説明

田植機

【課題】旋回時自動昇降制御において苗の空植えを防止する。
【解決手段】田植機1は、上下に昇降可能な植付部3と、植付部3への駆動力を断接制御する植付クラッチ50と、車体旋回時に植付部3の昇降及び植付クラッチ50を制御する旋回時自動昇降制御を行う制御部と、を備える。旋回時自動昇降制御において、制御部は、旋回中又は旋回終了後の所定のタイミングで植付部3を自動的に下降させる。また制御部は、旋回終了後に、旋回開始前の植付中断位置に対応する植付再開位置まで車体が到達したときに植付クラッチ50を接続して植付を再開する。そして当該制御部は、植付部3を下降させるタイミングを、車体の走行速度に応じて変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として、田植機の車体を旋回させる際に植付部を自動的に昇降させる制御に関する。
【背景技術】
【0002】
田植機は、苗の植え付けを行う植付部(田植装置)を備えている。この植付部が地面に接近又は接触した状態で車体を旋回させると、当該植付部が地面や畦に接触して破損するおそれがある。そこで、車体を旋回させる際に、植付部を自動的に上昇させる構成の田植機が知られている。この種の田植機は、例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−74991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1は、車体が90度旋回した時点で植付部を下降させ、機体が植付開始位置に来た時点でPTOクラッチを自動的に入りとする構成を開示している。ところで、植付部の下降動作にはある程度の時間がかかるので、車体の走行速度が速い場合などには、植付部の下降が間に合わないという状況が発生し得る。即ち、植付部が下降しきっていない状態でPTOクラッチが入ってしまい、空中植えが発生する可能性があった。
【0005】
この点、特許文献1は、空中植えを防止するために、センターフロートが所定の角度になるまで植付部が下降したときにPTOクラッチを自動的に入れる構成を開示している。これによれば、植付部を所定の位置まで確実に下降させた後にPTOクラッチを入れることができるので、空中植えを防止することができる。
【0006】
しかし前述のように、車体の走行速度が速い場合には、植付部の下降が遅れがちになる。特許文献1の構成では、植付部の下降が遅れた場合、PTOクラッチが入るタイミングも遅れがちとなり、結果として、植え付けを開始する位置がズレてしまうという問題がある。
【0007】
また、上記のような旋回時自動昇降制御は、田植機の車体が所定の旋回パターンに沿って走行していることを前提としており、この旋回パターンを外れてしまうと、旋回後に植付を再開するタイミングを正しく判定することができないという問題がある。
【0008】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、高速時の空植えを防止できる田植機を提供することにあり、別の目的は、車体が旋回パターンを外れたときに適切な対応ができる田植え機を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0010】
本発明の観点によれば、以下の構成の田植機が提供される。即ち、この田植機は、車体と、上下に昇降可能な植付部と、前記植付部への駆動力を断接制御する植付クラッチと、車体旋回時に前記植付部の昇降及び前記植付クラッチを制御する旋回時自動昇降制御を行う制御部と、前記車体の走行装置及び前記植付部の駆動源であるエンジンと、を備える。前記旋回時自動昇降制御において、前記制御部は、旋回中又は旋回終了後の所定のタイミングで前記植付部を自動的に下降させる。また前記制御部は、旋回終了後に、旋回開始前の植付中断位置に対応する植付再開位置まで車体が到達したときに前記植付クラッチを接続して植付を再開する。そして当該制御部は、前記植付部を下降させるタイミングを、前記エンジンからの駆動を伝達する伝動軸の回転速度に応じて変更する。
【0011】
このように、伝動軸の回転速度を見ることにより、植付部を下降させるタイミングを、車体の走行速度に応じて変更することができる。そして例えば、車体の走行速度が速いときには、植付部を下降させるタイミングを早くすることにより、植付部が下降しきる前に植付クラッチが入ってしまうことを防止することができる。
【0012】
上記の田植機において、前記制御部は、植付の条間を考慮して、前記植付再開位置に車体が到達したか否かを判断することが好ましい。
【0013】
即ち、条間が異なると、旋回時に車体が走行する距離も異なる。従って、同じ距離を走行したとしても、植付再開位置への到達の有無は条間によって異なる。そこで、植付再開位置に到達したか否かの判断を、条間を考慮して行うことにより、植付クラッチが接続される位置を条間にかかわらず一定とすることができる。即ち、条間にかかわらず、植え始め位置を揃えることができる。
【0014】
上記の田植機において、前記制御部は、前記旋回時自動昇降制御中において、所定の旋回パターンから外れる操作が行われたことを検出した場合には、前記旋回時自動昇降制御を中断することが好ましい。
【0015】
即ち、所定の旋回パターンに合致しない操作が行われた場合、操縦者は旋回時自動昇降制御を続ける意図がないと考えられる。このような場合には制御を中断することにより、危険動作や誤植を回避できる。
【0016】
上記の田植機において、旋回中又は旋回終了後に車体を後進させる操作が行われた場合、前記制御部は、前記植付部を上昇させるとともに、前記旋回時自動昇降制御を継続することが好ましい。
【0017】
即ち、車体の軌道修正を行うため、旋回中又は旋回終了後に車体を後進させる場合がある。このような場合には、旋回時自動昇降制御を中断せずに継続することで、操縦者の意図に沿った制御とすることができる。また、後進させる際に、植付部を上昇させることで、当該植付部が畦などに衝突して損傷することを防止できる。
【0018】
上記の田植機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この田植機は、圃場表面にラインを形成するために車体の右側方に配置された右マーカ、及び左側方に配置された左マーカと、前記右マーカ及び左マーカの何れによって前記ラインを形成するか操縦者が指定するためのマーカ操作具と、を備える。前記旋回時自動昇降制御において、前記制御部は、前記右マーカ及び左マーカの何れか一方を自動選択し、選択したマーカによって前記ラインを形成する。ラインを形成するマーカを操縦者が前記マーカ操作具によって選択した場合、前記制御部は、マーカの自動選択は行わず、操縦者が選択したマーカによって前記ラインの形成を行いながら前記旋回時自動昇降制御を継続する。
【0019】
これにより、旋回時自動昇降制御を継続しながら、マーカの自動選択のみを解除することができる。これにより、操縦者の意図した側のマーカでラインを形成できるとともに、意図しない側のマーカによってラインが形成されてしまうこともない。
【0020】
上記の田植機において、前記旋回時自動昇降制御中に植付部下降状態で前記植付クラッチが切断された場合、前記制御部は、当該植付クラッチが切断された位置を前記植付中断位置とすることが好ましい。
【0021】
即ち、植付部を下降させたままで車体を走行させることにより、地面をならすことができる。そしてこのような場合であっても、上記の構成によれば、旋回時自動昇降制御を中断することなく継続することができる。
【0022】
上記の田植機において、前記植付部を下降させた状態で前記植付クラッチが切断された場合、前記制御部は、植付再開までの間に、旋回時自動昇降制御を開始させるトリガとなる操作が行われたとしても、前記植付中断位置を変更せずに、前記旋回時自動昇降制御を継続することが好ましい。
【0023】
このように、植付部を下降させたまま走行しているときには、各種操作が行われたとしても植付中断位置を変更しないことにより、植付再開位置がズレることを防止できる。また、植付部の上昇操作等を行っても旋回時自動昇降制御が中断されることはないので、必要に応じて植付部の上昇操作等を適宜行うことができる。
【0024】
上記の田植機は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、この田植機は、苗継ぎ作業の際に苗継位置に操作される主変速操作具と、前記旋回時自動昇降制御が行われていることを報知音により報知する報知部と、を備える。前記主変速操作具が前記苗継位置にあるときには、前記制御部は、前記報知音を停止または音量を小さくする。
【0025】
これにより、不必要に報知音が鳴らされることを防止できる。
【0026】
上記の田植機は、前記旋回時自動昇降制御において、前記制御部が前記植付部を下降させる速度と、操縦者の操作による前記植付部の下降速度と、が異なることが好ましい。
【0027】
即ち、自動昇降制御に適した下降速度と、マニュアル操作に適した下降速度と、をそれぞれ設定することにより、自動昇降制御における制御性を向上させつつ、マニュアル操作における安全性と操作性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る田植え機の側面図。
【図2】田植え機の平面図。
【図3】田植え機の動力伝達機構を示すスケルトン図。
【図4】植付中断直後の田植機の様子を示す平面図。
【図5】旋回開始直後の田植機の様子を示す平面図。
【図6】旋回終了直後の田植機の様子を示す平面図。
【図7】植付再開直前の田植機の様子を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る田植機1は、車体2と、当該車体2の後方に配置された植付部3と、から構成されている。
【0031】
車体2は、左右一対の前輪(走行装置)4と、左右一対の後輪(走行装置)5を備えている。また、車体2は、その前後方向で前輪4と後輪5の間に運転座席6を備えている。運転座席6の近傍には、車体2の操向操作を行うためのステアリングハンドル(操向操作具)7、車体2の走行速度を調節するための変速ペダル8、車体2の前後進を切り換えるための図略の主変速レバー(主変速操作具)、植付部3を昇降操作するための図略の植付昇降レバー(植付昇降操作具)等、各種の操作具が配置されている。また、車体2において運転座席6の後方には、施肥装置23が配置されている。
【0032】
また、車体2において、運転座席6の下方にはエンジン10が、当該エンジン10の前方にはミッションケース11が、それぞれ配置されている。一方、車体2の後方には、植付部3を取り付けるための昇降リンク機構12、エンジン10の駆動力を植付部3に出力するためのPTO軸13、植付部3を昇降駆動するための昇降シリンダ14等が配置される。
【0033】
また、車体2は、図略の制御部を備えている。制御部は例えばマイクロコントローラからなり、田植機1の各部に備えられたセンサ等の信号に基づいて、田植機1の各構成を制御するように構成されている。
【0034】
前記植付部3は、植付ケース15と、複数のフロート16と、苗載台17と、線引きマーカ18と、を備えている。
【0035】
フロート(浮き)16は、図2に示すように、植付部3の下部に左右対称に設けられる。このフロート16を地面に接触させることにより、植付部3を地面に対して水平に保ち、植付姿勢を安定させて正確な植付けを行うことができるように構成されている。
【0036】
植付ケース15には、1つ以上の植付ユニット20が取り付けられている。植付ユニット20は、回転ケース21に2つの植付爪22を備えるロータリ式植付装置として構成されている。また、植付ケース15には、前記PTO軸13を介してエンジン10の駆動力が入力されており、この駆動力によって回転ケース21が回転駆動される。ロータリ式植付装置の構成は公知であるので詳細な説明は省略するが、回転ケース21を回転駆動することにより、植付爪22の先端部が所定の軌跡を描きながら上下に駆動されるように構成したものである。植付爪22の先端部は、上から下に向かって動くときに、後述の苗載台17に載せられた苗マットの下端から1株分の苗を掻き取り、当該苗の根元を保持したまま下方に動いて地面に植え込むように構成されている。
【0037】
苗載台17は、前記植付ケース15の上方に配置されている。この苗載台17は、図略のガイドレール上を車体左右方向に往復摺動可能に支持されている。そして、植付部3は、苗マットの左右幅の範囲内で苗載台17を左右に往復駆動する図略の横送り機構を備えている。これにより、苗載台17に載せた苗マットを、植付ユニット20に対して左右に相対運動させることができる。また、苗載台17は、苗マットを、下方に向かって(即ち、植付ユニット20側に向かって)間欠的に送る苗送りベルト(縦送り機構)を備えている。以上の構成で、横送り機構と縦送り機構とを適切に連動させることにより、各植付ユニット20に対して苗を順次供給し、連続的に植付けを行うことができる。
【0038】
植付ケース15には、前記昇降リンク機構12が連結されている。この昇降リンク機構12は平行リンク構造から構成されており、当該昇降リンク機構12に連結された昇降シリンダ14を駆動することにより、植付ケース15を上下に昇降駆動可能に構成されている(これにより、植付部3全体を上下に昇降することができる)。
【0039】
前記昇降シリンダ14は、操縦者が植付昇降レバーを前後に傾動操作することにより、操作することができるように構成されている。これにより、操縦者が植付部3を上下昇降することができる。即ち、苗の植付を行う際には、植付部3を下降させ、フロート16を地面に接触させた状態とする。これにより、植付部3の姿勢を保ち苗を地面に適切に植え付けることができる。また、車体を路上走行させる場合、或いは車体を旋回させる場合など、苗の植え付けを行わない場合には、植付部3を上昇させ、地面から離間させておく。これにより、植付部が地面等に接触しないので、植付部3の損傷を防ぐことができる。なお、昇降シリンダ14の動作は、制御部によって制御可能に構成されている。これにより、制御部によって植付部3を自動的に昇降制御することが可能となっている。なお、植付部3の自動昇降制御については後述する。
【0040】
また、複数のフロート16のうち、少なくとも1つは、支点を中心に揺動可能に取り付けられるとともに、当該揺動角度を図略のフロートセンサによって検出するように構成されている。制御部は、このフロート16の揺動角を所定の角度に保つように植付部3を昇降制御することにより、植付部3を適切な高さに保って適切な植付を行うことができる。
【0041】
線引きマーカ18は、植付部3の左右それぞれに配置されている。左右の線引きマーカ18は、マーカ支持アーム9の先端に回転可能に取り付けられている。マーカ支持アーム9は、傾動可能に構成されている。具体的には、左のマーカ支持アーム9Lは、その先端を左方向に向けて倒すことができるように構成されており、これにより左の線引きマーカ18Lを、車体の左側方において地面に接触させることができるようになっている。また右のマーカ支持アーム9Rは、その先端を右方向に向けて倒すことができるように構成されており、これにより右の線引きマーカ18Rを、車体の右側方において地面に接触させることができるようになっている。また、左右のマーカ支持アーム9は、その先端を上方に向けて略直立させることができるように構成されており、これにより線引きマーカ18を地面から離間させることができるようになっている。
【0042】
線引きマーカ18を地面に接触させた状態で車体を走行させることにより、線引きマーカ18が地面を転がりながら回転する。これにより、線引きマーカ18によって、地面に目安ラインを形成することができる(図4参照)。この目安ラインは、植付爪22によって植え付けた苗のラインと平行に引かれる。操縦者は、目安ラインを参照しながら車体を走行させることにより、それまでに植えられた苗と平行に植付けを行うことができる。
【0043】
左右のマーカ支持アーム9は、図略のマーカ駆動機構によって傾動駆動される。マーカ駆動機構は、操縦者が植付昇降レバーを操作することにより操作することができるように構成されている。従って、植付昇降レバーは、マーカ操作具であると言うこともできる。具体的には、植付昇降レバーは、左右に傾動操作することが可能に構成されている。そして、操縦者が植付昇降レバーを左に倒すように操作を行うと、左のマーカ支持アーム9Lが倒れて、左の線引きマーカ18Lによって目安ラインを形成することができるようになっている。一方、操縦者が植付昇降レバーを右に倒すように操作を行うと、右のマーカ支持アーム9Rが倒れて、右の線引きマーカ18Rによって目安ラインを形成することができるようになっている。また、マーカ駆動機構の動作は、制御部によって制御可能に構成されている。これにより、左右の線引きマーカ18による目安ラインの形成を、制御部によって自動的に行うことができるようになっている。なお、線引きマーカ18の自動制御については後述する。
【0044】
また、本実施形態の田植機1は、図略の報知部を備えている。この報知部は、具体的にはブザーとして構成されており、報知音を鳴らすことができるように構成されている。また、報知部の作動は制御部によって制御されている。
【0045】
続いて、本実施形態の田植機1における駆動伝達経路について、図3を参照して説明する。
【0046】
エンジン10の駆動力は、前記駆動伝達ベルト34を介して、エンジン10の前方に配置されたミッションケース11に入力される。ミッションケース11内には、油圧式無段変速装置26が設けられており、当該油圧式無段変速装置26によってエンジン10の駆動力が変速される。この油圧式無段変速装置26は、例えば公知のHST(静油圧式無段変速機)などを採用することができる。油圧式無段変速装置26の変速比は、操縦者が変速ペダルを操作することにより変更することができる。
【0047】
油圧式無段変速装置26からの出力の一部は、メインクラッチ35を介してギア式の主変速装置36に入力され、変速される。主変速装置36は、操縦者が主変速レバーを操作することにより切り替え可能に構成されている。具体的には、主変速レバーは、「前進」「後進」「苗継」のポジションを少なくとも選択可能に構成されている。主変速レバーが「前進」位置に操作されると、後述の車軸38,42を、車体を前進させる方向に回転駆動させる。一方、主変速レバーが「後進」位置に操作されると、車軸38,42を、車体を後進させる方向に回転駆動させる。また、主変速レバーが「苗継」位置に操作されると、車軸38,42、及びPTO軸13に対する駆動の伝達を切断する。
【0048】
主変速装置36で変速された回転駆動力の一部は、ミッションケース11と一体的に形成されたフロントアクスルケース37に伝達され、前輪4の車軸38を回転駆動する。また、主変速装置36で変速された回転駆動力の一部は、ミッションケース11から後方に突出するプロペラシャフト39を介してリアアクスルケース40に入力され、後輪5の車軸42L,42Rを駆動する。以上の構成により、前輪4及び後輪5を駆動して車体を走行させる。操縦者は、変速ペダルを操作することにより、走行速度を任意に変更することができる。
【0049】
また、プロペラシャフト39から左の後車軸42Lまでの駆動伝達経路の間には、左のサイドクラッチ41Lが配置されている。同様に、プロペラシャフト39から右の後車軸42Rまでの駆動伝達経路の間には、右のサイドクラッチ41Rが配置されている。左右のサイドクラッチ41L,41Rは、それぞれ独立して断接を切り換えることができる。即ち、本実施形態の田植機1は、左右の後輪5,5に対する駆動力の伝達の有無を、個別に切り換えることができるように構成されている。これにより、車体2の急旋回を行う時に、内側の後輪に対する駆動力の伝達を切断することができるので、スムーズな急旋回を実現することができる。
【0050】
また、油圧式無段変速装置26の出力の一部は、ミッションケース11の後端から取り出され、植付駆動伝動軸52を介して植付変速部43に入力される。植付変速部43内には複数のギアからなる変速装置が設けられており、入力された駆動力を適宜変速してPTO軸13から出力するように構成されている。このPTO軸13が伝達する駆動力によって、植付部3が駆動される。以上の構成により、回転ケース21を回転駆動する速度を変速することができるので、苗を植え付ける間隔を変更することができる。
【0051】
また、植付変速部43内において、PTO軸13には、植付クラッチ50を介して駆動力が伝達されるように構成されている。この植付クラッチ50を切断することにより、植付部3の駆動を停止することができる。この植付クラッチ50は、制御部によって接続/切断を切り換えることができるように構成されている。また、この植付クラッチ50は、図略の植付クラッチ操作レバーを操縦者が操作することにより、接続/切断を切り換えることができるようにも構成されている。
【0052】
なお、上記ミッションケース11内には、植付駆動伝動軸52の回転を検出する回転センサ44が取り付けられている。この回転センサ44は、例えばロータリエンコーダによって構成することができる。回転センサ44の検出結果は、前記制御部に入力される。
【0053】
次に、図4等を参照して、本実施形態の田植機における旋回時自動昇降制御について説明する。
【0054】
苗の植え付けは、通常、図4のように車体を直進させながら行う。このとき、左右何れか一方の線引きマーカ18によって、圃場の地面に目安ラインを形成する。なお、図4の例では、車体右側の線引きマーカ18Rによって目安ラインを形成している。これにより、植え付けた苗のラインと平行な目安ラインが、車体右側に形成される。
【0055】
圃場の端まで車体を走行させると、車体を旋回させて方向転換する必要がある。車体を旋回させる際、まず操縦者は、植付昇降レバーを操作して、植付部3を上昇させる。作業者が植付部3を上昇させたことを検知すると、制御部は、旋回時自動昇降制御を開始する。
【0056】
まず制御部は、植付クラッチ50を自動的に切断し、苗の植え付けを中断させる。なお、植え付けが中断された位置を、植付中断位置と呼ぶ。また、制御部は、植付クラッチ50を切断するのと前後して、報知部による報知動作を開始する。具体的には、報知部によって報知音を断続的かつ継続して鳴らす。これにより、旋回時自動昇降制御が行われていることを周囲に報知することができる。もっとも、報知音は連続的に鳴らしても良い。
【0057】
また制御部は、植付中断位置から車体が走行した距離の計測を開始する。なお、走行距離を計測するための構成については後に説明する。
【0058】
また植付部3の上昇と前後して、制御部は、マーカ支持アーム9を直立させ、線引きマーカ18を格納状態とする。
【0059】
次に、操縦者は、ステアリングハンドル7を操作して車体の旋回を開始する(図5の状態)。図5に示すように、植付中断位置から旋回開始位置までの距離を、「旋回前走行距離」と呼ぶ。なお、苗の植え付けを中断してから車体を旋回させるまでの間には、車体を後進させることもできる。苗の植え付けを中断してから車体を前進させた距離を「前進プラス距離」、苗の植え付けを中断してから車体を後進させた距離を「前進マイナス距離」と呼ぶ。従って、「旋回前走行距離」は、「前進プラス距離−前進マイナス距離」によって求めることができる。なお、旋回前走行距離は、マイナスの値になっても良い(即ち、植付中断位置よりも車体を後進させた後で旋回を開始することもできる)。
【0060】
本実施形態の田植機1は、ステアリングハンドル7が一定量以上操作されると、旋回内側のサイドクラッチ41が切断されるように構成されている。これにより、旋回内側の後輪5がフリー状態となるので、車体をスムーズに旋回させることができる。なお、車体の旋回を開始してから旋回内側のクラッチが切断されるまでの間を、「鋭角ターンモード」と呼ぶ。
【0061】
操縦者は、ハンドルを切ったまま車体を走行させ、これにより車体をUターンさせる。ここで、車体がある程度旋回すると、操縦者は、ステアリングハンドル7の操作量を中立位置まで戻していく。ステアリングハンドル7を戻してくと、切断されていた旋回内側のサイドクラッチ41が、再び接続される。旋回内側のサイドクラッチ41が切断されてから、再び接続されるまでの間を、「垂直ターンモード」と呼ぶ。
【0062】
旋回内側のサイドクラッチ41が接続された後、操縦者はハンドルを操作して車体姿勢を微調整し、直進状態に戻す。以上により、車体の旋回動作が終了する(図6の状態)。なお、旋回内側のサイドクラッチ41が接続された後、車体が完全に直進状態に戻るまでの間を、「Uターンモード」と呼ぶ。
【0063】
制御部は、旋回の終了と前後して、植付部3を下降させる。なお、植付部3を下降させるタイミングについては後述する。
【0064】
植付部3を下降させた後、制御部は、植付クラッチ50を接続して植付を再開する。
【0065】
植付クラッチ50を接続するタイミングについて説明する。制御部は、車体が旋回を開始してから走行した距離(旋回開始位置からの走行距離)を監視するように構成されている。そして、旋回開始位置からの走行距離が、所定の植付再開距離に達したときに、植付クラッチ50を接続して植付を再開する。
【0066】
ここで植付再開距離とは、具体的には、旋回距離と、爪位置オフセット距離と、旋回前走行距離と、を加算した距離である。旋回距離は、田植機1を旋回させる際に車体が走行する距離であり、車体の旋回性能等によって決まる。旋回距離は、制御部に予め設定されている。また、爪位置オフセット距離は、植付クラッチ50を入れる位置を調整するためのオフセット距離であり、これも車体の旋回性能等によって決まる。爪位置オフセット距離は、制御部に予め設定されている。
【0067】
制御部は、旋回開始位置からの走行距離が植付再開距離に達したことを検出すると、植付クラッチ50を接続状態として、苗の植付を再開させる。植付を再開する位置を、「植付再開位置」と呼ぶ(図7参照)。このように、旋回前走行距離(植付を中断してから旋回を開始するまでの距離)を考慮して、車体が植付再開位置に到達したか否かを判断しているので、植付中断位置に対応した位置から植付を再開することができる。これにより、隣の条の植付中断位置に揃えて植付を再開することができる。植付を再開させると、制御部は、報知部による報知音を停止する。以上で旋回時自動昇降制御が終了する。
【0068】
なお、植付の再開と前後して、制御部は、マーカ支持アーム9を倒し、線引きマーカ18による目安ラインの形成を再開する。このとき、制御部は、旋回前に目安ラインを形成していた線引きマーカ18とは反対側の線引きマーカ(図7の場合は左側の線引きマーカ18L)を自動的に選択し、当該反対側の線引きマーカによって目安ラインを形成するように構成されている。このように、制御部によって線引きマーカ18が自動的に選択されるので、旋回のたびに操縦者が左右の線引きマーカ18を操作する必要が無い。
【0069】
操縦者は、旋回前の植付時に線引きマーカ18によって形成された目安ラインを参照しながら、車体を走行させる。これにより、旋回前に植え付けられた苗と平行に苗を植え付けていくことができる。
【0070】
次に、本実施形態の特徴的な構成について説明する。
【0071】
まず、本実施形態の旋回時自動昇降制御において、制御部が車体の走行距離を取得するための構成について説明する。
【0072】
例えば特許文献1が開示する構成は、旋回内側の後輪伝動軸の回転数を検出して、車体の走行距離を算出している。ところがこの構成は、左右の後輪の伝動軸それぞれに、回転数を検出するためのセンサが必要になり、コストがかさむという問題がある。そこで本実施形態の田植機1では、回転センサ44が検出する植付駆動伝動軸52の回転数に基づいて、車体の走行距離を検出するように構成されている。即ち、植付駆動伝動軸52の回転数は、車体の走行距離に比例するので、植付駆動伝動軸52の回転数に基づいて車体の走行距離を容易に検出することができる。しかもこの構成の場合、回転センサ44を植付駆動伝動軸52に1つのみ設ければよいので、コストを抑えることができる。
【0073】
なお、本実施形態の田植機1において、回転センサ44は、植付クラッチ50よりも上流側に設けられている。従って、植付クラッチ50の断接にかかわらず、回転センサ44によって植付駆動伝動軸52の回転数を検出することができる。
【0074】
次に、旋回距離の設定方法について説明する。即ち、旋回距離は、車体の旋回性能や、車体の仕様により異なるので、予め適切な値を設定しておく必要がある。
【0075】
本実施形態の田植機においては、旋回距離を、苗の条間(車体の走行方向と直交する方向での苗同士の間隔)及び条数(植付ユニット20の数。ちなみに図2に示すように、本実施形態の田植機1の条数は4である)に応じて設定するように構成されている。即ち、苗の条間や条数は、田植機の仕様によって異なっている(例えば、条間30cm仕様の田植機と、33cm仕様の田植機が存在している)。条間や条数が異なると、車体を旋回させる際の中心位置が異なるので、車体を旋回させるために必要な距離(旋回距離)も異なる。従って、条間や条数が異なっているにもかかわらず、同じ条件で旋回時自動昇降制御を実施してしまうと、植え揃え位置に差がでてしまう。
【0076】
そこで、本実施形態の田植機1においては、初期設定の際に、当該田植機1の条間及び条数を、制御部に対して設定できるように構成されている。制御部は、設定された条間及び条数に応じた旋回距離を算出し、記憶しておく。この構成によれば、条間や条数に応じた適切なタイミングで植付クラッチ50を接続することができるので、条間や条数の違いに関係なく植え揃え位置を統一させることができる。
【0077】
次に、空中植えを防止するための制御について説明する。
【0078】
上記のように、田植機において実施される旋回時自動昇降制御は、旋回終了と前後して植付部3を下降させ、その後、車体が植付再開位置に到達したときに植付クラッチ50を接続して植付を再開させるものである。しかし前述したように、車体の走行速度が速いときには、植付部3が下降しきる前に、車体が植付再開位置に到達してしまうことが考えられる。この場合、植付部3が空中に浮いた状態で植付クラッチ50が接続されてしまうので、空中植えが発生する。
【0079】
このような状況を防ぐために、植付部3を早めに下降させておくことも考えられる。しかし、植付部3を下降させるタイミングを一律に早く設定すると、車体の走行速度が遅い場合には、下降させるタイミングが早過ぎることになる。植付部3の下降タイミングが早過ぎると、車体の旋回中に植付部3が地面に接触していることになるので、当該植付部3が地面や畦に衝突して損傷するおそれがある。
【0080】
そこで本実施形態の田植機1においては、旋回開始時の速度に応じて、植付部3を下降させるタイミングを変更するように構成されている。具体的には以下の通りである。
【0081】
本実施形態の田植機1において、制御部は、車体の走行速度を監視している。なお、本実施形態の田植機1において、車体の走行速度は、回転センサ44によって取得される植付駆動伝動軸52の回転速度に基づいて取得することができる。これにより、走行速度を検出するための追加のセンサが不要となる。
【0082】
制御部は、植付再開位置よりも所定距離手前の位置で、植付部3の下降を開始するように構成されている。植付部3の下降を開始する位置のことを、「植付下降開始位置」と呼ぶ。また、植付下降開始位置から植付再開位置(植付クラッチ50を接続する位置)までの距離を、「下降開始オフセット距離」と呼ぶ。
【0083】
制御部は、旋回操作が行われる直前の走行速度に応じて、下降開始オフセット距離を設定するように構成されている。より具体的には、旋回操作が行われる直前の走行速度が速いほど、下降開始オフセット距離を大きく取る。言い替えれば、制御部は、走行速度が速いほど、植付部3の下降を開始するタイミングを早くするように構成されている。これによれば、車体の走行速度が速い場合であっても、植付部3の下降が間に合わずに空中植えが発生してしまうことを防止できる。
【0084】
なお、下降開始オフセット距離を大きくとり過ぎると、車体が旋回している最中に植付部3が下降を開始する場合がある。この場合、植付部3が地面や畦に接触して損傷してしまうおそれがある。そこで本実施形態の田植機1では、下降開始オフセット距離を、最大で1300mmとしている。このように下降開始オフセット距離の上限を設定することにより、植付部3の下降を開始するタイミングが早くなり過ぎることを防ぐことができるので、植付部3が損傷することを防止できる。
【0085】
次に、植付部3を下降させる際の速度について説明する。
【0086】
従来の田植機では、操縦者が植付昇降レバーを操作したときに植付部が下降する速度と、自動制御で植付部を下降させる速度は同じであった。ところが、植付部の上下位置を操縦者がマニュアル操作する場合において、昇降速度が速過ぎると狙い通りの位置に合わせられないという問題がある。そこで、植付昇降レバーによる植付部の下降速度は、マニュアル操作を行い易いようにある程度ゆっくりした速度に設定されていた。しかし、自動昇降制御による下降速度もこれに合わせていたので、自動制御による植付部の下降が遅れてしまう原因ともなっていた。
【0087】
そこで、本実施形態の田植機では、マニュアル操作と自動昇降とでは下降速度を異ならせている。具体的には、植付昇降レバーが操作されたことによる植付部3の下降速度よりも、制御部の自動制御による植付部3の下降速度の方が速いように設定されている。これにより、双方で最適な速度で下降させることができる。即ち、マニュアル操作の場合には比較的ゆっくりと下降させることにより植付部3の上下位置を合わせ易くし、自動昇降制御のときには下降速度を早くして下降が間に合わなくなることを防ぐことができる。
【0088】
次に、旋回時自動昇降制御の自動解除について説明する。
【0089】
即ち、上記の旋回時自動昇降制御は、車体が所定の旋回パターン(植付部3の上昇操作の後、前進した後に旋回して再び直進するというパターン)で操作されることが前提となっている。従って、この旋回パターンを外れた操作が行われた場合には、植付を再開するタイミングを適切に判定することができないという問題がある。また、圃場を離脱する場合など、操縦者が意図的に旋回パターンから外れた操作を行う場合がある。
【0090】
そこで本実施形態の田植機1は、所定の旋回パターンから外れた操作が操縦者によって行われた場合には、旋回時自動昇降制御を自動的に解除することにより、操縦者の意図に反して植付部3が昇降されてしまうことを防ぐように構成されている。
【0091】
本実施形態において、旋回パターンから外れる操作を具体的に列挙すると、「前進プラス異常」、「前進マイナス異常」、「バック走行異常」、「旋回異常」、「旋回途中からの直進」、「植付部の手動下降」などが挙げられる。
【0092】
本実施形態において「前進プラス異常」とは、植付中断位置から車体が連続して所定距離以上(例えば5m以上)前進(直進)走行するように操作されたことを指す。この場合、制御部は、操縦者には車体を旋回させる意思が無いものとみなし、旋回時自動昇降制御を解除するのである。同様に、「前進マイナス異常」とは、植付中断位置から車体が連続して所定距離以上(例えば5m以上)後進するように操作されたことを指す。この場合も、制御部は、操縦者には車体を旋回させる意思が無いものとみなし、旋回時自動昇降制御を解除する。また「バック走行異常」とは、旋回前走行距離の絶対値(|前進プラス距離−前進マイナス距離|)が所定距離以上(例えば5m以上)になったことを指す。この場合も、植付を中断した後で必要以上に前進又は後進しているので、制御部は、操縦者には車体を旋回させる意思が無いものとみなし、旋回時自動昇降制御を解除するのである。
【0093】
また、本実施形態において、「旋回異常」とは、所定距離以上(例えば10m以上)旋回操作が継続しているにもかかわらず旋回が終了しないことを指す。この場合、制御部は、操縦者はUターンを意図して旋回しているものではないと判断できるので、旋回時自動昇降制御を解除するのである。また、「旋回途中からの直進」は、旋回を完了させる前に車体を直進状態に戻すように操作されたことを指す。この場合も、制御部は、操縦者がUターンを意図していないと判断できるので、旋回時自動昇降制御を解除する。
【0094】
また、本実施形態において、「植付部の手動下降」とは、旋回時自動昇降制御中に、操縦者が植付昇降レバーを操作して植付部3をマニュアルで下降させたことを指す。この場合、操縦者は、自動昇降制御によらず手動で植付部3を下降させることを意図したのであるから、制御部は、旋回時自動昇降制御を解除するのである。
【0095】
以上のように、旋回パターンから外れた操作が操縦者によって行われた場合には、操縦者は旋回時自動昇降制御を継続する意図がないものとみなせる。従って、このような場合には旋回時自動昇降制御を解除することにより、植付部3が操縦者の意図に反して昇降されてしまうことを防ぐことができる。また、例えば誤操作によって操縦者が意図せずに旋回時自動昇降制御が開始されてしまった場合であっても、旋回パターンから外れた場合には自動的に解除されるので、危険動作や誤植を防止することができる。
【0096】
しかし一方で、旋回パターンから外れた場合に旋回時自動昇降制御を無条件で解除してしまうと、かえって不便な場合がある。この点について具体例を挙げて説明する。
【0097】
例えば、車体を旋回させた後に車体を後進させる操作が行われた場合、これは旋回パターンから外れた操作であると考えることもできる。従って、旋回終了後に後進操作が行われた場合には、旋回時自動昇降制御を解除するという構成も有り得る。
【0098】
しかしながら、車体を旋回させた後、植付を再開する前に、軌道修正のために車体をいったん後進させたい場合がある。このような場合に旋回時自動昇降制御が解除されてしまうと、かえって操縦者の意図に反した制御となってしまう。
【0099】
そこで、本実施形態の田植機1においては、垂直ターン以降(旋回内側のクラッチが接続された後)で植付の再開前に車体を後進させる操作が行われた場合であっても、制御部は、旋回時自動昇降制御を中断しないように構成されている。これにより、旋回時自動昇降制御を中断させることなく、車体を後進させて軌道修正を行うことができる。
【0100】
なお、垂直ターン以降であれば、植付部3が既に下降している可能性がある。仮に植付部3が地面に接触した状態で車体を後進させると、植付部3が畦などに衝突して損傷するおそれがある。そこで制御部は、垂直ターン以降に車体を後進させる操作が行われた場合、植付部3を自動的に上昇させるように構成されている。これにより、植付部3の破損を防止することができる。なお、この場合、操縦者が車体を再度前進させ、植付下降開始位置に再度到達したときに、制御部が再度植付部3の自動下降を行う。
【0101】
また例えば、旋回時自動昇降制御中に、操縦者が植付昇降レバー(マーカ操作具)を操作することにより、線引きマーカ18をマニュアルで操作する場合がある。この場合、制御部が自動的に行うマーカ選択とは異なる操作が行われたのであるから、旋回時自動昇降制御を解除して操縦者のマニュアル操作に委ねるという構成も有りうる。
【0102】
しかし、操縦者が線引きマーカ18をマニュアルで操作した場合、植付部3の旋回時自動昇降制御自体を解除する意図はないと考えられる。従って、操縦者が植付昇降レバーを操作しただけで旋回時自動昇降制御が解除されてしまうと、かえって操縦者の意図に反した制御となってしまう。
【0103】
そこで制御部は、操縦者によって植付昇降レバーが操作された場合には、線引きマーカの自動選択機能のみを解除し、植付部3の旋回時自動昇降制御は継続するように構成されている。この場合、制御部は、操縦者によって選択された線引きマーカ18によって目安ラインを形成しつつ、植付を行うように制御する。以上の構成によれば、操縦者は、任意の(左右何れか一方の)線引きマーカ18で目安ラインを形成しつつ植付を行うことが可能である。しかも、制御部による線引きマーカの自動選択が解除されるので、操縦者が意図しない線引きマーカ18によって目安ラインが形成されてしまうことがない。
【0104】
また例えば、車体の旋回中に、苗継作業などのために車体を一時停止させる場合がある。この場合、操縦者は、主変速レバーを「苗継」位置に操作する。
【0105】
このように苗継のために車体を一時停止させる場合、後で植付作業を再開することが前提である。従って本実施形態の田植機1において、制御部は、旋回中に車体を停止させる操作が行われたとしても、旋回時自動昇降制御は解除しないように構成されている。これにより、苗継ぎが終了したあとは、そのまま車体の走行を再開することにより、旋回時自動昇降制御を継続することができる。
【0106】
なお、旋回時自動昇降制御が有効になっている場合においては、前述のように、報知部による報知音が鳴るように構成されている。しかしながら、車体を停止させての苗継作業中に報知音が鳴り続くと非常に耳ざわりであるという問題がある。そこで本実施形態の制御部は、主変速レバーが「苗継」位置とされると、報知部による報知を中断するように構成されている。これにより、苗継作業を快適に行うことができる。もっとも、報知音を完全に止めるのに限らず、報知音の音量を小さくするように制御しても良い。
【0107】
続いて、苗の補給作業について説明する。
【0108】
田植機に搭載している苗が切れた場合、苗を補給しなければならない。この場合、枕地を横切って畦ぎわまで車体を走行させ、追加の苗を補給する。このとき、枕地に車輪跡を残したくない場合がある。このような場合、植付部3を下降させ、フロート16によって地面をならすことにより、車輪跡を消すことができれば便利である。ところが前述のように、「植付部の手動下降」は旋回時自動昇降制御の解除条件となっているので、地面をならすために植付部3をマニュアルで下降させると、旋回時自動昇降制御が解除されてしまう。しかし、旋回時自動昇降制御の解除を操縦者が望まない場合もある。
【0109】
そこで本実施形態の田植機1は、操縦者が植付クラッチ操作レバーを操作することにより、植付部3を下げた状態のまま、植付クラッチ50のみを切断できるように構成されている。これにより、植付を中断した状態で、かつフロート16を地面に接触させたまま走行できるので、当該フロート16で地面をならして車輪跡を消すことができる。しかもこの操作は、旋回時自動昇降制御の解除条件となっていないので、旋回時自動昇降制御を継続することができる。
【0110】
具体的には、制御部は、植付部3が下降された状態で、操縦者によって植付クラッチ50を切断する操作が行われたことを検出すると、「苗補給モード」に移行する。なお、「苗補給モード」に移行する前の状態を、「通常モード」と呼ぶ。また制御部は、植付クラッチ50が切断された位置を「植付中断位置」として、旋回時自動昇降制御を開始する。
【0111】
植付クラッチ50を切断して苗補給モードに移行すると、操縦者は、苗の補給を行うために、枕地を横切って畦ぎわまで車体を直進させる。このとき、前述のように、枕地をフロート16によってならすことができる。畦際での苗の補給を完了させると、操縦者は、車体を旋回させて、苗の植付に復帰する。制御部は、このように車体を旋回させる操作を検出した場合、植付部3を自動的に上昇させる。このように、苗補給モードにおいても、車体旋回時には植付部3を自動的に上昇させることにより、植付部3が地面や畦に衝突して損傷してしまうことを防ぐ。
【0112】
そして制御部は、植付中断位置に対応した位置まで車体が走行したことを検出すると、植付クラッチ50を接続して植付を再開する。なお、この制御は、通常モードにおいて旋回終了後に植付クラッチ50を自動的に接続する制御と同等の制御であるから、詳細な説明は省略する。制御部は、苗の植え付けを再開すると、通常モードに復帰する。
【0113】
なお、前述したように、通常モードにおいては、植付部3が操縦者によって上昇操作されたことを検出すると旋回時自動昇降制御を開始するように制御している。従って、植付部3を上昇させる操作は、旋回時自動昇降制御を開始するトリガとなる操作(トリガ操作)であると言える。トリガ操作が行われるたびに旋回時自動昇降制御が開始するので、そのたびに植付中断位置が変更されることになる。
【0114】
通常の旋回時であれば、旋回中に植付部3を手動で上昇させるということはないので、旋回時自動昇降制御の途中で植付中断位置が変更されるということはない。ところが、苗補給モードにおいては、必要に応じて植付部を上昇操作させるなど、通常の旋回時とは異なる操作を行う場合がある。このような操作が行われた場合に植付中断位置が変更されてしまうと、植付を再開する位置がズレてしまう。
【0115】
そこで本実施形態の田植機1の苗補給モードにおいては、植付部3の手動上昇操作など、旋回時昇降制御を開始するトリガとなる操作が行われたとしても、制御部は、植付中断位置を変更せず、旋回時自動昇降制御を継続するように構成されている。これにより、苗補給モードにおいては、植付部3の上昇操作などのトリガ操作によって植付中断位置が変更されることがないので、植付を再開する位置がズレることがなく、適切な位置で植付を再開することができる。
【0116】
以上で説明したように、本実施形態の田植機1は、車体2と、上下に昇降可能な植付部3と、植付部3への駆動力を断接制御する植付クラッチ50と、車体旋回時に植付部3の昇降及び植付クラッチ50を制御する旋回時自動昇降制御を行う制御部と、車輪及び植付部3の駆動源であるエンジン10と、を備える。旋回時自動昇降制御において、制御部は、旋回中又は旋回終了後の所定のタイミングで植付部3を自動的に下降させる。また制御部は、旋回終了後に、旋回開始前の植付中断位置に対応する植付再開位置まで車体が到達したときに植付クラッチ50を接続して植付を再開する。そして当該制御部は、植付部3を下降させるタイミングを、植付駆動伝動軸52の回転速度に応じて変更する。
【0117】
このように、植付駆動伝動軸52の回転速度を見ることにより、植付部3を下降させるタイミングを、車体の走行速度に応じて変更することができる。そして例えば、本実施形態のように、車体の走行速度が速いときには、植付部3を下降させるタイミングを早くすることにより、植付部3が下降しきる前に植付クラッチ50が入ってしまうことを防止することができる。
【0118】
また本実施形態の田植機1において、前記制御部は、植付けの条間を考慮して、植付再開位置に車体が到達したか否かを判断している。
【0119】
即ち、条間が異なると、旋回時に車体が走行する距離も異なる。従って、同じ距離を走行したとしても、植付再開位置への到達の有無は条間によって異なる。そこで、植付再開位置に到達したか否かの判断に利用する旋回距離を、条間を考慮して設定する。これにより、植付クラッチ50が接続される位置を条間にかかわらず一定とすることができる。即ち、条間にかかわらず、植え始め位置を揃えることができる。
【0120】
また本実施形態の田植機1において、制御部は、旋回時自動昇降制御中において、所定の旋回パターンから外れる操作が行われたことを検出した場合には、旋回時自動昇降制御を中断する。
【0121】
即ち、所定の旋回パターンに合致しない操作が行われた場合、操縦者は旋回時自動昇降制御を続ける意図がないと考えられる。このような場合には制御を中断することにより、危険動作や誤植を回避できる。
【0122】
また本実施形態の田植機1において、旋回中又は旋回終了後に車体を後進させる操作が行われた場合、制御部は、植付部3を上昇させるとともに、旋回時自動昇降制御を継続する。
【0123】
即ち、車体の軌道修正を行うため、旋回中又は旋回終了後に車体を後進させる場合がある。このような場合には、旋回時自動昇降制御を中断せずに継続することで、操縦者の意図に沿った制御とすることができる。また、後進させる際に、植付部3を上昇させることで、当該植付部3が畦などに衝突して損傷することを防止できる。
【0124】
また本実施形態の田植機1は、圃場表面に目安ラインを形成するために車体の右側方に配置された右側の線引きマーカ18R、及び左側方に配置された左側の線引きマーカ18Lと、線引きマーカ18R,18Lの何れによって目安ラインを形成するか操縦者が指定するための植付昇降レバーと、を備える。旋回時自動昇降制御において、制御部は、線引きマーカ18R,18Lの何れか一方を自動選択し、選択した線引きマーカによって目安ラインを形成する。目安ラインを形成する線引きマーカを操縦者が植付昇降レバーによって選択した場合、制御部は、線引きマーカ18の自動選択は行わず、操縦者が選択した線引きマーカ18によって目安ラインの形成を行いながら旋回時自動昇降制御を継続する。
【0125】
これにより、旋回時自動昇降制御を継続しながら、線引きマーカ18の自動選択のみを解除することができる。これにより、操縦者の意図した側の線引きマーカ18でラインを形成できるとともに、意図しない側の線引きマーカ18によってラインが形成されてしまうこともない。
【0126】
また本実施形態の田植機1は、以下のように構成されている。即ち、旋回時自動昇降制御中に植付部3の下降状態で植付クラッチ50が切断された場合、制御部は、当該植付クラッチ50が切断された位置を植付中断位置とする。
【0127】
即ち、植付部3を下降させたままで車体を走行させることにより、地面をならすことができる。そしてこのような場合であっても、上記の構成によれば、旋回時自動昇降制御を中断することなく継続することができる。
【0128】
また本実施形態の田植機1において、植付部3を下降させた状態で植付クラッチ50が切断された場合、制御部は、植付再開までの間に、植付部上昇操作が行われたとしても、植付中断位置を変更せずに、前記旋回時自動昇降制御を継続する。
【0129】
このように、植付部3を下降させたまま走行しているときには、トリガ操作が行われたとしても植付中断位置を変更しないことにより、植付再開位置がズレることを防止できる。また、植付部3の上昇操作等を行っても旋回時自動昇降制御が中断されることはないので、必要に応じて植付部3の上昇操作等を適宜行うことができる。
【0130】
また本実施形態の田植機1は、以下のように構成されている。即ち、この田植機1は、苗継ぎ作業の際に「苗継」位置に操作される主変速レバーと、前記旋回時自動昇降制御が行われていることを報知音により報知する報知部と、を備える。主変速レバーが「苗継」位置にあるときには、制御部は、前記報知音を鳴らさない。
【0131】
これにより、不必要に報知音が鳴らされることを防止できる。
【0132】
また本実施形態の田植機は、以下のように構成されている。ことが好ましい。即ち、この田植機1は、旋回時自動昇降制御において、制御部が植付部3を下降させる速度と、操縦者の操作による植付部3の下降速度と、が異なる。
【0133】
即ち、自動昇降制御に適した下降速度と、マニュアル操作に適した下降速度と、をそれぞれ設定することにより、自動昇降制御における制御性を向上させつつ、マニュアル操作における安全性と操作性を維持することができる。
【0134】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0135】
植付部3はロータリ式としたが、クランク式の田植機であっても本発明の構成を適用することができる。
【0136】
「所定の旋回パターンから外れた操作」は例示したものに限らない。
【0137】
上記実施形態では、植付昇降レバーがマーカ操作具を兼ねる構成としたが、植付昇降操作具とマーカ操作具を別々に設ける構成であっても良い。
【0138】
回転センサ44によって回転数及び回転速度を検出する伝動軸は、植付駆動伝動軸52に限らない。例えば、図3に点線で示す位置44aに回転センサ44を設け、当該回転センサ44によってプロペラシャフト39の回転数を検出するように構成しても良い。
【0139】
旋回時自動昇降制御のトリガとなる操作は、植付部の上昇操作に限らない。例えば、ステアリングハンドル7が所定量以上操作されたことをトリガとして旋回時自動昇降制御を開始する構成も考えられる。また、車体を後進させる操作が行われたことをトリガとして旋回時自動昇降制御を開始する構成も考えられる。このように、様々なトリガ操作に対応するとにより、様々な旋回パターンに対応して、旋回時自動昇降制御を行うことができる。
【符号の説明】
【0140】
1 田植機
3 植付部
13 PTO軸
18 線引きマーカ(マーカ)
50 植付クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、
上下に昇降可能な植付部と、
前記植付部への駆動力を断接制御する植付クラッチと、
車体旋回時に前記植付部の昇降及び前記植付クラッチを制御する旋回時自動昇降制御を行う制御部と、
前記車体の走行装置及び前記植付部の駆動源であるエンジンと、
を備え、
前記旋回時自動昇降制御において、前記制御部は、
旋回中又は旋回終了後の所定のタイミングで前記植付部を自動的に下降させ、
旋回終了後に、旋回開始前の植付中断位置に対応する植付再開位置まで車体が到達したときに前記植付クラッチを接続して植付を再開するように構成されており、
当該制御部は、前記植付部を下降させるタイミングを、前記エンジンからの駆動を伝達する伝動軸の回転速度に応じて変更することを特徴とする田植機。
【請求項2】
請求項1に記載の田植機であって、
前記制御部は、植付の条間を考慮して、前記植付再開位置に車体が到達したか否かを判断することを特徴とする田植機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の田植機であって、
前記制御部は、前記旋回時自動昇降制御中において、所定の旋回パターンから外れる操作が行われたことを検出した場合には、前記旋回時自動昇降制御を中断することを特徴とする田植機。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載の田植機であって、
旋回中又は旋回終了後に車体を後進させる操作が行われた場合、前記制御部は、前記植付部を上昇させるとともに、前記旋回時自動昇降制御を継続することを特徴とする田植機。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載の田植機であって、
圃場表面にラインを形成するために車体の右側方に配置された右マーカ、及び左側方に配置された左マーカと、
前記右マーカ及び左マーカの何れによって前記ラインを形成するか操縦者が指定するためのマーカ操作具と、
を備え、
前記旋回時自動昇降制御において、前記制御部は、前記右マーカ及び左マーカの何れか一方を自動選択し、選択したマーカによって前記ラインを形成するように構成され、
前記ラインを形成するマーカを操縦者が前記マーカ操作具によって選択した場合、前記制御部は、マーカの自動選択は行わず、操縦者が選択したマーカによって前記ラインの形成を行いながら前記旋回時自動昇降制御を継続することを特徴とする田植機。
【請求項6】
請求項1から5までの何れか一項に記載の田植機であって、
前記旋回時自動昇降制御中に植付部下降状態で前記植付クラッチが切断された場合、前記制御部は、当該植付クラッチが切断された位置を前記植付中断位置とすることを特徴とする田植機。
【請求項7】
請求項6に記載の田植機であって、
前記植付部を下降させた状態で前記植付クラッチが切断された場合、前記制御部は、植付再開までの間に、旋回時自動昇降制御を開始させるトリガとなる操作が行われたとしても、前記植付中断位置を変更せずに、前記旋回時自動昇降制御を継続することを特徴とする田植機。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載の田植機であって、
苗継ぎ作業の際に苗継位置に操作される主変速操作具と、
前記旋回時自動昇降制御が行われていることを報知音により報知する報知部と、
を備え、
前記主変速操作具が前記苗継位置にあるときには、前記制御部は、前記報知音を停止又は音量を小さくすることを特徴とする田植機。
【請求項9】
請求項1から8までの何れか一項に記載の田植機であって、
前記旋回時自動昇降制御において、前記制御部が前記植付部を下降させる速度と、操縦者の操作による前記植付部の下降速度と、が異なることを特徴とする田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−235702(P2012−235702A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−104672(P2011−104672)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】