説明

産業車両のエンジンフード開閉装置

【課題】連結ピンを支点として水平方向へ回動するエンジンフードを段階的な位置調整と、多方向への位置調整が可能な産業車両のエンジンフード開閉装置の提供。
【解決手段】車体10に設けた固定ブラケット13と、固定ブラケット13に設けられて軸線Sが上下方向となる連結ピン15と、連結ピン15を介して車体10に連結されるエンジンフード16とを有するエンジンフード開閉装置である。エンジンフード16は、車体10の上部を覆うフード本体16aと、フード本体16aと接続され、連結ピン15を挿通する可動ブラケット16bとを有し、可動ブラケット16bは、偏心孔21cを有するとともに連結ピン15の上部及び下部に夫々配置される位置決め部材21と、位置決め部材21の固定位置を規定するストッパ部材22とを有し、偏心孔21cの位置に応じて固定ブラケット13に対する可動ブラケット16bの位置が規定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、産業車両のエンジンフード開閉装置に関し、特に連結ピンを支点として水平方向へ回動されるエンジンフードを有する産業車両のエンジンフード開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の産業車両のエンジンフード開閉装置としては、例えば、特許文献1に開示されたフォークリフトにおける左右分割型エンジンフードの支持装置が知られている。
この種のエンジンフード開閉装置では、車体の上部を覆うエンジンフードが左右に非対称で2つに分割されるエンジンフードから構成され、一方のエンジンフード上には運転シートが備え付けられている。
各エンジンフードはリヤピラー付近に設けられた蝶番を回動支点として水平方向に回動される。
エンジンフードが左右に開いた状態では車体上部が露出される。
【0003】
ところで、この種のエンジンフード開閉装置では、通常、エンジンフードやエンジンフードに備えられる付属物の重量による荷重が蝶番の連結ピンに集中する。
こうした荷重が連結ピンに作用すると、エンジンフードが撓むことが避けられず、この撓みにより、例えば、エンジンフードにおいて支点から最も遠いエンジンフードの端部が正常な位置から垂れ下がる場合がある。
エンジンフードの端部が正常な位置から下がると、エンジンフードが車体や他の部品と干渉するおそれがある。
【0004】
こうした問題を解消するため、従来では、例えば、図8に示すエンジンフード開閉装置52が提案されている。
このエンジンフード開閉装置52では、ブラケット用ベース部材53が前方に向かうようにリヤピラー51に取り付けられている。
ブラケット用ベース部材53にはエンジンフード55を支持する固定ブラケット54が固定されている。
固定ブラケット54のブラケット用ベース部材53寄りには複数の長孔54aが形成されている。
これらの長孔54aは固定ブラケット54において上下に配列され、長孔54aの長径は前後方向と一致している。
【0005】
ブラケット用ベース部材53に固定ブラケット54を取り付ける際、ボルト60が長孔54aに挿通される(説明の便宜上、図8において上下のボルト60は軸部を図示)。
長孔54aに挿通したボルト60の緊締により固定ブラケット54がブラケット用ベース部材53に取り付けられる。
固定ブラケット54のエンジンフード55側である前端部には、エンジンフード55に設けた回動支点となる上下の連結ピン56、57を夫々保持する軸保持部58、59が設けられている。
固定ブラケット54の前部に配置されるエンジンフードは連結ピン56、57を支点として水平方向に回動する。
【0006】
ブラケット用ベース部材53に対する固定ブラケット54の前後位置を長孔54aの長径に応じて調整することができる。
また、長孔54aの短径とボルト60の外径とのクリアランスの存在により、ブラケット用ベース部材53に対する固定ブラケット54の傾きを調整することができる。
具体的には、例えば、図8において固定ブラケット54を二点鎖線で示す状態から実線で示す状態となすように固定ブラケット54の傾きを調整する。
固定ブラケット54の傾きの調整により連結ピン56、57の軸心Sの傾きが変更される。
ブラケット用ベース部材53に対する固定ブラケット54の前後位置及び傾きの調整は各長孔54aにおいて挿通されているボルト60の緊締を解除する必要がある。
【特許文献1】実公平5−14951号公報(第1−4頁、第2図、第8図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図8に示す従来技術では、長孔54aに挿通したボルト60の緊締を解除したとき、固定ブラケット54はブラケット用ベース部材53に対して長孔54aの範囲に応じた無段階の移動が許容されることから、固定ブラケット54の前後位置及び傾きの調整量を把握することが難しい。
長孔54aに挿通したボルト60を用いてエンジンフード55の位置を調整する場合、エンジンフード55の前後位置及び傾きを適切に調整することが困難であるほか、特定の方向の位置調整に限られる。
また、エンジンフード55の位置を調整した後、車両の使用により長孔54aにおけるボルト60の緊締が緩むと、固定ブラケット54の再調整が必要となるという問題がある。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、連結ピンを支点として水平方向へ回動するエンジンフードの段階的な位置調整と、多方向への位置調整が可能な産業車両のエンジンフード開閉装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するため、本発明は、車体に設けた固定ブラケットと、該固定ブラケットに設けられて軸線が上下方向となる連結ピンと、該連結ピンを介して前記車体に連結されるエンジンフードとを有し、前記エンジンフードは、前記車体の上部を覆うフード本体と、該フード本体と接続され、前記連結ピンを挿通する可動ブラケットとを有し、前記連結ピンを支点とする前記エンジンフードの水平方向への回動により前記エンジンフードを開閉する産業車両のエンジンフード開閉装置において、前記固定ブラケット又は前記可動ブラケットは、前記連結ピンが挿入される偏心孔を有するとともに前記連結ピンの上部及び下部に夫々配置される上下一対の位置決め部材と、該位置決め部材の固定位置を規定するストッパ部材と、を有し、前記固定ブラケットに対する前記可動ブラケットの位置は、前記位置決め部材の固定位置毎に規定される前記偏心孔の位置に応じて規定されることを特徴とする。
【0010】
本発明では、各ストッパ部材が固定ブラケット又は可動ブラケットに対する位置決め部材の固定位置を規定する。
位置決め部材の固定位置がストッパ部材により規定されることにより、位置決め部材における偏心孔の位置が夫々規定される。
位置決め部材における偏心孔の位置は固定位置毎に規定され、この偏心孔の位置に応じて固定ブラケットに対する可動ブラケットの位置が規定される。
固定ブラケットに対する可動ブラケットに対する位置が規定されることにより固定ブラケットに対するエンジンフードの位置が規定される。
なお、固定ブラケットに対する可動ブラケットの位置とは、前後左右方向を含む多方向への水平移動に係る位置と、前後左右方向を含む多方向への傾斜に係る位置を指す。
位置決め部材の固定位置が複数存在すれば、上下一対の位置決め部材の固定位置を夫々変更することにより、固定ブラケットに対するエンジンフードの段階的な位置調整と、多方向への位置調整が可能となる。
【0011】
また、本発明では、上記の産業車両のエンジンフード開閉装置において、前記位置決め部材は、複数の平坦面を有する平面視多角形状の外周を有し、前記ストッパ部材は、前記外周における特定の平坦面との当接により前記位置決め部材の固定位置を規定する規定面を有してもよい。
【0012】
この場合、ストッパ部材が備える規定面は、位置決め部材における平面視多角形状の外周が有する特定の平坦面と当接することにより、位置決め部材の固定位置を規定する。
外周が多角形状であることから、この外周を構成する各平坦面は互いに隣り合う平坦面と所定角度を保つ。
ストッパ部材の規定面と当接する平坦面が変更されるとき、所定角度を以って位置決め部材の固定位置が変更される。
位置決め部材の固定位置が平坦面毎に規定されることから、偏心孔の位置を平坦面に対応して段階的に変更することができ、固定ブラケットに対するエンジンフードの位置は位置決め部材の外周の形状に対応させて段階的に調整される。
【0013】
また、本発明では、上記の産業車両のエンジンフード開閉装置において、前記ストッパ部材は、前記固定ブラケット又は前記可動ブラケットに対して軸線が上下となる軸部材により固定され、前記連結ピン及び前記軸部材の両軸心を水平に結ぶ軸心線は、前記規定面と非平行であってもよい。
【0014】
この場合、ストッパ部材を表裏反転させて使用するときのストッパ部材における規定面の向きを、ストッパ部材を表裏反転させない状態で用いたときの規定面の向きと比べて異ならせることができる。
位置決め部材の固定位置の数は外周の平坦面の数により定まるが、ストッパ部材を表裏の両状態で用いることにより、ストッパ部材を表裏反転させずにストッパ部材を用いる場合よりも固定位置の数を多くすることができる。
位置決め部材の固定位置が増大すれば、エンジンフードの位置は段階的な微調整を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、連結ピンを支点として水平方向へ回動するエンジンフードを段階的な位置調整と、多方向への位置調整が可能な産業車両のエンジンフード開閉装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
図1は本発明の実施形態に係るフォークリフトのエンジンフード開閉装置の平面図であり、図2は同装置の要部を示す拡大平面図であり、図3は同装置の要部の一部を破断して示す側面図であり、図4は位置決め部材とストッパ部材との関係を示す要部説明図であり、(a)は図3におけるA−A線矢視図であり、(b)は図3におけるB−B線矢視図であり、図5は上側に設けたストッパ部材の表裏の使用状態を示す要部説明図であり、(a)は表にして使用した状態のストッパ部材を示す図であり、(b)は裏にして使用した状態のストッパ部材を示す図であり、図6はエンジンフードの前後位置の調整例を示す要部側面図である。
この実施形態は、産業車両としてのフォークリフトに適用したエンジンフード開閉装置の例である。
【0017】
図1に示すように、フォークリフトの車体10にはエンジンフード開閉装置12が備えられている。
この実施形態に係るエンジンフード開閉装置12は、固定ブラケット13と、連結ピン15と、エンジンフード16、17とを有する。
この実施形態に係るフォークリフトは、左右に開閉される2つのエンジンフード16、17を有し、一方のエンジンフード16上には運転シート18が備えられている。
両エンジンフード16、17は運転シート18付近の車体10の上部を覆う。
運転シート18を備えるエンジンフード16は、他方のエンジンフード17と比べて大きく設定されている。
両エンジンフード16、17が車体10の上部を覆う状態では、両エンジンフード16、17は留め金19により互いに固定される。
【0018】
一方のエンジンフード16について説明すると、図1及び図2に示すように、エンジンフード16は連結ピン15を支点として水平方向に回動される。
車体10が備えるリヤピラー11の前面には、図3に示すように、連結ピン15を備える上下一対の固定ブラケット13が取り付けられている。
固定ブラケット13はリヤピラー11の前面から前方へ向けて設けられている。
固定ブラケット13の前端付近には軸孔14が夫々設けられ、上下の軸孔14は互いに共通の軸線を持つ関係にある。
これらの軸孔14はエンジンフード16と車体10とを連結する連結ピン15が挿通される孔である。
【0019】
連結ピン15は、軸孔14に対応するピン本体部15aと、ピン本体部15aの一端に形成された抜け止めのための頭部15bとを有する。
ピン本体部15aの他端には、軸孔14への連結ピン15の挿入を容易化するためのテーパ−面15cが形成されている。
軸孔14に挿通された連結ピン15は軸線Sが上下方向となり、この実施形態では連結ピン15が固定ブラケット13と固定されている。
【0020】
エンジンフード16は、車体10の上部を覆うフード本体16aと、フード本体16aと接続される可動ブラケット16bを有する。
フード本体16aにおける可動ブラケット16b寄りの上部付近には空間部を有する上部凹部16cが形成され、下部付近には別の空間部を形成する下部凹部16dが形成されている。
フード本体16aの上部凹部16c及び下部凹部16dには、軸部材としての固定ボルト20用のボルト孔16e、16fが形成されている。
【0021】
可動ブラケット16bはフード本体16aにおける上部凹部16c及び下部凹部16dの固定ブラケット13寄りの隅部に接続されている。
可動ブラケット16bは、中空の筒状体であり、可動ブラケット16b内に形成された中空部16gは連結ピン15の挿通を許容する。
可動ブラケット16bは、中空部16gに連結ピン15が挿通される状態では、上下の固定ブラケット13の間に配置される。
中空部16gの径とピン本体部15aの径との寸法差は大きく設定され、ピン本体部15aの外周面と中空部16gを形成する可動ブラケット16bの内周面との間には間隙が形成される。
【0022】
可動ブラケット16bの上端には、図3及び図4(a)に示すように、位置決め部材21が備えられ、位置決め部材21の一部は中空部16gの上側開口に挿入されている。
位置決め部材21は、中空部16gに挿入される挿入部21aと、挿入部21aの端部に形成された頭部21bと、挿入部21a及び頭部21bを貫通する偏心孔21cとを有する。
【0023】
挿入部21aは中空部16gに嵌合する筒状体であり、頭部21bは平面視六角形の外周を有するナット状の形態を呈している。
位置決め部材21における頭部21bの外周は、6個の頂部21eと平坦面21dを夫々有し、隣り合う平坦面21dは互いに120度の角度を保つ関係にある。
偏心孔21cは位置決め部材21の中心から偏心した位置に形成された長孔となっており、長孔の長径は前方側の頂部21eへ向かう方向と一致している。
位置決め部材21は偏心孔21cを有することから、図4(a)に示す位置決め部材21の固定位置では、頭部21bにおける前方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚が、後方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚よりも薄くなる肉厚差が設定されている。
位置決め部材21の固定位置はストッパ部材22により規定される。
【0024】
ストッパ部材22は板状体であって、位置決め部材21の挿入を特定の方向から許容する挿入凹部23と、固定ボルト20を挿通するボルト用通孔24を有する。
ストッパ部材22における挿入凹部23は、位置決め部材21において互いに平行な平坦面21dと当接し、互いに平行な一対の規定面22aと、規定面22aの間に形成されている底面22bにより形成されている。
ボルト用通孔24は、フード本体16aの上部凹部16cの上面や下部凹部16dの下面に位置決め部材21を固定する際、固定ボルト20を挿通する通孔である。
位置決め部材21が六角形状の外周を有することから、位置決め部材21の固定位置はストッパ部材22により軸線S周りに角度60度毎に規定され、固定位置の数は6箇所である。
【0025】
可動ブラケット16bの下端にも、図3及び図4(b)に示すように、上端の位置決め部材21と同じ構成の位置決め部材21が備えられている。
下端側の位置決め部材21の一部は中空部16gの下側開口に挿入されている。
下端側の位置決め部材21は、上端に設けた位置決め部材21と同一形状であることから、中空部16gに挿入される挿入部21aと、頭部21bと、長孔状の偏心孔21cを有し、外周は6個の平坦面21dと頂部21eを有する。
図4(b)に示す下端側の位置決め部材21の固定位置では、前方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚が、後方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚よりも厚くなる肉厚差が設定されている。
【0026】
下端側の位置決め部材21の固定位置は、上端の位置決め部材21を固定するストッパ部材22と同一形状の別のストッパ部材22により規定される。
下端側のストッパ部材22は、同様に、挿入凹部23とボルト用通孔24を有し、挿入凹部23は、位置決め部材21の互いに平行な平坦面21dと当接する一対の規定面22aと、底面22bにより形成されている。
ボルト用通孔24は、位置決め部材21をフード本体16aの下部凹部16dに固定する際に固定ボルト20を挿通する通孔である。
【0027】
ところで、このストッパ部材22は、図5(b)に示すように、表裏反転させてもストッパ部材22としての使用が可能である。
位置決め部材21が挿入凹部23に挿入された状態では、連結ピン15の中心とボルト20を水平に結ぶ軸心線Pを想定すると、軸心線Pは規定面22aと非平行の関係にある。
具体的には、図5(a)及び図5(b)に示すように、軸心線Pと規定面22aの面方向との間には15度の角度が保たれる。
図5(a)に示す表裏反転させないストッパ部材22の規定面22aと、図5(b)に示す表裏反転させた状態のストッパ部材22の規定面22aとの間は30度の角度が形成される。
【0028】
このため、表裏反転させないストッパ部材22の規定面22aにより規定される位置決め部材21の6箇所の固定位置と、表裏反転させた状態のストッパ部材22により規定される6箇所の固定位置は互いに異なる。
従って、ストッパ部材22の表裏反転して使用すれば、位置決め部材21の固定位置は12箇所設定される。
【0029】
次に、この実施形態に係るエンジンフード開閉装置12の作用について説明する。
この実施形態に係るエンジンフード開閉装置12におけるエンジンフード16、17の位置調整は、エンジンフード16、17の前後左右方向を含む多方向への傾きに係る調整と、前後左右方向を含む多方向への水平移動に係る位置調整である。
【0030】
まず、エンジンフード16の傾きに係る位置調整について説明する。
この実施形態では、図4(a)に示す上側の位置決め部材21の偏心孔21cに連結ピン15の上部が挿通されるとともに、図4(b)に示す下側の位置決め部材21の偏心孔21cに連結ピン15の下部が挿通される。
連結ピン15の上部では、位置決め部材21における前方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚が、後方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚よりも薄い。
連結ピン15の下部の位置決め部材21では、前方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚が、後方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚よりも厚くなっている。
【0031】
このため、図3に示すように、可動ブラケット16bにおける上端及び下端の両位置決め部材21が、可動ブラケット16bの上端を後方へ向かわせるとともに下端を前方へ向かわせ、エンジンフード16の前方を浮かせつつ、後方を沈ませるようにエンジンフード16を傾斜させる。
この実施形態では、エンジンフード16の前後方向の傾きを調整するようにしたが、両位置決め部材21の固定位置の組み合わせによっては、エンジンフード16の前後方向以外の多方向への傾きも可能である。
なお、位置決め部材21の固定位置は、ストッパ部材22を表裏反転させて用いれば、軸線S周りで角度30度毎に変更され、両位置決め部材21の固定位置の組み合わせに応じた各偏心孔21cの位置によりエンジンフード16の傾き具合が規定される。
【0032】
次に、エンジンフード16の平行移動に係る位置調整について図6(a)及び図6(b)に基づき説明する。
図6(a)に示すエンジンフード16の前後位置は、図6(b)の示すエンジンフード16の前後位置と比べて後側に存在する。
図6(a)に示すように、連結ピン15の上下端では、位置決め部材21における前方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚が、後方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚よりも薄くなるような位置決め部材21の固定位置となっている。
つまり、両位置決め部材21は可動ブラケット16bに対して互いに同じ固定位置となっている。
図6(b)に示すエンジンフード16の場合、連結ピン15の上部及び下部では、逆に、位置決め部材21における前方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚が、後方側の頂部21eと偏心孔21cとの間の肉厚よりも厚くなるような位置決め部材21の固定位置となっている。
【0033】
この実施形態では、エンジンフード16を前後方向に平行移動させて位置調整するとしたが、両位置決め部材21の固定位置の組み合わせによっては、エンジンフード16の左右方向の平行移動も可能である。
なお、位置決め部材21の固定位置は、ストッパ部材22を表裏反転させて用いれば、軸線S周りで角度30度毎に変更され、両位置決め部材21の固定位置の組み合わせに応じた各偏心孔21cの位置によりエンジンフード16の水平移動の距離や方向が規定される。
【0034】
この実施形態では、一方のエンジンフード16に位置調整について説明したが、他方のエンジンフード17は、図示されないが、エンジンフード16と同様の位置決め部材21及びストッパ部材22を備える。
このため、エンジンフード17は、エンジンフード16と同様の位置調整が可能であり、固定ブラケット13に対するエンジンフード17の傾きを調整したり、エンジンフード17を水平移動させて固定ブラケット13に対する位置を調整したりすることができる。
【0035】
この実施形態に係るエンジンフード開閉装置12によれば、以下の作用効果を奏する。
(1)位置決め部材21の固定位置はストッパ部材22により規定され、複数の固定位置が設定されるから、固定位置毎に偏心孔21cの位置が規定される。上下一対の位置決め部材21における偏心孔21cの位置の組み合わせに応じて、固定ブラケット13に対する可動ブラケット16bの位置が規定される。上下一対の位置決め部材21の固定位置を夫々変更することにより、固定ブラケット13に対するエンジンフード16の段階的な位置調整と、多方向への位置調整が可能となる。エンジンフード17についても同じ位置調整ができる。なお、固定ブラケット13に対する可動ブラケット16bの位置とは、前後左右方向を含む多方向への水平移動に係る位置のほか、前後左右方向を含む多方向への傾斜に係る位置を指す。
【0036】
(2)ストッパ部材22が備える規定面22aは、位置決め部材21における平面視多角形状の外周が有する特定の平坦面21dと当接することにより、位置決め部材21の固定位置を規定する。外周が多角形状であることから、外周を構成する各平坦面21dは互いに隣り合う平坦面21dと所定角度を保つ。ストッパ部材22の規定面22aと当接する平坦面21dが変更されるとき、軸線S周りの所定角度を以って位置決め部材21の固定位置が変更される。位置決め部材21の固定位置が平坦面21d毎に規定されることから、偏心孔21cの位置を段階的に変更することができ、固定ブラケット13に対するエンジンフード16、17の位置を段階的に調整することができる。段階的な調整であることからエンジンフード16、17の位置調整の作業も容易となる。
【0037】
(3)ストッパ部材22を表裏反転させて使用するときのストッパ部材22における規定面22aの向きを、表裏反転させない状態でストッパ部材22を用いたときの規定面22aの向きと比べて異ならせることができる。位置決め部材21の固定位置の数は平坦面21dの数により定まるが、ストッパ部材22を両状態で用いることにより、固定位置の数はストッパ部材22を表裏反転させずにストッパ部材22を用いる場合よりも多くなる。位置決め部材21の固定位置の増大によりエンジンフード16、17の位置をより段階的に微調整することができる。
【0038】
(4)エンジンフード16、17の位置を段階的に微調整することができることから、アームレストや操作レバー等の追加部品が運転シート18やエンジンフード16、17に後から追加して設けられたり、設けられないことがあっても、追加部品が設けられた場合のエンジンフード16が適切な位置となる両位置決め部材21の固定位置の組み合わせと、追加部品が設けられない場合のエンジンフード16が適切な位置となる両位置決め部材21の固定位置の組み合わせとを予め設定しておけば、追加部品の有無に関わらずエンジンフード16の位置調整は迅速に実施することができる。
【0039】
(5)位置決め部材21の固定位置はストッパ部材22により規定され、ストッパ部材22は固定ボルト20により固定されるから、ストッパ部材22がエンジンフード16に固定されている状態では、位置決め部材21が固定位置からずれたりすることはない。
【0040】
(別例について)
次に、図7に示す別例に係るエンジンフード開閉装置32ついて説明する。
ここでは、上記の実施形態と共通する要素については符号を共通して用い、上記の実施形態の説明を援用する。
この別例では、エンジンフード16におけるフード本体16aと、連結ピン15、固定ボルト20が共通する要素となっている。
図7に示すエンジンフード開閉装置32では、位置決め部材36及びストッパ部材37が、エンジンフード16における可動ブラケット16bに設けられず、固定ブラケット33の軸孔34に設けられている。
【0041】
上下の固定ブラケット33に形成される軸孔34は、連結ピン15のピン本体部15aの径に対して十分に大きな径を有する。
固定ブラケット33にはストッパ部材37を固定する固定ボルト20のためのボルト孔33aが形成されている。
エンジンフード16は、フード本体16aと可動ブラケット16bを有するが、可動ブラケット16bに連結ピン15が挿通されている。
この実施形態の可動ブラケット16bは連結ピン15と一体的に可動するが、可動ブラケット16bが連結ピン15に対して可動してもよい。
連結ピン15は固定ブラケット33の軸孔34に挿通され、各軸孔34における連結ピン15の位置は、位置決め部材36により規定される。
【0042】
位置決め部材36は、位置決め部材21と基本的に同構造であり、図示しないが、位置決め部材21の挿入部21a、頭部21b、偏心孔21c、平坦面21d、頂部21eに相当する要素を有する。
位置決め部材36の挿入部は軸孔34に挿入され、頭部は平面視六角形状となっている。
上下の位置決め部材36の固定位置はストッパ部材37により規定される。
ストッパ部材37は固定ボルト20により固定ブラケット13に固定されている。
下側の位置決め部材36は固定ブラケット13の下面側に位置する。
なお、図示はしないが、下側の固定ブラケット33の軸孔34から位置決め部材36を脱落させないようにする脱落防止手段が備えられている。
【0043】
この別例では、上側の位置決め部材36は、連結ピン15の上部をリヤピラー11側に接近させる方向(後方)へ配置させ、下側の位置決め部材36は、連結ピン15の下部をリヤピラー11から遠ざかる方向(前方)へ配置させている。
連結ピン15の上端側がリヤピラー11側に接近させる方向(後方)へ配置され、下端側がリヤピラー11から遠ざかる方向(前方)へ配置されることにより、フード本体16aの前端が持ち上がる方向に連結ピン15は傾斜する。
つまり、この別例に係るエンジンフード開閉装置32では、図7に示すように、エンジンフード16の位置調整の仕方によっては連結ピン15が傾斜する。
この別例では、エンジンフード16の前後方向の傾きを調整するようにしたが、両位置決め部材21の固定位置の組み合わせによっては、前後左右方向を含む多方向へのエンジンフード16の傾斜、前後左右方向を含む多方向への水平移動も可能である。
【0044】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
○上記の実施形態(別例を含む)では、位置決め部材の頭部における外周を平面視六角形状としたが、六角形状に限定する主旨ではなく、位置決め部材は固定位置が複数となるように形成されていればよく、例えば、六角形状以外の多角形状の外周でもよい。エンジンフードの位置調整の容易性や位置決め部材の製作上の都合では、六角形状の外周が最も好ましい。
○上記の実施形態(別例を含む)では、ストッパ部材を固定ボルトにより固定するとしたが、固定するための手段は固定ボルトに限定されず、例えば、ピン等を用いてストッパ部材をエンジンフードあるいは固定ブラケットに固定してもよい。
○上記の実施形態(別例を含む)では、車体の左右に開閉する複数のエンジンフードに本発明を適用したが、エンジンフードの開閉は左右だけでなく前後でもよい。さらに、複数のエンジンフードに限らず水平に回動する単一のエンジンフードについても本発明を適用することができる。
○上記の実施形態(別例を含む)では、産業車両の一例としてのフォークリフトにおけるエンジンフード開閉装置について説明したが、建設車両等の他の産業車両に本発明を適用することができることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施形態に係るフォークリフトのエンジンフード開閉装置の平面図である。
【図2】同装置の要部を示す拡大平面図である。
【図3】同装置の要部の位一部を破断して示す側面図である。
【図4】位置決め部材とストッパ部材との関係を示す要部説明図であり、(a)は図3におけるA−A線矢視図であり、(b)は図3におけるB−B線矢視図である。
【図5】上側に設けたストッパ部材の表裏の使用状態を示す要部説明図であり、(a)は表にして使用した状態のストッパ部材を示す図であり、(b)は裏にして使用した状態のストッパ部材を示す図である。
【図6】エンジンフードの前後位置の調整例を示す要部側面図である。
【図7】別例に係るエンジンフード開閉装置を示す拡大側面図である。
【図8】従来のエンジンフード開閉装置の要部を示す拡大側面図である。
【符号の説明】
【0046】
10 車体
12、32、52 エンジンフード開閉装置
13、33、54 固定ブラケット
14、34 軸孔
15、56、57 連結ピン
16、17、55 エンジンフード
16a フード本体
16b 可動ブラケット
16g 中空部
20 固定ボルト
21、36 位置決め部材
21c 偏心孔
21d 平坦面
22、37 ストッパ部材
22a 規定面
23 挿入凹部
54a 長孔
58、59 軸保持部
P 軸心線
S 軸線(連結ピン15の)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に設けた固定ブラケットと、該固定ブラケットに設けられて軸線が上下方向となる連結ピンと、該連結ピンを介して前記車体に連結されるエンジンフードとを有し、前記エンジンフードは、前記車体の上部を覆うフード本体と、該フード本体と接続され、前記連結ピンを挿通する可動ブラケットとを有し、前記連結ピンを支点とする前記エンジンフードの水平方向への回動により前記エンジンフードを開閉する産業車両のエンジンフード開閉装置において、
前記固定ブラケット又は前記可動ブラケットは、前記連結ピンが挿入される偏心孔を有するとともに前記連結ピンの上部及び下部に夫々配置される上下一対の位置決め部材と、該位置決め部材の固定位置を規定するストッパ部材と、を有し、
前記固定ブラケットに対する前記可動ブラケットの位置は、前記位置決め部材の固定位置毎に規定される前記偏心孔の位置に応じて規定されることを特徴とする産業車両のエンジンフード開閉装置。
【請求項2】
前記位置決め部材は、複数の平坦面を有する平面視多角形状の外周を有し、前記ストッパ部材は、前記外周における特定の平坦面との当接により前記位置決め部材の固定位置を規定する規定面を有することを特徴とする請求項1記載の産業車両のエンジンフード開閉装置。
【請求項3】
前記ストッパ部材は、前記固定ブラケット又は前記可動ブラケットに対して軸線が上下となる軸部材により固定され、前記連結ピン及び前記軸部材の両軸心を水平に結ぶ軸心線は、前記規定面と非平行であることを特徴とする請求項2記載の産業車両のエンジンフード開閉装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−56826(P2009−56826A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−223349(P2007−223349)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】