期待できる、より具体的な症例としては、切り傷、擦り傷などの創傷、火傷などによる皮膚の損傷、ケロイド、褥瘡、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎、自家感作性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、口囲皮膚炎、剥脱性皮膚炎(紅皮症)、老人性乾皮症、限局性強皮症、貨幣状湿疹、蕁麻疹、肥厚性瘢痕、ふけ症、にきび、そばかす、あせもなどが挙げられる。化粧品の分野においては、例えば、頭髪化粧品、基礎化粧品などに使用することもできる。
また、本発明のポリペプチドは哺乳類の造血細胞の増殖を促進する作用を有することから、医薬品の分野においては、化学療法・放射線療法による悪性腫瘍治療時、再生不良性貧血などの血液疾患や重症複合性免疫不全症などの免疫疾患治療のための骨髄移植時、さらには骨髄移植のための造血細胞の増幅時などにおいて造血細胞の増殖促進剤として有用である。本発明のポリペプチドの効果が期待できる、より具体的な症例としては、腎性貧血、悪性貧血、再生不良性貧血、骨髄異形性症候群、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、成人T細胞白血病などが挙げられる。また、造血細胞を扱う研究分野において、造血細胞を増幅するための研究用試薬としても用いることもできる。なお、本発明におけるポリペプチドは本来哺乳類に由来するものであることから、毒性も極めて低く安全な物質である。
本発明の抗体は本発明のポリペプチドに特異的に結合することから、本発明のポリペプチドの精製や、本発明のポリペプチドを定性的又は定量的に検出するための、例えば、蛍光免疫測定法、酵素免疫測定法などにおいて極めて有用である。また、本発明のポリペプチドを皮膚細胞におけるゼラチナーゼ発現増強剤として用いた際には、ゼラチナーゼの過剰発現を抑制する目的で用いることもできる。さらには、ゼラチナーゼの過剰発現に伴う疾病、病気を診断若しくは治療する目的で用いることもできる。一方、本発明のポリペプチドを造血細胞の増殖促進剤として用いた際には、造血細胞の過剰増殖を抑制する目的で用いることができ、さらには、造血細胞の過剰増殖に伴う疾病、病気を診断若しくは治療する目的で用いることもできる。
本発明のポリペプチドはそのまま単独で使用できるものの、他の成分を配合した組成物の形態でも用いることができる。本発明のポリペプチドを配合してなる組成物は、化粧品、医薬品及び試薬の形態としても有利に利用できる。本発明の組成物には、必要に応じて本発明のポリペプチド以外のもの、すなわち、ヒトを含む哺乳類のための化粧品及び医薬品への適用が許容される成分として、個々の利用分野で通常使用される、例えば、水、アルコール、澱粉質、蛋白質、アミノ酸、線維質、糖質、脂質、脂肪酸、ビタミン、ミネラル、着香料、着色料、甘味料、調味料、香辛料、安定化剤、防腐剤、乳化剤、界面活性剤、賦形剤、増量剤、増粘剤、保存剤などの成分を1種または2種以上含有させることも有利に実施できる。これらの成分は、通常、本発明の組成物の、各々の利用分野における必要性に応じて適宜選択される。以上のような成分を含む本発明の組成物の形態には特に制限はなく、粉末、顆粒、錠剤、ペースト、ゼリー、乳液、溶液などの所望の形態で提供される。
前記糖質としては、ブドウ糖、果糖、ラクトース、トレハロース、マルトース、蔗糖、ラクトスクロース、水飴などの糖類、サイクロデキストリン、環状四糖などの環状の糖類、エリスリトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、還元水飴などの糖アルコール類、プルラン、カラギーナン、などの天然多糖類、天然ガム類、カルボキシメチルセルロースなどの1種または2種以上を添加することにより、固状のものにあってはその賦形性に有利に利用できるだけでなく、本発明のポリペプチドの安定化、呈味改善などに有利に利用できる。
本発明のポリペプチドを配合してなる組成物を製造するには、対象とする動物類やその投与方法などに応じて選ばれる適宜の組成にしたがって、本発明のポリペプチドと、以上に示したような、化粧品、医薬品の分野のいずれかにおいて使用が認められている1種又は2種以上の成分とを、個々の配合量に基づいて、目的に応じて混合し、希釈、濃縮、乾燥、濾過、遠心分離などの工程を適宜実施し、ポリペプチドを配合してなる組成物を調製し、必要に応じて所望の形状に成形すればよい。各成分を配合する順序や、上記の各工程を実施する時期は、ポリペプチドの所期の生物作用の低下をきたさないのであれば特に制限はなく、必要に応じて上記のいずれかの工程を適宜単独乃至は組合わせて実施すればよい。
前述のとおり、本発明のポリペプチドは、哺乳類の皮膚細胞のゼラチナーゼ発現を増強するか、及び/又は哺乳類の造血細胞の増殖を促進する作用を有することから、本発明のポリペプチドを配合してなる組成物は、例えば、医薬品、化粧品などの分野において斯かる作用を有する物質を必要とする用途において有利に利用できる。
本発明の組成物は、有効成分であるポリペプチドの含量が高いほど著明なゼラチナーゼ発現増強作用を示す。ポリペプチドは高度に精製したものであっても、また、部分精製したものであっても良いものの、顕著なゼラチナーゼ発現増強作用を有する組成物を得るためには、後記実施例で示すように、ゼラチナーゼ発現増強試験において、濃度10μg/mlのポリペプチドを用いた場合、ポリペプチドを添加しない場合に比べてゼラチナーゼの相対発現量を1.2倍以上増加させるレベルにまでポリペプチドの含量を高めるのが望ましい。
本発明の組成物は経皮的に使用すれば、著明なゼラチナーゼ発現増強作用を発揮する。本発明の組成物の有効な投与量は、対象とするヒトをはじめとする哺乳動物の種類、年齢、性別などによって異なるものの、本発明の組成物における有効成分であるポリペプチドとしての重量換算で、成人あたり、通常、1乃至1000μg/回、望ましくは、10乃至500μg/回、1日1回または数回に分けて、症状、投与形態に応じて、連日または1日以上の間隔をおいて投与すればよい。投与形態としては、特に限定はなく、必要に応じて経皮、経粘膜、場合によっては経口、経管などによる方法を適宜選択して使用すればよい。
また、本発明のポリペプチドを配合してなる組成物を、化粧品などの皮膚外用剤として皮膚に直接塗布する場合には、本発明の組成物における有効成分であるポリペプチドは重量換算で、皮膚外用剤全量中、0.0001乃至10質量%、好ましくは、0.001乃至1質量%であり、1日1回または数回に分けて、効果に応じて、連日または1日以上の間隔をおいて直接皮膚に塗布すればよい。なお、0.0001質量%未満では、その効果は発揮され難くなり、10質量%を越える製品にあっては、それ以上の効果が望めず好ましくない。
本発明の組成物をゼラチナーゼ発現増強剤として用いる化粧品の形態としては、例えば、ローション、クリーム、乳液、ゲル、粉末、ペースト、ブロックなどの形態で、石けん、化粧石けん、肌洗い粉、洗顔クリーム、洗顔フォーム、フェイシャルリンス、ボディーシャンプー、ボディーリンス、シャンプー、リンス、髪洗い粉などの清浄用化粧品、セットローション、ヘアブロー、チック、ヘアクリーム、ポマード、ヘアスプレー、ヘアリキッド、ヘアトニック、ヘアローション、養毛料、染毛料、頭皮用トリートメント、びん付油、つや出し油、髪油、スキ油などの頭髪化粧品、化粧水、バニシングクリーム、エモリエントクリーム、エモリエントローション、パック用化粧料(ゼリー状ピールオフタイプ、ゼリー状ふきとり型、ペースト状洗い流し型、粉末状など)、クレンジングクリーム、コールドクリーム、ハンドクリーム、ハンドローション、乳液、保湿液、アフターシェービングローション、シェービングローション、プレシェーブローション、アフターシェービングクリーム、アフターシェービングフォーム、プレシェーブクリーム、化粧用油、ベビーオイルなどの基礎化粧品、ファンデーション(液状、クリーム状、固型など)、タルカムパウダー、ベビーパウダー、ボディパウダー、パヒュームパウダー、メークアップベース、おしろい(クリーム状、ペースト状、液状、固型、粉末など)、アイシャドウ、アイクリーム、マスカラ、眉墨、まつげ化粧料、頬紅、頬化粧水などのメークアップ化粧品、香水、練香水、粉末香水、オーデコロン、パフュームコロン、オードトワレなどの芳香化粧品、日焼けクリーム、日焼けローション、日焼けオイル、日焼け止めクリーム、日焼け止めローション、日焼け止めオイルなどの日焼け・日焼け止め化粧品、マニキュア、ペディキュア、ネイルカラー、ネイルラッカー、エナメルリムーバー、ネイルクリーム、爪化粧料などの爪化粧品、アイライナー化粧品、口紅、リップクリーム、練紅、リップグロスなどの口唇化粧品、練歯磨、マウスウォッシュなどの口腔化粧品、バスソルト、バスオイル、浴用化粧料などの入浴用化粧品などが挙げられる。
医薬品の形態として用いる場合には、例えば、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、眼軟膏剤、口腔粘膜貼付剤、懸濁剤、乳剤、硬膏剤、座剤、散剤、酒精剤、錠剤、シロップ剤、注射剤、チンキ剤、点眼剤、点耳剤、点鼻剤、トローチ剤、軟膏剤、芳香水剤、鼻用噴霧剤、リモナーデ剤、リニメント剤、流エキス剤、ローション剤、湿布剤、噴霧剤、塗布剤、浴剤、貼付剤、パスタ剤、パップ剤などが挙げられる。
また、本発明の組成物は哺乳類由来の造血細胞の増殖促進剤として用いることもできる。生体外で造血細胞を増殖させる目的で用いる場合、本発明のポリペプチドの起源や適用する造血細胞の起源によって異なるものの、本発明の組成物における有効成分であるポリペプチドとしての重量換算で、造血細胞の1×10個あたり、通常、0.1μg以上、望ましくは、1μg以上を培養液中に含有させて造血細胞を培養、増幅すればよい。また、剤の形態としては造血細胞増殖促進剤としての使用目的に支障を与えない範囲で前記ゼラチナーゼ発現増強剤と同様な形態で用いることができる。
以上のような形態の本発明のポリペプチドを配合してなる組成物を製造するには、目的とする製品を慣用の製造方法にしたがって製造する過程の適宜の時期に本発明のポリペプチドを添加すればよい。添加の時期に特に制限はないけれども、目的とする製品が加熱工程を経て製造されるものの場合には、加熱工程の後、常温、望ましくは、30℃以下に冷却した後に添加することにより、製造工程における本発明のポリペプチドが有する所期の生物作用の減衰を防ぐことができる。以上のような本発明の組成物は、本発明のポリペプチドを、製品重量あたり、通常、0.001質量%以上、望ましくは、0.01乃至100質量%含有する。
以上のように本発明のポリペプチドを有効成分として含む組成物は、哺乳類の皮膚細胞のゼラチナーゼ発現増強作用を示すので、日常的に利用することにより、利用した生体においてゼラチナーゼ発現増強作用が効果的に発揮され、重篤な副作用を惹起することなく、創傷の早期緩和、治療などが達成される。また、本発明の組成物は、哺乳類の造血細胞の増殖促進作用を示すので、研究用の試薬として、又は、骨髄移植などを目的とした、生体外で骨髄由来造血細胞を増幅する際の造血細胞増殖促進剤などとして有用である。
一方、本発明のポリペプチドに対する抗体を有効成分として含む組成物もまた、本発明のポリペプチドの場合と同様に調製することができる。本発明のヒト由来ポリペプチドに対するヒト化抗体、キメラ抗体、さらにはヒト抗体を有効成分として含む組成物を医療目的で使用する場合には、ヒトにおける本発明のポリペプチドの過剰発現に伴う疾患の治療に効果を発揮する。当該組成物の用量は通常、疾患患者の体内における本発明のポリペプチドレベルに基づき選定される。体内における本発明のポリペプチドレベルは、例えば、患者より採取される体液などの生物学的試料を、例えば、本発明のポリペプチドに対するマウス抗体などを用いる免疫学的な検出法などに供して測定することができる。測定値を、同様にして測定される健常者における基準値と比較すれば、斯かる患者における本発明のポリペプチドの過剰量が推測される。患者の体内におけるこの過剰量を中和し得る量の本発明の抗体を含む組成物をその患者に投与すればよい。中和し得る抗体の量は組成物の形態やその投与経路により異なるものの、通常、本発明のポリペプチドの量に対してモル比で1/2乃至それ以上である。このようにして選定される用量の当該組成物を疾患の種類や症状、部位を勘案して、1度に又は2回以上に分けて投与すればよく、通常は、当該抗体量として成人あたり約1μg乃至1g/回、より望ましくは、約10μg乃至100mg/回の用量で1乃至4回/日又は1乃至5回/週の頻度で1日乃至1年間にわたって投与すれば良い。本発明の抗体は後述する実施例にも示すように、血管内皮細胞の増殖及び/又は皮脂細胞の形成を抑制することから、本発明の抗体を有効成分として含む感受性疾患剤は血管新生抑制剤や皮脂産生抑制剤として有用である。
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。
【実施例1】
<ヒト由来ポリペプチドをコードするDNAのクローニングと塩基配列の決定>
<実施例1−1:ヒト由来ポリペプチドをコードするDNAのクローニング>
市販のヒト胎盤由来cDNAライブラリー(Human Placenta Marathon−Ready cDNA、日本ベクトン・ディッキンソン(株)製)を鋳型とし、配列表における配列番号18又は配列番号19で示される塩基配列を有する合成DNA、及び、配列表における配列番号20で示される塩基配列を有する合成DNAをPCRプライマーとして用い、PCRサーマルサイクラー(アプライドバイオシステムズジャパン(株)製、GeneAmp PCR System 9700)を用いて常法により1次PCRを行った。次いで、増幅して得られた1次PCR産物を含む反応液の一部を鋳型とし、配列表における配列番号21又は配列番号22、及び、配列表における配列番号23で示される塩基配列を有する合成DNAをPCRプライマーとして用いて、同様に2次PCRを行った。その結果、1次PCRにおいて配列表における配列番号18で示される塩基配列を有するPCRプライマーを用い、2次PCRにおいて配列表における配列番号21で示される塩基配列を有するPCRプライマーを用いたPCR増幅により0.5kbp及び1.5kbpのサイズを示す2種のPCR産物が得られた。この内、0.5kbpのものをR27Lと、また、1.5kbpのものをR27Hと命名した。一方、1次PCRにおいて配列表における配列番号19で示される塩基配列を有するPCRプライマーを用い、2次PCRにおいて配列表における配列番号22で示される塩基配列を有するPCRプライマーを用いたPCR増幅からは0.3kbpのサイズを示す1種のPCR産物が得られ、R23と命名した。
PCRにより得た増幅断片R23、R27L、R27Hをそれぞれポリエチレングリコール沈殿法により精製した後、制限酵素Eco RVで消化したプラスミドベクターpBlues cript SK(−)(ストラタジーン製)にDNAライゲーションキットver.2(タカラバイオ(株)製)を用いて、常法によりクローン化した。次いで、得られた組換えプラスミドを用いて大腸菌コンピテントセル(XL10−Gold Kan、ストラタジーン製)を形質転換した。得られた形質転換体をL−ブロス培地(pH7.2)に植菌し、37℃で18時間振盪培養した後、培養物から形質転換体を採取し、通常のアルカリ−SDS法により処理してプラスミドDNAを調製し、目的のPCR増幅断片を保持する3種の形質転換体をそれぞれ選択した。
得られた3種の形質転換体より、上記と同様にプラスミドDNAを調製し、PCR増幅断片R23、R27L、R27Hの塩基配列をDNAシーケンサー(モデル373A、アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)により分析したところ、R23とR27LあるいはR23とR27Hは一部重複する塩基配列を有しており、それぞれcDNAの部分塩基配列であることが判明した。これらがそれぞれ一つのmRNAに由来することを確認するためにR23の開始コドンと予測される塩基配列の近傍の塩基配列をもとに、順鎖プライマーとして配列表における配列番号24で示される塩基配列を有するDNAを、また、R27L又はR27Hの終始コドンと予測される配列の近傍の配列をもとに、相補鎖プライマーとして配列表における配列番号25又は配列番号26で示される塩基配列を有するDNAを合成した。次いで、配列表における配列番号18で示される塩基配列を有するDNAをプライマーとして1次PCRを行った反応液を鋳型として、配列表における配列番号24と配列番号25で示される塩基配列を有するプライマー又は配列表における配列番号24と配列番号26で示される塩基配列を有するプライマーの組合せで再度2次PCRを行った。その結果、配列表における配列番号24と配列番号25で示される塩基配列を有するプライマーを組合せたPCRにより0.5kbpのPCR産物が得られ、R48と命名した。また、配列表における配列番号24と配列番号26で示される塩基配列を有するプライマーを組合せたPCRにより0.6kbpのPCR産物が得られ、R50と命名した。PCR増幅断片R48とR50をそれぞれ上記と同様に制限酵素Eco RVで消化したプラスミドベクター「pBluescript SK(−)」にクローン化し、塩基配列を分析した結果、R48はR23とR27Lより構成されるcDNAの部分塩基配列であった。また、R50はR23とR27Hより構成されるcDNAの部分塩基配列であった。
<実施例1−2:塩基配列の決定とコードされるアミノ酸配列>
実施例1−1の結果から、R23とR27L、及び、R23とR27Hはそれぞれ同じmRNAに由来することが判明した。R23とR27Lより構成されるcDNAは配列表における配列番号11で、また、R23とR27Hより構成されるcDNAは配列表における配列番号12で示される塩基配列を有していた。配列表における配列番号11で示される塩基配列は、配列表における配列番号11で示される塩基配列に併記した155残基からなるアミノ酸配列を、また、配列表における配列番号12で示される塩基配列は配列表における配列番号12で示される塩基配列に併記した176残基からなるアミノ酸配列をそれぞれコードしていた。これらのアミノ酸配列においては、その第1乃至149番目までの部分アミノ酸配列は完全に一致していた。
【実施例2】
<ハムスター由来ポリペプチドをコードするDNAのクローニングと塩基配列の決定>
<実施例2−1:ハムスター毛包構成細胞に対する抗体の調製>
4日齢ハムスターの背部皮膚から調製した表皮細胞のケラチノサイト画分を、ケラチノサイト用培地で37℃、5%COの条件下で2日間培養した。この細胞を回収し、1乃至4×10個/匹でBALB/cマウスの腹腔に免疫した。この操作を2週間隔で計3回行った後、尾静脈より採血を行い、血清を分離して抗体価測定に用いた。さらに細胞融合3日前に、同様に4日齢ハムスター皮膚より回収したケラチノサイト画分を2×10個/匹で腹腔に最終免疫した。抗体価測定及びスクリーニングは、同様に調製したハムスターケラチノサイト画分及びBALB/3T3細胞を96穴プレートに播き、4%パラホルムアルデヒドで固定化した細胞を抗原とするCELL EIA法を用いた。このCELL EIA法により特にケラチノサイトに対して強い反応性を示す血清のマウスから脾臓を摘出し、この脾臓細胞とマウスミエローマ細胞SP2/0とを常法により細胞融合した後、上記CELL EIA法でクローンの選択を行い、目的とするハムスター毛包構成細胞に対するモノクローナル抗体産生クローンを得て、mAbK114−1と命名した。
<実施例2−2:ハムスター表皮細胞cDNAの合成>
4日齢ハムスターの背部皮膚から調製した表皮細胞を、ケラチノサイト用培地で37℃、5%COの条件下で一日培養して得た6.6×10個の培養表皮細胞から、RNeasy Midi kit((株)キアゲン製)を用いて全RNAを調製した。次いで、得られた全RNAを、mRNA精製キット(タカラバイオ(株)製、オリゴテックス−dT30<スーパー>)及び常法を用いて精製し、mRNAを調製した。次いで、mRNA10μgを鋳型として、逆転写酵素(インビトロジェン(株)製、商品名「SuperScriptII」)とランダムプライマー(インビトロジェン(株)製)を用いてcDNAを合成した。さらに、合成したcDNAに制限酵素Bst XIアダプター(インビトロジェン(株)製)を付加した後、1%アガロースゲル電気泳動を行い、1kbp以上のcDNAを回収した。得られたcDNAは予めBst XIで消化したプラスミドベクターpcDNA I/Amp(インビトロジェン(株)製)とT4 DNAリガーゼにて連結させた後、ElectroMAX DH10B T1 phage resistant cells(インビトロジェン(株)製)に、ジーンパルサーユニット(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ(株)製)を用い、2.5kV、25μF、100Ωの条件のエレクトロポレーション法にて導入した。その結果5.1×10個の形質転換体を得た。
<実施例2−3:ハムスター由来ポリペプチドをコードするDNAのクローニング>
細胞膜蛋白質をコードする遺伝子を、その蛋白質に対する抗体を用いてクローニングするパニング法(B.シードら、プロシーディングス・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンシズ・オブ・ザ・ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ(Proc.Natl.Acad.Sci.USA),1987年、84巻、3365乃至3369頁)に従ってスクリーニングを行った。まず10群に分けたパニング用ライブラリーを50μg/mlのアンピシリンを含むL−プレートに播き、37℃で一晩培養を行った。得られたコロニー(5.1×10クローン/群)を50mlのL−培地を用いて回収し、さらに37℃で2時間培養を行った。集菌後、QIAGEN Plasmid Midi Kit((株)キアゲン製)によりプラスミドDNAの調製を行った。得られた10群のDNAはジーンパルサーユニット(日本バイオ・ラッド ラボラトリーズ(株)製)を用いて220V、960μFの条件でエレクトロポレーションを行うことによりCOS−1細胞に導入した。2乃至3日後、付着したCOS−1細胞を5mMEDTA、0.02%アジ化ナトリウム溶液を用いて回収し、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液に実施例2−1で調製したモノクローナル抗体mAbK114−1を50μg/mlの濃度で添加し、氷上で1時間反応させた後、結合しなかった抗体を遠心洗浄することにより除去した。次いで、抗体が結合した細胞をヤギ抗マウスIgG抗体(ジャクソンイムノリサーチ製、10μg/ml)でコートした6cmディッシュに播き、室温で3時間吸着処理を行った。吸着しない細胞を洗い去った後、残りの吸着細胞をハート溶液(0.6%SDS、10mMEDTA)で溶解し、終濃度1Mの塩化ナトリウム水溶液を添加し4℃で一晩放置した。これを15,000rpmで10分間遠心して上清を回収し、フェノール処理した後、1μgの酵母tRNAを添加しDNAをエタノール沈殿法にて回収した。回収したDNAは実施例2−2で示したエレクトロポレーションにより大腸菌に導入し、コロニーを形成させた。この一連の操作を1回のパニングサイクルとし、10群のライブラリーについてそれぞれ3回パニングを繰り返した。パニング操作によって濃縮された目的遺伝子を含むDNAより、単クローンのプラスミドDNAを調製した。得られたDNAは、リポフェクション用遺伝子導入剤(商品名「リポフェクトアミン2000」、インビトロジェン(株)製)を用いてCOS−1細胞にトランスフェクションし、10%ウシ胎仔血清(FCS)を含むダルベッコ変法イーグル培地(D−MEM培地、日水製薬(株)製)により培養を行った。培養2乃至3日後、細胞を2%パラホルムアルデヒドで固定した後、50μg/mlのモノクローナル抗体mAbK114−1を含む5%FCS含有リン酸緩衝液を加え、室温で1時間反応させた。リン酸緩衝液で洗浄した後、アルカリホスファターゼ標識抗マウスIgG抗体(シグマアルドリッチ(株)製)と室温で1時間反応させた。リン酸緩衝液で洗浄した後、ImmunoPure Fast Red TR/AS−MX Substrate Kit(ピアス製)により染色を行い、染色された陽性形質転換体を得た。
<実施例2−4:塩基配列の決定とコードされるアミノ酸配列>
得られた陽性形質転換体より、上記と同様にプラスミドDNAを調製し、pcD−hamAgK114と命名した。挿入されたcDNAの塩基配列をDNAシーケンサー(モデル373A、アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)により分析したところ、配列表における配列番号13で示される729塩基からなるオープンリーディングフレームを有しており、配列表における配列番号13で示される塩基配列に併記した242残基からなるアミノ酸配列をコードしていた。このアミノ酸配列を有するポリペプチドをhamAgK114−1と命名した。hamAgK114−1のアミノ酸残基225乃至241番目のアミノ酸配列はそのアミノ酸配列の特徴から膜貫通領域を形成していると予測され、hamAgK114−1はグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型の膜蛋白質と推定された。hamAgK114−1が有する配列表における配列番号13で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列をもとにデータベース検索したところ、同一のアミノ酸配列を有するポリペプチドは存在せず、hamAgK114−1は新規な物質であった。
【実施例3】
<マウス由来ポリペプチドをコードするDNAのクローニングと塩基配列の決定>
<実施例3−1:データベース検索>
実施例2で得られたハムスター由来ポリペプチドhamAgK114−1をコードするcDNAの塩基配列(配列表における配列番号13)をもとにデータベース検索(BLAST解析)を行ったところ、マウス由来のホモログをコードしていると考えられる4つの塩基配列(アクセッション番号AK005558、BC006958、AK002767及びAK009336)が得られた。マウス由来のホモログをコードするcDNAをクローニングするため、AK005558(マウス成獣雌胎盤cDNA)の開始コドン上流の塩基配列を基に、配列表における配列番号27で示される塩基配列を有する順鎖プライマーを合成した。
<実施例3−2:マウス表皮細胞cDNAの合成>
BALB/cマウスの耳から調製した表皮細胞を、ケラチノサイト用培地で37℃、5%COの条件下で一晩培養して得た8.8×10個の培養表皮細胞から、RNeasy Midi kit((株)キアゲン製)を用いて全RNAを調製した。次いで、得られた全RNA2μgを鋳型として、逆転写酵素(インビトロジェン(株)製、商品名「SuperScript II」)と配列表における配列番号28で示される塩基配列を有するオリゴdTアンカープライマーを用いてcDNAを合成した。
<実施例3−3:マウス由来ポリペプチドをコードするDNAのクローニング>
上記で合成したcDNAを鋳型とし、配列表における配列番号27で示される塩基配列を有する順鎖プライマーと配列表における配列番号29で示されるPCRアンカープライマーの組合せで、DNAポリメラーゼ(タカラバイオ(株)製、商品名「TaKaRa Ex taq」)を用いて常法の3′RACE法によりポリ(A)配列までのPCRを行った。PCR反応は94℃、30秒→60℃、45秒→72℃、3分の条件で30サイクル行った。このPCRにより、1.3kbpのPCR増幅産物(PCR13と命名)を得た。得られたPCR13をポリエチレングリコール沈殿法により精製した後、制限酵素Eco RVで消化したプラスミドベクターpT7Blue(メルク(株)製)にDNAライゲーションキットver.2(タカラバイオ(株)製)を用いて、常法によりクローン化し、組換えプラスミド(pTB−mAgK114PCR13と命名)を得た。得られた組換えプラスミドを用いて大腸菌コンピテントセル(JM109、タカラバイオ(株)製)を形質転換した。得られた形質転換体をL−ブロス培地(pH7.2)に植菌し、37℃で18時間振盪培養した後、培養物から形質転換体を採取し、通常のアルカリ−SDS法により処理してプラスミドDNAを調製し、目的のPCR増幅断片を保持するクローンを選択した。
<実施例3−4:塩基配列の決定とコードされるアミノ酸配列>
得られた形質転換体より、上記と同様にプラスミドDNAを調製し、PCR増幅断片PCR13の塩基配列をDNAシーケンサー(モデル373A、アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)により分析したところ、配列表における配列番号15で示される塩基配列を有していた。この塩基配列は、714塩基からなるオープンリーディングフレームを有しており、配列表における配列番号15で示される塩基配列に併記した237残基からなるアミノ酸配列をコードしていた。マウス由来の配列表における配列番号15で示される塩基配列を有するcDNAと実施例2で得たハムスター由来の配列番号13で示される塩基配列を有するcDNAとの相同性は75%であった。また、本cDNAにコードされる配列表における配列番号15で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列とハムスター由来ポリペプチドのアミノ酸配列(配列表における配列番号13で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列)との相同性は60%であった。マウス由来ポリペプチドの220乃至226残基のアミノ酸配列はハムスター由来ポリペプチドと同様に膜貫通領域を形成していると予測され、マウス由来ポリペプチドもグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型の膜蛋白質と推定された。マウス由来ポリペプチドが有する配列表における配列番号15で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列をもとにデータベース検索したところ、アクセッション番号AAH17624で開示されているcDNAがコードする機能未知のポリペプチドのアミノ酸配列と完全に一致した。
【実施例4】
<マウス由来分泌型ポリペプチドをコードするDNAのクローニングと塩基配列の決定>
<実施例4−1:マウス由来分泌型ポリペプチドをコードするDNAのクローニング>
より低分子の分泌型ポリペプチドをクローニングする目的で、実施例3において3′RACE法にて増幅したPCR産物を2%アガロース電気泳動に供し、約800bpに相当する位置のDNAバンド(PCR181と命名)を切り出し、DNA抽出キット((株)キアゲン製、商品名「QIAEX II」)を用いて抽出し、DNAを精製した。次いで、得られたDNA断片(PCR181)を制限酵素Eco RVで消化したプラスミドベクターpT7Blue(メルク(株)製)にDNAライゲーションキットver.2(タカラバイオ(株)製)を用いて、常法によりクローン化し、組換えDNA(pTB−mAgK114PCR181と命名)を得た。得られた組換えプラスミドを用いて大腸菌コンピテントセル(JM109、タカラバイオ(株)製)を形質転換した。得られた形質転換体をL−ブロス培地(pH7.2)に植菌し、37℃で18時間振盪培養した後、培養物から形質転換体を採取し、通常のアルカリ−SDS法により処理してプラスミドDNAを調製し、目的のcDNAを保持するクローンを選択した。
<実施例4−2:塩基配列の決定とコードされるアミノ酸配列>
得られた形質転換体より、上記と同様にプラスミドDNAを調製し、PCR増幅断片PCR181の塩基配列をDNAシーケンサー(モデル373A、アプライドバイオシステムズジャパン(株)製)により分析したところ、配列表における配列番号17で示される塩基配列を有していた。配列表における配列番号17で示される塩基配列は、585塩基からなるオープンリーディングフレームを有しており、配列表における配列番号17で示される塩基配列に併記した194残基からなるアミノ酸配列をコードしていた。実施例3で得たマウス由来の配列表における配列番号15で示される塩基配列を有するcDNAとの相同性は75%であった。また、本cDNAにコードされる配列表における配列番号17で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列と実施例3のポリペプチドのアミノ酸配列(配列表における配列番号15で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列)とは1乃至148残基までは完全に一致していたもののそれ以降の配列は全く異なっていた。本ポリペプチドにはアミノ酸配列上GPIアンカー型の膜貫通領域と推定される部分が存在しないため、分泌型のポリペプチドと考えられた。本ポリペプチドが有する配列表における配列番号17で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列をもとにデータベース検索したところアクセッション番号AK002767で開示されているcDNAがコードする機能未知のポリペプチドのアミノ酸配列と完全に一致した。
【実施例5】
<ヒト由来ポリペプチドの製造>
<実施例5−1:発現ベクターの構築>
配列表における配列番号11で示される塩基配列を有するcDNAの5′末端にXho I認識配列を作製し、3′末端に配列表における配列番号30で示されるアミノ酸配列(FLAG配列)をコードする塩基配列及びNot I認識配列を作製することを目的とし、配列表における配列番号11で示される塩基配列を有するcDNAが挿入されたプラスミドDNA 10ngを鋳型にして、配列表における配列番号31で示される塩基配列を有する順鎖プライマーと配列表における配列番号32に示される塩基配列を有する相補鎖プライマーの組み合わせでPCRを行った。得られた増幅断片は、ポリエチレングリコール沈澱法により精製後、プラスミド(「pCR−Script Cam SK(+)」、(株)ストラタジーン製)のSrf I部位にクローニングを行った。常法により塩基配列の確認を行った結果、計画通り5′末端にXho I認識配列、3′末端にFLAG配列をコードする塩基配列、Not I認識配列を有するプラスミドが得られた。得られたプラスミドDNAをXho IとNot Iで消化し、配列表における配列番号11で示される塩基配列を有するcDNAを含むXho I−Not I断片を調製後、発現ベクターpCDM8(インビトロジェン(株)製)のCMVプロモーターの下流、Xho I−Not I部位に挿入した。得られた発現ベクターをpcD−hAgK114aFLと命名した。本発現ベクターを用いれば発現するポリペプチドは配列表における配列番号11で示される塩基配列に併記されたアミノ酸配列を有するポリペプチドのC末端部位にFLAG配列を有する融合ポリペプチドとして得られる。構築した発現ベクターpcD−hAgK114aFLの基本構造を図1に示した。
<実施例5−2:COS−1細胞の形質転換と培養>
実施例5−1で得た発現ベクターpcD−hAgK114aFLを、リポフェクション法にて以下のようにCOS−1細胞に導入し細胞を形質転換した。まず、プラスミドDNA10μgをD−MEM培地で希釈して1.5mlとしたものと、リポフェクション法用遺伝子導入試薬(商品名『リポフェクトアミン2000』、インビトロジェン(株)製、以下、LF2000と略称する。)60μlをD−MEM培地で希釈して1.5mlとし、室温で5分間放置したものを合わせ室温で20分間反応させ、DNA−LF2000複合体を形成させた。次いで、10cmプラスチックシャーレ上に4.8×10個/10mlの10%FCSを含むD−MEM培地で接種し、一晩培養しておいたCOS−1細胞の培養液上清を取り除き、5mlのD−MEM培地を加え、DNA−LF2000複合体3mlを添加した。この細胞を37℃、5%CO存在下で5時間培養した後に上清を取り除き、10mlの10%FCSを含むD−MEM培地に培地を交換して再び培養した。一晩培養後、動物細胞用無血清培地ASF(味の素(株)製)5mlに培地交換し、さらに3日間培養を行った。
<実施例5−3:ポリペプチドの精製>
形質転換したCOS−1細胞の培養液1000mlを精製原料として、配列表における配列番号11で示される塩基配列に併記されたアミノ酸配列を有するポリペプチドのC末端にFLAG配列を有する組換え型融合ポリペプチドの精製を以下のように行った。培養液を遠心分離して得た培養上清を0.15Mの塩化ナトリウムを含む50mMトリス−塩酸バッファー(pH7.4)で予め平衡化しておいた抗FLAG M2抗体アガロースカラム(容量5ml、シグマアルドリッチ(株)製)にかけ、FLAG配列を有する組換え型融合ポリペプチドを特異的に吸着させた。同バッファーで充分洗浄し非吸着成分を除去した後、0.1Mグリシン−塩酸バッファー(pH3.5)を用いて吸着成分を溶出した。ポリペプチド溶出フラクションは1Mトリス−塩酸バッファー(pH8.0)を添加することにより中和した。回収フラクションは限外ろ過膜(商品名『ウルトラフリー』、ミリポア(株)製)にて濃縮し、PBS(pH7.1)で予め平衡化しておいた容量120mlのゲルろ過カラム(商品名『スーパーデックス200』、アマシャムバイオサイエンス(株)製)にかけ、同バッファーにて溶出した。280nmの吸光度を指標にポリペプチドを回収し、約0.15mgのポリペプチドを収率約80%で得た。このポリペプチドをhAgK114−1aFLと命名した。
得られた組換えポリペプチド精製標品を用い、常法に従い還元剤存在下でSDS−PAGEを行ったところ、分子量30乃至100kDaに相当する位置に単一なポリペプチドのバンドが検出された。分子量の幅が広い理由として糖鎖修飾の影響が考えられた。
【実施例6】
<ヒト由来ポリペプチドの製造>
<実施例6−1:組換えバキュロウィルスの調製>
ヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFLをコードするcDNAと、BDファーミンジェン社製の『BDバキュロゴールド・トランスフェクション・キット(BD BaculoGold Transfection Kit)』を用い、昆虫細胞でのポリペプチド発現用組換えバキュロウィルスを調製した。実施例5−1で得た5′末端にXho I認識配列を、3′末端にFLAG配列をコードする塩基配列とNot I認識配列を有するDNAが挿入されたpcR−Script Cam SK(+)を、制限酵素BamHI及びNotIにて消化し、BamHI−NotI断片を調製した後、これを、バキュロウィルス・トランスファーベクター『pVL1393』のポリヘドリン・プロモーター下流のBamHI−NotI部位に連結させた。得られた組換えベクターを『pVL1393−hAgK114−1aFL』と命名した。構築した発現ベクターpVL1393−hAgK114−1aFLの基本構造を図2に示した。次に、キットの添付説明書の操作方法に従い、Sf9昆虫細胞(ATCC CRL−1711、ヨトウガ由来)を用いて、組換えウィルスの作製を行った。Sf9は、10%(v/v)FCS添加のTC100培地(インビトロジェン(株)製)を用い、6穴プレートに1×10個/ウェルで播種し、10分間付着させ、上清除去後、0.5mlのトランスフェクション・バッファーA液(10%(v/v)FCS含有グレース培地)に置換した。これに、あらかじめ1.5μgのpVL1393−hAgK114−1aFLと0.25μgのBDバキュロゴールド・バキュロウィルスDNAを混合して5分間反応させた後に、0.5mlのトランスフェクション・バッファーB液(125mM塩化カルシウム、140mM塩化ナトリウム、25mM HEPES,pH7.1)を添加した混合液を、0.5ml/ウェルで添加し、27℃で4時間感染させた。次に、各ウェルを10%(v/v)FCS添加TC−100培地で1回洗浄後、同培地2mlを添加し、更に27℃で6日間培養を行った。各培養液を1,000rpmで5分間遠心分離して上清を回収し、hAgK114−1aFL組換えバキュロウィルス調製液とした。更にウィルスの力価を上げるため、Sf9細胞1×10個に上記の調製液を50乃至200μl添加し、27℃で1週間感染させ、遠心分離して得た上清を、ポリペプチド発現用の組換えウィルス液として調製した。
<実施例6−2:昆虫細胞のトランスフェクションと培養>
ポリペプチド発現用細胞として、昆虫細胞株『High Five』(インビトロジェン(株)製、イラクサギンウワバ由来)を用いた。昆虫細胞株は、L−グルタミン(最終濃度1mg/ml)を添加したエクスプレスファイブ無血清培地(インビトロジェン(株)製)を用いて1×10個/10mlに調製し、実施例6−1で得た組換えウィルス液を200μl添加し、10分毎に攪拌しながら1時間感染させた。次に、エクスプレスファイブ無血清培地を30ml添加後、27℃で3日間培養を行いトランスフェクション液を得た。
<実施例6−3:ポリペプチドの精製>
実施例6−2で得たトランスフェクション液740mlを精製原料として、C末端部分にFLAG配列を有する組換え型融合ポリペプチドの精製を以下のように行った。トランスフェクション液を15,000rpmで45分間遠心分離して得た上清を、0.15Mの塩化ナトリウムを含む50mMトリス−塩酸バッファー(pH7.4)で予め平衡化しておいた抗FLAG M2抗体アガロースカラム(容量5ml、シグマアルドリッチ(株)製)にかけ、FLAG配列を有する組換え型融合ポリペプチドを特異的に吸着させた。同バッファーで充分洗浄し非吸着成分を除去した後、0.1Mグリシン−塩酸バッファー(pH3.5)を用いて吸着成分を溶出した。ポリペプチド溶出フラクションは1Mトリス−塩酸バッファー(pH8.0)を添加することにより中和した。回収フラクションは限外ろ過膜(商品名『ウルトラフリー』、ミリポア(株)製)にて濃縮することによりポリペプチドを回収し、約530μgのポリペプチドを得た。
得られた組換えポリペプチド精製標品を用い、常法に従い還元剤存在下でSDS−PAGEを行ったところ、分子量20乃至35kDaに相当する位置に単一なポリペプチドのバンドが検出された。常法により、この精製ポリペプチドのN末端アミノ酸配列を5残基調べたところ、配列表における配列番号39で示されるアミノ酸配列を有していることが判明し、このアミノ酸配列は配列表における配列番号11に示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の第26乃至第30番目のアミノ酸配列と完全に一致した。このことから配列表における配列番号11に示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の内、第1乃至第25番目までのアミノ酸配列は分泌のためのシグナル配列であり、第26番目以降のアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号4で示されるアミノ酸配列が成熟ポリペプチドのアミノ酸配列であることが確認された。
【実施例7】
<ヒト由来ポリペプチドの製造>
<実施例7−1:発現ベクターの構築>
相補鎖プライマーとして配列表における配列番号33で示される塩基配列を有するプライマーを用い、配列表における配列番号12で示される塩基配列を有するcDNA挿入プラスミドDNAを鋳型にしてPCRを行った以外は実施例5−1と同様に操作することにより発現ベクターを得て、pcD−hAgK114bFLと命名した。本発現ベクターを用いれば発現するポリペプチドは配列表における配列番号12で示される塩基配列に併記されたアミノ酸配列を有するポリペプチドのC末端にFLAG配列を有する融合ポリペプチドとして得られる。構築した発現ベクターpcD−hAgK114bFLの基本構造を図3に示した。
<実施例7−2:COS−1細胞の形質転換と培養>
発現ベクターとして実施例7−1で得たpcD−hAgK114bFLを用いた以外は実施例5−2と同様にCOS−1細胞を形質転換し、細胞培養を行なった。
<実施例7−3:ポリペプチドの精製>
実施例5−3と同様に操作し、C末端にFLAG配列を有する組換え型融合ポリペプチドの精製を行ったところ、約0.1mgのポリペプチドを収率約80%で得た。得られた組換えポリペプチド精製標品を用い、常法に従い還元剤存在下でSDS−PAGEを行ったところ、分子量30乃至100kDaに相当する位置に単一なポリペプチドのバンドが検出された。常法により、この精製ポリペプチドのN末端アミノ酸配列を5残基調べたところ、配列表における配列番号39で示されるアミノ酸配列を有していることが判明し、このアミノ酸配列は配列表における配列番号12に示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の第26乃至第30番目のアミノ酸配列と完全に一致した。このことから配列表における配列番号12に示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の内、第1乃至第25番目までのアミノ酸配列は分泌のためのシグナル配列であり、第26番目以降のアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号5で示されるアミノ酸配列が成熟ポリペプチドのアミノ酸配列であることが確認された。なお、配列表における配列番号4及び5で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、配列表における配列番号1で示される部分アミノ酸配列を共通に有することになり、このアミノ酸配列が生物作用に重要と判断された。
【実施例8】
<ハムスター由来C末端FLAG付加分泌変異型ポリペプチドの製造>
<実施例8−1:発現ベクターの構築>
実施例2でクローニングした配列表における配列番号13で示される塩基配列を有するcDNAは、配列表における配列番号13で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列を有する膜結合型のハムスター由来ポリペプチドhamAgK114−1をコードしているところ、分泌型のポリペプチドを得るため膜結合に関与すると予測されるC末端領域(配列表における配列番号13で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列における223番目のセリン残基以降のC末端側の領域)を削除し、さらに、実施例5及び6と同様にC末端部分にFLAG配列を有する組換え融合ポリペプチドが得られるようにcDNAを改変した発現ベクターを構築することにした。
実施例2で得た、組換えプラスミドpcD−hamAgK114 10ngを鋳型とし、配列表における配列番号34で示される塩基配列を有する合成DNAを順鎖プライマーとし、配列表における配列番号35で示される塩基配列を有する合成DNAを相補鎖プライマーとしたPCRを行った。得られた増幅断片は、ポリエチレングリコール沈殿法により精製した後、プラスミドベクターpCR−Script Cam SK(+)((株)ストラタジーン製)のSrf I部位にクローニングした。常法により塩基配列の確認を行ったところ、計画通り配列表における配列番号14で示される塩基配列の5′末端にXho I認識配列が、及び3′末端にNot I認識配列が付加された配列を有していた。このDNAは配列表における配列番号14で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列をコードしていたことから、当初の目的通りhamAgK114−1の1乃至222番目までのアミノ酸配列とFLAG配列が融合した組換え変異型融合ポリペプチド(hamAgK114−1d2FLと命名。)をコードするcDNAが調製されたことを確認した。このcDNAを含むXho I−Not I断片を再度切り出し、発現ベクターpREF−XN(谷口ら、ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソッズ(Journal of Immunological Methods),1998年,217巻,97乃至102頁)のEF−1αプロモーターの下流、Xho I−Not I部位に挿入することにより調製した発現ベクターをpRER−hamAgK114d2FLと命名した。構築した発現ベクターpRER−hamAgK114d2FLの基本構造を図4に示した。
<実施例8−2:CHO−K1細胞の形質転換と培養>
実施例8−1で得た発現ベクターpRER−hamAgK114d2FLを、エレクトロポレーション法にて以下のようにCHO−K1細胞に導入し細胞を形質転換した。まず、プラスミドDNA10μgと、予め常法により調製しておいたCHO−K1細胞を1×10個含む液800μlとをエレクトロポレーション用キュベット内で混合し、氷温で10分間放置した。次いで、25μFD、1000Vの電気パルスを1分間間隔で2回負荷することによりエレクトロポレーションを行った。形質転換したCHO−K1細胞を5%FCS−Ham’sF12培地に懸濁し、37℃、5%COの条件下で48時間培養した後、培地を400μg/mlのG−418(商品名「ジェネティシン」、インビトロジェン(株)製)を含む5%FCS−Ham’sF12培地に交換し、2日に一度培地を交換しながら14日間培養した。ホースラディッシュパーオキシダーゼ標識した抗FLAG M2抗体を用いた培養上清のEIAにより、形質転換したCHO−K1細胞からhamAgK114−1d2FLを高発現する形質転換CHO−K1細胞を1株選択し、常法によりシングルクローン化し、CHO−hamAgK114−1d2FLと命名した。この細胞を34.5mg/lのL−プロリンを含有する5%FCS−RPMI 1640培地に播き、37℃、5%CO存在下で培養した。細胞がコンフルエント状態になった後、培地をASF培地に交換し3日間培養した。
<実施例8−3:ポリペプチドの精製>
CHO−hamAgK114−1d2FL細胞の培養液20lを精製原料として、FLAG付加型変異ポリペプチドhamAgK114−1d2FLの精製を以下のように行った。培養液を遠心分離して得た培養上清を限外ろ過膜(商品名『マイクローザ』、旭化成(株)製)にて100倍濃縮した後、0.15Mの塩化ナトリウムを含む50mMトリス−塩酸バッファー(pH7.4)で予め平衡化しておいた抗FLAG M2抗体アガロースカラム(容量5ml、シグマアルドリッチ(株)製)にかけ、FLAG配列を有する組換え型融合ポリペプチドを特異的に吸着させた。同バッファーで充分洗浄し非吸着成分を除去した後、0.1Mグリシン−塩酸バッファー(pH3.5)を用いて吸着成分を溶出した。ポリペプチド溶出フラクションは1Mトリス−塩峻バッファー(pH8.0)を添加することにより中和した。回収フラクションは限外ろ過膜(商品名『ウルトラフリー』、ミリポア(株)製)にて濃縮し、PBS(pH7.1)で予め平衡化しておいた容量120mlのゲルろ過カラム(商品名『スーパーデックス200』、アマシャムバイオサイエンス(株)製)にかけ、同バッファーにて溶出した。280nmの吸光度を指標にポリペプチドを回収し、約1.8mgのhamAgK114−1d2FLを得た。
得られた組換えポリペプチド精製標品を用い、常法に従い還元剤存在下でSDS−PAGEを行ったところ、分子量50乃至100kDaに相当する位置に単一なポリペプチドのバンドが検出された。分子量の幅が広い理由として糖鎖修飾の影響が考えられた。常法により、この精製ポリペプチドのN末端アミノ酸配列を5残基調べたところ、配列表における配列番号40で示されるアミノ酸配列を有していることが判明し、このアミノ酸配列は配列表における配列番号14で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の第27乃至第31番目のアミノ酸配列と完全に一致した。このことから配列表における配列番号14で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の内、第1乃至第26番目までのアミノ酸配列は分泌のためのシグナル配列であり、第27乃至第222番目のアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号7で示されるアミノ酸配列が成熟ポリペプチドのアミノ酸配列であることが確認された。なお、配列表における配列番号6及び7で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、配列表における配列番号2で示される部分アミノ酸配列を共通に有することになり、このアミノ酸配列が生物作用に重要と判断された。
【実施例9】
<マウス由来C末端FLAG付加分泌変異型ポリペプチドの製造>
<実施例9−1:発現ベクターの構築>
実施例3でクローニングした配列表における配列番号15の塩基配列を有するcDNAは、膜結合型のマウス由来ポリペプチドmAgK114−1をコードしているところ、分泌型のポリペプチドを得るため、実施例8のハムスターの場合と同様に、膜結合に関与するC末端領域(配列表における配列番号15で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列における219番目プロリン残基以降のC末端側の領域)を削除し、実施例5、7及び8と同様にC末端にFLAG配列を有する組換え融合ポリペプチドが得られるようにcDNAを改変した発現ベクターを構築することにした。
実施例3で得た、組換えプラスミドpTB−mAgK114PCR13 10ngを鋳型とし、配列表における配列番号36で示される塩基配列を有する合成DNAを順鎖プライマーとし、配列表における配列番号37で示される塩基配列を有する合成DNAを相補鎖プライマーとしたPCRを行った。得られた増幅断片は、ポリエチレングリコール沈殿法により精製した後、プラスミドベクターpCR−Script Cam SK(+)((株)ストラタジーン製)のSrf I部位にクローニングした。常法により塩基配列の確認を行った結果、計画通り配列表における配列番号16で示される塩基配列の5′末端にXho I認識配列、及び3′末端にNot I認識配列がそれぞれ付加された塩基配列を有していた。このDNAは配列表における配列番号16で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列をコードしていたことから、当初の目的通りmAgK114−1の1乃至218番目までのアミノ酸配列のC末端にFLAG配列を有する組換え分泌変異型融合ポリペプチド(smAgK114−1FLと命名。)をコードするcDNAが調製されたことを確認した。このcDNAを含むXho I−Not I断片を再度切り出し、実施例8−1と同様に発現ベクターpREF−XNのEF−1αプロモーターの下流、Xho I−Not I部位に挿入することにより調製した発現ベクターをpRER−smAgK114FLと命名した。構築した発現ベクターpRER−smAgK114FLの基本構造を図5に示した。
<実施例9−2:CHO−K1細胞の形質転換と培養>
実施例9−1で得た発現ベクターpRER−smAgK114FLを、エレクトロポレーション法にて以下のようにCHO−K1細胞に導入し細胞を形質転換した。まず、プラスミドDNA10μgと、予め常法により調製しておいたCHO−K1細胞を1×10個含む液800μlとをエレクトロポレーション用キュベット内で混合し、氷温で10分間放置した。次いで、25μFD、1000Vの電気パルスを1分間間隔で2回負荷することによりエレクトロポレーションを行った。形質転換したCHO−K1細胞を5%FCS−Ham’sF12培地に懸濁し、37℃、5%COの条件下で48時間培養した後、培地を400μg/mlのG−418を含む5%FCS−Ham’sF12培地に交換し、2日に一度培地を交換しながら8日間培養した。ホースラディッシュパーオキシダーゼ標識した抗FLAG M2抗体を用いた培養上清のEIAにより、形質転換したCHO−K1細胞からsmAgK114−1FLを高発現する形質転換CHO−K1細胞を1株選択し、常法によりシングルクローン化し、CHO−smAgK114FLBP23−1と命名した。この細胞を34.5mg/lのL−プロリンを含有する5%FCS−RPMI 1640培地に播き、37℃、5%CO存在下で培養した。細胞がコンフルエント状態になった後、培地をASF培地に交換し3日間培養した。
<実施例9−3:ポリペプチドの精製>
CHO−smAgK114FLBP23−1細胞の培養液20lを精製原料として、配列表における配列番号16で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列を有する変異型融合ポリペプチドsmAgK114−1FLの精製を以下のように行った。培養液を遠心分離して得た培養上清を限外ろ過膜(商品名『マイクローザ』、旭化成(株)製)にて100倍濃縮した後、0.15Mの塩化ナトリウムを含む50mMトリス−塩峻バッファー(pH7.4)で予め平衡化しておいた抗FLAG M2抗体アガロースカラム(容量5ml、シグマアルドリッチ(株)製)にかけ、FLAG配列を有する組換え型融合ポリペプチドを特異的に吸着させた。同バッファーで充分洗浄し非吸着成分を除去した後、0.1Mグリシン−塩酸バッファー(pH3.5)を用いて吸着成分を溶出した。ポリペプチド溶出フラクションは1Mトリス−塩酸バッファー(pH8.0)を添加することにより中和した。回収フラクションは限外ろ過膜(商品名『ウルトラフリー』、ミリポア(株)製)にて濃縮し、PBS(pH7.1)で予め平衡化しておいた容量120mlのゲルろ過カラム(商品名『スーパーデックス200』、アマシャムバイオサイエンス(株)製)にかけ、同バッファーにて溶出した。280nmの吸光度を指標にポリペプチドを回収し、約8.6mgのsmAgK114−1FLを得た。
得られた組換えポリペプチド精製標品を用い、常法に従い還元剤存在下でSDS−PAGEを行ったところ、分子量50乃至100kDaに相当する位置に単一なポリペプチドのバンドが検出された。分子量の幅が広い理由として糖鎖修飾の影響が考えられた。常法により、この精製ポリペプチドのN末端アミノ酸配列を5残基調べたところ、配列表における配列番号41で示されるアミノ酸配列を有していることが判明し、このアミノ酸配列は配列表における配列番号16で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の第27乃至第31番目のアミノ酸配列と完全に一致した。このことから配列表における配列番号16で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の内、第1乃至第26番目までのアミノ酸配列は分泌のためのシグナル配列であり、第27乃至第218番目のアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号9で示されるアミノ酸配列が成熟ポリペプチドのアミノ酸配列であることが確認された。
【実施例10】
<マウス由来分泌型ポリペプチドの製造>
<実施例10−1:発現ベクターの構築>
実施例4で得た、組換えプラスミドpTB−mAgK114PCR181 10ngを鋳型とし、配列表における配列番号36で示される塩基配列を有する合成DNAを順鎖プライマーとし、配列表における配列番号38で示される塩基配列を有する合成DNAを相補鎖プライマーとしたPCRを行った。得られた増幅断片は、ポリエチレングリコール沈殿法により精製した後、プラスミドベクターpCR−Script Cam SK(+)((株)ストラタジーン製)のSrf I部位にクローニングした。常法により塩基配列の確認を行った結果、計画通り配列表における配列番号17で示される塩基配列の5′末端にXho I認識配列、及び3′末端にNot I認識配列がそれぞれ付加された塩基配列を有していた。このDNAは配列表における配列番号10で示されるアミノ酸配列をコードしていたことから、分泌型ポリペプチド(mAgK114−1bと命名。)をコードするcDNAが調製されたことを確認した。このcDNAを含むXho I−Not I断片を再度切り出し、実施例8−1と同様に発現ベクターpREF−XNのEF−1αプロモーターの下流、Xho I−Not I部位に挿入することにより調製した発現ベクターをpRER−mAgK114bと命名した。構築した発現ベクターpRER−mAgK114bの基本構造を図6に示した。
<実施例10−2:CHO−K1細胞の形質転換と培養>
実施例10−1で得た発現ベクターpRER−mAgK114bを用い、形質転換したCHO−K1細胞からマウス由来ポリペプチドsmAgK114−1FLに対するラット抗血清を用いたEIAによりmAgK114−1bを高発現する形質転換CHO−K1細胞を選択した以外は実施例9と同様にして、形質転換CHO−K1細胞を得てCHO−mAgK114b16−38と命名した。この細胞を34.5mg/lのL−プロリンを含有する5%FCS−RPMI 1640培地に播き、37℃、5%CO存在下で培養した。細胞がコンフルエント状態になった後、培地をASF培地に交換し3日間培養した。
<実施例10−3:ポリペプチドの精製>
CHO−mAgK114b16−38細胞の培養液20lを精製原料として、マウス由来ポリペプチドmAgK114−1bの精製を以下のように行った。培養液を遠心分離して得た培養上清を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.5)で予め平衡化しておいた容量360mlのWGL−セファロース(アマシャムバイオサイエンス(株)製)カラムにかけ、ポリペプチドを特異的に吸着させた。同バッファーで充分洗浄し非吸着成分を除去した後、0.4M N−アセチルグルコサミン−リン酸バッファー(pH7.4)を用いて吸着成分を溶出した。ポリペプチド溶出フラクションは限外ろ過膜(商品名『ウルトラフリー』、ミリポア(株)製)にて濃縮し、PBS(pH7.5)で予め平衡化しておいた容量50mlのキレート(Cu2+)−セファロース(アマシャムバイオサイエンス(株)製)カラムにかけ、20mMリン酸ナトリウムバッファー(pH6.0)にて溶出した。280nmの吸光度を指標にポリペプチドを回収したところ、約0.5mgのポリペプチドが得られた。
得られた組換えポリペプチド精製標品を用い、常法に従い還元剤存在下でSDS−PAGEを行ったところ、分子量35乃至70kDaに相当する位置に単一なポリペプチドのバンドが検出された。常法により、この精製ポリペプチドのN末端アミノ酸配列を5残基調べたところ、配列表における配列番号41で示されるアミノ酸配列を有していることが判明し、このアミノ酸配列は配列表における配列番号17で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の第27乃至第31番目のアミノ酸配列と完全に一致した。このことから配列表における配列番号17で示される塩基配列に併記したアミノ酸配列の内、第1乃至第26番目までのアミノ酸配列は分泌のためのシグナル配列であり、第27番目以降のアミノ酸配列、すなわち配列表における配列番号10で示されるアミノ酸配列が成熟ポリペプチドのアミノ酸配列であることが確認された。なお、配列表における配列番号8乃至10で示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドは、配列表における配列番号3で示される部分アミノ酸配列を共通に有することになり、このアミノ酸配列が生物作用に重要と判断された。
【実施例11】
<ヒト由来ポリペプチドのヒト由来線維芽細胞のゼラチナーゼ発現増強作用>
実施例5−3の方法で得たヒト由来組換えポリペプチドhAgK114−1aFL精製標品を用い、ヒト由来線維芽細胞のゼラチナーゼ発現増強作用を検討した。常法に従い、12穴マイクロプレートに正常ヒト新生児包皮皮膚由来線維芽細胞(NHDF)を3×10個/mlの濃度で1mlのMedium 106培地(カスケードバイオロジクス製)に播き込み、37℃、5%COガス存在下で2日間培養した。次いで、増殖したNHDFに、実施例5−3の方法で得た組換え型hAgK114−1aFL精製標品を終濃度1μg/ml若しくは10μg/mlになるよう調整した無血清D−MEM培地を1ml加え、37℃、5%COガス存在下でさらに2日間培養した。培養終了後、遠心分離により培養上清を回収し、ゼラチナーゼ活性及びゼラチーナーゼA蛋白の測定に用いた。なお、組換え型hAgK114−1aFL精製標品の代わりにFLAGペプチドを終濃度1μg/mlになるよう添加した以外は、同様に培養して得た培養上清を対照として用いた。
ゼラチナーゼ活性は、活性染色法により評価した。すなわち、それぞれの培養上清を1mg/mlのゼラチンを含有する活性染色用ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動に供し、泳動後、ゲルをインキュベーションバッファー中で一晩処理することによりゼラチナーゼを活性化し反応させた。次いで、ゲル中のゼラチンをクーマシーブリリアントブルーで染色することにより、ゼラチンが分解したことにより生ずる白く抜けたバンドを検出した。このバンドの強度をデンシトメーターにて測定し、対照を100として試験系のゼラチンを分解する活性を相対評価した。また、ゼラチナーゼA蛋白の発現量は、常法のウェスタンブロッティング法により評価した。すなわち、それぞれの培養上清12μlをアクリルアミド4乃至20%のグラジエントゲル(第一化学薬品(株)製)を用い、常法により還元剤存在下でのSDS−PAGEに供した後、蛋白質を常法に従ってニトロセルロース膜に転写した。転写後のニトロセルロース膜を、ブロッキング剤(商品名「ブロックエース」、大日本製薬(株)製)を用いてブロックした後、一次抗体として1μg/mlの抗ゼラチナーゼA抗体(第一ファインケミカル(株)製、商品名『抗ヒトMMP−2抗体』)で処理し、さらに二次抗体として1000倍に希釈した抗マウス免疫グロブリン−西洋ワサビペルオキシダーゼ標識抗体(ダコ・ジャパン(株)製)で処理し、ECLウェスタンブロッティング検出試薬(アマシャムバイオサイセンス(株)製)によりゼラチナーゼA蛋白を検出した。ウェスタンブロッティング法により検出されたバンドの強度をデンシトメーターにて測定し、対照におけるゼラチナーゼA蛋白の発現量を100として相対評価した。結果を表1に示す。


表1の結果から明らかなように、無添加系(対照)に比べヒト由来組換え型ポリペプチドhAgK114−1aFLは、1μg/mlの濃度で約3倍、10μg/mlの濃度で9倍以上と、用量依存的にNHDFにおけるゼラチナーゼA蛋白の発現を顕著に増強した。一方、活性染色法により評価したゼラチナーゼ活性では、組換え型ポリペプチドhAgK114−1aFLは、1μg/mlの濃度で対照とほぼ同程度、10μg/mlの濃度では対照の約1.5倍であった。本試験において、組換え型ポリペプチドhAgK114−1aFLは用量依存的にNHDFにおけるゼラチナーゼA蛋白の発現を顕著に増強することにより、ゼラチナーゼ活性を増強することが判明した。本発明のポリペプチドは、ヒト由来線維芽細胞のゼラチナーゼ発現を顕著に増強することから、皮膚における創傷や炎症の治癒を促進するために用いることができる。
【実施例12】
<ポリペプチドの哺乳類由来線維芽細胞及び間葉系細胞のゼラチナーゼ発現増強作用>
実施例5乃至10の方法で得たヒト、ハムスター及びマウス由来組換えポリペプチド精製標品を用い、ヒト及びハムスター由来線維芽細胞、及びマウス由来間葉系細胞のゼラチナーゼ発現増強作用を検討した。常法に従い、12穴マイクロプレートに正常ヒト新生児包皮皮膚由来線維芽細胞(NHDF)、ハムスター新生児皮膚由来線維芽細胞(FB)又はマウス胎児大動脈由来間葉系細胞(SC9−19)を3×10個/mlの濃度で1mlの増殖因子を含む培地に播き込み、37℃、5%CO存在下で2日間培養した。次いで、増殖したNHDF、FB又はSC9−19に、実施例5乃至10の方法で得たポリペプチド精製標品をそれぞれ終濃度10μg/mlになるよう調整した無血清D−MEM培地を1ml加え、37℃、5%CO存在下でさらに2日間培養した。培養終了後、遠心分離により培養上清を回収し、ゼラチナーゼ活性の測定に用いた。なお、組換え型ポリペプチド精製標品の代わりにFLAGペプチドを終濃度10μg/mlになるよう添加した以外は、同様に培養して得た培養上清を対照として用いた。
線維芽細胞又は間葉系細胞で発現するゼラチナーゼ活性は、実施例11で用いた活性染色法により評価した。すなわち、それぞれの培養上清を1mg/mlのゼラチンを含有する活性染色用ポリアクリルアミドゲルを用いた電気泳動に供し、泳動後、ゲルをインキュベーションバッファー中で一晩処理することにより酵素を活性化し反応させた。次いで、ゲル中のゼラチンをクーマシーブリリアントブルーで染色し、ゼラチンが分解したことにより生ずる白く抜けたバンドを検出した。このバンドの強度をデンシトメーターにて測定し、対照を100として試験系のゼラチンを分解する活性を相対評価した。結果を表2に示す。

表2の結果から明らかなように、活性染色法により評価したゼラチナーゼ活性では、FLAGペプチド添加系(対照)に比べ、ヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFL及びhAgK114−1bFLは、NHDFにおけるゼラチナーゼ活性を1.5倍及び1.4倍に、ハムスター由来ポリペプチドhamAgK114−1d2FLは、FBにおけるゼラチナーゼ活性を1.24倍に、また、マウス由来ポリペプチドsmAgK114−1FL及びmAgK114−1bは、いずれもSC9−19におけるゼラチナーゼ活性を約1.3倍に増強した。また、ヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFL及びハムスター由来ポリペプチドhamAgK114−1d2FLは、いずれもマウス由来間葉系細胞SC9−19に対し、弱いながらもゼラチナーゼの発現を増強したことから、これらポリペプチドは種を越えてゼラチナーゼの発現増強能を発揮するものと推察された。本試験において、本発明における組換え型ポリペプチドは終濃度10μg/mlの添加条件下で線維芽細胞又は間葉系細胞におけるゼラチナーゼの発現を対照の1.2倍以上増強することが判明した。本発明のポリペプチドは、線維芽細胞又は間葉系細胞のゼラチナーゼ発現を顕著に増強することから、皮膚における創傷や炎症の治癒を促進するために用いることができる。
【実施例13】
<マウス由来ポリペプチドのゼラチナーゼ発現増強及び創傷治癒促進作用>
8週齢の雄CD−1マウス24匹を麻酔し、背部皮膚を脱毛した後、それぞれの正中線上の前後に12mmの線状創を2ヶ所、正中線をはさんで左右に8mmの開放創2ヶ所を作製した。内8匹について、創傷作製直後、1日後、2日後に創傷1ヶ所につき実施例9−3の方法で調製したマウス由来ポリペプチドsmAgK114−1FLを4μg(10μlのリン酸緩衝液に溶解したもの)ずつ塗布した。また、残り16匹については、8匹にFLAGペプチドを0.2μg、8匹にウシ血清アルブミン4μgをそれぞれ同様に塗布して対照とした。創傷作製7日後にそれぞれの創傷の大きさを測定するとともに、創傷部位の皮膚細胞を採取し、細胞を破砕した後、遠心分離上清についてゼラチナーゼの発現を実施例11と同様にして活性染色法にて評価した。結果を表3に示す。


表3の結果から明らかなように、マウス由来ポリペプチドsmAgK114−1FL塗布群では8匹中5匹においてゼラチナーゼの発現増強効果が認められ、発現増強の程度は約1.7倍であった。また、マウス由来ポリペプチドsmAgK114−1FL塗布群は創傷7日後において、線状創及び開放創のいずれの面積においても対照群(ウシ血清アルブミン群)に比べ顕著に小さい値を示した。また、FLAGペプチド塗布群はゼラチナーゼの発現及び創傷面積のいずれもが対照群との比較において有意な差は認められなかった。マウス由来ポリペプチドsmAgK114−1FLはマウス皮膚細胞におけるゼラチナーゼの発現を増強し、その結果として皮膚創傷の治癒を促進するものと判断された。
【実施例14】
<ヒト由来ポリペプチドのゼラチナーゼ発現増強及び創傷治癒促進作用>
7週齢の雄CD−1マウス22匹を麻酔し、背部皮膚を脱毛した後、それぞれの正中線の左に15mmの線状創2ヶ所を作製した。内12匹について、創傷作製直後、1日後、2日後に創傷1ヶ所につき実施例5−3の方法で調製したヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFLを10μg(10μlの10%グリセリン−PBSに溶解したもの)ずつ塗布した。また、残り10匹についてはウシ血清アルブミン10μg/10μl−10%グリセリンPBSをそれぞれ同様に添加、塗布して対照とした。創傷作製7日後に創傷の大きさを測定した。また、マウス創傷部位におけるゼラチナーゼAの発現を以下に示す免疫染色法にて評価した。まず、マウスの創傷部位の表皮組織を切り出し、10%ホルマリンで固定した後、常法によりパラフィン包埋処理した。次いで、パラフィン切片を作製し、キシレンによる脱パラフィン処理後、水−アルコール混液で洗浄することにより段階的に有機溶媒濃度を下げて最終的にPBSで洗浄した。続いて、0.3%の過酸化水素を含むメタノールで処理することにより内因性のパーオキシダーゼを失活させた後、ブロッキング剤(商品名「ブロックエースTM」、大日本製薬(株)製)で室温で30分間ブロッキングを行った。次いで、一次抗体として250倍希釈したマウス抗ヒトMMP−2(ゼラチナーゼA)抗体(第一ファインケミカル(株)製)を組織切片にのせ、4℃で一晩反応させた。PBSで一次抗体を洗い去り、続いてパーオキシダーゼでラベルしたヤギ抗マウスイムノグロブリン(商品名「EnVision+TM」、ダコ・ジャパン(株)製)を二次抗体として室温で1時間反応させた。PBSで洗浄した後、パーオキシダーゼ発色試薬(Liquid DAB−Black Substrate Kit、ザイメッド製)で発色処理を行った。水洗により発色を停止させ、常法によりヘマトキシリン(和光純薬工業(株)製)で核を染色した後、封入剤(商品名「エンテラン」、メルク(株)製)で封入処理し顕微鏡下で染色を観察した。免疫染色の結果は染色の程度を肉眼で観察し、「−」(染色されない)、「+」(僅かに染色される)、「++」(弱く染色される)及び「+++」(強く染色される)の4段階で評価した。結果を表4に示す。

表4の結果から明らかなように、創傷部におけるゼラチナーゼA蛋白の発現は、対照群では10例中9例において1例が「+++」、5例が「++」、3例が「+」を示したのに対して、ヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFL塗布群では12例中11匹において6例が「+++」、4例が「++」、1例が「+」を示し、ヒト由来ポリペプチドの塗布によるゼラチナーゼA蛋白の発現増強作用が明らかに認められた。また、線状創の面積においてヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFL塗布群は創傷7日後において6.0mmと、対照群(ウシ血清アルブミン群)の10.5mmに比べ顕著に小さい値を示した。ヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFLはマウス皮膚細胞におけるゼラチナーゼの発現を増強し、その結果として皮膚創傷の治癒を促進するものと判断された。
【実施例15】
<ハムスター由来ポリペプチドによるハムスター骨髄細胞の増殖促進作用>
ハムスター成獣(8週齢、雌)の大腿骨から調製した骨髄細胞を10(v/v)%FCSを含むD−MEM培地を用いて1×10個/mlの濃度に調製し、コラーゲンでコートした96ウェルのマイクロプレートに、100μlずつ播きこんだ。次いで、実施例8の方法で得たハムスター由来ポリペプチドhamAgK114−1d2FLを同様に10(v/v)%FCSを含むD−MEM培地を用いて12.5、25μg/mlの各濃度に調製し、これを100μlずつ添加し、総液量200μlとした(ポリペプチドの終濃度は6.25、12.5μg/mlとなる)。6日間培養した後に、酸化−還元インディケーターである色素(トレック・ダイアグノスティック(株)製、商品名『アラマー・ブルー(alamar Blue)』)を用いて544nmを励起波長とし、590nmを測定波長として蛍光強度を測定し、この蛍光強度を細胞増殖の指標として評価した。ポリペプチドを加えずに行ったものを対照とし、対照の蛍光強度を100%としてポリペプチドを用いた場合の相対的な蛍光強度を相対細胞増殖率としてパーセントで表した。結果を表5に示した。

表5の結果から明らかなように、ポリペプチド濃度6.25μg/ml及び12.5μg/mlのとき、骨髄細胞の増殖は対照を100%とした場合、それぞれ約225%、368%であり、試験したハムスター由来ポリペプチドhamAgK114−1d2FLは用量依存的にハムスター骨髄細胞の増殖を促進した。本ポリペプチドはハムスターをはじめとする哺乳類由来の造血細胞の増殖を顕著に促進する生物作用を有している。
【実施例16】
<マウス由来ポリペプチドによるマウス骨髄細胞の増殖促進作用>
BALB/cマウス(5週齢、雌)の大腿骨から調製した骨髄細胞を20(v/v)%FCSを含むα最小培地(αMEM培地)を用いて7.6×10個/mlの濃度に調製し、コラーゲンでコートした4ウェルのチャンバーに、100μlずつ播きこんだ。次いで、実施例9で得たマウス由来ポリペプチドsmAgK114−1FLを同様に20(v/v)%FCSを含むαMEM培地を用いて100μg/mlの濃度に調製し、これを100μl添加し、総液量200μlとした(ポリペプチドの終濃度は50μg/mlとなる)。4日間培養した後、増殖した細胞を4%パラホルムアルデヒドにて固定し、常法に従いメタノール処理した後、ギムザ染色を行った。次いで、この顕微鏡写真を撮影し、無作為に4視野を選択して細胞数を数え、1視野当たりの平均細胞数を算出した。ポリペプチドを加えずに同様に行ったものを対照とし、対照の細胞数を100%としてポリペプチドを用いた場合の相対細胞数をパーセントで表した。結果を表6に示した。

表6の結果から明らかなように、ポリペプチド濃度50μg/mlの条件下で、骨髄細胞の増殖は対照を100%とした時、約268%であり、試験したマウス由来ポリペプチドsmAgK114−1FLはマウス骨髄細胞の増殖を顕著に促進した。本ポリペプチドはマウスをはじめとする哺乳類由来の造血細胞の増殖を顕著に促進する生物作用を有している。
【実施例17】
<ハムスター由来ポリペプチドによるマウス骨髄細胞の増殖促進作用>
BALB/cマウス(5週齢、雌)の大腿骨から調製した骨髄細胞を10(v/v)%FCSを含むD−MEM培地を用いて1×10個/mlの濃度に調製し、コラーゲンでコートした96ウェルのマイクロプレートに、100μlずつ播きこんだ。次いで、実施例8で得たハムスター由来ポリペプチドhamAgK114−1d2FLを同様に10(v/v)%FCSを含むD−MEM培地を用いて25μg/mlの濃度に調製し、これを100μl添加し、総液量200μlとした(ポリペプチドの終濃度は12.5μg/mlとなる)。6日間培養した後、増殖した細胞を4%パラホルムアルデヒドにて固定し、常法に従いメタノール処理した後、ギムザ染色を行った。次いで、この顕微鏡写真を撮影し、無作為に4視野を選択して細胞数を数え、1視野当たりの平均細胞数を算出した。ポリペプチドを加えずに同様に行ったものを対照とし、対照の細胞数を100%としてポリペプチドを用いた場合の相対細胞数をパーセントで表した。結果を表7に示した。


表7の結果から明らかなように、ポリペプチド濃度12.5μg/mlの条件下で、骨髄細胞の増殖は対照を100%とした時、約370%であり、試験したハムスター由来ポリペプチドhamAgK114−1d2FLは種の異なるマウス由来の骨髄細胞の増殖をも顕著に促進した。本ポリペプチドはハムスター、マウスをはじめとする哺乳類由来の造血細胞の増殖を顕著に促進する生物作用を有している。
【実施例18】
<ヒト由来ポリペプチドによるマウス骨髄細胞の増殖促進作用>
BALB/cマウス(5週齢、雌)の大腿骨から調製した造血細胞を含む骨髄由来細胞を20(v/v)%FCSを含むD−MEM培地を用いて7.5×10個/mlの濃度に調製し、コラーゲンでコートした8ウェルのチャンバースライド(ナルジェ ヌンク インターナショナル(株)製)に、200μlずつ播きこんだ。次いで、実施例5の方法で得たヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFLの精製標品を同様に20(v/v)%FCSを含むD−MEM培地を用いて5μg/mlの濃度に調製し、これを200μl添加し、総液量400μlとした(細胞の終濃度は3.75×10個/mlポリペプチドの終濃度は2.5μg/mlとなる)。37℃、5%CO存在下で6日間培養した後、増殖した細胞を4%パラホルムアルデヒドにて固定し、常法に従いメタノール処理した後、ギムザ染色を行った。次いで、この顕微鏡写真を撮影し、無作為に12視野を選択して細胞数を数え、1視野当たりの平均細胞数を算出した。ポリペプチドを加えずに同様に行ったものを対照とし、対照の細胞数を100%としてポリペプチドを用いた場合の相対細胞数をパーセントで表した。結果を表8に示した。

表8の結果から明らかなように、ポリペプチド濃度2.5μg/mlの条件下で、骨髄細胞の増殖は対照を100%とした時、約144%であり、試験したヒト由来ポリペプチドhAgK114−1aFLは種の異なるマウス由来の骨髄由来細胞の増殖を顕著に促進した。本ポリペプチドはヒト、マウスをはじめとする哺乳類由来の造血細胞の増殖を顕著に促進する生物作用を有している。
【実施例19】
<急性毒性試験>
5%(w/w)アラビアガムを含む生理食塩水に、実施例5−3の方法で得たヒト由来ポリペプチド、実施例8−3の方法で得たハムスター由来ポリペプチド又は実施例9−3の方法で得たマウス由来のポリペプチドの適量をそれぞれ溶解した後、常法に従いろ過除菌した。これらを体重20乃至25gのddYマウス(10匹/群)の腹腔内に注射投与するか、胃ゾンデにより経口投与した後、7日間に亙って経過を観察した。その結果、いずれの試料、いずれの投与経路によっても、試みた最大投与量である20mg/kg体重においても死亡例が認められなかった。この結果は本発明のポリペプチドが、ヒトを含む哺乳類に常用しても安全な物質であることを示している。
【実施例20】
<マウス皮膚パッチテスト>
実施例5で得たヒト由来ポリペプチド、実施例8の方法で得たハムスター由来ポリペプチド又は実施例10の方法で得たマウス由来のポリペプチドの適量をそれぞれ生理食塩水に溶解した後、それぞれパッチテスト用絆創膏(大正製薬(株)製)の円形のろ紙に50μl滴下した。これらを予め背部を常法通り脱毛クリームで脱毛した体重20乃至25gのddYマウス(10匹/群)の皮膚に24時間貼付した。次いで、貼付試料を除去し、30分経過後に肉眼判定を行い、紅斑、浮腫、丘疹などの有無を調べた。その結果、いずれの試料によっても、試みた最大投与量である50μg/パッチにおいても皮膚に異常は認められなかった。この結果は本発明のポリペプチドが、ヒトを含む哺乳類の皮膚に常用しても安全な物質であることを示している。
【実施例21】
<ポリクローナル抗体の調製>
JWウサギ(雌、体重2.5kg)を以下のスケジュールで免疫感作した。初回免疫として、常法により完全フロイントアジュバントとともに実施例5−3の方法で得たヒト由来組換えポリペプチドhAgK114−1aFLを抗原として200μg/匹の用量で皮下に注射投与した。その後2週間おきに、追加免疫として、不完全フロイントアジュバントとともに同じ抗原を同じ用量で皮下に計2回注射投与した。常法によりウサギの耳静脈より血液を採取し、その血液から分離した血清の該抗原との免疫反応性を常法により調べ、所期の抗体価の上昇を確認した。引き続いて抗原を、アジュバントを用いずに100μg/匹の用量で静脈内に1回注射投与した。最終免疫の終了後7日目に頸動脈より全採血を行い抗血清を得た。なお、上記の操作により、ウサギの血清において所期の抗体価の上昇が確認されたことは、この血清が本発明のポリペプチドに対するポリクローナル抗体を含む抗血清であることを示している。したがって、本実施例の方法によれば本発明のポリペプチドと反応するポリクローナル抗体を調製することができる。
本例のポリクローナル抗体は、本発明のポリペプチドの精製や、本発明のポリペプチドを定性的又は定量的に検出するための、例えば、蛍光免疫測定法、酵素免疫測定法などにおいて極めて有用である。また、本発明のポリペプチドの生物作用を抑制・調節する上で有用である。
【実施例22】
<モノクローナル抗体の調製>
8週齢の雌性BALB/cマウスを実施例7−3の方法で得たヒト由来組換えポリペプチドhAgK114−1bFLを用いて免疫感作し、免疫感作したマウスより脾臓を摘出して抗体産生細胞を得た。次いで、抗体産生細胞とマウス骨髄腫由来のSP2/0−Ag14細胞(ATCC CRL1581)を無血清培地に浮遊させ、両細胞を十分に混和した。洗浄した細胞を常法により細胞融合させ、ハイブリドーマを選択的に培養した結果、本発明のポリペプチドに対して免疫反応性を示す培養上清液が認められた。ハイブリドーマを採取し、限界希釈法を適用してハイブリドーマのクローンを樹立した。樹立したハイブリドーマを常法にしたがって培養し、分析したところ、本発明のポリペプチドに対するモノクローナル抗体を産生するものであった。
本例のモノクローナル抗体は、本発明のポリペプチドの精製や、本発明のポリペプチドを定性的又は定量的に検出するための、例えば、蛍光免疫測定法、酵素免疫測定法などにおいて極めて有用である。また、本発明のポリペプチドの生物作用を抑制・調節する上で有用である。
【実施例23】
<ポリクローナル抗体の調製>
免疫感作に用いる抗原として実施例9−3の方法で得たマウス由来組換えポリペプチドsmAgK114−1FLを用いた以外は実施例21と同様に操作して組換えポリペプチドに対するポリクローナル抗体を含む抗血清を得た。
本例のポリクローナル抗体は、本発明のポリペプチドの精製や、本発明のポリペプチドを定性的又は定量的に検出するための、例えば、蛍光免疫測定法、酵素免疫測定法などにおいて極めて有用である。また、本発明のポリペプチドの生物作用を抑制・調節する上で有用である。
【実施例24】
<モノクローナル抗体の調製>
免疫感作に用いる抗原として実施例9−3の方法で得たマウス由来組換えポリペプチドsmAgK114−1FLを用い、ラットを免疫した以外は実施例22と同様に操作し、ハイブリドーマのクローンを樹立した。樹立したハイブリドーマを常法にしたがって培養し、分析したところ、本発明のポリペプチドに対するモノクローナル抗体を産生するものであった。
本例のモノクローナル抗体は、本発明のポリペプチドの精製や、本発明のポリペプチドを定性的又は定量的に検出するための、例えば、蛍光免疫測定法、酵素免疫測定法などにおいて極めて有用である。また、本発明のポリペプチドの生物作用を抑制調節する上で有用である。
【実施例25】
<抗体の血管内皮細胞の増殖抑制作用>
CD−1マウス(8週齢、雄)を麻酔し、背部大動脈を無菌的に取り出した。得られた大動脈をPBSで洗浄した後、滅菌したメスで幅約1mmの輪状に細切りした。次いで、この大動脈片をゼラチンコートした6穴プレート内に静置し、10%FCSを含むD−MEM培地で常法により24時間培養した。培養後、培地を除去し、実施例24の方法で得たマウスポリペプチドに対するモノクローナル抗体を5μg/ml含む内皮細胞増殖用無血清培地を新たに加え、さらに10日間培養した。抗体を含まない培地を用い同様に処理したものを対照とした。培養後、血管内から増殖して出てくる内皮細胞の増殖性を、位相差顕微鏡を用いて肉眼観察した。その結果、抗体を添加した試験群では対照に比べ内皮細胞の増殖が明らかに抑制されていた。本発明の抗体は血管新生を抑制する作用を有する可能性があり、血管新生による癌や癌転移による疾患に有用である。
【実施例26】
<抗体の皮脂産生抑制作用>
CD−1マウス(5週齢、雄)の背部皮膚から常法により皮脂細胞を調製した。この皮脂細胞を、6%FCSと2%ヒト血清を含むD−MEM:Ham’sF12(1:1)混合培地を用いて1×10個/cmに調整し、径60mmのディッシュに播きこんだ。これに、実施例24の方法で得たマウスポリペプチドに対するモノクローナル抗体を10μg/mlとなるように添加し、常法により14日間培養した。抗体を含まない培地を用い同様に処理したものを対照とした。培養後、回収した皮脂細胞にPBSで100ng/mlの濃度に調整したナイルレッド染色液を加え、暗所にて室温で20分間反応させた。反応終了後、フローサイトメトリー分析により、細胞内に脂肪球(主にトリグリセリド、遊離脂肪酸、コレステロール、ワックスエステル類などから構成される)を形成した細胞の割合を調べた。その結果、抗体を添加した群は対照群に比べ皮脂細胞内に形成される脂肪球を形成する割合が低いことが分かった。このことから、本発明の抗体は皮脂細胞における脂肪球の生成を抑制しニキビなどの皮膚炎の緩和に有用である。
【実施例27】
<キメラ抗体及びヒト化抗体>
キメラ抗体としての形態の本発明の抗体は以下のようにして調製する。まず、実施例22の方法で得た本発明のヒト由来ポリペプチドに対するマウスモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのクローンを常法に従って培養し、バイオテクス社製のRNA調製用試薬『ウルトラスペック LS II』などを用いて常法によりハイブリドーマ由来の全RNAを調製し、この全RNAを用いて常法通り逆転写酵素を作用させcDNAを得る。次いで、エス・タラン・ジョーンズら、『バイオテクノロジー』、第9巻、88乃至89頁(1991年)に記載されたPCRプライマーを参考にしてPCRプライマーを設計し、抗体の軽鎖における可変領域をコードするcDNA断片と抗体の重鎖における可変領域をコードするcDNA断片をそれぞれPCRにより増幅する。次いで、それぞれのPCR産物より、増幅されたcDNAをポリエチレングリコール沈殿などにより回収し、『pCR−Script Cam SK(+)』などのプラスミドベクターにクローン化する。この得られたベクターを用いて大腸菌を形質転換し、形質転換体を培養して菌体を採取し、次いで、菌体から組換えDNAを採取する。通常のジデオキシ法により抗体の軽鎖における可変領域をコードするcDNA及び抗体の重鎖における可変領域をコードするcDNAの塩基配列を解読し、コードしているアミノ酸配列を解明する。次いで、明らかにしたアミノ酸配列とマウス抗体についてすでに報告されている可変領域のアミノ酸配列とを比較・照合することにより本発明のマウス抗体における軽鎖及び重鎖の可変領域のアミノ酸配列を決定する。
引き続き、ヒトイムノグロブリンの軽鎖(κ鎖)の定常領域をコードする塩基配列を含むDNAを、ピー・エー・ハイターら、『セル』、第22巻、197乃至207頁(1980年)に記載の方法に従って、ヒト遺伝子ライブラリーより単離する。次に、単離したDNAを鋳型として、通常のPCRにより、実質的に軽鎖の定常領域をコードするDNAのみからなるDNA(「ヒト軽鎖定常領域DNA」という。)を得る。引き続いて、前記でクローン化したマウス抗体の軽鎖における可変領域をコードするDNA(「マウス軽鎖可変領域DNA」という。)を得る。これらのヒト軽鎖定常領域DNA及びマウス軽鎖可変領域DNAを鋳型として、ロバート・エム・ホートンら、『メソッズ・インエンザイモロジー』、第217巻、270乃至279頁(1993年)に記載の『オーバーラップ・エクステンション法』を適用して、マウス軽鎖可変領域DNAの下流にヒト軽鎖定常領域DNAが連結され、5′末端及び3′末端部分に制限酵素認識配列を含んでなるDNAを得る。一方、発現ベクターとして、『pSV2−neo』(ATCC 37149)などのような、大腸菌における複製開始点、哺乳類の細胞内で機能するプロモーター及び/又はエンハンサー、それらの制御下に位置する制限酵素認識配列、選択配列などを含むDNAを準備する。この発現ベクターと、上記で得たヒト軽鎖定常領域DNA及びマウス軽鎖可変領域DNAを含むDNAとを、それぞれ制限酵素で切断した後、混合し、リガーゼを用いて連結して、キメラ抗体の軽鎖をコードするDNAを含んでなる組換えDNAを得る。
これとは別途、IgGのクラスに属するヒトイムノグロブリンの重鎖(γ鎖)の定常領域をコードするDNAを、エヌ・タカハシら、『セル』、第29巻、671乃至679頁(1982年)に記載の方法に従って、ヒト遺伝子ライブラリーより単離する。単離したDNAにおいて、重鎖の定常領域をコードする部分は、当該論文に記載のとおり、4個の独立したエクソンからなる。単離したDNAを錆型として、前記『オーバーラップ・エクステンション法』を適用して、4個のエクソンを連結してなるDNA(「ヒト重鎖定常領域DNA」という。)を得る。引き続いて、前記でクローン化したマウス抗体の重鎖における可変領域をコードするDNA(「マウス重鎖可変領域DNA」という。)を得る。これらのヒト重鎖定常領域DNA及びマウス重鎖可変領域DNAを鋳型として、前記『オーバーラップ・エクステンション法』を適用して、マウス重鎖可変領域DNAの下流にヒト重鎖定常領域DNAが連結され、5′末端及び3′末端部分に制限酵素認識配列を含んでなるDNAを得る。一方、発現ベクターとして、『pSV2−gpt』(ATCC 37145)などのような、大腸菌における複製開始点、哺乳類の細胞内で機能するプロモーター及び/又はエンハンサー、それらの制御下に位置する制限酵素認識配列、選択配列などを含むDNAを準備する。この発現ベクターと、上記で得たヒト重鎖定常領域DNA及びマウス重鎖可変領域DNAを含むDNAとを、それぞれ制限酵素で切断した後、混合し、リガーゼを用いて連結して、キメラ抗体の重鎖をコードするDNAを含んでなる組換えDNAを得る。
次に、以上の、キメラ抗体の軽鎖と重鎖をコードするDNAをそれぞれ含んでなる組換えDNAを、CHO−K1細胞(ATCC CCL−61)などの哺乳類の株化細胞にエレクトロポレーション法により同時に導入する。DNAの導入の結果得られる細胞群を、発現ベクターにおける選択配列に基づいて選択し、選択された細胞をそれぞれ培養する。それぞれの培養上清につき、実施例11又は実施例18に記載の方法により本発明のヒト由来ポリペプチドの生物作用の中和能の有無を調べる。所期の中和能が認められた培養上清の由来する細胞に限界希釈法を適用し、単一細胞とし、キメラ抗体の形態の本発明の抗体を産生する形質転換体を得る。この形質転換体を、培養規模を拡大しつつ培養して、その培養上清から、通常の抗体の精製方法に従って抗体を精製し、キメラ抗体の形態の本発明の抗体を得る。かくして得られる本発明の抗体は本発明のポリペプチドに対するマウス抗体と同様に、効果的に本発明のヒト由来ポリペプチドの中和能を発揮する。また、本キメラ抗体の枠組構造と相同性を有するヒト起源の抗体の枠組構造を、データベースを用いて検索し、相同性の認められたヒト起源の枠組構造と同様のアミノ酸配列を有するよう、本実施例におけるDNAを改変し、発現させれば、ヒト起源の枠組み構造を有するヒト化抗体としての抗体が得られる。さらに、斯くして得られるヒト化抗体のアミノ酸配列に基づいて、慣用の蛋白構造解析用のソフトウェアを用いて立体構造を予測し、元のモノクローナル抗体のアミノ酸配列から同様にして予測される立体構造と比較し、元のマウス抗体により近い立体構造を持つようにさらにDNAを改変し、発現させれば、元のマウスモノクローナル抗体と実質的に同等の機能を有するヒト化抗体が得られる。本実施例にしたがって得られるキメラ抗体並びに、斯かる抗体を改変して得られるヒト化抗体は、感受性疾患の治療に有用である。
【実施例28】
<液状組成物>
生理食塩水に実施例5の方法で調製した組換え型融合ポリペプチドhAgK114−1aFL精製標品を0.1質量%及びヒト血清アルブミンを0.1質量%になるよう溶解した後、溶液を常法に従って精密濾過により滅菌して液状の組成物を得た。
本品は、創傷や炎症などの皮膚の障害部位に適用すると細胞におけるゼラチナーゼの発現を増強し、皮膚の創傷治療やアトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎などの各種皮膚障害を改善するための外用剤などとして有用である。また、造血細胞の培養時に培地に添加すると造血細胞の増殖を顕著に促進することから骨髄移植時などにおける造血細胞の増幅などに有用である。
【実施例29】
<皮膚外用クリーム>
以下の成分を、以下の配合に従って、常法により加熱しつつ混合した。
モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン
2.0質量部
自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 5.0質量部
ベヘニン酸エイコサニル 1.0質量部
流動パラフィン 1.9質量部
トリオクタン酸トリメチロールプロパン 10.0質量部
上記の混合物に、液状組成物を除く以下の成分を以下の配合に従って添加・混合し、30℃以下にまで冷却した後に、さらに実施例28で得た液状組成物を以下の配合で加え、ホモジナイザーによリ乳化して、皮膚外用クリームを製造した。
1,3−ブチレングリコール 5.0質量部
乳酸ナトリウム液 10.0質量部
パラオキシ安息香酸メチル 0.1質量部
モモ葉エキス 1.5質量部
精製水 52.2質量部
実施例28の方法で得た液状組成物 10.0質量部
本クリームは、優れた保湿性を示す上、皮膚細胞におけるゼラチナーゼ発現を増強することから、創傷の治癒を促進し、皮膚炎などの症状を緩和するための皮膚外用クリームとして有用である。
【実施例30】
<液剤>
安定剤として高純度含水結晶トレハロース((株)林原商事販売、登録商標「トレハ」)を1%(w/v)含む生理食塩水に、実施例22の方法で調製した抗体を濃度1mg/mlになるよう溶解し、常法によりパイロジェンを除去し、精密濾過により除菌して液剤を得た。安定性に優れた本品は、本発明のポリペプチドによる皮膚細胞におけるゼラチナーゼの過剰発現や造血細胞の過剰増殖の抑制剤として有用である。
【実施例31】
<乾燥注射剤>
安定化剤としてスクロースを1%(w/v)含む生理食塩水100mlに実施例27の方法に従って得られるヒト化抗体100mgを溶解し、常法に従って精密濾過により除菌した後、バイアル瓶に1mlずつ分注し、凍結乾燥した後、密栓する。
安定性に優れた本品は、感受性疾患を治療・予防するための乾燥注射剤として有用である。また、本品は血管新生抑制剤や皮脂産生抑制剤として有用である。
【産業上の利用可能性】
本発明のポリペプチドは、哺乳類の皮膚細胞におけるゼラチナーゼ発現増強作用を有しており、皮膚の創傷を治療するため、又は紫外線による皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触性皮膚炎などの様々な皮膚障害を改善するため、さらには再生医療のための医薬品などとして極めて有用である。また、化粧品として利用する場合には、皮膚疾患に対する治療効果の改善などに奏効する。また、本発明のポリペプチドは造血細胞の増殖を顕著に促進する作用を有しており、研究用途をはじめ、医薬品の分野では化学療法・放射線療法による癌治療時、骨随移植時、生体外での造血細胞の増幅時の造血細胞増殖促進剤などとして用いることができる。一方、本発明のポリペプチドに対する抗体は、本発明のポリペプチドの精製や、本発明のポリペプチドを定性的又は定量的に検出するための、例えば、蛍光免疫測定法、酵素免疫測定法などにおいて極めて有用である。また、本発明の抗体は皮膚細胞におけるゼラチナーゼの過剰発現や、造血細胞の過剰増殖を抑制する目的で用いることができる。さらには、本発明の抗体は感受性疾患の冶療・予防剤としても用いることができる。本発明は、斯くも顕著な作用効果を奏する発明であり、斯界に貢献すること誠に多大な意義のある発明である。
【配列表】




























【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列を有するポリペプチド。
【請求項2】
哺乳類の皮膚細胞においてゼラチナーゼ発現を増強する生物作用、及び/又は、哺乳類の造血細胞の増殖を促進する生物作用を有する請求の範囲第1項記載のポリペプチド。
【請求項3】
ポリペプチドが、配列表における配列番号1乃至3のいずれかで示される部分アミノ酸配列において、所期の生物作用を実質的に失わない範囲で、アミノ酸の1個又は2個以上が欠失、置換及び/又は付加されたアミノ酸配列を有する請求の範囲第2項記載のポリペプチド。
【請求項4】
配列表における配列番号4乃至10のいずれかで示されるアミノ酸配列を有する請求の範囲第1項乃至第3項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項5】
請求の範囲第1項乃至第4項のいずれかに記載のポリペプチドをコードするDNA。
【請求項6】
DNAが、配列表における配列番号11乃至17のいずれかで示される塩基配列、又はそれらの塩基配列に相補的な塩基配列を有する請求の範囲第5項記載のDNA。
【請求項7】
DNAが、コードするアミノ酸配列を変えない範囲で配列表における配列番号11乃至17のいずれかで示される塩基配列における1個又は2個以上の塩基が他の塩基で置換された請求の範囲第6項記載のDNA。
【請求項8】
ポリペプチドが、請求の範囲第5項乃至第7項記載のDNAを人為的に発現させることにより得られるものである請求の範囲第1項乃至第4項のいずれかに記載のポリペプチド。
【請求項9】
請求の範囲第1項乃至第4項及び第8項のいずれかに記載のポリペプチドを産生し得る細胞又は微生物を培養する工程と、産生したポリペプチドを培養物から採取する工程とを含んでなるポリペプチドの製造方法。
【請求項10】
請求の範囲第1項乃至第4項及び第8項のいずれかに記載のポリペプチドに対する抗体。
【請求項11】
抗体が、ポリクローナル抗体である請求の範囲第10項記載の抗体。
【請求項12】
抗体が、モノクローナル抗体である請求の範囲第10項記載の抗体。
【請求項13】
配列表における配列番号4乃至10のいずれかで示されるアミノ酸配列における連続する10個以上のアミノ酸残基からなるペプチド断片。
【請求項14】
請求の範囲第1項乃至第4項及び第8項のいずれかに記載のポリペプチドを用いることを特徴とする哺乳類の皮膚細胞のゼラチナーゼ発現増強方法。
【請求項15】
請求の範囲第1項乃至第4項及び第8項のいずれかに記載のポリペプチドを用いることを特徴とする創傷の治療方法。
【請求項16】
請求の範囲第1項乃至第4項及び第8項のいずれかに記載のポリペプチドを用いることを特徴とする哺乳類の造血細胞の増殖促進方法。
【請求項17】
請求の範囲第1項乃至第4項及び第8項のいずれかに記載のポリペプチドを用いることを特徴とする、生体外で骨髄移植用造血細胞を増殖させる方法。
【請求項18】
請求の範囲第10項乃至第12項のいずれかに記載の抗体を用いることを特徴とする哺乳類の皮膚細胞におけるゼラチナーゼの過剰発現の抑制方法。
【請求項19】
請求の範囲第10項乃至第12項のいずれかに記載の抗体を用いることを特徴とするゼラチナーゼの過剰発現に伴う疾病、病気の診断若しくは治療方法。
【請求項20】
請求の範囲第10項乃至第12項のいずれかに記載の抗体を用いることを特徴とする造血細胞の過剰増殖の抑制方法。
【請求項21】
請求の範囲第10項乃至第12項のいずれかに記載の抗体を用いることを特徴とする造血細胞の過剰増殖に伴う疾病、病気の診断若しくは治療方法。
【請求項22】
請求の範囲第1項乃至第4項及び第8項のいずれかに記載のポリペプチドを有効成分として含んでなる組成物。
【請求項23】
請求の範囲第10項乃至第12項のいずれかに記載の抗体を有効成分として含んでなる組成物。
【請求項24】
化粧品、医薬品又は試薬の形態にある請求の範囲第22項又は第23項記載の組成物。
【請求項25】
ゼラチナーゼ発現増強剤としての請求の範囲第22項記載の組成物。
【請求項26】
創傷治癒促進剤としての請求の範囲第22項記載の組成物。
【請求項27】
造血細胞増殖促進剤としての請求の範囲第22項記載の組成物。
【請求項28】
請求の範囲第10項乃至第12項のいずれかに記載の抗体を有効成分として含んでなる感受性疾患剤。
【請求項29】
抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体である請求の範囲第28項記載の感受性疾患剤。
【請求項30】
血管新生抑制剤としての請求の範囲第28項又は第29項記載の感受性疾患剤。
【請求項31】
皮脂産生抑制剤としての請求の範囲第28項又は第29項記載の感受性疾患剤。

【国際公開番号】WO2004/042056
【国際公開日】平成16年5月21日(2004.5.21)
【発行日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−549627(P2004−549627)
【国際出願番号】PCT/JP2003/014161
【国際出願日】平成15年11月6日(2003.11.6)
【出願人】(000155908)株式会社林原生物化学研究所 (168)
【Fターム(参考)】