説明

田植機

【課題】きめ細かい速度制御を簡単に行って、作業性の向上を図ることができる田植機を提供する。
【解決手段】エンジン5と、無段変速装置21と、変速ペダル16と、変速ペダル16の操作量に基づいて無段変速装置21を変速制御する変速アクチュエータ60とを備えた田植機1において、複数のモードを選択できるモード切替スイッチ90を設け、前記複数のモードでは、変速ペダル16の操作量に対する無段変速装置21の制御量がモードごとに異なるように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機の技術に関し、特に田植機の走行機体の走行速度を変速する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、走行機体の走行速度を無段に変速することができる田植機は公知となっている。
例えば、特許文献1に記載の田植機は、走行機体に搭載されたエンジンからの動力を変速する油圧式無段変速装置と、前記油圧式無段変速装置の変速比を変更する変速アクチュエータである電気モータと、前記電気モータを駆動制御するコントローラ(制御装置)等を備える。そして、前記田植機は、前記変速アクチュエータを前記制御装置により変速操作具である変速ペダルの操作量に基づいて駆動制御して、前記油圧式無段変速装置の変速比を変更し、前記走行機体の走行速度を無段に変速することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−262417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術においては、田植機の作業性が十分に考慮された構造とはなっていない。
【0005】
特許文献1に記載の田植機は、変速操作具である変速ペダルを踏み込む踏込操作、または踏み込まれた状態から足を外す踏込解除操作を行うことによって、油圧式無段変速装置の変速比を増減させて、走行機体の走行速度を変速する。
【0006】
例えば、走行機体を低速域で走行させたい場合には、変速ペダルを低速域の操作範囲に踏込操作し、走行機体が所望の走行速度を得ることができるまで、その低速域の操作範囲内で変速ペダルの操作位置を微調整する必要があったが、該操作範囲は狭い範囲であるので、走行機体の走行速度を低速域で微調整することが困難であった。
【0007】
したがって、植付作業時などに、変速ペダルを低速域の操作範囲に踏込操作して、走行機体を低速域で走行させる必要がある場合には、きめ細かい速度制御を行うことが難しく、田植機の作業性が不十分になることがあった。
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされるものであり、その解決しようとする課題は、きめ細かい速度制御を簡単に行って、作業性の向上を図ることができる田植機を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、エンジンと、無段変速装置と、変速操作具と、前記変速操作具の操作量に基づいて前記無段変速装置を変速制御するアクチュエータとを備えた田植機において、複数のモードを選択できるモード切替手段を設け、前記複数のモードでは、前記変速操作具の操作量に対する前記無段変速装置の制御量がモードごとに異なるように構成したものである。
【0011】
請求項2においては、前記複数のモードは、第一モードおよび第二モードの2つのモードからなり、前記第二モードでは、前記第一モードに比べて、前記変速操作具の操作量に対する前記無段変速装置の制御量を小さくするように構成したものである。
【0012】
請求項3においては、前記第二モードでは、前記第一モードに比べて、前記変速操作具の操作量に対する前記無段変速装置の制御量が、前記無段変速装置の全変速範囲で小さくなるように構成されているものである。
【0013】
請求項4においては、前記第二モードと前記第一モードは、前記変速操作具を最大に操作したときの走行速度が同じに設定され、且つ、前記第二モードでは、前記第一モードに比べて、前記変速操作具の操作量に対する前記無段変速装置の制御量が、前記無段変速装置の低速域で小さくなるように構成されているものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
請求項1においては、複数のモードを選択することにより、同一の変速操作具を使用して、きめ細かい速度制御を簡単に行うことができ、田植機の作業性の向上を図ることができる。
【0016】
請求項2においては、2つのモードを選択することにより、同一の変速操作具を使用して、植付作業に応じたきめ細かい速度制御を簡単に行うことができ、田植機の作業性の向上を図ることができる。
【0017】
請求項3においては、走行速度を変速操作具の全操作範囲を使用して細やかに変速することができるので、微妙な速度調節が可能となり、田植機の作業性を向上することができる。
【0018】
請求項4においては、走行速度を細やかに変速することができるので、微妙な速度調節が可能となるとともに、無段変速装置の変速比を最大となるように操作することで、高速で走行させることができるので、田植機の作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る田植機の側面図。
【図2】同じく、平面図。
【図3】走行変速ミッションの概略図。
【図4】運転操作部と走行変速ミッションとの関係を示す概略図。
【図5】図4のV−V視拡大断面図。
【図6】図4のVI−VI視拡大断面図。
【図7】制御装置の制御構成を示すブロック図。
【図8】無段変速装置の制御量(車速)と変速ペダルの操作量との関係を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る田植機の一実施形態に係る田植機1について説明する。
【0021】
まず、田植機1の全体的な構成について、図1における矢印A方向を前方向として説明する。
【0022】
図1、図2に示すように、田植機1は多条植式の苗植装置2と走行機体3とで構成される。苗植装置2は、走行機体3の後部に上下方向に回転可能に装着され、適宜の上下位置で苗載台2aの苗を複数の苗植付爪2bにより圃場に植え付けることができるように構成される。
【0023】
走行機体3では、車体フレーム4が左右一対の前車輪6と、左右一対の後車輪7とで支持される。車体フレーム4には、エンジン5が搭載されるとともに、走行変速ミッション20が搭載される。そして、エンジン5の出力が走行変速ミッション20により適宜変速されたあと、各車輪6・7に伝達されるように構成される。これにより、走行機体3が走行可能とされる。
【0024】
また、車体フレーム4には運転操作部10が設けられる。運転操作部10には座席12、操縦ハンドル13、変速レバー14、表示パネル15、変速ペダル16、ブレーキペダル17等が備えられる。変速ペダル16およびブレーキペダル17は、前方向への足踏み式のペダルであり、操縦ハンドル13の右側で運転操作部10の床面に左右に並べられて、車体フレーム4に枢着される。
【0025】
図2に示すように、表示パネル15は操縦ハンドル13の近傍に配置される。表示パネル15には、機体状況を表示する表示手段が備えられるとともに、後述する変速アクチュエータ60の動作異常、苗や肥料の切れおよび肥料の詰まり等の問題が発生した場合に、これを操縦者に報知する報知手段が備えられる。
【0026】
この報知手段は、たとえば、図示せぬ表示ランプを表示パネル本体に設け、前述のような不具合が発生した場合に点灯または点滅するようにして構成される。ただし、報知手段は、ブザー等を表示パネル本体に設け、前述のような問題が発生した場合に報知音がなるようにして構成することも可能である。また、報知手段は表示パネルに限らず、別の部材に備えてもよい。
【0027】
次に、変速を行う構成について説明する。
【0028】
図3に示すように、走行変速ミッション20には、油圧式の無段変速装置21が備えられる。無段変速装置21は、エンジン5の出力により駆動される可変式の油圧ポンプ24と、この油圧ポンプ24からの油圧にて駆動される油圧モータ25とを有し、油圧ポンプ24における斜板24aの傾転角が変更されることによって、変速比を変更して、走行機体3の走行速度を変速させるように構成される。
【0029】
なお、本実施形態においては、油圧式の無段変速装置21に遊星歯車機構からなる機械式変速装置30が組み合わされて、油圧・機械式無段変速装置が構成される。
【0030】
また、車体フレーム4の前部には、図4、図6に示すように、変速操作軸63が横方向に延設されて、軸受にて回転自在に軸支される。変速操作軸63には扇形歯車62が固定されて、この扇形歯車62と変速操作軸63とが一体的に回転可能とされる。変速操作軸63には、また、アーム65がその基端部で固定されて、このアーム65と変速操作軸63とが一体的に回転可能とされる。
【0031】
変速操作軸63上の扇形歯車62には、ピニオン61が噛合される。ピニオン61は、電動式モータからなる変速アクチュエータ60により回転可能とされ、その回転により変速操作軸63を扇形歯車62を介して図6における矢印C方向、または図6における矢印D方向へ回転させることができるように構成される。
【0032】
一方、変速操作軸63上のアーム65の先端部には、前後方向に延設された変速ロッド杆67の前端部が枢着される。変速ロッド杆67の後端部には長溝孔67aが前後方向に所定長さをもって形成される。この長溝孔67aに無段変速装置21の変速アーム47の先端部に設けられたピン47aが摺動自在に嵌入されて、変速ロッド杆67の後端部と変速アーム47の先端部とが係合される。変速アーム47はその基部で油圧ポンプ24の斜板24a(図3)にトラニオン軸を介して連動連結される。
【0033】
こうして、無段変速装置21は、変速操作軸63が回転されず、変速ロッド杆67が後方に移動されないとき、または、変速操作軸63が回転されて、変速ロッド杆67が後方に移動されても、その移動量が長溝孔67aの所定長さを超えないとき、変速アーム47およびトラニオン軸によって、油圧ポンプ24の斜板24aを傾転させずに中立位置とし、各車輪6・7へ向けて出力を伝達しない中立状態となるように構成される。
【0034】
無段変速装置21は、変速ロッド杆67が殆ど後方へ移動されていない状態で、変速操作軸63が図6における矢印C方向へ回転されて、変速ロッド杆67が後方へ移動され、その後方への移動量が長溝孔67aの所定長さを超えたとき、その時点から、変速アーム47およびトラニオン軸によって、油圧ポンプ24の斜板24aを変速ロッド杆67の後方への移動量に基づいて傾転させて、変速比を増速側に変更し、走行速度を無段に増速させるように構成される。
【0035】
無段変速装置21は、変速ロッド杆67が長溝孔67aの所定長さを超えて後方へ移動されている状態で、変速操作軸63が図6における矢印D方向へ回転されて、変速ロッド杆67が前方へ移動されたとき、変速ロッド杆67の後方への移動量が長溝孔67aの所定長さを超えている間は、変速アーム47およびトラニオン軸によって、油圧ポンプ24の斜板24aを変速ロッド杆67の前方への移動量に基づいて傾転させて、変速比を減速側に変更し、走行速度を無段に減速させるように構成される。
【0036】
変速操作軸63には、無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aの傾転角(変速アクチュエータ60の回転角)を検知するための第二検出手段66が設けられる。第二検出手段66は、ポテンショメータ等の角度センサからなり、変速操作軸63の回転角を検出することができるように構成される。
【0037】
また、車体フレーム4の前部には、変速ペダル軸51が横方向に延設されて、軸受にて回転自在に軸支される。変速ペダル軸51には変速ペダル16が連動機構50を介して連動連結される。
【0038】
変速ペダル16は、ばね手段にて付勢され、運転操作部10の床面で起立した状態となる初期位置に保持される。この変速ペダル16に対しては、操縦者が初期位置にある変速ペダル16を足にて前方向へ踏み込む踏込操作、操縦者が踏み込まれた状態の変速ペダル16から足を外す踏込解除操作が行われる。
【0039】
変速ペダル16は、踏込操作が行われると、初期位置からばね手段に抗して前方向へ回転されて、変速ペダル軸51を図5における矢印E方向へ回転させる一方、踏込解除操作が行われると、ばね手段にて元の初期位置に戻されて、変速ペダル軸51を図5における矢印F方向へ回転させるように構成される。
【0040】
変速ペダル軸51には、変速ペダル16の踏込操作量を検知するための第一検出手段55が設けられる。第一検出手段55は、ポテンショメータ等の角度センサからなり、変速ペダル軸51の回転角を検出することができるように構成される。
【0041】
また、走行変速ミッション20には、油圧式の無段変速装置21から各車輪6・7への出力を伝達または遮断可能とするためのクラッチ機構22(図3)が備えられるとともに、各車輪6・7に制動力を付与するブレーキ機構23(図3)が備えられる。
【0042】
走行変速ミッション20には、ブレーキ機構23に対する回転式の操作軸45が設けられる。操作軸45には作動部材46が固定されて、この作動部材46と操作軸45とが一体的に回転可能とされる。作動部材46はブレーキ機構23に連動連結されるだけでなく、ワイヤー等を介してクラッチ機構22とも連動連結される。
【0043】
ブレーキ機構23には、走行機体3に備えられたブレーキ入り部材75(図3)も連動連結される。クラッチ機構22には、走行機体3に備えられたクラッチ切り部材76(図3)も連動連結される。
【0044】
そして、作動部材46は、操作軸45とともに回転して所定回転位置にあるとき、ブレーキ機構23を作動状態にすると同時にクラッチ機構22を切状態にする停止状態となる一方、別の所定回転位置にあるとき、ブレーキ機構23を非作動状態にすると同時にクラッチ機構22を入状態にする走行状態となるように構成される。作動部材46はばね手段により走行状態となるように付勢される。
【0045】
このようにクラッチ機構22およびブレーキ機構23の両方に対する作動部材46には、受け片46aが一体的に設けられる。受け片46aには、変速ロッド杆67が前後方向に摺動自在に挿通される。変速ロッド杆67の受け片46aよりも後方に位置する部分には、ストッパー片67bが設けられて、このストッパー片67bと受け片46aとが当接可能とされる。
【0046】
変速操作軸63が回転されず、変速ロッド杆67が後方に移動されないとき、つまり変速ペダル16が初期位置に保持され、その踏込操作が行われないとき、作動部材46は、ばね手段に抗するように、ストッパー片67bに当接されて回転を規制されて、ブレーキ機構23を作動状態にすると同時にクラッチ機構22を切状態にする停止状態に保持される。
【0047】
変速操作軸63が回転され、変速ロッド杆67が後方に移動されたとき、つまり変速ペダル16の踏込操作が行われたとき、作動部材46は、ストッパー片67bの後方への移動にともなってばね手段により回転されて、ブレーキ機構23を非作動状態にすると同時にクラッチ機構22を入状態にする走行状態に変更される。
【0048】
また、車体フレーム4の前部には、ブレーキ軸70が横方向に延設されて、軸受にて回転自在に軸支される。ブレーキ軸70にはブレーキペダル17が連動連結される。
【0049】
ブレーキペダル17は、ばね手段にて付勢され、運転操作部10の床面上で起立した状態となる初期位置に保持される。このブレーキペダル17に対しては、操縦者が初期位置にあるブレーキペダル17を足にて前方向へ踏み込む踏込操作、操縦者が踏み込まれた状態のブレーキペダル17から足を外す踏込解除操作が行われる。
【0050】
ブレーキペダル17は、踏込操作が行われると、初期位置からばね手段に抗して前方向へ回転されて、ブレーキ軸70を図5における矢印M方向へ回転させる一方、踏込解除操作が行われると、ばね手段により後方向へ回転されて元の初期位置に戻され、ブレーキ軸70を図5における矢印M方向と逆方向へ回転させるように構成される。
【0051】
ブレーキ軸70には、アーム71がその基端部で固定される。アーム71の先端部には、前後方向に延設されたブレーキロッド杆72の前端部が枢着される。ブレーキロッド杆72の後端部は作動部材46の係止片46bに前後方向に摺動自在に挿通される。
【0052】
係止片46bは作動部材46に一体に設けられる。ブレーキロッド杆72の係止片46bよりも後方へ位置する部分には、ストッパー72aが設けられて、このストッパー72aと係止片46bとが当接可能とされる。
【0053】
ブレーキ軸70が回転されず、ブレーキロッド杆72が前方に移動されないとき、つまりブレーキペダル17が初期位置に保持され、その踏込操作が行われないとき、作動部材46の、ブレーキ機構23を作動状態にすると同時にクラッチ機構22を切状態にする停止状態から、ブレーキ機構23を非作動状態にすると同時にクラッチ機構22を入状態にする走行状態への自由な作動が許容される。
【0054】
ブレーキ軸70が回転され、ブレーキロッド杆72が前方に移動されたとき、つまりブレーキペダル17の踏込操作が行われたとき、作動部材46は、ブレーキ機構23を非作動状態にすると同時にクラッチ機構22を入状態にする走行状態であれば、ばね手段に抗して回転されて、変速ロッド杆67の移動位置にかかわらず、つまり変速ペダル16の踏込操作よりも優先して、強制的に停止状態に変更される。
【0055】
また、走行機体3には、制御装置80(図7)が備えられる。この制御装置80には、第一検出手段55、第二検出手段66、電動式モータからなる変速アクチュエータ60が接続される。制御装置80には、さらにブレーキ入り部材75、クラッチ切り部材76が接続される。
【0056】
制御装置80は、第一検出手段55に基づいて変速ペダル16の踏込操作量を検知し、その検知結果に基づいて無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aの傾転角があらかじめ設定された設定角となるように、変速アクチュエータ60を回転駆動させるように構成される。制御装置80は、また、第二検出手段66に基づいて油圧ポンプ24の斜板24aの傾転角を検知するように構成される。
【0057】
このような構成において、変速ペダル16の踏込操作が行われないときには、変速操作軸63が回転されず、変速ロッド杆67が後方に移動されない。そのため、走行変速ミッション20における無段変速装置21の変速アーム47が回転せず、無段変速装置21の油圧ポンプ24の斜板24aが中立位置となる。つまり、無段変速装置21が各車輪6・7へ向けて出力を伝達しない中立状態となる。
【0058】
しかも、変速ペダル16の踏込操作が行われないときには、作動部材46が停止状態となって、ブレーキ機構23が作動状態となると同時に、クラッチ機構22が切状態となる。これにより、無段変速装置21(油圧・機械式無段変速装置)から各車輪6・7への出力が遮断されることとなる。したがって、走行機体3は走行せずに停止状態となる。
【0059】
走行機体3が停止状態である場合に、変速ペダル16の踏込操作が行われると、まず、変速ペダル軸51が図5における矢印E方向に回転し、第一検出手段55がこの回転よる変速ペダル軸51の回転角を検出する。制御装置80は、この第一検出手段55の検出値を取得し、これに基づいて変速ペダル16の踏込操作量を検知する。
【0060】
そして、変速アクチュエータ60が、制御装置80により変速ペダル16の踏込操作量に基づいて一方向に回転駆動する。この変速アクチュエータ60の回転駆動にともなって変速操作軸63が図6における矢印C方向に回転し、変速ロッド杆67が図6における矢印G方向へ移動し始める。
【0061】
変速ロッド杆67の後方への移動量が、その後端側の長溝孔67aの所定長さを超えると、ストッパー片67bが後方へ移動する。その結果、ストッパー片67bにてばね手段による回転を規制されていた作動部材46が回転し、走行状態となって、ブレーキ機構23が非作動状態になると同時に、クラッチ機構22が入状態になる。これにより無段変速装置21から各車輪6・7へ出力が伝達可能となる。
【0062】
このときには、変速アーム47が後方に回転し、無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aが、その傾転角が変速ペダル16の踏込操作量に応じた設定角となるように、トラニオン軸を介して傾転する。これにより、無段変速装置21がその変速比を増速側に変更し、変速した出力を各車輪6・7へ伝達する。したがって、走行機体3は走行を始める。
【0063】
つづいて、変速ペダル16の踏込操作量が大きくなるに従って変速ロッド杆67がさらに後方へ移動すると、無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aがより大きな設定角となるように傾転する。この際、制御装置80は斜板24aの傾転角を第二検出手段66の検出値に基づいて随時検知する。これにより、無段変速装置21が変速比を増速側により大きく変更し、変速した出力を各車輪6・7へ伝達する。したがって、走行機体3の走行速度が増速する。
【0064】
このような状態で、変速ペダル16の踏込解除操作を行うと、変速ペダル軸51が図5における矢印F方向に回転し、第一検出手段55がこの回転よる変速ペダル軸51の回転角を検出する。制御装置80は、第一検出手段55の検出値を取得して、これに基づいて変速ペダル16の踏込操作量を検知する。
【0065】
そして、変速アクチュエータ60が、制御装置80により変速ペダル16の踏込操作量に基づいて前記とは逆方向に回転駆動する。変速アクチュエータ60の回転駆動にともなって変速操作軸63が図6における矢印D方向に回転し、変速ロッド杆67が図6における矢印H方向へ移動する。
【0066】
変速ロッド杆67の前方への移動にともなって、変速アーム47が前方に回転し、無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aが、その傾転角が変速ペダル16の踏込操作量に応じた設定角となるように、トラニオン軸を介して傾転する。これにより、無段変速装置21がその変速比を減速側に変更し、変速した出力を各車輪6・7へ伝達する。したがって、走行機体3の速度が減速する。
【0067】
変速ペダル16が元の初期位置まで戻った時点で、変速アーム47も元の位置に戻り、無段変速装置21の油圧ポンプ24の斜板24aが中立位置となる。また、作動部材46が変速ロッド杆67のストッパー片67bにより停止状態に保持されて、ブレーキ機構23が作動状態となると同時に、クラッチ機構22が切状態となる。したがって、走行機体3の走行が停止する。
【0068】
次に、エンジン5の回転数を変更する構成について説明する。
【0069】
図6に示すように、扇形歯車62にカム溝62aが円周方向に延びるように形成される。ここで、カム溝62aは、その始端部を扇形歯車62の中心である変速操作軸63と所定距離をとって配置する一方、終端部を始端部よりも変速操作軸63に近づけて配置して、始端部から終端部に向かうに従って変速操作軸63に近づくように傾斜状に形成される。
【0070】
このカム溝62aには、車体フレーム4に回転自在に軸支され横軸63bから延出される第一アーム63cの先端部が摺動自在に係合される。そして、横軸63bに固着された第二アーム63dが、エンジン5におけるアクセルレバー5aと、ワイヤー5b等を介して連動連結される。
【0071】
この構成において、扇形歯車62が図6における矢印C方向へ回転する、つまり走行速度が増速するのに応じて、カム溝62aに沿って第一アーム63cが移動し、これにともなう第二アーム63dの回転によりアクセルレバー5aがその戻しばね手段5cに抗して図6における矢印J方向に回転する。したがって、エンジン5における回転数が、アイドル回転から走行速度の増速に比例して自動的に増速する。
【0072】
一方、扇形歯車62が図6における矢印D方向へ回転する、つまり走行速度が減速するのに応じて、カム溝62aに沿って第一アーム63cが移動し、これにともなう第二アーム63dの回転によりアクセルレバー5aがその戻しばね手段5cにて前記とは逆の図6における矢印K方向に戻り回転する。したがって、エンジン5における回転数が、走行速度の減速に比例して自動的に減速し、走行が停止したときにアイドル回転になる。
【0073】
このように、本実施形態において、田植機1は、エンジン5の回転数を走行変速ミッション20における変速動作に応じて自動的に変更するように構成される。なお、田植機1は、アクセルレバー5aを手動で回動操作することによって、エンジン5の回転数を任意に変更することができるようにも構成される。
【0074】
次に、無段変速装置21の制御量を変更するモードである植付モードについて説明する。
植付モードは、複数のモードから構成され、これらのモードごとに、変速操作具である変速ペダル16の操作量に対する無段変速装置21の制御量が異なるように構成される。設定可能なモードの種類は複数であれば特に限定するものではない。
本実施形態においては、植付モードには、第一モードとしての標準植付モードおよび第二モードとしての微速植付モードの2つのモードから構成される。
【0075】
標準植付モードと微速植付モードとは択一的に選択可能とされ、変速ペダル16の操作量に対する無段変速装置21の制御量を、各モードごとに変更するように構成される。
標準植付モードと微速植付モードとの選択は、田植機1の走行時の作業内容にあわせて行われる。
【0076】
標準植付モードとは、走行機体3を標準速度で走行させながら植付作業を行うときに選択されるモードである。
標準植付モード時では、変速操作具である変速ペダル16の操作量に対する無段変速装置21の制御量は、当初の設定のままである。言い換えれば、標準植付モード時では、変速ペダル16の操作量に対する無段変速装置21の制御量は、植付作業を伴なわない路上等での走行機体の走行時と同一である。つまり、田植機1において、通常時には標準植付モードが選択される。
【0077】
微速植付モードとは、走行機体3を微速度または低速度で走行させながら植付作業を行うとき、即ち標準植付モード時よりも遅い走行速度で走行させながら植付作業を行うときに選択されるモードである。前記微速植付モードが選択される場合とは、例えば畦際での植付作業や、圃場条件等に適応させて微速度または低速度で植付作業を行う必要がある場合等が考えられる。
微速植付モード時では、変速ペダル16の操作量に対する無段変速装置21の制御量が、当初、即ち標準植付モード時よりも小さく設定され、無段変速装置21の変速比の変更幅が小さくなるように構成される。したがって、微速植付モード時では、前記標準植付モード時と比べて、変速ペダル16の操作量に対する走行機体3の走行速度の変速幅が小さくなる。
【0078】
標準植付モードと微速植付モードとは、運転操作部10に備えられるモード切替スイッチ90が操作されることによって、切り替えられる。
図2に示すように、モード切替スイッチ90は、本実施形態においては操縦ハンドル13の近傍に配置されている。なお、モード切替スイッチ90の配置は、これに限定するものではないが、操縦者が運転姿勢のまま操作できる場所が望ましい。
また、モード切替スイッチ90は、モード切替手段の一例であり、植付モードを択一に選択して任意に切り替えることができるものであれば、本実施形態におけるスイッチ式に限定されず、ダイヤル式や、レバー式であってもよい。
【0079】
図7に示すように、モード切替スイッチ90には、選択されたモードを検出するための第三検出手段91が設けられる。
第三検出手段91は、位置センサまたは切替スイッチ等からなり、モード切替スイッチ90の操作位置から選択された植付モードを検出することができるように構成される。第三検出手段91は制御装置80に接続される。
【0080】
制御装置80は、第三検出手段91に基づいてモード切替スイッチ90の操作位置、即ち選択された植付モードを検出し、その検出結果に基づいて無段変速装置21における油圧ポンプ24の斜板24aの傾転角があらかじめ設定された範囲内に収まるように、変速ペダル16の操作量に応じて変速アクチュエータ60を回転駆動させるように構成される。
【0081】
したがって、例えば、図8に示す変速ペダル16の操作量と無段変速装置21の制御量との関係線aのように、微速植付モード時では標準植付モード時と比べて、変速ペダル16の操作量が同一であれば、無段変速装置21の制御量が少なくなるように、即ち標準植付モード時に斜板24aが傾転された角度と比べて、微速植付モード時に斜板24aが傾転された角度は小さくなるように構成される。
【0082】
以上のような構成により、田植機1において、操縦者は圃場条件や畦際作業などに適応させてモード切替スイッチ90の操作し、複数のモードから使用するモードを選択することができる。よって、同一の変速操作具である変速ペダル16を使用して、きめ細かい速度制御を簡単に行うことができ、田植機1の作業性の向上を図ることができる。
【0083】
また、本実施形態において田植機1は、第一モードとして標準植付モードおよび第二モードとして微速植付モードの2つのモードを選択することができる。具体的には、走行機体3を標準速度で走行させながら植付作業を行うときは標準植付モード、または、走行機体3を微速度または低速度で走行させながら植付作業を行うときには微速植付モードを選択することとなる。
【0084】
したがって、植付作業時などに走行機体2を微速度または低速度(低速域)で走行させる必要がある場合には、微速植付モードを選択することで、変速ペダル16を使用して作業を行うことが可能となる。したがって、同一の変速操作具である変速ペダル16を使用して、植付作業に応じたきめ細かい速度制御を簡単に行うことができ、作業性の向上を図ることができる。
【0085】
また、微速植付モードが選択されると、変速ペダル16の全操作範囲内、即ち変速ペダル16の操作量が0(ゼロ)から最大値に至るまでの間において、制御装置80は、標準植付モード時と比べて、変速ペダル16の操作量に対応する無段変速装置21の制御量が小さくなるように変速アクチュエータ60を駆動制御するものである。
【0086】
したがって、微速植付モード時では標準植付モード時と比べて、変速ペダル16の操作位置にかかわらず操作量が同一であれば、無段変速装置21の制御量が小さくなって、無段変速装置21の変速比の変更幅が小さくなるように構成される。即ち、微速植付モード時では前記標準植付モード時と比べて、変速ペダル16の操作位置にかかわらず操作量が同一であれば、変速ペダル16の操作量に対する走行機体3の走行速度の変速幅が小さくなるように構成される。
【0087】
微速植付モード時では、変速ペダル16を最大に操作したとき、即ち変速ペダル16の操作量が最大値であっても走行機体3の最高速度を低く抑えることができる。したがって、微速度または低速度(低速域)での植付作業時に微速植付モードを選択すれば、走行機体3の走行速度を変速ペダル16の全操作範囲を使用して細やかに変速することができるので、微妙な速度調節が可能となり、田植機1の作業性を向上することができる。
【0088】
また、図8に示す変速ペダル16の操作量と無段変速装置21の制御量との関係線bのように、前記微速植付モード時では標準植付モード時と比べて、変速ペダル16の操作量が同一であれば、無段変速装置21の制御量が小さくなるように構成したうえで、変速ペダル16の踏込操作量が大きくなるに従って、微速植付モード時に斜板24aが傾転される角度が大きくなって、無段変速装置21の制御量の変化量が大きくなるような、二次曲線状に構成することができる。
【0089】
この構成では、微速植付モード時において、変速ペダル16の操作量が小さい場合(低速域)は、斜板24aが傾転される角度が徐々に大きくなって、微速植付モード時と標準植付モード時との無段変速装置21の制御量の差が大きくなる。変速ペダル16の操作量が所定量に達すると、これがさらに大きくなるに従って、斜板24aが傾転される角度が急激に大きくなって、微速植付モード時と標準植付モード時との制御量の差が小さくなる。そして、変速ペダル16の操作量が最大になると、微速植付モード時と標準植付モード時との制御量の差がゼロ、即ち微速植付モード時と標準植付モード時との制御量が同一となる。つまり、走行速度が標準植付モード時において変速ペダル16の操作量が最大になった場合と同一となる。
【0090】
よって、微速植付モード時に、無段変速装置21の低速域では、標準植付モード時と比べて、変速ペダル16の操作量に対する走行機体3の走行速度の変速幅が小さくなって、標準植付モード時の制御量との差も大きいので、微妙な速度調節が可能となる。
【0091】
一方、変速ペダル16を大きく踏込操作する、即ち踏込操作量を大きくすると、走行機体3の走行速度は、標準植付モード時の走行機体3の最高速度に急激に近づくように変速する。そして、変速ペダル16の踏込操作量を最大とすると、標準植付モード時の走行機体3の最高速度と同一となるように変速する。そのため、走行機体3は高速で走行することが可能となる。
【0092】
以上のような構成により、微速植付モード時では、無段変速装置21の低速域において、走行機体3の走行速度を細やかに変速することができるので、微妙な速度調節が可能となる。また、変速ペダル16を大きく操作、即ち無段変速装置21の変速比を最大(変速ペダル16の操作量の最大値)となるように操作することで、走行機体3を高速で走行させることができるので、田植機1の作業性を向上することができる。
【符号の説明】
【0093】
1 田植機(田植機)
5 エンジン
15 表示パネル(報知手段)
16 変速ペダル
17 ブレーキペダル
21 無段変速装置
22 クラッチ機構
23 ブレーキ機構
60 変速アクチュエータ
66 第二検出手段
75 ブレーキ入り部材
76 クラッチ切り部材
80 制御装置
90 モード切替スイッチ
91 第三検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、無段変速装置と、変速操作具と、前記変速操作具の操作量に基づいて前記無段変速装置を変速制御するアクチュエータとを備えた田植機において、
複数のモードを選択できるモード切替手段を設け、
前記複数のモードでは、前記変速操作具の操作量に対する前記無段変速装置の制御量がモードごとに異なるように構成した、
ことを特徴とする田植機。
【請求項2】
前記複数のモードは、第一モードおよび第二モードの2つのモードからなり、
前記第二モードでは、前記第一モードに比べて、前記変速操作具の操作量に対する前記無段変速装置の制御量を小さくするように構成した、
請求項1に記載の田植機。
【請求項3】
前記第二モードでは、前記第一モードに比べて、前記変速操作具の操作量に対する前記無段変速装置の制御量が、前記無段変速装置の全変速範囲で小さくなるように構成されている、
請求項2に記載の田植機。
【請求項4】
前記第二モードと前記第一モードは、前記変速操作具を最大に操作したときの走行速度が同じに設定され、且つ、前記第二モードでは、前記第一モードに比べて、前記変速操作具の操作量に対する前記無段変速装置の制御量が、前記無段変速装置の低速域で小さくなるように構成されている、
請求項2に記載の田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−213663(P2010−213663A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66986(P2009−66986)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】